特許第6873985号(P6873985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873985インビトロで肝臓構築物を産生する方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873985
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】インビトロで肝臓構築物を産生する方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20210510BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20210510BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20210510BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12M1/00 A
   C12M3/00
   C12Q1/02
【請求項の数】24
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-519364(P2018-519364)
(86)(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公表番号】特表2018-530341(P2018-530341A)
(43)【公表日】2018年10月18日
(86)【国際出願番号】US2016056942
(87)【国際公開番号】WO2017070007
(87)【国際公開日】20170427
【審査請求日】2019年10月10日
(31)【優先権主張番号】62/241,966
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507189574
【氏名又は名称】ウェイク・フォレスト・ユニヴァーシティ・ヘルス・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(72)【発明者】
【氏名】アタラ,アンソニー
(72)【発明者】
【氏名】ビショップ,コリン
(72)【発明者】
【氏名】ミード,アイヴィー
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/151921(WO,A1)
【文献】 米国特許第06737270(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0288375(US,A1)
【文献】 Acta Biomaterialia (2015), Vol.25, p.24-34
【文献】 Developmental cell (2010), Vol.18, No.2, p.175-189
【文献】 Toxicology and Applied Pharmacology (2013), Vol.268, p.1-16
【文献】 Experimental cell research (1996), Vol.226, No.1, p.223-233
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工肝臓構築物を作製するために有用な細胞組成物であって、
(a)個数で70〜90パーセントとなる量の肝細胞、
(b)個数で5〜20パーセントとなる量のクッパー細胞、
(c)個数で2〜10パーセントとなる量の肝星細胞、
(d)個数で2〜10パーセントとなる量の類洞内皮細胞、および
(e)個数で1〜4パーセントとなる量の胆管細胞
を組み合わせて含む細胞組成物。
【請求項2】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項1に記載の細胞組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞組成物を水性培養培地中に含む培養組成物であって、前記培養培地が少なくとも1種の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質をさらに含む、培養組成物。
【請求項4】
前記少なくとも1種のECMタンパク質がI型コラーゲンを含む、請求項に記載の培養組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のECMタンパク質が、1ミリリットルあたり10ナノグラム〜1ミリリットルあたり1ミリグラムの量で含まれる、請求項またはに記載の培養組成物。
【請求項6】
前記培養培地が、10〜30重量パーセントの血清をさらに含む、請求項のいずれか1項に記載の培養組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の細胞組成物または請求項のいずれか1項に記載の培養組成物を含む、人工肝臓構築物。
【請求項8】
直径100〜300ミクロンを有する、請求項8に記載の人工肝臓構築物。
【請求項9】
前記人工肝臓構築物中の全細胞の総数が100〜10,000である、請求項またはに記載の人工肝臓構築物。
【請求項10】
(i)肝細胞微絨毛、毛細胆管様構造、および/もしくはリソソームのうち少なくとも1つ、2つ、もしくは3つ全てが存在すること、ならびに/または
(ii)培養物中で維持すると、少なくとも10日の期間中に尿素、アルブミン、および/もしくはアルファ1−アンチトリプシンのうち少なくとも1つ、2つ、もしくは3つ全てが産生されること
を特徴とする、請求項のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物。
【請求項11】
前記人工肝臓構築物が凝集物の形態である、請求項10のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物。
【請求項12】
請求項11のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物を作製する方法であって、請求項のいずれか1項に記載の培養組成物を用いて、ハンギングドロップ培養法、重力強制自己組織化法または微細加工成形を使用する方法を実施するステップを含む方法。
【請求項13】
前記ハンギングドロップ培養法を実施するステップが、
請求項のいずれか1項に記載の培養組成物を含む液滴を培養基板に堆積させるステップと、次いで、
前記培養組成物中の細胞を培養するステップと
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
(a)ヒドロゲル、および
(b)前記ヒドロゲル中に、複数の、請求項11のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物
を含む組成物。
【請求項15】
(a)少なくとも1つのチャンバーを内部に含む基板、および
(b)前記チャンバー内に、少なくとも1つの、請求項11のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物、または請求項15に記載の組成物
を含むデバイス。
【請求項16】
前記デバイスが、前記チャンバー内の、ゲル化した形態の一時的な保護支持培地とともに、任意選択的に、冷却要素とともに、容器内に梱包されている、請求項15に記載のデバイス。
【請求項17】
デバイスを作製する方法であって、
(a)基板を用意するステップと、
(b)少なくとも1つの、請求項11のいずれか1項に記載の構築物、または請求項14に記載の組成物を、前記基板に堆積させるステップと
を含む方法。
【請求項18】
前記堆積させるステップが、バイオプリンティング、ピペッティング、マイクロインジェクション、またはマイクロ流体による堆積により実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記堆積させるステップが、請求項14に記載の組成物を前記基板にバイオプリンティングすることにより実施され、
前記ヒドロゲルが、前記堆積させるステップの前に自発的に架橋するように構成された架橋可能なプレポリマーと、前記堆積させるステップの後に前記架橋可能なプレポリマーと架橋するように構成された堆積後架橋基とを含む、
請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記堆積後架橋基を前記架橋可能なプレポリマーと架橋させる架橋ステップを、前記ヒドロゲルに光を照射することにより実施するステップをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記架橋可能なプレポリマーがポリエチレン(グリコール)ジアクリレート(PEGDA)を含み、
前記堆積後架橋基がポリエチレングリコール(PEG)アルキンを含む、
請求項19または20に記載の方法。
【請求項22】
薬理学的および/または毒性学的活性について化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)請求項15に記載のデバイスを用意するステップと、
(b)前記人工肝臓構築物に化合物を投与するステップと、次いで
(c)前記人工肝臓構築物の少なくとも1つの細胞からの、前記化合物に対する薬理学的および/または毒性学的応答を検出するステップと
を含む方法。
【請求項23】
前記応答が、細胞死、細胞増殖、前記化合物の吸収、分布、代謝もしくは排泄、または生理応答を含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記人工肝臓構築物が3D肝臓スフェロイドである、請求項7〜11のいずれか1項に記載の人工肝臓構築物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、その開示が全体にわたって参照により本出願の一部をなすものである、2015年10月15日出願の米国仮特許出願第62/241,966号の利益を主張するものである。
【0002】
[政府支援]
本発明は、Space and Naval Warfare Systems Center Pacific (SSC PACIFIC)のもとで、アメリカ国防脅威削減局(DTRA)により授与された契約第N66001−13−C−2027号に基づく政府支援を受けてなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
多くの細胞培養系は従来、2次元(2D)法によるものであった。しかし従来の2D系では、インビボで見られる細胞間および細胞レベル以上の構造は復元されない。インビボでの器官生理および機能のモデルを作るため、各種3D培養系が開発されてきた。脱細胞器官などの生物由来マトリックス、合成ポリマーなどの人工マトリックス、ならびに、細胞外タンパク質と、ポリマー、ヒドロゲルおよび無機基板とのハイブリッドを使用して、3D足場構造が生成され、インビボでの器官構成が再現されている。科学者らは、これらの生体、合成、およびハイブリッド物質を、ウィービング(weaving)、エレクトロスピニング、バイオプリンティング、マイクロマシニング、および成形などの製作方法に組み込んできた。これらの方法は、有用な構造の複雑性を生成することができるものの、再現性が低く、変動性が大きく、拡張性が小さく、製造が困難であるという問題がある。概要は、Godoy et al., Arch Toxicol, 87, 1315−1530 (2013); Khetani et al., J Lab Autom. pii: 2211068214566939 (23 Jan 2015); Bale et al., Exp. Biol. Med. 239(9), 1180−1191 (2014)を参照のこと。
【0004】
Cavnar et al., J Lab Autom 19(2), 208−214 (2014)は、デバイスの構築および3D構築物を形成する方法の開発については記載しているが、3D構築物の生体成分についての最新技術を進歩させるものではない。Gunnes et al., Toxicol. Sci. 133(1), 67−78 (2013)は、肝細胞および非実質細胞の混合物を使用した肝臓オルガノイドの構築は困難であり、細胞株を使用することでこれが回避されると記載している。Kim and Rajagopalan, PLoSOne 5(11), e15456 (2010)は、肝細胞および内皮細胞が組み合わされた3D肝臓培養物について記載している。Messner et al., Arch Toxicol 87, 209−213 (2013)は、3D肝臓スフェロイドを構築するためのハンギングドロップ法の使用について記載しているが、肝細胞、クッパー細胞、および内皮(未開示の型)細胞の未開示の混合物を使用していた。
【発明の概要】
【0005】
一部の実施形態によれば、人工肝臓構築物を作製するのに有用な細胞組成物は、(a)肝細胞、(b)クッパー細胞、(c)肝星細胞、(d)類洞内皮細胞、および(e)胆管細胞を組み合わせて含んでいてよい。
【0006】
一部の実施形態で、(a)前記肝細胞は個数で70〜90パーセントとなる量で含まれていてよく、(b)前記クッパー細胞は個数で5〜20パーセントとなる量で含まれていてよく、(c)前記肝星細胞は個数で2〜10パーセントとなる量で含まれていてよく、(d)前記類洞内皮細胞は個数で2〜10パーセントとなる量で含まれていてよく、(e)前記胆管細胞は個数で1〜4パーセントとなる量で含まれていてよい。一部の実施形態で、前記細胞は哺乳動物細胞であってよい。
【0007】
一部の実施形態によれば、培養組成物は、上記細胞組成物を水性培養培地中に含んでいてよい。一部の実施形態で、前記培養培地は少なくとも1種の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質をさらに含んでいてよい。
【0008】
一部の実施形態によれば、人工肝臓構築物は、上記細胞組成物または上記培養組成物を含んでいてよい。一部の実施形態で、前記人工肝臓構築物は直径100〜300ミクロンを有していてよい。
【0009】
一部の実施形態によれば、上記人工肝臓構築物を作製する方法は、上記培養組成物を使用して、ハンギングドロップ培養法、重力強制自己組織化法(gravity−enforced self−assembly method)または微細加工成形を使用する方法を実施するステップを含んでいてよい。
【0010】
一部の実施形態によれば、組成物は、(a)ヒドロゲル、および(b)前記ヒドロゲル中に、複数の上記人工肝臓構築物を含んでいてよい。
【0011】
一部の実施形態によれば、デバイスは、(a)その内部に少なくとも1つのチャンバーを含む基板、および(b)前記チャンバー内の少なくとも1つの上記人工肝臓構築物、または前記チャンバー内の上記組成物を含んでいてよい。
【0012】
一部の実施形態によれば、デバイスを作製する方法は、(a)基板を用意するステップと、(b)少なくとも1つの上記構築物または上記組成物を、前記基板に堆積させるステップとを含んでいてよい。一部の実施形態で、前記堆積させるステップは、バイオプリンティング、ピペッティング、マイクロインジェクション、またはマイクロ流体による堆積により実施されてよい。
【0013】
一部の実施形態によれば、薬理学的および/または毒性学的活性について化合物をスクリーニングする方法は、(a)上記デバイスを用意するステップと、(b)前記人工肝臓構築物に化合物を投与するステップと、次いで(c)前記人工肝臓構築物の少なくとも1つの細胞からの、前記化合物に対する薬理学的および/または毒性学的応答を検出するステップとを含んでいてよい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の実施形態による2週齢の肝臓構築物についての基本的な免疫組織化学染色結果を示す画像である。
図2図2A〜2Bは、本発明の実施形態による新たに形成された肝臓構築物を示す電子顕微鏡画像である。
図3図3は、CellTiter−Glo ATPアッセイで示された、本発明の実施形態による肝臓構築物の長期的な生存を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施形態による肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーである尿素の長期的な産生を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施形態による肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーであるアルブミンの長期的な産生を示すグラフである。
図6図6は、本発明の実施形態による肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーであるアルファ−1−アンチトリプシンの長期的な産生を示すグラフである。
図7図7は、2D培養物と比較した、本発明の実施形態による3D肝臓構築物による、ジアゼパムのテマゼパムへの長期的な代謝を示すグラフである。
図8図8は、2D培養物と比較した、本発明の実施形態による3D肝臓構築物による、ジアゼパムのノルジアゼパムへの長期的な代謝を示すグラフである。
図9図9は、リポ多糖(LPS)に対する、本発明の実施形態による肝臓構築物の長期的な炎症応答を示すグラフである。
図10図10aおよび10bは、本発明の実施形態による肝臓構築物の長期的な安定性および生存を示すグラフであり、図10cは、本発明の実施形態による肝臓構築物のLIVE/DEAD染色結果を示す画像であり、図10d〜10jは、本発明の実施形態による肝臓構築物の、組織学的および免疫組織化学的染色結果を示す画像である。
図11図11a〜11eは、2D培養物と比較した、本発明の実施形態による3D肝臓構築物の長期的なベースライン肝機能および代謝を示すグラフである。
図12図12は、ジアゼパムの肝臓構築物での代謝を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明はこれより、本発明の例示的な実施形態を示す添付の図面を参照して、以下でより十分に記載される。しかし本発明は、多くの様々な形態で具体化可能であり、本明細書で示す実施形態に限定されるものと解釈されるべきでない。そうではなくこれらの実施形態は、本開示が網羅的かつ完全であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるように提供される。本明細書で引用される全ての米国特許文献の開示は、その全内容にわたって、本明細書に参照により一部をなすものとする。
【0016】
本明細書で使用する用語は特定の実施形態について記載するためだけのものであり、本発明を限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」および「the」は、別途文脈で明らかに示されない限り、複数形も含むことを意図するものである。「含む(comprises)」または「含む(comprising)」という語は、本明細書で使用する場合、明記される特徴、ステップ、操作、要素、成分および/またはそれらの群もしくは組合せの存在を明示するが、1つまたは複数のその他の特徴、ステップ、操作、要素、成分および/またはそれらの群もしくは組合せの存在または追加を除外するものではないことがさらに理解されるであろう。
【0017】
本明細書で使用する場合、「および/または」という語は、任意のもしくは全ての考えられる組合せ、または関連する列挙項目のうち1つもしくは複数、および代替と解釈される場合(「または」)には組合せの欠如を含む。
【0018】
別途規定されない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。通常使用される辞書で規定されるものなどの用語は、明細書および特許請求の範囲の文脈における意味と一致する意味を有するものと解釈すべきであり、本明細書で明確にそのように規定されない限り、理想的なまたは過度に形式的な意味に解釈すべきでないことがさらに理解されるであろう。簡潔性および/または明瞭性のため、周知の機能または構造は詳細に記載されない可能性がある。
【0019】
本明細書で使用する場合、「細胞」は通常、イヌ、ネコ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、マウス、ウサギ、ラットの細胞などの哺乳動物細胞である。一部の好ましい実施形態では、細胞はヒト細胞である。適切な細胞は既知であり市販されている、かつ/または既知の技術に従って産生可能である。米国特許第6,737,270号を参照のこと。
【0020】
本明細書で使用する場合、「培地」または「培養培地」は、本発明を実施するのに使用される細胞の増殖、生存、または保存のために提供される水性溶液を指す。培地または培養培地は天然でも人工のものでもよい。培地または培養培地は基本培地を含んでいてよく、培地で培養される細胞の細胞生存、増殖、増加、および/または分化などの望ましい細胞活性を促進するように栄養(例えば、塩、アミノ酸、ビタミン、微量元素、抗酸化剤)が添加されてもよい。本明細書で使用する場合、「基本培地」は、基本塩栄養、または、塩ならびに正常な細胞代謝に必須の一定のバルク無機イオンおよび水を細胞に供給するその他の因子の水溶液を指し、細胞内および/または細胞外浸透圧の平衡を維持する。一部の実施形態では、基本培地は、エネルギー供給源としての少なくとも1種の糖、および/または生理的pH範囲内に培地を維持するための緩衝系を含んでいてよい。市販の基本培地の例には、これらに限定されないが、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地(MEM)、イーグル基本培地(BME)、ロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640、MCDB131、クリック培地、マッコイ5A培地、199培地、ウィリアム培地E、グレース培地などの昆虫培地、ハム栄養混合物F−10(ハムF−10)、ハムF−12、α−最小必須培地(αMEM)、グラスゴー最小必須培地(G−MEM)およびイスコフ改変ダルベッコ培地が含まれていてよい。例えば、米国特許出願公開第US20150175956号を参照のこと。
【0021】
本明細書で使用する場合、「細胞外マトリックスタンパク質」(または「ECM」)は既知であり、その開示が全内容にわたって参照により本明細書の一部をなすY.Zhangらの米国特許出願公開第US20130288375号に記載されるものを含むが、これに限定されない。Skardal et al., Tissue specific synthetic ECM hydrogels for 3−D in vitro maintenance of hepatocyte function, Biomaterials 33(18): 4565−75 (2012)も参照のこと。
【0022】
通常、ヒドロゲル(架橋可能なヒドロゲルを含むがこれに限定されない)などの「バイオインク」での、細胞の「バイオプリンティング」は既知の技術であり、様々な既知の方法および器具のいずれかに従って実施可能である。例えば、米国特許出願公開第US20080194010号;PCT出願公開第WO2016/064648A1号を参照のこと。
【0023】
細胞を培養する「ハンギングドロップ」法およびこれに有用な器具は既知であり、既知の技術に従って実施可能である。例えば、米国特許第7,112,241号;米国特許出願公開第20030235519A1号;第20130040855A1号;第20140179561号;および第20130084634A1号;およびPCT出願公開第WO2012117083A3号を参照のこと。
【0024】
<細胞組成物>
人工肝臓構築物(または「オルガノイド」)を作製するのに有用な組成物は、(a)肝細胞、(b)クッパー細胞、(c)肝星細胞、(d)類洞内皮細胞、および(e)胆管細胞を組み合わせて含んでよい。概して、
(a)肝細胞は個数で70〜90パーセント(最も好ましくは78パーセント)となる量で含まれ、
(b)クッパー細胞は個数で5〜20パーセント(最も好ましくは10パーセント)となる量で含まれ、
(c)肝星細胞は個数で2〜10パーセント(最も好ましくは5パーセント)となる量で含まれ、
(d)類洞内皮細胞は個数で2〜10パーセント(最も好ましくは5パーセント)となる量で含まれ、
(e)胆管細胞は個数で1〜4パーセント(最も好ましくは2パーセント)となる量で含まれる。
【0025】
<培養組成物>
細胞組成物を器官形成培養培地(例えば水性器官形成培養培地)中で組み合わせて、培養組成物を得ることができる。好ましい実施形態で、培養培地は少なくとも1種の細胞外マトリックス(ECM)タンパク質(例えば、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、フィブロネクチン、エラスチン、またはそれらの組合せ)をさらに含んでいてよい。好ましくは、少なくとも1種のECMタンパク質は少なくともI型コラーゲンを含んでいてよい。ECMタンパク質は任意の適切な量、通常1ミリリットルあたり10ナノグラム〜1ミリリットルあたり1ミリグラム(好ましくは1ミリリットルあたり1〜10マイクログラム)含まれていてよい。一部の実施形態で、器官形成培養培地は10〜30重量パーセント(最も好ましくは20重量パーセント)の血清(例えば熱失活ウシ胎児血清)を含んでいてよい。
【0026】
<人工肝臓構築物>
本明細書に記載される細胞組成物を含むかこれより産生されうる人工肝臓構築物は、ハンギングドロップ培養などの任意の適切な技術により産生可能である。一部の実施形態で、人工肝臓構築物は、直径100または200〜250または300ミクロンを有していてよい。一部の実施形態で、人工肝臓構築物中の細胞全ての総数は100または1,000〜2,000または10,000(好ましくはオルガノイドあたり約1,500または1,000細胞)とすることができる。一部の実施形態で、人工肝臓構築物は、(i)肝細胞微絨毛、毛細胆管様構造、および/もしくはリソソームのうち少なくとも1つ、2つ、もしくは3つ全てが存在すること、ならびに/または(ii)培養物中で維持すると、少なくとも10、20、もしくは30日の期間中に尿素、アルブミン、および/もしくはアルファ1−アンチトリプシンのうち少なくとも1つ、2つ、もしくは3つ全てが発現することを特徴としていてよい。
【0027】
<人工肝臓構築物を作製する方法>
一部の実施形態で、人工肝臓構築物は、スフェロイド培養法(すなわち、足場不使用の凝集物培養法)を使用して作製可能である。スフェロイド培養法は共培養に有用である場合があり、細胞が自身を明確な層に組織化することが可能である。具体的には、ハンギングドロップ培養法を使用して、人工肝臓構築物を表す自己組織化した細胞凝集物構造を作製することができる。ハンギングドロップ培養法は、培養組成物を含む液滴を培養基板(例えばハンギングドロッププレート)に堆積させるステップと、次いで培養組成物中で細胞を培養するステップとを含んでいてよい。一部の実施形態では、ハンギングドロップ培養法は、任意選択で、細胞を培養する前に培養基板をひっくり返すステップを含んでいてよい。ハンギングドロップ培養法により、細胞が、基板表面からぶら下がる液滴の底部に凝集物を形成することができる。Foty, Ramsey, A Simple Hanging Drop Cell Culture Protocol for Generation of 3D Spheroids, Journal of Visualized Experiments: JoVE, no. 51. doi:10.3791/2720 (2011)。ハンギングドロップ培養法は、液滴中に播種された細胞数に基づき、均一なサイズの組織を産生することができる。例えば、Mehta et al., Opportunities and Challenges for Use of Tumor Spheroids as Models to Test Drug Delivery and Efficacy, Journal of Controlled Release 164 (2): 192−204 (2012)を参照のこと。InSphero(Schlieren、Switzerlan)および3D Biomatrix(Ann Arbor、Michigan、USA)の市販のハンギングドロッププレートを使用して、人工肝臓構築物を生成することができる。ただし、重力強制自己組織化法(例えば、Kelm et al., Trends Biotechnol. 2004, 22:195−202を参照のこと)または微細加工成形を使用する方法(例えば、Yeon et al., PLos One 2013, 8(9), e73345を参照のこと)などの、相互作用する基板の非存在下で密接な細胞間接触を促進する任意の方法も使用可能である。
【0028】
一部の実施形態では、人工肝臓構築物を形成するために機能性の添加剤を培養組成物に添加することができる。ラミニン、コラーゲンIもしくはIV、フィブロネクチン、またはエラスチンなどの細胞外マトリックス(ECM)由来の少量のタンパク質を、培養組成物に添加することができる。一部の実施形態では、肝臓細胞外マトリックス(ECM)由来のタンパク質を培養組成物に添加することができる。細胞結合タンパク質の好ましい組成および濃度は1〜10μg/mLのコラーゲン(例えばI型コラーゲン)である。さらに、一部の実施形態で、培養組成物は10%超、好ましくは20%という高い割合の血清(例えば非動化ウシ胎児血清)を有する。
【0029】
<ヒドロゲル組成物>
上記人工肝臓構築物またはオルガノイドは、単独で使用してもよいし、さらなる用途のために、架橋可能なヒドロゲルなどのヒドロゲルと組み合わせてもよい。適切なヒドロゲルは既知であり、Skardal et al., A hydrogel bioink toolkit for mimicking native tissue biochemical and mechanical properties in bioprinted tissue constructs, Acta Biomater. 25: 24−34 (2015)に記載されるものを含んでいてよいが、これに限定されない。
【0030】
ヒドロゲルは2つの大きなカテゴリー、天然由来のヒドロゲルと、合成ヒドロゲルとに分かれる。天然由来のヒドロゲルおよび合成ヒドロゲルを混合して、ハイブリッドヒドロゲルを形成してもよい。天然由来のヒドロゲルは、細胞株から収集された天然の細胞外マトリックスタンパク質から作製されるMatrigel(登録商標)、ならびにコラーゲンおよびアルギン酸を含んでいてよい。天然由来のヒドロゲルは、脱細胞された組織抽出物を使用していてもよい。細胞外マトリックスは、特定の組織から収集してよく、その組織型の細胞を支持するのに使用可能なヒドロゲル物質と組み合わせることができる。例えば、Skardal et al., Tissue Specific Synthetic ECM Hydrogels for 3−D in vitro Maintenance of Hepatocyte Function, Biomaterials 33 (18):4565−75(2012)を参照のこと。キトサンヒドロゲルは、分解可能かつ数種の異なる細胞型を支持する天然由来のヒドロゲルの一例である。例えば、Moura et al., In Situ Forming Chitosan Hydrogels Prepared via Ionic/Covalent Co−Cross−Linking, Biomacromolecules 12 (9): 3275−84 (2011)を参照のこと。ヒアルロン酸ヒドロゲルも使用可能である。例えば、Skardal et al., A hydrogel bioink toolkit for mimicking native tissue biochemical and mechanical properties in bioprinted tissue constructs, Acta Biomater. 25: 24−34 (2015)を参照のこと。
【0031】
合成ヒドロゲルは、多くの技術を使用して様々な物質(例えば、ポリ−(エチレングリコール))から産生可能である。天然由来のヒドロゲルとは対照的に、合成ヒドロゲルは均一に産生することができ、容易に再現可能かつ特性を明らかにすることができる。しかし合成ヒドロゲルは、天然の細胞外マトリックスに見られる活性部位のような、細胞に対するいくつかの機能性シグナルを欠いていることがあり、それにより合成ヒドロゲルの、細胞を支持する潜在能力が制限される。例えば、Mahoney et al., Three−Dimensional Growth and Function of Neural Tissue in Degradable Polyethylene Glycol Hydrogels, Biomaterials 27 (10): 2265−74 (2006)を参照のこと。ハイブリッドヒドロゲルは折衷案となる可能性があり、これにより特定の微小環境を再構築する能力をよりよく制御することが可能となりうる。細胞外マトリックス分子(例えば細胞外マトリックスタンパク質)などの天然成分を、規定の合成ヒドロゲルと組み合わせることで、より容易に再現可能かつ機能性のヒドロゲルが産生可能である。例えば、Salinas et al., Chondrogenic Differentiation Potential of Human Mesenchymal Stem Cells Photoencapsulated within Poly(Ethylene Glycol)−Arginine−Glycine−Aspartic Acid−Serine Thiol−Methacrylate Mixed−Mode Networks, Tissue Engineering 13 (5): 1025−34 (2007)を参照のこと。
【0032】
<人工肝臓構築物のバイオプリンティング>
一部の実施形態では、上記人工肝臓構築物は、バイオプリンティング技術を使用することによりヒドロゲル(例えば生体適合性ヒドロゲル)と組み合わせることができる。一部の実施形態では、ヒドロゲルは押出し可能なヒドロゲル組成物(または「バイオインク」)とすることができる。ヒドロゲル組成物は、架橋可能なプレポリマーおよび堆積後架橋基を含んでいてよい。架橋可能なプレポリマーには、アクリレートベースの架橋剤(例えばポリエチレン(グリコール)ジアクリレート(PEGDA))が含まれていてよく、堆積後架橋基には、アルキンベースの架橋剤(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)アルキン、ポリエチレングリコール(PEG)8アームアルキン)が含まれていてよい。ヒドロゲル組成物には、チオール化ヒアルロン酸(HA)、チオール化ゼラチン、および未改変HA、ゼラチンおよび/または細胞外マトリックス(ECM)物質(例えば肝臓ECM物質)も含まれていてよい。
【0033】
ヒドロゲル組成物は、チオール−アクリレート結合により調製され、自発的に架橋して、柔軟で押出し可能な物質を生じることができる。バイオプリンティングは、押出し可能なヒドロゲル組成物を堆積させることで実施可能である。一部の実施形態では、ヒドロゲル組成物は堆積の前に、室温および大気圧で硬さ0.05、0.1または0.5〜1、5または10キロパスカル(kPa)、またはそれを超えた数値を有していてよい。バイオプリントされた構造を、ヒドロゲル組成物の硬さを増大させるのに十分な量で、架橋可能なプレポリマーを堆積後架橋基と架橋させることにより目標の硬さにすることができる。一部の実施形態では、架橋させるステップは、ヒドロゲル組成物の硬さを、室温および大気圧で1または5から10、20または50キロパスカル(kPa)、またはそれを超えて増大させることができる。架橋させるステップは、例えば、ヒドロゲル組成物を加熱すること、ヒドロゲル組成物に光(例えば、環境光、UV光)を照射すること、および/またはヒドロゲル組成物のpHを変化させることにより実施可能である。
【0034】
<デバイス>
本発明の人工肝臓構築物またはオルガノイドによるインビトロでの化合物スクリーニングに有用なデバイスは通常、(a)その内部に形成された少なくとも1つのチャンバー(チャンバーは、好ましくは、その内部に形成された入口および出口開口部を含む)を有する基板またはデバイス本体(例えばマイクロ流体デバイス)を用意するステップと、(b)チャンバー内に、少なくとも1つの上記構築物を(単独で、またはヒドロゲルと組み合わせた組成物として)堆積させるステップとにより産生される。堆積させるステップは、バイオプリンティング、ピペッティング、マイクロインジェクション、マイクロ流体による堆積などの任意の適切な技術により実施可能である。デバイスは、「プラグイン」、すなわちポンプ、培養培地貯留容器、検出器などを含むより大きな器具に挿入するためのカートリッジの形態で提供可能である。
【0035】
デバイス本体またはマイクロ流体デバイスは、それ自体が任意の適切な物質または物質の組合せから形成されうる。これらに限定されないが、例には、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアクリルアミド、官能化されたポリエチレングリコール(PEG)(例えばPEGジアクリレート、PEGジアクリルアミド、PEGジメタクリレートなど、またはマルチアーム形態の上記PEGのいずれかなど)を含むPEG、架橋または硬化しうる天然のポリマーまたはタンパク質(例えば、ヒアルロン酸、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、アルギン酸など)、および架橋を支持するための化学基で官能化されたこれらの誘導体、ならびにこれらの組合せが含まれる。デバイス本体は、成形、キャスティング、付加製造(3Dプリンティング)、リソグラフィーなど、およびこれらの組合せを含む任意の適切な方法により形成可能である。
【0036】
<デバイスの保存および運送>
一旦産生されると、カートリッジ形態の上記デバイスは速やかに使用されるか、保存および/または輸送用に調製されることができる。
【0037】
製品を保存および輸送するため、室温(例えば25℃)では流動性の液体であるが冷蔵温度(例えば4℃)ではゲル化または凝固する、水と混合されたゼラチンなどの一時的な保護支持培地をデバイスに添加して、チャンバー、および好ましくは任意の関連する導管も実質的にまたは完全に満たすことができる。任意の入口および出口を、適切な被覆部品(例えば栓)または被覆物質(例えばワックス)で被覆することができる。次いでデバイスを冷却要素(例えば、氷、ドライアイス、熱電冷却装置など)とともに梱包してよく、全てを(好ましくは断熱された)パッケージ中に配置することができる。
【0038】
一部の実施形態では、製品を保存および輸送するため、冷却温度(例えば4℃)では流動性の液体であるが室温(例えば20℃)または体温(例えば37℃)などの暖かい温度ではゲル化または凝固する、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)およびポリ(エチレングリコール)のブロックコポリマーなどの一時的な保護支持培地をデバイスに添加して、チャンバー、および好ましくは任意の関連する導管も実質的にまたは完全に満たすことができる。
【0039】
受け取ったら、エンドユーザーは関連するパッケージおよび冷却要素からデバイスを取り出すだけでよく、(一時的な保護支持培地の選択に応じて)温度を上昇または下降させることができ、任意の口の被覆を外すことができ、シリンジで(例えば、増殖培地で洗い流すことにより)一時的な保護支持培地を除去することができる。
【0040】
<デバイスの使用方法>
薬理学的および/または毒性学的活性についての1種の化合物(または複数の化合物)のインビトロスクリーニング(ハイスループットスクリーニングを含む)に上記デバイスを使用することができる。このようなスクリーニングは、(a)上記デバイスを用意するステップと、(b)人工肝臓構築物に化合物を(例えば、構築物を含むチャンバーを通って流動する増殖培地に添加することにより)投与するステップと、次いで(c)構築物の少なくとも1つの細胞からの、化合物に対する薬理学的および/または毒性学的応答を検出するステップとにより実施可能である。応答の検出は、検出される具体的な1種の応答または一連の応答に応じて、顕微鏡、組織学、イムノアッセイなど、およびこれらの組合せを含む任意の適切な技術により実施可能である。このような1種の応答または複数の応答は、細胞死(老化およびアポトーシスを含む)、細胞増殖(例えば、良性および転移性細胞増殖)、化合物の吸収、分布、代謝、もしくは排泄(ADME)、または生理応答(例えば、少なくとも1つの細胞による化合物産生のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション)、または薬理学的および/もしくは毒性学的活性に関連するその他の任意の生物学的応答とすることができる。
【0041】
本発明は、以下の非限定的な実施例でより詳細に説明される。
【実施例】
【0042】
[A.材料]
<細胞供給源>
肝細胞/胆管細胞は、Triangle Research Labs (6 Davis Drive, Research Triangle Park, North Carolina USA 27709)より製品番号HUCP16として入手した。クッパー細胞は、Life Technologies/ThermoFisher Scientific (81 Wyman Street, Waltham, Massachusets USA 02451)より製品番号HUKCCSとして入手した。肝星細胞は、ScienCell (6076 Corte Del Cedro, Carlsbad, California USA 92011)より製品番号HHSteC/3830として入手した。肝臓類洞内皮細胞は、ScienCellより製品番号HHSEC/5000として入手した。
【0043】
<器官形成培地>
20%熱非動化ウシ胎児血清および10μg/mlラット尾I型コラーゲンを含む肝細胞培養完全培地(Lonza)。培地は以下の通りに調製される。Lonza肝細胞基本培養培地(製品CC3197)500mlに、single−quot添加因子(製品#CC4182)アスコルビン酸、ウシ血清アルブミン(脂肪酸不含)、ヒト上皮増殖因子、トランスフェリン、インスリンおよびゲンタマイシンを製造業者が指定する量で添加する。炎症応答を増強するため、ヒドロコルチゾン添加因子は入れないでおく。この培地に、20%熱非動化premium selectウシ胎児血清(Atlanta Biologicals製品#S11550H)および10μg/ml滅菌ラット尾I型コラーゲン(Life technologies製品#A1048301)を添加する。
【0044】
<3D構築物維持培地>
この培地は、ウシ胎児血清およびラット尾コラーゲンを含まない以外は上記と同様に調製された肝細胞培養完全培地からなる。
【0045】
[B.方法]
肝臓器官構築物は、肝細胞、クッパー細胞、肝星細胞、胆管細胞、および類洞内皮細胞の混合物から生成される。肝細胞の混合物は以前から使用されているが、混合物の本組成物はより長期間作用し、より性能が高い。細胞の数および器官構造の寸法も、インビボでの構造および機能をよりよく表す。具体的には、使用される細胞総数の範囲は100〜10,000、最適なものは約1,000または1,500である。細胞混合物の1つの好ましい組成は、肝細胞、クッパー細胞、肝星細胞、類洞内皮細胞、および胆管細胞がそれぞれ個数で78%:10%:5%:5%:2%である。
【0046】
マイクロ肝臓構造を表す自己組織化した細胞凝集物構造を生成するため、ハンギングドロップ法が使用されてきた。本開示の重要な部分は、肝臓の細胞凝集物の形成を可能にする技術的方法である。多くの細胞株および腫瘍細胞とは異なり、本明細書で開示される細胞混合物は、培養培地で混合してハンギングドロップ中に分配させただけでは凝集物構造を容易に形成しない。本開示は、3D構造を形成させるための、細胞の本混合物用の条件および機能性の添加剤を含む。ラミニン、コラーゲンIもしくはIV、フィブロネクチン、またはエラスチンなどの細胞外マトリックス(ECM)由来の少量のタンパク質が、細胞混合物に添加される。細胞結合タンパク質の好ましい組成および濃度は1〜10μg/mLのコラーゲン(例えばI型コラーゲン)である。さらに、細胞混合物は10%超、好ましくは20%という高い割合の血清、好ましくは非動化ウシ胎児血清を有する。
【0047】
培養物中で約3日後、細胞混合物は直径約200〜250ミクロンの3D構築物に変形する。一旦形成されると、3D肝臓構築物は、血清の有無に関わらず従来の肝細胞維持培地で持続可能となる。3D肝臓構築物は、著しく長い期間の生存、ならびにCYP活性、炎症応答、および肝臓特異的なバイオマーカー産生などの高度に関連する生理的機能などの機能を示した。アルブミン、尿素、およびアルファ−1アンチトリプシンの産生は、3D構築物の安定かつ長期的な培養を示す(以下を参照のこと)。例としてのシトクロム450アイソザイム3A4および2C19の活性は、4週間を超える持続した活性を示している。さらに、肝臓器官構築物は、以下に示すように、リポ多糖(LPS)などの炎症刺激に応答することができる。
【0048】
一旦形成されると、構築物は生体適合性ヒドロゲルに組み込まれ、そこで3D肝臓構築物が懸濁される。ヒドロゲル組成物は肝臓構築物の3D構造を維持するため開発された。従来のECM由来または合成ヒドロゲルでは、肝臓構築物の構造を維持し、生物活性を持続させることができない。Skardal et al., Acta Biomater. 25, 24−34 (2015)に記載される、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)およびポリエチレン−アルキンの2つの成分を使用して、ヤング率40〜100Paを有するヒドロゲルを生成した。3D肝臓構築物がヒドロゲル中に懸濁可能であるため、バイオプリンティングが可能となる。バイオプリンティングにより、アッセイデバイスおよび器具内での、器官構築物の空間配置を制御することができる。
【0049】
[C.結果]
2週齢の肝臓構築物についての基本的な免疫組織化学染色結果を図1に示す。新たに形成された肝臓構築物の電子顕微鏡画像を図2A〜2Bに示す。肝臓構築物の長期的な生存が、図3のCellTiter−Glo ATPアッセイで示される。
【0050】
図4は、人工肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーである尿素の長期的な産生を示す。図5は、人工肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーであるアルブミンの長期的な産生を示す。図6は、人工肝臓構築物による、肝臓バイオマーカーであるアルファ−1−アンチトリプシンの長期的な産生を示す。
【0051】
図7は、2D培養物と比較した、3D肝臓構築物によるジアゼパムのテマゼパムへの長期的な代謝を示す。図8は、2D培養物と比較した、3D肝臓構築物によるジアゼパムのノルジアゼパムへの長期的な代謝を示す。
【0052】
図9は、リポ多糖(LPS)に対する肝臓構築物の長期的な炎症応答を示す。
【0053】
図10aおよび10bは、本発明の実施形態による肝臓構築物の長期的な安定性および生存を示し、図10cは、本発明の実施形態による肝臓構築物のLIVE/DEAD染色結果を示し、図10d〜10jは、本発明の実施形態による肝臓構築物の、組織学的および免疫組織化学的染色結果を示す。図10a:平均オルガノイド直径は28日間を通して一定のままである。図10b:ATPaseの発光測定値で決定したところ、肝臓オルガノイドは28日間を通して代謝的に活性なままである。図10c:LIVE/DEAD染色(14日目に示したもの)により、オルガノイド中での高い細胞生存が示される。緑色−カルセインAMで染色された生存細胞;赤色−エチジウムホモダイマー−1で染色された死滅細胞;直径261μm。図10d〜10j:組織学的および免疫組織化学的染色により、オルガノイド構造および構成が示される。図10d。HおよびE染色により、オルガノイド形態全体が示される。初代ヒト肝細胞はアルブミン発現により特定され(図10e)、細胞膜の周囲に、E−カドヘリン発現により示される上皮の構成を示し(図10f)、コネキシン32(図10g)およびシトクロムP450還元酵素(図10h)も発現する。肝星細胞およびクッパー細胞はそれぞれGFAP(図10i)、およびCD68(図10j)により特定される。紫色−ヘマトキシリンで染色された核;桃色−細胞質;茶色−示した色素;スケールバー−100μm。
【0054】
図11a〜11eは、2D培養物と比較した、本発明の実施形態による3D肝臓構築物の長期的なベースライン肝機能および代謝を示す。ELISAおよび比色分析アッセイで分析した、正規化された、培地への尿素(図11a)およびアルブミン(図11b)の分泌は、2D肝細胞サンドイッチ培養物と比較して、3Dオルガノイド型で劇的に増加した機能的出力を示す。主にCYP2C19およびCYP3A4による、ジアゼパム代謝物であるテマゼパム(図11c)、ノルジアゼパム(図11d)、およびオキサゼパム(図11e)の定量化。統計的有意性:各時点での3Dおよび2Dの比較で、*はp0.05未満。
【0055】
図12は、シトクロムp450アイソフォームによる、ジアゼパムの、テマゼパム、ノルジアゼパム、およびオキサゼパムへの肝臓構築物での代謝を示す。
【0056】
上記は本発明を例示するものであり、これを限定するものととらえるべきではない。本発明は以下の特許請求の範囲で規定され、特許請求の範囲の同等物がそこに含まれるものとする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12