(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記積層工程では、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物である前記水素含有固体電解質を用い前記第1層を形成すると共に、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物である前記水素含有固体電解質と水酸化リチウムである前記アルカリ水酸化物とを用い前記第2層を形成する、請求項5に記載の複合構造体の製造方法。
前記積層工程では、前記水素含有固体電解質のHのモル数Mhに対する前記アルカリ水酸化物のモル数Maの比であるモル比Ma/Mhが1以上であり、焼成後に残存する前記アルカリ水酸化物が前記水素含有固体電解質から脱水した固体電解質に対して36体積%以下の範囲となる前記第2層を形成する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の複合構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(複合構造体)
本開示の複合構造体は、二次電池のセパレータに用いられる複合構造体であって、固体電解質の緻密層と、固体電解質を含み接合界面を有することなく緻密層と一体で形成された多孔層と、を備えている。この複合構造体は、アルカリ金属イオンを伝導するものとしてもよい。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム及びカリウムなどが挙げられ、このうちリチウムが好ましい。以下には、リチウムイオンを伝導するものについて、主として説明する。
【0013】
複合構造体は、固体電解質を含んでいる。複合構造体における緻密層の固体電解質と多孔層の固体電解質とは、同じ物質であるものとしてもよいし、一部の組成が異なる物質であるものとしてもよいが、同じ物質であることがより好ましい。この固体電解質は、特に限定されないが、酸化物系の無機固体電解質であることが好ましく、例えば、リチウムイオン伝導性を有するガーネット型酸化物などが挙げられる。ガーネット型酸化物は、耐リチウム還元性を有しており、電位窓が広く、より好ましい。ガーネット型酸化物は、LiとLaとZrとを少なくとも含有するものとしてもよい。あるいは、ガーネット型酸化物は、LiとLaとYとを少なくとも含有するものとしてもよい。また、ガーネット型酸化物は、更にLaと異なる元素でありアルカリ土類金属及びランタノイド元素のうち少なくとも1種以上の元素Aと、ZrやYと異なる元素であり酸素と6配位をとることが可能な遷移元素及び第12族〜第15族に属する典型元素のうち少なくとも1種以上の元素Tとを含有するものとしてもよい。更に、ガーネット型酸化物は、AlやGaなどの3価の元素でLiサイトを置換するものとしてもよい。より具体的には、固体電解質は、基本組成(Li
7-3x+y-zM
X)(La
3-yA
y)(Zr
2-zT
z)O
12や、(Li
7-3x+y-zM
X)(La
3-yA
y)(Y
2-zT
z)O
12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0≦z≦2である。ガーネット型酸化物は、Srを含むものとすると、融点が下がり、焼成温度を低下させるなど、焼成エネルギーをより低減することができる。また、Caを含むものとするとリチウムイオン伝導度をより向上することができる。元素Tは、Nbであることが好ましい。Nbを含むものとすると、リチウムイオン伝導度をより高めることができる。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦y≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦z≦0.8を満たすことがより好ましい。
【0014】
ここで、ガーネット型酸化物は、主としてガーネット型の構造を有していればよく、例えば、ガーネット型以外の構造が一部含まれていたり、X線回折のピーク位置がシフトしているなどガーネット型構造からみて歪んだ構造を含むものとしてもよい。また、組成式で示しているが、複合構造体には他の元素や構造などが一部含まれていてもよい。また、「基本組成」とは、元素M,A,Tにはそれぞれ主成分の元素と1以上の副成分の元素を含んでいてもよい趣旨である。なお、ガーネット型リチウムイオン伝導性酸化物の詳細は、例えば、特開2010−202499号公報などに記載されている。
【0015】
また、無機固体電解質としては、例えば、Li
3N、LISICONと呼ばれるLi
14Zn(GeO
4)
4、硫化物のLi
3.25Ge
0.25P
0.75S
4、ペロブスカイト型のLa
0.5Li
0.5TiO
3、(La
2/3Li
3x□
1/3-2x)TiO
3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi
7La
3Zr
2O
12、NASICON型と呼ばれるLiTi
2(PO
4)
3、Li
1.3M
0.3Ti
1.7(PO
3)
4(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li
2S・20P
2S
5(mol%)組成のガラスから得られたLi
7P
3S
11、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi
10Ge
2PS
2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi
2S−SiS
2、Li
2S−SiS
2−LiI、Li
2S−SiS
2−Li
3PO
4、Li
2S−SiS
2−Li
4SiO
4、Li
2S−P
2S
5、Li
3PO
4−Li
4SiO
4、Li
3BO
4−Li
4SiO
4、そしてSiO
2、GeO
2、B
2O
3、P
2O
5をガラス系物質としてLi
2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi
2S−GeS
2系、Li
2S−GeS
2−ZnS系、Li
2S−Ga
2S
2系、Li
2S−GeS
2−Ga
2S
3系、Li
2S−GeS
2−P
2S
5系、Li
2S−GeS
2−SbS
5系、Li
2S−GeS
2−Al
2S
3系、Li
2S−SiS
2系、Li
2S−P
2S
5系、Li
2S−Al
2S
3系、LiS−SiS
2−Al
2S
3系、Li
2S−SiS
2−P
2S
5系などの固体電解質が挙げられる。
【0016】
緻密層は、固体電解質が緻密になった部位であり、例えば、相対密度が90%以上であるものとしてもよい。この緻密層は、相対密度が高いほど好ましく、92%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、98%以上が更に好ましい。相対密度は、固体電解質が空隙を有さないときの密度を100%としたときの相対的な密度として計算される。この相対密度は、焼結助剤を考慮せずに算出するものとする。焼結助剤を考慮せずに算出された相対密度は、これを考慮した場合の相対密度を下回るから、過大評価を防止することができる。この緻密層は、その厚さが2μm以上300μm以下の範囲であるものとしてもよい。この厚さが2μm以上では、電極の短絡をより防止しやすく、300μm以下ではイオンの伝導性をより確保しやすい。この緻密層の厚さは、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上がより好ましく、20μm以上としてもよい。また、この緻密層の厚さは、例えば、200μm以下であることが好ましく、150μm以下がより好ましく、100μm以下としてもよい。緻密層を作製するためには、固体電解質の粒子が10個程度必要であることから、固体電解質の粒子サイズが0.5μmとすると、緻密層は、5μmの厚さで作製可能であり、15μm以上100μm以下の範囲が好ましい
【0017】
多孔層は、緻密層と一体形成された固体電解質に空隙をより多く有する部位である。多孔層は、緻密層との間に接合界面を有しないものとする。この多孔層は、二次電池の電極と接合される層である。多孔層は、緻密層の第1面に形成されているものとしてもよいし、第1面とその裏の第2面とに形成されているものとしてもよいが、第1面と第2面とに形成されていることがより好ましい。複合構造体は、多孔層/緻密層/多孔層の構造を有することが作製の容易性の面からも好ましい。また、この多孔層/緻密層/多孔層の3層構造を有する複合構造体において、緻密層の中央で切断すると、多孔層/緻密層の2層構造を得ることもできる。あるいは、3層構造のうち、1つの多孔層を切削して多孔層/緻密層の2層構造を得ることもできる。の多孔層は、例えば、相対密度が40%以上60%以下の範囲であるものとしてもよい。この相対密度が40%以上では、充放電によって電極から析出したキャリアの金属をこの空隙に十分受け入れることができる。また、相対密度が60%以下では、固体電解質の存在を確保しイオン伝導性の低下をより抑制することができる。この相対密度は、上記緻密層と同様に計算される。また、多孔層は、厚さが2μm以上100μm以下の範囲であるものとしてもよい。この厚さが2μm以上では、充放電によって電極から析出したキャリアの金属をこの空隙に十分受け入れることができる。また、この厚さが100μm以下では、イオン伝導の抵抗をより低減することができる。この多孔層の厚さは、例えば、5μm以上であることが好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上としてもよい。また、この多孔層の厚さは、例えば、80μm以下であることが好ましく、60μm以下がより好ましく、50μm以下としてもよい。
【0018】
この多孔層は、焼結助剤が固体電解質に含まれる成分とが化学反応を伴い蒸散して形成された空隙を有するものとしてもよい。具体的には、多孔層は、水素含有固体電解質とアルカリ水酸化物の焼結助剤とが反応し、水が蒸散して形成された空隙を有するものとしてもよい。この複合構造体では、イオン伝導度を向上させつつ、多孔質を形成することができる。
【0019】
緻密層及び多孔層のうち少なくとも一方には、焼結助剤を含むものとしてもよい。焼結助剤は、固体電解質粒子の粒界部に存在するものとしてもよい。この緻密層及び/又は多孔層には、固体電解質の体積に対して20体積%以下の焼結助剤を含むものとしてもよい。この焼結助剤は、例えば、リチウムイオンの伝導性を有するものがより好ましく、LiとBとを少なくとも含有するものとしてもよい。この焼結助剤は、ホウ酸リチウムであることが好ましい。ホウ酸リチウムとしては、例えば、Li
3BO
3、Li
2B
4O
7、LiBO
2などが挙げられ、このうち、Li
3BO
3(以下、LBOとも称する)がより好ましい。LBOは、固体電解質との反応性がより低いため好ましい。また、焼結助剤としては、酸化アルミニウムや酸化ガリウムなどを用いるものとしてもよい。焼結助剤のAlやGaは、Liを含むガーネット型酸化物のLiサイトに含まれるものとしてもよい。また、このAl又はGaの焼結助剤は、固体電解質の体積に対して5体積%以下含むものとしてもよい。あるいは、焼結助剤としては、焼成により固体電解質に含まれる成分と化学反応しつつ蒸散するものが挙げられる。このような焼結助剤としては、アルカリ水酸化物などが挙げられる。アルカリ水酸化物としては、例えば、Li、Na、Kなどの水酸化物が挙げられ、このうち、水酸化リチウムがより好ましい。アルカリ水酸化物は、イオン伝導性が低いため、緻密層及び多孔層での含有量は、より少ないことが好ましい。アルカリ水酸化物は、固体電解質に対して36体積%以下の範囲で存在することが好ましい。この範囲では、固体電解質粒子同士の接触性の低下をより抑制し、イオン伝導率の低下をより抑制することができる。
【0020】
複合構造体は、例えば、固体電解質が化学焼結することにより、緻密層及び多孔層が形成されているものとしてもよい。化学焼結としては、例えば、水素含有固体電解質とアルカリ水酸化物との脱水反応などが挙げられる。この複合構造体は、電気伝導度(リチウムイオン伝導度,25℃)が0.4×10
-4(S/cm)以上であることが好ましく、1.0×10
-4(S/cm)以上であることがより好ましく、1.5×10
-4(S/cm)以上であることが更に好ましい。この電気伝導度は、焼結助材や、基本組成式の元素M,A,Tの添加割合(x、y、z)や焼成温度を調整することにより、適宜変更することができる。
【0021】
複合構造体は、固体電解質が化学焼結する温度範囲で焼成されていることが好ましい。この焼成温度は、例えば、1100℃以下で焼成されていることが好ましく、1050℃以下で焼成されていることがより好ましく、1000℃以下で焼成されていることが更に好ましい。1100℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。固体電解質を焼結する観点から、この複合構造体は、700℃以上で焼成されていることが好ましく、より好ましくは750℃以上、更に好ましくは800℃以上である。
【0022】
この複合構造体は、リチウム電池に利用することができる。リチウムイオン伝導度がより高いからである。このとき、複合構造体は、例えば、リチウム電池の固体電解質として利用されるものとしてもよいし、リチウム電池のセパレータとして利用されるものとしてもよい。
【0023】
(リチウム電池)
本開示のリチウム電池は、上述した複合構造体を備えている。このリチウム電池は、二次電池としてもよいし、全固体型リチウム電池としてもよい。このリチウム電池は、例えば、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在した上述の複合構造体と、を備えたものとしてもよい。また、このリチウム電池において、複合構造体は、緻密層が正極側に配置され、多孔層が負極側に配置されていることが好ましい。この複合構造体は、緻密層と多孔層の2層構造であるものとしてもよい。このような電池構造では、リチウム金属の析出場である多孔層がリチウム金属の析出しやすい負極側にあり、短絡を抑制可能な緻密層が正極側に配置されるため、より高い短絡防止効果を得ることができる。また、2層構造の複合構造体では、多孔層/緻密層/多孔層の3層構造を用いるものに比して、エネルギー密度の観点からも好ましい。
【0024】
この正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS
2、TiS
3、MoS
3、FeS
2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi
(1-x)MnO
2(0<x<1など、以下同じ)やLi
(1-x)Mn
2O
4などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)CoO
2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)NiO
2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi
(1-x)Ni
aCo
bMn
cO
2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV
2O
3などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV
2O
5などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO
2、LiNiO
2、LiMnO
2、LiV
2O
3などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0025】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は正極と同様のものを用いることができる。
【0026】
このリチウム電池の構造は、特に限定されないが、例えば
図1に示す構造が挙げられる。
図1は、リチウム電池10の構造の一例を示す説明図である。このリチウム電池10は、正極12と、負極15と、セパレータ20とを有する。正極12は、正極活物質層13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質層16と、集電体17とを有する。セパレータ20は、上述した複合構造体であり、多孔層22/緻密層21/多孔層22の多層構造を有する。一方の多孔層22の表面には正極活物質層13が形成され、他方の多孔層22の表面には負極活物質層16が形成されている。このセパレータは、固体電解質粒子23を含み、その粒界に粒界部25が形成されている。粒界部25は、例えば、焼結助剤を含むものとしてもよい。多孔層22には、空隙24が形成されている。この空隙24は、焼結助剤が固体電解質に含まれる成分と化学反応を伴い蒸散して形成されたものとしてもよい。具体的には、空隙24は、水素含有固体電解質とアルカリ水酸化物の焼結助剤とが反応し、水が蒸散して形成されたものとしてもよい。
【0027】
(複合構造体の製造方法)
次に、本開示の複合構造体の製造方法について説明する。この製造方法は、二次電池のセパレータに用いられる複合構造体の製造方法である。この製造方法は、積層体を形成する積層工程と、積層体を焼成する焼成工程とを含む。この製造方法では、セパレータとして用いられる複合構造体を、多孔質化に限界のある溶融焼結ではなく、水素と水酸化物との化学反応を伴う化学焼結によって製造するのである。特に、化学焼結することにより、緻密層を形成すると共に、水の蒸散によって多孔層を同工程で形成することができる。
【0028】
積層工程では、水素含有固体電解質の粉体を充填した第1層と、水素含有固体電解質の粒子とアルカリ水酸化物とを混合した粉体を充填した第2層とを形成し積層体とする処理を行う。第1層が緻密層になり、第2層が多孔層になる。第2層は、第1層の第1面と第2面とのうち少なくとも一方に形成すればよいが、第1面と第2面とに形成することが好ましい。即ち、この工程では、第2層/第1層/第2層の積層体を作製することが好ましい。両面に同じ層があると焼成時の反りなどをより抑制することができ好ましい。なお、積層工程後に3層構造の第1層の中央で分割する処理を行ってもよいし、焼成工程後に3層構造の緻密層の中央で分割する処理を行ってもよい。あるいは、焼成工程後に3層構造のうち1つの多孔層を切削する処理を行ってもよい。この分割処理や切削処理を行えば、多孔層/緻密層の2層構造を得ることもできる。積層工程では、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物である水素含有固体電解質を用い第1層を形成すると共に、LiとHとLaとZrとを少なくとも含有するガーネット型酸化物である水素含有固体電解質と水酸化リチウムであるアルカリ水酸化物とを用い第2層を形成するものとしてもよい。あるいは、この工程では、LiとHとLaとYとを少なくとも含有するガーネット型酸化物を用いてもよい。水素含有固体電解質としては、例えば、基本組成(Li
7-3x+y-z-aH
aM
X)(La
3-yA
y)(Zr
2-zT
z)O
12や、(Li
7-3x+y-z-aH
aM
X)(La
3-yA
y)(Y
2-zT
z)O
12で表されるものを用いるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦x≦0.2、0≦y≦0.2、0≦z≦2、0.9≦a≦2.2を満たすものとする。この基本組成式における水素含有量aが0.9以上では、焼結をより促進することができ、電気伝導度(イオン伝導性)の低下をより抑制することができる。また、水素含有量aが2.2以下では、固体電解質の結晶性の低下をより抑制することによって、電気伝導度の低下をより抑制することができる。また、水素含有固体電解質は、以下のように作製することができる。例えば、水素を含有しないガーネット型酸化物を作製したのち、アルカリ水酸化物(例えば水酸化リチウム)が過剰量になるように加えて、混合、粉砕する。この混合粉砕物を700℃〜900℃の温度範囲で仮焼成し、未反応の原料成分が残存していない状態で水に浸漬させることで、アルカリ金属と水素との交換を行う。このアルカリと水素との交換は、静置だけでなく、たとえば超音波洗浄機により超音波をかけてもよい。また、ガーネット型酸化物に対して水の量を増やしてもよい。浸漬する時間は、30分以上としてもよく、短くしても、長くしてもよい。また、このアルカリ金属と水素との交換の作業を複数回繰り返してもよい。条件を変えることで交換されるH量を制御することができ、H量は0≦a≦2.8の範囲で制御することができる。第1層及び第2層の形成方法は、特に限定されないが、例えば、原料粒子を金型に充填しプレス成形するものとしてもよい。あるいは、原料粒子をペースト状にしてスクリーン印刷してもよいし、ドクターブレード法を採用してもよい。
【0029】
積層工程では、積層体全体に含まれる水素に対して、等モル量以上になるアルカリ水酸化物を第2層に添加することが好ましい。アルカリ水酸化物は、焼成工程において、第1層にも拡散すると推察される。この積層工程では、水素含有固体電解質のHのモル数Mhに対するアルカリ水酸化物のモル数Maの比であるモル比Ma/Mhが1以上となる原料を配合し、第2層とすることが好ましい。このモル比Ma/Mhが1以上では、焼成工程における固体電解質の分解などをより抑制することができ、好ましい。また、アルカリ水酸化物の残存を考慮すると、モル比Ma/Mhは1より大きいことが好ましい。アルカリ水酸化物の残存を考慮すると、このモル比Ma/Mhは、2.5以下であることが好ましい。また、この工程では、第2層において、焼成後に残存するアルカリ水酸化物が水素含有固体電解質から脱水した固体電解質に対して36体積%以下の範囲となる第2層を形成することが好ましい。この範囲では、固体電解質粒子同士の接触を確保することができるため、イオン伝導性の低下をより抑制することができる。残存するアルカリ水酸化物量は、粒界三重点に留まる範囲とするのが好ましい。
【0030】
積層工程では、厚さが2μm以上300μm以下の範囲の第1層を形成すると共に、厚さが2μm以上100μm以下の範囲の第2層を形成するものとしてもよい。緻密層及び多孔層の厚さは、上記複合構造体で説明した範囲に適宜設定することができる。
【0031】
積層工程では、第1層及び/又は第2層において、アルカリ水酸化物以外の焼結助材を添加するものとしてもよい。このような焼結助材としては、例えば、ホウ酸リチウムが挙げられる。このとき、特に、多孔層を形成する第2層には、アルカリ水酸化物及びアルカリ水酸化物以外の焼結助材を含むものとし、緻密層を形成する第1層には、焼結助材(アルカリ水酸化物及びホウ酸リチウムなど)を含まないものとすることが好ましい。焼結助剤がより少ない第1層では、焼結助剤が溶融して粒界へ移動することにより生じる空隙の発生を抑制可能であり、第1層をより緻密な緻密層とすることができる。第1層に要する焼結助材は、第2層に添加するものとしてもよい。焼成工程での加熱により、焼結助材の成分が第2層から第1層へ拡散すると考えられる。また、第2層は、空隙を生じる焼結助剤が多く存在するため、より多孔化を図った多孔層を得ることができる。アルカリ水酸化物以外の焼結助材は、水素含有固体電解質の体積に対して20体積%以下(固体電解質が80体積%以上)の範囲で添加することが好ましい。焼結助材が20体積%以下では、固体電解質粒子同士の接触を確保し、イオン伝導性の低下をより抑制でき、好ましい。この焼結助材の添加量は、1体積%以上が好ましく、2体積%以上がより好ましく、5体積%以上が更に好ましい。また、この焼結助材の添加量は、15体積%以下が好ましく、10体積%以下がより好ましく、8体積%以下が更に好ましい。
【0032】
焼成工程では、水素含有固体電解質とアルカリ水酸化物とが化学焼結する温度で積層体を焼成する。この工程では、固体電解質に含まれる水素と水酸化物とが化学反応して水となり、これが蒸散することにより、空隙が生じ、多孔層の形成が促進される。第1層にアルカリ水酸化物が添加されていない場合、焼成時に第2層に存在するアルカリ水酸化物が拡散することにより、第1層では空隙が生じることなく焼結が進み、緻密層が形成される。この焼成温度は、例えば、1100℃以下が好ましく、1050℃以下がより好ましく、1000℃以下が更に好ましい。1100℃以下の焼成では、焼成エネルギーの低減をより図ることができる。焼結性を確保するため、積層体は、700℃以上、より好ましくは750℃以上、更に好ましくは800℃以上で焼成されることが好ましい。焼成処理は、大気中で行うこともでき、例えば、窒素や希ガスなどの不活性雰囲気としてもよい。焼成時間は、積層体の大きさや組成によって適宜設定すればよいが、例えば、2時間以上としてもよいし、5時間以上としてもよいし、8時間以上としてもよい。また、焼成時間は、エネルギー消費の観点からはできるだけ短い方がよく、24時間以下としてもよいし、12時間以下としてもよいし、10時間以下としてもよい。
【0033】
図2は、複合構造体28の製造方法の説明図であり、
図2Aが第2層形成処理、
図2Bが第1層形成処理、
図2Cが更なる第2層形成処理、
図2Dが焼成後の複合構造体28である。まず、初めに、水素含有固体電解質粒子33と焼結助材粒子34とを所定の配合比で配合した配合粉体を用いて多孔層22となる第2層32を形成する(
図2A)。焼結助材粒子34には、アルカリ水酸化物が含まれている。また、焼結助材粒子34には、ホウ酸リチウムが含まれていてもよい。次に、焼結助材粒子34を含まない水素含有固体電解質粒子33を用い、緻密層となる第1層31を第2層32の上に形成する(
図2B)。続いて、上記配合粉体を用いて多孔層22となる第2層32を第1層31の上に形成し、積層体30を得る(
図2C)。そして、水素含有固体電解質粒子33と焼結助材粒子34(アルカリ水酸化物)とが化学反応し、固体電解質粒子23が焼結助材を含む粒界部25で焼結した複合構造体28を得ることができる。この複合構造体28は、焼結助材の成分が蒸散することにより、空隙24が形成された多孔層22と、空隙24が形成されない緻密層21と、多孔層22とが一体的に形成された構造を有する。このような工程を経て、上述した複合構造体を製造することができる。
【0034】
以上詳述した複合構造体、リチウム電池及び複合構造体の製造方法では、二次電池の内部短絡を防止することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推測される。例えば、この複合体では、金属が析出する析出場を多孔層に確保し、短絡を防止する緻密層とを一体的に形成することによって、イオン伝導性と短絡防止とを両立することができるものと推察される。
【0035】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0036】
以下には、本開示の複合構造体を具体的に作製した例を実験例として説明する。
【0037】
[ガーネット型酸化物の作製]
まず、固体電解質粒子として水素を含有しないLi
6.8(La
2.95Ca
0.05)(Zr
1.75Nb
0.25)O
12(LLZ−CN)を合成した。出発原料には、LiOH(H
2O),La(OH)
3,Ca(OH)
2,ZrO
2,Nb
2O
5を用いた。出発原料を化学量論比となるように秤量し、混合、粉砕した。混合、粉砕は、ジルコニアボールを用い、エタノール中にて遊星ボールミル(300rpm)で1時間行った。その後、仮焼成(700℃、48h)を行った。仮焼成を行った後、粉末に、焼結でのLi欠損を補う目的で、組成中のLiに対して10at%になるようにLiOH(H
2O)を過剰添加した。その後、再び同一条件で混合、粉砕を行った。その後、再び仮焼成(700℃、10h)を行った。上記の仮焼成を二回経た粉末はXRDで結晶相の同定を行い、未反応の原材料の残存が無いことを確認した。その後、このLLZ−CN の粉末を水に浸潰させることで、LiとH の交換を実施した。浸漬の条件はLLZ−CNの4gに対して水50mgの割合で、室温(25℃近傍)にて30分静置することでLiとHとの交換を行った。この条件でLiとHとの交換実施後の組成を分析すると、(Li
5.6,H
1.2)(La
2.95,Ca
0.05)(Zr
1.75,Nb
0.25)O
12であった(LLZ−HCN)。ここで、H量の同定は以下のように行った。まず、H置換後の粉末をTG・DTA−MASS測定にかけ、MASS測定にて試料からH
2O(分子量18)が蒸散する温度域を決定し、その温度域での重量減少量をTgで定量した。LLZ−CNの質量と分子量、蒸散した水の質量と分子量から、LLZ−HCN中に含まれていたH量の原子量を算出した。
【0038】
まず、上記固体電解質粒子(LLZ−CN)を焼結することによりセパレータを作製し、同じ電極を有する対称セルを作製してその短絡について検討した。
図3は、Liの溶解析出試験に用いた対称セル40の説明図である。対称セル40は、セパレータ41と、セパレータ41の第1面及び第2面に形成された蒸着層42と、蒸着層42の上に圧着されたLi電極43とを備える。セパレータ41は、LLZ−CNをLBOで溶融焼結させた焼結体である。この対称セル40は、セパレータ41の第1面及び第2面にLi金属を蒸着させた蒸着層42を形成し、その上にLi電極としてのLi金属箔を圧着することにより作製された。セパレータは、LLZ−CNを89体積%、焼結助剤としてLBOを10体積%、並びにA1
2O
3を1体積%秤量し、直径11.28mm、厚さ約1.2mmにプレス成型したのち、大気中800℃で焼結させて作製した。この対称セル40を用いて、溶解析出試験を行った。
図4は、対称セルに対して連続的に単位面積あたりの電流を増加させる溶解析出試験の結果図である。溶解析出試験では、Li電極にBiologic社製VMP3ガルバノスタットを接続し、連続的に単位面積あたりの電流を増加させたときの電位変化を測定した。
図4に示すように、電流の増加に伴い、電位は負側に増加したが、ある電流密度を超えると、Li基準の電位が0Vになり、電極の短絡が確認された。
図5は、金属析出のモデル図(
図5A〜D)及び固体電解質からなるセパレータの走査型電子顕微鏡(SEM)写真(
図5E)である。SEM観察は、日立ハイテクノロジーズ社製S−3600Nを用いて2000〜5000倍の条件で行った。
図5A〜Dに示すように、電流を対称セルに印加すると、セパレータの内部にある空隙にLi金属の析出が起きる。この析出したLi金属が空隙を介して成長し、Li電極同士が短絡するものと推察された。即ち、焼結助材を溶融することにより粒子を固定する溶融焼結では、
図5Dに示すように、セパレータの内部全体に空隙が存在するため、Li金属の成長と短絡が生じると推察された。
【0039】
ここで、この短絡の防止策について検討した。均一な組成で固体電解質粒子と焼結助材とを混合して作製したセパレータ内部には、焼結助材が粒界に分散することにより空隙が生じる。この空隙を消滅させることは困難である。一方で、電極の内部短絡防止には、空隙のない緻密層の存在が必要である。そこで、無機固体電解質によるセパレータには空隙が生じることを許容し、その空隙を第1面側及び第1面と反対の第2面側に偏析させ、中央部分に緻密層を形成することを想定した。また、空隙には、析出したLi金属を収容するバッファとして機能することを考慮し、第1面及び第2面側に更に多くの空隙を生成させることを想定した。更に、例えば、蒸散する焼結助材によれば、空隙がより存在する多孔層を第1面及び第2面側に形成することができると予想した。
【0040】
次に、セパレータの多孔化について検討した。焼結助材としてLBO及びAl
2O
3を用いるほか、多孔化を図る焼結助材を検討した。ここでは、水酸化リチウムを焼結助材として検討した。
図6は、焼結助剤の組成と空隙率との関係図である。相対密度は、固体電解質が空隙を有さないときの密度を100%としたときの相対的な密度として計算した。この相対密度は、焼結助剤を考慮せずに算出した。LLZ−CNにLBOを10体積%及びAl
2O
3を1体積%加えたものを800℃、24hで焼結させ、得られた焼結体を実験例1とした。また、LLZ−HCNにLBOを8体積%、LiOHを18体積%加えたものを800℃、24hで焼結させ、得られた焼結体を実験例2とした。ここでは、下記の式(1)の反応が起きることを想定し、原料を選択した。
図6下段に示したように、実験例1の焼結体では、空隙が14体積%(相対密度86%)確認された。これは、含まれるLBO粒子が粒界へ移動することにより、LBO粒子の存在位置に空隙が生じるものと推察された。また、
図6上段に示すように、実験例2の焼結体では、空隙が23体積%(相対密度77%)確認された。このように、LiOHとLLZ−HCNとを用いると、LiOHと水素とが反応して生成したH
2Oが蒸散し、空隙を増加することができることがわかった。
(Li
5.4H
1.5)(La
2.95Ca
0.05)(Zr
1.4Nb
0.6)O
12+LiOH
→(Li
6.8)(La
2.95Ca
0.05)(Zr
1.4Nb
0.6)O
12 +H
2O↑ …式(1)
【0041】
また、実験例1,2の電気伝導度(イオン伝導度)を測定した。電気伝導度の測定は、以下の条件で行った。恒温槽中にてACインピーダンスアナライザー(Agilent4294A)を用い、周波数40Hz〜110MHz、振幅電圧100mVの条件で、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から電気伝導度を算出した。ACインピーダンスアナライザーで測定する際のブロッキング電極にはAu電極を用いた。Au電極は市販のAuペーストを800℃、30分の条件で上記焼結体の表面に焼き付けることで形成した。
図7は、焼結助剤の組成及び空隙率と電気伝導度との関係図であり、
図7Aが実験例1、
図7Bが実験例2である。
図7Bに示すように、LiOHを焼結助材として用いた実験例2では、25℃での電気伝導度は2.2×10
-4S/cmを示し、1.6×10
-4S/cmである実験例1に比して1.4倍の値であり、電気伝導度が向上することがわかった。特に、実験例2では、粒界抵抗Rgbは27%であり、実験例1の36%に比してその減少が顕著であり、固体電解質粒子同士の結合促進が示唆された。
【0042】
ここで、LLZ−HCNの水素含有量について検討した。基本組成(Li
7-3x+y-z-aH
aM
X)(La
3-yA
y)(Zr
2-zT
z)O
12で表されるガーネット型酸化物において、x=0、A=Ca、T=Nb、y=0.05、z=0.6とし、0.5≦a≦2.5の範囲で水素含有量aを変えてガーネット型酸化物(固体電解質)の焼結体を作製した。焼結体の作製条件は、H量と等モルのLiOHを焼結助材として添加した原料を用い、大気中、800℃、24時間の焼成処理とした。作製した焼結体の電気伝導度(イオン伝導度)を上述と同様の条件で測定した。その測定結果では、水素含有量aは、0.9≦a≦2.2の範囲のときに25℃での電気伝導度が高く好ましかった。測定結果では、上記範囲外では電気伝導度がより低い値を示した。水素含有量aが0.9よりも少ない場合には、焼結を促進するための化学反応が弱かったため電気伝導度が低下したものと推察された。また、水素含有量aが2.2よりも多い場合には、XRD測定の結果に基づくと、LLZの結晶性が大きく低下したため、電気伝導度が低下したものと推察された。
【0043】
次に、多孔層/緻密層/多孔層の複合構造体を作製することを検討した。この複合構造体は、焼結助材としてのLiOHを傾斜配合させることにより作製した。まず、LLZ−HCN粒子を64体積%、焼結助材としてのLBOを11体積%、LiOHを24体積%、添加剤としてのAl
2O
3粒子を1体積%秤量して混合し、層状に形成した(第2層)。この第2層の厚さは400μmとした。次に、LLZ−HCN粒子を98体積%、添加剤としてのAl
2O
3粒子を2体積%秤量して混合し、第2層の上に層状に形成した(第1層)。この第1層の厚さは400μmとした。この第1層の上に上記第2層を更に形成し、積層体を得た(実験例3)。この積層体を大気中において、化学焼結する800℃で24時間焼成した。この焼成時に、第2層に存在するLiOHやLBOが第1層側に拡散し、焼結を促進する。
図8は、多孔層/緻密層/多孔層である複合構造体の原料の体積分率及び焼結後のSEM写真である。
図8のSEM写真に示すように、多孔層/緻密層/多孔層の複合構造体を作製することができた。次に、得られた複合構造体の多孔層を切り出し、体積と質量から密度を求めた。また、緻密層を切り出し、体積と質量から密度を求めた。そして、LLZ−CNの真密度を100%として、多孔層及び緻密層の相対密度を求めた。
図9は、多孔層/緻密層/多孔層である複合構造体のSEM写真の詳細である。
図9に示すように、実験例3の複合構造体は平均相対密度が67%、多孔層の相対密度が61%、緻密層の相対密度が95%であった。また、この実験例3の電気伝導度は、25℃において2.4×10
-4S/cmであった。
【0044】
次に、実験例3の複合構造体を用いて対称セルを作製し、Li溶解析出試験を行った。
図10は、多孔層/緻密層/多孔層である複合構造体の溶解析出試験結果である。
図10に示すように、内部短絡は確認されなかった。また、単位面積あたりの電流が0.7mA/cm
2を超えると、抵抗が増大する挙動が認められた。これは、試験後の複合構造体の断面のSEM写真に示すように、多孔層の空隙にLi金属が析出しているものと推察された。即ち、多孔層によって、析出したLi金属を吸収し、複合構造体の構造破壊などを抑制できるものと推察された。更に、Li溶解析出試験を行った複合構造体のインピーダンス測定を行った。
図11は、Li溶解析出試験を行った複合構造体のインピーダンス測定結果である。
図11に示すように、Li溶解によると推定される大きな抵抗は確認されたが、短絡は確認されなかった。このように、多孔層/緻密層/多孔層である複合構造体では、金属が析出する析出場を多孔層に確保し、短絡を防止する緻密層とを一体的に形成することによって、イオン伝導性と短絡防止とを両立することができることがわかった。
【0045】
なお、本開示の複合構造体、リチウム電池及び複合構造体の製造方法は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。