特許第6873997号(P6873997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6873997ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6873997
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミドの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/093 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   C01B21/093 Z
【請求項の数】24
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-527802(P2018-527802)
(86)(22)【出願日】2016年12月3日
(65)【公表番号】特表2019-503956(P2019-503956A)
(43)【公表日】2019年2月14日
(86)【国際出願番号】US2016064869
(87)【国際公開番号】WO2017096333
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月28日
(31)【優先権主張番号】62/263,505
(32)【優先日】2015年12月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519348129
【氏名又は名称】エスイーエス ホールディングス ピーティーイー.エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100133503
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 一哉
(72)【発明者】
【氏名】ポシュースタ,ジョセフ,カール
(72)【発明者】
【氏名】トレイシー,リヨン
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/012897(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 15/00−23/00
C07C 1/00−409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法であって、
HFSIガスを生成する条件下で反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することと、
前記反応装置から前記HFSIガスを取り出すことと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記フッ化水素ガスに対して逆流するように前記液体HCSIを添加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
HFSIガスを塩化水素副産物から分離する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記HCSIの少なくとも一部が液相にあり、前記HFSIの大部分が気相にある、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記反応条件が、図3に示されるHFSIの蒸気圧未満であるが、HCSIの蒸気圧を上回る温度及び圧力の条件を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
未反応のHCSIの少なくとも一部を回収する工程を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記液体HCSIが、前記回収された未反応のHCSIの少なくとも一部を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記反応装置が一連の複数の反応チャンバを備え、該反応チャンバの各々が、HCSI及びフッ化水素からHFSIを生成するための反応器と、各反応器から生成される該HFSIガスを回収するためのHFSI凝縮器とを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記HFSIガスを凝縮して液体HFSIを生成することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
液体ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法であって、
HFSIガスを生成する条件下で、反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することであって、なお、該液体HCSIが該フッ化水素ガスに対して逆流するように添加することと、
前記HFSIガスを前記反応装置から取り出すことと、
前記HFSIガスを凝縮して、液体HFSIを生成することと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記反応条件が、HFSIの蒸気圧未満であるが、HCSIの蒸気圧を上回るような温度及び圧力の条件を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
連続プロセスである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記フッ化水素ガスと前記液体HCSIとの添加比率が少なくとも2:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記HFSIガスを前記反応装置から連続的に取り出す、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記反応装置から取り出されるHFSIガスが未反応のHCSIを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記未反応のHCSIを回収して、前記反応装置に添加する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法であって、
HFSIガスと塩化水素ガスとの混合物を生成するような反応温度及び圧力の条件下で、反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することと、
前記反応装置からHFSIガスと塩化水素ガスとの前記混合物を取り出すことと、
を含む、方法。
【請求項18】
未反応のHCSIの大部分が液体として残留する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
HFSIガスと塩化水素ガスとの前記混合物を前記反応装置から連続的に取り出す、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記塩化水素ガスを前記混合物から分離して、精製されたHFSIを生成する工程を更に含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記塩化水素ガスを前記混合物から分離する前記工程が、前記HFSIガスを凝縮して、液体HFSIを生成するとともに、該塩化水素ガスを該液体HFSIから分離する工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記液体HCSIを前記フッ化水素ガスに対して逆流方向で添加する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
連続プロセスである、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記フッ化水素ガスと前記液体HCSIとの添加の化学量論比が少なくとも2:1である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は2015年12月4日に出願された米国仮出願第62/263,505号(その全体が引用することにより本明細書の一部をなす)の優先権の利益を主張する。
【0002】
[連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載]
本発明は、エネルギー省により授与された助成番号DE-EE0007310の下で政府の支援を受けて為されたものである。政府は本発明に或る一定の権利を有する。
【0003】
本発明は、フッ化水素を使用してハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)のフッ素化によりハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
HFSIを製造する多くの方法が存在する。しかしながら、従来方法のうち、HFSIの連続生産に適するものはない。HCSIからHFSIへの転化は、平衡によって制限され得ることが多く、HClの選択的な除去によって、右に移行することができる。例えば、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第8,722,005号を参照されたい。しかしながら、通例、HCSIからHFSIへの良好な転化は、HF還流条件、及び凝縮器において回収されないHClの選択的な除去を用いて実現され得る。この方法は、高い転化率の実現に有効であるが、長い反応時間、それ故、商業規模の生産における大きな反応器を必要とする。フッ化水素を使用する大きな反応器は、安全な運転を確実にするためにかなりの費用を伴う。さらに、HCl排気ガスからHFを回収するのに使用される凝縮器は、冷却を要して低温で運転しなければならない。凝縮器のかかる冷却は、HFSIを製造する全体コストを増大させるため、この方法の商業的な有用性が著しく制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、有効な商業上の実行可能性を得るために、比較的長い反応時間、大きな反応器、及び/又はHFの回収に使用される凝縮器の冷却を要しない方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法は、上述の制限を全てではないが幾つか克服するとともに、無水HFによるHCSIからHFSIへの高い転化率を実現する。これにより、HFSIを製造する他の従来方法と比べて本発明の方法にかなりの商業的利益がもたらされる。本発明の方法は、従来方法よりも遥かに短い時間で高い転化率を有利に実現し、HFSIの大規模生産にも大きな反応器を要しない。
【0007】
反応器ハードウェアのためのより低い資本コストに加えて、本発明の方法において使用され得るより小さな反応器は、有害なHFを含む熱い反応材料の在庫又はその量を劇的に低減させるため、遥かに安全に運転される。本発明の更なる利点は、HFに対するHFSI収率が高く、冷却した凝縮器を要することなくHFを還流させる点である。このため、より大規模の生産でも高価な冷却システムを要しない。
【0008】
本発明の特定の一態様は、ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法を提供する。本方法は、HFSIを生成するのに十分な条件下で反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することを含む。幾つかの実施の形態では、HFSIが気体(例えば蒸気)として生成され、本方法はまた、HFSIガスを反応装置から取り出すことと、分離したHFSIガスを凝縮して、液体HFSIを生成することとを含む。幾つかの実施の形態では、反応温度及び圧力の条件は、図3に示されるように、反応温度と圧力との組合せが、HFSIの蒸気圧未満であるが、HCSIの蒸気圧を上回るように維持される。
【0009】
幾つかの実施の形態では、本方法は、フッ化水素ガスに対して逆流するように液体HCSIを添加することを含む。本方法はまた、生成されるHFSIを任意の塩化水素副産物から分離する工程を含み得る。
【0010】
また他の実施の形態では、本方法はまた、HCSIの少なくとも一部が液相にあり、HFSIの大部分(すなわち、50%超、典型的には少なくとも60%、往々にして少なくとも75%)が気相にあるような反応条件をもたらすことを含み得る。これにより、反応混合物中にHCSIを保持しながら、ガス状生成物としてのHFSIの回収が可能となる。
【0011】
更に他の実施の形態では、未反応のHCSIの少なくとも一部が回収される。回収されたHCSIを反応器に再投入することで、全転化収率を上げることができる。通例、本発明の方法は、HCSIからHFSIへの少なくとも約20%の転化率、典型的には少なくとも約50%の転化率、往々にして少なくとも80%の転化率をもたらす。当然のことながら、本明細書で述べたように、いずれの未反応のHCSIも回収及び再使用することができる。別の実施の形態では、本発明の方法は、HCSIの使用量に対してHFSIに関して少なくとも約50%、典型的には少なくとも約70%、往々にして少なくとも約80%の収率を得る。当然のことながら、これらの収率は「シングル」パス反応である。未反応のHCSIを回収して同じ反応に再利用することによって全体収率を上げることができる。
【0012】
更に他の実施の形態では、反応装置が一連の複数の反応チャンバを備えることができる。このような実施の形態では、各反応チャンバが、HCSI及びフッ化水素からHFSIを生成するための反応器と、各反応器から生成される上記HFSIガスを回収するためのHFSI凝縮器とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】HCSIからHFSIへの連続的フッ素化プロセスを示す本発明の一実施形態の概略図である。
図2】蒸気として排出するHFSI生成物を伴うHCSIからHFSIへの連続的フッ素化を示す本発明の方法の別の実施形態の概略図である。
図3】様々な圧力における沸点測定値を使用したアントワン式に一致する純粋なHFSI及びHCSIの様々な温度における蒸気圧曲線である。
図4】連続的なHFSI生成プロセスのための本発明の1つの特定の方法及び装置の概略図である。
図5】HFSI精留を伴う連続的なHFSIフッ素化プロセスのための本発明の方法及び装置の別の実施形態の概略図である。
図6】HCSI再循環を伴う連続的なHFSIフッ素化プロセスのための本発明の方法及び装置のまた別の実施形態の概略図である。
図7】HCSI再循環のより詳細な図を伴う、HFSIを生成する連続プロセスのための本発明の方法及び装置の更に別の実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、HFを使用してHCSIからHFSIを製造する方法を提供する。本発明の方法は下記反応式に要約することができる:
HCSI + 2HF→HFSI + 2HCl
(式中、HCSIはHN(S02Cl)2(すなわち、ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド)であり、HFSIはHN(S02F)2(すなわち、ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド)である)。
【0015】
HFSIが液体である温度及び圧力で典型的な反応を行う従来方法とは異なり、本発明の方法は生成されるHFSIが気相にある温度及び圧力で行う。幾つかの実施形態では、反応装置に添加される未反応のHCSIの大部分がこの反応条件下で液体として残留する。本発明の方法の利点の幾つかとしては、生成物の分解を伴わないかなり高い生産性(kg/hr/l)又は収率、及びより高い転化率が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、本発明の方法における蒸気(すなわち気体)としてのHFSIの取出しは、合成及び精製の統合プロセスを提供するのみならず、より単純な新たな反応器の構成も可能にする。
【0016】
本発明の一態様は、HFSIを製造する対向流入式反応装置(counter flow reactorapparatus)を提供する。HCSIをHFSIへと転化する本方法は、液体HCSIをHFガスと接触させて、HFSIガス及びHClガスを生成する図1に概略的に図示される。HCSI及びHFSIはそれぞれ37℃及び17℃より高い温度で液体であるため、便宜的なアプローチは、HCSIが反応器カラムの上部で供給され、HF蒸気が下部で供給される対向流配置で反応を実施することである。当然のことながら、反応装置を垂直に配置する必要はないが、液体HCSIが添加されるHFに向かって流れ得る角度とすることができ、その逆も同様である。反応器カラムは、ランダム又は構造化された充填材で充填されるか、又は通例、気液接触及び化学種の交換を向上させる物質移動器に使用される篩板若しくはシーブトレイ等のステージを伴って構成され得る。HFはカラムを通じて降下するHCSIに対して反対に上昇し、反応が起こって、生成されるHClガスはカラム反応器の上部から出て、液体HFSI生成物は下部から出る。この配置は、HCl生成物がHF蒸気によってHFSI生成物から取り除かれるという利点を有する。このため、最大転化率の時点における生成物HFSIは、最大濃度のHFと接触し、これによって完了まで反応の促進が助長される。対向流入操作(例えば、HCSI及びHFの流れを反対方向として、反応物の混和を可能にする)はまた、カラム反応器の上部に入るHCSIにより、カラムを通じて上昇する少量のHFが消費されることから、反応器からのHFの損失を最小限に抑える。HCSI 1モル当たり少なくとも2モルのHFが供給され、過剰なHFが高い転化率、すなわちHFSIの生成を実現するのに有用となり得る。反応速度はより高い温度で加速され得る。温度が上昇するにつれて、HFSI(沸点170℃)の蒸気圧は、十分量のHFSIが、HClが排出する上部口で反応器から出る時点まで増大し得る。HFSI蒸気の損失は、反応器の圧力を増大することによって低減することができる。反応器の圧力が高くなるほど、カラム全体にわたってHFの液相濃度も高くなる。しかしながら、このより高い反応圧力は、場合によっては幾らかのHFがHCSIと反応するのを妨げ、代わりに最後には液体HFSI生成物となるという不利益を有する。更に複雑なことに、HFSI生成物中の過剰なHFを、蒸留又はストリッピングによって分離して、HCSIのフッ素化における再使用のために回収してもよい。
【0017】
本発明の別の実施形態は、HFSI蒸気の回収を伴う対向流入プロセスを含む。図2は、HFSI生成物が反応器の上部で蒸気流として反応器から出る連続的な対向流入プロセスの概略図である。この反応器は、充填材又はステージを含む垂直カラムとして構成されていてもよい。HFSI蒸気が反応器カラムの上部から出ることは、フッ素化反応が運転条件下で可逆的でなければ問題ない。本発明者らは、予期せぬことに、本発明の方法の実行中に、反応が可逆的とならないであろうことを見出した。生成物HFSIは、良好なHFSI収率で流出蒸気流中のHClガスから凝縮(及び分離)することができる。
【0018】
様々な圧力における沸点測定値を使用したアントワン式に一致するHFSI及びHCSIに関する蒸気圧曲線を図3に示す。HFSIは170℃の標準沸点(すなわち1気圧での沸点)を有し、HFSIの分(すなわち蒸気)圧は、約110℃まで下がった周囲圧力でも大きいままである。HCSIの蒸気圧はHFSIのものよりも略2桁小さい。本発明の幾つかの実施形態では、HFSI及びHClがともに、反応媒体から蒸気として選択的に取り出される。HCSI及びHFを反応器(すなわち装置)に供給する包括的な反応システムの特定の一実施形態を図4に図示する。HFが反応器内で消費されると、HFSI及びHClが発生する。図4は、HFSIを液体として凝縮する凝縮器と、分離用の相分離器とを示す。本方法では、HClガスが液体HFSI生成物から除去される。この分離器はまた、HFSI生成物から溶解した残留HCl及び他の揮発分を蒸留除去(strip)(すなわち除去)するために、不活性ガスの供給又は減圧を含み得る。
【0019】
図4の反応器は有益にはまた上記のカラム反応器を備え得る。このアプローチは、HF蒸気が反応中に効率的に使用され、かつ反応器からのその流出がHCSI反応物の対向流によって最小限に抑えられるという利点を有する。未反応のHCSI及び長い生産期間にわたる重い分解産物が存在する場合、それらを反応器の下部から除去することで運転を維持することができる。
【0020】
本方法に対する更なる改良は、図5に示されるように、HFSI生成物中のHCSIの損失を低減するために反応カラムの上方の精留カラムを利用し得る。HFSI生成物中の少量のHCSIは、高純度のHFSIが望まれる場合に塩化物汚染をもたらすことがある。精留セクションは、上記の液体HFSIの還流及び回収並びにHClの分離と併せて凝縮器を備える。低い転化率又は転化していないHCSIの結果であり得る液体副産物、及び長い生産期間にわたる分解産物の可能性も図5に示される。必要であれば、カラムの下部における任意のパージを用いて、これらの望ましくない物質の除去を促すこともできる。
【0021】
図6は本発明の方法の別の実施形態を示す。本実施形態では、システムの反応蒸留セクションにおいて再循環ループを伴う連続的フッ素化反応器が示される。この再循環ループは、HCSIの遥かに高い総濃度で反応セクションの運転を可能にし得る。この運転モードにおいて動態が改善し得る。反応物HCSIがより高い濃度にあることから、HFの利用も本実施形態において改善される。精留セクションによるHFSI生成物の選択的な取出しは、高純度生成物が回収されることを確実にする。この配列の別の利点は、再循環ループ内に触媒を包含させてもよい点である。例えば、Bi(III)、Sb(III)及びAs(III)の塩化物及びフッ化物の塩は、有効なフッ素化触媒として米国特許第8,722,005号(その内容は全て引用することにより本明細書の一部をなす)に開示されている。触媒が低い蒸気圧を有する場合、反応器内におけるその利用可能性は、長期間の運転に対しても保持され得る。再循環ループ反応器のまた別の利点は、再循環ポンプの後に配されるインラインヒーターを使用して、反応システムに熱を加えることができる点にある。このように熱を加えることは、フッ素化が吸熱反応であり、また大きな反応器カラムにおける径方向温度勾配が反応器の性能を低下させる場合に、特に有用となり得る。
【0022】
再循環ループ反応器システムにおける反応蒸留カラムの下方のHCSI槽の包含は、図7に示されるようなセミバッチ式フッ素化を可能にする。本システムでは、HCSIのバッチを槽内に装填することができ、HCSIが再循環し、HCSIが全てHFSIに転化するまでHFを反応器に添加することでHCSIのフッ素化を行う。
【0023】
本発明の別の態様は、液体HCSIとフッ化水素ガスとを混和することによってHFSIを製造する方法を提供する。反応条件は、生成されるHFSIが反応混合物から気体として取り出されるように維持される。HFSIを含む回収された気体は凝縮されて、液体HFSIが生成する一方で、見込まれる他のガス状生成物、例えばHClは気体として残留し得るため、HFSIは精製し易い。
【0024】
記載される本実施形態は、シングルパスにおける良好な収率を伴う連続的フッ素化及びHF原料の有効利用を可能にするアプローチにおいて、無水HFによるHCSIからHFSIへの直接的な転化を可能とするため、反応器からの流出流におけるHFを回収及び再利用する必要性が回避される。記載される本方法は、HCSI及びHFの対向流を使用する。充填層型重力駆動式配置を記載してはいるが、これに限定されるものではないが、HF及び蒸気流がHCSI流に対して逆流するように構成される一連の連続的な撹拌槽型反応器(CSTR)を含む、対向流を確実なものとする他の方法を採用してもよい。
【0025】
本発明の方法を使用したHFSIの収率は、(HCSIの転化に対して)少なくとも約75%、典型的には少なくとも約90%、往々にして少なくとも約(at least about)95%である。本開示全体を通じて、「約」という用語は、或る数値について言及する場合、その数値の±20%、典型的には±10%、往々にして±5%を意味する。
【0026】
本発明の特定の一態様は、ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法を提供する。かかる方法は、HFSIガスを生成するのに十分な条件下で反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することと、反応装置から上記HFSIガスを取り出すこととを含む。幾つかの実施形態では、フッ化水素ガスに対して逆流する方向に液体HCSIを添加する。
【0027】
他の実施形態では、本方法は、例えばHFSIガスを液体HFSIへと凝縮することによって、HFSIガスを塩化水素副産物から分離する工程を更に含む。更に他の実施形態では、未反応のHCSIの少なくとも一部が液相にあり、HFSIの大部分が気相にある。本明細書に使用される場合、「大部分」という用語は、50%超、典型的には少なくとも約60%、往々にして少なくとも約75%、大抵(more often)少なくとも約80%を意味する。更に他の実施形態では、反応条件が、図3に示されるHFSIの蒸気圧曲線の下にあるが、HCSIの蒸気圧曲線の上にある温度及び圧力の条件を含む。
【0028】
更に別の実施形態では、本方法は、未反応のHCSIの少なくとも一部を回収する工程を更に含む。かかる実施形態では、反応に使用される液体HCSIが、回収されたHCSIの少なくとも一部を含む、すなわち、未反応のHCSIが再利用される。別の実施形態では、反応装置が一連の複数の反応チャンバを備え、反応チャンバの各々が、液体HCSI及びフッ化水素ガスからHFSIを生成するための反応器と、各反応器から生成されるHFSIガスを回収するためのHFSI凝縮器とを備える。更に別の実施形態では、本方法は、HFSIガスを凝縮して液体HFSIを生成することを更に含む。かかる実施形態では、副産物HClを液体HFSIから分離することができる。
【0029】
本発明の別の態様は、液体ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法を提供する。本発明の本特定の態様では、本方法は、HFSIガスを生成するのに十分な条件下で、反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することであって、なお、上記液体HCSIが上記フッ化水素ガスに対して逆流するように(又は逆流する方向に)添加することと、上記HFSIガスを反応装置から取り出すことと、上記HFSIガスを凝縮して、液体HFSIを生成することとを含む。幾つかの実施形態では、反応条件が、HFSIの蒸気圧曲線の下にあるが、HCSIの蒸気圧曲線の上にあるような温度及び圧力の条件を含む。図3を参照されたい。他の実施形態において、本方法は連続プロセスである。更に他の実施形態では、上記フッ化水素ガスと上記液体HCSIとの添加の化学量論比が、少なくとも約2:1、典型的には少なくとも約3:1、往々にして少なくとも4:1、大抵少なくとも約5:1となる。
【0030】
更に他の実施形態では、生成されるHFSIガスを反応装置から連続的に取り出す。幾つかの場合、反応装置から取り出されるHFSIガスが未反応のHCSIを含む。多くの場合、未反応のHCSIを回収して、反応装置に添加する、すなわち、再利用する。
【0031】
本発明の更に別の態様は、ハイドロジェンビス(フルオロスルホニル)イミド(HFSI)を製造する方法であって、HFSIガスと塩化水素ガスとの混合物を生成するような反応温度及び圧力の条件下で、反応装置に液体ハイドロジェンビス(クロロスルホニル)イミド(HCSI)及びフッ化水素ガスを添加することと、反応装置からHFSIガスと塩化水素ガスとの混合物を取り出すこととを含む、方法を提供する。幾つかの実施形態では、未反応のHCSIの大部分が液体として残留する。更に他の実施形態では、HFSIガスと塩化水素ガスとの混合物を反応装置から連続的に取り出す。
【0032】
更に他の実施形態では、塩化水素ガスを混合物から分離して、精製されたHFSIを生成する工程を更に含む。幾つかの場合、塩化水素ガスを混合物から分離する工程が、HFSIガスを凝縮して、液体HFSIを生成するとともに、塩化水素ガスを液体HFSIから分離することを含む。
【0033】
更に他の実施形態では、本方法は、液体HCSIを上記フッ化水素ガスに対して逆流方向で添加する。別の実施形態では、本方法は、連続プロセスである。更に他の実施形態では、上記フッ化水素ガスと上記液体HCSIとの添加の化学量論比が、少なくとも約2:1、典型的には少なくとも約3:1、往々にして少なくとも約4:1、大抵少なくとも約5:1となる。また更に別の実施形態では、反応装置から取り出されるHFSIガスが未反応のHCSIを含む。このような実施形態の範囲内の幾つかの事例では、未反応のHCSIが上記HFSIから分離され、反応装置に添加される、すなわち再利用される。HFSIとHCSIとの沸点の差異を利用することによってHFSIはHCSIから分離することができる。
【0034】
本発明の更なる目的、利点及び新規の特徴は、本発明の以下の実施例の検討により当業者に明らかとなるが、これらは限定を意図するものでない。実施例において、推定実施される手順は現在時制で記載し、実験室で行なった手順は過去時制で述べる。
【実施例】
【0035】
実施例1
0.16インチのCannon Pro-Pak(商標)蒸留充填材を充填した長さ61 cm、内径(ID)17.3 mmの垂直ステンレススチール管を、図2に示されるような対向流入式反応器として使用した。反応器カラムの下部から出るいずれかの液体生成物を回収し、また気化したHFを制御速度で供給する槽を下部に取り付けた。HCSI液体は反応器カラムの上部に供給した。反応器を電気加熱テープで全長にわたって加熱し、PI閉回路を用いてヒーターの出力を調節し、反応器カラムの外壁温度を正味175℃に制御した。蒸気は反応器の上部から出て液体回収容器に入った。合計82.2gのHCSIを、約30分の間に反応器を通じて供給した。反応器の上部の排出ラインで液滴を観察したが、この液体は、反応器から直接出た液体ではなく蒸気の凝縮物であることが観察された。58.1 gの液体が反応器の後の液体回収容器から回収され、イオンクロマトグラフィーから、この材料が、HCSIからHFSIへの転化率64%に対する76 wt%のHFSIであることが示された。反応器の下方の槽から液体は回収されなかった。
【0036】
実施例2
液体回収容器において回収されるHFSIを完全に凝縮するために反応器の蒸気排気口に水冷凝縮器を備えるように、実施例1による反応器を改変した。本実験では反応器をおよそ110℃に加熱した。合計88グラムのHCSIを過剰なHFとともに供給した。実験の最後に、イオンクロマトグラフィーによって72 wt%のHFSIであると示された26.6gの凝縮液体が回収された。実験後、57.7 gの液体が、反応器の下方の下部貯留容器(bottom catch vessel)に回収され、これは3 wt%のHFSIであった。蒸気排気口におけるHCSIからHFSIへの転化率は26%であった。
【0037】
実施例3
図5に描かれるようにHCSI供給物が61cmのカラムの中央に投入されるように、反応器を再構築した。充填材の下部から上15 cmの反応器の外壁が165℃となるように反応器の下半分を電気加熱テープで加熱し、上半分は、精留セクションとして運転可能なように断熱した。HFとHCSIとの化学量論流量比約4:1でHFを反応器の下部に投入した。実験の間、299.5 gのHCSIを供給すると、176.7gの液体が、反応器出口の後の液体回収容器及び凝縮器において回収された。この液体は、441 ppmwの極めて低い塩化物レベルを有するものの、それぞれ16700 ppmw及び18217 ppmwの高い硫酸塩及びフルオロ硫酸塩レベルを有した。高い硫酸塩及びフルオロ硫酸塩レベルは、反応器の下部で熱暴走事象を引き起こす望ましくない副反応に由来すると考えられている。これらの事象は、制御が不十分なHCSI流が落下し、また過剰なHFが反応器の下部に存在した場合に観察された。実験後、38.1 gの液体が反応器の下方の槽から取り出された。
【0038】
同じ反応器を再度運転させた。この2回目の運行では、採取した2つのサンプルに関して707 ppmw及び719 ppmwと塩化物レベルが再度低くなった。低い塩化物レベルは、精留セクションが反応器の蒸気排気口からのHCSI蒸気の分離に成功し、またHCSI蒸気をフッ素化させる反応器に戻したことを示唆している。
【0039】
実施例4
実施例2に述べたシステムを使用した。一測定温度のPID制御の代わりに、温度制御を定電力に切り替えた。HF流は、HFとHCSIとの化学量論比が約2:1となるように設定した。これらの変化から、安定状態の回収期間には遥かに安定な温度が得られ、温度はカラムの長さにわたって130℃〜190℃の様々な値をとった。反応器の温度プロファイルがより大きい流量による複数の運行同士間で類似するように、反応器に対する総電力を増大させた。これらの実験に関するイオンクロマトグラフィー分析及びHCSIからHFSIへの転化率に関する結果は、表1に見ることができる。回収された質量から収率が70%より高いことが示された。
【0040】
表1.イオンクロマトグラフィーの結果
【表1】
【0041】
本発明の上述の考察は、例示及び説明の目的で提示されている。上記は、本明細書に開示されている単数又は複数の形態に本発明を限定する意図はない。本発明の記載は、1つ以上の実施形態並びに幾つかの変形形態及び変更形態の記載を含むが、他の変形形態及び変更形態も本発明の範囲内にある、例えば、本開示を理解した後に当業者の技能及び知識内にある場合がある。許容される範囲まで代替的な実施形態を含む権利を得ることが意図され、これには、特許請求されるものに対して代替の、互換可能な、及び/又は均等の構造、機能、範囲、又は工程が、そのような代替の、互換可能な、及び/又は均等の構造、機能、範囲、又は工程が本明細書に開示されているかにかかわらず、またいずれの特許請求可能な主題にも公然と供する意図はなく含まれる。本明細書に引用される全ての参考文献は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【符号の説明】
【0042】
図1
reactor 反応器
図2
minorflow 微量流
図3
pressure 圧力
temperature 温度
図4
reactor 反応器
condenser 凝縮器
separator 分離器
図5
condenser 凝縮器
separator 分離器
rectifying 精留
(HFSI/HCSIseparation) (HFSI/HCSI分離)
reactivedistillation 反応蒸留
図6
condenser 凝縮器
separator 分離器
rectifying 精留
(HFSI/HCSIseparation) (HFSI/HCSI分離)
reactivedistillation 反応蒸留
recirculationpump 再循環ポンプ
図7
condenser 凝縮器
separator 分離器
rectifying 精留
(HFSI/HCSIseparation) (HFSI/HCSI分離)
reactivedistillation 反応蒸留
recirculationpump 再循環ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7