(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
左及び右のジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含むジンクフィンガーヌクレアーゼであって、各ZFNが、切断ドメインと、F1からF4、F1からF5またはF1からF6で表される4つ、5つまたは6つのジンクフィンガードメインを含むジンクフィンガータンパク質とを含み、
(a)前記左のZFNが、
(i)以下の認識ヘリックス領域を含むジンクフィンガータンパク質(ZFP):
F1:DQSNLRA(配列番号2)、
F2:RNFSLTM(配列番号9)、
F3:SNGNLRN(配列番号10)またはSSYNLAN(配列番号11)、
F4:TSGSLTR(配列番号5)、
F5:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F6:AQCCLFH(配列番号6)、または
(ii)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:STGNLTN(配列番号7)、
F2:TSGSLTR(配列番号5)、
F3:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F4:AQCCLFH(配列番号6)、または
(iii)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:DQSNLRA(配列番号2)、
F2:RPYTLRL(配列番号3)、
F3:SRGALKT(配列番号8)、
F4:TSGSLTR(配列番号5)、
F5:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F6:AQCCLFH(配列番号6)
を含み、かつ
(b)前記右のZFNが、
(iv)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:RNDHRTT(配列番号19)、
F2:QKAHLIR(配列番号20)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)、
F4:LKRTLKR(配列番号25)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、
(v)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QSGHLAR(配列番号14)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)、
F4:RHRDLSR(配列番号18)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(vi)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QRAHLTR(配列番号22)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)またはQSGTRNH(配列番号24)、
F4:HRNTLVR(配列番号23)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(vii)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QKAHLIR(配列番号20)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)またはQSGTRNH(配列番号24)、
F4:RGRDLSR(配列番号21)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(viii)以下の認識ヘリックス領域を含むZFP:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QSGHLAR(配列番号14)、
F3:QSGTRNH(配列番号24)、
F4:QSSDLSR(配列番号16)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)
を含む、前記ジンクフィンガーヌクレアーゼ。
単離細胞の内在性BCL11aエンハンサー配列を改変するための組成物であって、請求項1もしくは請求項2に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼまたは請求項3に記載の1つ以上のポリヌクレオチドを含み、前記内在性BCL11aエンハンサー配列が改変されるように、前記組成物が前記単離細胞に投与されることを特徴とする、前記組成物。
請求項1もしくは請求項2に記載のジンクフィンガーヌクレアーゼ、請求項3に記載の1つ以上のポリヌクレオチド、請求項4〜9のいずれかに記載の単離細胞、および/または、請求項10もしくは11に記載の組成物を含む、キット。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本明細書は、BCL11A及び/またはガンマグロビンの発現を調節するためのゲノム操作、ならびにヘモグロビン異常症の治療及び/または予防を行うための組成物及び方法を開示する。特に、表1に一列で示されている認識ヘリックス領域を有するZFPを含むヌクレアーゼは、HSC/PCで効率的に達成され、その後の赤血球新生時に相対的なガンマグロビン発現に変化をもたらす。こうしたBCL11A及びガンマグロビン発現の調節は、ベータグロビンの発現が不十分であるか、またはベータグロビンの変異型の発現があるヘモグロビン異常症(例えば、ベータサラセミア、鎌状赤血球症)の治療に特に有用である。本発明の方法及び組成物を用いると、赤血球前駆細胞でのガンマグロビン発現を改変することによって、異常ベータグロビンが原因で生じる合併症及び疾患関連後遺症を克服することができる。
【0046】
概要
本明細書に開示する方法、ならびに組成物の調製と使用の実施には、特に明記しない限り、分子生物学、生化学、クロマチン構造と解析、計算化学、細胞培養、組換えDNA及び当技術分野の技能の範囲内である関連分野の従来技術が採用される。これらの技術は文献で十分に説明されている。例えば、Sambrook et al.MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL,Second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989及びThird edition,2001;Ausubel et al.,CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley&Sons,New York,1987及び定期更新版;METHODS IN ENZYMOLOGYシリーズ,Academic Press,San Diego;Wolffe,CHROMATIN STRUCTURE AND FUNCTION,Third edition,Academic Press,San Diego,1998;METHODS IN ENZYMOLOGY,Vol.304,“Chromatin」(P.M.Wassarman and A.P.Wolffe,eds.),Academic Press,San Diego,1999;及びMETHODS IN MOLECULAR BIOLOGY,Vol.119,“Chromatin Protocols」(P.B.Becker,ed.)Humana Press,Totowa,1999を参照のこと。
【0047】
定義
「核酸」、「ポリヌクレオチド」、及び「オリゴヌクレオチド」という用語は同じ意味で使用され、直鎖または環状のコンホメーションをした一本鎖もしくは二本鎖形態にある、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのポリマーを指す。本開示の目的の場合、これらの用語は、ポリマーの長さについて限定するものと解釈されるべきではない。これらの用語は、天然型ヌクレオチドの既知の類似体、ならびに塩基部分、糖部分及び/またはリン酸部分(例えば、ホスホロチオエート骨格)が改変されているヌクレオチドを包含し得る。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は塩基対合の特異性が同じであり、すなわち、Aの類似体はTと塩基対合することになる。
【0048】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、同じ意味で使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、アミノ酸ポリマーにも適用され、その場合は、1つ以上のアミノ酸が、対応する天然に生じるアミノ酸の化学的類似体または改変による誘導体である。
【0049】
「結合」とは、配列特異的な、非共有結合による高分子間(例えば、タンパク質と核酸の間)の相互作用を指す。全体としての相互作用が配列特異的である限り、結合相互作用のすべての構成要素が配列特異的(例えば、DNA骨格のリン酸残基との接触)である必要はない。そのような相互作用は一般に10
−6M
−1以下の解離定数(K
d)によって特徴づけられる。「親和性」とは結合強度を指し、高結合親和性と低いK
dとは相関する。
【0050】
「結合タンパク質」は、別の分子に結合することのできるタンパク質である。結合タンパク質は、例えば、DNA分子(DNA結合タンパク質)、RNA分子(RNA結合タンパク質)及び/またはタンパク質分子(タンパク質結合タンパク質)に結合することができる。タンパク質結合タンパク質の場合は自身に結合することができ(ホモ二量体、ホモ三量体などを形成)、かつ/または、異なる1つまたは複数のタンパク質の1つ以上の分子に結合することができる。結合タンパク質は、1種以上の結合活性を有し得る。例えば、ジンクフィンガータンパク質には、DNA結合活性、RNA結合活性及びタンパク質結合活性がある。
【0051】
「ジンクフィンガーDNA結合タンパク質」(または結合ドメイン)は、亜鉛イオンの配位を介してその構造が安定化されている、結合ドメイン内のアミノ酸配列領域であるジンクフィンガーの1つ以上を介してDNAに配列特異的に結合するタンパク質、またはより大きいタンパク質内のドメインである。ジンクフィンガーDNA結合タンパク質という用語は、しばしばジンクフィンガータンパク質またはZFPと略称される。
【0052】
「DNA結合領域TALE」または「TALE」は、TALEという繰返しドメイン/ユニットを1つ以上含むポリペプチドである。繰返しドメインは、TALEがその対応する標的DNA配列に結合する際に関与している。単一の「繰返しユニット」(「繰返し」ともいう)は、典型的に33〜35アミノ酸長であり、天然に生じるTALEタンパク質内部では、他のTALE繰返し配列との配列相同性を少なくとも一部に示す。
【0053】
ジンクフィンガー及びTALEの各結合ドメインを「人工的に操作」して所定のヌクレオチド配列に結合させることができ、例えば、天然に生じるジンクフィンガーまたはTALEタンパク質の認識ヘリックス領域の人工的な操作(1つ以上のアミノ酸の改変)を介して可能である。したがって、人工的に操作されたDNA結合タンパク質(ジンクフィンガーまたはTALE)は天然には生じないタンパク質である。DNA結合タンパク質を人工的に操作する方法の非限定的な例は設計及び選択である。設計されたDNA結合タンパク質は、その設計/組成が主に合理的基準から得られる天然には生じないタンパク質である。設計の合理的基準には、置換規則の適用、ならびに既存のZFP及び/またはTALEの設計と結合に関するデータが保存されているデータベース内の情報を処理するコンピュータアルゴリズムが含まれる。例えば、米国特許第6,140,081号;第6,453,242号;第6,534,261号及び第8,585,526号を参照のこと。また、WO98/53058;WO98/53059;WO98/53060;WO02/016536及びWO03/016496も参照のこと。
【0054】
「選択された」ジンクフィンガータンパク質またはTALEは、主に経験的方法、例えば、ファージ提示、相互作用トラップまたはハイブリッド選択を行った結果作製される自然界では見られないタンパク質である。例えば、米国特許第5,789,538号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,200,759号;第8,586,526号;WO95/19431;WO96/06166;WO98/53057;WO98/54311;WO00/27878;WO01/60970 WO01/88197,WO02/099084を参照のこと。
【0055】
「TtAgo」は、遺伝子サイレンシングに関与すると考えられている、原核生物のアルゴノートタンパク質である。TtAgoは、細菌Thermus thermophilusに由来する。例えば、Swarts et al(同書)、G.Sheng et al.,(2013)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.111,652を参照のこと)。「TtAgoシステム」は、例えば、ガイドDNAなど、TtAgo酵素による切断に必要な全構成要素である。
【0056】
「組換え」は、2つのポリヌクレオチド間で遺伝情報の交換が行われる過程を指し、非相同性末端結合(NHEJ)及び相同組換えによるドナーの捕捉を含むが、これに限定されるものではない。本開示の目的の場合、「相同組換え(HR)」とは、そのような情報交換の特殊な形態を指し、例えば、相同組換え型修復機構を介した細胞の二本鎖切断の修復中に生じる交換をいう。この過程は、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「ドナー」分子を鋳型に使用して「標的」分子(すなわち、二本鎖切断を受けた分子)を修復し、またドナーから標的へと遺伝情報の導入がもたらされることから「非交差型遺伝子変換(non−crossover gene conversion)」または「ショートトラクト遺伝子変換(short tract gene conversion)」としてさまざまな名称で知られる。いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、そのような導入には、破壊された標的とドナーの間で形成されるヘテロ二重鎖DNAのミスマッチ修正、及び/またはドナーを使用して、標的の一部となるであろう遺伝情報及び/または関連過程を再合成する「合成依存的鎖アニーリング」を使用することができる。このような特殊HRの結果、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部またはすべてが標的ポリヌクレオチドに組み込まれるような標的分子の配列改変が生じることが多い。
【0057】
開示の方法では、本明細書に記載する1つ以上の標的化ヌクレアーゼにより、所定部位における標的配列(例えば、細胞クロマチン)に二本鎖切断(DSB)が作製される。DSBは、相同組換え型修復または非相同組換え型修復機構による欠失及び/または挿入を生じさせてよい。欠失には塩基対がいくつ含まれてもよい。同様に、挿入には、例えば、任意選択で切断領域のヌクレオチド配列に対して相同性のある、「ドナー」ポリヌクレオチドの組込みを含む塩基対がいくつ含まれてもよい。ドナー配列は物理的に組み込んでよく、または別法として、ドナーポリヌクレオチドを、相同組換えを介した切断修復用の鋳型に使用して、ドナーのヌクレオチド配列のすべてまたは一部を細胞クロマチンに導入する。したがって、細胞クロマチンの第1の配列は、改変が可能であり、ある実施形態では、ドナーポリヌクレオチドに存在する配列に変換可能である。したがって、「置換する」または「置換」という用語の使用は、1つのヌクレオチド配列を別のヌクレオチド配列で置換することを表すものと理解することができ(すなわち、情報の意味での配列の置換)、必ずしもあるポリヌクレオチドが別のポリヌクレオチドで物理的または化学的に置換される必要はない。
【0058】
本明細書に記載するいずれの方法においても、細胞内のさらなる標的部位のさらなる二本鎖切断に、ジンクフィンガータンパク質またはTALENのさらなる対を使用することができる。
【0059】
本明細書に記載するいずれの方法も、関心対象遺伝子(複数可)の発現を破壊するドナー配列を標的を狙って組み込むことにより、大きさを問わないドナーの挿入、及び/または細胞内の1つ以上の標的配列の部分的もしくは完全な不活性化を行うために使用することができる。部分的または完全に不活性化された遺伝子を有する細胞株もまた提供される。
【0060】
本明細書に記載するいずれの方法においても、外来ヌクレオチド配列(「ドナー配列」または「導入遺伝子」)は、関心対象領域のゲノム配列に対して相同であるが同一ではない配列を含有することができ、それにより、相同組換えが促進され関心対象領域に非同一配列が挿入される。したがって、ある実施形態では、関心対象領域内の配列に相同なドナー配列部分は、置換されたゲノム配列に対し約80〜99%(またはその範囲のあらゆる整数)の配列同一性を示す。他の実施形態では、ドナー配列とゲノム配列の相同性は、例えば、ドナー配列とゲノム配列の100連続塩基対に対し1ヌクレオチドのみが異なる場合の99%よりも高い。特定の場合では、ドナー配列の非相同部分は、関心対象領域に新たな配列が導入されるよう、その関心対象領域に存在しない配列を含有することができる。これらの場合、非相同配列は一般に、関心対象領域内の配列に相同または同一な、50〜1,000塩基対(またはその範囲の任意の整数値)または1,000より大きい任意の数の塩基対からなる配列に隣接している。他の実施形態では、ドナー配列は第1の配列に対して非相同であり、非相同組換え機構によってゲノムに挿入される。
【0061】
「切断」とは、DNA分子の共有結合骨格の破断を指す。切断は、ホスホジエステル結合の酵素による加水分解または化学的加水分解などを含むが、これに限定されるものではない多様な方法によって開始させることができる。一本鎖切断及び二本鎖切断のいずれも可能であるが、二本鎖切断は、2つの別個の一本鎖切断事象の結果として生じ得る。DNA切断により平滑末端または突出末端(staggered end)のいずれかが生成され得る。ある実施形態では、標的とする二本鎖DNAに対し融合ポリペプチドを使用する。
【0062】
「切断ハーフドメイン」は、第2のポリペプチド(同一または異なるポリペプチド)と共に、切断活性(好ましくは二本鎖切断活性)を有する複合体を形成するポリペプチド配列である。「第1の切断ハーフドメイン及び第2の切断ハーフドメイン」;「+の切断ハーフドメイン及び−の切断ハーフドメイン」及び「右の切断ハーフドメイン及び左の切断ハーフドメイン」という用語は同じ意味で使用され、二量体化する切断ハーフドメインの対を指す。
【0063】
「人工的切断ハーフドメイン」は、別の切断ハーフドメイン(例えば、別の人工的切断ハーフドメイン)と偏性ヘテロ二量体(obligate heterodimer)を形成するよう改変されている切断ハーフドメインである。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許公開第2005/0064474号、第20070218528号、第20080131962号及び第20110201055号も参照のこと。
【0064】
用語「配列」とは任意の長さのヌクレオチド配列を指し、これはDNAまたはRNAであり得、直鎖、環状または分岐であり得、一本鎖でも二本鎖でもあり得る。用語「ドナー配列」とは、ゲノムに挿入されるヌクレオチド配列を指す。ドナー配列は、どの長さでも可能であり、例えば、2〜100,000,000ヌクレオチド長(またはその範囲もしくはそれより上の任意の整数値)、好ましくは約100〜100,000ヌクレオチド長(またはその範囲のあらゆる整数)、より好ましくは約2000〜20,000ヌクレオチド長(すなわち、その範囲のあらゆる値)、さらにより好ましくは約5〜15kb(すなわち、その範囲のあらゆる値)であり得る。
【0065】
「クロマチン」は、細胞ゲノムを含む核タンパク質構造体である。細胞クロマチンは、核酸、主にDNA、ならびにヒストン及びヒストン以外の染色体のタンパク質などのタンパク質を含む。真核細胞のクロマチンの大部分はヌクレオソームという形態で存在し、そこでは、ヌクレオソームコアは、H2A、H2B、H3及びH4それぞれのヒストンを2つずつ含む八量体と会合した、約150塩基対のDNAを含み、ヌクレオソームコア同士の間にリンカーDNA(長さは生物により異なる)が伸びている。ヒストンH1分子は一般にリンカーDNAと会合している。本開示の目的の場合、用語「クロマチン」は、原核生物及び真核生物両方の、あらゆる種類の細胞の核タンパク質が包含されるものとする。細胞クロマチンには、染色体クロマチンもエピソームクロマチンも含まれる。
【0066】
「染色体」は、細胞ゲノムの全部または一部を含むクロマチン複合体である。細胞のゲノムはその核型によって特徴づけられることが多く、この核型にはその細胞のゲノムを含む染色体すべてが集められている。細胞のゲノムは1つ以上の染色体を含み得る。
【0067】
「エピソーム」は、複製する核酸、核タンパク質複合体、または細胞の染色体の核型には含まれていない核酸を含む他の構造体である。エピソームの例には、プラスミド及び特定のウイルスゲノムが含まれる。
【0068】
「接近可能領域」は、核酸内に存在する標的部位に、その標的部位を認識する外来分子が結合できる、細胞クロマチン内の部位である。いかなる特定の理論にも束縛されることは望まないが、接近可能領域は、ヌクレオソーム構造にパッケージされない領域であると考えられる。接近可能領域の特徴的な構造はしばしば、化学的プローブ及び酵素を用いたプローブ、例えば、ヌクレアーゼに対するその感受性により検出され得る。
【0069】
「標的部位」または「標的配列」は、結合に十分な条件が存在する場合に、結合分子が結合することになる核酸の一部を定義する核酸配列である。
【0070】
「外来」分子は、通常は細胞に存在しないが、遺伝学的、生化学的または他の1つ以上の方法によって細胞に導入され得る分子である。「通常は細胞に存在していること」は、その細胞の特定の発生段階及び環境条件について決定される。したがって、例えば、筋肉の胚発生過程にしか存在しない分子は、成人筋細胞に対しては外来分子である。同様に、熱ショックで誘導された分子は、熱ショックを受けていない細胞に対しては外来分子である。外来分子は、例えば、機能不全を起こしている内在性分子の機能するタイプまたは正常に機能している内在性分子の機能不全を起こしているタイプを含むことができる。
【0071】
外来分子は、特に、低分子、例えばコンビナトリアルケミストリー過程によって作製されたもの、または高分子、例えばタンパク質、核酸、炭水化物、脂質、糖タンパク質、リポタンパク質、多糖類、もしくは上記分子の改変による任意の誘導体、または上記分子を1つ以上含む任意の複合体であり得る。核酸にはDNA及びRNAが含まれ、一本鎖または二本鎖であり得、直鎖、分岐または環状であり得、かつ、任意の長さであり得る。核酸には、二重鎖を形成できるもの、ならびに三重鎖形成核酸が含まれる。例えば、米国特許第5,176,996号及び第5,422,251号を参照のこと。タンパク質には、DNA結合タンパク質、転写因子、クロマチンリモデリング因子、メチル化DNA結合タンパク質、ポリメラーゼ、メチラーゼ、デメチラーゼ、アセチラーゼ、デアセチラーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ、インテグラーゼ、リコンビナーゼ、リガーゼ、トポイソメラーゼ、ジャイレース及びヘリカーゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0072】
外来分子は、内在性分子と同じ種類の分子、例えば、外来性のタンパク質または核酸であり得る。例えば、外来核酸は、細胞に導入された感染性のウイルスゲノム、プラスミドもしくはエピソーム、または通常は細胞に存在しない染色体を含み得る。細胞に外来分子を導入する方法は当業者に公知であり、脂質介在性導入法(すなわち、中性脂質及びカチオン性脂質などのリポソーム)、電気穿孔法、直接注入、細胞融合、粒子撃込み、リン酸カルシウム共沈降法、DEAE−デキストランによる誘導型導入法及びウイルスベクターによる導入法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。外来分子はまた、内在性分子と同じ種類であるが、細胞が由来している種とは異なる種に由来する分子でもあり得る。例えば、ヒト核酸配列を、元々はマウスまたはハムスターに由来する細胞株に導入してよい。外来分子を植物細胞に導入する方法は当業者に公知であり、プロトプラスト形質転換、シリコンカーバイド(例えば、ウイスカー(商標))、Agrobacteriumによる形質転換、脂質介在性導入法(すなわち、中性脂質及びカチオン性脂質などのリポソーム)、電気穿孔法、直接注入、細胞融合、粒子撃込み(例えば、「遺伝子銃」を使用)、リン酸カルシウム共沈降法、DEAE−デキストランによる誘導型導入法及びウイルスベクターによる導入法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
これに対し、「内在性」分子は、特定の環境条件下の特定の発生段階において特定の細胞に通常存在する分子である。例えば、内在性核酸は、染色体、またはミトコンドリア、葉緑体もしくは他の細胞小器官のゲノム、または天然に生じるエピソーム核酸を含み得る。さらなる内在性分子としては、タンパク質、例えば、転写因子及び酵素を挙げることができる。
【0074】
本明細書で使用する場合、用語「外来核酸の産物」には、ポリヌクレオチド及びポリペプチドのいずれの産物も含まれ、例えば、転写産物(RNAなどのポリヌクレオチド)及び翻訳産物(各種ポリペプチド)が含まれる。
【0075】
「融合」分子は、2つ以上のサブユニット分子が結合している、好ましくは共有結合している分子である。サブユニット分子は、化学的に同じ種類の分子であっても、または化学的に異なる種類の分子であってもよい。第1の種類の融合分子の例には、融合タンパク質(例えば、ZFPまたはTALEのDNA結合ドメインと、1つ以上の活性化ドメインとの融合体)及び融合核酸(例えば、前掲の融合タンパク質をコードする核酸)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。第2の種類の融合分子の例には、三重鎖形成核酸とポリペプチドとの融合体、及びマイナーグルーブバインダーと核酸との融合体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
融合タンパク質の細胞内発現は、細胞への融合タンパク質の送達によって、または、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの細胞への送達によってもたらされ得、ここで、ポリヌクレオチドが転写され、その転写が翻訳されて融合タンパク質が作製される。トランススプライシング、ポリペプチド切断及びポリペプチドライゲーションもタンパク質の細胞内発現に使用され得る。細胞にポリヌクレオチド及びポリペプチドを送達する方法は本開示の他の箇所に記載されている。
【0077】
本開示の目的の場合、「遺伝子」には、遺伝子産物をコードするDNA領域(下記を参照のこと)、ならびに遺伝子産物の生成を調節するすべてのDNA領域が含まれ、そのような調節配列がコード配列及び/または転写された配列に隣接するか否かは問わない。したがって、遺伝子には、プロモーター配列、転写終結因子、リボソーム結合部位及び配列内リボソーム侵入部位などの翻訳調節配列、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、境界要素、複製起点、マトリックス結合部位ならびに遺伝子座制御領域が含まれるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0078】
「遺伝子発現」とは、遺伝子に含まれている情報を、遺伝子産物に変換することを指す。遺伝子産物は、直接の遺伝子転写産物(例えば、mRNA、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、構造RNAまたは他の任意の種類のRNA)または、mRNAの翻訳により生成されたタンパク質であり得る。また遺伝子産物には、キャッピング、ポリアデニル化、メチル化、及び編集などのプロセスによって改変されたRNA、ならびに、例えば、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化、ADPリボース化、ミリストイル化、及びグリコシル化によって改変されたタンパク質も含まれる。
【0079】
遺伝子発現の「調節」は遺伝子の活性変化を指す。発現の調節には、遺伝子活性化及び遺伝子抑制が含まれ得るが、これらに限定されるものではない。ゲノム編集(例えば、切断、改変、不活性化、ランダム変異)を使用して発現を調節することができる。遺伝子の不活性化とは、本明細書に記載するZFP、TALEまたはCRISPR/Casシステムを含まない細胞と比べた場合の遺伝子発現の任意の低下を指す。したがって、遺伝子の不活性化は部分的であっても完全であってもよい。
【0080】
「保護された」mRNAとは、mRNAの安定性または翻訳が増加されるように、ある程度改変されているmRNAである。保護の例には、シチジン残基及びウリジン残基の25%を上限に、2−チオウリジン(s2U)及び5−メチルシチジン(m5C)を用いて置換することが含まれる。得られるmRNAは、対応する非修飾型よりも低い免疫原性及び高い安定性を示す。(Kariko et al.((2012),Molecular Therapy,Vol.16,No.11,pages 1833−1844を参照のこと)。他の変更としては、いわゆるARCAキャップと呼ばれる付加が挙げられ、これにより、インビトロで作製されたmRNAの翻訳可能性が高まる(米国特許US7074596を参照のこと)。
【0081】
「関心対象領域」とは、例えば、遺伝子、または遺伝子内部にあるかもしくは遺伝子に隣接している非コード配列といった、外来分子との結合が望ましい、細胞クロマチンの任意の領域である。結合は、標的DNA切断及び/または標的組換えが目的であり得る。関心対象領域は、染色体内、エピソーム内、細胞小器官のゲノム(例えば、ミトコンドリアのゲノム、葉緑体のゲノム)内、または例えば感染ウイルスゲノム内に存在し得る。関心対象領域は、遺伝子のコード領域の内部、または例えば、リーダー配列、トレーラー配列もしくはイントロンといった転写された非コード領域の内部、またはコード領域の上流または下流の転写されていない領域の内部であり得る。関心対象領域は、単一ヌクレオチド対ほどの小さな領域もしくは最高2,000ヌクレオチド対の長さ、または任意の整数値のヌクレオチド対であり得る。
【0082】
「真核生物の」細胞には、真菌細胞(酵母など)、植物細胞、動物細胞、哺乳類細胞及びヒト細胞(例えば、T細胞)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0083】
「機能的連結(operative linkage)」及び「機能的に連結された(operatively linked)」(または「機能的に連結された(operably linked)」)という用語は、2つ以上の構成要素(配列要素など)の並置に関して同じ意味で使用され、その場合、これらの構成要素は、いずれの構成要素も正常に機能し、かつ、それらの構成要素のうち少なくとも1つが、他の構成要素のうち少なくとも1つに対する機能発揮を誘導させることができるように並置される。例を挙げると、プロモーターなどの転写調節配列が、1つ以上の転写調節因子の有無に応答してコード配列の転写レベルを制御する場合、その転写調節配列は該コード配列に機能的に連結されている。転写調節配列は一般にコード配列とシスで機能的に連結されているが、必ずしもコード配列と直接隣り合っていなくてよい。例えば、エンハンサーは、コード配列に機能的に連結された転写調節配列であるが、両者は隣接していない。
【0084】
融合ポリペプチドに関して、用語「機能的に連結された」とは、構成要素の各々が、そのように連結されていない場合に考えられる機能と同じ機能を、他の構成要素と連結された状態で果たすことを意味し得る。例えば、ZFP、TALEまたはCasのDNA結合ドメインと活性化ドメインとを融合させた融合ポリペプチドの場合、その融合ポリペプチドにおいて、ZFP、TALEまたはCasというDNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位と結合することができ、また活性化ドメインが遺伝子発現を上方制御することができる場合、該ZFP、TALEまたはCasのDNA結合ドメインとその活性化ドメインは機能的に連結されている。ZFP、TALEまたはCasのDNA結合ドメインと切断ドメインとを融合させた融合ポリペプチドの場合、その融合ポリペプチドにおいて、ZFP、TALEまたはCasというDNA結合ドメイン部分が、その標的部位及び/またはその結合部位と結合することができ、また切断ドメインが標的部位近傍のDNAを切断することができる場合、該ZFP、TALEまたはCasのDNA結合ドメインと該切断ドメインとは機能的に連結されている。
【0085】
タンパク質、ポリペプチドまたは核酸の「機能的断片」とは、その配列が完全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一ではないが、完全長のタンパク質、ポリペプチドまたは核酸と同一の機能を保持しているタンパク質、ポリペプチドまたは核酸である。機能的断片は、対応する天然の分子より多いか、少ないか、または同じ数の残基を有することができ、かつ/または1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチドの置換を含有することができる。核酸の機能(例えば、コードする機能、別の核酸とのハイブリダイズ能)を測定する方法は当技術分野で周知である。同様に、タンパク質の機能を測定する方法は周知である。例えば、ポリペプチドのDNA結合機能は、例えば、フィルター結合アッセイ、電気泳動移動度シフト解析、または免疫沈降法によって決定することができる。DNA切断は、ゲル電気泳動によって評価することができる。上記Ausubel et al.を参照のこと。タンパク質が別のタンパク質と相互作用する能力は、例えば、共免疫沈降法、ツーハイブリッド法または相補性(遺伝子相補性及び生化学的相補性の両方)によって決定することができる。
【0086】
「ベクター」は、標的細胞に遺伝子配列を導入することができる。典型的に、「ベクター構築体」、「発現ベクター」、及び「遺伝子導入ベクター」とは、関心対象遺伝子の発現を導くことができ、標的細胞に遺伝子配列を導入することができる任意の核酸構築体を意味する。したがって、この用語には、クローニング、及び発現ビヒクル、ならびに組み込みベクターが含まれる。
【0087】
「対象」及び「患者」という用語は同じ意味で使用され、ヒト患者及びヒト以外の霊長類といった哺乳類、ならびにウサギ、イヌ、ネコ、ラット、マウス、及び他の動物といった実験動物を指す。したがって、本明細書で使用する「対象」または「患者」という用語は、本発明の幹細胞が投与され得る任意の哺乳類の患者または対象を意味する。本発明での対象には、1種以上の化学的毒素、例えば神経毒素などに曝露された対象が含まれる。
【0088】
「幹細胞性」とは、任意の細胞が幹細胞様に作用する相対的能力、すなわち、全能性、多能性、もしくは寡能性の程度、及び幅広い、または限定されない自己複製といった、個々の幹細胞どれもが有し得る能力を指す。
【0089】
ヌクレアーゼ
本明細書は、導入遺伝子が標的を定めてゲノムに組み込まれるよう、導入遺伝子と、細胞ゲノムを切断するヌクレアーゼとを担持するドナー分子をインビボで切断するのに有用な組成物、特にヌクレアーゼについて記載する。ある実施形態では、ヌクレアーゼの1つ以上は天然に生じるものである。他の実施形態では、ヌクレアーゼの1つ以上は、天然には生じない、すなわち、DNA結合ドメイン及び/または切断ドメイン内で人工的に操作されている。例えば、天然に生じるヌクレアーゼのDNA結合ドメインを、選択標的部位に結合するよう改変してよい(例えば、対応する結合部位とは異なる部位に結合するよう人工的に操作されたメガヌクレアーゼ)。他の実施形態では、ヌクレアーゼは、異種のDNA結合ドメイン及び切断ドメインを含む(例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ;TALエフェクタードメインのDNA結合タンパク質;メガヌクレアーゼDNA結合ドメインと、異種の切断ドメイン)。
【0090】
A.DNA結合ドメイン
ある実施形態では、細胞ゲノムのインビボでの切断及び/または標的化切断に使用される1つ以上のヌクレアーゼのDNA結合ドメインは、ジンクフィンガータンパク質を含む。好ましくは、ジンクフィンガータンパク質は、天然には生じないジンクフィンガータンパク質であり、選択標的部位に結合するよう人工的に操作されたジンクフィンガータンパク質である。例えば、いずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Beerli et al.(2002)Nature Biotechnol.20:135−141;Pabo et al.(2001)Ann.Rev.Biochem.70:313−340;Isalan et al.(2001)Nature Biotechnol.19:656−660;Segal et al.(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12:632−637;Choo et al.(2000)Curr.Opin.Struct.Biol.10:411−416;米国特許第6,453,242号;第6,534,261号;第6,599,692号;第6,503,717号;第6,689,558号;第7,030,215号;第6,794,136号;第7,067,317号;第7,262,054号;第7,070,934号;第7,361,635号;第7,253,273号;及び米国特許公開第2005/0064474号;2007/0218528号;2005/0267061号を参照のこと。
【0091】
人工的に操作されたジンクフィンガー結合ドメインは、天然に生じるジンクフィンガータンパク質と比較して、新規な結合特異性を有し得る。人工的操作方法には、合理的設計及び各種の選択が挙げられるが、これらに限定されるものではない。合理的設計には、例えば、3ヌクレオチド(または4ヌクレオチド)の配列及び個々のジンクフィンガーのアミノ酸配列を含むデータベースの使用が挙げられ、これにおいて、3ヌクレオチド配列または4ヌクレオチド配列の各々は、特定の3ヌクレオチド配列または4ヌクレオチド配列と結合する、ジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列に関連している。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、共有米国特許第6,453,242号及び第6,534,261号を参照のこと。
【0092】
ファージ提示及びツーハイブリッド系を含む例示的な選択方法は、米国特許第5,789,538号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,410,248号;第6,140,466号;第6,200,759号;及び第6,242,568号;ならびにWO98/37186;WO98/53057;WO00/27878;WO01/88197及びGB2,338,237に開示されている。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増強作用は、例えば、共有WO02/077227に記載されている。
【0093】
さらに、これら及び他の参考文献に開示されているように、ジンクフィンガードメイン及び/またはマルチフィンガー型ジンクフィンガータンパク質を、例えば、5アミノ酸長以上のリンカーなど、任意の好適リンカー配列を使用して共に連結してよい。6アミノ酸長以上の例示的リンカー配列については米国特許第6,479,626号;第6,903,185号;及び第7,153,949号も参照のこと。本明細書に記載するタンパク質には、そのタンパク質の個々のジンクフィンガー間の好適なリンカーのあらゆる組み合わせも含まれてよい。
【0094】
標的部位の選択;融合タンパク質(及びそれをコードするポリヌクレオチド)を設計及び構築するためのZFP及び方法は当業者に公知であり、米国特許第6,140,081号;第5,789,538号;第6,453,242号;第6,534,261号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,200,759号;WO95/19431;WO96/06166;WO98/53057;WO98/54311;WO00/27878;WO01/60970WO01/88197;WO02/099084;WO98/53058;WO98/53059;WO98/53060;WO02/016536及びWO03/016496に詳述されている。
【0095】
ほぼどのようなリンカー(スペーサー)でも、DNA結合ドメインの1つ以上の構成要素(例えば、ジンクフィンガー)の間、1つ以上のDNA結合ドメインの間、及び/またはDNA結合ドメインと機能性ドメイン(例えば、ヌクレアーゼ)の間に使用してよい。好適リンカー配列の非限定的な例には、米国特許第8,772,453号;第7,888,121号;第6,479,626号;第6,903,185号;及び第7,153,949号;ならびに米国公開第20090305419号;第20150064789号及び第20150132269号が挙げられる。したがって、本明細書に記載するタンパク質には、個々のDNA結合性構成要素間及び/またはDNA結合ドメインと本明細書に記載する組成物の機能性ドメインとの間の好適なリンカーのあらゆる組み合わせが含まれ得る。
【0096】
B.切断ドメイン
好適な任意の切断ドメインを、本明細書に記載するDNA結合ドメインに機能的に連結して、ヌクレアーゼを形成することができる。切断ドメインは、DNA結合ドメイン、例えばジンクフィンガーDNA結合ドメイン及びヌクレアーゼ由来の切断ドメインにとって異種であってよい。異種切断ドメインは、任意のエンドヌクレアーゼまたはエキソヌクレアーゼから得ることができる。切断ドメインが由来し得る例示的なエンドヌクレアーゼには、制限エンドヌクレアーゼ及びホーミングエンドヌクレアーゼが挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、2002−2003 Catalogue,New England Biolabs,Beverly,MA;及びBelfort et al.(1997)Nucleic Acids Res.25:3379−3388を参照のこと。DNAを切断するさらなる酵素が公知である(例えば、S1ヌクレアーゼ;マングビーンヌクレアーゼ;膵DNaseI;ミクロコッカスヌクレアーゼ;酵母HOエンドヌクレアーゼ;Linn et al.(eds.)Nucleases,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1993も参照のこと)。これらの酵素の1つ以上(またはその機能的断片)を切断ドメイン及び切断ハーフドメインの供給源として使用できる。
【0097】
同様に、切断ハーフドメインは、上記のように、切断活性に二量体化が必要な任意のヌクレアーゼまたはその部分に由来し得る。一般に、融合タンパク質が切断ハーフドメインを含む場合は、切断に2つの融合タンパク質が必要である。別法として、2つの切断ハーフドメインを含む単一タンパク質を使用できる。かかる2つの切断ハーフドメインは、同じエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来し得うるか、または各切断ハーフドメインが異なるエンドヌクレアーゼ(またはその機能的断片)に由来し得る。さらに、2つの融合タンパク質にとっての標的部位は、かかる2つの融合タンパク質と、各自それぞれの標的部位との結合が、例えば二量体化によって、切断ハーフドメインに機能的切断ドメインを形成させる、互いに対する空間的配向で切断ハーフドメインを設置するように、互いに対して配置されるのが好ましい。したがって、ある実施形態では、標的部位の近端は、5〜8ヌクレオチドまたは15〜18ヌクレオチドによって分離される。しかし、任意の整数のヌクレオチドまたはヌクレオチド対を2つの標的部位の間に介在させることができる(例えば、2〜50ヌクレオチド対またはそれ以上)。一般に、切断の部位は標的部位と標的部位の間にある。
【0098】
制限エンドヌクレアーゼ(制限酵素)は多くの種に存在し、配列特異的なDNAへの結合(認識部位において)、及び結合部位またはその近傍におけるDNAの切断をすることができる。特定の制限酵素(例えば、IIS型)は、認識部位から除かれた部位でDNAを切断し、分離可能な結合ドメインと切断ドメインを有する。例えば、IIS型酵素であるFokIは、一方の鎖上にあるその認識部位から9ヌクレオチドの場所、もう一方の鎖上のその認識部位から13ヌクレオチドの場所におけるDNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号;第5,436,150号及び第5,487,994号;ならびにLi et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:4275−4279;Li et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:2764−2768;Kim et al.(1994a)Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:883−887;Kim et al.(1994b)J.Biol.Chem.269:31,978−31,982を参照のこと。したがって、一実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素に由来する切断ドメイン(または切断ハーフドメイン)及び1つ以上のジンクフィンガー結合ドメインを含み、人工的に操作されていても操作されていなくてもよい。
【0099】
切断ドメインが結合ドメインから分離可能なIIS型制限酵素の例はFokIである。この特定の酵素は二量体として活性である。Bitinaite et al.(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA95:10,570−10,575。したがって、本開示の目的の場合、開示の融合タンパク質で使用するFokI酵素の部分は切断ハーフドメインとみなす。したがって、ジンクフィンガー−FokI融合体を使用する、細胞配列の標的化二本鎖切断及び/または標的化置換では、各々がFokI切断ハーフドメインを含む2つの融合タンパク質を使用して、触媒的に活性な切断ドメインを再構成することができる。別法として、ジンクフィンガー結合ドメインと2つのFokI切断ハーフドメインとを含有している単一ポリペプチド分子を使用することもできる。ジンクフィンガー−FokI融合体を使用する標的化切断及び標的化配列改変のためのパラメータは、本開示の他の箇所に記載されている。
【0100】
切断ドメインまたは切断ハーフドメインは、切断活性を保持しているか、または、多量体化(例えば、二量体化)して機能的切断ドメインを形成する能力を保持しているタンパク質の任意の部分であり得る。
【0101】
例示的なIIS型制限酵素は、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,888,121号に記載されている。さらなる制限酵素もまた、分離可能な結合ドメインと切断ドメインを含有し、これらは本開示により意図されている。例えば、Roberts et al.(2003)Nucleic Acids Res.31:418−420を参照のこと。
【0102】
ある実施形態では、切断ドメインは、ホモ二量体化を最小限に抑えるかまたは防ぐ、1つ以上の人工的切断ハーフドメイン(二量体化ドメイン変異体ともいう)を含み、記載は、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第7,914,796号;第8,034,598号及び第8,623,618号を参照のこと。FokIの446位、447位、479位、483位、484位、486位、487位、490位、491位、496位、498位、499位、500位、531位、534位、537位、及び538位のアミノ酸残基はいずれも、FokI切断ハーフドメインの二量体化に影響を与える標的である。
【0103】
偏性ヘテロ二量体を形成するFokIの例示的な人工的切断ハーフドメインには、第1の切断ハーフドメインがFokIのアミノ酸残基490位及び538位における変異を含み、第2の切断ハーフドメインがアミノ酸残基486位及び499位における変異を含む対が含まれる。
【0104】
したがって、一実施形態では、490位における変異はGlu(E)をLys(K)に置換し、538位における変異はIso(I)をLys(K)に置換し、486位における変異はGln(Q)をGlu(E)に置換し、499位における変異はIso(I)をLys(K)に置換する。具体的には、本明細書に記載する人工的切断ハーフドメインは、一方の切断ハーフドメインの490位(E→K)及び538(I→K)を変異させて「E490K:I538K」として表される人工的切断ハーフドメインを作製し、かつ別の切断ハーフドメインの486位(Q→E)及び499(I→L)を変異させて「Q486E:I499L」として表される人工的切断ハーフドメインを作製することによって調製した。本明細書に記載する人工的切断ハーフドメインは、異常な切断を最小限に抑えるかまたは消失させる偏性ヘテロ二量体変異体である。例えば、あらゆる目的のためにその開示内容は全体が参照により組み込まれる米国特許公開第2008/0131962号を参照のこと。ある実施形態では、人工的切断ハーフドメインは、486位、499位及び496位(野生型FokIに対する番号付け)における変異、例えば、486位における野生型Gln(Q)残基をGlu(E)残基に置換する変異、499位における野生型Iso(I)残基をLeu(L)残基に置換する変異、及び496位における野生型Asn(N)残基をAsp(D)またはGlu(E)残基(それぞれ「ELD」及び「ELE」ドメインともいう)に置換する変異を含む。他の実施形態では、人工的切断ハーフドメインは、490位、538位及び537位(野生型FokIに対する番号付け)における変異、例えば、490位における野生型Glu(E)残基をLys(K)残基に置換する変異、538位における野生型Iso(I)残基をLys(K)残基に置換する変異、及び537位における野生型His(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基(それぞれ「KKK」及び「KKR」ドメインともいう)に置換する変異を含む。他の実施形態では、人工的切断ハーフドメインは、490位及び537位(野生型FokIに対する番号付け)における変異、例えば、490位における野生型Glu(E)残基をLys(K)残基に置換する変異、537位における野生型のHis(H)残基をLys(K)残基またはArg(R)残基(それぞれ「KIK」及び「KIR」ドメインともいう)に置換する変異を含む。例えば、米国特許第7,914,796号;第8,034,598号及び第8,623,618号を参照のこと。他の実施形態では、人工的切断ハーフドメインは、「Sharkey」及び/または「Sharkey’」変異を含む(Guo et al,(2010)J.Mol.Biol.400(1):96−107を参照のこと)。
【0105】
本明細書に記載する人工的切断ハーフドメインは、任意の好適な方法を使用して、例えば、米国特許公開第7,888,121号;第7,914,796号;第8,034,598号及び第8,623,618号に記載されるように、野生型の切断ハーフドメイン(FokI)の部位特異的変異誘発によって調製することができる。
【0106】
別法として、いわゆる「開裂酵素(split−enzyme)」技術を使用して、核酸標的部位においてインビボでヌクレアーゼを構築してよい(例えば、米国特許公開第20090068164号を参照のこと)。そのような開裂酵素の構成要素は、別々の発現構築体のいずれに発現させてもよく、または、個々の構成要素を、例えば自己切断2AペプチドまたはIRES配列によって分離した、1つのオープンリーディングフレーム内に連結させることができる。構成要素は、個別のジンクフィンガー結合ドメインであっても、またはメガヌクレアーゼの核酸結合ドメインであってもよい。
【0107】
ヌクレアーゼは、例えば、WO2009/042163及び20090068164に記載のように、酵母を用いた染色体系において、活性についての使用前スクリーニングを行うことができる。ヌクレアーゼの発現は、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターの制御下にあってよく、例として、ラフィノース及び/またはガラクトースの存在下で活性化(抑制解除)され、グルコース存在下で抑制されるガラクトキナーゼプロモーターがある。
【0108】
本明細書に記載するヌクレアーゼ(複数可)は、標的部位に1つ以上の二本鎖及び/または一本鎖の切開を作製し得る。ある実施形態では、ヌクレアーゼは、触媒的に不活性な切断ドメイン(例えば、FokI及び/またはCasタンパク質)を含む。例えば、米国特許第9,200,266号;第8,703,489号及びGuillinger et al.(2014)Nature Biotech.32(6):577−582を参照のこと。触媒的に不活性な切断ドメインは、触媒的に活性なドメインと組み合わされてニッカーゼとして作用して一本鎖切開を作製しよい。したがって、2つのニッカーゼを併用して特定領域に二本鎖切開を作製することができる。さらなるニッカーゼもまた、当技術分野で公知であり、例えば、McCaffery et al.(2016)Nucleic Acids Res.44(2):e11.doi:10.1093/nar/gkv878.Epub2015Oct19に記載がある。
【0109】
標的部位
上記で詳述されるように、DNAドメインを人工的に操作して、どのような選択配列にも結合させることができる。人工的に操作されたDNA結合ドメインは、天然に生じるDNA結合ドメインと比べて新規な結合特異性を有し得る。ある実施形態では、DNA結合ドメインは、BCL11Aエンハンサー配列内の配列に結合し、例えば、標的部位(典型的に、塩基対は9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21またはそれ以上)はBCL11Aのエキソン2とエキソン3の間にあり、これには、表1に示すBCL11Aエンハンサー配列のDNAseI高感受性部位内の配列(例えば、+58)に結合するDNA結合ドメインが含まれる。人工的操作方法には合理的設計及び各種の選択が挙げられるが、これらに限定されるものではない。合理的設計には、例えば、3ヌクレオチド(または4ヌクレオチド)の配列及び個々のジンクフィンガーのアミノ酸配列を含むデータベースの使用が挙げられ、これにおいて、3ヌクレオチド配列または4ヌクレオチド配列の各々は、特定の3ヌクレオチド配列または4ヌクレオチド配列と結合する、ジンクフィンガーの1つ以上のアミノ酸配列に関連している。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、共有米国特許第6,453,242号及び第6,534,261号を参照のこと。TALエフェクタードメインの合理的設計も実施され得る。例えば、米国公開第20110301073号を参照のこと。
【0110】
ファージ提示及びツーハイブリッド系を含む、DNA結合ドメインに適用可能な例示的選択方法は、米国特許第5,789,538号;第5,925,523号;第6,007,988号;第6,013,453号;第6,410,248号;第6,140,466号;第6,200,759号;及び第6,242,568号;ならびにWO98/37186;WO98/53057;WO00/27878;WO01/88197及びGB2,338,237に開示されている。さらに、ジンクフィンガー結合ドメインに対する結合特異性の増強作用は、例えば、共有WO02/077227に記載されている。
【0111】
標的部位の選択;融合タンパク質(及びそれをコードするポリヌクレオチド)を設計及び構築するためのヌクレアーゼ及び方法は当業者に公知であり、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20050064474号及び第20060188987号に詳述されている。
【0112】
さらに、これら及び他の参考文献に開示されているように、DNA結合ドメイン(例えば、マルチフィンガー型ジンクフィンガータンパク質)及び/またはDNA結合ドメイン(複数可)と機能性ドメイン(複数可)との融合体を、例えば、5アミノ酸以上のリンカーなど、任意の好適リンカー配列を使用して共に連結してよい。米国特許第8,772,453号;第7,888,121号(例えば、「ZC」リンカー);第6,479,626号;第6,903,185号;及び第7,153,949号;米国公開第20090305419号)及び第20150064789号。本明細書に記載するタンパク質には、そのタンパク質の個々のDNA結合ドメイン間の好適なリンカーのあらゆる組み合わせが含まれてよい。米国特許第8,586,526号も参照のこと。
【0113】
ドナー
ある実施形態では、本開示は、本明細書に記載するBCL11Aエンハンサー領域結合分子を使用して外来配列を細胞のゲノムに組み込む、ヌクレアーゼ介在性の標的化組込みに関する。上記のように、外来配列(「ドナー配列」または「ドナー」または「導入遺伝子」とも呼ばれる)の挿入は、例えば、特定領域の欠損及び/または変異遺伝子の修正または野生型遺伝子の発現増加のために行う。ドナー配列が、典型的に、それが配置されるゲノム配列と同一ではないことは容易に明らかとなるであろう。ドナー配列に、相同性のある2つの領域が隣接する非相同配列を含有させて、関心対象の位置において効率的なHDRを行わせることができ、または、非相同組換え型修復機構を介してドナー配列を組み込むことができる。さらに、ドナー配列は、細胞クロマチン内の関心対象領域に相同ではない配列を含有するベクター分子を含むことができる。ドナー分子は、細胞クロマチンに対して相同性のあるいくつかの不連続領域を含有することができ、例えば、ここに記載のヌクレアーゼの1つによって誘導されたDBSの修復用基質として使用した場合に、Bcl11aエンハンサー領域(またはその断片)の欠損をもたらす。さらに、関心対象領域に通常存在しない配列を標的化挿入する場合、上記配列をドナー核酸分子に存在させ、関心対象領域内の配列に対して相同性のある領域を隣接させることができる。
【0114】
挿入用ポリヌクレオチドは、「外来」ポリヌクレオチド、「ドナー」ポリヌクレオチドもしくは分子または「導入遺伝子」とも言うことができる。ドナーポリヌクレオチドは、一本鎖及び/または二本鎖のDNAまたはRNAであり得、直鎖形態または環状形態で細胞に導入され得る。例えば、米国特許公開第20100047805号及び第20110207221号を参照のこと。ドナー配列(複数可)は、DNA MC内に含有されることが好ましく、環状形態または直鎖形態で細胞に導入してよい。直鎖形態で導入する場合、当業者に公知の方法によってドナー配列の両端を(例えば、エキソヌクレアーゼによる分解から)保護することができる。例えば、1つ以上のジデオキシヌクレオチド残基を直鎖型分子の3’末端に付加し、かつ/または自己相補的オリゴヌクレオチドを一端または両端に連結する。例えば、Chang et al.(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA84:4959−4963;Nehls et al.(1996)Science272:886−889を参照のこと。分解から外来ポリヌクレオチドを保護するさらなる方法には、末端アミノ基(複数可)の付加及び、例えば、ホスホロチオエート残基、ホスホルアミダート残基、及びO−メチルリボース残基またはデオキシリボース残基のような改変型ヌクレオチド間結合の使用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。二本鎖形態で導入する場合、ドナーには、1つ以上のヌクレアーゼ標的部位、例えば、細胞のゲノムに組み込まれるべき導入遺伝子に隣接するヌクレアーゼ標的部位が含まれてよい。例えば、米国特許公開第20130326645号を参照のこと。
【0115】
ポリヌクレオチドは、例えば、複製起点、プロモーター及び抗生物質耐性をコードする遺伝子などのさらなる配列を有するベクター分子の一部として細胞に導入され得る。さらに、ドナーポリヌクレオチドは、裸の核酸として、核酸とリポソームまたはポロキサマーなどの薬剤との複合体として導入することができ、またはウイルス(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス及びインテグラーゼ欠損型レンチウイルス(IDLV))によって送達することができる。
【0116】
ある実施形態では、二本鎖ドナーには、長さが1kbより大きい配列(例えば、コード配列。導入遺伝子ともいう)、例えば、2〜200kb、2〜10kb(またはその範囲のあらゆる値)の配列(例えば、コード配列。導入遺伝子ともいう)が含まれる。二本鎖ドナーには、例えば少なくとも1つのヌクレアーゼ標的部位も含まれる。ある実施形態では、ドナーには、例えば、ZFN対またはTALEN対のための少なくとも2つの標的部位が含まれる。典型的に、ヌクレアーゼの標的部位は、導入遺伝子切断について、導入遺伝子配列の外側、例えば、導入遺伝子配列にとって5’及び/または3’にある。ヌクレアーゼ切断部位(複数可)は任意のヌクレアーゼ(複数可)の切断部位であってよい。ある実施形態では、二本鎖ドナーに含有されるヌクレアーゼ標的部位(複数可)は、内在性標的の切断に使用されるヌクレアーゼと同じヌクレアーゼ(複数可)が標的とする部位であり、その中に、相同性非依存的方法を介して切断されたドナーが組み込まれる。
【0117】
ドナーは一般に、その発現が組込み部位において内在性プロモーター、すなわち、中にドナーが挿入される内在性遺伝子の発現を誘導するプロモーターによって誘導されるように挿入される(例えば、グロビン、AAVS1など)。しかしながら、ドナーが、プロモーター及び/またはエンハンサー、例えば構成的プロモーターまたは誘導性もしくは組織特異的プロモーターを含んでよいことは明らかであろう。
【0118】
ドナー分子は、内在性遺伝子の全部、一部が発現するかまたは全く発現しないように内在性遺伝子に挿入されてよい。他の実施形態では、導入遺伝子(例えば、グロビンコード配列を持つかまたは持たないもの)を任意の内在性遺伝子座、例えばセーフハーバー座位に組み込む。例えば、米国特許公開第20080299580号;第20080159996号及び第201000218264号を参照のこと。
【0119】
さらに、発現には必要ではないが、外来配列には、転写調節配列または翻訳調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム侵入部位、2Aペプチドをコードする配列及び/またはポリアデニル化シグナルが含まれてもよい。
【0120】
本明細書に記載するドナー配列上に担持される導入遺伝子は、PCRなど当技術分野で公知の標準的技術を使用してプラスミド、細胞または他の供給源から単離されてよい。使用するドナーは、環状超らせん型、環状弛緩型、直鎖等を含む、トポロジーの種類の変更を含むことができる。別法として、標準的なオリゴヌクレオチド合成技術を使用して、それらを化学的に合成してよい。さらに、ドナーをメチル化してもメチル化を欠失させてもよい。ドナーは、細菌または酵母の人工染色体の形態(BACまたはYAC)であってよい。
【0121】
本明細書に記載する二本鎖ドナーポリヌクレオチドには天然には生じない1つ以上の塩基及び/または骨格が含まれてよい。特に、本明細書に記載する方法を使用してメチル化されたシトシンを有するドナー分子の挿入を実行し、関心対象領域の転写静止状態を達成してよい。
【0122】
外来(ドナー)ポリヌクレオチドは、任意の関心対象配列(外来配列)を含んでよい。例示的な外来配列には、任意のポリペプチドコード配列(例えば、cDNA)、プロモーター配列、エンハンサー配列、エピトープタグ、標識遺伝子、切断酵素認識部位及び各種の発現構築体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。標識遺伝子には、抗生物質耐性(例えば、アンピシリン耐性、ネオマイシン耐性、G418耐性、ピューロマイシン耐性)を誘導するタンパク質をコードする配列、有色タンパク質または蛍光タンパク質または発光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、高感度緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ)及び増強された細胞増殖及び/または遺伝子増幅を誘導するタンパク質(例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ)をコードする配列が挙げられるが、これらに限定されるものではない。エピトープタグには、例えば、FLAG、His、myc、Tap、HAまたは任意の検出可能なアミノ酸配列のコピーが1つ以上含まれる。
【0123】
好ましい実施形態では、外来配列(導入遺伝子)は、細胞での発現が所望される任意のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み、これには、抗体、抗原、酵素、受容体(細胞表面または核の)、ホルモン、リンホカイン、サイトカイン、レポーターポリペプチド、増殖因子、及び上記の任意のものの機能的断片が含まれるが、これらに限定されるものではない。コード配列は、例えばcDNAであってよい。
【0124】
例えば、外来配列は、遺伝性疾患を有する対象において欠損しているかまたは機能していないポリペプチドをコードする配列を含んでよく、そのような疾患には、以下の任意の遺伝性疾患を含むが、それらに限定されるものではない:軟骨無形成症、色盲、酸性マルターゼ欠損症、アデノシンデアミナーゼ欠損症(OMIM No.102700)、副腎脳白質ジストロフィー症、アイカルディ症候群、アルファ1アンチトリプシン欠損症、アルファ−サラセミア、アンドロゲン不感性症候群、アペール症候群、不整脈源性右室異形成、毛細血管拡張性運動失調症、バース症候群、ベータサラセミア、青色ゴム乳首様母斑症候群、カナバン病、慢性肉芽腫症(CGD)、ネコ鳴き症候群、嚢胞性線維症、ダーカム病、外胚葉異形成症、ファンコニ貧血、進行性骨化性線維異形成症、脆弱X症候群、ガラクトース血症、ゴーシェ病、全身性ガングリオシドーシス(例えばGM1)、血色素症、ベータグロビンの6番目のコドンにおけるヘモグロビンC変異(HbC)、血友病、ハンチントン病、ハーラー症候群、低ホスファターゼ症、クラインフェルター症候群、クラッベ病、ランガー・ギデオン症候群、白血球接着欠乏症(LAD、OMIM No.116920)、異染性白質ジストロフィー、QT延長症候群、マルファン症候群、メビウス症候群、ムコ多糖症(MPS)、ネイル・パテラ症候群、腎性尿崩症、神経線維腫症、ニーマン・ピック病、骨形成不全症、ポルフィリン症、プラダー・ウィリー症候群、早老症、プロテウス症候群、網膜芽細胞腫、レット症候群、ルビンシュタイン・テイビ症候群、サンフィリッポ症候群、重度複合免疫不全症(SCID)、シュワッハマン症候群、鎌状赤血球症(鎌状赤血球貧血症)、スミス・マゲニス症候群、スティックラー症候群、テイ・サックス病、血小板減少‐橈骨欠損(TAR)症候群、トリーチャー・コリンズ症候群、トリソミー、結節性硬化症、ターナー症候群、尿素サイクル異常症、フォンヒッペル・リンダウ病、ワールデンブルグ症候群、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、ウィスコット・アルドリッチ症候群、X連鎖リンパ増殖症候群、(XLP、OMIM No.308240)。
【0125】
標的化組込みによって治療され得るさらなる例示的な疾患には、後天性免疫不全症、リソソーム蓄積症(例えば、ゴーシェ病、GM1、ファブリー病及びテイ・サックス病)、ムコ多糖症(例えば、ハンター病、ハーラー病)、ヘモグロビン異常症(例えば、鎌状赤血球症、HbC、α−サラセミア、β−サラセミア)及び血友病が挙げられる。
【0126】
ある実施形態では、外来配列は、標的化組込みが行われた細胞の選択を可能にする標識遺伝子(上記)、及びさらなる機能性をコードする連結配列を含むことができる。標識遺伝子の非限定的な例には、GFP、薬物選択マーカー(複数可)等が挙げられる。
【0127】
挿入可能なさらなる遺伝子配列には、例えば、変異配列を置換する野生型遺伝子を含んでよい。例えば、野生型の第IX因子遺伝子配列を、該遺伝子の内在性コピーが変異している幹細胞のゲノムに挿入してよい。野生型コピーは、内在性遺伝子座に挿入してもよいし、または、別の方法でセーフハーバー座位を標的にさせてもよい。
【0128】
本明細書の教示に従った、そのような発現カセットの構築では、分子生物学術分野において周知である方法を利用する(例えば、AusubelまたはManiatisを参照のこと)。トランスジェニック動物を作製する発現カセットを使用する前に、発現カセットを好適な細胞株(例えば、初代細胞、形質転換細胞、または不死化細胞株)に導入することによって、選択した制御因子と会合したストレス誘導物質に対する発現カセットの反応性を試験することができる。
【0129】
さらに、発現には必要ではないが、外来配列は、転写調節配列または翻訳調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、インスレーター、配列内リボソーム侵入部位、2Aペプチドをコードする配列及び/またはポリアデニル化シグナルであってもよい。さらに、関心対象遺伝子の制御因子をレポーター遺伝子に機能的に連結してキメラ遺伝子(例えば、レポーター発現カセット)を作製することができる。
【0130】
非コード核酸配列の標的化挿入も達成され得る。アンチセンスRNA、RNAi、shRNA及びマイクロRNA(miRNA)をコードする配列も標的化挿入に使用され得る。
【0131】
さらなる実施形態では、ドナー核酸は、さらなるヌクレアーゼ設計の具体的な標的部位である非コード配列を含んでよい。その後、さらなるヌクレアーゼを細胞に発現させて、関心対象の別のドナー分子の挿入によって本来のドナー分子が切断され改変されるようにしてよい。この方法では、ドナー分子の反復組込みが発生し、関心対象の特定の遺伝子座またはセーフハーバー座位における形質スタッキングを可能にし得る。
【0132】
送達
本明細書に記載するヌクレアーゼ(表1)、これらのヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド、ドナーポリヌクレオチド及び本明細書に記載するタンパク質及び/またはポリヌクレオチドを含む組成物は、任意の好適な手段によってインビボまたはエキソビボで任意の細胞型に送達され得る。
【0133】
好適な細胞には、真核生物(例えば、動物)及び原核生物の細胞及び/もしくは細胞株が挙げられる。そのような細胞から作製される、そのような細胞または細胞株の非限定的な例には、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11、CHO−DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、及びperC6細胞ならびにSpodopterafugiperda(Sf)などの昆虫細胞、またはSaccharomyces、Pichia及びSchizosaccharomycesなどの真菌細胞が挙げられる。ある実施形態では、細胞株はCHO、MDCKまたはHEK293の細胞株である。好適な細胞には、あくまでも例示であるが、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞及び間葉系幹細胞などの幹細胞も含まれる。
【0134】
本明細書に記載するヌクレアーゼを送達する方法は、例えば、米国特許第6,453,242号;第6,503,717号;第6,534,261号;第6,599,692号;第6,607,882号;第6,689,558号;第6,824,978号;第6,933,113号;第6,979,539号;第7,013,219号;及び第7,163,824号に記載されており、これらすべての開示内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれるものとする。
【0135】
本明細書に記載するヌクレアーゼ及び/またはドナー構築体は、本明細書に記載する、ZFN(複数可)の1つ以上をコードする配列を含有しているベクターを使用して送達してもよい。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター;ヘルペスウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクター等を含むが、これらに限定されない任意のベクター系を使用してよい。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第6,534,261号;第6,607,882号;第6,824,978号;第6,933,113号;第6,979,539号;第7,013,219号;及び第7,163,824号も参照のこと。さらに、これらのベクターのいずれも、治療に必要とされる配列の1つ以上を含んでよいことは明らかであろう。したがって、1つ以上のヌクレアーゼ及びドナー構築体を細胞に導入する場合、ヌクレアーゼ及び/またはドナーポリヌクレオチドは、同じベクター上に担持されても、または異なるベクター上(DNA MC(複数可))に担持されてもよい。複数のベクターを使用する場合、各ベクターは、1つまたは複数のヌクレアーゼ及び/またはドナー構築体をコードする配列を含んでよい。従来のウイルスによる遺伝子導入法及びウイルスを用いない遺伝子導入法を使用して、ヌクレアーゼ及び/またはドナー構築体をコードする核酸を細胞(例えば、哺乳類細胞)及び標的組織に導入することができる。ウイルスを用いないベクターによる送達システムには、DNAまたはRNAプラスミド、DNA MC、裸の核酸、及びリポソームもしくはポロキサマーなどの送達ビヒクルと複合体を形成した核酸が挙げられる。好適な非ウイルスベクターにはnanotaxisベクターが含まれ、InCellArt(フランス)から市販されているベクターが挙げられる。ウイルスベクターによる送達システムには、DNA及びRNAウイルスが挙げられ、細胞に送達された後はエピソームゲノムまたは組込みゲノムを有する。人工的に操作されたDNA結合タンパク質及びこれらの結合タンパク質を含む融合タンパク質のインビボ送達の概説については、例えば、Rebar(2004)Expert Opinion Invest.Drugs13(7):829−839;Rossi et al.(2007)Nature Biotech.25(12):1444−1454ならびに遺伝子送達全般の参考文献、例えばAnderson,Science256:808−813(1992);Nabel&Felgner,TIBTECH11:211−217(1993);Mitani&Caskey,TIBTECH11:162−166(1993);Dillon,TIBTECH11:167−175(1993);Miller,Nature357:455−460(1992);Van Brunt,Biotechnology6(10):1149−1154(1988);Vigne,Restorative Neurology and Neuroscience8:35−36(1995);Kremer&Perricaudet,British Medical Bulletin51(1):31−44(1995);Haddada et al.,in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm(eds.)(1995);及びYu et al.,Gene Therapy1:13−26(1994)を参照のこと。
【0136】
ウイルスを用いない核酸の送達方法には、電気穿孔法、リポフェクション法、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸複合体、裸のDNA、人工ウイルス粒子、及び薬剤で増強させたDNAの取込みが挙げられる。例えば、Sonitron2000システム(Rich−Mar)を使用する音響穿孔法も核酸の送達に使用することができる。
【0137】
さらなる例示的な核酸送達システムには、Amaxa Biosystems(ドイツ、ケルン市)、Maxcyte、Inc.(メリーランド州ロックビル)、BTX Molecular Delivery Systems(マサチューセッツ州ホリストン)及びCopernicus Therapeutics Inc.(例えばUS6008336を参照のこと)から提供されているものが挙げられる。リポフェクション法は例えば、米国特許第5,049,386号;第4,946,787号;及び第4,897,355号)に記載されており、リポフェクション試薬が販売されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクション法に好適なカチオン性脂質及び中性脂質には、Felgner、WO91/17424、WO91/16024のものが挙げられる。
【0138】
免疫脂質(immunolipid)複合体のような標的化リポソームなどの脂質:核酸複合体の調製は当業者に周知である(例えば、Crystal,Science270:404−410(1995);Blaese et al.,Cancer Gene Ther.2:291−297(1995);Behr et al.,Bioconjugate Chem.5:382−389(1994);Remy et al.,Bioconjugate Chem.5:647−654(1994);Gao et al.,Gene Therapy2:710−722(1995);Ahmad et al.,Cancer Res.52:4817−4820(1992);米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号、及び第4,946,787号を参照のこと)。
【0139】
さらなる送達方法には、送達すべき核酸のEnGeneIC送達ビヒクル(EDV)内パッケージングを使用することが含まれる。これらのEDVは、抗体の1本の腕は標的組織に対する特異性を有し、もう1本の腕はEDVに対する特異性を有する二重特異性抗体を使用して標的組織に特異的に送達される。抗体はEDVを標的細胞表面まで運び、その後、EDVがエンドサイトーシスによって細胞内へ運ばれる。一旦細胞内に入った後、内容物が放出される(MacDiarmid et al(2009)Nature Biotechnology27(7):643を参照のこと)。
【0140】
人工的に操作されたZFP、TALE及び/またはCRISPR/Casシステムをコードする核酸を送達するための、ウイルスを用いたRNAまたはDNA系の使用では、ウイルスに体内の特定の細胞を標的とさせ、ウイルスのペイロードを細胞核に輸送させる高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、直接患者に投与することも(インビボ)、またはウイスルベクターを使用して細胞をインビトロで処理し、その改変細胞を患者に投与することもできる(エキソビボ)。ZFP送達にウイルスを用いる従来の系には、遺伝子導入用のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニア及び単純ヘルペスウイルスの各ベクターが挙げられるが、これに限定されるものではない。宿主ゲノムへの組込みは、レトロウイルス、レンチウイルス、及びアデノ随伴ウイルスによる遺伝子導入法で可能であり、挿入された導入遺伝子の長期発現がもたらされることが多い。さらに、高い形質導入効率が多くの異なる細胞型及び標的組織において観察されている。
【0141】
外来エンベロープタンパク質の組込みによってレトロウイルスの親和性を改変し、標的細胞となり得る標的集団を拡大させることができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞に形質導入するかまたは感染させ、典型的には高いウイルス力価を与えるレトロウイルスベクターである。レトロウイルスによる遺伝子導入系の選択は、標的組織に応じて決まる。レトロウイルスベクターは、シス作用性の長い末端反復配列で構成され、最高6〜10kbの外来配列パッケージング能力を有する。最小シス作用性LTRは、ベクターの複製及びパッケージングに十分であり、その後、これらを使用して、標的細胞に治療用遺伝子を組み込み、導入遺伝子の永久的発現を得る。広く使用されるレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びその組み合わせに基づいたものが含まれる(例えば、Buchscher et al.,J.Virol.66:2731−2739(1992);Johann et al.,J.Virol.66:1635−1640(1992);Sommerfelt et al.,Virol.176:58−59(1990);Wilson et al.,J.Virol.63:2374−2378(1989);Miller et al.,J.Virol.65:2220−2224(1991);PCT/US94/05700)を参照のこと。
【0142】
一過性発現が好ましい適用では、アデノウイルスを用いた系を使用できる。アデノウイルスを用いたベクターは、多くの細胞型で非常に高い効率で形質導入することができ、細胞分裂を必要としない。そのようなベクターでは、高力価及び高レベルの発現が得られている。このベクターは、比較的単純なシステムで大量に作製可能である。アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターも、例えば、核酸及びペプチドのインビトロでの作製、ならびにインビボ及びエキソビボでの遺伝子治療手技用に、標的核酸を用いて形質導入するために使用される(例えば、West et al.,Virology160:38−47(1987);米国特許第4,797,368号;第WO93/24641;Kotin,Human Gene Therapy5:793−801(1994);Muzyczka,J.Clin.Invest.94:1351(1994)を参照のこと。組換え型AAVベクターの構築は、米国特許第5,173,414号;Tratschin et al.,Mol.Cell.Biol.5:3251−3260(1985);Tratschin,et al.,Mol.Cell.Biol.4:2072−2081(1984);Hermonat&Muzyczka,PNAS81:6466−6470(1984);及びSamulski et al.,J.Virol.63:03822−3828(1989)など多数の刊行物に記載されている。
【0143】
現在、ウイルスベクターによる少なくとも6種の方法が臨床試験における遺伝子導入に利用可能であり、それらは、形質導入因子を生成するようヘルパー細胞株に挿入された遺伝子による欠陥ベクターの補完を行う方法を利用する。
【0144】
pLASN及びMFG−Sは、臨床試験で使用されているレトロウイルスベクター例である(Dunbar et al.,Blood85:3048−305(1995);Kohn et al.,Nat.Med.1:1017−102(1995);Malech et al.,PNAS94:22 12133−12138(1997))。遺伝子治療試験で最初に使用された治療用ベクターはPA317/pLASNであった。(Blaese et al.,Science270:475−480(1995))。MFG−Sをパッケージングしたベクターで50%以上の形質導入効率が観察されている。(Ellem et al.、Immunol Immunother.44(1):10−20(1997);Dranoff et al.,Hum.Gene Ther.1:111−2(1997)。
【0145】
組換え型アデノ随伴ウイルスベクター(rAAV)は、欠陥を有する非病原性のパルボウイルスである2型アデノ随伴ウイルスを用いる、有望な代替的遺伝子送達システムである。すべてのベクターは、導入遺伝子発現カセットに隣接する、AAVの逆向きの145bp末端反復のみを保持するプラスミドに由来している。形質導入された細胞のゲノムに組込むことによる効率的な遺伝子導入及び安定な導入遺伝子送達は、このベクターシステムの主要な特徴である。(Wagner et al.,Lancet351:9117 1702−3(1998),Kearns et al.,Gene Ther.9:748−55(1996))。AAVの他の血清型であるAAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9及びAAVrh.10及び任意の新規なAAV血清型も、本発明に従って使用可能である。
【0146】
複製欠損組換え型アデノウイルスベクター(Ad)は、高力価で作製され、多数の異なる細胞型を容易に感染させることができる。ほとんどのアデノウイルスベクターは、人工的に操作されるように、導入遺伝子がAd E1a、E1b、及び/またはE3遺伝子を置き換え;その後、複製欠陥ベクターを、欠失しているトランス性の遺伝子機能を供給するヒト293細胞で増殖させる。Adベクターは、肝臓、腎臓及び筋肉に見られる非分裂の分化細胞など、複数種の組織の形質導入がインビボで可能である。従来のAdベクターは担持能が大きい。臨床試験においてAdベクターを使用した一例では、筋肉注射による抗腫瘍免疫化のポリヌクレオチド治療を行った(Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−9(1998))。臨床試験で遺伝子導入にアデノウイルスベクターを使用したさらなる例には、Rosenecker et al.,Infection24:1 5−10(1996);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.9:7 1083−1089(1998);Welsh et al.,Hum.Gene Ther.2:205−18(1995);Alvarez et al.,Hum.Gene Ther.5:597−613(1997);Topf et al.,Gene Ther.5:507−513(1998);Sterman et al.,Hum.Gene Ther.7:1083−1089(1998)が挙げられる。
【0147】
パッケージング細胞を使用して、宿主細胞を感染させることができるウイルス粒子を形成する。そのような細胞には、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、及びレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が含まれる。遺伝子治療に使用されるウイルスベクターは、通常、ウイルス粒子に核酸ベクターをパッケージングする産生細胞株によって作製される。ベクターは、典型的に、パッケージング及びその後の宿主への組込みに必要なウイルスの最小配列を含有し(適用可能な場合)、他のウイルス配列は発現させるべきタンパク質をコードする発現カセットにより置換される。欠損しているウイルスの機能は、パッケージング細胞株によりトランス性で供給される。例えば、遺伝子治療に使用されるAAVベクターは典型的に、宿主ゲノムへのパッケージング及び組込みに必要なAAVゲノム由来の末端逆位反復(ITR)配列のみを有する。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわちrep及びcapをコードするがITR配列を欠くヘルパープラスミドを含有する細胞株にパッケージングされる。また、細胞株は、ヘルパーとしてのアデノウイルスで感染させられる。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製及びヘルパープラスミドからのAAV遺伝子発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列欠失のため大量にはパッケージングされない。例えば、AAVよりもアデノウイルスの方が感受性が高い熱処理によってアデノウイルスによる汚染を減らすことができる。
【0148】
多くの遺伝子治療の適用では、遺伝子治療ベクターが特定の組織種に高度に特異的に送達されることが望ましい。したがって、ウイルスベクターを改変して、ウイルスの外面に、ウイルス外被タンパク質との融合タンパク質としてリガンドを発現させて、所与の細胞型に対する特異性を有するようにすることができる。リガンドは、関心対象の細胞型に存在することが知られている受容体に対して親和性を有するよう選択される。例えば、Han et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA92:9747−9751(1995)には、モロニーマウス白血病ウイルスを改変して、gp70と融合させたヒトのヘレグリンを発現させることができ、その組換え型ウイルスが、ヒト上皮成長因子受容体を発現している特定のヒト乳癌細胞を感染させることが報告されている。この原理は、他のウイルス−標的細胞対まで拡大させることができ、その場合、標的細胞は受容体を発現し、ウイルスは、細胞表面受容体に対するリガンドを含む融合タンパク質を発現する。例えば、繊維状ファージを人工的に操作して、選択されるほとんどすべての細胞受容体に対して特異的結合親和性を有する抗体断片(例えば、FABまたはFv)を提示させることができる。上記は主にウイルスベクターに適用されるが、同原則はウイルス以外のベクターにも適用できる。そのようなベクターを人工的に操作して、特定の標的細胞による取り込みを促進する特定の取込み配列を含有させることができる。
【0149】
遺伝子治療ベクターは、以下に記載のように、個々の患者への投与、典型的には、全身投与(例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、または頭蓋内注入)または局所投与によってインビボで送達することができる。別法として、ベクターを、個々の患者から外植した細胞(例えば、リンパ球、骨髄穿刺、組織生検)または万能ドナー造血幹細胞などの細胞にエキソビボで送達し、その後、通常は、ベクターが組み込まれた細胞について選別を行ってから、当該細胞を患者に再移植することができる。
【0150】
また、ヌクレアーゼ及び/またはドナー構築体を含有しているベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)も、インビボで細胞の形質導入を行う生物に直接投与可能である。別法として、裸のDNAを投与することができる。投与は、血液または組織細胞との最終的接触に分子を導入するために通常使用される経路のいずれによっても行われ、それらとして、注射、注入、局所投与及び電気穿孔法を含むが、これに限定されるものではない。そのような核酸を投与する好適な方法は利用可能であり、また当業者に周知であるが、特定の組成物の投与に1つ以上の経路を使用でき、特定の経路によって、別の経路よりも速やかで有効な反応が得られ得ることが多い。
【0151】
本明細書に記載するポリヌクレオチド(例えば、ヌクレアーゼをコードし、かつ/または二本鎖のドナー)の導入に好適なベクターには、非組込み型レンチウイルスベクター(IDLV)が含まれる。例えば、Ory et al.(1996)Proc.Natl.Acad.Sci.USA93:11382−11388;Dull et al.(1998)J.Virol.72:8463−8471;Zuffery et al.(1998)J.Virol.72:9873−9880;Follenzi et al.(2000)Nature Genetics25:217−222;米国特許公開第2009/0117617号を参照のこと。
【0152】
薬理学的に許容される担体は、投与する個々の組成物、ならびにその組成物の投与に使用される具体的な方法によってある程度決定される。したがって、実に多種多様な好適な医薬組成物製剤が利用可能であり、以下に記載するとおりである(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,1989を参照のこと)。
【0153】
ヌクレアーゼをコードする配列及びドナー構築体は、同一または異なる系を使用して送達可能なことは明らかとなるであろう。例えば、ヌクレアーゼ及びドナーは、同一のDNA MCによって運搬され得る。別法として、ドナーポリヌクレオチドをMCによって、また1つ以上のヌクレアーゼを標準的なプラスミドまたはAAVベクターによって運搬させることができる。さらに、異なるベクターを、同一または異なる経路で投与することができる(筋肉注射、尾静脈注射、他の静脈注射、腹腔内投与及び/または筋肉注射)。ベクターは、同時または任意の順序で送達することができる。
【0154】
したがって、本開示には、治療用タンパク質をコードする導入遺伝子の挿入に反応しやすい疾患及び病態のインビボまたはエキソビボでの治療が含まれる。組成物は、ヒト患者に対し、血清中または標的器官もしくは細胞において治療用ポリペプチドの所望濃度を得るのに有効な量で投与される。投与は、所望の標的細胞にポリヌクレオチドが送達される任意の手段によって可能である。例えば、インビボ及びエキソビボのいずれの方法も意図される。門脈への静脈内注射は好ましい投与方法である。他のインビボ投与方法には、例えば、肝臓または胆管の葉内への直接注射及び肝臓に対して遠位の静脈内注射、例えば、総肝動脈を介した注射、肝実質への直接注射、総肝動脈を介した注射、及び/または胆樹を通す逆行性注入が挙げられる。エキソビボでの投与方法には、切除した肝細胞または肝臓の他の細胞をインビトロで形質導入し、その後、形質導入され、切除した肝細胞を、ヒト患者の門脈管構造、肝実質または胆樹内へ注入して戻す方法が挙げられ、例えば、Grossman et al.,(1994)Nature Genetics,6:335−341を参照のこと。
【0155】
投与されるべきヌクレアーゼ(複数可)及びドナーの有効量は、その患者ごとに、関心対象の治療用ポリペプチドによって異なる。したがって、有効量は、組成物を投与する医師により最良に決定され、適切な用量は、当技術分野の当業者により容易に決定され得る。組込み及び発現に十分な時間をかけた後(例えば、典型的に4〜15日)、治療用ポリペプチドの血清中または他の組織でのレベルの分析、投与前の初期レベルとの比較によって、投与量が低すぎる、適正範囲内である、または高すぎるということが決定される。初回投与及び後続投与についての好適な計画もさまざまであるが、計画は、初回投与を行い、その後必要に応じて後続投与することが典型的である。後続投与は、連日から1年に1回、数年おきに至るまで、さまざまな間隔で投与してよい。当技術分野の当業者には、送達ベクターが免疫抑制を受けることにより形質導入が阻害または遮断されることを回避するため、適切な免疫抑制法が推奨され得、例えば、Vilquin et al.,(1995)Human Gene Ther.,6:1391−1401を参照されたい。
【0156】
エキソビボ投与及びインビボ投与のための製剤には、液体懸濁液または乳化液が挙げられる。有効成分はしばしば、薬理学的に許容され、有効成分と適合性のある添加物と混合される。好適な添加物には、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びその組み合わせが含まれる。さらに、組成物は、少量の助剤、例えば、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、安定化剤または医薬組成物の有効性を高める他の試薬を含有してよい。
【0157】
細胞
本明細書には、本明細書に記載するヌクレアーゼ(表1)によって内在性BCL11Aエンハンサー配列が改変される細胞及び/または細胞株も記載される。改変は、例えば、細胞の野生型配列と比較した場合のものであってよい。細胞または細胞株は、改変には、ヘテロ接合体またはホモ接合体であってよい。BCL11A配列に対する改変は、挿入、欠失及び/またはその組み合わせを含んでよい。
【0158】
改変は、好ましくは、ヌクレアーゼ(複数可)が結合及び/または切断する部位(複数可)またはその近傍、例えば、切断部位(複数可)の上流または下流の1〜300(すなわち、その範囲のあらゆる値)塩基対内、より好ましくは、結合及び/または切断の部位(複数可)の片側から1〜100塩基対内(すなわち、その範囲のあらゆる値)、よりさらに好ましくは、結合及び/または切断の部位(複数可)の両側の1〜50塩基対内(すなわち、その範囲のあらゆる値)である。ある実施形態では、改変は、BCL11Aエンハンサーの「+58」領域またはその近傍、例えば、表1の第1列のいずれかに示されるヌクレアーゼ結合部位またはその近傍である。
【0159】
例えば幹細胞、例えば胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞及び間葉系幹細胞など、どの細胞または細胞株でも改変してよい。本明細書に記載する細胞の他の非限定的例には、T細胞(例えば、CD4+、CD3+、CD8+など)、樹状細胞、B細胞が挙げられる。部分的または完全な分化細胞など、幹細胞の子の細胞もまた提供される(例えば、RBCまたはRBC前駆細胞)。改変BCL11A配列が含まれる他の細胞株の非限定的な例には、COS、CHO(例えば、CHO−S、CHO−K1、CHO−DG44、CHO−DUXB11、CHO−DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28−G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0−Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293−F、HEK293−H、HEK293−T)、及びperC6細胞、ならびにSpodopterafugiperda(Sf)などの昆虫細胞、またはSaccharomyces、Pichia及びSchizosaccharomycesなどの真菌細胞が挙げられる。
【0160】
本明細書に記載する細胞は、障害を、例えば、エキソビボでの治療によって、治療及び/または予防するのに有用である。ヌクレアーゼの改変を受けた細胞は、増殖させて、その後、標準的技術を使用して患者に再導入することができる。例えば、Tebas et al(2014)New Eng J Med370(10):901を参照のこと。幹細胞の場合、対象への注入後、これらの前駆細胞から機能性導入遺伝子を発現する細胞へのインビボでの分化が起こる。本明細書に記載する細胞を含む医薬組成物もまた提供される。さらに、患者への投与に先立ち、細胞を凍結保存してよい。
【0161】
本明細書に開示する改変された細胞または細胞株のいずれもガンマグロビンの発現増加を示し得る。本明細書に記載する遺伝子改変細胞を含む医薬組成物などの組成物もまた提供される
【0162】
適用
本明細書に開示する方法及び組成物は、タンパク質の発現を改変すること、または鎌状赤血球症またはサラセミアなどの遺伝性疾患で発現されるタンパク質をコードする異常な遺伝子配列を修正することを目的とする。したがって、方法及び組成物により、そのような遺伝性疾患の治療及び/または予防が提供される。ゲノム編集(例えば、幹細胞)を使用して、異常遺伝子の修正、野生型遺伝子の挿入、または内在性遺伝子の発現の変更が可能である。非限定的な例として、野生型遺伝子、例えば、少なくとも1つのグロビン(例えば、α及び/またはβグロビン)をコードする遺伝子を細胞に挿入して(例えば、本明細書に記載する1つ以上のヌクレアーゼを使用して内在性BCL11aエンハンサー配列に挿入)、細胞で欠損及び/または欠落しているグロビンタンパク質を提供し、これによりグロビン発現不良が原因の遺伝性疾患、例えば、異常ヘモグロビン症を治療する。あるいは、またはさらに、適切なドナー投与の有無にかかわらず、ゲノム編集により、不良な内在性遺伝子の修正、例えば、α−ヘモグロビンまたはβ−ヘモグロビンにおける点変異の修正を行って遺伝子の発現を修復すること、及び/または遺伝性疾患、例えば、鎌状赤血球症を治療すること、及び/または任意の直接もしくは間接的なグロビン調節遺伝子のノックアウトもしくは改変(過剰発現または抑制)(例えば、γグロビン調節遺伝子BCL11AまたはBCL11A調節因子KLF1の不活性化)を行うことができる。具体的には、本発明の方法及び組成物は、ヘモグロビン異常症の治療または予防に使用される。
【0163】
本発明のヌクレアーゼは、BCL11Aの発現に必要なことが知られているBCL11Aエンハンサー領域を標的とし、したがって、ガンマグロビン発現が下方制御される。このエンハンサー領域の改変により、赤血球におけるガンマグロビン発現の増加がもたらされ得るため、鎌状赤血球症またはベータサラセミアの治療または予防に有用となり得る。
【0164】
以下の実施例は、ヌクレアーゼがジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を含む、本開示の例示的な実施形態に関する。これは、あくまでも例示を目的とし、また、他のヌクレアーゼ、例えば、TtAgo及びCRISPR/Casシステム、人工的に操作されたDNA結合ドメインを有するホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)、ならびに/または天然に生じるかもしくは人工的に操作されたホーミングエンドヌクレアーゼ(メガヌクレアーゼ)のDNA結合ドメインと、異種の切断ドメインとの融合体、ならびに/またはメガヌクレアーゼとTALEタンパク質との融合体を使用できることは認識されよう。
【実施例】
【0165】
実施例1:ジンクフィンガーヌクレアーゼの構築
ヒトBCL11A遺伝子に対してZFNを構築し、Miller et al.(2007)Nat.Biotechnol.25:778−785に記載のようにCEL1アッセイで試験した。エンハンサー領域の+58領域に対して特異的なZFNを記載のように作製した。ヌクレアーゼを下記表1に示す:
表1:BCL11Aエンハンサー領域の+58に特異的なZFN対
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
*51446と51463はリンカー配列が異なる
【0166】
全ZFNを機能性(切断活性)について試験したところ、活性であることがわかった。
【0167】
実施例2:ヒトK562細胞におけるZFNの活性
簡単に言うと、ヒトK562細胞を、10%FBSを添加したRPMIで培養し、200,000細胞を、左及び右のZFNパートナーをコードするそれぞれのプラスミドDNAを最適下限濃度の25ng用いてAmaxa Nucleofector(登録商標)により製造者の指示書にしたがいトランスフェクションした(表2a)。さらに、左のZFN25ng及び右のZFN5ngを用いて実験を実施した(表2b)。Perez et al.(2008)Nat.Biotechnol.26:808−816及びGuschin et al.(2010)Methods Mol Biol.649:247−56)に記載のCel−Iアッセイ(Surveyor(商標)、Transgenomics)を使用してトランスフェクション後2日目または3日目のZFN誘導性の標的遺伝子改変を検出した。このアッセイでは、標的部位のPCR増幅の後、配列決定によって挿入及び/または欠失(「インデル」)の定量を行った。Illuminaプラットフォーム(「miSEQ」)によるディープシークエンシングを製造者の指示書にしたがって使用し、編集効率ならびに編集で作製されたアレルの性質を測定した。結果は下記表2に示され、数字は観察されたパーセントNHEJ活性を指す:
表2a:K562細胞におけるマトリックスのスクリーニング(各ZFN25ng)
【表2-a】
表2b:K562細胞におけるマトリックスのスクリーニング(左のZFN25ng、右のZFN5ng)
【表2-b】
【0168】
DNA結合領域とヌクレアーゼドメイン間に4つの異なるリンカーを使用してZFNも構築した(米国特許公開第20150064789号を参照のこと)。被験リンカー配列は下記に示され、配列の「HTKIH」部分はDNA結合領域のカルボキシ末端であり、「ELEEK」部分はヌクレアーゼドメインのアミノ末端である。下線部分は2つのドメイン間のリンカー配列である。
【0169】
リンカー配列
【化1】
【0170】
これらの実験では、左側パートナー上のL7c5またはL7aリンカーと組み合わせて右側パートナー上のL0またはL8c4リンカーを試験した。ZFNの組み合わせを、K562細胞における切断活性について試験し、その結果(パーセントNHEJ活性)を下記表3に示す。
表3:各種ドメインリンカーとZFN活性
【表3-1】
【表3-2】
【0171】
実施例3:CD34+細胞におけるZFNの活性
本明細書に記載するZFNもまたヒトCD34+細胞で試験した。CD34+形質導入では、BTX ECM830装置で2mmギャップのキュベットを使用した。組織培養未処理プレート内で、1xCC110(Stem cell Technology)を含むx−vivo10培地(Lonza)でヒトCD34+細胞を増殖させた。細胞を計数し、室温で10分間1200rpmで遠心分離を行って採取した。細胞を室温のPBSで1〜2回洗浄した。各トランスフェクションにつき200,000細胞を使用し、それらを100μLのBTexpress溶液に再懸濁させた。CD34+の実験では、DNAではなく、ZFNをコードするRNAを使用した。mMessageMachine T7 Ultra Kit(Ambion)を使用してRNAを作製した。トランスフェクションあたり、各ZFNをコードするRNAを500ng加え、混合物をキュベットに移した。移した直後、混合物に250Vで5ミリ秒の電気穿孔を行った。予め温めた培地をキュベットに加え、培地と細胞を合わせて48ウェル組織培養未処理プレートに移し、その後37℃でインキュベートした。
【0172】
2日または3日後、続いてIllumina MiSeqを使用して細胞をゲノム分析に供した。編集したアレルのパーセントを定量化するため、標準的Illumina配列決定アダプター配列を付加するプライマーを使用して、関心対象のゲノム領域をPCR増幅にかけた。第2の群の13回のPCRを実施して両末端にバーコード配列及びブリッジアダプター配列を付加した。Illumina MiSeqでアンプリコン配列決定用の製造者のプロトコルにしたがって配列決定を実施した。MiSeqでペアエンドによる読取りを生成し、それらを標準的なアラインメントソフトウェアを使用してマージしアダプターのトリミングを行う。その後、カスタムスクリプトを使用してバーコード配列対によって試料ごとに読み取りを分離(demultiplex)した。次いで、Needleman−Wunschアルゴリズムを実装して、アンプリコン配列をリファレンス配列へグローバルアラインメントした(Needlemanand Wunsch(1970).Jour Mol Bio48(3):443−53)。アラインメントのギャップまたは挿入を%NHEJ事象として計数し、未処理対照試料の配列と比較して配列特異的な背景発生率を決定した。結果を下記表4に示す。
表4:CD34+細胞におけるZFN活性
【表4】
【0173】
代表的な対から選択したセット(各ZFNにつき1μg)でmRNAインプットを増量して使用すると、表5に示すようにさらなる量の切開が観察された。
表5A及び5B:高濃度ZFNでもたらされる高活性
表5A
【表5-A1】
【表5-A2】
表5B
【表5B】
【0174】
上記のトランスフェクションは、ほとんどは、ZFNの各種組み合わせの活性を比較できるようにmRNAインプットが不飽和の条件下で実施された。mRNAの飽和インプットまたはその近傍の量で得られる改変の最大量を検討するため、我々は、BTX電気穿孔を使用して、2a構築体または2つのZFNを組み合わせて1つのmRNAにしたものを増量させてCD34+細胞にトランスフェクションした。結果を下記表6に示す。
表6:mRNAインプット増量に伴うBcl11aエンハンサーの改変
【表6】
【0175】
表6のデータは、試験した全組み合わせについて、mRNAインプット増量に伴いZFN標的領域が非常に多く改変されることを示している。
【0176】
異なるリンカーを含むZFNを用いた場合の活性を分析する実験2で行った実験と同様に、リンカーが活性に与える効果もCD34+細胞で試験した。上記のように、これらの実験でZFNを送達するためにmRNA量をさまざまに変えて(それぞれにつき500ng、1000ngまたは2000ng)使用した。
表7は、リンカー同一性がZFN対の活性に与える効果を示す。
表7:CD34+細胞を用いたリンカー同一性がZFN活性に与える効果
【表7】
【0177】
実施例4:編集されたCD34+細胞の分化とヘモグロビン発現
相対的ガンマグロビン発現に対する効果を検討するため、ZFN対の代表的試料をコードするmRNAを、BTX nucleofectionで製造者の指示書にしたがいCD34+細胞(健常ドナーボランティアから入手)に導入した。その後、細胞を赤血球に分化させた。簡単に言うと、Ficoll−Paque(GE Healthcare)及びCD34
+マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を製造者の指示にしたがって使用しCD34
+細胞を精製した。増殖因子の存在下で、BIT95000(StemCell Technologies)を含むIscove’s MDMでCD34
+細胞を培養した。3ステップ液体培養モデルを使用して細胞を赤血球系列へ分化させた。最初の6日間(第1段階)は、SCF(100ng/ml)、Flt3−L(100ng/ml)、及びIL−3(20ng/ml)を用いてCD34
+細胞を増殖させた。次いで、増殖した細胞は、Epo(2U/ml)及びSCF(50ng/ml)を用いて、系列決定させ赤血球系列へ向けて分化させた(第2段階)。Giarratana et al.(2011)Blood118(19):5071−9を参照のこと。
【0178】
相対的ガンマグロビン発現を分析するため、ZFNで処理した後の、ガンマグロビン、アルファグロビン及びベータグロビンをコードする各mRNAの比を、分化開始後14日目にRT−PCR解析によって測定した。製造者(Applied Biosystems)から提供されたプロトコルで遺伝子特異的アッセイを使用して、標準のTaqman(登録商標)解析によって解析を行った。ガンマグロビン(HBG)の相対的レベルを、アルファグロビン(HBA)またはベータグロビン(HBB)の発現レベルで正規化し、その比を、対照細胞のガンマ/アルファ比またはガンマ/ベータ比と比較した。
【0179】
データは下記表8に記載され、プラスミドをコードするGFPで処理した細胞に比べ、ZFNで処理した細胞でのガンマグロビン発現の増加が見られたことを示している。
表8:編集されたCD34+細胞でのアルファグロビンまたはベータグロビンに対するガンマグロビン発現の変化
【表8】
【0180】
上記のように飽和mRNA濃度またはその近傍の濃度でトランスフェクションされたCD34+細胞をインビトロで赤血球に分化させた後のグロビン発現RT−PCR解析では、GFPのmRNAをトランスフェクションした対照試料と比較して、Bcl11aエンハンサーを標的とする選択ZFN対すべてによる非常に効率的なガンマグロビン活性化が示されている(
図1)。データを下記表9に記載する。
表9:高比率のヒトガンマグロビン発現
【表9】
【0181】
実施例5:BTX電気穿孔装置を使用した別個mRNA及び単一mRNAでのCD34+細胞におけるZFN活性
ヒト末梢血から単離された、動員されたヒトCD34+細胞及び骨髄から単離されたCD34+細胞で2対のZFNの活性を試験した。簡単に言うと、CD34+細胞を以下のとおり健常ドナーから単離した。白血球除去による採取物は、低速遠心分離及び上清除去を行って血小板を除去した。血小板除去後、抗CD34磁気マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、ドイツ)で細胞を標識化し、Miltenyi CliniMACS Plus Cell Separator Systemを使用して陽性選択を行った。選択後、陽性画分(濃縮CD34+HSPC)を洗浄し、培地(すなわち、2mM L−グルタミン、FMS様チロシンキナーゼ3−リガンド(Flt−3L)100ng/mlずつ、幹細胞因子(SCF)、及びトロンボポチエン(TPO)を添加したX−VIVO10培地)に1×106細胞/mLで再懸濁させ、VueLife培養バッグ(Saint−Gobain、Gaithersburg、MD)に移し37℃/5%CO2でインキュベートした。骨髄由来CD34+細胞の精製では、ヒドロキシエチルデンプン沈降法で採取物から赤血球(RBC)を除去した。RBC除去後、抗CD34磁気マイクロビーズ(Miltenyi Biotec、ドイツ)で細胞を標識化し、Miltenyi CliniMACS Prodigyを使用して陽性選択を行った。選択後、陽性画分(濃縮CD34+HSPC)を洗浄し、培地(すなわち、2mM L−グルタミン、FMS様チロシンキナーゼ3−リガンド(Flt−3L)100ng/mlずつ、幹細胞因子(SCF)、及びトロンボポチエン(TPO)を添加したX−VIVO10培地)に1×106細胞/mLで再懸濁させ、VueLife培養バッグ(Saint−Gobain、Gaithersburg、MD)に移し37℃/5%CO2でインキュベートした。
【0182】
使用した対は51446/51536(対A)及びSBS51857/51949(対B)であった。細胞に導入されたmRNAとしてZFNを試験した。トランスフェクションには、BTX装置を使用した。簡単に言うと、試料あたり200,000細胞をBTXpress Electroporation溶液(BTX)に懸濁させ、RNAと混合した。その後、混合物に250ボルトで4ミリ秒間パルスをかけ、コールドショック条件(30℃で一晩)に供してから、細胞を37℃で回収した。トランスフェクション後2日または3日目にZFN活性の分析を行った。2つのZFNコード配列間に2a自己切断ペプチド配列を使用した単一mRNA種としてZFNを試験した。そのデータは
図2に記載されている。さらに、同一条件を使用して1対のZFNを試験し、その場合、mRNAは2つの別々の種として提供され、各mRNAが単一ZFNをコードした。下記表10a及び表10bは、単一mRNAの場合と、2つのmRNAの場合の活性結果(%NHEJまたはインデル)を示す(記載データはいくつかの実験から得たものである)。
表10a:単一mRNA種と2つのmRNA種の比較(%インデル)
【表10-a】
表10b:単一mRNA種と2つのmRNA種の比較(%インデル)
【表10-b】
【0183】
また、TaqMan(登録商標)を標準プロトコルにしたがって使用し、ヒトガンマグロビン及びヒトベータグロビンの発現も試験した。その後、結果を、HBB(ベータ)に対するHBG(ガンマ)の比として正規化した。これは
図3に示され、ここでも2対のZFN、すなわち、51446/51536(対A)とSBS51857/51949(対B)を比較している。さらに、単一mRNAとしてのZFN対の提供を比較してHBG及びHBBの発現も測定し、その場合、その対の各ZFNをコードする配列を2a自己切断ペプチド配列により分離させ、各ZFNをコードするmRNAを別々に供給するという条件で行った。データから、これらの条件下では、SBS51857/51949のB対の方がBCL11a標的の切断及びHBG発現の増加発生において、より活性であったことが実証された。
【0184】
骨髄由来CD34+細胞でZFN対を試験したところ、ここでも両対ともに活性であることがわかった(
図4aを参照のこと)。SBS51857/51949対に対する活性も試験し、ここで、ZFNは上記のように2aを有する単一mRNA上で、または2つの別々のmRNAとして供給された(
図4b)。SBS51857/51949対は、51446/51536対より高い活性を示した。
【0185】
実施例7:特異性分析
不偏捕捉分析
捕捉アッセイは、標的細胞にヌクレアーゼと二重鎖DNAドナーとを共導入することにより、結果として生じたゲノム切断部位の画分に、NHEJ DNA修復経路を介してドナーが「捕捉」されることの観察に基づいている(Orlando et al,(2010)Nucleic Acids Res.38(15)e152;Gabriel,R.et al.(2011).Nat Biotechnol.29:816−23.)。この捕捉事象は相同性で誘導されるものではないことに留意されたい(事実、二重鎖DNAドナーは、ヒトゲノムに対するいかなる相同性も含有していない)。さらに、ZFNをコードするmRNAは、DNA切断内に捕捉されることはできず、二重鎖DNAドナーのみができることにも留意されたい。一旦二重鎖ゲノムがトラップされると、切断事象の永久タグを表す。ゲノムDNA単離後、ドナーから隣接ゲノム配列内へのプライマー伸長法で捕捉部位を同定し、その後、アダプターライゲーション、PCR、及び得られるドナー−ゲノム結合の配列決定を行ってよい。
【0186】
簡単に言うと、ドナー送達、ZFN発現、及びDSB部位内へのドナー捕捉を最大にするため、K562細胞株で捕捉分析試験を行った。細胞には、ZFNをコードするmRNA及びオリゴヌクレオチド二重鎖ドナーを用いて電気穿孔を行った。別個に、BM及びPBに由来するCD34+細胞に上記のようにZFNをコードするmRNAを用いてMaxcyte装置を使用して電気穿孔を行った。使用した二重鎖ドナーオリゴヌクレオチドを下記に示す(配列番号30及び31):
【化2】
【0187】
各鎖の5’末端のNNNNはランダム一本鎖四量体の突出を指し、下線を引いたNNNNはランダム二重配列を指し、同一組込み事象間で区別するためのバーコードとして使用した。オリゴとmRNAの組み合わせそれぞれについて三連試料を調製した。トランスフェクション後7日目及び14日目にゲノムDNAを単離し(Qiagen DNeasy Blood and Tissue Kit)、1μg(330000ゲノム/1連)を増幅プロトコル用インプットとして使用した。その後、試料を本質的には記載のとおり処理した(Paruzynski,A.et al.(2010).Nat.Protocols.5:1379−1395)。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)を使用してアンプリコンを精製し、PCRで増幅させて、Illuminaプラットフォームでのディープシークエンシング用にバーコード及びアダプターを導入した。アンプリコンの各末端のバーコードを検出するため、MiSeq Instrument(Illumina)でv2 300サイクルシークエンシングキットをペアエンド150bp読み取り及び8bpデュアルインデックス読み取りで使用し、最終産物の定量、プール及び配列決定を行った。このおかげで、オフターゲット遺伝子座候補1セットが得られ、その後、これらをBMまたはPBに由来するCD34細胞で遺伝子型を決定した。対A(SBS番号51446/51536)で同定された結果を
図10aに示し、対B(SBS番号51857/51949)で同定された結果を
図10bに示す。データをさらに下記表11にまとめる。
表11:骨髄由来CD34+、対A及び対Bのオフターゲット分析
【表11】
【0188】
PB由来CD34+細胞で同様の試験を実施し、下記表12に観察結果をまとめた。
表12:末梢血由来CD34+、対A及び対Bのオフターゲット分析
【表12】
【0189】
実施例6:Maxcyte電気穿孔装置を使用した別個mRNA及び単一mRNAでのCD34+細胞におけるZFNの活性
次に我々は、Maxcyte GT電気穿孔装置を使用してCD34+細胞でZFN対を用いて、より大規模の実験を行った。上記のように正常ドナー由来の末梢血から単離された、動員されたCD34+細胞(PB)を以下のとおり試験した:細胞(試料あたり300万)をRT Maxcyte EP緩衝液に再懸濁させ最終濃度を30 e6細胞/mLとした。細胞をmRNAと混合し、製造者指定のプログラムを使用して電気穿孔を行った。細胞を37℃で20分間、手短に回復させた後、希釈してコールドショック条件(30℃で一晩)に供してから細胞を37℃で回復させた。2〜3日後に活性を分析した。対A及びB対の両方を用いて前述のように実験を行い、ここでは、各対を単一mRNA上に導入した(
図5A)。ZFN対B(SBS51857/51949)もまた、単一mRNAまたは2つの別個のmRNAとして上記のように試験した(
図5b)。これらの実験では、対Bは最も高い活性を示した。
【0190】
骨髄由来細胞では、編集の成功には,より多くのmRNAを必要としたが、高活性が観察された(
図6を参照のこと)。細胞を上記のようにHBG及びHBBの発現について分析し、HBG/HBB比を第0日のパーセントインデル活性と比較した(
図7)。高レベルのHBG発現と高いインデル活性との間には良好な呼応が見られた。Maxcyteプロトコルを使用してさらなる解析を実施し(
図8及び9)、そこでは、各実験でのインデルの頻度は常に同じではなかったが、実施ごとに、相対的活性(例えば、2a SBS51857/51949構築体の方が別個mRNAよりも高い)が観察されたことがわかった。
【0191】
実施例7:マウスにおける編集されたヒトCD34+細胞の生着
上記のように、CD34+ヒト細胞を、+58エンハンサー特異的ZFNをコードするmRNAで処理し、その後NSGマウスに生着させる。CD34+細胞は、健常ヒトボランティアから得る。ある場合には、血液成分分離の前にG−CSF(Neupogen(登録商標))またはG−CSF+プレリキサフォル(Mozobil(登録商標))を使用して、CD34+動員戦略を実施した。血液成分分離の前に製造者の指示書にしたがってG−CSFを4日間連日投与する。プレリキサフォルを使用した場合は、やはり製造者の指示書にしたがって回収前の最終夜に投与した。標準的方法で血液成分分離を実施する。Miltenyi CliniMACsシステムを標準的方法かつ製造者の指示書にしたがって使用し、動員されたPBMC leukopakでCD34+細胞を濃縮した。
【0192】
Ambion mMessage mMachine(登録商標)T7 ultraキットを製造者の指示のとおり使用して、キャップが付加されポリアデニル化した、ZFNをコードするmRNAを合成し、その後、Maxcyte GTシステムまたは、BTX ECM830エレクトロポレーターをいずれも製造者の指示書にしたがって使用してCD34+細胞の電気穿孔を行った。
【0193】
NOD.Cg−Prkdc
scid Il2rg
tm1Wjl/SzJマウスを使用してCD34+移植を行った。移植前日(16〜24時間前)、マウスを亜致死線量照射(300RAD)に供する。上記でZFN処理したCD34+細胞を、照射を受けたマウスに尾静脈注射して移植し、ここで、マウス1匹あたり100万細胞を0.5mL PBS−0.1%BSAに入れて与えた。
【0194】
この実験では、46801/47923対をコードするmRNAを用いてCD34+細胞に電気穿孔を行う。2A自己切断ペプチドをコードする配列で区切られた単一オープンリーディングフレームにZFNをコードする遺伝子を共にクローニングする。GFPを対照として使用した。マウスへの移植後、移植から4週間目、8週間目及び12週間目に試料を採取し、細胞内のヒト細胞特異的マーキングのレベルを観察する。
【0195】
ZFNで編集されたCD34+細胞の生着及び分化、ならびに生着レベルは、未編集の対照群と比べると、編集された細胞間では同様であった。
【0196】
実施例8:患者由来細胞でのZFNの活性
ZFNの活性をヒト末梢血から単離された、動員されたヒトCD34+細胞及び骨髄から単離されたCD34+細胞で試験した。5人のβサラセミア対象から得たHSPC(P11、P18、P04、P08及びP19とする)を動員し、記載のとおり精製した(Yannaki et al.(2012)Mol Ther20(1):230)。いずれの実験でも、解凍後2日目に、BTXエレクトロポレーター(マサチューセッツ州ホリストン、電圧=250V、パルス長=5ms)を使用して、100μLのBTX Express電気穿孔溶液中で200,000のCD34+細胞に電気穿孔を行った。トランスフェクションでは、4μgの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするmRNA(電気穿孔効率についての対照として、また、電気穿孔自体の非特異的効果及び細胞へのmRNA導入の非特異的効果を検査するため)、または4μg及び8μgのSB51857−2a−51949 mRNAを使用した。
【0197】
BTXエレクトロポレーターを使用した小規模トランスフェクションでは、これらのSB51857/51949 mRNA量は、MaxCyte装置での大規模トランスフェクションで使用した80〜120ug/ml濃度と同等の標的遺伝子改変及びγ−グロビン活性化がもたらされた。
【0198】
電気穿孔後、30℃で一過性に一晩培養を実施した。さらに48時間37℃にて細胞を培養すると、インビトロでの分化が開始され、一定分量の細胞を回収してDNA改変の分析を行った。トランスフェクション後、CC100サイトカインカクテル(Stem Cell Technologies、バンクーバー、カナダ)が添加されたX Vivo 10培地(Lonza、ウォーカーズビル、MD)で細胞を培養した。
【0199】
電気穿孔後72時間、インビトロでの分化が開始された時点(したがって、トランスフェクション後d3は分化のd0とした)及び赤血球分化の14日目に、MiSeqディープシークエンシングによりBCL11A遺伝子の改変を測定した。結果を表13に示す。
【0200】
我々が入手した患者由来CD34+細胞試料は、使用前に2回凍結されており、そのため、これらの一部の試料で、解凍時の生存率及び細胞増殖の低下が示された。解凍後の低生存率は、トランスフェクション後の生存率の大幅な低下及び低い標的遺伝子改変と一致し、特に、トランスフェクションされていない死亡細胞から得たDNAが依然として存在している、初期の時点で観察されている。SB−ZFNトランスフェクションとは独立したトランスフェクション後の細胞生存率の指標として、表13は、GFP mRNAでトランスフェクションした対照試料中の細胞供給源ごとの細胞生存率を示している。表には、実験1の患者細胞試料P18は、生存率がこの実験の他の2試料よりも(71%及び80%)はるかに低く(38%)、また約70%のアレルが改変された他と同様の改変レベルには及ばなかったことが示されている。同様に、第3日の第2実験では、患者細胞試料P08は、健常細胞を人工的及び自然に増殖させた後でも、非常に不良な生存率(22%)及び非常に低い初期改変レベル及び最適下限の改変レベルを示した。
表13:MiSeqによるBCL11A遺伝子改変分析
【表13】
ND=データなし、WT=野生型
【0201】
これらのデータは、健常ドナー及びβサラセミアを有するサラセミア患者に由来する、G CSF動員され、精製されたHSPCへSB ZFN mRNAを電気穿孔した後、大半の試料において、臨床試料に予想される範囲内のBCL11Aエンハンサーの破壊が生じたことを示す。試料の一部の低生存率の結果、P18及びP08でのエンハンサーの破壊は健常ドナーボランティア由来の細胞よりも低かったため、これら2つの低生存率試料は下記解析から外した。重要なことには、確固たる細胞生存率を示した対象由来試料(例えば、試料P11及びP04)は、野生型細胞で見られた遺伝子改変レベルと同等の遺伝子改変レベルも示した。
【0202】
βサラセミアを有する対象由来のCD34+HSPCの赤血球後代から単離されたαグロビンmRNA及びγグロビンmRNAのレベルは、SB ZFN mRNAで処理後にRT qPCRで解析したところ、胎児(γ)グロビンレベルの増加を示した(
図11)。胎児γグロビンmRNAレベルは、サラセミア細胞ではβグロビンmRNAの発現が低いかまたはまったくなかったため、αグロビンmRNAに対して正規化して示されている。
【0203】
SB ZFN mRNAで処理した、βサラセミアを有する対象由来のCD34+HSPCの赤血球後代は、胎児(γ)グロビンmRNAとαグロビンmRNAとの比において予想通りの増加を見せ、グロビンmRNAとアルファグロビンmRNAとの比は、特に、解凍後の生存率が良好で、結果として野生型細胞に匹敵する標的遺伝子改変レベルを示した患者試料において野生型ドナー細胞と同様の比が示された。
【0204】
その後、逆相HPLCを使用して、BCL11A赤血球エンハンサーの改変によりタンパク質レベルでの胎児ヘモグロビンの上昇が見られるかどうかを測定した。
【0205】
2つの実験についてガンマグロビン(Aガンマ及びGガンマのピークの和)/アルファグロビンの比は、胎児グロビンタンパク質の明確な上昇を示し、健常ボランティア及びサラセミア患者由来の赤血球(RBC)で、BCL11AエンハンサーのSB ZFN破壊時に観察された。ただし、サラセミア細胞、特にβ0/β0細胞での未処理のガンマ/アルファ比は、通常、野生型の(wt)細胞の場合をはるかに超える。βサラセミアメジャー患者に由来する細胞における胎児グロビンと成人グロビンとの比の分析は、非改変細胞におけるαグロビンの四量体化及び沈殿によりHPLC分析が可能なプールからαグロビンが除去されてしまうという事実により複雑になる。
【0206】
したがって、αグロビンが残留βグロビンと四量体化したこと(β+サラセミア患者の場合)及びαグロビンがγグロビンと四量体化したこと、またはαグロビンがγグロビンと四量体化したこと(β0/β0細胞の場合)しかアッセイで明らかにできない。したがって、γグロビンタンパク質レベルが上昇する場合、生成的に四量体化したαグロビンタンパク質レベルも上昇し得るので、γ/αグロビンタンパク質比はγグロビンタンパク質レベルの上昇を過小評価させる。野生型細胞で調べるために有用な別の比は、γグロビン/β様タンパク質比であった(後者は、2つのγグロビンタンパク質レベルとδグロビンとβグロビンの和である)。ただし、サラセミア患者細胞、特にβ0/β0細胞では、この比は通常90%超であった、ZFN未処理細胞でも、またZFN処理後のγグロビンタンパク質レベルの実質的な上昇があってもこの比は顕著には上昇しなかった。
【0207】
実施例9:ZFN処理した野生型CD34+細胞における改変アレルの分布と胎児グロビンに対する効果の分析。
また我々は、SB ZFNで処理したCD34+細胞由来赤血球細胞の評価を、2つの主要項目に関して単一細胞レベルで行った:(1)個々の細胞間のZFN作用を評価することによるBCL11A赤血球エンハンサー領域のアレルの分布、及び(2)個々のアレル(野生型及び遺伝子改変型)の分布が胎児グロビンレベルに与える効果(γ/βグロビンmRNA比で評価)。したがって、SB ZFN HSPCに見られる単一CD34+細胞を選別しインビトロで分化させた。得られる単一細胞に由来するヘモグロビン化細胞コロニーを個別に回収した。各コロニーのゲノムDNA(gDNA)を、BCL11A赤血球エンハンサーのSB ZFN標的領域において配列決定し、遺伝子座が破壊されているかどうかを決定し、破壊されている場合、作製されている遺伝子座の正確なアレル型を決定した。さらに、同一のコロニーからトータルRNAを単離し、これらの個々のクローンにおけるグロビン発現レベルをリアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT qPCR)で分析した。
【0208】
方法
単一細胞試験では、トランスフェクションしたSB ZFN HSPC細胞を37℃で解凍し、10mLのX VIVOに室温で加え、450×gにて5分、室温で遠心にかけた。細胞ペレットを、Flt3L、TPO、及びSCF(各100ng/mL)、ペニシリン(100U/mL)、及びストレプトマイシン(100μg/mL)を添加したX VIVO培地に1×106/mLで再懸濁させた。24ウェル組織培養未処理プレート内で37℃、5%CO2にて加湿インキュベーターで一晩培養し、細胞を採取して遠心にかけ、0.5%ウシ血清アルブミンを添加したリン酸緩衝生理食塩液(PBS)に2×106/mLで再懸濁させた。96ウェルU字底TC未処理プレートに入れたステップ1の赤血球培地(200μL/ウェル)内に2細胞/ウェルで細胞を入れ、FACS Aria IIIを使用して選別した。ステップ1の赤血球培地は、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL、5%ヒトAB+血漿、ヒトホロトランスフェリン330μg/mL、ヒトインスリン20μg/mL、ヘパリン2U/mL、組換え型ヒトエリスロポエチン3U/mL、SCF100ng/mL、IL3 5ng/mL、及びヒドロコルチゾン1μM/mLを添加した、Glutamax含有イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)で構成された。ステップ1赤血球培地で37℃、5%CO2で7日間培養後、ウェルあたり150μLの培地を除去し、ステップ2赤血球培地100μLと交換した。この培地は、ステップ1培地と同様であるが、IL3及びヒドロコルチゾンを加えなかった。さらに4日培養後、ウェルあたり100μLの培地を除去し、ステップ3培地100μLと交換した。この培地は、ステップ2培地と同様であるが、SCFを含んでいなかった。
【0209】
分化後14日目、ウェルあたり10μLの細胞懸濁液をディープシークエンシング用に回収した。さらに、ウェルあたり100μLの培地を除去し、100μLの新鮮なステップ3培地と交換した。残存細胞をさらに3日培養し、その時、ウェルあたり50μLの細胞懸濁液を採取して等容量のNucRed(2滴/1mLのPBS 0.5% BSA)で染色し、Guava easyCyteで細胞密度及び脱核率について計数した。残存する細胞を遠心にかけ、PBSで1回洗浄し、20μLの高速液体クロマトグラフィ(HPLC)グレードの水に溶解させた。細胞残渣を遠心分離(10,000×g、15分、4℃)によって除去した。準備ができるまで溶血血液を70℃で保存し、逆相超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)に供してグロビン鎖分析を行った。
【0210】
DNAディープシークエンシングにより遺伝子改変効率を評価した。関心対象領域(BCL11A赤血球エンハンサー領域内にZFN結合部位を含有)をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)増幅させ、改変レベルをIllumina MiSeqを用いたペアエンドディープシークエンシングで決定する。Illumina MiSeq配列決定プラットフォームと適合性のあるライブラリーを作製するため、2セットの融合プライマーを連続ポリメラーゼ連鎖反応で使用してアダプター、バーコード、及びフローセルバインダー(短いDNA配列)を標的特異的アンプリコンに結合させた。以下のプライマーをMiSeq Adaptor PCRに使用する(下線部分は、BCL11A赤血球エンハンサー特異的配列である):
【化3】
個々の単一細胞に由来する赤血球培養物を回収し、QuickExtract(商標)(Epicentre)を使用してgDNAを抽出し、Illuminaプラットフォームでのディープシークエンシングを使用する遺伝子型決定分析に供した。
【0211】
逆相UPLCによるグロビン鎖分析では、Waters Acquity UPLC Protein BEH C4カラム(300A、1.7microm、2.1mm×100mm)に5μLの溶血血液を注入した。38%〜42.5%アセトニトリル含有水及びトリフルオロ酢酸係数0.1%の18分の直線勾配を使用し流量0.2mL/分で室温にて溶出液を得た。溶出液に220nmを照射した。Agilent OpenLABソフトウェアを使用して、特定のグロビン鎖それぞれの量を表す、特定グロビン鎖、γ、βまたはαの面積百分率を定量化した。
【0212】
結果
この試験では、120μg/mlまたは80μg/mlのSB ZFNをCD34+細胞にトランスフェクションしてSB ZFN HSPC細胞を作製し、トランスフェクション後3日目に細胞試料を採取して、ディープシークエンシングによりBCL11A赤血球エンハンサー領域の破壊レベルについて分析した。これにより、実験1ではSB ZFNトランスフェクション試料のBCL11Aアレル約67%が改変され、実験2では58%が改変されたことが明らかになった(表14)。
【0213】
そのような単一細胞分析を実施するため、2つの異なる実験(1及び2)のSB ZFN HSPCの個々の細胞を選別して96ウェルプレートに播種し、インビトロで赤血球に分化させ、個々の単一細胞培養物それぞれを、ハイスループットDNA配列決定ならびにUPLCによるグロビン発現分析で分析した。
【0214】
単一細胞培養物のMiSeq遺伝子型決定結果を表14にまとめている。SB ZFN処理HSPC細胞のロットごとに、200〜300の個々の単一細胞赤血球培養物を分析した。実験1及び実験2それぞれについて、表現型が明らかな全クローン(混合クローンは除外、実験1では205クローン及び実験2では265クローン)のうち、28%または36%は野生型クローン(+/+)、14%または11%はヘテロ接合体クローン(+/)、及び58%または52%はホモ接合体(/)クローンである。SB ZFN処理細胞由来の単一細胞赤血球培養物の全アレルのうち、実験1及び2それぞれ、65%または58%は、BCL11A赤血球エンハンサー遺伝子座で破壊されていた。何らかの改変アレルを持つ単一細胞赤血球培養物すべてのうち、改変細胞クローンの81%(実験1)または82%(実験2)はBCL11Aの両アレルが破壊されていた。
表14:SB ZFNでトランスフェクションしたHSPC由来の単一細胞赤血球培養物の遺伝子型決定
【表14-1】
【表14-2】
【0215】
データは、58〜67%の標的化したBCL11A赤血球エンハンサー改変を担持するSB ZFN HSPCは、28〜36%の野生型細胞、11〜14%の単一アレル改変担持細胞、及び52〜58%の標的遺伝子座両アレル改変担持細胞で構成されていたことを示す。
【0216】
遺伝子型が明らかなクローンのうち、152クローン及び172クローン(それぞれ実験1及び2)は、NucRed染色で測定した脱核率で示されるようにインビトロで赤血球細胞に首尾よく分化した。その後、これらの単一細胞赤血球培養物を逆相UPLC分析に供し、グロビン鎖発現レベルを測定した。各コロニーは、その赤血球成熟の程度が異なっており、同じBCL11A赤血球エンハンサー遺伝子型を持つコロニー内部であっても、γ/βグロビン比のある程度のばらつきは予測された。さらに、BCL11A赤血球エンハンサーの破壊されたアレルの一部は、部分的または完全な機能を保持する場合があり、GATA1結合部位を保持する結果である可能性が高い(Vierstra et al(2015)Nat Methods.12(10):927−30;Canver et al(2015)Nature527(7577):192−7)。
【0217】
データ(
図13)からわかるように、その結果は、BCL11A赤血球エンハンサー遺伝子座のコロニーの遺伝子型とそのγ/βグロビン比との間に明らかな相関があることを示した。具体的には、BCL11Aの両アレル(ホモ接合体)の改変を担持するコロニーでは、実験1及び2の平均正規化γ/β比はそれぞれ35%及び39%であり、単一アレル(ヘテロ接合体の)改変コロニーでは、実験1及び2それぞれの平均正規化γ/β比は19%及び13%、ならびに野生型コロニーでは実験1及び2はそれぞれ14%及び13%であった。ウェルチの補正を用いた両側t検定では、「ホモ接合体−対−野生型」比較のP値は、実験1及び2ともに<0.0001;「ヘテロ接合体−対−ホモ接合体」比較のP値は実験1が<0.0001、実験2が0.0025;及び「ヘテロ接合体−対−野生型」比較のP値は実験1及び2ともにそれぞれ0.02及び0.0002である。下記グラフ(
図13)では、γ/β及びγ/αグロビン比を、被験コロニーすべてについてプロットし、BCL11A赤血球エンハンサーのアレルクラスの遺伝子型決定を行って選別する。
【0218】
本明細書で言及する特許、特許出願及び刊行物はいずれも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0219】
開示は、明瞭な理解を目的とした説明及び実施例で一部が提供されてはいるが、本開示の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく多様な変更及び修正を行うことが可能であることは当業者には明らかとなろう。したがって、上述の記載内容及び実施例により限定されると解釈されるべきではない。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
F1からF4、F1からF5またはF1からF6で表される4つ、5つまたは6つのフィンガーを含み、各フィンガーが標的サブサイトを認識する認識ヘリックス領域を含むジンクフィンガータンパク質であって、前記タンパク質は、
(i)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:STGNLTN(配列番号7)、
F2:TSGSLTR(配列番号5)、
F3:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F4:AQCCLFH(配列番号6)、または
(ii)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:DQSNLRA(配列番号2)、
F2:RPYTLRL(配列番号3)、
F3:SRGALKT(配列番号8)、
F4:TSGSLTR(配列番号5)、
F5:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F6:AQCCLFH(配列番号6)、
(iii)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:DQSNLRA(配列番号2)、
F2:RNFSLTM(配列番号9)、
F3:SNGNLRN(配列番号10)またはSTGNLTN(配列番号7)またはSSYNLAN(配列番号11)、
F4:TSGSLTR(配列番号5)、
F5:DQSNLRA(配列番号2)、及び
F6:AQCCLFH(配列番号6)、または
(iv)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QSGHLAR(配列番号14)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)、
F4:RHRDLSR(配列番号18)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(v)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:RNDHRTT(配列番号19)、
F2:QKAHLIR(配列番号20)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)、
F4:RGRDLSR(配列番号21)またはLKRTLKR(配列番号25)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(vi)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QRAHLTR(配列番号22)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)またはQSGTRNH(配列番号24)、
F4:HRNTLVR(配列番号23)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(vii)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QKAHLIR(配列番号20)、
F3:QKGTLGE(配列番号15)またはQSGTRNH(配列番号24)、
F4:RGRDLSR(配列番号21)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)、または
(viii)以下の認識ヘリックス領域を含むタンパク質:
F1:RSDHLTQ(配列番号13)、
F2:QSGHLAR(配列番号14)、
F3:QSGTRNH(配列番号24)、
F4:QSSDLSR(配列番号16)、及び
F5:RRDNLHS(配列番号17)
からなる群から選択される、前記ジンクフィンガータンパク質。
(項目2)
項目1に記載のジンクフィンガータンパク質及び機能性ドメインを含む、融合タンパク質。
(項目3)
前記機能性ドメインは、転写活性化ドメイン、転写抑制ドメイン、または、切断ドメインである、項目2に記載の融合タンパク質。
(項目4)
項目1〜3のいずれかに記載のジンクフィンガータンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(項目5)
項目2もしくは項目3に記載の融合タンパク質または項目4に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
(項目6)
前記細胞は、幹細胞または前駆細胞である、項目5に記載の細胞。
(項目7)
前記細胞はヒト細胞である、項目6に記載の細胞。
(項目8)
前記細胞のゲノムは融合タンパク質により改変される、項目5〜7のいずれかに記載の細胞。
(項目9)
前記ゲノム改変は、挿入、欠失及びその組み合わせからなる群から選択される、項目8に記載の細胞。
(項目10)
前記ゲノム改変は、BCL11Aエンハンサー配列の+58領域内にある、項目8または9に記載の細胞。
(項目11)
項目5〜10のいずれかに記載の細胞から作製される、細胞または細胞株。
(項目12)
項目5〜11のいずれかに記載の細胞または細胞株に由来する、部分的または完全に分化した細胞。
(項目13)
前記細胞は、ゲノム改変を行わない細胞と比較した場合にガンマ及び/またはベータグロビンの発現増加を示す、項目5〜12のいずれかに記載の細胞。
(項目14)
項目2もしくは項目3に記載の融合タンパク質、項目4に記載のポリヌクレオチド、または項目5〜13のいずれかに記載の細胞を含む、医薬組成物。
(項目15)
細胞の内在性BCL11aエンハンサー配列を改変する方法であって、前記内在性BCL11aエンハンサー配列が改変されるように、項目2もしくは項目3に記載の融合タンパク質または項目4に記載のポリヌクレオチドを、前記細胞に投与することを含む、前記方法。
(項目16)
前記細胞に外来配列を導入し、前記内在性BCL11aエンハンサー配列に前記外来配列が挿入されるようにすることをさらに含む、項目15に記載の方法。
(項目17)
前記改変は欠失を含む、項目15に記載の方法。
(項目18)
対象においてグロビン生成を増加させる方法であって、
前記対象に項目5〜13のいずれかに記載の細胞を投与することを含む、前記方法。
(項目19)
前記対象はヒトであり、前記細胞はヒト幹細胞またはヒト前駆細胞である、項目18に記載の方法。
(項目20)
前記細胞を骨髄移植で投与し、前記細胞は前記対象内で生着し、分化し、かつ成熟する、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記対象は異常ヘモグロビン症に罹患している、項目18〜20のいずれかに記載の方法。
(項目22)
前記異常ヘモグロビン症はベータサラセミアまたは鎌状赤血球症である、項目21に記載の方法。
(項目23)
内在性BCL11Aエンハンサー配列内にゲノム改変を含む遺伝子改変細胞を作製する方法であって、
a)細胞と、項目2または項目3に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドとを接触させ、ここで、前記融合タンパク質は切断ドメインを含み、
b)前記ポリヌクレオチドから前記融合タンパク質の発現が導かれる条件に前記細胞を供し、かつ
c)遺伝子改変細胞を作製するために十分な発現融合タンパク質を用いて前記内在性BCL11Aエンハンサー配列を改変する、各工程を含む、前記方法。
(項目24)
前記細胞を少なくとも1つのサイトカインで刺激することをさらに含む、項目23に記載の方法。
(項目25)
項目1〜3のいずれかに記載のタンパク質、項目4に記載のポリヌクレオチド及び/または項目5〜13のいずれかに記載の細胞を含む、キット。