(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873987
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】インサイチュでの金属マトリックス複合材料の積層構築
(51)【国際特許分類】
B22F 3/16 20060101AFI20210510BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20210510BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20210510BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20210510BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20210510BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20210510BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
B22F3/16
C22C38/00 302Z
B22F3/105
B33Y10/00
B33Y80/00
C22C38/54
C22C38/58
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-522510(P2018-522510)
(86)(22)【出願日】2016年11月2日
(65)【公表番号】特表2019-500491(P2019-500491A)
(43)【公表日】2019年1月10日
(86)【国際出願番号】US2016060185
(87)【国際公開番号】WO2017079351
(87)【国際公開日】20170511
【審査請求日】2019年8月21日
(31)【優先権主張番号】62/249,642
(32)【優先日】2015年11月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307611
【氏名又は名称】ザ・ナノスティール・カンパニー・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ディー・タッフィル
(72)【発明者】
【氏名】ハラルド・レムケ
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・イー・マック
【審査官】
瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2014/0190594(US,A1)
【文献】
特開昭58−022359(JP,A)
【文献】
特開昭56−127739(JP,A)
【文献】
特表2017−530250(JP,A)
【文献】
ZHAO, Gao-Min, et al.,"Effect of La2O3 on resistance to high-temperature oxidation of laser clad ferrite-based alloy coatings",SURFACE & COATINGS TECHNOLOGY,2005年,Vol.190,P.249-254
【文献】
VILAR, R., et al.,"Laser-assisted combinatorial methods for rapid design of wear resistant iron alloys",SURFACE & COATINGS TECHNOLOGY,2009年,Vol.203,P.2878-2885
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
C22C 38/00−38/60
JSTPlus/JST7580
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品を層ごとに構築する方法であって、
合金の粒子を提供するステップであって、前記合金が、55.5〜75.2重量%のFe、0.5〜3.0重量%のB、17.0〜22.0重量%のCr、0.3〜3.0重量%のMn、2.0〜5.0重量%のSi、0.0〜0.5重量%のC及び5.0〜10.0重量%のNi、並びに、不可避不純物からなる、ステップと、
基材を提供するステップと、
前記合金の粒子を溶融して溶融合金を生成し、前記溶融合金を103〜108K/秒の速度で冷却して前記基材上に1つ以上の固化層を形成するステップであって、前記1つ以上の固化層のそれぞれが3.0〜200.0ミクロンで形成された厚さを有する、ステップと、
前記合金を800〜1200℃の範囲の温度で30〜1000分間、熱処理するステップと、
を含み、
1つ以上の前記固化層は、ASTM G65−04(2010)の手順Aに従って測定して、175mm3以下の耐摩耗性を有する、方法。
【請求項2】
金属部品を層ごとに構築する方法であって、
合金の粒子を提供するステップであって、前記合金が、54.5〜69.5重量%のFe、0.5〜3.0重量%のB、16.5〜20.5重量%のCr、1.0〜2.5重量%のMn、2.0〜5.0重量%のSi、0.0〜0.5重量%のC及び10.5〜14.0重量%のNi、並びに、不可避不純物からなる、ステップと、
基材を提供するステップと、
前記合金の粒子を溶融して溶融合金を生成し、前記溶融合金を103〜108K/秒の速度で冷却して前記基材上に1つ以上の前記合金の固化層を形成するステップであって、前記1つ以上の固化層のそれぞれが3.0〜200.0ミクロンで形成された厚さを有する、ステップと、
前記合金を800〜1200℃の範囲の温度で30〜1000分間、熱処理するステップと、
を含み、
1つ以上の前記固化層は、ASTM G65−04(2010)の手順Aに従って測定して、175mm3以下の耐摩耗性を有する、方法。
【請求項3】
前記冷却後、前記1つ以上の固化層は、一次樹枝状オーステナイト相を規定する前記元素と、0.1ミクロン未満のラメラ幅を有する初期レベルの樹枝状組織内層状ホウ化物相とを含み、前記熱処理時に、前記ホウ化物相は固まり、前記一次相からの前記元素の0.2ミクロン〜5ミクロンの範囲の直径を有する球状化ホウ化物相への拡散によって成長する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記基材を除去するステップをさらに含む、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶融が、レーザー又は電子ビームで行われる、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記溶融が、レーザーで行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶融が、電子ビームで行われる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記熱処理が、真空、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、又は、不活性ガス及び還元性ガスの混合物を含む雰囲気で行われる、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記熱処理が、真空で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理が、不活性ガス雰囲気で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記熱処理が、還元性ガス雰囲気で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記粒子の直径が、15.0〜70.0ミクロンである、請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記粒子の直径が、20.0〜45.0ミクロンである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属部品が、ポンプ又はポンプ部品、バルブ、モールド、ベアリング、切削工具、フィルター又はスクリーンを含む、請求項1から13の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年11月2日に出願された米国仮出願第62/249,642号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、合金及び金属マトリックス複合材料及び自立した金属マトリックス複合材料を層ごとに調製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
鉄金属は、ドリルパイプハードバンディング、鉱業用トラックベッドライナー、及びボイラーチューブなどの多くの用途でコーティングとして使用され、そこでコーティングは、比較的耐磨耗性の低い部品に耐摩耗(wear及びabrasion)性を提供する。これらの耐摩耗性コーティングは、金属又は金属マトリックス複合材料の何れかであり、それらは、HVOF又はツインワイヤアーク溶射、及びPTAW又はGMAW溶接オーバーレイなどの様々な技術によって基材に適用することができる。
【0004】
耐摩耗性の鉄金属コーティングは、一般に、比較的低いコスト及び比較的高い表面硬度によって特徴付けられ、それは、材料の耐摩耗性を可能にし、下地の基材を保護する。耐摩耗性コーティングとして使用される材料は、基材に接着し、所望の表面性能を提供するように設計されており、そのように、強度及び靭性などの非表面特性については基材に大きく依存する。耐摩耗性のために使用される鉄金属コーティングの例は、炭化クロム、複合炭化物、炭化チタン、炭化バナジウム、及び工具鋼を含む。コーティングが臨界厚さを超えて厚さを増すと、それらは典型的に、コーティング材料の低い靭性及び基材/コーティング材料系の靭性に対する基材の影響の減少により、亀裂を生じる。この亀裂は、自立した部品の積層構築(layer−by−layer construction)においてコーティング材料を使用する能力を著しく制限する。
【0005】
積層構築は、本明細書では、コーティングではなく自立した部品を製造するために材料の層を層ごとに構築するか、又は積層するプロセスとして理解され得る。積層構築は、一般に、付加製造又は3D印刷と呼ばれる。積層構築の例は、レーザーエネルギー源を用いた粉末床溶融結合(PBF−L)又は電子ビームエネルギー源を用いた粉末床溶融結合(PBF−E)、指向性エネルギー堆積(DED)、結合剤噴射(BJ)、シート積層、材料押出、材料噴射、及び液槽光重合を含む。金属とともに使用される主な積層構築プロセスは、PBF−L、PBF−E、DED及びBJを含む。
【0006】
積層構築プロセスは、ステンレス鋼合金、アルミニウム合金、チタン合金、ニッケルベースの合金、及びコバルトクロム合金を含む様々な延性金属から、コーティングよりもむしろ自立した全体の部品を構築する優れた特性を有する。PBF−L、PBF−E、及びDEDなどの金属用の液相積層構築プロセスでは、構築材料は固相から液相(溶融)に移行し、その後固相に戻る(固化)。溶融のために使用されるエネルギー源は、溶融される材料表面の比較的小さな領域に集束することができ、そのように、溶融される材料の体積を比較的小さな体積に制御することができる。大きな固体体積と接触している小さな溶融体積は、比較的急速に固化する特性を有する。この急速固化は、鍛造された金属の特性と比較した場合に、粒径の微細化、過飽和、及び機械的特性の一致又は増加の原因となる。
【0007】
このように構築した部品の機械的特性は、鍛造プロセスと通常同じか又はそれ以上であるが、上述の材料は何れも比較的高い耐摩耗性と靱性との組み合わせを有しておらず、最も高い耐摩耗性を有する材料は一般に、比較的高い耐磨耗性をもたらすために、焼き入れ及び焼き戻し、又は溶体化及びエイジングなどの積極的な熱処理を必要とする。そのような積極的な熱処理は、典型的に、望ましくない歩留まり損失及び部分歪みを増加させる結果となる。
【0008】
ポンプ、バルブ、モールド、ベアリング、フィルター、及びスクリーンなどの使用中の部品の耐久性(寿命)を増加させるために、多くの用途において部品の高い耐摩耗性及び靭性が望まれている。本発明はここで、比較的高い耐摩耗性と靭性との独特の組み合わせを提供する、積層ビルドアップ(layer−by−layer build−up)を介して製造される積層金属材料を提供する合金及び対応する製造手順を特定する。さらに、本明細書の特性は、焼き入れ及び/又は焼き戻しを必要とせず、むしろ加熱及び冷却速度に依存しない低歪みの熱処理を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
比較的高い耐摩耗性及び靭性を有する自立した材料を製造するために、合金に積層構築が適用される。その合金は、B、Cr、Si及びNi、及び任意にC及びMnとともに、少なくとも50.0重量%のFeを含む。合金を用いて層ごとに構築した部品は、初期レベルのホウ化物相を有する。積層構築は、ポンプ、ポンプ部品、バルブ、モールド、ベアリング、切削工具、フィルター又はスクリーンなどの用途に利用され得る金属部品の形成を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本方法は、より具体的には、以下の元素:B、Cr、Si及びNi、及び任意にC及び/又はMnと組み合わされた少なくとも50.0重量%のFe、を含む粒子形態の合金を提供することと、基材を提供することとを含む、金属部品の積層構築を含むことができる。次いで、合金を溶融状態に溶融させ、冷却し、固化層を形成することによって、合金の1つ以上の層を基材上に適用することができ、ここで、固体層のそれぞれは、5.0〜200.0ミクロンで形成された厚さを有する。続いて、合金を熱処理し、場合により、基材を除去して自立した金属部品を形成し、ここで、1つ以上の固体層は、ASTM G65−04(2010)の手順Aに従って測定して、175mm
3以下の耐摩耗性を示す。さらに、冷却後の固化層は、一次樹枝状オーステナイト相(primary dendritic austenite phase)を規定する同定された元素と、0.1ミクロン未満のラメラ幅を有する初期レベルの比較的小さい樹枝状組織内層状ホウ化物相(interdendritic lamellar boride phases)とを含み、加熱時に、樹枝状組織内層状ホウ化物相は固まり、一次相からの元素の約0.2ミクロン〜5ミクロンの範囲の直径を有する比較的小さい球状化した(球のような形状の)ホウ化物相への拡散を含んで成長する。
【0011】
本開示はまた、以下の元素:任意に0.3〜3.0重量%のMn及び0.5重量%までのレベルのCを含む、50.0〜76.0重量%のレベルのFe、0.5〜3.0重量%のB、15.0〜22.0重量%のCr、2.0〜5.0重量%のSi、及び5.0〜15.0重量%のNi、を含む層状形態の合金にも関する。合金は初めに、一次樹枝状オーステナイト相と、0.1ミクロン未満のラメラ幅を有する比較的小さい樹枝状組織内層状ホウ化物相とを含む。次いで、本合金はさらに、層中に最初に存在する比較的小さいホウ化物相から成長した、約0.2ミクロン〜5ミクロンの範囲の直径を有する二次球状化ホウ化物相を含み、本合金はそして、ASTM G65−04(2010)の手順Aに従って測定して、175mm
3以下の耐摩耗性を示す。
【0012】
本開示の上述の及び他の特徴、及びそれらを達成する方法は、添付の図面と関連して本明細書に記載される実施形態の以下の説明を参照することにより、より明らかになり、また、より良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】鉄合金A5粉末粒子のSEM断面顕微鏡写真である。
【
図2】鉄合金A6粉末粒子のSEM断面顕微鏡写真である。
【
図3】PBF−Lによって加工したアズビルド状態の鉄合金A5のSEM顕微鏡写真である。
【
図4】PBF−Lによって加工したアズビルド状態の鉄合金A6のSEM顕微鏡写真である。
【
図5】PBF−Lによって加工したアズビルド状態の合金A5のSEM画像及びEDSスペクトルからなる図である。
【
図6】様々な相内に含まれる主元素Fe、Ni、Si、B、Cr、O、及びMnを示す、PBF−Lによって製造したアズビルド状態の合金A5のSEM画像及びEDS元素マップからなる図である。
【
図7】様々な相内に含まれる主元素Fe、Ni、Si、B、Cr、O、及びMnを示す、PBF−Lによって製造したアズビルド状態の合金A6のSEM画像及びEDS元素マップからなる図である。
【
図8】PBF−Lによって加工し、次いで1100℃で8時間熱処理した鉄合金A5のSEM顕微鏡写真である。
【
図9】PBF−Lによって加工し、次いで1100℃で8時間熱処理した鉄合金A6のSEM顕微鏡写真である。
【
図10】PBF−Lによって加工し、次いで1100℃で8時間熱処理した合金A5のSEM画像及びEDSスペクトルからなる図である。
【
図11】PBF−Lによって加工し、次いで1100℃で8時間熱処理した合金A6のSEM画像及びEDSスペクトルからなる図である。
【
図12】様々な相内に含まれる主元素Fe、Ni、Si、B、Cr、O、及びMnを示す、PBF−Lによって製造し、次いで1100℃で8時間熱処理した合金A5のSEM画像及びEDS元素マップからなる図である。
【
図13】様々な相内に含まれる主元素Fe、Ni、Si、B、Cr、O、及びMnを示す、PBF−Lによって製造し、次いで1100℃で8時間熱処理した合金A6のSEM画像及びEDS元素マップからなる図である。
【
図14】PBF−Lによって加工した、(a)アズビルド状態、(b)1100℃で3時間熱処理した状態、及び(c)1100℃で8時間熱処理した状態の合金A6の顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、初期基材上への連続した金属層の積層ビルドアップによって構築金属構造を提供するための、自立して比較的耐摩耗性で延性があり、及び/又は強靭な鉄系金属材料を構築する方法に関する。積層ビルドアップは、金属合金を溶融させ、冷却し、固化させて、追加の溶融合金層を後に適用するための下地固体層となる材料の層を形成し、続いて再度冷却する、一般的な手順を指す。基材は、積層手順によって形成される構築構造に含まれていてもよく、又は含まれていなくてもよい。従って、自立した金属材料への言及は、本明細書では、基材上で積層ビルドアップを用いて所与の構築構造を形成し、そしてその構造が様々な用途において金属部品として機能し得る状況として理解されるべきである。
【0015】
積層ビルドアップを開始するのに適した基材は、オーステナイト、フェライト、及びマルテンサイト鋼を含むことができ、また、3mm〜100mmの範囲の厚さを有し得る。上述したように、基材は典型的には最終構造の一部として含まれず、構造を構築した後、放電加工(EDM)及び機械的切断(mechanical sawing)を含む様々な技術によって、基材と構造とを分離することができる。
【0016】
本明細書の積層手順は、それぞれが3.0ミクロン〜200.0ミクロンの範囲の厚さを有する個々の層のビルドアップを企図している。そして、この積層手順は、3ミクロンから50.0mmより大きい、より典型的には250.0mmより大きい全体の厚さを有するビルドアップを提供することができる。従って、ビルドアップ層の厚さの適切な範囲は、3.0ミクロン以上である。しかしながら、より一般的には、厚さの範囲は3.0ミクロン〜250.0mmである。
【0017】
本明細書で使用する積層構築では、好ましくは、エネルギー源、典型的にはレーザー又は電子ビームを材料表面上に走査して、エネルギー源によって照射された領域に局所的な材料の層を少なくとも部分的に溶融させる。所望であれば、エネルギー源は、下地材料のある深さを溶融するように調整することもできる。例えば、エネルギー源は、250ミクロンまでの範囲の深さで溶融するように調節することができる。溶融材料は、下地材料と冶金学的に結合し、エネルギー源が離れるにつれて急速に固化する。追加の材料を固化した材料に添加し、次いでエネルギー源を照射して溶融及び固化させる。このプロセスを繰り返すと、構築される部品の厚さが増加する。
【0018】
好ましくは、本明細書の積層構築のための合金は、粒子形態で提供され、1.0ミクロン〜200.0ミクロン、より好ましくは15.0ミクロン〜70.0ミクロン、最も好ましくは20.0ミクロン〜45.0ミクロンの範囲の直径を有する粒子が存在することを意味する。
【0019】
本明細書の合金は、好ましくは、合金A5及びA6から製造される。合金A5は、以下の組成を有する:55.5〜71.5重量%のFe;0.5〜3.0重量%のB;15.0〜20.0重量%のCr;2.0〜5.0重量%のSi;0.0〜0.5重量%のC;11.0〜15.0重量%のNi。合金A6は以下の組成を有する:55.5〜75.2重量%のFe;0.5〜3.0重量%のB;17.0〜22.0重量%のCr;0.3〜3.0重量%のMn;2.0〜5.0重量%のSi;0.0〜0.5重量%のC;及び5.0〜10.0重量%のNi。合金A7は以下の組成を有する:54.5〜69.5重量%のFe;0.5〜3.0重量%のB;16.5〜20.5重量%のCr;1.0〜2.5重量%のMn;2.0〜5.0重量%のSi;0.0〜0.5重量%のC;及び10.5〜14.0重量%のNi。
【0020】
従って、本明細書の合金は、B、Cr、Si及びNi、任意のC及びMnと組み合わせて少なくとも50.0重量%のFeを含む、と評価され得る。好ましくは、Feは50.0〜76.0重量%のレベルで存在し、Bは0.5〜3.0重量%で存在し、Crは15.0〜22.0重量%で存在し、Siは2.0〜5.0重量%で存在し、Niは5.0〜15.0重量%で存在する。C及びMnはともに任意であり、Cは0.0〜0.5重量%のレベルで存在してもよく、Mnは存在する場合には、0.3〜3.0重量%のレベルで存在する。
【0021】
本明細書の鉄系合金は、昇温で液相に形成され、急速に冷却及び固化された場合、構造が、インサイチュで(すなわち、冷却プロセス中に)形成された樹枝状組織内領域において初期レベルの分散した二次ホウ化物相を好ましくは含む過飽和固溶体オーステナイト樹枝状晶を含有するようにされる。冷却速度は、10
3〜10
8K/秒の範囲であり得る。より好ましくは、冷却速度は、10
4〜10
7K/秒の範囲であってもよく、さらに好ましくは、10
4〜10
5K/秒の範囲であってもよい。
【0022】
図1及び
図2は、例示的な鉄合金A5及びA6の粉末微細構造のSEM画像をそれぞれ示す。ナノメートルスケールの樹枝状組織内層状暗相は、一次鋼オーステナイト樹枝状晶マトリックス相によって取り囲まれた、初期の二次M
2Bホウ化物相であり、ここで、MはFe及びCrの混合物を表す。
【0023】
上記の鉄合金が初めに比較的低い耐摩耗性を有すること、ASTM G65−04(2010)の手順Aの耐摩耗性試験において試験したときに、合金A5、A6及びA7がそれぞれ体積損失で466mm
3、391mm
3、及び412mm
3と測定されたことは、注目に値する。本明細書で論じるように、積層手順で二次ホウ化物相の成長を引き起こすと、意外にも著しく改善された耐摩耗性がもたらされる。
【0024】
図3及び
図4は、それぞれPBF−Lによる加工後の鉄合金A5及びA6の代表的なSEM顕微鏡写真を示す。暗い二次樹枝状組織内M
2Bホウ化物相は、急速に固化した同じ合金の粉末粒子に見られるものとほぼ同じサイズ及び形態である。相のサイズは、エネルギー分散分光法(EDS)を伴う光学顕微鏡法及び/又は走査型電子顕微鏡法(SEM)によって決定することができる。
【0025】
図5は、PBF−L加工合金A5のSEM画像と、SEM画像においてスペクトル1(暗相)及びスペクトル2(明相)として定義された2つの異なる位置から取ったEDSスペクトルとを示す。スペクトル1におけるEDSスペクトルは、ホウ素ピークの膝(ほぼ直角の突出部)を示し、暗相におけるホウ素の存在を示している。ホウ素の「膝」はスペクトル2に対するEDSスペクトルには存在せず、明相にホウ素が少ないことを示している。
【0026】
図6及び
図7はそれぞれ、PBF−Lによって製造した合金A5及びA6の(a)SEM画像、及び、該当する場合は、様々な相内に含まれる主元素(b)鉄、(c)ニッケル、(d)シリコン、(e)ホウ素、(f)クロム、(g)酸素、及び(h)Mnの相対百分率を示す元素マップを示す。元素マップは、加速電圧4keV、プローブ電流14μA、及び寿命240秒のJeol JSM−7001F電界放出SEM及びOxford Inca EDSシステムで、エネルギー分散分光法を用いて生成した。元素マップは、各相に存在する元素のより高い百分率をピクセル輝度によって定性的に示しており、ここで、デジタルマップ内の所与のピクセルに対するグレースケール値は、X線検出器に入って元素の分布を示すX線の数に対応する。元素マップは、相分離が少ないか又は全くない元素の均質な分布を示し、元素が急速に固化された積層構築部品の格子構造において過飽和であるか、又はEDSで分解するには小さすぎることを示す。過飽和構造は準安定構造であり、ここでは、金属格子構造内の元素原子が、格子が通常の平衡状態で保持できる量を超えている。
【0027】
過飽和構造は、高い応力状態にあることがあり、従って、制限された靭性を有することがある。積層構築プロセスで製造される分散した比較的硬質な二次ホウ化物相の微細スケール(<1ミクロン)は、相が影響を与える比較的小さい面積のために、低い又は高い靭性を有する材料中の部品の亀裂のない構築を可能にすることが企図されている。構築中に製造される大きな二次相は、広い領域にわたる材料特性の不一致のために、二次相の周りに高い応力集中を引き起こす可能性がある。二次相を取り囲む材料が制限された靭性を有する場合、二次相からの高い応力は、構築中又は構築後に部品の亀裂を引き起こす可能性がある。このように、本発明の鉄合金では、積層構築プロセスにおいて比較的小さな樹枝状組織内二次ホウ化物相を急速に冷却しながら維持することにより、亀裂を回避することが企図されている。
【0028】
比較的小さい二次ホウ化物相は、金属マトリックス複合材料中に比較的高い耐摩耗性及び靱性を提供する際に比較的非効率的である。層ごとに構築した金属マトリックス複合構造は、好ましくは、高温で加熱及び冷却速度に依存しない1段階の熱処理によって、比較的耐摩耗性が高く強靭な構造に転化され得る。上記熱処理の間に、比較的硬質の二次ホウ化物相は、固化して拡散により成長する。二次ホウ化物相を構成する元素の一部は過飽和の一次相から拡散し、上記元素の一次相を枯渇させる。主相からの元素の枯渇は、より希薄でより延性があり強靭な一次相を生成し、それにより、より延性があり強靭な複合材料を生成する。
【0029】
好ましくは、層状形態の本明細書の合金に関しては、上述の熱処理がこうして、耐摩耗性の低下に寄与するFe−Cr−Bを含むことが好ましい層状構造の1つのホウ化物富化相と、延性に寄与するFe−Ni−Siの別の富化相とを成長させて形成してもよい。
【0030】
上記の二相成長を引き起こすための熱処理は、好ましくは、30〜1000分の時間の間、800〜1200℃の温度範囲内であり得、ここで時間は、全体の部分体積が規定された熱処理温度にある時間の量である。熱処理は空気中で行うことができるが、表面酸化を減少させるために、炉雰囲気は真空、不活性ガス(例えばアルゴン、ヘリウム及び窒素)、還元性ガス(例えば水素)、又は不活性ガスと還元性ガスとの混合物であり得る。
【0031】
図8及び
図9は、PBF−Lによって製造した、1100℃での8時間にわたる熱処理後の合金A5及びA6のSEM画像をそれぞれ示す。暗い二次ホウ化物相は明らかに、球状化構造に変形され、
図3及び
図4に見られるような初期の形状及びサイズから成長している。
【0032】
図10及び
図11は、1100℃での8時間にわたる熱処理後の、PBF−L加工合金A5及びA6のSEM顕微鏡写真及びEDSスペクトルをそれぞれ示す。
図10及び
図11のEDSスペクトルは、スペクトル1の暗相において非常によく定義されたホウ素ピークを示し、スペクトル2の明相においてホウ素ピークを示さない。
【0033】
図12及び
図13はそれぞれ、1100℃で8時間にわたり熱処理されたPBF−L加工合金A5及びA6の(a)SEM画像、及び、該当する場合は、様々な相内に含まれる主元素(b)鉄、(c)ニッケル、(d)シリコン、(e)ホウ素、(f)クロム、(g)酸素、及び(h)Mnの元素マップを示す。元素マップは、加速電圧4keV、プローブ電流14μA、及び寿命240秒のJeol JSM−7001F電界放出SEM及びOxford Inca EDSシステムで、エネルギー分散分光法を用いて生成した。本マップは、二次相がホウ素、クロム、及び酸素に非常に富んでおり、一次マトリックス相がFe、Ni、Si及びMnに富んでいることを示す。
図6及び
図7の熱処理前の合金の元素マップと、
図12及び
図13の熱処理後のマップとを比較すると、二次ホウ化物相を構成する元素はマトリックス相から枯渇され、二次相を富化していることが分かる。
【0034】
図14は、PBF−Lによって加工した、(a)アズビルド状態、(b)1100℃で3時間熱処理した状態、及び(c)1100℃で8時間熱処理した状態の合金A6の顕微鏡写真を示す。ホウ化物相は、高温での時間の増加に伴って明らかに成長し、成長が拡散によるものであることを示している。
【0035】
表1は、アズビルド状態及び(1100℃で8時間)熱処理した状態の、PBF−L加工合金A5、A6及びA7の引っ張り伸び、衝撃靱性、及び耐摩耗性値を示す。引っ張り伸び及び衝撃靱性は、材料の靭性の尺度である。引っ張り試験片をASTM E8−13aに従って測定し、非ノッチ衝撃靱性をASTM E23−12c(2012)に従って測定し、耐摩耗性(体積損失)をASTM G65−04(2010)の手順Aに従って測定した。熱処理は、引っ張り伸び、衝撃靱性及び耐摩耗性を増加させることが分かる。層ごとに構築した材料を熱処理することにより、耐摩耗性は合金A5において2.8倍、合金A6において3.6倍、合金A7において2.6倍増加し、伸びは合金A5において2.7倍、合金A6において34.5倍、合金A7において14.7倍増加した。
【0037】
表2は、本発明の合金の例示的な実施例のPBF−L熱処理合金及びPBF−Lに使用される従来の合金の、引っ張り伸び、衝撃靱性及び耐摩耗性の比較を示す。引っ張り伸びをASTM E8−13aに従って測定し、衝撃靱性をASTM E23−12c(2012)に従って測定し、耐摩耗性をASTM G65−04(2010)手順Aに従って測定した。別段の指示がある場合を除き、測定においては非ノッチ衝撃靭性試験片を使用した。
【0039】
本開示の好ましい実施形態を説明してきたが、本開示の精神及び添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、様々な変更、適合及び修正を行うことができることを理解されたい。従って、本開示の範囲は、上記の説明を参照せずに決定されるべきであり、代わりに、添付の特許請求の範囲を参照して、それらの均等物の全範囲とともに決定されるべきである。