(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の反強磁性固定化層の厚さは5〜15nmの第1の範囲にあり、前記第2の反強磁性固定化層は15〜30nmの第2の範囲である、請求項2に記載の磁気抵抗素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、直線性不規則性が低減され、ヒステリシス挙動が著しく低減され、また、高温および高磁界貯蔵状態の影響が小さいGMR素子またはTMR素子(あるいは任意のスピンエレクトロニクス磁気抵抗素子)を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の態様を理解するために有用な例によれば、磁気抵抗素子は、第1の強磁性層、第2の強磁性層、および第1の強磁性層と第2の強磁性層の間のスペーサ層であって、第1の強磁性層と第2の強磁性層の間の反強磁性結合を可能にするように選択された厚さを有する選択された材料からなるスペーサ層を備える第1の合成反強磁性体(SAF)構造を含む。磁気抵抗素子は、第1の強磁性層、第2の強磁性層、および第1の強磁性層と第2の強磁性層の間のスペーサ層であって、第1の強磁性層と第2の強磁性層の間の反強磁性結合を可能にするように選択された厚さを有する選択された材料からなるスペーサ層を備える第2の合成反強磁性体(SAF)構造をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造の近傍に配置され、かつ、結合された第1の反強磁性層と、第1の合成反強磁性体(SAF)構造および第2の合成反強磁性体(SAF)構造が第1の反強磁性層と第2の反強磁性層の間に配置されるように、第2の合成反強磁性体(SAF)構造の近傍に配置され、かつ、結合された第2の反強磁性層をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と第2の合成反強磁性体(SAF)構造の間に配置された自由層構造をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間に配置された第1の非磁性層と、第2の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間に配置された第2の非磁性層とをさらに含む。第1の非磁性層の材料は、第1の非磁性層の厚さを0.5nmより厚くすることができ、一方、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の所望の部分固定化を可能にするように選択される。
【0013】
いくつかの実施形態では、上記磁気抵抗素子は、以下の態様のうちの1つまたは複数を任意の組合せで含むことができる。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層の材料は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の磁気結合を最大強磁性結合と最大反強磁性結合の間にすることができるように、第1の非磁性層の厚さを0.5nmより厚くすることができるように選択される。
【0014】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の調整可能なRKKY結合を提供するように選択される材料からなる。
【0015】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層はRuからなる。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層の厚さは、約0.9nmと約4.0nmの間である。
【0016】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層の厚さは、約0.1nmと約4.0nmの間である。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第2の非磁性層の材料および厚さは、第2の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の実質的にゼロ磁気結合を可能にするように選択される。
【0017】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第2の非磁性層は、Cu、AuまたはAgからなる。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第2の非磁性層の厚さは、約2.0nmと約3.0nmの間である。
【0018】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造および第2の反強磁性構造は、いずれもPtMnからなる。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造および第2の反強磁性構造は、いずれもPtMnからなる。
【0019】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造はIrMnからなり、また、第2の反強磁性構造はPtMnからなる。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造はIrMnからなり、また、第2の反強磁性構造はPtMnからなる。
【0020】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、第1の合成反強磁性体(SAF)構造および第2の合成反強磁性体(SAF)構造内の磁界方向は、90度隔てるように焼きなまされ、第1の反強磁性層内の磁界方向は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造内の磁界方向と平行になるように焼きなまされ、また、第2の反強磁性層内の磁界方向は、第2の合成反強磁性体(SAF)構造内の磁界方向と平行になるように焼きなまされる。
【0021】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、磁気抵抗素子はスピンバルブを備える。
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、磁気抵抗素子はGMR検知素子を備える。
【0022】
上記磁気抵抗素子のいくつかの実施形態では、磁気抵抗素子はTMR検知素子を備える。
本発明の別の態様を理解するために有用な別の例によれば、磁気抵抗素子を製造する方法は、基板の上に磁気抵抗素子を堆積させるステップを含み、磁気抵抗素子は、第1の強磁性層、第2の強磁性層、および第1の強磁性層と第2の強磁性層の間に配置されたスペーサ層であって、第1の強磁性層と第2の強磁性層の間の反強磁性結合を可能にするように選択された厚さを有する選択された材料からなるスペーサ層を備える第1の合成反強磁性体(SAF)構造を含む。磁気抵抗素子は、第1の強磁性層、第2の強磁性層、および第1の強磁性層と第2の強磁性層の間に配置されたスペーサ層であって、第1の強磁性層と第2の強磁性層の間の反強磁性結合を可能にするように選択された厚さを有する選択された材料からなるスペーサ層を備える第2の合成反強磁性体(SAF)構造をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造の近傍に配置され、かつ、結合された第1の反強磁性層と、第1の合成反強磁性体(SAF)構造および第2の合成反強磁性体(SAF)構造が第1の反強磁性層と第2の反強磁性層の間に配置されるように、
第2の合成反強磁性体(SAF)構造の近傍に配置され、かつ、結合された第2の反強磁性層をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と第2の合成反強磁性体(SAF)構造の間に配置された自由層構造をさらに含む。磁気抵抗素子は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間に配置された第1の非磁性層と、第2の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間に配置された第2の非磁性層とをさらに含む。第1の非磁性層の材料は、第1の非磁性層の厚さを0.5nmより厚くすることができ、一方、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の所望の部分固定化を可能にするように選択される。
【0023】
いくつかの実施形態では、上記方法は、以下の態様のうちの1つまたは複数を任意の組合せで含むことができる。
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層の材料は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の磁気結合を最大強磁性結合と最大反強磁性結合の間にすることができるように、第1の非磁性層の厚さを0.5nmより厚くすることができるように選択される。
【0024】
いくつかの実施形態では、上記方法は、
第1の合成反強磁性体(SAF)構造および第1の反強磁性構造を、第1の焼きなまし温度で、第1の焼きなまし磁界で、第1の焼きなまし磁界方向で、かつ、第1の焼きなまし継続期間で焼きなますステップと、
第2の合成反強磁性体(SAF)構造および第2の反強磁性構造を、第2の焼きなまし温度で、第2の焼きなまし磁界で、第2の焼きなまし磁界方向で、かつ、第2の焼きなまし継続期間で焼きなますステップと
をさらに含み、
第1の焼きなまし磁界方向は選択された磁化方向にあり、
第2の焼きなまし磁界方向は、第1の焼きなまし磁界方向に対して直角であり、
第1の焼きなまし磁界は第2の焼きなまし磁界より大きく、第2の焼きなまし磁界は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造の焼きなまし、または第1の反強磁性構造の焼きなましに影響を及ぼすことなく、第2の合成反強磁性体(SAF)構造の焼きなまし、および第2の反強磁性構造の焼きなましが得られるように選択される。
【0025】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の合成反強磁性体(SAF)構造および第2の合成反強磁性体(SAF)構造は、いずれも2つまたはそれ以上のCoFe層からなる。
【0026】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造および第2の反強磁性構造は、いずれもPtMnからなる。
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の焼きなまし磁界は約1テスラであり、また、第2の焼きなまし磁界は約1テスラの範囲内である。
【0027】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の焼きなまし温度は約295℃であり、第2の焼きなまし温度は約160℃であり、また、第1の焼きなまし継続期間は約1時間であり、第2の焼きなまし継続期間は約1時間である。
【0028】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の反強磁性構造はIrMnからなり、また、第2の反強磁性構造はPtMnからなる。
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の焼きなまし磁界は約1テスラであり、また、第2の焼きなまし磁界は約1テスラの範囲内である。
【0029】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の焼きなまし温度は約295℃であり、第2
の焼きなまし温度は約160℃であり、また、第1の焼きなまし継続期間は約1時間であり、第2の焼きなまし継続期間は約30分である。
【0030】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層の厚さは、約0.9nmと約4nmの間である。
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層は、第1の合成反強磁性体(SAF)構造と自由層構造の間の調整可能なRKKY結合を提供するように選択される材料からなる。
【0031】
上記方法のいくつかの実施形態では、第1の非磁性層はRuからなる。
本発明の以上の特徴ならびに本発明自体は、図面についての以下の詳細な説明からより完全に理解されよう。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を説明する前に、本明細書においては、特定の形状(例えばヨーク形)を有するGMR素子またはTMR素子が参照されることがあることに留意されたい。しかしながら本明細書において説明される技法は、様々な大きさおよび形状に適用することができることは当業者には理解されよう。
【0034】
本明細書において使用されるとき、「異方性」または「異方性の」という用語は、特定の軸または方向であって、追加外部磁界に遭遇しない場合、その特定の軸または方向に対する強磁性層またはフェリ磁性層の磁化がある方向に向く傾向を示す特定の軸または方向を意味している。軸方向異方性は、結晶性効果によって、または形状異方性によって生成されることが可能であり、結晶性効果および形状異方性は、いずれも磁界の2つの等価方向を許容する。また、方向異方性は、隣接する層の中にやはり生成されることが可能であり、例えば隣接する層内の特定の軸に沿った単一の磁界方向のみを許容する反強磁性層によって生成され得る。
【0035】
以上に鑑みて、磁性層内に異方性を導入することにより、外部磁界が存在しない場合のその異方性に沿って整列されるように磁性層の磁化を強制することができることは理解されよう。GMR素子またはTMR素子の場合、方向異方性は、例えば外部磁界に応答して磁性層内に磁界のコヒーレント回転を得る能力を提供し、この能力は、対応する素子のヒステリシス挙動を抑制する特性を有する。
【0036】
本明細書において使用されるとき、「磁界検知素子」という用語は、磁界を検知することができる様々な電子素子を記述するために使用されている。磁気抵抗素子は、このような磁界検知素子の1つのタイプである。
【0037】
本明細書において使用されるとき、「磁界センサ」という用語は、磁界検知素子を使用している、一般的には他の回路と組み合わせた回路を記述するために使用されている。磁界センサは、それらに限定されないが、磁界の方向の角度を検知する角度センサ、電流搬送導体によって搬送される電流によって生成される磁界を検知する電流センサ、強磁性体の近接を検知する磁気スイッチ、強磁性物品、例えば輪形磁石の磁気領域の通過を検知する回転検出器、および磁界の磁界密度を検知する磁界センサを始めとする様々な応用例で使用されている。
【0038】
本明細書において説明される構造および方法は、GMR磁気抵抗素子およびTMR磁気抵抗素子の両方に適用する。しかしながら同じまたは同様の構造および方法を、現在知られているものであれ、あるいは後に開発されるものであれ、他のスピンエレクトロニクス磁気抵抗素子に適用することができることを理解されたい。これは、具体的には、酸化物をベースとするスピンエレクトロニクス構造を含む。
【0039】
ここで
図1を参照すると、グラフ100は、ミリテスラ(mT)の磁界単位のスケールを有する水平軸、および任意の単位の抵抗単位のスケールを有する垂直軸を有する。
曲線102は、理想GMR素子の伝達関数、すなわちGMR素子によって遭遇される抵抗対磁界を表している。伝達関数102は、上側飽和点102bと下側飽和点102cの間に線形領域102aを有する。領域102d、102eは飽和領域である。線形領域102aは理想線形領域であることを理解されたい。さらに、理想GMR素子は、その磁気履歴に無関係に、所与の磁界に対して同じ抵抗を示す。
【0040】
ステップ、例えばステップ104は、GMR素子の実際の伝達関数を表している。飽和点102b、102cを越えると、ステップ104によって表されている実際の伝達関数は、飽和領域102d、102eと一体になる。
【0041】
ステップ104は望ましくない。ステップ104は、GMR素子内のいわゆる自由層内における磁気領域の磁気挙動によって生じる。自由層の挙動については、
図2に関連して以下でより完全に説明される。
【0042】
ステップ104は、間隔が等しく、かつ、ステップの高さが等しい規則的ステップとして示されているが、ステップ104は、間隔が不等で、かつ、ステップの高さ(すなわち振幅)が不等の不規則ステップであってもよい。ステップは、通常、局部ヒステリシスに対応し、また、自由層の再現可能局所回転に相当する。
【0043】
次に
図2を参照すると、従来技術のGMR素子200は、基板の上に配置された複数の層を含む。基板の上側の表面は、
図2の一番下に、最も下側の線として示されている。
図2の左側に、個々の層が機能名称によって識別されている。
図2の右側には、機能層を形成することができる副層の磁気特性が示されている。一般に、磁気材料は様々な磁気
特性を有することができ、また、それらに限定されないが、強磁性、反強磁性および非磁性を含む様々な用語によって分類され得る。様々なタイプの磁気材料についての説明は、本明細書においては詳細にはなされていない。しかしながら、ここでは、強磁性材料は、強磁性材料中の原子の磁気モーメントが、概して、平行で、かつ、同じ方向になるように整列する傾向があり、強磁性材料の非ゼロ正味磁気磁化をもたらす材料である、と言及しておくだけで十分であるとしておく。
【0044】
銅、銀および金のようなほとんどの材料は、正味磁化を示さない反磁性材料である。これらの材料には、印加される(外部)磁界とは逆で、かつ、それに比例する極端に弱い磁化を示す傾向がある。反磁性材料は非磁気材料とも呼ばれる。
【0045】
反強磁性材料は、反強磁性材料中の磁気モーメントが、概して、平行で、かつ、反対方向になるように整列する傾向があり、ゼロ正味磁化をもたらす材料である。
示されているように、従来技術のGMR素子200は、基板の上に配置されたシード層202、シード層202の上に配置された反強磁性固定化層(pinning layer)204、および反強磁性固定化層204の上に配置された固定層(pinned layer)206を含むことができる。固定層206は、第1の強磁性固定層206a、第2の強磁性固定層206c、およびそれらの間に配置されたスペーサ層206bからなり得る。
【0046】
また、従来のGMR素子200は、第2の強磁性固定層206cの上に配置されたスペーサ層208、およびスペーサ層208の上に配置された自由層210を含むことも可能である。スペーサ層206bは非磁性金属層である。また、スペーサ208も非磁性層であり、GMRの場合は金属層であり、あるいはTMRの場合は絶縁層であってもよい。自由層210は、第1の強磁性自由層210aおよび第2の強磁性自由層210bからなり得る。
【0047】
キャップ層212は、GMR素子200を保護するために自由層210の上に配置され得る。
従来技術のGMR素子200の層の厚さの例は、ナノメートルの単位で示されている。従来技術のGMR素子の層の材料の例は、原子記号によって示されている。
【0048】
いくつかの層には、GMR素子200が外部磁界に遭遇しない場合の層の磁界方向の方向を示す矢印が示されている。ページから出ていく矢印は、円の中の点で示されており、また、ページの中に入る矢印は、円の中の十字で示されている。
【0049】
一番下から上に向かって層を取り上げると、シード層202は、上の層の結晶特性に影響を及ぼす基板の上に規則的な結晶構造を提供するために使用される。
反強磁性固定化層204に関して、反強磁性固定化層204内の副層(すなわち層部分)には、右矢印および左矢印によって示されている異なる交互方向を指す磁界を有し、ゼロの正味磁界を有する反強磁性固定化層をもたらす傾向がある。反強磁性固定化層204の頂部表面には、1つの方向、ここでは左に向かって示されている方向を指す磁気モーメントを有する傾向がある。
【0050】
固定層206に関して、第1の強磁性固定層206aには、反強磁性固定化層204の頂部表面に結合する傾向があり、したがって第1の強磁性固定層206a内の磁界は、反強磁性固定化層204の頂部表面における、ここでは左に向かって示されている磁気モーメントに平行に整列され得る。
【0051】
第1の強磁性固定層206aと第2の強磁性固定層206cの間にスペーサ層206b
が存在しているため、第2の強磁性固定層206cには、第1の強磁性固定層206aと反強磁性結合する傾向があり、したがって第2の強磁性固定層206cは、他の方向、ここでは右を指して示されている方向を指す磁界を有する。3つの層206a、206b、206cの組合せは、合成反強磁性構造または層と呼ばれ得る。
【0052】
第1の自由層および第2の自由層210a、210bは、外部磁界が存在しない場合、ページから出る方向を指すそれぞれの磁界を有する。この指示方向は、ページから出る方向指示に沿った特定の異方性を生成することによって達成され得る。その異方性は、GMR素子の形状によって生成され得る。例えば異方性は、ヨーク形状を有するようにGMR素子200(上面図)をパターン化することによって、または結晶異方性または磁気異方性によって生成され得る。ヨーク形状については、
図5に関連して以下でより完全に説明される。ヨーク形状を生成したことにより、自由層210は優先軸(ヨーク軸)を有する。ヨーク軸が基準磁化に対して直角である場合、交差した異方性が達成され、それにより自由層異方性の次数の磁場拡張(field extension of the order of the free layer anisotropy)に対する線形応答が獲得され得る。
【0053】
動作時、従来のGMR素子200が矢印214の方向を指す外部磁界に露出されると、強磁性自由層210a、210b内の磁界は、右に向かって回転し、第2の強磁性固定層206c内の磁界指示方向とますます整列されるようになる(または完全に整列され、すなわち右方向を指す)傾向を示す。しかしながら固定層206内の磁界は反強磁性固定化層によって固定され、回転しない。強磁性自由層210a、210b内の磁界が回転する量は、外部磁界の大きさで決まる。強磁性自由層210a、210b内の磁界と、第2の強磁性固定層206c内の磁界の方向が整列すればするほど、GMR素子200の抵抗が小さくなる傾向がある。具体的には、抵抗には、主として第1の自由層210a内、第2の(Cu)スペーサ層208内、および第2の強磁性(例えばCoFe)固定層206c内で変化する傾向がある。
【0054】
逆に、GMR素子が矢印214とは逆の方向を指す外部磁界に露出されると、自由層210内の磁界は、左に向かって回転し、第2の強磁性固定層206c内の磁界指示方向とますます反整列される(anti−aligned)ようになる(または完全に反整列され、すなわち左方向を指す)傾向を示す。回転する量は外部磁界の大きさで決まる。強磁性自由層210a、210b内の磁界と、第2の強磁性固定層206c内の磁界の方向が反整列すればするほど、GMR素子200の抵抗が大きくなる傾向がある。
【0055】
以上に鑑みて、
図1を簡単に参照すると、外部磁界が存在しない場合、GMR素子200の抵抗は、線形領域102aの中心に存在しており、抵抗は、外部磁界214の方向に応じて、伝達特性曲線102上を右または左へ移動することができる(すなわちより小さくなるか、またはより大きくなる)ことは理解されよう。層の全整列または全反整列が達成されると、GMR素子200は、それぞれ下側飽和領域102eまたは上側飽和領域102dに存在することになる。
【0056】
一般に、強磁性自由層210a、210bには、それらに限定されないが、磁界が第1の方向を指す第1の複数の磁気領域、および磁界が1つまたは複数の他の方向を指す第2の複数の磁気領域を含む複数の磁気領域を自然に有する傾向がある。強磁性自由層210a、210b内の第1の複数の磁気領域は、GMR素子200が外部磁界に露出されない場合、ページから出ていくように示されている自由層210の正味磁界と整列される磁界指示方向を有するが、GMR素子200が磁界に露出されると回転することができる。上で説明したように、第1の複数の磁気領域の磁界指示方向は、外部磁界に応答して回転する。第2の複数の磁気領域には、1つまたは複数の他の方向を指す磁界指示方向を有する
傾向がある。
【0057】
簡潔に言うと、
図1のステップ104に関して、個々のステップは、強磁性自由層210a、210b内の正味磁界が外部磁界に応答してどこを指したとしても(すなわち回転したとしても)、第1の複数の磁気領域に存在しない(例えば第2の複数の磁気領域に存在する)磁気領域のうちの1つまたは複数、すなわち強磁性自由層210a、210b内の正味磁界の方向を指さない磁界を有する磁気領域のうちの1つまたは複数が、強磁性自由層210a、210b内の磁界の正味磁界指示方向と整列されるようになる方向に突然スナップする(すなわちジャンプする)と生成される。しかしながら、強磁性自由層210a、210b内の正味磁界の方向を指さない磁界を有する磁気領域のうちの1つまたは複数は、強磁性自由層210a、210b内の磁界の正味磁界指示方向と整列されるようになる方向によりゆっくり変化することも可能であり、その場合、
図1のステップのうちの1つまたは複数の傾斜は、示されている傾斜より緩やかになるが、それでも依然として望ましくない。したがって自由層210内の正味磁界の方向以外の方向を指す自由層210内の磁気領域の数を少なくすること(すなわち第2の複数の磁気領域内の磁気領域の量を少なくすること)が望ましい。この低減により、ステップ104がより少なくなり、ステップ104がより小さくなり、またはステップ104が存在しなくなる。
【0058】
自由層の正味磁界の方向以外の方向を指す自由層210内の磁気領域の数を少なくするために、すなわちページから出る方向以外の方向を指す磁気領域の数を少なくするために、外部バイアス化磁石が使用され得る。代替として、いわゆる「二重固定」構造を使用してスタック内磁気バイアスを達成するために、複数の層が基本GMR素子200に加えられ得る。
【0059】
次に
図3を参照すると、従来技術の二重固定GMR素子300は、非磁性シード層302、シード層302の上に配置された反強磁性固定化層304、固定化層304の上に配置された固定層306、固定層306の上に配置されたスペーサ層308、およびスペーサ層の上に配置された自由層310を含むことができる。いくつかの構造では、自由層310は、2つの強磁性自由層310a、310bからなり得る。いくつかの構造では、スペーサ層308は非磁性層である。
【0060】
二重固定GMR素子300は、自由層310の上に配置されたスペーサ層312、スペーサ層312の上に配置された第2の固定層314、第2の固定層314の上に配置された第2の固定化層316、および第2の固定化層316の上に配置された非磁性キャップ層318をさらに含むことができる。いくつかの構造では、スペーサ層312は非磁性層である。
【0061】
GMR素子300の層の厚さの例は、ナノメートルの単位で示されている。GMR素子300の層の材料の例は、原子記号によって示されている。
先行技術の二重固定GMR素子300は、第2の固定層314によって生成される静磁界を達成する。第2の固定層314層は、第2の反強磁性固定化層316の底部表面に強磁性結合されており、したがって第2の固定層314内の磁界は、反強磁性固定化層316の底部表面における磁気モーメントと同じ方向、ここではページに入る方向を指して示されている方向を指す。
【0062】
第2の反強磁性固定化層316のために使用される材料は、第1の反強磁性固定化層304のために使用される材料とは異なっている。この方法によれば、2つの材料の異なる阻止温度(blocking temperatures)(IrMnの場合、230℃未満であり、また、PtMnの場合、250℃より十分に高い温度)を利用することにより、2つの層304、316の磁化が独立して操作され得る。
【0063】
第2の固定層314は、ここでは、第1の固定層306の磁界に対して直角になるように、ページに入る方向を指すように示されている方向に配向された磁界を有する。具体的には、第2の固定層314によって生成され、かつ、自由層310によって遭遇される磁界の指示方向は、自由層310の正味磁界の方向とは異なる方向を指す自由層310内の磁気領域の数の低減をもたらし、例えばページから出る方向とは異なる方向を指す磁気領域の数の低減をもたらす。
【0064】
スペーサ層312の厚さは、第2の固定層314と自由層310の間の所望の磁気結合強度を提供するように選択される。いくつかの実施形態では、スペーサ層312のTaの厚さはわずか数オングストロームであり、また、結合は、スペーサ層312中のやはりピンホールを通して生じる。わずか数オングストロームの堆積の厚さは制御が困難であり、また、ピンホール密度も制御が困難であることは理解されよう。したがって第2の固定層314と自由層310の間の磁気結合の量は制御が困難である。
【0065】
GMR素子の場合、スペーサ308は金属非磁性層である(通常は銅)。TMR素子の場合、スペーサ308は絶縁非磁性層である(例えばAl2O3またはMgO)。さもなければGMR素子300は、匹敵するTMR素子と同じ、または同様の層を有することができる。したがってTMR素子は明確には示されていない。
【0066】
次に
図4を参照すると、二重固定GMR素子400の例は、基板の上に配置された複数の層を含む。基板の上側の表面は、
図4の一番下に暗黒の線で示されている。
図4の左側に、個々の層が機能名称によって識別されている。
図4の右側には、機能層を形成することができる副層の磁気特性が示されている。
【0067】
GMR素子400の層の厚さの例は、ナノメートルの単位で示されている。GMR素子400の層の材料の例は、原子記号によって示されている。
一般に、磁気材料は様々な磁気特性を有することができ、また、それらに限定されないが、強磁性、反強磁性および非磁性を含む様々な用語によって分類され得る。これらのタイプの磁気材料の簡単な説明は、上で与えられている。
【0068】
示されているように、例示的GMR素子400は、
図3の先行技術のGMR素子に対して上で説明した層と同じ層のいくつかを含むことができる。
図3の先行技術のGMR素子と同様、例示的GMR素子400は、基板の上に配置されたシード層402、シード層402の上に配置された反強磁性固定化層404、および反強磁性固定化層404の上に配置された固定層406を含むことができる。しかしながらいくつかの実施形態では、固定層406は、第1の強磁性固定層406a、第2の強磁性固定層406c、およびそれらの間に配置されたスペーサ層406bからなり得る。いくつかの実施形態では、スペーサ層406bは非磁気材料からなる。
【0069】
いくつかの他の実施形態では、固定層406は、上記の代わりに、
図3の固定層306と同じ、または同様の1つの固定層からなり得る。
第1の強磁性固定層406aと第2の強磁性固定層406cの間にスペーサ406bが存在しているため、第2の強磁性固定層406cには、第1の強磁性固定層406aと反強磁性結合する傾向があり、したがって第2の強磁性固定層406cは、他の方向、ここでは右を指して示されている方向を指す磁界を有する。上で説明したように、3つの層406a、406b、406cの組合せは、合成反強磁性構造または層と呼ばれ得る。
【0070】
また、例示的GMR素子400は、第2の強磁性固定層406cの上に配置されたスペーサ層408、およびスペーサ層408の上に配置された自由層410をも含むことがで
きる。いくつかの実施形態では、自由層410は、第2の強磁性自由層410bの下に配置された第1の強磁性自由層410aからなり得る。いくつかの実施形態では、スペーサ層408は、非磁気材料(例えばGMRの場合は導電性Cu、またはTMRの場合は絶縁材料)からなる。
【0071】
図3の先行技術のGMR素子300と同様、
図4のGMR素子400は、第2の強磁性自由層410bの上に配置されたスペーサ層412、およびスペーサ層412の上に配置された第2の固定層414をさらに含むことができる。いくつかの実施形態では、第2の固定層414は強磁性材料からなり得る。いくつかの実施形態では、スペーサ層412は非磁気材料(例えばRu)からなる。
【0072】
図4のGMR素子400は、第2の固定層414の上に配置された第2の反強磁性固定化層416をさらに含むことができる。
キャップ層418は、GMR素子400を保護するためにGMR素子400の頂部に配置され得る。
【0073】
いくつかの層には、GMR素子400が外部磁界に遭遇しない場合の層の磁界の方向を示す矢印が示されている。ページから出ていく矢印は、円の中の点で示されており、また、ページの中に入る矢印は、円の中の十字で示されている。
【0074】
いくつかの実施形態では、シード層402はRuまたはTaからなり、また、第1の反強磁性固定化層404はPtMnからなる。いくつかの実施形態では、第1の固定層406は、CoFeからなる第1の強磁性固定層406aからなる。スペーサ層406bはRuからなり、また、第2の強磁性固定層406cはCoFeからなる。いくつかの実施形態では、スペーサ層408はCuからなる(または別法としてはAuまたはAgからなる)。いくつかの実施形態では、第1の強磁性自由層410aはCoFeからなり、また、第2の強磁性自由層410bはNiFeからなる。いくつかの実施形態では、スペーサ層412はRuからなり(または別法としてはAuまたはAgからなる)、第2の固定層414はCoFeからなり、第2の反強磁性固定化層416はPtMnからなり、また、キャップ層418はTaからなる。しかしながら他の材料も可能である。
【0075】
Ru(またはAuまたはAg)からなるスペーサ層412は、スペーサ層412の実現可能な範囲の厚さを可能にし(以下で説明される)、それにより自由層420を部分的に固定することができる。部分固定化については、以下でより完全に説明される。
【0076】
いくつかの他の実施形態では、第1および第2の反強磁性固定化層404および416は、IrMn、FeMnまたは任意の他のタイプの反強磁性材料からなり得る。図にはPtMnまたはIrMnが示されており、また、以下の例にはPtMnが使用されている。いくつかの他の実施形態では、第2の固定層414は、そうではなく、第1の固定層406の副層と同じ、または同様の複数の副層からなり得る。いくつかの他の実施形態では、スペーサ層408は、TaまたはCuからなり得る。
【0077】
スペーサ層412の厚さは、第2の固定層414と自由層410の間の所望の量の(すなわち部分)磁気結合を提供するように選択される。また、スペーサ層412の厚さは、第2の固定層414と自由層410の間の所望のタイプの磁気結合、すなわち強磁性結合または反強磁性結合、あるいは強磁性と反強磁性の間の結合を提供するように選択される。ここでは結合は、強磁性結合になるように示されているが、結合は、スペーサ層412の厚さを選択することにより、反強磁性にすることも、あるいは強磁性と反強磁性の間の結合にすることも可能である。
【0078】
スペーサ層412がRuからなるいくつかの実施形態では、スペーサ層412の厚さは、約0.1nmから約4nmの範囲内になるように選択されるが、製造プロセスの頑丈性のためには約0.9nmと4.0nmの間であること、すなわち反復可能で、かつ、信頼性が高い厚さでスペーサ層412が堆積され得る十分な厚さであることが好ましい。いくつかの実施形態では、スペーサ層412の厚さは0.5nmより厚く、あるいは0.6nm、0.7nm、0.8nm、0.9nm、1.0nmまたは2.0nmより厚く、すなわち
図3の先行技術の二重固定GMR素子300のスペーサ層312の厚さより厚い。
【0079】
CoFeおよびNiFeが同様の磁気特性を有すると見なすと、第1の強磁性自由層410aより上および第1の強磁性自由層410aより下の材料の層は、同様であるが順序が逆であり、すなわちNiFe(またはCoFe)/Ru/CoFe/PtMnであることが認識されよう。しかしながらスペーサ層406bは、周囲の層の間の強力な結合を提供することが望ましく、したがってスペーサ層406bは薄いことが望ましく、一方、スペーサ層412は、周囲の層の間のそれほど強力ではない結合を提供することが望ましく、したがってスペーサ層412は、より厚いことが望ましい。
【0080】
Ruは、Ruの厚さに応じて、周囲の層の間の反強磁性結合または強磁性結合(Ruderman Kittel Kasuya YoshidaすなわちRKKY結合とも呼ばれる)を可能にするため、スペーサ層412にうってつけである。本質的に、Ru材料は、その存在にもかかわらずRuを介した結合を許容する。これは、達成可能な厚さの値の範囲でより厚いRu層412を可能にし、それにより自由層410の所望の部分固定化を達成することができ、また、自由層410の所望の部分固定化を調整することができる。部分固定化については、上でより完全に説明されており、また、以下でより完全に説明される。
【0081】
それとは対称的に、
図3のTaスペーサ層312は、非磁性スペーサ層としてのみ使用され、RKKY結合を提供しないことを理解されたい。本質的に、Taスペーサ層312は、自由層310を固定層314から減結合するだけである。しかしながら、上で説明したように、
図4のRuスペーサ層412は、自由層410と固定層414の間のRKKY結合を提供する。
【0082】
いくつかの実施形態では、Ruスペーサ層412の厚さは、約−50mTと約50mTの間のRKKY結合を提供するように選択される。RKKY結合には、あり得るプロセス変動に関して安定になる傾向があり、すなわち結合の量には、製造プロセスの変化、等々によるRu層の約10パーセントの厚さ変化に対しても一定を維持し、かつ、安定を維持する傾向がある。
【0083】
層402〜410の動作については、
図2および3の同様の層に関連して上で説明されている。
自由層410内の磁界の指示方向と整列した固定磁界指示方向を有する第2の固定層414には、特定の挙動を自由層410内にもたらす傾向がある。具体的には、第2の固定層414内の磁界の指示方向は、自由層の正味磁界の方向以外の方向を指す自由層410内の磁気領域の数の低減、すなわち外部磁界が存在しない場合、ページから出る方向以外の方向を指す磁気領域の数の低減をもたらす。
【0084】
図2に関連して上で説明したように、一般に、強磁性自由層410a、410bには、それらに限定されないが、磁界が第1の方向を指す第1の複数の磁気領域、および磁界が第1の方向とは異なる1つまたは複数の方向を指す第2の複数の磁気領域を含む複数の磁気領域を自然に有する傾向がある。上で説明した第1の方向は、自由層410の上側および下側の表面に平行であってもよい。第1の複数の磁気領域は、GMR素子400が外部
磁界に露出されない場合、ページから出ていくように示されている自由層410の正味磁界と整列される磁界指示方向を有するが、GMR素子400が磁界に露出されると回転することができる。上で説明したように、自由層410内の第1の複数の磁気領域の磁界指示方向は、外部磁界に応答して回転する。第2の複数の磁気領域には、第1の方向とは異なる1つまたは複数の方向を指す磁界指示方向を有する傾向がある。
【0085】
やはり
図2に関連して上で説明したように、
図1のステップ104に関して、個々のステップは、自由層410内の正味磁界が外部磁界に応答してどこを指したとしても(すなわち回転したとしても)、第1の複数の磁気領域に存在しない(例えば第2の複数の磁気領域に存在する)磁気領域のうちの1つまたは複数、すなわち自由層410内の正味磁界の方向を指さない磁界を有する磁気領域のうちの1つまたは複数が、自由層410内の正味磁界の磁界指示方向と整列されるようになる方向に突然スナップする(またはよりゆっくり回転する)と生成される。
【0086】
第2の固定層414は、第1の方向以外の方向、すなわち外部磁界が存在しない場合の自由層410内の正味磁界の方向以外の方向を指す自由層410内の磁気領域の数を少なくするために(すなわち第2の複数の磁気領域内の磁気領域の量を少なくするために)、スペーサ層412を介して自由層410に部分的に磁気結合するように動作することができる。この低減により、ステップ104がより少なくなり、ステップ104がより小さくなり、またはステップ104が存在しなくなる。この低減は、上記第2の複数の磁気領域内の磁気領域の量の低減を含むことができる。
【0087】
部分固定化とは、第2の固定層414と自由層410の間の磁気結合の方が、第1の固定層406と自由層410の間の磁気結合より少ないことを意味する。部分固定化の量は、部分的にはスペーサ層412の材料および厚さによって決定される。
【0088】
PtMn第1および第2の反強磁性固定化層404、416は、いずれも約300℃より高いネール温度および阻止温度を有することができる。高温応用例、例えば自動車応用例におけるGMR素子400の磁気特性の損失を除去するためには、この高い温度が重要である。
【0089】
GMR素子の層は特定の順序で示されているが、他の実施形態では、層404、406(すなわち406a、406b、406c)および408は、それぞれ層416、414、412と交換され得ることを理解されたい。いくつかの実施形態では、
図4に示されているすべての層は、シード層およびキャップ層を除き、
図10に関連して以下で示されるように、一番下から一番上まで順序が逆にされ得る。
【0090】
結合強度、したがって異方性振幅は、自由層410と第2の固定層414の間の非磁性スペーサ層412によって制御される。
図3の先行技術の構造では、極めて薄いTaスペーサ312が使用されている。製造においては、薄いTaスペーサ312の厚さを制御することは困難であり、したがって
図3の第2の固定層314と自由層310の間の磁気結合の量を制御することは困難である。それとは対照的に、
図4の構造は異なる非磁性スペーサ層412を使用し、第2の固定層414と自由層410の間の強力なRKKY結合を可能にしている。スペーサ層412には、Ru、AgまたはAuが使用され得る。
【0091】
RKKY結合は、固定層414と自由層410の間の距離が長くなるにつれて(すなわち非磁性スペーサ層412の厚さが厚くなるにつれて)小さくなり、最大反強磁性結合と最大強磁性結合の間を切り換える。結合の最小(結合の第2の最小と呼ばれる)は、これらの最大と最大の間に出現し、厚さの選択によって結合が調整され得る厚さの範囲で生じる。いくつかの実施形態では、スペーサ層412の材料は、結合の第2の最小(例えばR
uの場合、1.3nm)近辺で選択されることが可能であり、それにより、単に厚さに応じて急激に結合が小さくなるだけの
図2の薄いTaスペーサ312に現在使用されている堆積プロセスよりはるかに優れた再現可能堆積プロセスが得られる。
【0092】
GMR素子の場合、スペーサ層408は金属非磁性層である(通常は銅)。TMR素子の場合、スペーサ層408は絶縁非磁性層である(例えばAl2O3またはMgO)。さもなければGMR素子400は、匹敵するTMR素子と同じ、または同様の層を有することができる。したがってTMR素子は明確には示されていない。
【0093】
次に、
図4の素子と同様の素子が同様の参照名称で示されている
図5を参照すると、特定の実施形態によれば、
図4の磁気抵抗素子400、やはり
図10および11に関連して以下で説明される磁気抵抗素子は、ヨーク500の形状で形成され得る。断面線A−Aは、
図4、10および11の透視図を示す。
【0094】
ヨーク500は、主部分501、主部分501に結合された2つのアーム506、508、およびそれぞれ2つのアーム506、508に結合された2つの横方向アーム512、514を有する。いくつかの実施形態では、主部分501、2つのアーム506、508および2つの横方向アーム512、514は、それぞれ幅(w)を有する。しかしながら他の実施形態では、幅は異なっていてもよい。
【0095】
ヨーク500の長さ(L)およびヨーク500の横方向アーム512、514の長さ(d)は、それぞれヨーク500の幅(w)の少なくともの3倍であり、また、ヨーク500の幅(w)は、約1μmと約20μmの間であってもよい。
【0096】
ヨーク寸法は、例えば以下の範囲内であってもよい。
− ヨーク500の主部分501の長さ(L)は、約10μmと約10ミリメートルの間であってもよい。
【0097】
− ヨーク500のアーム506、508の長さ(l)は、幅(w)の少なくとも3倍であってもよい。
− ヨーク500の幅(w)は、約1μmと約20μmの間であってもよい。
【0098】
ヨーク500のアーム506、508は、主部分501に平行で、全体の長さ(L)の約1/4と1/3の間である長さlを有する横方向アーム512、514に連結されている。
【0099】
一般に、ヨーク形状500を有する磁気抵抗素子400の感度は、幅(w)と共に鈍くなり、また、磁気抵抗素子400の低周波雑音は、幅(w)と共に大きくなる。
ヨーク形状は、主部分501の縦方向の中央領域により良好な磁気均質性を提供する。これは、主として主部分501に沿っているヨーク長の減磁界によるものであり、また、これは、ヨーク500の長さに沿ったゼロ磁界における磁化として理解され得る
図4の自由層410の異方性を誘導する。固定層(例えば
図4の406)がヨークに対して直角の磁界(例えば矢印502)を有する場合、矢印502の方向に外部磁界が印加されると、自由層410の磁化が一様に、すなわち領域をジャンプすることなく回転する。自由層410の磁化の均質な回転は、応答にステップがない応答曲線をもたらす(例えば
図1参照)。
【0100】
GMR素子の場合、スタック全体がヨーク形状で設計され得るが、TMR素子の場合、いくつかの実施形態では、ヨーク形状を有することができるのは自由層のみである。
他の実施形態では、GMR素子またはTMR素子400は、ヨークの形では形成されず
、その代わりに、例えば寸法Lおよびwを有する直線バーの形で形成され、寸法lおよびdに関連する特徴は有していない。バー形GMR素子またはTMR素子の場合でも、依然として断面線A−Aは、
図4のGMR素子400または
図10および11の磁気抵抗素子の断面を表している。
【0101】
次に
図6を参照すると、磁界センサ600は、1つまたは複数の磁気抵抗素子を含むことができる。ここでは、
図4に関連して上で説明したタイプの素子であっても、または
図10および11に関連して以下で説明されるタイプの素子であってもよい4つの磁気抵抗素子が共通基板の上に配置されている。4つの磁気抵抗素子は、ブリッジで配置され得る。他の電子構成要素(図示せず)、例えば増幅器およびプロセッサも共通基板の上に統合され得る。
【0102】
磁界センサ600は、可動磁気対象、例えば磁北極および磁南極を交互に有する輪形磁石602の近傍に配置され得る。輪形磁石602は回転対象である。
磁界センサ600は、輪形磁石の少なくとも回転速度を表す出力信号を生成するように構成され得る。いくつかの構造では、輪形磁石602は、ターゲット対象、例えばエンジン内のカム軸に結合され、検知された輪形磁石602の回転速度は、ターゲット対象の回転速度を表す。
【0103】
磁界センサ600は、回転検出器として使用されているが、他の同様の磁界センサ、例えば
図4、10または11の1つまたは複数の磁気抵抗素子を有する電流センサも実現され得ることを理解されたい。
【0104】
図7は、半導体製造設備を使用して実施されることになる、以下で企図されている技法に対応するフローチャートを示したものであることを理解されたい。本明細書においては「処理ブロック」を表す長方形の要素(
図7の要素704によって代表される)は、プロセスステップを表している。
【0105】
別段本明細書に記されていない限り、説明されているブロックの特定のシーケンスは例示的なものにすぎず、本発明の精神から逸脱することなく変更され得ることは当業者には理解されよう。したがって別段言及されていない限り、以下で説明されるブロックは順序不定であり、可能である場合、ステップは、任意の好都合の順序または望ましい順序で実行され得ることを意味している。
【0106】
ここで
図7を参照すると、上記
図4における二重固定GMR素子を製造するための例示的プロセス700はブロック702で始まり、
図4の全スタック400、または以下の
図10または11の磁気抵抗素子が逐次堆積ステップで堆積される。この堆積は、ブロック704のパターン化プロセスによって継続され得る。パターン化により、例えば
図5のヨーク形状を得ることができる。
【0107】
ブロック704のパターン化の後、ブロック706で、処理されたウェーハに第1の焼きなましが適用され、第1の固定層(例えば
図4の406)内の磁界の方向、およびやはり第1の反強磁性層(例えば
図4の404)内の方向が画定される。典型的には焼きなましは温度T1で実行され、磁界H1がウェーハに平行に、また、例えば
図5の矢印502に平行に印加される。この焼きなましは、例えば295℃における1Tの磁界の下で1時間の継続期間を有することができるが、これらの値は、スタックの組成、すなわち層の材料に適合される。
【0108】
ブロック706のこの第1の焼きなましの後、ブロック708で、第2の固定層(例えば
図4の414)および第2の反強磁性層(例えば
図4の416)の磁化を画定するため
に第2の焼きなましが実行され、この第2の焼きなましは、第1の固定層(例えば
図4の406)内の磁界の方向、および第1の反強磁性層(例えば
図4の404)内の方向に対して直角に配向される第2の固定層内およびやはり第2の反強磁性層内に磁界を提供する。この焼きなましステップは、例えば、T1に等しくてもよい温度T2で、かつ、磁界H1より小さい磁界H2で1時間の継続期間を有することができる。磁界H2は、
図5の矢印504に平行の方向に印加され得る。このステップは、第1の固定層(例えば
図4の406)の磁化方向および値を変えることなく、第2の固定層(例えば
図4の414)の磁化を配向することを意味している。
【0109】
2つのPtMn固定化層404、416を有する
図4の二重固定層構造に対する値の例および値の範囲の例は、以下の表1に挙げられている。
【0111】
次に、
図7の要素と同様の要素が同様の参照名称で示されている
図8および9を参照すると、同様のプロセス800、900が
図7のステップに従ってやはり適用され得るが、示されているように順序が異なっている。
【0112】
プロセス700、800、900のすべてにおいて、第2の焼きなましの間に印加される磁界H2は、H1より小さく、また、別の方向、好ましくはH1に対して直角の方向に印加される。
【0113】
次に、
図4の素子と同様の素子が同様の参照名称で示されている
図10を参照すると、二重固定GMR素子1000は、
図4の層402、406、408、412、414および416を有するが、
図4に関連して上で説明した順序とは逆に積み重ねられている。固定化層416はこの場合も、PtMn、IrMn、FeMnまたは任意の他のタイプの反強磁性材料からなり得るが、図にはPtMnまたはIrMnが示されており、また、以下の例にはIrMnが使用されている。(PtMnは、
図4および7〜9に関連する例に対して使用されている。)
図4の二重固定GMR素子400とは異なり、部分固定化のための上で説明した望ましい特性を提供する、上で説明した非磁性層412は、自由層412の上ではなく、自由層412の下に存在している。
【0114】
固定化層416がIrMnからなる場合、GMR素子1000の反転積重ねは、場合によっては好ましいことを理解されたい。
図4のGMR素子400の場合、固定化層416にIrMnが使用されていると、固定化層416は、恐らくCoFe固定層414の上に堆積されていたことになり、それは望ましくない。IrMnは良好に成長しないこと、すなわちCoFe層の上で成長すると、規則的な結晶構造で成長しないことが識別されている。しかしながらIrMn層416は、シード層402の上では良好に成長する。
【0115】
それぞれ
図4および10の二重固定GMR素子400および1000の場合、層406a、406b、406cは、層406a、406cが反強磁性結合される(すなわち逆方向の磁界を有する)いわゆる「合成反強磁性体」(SAF)構造を形成することを理解されたい。したがって固定層406はSAF構造を形成する。一方、固定層414は単一の層である。
【0116】
固定層として使用されるSAF構造は、単一の層として形成される固定層よりも安定であることが観察されている。具体的には、磁界(例えば180℃、0.2T)を有する極めて高い温度の貯蔵寿命(VTSL:Very high Temperature Storage Life)状態の下では、単層固定層には、VTSL状態が除去された後でも、外部磁界の方向と整列されるようになる傾向、すなわち外部磁界の方向に向かって回転する傾向があり、したがって最初に焼きなまされた方向から回転し得る。この望ましくない回転は、GMR素子の感度を鈍くすることがあり、さらにはその動作特性曲線の部分にわたってGMR素子が無感覚になることがある。
【0117】
それとは対照的に、固定層として使用されるSAF構造は、より安定であり、同じVTSL状態が存在してもそれほどには回転せず、より容易に元の位置に戻る(すなわちヒステリシスが小さい)傾向を示すことも観察されている。そのために、以下で説明される
図11では、
図4および10の単層固定層414は、SAF構造に置換され得る。したがって自由層410は、2つの固定層として使用される2つのSAF構造で取り囲まれ得る。
【0118】
次に、
図4および10の素子と同様の素子が同様の参照名称で示されている
図11を参照すると、二重固定GMR素子1100は、
図10の単層固定層414がSAF構造1102に置換されていることを除き、
図10の二重固定GMR素子1000と類似している。いくつかの実施形態では、SAF構造1102は、第1の強磁性固定層1102a、第2の強磁性固定層1102c、およびそれらの間に配置されたスペーサ層1102bからなり得る。いくつかの実施形態では、スペーサ層1102bは非磁気材料からなる。
【0119】
自由層410は、いずれもSAF構造である固定層406、1102によって取り囲まれていることを明確にされたい。スペーサ層412、408は、自由層410と、それぞれSAF構造1102、206の間に配置されている。
【0120】
また、反強磁性固定化層416の上側の表面は、
図10の固定化層416の上側の表面とは逆の方向の磁界を有することをも明確にされたい。
2つのSAF構造内のスペーサ層406b、1102b(本明細書においては非磁性層とも呼ばれる)は、周囲の強磁性層406a、406bと1102a、1102bの間の強力な反強磁性結合をもたらすように選択される材料および厚さを有する。
【0121】
二重固定GMR素子1100は、VTSL状態に関して、
図10の二重固定GMR素子1000または
図4の二重固定GMR素子400より高い安定性を有することが観察されている。
【0122】
図10の二重固定GMR素子1000の場合と同様、部分固定化のための上で説明した望ましい特性を提供する、上で説明した非磁性層412は、自由層412の上ではなく、自由層412の下に存在している。しかしながら他の実施形態では、キャップ層418とシード層402の間のすべての層は、その位置が反転され得る。
【0123】
シード層402およびキャップ層418以外のすべての層の反転積重ねは、
図4の二重固定GMR素子と同様ではあるが、様々な層が反転され、さらに
図4の固定層414が図
11のSAF構造1102に置換された二重固定GMR素子を提供することができることを明確にされたい。
【0124】
図4、10および11には特定の層厚さが示されているが、いくつかの層の厚さは、より敏感な二重固定GMR素子を提供するために操作され得ることは理解されよう。
上記
図7を簡単に参照すると、PtMn固定化層404およびPtMn固定化層416、すなわち2つのPtMn固定化層を有する
図11の二重固定層構造を焼きなますための典型的な値が以下の表2に示されている。
【0125】
表2の場合、また、
図11の二重固定GMR素子の場合、温度T1、磁界H1および継続期間1は、PtMn反強磁性層404およびSAF構造406の焼きなましを意味している。温度T2、磁界H2および継続期間2は、PtMn反強磁性層416およびSAF構造1102の焼きなましを意味している。
【0127】
上記
図7をもう一度簡単に参照すると、PtMn固定化層404およびIrMn固定化層416を有する
図4、10および11の二重固定層構造を焼きなますための典型的な値が以下の表3に示されている。
【0128】
表3の場合、また、
図4および10の二重固定GMR素子の場合、温度T1、磁界H1および継続期間1は、PtMn反強磁性層404および固定層406の焼きなましを意味している。温度T2、磁界H2および継続期間2は、IrMn反強磁性層416および関連する固定層414の焼きなましを意味している。
【0129】
表3の場合、また、
図11の二重固定GMR素子の場合、温度T1、磁界H1および継続期間1は、PtMn反強磁性層404および固定(SAF)構造406の焼きなましを意味している。温度T2、磁界H2および継続期間2は、IrMn反強磁性層416および固定(SAF)構造1102の焼きなましを意味している。
【0131】
上では二重固定GMR素子が説明されているが、二重固定構造は、追加固定化層および/または固定層を有する構造の一部であってもよいことを理解されたい。
本明細書に記載されているすべての参考文献は、参照によりそれらのすべてが本明細書に組み込まれている。
【0132】
以上、本特許の主題である様々な概念、構造および技法を例示する働きをしている好ましい実施形態について説明したが、これらの概念、構造および技法を組み込んだ他の実施形態が使用され得ることがもはや明らかであろう。したがって本特許の範囲は、説明されている実施形態に限定されてはならず、むしろ以下の特許請求の範囲の精神および範囲によってのみ制限されるべきものとする。