特許第6873978号(P6873978)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6873978多能性幹細胞の遺伝子の完全性を評価するための非侵襲的方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873978
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の遺伝子の完全性を評価するための非侵襲的方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20210510BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20210510BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20210510BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20210510BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20210510BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20210510BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20210510BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   C12Q1/6851 Z
   C12Q1/6827 Z
   C12Q1/6869 Z
   C12N5/074
   C12N5/0735
   C12N5/10
   !A61K35/545
   !A61L27/38 100
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】5
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-512901(P2018-512901)
(86)(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公表番号】特表2018-526018(P2018-526018A)
(43)【公表日】2018年9月13日
(86)【国際出願番号】EP2016071256
(87)【国際公開番号】WO2017042309
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2019年9月5日
(31)【優先権主張番号】15306389.6
(32)【優先日】2015年9月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511074305
【氏名又は名称】インセルム(インスティチュート ナショナル デ ラ サンテ エ デ ラ リシェルシェ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】515085211
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド モンペリエ
(73)【特許権者】
【識別番号】516165701
【氏名又は名称】センター ホスピタリエ ユニバーシタイア ド モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】デ ヴォス,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】アス,セド
(72)【発明者】
【氏名】ジロー,ニコラ
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/202696(WO,A1)
【文献】 Nature Biotechnology,2011年,vol.29,no.4,p.313-314
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00 −5/28
C12Q 1/00 −3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞の質を判定するための下記の工程を含むインビトロ非侵襲的方法:i)幹細胞が増殖している培養試料を用意する、ii)該培養試料の上清から核酸を抽出する、そしてiii)核酸抽出物における下記の表1:
[表1]
から選択される少なくとも1つのハイパーリカレント配列の中の少なくとも1つの遺伝子異常の存在および/またはレベルを判定する。
【請求項2】
遺伝子異常をPCRにより検出する、請求項に記載の方法。
【請求項3】
PCRがディジタルドロップレットPCRである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
遺伝子異常を次世代シーケンシングにより検出する、請求項に記載の方法。
【請求項5】
遺伝子異常をマイクロアレイ解析により検出する、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的に再生医療の分野に関する。より具体的には、本発明は多能性幹細胞の質を判定するための非侵襲的な方法およびキットに関する。より具体的には、本発明は培養多能性幹細胞の遺伝子の完全性(integrity)を評価するための非侵襲的な方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞(human pluripotent stem cell)(hPSC)の研究は、身体の多様な細胞タイプに影響を及ぼす疾患の理解および処置を移植用のヒト細胞の作製により補助するための、かつ薬物探査を可能にするための、新規ツールを提供する。PSC(廃棄された胚の内部細胞塊(inner cell mass)から単離されたもの、すなわちヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell)(hESC)、または分化した細胞から誘導されたもの、すなわち人工(誘導)多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell)(iPSC))は急速に増殖する驚異的な能力をもつ。実用レベルで、これは数千個、さらには数十万個の療法用細胞量を調製するのに十分な細胞を1つの細胞系から作製できることを意味する。hESCの分化誘導細胞を用いる幾つかの臨床試験が既に行なわれ、あるいは現在行なわれている:Geron Corporation(NCT01217008)はhESC由来の乏突起神経膠細胞の安全性を脊髄損傷患者において試験した。Advanced Cell Technology(ACT)は、hESC由来の網膜色素上皮(retinal pigment epithelial)(RPE)細胞療法の安全性を、シュタルガルト黄斑ジストロフィー(Stargardt's Macular Dystrophy)(SMD)(USA治験:NCT01345006;UK治験:NCT01469832;韓国治験:NCT01625559)について、および委縮型(ドライ型)加齢黄斑変性(Dry Age-Related Macular Degeneration)(USA治験:NCT01344993;韓国治験:NCT01674829)について試験した。Viacyteは、インスリン産生細胞の安全性および有効性をI型糖尿病の被験者において試験中である(USA治験:NCT02239354)。Philippe Menascheは、重篤な心不全においてヒト胚性幹細胞由来の前駆細胞を移植する試験を開始した(NCT02057900)。Pfizer(NCT01691261)は、進行シュタルガルト病を伴う患者を治療するためにhESCから誘導された移植網膜細胞を使用することの安全性を調べている。最後に、日本で最近開始された、理研の高橋政代により行なわれている試験は、滲出型(湿潤型)加齢黄斑変性(AMD)を伴う患者において自己人工多能性幹細胞(iPSC)由来の網膜色素上皮(RPE)細胞シートの移植の安全性を調べている。
【0003】
これらの臨床試験はすべて、生物医学的可能性は膨大であるが、解決すべき幾つかの実際問題が残っていることを明らかにしている。最大関心事のひとつは遺伝子異常(genetic abnormality)である。
【0004】
遺伝子異常はhPSCを再生医療に使用するための重大な関心事である。hPSCクローンが遺伝子異常を示せば、これらの細胞およびそれらの分化した子孫は正常な成体組織生理を忠実に再現できない可能性があり、臨床現場でこれらの細胞を使用することに対する脅威になる可能性すらある。よって、そのような細胞における遺伝子異常の原因および程度を判定することが必須である。遺伝子異常(genetic aberration)は2カテゴリー、すなわち細胞培養により誘導されたものと細胞リプログラミングプロセスにより誘導されたものに分類できる。
【0005】
ヒトESCは誘導時点では正常核型(karyotypically normal)である;しかし、細胞培養中に異数体(aneuploid)hESCクローンが出現する可能性がある。2004年以来、未分化hPSCを増幅させるために用いる培養条件が染色体の安定性に対して著しい影響をもつことが幾つかの試験によりレポートされた。そのような染色体異常はしばしば反回性(recurrent)である。染色体12(最も頻繁に12p)、17(特に17q)、20またはXの増加が、標準的な細胞遺伝学的方法(Gバンド法(G-banding))を用いてしばしば検出された(Draper et al., 2004)。1163の核型を解析した40のhESC系列の広範な試験により、hESC培養物の12.9%が染色体異常を示したと結論された(Taapken et al., 2011)。過去5年間にわたり、アレイベースの技術(仮想核型(virtual karyotype)とも呼ばれる)でゲノム変化の検出の解像度が改善された。アレイベースの比較ゲノムハイブリダイゼーション(Array-based comparative genomic hybridization)(aCGH)または一塩基多型(SNP)−アレイにより、小サイズのゲノム異常の同定が可能になり、hPSCにおけるDNA変化の頻度はそれまで考えられていたものよりはるかに高い可能性があることすら明らかになった(Laurent et al., 2011; Narva et al., 2010)。これらの小サイズの染色体変化のうち、染色体20q11.21の位置における反回性のコピー数バリアント(copy number variant)(CNV)が同定された(Lefort et al., 2008; Spits et al., 2008)。この20q11.21領域は多様な癌においても増幅される。さらに、20q11.2の獲得が子宮頚癌の初期に起きることが示された。点変異も適応プロセスに関与する。より最近になって、全エキソームまたは全ゲノムのリシーケンシング(re-sequencing)が、hPSCにおける一塩基対変異を同定するためのこれまで例のない解決策を提供した(Cheng et al., 2012; Funk et al., 2012; Gore et al., 2011)。細胞リプログラミングによるiPSの作製は他の潜在的な変異源につながる。CGHマイクロアレイ(Martins-Taylor and Xu, 2010; Pasi et al., 2011)、SNPマイクロアレイ(Hussein et al., 2011; Laurent et al., 2011)、または次世代シーケンシング法(Gore et al., 2011; Ji et al., 2012)の使用による詳細な解析は、より微細な異常、たとえばコピー数バリエーション(CNV)および変異が当初考えられていたより高い頻度でiPS細胞において起きることを示唆する。しかし、細胞リプログラミングにより誘導される変異の厳密な負荷は大きく論争されている(Bai et al., 2013)。それにもかかわらず、hiPSは細胞培養中に遺伝子変化を蓄積する可能性もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Draper, J. S., Moore, H. D., Ruban, L. N., Gokhale, P. J., Andrews, P. W., 2004. Culture and characterization of human embryonic stem cells. Stem Cells Dev. 13, 325-36
【非特許文献2】Taapken, S. M., Nisler, B. S., Newton, M. A., Sampsell-Barron, T. L., Leonhard, K. A., McIntire, E. M., Montgomery, K. D., 2011. Karotypic abnormalities in human induced pluripotent stem cells and embryonic stem cells. Nat Biotechnol. 29, 313-4
【非特許文献3】Laurent, L. C., Ulitsky, I., Slavin, I., Tran, H., Schork, A., Morey, R., Lynch, C., Harness, J. V., Lee, S., Barrero, M. J., Ku, S., Martynova, M., Semechkin, R., Galat, V., Gottesfeld, J., Izpisua Belmonte, J. C., Murry, C., Keirstead, H. S., Park, H. S., Schmidt, U., Laslett, A. L., Muller, F. J., Nievergelt, C. M., Shamir, R., Loring, J. F., 2011. Dynamic changes in the copy number of pluripotency and cell proliferation genes in human ESCs and iPSCs during reprogramming and time in culture. Cell Stem Cell. 8, 106-18
【非特許文献4】Narva, E., Autio, R., Rahkonen, N., Kong, L., Harrison, N., Kitsberg, D., Borghese, L., Itskovitz-Eldor, J., Rasool, O., Dvorak, P., Hovatta, O., Otonkoski, T., Tuuri, T., Cui, W., Brustle, O., Baker, D., Maltby, E., Moore, H. D., Benvenisty, N., Andrews, P. W., Yli-Harja, O., Lahesmaa, R., 2010. High-resolution DNA analysis of human embryonic stem cell lines reveals culture-induced copy number changes and loss of heterozygosity. Nat Biotechnol. 28, 371-7
【非特許文献5】Lefort, N., Feyeux, M., Bas, C., Feraud, O., Bennaceur-Griscelli, A., Tachdjian, G., Peschanski, M., Perrier, A. L., 2008. human embryonic stem cells reveal recurrent genomic instability at 20q11.21. Nat Biotechnol. 26, 1364-6
【非特許文献6】Spits, C., Mateizel, I., Geens, M., Mertzanidou, A., Staessen, C., Vandeskelde, Y., Van der Elst, J., Liebaers, I., Sermon, K., 2008. Recurrent chromosomal abnormalities in human embryonic stem cells. Nat Biotechnol. 26, 1361-3
【非特許文献7】Cheng, L., Hansen, N. F., Zhao, L., Du, Y., Zou, C., Donovan, F. X., Chou, B. K., Zhou, G., Li, S., Dowey, S. N., Ye, Z., Chandrasekharappa, S. C., Yang, H., Mullikin, J. C., Liu, P. P., 2012. Low incidence of DNA sequence variation in human induced pluripotent stem cells generated by nonintegrating plasmid expression. Cell Stem Cell. 10, 337-44
【非特許文献8】Funk, W. D., Labat, I., Sampathkumar, J., Gourraud, P. A., Oksenberg, J. R., Rosler, E., Steiger, D., Sheibani, N., Caillier, S., Stache-Crain, B., Johnson, J. A., Meisner, L., Lacher, M. D., Chapman, K. B., Park, M. J., Shin, K. J., Drmanac, R., West, M. D., 2012. Evaluating the genomic and sequence integrity of human ES cell lines; comparison to normal genomes. Stem Cell Res. 8, 154-64
【非特許文献9】Gore, A., Li, Z., Fung, H. L., Young, J. E., Agarwal, S., Antosiewicz-Bourget, J., Canto, I., Giorgetti, A., Israel, M. A., Kiskinis, E., Lee, J. H., Loh, Y. H., Manos, P. D., Montserrat, N., Panopoulos, A. D., Ruiz, S., Wilbert, M. L., Yu, J., Kirkness, E. F., Izpisua Belmonte, J. C., Rossi, D. J., Thomson, J. A., Eggan, K., Daley, G. Q., Goldstein, L. S., Zhang, K., 2011. Somatic coding mutations in human induced pluripotent stem cells. Nature. 471, 63-7
【非特許文献10】Martins-Taylor, K., Xu, R. H., 2010. Determinants of pluripotency: from avian, rodents, to primates. J Cell Biochem. 109, 16-25
【非特許文献11】Pasi, C. E., Dereli-Oz, A., Negrini, S., Friedli, M., Fragola, G., Lombardo, A., Van Houwe, G., Naldini, L., Casola, S., Testa, G., Trono, D., Pelicci, P. G., Halazonetis, T. D., 2011. Genomic instability in induced stem cells. Cell Death Differ. 18, 745-53
【非特許文献12】Hussein, S. M., Batada, N. N., Vuoristo, S., Ching, R. W., Autio, R., Narva, E., Ng, S., Sourour, M., Hamalainen, R., Olsson, C., Lundin, K., Mikkola, M., Trokovic, R., Peitz, M., Brustle, O., Bazett-Jones, D. P., Alitalo, K., Lahesmaa, R., Nagy, A., Otonkoski, T., 2011. Copy number variation and selection during reprogramming to pluripotency. Nature. 471, 58-62
【非特許文献13】Ji, J., Ng, S. H., Sharma, V., Neculai, D., Hussein, S., Sam, M., Trinh, Q., Church, G. M., McPherson, J. D., Nagy, A., Batada, N. N., 2012. Elevated coding mutation rate during the reprogramming of human somatic cells into induced pluripotent stem cells. Stem Cells. 30, 435-40
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
いかなるDNA変異も悪性トランスフォーメーションプロセスにおけるステップとなる可能性があるので、これらの遺伝子異常は強い関心事である。さらに、ある異常は反回性が高く、それは細胞生存、細胞増殖または分化妨害の増強により仲介される強い選択圧を示唆する。これらの機能性修飾はPSCの悪性トランスフォーメーションしやすさを増大させ、期待されるそれらの療法特性を変化させる可能性がある。
【0008】
多能性幹細胞のDNAの完全性は主に核型解析により評価される。古典的な核型判定法の明らかな解像限界を克服するために、他のアプローチ、たとえばCGHアレイまたはSNPマイクロアレイが試験された;しかし、実際に危惧される発癌の可能性がある変異とPSCの生物学的挙動に何らかの影響を及ぼす可能性がないかまたはほとんどないDNA修飾あるいは単なる多型とを識別するために用いる方法についてのコンセンサスはない。DNAシーケンシング技術およびそれらの解像(一塩基解像における全ゲノムマップ)はきわめて急速に改善されつつあり、それらの価格は急速に低下しているので、いつかはPSCのルーティン解析が全ゲノムシーケンシングに依存することになるであろうと予想できる。しかし、これらの手法にはそれぞれ強い制限がある。たとえば、古典的な核型判定法は時間がかかり、細胞遺伝学者を養成する必要があり、かつ5Mb未満の長さの異常を検出することはできない。マイクロアレイベースのアプローチは、解析に専念するコア施設およびバイオインフォマティクス専門家を必要とする。最後に、ハイスループットシーケンシング法、たとえばNGSはまだこの用途に最適化されておらず、データを処理するのに必要な時間が長く、かつ同様にバイオインフォマティクス専門家を必要とする。
【0009】
したがって、hPSCにおける大部分の反回性異常を検出できる迅速で安価な非侵襲的(細胞を破壊しない)方法に対する強いニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、多能性幹細胞の質を判定するための非侵襲的な方法およびキットに関する。
本発明はまた、培養多能性幹細胞の遺伝子の完全性を評価するための非侵襲的な方法およびキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1:ワークフローの模式図。培養hPSCを定性するための上清のゲノム解析の想定使用。hPSC上清を採集し、総cfDNAを抽出する。次いでPCRを実施する。結果を次いでバイオインフォマティクスにより解析して、cfDNA中のバイオマーカーを検出する。
図2図2:SEAdbにおいて収集されたhPSC遺伝子異常の反回。色勾配:# 試験;バブルサイズ:ゲノム領域の長さ;Y:反回性スコア(recurrence score);X:染色体。
図3図3:最多遺伝子変化>1Mbを宿している21の染色体について、表1の40セットの配列(Sondes:S1−S40)が染色体異常の93,5%に及ぶ。
図4図4:hPSC上清試料中のcfNAの検出および定量。2つのhPSC上清において、対照としてヒト包皮線維芽細胞(foreskin fibroblast)由来のDNAを5種類の濃度(330pg、110pg、13pg、3.3pgおよび0.33pg)で用いて、ヒトALUリピート配列増幅を評価した。qPCR実験をRoche LC480で実施した。各サイクルで蛍光を取得し、サイクル数に対してプロットした。測定した蛍光量の増加は、反応中に生成したPCR生成物の量に比例する。hPSCにおけるcfNAの測定濃度は330pg〜110pgである。
図5図5:上清ベースのトリソミー(trisomy)20の検出。A.2つのhPSC系列における代表的な異常核型:HD291(47,XY,+12)(左パネル)およびHD129(47,XY,+20)(右パネル)。B.トリソミー20にのみ特異的なハイパーリカレント配列(高反回配列)(hyper-recurrent sequence)を用いる、2つのhPSC系列およびそれらの上清におけるトリソミー20のddPCR定量。厳密な三重ウェルを用いたコピー数プロットにより、異常なhPSC細胞HD129およびそれらの上清にのみトリソミー20の存在が明らかになったが、HD291には存在しなかった。QuantaSoft(商標) ソフトウェアにより作成したすべてのエラーバーは95%信頼区間を表わす。
図6図6:高感度QX200システムにより、特異的ハイパーリカレント配列を用いるhPSC上清中のトリソミー20の定量が可能になる。試料濃度をコピー数/μlとしてプロットする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
自己複製(self-renewal)によって永続するけれども分化して特定組織の成熟細胞になることができる多能性幹細胞(PSC)は、再生医療の鍵となるツールである。再生医療は、損傷または罹患した細胞、組織および臓器を身体が修復、置換、復元および再生するのを可能にする革新的医療についての幅広い定義である。しかし、細胞培養は、幹細胞の特性を変化させるかあるいはそれらに腫瘍形成の素因をもたらす可能性のあるエピジェネティック異常および遺伝子異常を生じる可能性がある。PSCの臨床使用が急速に拡大するのに伴って、細胞増殖中およびバッチをリリースする前の多能性幹細胞(PSC)を特性判定するためのツールを改良する好機である。
【0013】
本発明者らは、ヒト多能性幹細胞(hPSC)において培養におけるhPSC不安定性のバイオマーカーである一組の“ハイパーリカレント配列”を決定し(表1)、培養中および臨床使用前に幹細胞をルーティンに評価するために使用できる迅速かつ実施しやすい試験を提唱する。
【0014】
表1:40のハイパーリカレント配列のリスト
位置はhuman genome build 37(GRCh37/hg19)に基づく増幅の5’末端を表わす
【0015】
【表1】
【0016】
したがって、本発明は、多能性幹細胞の質を判定するための下記の工程を含むインビトロ非侵襲的方法に関する:i)多能性幹細胞が増殖している培養試料を用意する、ii)試料から核酸を抽出する、そしてiii)核酸抽出物における少なくとも1つの遺伝子異常の存在および/またはレベルを判定する。
【0017】
本明細書中で用いる用語“多能性幹細胞”または“PSC”は、それの一般的な意味をもち、人体のいずれかの細胞に分化できる多能性細胞、たとえば胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)を表わす。用語“多能性”は、必ずしもすべての細胞タイプにではないが多種多様な細胞タイプの1つに分化できる細胞を表わす。本発明に用いる細胞には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:心筋細胞およびその前駆細胞;神経前駆細胞;膵ランゲルハンス島細胞、特に膵β−細胞;造血幹細胞および前駆細胞;間葉幹細胞;ならびに筋サテライト細胞。本発明の方法は多能性幹細胞に適用できるが、他の幹細胞、生殖細胞または体細胞(たとえば、間葉幹細胞(mesenchymal stem cell)(MSC)、卵母細胞、胚、線維芽細胞など)にも適用できる。
【0018】
“多能性幹細胞の質を判定する”とは、本発明の方法は多能性幹細胞が再生医療に関係する遺伝子異常または特定の配列を保有するかどうかの判定を目的とすることを意味するものとする。本発明の方法は、培養多能性幹細胞の遺伝子の完全性および遺伝子の安定性の評価を可能にする。
【0019】
本明細書中で用いる用語“遺伝子異常(genetic abnormality)”は、個体および多能性幹細胞のゲノムに存在する可能性があるいずれかの事象であって、表現型疾患(phenotypic disease)および致死を引き起こす可能性があるものを表わす。遺伝子異常には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:トリソミー(trisomy)、トランスロケーション、クアドリソミー(quadrisomy)、異数性、部分的異数性、モノソミー(monosomy)、核型異常、イソ二動原体染色体(isodicentric chromosome)、イソ染色体、反転、挿入、重複、欠失、コピー数バリエーション(copy number variation)(CNV)、染色体トランスロケーション、一塩基バリエーション(Single nucleotide variation)(SNV)、およびヘテロ接合性の喪失(Loss of heterozygosity)(LOH)。一般に、用語“遺伝子異常”は、たとえば表1に記載したハイパーリカレント配列を表わす。
【0020】
用語“培養試料”は、培養上清、培地、および培養物に懸濁している細胞を表わす。
本明細書中で用いる用語“核酸”は、当技術分野におけるそれの一般的な意味をもち、コーディングまたは非コーディング核酸配列を表わす。核酸にはDNA(デオキシリボ核酸)およびRNA(リボ核酸)が含まれる。よって、核酸の例にはDNA、mRNA、tRNA、rRNA、tmRNA、miRNA、piRNA、snoRNA、およびsnRNAが含まれるが、これらに限定されない。用語“核酸”は、遊離核酸(free nucleic acid)(fNA)(細胞の核または細胞のミトコンドリアコンパートメントに由来するもの)、たとえばセルフリーDNA、遊離RNA分子、マイクロRNA、および長い非コーディングRNAにも関係する。“遊離核酸”とは、核酸が多能性幹細胞により放出され、多能性幹細胞が増殖している培地中に存在することを意味するものとする。
【0021】
遊離した細胞核酸を調製試料から抽出するために、当業者は当技術分野で周知のいずれかの方法を使用できる。たとえば、実施例に記載する方法を使用できる。
特定の態様において、本発明の方法は下記の工程を含む:i)核酸抽出物における少なくとも1つのハイパーリカレント配列の存在を判定する、そしてii)少なくとも1つのハイパーリカレント配列が検出された場合、その多能性幹細胞が遺伝子異常を保有すると結論する。
【0022】
一般に、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40のハイパーリカレント配列を表1から選択できる。
【0023】
核酸抽出物におけるハイパーリカレント配列の存在およびレベルの判定は、当技術分野で周知の多様な手法により実施できる。特定の態様において、核酸抽出物におけるハイパーリカレント配列の存在およびレベルを判定するためにドロップレットディジタルPCR(droplet digital-PCR)“ddPCR”を実施できる。ddPCRは、その際に用いられる方法またはデバイスであって、上清または培地中におけるDNA配列の定量を可能にするものを表わす。
【0024】
核酸抽出物におけるハイパーリカレント配列の存在およびレベルの判定は、Fluidigm、定量PCR、ハイスループット ペアエンド(paired-end)シーケンシング、次世代シーケンシング、およびキャピラリー電気泳動などの手法により実施することもできる。
【0025】
核酸、特にDNAまたはmRNA中におけるハイパーリカレント配列を検出するための代表的方法には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:制限酵素断片長多型、ハイブリダイゼーション法、シーケンシング、エキソヌクレアーゼ抵抗、マイクロシーケンシング、ddNTPを用いる固相伸長、ddNTPを用いる溶液中での伸長、オリゴヌクレオチドアッセイ、一塩基多型を検出するための方法、たとえば動的対立遺伝子特異的ハイブリダイゼーション(dynamic allele-specific hybridisation)、ライゲーション連鎖反応(ligation chain reaction)、ミニ-シーケンシング、DNA“チップ”、PCRまたはモレキュラービーコン(molecular beacon)と併せた一重または二重標識プローブとの対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーション、その他。
【0026】
一般に、ハイパーリカレント配列を増幅後に検出する。たとえば、単離したRNAに逆転写と増幅を組み合わせて施すことができる;ハイパーリカレント配列に対して特異的であるかあるいはハイパーリカレント配列を含む領域を増幅できる特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いる、ポリメラーゼ連鎖反応による逆転写と増幅(RT−PCR)など。第1の別法によれば、特異的な逆転写(適切な場合には)と増幅を確実にするプライマーアニーリングのための条件を選ぶことができる;したがって、増幅生成物の出現は特定のハイパーリカレント配列の存在の診断となる。別の方法では、RNAを逆転写および増幅するか、あるいはDNAを増幅し、その後、適切なプローブとのハイブリダイゼーションにより、または直接シーケンシングもしくは当技術分野で既知である他のいずれか適切な方法により、増幅配列中のハイパーリカレント配列を検出することができる。たとえば、RNAから得られたcDNAをクローニングし、シーケンシングして、ハイパーリカレント配列を同定することができる。
【0027】
特に、シーケンシングは本発明に関して使用できる理想的な手法である。当業者はポリヌクレオチドをシーケンシングするための幾つかの方法に精通している。これらには下記のものが含まれるが、それらに限定されない:サンガー(Sanger)シーケンシング(ジデオキシシーケンシングとも呼ばれる)、およびMetzgerが概説した種々の一塩基合成(sequencing-by-synthesis)(SBS)方法(Metzger ML 2005, Genome Research 1767)、ハイブリダイゼーションによる、ライゲーションによる(たとえば、WO 2005/021786)、分解による(たとえば、U.S. Patent No. 5,622,824および6,140,053)シーケンシング、ナノポアシーケンシング。好ましくは、マルチプレックスアッセイにおいて、ディープシーケンシングが好ましい。用語“ディープシーケンシング(deep sequencing)”は、複数の核酸を並行してシーケンシングする方法を表わす。参照:たとえばBentley et al, Nature 2008, 456:53-59。Roche/454(Margulies et al., 2005a)、Illumina/Solexa(Bentley et al., 2008)、Life/APG(SOLiD)(McKernan et al., 2009)およびPacific Biosciences(Eid et al., 2009)により製造された主要な市販プラットフォームをディープシーケンシングに使用できる。たとえば、454法では、シーケンシングすべきDNAを分画し、アダプターを供給するか、あるいはアダプターを含有するプライマーを用いてDNAのセグメントをPCR増幅することができる。アダプターは、DNAキャプチャービーズ(DNA Capture Bead)への結合のために、またエマルジョンPCR増幅プライマーおよびシーケンシングプライマーのアニーリングのために必要な、ヌクレオチド25−merである。DNAフラグメントを一本鎖にし、1つのDNAフラグメントを1つのビーズに結合させるようにDNAキャプチャービーズに付着させる。次に、DNAを含むビーズを油中水混合物に乳化すると、1つのビーズのみを含むマイクロロリアクターが得られる。このマイクロロリアクター内でフラグメントがPCR増幅されて、ビーズ当たり数百万のコピー数が得られる。PCR後に、エマルジョンを破壊し、ビーズをピコタイタープレート(pico titer plate)に装填する。ピコタイタープレートの各ウェルは1つのビーズのみを収容できる。シーケンシング酵素をウェルに添加し、ヌクレオチドを一定の順序でウェル上に流す。ヌクレオチド取込みの結果、ピロリン酸が放出され、それが化学発光信号をもたらす反応を触媒する。この信号をCCDカメラにより記録し、ソフトウェアを用いてその信号をDNA配列に変換する。lllumina法(Bentley (2008))では、一本鎖状のアダプター供給したフラグメントを光学透明表面に付着させ、“架橋増幅(bridge amplification)”を施す。この操作の結果、それぞれがユニークDNAフラグメントのコピーを含有する数百万のクラスターが得られる。DNAポリメラーゼ、プライマー、および4種類の標識された可逆性ターミネーターヌクレオチドを添加し、表面をレーザー蛍光によりイメージングして、標識の位置および性質を決定する。次いで保護基を除去し、このプロセスを数サイクル繰り返す。SOLiD法(Shendure (2005))は454シーケンシングに類似し、DNAフラグメントをビーズの表面で増幅させる。シーケンシングは、標識プローブのライゲーションと検出のサイクルを伴う。ハイスループットシーケンシングのための他の幾つかの手法が現在開発中である。そのような例は、Helicos system(Harris (2008))、Complete Genomics(Drmanac (2010))およびPacific Biosciences(Lundquist (2008))である。これはきわめて急速に進歩している技術分野であるので、本発明へのハイスループットシーケンシング法の適用性は当業者に明らかであろう。
【0028】
核酸(特に、遺伝子、miRNA、snRNA、およびsnoRNA)の発現レベルの判定は、多様な周知方法のいずれかにより評価できる。一般に、調製した核酸は下記を含む(ただし、それらに限定されない)ハイブリダイゼーションまたは増幅アッセイに使用できる:サザンまたはノーザン分析、ポリメラーゼ連鎖反応分析、たとえば定量PCR(TaqMan)、およびプローブアレイ、たとえばGeneChipプローブ(商標) DNAアレイ(AFF YMETRIX)。有利には、核酸の発現レベルの分析は、たとえばRT−PCR(U. S. Patent No. 4,683,202中に述べられた実験態様)、リガーゼ連鎖反応(BARANY, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.88, p: 189-193, 1991)、自立配列複製(self sustained sequence replication)(GUATELLI et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.57, p: 1874-1878, 1990)、転写増幅システム(KWOH et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.86, p: 1173-1177, 1989)、Q−ベータレプリカーゼ(LIZARDI et al., Biol. Technology, vol.6, p: 1197, 1988)、ローリングサークル複製(rolling circle replication) (U. S. Patent No. 5,854,033)、または他のいずれかの核酸増幅法による核酸増幅のプロセス、続いて当業者に周知の手法を用いる増幅分子の検出を伴う。リアルタイム定量または半定量RT−PCRが好ましい。特定の態様において、判定は、試料を選択試薬、たとえばプローブまたはプライマーとハイブリダイズさせ、それにより核酸の存在を検出し、あるいはその量を測定することを含む。ハイブリダイゼーションはいずれか適切なデバイス、たとえばプレート、マイクロタイターディッシュ、試験管、ウェル、ガラス、カラムなどにより実施できる。本発明において着目する核酸との配列相補性または相同性を示す核酸は、ハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーとして有用である。そのような核酸は同等サイズの相同領域と同一である必要はないが、一般に少なくとも約80%同一であり、より好ましくは85%同一であり、よりさらに好ましくは90〜95%同一であると解釈される。ある態様において、ハイブリダイゼーションを検出するのに適した手段、たとえば検出可能な標識と組み合わせて、核酸を用いるのが有利であろう。蛍光性、放射性、酵素性または他のリガンド(たとえば、アビジン/ビオチン)を含めて、多様な適切な指示薬が当技術分野で知られている。プローブおよびプライマーは、それらがハイブリダイズする核酸に対して“特異的”である;すなわち、それらは好ましくは高いストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件下(最高の融解温度−Tm−に相当;たとえば、50%ホルムアミド、5×または6×SCC;1×SCCは0.15M NaCl、0.015M クエン酸ナトリウムである)でハイブリダイズする。多数の定量アッセイがQiagen(S.A.,フランス、クールタボー)またはApplied Biosystems(米国フォスターシティー)から市販されている。核酸の発現レベルは、絶対発現プロフィールまたは正規化発現プロフィールとして表わすことができる。一般に、発現プロフィールは、着目する核酸の絶対発現プロフィールを、それの発現と、無関係な核酸、たとえば構成性発現するハウスキーピングmRNAの発現との比較により補正することによって正規化される。正規化に適したmRNAには、ハウスキーピングmRNA、たとえばU6、U24、U48およびS18が含まれる。この正規化により、1試料、たとえば患者試料における発現プロフィールと他の試料との比較、または異なる供給源からの試料間の比較が可能になる。
【0029】
プローブおよび/またはプライマーを、一般に検出可能な分子または物質、たとえば蛍光性分子、放射性分子、または当技術分野で既知である他のいずれかの標識で標識する。標識は一般的に信号を発生する(直接または間接的に)ことが知られている。用語“標識された”は、検出可能な物質をカップリングさせること(すなわち、物理的に連結させること)によるプローブおよびプライマーの直接標識化、ならびに直接標識された他の試薬との反応性による間接標識化を包含するものとする。検出可能な物質の例には、放射性物質または蛍光体(たとえば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)またはフィコエリトリン(PE)またはインドシアニン(Cy5))が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本発明の方法は、多能性幹細胞培養物の質を判定し、次いで遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を単離するのに特に適切である。この方法は、前記のように遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を含有する多能性幹細胞培養物の分解を避けるのに特に適切であり、それを単離および培養することができる。
【0031】
したがって、本発明は、遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を単離するための、下記の工程を含む方法に関する:
i)本発明による方法を実施することにより多能性幹細胞培養物におけるハイパーリカレント配列のレベルを決定する、
ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較する、
iii)工程i)で決定したレベルが基準値と異なる場合、その多能性幹細胞培養物が遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を含有すると結論する、
iv)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を単離する。
【0032】
多能性幹細胞を単離する工程は、当技術分野で周知の多様な手法、たとえばfluidigm法により実施できる。
特定の態様において、基準値は実験的、経験的、または理論的に決定できる閾値またはカットオフ値である。閾値は、当業者が認識するように既存の実験条件に基づいて任意に選択することもできる。最適な感度および特異度を得るためには、試験の機能およびベネフィット/リスクバランス(偽陽性と偽陰性の臨床予後)に従った閾値を決定しなければならない。一般に、最適な感度および特異度(したがって、閾値)は、実験データに基づく受信者動作特性(Receiver Operating Characteristic)(ROC)曲線を用いて決定できる。好ましくは、当業者は核酸レベル(本発明の方法に従って得られたもの)と決定された閾値を比較することができる。本発明の一態様において、閾値は遺伝子異常を保有する多能性幹細胞培養物において決定された核酸レベル(または比、またはスコア)から誘導される。さらに、適正に寄託された歴史的多能性幹細胞培養物における核酸レベル(または比、またはスコア)の後向き測定値をこれらの閾値の樹立に使用できる。
【0033】
本発明の方法は、臨床決定に到達するために特に適切である。本明細書中で用いる用語“臨床決定”は、対象の健康状態または生存に影響を及ぼす転帰をもつ行動をとるか否かのいずれかの決定を表わす。特に、本発明に関して、臨床決定は多能性幹細胞を対象に伝達、グラフト、移植するか否かの決定を表わす。臨床決定は、望ましくない表現型を低減する行動をとるためにさらなる試験を実施するという決定を表わすこともできる。よって、特に、前記の方法は遺伝子異常を保有する多能性幹細胞を対象に伝達するのを臨床医が避ける補助になるであろう。前記の方法は、遺伝子異常を保有する多能性幹細胞による対象の汚染を避け、遺伝子異常を保有する多能性幹細胞を対象に伝達することにより引き起こされる悪性疾患などの疾患の発症を避けるためにも特に適切である。前記の方法は、多能性幹細胞を投与することにより投与の必要がある対象を副作用なしに処置するためにも特に適切である。
【0034】
本明細書中で用いる用語“対象”は哺乳動物を表わす。一般に、本発明による対象は多能性幹細胞移植を用いる再生処置の必要があるいずれかの対象(好ましくはヒト)を表わす。用語“対象”は、他の哺乳動物、たとえば霊長類、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、またはマウスをも表わす。特定の態様において、用語“対象”は多能性幹細胞移植を用いる再生処置の必要がある疾患、たとえば脊髄損傷、シュタルガルト黄斑ジストロフィー(SMD)、委縮型(ドライ型)加齢黄斑変性、I型糖尿病、心血管障害、たとえば心不全、進行シュタルガルト病、滲出型(湿潤型)加齢黄斑変性(AMD)、筋ジストロフィー、神経および網膜の疾患、肝疾患、ならびに糖尿病に罹患しているかあるいは罹患しやすい対象を表わす。
【0035】
したがって、本発明の方法は、多能性幹細胞が対象への健全な伝達、グラフト、移植を行なう能力の評価を可能にする。本発明の方法は、対象に伝達、グラフト、移植できる多能性幹細胞の遺伝子検査および選択を可能にする。
【0036】
本発明の方法を実施することにより選択された多能性幹細胞およびそれに由来する分化した細胞を再生医療に利用できる。用語“再生医療”はそれの一般的な意味をもち、年齢、疾患、損傷、または先天的欠損のため失われた細胞、組織または臓器の機能を修復または置換するために、生きている機能性細胞および組織を作製するプロセスに関係する再生処置を表わす。
【0037】
したがって、本発明はまた、多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を再生処置の必要がある対象に移植するための、下記の工程を含む方法に関する:i)本発明による方法を実施する、ii)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を選択する、そしてiii)工程ii)で選択した多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を対象に投与する。
【0038】
さらなる側面において、本発明は再生処置の必要がある対象において、遺伝子異常を伝達するリスクを最小限にして、多能性幹細胞移植を用いて疾患を処置するために特に適切である。本発明の方法は、再生処置の必要がある対象において、遺伝子異常を保有する多能性幹細胞の移植により引き起こされる悪性疾患などの疾患のリスクを最小限にして、多能性幹細胞移植を用いて疾患を処置するためにも適切である。
【0039】
したがって、本発明はまた、対象において再生処置の必要がある疾患を処置するための、下記の工程を含む方法に関する:i)本発明による方法を実施する、ii)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を選択する、そしてiii)工程ii)で選択した多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を対象に投与する。
【0040】
さらなる側面において、本発明は、その必要がある対象において再生処置に対する応答を増強するための、下記の工程を含む方法に関する:i)本発明による方法を実施する、ii)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を選択する、そしてiii)工程ii)で選択した多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を対象に投与する。
【0041】
本発明はまた、前記の方法を実施するためのキットに関するものであり、その際、キットは核酸抽出物における少なくとも1つの遺伝子異常の存在および/またはレベルを決定するための手段を含む。一般に、キットは前記のプローブ、プライマー、マクロアレイまたはマイクロアレイを含む。たとえば、キットは前記に定めた一組のプローブを含むことができ、それらは予め標識されていてもよい。あるいは、プローブは標識されていなくてもよく、標識化のための成分がキット内の別の容器に収容されていてもよい。キットはさらに、そのハイブリダイゼーションプロトコルに必要なハイブリダイゼーション試薬または適切にパッケージされた他の試薬および材料(必要ならば、固相マトリックスを含む)、ならびに標準品を含むことができる。あるいは、本発明のキットは増幅プライマー(たとえば、ステム−ループプライマー)を含むことができ、それらは予め標識されていてもよく、あるいはアフィニティー精製部分または付着部分を含むことができる。キットはさらに、その増幅プロトコルに必要な増幅試薬ならびに適切にパッケージされた他の試薬および材料を含むことができる。キットはさらに、増幅が起きたかどうかを判定するために必要な手段を含むことができる。キットは、たとえばPCR緩衝液および酵素;陽性対照配列、反応制御プライマー;ならびに特定の配列を増幅および検出するための指示を含むこともできる。
【0042】
本発明をさらに、下記の図面および実施例により説明する。ただし、これらの実施例および図面は決して本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0043】
実施例1:
方法
hPSCの培養および上清採集
ヒトPSC(hESCまたはiPSC)をGeltrex(商標)上の35−mmウェル内において、ゼノフリー(異種動物由来成分不含)(xeno-free)完全合成培地(completely defined medium)(Essential 8(商標)培地)の存在下で培養した。細胞を機械的に解離させてバルク培養で増殖させるか、あるいは酵素により解離させて単細胞継代に適合させた。培地を毎日交換した。hPSCを含まない培地を対照としてインキュベートした。PSCのルーティン継代の直前に各ウェルから1mlの上清(hPSC調整培地)を採集し、直ちに無菌の、DNA−、DNase−、RNase−、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)阻害剤−不含のチューブに入れて凍結し、核酸精製まで−80℃に保存した。外来DNAによる試料汚染を阻止するために適切な注意を払った。
【0044】
核酸精製
200μlの上清から、QIAmp DNA Mini Blood Kit(Qiagen,ドイツ、ヒルデン)を用い、調製プロトコルに従って、核酸を抽出した。要約すると、20μlのプロテアーゼKおよび200μlのBuffer ALをそれぞれの上清に添加した。15秒間のパルスボルテックス撹拌の後、細胞溶解混合物を56℃で10分間、エッペンドルフチューブ(1.5ml)内でインキュベートした。高温での高度変性条件がいずれの結合タンパク質からの核酸の完全放出にも好ましかった。200μlの冷エタノール(100%)を溶解物に添加した後、試料をQIAamp Miniカラム上へ移した。溶解物を6000gで1分間の遠心により引き出すのに伴って、セルフリー核酸がメンブレンに吸着した。夾雑物は2回の洗浄工程(Buffer AW1およびBuffer AW2中での)に際して効率的に洗浄除去された。最後に、セルフリー核酸を30μlのBuffer AE中に溶離し、−20℃で保存した。
【0045】
セルフリー核酸(cfNA)の定量
それぞれの上清中のcfNAの濃度を、定量PCR法(LC480,Roche)により決定した対応するALU−115 PCR生成物の濃度に対比して評価した。この目的のために、市販の2× LightCycler480 SYBR Green Iマスターミックス(Roche Applied Science,ドイツ)ならびにUmetani et al. (2006)に記載されたフォワードおよびリバースALU−プライマー0.25μMを含有する総体積10μLの反応混合物に、1μlの各cfNA溶出試料を添加した。EpMotion 5070リキッドハンドリングワークステーション(Eppendorf)により、反応を白色96ウェルプレート(Eppendorf)内に設定した。すべての反応を三重に実施した。陰性対照(RNAse/DNAseを含まない水)をそれぞれの実験に含めた。hPSCから直接抽出したゲノム核酸の連続希釈液により得られた標準曲線を用いて、上清中のcfNA濃度を決定した。
【0046】
cfNAにおけるデジタルドロップレットPCR(digital droplet PCR)システム(ddPCR)を用いるCNV検出
ddPCRアッセイを先に記載されたように(Abyzov et al. 2002)実施した。要約すると、ddPCRワークフローは、Bio−Rad指示(Bio−Rad QX200システム)に従った、反応の設定、ドロップレットの作成、サーマルサイクリングおよびドロップレットリーダー上の走行からなる。ddPCRは、蛍光標識した内部ハイブリダイゼーションプローブ(TaqManプローブ)をcfNAにおけるCNVの検出に利用する。反応は普通は着目する領域(たとえば:CNV−ID1,dHsaCP2506319)をターゲティングする1プライマー対およびいずれかの基準遺伝子(たとえば:RPP30,dHsaCP2500350)をターゲティングする第2プライマー対を用いて設定される。これら2プライマー(ターゲットおよび基準)は異なる蛍光体(FAMおよびHEX)で標識されている。それぞれの上清からのcfNAの装入物をTaqMan PCR反応混合物に添加した。そのような反応混合物は、ddPCR Supermix No dUTP(Bio−Rad,Ref:1863023)およびプライマーを、最終体積20μl中に含有していた。構築した各ddPCR反応混合物を次いで8チャネルディスポーザブルドロップレット発生装置カートリッジ(Bio−Rad,Ref:1864008)の試料ウェルに装填した。体積60μLのドロップレット発生オイル(Bio−Rad,Ref:1863005)を、各チャネル用のオイルウェルに装填した。カートリッジをドロップレット発生装置(Bio−Rad)内へ配置した。カートリッジをドロップレット発生装置から取り出し、ドロップレットウェル内に採集されたドロップレットを次いでマルチチャネルピペットにより手動で96ウェルPCRプレートに移した。プレートにホイルシールをヒートシールし、次いで一般的なサーマルサイクラーに乗せ、エンドポイントまで増幅させた(40〜50サイクル)。マイクロフルイディクス技術を用いて、反応ミックスをオイル表面とPCR反応ミックスを含有する水性コアとから構成される球状ドロップレットに分割する。ドロップレットにサーマルサイクリングを施す。増幅の後、各ドロップレットの蛍光をドロップレットリーダーによって連続的に読み取る。着目するターゲット領域または基準を含有するドロップレット(陽性ドロップレット)は対応するチャネルにおいて蛍光を発生し、一方、ターゲットを含まないもの(陰性ドロップレット)は蛍光を発生しない。各ターゲットについての陽性および陰性ドロップレットのカウントは、ポアソン分布(Poisson distribution)により試料中のターゲットの濃度に関係する。
【0047】
結果
自己複製によって永続するけれども分化して特定組織の成熟細胞になることができる多能性幹細胞(PSC)は、再生医療の鍵となるツールである。再生医療は、損傷または罹患した細胞、組織および臓器を身体が修復、置換、復元および再生するのを可能にする革新的医療についての幅広い定義である。しかし、細胞培養は、幹細胞の特性を変化させるかあるいはそれらに腫瘍形成の素因をもたらす可能性のあるエピジェネティック異常および遺伝子異常を生じる可能性がある。PSCの臨床使用が急速に拡大するのに伴って、細胞増殖中およびバッチをリリースする前の多能性幹細胞(PSC)を特性判定するためのツールを改良する好機である。
【0048】
現在、培養多能性幹細胞の遺伝子の完全性を評価するための信頼できる市販の遺伝学的および非侵襲的な方法はない。本発明は、培養PSCが増殖している際に採集した上清中に存在するDNAの遺伝子異常を検出する工程を含む、培養hPSCのゲノムの完全性を評価するための方法に関する。
【0049】
本発明者らはhPSC中に、培養hPSC不安定性のバイオマーカーである一組の“ハイパーリカレント配列”を決定し(表1)、幹細胞を培養中および臨床使用前にルーティンに評価するために使用できる迅速で実施しやすい試験を提唱する(図1)。
【0050】
hPSC培養中に起きる反回性の遺伝子変化
本発明者らは、核型解析、FISH、マイクロアレイ解析(SNP、aCGH)またはNGSにより得られた、あらゆるタイプのゲノム異常の視覚化に貢献するためのデータベース“SEAdb”を開発した。SEAdbは下記のリンクを介してアクセスできる:seadb.org (ログイン: seadb and pwd: SEAdb)。本発明者らは400000を超える異常およびバリアントについて異常を収集した。
【0051】
本発明者らは、hPSC培養に際して起きる大部分の反回性遺伝子変化は>1Mbの核型異常およびコピー数バリエーション(CNV)であることを示した(図2)。
これと対照的に、より小さな遺伝子異常、たとえば変異(mutation)およびindelは、ほとんど反回性ではない。>1Mbの遺伝子変化がSEAdbに1171存在する。本発明者らは、PSC培養によって誘発されるゲノム修飾を最も受けやすいゲノム上の位置の同定を補助する反回性スコア(recurrency score)を選定した。たとえば、>1Mbの遺伝子変化の大部分を宿している21の染色体について、本発明者らは表1の40組の配列(Sondes:S1−S40)が染色体異常の93,5%に及ぶことを示した(図3)。
【0052】
病原性配列を検出するためのDNA源としての細胞培養上清
培養幹細胞のゲノムの完全性を評価するための主な制約は、試験を実施するために培養試料を破壊する必要があることである。したがって、本発明者らは細胞培養上清についてゲノムの完全性を調べることができると提唱する。
【0053】
実際に、細胞培養上清は、ゲノムDNAより低い分子量をもつ二本鎖分子である短いフラグメント(70〜200塩基対の長さ)または最大21kbの長いフラグメントの形のセルフリーDNA(cfDNA)を含有する。cfDNA放出のメカニズムはほとんど分かっていないが、壊死、アポトーシス、食作用または能動放出が役割をもつとが示唆されている(Choi et al., 2005; Gahan et al., 2008; Stroun et al., 2001)。
【0054】
cfDNAは血清または血漿中に存在し、染色体異常を調べるための非侵襲的試験に用いられる(Hui and Bianchi, 2013)。特定の胎児性異数体、たとえばトリソミー13、18または21を、母体血清試料由来のセルフリー胎児性DNA中に検出できることが立証された(Dan et al., 2012; Fairbrother et al., 2013; Nicolaides et al., 2014)。さらに母体血漿中の胎児性cfDNAは、ターゲット領域キャプチャーシーケンシング(target region capture sequencing)を用いて病原性のコピー数バリエーション(CNV)を検出するためにも用いられる(Ge et al., 2013)。
【0055】
cfDNAは種々の体液(血清、血漿)中に放出され、病原性CNVを検出するために使用できるという知見に基づいて、本発明者らは、病原性CNVを検出し、hPSCの非侵襲的分析を実施するための供給源として、細胞破壊を避けて上清中に存在するDNAを使用することを提唱する。
【0056】
幹細胞上清中の外来DNA供給源の可能性を評価するために、本発明者らはALUリピートの定量リアルタイムPCRを用いる(Umetani et al., 2006)。2つのhESCからの2つの上清における総cfDNAのALU−qPCRによる定量(三重)は、cfDNAがすべての被験試料中に検出され、測定されたcfDNA濃度は330pg〜110pgであることを明白に示した(図4)。
【0057】
これらの結果はhPSC上清がセルフリーDNA(cfDNA)を含有することを立証する;それはおそらく死細胞からの遺伝子材料の放出および浮動している生細胞から生じるのであろう。hPSC上清中に放出されたcfDNAの検出は、配列バイオマーカーを用いる遺伝子異常評価を容易にするためのまだ探査されていないツールである。
【0058】
用語“培地”は、細胞を培養、生長または増殖させるための栄養素溶液に関係する。用語“細胞培養物”は、人工的なインビトロ環境で維持、培養または生長している細胞を表わす。
【0059】
用語“CNV”は、DNAの1以上のセクションのコピー数の、異常な、またはある遺伝子については正常なバリエーションをもつ細胞を生じる、ゲノムDNAの変化に関係する。CNVは、特定の染色体上の欠失した(正常数より少ない)または重複した(正常数より多い)比較的大きなゲノム領域に対応する。
【0060】
実施例2:
方法:
核型判定
ヒト多能性幹細胞をTryPLE Select(Life Technologies)で解離させ、3日間増殖させて、中間指数期に到達させた。次いで中期停止のために単細胞を1/10,000 KaryoMAX(登録商標) Colcemid(商標)(Life Technologies)と共に90分間インキュベートした後、0.075M KCl溶液で37℃において20分間、低張膨潤させ、氷冷したメタノール/氷酢酸(3:1,vol/vol)中で連続3回固定した。20マイクロリットルの核懸濁液をガラススライド上に滴下し、18.4℃および湿度60%で風乾し、水中で5分間、再水和した後、EARLEオレンジまたは10×EBSS中において87℃で55分間変性させた。次いでスライドを冷水中ですすぎ、3% GIEMSAで3分間染色し、5回すすぎ、風乾させた。Metafer Slide Scanning Platform(MetaSystem)を用いてスペクトル鏡検および分析を実施した。
【0061】
ddPCRデータの解析および統計
ターゲット特異的アッセイ(dHsaCP2506319)についての蛍光を記録しているドロップレットの数を、基準特異的アッセイ(dHsaCP2500350)について得られたカウントと比較した。製造業者のQuantaSoft Software(Bio−Rad,米国カリフォルニア州)を用い、ポアソン統計を適用することにより、最終コピー数を計算した:
λ=ln(1−p)
ここで、“λ”はドロップレット当たりの平均コピー数であり、“p”はドロップレットの総数に対する陽性ドロップレットの比である。
【0062】
結果:
ddPCR法を用いるhPSC上清における遺伝子の完全性の評価:ルーティンスクリーニングに適用
遺伝子の完全性のスクリーニングの評価は、hPSC上清中のcfDNAを検査することにより可能である。本発明者らは2つの異数体ヒト多能性幹細胞(hPSC)系列HD129およびHD291を用いてこの試験の実施可能性を確認した。一般的なR−バンド核型判定により判定して、HD129はリソミー20(47,XY,+20)を示し、一方、HD291はトリソミー12(47,XY,+12)を示した。本発明者らの特定のハイパーリカレント配列を用いるトリソミー20分析およびddPCR法のために、それぞれ対応する細胞および上清を採集した。図5に示すように、(i)HD129 hPSC系列についてはddPCR法を用いてhPSC上清中にゲノム異常(この場合はトリソミー20)が検出されるが、HD291系列には検出されず、これにより核型の結果が確認される、(ii)上清からの遺伝子異常スクリーニング結果と対応する核型との間に相関性がみられ、これは多能性幹細胞の遺伝子の完全性を評価するために上清中に存在するcfNAを使用できるという概念の証拠を立証する。上清を用いることによる幹細胞スクリーニングの利点は、破壊せずに幹細胞の遺伝子の完全性を評価できることであろう。さらに、ドロップレットディジタルポリメラーゼ連鎖反応(ddPCR)に基づくこの簡単な方法の使用によって、培養上清を含めて少量の材料から迅速、効率的かつ容易にhPSC系列をスクリーニングすることが可能になる。これらの有益性は、この方法をルーティン利用の可能性をもたらす、より魅力的なものにすることができる。最後に、本発明者らの方法は、遺伝子の完全性の検査のために厳密なゲノム解析が要求される他のいかなる実験にも適用できる(たとえば:間葉幹細胞(MSC)などを含む多能性幹細胞、生殖細胞、リンパ球、胚、または体細胞)。
【0063】
確実な検査のための核酸の最小濃度
hPSC系列HD129から採集した上清から抽出した種々の濃度の核酸(1,1ng/μL,0,4ng/μL,0,1ng/μL,3,7pg/μL,1,1pg/μL,0,4pg/μL)を試験することにより、ddPCRを用いるトリソミー20配列検出の感度を評価した。図6に示すように、きわめて低い濃度(0,1ng/μLの低さ)ではあるがなお信頼できるスクリーニング結果を得るのに十分である濃度から得られた信号間にトリソミー20信号が検出された。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]多能性幹細胞の質を判定するための下記の工程を含むインビトロ非侵襲的方法:i)多能性幹細胞が増殖している培養試料を用意する、ii)試料から核酸を抽出する、そしてiii)核酸抽出物における少なくとも1つの遺伝子異常の存在および/またはレベルを判定する。
[態様2]i)核酸抽出物における、表1から選択される少なくとも1つのハイパーリカレント配列の存在を判定する、そしてii)少なくとも1つのハイパーリカレント配列が検出された場合、多能性幹細胞が遺伝子異常を保有すると結論する工程を含む、態様1に記載の方法。
[態様3]遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を単離するための、下記の工程を含む方法:
i)態様2に記載の方法を実施することにより多能性幹細胞培養物におけるハイパーリカレント配列のレベルを決定する、
ii)工程i)で決定したレベルを基準値と比較する、
iii)工程i)で決定したレベルが基準値と異なる場合、該多能性幹細胞培養物が、遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を含有すると結論する、および
iv)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を単離する。
[態様4]多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を再生処置の必要がある対象に移植するための、下記の工程を含む方法:i)態様1〜3のいずれか1に記載の方法を実施する、ii)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を選択する、そしてiii)工程ii)で選択した多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を対象に投与する。
[態様5]対象において再生処置の必要がある疾患を処置するための、下記の工程を含む方法:i)態様1〜3のいずれか1に記載の方法を実施する、ii)遺伝子異常を含まない多能性幹細胞を選択する、そしてiii)工程ii)で選択した多能性幹細胞またはそれに由来する分化した細胞を対象に投与する。
【0064】
参考文献
この出願全体において、種々の参考文献が本発明に関係する分野の技術水準を記載している。これらの参考文献の開示内容を本明細書に援用する。
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図1
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図5
図6