【実施例】
【0293】
ここで、本発明の例示的実施形態を詳細に参照する。特に、以下の実施例は、バイオワイヤ(実施例1、単ワイヤ式組織培養実施形態)、バイオチューブ(実施例2、灌流可能なワイヤの組織培養実施形態)、バイオロッド/バイオワイヤII(実施例3、収縮力組織培養実施形態)、バイオブランチ/アンギオチップ(実施例4、血管形成された組織培養実施形態)、アンギオチューブ(実施例5、灌流可能な収縮力組織培養実施形態)と呼ぶことができる本発明の5つの例示的実施形態を開示する。本発明を例示的実施形態と共に説明するが、それが本発明をこれらの実施形態に限定することを意図するものではないことが理解される。それとは反対に、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲内に含まれるものとして、実施形態の代替物、改変物、組合せ、及び等価物を包含することが意図される。
【0294】
(実施例1)
バイオワイヤ
例示的単ワイヤ式実施形態(すなわち、バイオワイヤ)の構造、調製、及び使用
第1の実施形態では、本発明は、ウェル又はチャネル、チャネルの長さにわたって支持された、又は吊り下げられた長手足場又は支柱を有するバイオリアクターを含む三次元組織を増殖させるためのバイオリアクターデバイスに関し、ここで、バイオリアクター及びチャネルは、長手足場の周囲に3D組織鎖を形成するのに十分に播種された細胞を受け取るように構成される。様々な実施形態では、長手足場は、ポリマーフィラメント、例えば、POMac(ポリ(オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸)又はその他の任意の好適なポリマー足場材料であってもよい。
【0295】
心臓細胞(又は他の電気刺激された細胞)を含む実施形態では、バイオリアクターを、バイオリアクターのチャネルにわたる電界を生成するように構成された電極を含むように更に構成することができる。電界の方向は、任意の方向にあってよいが、好ましくは、チャネル(及び得られる組織鎖)の長さに対して平行である、又はチャネル(及び得られる組織鎖)の長さに対して垂直である方向にある。
【0296】
本明細書で用いられる場合、本発明の第1の実施形態を、それだけに限定されないが、組織鎖自体(すなわち、本明細書に記載のバイオリアクターデバイス上で増殖する細胞)又は組織鎖とバイオリアクターとを一緒に含む系を指してもよい「バイオワイヤ」と呼ぶことができる。また、バイオワイヤを、組織鎖自体、又は組織鎖と、組織鎖が増殖した、若しくは配置されたバイオリアクターデバイスとを含む系の両方を包含する、BIOWIRE(商標)のその市販名として本明細書で呼ぶこともできる。この実施形態では、デバイスを、複数の三次元組織鎖を同時に増殖させることができるような、複数のバイオリアクターチャネルと長手足場とを含む構成にスケールアップすることができる。
【0297】
この第1の実施形態はまた、バイオリアクター中で組織鎖を増殖させるための方法、三次元組織鎖自体、バイオリアクターと増殖した組織鎖の両方を含む系、並びにそれだけに限定されないが、(a)実験的薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の有効性及び安全性(毒性を含む)の試験、(b)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の薬物動態及び/又は薬力学の定義付け、(c)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の特性及び対象に対する治療効果の特徴付け、(d)新しい薬理学的薬剤のスクリーニング、(e)損傷組織及び/又は患部組織を処置するための再生医療における使用のための埋め込み型の工学的に作製した組織の提供[例えば、電気伝導の欠陥を有する患者を含む心疾患状態を研究するための本開示の組織構築物、デバイス、及び/又は系の使用(iPSC-CM)]、並びに(f)個別化医療を含む様々な適用において組織鎖(若しくは組織鎖を含む系)を使用及び/又は試験する方法に関する。この実施形態では、デバイスを、6ウェル、12ウェル、24ウェル、96ウェル、384ウェル、及び1536ウェルプレート等のマルチウェルプレートで構成することができる。
【0298】
図2a〜
図2bは、開示されるデバイスの一例の略図を示す。この例示的デバイスは、組織鎖を生成するのに好適であってよく、ここで、デバイスは組織中での細胞の整列及び伸長を促進することができる特徴を含む。
【0299】
例示的デバイスは、組織培養のために播種された細胞を受け取ることができる長手バイオリアクターチャネルを含んでもよい。長手足場を、チャネルの長さにわたって支持する(例えば、吊り下げる)ことができる。足場は、足場の長さに沿って組織構造を形成させるための種細胞のための支持体として働くことができる。足場とチャネルの構成は、組織の培養中の細胞の整列及び伸長を可能にし得る。
【0300】
図2aは、微細製作されたバイオリアクターとしてのデバイスの例示的設計を示す。この例においては、デバイスは、足場として、バイオリアクターチャネル又はウェル中に吊り下げられた縫合糸(例えば、6-0縫合糸)鋳型を含む。デバイスを、好適な微細製作技術を用いて製造し、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)等の任意の好適な材料から作製することができる。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリスチレン又はPOMac等の他のポリウレタンを含む他の材料を用いることができる。例示的な寸法を図面中に示すが、他のサイズも好適であり得る。
【0301】
図2bは、例示的デバイスを用いた、3D組織鎖、本実施例では、心筋細胞鎖の生成における例示的工程を示す。Iでは、足場(例えば、外科縫合糸)を、チャネルの中心に置いた。IIでは、I型コラーゲンゲル中の心筋細胞懸濁液を、縫合糸の周囲で主要チャネル中に播種した。IIIでは、hESC-心筋細胞の事前培養物をチャネル中に導入し、所定の時間長にわたって培養した。細胞がゲルを再モデリングし、縫合糸の周囲で収縮することができるためには、7日の時間長が好適であることがわかった。IVでは、得られる組織鎖は、所定の時間後に安定であり、デバイスから除去することができる。
【0302】
種細胞懸濁液をデバイスに供給するゲルは、コラーゲン又はコラーゲン由来材料等の、送達される細胞を支持することができる任意の好適なゲルであってもよい。ゲルはまた、それだけに限定されないが、炭水化物、タンパク質及び/又はアミノ酸、線維芽細胞成長因子(FGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ベータ-神経成長因子(BNGF)、インターロイキン(例えば、IL-4、IL-2、IL-6、IL-18、IL-15、IL-1)、サイトカイン、IL-6、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、インターフェロンガンマ(IFN-ガンマ)、上皮成長因子(EGF)、組換えヒト肝細胞(RHH)、組換えヒトインスリン(RHI)等の、様々な成長因子、細胞培地成分、及び/又は栄養素を含有してもよい。当業者には理解されるように、成長因子は、バイオリアクター中で培養される特定の組織にとって特異的、例えば、心臓特異的又は肝細胞特異的成長因子であってもよい。そのような因子は、当分野で周知である。
【0303】
例示的デバイスを、ソフトリソグラフィ技術等の任意の好適な技術を用いて製作することができる。一例では、2層SU-8(Microchem Corp.社)マスターを用いて、PDMSを成型した。簡単に述べると、デバイスの特徴を、2層設計に対応する2フィルムマスク(CADART)上に印刷した。SU-8 2050を4インチのシリコンウェハー上でスピンし、焼き、第1層マスクの下でUV光に曝露して、縫合糸チャネル及び厚さ185μmのチャンバーを含む第1層を作出した。厚さ115μmの厚さのチャンバーのみを含む第2層を、頂部でスピンした。更に焼いた後、第2層マスクを、第1層の上で特徴に対して整列させた後、UV曝露した。最後に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(Doe & Ingalls Inc.社)を用いてウェハーを現像した。次いで、PDMSをSU-8マスター上に投入し、70℃で2時間焼いた。デバイスを、足場、本実施例では、細胞懸濁ゲルを添加することができるチャネル中に吊り下げられた(例えば、中心に)、外科縫合糸の小片を保持するように構成した。
【0304】
ある特定の材料、技術及び寸法が上に記載されるが、例示的デバイスのために他の好適な材料、技術及び寸法を用いることもできる。外科用絹製縫合糸が記載されるが、他の長い材料[例えば、ポリ(グリセロールセバケート)、POMac、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、様々なポリウレタン並びにそのコポリマー]等の他の支持体を、組織鎖の培養を支援するための足場として用いることができる。
【0305】
B.例示的バイオワイヤ組織培養系の実験的試験
成熟し、鼓動しているラット及びヒトの心臓組織を、実施例1Aのデバイスを用いて生成し、生成された組織を、機能的及び構造的特性について評価した。
【0306】
例示的方法及び分析
新生児ラット心筋細胞を、以前に記載
21のように、及びUniversity of Toronto Committee on Animal Careにより認可されたプロトコールに従って、2日齢の新生児Sprague-Dawleyラットから取得した。培養培地は、10%(v/v)のウシ胎仔血清、1%の[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸](HEPES)、100U/mlのペニシリン-ストレプトマイシン、1%のグルタミン、及び残りのDulbeccoの改変Eagle培地を含有していた。
【0307】
用いた心筋細胞は、2つの異なるヒト胚性幹細胞株(hESC、Hes2及びHes3)並びに2つの異なるhiPSC株(CDI-MRB及びHR-I-2Cr-2R)から誘導されたものであった。hESC株とhiPSC株HR-I-2Cr-2Rの両方を、記載
2、4のように維持した。胚様体(EB)を、以前に記載
2、4のように、心血管系列に分化させた。簡単に述べると、EBを、BMP4(1ng/ml)を含有するStemPro-34 (Invitrogen社)培地中での培養により生成した。1日目に、EBを収獲し、誘導培地[StemPro-34、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;2.5ng/ml)、アクチビンA(6ng/ml)及びBMP4(10ng/ml)]中に懸濁した。4日目に、EBを誘導培地から収獲し、血管内皮成長因子(VEGF;10ng/ml)及びDKK1(150ng/ml)を添加したStemPro-34中で再培養した。8日目に、培地を再度交換し、実験期間にわたってVEGF(20ng/ml)及びbFGF(10ng/ml)を含有するStemPro-34中でEBを培養した。培養物を最初の12日間については低酸素環境(5%CO
2、5%O
2)で維持した後、残りの培養期間については5%CO
2に移動させた。特定の細胞学的分析及び電気生理学的分析のために、20日目(EBd20)並びに34日目(EBd34)及び40〜44日目(EBd44)で組織中への播種のためにEBを解離させた。CDI-MRB hiPSC由来心筋細胞を、Cellular Dynamics International社から購入し、解凍の直後に組織産生のために用いた。
【0308】
新生児ラット単離物からの心臓細胞を最初に、4.5μg/mlグルコース、1%(v/v)HEPES、10%(v/v)Matrigel(BD Biosciences社)、及び2μg/ml NaHCO
3を添加したI型コラーゲン系ゲル[1N NaOH及び製造業者により記載された10×M199培地で中和された2.5mg/mlのラット尾部I型コラーゲン(BD Biosciences社)]中に2億個/ml(別途特定しない限り)で懸濁した。次いで、懸濁された心臓細胞を、例示的デバイスの細胞培養チャネル中に播種した(組織鎖あたり3μl)。ゲル化を誘導するために37℃で30分間インキュベートした後、適切な培地を添加した。心臓組織鎖を、2〜3日毎に培地交換しながら、最大で14日間、培養物中で保持した。異なる細胞密度(1億個及び2億個/ml)から開始する心臓組織鎖を播種して、細胞播種密度の効果を試験した。コラーゲン系ゲルを、心臓細胞を充填することなく例示的デバイスの細胞培養チャネル中に播種して、無細胞対照として用いた。非常に長い心臓組織鎖を、上記と同様の様式で製作された5cm長のバイオリアクターを有する例示的デバイスを用いて生成し、新生児ラット心筋細胞を播種した。播種後、光学顕微鏡(Olympus社CKX41)を用いて毎日(n=3/群)、組織鎖の明視野画像を撮影し、5つの異なる位置での組織鎖の直径を、画像分析を用いて平均した。
【0309】
ヒト心臓組織鎖については、上記のように生成された20日目のEBを、ハンクス平衡塩溶液(NaCl、136mM;NaHCO
3、4.16mM;Na
3PO
4、0.34mM;KCl、5.36mM;KH
2PO
4、0.44mM;デキストロース、5.55mM;HEPES、5mM)中のコラゲナーゼI型(1mg/ml;Sigma社)及びDNAse(1mg/ml、CalBiochem社)中、37℃で2時間インキュベートした。EBを遠心分離(800r.p.m.、5分)し、トリプシン(0.25%、Gibco社)と共に37℃で5分間インキュベートし、穏やかにピペッティングして、細胞を解離させた。解離後、細胞を遠心分離(1,000r.p.m.、5分)し、計数し、0.5×10
6個の細胞/0.5cmの長さの鎖で播種した。この比率を、より長い組織鎖の生成のために維持した。細胞懸濁液を例示的デバイスの主要チャネル中にピペッティングすることにより、細胞をI型コラーゲンゲル[4μl/0.5cmワイヤ長;1X M199培地+10%の成長因子を減少させたMatrigel(BD Biosciences社)中の、24.9mMグルコース、23.81mM NaHCO
3、14.34mM NaOH、10mM HEPES中の2.1mg/mlのラット尾部I型コラーゲン(BD Biosciences社)]中に播種した。CDI-MRB hiPSC由来心筋細胞を解凍し、計数し、hESC由来心筋細胞と同じ濃度で播種した。播種後、細胞を7日間、培養物中で保持して、縫合糸の周囲にコラーゲンマトリックスを再モデリング及び集合させた。
【0310】
異なる電気刺激条件を、以前に記載
2のように、ラット心臓組織鎖に印加した。平行刺激チャンバーに、組織鎖に対して垂直に、2cm離して置いた2つの1/4インチ直径のカーボンロッド(Ladd Research Industries社)を取り付け(電界が組織鎖の長軸と平行となるように)、白金ワイヤ(Ladd Research Industries社)と共に刺激装置(S88X、Grass社)に接続した。垂直刺激チャンバーを、組織鎖と平行に1cm離して置いた2つのカーボンロッドと共に構築した(すなわち、電界は組織鎖の長軸に対して垂直であった)。組織鎖構造が確立されるまで4日間、組織鎖を事前培養し、その自発的鼓動を同期させた後、培養培地中に10μMアスコルビン酸を添加して4日間、電界刺激(二相、矩形、1ms持続時間、1.2Hz、3.5〜4V/cm)にかけたが、対照組織鎖は電気刺激なしに培養した。電気刺激の終わりに、ラット心臓組織鎖をcTnT及びCx-43に対して染色したか、又はその機械的特性を原子間力顕微鏡(AFM)により測定した。
【0311】
ヒト心臓組織鎖については、7日間の事前培養後、組織鎖を、2cm離して置いた2つの1/4インチ直径のカーボンロッド(Ladd Research Industries社、Burlington、VT)を取り付けた刺激チャンバーに移し、白金ワイヤ(Ladd Research Industries社)と共に心臓刺激装置(Grass社、s88x)に接続した。組織鎖を電極に対して垂直に置き、7日間、電気刺激(矩形、二相、1ms、3〜4V/cm)にかけたか、又は電気刺激なしに(非刺激対照若しくはCTRL)培養した。2つの電界刺激プロトコールを用いた:(I)刺激を1Hzで開始し、徐々に、3Hzまで毎日増大させ(1、1.83、2.66及び3Hz)、それを週の残りについて維持した、又は(II)刺激を1Hzで開始し、週を通して6Hzまで徐々に増大させた(1、1.83、2.66、3.49、4.82、5.15及び6Hz、毎日の周波数)。
図3Aは、実施例1のデバイス中で培養された組織に印加された例示的な電気刺激レジメンを示す。事前培養された組織鎖を3〜4V/cmで1週間、電気刺激にかけた。電気刺激を1Hzで開始し、3Hzまで次第に増大させ、それを週の残りについて保持した(低周波数増大刺激レジメン又は3Hz群)。更に、刺激速度を、1から6Hzまで次第に増大させた(高周波数増大刺激レジメン又は6Hz群)。
【0312】
培養時間の増加は成熟に影響することが示されたため
11、28、年齢一致させたEB(EBd34)を、さらなる対照として用いた。長期刺激実験のために、組織鎖を上記のように7日間事前培養した後、7日間の6Hz増大プロトコールを行い、その時点で周波数を1Hzに低下させ(出産後の心拍低下を模倣するため)、更に14日間維持した。
図4Aは、このために用いられた例示的電気刺激レジメンを示す。
【0313】
培養された心筋細胞組織鎖が単一細胞ベースで成熟を真に示したことを検証するために、単一細胞を用いるアッセイを実施した。
図3Bは、刺激レジメンの終わりに、培養された組織鎖に由来する細胞がどのように単離され、機能的、超微細構造的、細胞的及び分子的応答について評価されたかを示す。
【0314】
培養された組織鎖を、ハンクス平衡塩溶液(NaCl、136mM;NaHCO
3、4.16mM;Na
3PO
4、0.34mM;KCl、5.36mM;KH
2PO
4、0.44mM;デキストロース、5.55mM;HEPES、5mM)中のコラゲナーゼI型(1mg/ml;Sigma社)及びDNAse(1mg/ml、CalBiochem社)で、37℃で4時間消化し、遠心分離(800r.p.m.、5分)し、37℃で5分間、トリプシン(0.25%、Gibco社)と共にインキュベートし、穏やかにピペッティングして細胞を解離させた。単離された単一細胞を、以下に記載のようなMatrigel又はラミニンで被覆されたスライドガラス上に播種した後、面積、カルシウム移行及びパッチクランプ測定を実施した。
【0315】
組織集合の進行を、培養物中で2週間(すなわち、7日間のゲル圧縮、次いで、7日間の刺激)後、様々なレベル:機能レベル[興奮閾値(ET)、最大捕捉率(MCR)、伝導速度、Ca
2+ハンドリング];超微細構造レベル(サルコメア発達、デスモソームの頻度)、細胞レベル(細胞のサイズ及び形状、増殖、心臓タンパク質:アクチン、トロポニンT及びα-アクチニンの分布)、電気生理学レベル(hERG、I
K1、I
Na)及び分子レベル(心臓遺伝子及びタンパク質の発現レベル)で評価した。
【0316】
核の伸長及び整列を定量化した。組織鎖内の細胞核をDAPI染色により可視化し、3μm間隔で共焦点顕微鏡によりzスタック画像を取得した。共焦点画像のそれぞれのスタックを、Xuら
27により記載された自動化アルゴリズムを用いてImageJ 1.45s(National Institutes of Health、USA)中で分析し、試料あたり約1000個の核を分析した。核の伸長を、核の長軸と短軸の比である核アスペクト比として特徴付け、核の整列を配向角により特徴付けた。対照単層群においては、核の配向を任意に定義された配向と比較して特徴付けたが、組織鎖群においては、縫合糸鋳型の配向を参照として設定した。
【0317】
ラット心臓組織鎖を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.25%Triton X-100により透過処理し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)で遮断した。以下の抗体:マウス抗心臓トロポニンT(cTnT)(Abcam社;1:100)及びウサギ抗コネキシン43(Cx-43)(Abcam社;1:200)、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488(Jackson Immuno Research社;1:400)及び抗ウサギTRITC(Invitrogen社;1:200)を用いて免疫染色を実施した。核を、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Biotium社;1:100)で対抗染色した。ファロイジン-Alexa 600(Introgen社;1:600)を用いて、F-アクチン線維を染色した。共焦点顕微鏡観察のために、染色された心臓組織鎖を、倒立型共焦点顕微鏡(Olympus社IX81)又は直立型共焦点顕微鏡(Zeiss社LSM 510)の下で可視化した。
【0318】
ヒト心臓組織鎖の免疫染色を、以下の抗体:マウス抗cTNT(1:100、Thermo Scientific社;MS-295-P1)、マウス抗α-アクチニン(1:200、Abcam社、ab9465)、抗マウスAlexa Fluor 488(1:400、Invitrogen社、A21202)、抗Ki67(1:250、Millipore社、AB9260)、抗ウサギTRITC(1:400、Invitrogen社、81-6114)を用いて実施した。DAPIを用いて、核を対抗染色した。ファロイジンAlexa Fluor 660(1:1000、Invitrogen社、A22285)を用いて、アクチン線維を検出した。染色された細胞を、蛍光顕微鏡(Leica社、CTR6000)を用いて可視化し、Leica Application Suiteソフトウェアを用いて画像を捕捉した。共焦点顕微鏡観察のために、蛍光共焦点顕微鏡(Zeiss社LSM-510)を用いて細胞を可視化した。
【0319】
4日間の電気刺激の印加後、ラット心臓組織鎖を、倒立型光学顕微鏡(Nikon社、Eclipse-Ti)上に載せた市販の原子間力顕微鏡(AFM)(Bioscope Catalyst;Bruker社)を用いて試験した。力圧入測定を、1Hzの圧入速度で5nNのトリガー力を用いて心臓組織鎖の中心を均等に被覆する9つの異なるスポットで球形チップ(半径=5〜10μm)を用いて行った。カンチレバー(MLCT-D、Bruker社)は0.03N/mの定格ばね定数を有していた。Hertzモデルをフォースカーブに適用して、ヤング率を見積もり、詳細なデータ分析を他の場所に記載した
30。全てのAFM測定を、室温で流体環境中で行った。
【0320】
また、組織を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて調査した。組織鎖を、0.1M PBS中の4%パラホルムアルデヒド、1%グルタルアルデヒドで少なくとも1時間固定し、PBS pH7.2で3回洗浄した。後固定を、0.1M PBS、pH7.2中の1%四酸化オスミウムを用いて1時間行い、25〜100%のエタノール系列を用いて脱水した。組織を、Epon樹脂を用いて浸潤させ、40℃で48時間、プラスチック皿中で重合させた。組織を、切片化した後、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。画像化をHitachi H-7000透過型電子顕微鏡で実施した。
【0321】
光学的マッピングのために、組織鎖を、温Tyrode溶液(NaCl 118mM、KCl 4.7mM、CaCl
2 1.25mM、MgSO
4 0.6mM、KH
2PO
4 1.2mM、NaHCO
3 25mM、グルコース6mM;使用直前に少なくとも20分間、カルボゲン95%O
2、5%CO
2を気泡化することにより酸素供給した)中、37℃で20分間、電圧感受性染料(ジ-4-ANEPPS 5μM、Invitrogen社)と共にインキュベートした。蛍光染料を、高速CMOSカメラ(Ultima-L、Scimedia社)
29〜30を装備したMVX-10 Olympus蛍光顕微鏡上で記録した。1cmのセンサーは、100×100ピクセルの解像度を有し、空間解像度は50〜100μm/ピクセルで変化した。画像化を、200フレーム/sで実施した。緑色フィルター(Olympus社U-MWIG2フィルターキューブ)を有する水銀アーク源(X-Cite Exacte)を用いて、蛍光を励起した。ステンレススチール針中に挿入された2つの微細なワイヤ(AWG#32)から作られた双極電極を用いて構築物を電気的に点刺激し、これをマイクロマニピュレーター(World Precision Instruments社)上に載せた。電界刺激のために、
図3に記載のチャンバーを用いた。組織鎖を含有するプレートを加熱したプレート(MATS-U55S、Olympus社)上に置き、温度を38℃に調節した。データ分析を、Brain Visionソフトウェア(Scimedia社)を用いて実施した。
【0322】
細胞内記録も取った。37±0.5℃で高インピーダンスガラス微小電極(50〜70MΩ、3M KClで充填)を用いて組織鎖中で活動電位を記録した。組織鎖を、95%O
2及び5%CO
2で平衡化させた、(単位mM)118のNaCl、4.2のKCl、1.2のKH
2PO
4、1.8のCaCl
2、1.2のMgSO
4、23のNaHCO
3、20のグルコース、2のNa-ピルビン酸を含有し、最終pHが7.4であるクレブス液で表面灌流した。微小電極を、Axopatch 200B増幅器(Axon Instrument社)電流クランプに接続した。シグナルを1KHzでフィルタリングし、2KHzでサンプリングし、Clampfit 10(Axon Instrument社)を用いて分析した。休止電位を、I=0モードで測定した。いくつかの実験のために、組織鎖を、興奮閾値の2倍に設定した電界刺激を用いてペーシングした。
【0323】
パッチクランプの記録を取った。パッチクランプ実験を実施する前に一晩、培養組織鎖又はEBから単離された単一細胞を、ラミニン被覆されたスライドガラス(Laminin、Sigma-Aldrich社、10μg/cm
2)上に播種した。全細胞パッチクランプを、室温(23〜25℃)でAxopatch 200B増幅器を用いて作製した。データを、Clampfit 8.0(Axon Instrument社)を用いて分析した。細胞の休止電位を測定する場合、増幅器をI=0に設定した。電流クランプモード法を用いることにより、活動電位を記録した。筋細胞を1Hzで刺激し、膜脱分極の最大速度、活動電位ピーク及び10番目の活動電位のAPD90を測定した。膜電位を、液間電位について補正せず、用いた溶液について15.9mVであると見積もった(Clampfit 8.0を用いて見積もった)。また、Na
+電流、hERG電流及びI
K1電流を、70〜80%直列抵抗補償を用いる電圧クランプ条件下で記録した。安定状態の不活化測定のために、10mVの増分で500msにわたって-120mV〜+30mVの範囲の一連の試験パルス、次いで、100msにわたって-10mVまでの試験パルスを印加することにより、-80mVの保持電位からNa
+電流を誘導した。このプロトコールは重複電圧依存的Ca
2+電流を同時に活性化するが、これらのCa
2+電流は、誘発されたNa
+電流の3%未満であると見積もられた(プレパルスプロトコールを用いて)。2,000msにわたって15mVの増分で-45mV〜60mVの範囲の電圧ステップへの脱分極後に-50mV(500msにわたる)へのステップに応答するテール電流を測定することにより、hERGを評価した。hERGテール電流のピーク振幅を測定し、比較した。I
K1電流を、これらの試験について等価であることがわかった2つの方法で測定した。完全なI-V関係のために、Ba
2+の非存在下で測定された電流から、500μMのBa
2+の存在下で測定された電流を減算することにより(-40mVの保持電位から10mVの増分で-120〜-10mVの範囲の電圧ステップについて微量ずつ)、Ba
2+感受性電流を評価した。I
K1密度を測定するために、バックグラウンド電流を、-100mVでBa
2+の非存在下で測定したものから差し引いた。
【0324】
NaOHでpH7.35に調整された、(単位mM)140のNaCl、4のKCl、1のMgCl
2、1.2のCaCl
2、10のHEPES、10のD-グルコースを含有する浴液中で、パッチクランプ記録を実施した。KOHでpH7.2に調整された、(単位mM)120のアスパラギン酸カリウム、20のKCl、4のNaCl、1のMgCl
2、5のMgATP、10のHEPES、10のEGTAを含有する溶液を充填した場合、ピペット抵抗は約5.5〜7.5MΩであった(K
+の計算された逆転電位は、pH調整後に-95.6mVであった)。ドフェチリド100nM
31及びBaCl
2 500μM
11を用いて、それぞれ、hERG電流及びI
K1を遮断した。
【0325】
カルシウム移行測定を取った。上で詳細に説明されたように、コラゲナーゼ及びトリプシンと共にインキュベートすることにより、組織鎖を解離させた。解離した心筋細胞を、成長因子を含まないMatrigel(RPMI培地中に1:60に希釈)で被覆された25mmの顕微鏡カバーガラス上に一晩プレーティングした。次いで、細胞を、37℃で2時間、培養培地中で5μMのフルオ-4アセトキシメチルエステル(フルオ-4 AM)と共にインキュベートした。続いて、心筋細胞を無染料培地で2回洗浄し、インキュベータ中に30分間戻した。レーザー走査共焦点顕微鏡(Zeiss社LSM 510)を用いて、フルオ-4 AMの蛍光強度を測定した。フルオ-4 AMを充填した心筋細胞を含有するカバーガラスを、特殊チャンバー上に移動させ、きつく締め付けた。約1.8〜1.9mlの培養培地をチャンバーに添加し、顕微鏡上の温度制御されたプレート(37℃)上に置いた。フルオ-4をアルゴンレーザー(488nm)により励起し、放射された蛍光を505nmの放射フィルターにより収集した。細胞質ゾルカルシウム濃度の移行変動を示す、フルオ-4 AM蛍光強度の変化を、フレーム及びラインスキャンモデルにおいて記録した。画像及び蛍光データを、Zeissソフトウェアにより獲得した。蛍光データを、Origin 8.5ソフトウェアを用いて分析した。フルオ-4 AMを充填した後、蛍光シグナル(F)をベースライン蛍光に対して正規化した。シグナルの上昇フェーズを、線形モデルにより適合させた一方、シグナルの減衰フェーズを、Offsetモデルを用いるExpDecayにより適合させた。カフェイン、ベラパミル(Sigma社)及びタプシガルギン(Invitrogen社)を、図面に示される濃度での画像化中に心筋細胞を含有するチャンバーに直接添加した。類似する平均鼓動周波数で鼓動する細胞(対照については9.4±0.7bpm、3Hzについては9±0.7bpm、及び6Hzレジメンについては10±0.8bpm)を、カルシウム移行測定について使用して、拍動数の差異が測定に影響しないことを確保した。
【0326】
定量的RT-PCRを、以前に記載
32のように実施した。全RNAをHigh Pure RNA Isolation Kit(Roche社)を用いて調製し、RNase-free DNase(Roche社)で処理した。RNAを、SuperScript VILO(Invitrogen社)と共にランダムヘキサマー及びオリゴ(dT)を用いてcDNAに逆転写した。LightCycler 480 SYBR Green I Master(Roche社)を用いるLightCycler 480(Roche社)上で、RT-qPCRを実施した。発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子TATAボックス結合タンパク質(TBP)又はグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化した。オリゴヌクレオチド配列を、
図28に示されるTable 3にまとめる。
【0327】
フローサイトメトリー分析を実施した。上記のようにコラゲナーゼ及びトリプシンを用いる解離により組織鎖又はEBから細胞を取得し、室温で10分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞内エピトープについて、5%ウシ胎仔血清(FBS)及び0.1%Triton Xを含有するPBS中、氷上で10分間、細胞を透過処理した後、PBS中の5%FBSで30分間、ブロッキング工程を行った。細胞を、氷上で1時間、ブロッキングバッファー中の下記抗体:抗CD31-PE(1:100)、抗CD90-APC(1:500、BD Biosciences社、それぞれ、553373及び559879);抗cTNT(1:100、Thermo Scientific社、MS-295-P1);抗カルポニンH1(1:250、Abcam社、ab46794);抗ビメンチン(1:100、Sigma Aldrich社、V6630)と共にインキュベートした。用いた二次抗体は、抗マウスAlexa Fluor 488(1:400、Invitrogen社、A21202)及び抗ウサギCy5(1:500、Jackson ImmunoResearch社、111-175-144)であった。それぞれのアッセイにおける心筋細胞のパーセンテージの固有の変動性のため、それぞれのマーカーについて陽性である細胞のパーセンテージ(上記の二次抗体のみの対照)を、各実験の出発細胞集団(EBd20)に対して正規化して、細胞集団の変化が起こっているかどうかを正確に評価した。
【0328】
組織鎖を、(2X)Novexトリス-グリシンSDS試料バッファー(Life technologies社)中で可溶化し、Novexトリス-グリシンゲル(Life technologies社)中での電気泳動によりタンパク質を分離し、Biotrace NT(ニトロセルロース、Pall Corp.社)に移した。膜を、抗ミオシン重鎖(全、Abcam社、ab15)、ホスホランバン1D11(Dr.A.Gramolini、University of Torontoから)又はGAPDH(Millipore社、MAB374)抗体のいずれかでプローブ化した。用いた二次抗体を、ペルオキシダーゼにコンジュゲートした(DAKO社、P0448又はP0447)。膜を、ECL試薬Luminata Classico Substrate(Millipore社)を用いて現像した。
【0329】
SigmaPlot 12.0を用いて統計分析を実施した。実験群間の差異を、Studentのt検定又は二元配置ANOVAにより分析した。正規性検定(Shapiro-Wilk)及びペアワイズ多重比較手順(Holm-Sidak法)を、データの正規性及び分散に基づいて、必要に応じて二元配置ANOVA検定又はカイ二乗検定のために用いた。P<0.05は全ての統計検定について有意であると考えられた。
【0330】
例示的結果及び考察
ラット心臓組織鎖の生成及び特徴付け
開示されるデバイスは、天然の心筋の高度に異方性の構造をin vitroで再現することができる。支持ワイヤは、in vivoの毛細血管と類似する機能を果たし、心筋細胞が伸長し、整列する周囲の鋳型として役立つことができる。一次新生児ラット心筋細胞を用いて、I型コラーゲン系ゲル内で微細製作されたPDMSプラットフォーム中に懸濁された鋳型を播種することにより、3Dの自己集合した心臓組織鎖を生成した。播種された新生児ラット心筋細胞(875万個の細胞/ml)は、1週間以内に縫合糸鋳型の周囲のコラーゲンゲルマトリックスを再モデリングし、収縮させて、組織鎖構造を形成した(
図5aを参照されたい)。無細胞ゲルは培養時間中に圧縮又は分解しなかったため、ゲル圧縮は、播種された細胞の存在下でのみ起こり、圧縮速度は細胞播種密度と正に相関していた。例示的デバイスの寸法をカスタマイズすることにより、異なる寸法の心臓組織鎖を生成することができる。例えば、
図5bに示されるように、5cm程度の長さの組織鎖を生成することができる。好適な寸法のデバイスを用いれば、より長い組織鎖の生成も可能である。
【0331】
図5cは、ゲル圧縮の定量化及び心筋細胞の初期播種密度に対するその依存性を示す(平均±SD、n=3)。心筋細胞を播種しない場合(ゲルのみ)、ゲルは圧縮せず、組織鎖構造を形成しなかった。より高い播種密度(2億個の細胞/ml)での組織鎖は、再モデリングの間により低い播種密度(1億個の細胞/ml)でのものよりも速く圧縮した。
【0332】
図6に示されるように、縫合糸鋳型は、組織鎖において心筋細胞が伸長及び整列するための地形的合図を提供することができる。
図6aは、DAPIで対抗染色された核(左)及びAlexa 488で染色された心臓トリポニン-T(cTnT)(右)を有する組織鎖の共焦点画像を示す。DAPIで対抗染色された細胞核の画像分析により、縫合糸鋳型の軸に沿った核の伸長及び整列が示された。
図6bにおいては、単層として培養された、対組織鎖中に播種された心臓細胞の核アスペクト比(試料あたり約1000個の核が特徴付けられる)を、2群間の有意差(***、p<0.001)と共に、第1四分位数、中央値、及び第3四分位数を示すボックスプロットに示す。
図6cは、組織鎖群と単層群の核アスペクト比の分布を示すヒストグラムである(平均±SD、n=3/群)。単層群の低い方のアスペクト比範囲において有意により高い頻度が存在し(*、p<0.05)、組織鎖群の高い方のアスペクト比範囲においてより高い頻度が存在していた(#、p<0.05)。また、核の配向の特徴付け(
図6dを参照されたい)により、単層群における核の無作為な分布(無作為の方向を0°とする)が示された一方、培養された組織鎖における細胞核は縫合糸鋳型の軸に沿って向いていた(縫合糸鋳型の配向を0°とする)。
【0333】
新生児ラット心臓組織鎖は、播種後3〜4日で自発的に鼓動し始め、ゲル圧縮中に鼓動を続けたが、これは、例示的デバイスがヒドロゲルマトリックス内の細胞の電気機械的カップリングを可能にしたことを示している。より高い播種密度(2億/ml)での組織鎖の自発的鼓動は、より低い播種密度(1億/ml)でのものよりも早く開始し、より顕著であったが、これは、より多くの心筋細胞及びより良好なカップリングの存在の結果であると考えられる。免疫組織化学染色により、ラット心臓組織鎖がサルコメアタンパク質であるcTnTを発現することが示された(
図6a、右側を参照されたい)。
【0334】
ラット組織鎖の電気刺激
開示された実施例1のデバイスの多用途性を示すために、電気刺激を印加して、心筋細胞の表現型を更に改良した。
図7aは、異なる電気刺激条件下での組織鎖の実験設定を示す。外部刺激装置に接続されたカーボンロッドは、4日目で開始して4日間にわたって心臓組織鎖に対して平行又は垂直の電界刺激を提供した。
【0335】
免疫組織化学染色を実行した。
図7bは、異なる電気刺激条件の印加後の培養されたラット心筋細胞組織鎖の代表的な共焦点画像を示す。平行刺激された組織鎖は、非刺激(対照)及び垂直刺激された組織鎖と比較して、縫合糸鋳型に沿って向いたより多くのcTnT+構造(左)及びコネキシン43(Cx-43)のより強い発現(右)を示した。Cx-43は、隣接する心筋細胞間のギャップ結合のためのマーカーであり、心筋細胞間のより良好なカップリングを指示する。
【0336】
デバイスの外部でラット心臓組織鎖を取り扱う場合、平行刺激された組織鎖が非刺激対照よりも固いことに留意した。これをAFM分析(n=3/群)により更に評価し、非刺激対照と比較して平行刺激された組織鎖の有意に(p=0.009)改善された機械的特性が示された(
図7cを参照されたい)。
【0337】
ヒト心臓組織鎖の工学的作製
指向性分化プロトコールから得られたhPSC心筋細胞及び支持細胞を用いて、I型コラーゲンゲル中の滅菌外科用縫合糸の周囲の鋳型ポリジメチルシロキサン(PDMS)チャネル中への細胞播種により、3Dの自己集合した心臓組織鎖を生成した。
図8a〜dは、Hes2 hESC由来心筋細胞について得られた結果を示す。
図8aは、デバイス鋳型中で7日間のhESC心筋細胞の事前培養の例示的画像を示す。播種された細胞は再モデリングし、第1週の間にコラーゲンゲルマトリックスを収縮させ、約40%のゲル圧縮を示した。
図8bは、培養の示された日におけるゲル圧縮の定量化[平均±s.d.、n=3(0日目)、n=4(1〜7日目)]を示し、約600μmの最終幅を示す。これにより、PDMS鋳型からの培養された組織鎖の除去が可能になった。
【0338】
組織学的分析により、縫合糸の軸に沿った細胞の整列が示された。
図8cは、組織鎖切片のヘマトキシリン及びエオシン(H&E)並びにマッソントリクローム(MT)染色を示す(矢印は縫合糸軸を表す)。組織鎖は、播種後2〜3日で同期的及び自発的に鼓動し、ゲル圧縮後も鼓動を続けることがわかったが、これは、この設定が電気機械的細胞カップリングを可能にすることを示している。組織鎖を、電気的に調整し、自発的鼓動周波数を増大させることにより、エピネフリン(β-アドレナリン刺激)等の生理的アゴニストに対して応答させることができる。
図8dは、インパルス伝播の光学的マッピングを示す。インパルス伝播記録(左のトレース記録)と共に自発的電気的活動、電気刺激に対する応答(中央のトレース記録、刺激周波数は以下の赤色のトレースに記載される)及び薬理学的刺激(エピネフリン、右のトレース記録)の下での自発的応答の頻度の増加を示す、電位差滴定フルオロフォア(DI-4-ANEPPS)を用いて画像化される組織鎖の代表的な写真(左)。
【0339】
1週間の事前培養後、組織鎖を、7日間、電界刺激にかけたか、又は刺激せずに(非刺激対照)培養した(
図3aに示される)。刺激速度を次第に、及び毎日、1から3Hzまで(
図3a中の、低周波数増大レジメン、ここから低周波数若しくは3Hzと呼ばれる)又は1から6Hzまで(
図3a中、高周波数増大レジメン、ここから高周波数若しくは6Hzと呼ばれる)増大させる2つの異なるプロトコールを用いて、効果が刺激速度に依存するかどうかを評価した。
【0340】
ヒト刺激組織鎖における生理的肥大
培養物中で2週間後、免疫染色により、組織鎖を通して細胞が心臓収縮タンパク質サルコメアのα-アクチニン、アクチン及び心臓トロポニンTを強く発現することが示された(
図9a、
図10、
図11及び
図12を参照されたい)。
【0341】
図9は、電気刺激と組み合わせた培養組織鎖が生理的細胞肥大を促進し、心筋細胞表現型を改善したことを示す。
図9aは、非刺激組織鎖(対照)及び電気刺激された組織鎖(3及び6Hz増大)の代表的共焦点画像を示し、心筋細胞の整列及び頻繁なZディスクを示している(矢印は縫合糸軸を表す)。スケールバーは20μmである。
図9bは、異なる条件での心筋細胞形状の分析を示す(平均±s.d.、ロッド状及び丸状の両方についてのEBd34対3Hz P=0.01;丸状及びロッド状の両方についてのEBd34対6Hz P=0.03)。n=3/群。
図9cは、非刺激組織鎖(対照)及び電気刺激された組織鎖の代表的な微細構造画像を示し、サルコメア構造(サルコメアパネル、白色のバー;Zディスク、黒色の矢印;Hゾーン、白色の矢印;m、ミトコンドリア)及びデスモソームの存在(デスモソームパネル、白色の矢印)を示している。スケールバーは1μmである。
図9dは、形態学的分析(平均±s.d.)を示し、Hゾーンとサルコメアの比率(CTRL対6Hz、P=0.005)、IバンドとZディスクの比率(CTRL対3Hz、P=0.01;CTRL対6Hz、P=0.003)及び膜の長さあたりのデスモソームの数(CTRL対6Hz、P=0.0003)を示している。n=4/条件。*は群と対照との統計的有意差を示す。正常な成体細胞中では、Hゾーンとサルコメアの比率は1であり、IバンドとZディスクの比率は2である。
図9a〜
図9dは、Hes2 hESC由来心筋細胞に関する結果を示す。
【0342】
図10は、培養組織鎖の形態を示す。
図10aは、組織鎖がPDMS鋳型からの除去後も構造を維持したことを示す。
図10bは、(I)ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)並びに(II)マッソントリクローム(MT)染色された組織鎖切片の低い方の拡大画像を示す。(III)縫合糸/細胞含有ゲル境界面の詳細を示すMT染色された切片の高拡大画像。
図10cは、サルコメア構造の詳細を示す、α-アクチニン及びアクチン染色された組織鎖の高拡大共焦点画像を示す。矢印は、縫合糸軸を表す。
図10a〜
図10cは、Hes2細胞株から得られたhESC由来心筋細胞に関する結果を示す。
【0343】
図11は、CDI-MRB系hiPSC由来心筋細胞組織鎖もまた、電気刺激にかけた場合に成熟の兆候を示したことを示すものである。
図11aは、非刺激組織鎖(対照)及び電気刺激された組織鎖(6Hz増大プロトコール)の代表的な共焦点画像を示し、心筋細胞の整列及び頻繁なZディスクを示している(矢印は縫合糸軸を表す)。
図11bは、電気刺激が興奮閾値及び組織相互接続性を改善したことを示す(最大捕捉率;CTRL対6Hz、点刺激により測定された場合、P=0.03)。微細構造分析により、高周波数での電気刺激(6Hz増大レジメン)が心筋細胞の自己組織化を誘導することが示された。
図11cは、サルコメア構造を示す非刺激組織鎖(対照)及び電気刺激された組織鎖を示す(サルコメア、白色のバー;Zディスク、黒色の矢印;Hゾーン、白色の矢印; m、ミトコンドリア;発生期境界板、赤色の矢印)。スケールバーは1μmである。
図11dは、形態学的分析(平均±s.d.)を示し、Hゾーンとサルコメアの比率(CTRL対6Hz、P=0.001)及びIバンドとZディスクの比率(CTRL対6Hz、P=0.004)を示す。正常な成体細胞においては、Hゾーンとサルコメアの比率は1であり、IバンドとZディスクの比率は2である。n=3〜4/条件。
【0344】
図12は、電気刺激が他のhPSC由来心筋細胞の成熟を促進したことを示す。
図12aはHes3細胞株hESC由来心筋細胞組織鎖の結果を示し、
図12bはHR-I-2Cr-2R細胞株hiPSC由来心筋細胞組織鎖の結果を示す。
図12a(I)及び
図12b(I)は、非刺激組織鎖(対照)及び電気刺激された組織鎖(6Hz増大プロトコール)の代表的な共焦点画像を示し、心筋細胞の整列及び頻繁なZディスクを示す。
図12a(II)及び
図12b(II)は、電気刺激がhESC由来及びiPSC由来心臓組織鎖の興奮閾値及び組織相互接続性(点刺激により測定される最大捕捉率)を改善したことを示す。n=4〜7/条件。平均±s.d.。*は統計的有意性を示す。
図12a(III)及び
図12b(III)は、心筋細胞組織鎖自己組織化の微細構造分析を示す(Zディスク、黒色の矢印;発生期境界板、赤色の矢印)。スケールバーは1μmである。
【0345】
これらの例示的結果は、収縮装置のサルコメア束(
図9a、
図11及び
図12を参照されたい)及び縫合糸軸に沿った筋原線維整列が、成体の心臓の構造と質的に類似していたことを示す
22。3週間及び4週間にわたって培養物中で保持された組織鎖は、共焦点電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡により照明されるように、細胞の整列及びその収縮装置を維持していた(
図4を参照されたい)。
【0346】
心臓発生の初期には、心筋細胞は丸い形状の細胞であり、誕生後にロッド状の表現型に分化する
33。成体ヒト心筋細胞は、構造的に剛性の構築を示し、解離直後はロッド状の形状
34を保持する一方、hESC心筋細胞は丸型を保持する。年齢一致させたEB(EBd34)と組織鎖を解離させ、細胞をMatrigelで被覆されたプレート中に播種した。EBd34に由来する約80%の心筋細胞は丸型の表現型を示したが、この数は電気刺激された試料中では有意に少なかった(約50%少ない)(
図9bを参照されたい)。ロッド状の心筋細胞のパーセンテージは、EBd34と比較して電気刺激された組織鎖において有意に高かった(約4倍)(
図9bを参照されたい)。
【0347】
図13は、培養された組織鎖中の細胞に関する細胞アスペクト比の分析を示す。分析により、年齢一致させた胚様体(EBd34)に由来する細胞と比較した場合、電気刺激された組織鎖において、よりロッド状に向かう細胞形状の変化が確認された。心臓細胞を、0.5ビンの増分でそのアスペクト比に従ってプロットした(n=3)。組織鎖からの解離後、単一細胞hESC由来心筋細胞(Hes2細胞株)中で測定を実施した。
【0348】
発生中に、心筋細胞は細胞サイズの増大、次いで、サルコメア構造の変化及び胎児遺伝子の下方調節を特徴とする生理学的肥大を受ける
35。年齢一致させたEB(EBd34)に由来する心筋細胞と比較した組織鎖条件において心筋細胞サイズ(プレーティングされた細胞の面積)の有意な増大が存在していた(
図26中のTable 1、EBd34対CTRL P=0.034;EBd34対3Hz P=0.003;EBd34対6Hzレジメン P=0.01を参照されたい)。Table 1においては、培養の終わりに組織鎖から解離した単一のHes2 hESC由来心筋細胞上で測定を実施した。*は、群とEBd34との間の統計的有意性を示す。細胞面積(μm
2)、平均±s.d.、n=3。心房性ナトリウム利尿ペプチド(NPPA)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(NPPB)及びα-ミオシン重鎖(MYH6)は、胎児心筋細胞中で高度に発現され、疾患を有する成体心室心筋細胞中での病理学的肥大の間に上方調節される分子である。
【0349】
図14は、培養組織鎖の遺伝子発現分析を示す。分析により、心臓胎児遺伝子プログラムの下方調節及びカリウムチャネル遺伝子の上方調節が示された。心臓トロポニン(TNNT)、コネキシン43(GJA1)、脳性ナトリウム利尿ペプチド(NPPB)、心房性ナトリウム利尿ペプチド(NPPA)、α-ミオシン重鎖(MYH6)、β-ミオシン重鎖(MYH7)、リアノジン受容体2(RYR2)、内向き整流性カリウムチャネル遺伝子(KCNJ2)。心臓胎児遺伝子NPPA、NPPB及びMYH6は、hESC由来心筋細胞組織鎖中で有意に下方調節された一方、KCNJ2は年齢一致させたEB(EBd34;平均±s.e.m.、n=3〜6)と比較して上方調節された。Hes2細胞株hESC由来心筋細胞。
【0350】
hESC由来心筋細胞組織鎖中での胎児心臓遺伝子プログラム(NPPA、NPPB、MYH6)の下方調節(
図14を参照されたい)は、年齢一致させたEBと比較して、細胞サイズの増大と協調して、生理学的肥大及びより成熟した表現型を示唆した。細胞興奮性及びK
+恒常性において重要な役割を果たす
36、内向き整流性カリウムチャネル遺伝子(KCNJ2)は、EBd34と比較して上方調節されていた。
【0351】
組織鎖中で培養されたhESC心筋細胞はまた、EB中でのものよりも低い増殖速度を示し(
図15を参照されたい)、それぞれの条件での心筋細胞のパーセンテージは2週間の培養後に未変化のままであった(48.2±10.7%、
図16を参照されたい)。
【0352】
図15は、培養組織鎖における心筋細胞増殖がEBにおけるよりも低かったことを示す例示的結果を示す。増殖を、サルコメアα-アクチニン及びKi67に関する二重染色により評価した(n=3〜4/条件、平均±s.d.)。*、**、#及び&は、EBd34と比較した統計的有意差を表す(EBd20対EBd34、P=0.002;EBd34対CTRL、P=0.019;EBd34対3Hz、P=0.016;EBd34対6Hz、P=0.015)。測定を、組織鎖からの解離後に単一のHes2 hESC由来心筋細胞上で実施した。
【0353】
図16は、組織鎖中の細胞集団が培養後に有意に変化しなかったことを示す例示的結果を示す。異なるマーカーについて陽性である細胞のパーセンテージを、EBd20(出発集団)に対して正規化した。EBd20、EBd34及び組織鎖(CTRL及び6Hz)からの細胞を、CD31(内皮細胞)、CD90(線維芽細胞)、カルポニン(平滑筋細胞)、ビメンチン(全ての非筋細胞)及び心臓トロポニンT(心筋細胞)について染色し、フローサイトメトリーにより分析した(n=3〜6/条件、平均±s.d.)。組織鎖からの解離後のhESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。
【0354】
EBd20集団におけるCD31(2.4±1.5%、内皮細胞
32)、CD90(34.4±23%、線維芽細胞
32)、カルポニン(35±22%、平滑筋細胞)又はビメンチン(80±22%、非筋細胞)陽性細胞の初期パーセンテージは、組織鎖培養後に大きく維持されたが、これは、観察された改善が特定の細胞型の誘導と関連しなかったことを示唆している。
【0355】
培養されたヒト組織鎖における収縮装置の成熟
非刺激組織鎖中の細胞は、明確に定義されたZディスク及び筋原線維(
図9c、
図11及び
図12を参照されたい)を示したが、Zディスク整列の兆候は示さなかった。対照的に、高周波数レジメン下で刺激された組織鎖は、整列したZディスクを包含し、示す頻繁な筋原線維を有する組織化されたサルコメア束(
図9c、6Hz;
図11及び
図12を参照されたい)、いくつかのミトコンドリア(
図9c、6Hz;
図11及び
図12を参照されたい)及びデスモソーム(
図9cを参照されたい)等の、成熟の兆候を示した。6Hz条件では、ミトコンドリアは対照又は3Hz条件におけるよりも収縮装置のより近くに位置していた(
図9c、6Hz;
図11及び
図12を参照されたい)。
【0356】
電気刺激された試料は、サルコメアあたりのHゾーン(
図9d、CTRL対6Hz、P=0.005;
図11d、CTRL対6Hz、P=0.001を参照されたい)及びZディスクあたりのIバンド(
図11d、CTRL対3Hz、P=0.01;CTRL対6Hz、P=0.003;
図11d、CTRL対6Hz、P=0.004を参照されたい)の有意により高い存在により示されるように、非刺激対照よりも成熟細胞とより適合するサルコメア組織化を示した。6Hzレジメンで刺激された組織鎖はまた、非刺激対照と3Hz刺激された組織鎖の両方よりも膜の長さあたりのデスモソームの有意により多い数を示した(
図9d、P=0.0003を参照されたい)。hiPSC由来心筋細胞組織鎖において、発生期境界板を有する領域が頻繁に見られた(
図11c及び
図12bを参照されたい)。
【0357】
ヒトの工学的に作製した組織鎖の機能的評価
図17は、工学的に作製した組織鎖の機能的評価からの例示的結果を示す。電気刺激は、興奮閾値(
図17a)[電界刺激及びビデオ顕微鏡観察により測定されるように、CTRL(n=4)対6Hz(n=3)、P=0.03;3Hz、n=3]、最大捕捉率(
図17b)[点刺激及び光学マッピングにより測定されるように、CTRL(n=4)対6Hz(n=4)、P=0.022;3Hz、n=3]及び電気インパルス伝播率(
図17c)[点刺激及び光学マッピングにより測定されるように、CTRL(n=13)対3Hz(n=10)、P=0.014;CTRL対6Hz(n=5)、P=0.011]を改善することがわかった。平均±s.d.。
図17dは、組織鎖中での伝導速度活性化マップの代表的な画像を示す。*は、群と対照との間の統計的有意差を示す。ヒートマップ=0〜200ms。
図17a〜
図17dは、Hes2細胞株から得られたhESC由来心筋細胞に関する結果を示す。
【0358】
図18は、6Hz増大刺激組織鎖の最大捕捉率が、点刺激と比較して電界刺激に関してより高かったことを示す例示的結果を示す。
図18aは、例示的な電気的点刺激を示す。
図18a(I)において、刺激周波数を赤色で示し、刺激部位に対して近位(下のトレーシング)及び遠位(上のトレーシング)の捕捉を黒色で示す。各シグナル間の時間遅延は、伝導速度を示す。近位部位と遠位部位の両方における増殖シグナルの一貫した捕捉は、組織鎖中での機能的遮断の非存在及び良好な電気的統合を示した。
図18a(II)において、3、4、5及び6HzでIで示されるシグナルの増幅は、捕捉が2:1になった時、1:1の捕捉が4Hzより上で失われることを示した。4Hzより上で刺激した場合、近位部位と遠位部位との間の増殖は1:1のままであった。画像中の赤色の丸は、点刺激の部位を表す。
図18bは、例示的電界刺激を示す。
図18b(I)において、電界刺激周波数を赤色のトレーシングで示し、組織鎖の異なる部位での捕捉を黒色で示す。予想通り、各シグナル間で時間遅延は観察されず、これは、細胞がほぼ同時に電気刺激を受け取ったことを示している。1:1での捕捉率は、それが
図18b(II)に示されるように6Hzで間欠的になった場合、5.2Hzより上で失われた。
図18a〜
図18bは、hESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。
【0359】
図19は、伝導速度の改善がデスモソームの存在と相関していたことを示す例示的結果を示す。伝導速度は、細胞内フィラメントを細胞表面タンパク質に連結し、収縮及び力伝播の間の心筋の完全性を維持するのを担う、細胞接着タンパク質の分子複合体であるデスモソームの数と直接相関していた(R2=0.8526、CV対面積あたりのデスモソームの平均数)。Hes2細胞株hESC由来心筋細胞。
【0360】
6Hzレジメンを用いる電気刺激は、培養組織鎖の電気特性を有意に改善し、インパルス伝播の光学マッピングと同時に培養の終わりでの点刺激により分析されたように、興奮閾値の統計的に有意な低下(
図19a、CTRL対6Hz、P=0.03を参照されたい)及び最大捕捉率の増加(
図19b、CTRL対6Hz、P=0.002、
図11、
図12を参照されたい)をもたらした(
図18aを参照されたい)。光学マッピングにより、点刺激(4Hz)よりも電界刺激(5.2Hz)に関してより高いMCRが示された(
図18b、6Hzでの間欠的捕捉と共に5.2Hz捕捉を参照されたい)。電界刺激の間に、全ての細胞は同時に刺激を受け取り、応答はそれぞれの細胞の増殖限界により制限されなかった。培養の終わりでの点刺激の際に評価された、伝導速度(CV)は、非刺激対照よりも培養中に電気刺激された試料において約40%及び約50%(それぞれ、3Hz及び6Hz)高かった(
図17c及び
図17d、CTRL対3Hz、P=0.014;CTRL対6Hz、P=0.011を参照されたい)。電気的特性(ET、MCR及びCV)の改善は、低周波数レジメンよりも高周波数レジメンについてより顕著であった。伝導速度の改善は、細胞間接着タンパク質の分子複合体であるデスモソームの平均数と直接相関することがわかった(
図19、R
2=0.8526を参照されたい)。
【0361】
刺激は培養されたヒト組織鎖におけるCa
2+ハンドリング特性を改善する
図20は、電気刺激がCa
2+ハンドリング特性の改善を促進したことを示す例示的結果を示す。例示的結果は、非刺激対照細胞(
図20a)、3Hz増大プロトコール(
図20b)及び6Hz増大プロトコール(
図20c)におけるカフェインに応答したCa
2+の放出を示す。
図20dは、異なる実験群間でのピーク蛍光強度のカフェイン誘導性変化を示す例示的結果を示す(カフェインの投与前のピーク蛍光強度を正規化した後の平均±s.e.m.)[CTRL対3Hz、P=1.1×10-6;CTRL対6Hz、P=2.1×10-7;3Hz対6Hz、P=0.003;n=10(CTRL)、n=8(3Hz)及びn=9(6Hz)]。
図20eは、6Hz刺激細胞における5mM(矢印)のカフェインの投与の前後のCa
2+移行の代表的な蛍光記録を示す。例示的結果はまた、カフェインの添加前の6Hz細胞中でのベラパミル(
図20f)又はニフェジピン(
図20g)によるL型Ca
2+チャネルの阻害及びタプシガルギン(
図20h)によるSERCAチャネルの遮断も示す。*は、群と対照との間の統計的有意差を示す。#は、3Hzと6Hz群との間の統計的有意差を示す。
図20a〜
図20hは、Hes2細胞株から得られたhESC由来心筋細胞に関する結果を示し、組織鎖からの解離後の単一細胞の心筋細胞中で実施された測定を表す。
【0362】
hESC心筋細胞の全部
10又は大部分
12はいずれも、収縮のための筋小胞体Ca
2+放出よりもむしろ筋線維鞘Ca
2+流入に依拠し、成体心筋とは顕著に異なる。組織鎖から単離された単一細胞における細胞質ゾルCa
2+に対する、筋小胞体リアノジンチャネルの開口因子であるカフェインの効果を試験した。以前の研究
10と一致して、非刺激対照中のhESC心筋細胞はいずれもカフェインに応答しなかったが(
図20aを参照されたい)、3及び6Hzの両方の条件における電気刺激された細胞は細胞質ゾルCa
2+の増加を誘導することによりカフェインに応答した(
図20b及び
図20cを参照されたい)。Ca
2+移行振幅の定量化は、電気刺激された細胞が、刺激周波数依存的様式で、非刺激対照よりもカフェインに応答して有意により高い振幅強度を示すことを示していた(
図20d及び
図20eを参照されたい)。ベラパミル(
図20fを参照されたい)又はニフェジピン(
図20gを参照されたい)のいずれかを用いる6Hz組織鎖からの細胞中でのL型Ca
2+チャネルの遮断は、成熟細胞において予想されたように、Ca
2+移行の停止をもたらした。L型Ca
2+チャネルの遮断後のカフェインの添加は、細胞質ゾル中へのCa
2+の放出をもたらした(
図20f及び
図20gを参照されたい)。タプシガルギンの添加による筋小胞体Ca
2+ATPase(SERCA)のイオン輸送活性の遮断(
図20hを参照されたい)は、筋小胞体からのCa
2+の枯渇に起因して、時間と共にカルシウム移行の停止をもたらす。6Hz条件からの心筋細胞はまた、細胞質ゾルへのCa
2+放出の動力学を表すパラメータである、ピークまでのより速い上昇勾配及び時間、並びに細胞質ゾルからのCa
2+のクリアランスの動力学を表すパラメータである、ベースまでのより速いτ-崩壊及び時間も示した(
図27中のTable 2を参照されたい)。Table 2は、6Hzレジメンで刺激された心筋細胞におけるCa
2+ハンドリング特性の変化がより成熟したCa
2+ハンドリング特性と適合していたことを示す例示的結果を示す。培養の終わりに組織鎖から解離した単一化された心筋細胞に対して測定を実施した。*は、非刺激対照に対する統計的有意性を示す(平均±s.e.m.)。
【0363】
まとめると、これらのデータは、培養中に6Hz刺激レジメンを受けた心臓組織鎖が機能的筋小胞体と適合するCa
2+ハンドリング特性を示すことを示した。
【0364】
刺激は培養されたヒト組織鎖の電気生理学的特性を変化させる
図21は、培養組織鎖又は胚様体から単離され、パッチクランプを用いて記録された単一細胞の心筋細胞における電気生理学的特性を示す例示的結果を示す。6Hzで刺激された組織鎖(黒色)、対照組織鎖(白色)、EBd44及びEBd20を示す。例示的結果は、hERGテール電流密度(
図26a)、-100mVで測定されたIK1電流密度(
図21b)、細胞電気容量(
図21c)、休止膜電位(
図21d)、活動電位の最大脱分極速度(
図21e)、活動電位ピーク電圧(
図21f)、90%の再分極で測定された活動電位持続時間(
図21g)及び自発的鼓動を示す(自動性)、又は自発的鼓動を示さない(非自動性)細胞の比率(
図21h)を示す。
図21a〜
図21hは、Hes2細胞株から得られたhESC由来心筋細胞に関する結果を示す。平均±s.e.m.。
【0365】
図22は、6Hz又は対照組織鎖から単離された単一の心筋細胞におけるhERG電流及びIK1に対する電気刺激の効果を示す例示的結果を示す。例示的結果は、hERG電流の代表的トレース(
図22a及び
図22b)、6Hzで刺激された組織鎖から単離された心筋細胞の活動電位構成に対するドフェチリドの効果(
図22c)、hERGテール電流の電流密度-電圧関係(差込図はhERGのテール電流部分及び記録プロトコールの拡大図を示す)(
図22d)、IK1の代表的トレース(
図22e及び
図22f)、並びにIK1の電流密度-電圧曲線(
図22g)を示す。
図22a〜
図22gは、組織鎖からの解離後のhESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。平均±s.e.m.。
【0366】
図23は、組織鎖から単離された単一の心筋細胞におけるNa+電流に対する電気刺激の効果、活動電位ピーク、膜コンダクタンス、膜コンダクタンス-休止電位曲線及びIK1-休止電位曲線を示す例示的結果を示す。例示的結果は、6Hz及び対照組織鎖から記録された代表的なNa+電流定常状態不活化トレースの拡大図(
図23a及び
図23b、差込図は元のトレース及び記録プロトコールの全体図である)、Na+電流定常状態不活化曲線、6Hz群のV1/2=-61.06±0.65mV;対照群のV1/2=-71.24±0.24mV及びEBd44群のV1/2=-70.35±0.60mV(
図23c)、Na+電流密度(
図23d)、活動電位振幅(
図23e)、-100mVでの膜コンダクタンス(
図23f)、膜コンダクタンス-休止電位関係曲線(
図28g)、並びにIK1-休止電位関係曲線(
図23h)を示す。
図23a〜
図23hは、hESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。平均±s.e.m.。
【0367】
図24は、高インピーダンスガラス微小電極を用いて記録されたインタクトな6Hz組織鎖における活動電位持続時間率依存的適合及び休止電位を示す例示的結果を示す。例示的結果は、1、3及び5.5Hzでの電界刺激を用いて記録された6Hz増大組織鎖の活動電位(
図24a)、6Hz組織鎖における自発的活動(
図24b)、6Hz増大刺激レジメンを受けた組織鎖における90%再分極(APD90)で測定された活動電位持続時間の速度依存的適合(
図24c)、休止電位(
図24d)及びインタクトな組織鎖における活動電位のピーク電圧(
図24e)を示す。
図24a〜
図24eは、hESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。平均±s.e.m.。
【0368】
成熟度を評価するために、組織鎖及びEBから誘導された心筋細胞中の活動電位、hERG及びI
K1電流
11を測定した(
図21を参照されたい)。hERG電流は、非刺激対照(0.52±0.10pA/pF)よりも6Hzで刺激された組織鎖(0.81±0.09pA/pF)においてより高く(P=0.0434)(
図21aを参照されたい)、その生物物理特性の差異はなかった(
図22を参照されたい)。両方の組織鎖群に由来する心筋細胞は、20日目又は44日目にEBに由来するものと比較してより高いhERGレベルを有していた(
図21aを参照されたい)。同様に、I
K1密度は対照(0.94±0.14pA/pF、CTRL)よりも6Hz組織鎖(1.53±0.25pA/pF、6Hz)においてより高く(P=0.0406)、両組織鎖群におけるI
K1レベルはEB由来心筋細胞において記録されたものよりも高かった(P=0.0005)(
図21bを参照されたい)。細胞サイズの尺度である細胞電気容量は、対照組織鎖(14.23±0.90pF;CTRL)と比較して6Hz組織鎖(19.59±1.41pF;6Hz)においてより高い(P=0.0052)値を示し、EB由来心筋細胞においてより小さい(P=0.0041)電気容量を示した(
図21cを参照されたい)。組織鎖からの心筋細胞の休止膜電位(V
rest)は、EB心筋細胞におけるよりも負(P<0.0001)であった(
図21dを参照されたい)。興味深いことに、約16mVであった液体結合電位について補正した後、パッチクランプ法を用いて組織鎖心筋細胞中で記録されたV
restの値は、K
+に関するネルンスト電位(E
K=-96mV)の平衡電位より良好に下であったが、これは、おそらくNa
+ポンプ
37〜38により生成されたものである過分極電流がV
restに強く影響したことを示唆している。それと一致して、組織鎖からの心筋細胞は非常に低い休止膜コンダクタンスを有し、V
restと相関していた一方(R=0.5584、P<0.0001)、I
K1電流はV
restとの負の相関を示した(R=0.2267、P=0.0216、
図23を参照されたい)。最大脱分極速度(
図21eを参照されたい)及び活動電位のピーク電圧(
図21fを参照されたい)は、2つの組織鎖群間で異ならなかった。しかしながら、両方の特性が、EBと比較して改善された(それぞれ、P=0.5248及びP=0.0488)。活動電位持続時間は、組織鎖由来心筋細胞よりもEB由来心筋細胞においてより長く(P=0.0021)、変動性も高かった(
図21g及び
図24を参照されたい)が、これは、組織鎖における電気生理学的多様性が低く、成熟度が高いことを示唆している。自動性は、対照組織鎖と比較してEB由来心筋細胞においてより高く(P=0.0414)(
図21hを参照されたい)、これは6Hzで刺激された組織鎖と同等であった。まとめると、これらの結果は、6Hzレジメンでの組織鎖及び電気刺激が電気生理学的成熟を促進したという結論を支持する。
【0369】
培養されたヒト組織鎖における電気生理学的測定
縫合糸は周囲の心臓組織よりも固いため、縫合糸の存在は、活動力及び機械的刺激の両方の直接測定を阻害した。この制限は、生分解性縫合糸の使用によって将来の研究において克服することができる。従って、提示される電気生理学的測定(
図21を参照されたい)を用いて、条件付けられた細胞の機能的成熟を正確に測定した。hERG電流、I
K1電流、細胞電気容量、休止膜電位、最大脱分極速度、活動電位のピーク電圧、活動電位持続時間及び自動性の全ての測定値は、EB対照において培養されたものと比較して、組織鎖において培養された心筋細胞において改善を示した。組織鎖の電気刺激はhERG、I
K1及び細胞電気容量を増強したが(
図21a〜
図21bを参照されたい)、他の測定によれば刺激された組織鎖と非刺激組織鎖との間に差異はなかった。具体的には、活動電位中の膜脱分極の最大速度は、6Hzと対照組織鎖との間で異ならず(P=0.5248)(
図21e、122.5±9.30mV/ms;6Hz対111.8±14.67mV/ms;CTRLを参照されたい)、組織鎖群間のNa
+電流密度の差異の欠如と相関する観察であった(
図23dを参照されたい)。V
restは、単一の単離された筋細胞のパッチクランプ記録(-98.58±2.87mV;6Hz対-99.44±5.37mV;CTRL)又はインタクトな組織鎖中の鋭い微小電極記録(-97.08±3.95mV;6Hz対-98.5±6.09mV;CTRL、P=0.8425、
図24を参照されたい)を用いた場合、組織鎖群間で異ならなかった(P=0.88)。6Hzで刺激された組織鎖はまた、1Hzから5.5Hzまでの刺激周波数の増加と共に減少する活動電位の持続時間との活動電位持続時間の速度依存的適合を示した(
図24を参照されたい)。
【0370】
細胞電気容量の測定値は、非刺激対照と比較して6Hz刺激レジメンにおいてTable 1(
図26を参照されたい)中のサイズ測定値と一致していたが、これは、電気刺激が組織鎖中の心筋細胞の成熟を誘導したことを示唆している。電気容量測定値はEBと比較して6Hzで刺激されたhESC心筋細胞組織鎖の細胞サイズの改善を示したが、その値はヒト成人の心室筋細胞と一致するサイズが達成されなかったことを明確に示していた。新鮮に単離された健康なヒト成人の心室筋細胞の電気容量は179〜227pFの範囲にあると報告された
39;新鮮に単離されたヒト成人の心房心筋細胞の電気容量は66pFであると報告された。興味深いことに、2D基質上での培養の1日後、成体心房心筋細胞の電気容量は23pFまで減少したが
40、その3D環境からの心筋細胞の除去は細胞電気容量に劇的に影響し得ることを示唆している。ここで報告される電気容量値は、心臓特異的内因性MYH6プロモーターから制御されるブラスチシジン耐性遺伝子発現を工学的に作製することにより誘導されるiPSC心筋細胞について他者により報告されたもの(15.8〜88.7pF)
4よりも小さかったが、他のhESC心筋細胞(21.6±1.3pF、7〜40pFの範囲)及びヒト胎児心筋細胞の報告(90〜110日の日齢、20.3±4.6pF)
41〜42と類似していた。hPSCの分化した子孫は非常に初期のヒト発生(6週未満)を反映すると記載されたため
43、in vitroでの成熟にとって必要とされる電気刺激速度はin vivoでの胚発生と異なってもよいと考えられる。それにも関わらず、次第に高くなる電気刺激速度を用いて得られたin vitroの心臓組織鎖の顕著な成熟は、in vitroでのより成熟した収縮心臓組織を生成するための重要なツールを提供した。
【0371】
培養組織鎖は類似するレベルでミオシン重鎖及びホスホランバンの発現を示した
図25は、組織鎖中での選択された心臓タンパク質の発現が異なる条件において類似していたことを示す例示的結果を示す。例示的結果は、組織鎖溶解物のウェスタンブロッティングにより評価された全心臓ミオシン重鎖発現(
図25a)及びホスホランバン発現(
図25b)を示す(n=3)。
図25a〜
図25bは、hESC由来心筋細胞Hes2細胞株に関する結果を示す。
【0372】
心筋細胞の筋原線維微細構造の変化が収縮タンパク質発現の変化と関連するかどうかを調べるために、全ミオシン重鎖(MHC)の発現を、ウェスタンブロッティングにより組織鎖中で分析したところ(
図25aを参照されたい)、全MHCが電気刺激(3及び6Hz)された心臓組織鎖、及び非刺激(CTRL)心臓組織鎖において類似するレベルで発現されることが見出された。更に、Ca
2+取込みの調節に関与し、機能的筋小胞体を示さないhESC心筋細胞中に存在しないとして以前に記載
10された筋小胞体分子であるホスホランバンの発現も調べた。事実、ホスホランバンは、類似するレベルでhESC心筋細胞組織鎖中に存在することが見出された(
図25bを参照されたい)。
【0373】
hESC心筋細胞における機能的筋小胞体の欠如の可能性のある原因は、ホスホランバンの発現の欠如であると報告された
10。全ての条件において類似するレベルで本研究における細胞中でホスホランバン発現を検出することができたが、これが電気刺激によるCa
2+ハンドリング特性の改善の原因ではなかったことを示唆している。本研究及び以前の研究
10における細胞間のホスホランバン発現の差異は、本研究は指向性分化プロトコールを用いた一方、他の研究
10は血清に基づく自発的分化に由来する心筋細胞を用いたという事実によって説明することができる。
【0374】
以前には一次供給源及び動物組織に由来する細胞と共に電界刺激が用いられたが
22〜23、3D組織集合の幾何学的制御と、hPSC由来心筋細胞及び支持細胞の電気刺激との組合せが、ヒト心臓組織の電気的特性及び微細構造特性を改善し、細胞の成熟をもたらすことがここで初めて示される。組織鎖縫合糸は、マトリックス再モデリング中にデバイスプラットフォームに固定されたままであり、縫合糸軸に沿った細胞整列をもたらす張力を生成した。
【0375】
正常なヒト胎児心拍は有意に変化し、ほとんどの時間で約3Hzに維持される
44一方、成人の安静時心拍は約1Hzである
44。心拍の変化は、収縮タンパク質発現の変化と関連し、刺激速度への心臓成熟の依存の可能性を示唆する。胎児の平均心拍は3Hzである
44ため、1から6Hzまでの進行的増加は、試験した最良の条件であったという事実は驚くべきものであった。これはin vitro設定における他の重要な細胞型及び細胞間発生誘導の欠如の代償機構であり得る。電界刺激周波数を培養物中で7日間にわたって徐々に増加させたため、6Hz群は刺激の最終日に捕捉を失うに過ぎない(5.2Hzの速度を超える)。従って、それは最も高い可能な速度での刺激であってよく、速度自体はin vitroでの心筋細胞成熟を支配する合図ではない。
【0376】
明確に目に見えるZディスク、Hゾーン及びIバンドに関する、刺激条件における細胞及び筋線維構造の改善は、より低いET、より高いMCR、より高い伝導速度、改善された電気生理学的及びCa
2+ハンドリング特性、並びに内向き整流性カリウムチャネル遺伝子(KCNJ2)の上方調節等の刺激された組織鎖のより良好な電気的特性と相関していた。以前の報告
45〜46と一致して、M線及びT管の欠如は、最終分化の非存在を示した。EBと比較して組織鎖において構造タンパク質mRNAの下方調節があったが、タンパク質レベルの変化は観察されなかった。機械的刺激は、ミオシン重鎖等の構造タンパク質の強固な誘導をもたらし、hPSC由来心筋細胞の増殖を誘導することが報告され
14、47、6Hzでの組織鎖の電気刺激がより良好な機械的刺激環境を単に提供するものではなかったことを示唆している。以前には、機械的刺激は電気生理学的成熟をもたらさなかった
47。心臓負荷の模倣としてのストレッチと関連する電気刺激の使用
14は、同時的に、又は連続的に、hPSC由来心筋細胞の最終分化を誘導し、筋フィラメントタンパク質の発現を上方調節するために必要であり得る。他の戦略は、T3甲状腺ホルモン
48、インスリン様成長因子-1
49の存在下での培養、ヒドロゲル混合物中へのラミニン又は天然脱細胞心臓ECMの添加
50及びより固い基質上での培養
51、52を含んでもよい。
【0377】
いくらかのヒト幹細胞株は他のものよりも心筋生成性(cardiomyogenic)であり
12、16、これらの差異が産生される細胞の成熟度と関連し得ることはよく受け入れられている。以前の報告
10、11、53では、多くの、通常はほとんどの細胞は分化の終わりではカフェインに対して反応しなかった。従って、Ca
2+ハンドリング特性における差異もまた、細胞株の変動性に起因し得る。ここで、所与の細胞株内で、組織鎖中の培養物及び電界刺激は、機能的筋小胞体と一致する心筋細胞のCa
2+ハンドリング特性を増強したことが示される。
【0378】
組織鎖心筋細胞は、EBd20又はEBd44から得られた心筋細胞よりも明確により成熟しており、自動性に関するより高い傾向、より脱分極した膜電位、減少した細胞電気容量並びに低いhERG及びI
K1電流を示した。EBd20心筋細胞の電気生理学的測定は組織鎖へのその取込みの前に細胞特性を表した一方、EBd44心筋細胞を、成熟に対する培養時間の独立した効果の評価を可能にする組織鎖培養時間よりもわずかに長い期間にわたって培養した
54、11。心筋細胞は胚状態からの成熟を受けるため、低い膜コンダクタンスとE
Kより低いV
restとの組合せが、「中間」の表現型であり得ると考えることは興味深い。
【0379】
組織鎖中のhPSC心筋細胞の特性と、マウス又はヒトの発生とを相関付けることは、成熟段階を正確に測定するのに役立ち得るが、げっ歯類の心筋細胞は生理学的に異なり、年齢で定義された健康な人の心臓試料は十分ではない。更に、in vitroでの成熟は、胚発生と適合しない場合がある。ゲル圧縮の際の組織鎖の小さいサイズ(約300μmの半径)を、組織鎖を灌流することなく培養物中で維持することができることを確保するために酸素供給の拡散限界に近くなるように選択した。血管細胞の添加は、将来のin vivoでの研究における宿主組織の生存を改善し、それとの統合を促進するために必須である
14。したがって、実施例1Aに記載のデバイスは、将来のin vivoでの研究において、最も少ない副作用(例えば、不整脈)で成体心臓において生存し、統合する細胞の最も高い能力をもたらす最適な成熟レベルを決定するために用いることができる段階的な成熟レベルのヒト心臓組織の生成を可能にするユニークなプラットフォームを提供することができる。
【0380】
(実施例2)
バイオチューブ
A.例示的な中空の/灌流可能なワイヤの実施形態(すなわち、バイオチューブ)の構造、調製、及び使用
第2の実施形態において、本発明は、ウェル又はチャネル、チャネルの長さにわたって支持される、又は吊り下げられる管腔を含む長手足場を有するバイオリアクターを含む灌流可能な管腔を含む三次元組織を増殖させるためのバイオリアクターデバイスであって、バイオリアクター及びチャネルが、管腔を含む組織鎖を形成するのに十分な播種された細胞を受け取るように構成されるデバイスに関する。心臓細胞(又は他の電気的に刺激された細胞)を含む実施形態において、バイオリアクターを、バイオリアクターのチャネルを横断する電界を生成するように構成される電極を含むように更に構成することができる。電界の方向は任意の方向にあってよいが、好ましくは、チャネル(及び得られる組織鎖)の長さに対して平行である方向にあるか、又はチャネル(及び得られる組織鎖)の長さに対して垂直である方向にある。本明細書で用いられるように、本発明の第2の実施形態を「バイオチューブ」と呼ぶことができ、それだけに限定されないが、組織鎖自体(すなわち、本明細書に記載されるバイオリアクターデバイス上で増殖する細胞)又は組織鎖とバイオリアクターとを一緒に含む系を指してもよい。バイオチューブはまた、本明細書ではBIOTUBE(商標)のその商業名を指してもよく、組織鎖自体、又は組織鎖と、組織鎖が増殖したか、若しくは置かれたバイオリアクターデバイスとを含む系の両方を包含する。この実施形態では、デバイスを、管腔を含む複数の三次元組織鎖を同時に増殖させることができるような、複数のバイオリアクターチャネル及び長手足場を含む構成にスケールアップすることができる。この第2の実施形態はまた、バイオリアクター中で組織鎖を増殖させるための方法、三次元組織鎖自体、バイオリアクターと増殖した組織鎖の両方を含む系、並びにそれだけに限定されないが、(a)実験的薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の有効性及び安全性(毒性を含む)の試験、(b)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の薬物動態及び/又は薬力学の定義付け、(c)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の特性及び対象に対する治療効果の特徴付け、(d)新しい薬理学的薬剤のスクリーニング、(e)損傷組織及び/又は患部組織を処置するための再生医療における使用のための埋め込み型の工学的に作製した組織の提供[例えば、電気伝導の欠陥を有する患者を含む心疾患状態を研究するための本開示の組織構築物、デバイス、及び/又は系の使用(iPSC-CM)]、並びに(f)オーダーメイド医療を含む様々な適用において組織鎖(若しくは組織鎖を含む系)を使用及び/又は試験する方法に関する。この実施形態では、デバイスを、6ウェル、12ウェル、24ウェル、96ウェル、384ウェル、及び1536ウェルプレート等のマルチウェルプレートで構成することができる。
【0381】
図29は、灌流可能な組織鎖の培養にとって好適な例示的デバイスの略図及び画像を示す。バイオチューブのデバイスは、実施例1のバイオワイヤのデバイスと類似していてもよく、培養された組織鎖の灌流を可能にする追加された特徴を有する。
【0382】
例示的デバイスは、組織培養のための種細胞を受け取ることができる長手バイオリアクターチャネルを含んでもよい。長手足場を、バイオリアクターチャネルの長さにわたって支持する(例えば、吊り下げる)ことができる。足場は、種細胞が足場の長さに沿って組織構造を形成するための支持体として役立ち得る。足場はまた、管腔を有してもよく、管腔を介する培養された組織鎖の灌流を可能にしてもよい。
【0383】
この実施形態では、バイオリアクターチャネルの一方の末端の入口との流体連結に流体リザーバー(例えば、薬物リザーバー)が追加で存在してもよい。バイオリアクターチャネルの反対側の末端の出口は、外部の陽圧又は陰圧源との流体連結にあってもよい(例えば、接続チャネルを介する)。陰圧又は陽圧の使用は、足場の管腔を通過する流体の流動及び/又は灌流を促進するのに役立ち得る。流体リザーバー及び/又は接続チャネルは、例示的デバイスの一部であってもよく、又はこれらのものはデバイスに接続可能な別の構成要素であってもよい。これらの構成要素を全て、スライドガラス等の基質によって支持し、その上に結合することができる。実際の画像を
図29の左上の角に示す。
【0384】
例示的デバイスは、微細製作されたバイオリアクターチャネル又はチャンバーを含んでもよく、微細製作されたプラットフォーム(例えば、PDMSから作られる)及び吊り下げられた管状鋳型の形態の足場(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)マイクロチューブから作られる)を含んでもよい。管腔を有する足場(例えば、管状鋳型)を用いて組織を培養することにより、得られる組織に、組織の灌流を可能にする管腔を提供することができる。
【0385】
バイオチューブの実施形態を、実施例1のバイオワイヤデバイスのものと類似する様式で製作することができる。一例において、PDMSプラットフォームを製作するために、標準的なソフトリソグラフィ技術を用いて、2層のSU-8(Microchem Corp.社、Newton、MA)マスター
20を作製した。第1の層は鋳型チャネルと細胞培養チャンバーとを含んでいた一方、第2の層は細胞培養チャンバーのみを含んでいた。次いで、PDMSをSU-8マスター上に投入し、70℃で2時間焼いた。次いで、管状鋳型をPDMSプラットフォームの2つの末端に固定した後、70%エタノール中、及び一晩のUV照射によりバイオリアクターを滅菌した。管状鋳型を介する灌流を提供するために、2つの微細製作されたモジュール、薬物リザーバー及び接続チャネルを、例示的バイオリアクターデバイスに追加した。単層のSU-8マスター(長さ×幅×高さ=10×1×0.3mm)を用いてPDMSを最初に成型することにより、両モジュールを製作した。8mmの生検パンチ(Sklar社)を用いてPDMSを通して切断することにより、薬物リザーバーを作出した。PTFEチューブ[内径(ID)=0.002インチ、外径(OD)=0.006インチ、Zeus社]を用いて、バイオリアクターチャネルを薬物リザーバー及び接続チャネルに接続した。Tygonチューブ(ID=0.01インチ、OD=0.03インチ、Thomas Scientific社)は、灌流系を蠕動ポンプにより生成された外部陰圧に接続した。灌流速度を、蠕動ポンプからの出口で収集された液体容量により特徴付けた。エポキシ接着剤により全ての接続点を固定し、3つの微細製作されたモジュールをスライドガラスにプラズマ結合させた。
【0386】
ある特定の材料、技術及び寸法が上記されたが、他の好適な材料、技術及び寸法を、例示的デバイスのために用いることができる。他の好適な材料の例としては、それだけに限定されないが、ポリ(グリセロールセバケート)、POMac、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、様々なポリウレタン並びにそのコポリマーが挙げられる。ある特定の型の管及び接続が記載されるが、流体連結の他の手段を用いてもよい。例えば、リザーバー、バイオリアクターチャネル及び接続チャネルを全て、別々の構成要素というよりもむしろ、一緒に微細製作することができる。
【0387】
B.例示的バイオチューブ実施形態の実験的試験
例示的方法及び分析
実施例1のデバイスの調査のために、新生児ラット心筋細胞又はヒトESC由来心筋細胞を、上記のように取得した。或いは、HES3 hESCのNKX2-5遺伝子座中に挿入されたeGFP cDNAを含有するNKX2-5-eGFPリポーターヒト胚性幹細胞(hESC)株
22を、記載
23のように維持した。心臓分化の前に、TrypLE Express(Gibco社)を用いて細胞を単一の細胞に渡し、薄層の成長因子が減少したMatrigel(BD Biosciences社)上に260,000細胞/cm
2の密度でプレーティングし、マウス胚性線維芽細胞条件培地(MEF-CM)を用いて培養した。心臓分化を誘導するために、マトリックスサンドイッチプロトコールを、50〜100ng/mLのアクチビンA及び7〜10ng/mLのBMP4を用いて記載
24のように用いた。得られる心筋細胞単層培養物を、以前に記載
19のように19日目に消化した。
【0388】
組織鎖を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.25%Triton X-100により透過処理し、10%ウシ血清アルブミン(BSA)により遮断した。以下の抗体:マウス抗心臓トロポニンT(cTnT)(Abcam社;1:100)、マウス抗α-アクチニン(Abcam社;1:200)及び抗ウサギTRITC(Invitrogen社;1:200)、抗マウスTRITC(Jackson Immuno Research社;1:200)を用いて、免疫染色を実施した。核を、4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)(Biotium社;1:100)で対抗染色した。ファロイジン-Alexa 660(Introgen社;1:600)を用いて、F-アクチン線維を染色した。共焦点顕微鏡観察のために、染色された心臓組織鎖を、倒立型共焦点顕微鏡(Olympus社、IX81)又は直立型共焦点顕微鏡(Zeiss社、LSM 510)の下で可視化した。
【0389】
新生児ラット心臓細胞を、管状鋳型を有する例示的灌流可能バイオリアクターデバイス中に播種した。7日間培養した後、培養された心臓組織鎖を切片化し、環境制御型SEM(Hitachi社、S-3400N)の下で可視化した。組織鎖を、70Pa及び15kVの可変圧力モード下で、チャンバー温度は-20℃で画像化した。
【0390】
横断面を可視化するために、灌流可能な心臓組織鎖をcTnT抗体、次いで、TRITCで染色した。次いで、染色された組織鎖を、クリオスタット(Leica社、CM3050S)を用いて500μmの厚さの切片に凍結切片化し、Superfrost Plusスライドガラス(VWR社)上に載せた。切片化された組織鎖の画像を、Olympus社の蛍光顕微鏡(IX81)により獲得した。
【0391】
例示的デバイスの実現可能性を証明するために、FITC標識されたポリスチレンビーズ(Spherotech Inc.社)を薬物リザーバー中に添加し、ラット心臓組織鎖を通して灌流したが、それは8日目に自発的に鼓動した。明視野及び蛍光ビデオ及び画像を、蛍光顕微鏡(Olympus社、IX81)を用いて獲得した。
【0392】
NO灌流の定量化を実行した。ニトロプルシドナトリウム(SNP)(Sigma社)を蒸留水に溶解して、200mMのSNP溶液を作製した後、薬物リザーバーに添加した。管状鋳型を介する灌流を、外部蠕動ポンプにより駆動した。一度、SNP溶液がチューブを通って灌流したら、蠕動ポンプを停止させ、全灌流系を細胞培養インキュベータ中で保持した。細胞培養チャネル(PTFEチューブの外部)中のNO量を、蛍光測定Nitric Oxide Assay Kit(Calbiochem社、482655)を用いて定量した。簡単に述べると、異なる時点(0.5時間、6時間、及び24時間)で細胞培養チャネルから収集された試料(8μl、n=3)を、硝酸リダクターゼにより亜硝酸化合物に変換した後、蛍光化合物1-H-ナフトトリアゾールに展開させた。蛍光シグナルを、プレートリーダー(Apollo LB911、Berthold Technologies社)により定量し、硝酸標準と比較した。
【0393】
ヒト心臓組織鎖のNO処理を実行した。7日目に、ヒト心臓組織鎖のNO処理を、200mMのSNP溶液を灌流させることにより開始し、SNP溶液がチューブを通って灌流されたら、蠕動ポンプを停止させた。ヒト心臓組織鎖を37℃で保持しながら、組織鎖の鼓動活動を、Olympus社IX81により、処理前及び処理後24時間、16.67フレーム/秒で記録した。ヒト心臓組織鎖の鼓動活動を、Sageら
28により記載された画像分析法により定量した。簡単に述べると、NO処理の前後でのヒト心臓組織鎖上の同じ位置の1つのスポットの移動を特徴付けた。
【0394】
電気刺激及び灌流を実行した。ヒト灌流可能心臓組織鎖については、平行電気刺激のみを上記のように印加した。4日目に開始して、電界刺激(二相、直角、1ms持続時間、1Hz、3.5〜4V/cm)を4日間にわたって印加した一方、対照組織鎖は電界刺激なしに培養した。刺激された組織鎖と対照組織鎖の両方を、外部シリンジポンプ(PHD Ultra;Harvard Apparatus社)により駆動されたPTFEチューブ内で2μl/分の流量で培養培地を用いて灌流した。電界刺激の終わりに、刺激されたヒト心臓組織鎖及び対照ヒト心臓組織鎖の電気特性を、以前に記載
29のように、外部電界ペーシングの下で興奮閾値(ET)及び最大捕捉率(MCR)に関して特徴付けた。
【0395】
統計的分析を、SigmaPlot 11.0を用いて実施した。実験群間の差異を、t検定又は一元配置ANOVAを用いて分析し、有意差をp<0.05と考えた。
【0396】
例示的結果及び考察
灌流可能心臓組織鎖の生成及び特徴付け
一次新生児ラット及びhESC由来の心筋細胞を用いて、灌流可能心臓組織鎖を生成した。
【0397】
図30は、培養された灌流可能心臓組織鎖の例示的画像を示す。
図30aは、新生児ラット心筋細胞(2億個の細胞/ml)がゲルを再モデリングし、管状鋳型の周囲にまとまった(ID=50.8μm、OD=152.4μm)ことを示す。組織鎖の末端のチューブ管腔を示す詳細図を右上に示す。
図30bは、心臓組織がチューブ表面に付着し、再モデリング後に均一な薄層を形成したことを示すSEM画像を示す。
図30cは、心臓トロポニンT(cTnT)を発現する灌流可能心臓組織鎖の環状形態の横断面を示す代表的な位相差画像(左)及び共焦点画像(右)を示す。
図30dは、FITC標識されたポリスチレンビーズ(直径1μm)で灌流した、チューブを鋳型とする組織鎖を示す。破線は、細胞培養チャネルの壁を示す。FITC標識されたビーズを、矢印で示した。星印は心臓組織鎖内の心筋細胞からの自己蛍光を示す。蛍光ビーズをより良好に可視化するために、この画像を過剰露出させた。
【0398】
両細胞型は、心筋組織鎖を形成し、自発的に鼓動することができた(
図30aを参照されたい)。SEM画像に示されるように、細胞は自己再モデリング後にPTFEチューブの平滑な表面に付着した(
図30bを参照されたい)。これらの灌流可能組織鎖の横断面は、自己再モデリングされた細胞が管状鋳型を取り囲み、cTnTを発現することを示していた(
図30cを参照されたい)。
【0399】
灌流可能組織鎖を培養するための例示的デバイスの実現可能性を、FITC標識された蛍光ビーズを用いる灌流により証明した。蠕動ポンプにより駆動された灌流速度は、2±0.16μl/分であると定量された(n=3)。明視野ビデオは、ラット心臓組織鎖の自発的鼓動活動と、蛍光ビーズの灌流との両方を示した。ビーズの動きは、蛍光視野下でより良好に可視化された。ビデオのスナップショット(
図30dを参照されたい)を過剰露出させて、蛍光ビーズのより良好な可視化を提供した。心臓組織鎖はまた、心筋細胞の自己蛍光に起因してこの画像中で見えた。
【0400】
灌流による培養されたヒト心臓組織鎖のNO処理
図31は、ヒトのチューブを鋳型とする組織鎖上での一酸化窒素(NO)処理の例示的結果を示す。
図31aは、SNP(200mM)を0.5時間、6時間、及び24時間灌流した後のチューブ壁を通過するNO量の定量化を示す。
図31bは、24時間のNO処理が基底レベルと比較して組織鎖の鼓動を有意に減速させたが、非処理組織鎖においては有意な変化はなかった(n=3/群、p<0.01)ことを示す。
図31cは、画像分析による定量化を示し、24時間のNO処理後の組織鎖の鼓動速度が基底レベルと比較して低頻度であったことを示している。
図31dは、対照(右)と比較したNO処理された組織鎖(左)内のα-アクチニン構造の破壊を示す。
【0401】
灌流可能心臓組織鎖における薬物試験の実現可能性を証明するために、薬理学的薬剤、NOドナーSNPを、チューブ管腔を介して灌流された培養培地に印加した。NOがチューブ管腔で生成されるにつれて、それはチューブ壁を通って拡散し、細胞培養物外部チャネルに到達し、そこでNOの総量を定量した。200mMのSNPから放出されたNOの量を、蛍光測定アッセイにより定量し、数時間にわたってSNP溶液からのNO放出の持続性を検証した(
図31aを参照されたい)。細胞培養チャネル中の累積NO量は100μM(8μl中の800pmol)であり、in vivoでのNOの生理学的レベルを超えていた
31。
【0402】
ゲル圧縮の際に、組織鎖内のhESC由来心筋細胞は自発的鼓動を開始した。チューブ管腔を介するNOドナーSNPの灌流により実施される24時間のNO処理の後、ヒト心臓組織鎖の自発的鼓動は減速し、これを画像分析により更に特徴付けた(
図31b及び
図31cを参照されたい)。異なる組織鎖間の鼓動周波数変化を比較するために、24時間のNO処理後の周波数を、基底レベル(処理前)に対して正規化した。NO処理後の鼓動周波数は、基底レベルよりも有意に低かったが(74±3%、n=3)、対照組織鎖は同じままであった(100±9%、n=3)。
【0403】
灌流を介するNO処理により引き起こされたhESC由来心筋細胞に基づく組織鎖内での心筋細胞の細胞骨格の分解を、α-アクチニンに関する免疫染色と共に共焦点顕微鏡を用いて特徴付けた(
図31dを参照されたい)。対照組織鎖中でα-アクチニンで標識されたサルコメアZディスクの筋のあるパターンを明確に識別することができたが、NO処理された組織鎖は全体として点状のパターンを示した。また、Alexa 488標識されたα-アクチニン染色を、NKX2-5上で遺伝的に印を付けられた緑色蛍光タンパク質(GFP)から識別することができることにも留意した。
【0404】
培養された心臓組織鎖の電気刺激及び灌流
図32は、灌流及び電気刺激と共に培養された組織鎖の機能特性を示す例示的結果を示す。
図32aは、hESC由来心筋細胞に基づく電気刺激され、灌流された組織鎖が、非刺激対照と比較して低い興奮閾値を有していたことを示す(***、p<0.001)。
図32bは、hESC由来心筋細胞に基づく電気刺激され、灌流された組織鎖が、非刺激対照と比較して高い最大捕捉率を有していたことを示す(*、p<0.05)。
【0405】
チューブを通る培地灌流と電気刺激とを同時に受けた灌流可能ヒト心臓組織鎖は、電界刺激の下でのET及びMCRにより評価された場合、非刺激対照と比較して改善された電気特性を示した。ETは、同期的収縮を誘導するのに必要とされる最小電界電圧であり、刺激された組織鎖のETの減少(
図32aを参照されたい)は、より良好な電気的興奮性を示していた。MCRは、同期的収縮を維持しながら達成できる最大鼓動周波数であり、刺激された組織鎖のMCRの増大(
図32bを参照されたい)は、細胞の整列及び相互接続性の改善を示していた。
【0406】
天然の心筋は、支持血管構造を有する空間的に明確に定義された心筋束からなり(
図1aを参照されたい)、心筋束内の心筋細胞は高度に異方性である(
図1bを参照されたい)。本開示は、実施例2Aのデバイスにおいて、天然の心筋束の構造及び機能をin vitroで再現する心臓組織鎖を生成するための微細製作されたバイオリアクターを提供する。これは、心筋束モデル内での灌流による心筋細胞に対する薬物の効果を検査する初めての研究であり、他の工学的に作製した心臓組織と比較して天然の心筋物質移動特性を良好に模倣する。この例示的デバイスは、心臓細胞が伸長し、整列するための局所的な合図を提供し、他の合図、例えば、電気刺激と統合された。
【0407】
ゲル圧縮は、in vivoでの埋込み
32及びin vitroモデル
16、33のための3D微小組織構築物を作出するための組織工学において広く適用されてきた。足場に基づく構築物と比較して、ゲル圧縮に由来する自己集合した構築物は、圧縮後のより高い細胞密度のため、収縮力の増大をもたらす
34。更に、微小組織構築物は従来のモデルよりもはるかに高いスループットを提供するため
16、33、35、36、薬物試験のためのマイクロアレイとしてゲル圧縮により作製された微小組織構築物における興味が増大している。この研究においては、I型コラーゲンは天然の心筋の主要なECM成分の1つであるため、それを主要ゲルマトリックスとして選択した。以前のin vitroコラーゲン系モデルは、その弱い機械的特性のため
33、数日間だけインタクトなままであった。本実施例の微細製作されたデバイスにおいては、吊り下げられた鋳型により提供された機械的支持体と共に、心臓組織鎖は数週間にわたってバイオリアクター中で安定なままであった。他のin vitroモデルと比較して大きいスケール(5cm長まで)で心臓組織を生成することができ、細胞培養チャネルの寸法を容易にカスタマイズし、心臓組織鎖の形態に関して更に制御することができた。細胞培養チャネルを、最初は、酸素及び栄養素の供給の制限を考慮して300μmの高さとなるように設計した
37。更に、鋳型の存在は、バイオリアクターデバイスからの組織鎖の容易な分解及びさらなる特徴付けのための培養の終わりでの心臓組織鎖の容易な取り扱いを可能にした。
【0408】
いくつかの例において、微細製作されたバイオリアクターデバイスはまた、5cm長である心臓組織鎖を生成することもできたが、これはヒト心臓の高さと同等である。大規模組織鎖を作出する能力と一緒に個々の心臓組織鎖を取り扱う実現可能性は、Onoeら
38により記載れたのと類似する方法を用いて、より厚い構造を生成するためにそれらを一緒に束にする、又は織ることにより複数の心臓組織鎖の整列を調査する見込みを上昇させた。心臓組織鎖又は心臓組織鎖束により生成された力を特徴付けるために、分解性縫合糸を用いて、鋳型がない心臓組織鎖を生成することができた。
【0409】
例示的な微細製作されたバイオリアクターデバイスを検証するために、新生児ラット心筋細胞を予備研究において用いた。天然のラット心筋における細胞密度と同等である(約10
8個の細胞/ml)
39、より高い細胞密度(>5x10
7個の細胞/ml)で播種した場合にのみ、心臓組織鎖は3〜4日目に自発的鼓動を開始した。鋳型は、細胞が伸長し、一緒に整列するための接触誘導を提供し、天然の心筋における心筋細胞の異方性特性を再現した。3D組織内で細胞膜を定義することは難しいため、細胞核に対して画像分析を行った。しかしながら、核の整列は細胞の整列を示すのに十分なものであり、天然の心筋の特質の1つでもある(
図1cを参照されたい)。
【0410】
例示的デバイスを更に開発するために、6-0絹製縫合糸の代わりに、PTFEチューブを鋳型として用いた。商業的に入手可能なPTFEチューブは生体適合性(USPクラスVI)であり、極端に非吸収性であり、サイズにおいて後毛細管細静脈の規模で寸法が小さい(ID=50μm、OD=150μm)ため
54、それを選択したが、他の材料及び寸法も好適であり得る。内部管腔のサイズが小さいため、陽圧の代わりに陰圧を用いて灌流を駆動した。2つの微細製作されたモジュールを例示的な系に追加して、組織鎖の長期間の灌流及びインキュベーションを可能にした。自己再モデリング中の組織鎖の短縮により示されるように、PTFEチューブへの細胞の付着は、絹製縫合糸のものほど強力ではなく、これは主に、PTFEチューブ表面の平滑性のためである(
図30bを参照されたい)。しかしながら、細胞-ゲル複合物は、依然として、環状の横断面を有するチューブの周囲に自己集合することができた。
【0411】
本研究においては、(1)NOは天然の心筋中の内皮細胞によって産生された後、心筋細胞に対して放射状の方向に輸送され
40、これは例示的デバイスが再現することを目標とするシナリオである;(2)NOは血管依存的及び血管非依存的効果の両方による心筋機能の調節において重要な役割を果たす
40;(3)NOが虚血-再灌流傷害等の心筋細胞疾患の発生及び防止に直接関与することを示す多くの証拠がある
41;(4)NOは小さい気体分子であり、チューブ壁を容易に通過することができる、という理由のため、NOをモデル薬物として選択した。SNPは臨床試験において用いられる一般的なNOドナーであるため
42、43、SNPをNOドナーとして選択した。更に、SNP水性溶液は、in vitroで数時間にわたって一定の速度でNOを放出すると報告された
44。
【0412】
NO処理試験のために、ヒト心臓組織鎖をhESC由来心筋細胞から生成した。ヒト心臓組織鎖は、1日目の早さで自発的鼓動を開始し、鼓動は7日以内に同期した。NO処理の24時間後、ヒト心臓組織鎖の鼓動周波数はその基底レベルと比較して有意に減速した。この結果は、in vivo
45での、及びChiusaら
46により見出された、筋原線維細胞骨格の分解により引き起こされる、NOの血管拡張効果と一致する。しかしながら、NOは、多様な細胞内機構と共に、より低濃度では双極性の変力効果を示し、in vitroモデル
40の標準化がなされていないため、研究間で相違があった。従って、例示的な微細製作されたバイオリアクターデバイスは、組織レベルで心筋細胞に対するNOの効果を明らかにするためのプラットフォームとして役立ち得る。
【0413】
開示されるデバイスの多用途性を証明するために、電気刺激は心筋細胞の表現型を改善すると報告されているため
2、20、電気刺激を系と統合した。心臓組織鎖中の細胞は異方性であったため、ラット組織鎖上で平行及び垂直の両方の電界刺激を試験した。単離された新生児ラット心臓筋原線維(61kPa)
47により近い、平行電気刺激の下でのより固い組織は、免疫組織化学染色により特徴付けられるより組織化された細胞収縮装置に帰するものであった。灌流可能なヒト心臓組織鎖を、同時に電気刺激及び灌流したところ、これにより、電気刺激と生理的様式で送達される薬理学的薬剤との相互作用を研究する見込みが得られた。ヒト多能性心筋細胞に基づく組織鎖の電気刺激のみに関するより詳細な研究を行ったところ、次第に増大する周波数の電気刺激が、筋原線維構造及び電気特性に関してhPSC由来心筋細胞の成熟を顕著に改善することが示された
19。
【0414】
灌流は酸素及び栄養素供給を有意に改善するため
48、培地灌流はin vitroで心臓構築物内の心筋細胞の生存能力及び機能を改善すると認識されている。多くの以前の研究において、心筋細胞を流れに直接曝露しながら、細胞を含む多孔性足場を差し込むことにより、バイオリアクターは培地灌流を提供した
48〜50。これは、血液供給が、輸送距離を最小化するだけでなく、剪断から心筋細胞を保護する密な血管ネットワークを通って流動する天然の心筋を正確に再現するものではない
51。より最近では、電気刺激と培地灌流とを同時に提供するためのバイオリアクターが開発され、灌流と刺激が心臓構築物の収縮機能の改善に対する相乗効果を有することが示された
52、51。しかしながら、これらの系における心臓構築物は、等方性多孔性足場に基づくものであり、従って、異方性心臓組織に対する電気刺激の効果に関する情報を提供することはできなかった。
【0415】
以前の研究は、心臓構築物に関する高スループットのin vitro薬物試験を可能にする灌流バイオリアクターの設計を記載する
53、50。Kanekoらは、薬物試験のための単一細胞レベルの相互作用を評価するためのマイクロチャンバーレイチップを設計した
53。Agarwalらは、リアルタイムに異方性心臓微小組織により生成される拡張及び収縮応力を特徴付けることができるカンチレバーのマイクロアレイから構成されるバイオリアクターを設計し、バイオリアクターはこれらの心臓微小組織に対する電気刺激を提供することができた
50。これらの2つの研究は、単一細胞又は単層レベルで心臓機能を特徴付けたが、これは複雑な天然の系におけるように心疾患の正確な情報を提供するには不十分なものである。更に、これらの研究において調査された薬物は、血液区画の代わりに、細胞に直接印加され、流動の存在は心筋細胞に対する剪断応力を生成し、その両方とも心筋細胞が天然の心臓において経験するものと比較して非生理学的な環境の生成に寄与していた。
【0416】
開示されるデバイスは、(1)それらが異方的に整列する天然の心筋束構造をより良好に模倣する;(2)鋳型の存在が、後の特徴付けのためのより容易な取り扱いを可能にし、数週間にわたって安定な全構造を保持する;(3)デバイスを、高スループット薬物スクリーニングのために容易にカスタマイズし、適用することができる;(4)デバイスがそれ自体によって局所的刺激提供する;(5)デバイスが多用途であり、他の刺激原(例えば、機械的刺激)と同様に統合することができる;(6)灌流可能な例示的な系が心筋束模倣体を介する灌流により心筋細胞に印加された薬理学的薬剤を試験するための初めてのプラットフォームであり、心疾患の発生及び治療剤に関する価値ある知識を提供することができる、のうちの1つ又は複数を含む、1つ又は複数の利点を提供することができる。
【0417】
低分子だけがチューブ壁を通って感知できるほどに拡散することができ、タンパク質はできないため、商業的に入手可能なPTFEチューブの透過性は、試験することができる薬物候補を制限し得る。しかしながら、他の材料を用いてもよく、例えば、チューブ材料はより良好な透過性のため微小孔性であるべきである。さらなる試験を行って、他の関連する薬理学的薬剤を調査し、内皮細胞と心筋細胞との相互作用を研究するためにチューブ管腔に内皮細胞を播種することができる。
【0418】
結論として、例示的デバイス中での培養は、以下の1つ又は複数:1)hESC心筋細胞の構築の改善及び生理的肥大の誘導、2)サルコメア成熟の誘導並びに3)刺激周波数依存的様式での電気生理学的特性の改善を提供することができ、これは成体様ヒト心筋細胞を取得するための第1の工程である。
【0419】
(実施例3)
バイオロッド
図33は、薬物探索経路の典型的なシナリオを記載する。理解されるように、薬物の探索及び開発は、in vitroの実験細胞及び動物モデルにおける薬理学的効果の実証から始まり、薬物の安全性及び有効性試験、臨床及び前臨床試験で終わる、達成が困難な試験プロセスからなる。ごく少数の化合物のみが安全かつ有効な新薬としてFDAの認可を受けると見積もられている。およそ25%の化合物が、前臨床毒性試験において排除される。したがって、前臨床開発における有意な数の薬物候補は、試験系における許容できないレベルの毒性のため、この段階から前進することができない。失敗の多くが、現在の方法及び技術を用いて評価するのが困難である薬物により引き起こされる心臓毒性効果と関連していた。
【0420】
細胞、分子、及び生化学アッセイにおいてかなりの技術的進歩が遂げられてきたが、薬物の毒性効果を評価するための現在利用可能な技術に関するいくつかの大きな問題が依然として存在する。第1に、精製された、又は組換えの酵素及び細胞培養物を用いるin vitroでのアッセイは、その後、動物モデルにおいて用いられる薬理学的及び毒性学的パラメータの決定における第一歩を提供するが、天然のヒト組織又は系における薬物代謝の間に起こる多因子事象を説明するには単純化されすぎていることが多い。第2に、動物モデルにおいて得られるデータは、ヒト系に確実に外挿することができない。第3に、HIV感染又はアルツハイマー病等の慢性疾患を処置するために用いられる多くの薬物は、長期間にわたって、いくつかの場合においては、個体の生涯にわたって適用される投薬レジメンを必要とする。現在、慢性毒性の発生は長期的な患者使用中に最も実際的に観察される。
【0421】
特に、心臓毒性に関する、薬物候補の高い失敗率を考慮すると、毒性、特に、心臓毒性を決定する、測定する、評価する、及びさもなくば検出するための新規かつ改良された方法が、高く望まれる。
【0422】
A.例示的二重ワイヤ収縮力組織培養実施形態(すなわち、バイオロッド又はバイオワイヤII)の構造、調製、及び使用
第3の実施形態において、本発明は、収縮力を測定するのに好適である三次元組織を増殖させるためのバイオリアクターデバイスに関する。
【0423】
図34は、本明細書では「バイオロッド」又は「バイオワイヤII」と呼ぶことができる、本発明の二重ワイヤ収縮力組織培養実施形態の設計の略図を提供する。略図に示されるように、バイオロッド実施形態は、マイクロウェル又はマイクロチャンバー及び一般的には垂直の配置にあるマイクロチャンバーと交差する一対の溝が形成されたマクロウェル又はマクロチャンバーを含む。マイクロチャンバーは、細胞及び/又は組織を増殖させるのに適しており、所望の組織の細胞を播種することができる。溝は、ポリマーワイヤが溝の中に置かれた場合にマイクロチャンバーの開いた空間を横断するような、一対のポリマーワイヤを受け取るのに適している。マイクロチャンバーに対するポリマーワイヤ/溝の配向は、垂直の構成に限定されないが、得られる3D組織鎖が、チャネルを形成し、ポリマーワイヤのそれぞれの末端で付着して、細胞がポリマーワイヤ間に相互接続又は細胞架橋又は鎖を形成する限り、任意の好適な角度であってもよい。好ましくは、ポリマーワイヤは一般的には互いに平行に、一般的にはマイクロチャネルと垂直に配置される。しかしながら、任意の好適な構成が企図される。例えば、ポリマーワイヤと溝を、一般的には互いに平行に、一般的にはマイクロチャネルの全体的な配向に対して垂直に配置することができる。他の実施形態では、ポリマーワイヤと溝を、マイクロチャネルの全体的な配向に関して異なる角度で配置することができる。更に、ポリマーワイヤは一般的には直鎖状の構成で記載されるが、曲線及び/又はそうでなければ非直鎖部分を有するワイヤを構成することもできる。ポリマーワイヤは、好ましくは、偏向性、変形性、屈曲性等であってもよく、ポリマーワイヤ上の組織鎖により発揮される収縮力の測定を可能にするように更に構成することができる。また、バイオロッド実施形態を、ポリマーワイヤが収縮力の測定を同時に容易にする異なる特性を有するように構成することもできる。例えば、一方のワイヤが偏向性、変形性、屈曲性等であり、他方のワイヤが剛性であるバイオロッドを構成することもできる。この様式で、可撓性ワイヤの動きに基づいて収縮活動をモニタリングする、及び/又は測定することができる。組織鎖の収縮力を測定することができる限り、任意の好適な構成のワイヤが想定され、用いることができる。また、バイオロッド実施形態を、それぞれ、マクロウェル及びマイクロチャンバー及びポリマーワイヤを含む、個々のバイオロッド成長チャンバーのアレイとして
図35に従って構成することもできる。
【0424】
図36に示されるように、マイクロウェルを、心臓細胞を刺激するための2つの電極と共に(マイクロチャネルの末端で)構成することができる。
図36はまた、バイオロッド系を用いて薬物を試験するのに必要とされる典型的な時間枠を記載し、「段階1」(組織鎖形成)、「段階2」(電気刺激を用いる組織の成熟)、及び「段階3」(試験段階)を含む。より詳細には、薬物スクリーニング適用として、工学的に作製した心臓組織は、強力なデータを提供するために健康な成体心臓組織をできる限り模倣するべきである。高い忠実度の心臓組織を有するために、この実施形態に電気刺激を組み込むことができる。比較により、心臓分化の現在の技術は未熟な心筋細胞を提供することができるに過ぎない。電気刺激は、心臓組織の成熟度を有意に増強することがわかっている。従って、培養の第1週は組織形成に集中し、第2週は組織を成熟させるために電気刺激を導入し、第3週等は短期及び長期薬物試験のために用いることができる。しかしながら、この特定のプロトコールは、限定を意味するものではなく、他の電気刺激プロトコールもここで想定及び企図される。当業者であれば、電気刺激の持続時間及びペーシング周波数等の、任意の好適な方法でプロトコールパラメータを調整することができる。
【0425】
図37に記載されるように、本発明のバイオロッド実施形態は、ウェル又はチャネル及び一般的にはバイオリアクターチャネルの長手寸法に対して垂直に向いた、チャネルの反対側に、又はその近くに、幅にわたってチャネルを配置した2つの長手エレメント(例えば、ワイヤ又は縫合糸)を含む足場を有するバイオリアクターを含んでもよい。長手エレメントは、バイオリアクターチャネル中での細胞の播種のためのアンカー又は支持体として機能して、両方のエレメントを中に含む組織鎖を形成することができる。
【0426】
長手エレメントは、好ましくは、偏向性、変形性、屈曲性等であってもよく、長手エレメント上で組織鎖により発揮される収縮力の測定を可能にするように更に構成される。バイオリアクターのチャネルを横断する電界を生成するように構成される電極を含むように、バイオリアクターを更に構成することができる。電界の方向は任意の方向にあってよいが、好ましくは、チャネルの長さ(及び得られる組織鎖)に対して平行である方向にあるか、又はチャネルの長さ(及び得られる組織鎖)に対して垂直である方向にある。
【0427】
本明細書で用いられる用語「バイオロッド」は、それだけに限定されないが、組織鎖自体(すなわち、本明細書に記載のバイオリアクターデバイス上で増殖する細胞)又は組織鎖とバイオリアクターとを一緒に含む系を指してもよい。また、バイオロッドは、本明細書ではBIOROD(商標)のその商業名を指してもよく、組織鎖自体、又は組織鎖と、組織鎖が増殖したか、若しくは置かれたバイオリアクターデバイスとを含む系の両方を包含する。
【0428】
バイオロッド実施形態を、収縮力を測定するための複数の三次元組織鎖を同時に、例えば、
図37Aに示されるような96ウェルプレート形式で増殖させることができるような複数のバイオリアクターチャネル及び長手足場を含む構成にスケールアップすることができる。
【0429】
また、バイオロッド実施形態は、バイオリアクター中で組織鎖を増殖させるための方法、三次元組織鎖自体、バイオリアクターと増殖した組織鎖の両方を含む系、並びにそれだけに限定されないが、(a)実験的薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の有効性及び安全性(毒性を含む)の試験、(b)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の薬物動態及び/又は薬力学の定義付け、(c)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の特性及び対象に対する治療効果の特徴付け、(d)新しい薬理学的薬剤のスクリーニング、(e)損傷組織及び/又は患部組織を処置するための再生医療における使用のための埋め込み型の工学的に作製した組織の提供、並びに(f)例えば、組織鎖への試験薬剤の投与に応答して、長手エレメント上の組織鎖により発揮された収縮力の測定を含む様々な適用において組織鎖(若しくは組織鎖を含む系)を使用及び/又は試験する方法に関する。この実施形態では、デバイスを、6ウェル、12ウェル、24ウェル、96ウェル、384ウェル、及び1536ウェルプレート等のマルチウェルプレートで構成することができる。
【0430】
図37及び
図38は、収縮力の測定にとって好適であってよい組織の培養にとって好適な例示的バイオロッドデバイスの略図及び画像を示す。この例においては、デバイスを、複数の組織鎖の同時的培養のために、複数のウェルを有するプレート構成にスケールアップすることができる。しかしながら、他の例においては、デバイスを、単一の組織鎖(例えば、単一のウェルを有する)を培養するために構成することができる。
【0431】
例示的デバイスは、組織培養のための種細胞を受け取ることができる長手バイオリアクターチャネルを含んでもよい。バイオリアクターチャネルに対して垂直の配向の2つのワイヤを含む足場を、バイオリアクターチャネルの反対側の末端の近くでバイオリアクターチャネルの幅にわたって支持する(例えば、吊り下げる)ことができる。ワイヤは、バイオリアクターチャネルの長さに沿って組織構造を形成するための種細胞のためのアンカーとして役立つことができる。ワイヤは偏向性であってもよい。デバイスは、組織鎖により発揮される収縮力の測定を可能にする。
【0432】
いくつかの例においては、デバイスは、それぞれのウェルがバイオリアクターチャネルと上記の足場とを含む、複数のバイオリアクターウェルを有するマルチウェルデバイスであってもよい。
【0433】
図37aに示されるように、デバイスは、マルチウェルプレートとして構成された場合、4つの構成要素:ベース層、支持体(例えば、ワイヤ)、ウェル-プレート(例えば、96ウェルを定義する)及びプレートキャップを含んでもよい。少ないウェルが存在する例においては、デバイスを、少ない層を用いて微細製作することができる(例えば、ただ1つのウェルしか存在しない場合は、ウェル-プレートは必要ないことがある)。ウェル及び/又はワイヤの寸法の比例的変化を、必要に応じて、デバイスのスケールアップ(例えば、384ウェルプレート形式に)又はスケールダウンにおいて用いることができる。例えば、ウェル及び/又はワイヤの寸法の比例的変化を用いて、6ウェル、12ウェル及び24ウェルプレート等の他のマルチウェルプレート構成を作出することができる。実施例1及び実施例2のデバイスの製作のために用いられる技術、並びに特に、熱エンボス加工及び注入-成型技術を含む、任意の好適な技術を用いて、例示的デバイスを製作することができる。
【0434】
図37B1は、熱エンボス加工技術を用いてポリ(メチルメタクリレート)PMMAを生成するための例示的製作プロセスを図示する。
図37B2は、個々のウェルの寸法の詳細図と共に熱エンボス加工後のSU-8マスター及びPMMAベースを示す。
図37Cは、ワイヤ製作プロセス(右)及び製作後のワイヤ(左)の例示である。
図37D1は、ワイヤが取り付けられた96ウェルプレートに基づくPMMAベースの略図である。
図37D2は、プレートの単一のウェルの詳細図である。
図37D3は、ウェルの1つの行にワイヤが取り付けられた製作されたPMMAベースの画像であり、ワイヤを有する単一のウェルの上から見た詳細図である。
【0435】
例において、ベース層パターンをAutoCAD中で予め設計し、標準的なソフトリソグラフィ技術によりSU-8マスターに移転させた。次いで、SU-8マスターを熱エンボス加工マスターに転移させ、好適な熱エンボス加工技術を用いてPMMA内にマイクロウェルのアレイを生成するために用いた(
図37B1を参照されたい)。或いは、組織培養ポリスチレンを用いるか、又はそれはポリカーボネート等の任意数の生物学的に不活性な成型性ポリマーであってもよい。1つのバイオリアクターマイクロウェルを、96ウェルプレートの単一のウェルの中心に配置した。マイクロウェルの寸法は、長さ5mm×幅1mm×深さ300μmであった。異なる組織型のために他の寸法を用いることができる。マイクロウェルの全てのカラムにわたる2つの遍在する溝を、マイクロウェルの両短側から1mmに配置した(
図37B2を参照されたい)。溝は幅100μm×深さ100μmであった。他の溝の寸法は異なる組織にとって好適であってもよい。溝を用いて、細胞集合のための足場(例えば、ワイヤ)を収納した。しかしながら、ワイヤをマイクロウェルの頂部に結合させることができるため、溝は任意選択であり、機能にとって必要とされない。
【0436】
示される例においては、ポリマーワイヤを、バイオリアクターマイクロウェル中で組織を培養するための支持体として用いた。制御された寸法(横断面において100μm×100μm)を有するワイヤは、ポリ[オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸](POMaC)から作られていた(
図37Cを参照されたい)。ポリ[オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸](POMaC)プレポリマーを調製するために、1,8-オクタンジオール、クエン酸、及びマレイン酸無水物を、5:1:4のモル比で混合し、窒素パージ下、160℃で融解した。次いで、温度を140℃まで低下させ、混合物を3時間撹拌した。次いで、得られたプレポリマー溶液を、1,6ジオキサンに溶解し、蒸留水中で滴下沈降により精製した。沈降したポリマーを2日間凍結乾燥した後、5%w/w UVイニシエータ(Irgacure 2959)と混合した。ワイヤを製作するために、マイクロチャネルを有するPDMSキャップを、標準的なソフトリソグラフィを用いてSU-8マスターを用いて生成した。次いで、PDMSキャップをスライドガラス上に軽く押しつけた。次いで、POMaCのプレポリマー溶液を、シリンジポンプにより、又は単に毛細管効果により、これらのマイクロチャネル中で灌流した。プレポリマーが全チャネルに行き渡った後、それをUVランプ下で45分間架橋させた。所望の機械的特性、すなわち、調整可能性を達成するために、他の好適な硬化時間も可能である。PDMSキャップを剥がしたところ、ワイヤはスライドガラス上に残った。POMaCはPDMSよりもガラスに対する親和性が高いため、ワイヤはPDMSマイクロチャネルから遊離した。次いで、これらのワイヤを、PMMAベース層上の溝の中に入れた(
図37D1〜
図37D3を参照されたい)。
【0437】
集合後、全てのマイクロウェルは、2つの支持体、本実施例においては、ウェルの端部に位置する、自己蛍光性ワイヤ及び可撓性ワイヤの足場を含んでいた。商業的に入手可能な96ウェル底なしプレート及びキャップを用いて、プレートの集合を完了させた。具体的には、96ウェル底なしプレートをPMMAベース層の上に置いて、ワイヤを定位置に固定し、交差夾雑しない独立ウェルを作出した。
【0438】
図38a〜
図38cは、上記のように製作された例示的デバイスの実際の画像を示す。1つのバイオリアクターウェルは、96ウェルプレートのそれぞれのウェルに位置する。バイオリアクターウェルの側面に置かれたワイヤは、収縮力測定を可能にする。
図38aは、上部及び底部から見た図を示す。
図38bは、単一のウェルの詳細図を示す。
図38cは、96ウェルプレートの複数のウェルの図を示す。
【0439】
ある特定の材料、技術及び寸法が上に記載されるが、例示的デバイスのために他の好適な材料(例えば、特に、ポリスチレン及び/又はポリウレタン)、技術及び寸法を用いることもできる。用いられるものとしてポリマーワイヤが記載されるが、他の長い材料等の他の支持体も好適であってよい。例えば、ワイヤを、ポリ(グリセロールセバケート)、POMac、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、様々なポリウレタン並びにそのコポリマー、絹、微細構造、ナノファブリケーション材料、及び/又は特に、ナノロッド若しくは量子ドット等のナノ構造でドーピングされた材料から作製することができる。
【0440】
B.例示的バイオロッド/バイオワイヤII実施形態の実験的試験
例示的方法及び分析
心筋細胞を、ヒト胚性幹細胞株(hESC、Hes2)から誘導した。胚様体(EB)を心血管系列に分化させ、デバイス1の方法に以前に記載されたように解離させた。細胞を播種する前に、マイクロウェルの表面を5%(w/v)プルロニック酸(Sigma社、P2443)で洗浄した後、生物安全キャビネット中で空気乾燥させた。hESC由来心筋細胞を、0.45g/mlグルコース、1%(v/v)HEPES、10%(v/v)Matrigel(BD Biosciences社)、及び0.2g/ml NaHCO
3を添加したI型コラーゲン系ゲル[1N NaOHにより中和された3.0mg/mlのラット尾部I型コラーゲン(BD Biosciences社)及び製造業者により記載された10×M199培地]中、2億個/ml(別途特定しない限り)で懸濁した。次いで、懸濁された心筋細胞を細胞培養チャネル中に播種した(ウェルあたり2.5μl)。ゲル化を誘導するために37℃で30分間インキュベートした後、適切な培地を添加した。播種後、細胞を7日間、培養物中で保持して、コラーゲンマトリックスの再モデリング及びワイヤの周囲への集合を可能にした。心臓組織鎖を、2〜3日毎に培地を交換しながら、最大で21日間にわたって培養物中で保持した。好ましくは、組織鎖を少なくとも2週間、培養物中で保持して、成熟を可能にするべきである;しかしながら、最大培養期間に関する制限はない。心臓組織鎖を播種して、長期培養における組織の安定性及び再現性を観察した。播種後、組織鎖の明視野画像(例えば、
図39Aを参照されたい)を、光学顕微鏡(Olympus社、CKX41)を用いて毎日撮影し(n=3/群)、4つの異なる位置での組織鎖の直径を、imageJを用いて分析した(例えば、
図39Bを参照されたい)。また、組織鎖の長さを、同じ方法を用いて分析した。
【0441】
図39は、マルチウェルプレート構成を有する開示されるデバイス中での組織圧縮及び力測定を示す例示的結果を示す。ヒト胚性幹細胞(hESC)由来心筋細胞を、細胞供給源として用いた。
図39Aは、播種(0日目)から出発して、ゲル圧縮(1日目〜6日目)を介して、安定期(6日目〜21日目)に至る心臓組織形成と安定化を示す。
図39Bは、3週間の連続培養の間の圧縮及び組織再モデリングの間の組織の幅及び長さの定量化を示す(平均±SD、n=3)。幅と長さは両方とも、第1週のうちに有意に変化し、次の2週間の培養については安定なままであった。
【0442】
実施例3のデバイスを用いて培養された組織鎖における電気刺激の検証のために、便宜上、同じ寸法を有するPDMSマイクロウェルを用いた。実施例1のデバイスの調査と同様の設定を用いて、電気刺激を組織に印加した。2つの1/4インチ直径のカーボンロッド(Ladd Research Industries社)を、内端から2cm離して置いた。組織をカーボンロッドに対して垂直に置き、カーボンロッドの中心と同じ高さにした。2つのカーボンロッドを、白金ワイヤ(Ladd Research Industries社)を有する外部電気刺激装置(Grass S88X)に接続した。細胞圧縮の7日後、刺激チャンバー中で組織を電気刺激に導入した。実施例1のデバイスの調査において記載されたように、ペーシング周波数は1Hzで開始し、週を通して6Hzまで徐々に、毎日増大した(1、1.83、2.66、3.49、4.82、5.15及び6Hz、毎日の周波数)。1Hzの電気ペーシングを用いて更に1週間培養を続けて、組織成熟及び長期又は短期薬物試験実験にとって十分な時間静置した。
【0443】
PMMAプレートのために、金電極を、マイクロウェルの両方の短端に印刷し(
図37D2を参照されたい)、プレートの端部まで延長して、電界刺激のために外部電気刺激装置(Grass S88x)と接続する。この例において、寸法は0.2mm×1mm×0.1mmの高さである。
【0444】
組織収縮挙動の追跡及び測定を実行した。POMacは、広範囲の波長で自己蛍光性である;従って、ワイヤを、DAPIチャネル(例えば、461nmの波長)下で蛍光顕微鏡を用いて画像化して、ワイヤの屈曲運動を追跡した。POMacはFITC及びTritcチャネル等の広範囲の波長で自己蛍光性である。画像を、25フレーム/秒(fps)で撮影した(
図39Cを参照されたい)。画像シーケンスを、トラッキングプラグインを用いるImageJソフトウェアにより分析した。心臓組織から生じた力を計算するために、中央のセクションにおける均一に分布した負荷に関するビーム偏向式をここで用いた。
図39Cは、時間経過における工学的に作製された心臓組織の収縮挙動に起因する単ワイヤの屈曲挙動を示す。工学的に作製された心臓組織を2Hzの周波数でペーシングした。この画像シーケンスから、鼓動の収縮及び弛緩時間を見積もることができる。
図39Dは、2つの固定された末端に関するビーム偏向シナリオの例示を示す。組織を伸長させるワイヤは、均一に分布した負荷、Wo(力を担持する長さあたりの負荷)と考えてもよく、これを画像シーケンスにおけるワイヤの中心点の移動を用いて計算することができ、Fも同様に計算することができる。
図39Eは、静的張力F1(細胞圧縮及び再モデリングに起因する)及び動的張力F2(組織の収縮に起因する)及び両方の力を切り離すための手順を示す。簡単に述べると、全ビーム長は、Lであった。組織を包むワイヤのセクションは負荷を経験していた。ここで、負荷はこのセクションを通して均等に分布すると仮定され、Woは長さあたりの負荷であった。プルロニック酸コーティングのため、組織形成は非常に対称的であり、ワイヤに対して垂直であった。組織の側面とウェル壁との間の距離はaであり、両側について等しいと仮定した。中心点での偏向はyであった。
【0445】
図39D中の式によれば、画像分析を用いて、中心点での偏向を容易に得ることができる。Wo及び横断面の面積あたりの力を計算した(組織の中点での応力)。ワイヤの偏向は2つの異なる張力に依存していた。1つの張力は、ゲル圧縮及び細胞集合プロセスにより生成されたものであった。この張力は、組織が弛緩状態にある場合、y1から計算される短時間枠(例えば、時間)で静的であるF1である(
図39Eを参照されたい)。全偏向y2は、2つの張力、F1及びF2により引き起こされたものであった。張力F2は動的であり、組織の収縮挙動を受けたものであった。張力F2は測定の標的であった。正確な収縮力F2を測定するために、圧縮張力F1は切り離す必要があった。
【0446】
力測定の検証を実行した。全ての直接的力測定を、Biograf力変換器(Kent Scientific社)により行った。組織及びワイヤのサイズが小さいため、ワイヤを含むウェルのスケールアップを、幾何学的相似性規則を用いて設定した。
【0447】
図40は、力測定の検証を例示する。式を検証するために、力変換器の感度のため、スケールアップされた設定が必要であった。
図40Aは、計算された力と測定された力とを比較するためのスケールアップされた設定の略図を示す。力は、偏向y、ワイヤの長さL、並びにワイヤに固定された末端及び力プローブの端部からの距離aを、
図40Dに提示される式に代入することにより計算される。測定された力を、Biograf装置(Kent Scientifics社)を用いて取得した。2つの異なるワイヤ横断面を用いて、式を検証した。
図40Bから、同じ試料からの測定データ及び計算データは、最大0.5mmのワイヤ偏向と一致する。この場合、力の計算値は、偏向がワイヤの長さの20%を超えた場合、正確であると考えなかった(n=3)。
【0448】
ウェルの幅Lは2.5mmであり、力変換器プローブ直径は0.6mmであり、従って、プローブを中心点に置いた場合、a=0.95mmであった。POMaCの弾性係数を、その経度に沿って伸長する応力-ひずみ曲線により計算した。試験中に、力プローブは中心点でPOMacワイヤに対して移動していた(
図40Aを参照されたい)。力の読取り及び移動を同時に記録した。2つの異なるワイヤサイズの横断面は、0.3mm×0.3mm及び0.4mm×0.4mmであった。移動、弾性係数及び横断面の面積を用いる式から計算された力を、変換器からの力読取りと比較した。
【0449】
21日目に、刺激された、及び対照ヒト心臓組織鎖の電気特性を、実施例1のデバイスの調査のための上記の外部電界ペーシングの下での興奮閾値(ET)及び最大捕捉率(MCR)に関して特徴付けた。
【0450】
免疫染色及び共焦点顕微鏡観察を、実施例3のデバイス中で培養された心臓組織の特徴付けのために実行した。例示的結果を、
図41に示す。
図41Aは、終点測定としての21日目での興奮閾値及び最大捕捉率を用いた電気特性の評価を示す(平均±SD、n=3)。
図41Bは、播種後21日目(終点評価)での細胞タンパク質発現に関する蛍光画像を示す:ギャップ結合タンパク質、コネキシン43(Cx43);サルコメアタンパク質である心臓トロポニンT(cTnT)及びF-アクチン(Infrared Red);アルファ-アクチニン。f-アクチン及びアルファ-アクチニンに関する染色は、同時局在化された独特の線条構造を示した。
図42Aは、自発的鼓動の収縮力を定量するために2、3、6、10、13、17、21日目で撮影したビデオからの結果を示す。収縮力は第1週に急速に増大し、第2週及び第3週にプラトーに達した。
図42Bは、0.5Hz〜3Hzのペーシング周波数で21日目(終点評価)の偏向から計算された横断面あたりの力を示す。0.5Hzで生成された力に対して正規化した後、
図42Bは正の力-周波数関係を示した(平均±SD、n=3)。
【0451】
3週の終わりに、組織鎖をcTnT、コネキシン43、F-アクチン及びアルファ-アクチニンについて染色した。組織鎖を4%パラホルムアルデヒドで固定し、0.25%Triton X-100により透過処理し、5%ウシ胎仔血清(FBS)により遮断した。免疫染色を、以下の抗体:マウス抗心臓トロポニンT(cTnT)(Abcam社;1:200)、ウサギ抗コネキシン43(Cx-43)(Abcam社;1:200)、マウス抗α-アクチニン(Abcam社;1:200)、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488(Jackson Immuno Research社;1:400)、抗ウサギTRITC(Invitrogen社;1:200)、抗マウスTRITC(Jackson Immuno Research社;1:200)を用いて実施した。ファロイジン-Alexa 660(Invitrogen社;1:200)を用いて、F-アクチン線維を染色した。共焦点顕微鏡観察のために、染色された心臓組織鎖を、直立型共焦点顕微鏡(Zeiss社、LSM510)の下で可視化した(
図41Bを参照されたい)。
【0452】
7つの異なる時点(播種後2、3、6、10、13、17、21日)で、自発的鼓動の収縮挙動を評価した。異なる時点での評価のために、蛍光顕微鏡に関して正確に同じ設定を使用し、良好な比較を確保するために組織を同じ位置に配置した。
【0453】
薬物試験を実行した。薬理学的薬剤に対する応答を試験するためのこれらの組織鎖の可能性を証明するために、試験は、組織がノルエピネフリン、E-4301及びイソプロテレノール等の周知の心臓化合物に対して適切に応答するかどうかを検査した。
【0454】
例示的結果及び考察
医薬品開発において払われた多大の努力及び費用にも関わらず、心臓に関連する副作用のために撤回にいたる、市場に入る多くの薬物が依然として存在する。多くの研究グループが、現在は、臨床試験が開始される前に資格のない薬物候補を取り除くための薬物候補の心臓組織特異的in vitroスクリーニングに焦点を合わせている
55〜59。本出願のための良好なプラットフォームを設計するために、様々な基準を考慮することができる。まず第1に、ウェル中の薬物濃度に影響しないことが、デバイス中で用いられる材料にとって有用であり得る。従って、プラットフォーム全体を、不活性の非吸収性材料を用いて製作することができる。PDMSは、微細な特徴に容易に操作及び製作することができる非常に人気がある材料である。従って、多くのグループは、心臓薬物試験のためのマイクロデバイスを構築するためにPDMSを用いている
60、61。しかしながら、PDMSは薬物吸収性が高く、この材料への大きく容易な薬物吸収をもたらす大部分の薬物候補の疎水性のため、薬物送達媒体として用いることが認可されている
62〜65。この場合、PDMS及び他の薬物吸収性ポリマーは、デバイス中で試験している間薬物と接触して用いることはできない。
【0455】
第2に、適切な細胞成熟及び薬物効果の調査を可能にするために少なくとも3週間にわたって安定な培養物中で容易に再現され、維持されることが、工学的に作製された心臓組織(ECT)にとって有用であり得る。これらの3週間の培養の間の観察を、組織を破壊することなく完了させるべきである。偏向後の特徴付けは、組織収縮挙動を特徴付けるためのよく受け入れられている方法である
55、58、60、61、66〜68。このアプローチにおいて、心臓微小組織は、一対の円筒状ポストを含有するマイクロウェル中で生成される。組織はポストの周囲に集合し、ポストの偏向は収縮力の測定を可能にする。しかしながら、このプロセスは制御が困難であることが多い。ポストの有意な変形のため、組織はポストから滑落することが多い。これは培養プロセス中の標本の喪失を引き起こし得る。試料の喪失を防ぐためにポストの上部にキャップを追加しようとする場合、製作プロセスは有意により困難になる。更に、ポスト偏向設計の力測定は、ポスト上の組織の位置に有意に依拠する。組織は一般的には長期培養の間に上方へ移動し、顕微鏡による測定を正確に行うのは容易ではない。事実、ポスト上の組織の正確な位置を決定するために、ウェルを切断し、組織を側面から画像化する必要がある。
【0456】
上記の例示的デバイスは、高スループット薬物試験デバイスとして役立ち、1つ又は複数の上記の有用な基準を満たすことができる。実施例3の例示的デバイスは、1つ又は複数の上記制限を克服することができる。細胞が自己集合する周囲の支持ワイヤは、全て同じレベルで配置してもよく、したがって、組織は常に同じ場所にあってもよい。支持ワイヤを、ウェル内に固く固定し、自由な末端がなくてもよく、したがって、組織はワイヤから滑落しなくてもよい。更に、ワイヤの偏向は、収縮力の正確な測定並びに能動的張力からの受動的張力の切り離しを可能にし得る。
【0457】
この例示的デバイスにおいて、PMMA及びPOMaCを、培養物中の培地及び組織と接触する材料として用いた。POMaCは、PDMSと比較して疎水性が低く
69、従って、薬物吸収の機会を減少させることができる。更に、デバイスのウェルは不活性のPMMAから構築されるため、最小容量のPOMaCを用いることができる。例におけるPOMaCワイヤは、天然の、及び工学的に作製された心臓組織の機械的特性に近い25kPaの弾性係数を有し
47、生理学的に関連する微小環境を提供することができる。様々なUV硬化エネルギーを用いてPOMaCワイヤの調整可能な機械的特性を用いて異なる予備負荷をシミュレートすることができる。従って、得られるデータは、生理学的事例と病理学的事例の両方についてより臨床的に関連していてもよい。更に、力測定は、PDMS等のより固い材料と比較してPOMaCのようなより柔らかい材料に関してより感受性が高くてもよい。これは、小型化された組織サイズを用いる高スループット設計にとって有益であり得る。本明細書の実施例に開示されるように、熱エンボス加工技術を用いて、製作プロセスを商業的製造にスケールアップすることができる(
図38を参照されたい)。
【0458】
実施例3の例示的デバイスは、培養された組織の高さの評価に関する必要性を低下させる、又は除去することができる。播種容量及び細胞密度が定義され、ワイヤは全て同じ一定の位置に置かれるため、工学的に作製された心臓組織は全培養期間で常に同じ位置にあってもよい。力の計算のためのパラメータを、偏向追跡画像シーケンスにおいて容易に回収することができる。ポスト中に見出されるもの等の自由末端がなければ、ECTが滑落し、試料喪失を引き起こすことは決してない。
図39Cは、組織収縮の間にワイヤがどのような屈曲したかを示す蛍光画像の時間経過の試料である。心臓組織は播種後2日目に鼓動を開始し、全培養期間を通して鼓動し続けた。これは、ヒドロゲルマトリックス内での細胞の高レベルの電気機械的カップリングを示していた。更に、電気刺激を用いる培養の21日後に、
図39Bは、組織の寸法が第1週の間に迅速に変化し、第2週の開始時にプラトーに達し、全培養期間にその寸法を維持することを示した。その結果、ヒト心臓組織が第1週にゲル圧縮及び自己集合を終了させることが確認された。標準偏差が小さいことから、組織の再現性が高いことが示唆される。
【0459】
検証実験は、2つの態様、力測定検証と組織特徴付けとを有する。
図40における力測定に関する検証試験により、偏向がワイヤの長さの20%以内である場合、
図39D中の式を用いる計算が正確であることが確認された。より大きい偏向は他の式の使用を必要とし得る。ECTの電気特性は、電気刺激後に改善され、特に、興奮閾値(ET)は刺激された試料において有意に低下した。最大捕捉率(MCR)は有意に変化しなかったが、その傾向は改善を示すと考えられた(
図41Aを参照されたい)。コネキシン43の免疫染色は、ギャップ結合タンパク質が細胞表面に発現されることを示していた。cTnT染色により、細胞中のサルコメアタンパク質の存在が確認された。心筋細胞のサルコメア-α-アクチニン及びf-アクチン構造も一緒に提示及び局在化され、ECTにおいて細胞伸長を示した(
図41Bを参照されたい)。
【0460】
図42Aは、培養の3週間以内に収縮力の変化を示す。7つの異なる時点(播種の2、3、6、10、13、17、21日後)で、自発的鼓動の収縮挙動を評価した。ヒドロゲル中の細胞の電気的カップリングの上昇のため、収縮力は第1週に有意に増大した。培養の第2週及び第3週は、収縮力に対する有意な改善を示さなかった。
図42Bに提示される力-周波数の関係は、ECTが天然の心臓組織と似ており、2.5Hzまでの電気刺激でBowditch階段現象を示すことを示唆している。
【0461】
図43は、薬物試験からの例示的結果を示す。ノルエピネフリンは、心拍を直接増加させることにより、闘争逃走反応において作用するストレスホルモンである
72。
図43Aは、対照と比較した、薬物の所与の濃度での代表的な組織鼓動パターンを示す。10μMでのノルエピネフリンの添加は、鼓動周波数の有意な増加をもたらした。E4301はヒトI
kr心臓イオンチャネルの遮断剤として作用し、その遮断は後脱分極及び危険な不整脈をもたらし得る
56。100nMでのE4301の添加は、鼓動後たまに弛緩の延長をもたらし、この薬剤の機能を明確に表す。イソプロテレノールは、心拍出量を増加させる非選択的ベータ-アドレナリンアゴニストである。高用量は組織を脱感作し、逆の効果を引き起こし得る
73。
図43Bは、薬物添加の前の力に対して正規化された組織収縮力の用量応答傾向を示した。組織は、100nM及び1μMでは正の変力作用(収縮性の増加)を有し、10μMではわずかに負の変力効果(収縮性の減少)を有していた。
【0462】
図43は、薬物試験からの例示的結果を示す。ノルエピネフリンは、心拍数を直接増加させることにより、闘争逃走反応において作用するストレスホルモンである
72。
図43Aは、対照と比較した、薬物の所与の濃度での代表的な組織鼓動パターンを示す。10μMでのノルエピネフリンの添加は、鼓動周波数の有意な増加をもたらした。E4301はヒトI
kr心臓イオンチャネルの遮断剤として作用し、その遮断は後脱分極及び危険な不整脈をもたらし得る
56。100nMでのE4301の添加は、鼓動後たまに弛緩の延長をもたらし、この薬剤の機能を明確に表す。イソプロテレノールは、心拍出量を増加させる非選択的ベータ-アドレナリンアゴニストである。高用量は組織を脱感作し、逆の効果を引き起こし得る
73。
図43Bは、薬物添加の前の力に対して正規化された組織収縮力の用量応答傾向を示した。組織は、100nM及び1μMでは正の変力作用(収縮性の増加)を有し、10μMではわずかに負の変力効果(収縮性の減少)を有していた。
【0463】
まとめると、この例示的デバイスは、高スループットな様式で少なくとも部分的に成熟したヒト心臓組織を生成することができる。設計は、PDMSの使用を減少させる、又は除去することができ、それは一般的に用いられる96ウェルプレート形式と完全に適合していた。力並びに鼓動周波数、収縮及び弛緩時間等の収縮特性の他の重要な態様の小型化及び自動化測定を、上手く実行することができる。ヒト心臓組織はまた、周知の薬物:ノルエピネフリン、E-4301及びイソプロテレノールに適切に応答した。
【0464】
例示的デバイスは多用途であってよく、様々な改変にかけてもよい。例えば、2つの支持ワイヤが1つのウェルに取り付けられるため、1つのワイヤの材料を変化させて、他の目的を容易にすることができる。例えば、1つのワイヤを白金ワイヤ又は他の電導性ポリマーに変化させて、点電気刺激を行うことができる。磁気材料(ポリマー)から作られたワイヤを用いて、外部磁界は心臓負荷の模倣体として電気刺激と機械刺激を同時に容易にすることができる
74。この設定は、ECTの成熟を更に推し進めるのに役立ち得る。
【0465】
図44は、アルファ-アクチニン(細胞骨格の染色)及びDAPI(核を示すため)について染色されたバイオロッド実施形態の組織鎖の細胞の顕微鏡画像を提供する。それぞれ、電気刺激の結果として高度に成熟した心臓組織を示す、組織における高い程度の細胞整列を有する完全に伸長した細胞と共に、明確なサルコメア構造を見ることができる。
【0466】
図45は、バイオロッド実施形態の組織鎖が弾性に関してヒト心筋をシミュレートすることを示す実験結果を提供する。ヒト心筋の組織弾性は、約20kPa〜0.5MPaの範囲である。置きかえ心臓組織を埋め込む場合、埋め込まれる組織の固定点がin vitro及びin vivoの両方における適用にとって理想的である、天然の生理学的環境をシミュレートするために天然の組織と類似する機械的特性を有することを確保することが重要である。好ましい態様においては、バイオロッドデバイスのポリマーの機械的特性は、異なる架橋エネルギーを用いて重合を制御することにより調整可能である。また、調整可能性を、重合反応の間のポリマー単位の混合物の比によって制御することもできる。棒グラフは、バイオロッドデバイスのPOMacポリマーワイヤ/屈曲性エレメントを2つの異なるエネルギーレベルで架橋する場合、異なる弾性係数を示す。両エネルギー(4320mJ/cm
2及び8610mJ/cm
2)での弾性係数は、成体心筋の範囲にすぐに低下するが、硬化エネルギーの低下と共にその弾性係数は低下する。ポリマーワイヤの機械的特性を、硬化エネルギーの増加を用いて増加させて、特定の病態を作出することもできる。
【0467】
図46は、3カ月間にわたるバイオロッド実施形態のPOMacポリマーワイヤの安定性(弾性係数を単位とする)を示す棒グラフを提供する。データは、3カ月後でも、弾性係数は相対的に一定のままであることを示し、POMacワイヤが時間と共に実質的に安定であることを示している。
【0468】
図47は、バイオロッド実施形態のPOMacポリマーワイヤを、2つの異なる硬化エネルギーでも、弾性係数に影響することなくガンマ照射によって滅菌することができることを示すデータを提供する。
【0469】
図48は、バイオロッドプレートのバッチ画像を、市販の装置(例えば、Molecular Devices社)を用いて獲得することができる1つの様式を示す略図を提供する。ゲル圧縮及び組織圧縮により作出される受動的張力に関してバッチ式で写真を撮影するために、本発明者らの研究室ではMolecular Devices社からの市販のSpectramaxデバイスが用いられている。
【0470】
図49は、ラット新生児細胞供給源を用いて、組織鎖により単一の96ウェルプレート内で一貫した、再現性の高いデータが得られることを示すデータを提供する。異なる試験からの試料の力を比較した。また、
図49の右下の棒グラフに示されるように、同じ鼓動周波数下での組織収縮、弛緩、及び休止時間を含むパラメータは、変動性が小さい。これらの証拠は、バイオロッドデバイスにおける組織鎖の高レベルの再現性を示す。
図50は、96ウェルプレート中のバイオロッド組織鎖のin situでのアルファ-アクチニン免疫蛍光画像であり、細胞構造の伸長、一貫した配向、及び細胞内構造を示す。
【0471】
上記の実験試験により支持されるように、バイオロッド実施形態は、いくつかの利点及び特徴を有し、少なくとも以下のものを含む。
容易な取り扱い及び長期の観察を可能にする。
組織工学分野における高スループットプラットフォームを提供する。
薬物試験のための完全な薬物不活性環境を提供する。
PDMSを含まない。
高い忠実度の心臓組織。
成熟を押し進める電気刺激を含む。
異なる硬化エネルギーを用いたポリマーの重合、及びポリマー単位組成/比によるポリマーワイヤ(すなわち、屈曲性エレメント)の制御された(すなわち、調整可能な)機械的特性。
in situでの長期的及び終点評価。
カルシウム移行測定。
IHC染色。
様々な適用を可能にする他の材料への1つの側面をおそらく変化させる。
Ptワイヤを用いる点電気刺激。
磁場を用いる機械的伸長。
【0472】
(実施例4)
バイオブランチ/アンギオチップ
A.例示的血管形成組織培養実施形態(すなわち、バイオブランチ/アンギオチップ)の構造、調製、及び使用
第4の実施形態において、本発明は、1つ又は複数の管腔通路を有する三次元分枝状組織を含む(例えば、血管形成された三次元組織構造を模倣する)三次元組織を増殖させるためのバイオリアクターデバイスに関する。本発明のこの実施形態は、播種された細胞を増殖させるための第1の部分と、第1の部分を通過する相互接続されたチャネルを提供するための第2の部分とを含有する、三次元形状の足場又は細胞外マトリックス単位を有するバイオリアクターを含んでもよい。バイオリアクターを、生物学的血管構造を模倣するように構成することができる。足場は、播種された細胞のための支持体として役立ち、チャネル、好ましくは灌流可能なチャネルのネットワークが形成される組織構造を形成することができる。また、チャネルのネットワークは、チャネルの透過性を促進する、並びに細胞(例えば、単球)の移動を容易にするためにチャネル壁上に微小孔(直径10〜20μm)を含んでもよい。バイオリアクターを、バイオリアクターを横断する電界を生成するために構成される電極を含むように更に構成することができる。電界の方向は任意の方向にあってもよいが、好ましくは、一般的には足場の長手方向軸と平行である方向にある。別の実施形態では、電界の方向は、一般的には足場の長手方向軸と垂直にあってもよい。本明細書で用いられる場合、本発明の第4の実施形態を、「バイオブランチ」と呼ぶことができ、それだけに限定されないが、三次元組織形成自体(すなわち、本明細書に記載のバイオリアクターデバイス上で増殖する細胞)又は組織形成とバイオリアクターとを一緒に含む系を指してもよい。また、バイオブランチを、組織形成自体、又は組織形成と、組織が増殖した、若しくは置かれたバイオリアクターデバイスとを含む系の両方を包含する、「BIOBRANCH(商標)」のその商業名として本明細書で呼ぶこともできる。この第4の実施形態はまた、分枝状バイオリアクター中で組織を増殖させるための方法、三次元組織自体、バイオリアクターと、増殖した組織との両方を含む系(すなわち、統合されたバイオリアクター)、並びにそれだけに限定されないが、(a)実験的薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の有効性及び安全性(毒性を含む)の試験、(b)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の薬物動態及び/又は薬力学の定義付け、(c)薬理学的薬剤(それだけには限定されないが、小分子薬物、生物製剤、核酸に基づく薬剤を含む)の特性及び対象に対する治療効果の特徴付け、(d)新しい薬理学的薬剤のスクリーニング、(e)損傷組織及び/又は患部組織を処置するための再生医療における使用のための埋め込み型の工学的に作製した組織の提供[例えば、電気伝導の欠陥を有する患者を含む心疾患状態を研究するための本開示の組織構築物、デバイス、及び/又は系の使用(iPSC-CM)]、並びに(f)オーダーメイド医療を含む様々な適用において組織鎖(若しくは組織鎖を含む系)を使用及び/又は試験する方法に関する。
【0473】
図51及び
図52は、分枝状血管構造を含んでもよい分枝状組織の培養にとって好適な例示的デバイスを示す。実施例4のデバイスは、実施例1のデバイスと類似していてもよいが、実施例4におけるデバイスは、単一のチャネルの代わりに、三次元分枝状チャネルを有してもよい。実施例4のデバイスの製作のための例示的方法は、以下に記載される。
【0474】
例示的デバイスは、組織培養のための種細胞を受け取ることができるバイオリアクターチャンバーを含んでもよい。足場を、バイオリアクターチャンバー中で受け取ることができる。バイオリアクターチャンバーは、ベース上で足場を支持するための突出部(例えば、ポスト)を含んでもよい。これにより、培養された組織は足場を被包することができる。足場は、支柱及び灌流チャネルの三次元ネットワークを含んでもよい。足場を、生物学的血管構造を模倣するように構成することができる。足場は、種細胞のための支持体として役立ち、三次元ネットワークの周囲に組織構造を形成し、三次元的に分枝した血管構造を有する組織構造の生成を可能にし得る。
【0475】
本開示は、分枝状組織構造を培養するのに好適な足場を製作するための方法を提供する。足場は、内部空洞(例えば、チューブ、2Dの分枝状微小チャネルネットワーク、若しくは3-Dの分枝状微小チャネルネットワーク)及び/又は吊り下げられた構造(例えば、メッシュ若しくは格子マトリックス)を含んでもよく、生分解性材料(又はPOMaC)から形成させることができる。
【0476】
例示的製作方法は、内部空洞を有する3-D構造及び/又は吊り下げられた構造を製作するための3-Dスタンピング法を用いる。本実施例における3-D構造を、2つ又は複数のパターン化されたポリマーシートを一緒に整列させ、積み重ね、結合することを含む、層ずつのプロセスにおいて製作することができる。したがって、2つ以上の層を有し、その層により定義される内部空洞及び/又は吊り下げられた構造を有する3-D足場を製作することができる。
【0477】
微細製作方法は、足場材料[例えば、
図51(a)に示されるようなPOMaC等の、バイオポリマー材料又は生分解性材料]に対する第1の接着強度を有する材料から形成される鋳型を用いてもよい。鋳型を、足場材料に対する第2の接着強度を有する基質上に提供することができる。第2の接着強度は第1の接着強度よりも大きく、鋳型中で層を成型した後に、基質に接着したままにしながら、層を鋳型から遊離させることができる。本開示は、PDMS及び基質としてのスライドガラスを用いた鋳型の形成は、足場材料としてのPOMaCに関する好適な示差的接着強度を達成することを見出した。
【0478】
足場材料のプレポリマーを鋳型中に導入し、硬化させ、基質によって支持される足場の第1層を形成することができる。足場材料は鋳型に対するよりも基質に対するより高い接着強度を有するため、基質への接着を維持しながら、層を鋳型から遊離させることができる。これにより、足場を層ずつに構築しながら、足場をより容易に操作することができる。
【0479】
さらなる層を、足場のために形成させることができる。さらなる層を、同じ鋳型又は異なる鋳型を用いて形成させることができる。例えば、さらなる層を、同じ鋳型材料から形成され、同じ鋳型材料から形成される鋳型ベースにより支持される異なる第2の鋳型を用いて形成させることができる。さらなる層を第2の鋳型中で硬化させた後、それを、第2の鋳型に接着したままにしながら、鋳型ベースから遊離させることができる。これにより、それぞれのさらなる層をより容易に操作し、したがって、足場が層ずつに構築されるため、より正確なアラインメント、積み重ね及び結合が可能になる。さらなる層は第1層又は予め結合した層に適切に結合した後、さらなる層は、第2の鋳型から遊離し、したがって、次のさらなる層をすぐに受け取ることができる。
【0480】
したがって、足場の全ての層が結合し、足場が完成した時、足場を基質から遊離させることができる。
【0481】
製作方法[
図51(b)に示される]の例において、PDMS鋳型は、標準的なソフトリソグラフィを用いて足場構造のそれぞれ個々の層について製作される。1つの鋳型を、ベース層(底部の第1層)のために作出し、複数の鋳型を他の全てのその後の上部層のために作出することができる。ベース層のためのPDMS鋳型に、スライドガラス等の基質上で非永続的にキャップを付けることができる。次いで、その後の全ての上部層のためのPDMS鋳型に、別の平坦なPDMSシート上で非永続的にキャップを付けることができる。
【0482】
次いで、ポリマー混合物を鋳型中に注入することができる。ポリマー混合物を含む鋳型をUV光に曝露し、部分的に架橋させ、固体化することができる。次いで、スライドガラスキャップを有するベース層のためのPDMS鋳型のキャップを、スライドガラスから外してもよい。注入されたポリマーは、一度架橋したら、PDMS鋳型に対するよりもスライドガラスに対してより強い結合を示し、従って、スライドガラスに結合したままにしながら、PDMS鋳型から遊離させることができる。
【0483】
次いで、PDMSシートキャップを有するその後の全ての上部層のためのPDMS鋳型のキャップを、PDMSシートから外すことができる。PDMS鋳型は、PDMSよりもポリマーと接触する表面積が大きい。従って、ポリマーはPDMSシートよりもPDMS鋳型上に強く結合し、従って、PDMS鋳型から遊離しない。
【0484】
次いで、上部層のためのPDMS鋳型内のそれぞれの重合したポリマーを、PDMS鋳型を用いて比較的容易に操作し、さらなるUV架橋を用いてスライドガラス上のベース層ポリマーに整列させ、積み重ね、結合させることができる。UV架橋後、全ての積み重ねられたポリマー層を、互いに永続的に結合させることができる。
【0485】
スライドガラスはPDMS鋳型よりもポリマー足場に対して強く接着し、ここで上部ポリマー層を保持することができる。従って、ポリマー足場はPDMS鋳型から剥離し、PDMS鋳型が除去された場合でもスライドガラス上に結合したままであってもよい。
【0486】
上部足場層のためのパターン化されたポリマーを有するより多くの鋳型を、同じ方法で現在の足場上に転移させ、積み重ね、結合させて、より厚い足場を作出することができる。
【0487】
ポリマー足場はスライドガラスに永続的に結合することはできないため、足場を水又はバッファー溶液に浸すだけで足場全体をスライドガラスから遊離させることができる。
【0488】
本実施例の製作方法は、従来の3-D製作技術の1つ又は複数の欠点を克服することができる。例えば、従来の3-Dポリマー足場製作に関する制限は、薄くパターン化されたポリマーシートを転移させ、それらを一緒に積み重ねるための容易かつ実用的な方法の欠如を含む。ポリマーシートがその鋳型から完全に遊離した場合、薄いシートを容易かつ正確に取り扱うことができず、したがって正確なアラインメントは典型的には困難であるか、又は不可能である。正確なアラインメントがなければ、正確な内部空洞(正確かつ薄いチャネル壁を有するマイクロチャネル等)及び吊り下げられた構造を作出することは困難であるか、又は不可能である。
【0489】
POMaCは、ガラス(より強い接着)及びPDMS(より弱い接着)に対する示差的な非永続的接着強度を示す。開示される製作方法は、PDMS鋳型を用いて薄いPOMaCポリマーシートを捕捉し、遊離させる、並びにより高い制御及び精度で他のパターン化されたシートを整列させ、結合させるためにこの特性を用いる。
【0490】
開示される製作方法はPOMaC材料を用いて記載されたが、他の材料を用いることもできる。開示される製作方法を、成型することができ、材料に対する示差的な非永続的接着強度を示すそのような一対の基質(ガラスとPDMS等)が存在する場合、任意の材料について機能すると予想することができる。
【0491】
本開示は、従来は達成されなかった、スライドガラスとPDMSだけを用いて容易かつ正確に転移させることができる生分解性材料を用いる製作方法を提供する。例えば、PGS等の類似する生分解性材料はPDMSに完全に粘着し、従って同じ方法で用いることはできない。本開示は、この製作方法にとって好適である材料を見出し、その技術を証明した。
【0492】
3-D印刷と比較して、開示される製作方法は、材料を犠牲にすることなく、生体材料足場中での吊り下げられた構造並びに内部空洞の作出を可能にし得る。3-D印刷を用いる場合、印刷される生体材料と適合する犠牲となる材料を発見することは、典型的には困難である。犠牲となる材料を使用しない場合、吊り下げられた構造を作出するためには、材料を空中で印刷しなければならず、生体材料を用いる場合にはこれは極めて困難である。開示される方法は、それぞれ個々のポリマーシートの事前パターン化を可能にした後、シートを単純に一緒に積み重ね、それぞれの層を遊離させて、吊り下げられた構造を比較的容易に作出することができる。しかしながら、現在の3D印刷の限界にも関わらず、分枝状ネットワーク、マクロ孔、及びマイクロ孔を含む記載される微細構造を形成させることができる限り、本発明は3D印刷法の使用を排除するものではない。
【0493】
開示される方法を用いて、特に、ワイヤ、チューブ、2-Dの分枝状ネットワーク、3-Dの分枝状ネットワーク、及びメッシュ構造等の、様々な1-D、2-D及び3-D構造を作製することができる。開示される方法は、チューブ、2-D、3-Dの分枝状ネットワーク及びメッシュ構造等の、内部空洞を有する構造を作出するのに特に有用であってもよい。
【0494】
本明細書に開示される2-D及び3-Dのマイクロチャネルネットワーク足場及びその製作は、足場の設計、足場中への内蔵型マイクロチャネルネットワークの含有、並びに好適な生体材料を用いて、そのような足場を正確に製作する能力等の、様々な方法において従来の技術よりも有利であってもよい。
【0495】
例において、デバイスを、プレポリマー溶液を用いて製作した。
図51(a)は、例示的プレポリマー溶液の化学合成、並びにポリマー光架橋機構及びナノ細孔形成の略図を示す。
図51(a)中の差込図は、ナノスケールの皺状孔を示す例示的な得られる足場表面のSEM画像を示す(スケールバー:500nm)。
【0496】
例において、ポリ[オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸](POMac)プレポリマーを調製するために、1,8-オクタンジオール、クエン酸、及びマレイン酸無水物を5:1:4モル比で混合し、窒素パージ下、160℃で融解した。次いで、温度を140℃まで低下させ、混合物を3時間撹拌した。次いで、得られるプレポリマー溶液を1,6ジオキサン中に溶解し、蒸留水中での滴下沈降により精製した。沈降したポリマーを2日間凍結乾燥した後、60%w/w及び5%w/wのUVイニシエーター(Irgacure 2959)でポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDM、Mw約500、Sigma社)と混合した。
【0497】
プレポリマー成分の比率を変更して、得られるポリマーの物理特性を調整した。
【0498】
足場パターンを、AutoCAD中で事前設計し、以前に記載された標準的なソフトリソグラフィ技術によりSU-8マスターに移転させた。シリコーンエラストマー[ポリ(ジメチルシロキサン)、PDMS]を、SU-8マスターに対して成型し、室温で2日間硬化した。
【0499】
次いで、足場の第1層及び他の層のためのパターン化されたPDMSをスライドガラス及び平坦なPDMSにそれぞれ一時的に結合させて、静的接着により閉じたチャネルを形成させた。次いで、プレポリマー溶液をパターン化されたチャネルに注入し、室温で一晩静置した。次に、注入されたポリマー溶液をUVランプ下で5分間架橋した後、第1層はスライドガラスに付着し、パターン化されたPDMSから剥離するが、他の層はパターン化されたPDMSに付着し、平坦なPDMSから剥離するように、PDMS鋳型を剥離して、パターン化されたポリマー構造を遊離させた。全てのパターン化された層を整列させ、UV整列器(Q2001、Quintel Co.社、San Jose、CA)を用いて第1層又は以前の層に対して圧縮した後、更に1分間、UVに曝露して、層を一緒に永続的に結合させた。製作された足場を、最後にPSB中に一晩含浸させて、PEGDMポロゲンを浸出させた。本実施例では、4つの足場を同時に製作することができた。
【0500】
図51(b)(1〜5)は、例示的血管足場の層ずつの成型及び単一層血管ネットワーク製作のための結合手順の略図である。差込図はチャネル管腔の横断面のSEM画像を示す(スケールバー:100μm)。
図51(b)(6)は、多層血管ネットワーク製作の例を示す略図である。
【0501】
例示的デバイスは、培地灌流下、足場上での内皮細胞と心筋細胞との同時培養のためのバイオリアクターとして役立ち得る。本実施例では、デバイスは、4つの構成要素:キャップ、リザーバー、PDMSスラブ、及びベースを含んでいた[
図51(c)(ii)を参照されたい]。本実施例におけるデバイスは、別々の培養チャンバー中で3つの足場を同時に培養するように設計された。リザーバーの小片(厚さ2.5cm)は、足場ネットワークを介して灌流し、培養組織に酸素及び栄養素を供給する内皮増殖培地を入れるための6つのウェルと、栄養素を組織表面に提供する心筋細胞増殖培地を含有する3つのウェルとを含む。PDMSスラブ(厚さ2mm)は、足場を置くことができる3つのトレンチを含む。トレンチは、細胞/ゲルが足場全体を被包することができるように、足場を底部から持ち上げるのに役立つようにマイクロポストを含有させたベース層を有する。トレンチはまた、足場の入口及び出口が正確に適合する開いた入口及び出口チャネルも含む。
【0502】
図52は、実施例4のデバイスのための例示的ホルダーを示す。本実施例においては、ホルダーはゲルの浸潤及びより効率的な再モデリングを可能にするのに役立つように組織を吊り下げられたままにするように設計されるトレンチ及びポストを含む。トレンチの例示的寸法を、図面に示す。
【0503】
足場をトレンチ上に配置した後、PDMSの開いた入口及び出口チャネルがリザーバー構成要素によってキャップされ、従って、足場を固定するように、PDMSスラブを、ベース構成要素とリザーバー構成要素との間に差し込むことができる。3つの構成要素をステンレススチール製ねじで固定し、キャップを付けた。内皮細胞培地を、2つのウェル間の上部圧力差により駆動される底部ウェルに出た足場ネットワークを介して上部ウェルからキャップ付チャネルに灌流させた。
【0504】
図51(c)(i)は、ゲル圧縮を示す例示的デバイスを用いた心臓細胞播種/組織形成の例示的プロセスを示す。
【0505】
図51(d)は、(i)2-D血管足場、及び(ii)3-D血管足場の横断面図を示すSEM画像を示す。異なる格子マトリックス設計を有する単層血管足場の上面図を示すSEM画像を、単一メッシュ層設計を例示する
図51D(iii)、ポストにより吊り下げられた2つの高密度メッシュ層を有する設計を例示する
図51D(iv)、及びポストにより吊り下げられた2つの緩いメッシュ層を有する設計を例示する
図51D(v)に示す。
【0506】
図51(e)は、10μmの微小孔を有するAngioChip足場のSEM画像を提供する。(A)は、ネットワーク壁を通してパターン化された10μmの通り穴を有するAngioChip足場の画像を提供する。スケールバー:600μm。画像は複数の画像から縫い合わせたものである。(B)異なる角度から見た10μmの通り穴を有するAngioChip足場のSEM。スケールバーを画像中に示す。
【0507】
図51(f)は、3-D AngioChip足場のマイクロCTを提供する。(A)足場の長端方向に沿ってその入口から分枝に向かう3-D AngioChip足場の横断面のマイクロCTスキャン。スケールバー:400μm。(B)異なる角度から見たAngioChipの内部ネットワークのマイクロCT。足場を、その内部ネットワークを介して硫酸バリウム溶液で灌流し、従って、改善された可視化のためにその密度を増加させた。足場ネットワーク壁の厚さは50μmであった。入口、出口、及び第一次分枝は、50μm×200μmの管腔寸法を有していた。第二次分枝は50μm×100μmの管腔寸法を有していた。第一次及び第二次分枝中の内皮細胞が同レベルの剪断応力を経験するようにネットワークを設計した。各層上のネットワークを、垂直チャネルにより接続し、z軸中で300μm離した。足場メッシュを50μmの支柱から作製した。支柱は長端方向に250μm、短端方向に100μm、及びz軸中に50μm離して置いた。
【0508】
図51(g)は、POMacポリマー溶液の分子構造の特徴付けを提供する。(A)フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析。(B)核磁気共鳴(NMR)分光分析。
【0509】
ある特定の材料、技術及び寸法が上に記載されるが、例示的デバイスのために他の好適な材料、技術及び寸法を用いることもできる。例えば、異なる分枝構成を有する組織の培養を可能にするために、異なるチャネル及び層構成を有するデバイスを設計することができる。
【0510】
開示されるデバイスを、任意の好適な技術を用いて任意の好適な材料から形成させることができる。例えば、デバイスを、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)又はポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)材料等の、ポリマー材料を用いて形成させることができる。いくつかの例においては、細胞、組織及び/又は培養培地と接触するようになると予想されるデバイスの部分(例えば、バイオリアクターチャネル又はチャンバー及び足場)は、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)を実質的に含まなくてもよい。足場を、生分解性材料から作製することができる。他の好適な材料は、ポリ(グリセロールセバケート)、クエン酸を含まないPOMac、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(ε-カプロラクトン)、様々なポリウレタン並びにそのコポリマー、絹、微細構造のナノファブリケーション材料、及び/又は特に、ナノロッド若しくは量子ドット等のナノ構造でドーピングされた材料を含んでもよい。
【0511】
開示されるデバイスは、特に、in vitroでの薬物試験、動物若しくはヒト患者における直接的な吻合、又は動物若しくはヒト患者における埋め込み等の様々な適用にとって有用であってもよい。開示されるデバイスを、微細製作されたチップの形態で提供することもできる。
【0512】
本開示はまた、開示されるデバイスを用いて組織を培養するための方法も提供する。例示的方法を、以下で更に考察する。方法は、種細胞を、デバイスのバイオリアクターチャネル又はバイオリアクターチャンバー中に導入することを含んでもよい(例えば、種細胞が包埋されているゲルの導入)。次いで、種細胞をバイオリアクターチャネル又はバイオリアクターチャンバー中で培養することができる。培養中に、特定の時間での刺激の特定の周波数を規定する、規定のレジメンに従って、電気刺激を細胞に提供することができる。
【0513】
開示されるデバイス及び方法を、筋肉細胞(例えば、心筋細胞、骨格筋細胞、若しくは平滑筋細胞)、興奮性細胞(例えば、ニューロン)又は血管構造を必要とする細胞(例えば、肝細胞)等の、ヒト又は動物組織の培養のために用いることができる。他の細胞を一緒に培養することもできる。例えば、特に、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、及び多能性幹細胞、間葉系幹細胞、臍帯血由来幹細胞等の様々な型の幹細胞、並びにこれらの細胞型の分化した子孫を同様に培養することができる。
【0514】
開示されるデバイスのより高い評価及び理解を可能にするために、例示的デバイスを用いる組織培養の例を、以下に記載する。また、開示されるデバイスの例を用いて生成される組織を調査するために、例示的試験を実行した。これらの例示的試験は、いくつかの異なる区分を有する人体チップを構築するため、並びに他の適用の中でも、特に動物又はヒト患者への直接的吻合及び埋め込みのために、in vitroでの薬物試験を含む様々な適用にとって好適であってよい生物学的に関連する組織を生成するための開示されるデバイスの使用を検証するのに役立ち得る。
【0515】
B.AngioChip:臓器チップ工学及び直接外科吻合のための内蔵型血管構造を有する生分解性足場
新しい3-Dスタンピング技術を用いて、本実施例は合成生分解性エラストマー[ポリ(オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸-POMac]から製造されたAngioChip足場を教示する。AngioChipは、内皮細胞で被覆され、格子マトリックス中に包埋され、様々な型の実質細胞の集合を支援する調整可能な機械的特性を有する内部3-D型の、灌流可能な分枝状微小チャネルネットワークを含有する。ポリマー反応中の架橋エネルギーの量及び/又は異なるポリマー単位の比率を少なくとも調整することにより、調整可能性を達成することができる。例えば、POMacの場合、当業者であれば、より固い特性を有するより疎水性の高いポリマーを作製するためにクエン酸の量を減少させることができる。この設計により、実質中への細胞播種のための材料選択から工学的に作製した血管ネットワークのための材料選択を効率的に切り離し、開いたチャネルを維持しながら大規模な再モデリングが可能になった。血管壁へのナノ細孔及び微小孔の組込みは、血管透過性を増強し、細胞間クロストーク及びモデル炎症細胞の溢出を許容した。AngioChipを用いて工学的に作製された、血管形成した肝臓組織及び心臓組織は、その内部血管構造を通して送達された臨床的に関連する薬物をプロセシングすることが示された。また、AngioChip心臓組織をラット後肢の大腿血管に直接外科吻合により埋め込んで、直接血液灌流を確立した。
【0516】
序論
多細胞インタフェースチップの工学的作製の成功は、閉じた2-Dのマイクロ流体プラットフォーム中での異なる臓器(例えば、肺、腸)の血管インタフェースに主に焦点を当ててきた。しかしながら、固形臓器(例えば、心筋、肝臓)について、組織レベルでの組織的構造の形成は、3-D環境を含む。例えば、心筋の肉眼的収縮及び生理学的成熟は、伸長した細胞を含む整列した組織束の形成に依拠する。肝臓組織は幹細胞の3-D凝集を必要とする。実質細胞から構成される現在の3-D微小組織は、血管構造の非存在下で研究されてきたが、血管構造チップは主に実質細胞とは別に研究されてきた。従って、3-Dの機能的組織環境内への必須の血管インタフェースの組込みは、高忠実度の臓器チップモデルに対する重要なステップである。
【0517】
同様の血管形成の試みが大規模に経験された。いくつかの組織型がin vitroで上手く工学的に作製されたが、臨床的翻訳は薄い組織又は代謝要求が低い組織(例えば、皮膚、軟骨及び膀胱)についてのみ達成された。大きい固形組織(例えば、心筋、肝臓)は酸素レベルに対して高感受性であり、酸素供給がなければ数時間以内に脆弱になる。これらの固形組織はin vitroでの迅速な血管形成及びin vivoでの直接的な血管統合から大きな恩恵を受ける。今までのところ、血管形成した組織の外科的吻合は、血管床を収獲するために複数の戦略を必要とする、血管外植片を用いて証明されているに過ぎない。
【0518】
ヒドロゲル中に犠牲となる炭水化物-ガラス格子、プルロニックF127、乾燥アルギネート線維、又はゼラチンを包埋することにより、血管ネットワークを、減算的製作を用いて工学的に作製することができる。しかしながら、柔らかいヒドロゲルは、不安定な中空ネットワークのための一時的な構造的支持を提供するに過ぎず、大規模な組織再モデリング許容せず、ヒドロゲル構造を必然的に変化させ、包埋されたネットワークを崩壊させる。合成生分解性ポリマーは、工学的に作製された血管に対する十分な構造的支持を提供するが、その低い透過性は血管と実質空間との生体分子交換及び細胞移動を防止する。更に、現在の製作技術は、播種された実質細胞が3-D中で相互接続された組織を形成することを防止する物理的障壁を有する層になったチャネルネットワークを作出することしかできない。
【0519】
これらの2つの反対の材料基準に適合させるために、これは、本発明者らの新しい3-Dスタンピング技術により実現される2つの独特の特徴を含む内蔵型分枝状マイクロチャネルネットワークを有する安定な生分解性足場であるAngioChipを提供する。第1に、合成内蔵型血管壁は薄く可撓性であるが、収縮する組織中で灌流可能な血管構造を機械的に支持するために十分に強く、直接的外科的吻合を可能にした。第2に、より効率的な分子交換及び細胞移動を可能にするために、ナノ細孔及び微小孔を血管壁に組み込んだ。AngioChip内に安定で透過性の血管ネットワークを確立することにより、材料の制約は限定され、大規模な組織再モデリングを許容する実質空間中に細胞が包埋された任意の柔らかい天然の細胞外マトリックス(例えば、コラーゲン、Matrigel)の使用が可能になった。再モデリングされた組織を構造的に強化するために、AngioChipの実質空間構造を微調整して、そうでなければ均一なヒドロゲルを用いて達成することが難しい、天然組織(例えば、心筋)の異方性機械的特性を模倣することもできる。この方法に基づいて、微小規模の臓器チップモデル及び組織置きかえの両方のための機能的及び血管形成された心臓及び肝臓組織を作出した。
【0520】
結果
AngioChip足場を、生分解性エラストマーであるポリ[オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸](POMaC)を用いる新しい3-Dスタンピング技術を用いて構築した(
図51A)。POMaCは、UV重合性であり、緩和な条件下での迅速な集合を可能にし、加水分解により分解し、非毒性モノマー(クエン酸、マレイン酸無水物、1,8-オクタンジオール)から合成される(
図51A)。3-Dスタンピングを用いて、薄いPOMaCシートを、UV照明下、拡張可能な様式(
図51B)で予めパターン化し、互いの上に、層ずつにスタンプして、数μm以下の正確なアラインメントを有する、複雑な吊り下げられた構造、及び内部空洞を形成させた。POMaCは、PDMSの表面上でのフリーラジカル重合を酸素誘導的に阻害し、境界面のPOMaC層を重合しないままにするため、光架橋後にガラス(強い)及びポリジメチルシロキサン(PDMS)(弱い)への非永続的かつ示差的な接着を示した。この特徴を用いて、パターン化されたPOMaCシートを強固に転移させ、整列させ、1つの基質(PDMS)から遊離させた後、ガラス基質により支持されるPOMaC構造に結合させた(
図51B)。この方法は、従来の3-D印刷に関するような空中に生物材料を印刷する課題を回避し、犠牲となる材料の使用を回避した。3-Dスタンピングにより、1-Dチューブ(
図56e)から、実質細胞を支持するように調整された、格子マトリックス内の血管床を模倣する(
図f、g、h及び
図51b)、2-Dの分枝する導管(
図56f)又は3-Dの分枝状ネットワーク(
図56g)への様々な複雑な構造へのPOMaCのパターン形成が可能になった。
【0521】
x-y並びにy-z平面で分枝した相互接続された内部ネットワークは、単一の入口及び出口を通って灌流可能であった(
図56h、
図51f)。ネットワーク中の最も小さいマイクロチャネルは、100μm×50μmであり、壁の厚さは25〜50μmであった。チャネル壁を横断する生体分子の交換及び細胞移動を改善するために、10μmの微小孔を上側のチャネル壁中でパターン化した(
図56i、
図51e)。酸素及び栄養素交換を更に増強するために、ポロゲンを包埋した後、浸出させることにより、POMaCポリマー材料の塊にナノ細孔を組み込み、質量の減少により確認し(
図56j)、記載のような皺状のナノ細孔を得た(
図56k)。
【0522】
灌流培養のために、AngioChip足場を、カスタマイズされたバイオリアクターの入口ウェルと出口ウェルとの間の主要ウェル中に取り付けた(
図56c)。培養培地又は内皮細胞(EC)懸濁液を、入口ウェルと出口ウェルとの間の液体圧力水頭差により駆動される内部ネットワークを介して灌流した(
図56c、
図52、
図62)。この設計は嵩高い外部ポンプの必要性を除去し、従って、単純な道具(例えば、マイクロピペット)を用いて組織実質空間と内部血管構造の両方へのアクセスを可能にし、容易な組織除去を可能にする開いた構成を保存する(
図56b)。ECを内部ネットワーク内で培養した一方、実質細胞を、天然細胞外マトリックス(ECM)を有する格子マトリックス内で培養し、組織再モデリングを可能にした(
図56d)。
【0523】
AngioChip足場は、数カ月にわたってリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で徐々に分解し、アルカリ条件(0.1M NaOH)下では4日間で最後まで分解した(
図57a、b)。AngioChip破裂圧は、ラット大腿静脈のものと同等であり(
図57c)、ラット(130mmHg)又はヒト(120mmHg)における正常な収縮期血圧よりもほぼ7倍高く、ネットワークが末梢循環における血液灌流に耐えるのに十分であることを示している。
【0524】
実質細胞を支持することを意図する足場格子は、垂直のポスト(50μm直径)により接続された複数の層のメッシュから構成されていた。この独特の特徴は、他の製作方法(例えば、レーザーマイクロアブレーション)を用いては達成できず、格子内の100%の相互接続性を提供し、厚い構築物中での細胞播種を容易にし、実質細胞はx-y及びy-z平面の両方において相互接続された組織を形成することができる。格子の形状及び密度を3つの異なる設計において変化させて、設計Bにおけるような成体ラット心室心筋の異方性剛性と類似する足場の機械的特性を微調整した(
図57d〜f、
図64、
図65、
図62)。異方性は、短端方向(SD)よりも長端方向(LD)において高い支柱の空間密度を有する、長方形のメッシュにより可能になった(
図57g)。有効剛性(E)と最終引張強度(UTS)は両方とも、格子密度の増大と共に増大した。さらなる設計の反復により、特定の適用(例えば、ヒト心筋又はヒト肝臓)のために調整された機械的特性を有する足場が得られる。
【0525】
合成ポリマーの限られた透過性は、他の生分解性マイクロ流体足場の成功を制限する。10μmの微小孔を有する無細胞性AngioChip足場ネットワークは、微小孔を有さないもの[それぞれ、(2.0±0.2)×10
-6cms
-1の透過性及び(0.9±0.03)×10
-6cms
-1の透過性、n=3]よりも、小分子[332DaのFITC、(4.4±0.1)×10
-6cms
-1、n=3、
図57h]に対する透過性が2倍高く、大分子[70kDaのTRITC-デキストラン、(3.7±1.5)×10
-6cms
-1の透過性、n=3]に対する透過性が4倍高かった。両方の場合、足場ネットワークの透過性は、70kDaのFITC-デキストランに関するin vivoでの哺乳動物小静脈の透過性よりも高かった[(0.15±0.05)×10
-6cms
-1]。無細胞ネットワークの高い透過性により、ECコーティングが、ECがin vivoでの血管の透過性を制御する方法と類似する、マイクロ流体血管の最終的な透過性を決定する際の支配的因子であることが可能になる。実質空間中に拡散した生体分子の分布及び代謝変換を検証するために、肝臓細胞の追跡染料、カルボキシフルオレセインジアセテート(CFDA、557Da)を、実質中の肝臓細胞を染色する(
図57i)、心臓細胞により取り囲まれた足場ネットワークを介して灌流させ、高密度の組織内の代謝変換及び分子分散と一致していた。
【0526】
ヒト臍帯静脈EC(HUVEC)を用いる内皮化の際に、CD31免疫染色により、内蔵型ネットワークの管腔表面上に集密な内皮が示され(2日目、
図58a〜d)、VE-カドヘリンが細胞間結合で発現された(
図66)。ECは血管壁上の微小孔を物理的に被覆し(
図58e、f;
図66)、3-Dネットワークの分枝点でも血管壁を共形かつ集密に被覆した。血液適合性を評価するために、ヒト全血を、15dyne/cm
2(約5μL/分;Re、0.023)でのECコーティングを有する、又は有さないAngioChipネットワークを通して灌流した(
図58g)。第一次及び第二次分枝中のEcが同じ剪断応力を経験するように、AngioChipネットワークを設計した。ECコーティングがなければ、有意により多い血小板がネットワーク表面に結合し(
図58j、
図67)、その伸長した仮足形態により示されるように、活性化されるようになった(
図58h、i)。付着した血小板は、血流パターンに従って拡散する傾向を示し、分枝及び曲がり角の停滞領域により多く蓄積した(
図38h;
図67)。灌流したRaw264.7マクロファージは、分枝点でのいくらかの蓄積及び接着(
図58k、l)、内皮化された表面に沿った移動(
図58m)及び血管壁上の微小孔から実質空間への移住(
図58n)を示した。内蔵型血管構造と実質空間との間のこの溢出は、AngioChip足場の典型的な特徴であり、足場分解とは無関係に1日目で観察された。
【0527】
3D血管形成された肝臓組織を作出するために、10%ラット一次線維芽細胞と混合したラット一次肝細胞(ECM再モデリング及びゲル圧縮を容易にするため)を、内皮化されたAngioChip足場の実質空間中に播種し、ネットワーク周囲への生細胞の凝集をもたらした(
図59a〜d)。組織横断面は、格子を通って血管ネットワークの周囲に分布した肝細胞(アルブミン染色した)を示した一方、EC(CD31染色した)はネットワークの内部管腔を被覆した(
図59e〜g)。出口ウェルにおける尿素の分泌は、内皮化されたAngioChip組織中で維持されたが、内皮化しない場合、時間と共に減少し(
図58h、i)、ECからの持続的パラクリンシグナリングが記載のように肝細胞の健康を維持することを示した。主要ウェルと比較して出口ウェルにおける尿素のより高い濃度は、内蔵型血管構造に対する分泌を指令する肝細胞の極性化を示唆し得る。心臓毒性のため市場から撤退した抗ヒスタミン剤であるテルフェナジンで肝組織をチャレンジした(
図59h)。テルフェナジンは一般に、肝臓中で、シトクロムP450 CYP3A4アイソフォーム酵素によって、非心臓毒性フェキソフェナジンに代謝される。液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)により、出口ウェル中でのフェキソフェナジンの存在が示され、これは、灌流された薬物が内蔵型血管構造から肝組織に送達され、代謝された後、血管構造中に放出されて戻ったことを示している(
図59j)。
【0528】
心臓組織を、5日以内に濃縮された組織を形成する血管ネットワークの周囲に圧縮する新生児ラット又はヒト胚性幹細胞(hESC)由来心筋細胞から作出した(
図60a、b)。同期的肉眼的収縮が早ければ4日で観察され、ヒトとラットの両方の組織の電気的興奮性パラメータは標準的な範囲内にあった(
図60c、d)。収縮する組織はそれぞれの鼓動で足場を圧縮し、収縮の振幅は時間と共に増大し、組織が成熟するにつれて収縮力が増大することを示していた(
図60e)。内蔵型の機械的に安定な血管構造により、心臓組織は灌流されながら自発的に収縮することができた(
図60j)。収縮タンパク質サルコメア-α-アクチニン及び構造タンパク質F-アクチンは、伸長した細胞中で見えた(
図60f〜i)。7日目での組織横断面により、ECは血管腔を被覆する一方、心筋細胞は格子を通じて分布し、1mmの厚さの多層AngioChip足場(
図60n)中でも血管の周囲に密に充填されることが示された(
図60k〜m)。ヒト心臓組織(31±6%の心筋細胞、n=9、
図68)により、伝導遮断がなく、組織全体にわたるCa
2+波動の増幅(3.5±2.6cms
-1、n=5)が示された(
図60o)。組織集合の前に心筋細胞集団を富化し、電気機械刺激を印加することにより、伝導速度を更に改善することができる。エピネフリン(10μM)及びジゴキシン(10μM)を、内蔵型血管構造を介して灌流して、心臓組織を刺激した。30分以内に、組織はエピネフリンに対する予想された陽性変時応答(
図60p)及びジゴキシンに対する陰性変時応答(
図60q)を示した。流動の重要性を評価するために、ラット心臓組織を、培地灌流あり、又はなしで培養した。生存能力は、7日目で壊死性コアを生じた非灌流組織と比較して灌流組織内でより高かった(
図60r)。多くの細胞死(すなわち、乳酸デヒドロゲナーゼ放出)は最初の3日以内に起こり、培地灌流は2日目及び3日目に細胞死を軽減するのに役立った(
図60s)。
【0529】
AngioChip足場は、成体Lewisラットの後肢の大腿血管へのラット心臓組織の直接的吻合を可能にした(
図61)。類似するクエン酸に基づくポリマーは、血管移植片において抗血栓性であり、in vivoでECの増殖を支援することが示されている。この概念実証研究のために、最悪のシナリオを検査した:動物を手術中にのみヘパリン処理し、ECは用いなかった。AngioChip組織の入口及び出口(100μm×200μmの内径及び200μm×300μmの外径)を、2つの構成において接続した:動脈-動脈移植片(
図61a)又は動脈-静脈移植片(
図61b)。両構成において、内蔵型ネットワークを介する血液灌流を、手術の直後に確立した。より顕著には、動脈-動脈構成において血液脈動も観察された。in vivoで1週間後、拒絶の組織学的兆候は観察されず、細胞はAngioChipを密に包んだ(
図61c〜n;
図69〜73)。赤血球は、直接吻合を用いて埋め込まれた組織のネットワーク中でのみ観察された(
図61i、j、o)。埋込み体の周囲の血管の存在から見られるように、天然の血管形成も起こった(
図61f、l)。心筋細胞の存在を、トロポニンT免疫染色を用いて確認したところ、AngioChipの格子内で絡み合っている伸長した心筋細胞が示された(
図61h、n)。平滑筋アクチン(SMA)陽性細胞の存在は、単離された新生児ラット心臓細胞中の2%に過ぎなかった;有意なSMA染色(
図61g、m)は、埋め込まれた組織中への壁細胞又は筋線維芽細胞の浸透が治癒応答と一致することを示唆していた。宿主再モデリングにとって重要な、拡散した細胞浸潤は、AngioChip実質空間の開いた多孔性構造のおかげである。直接的吻合を有する埋込み体は、対照よりも有意に高い細胞浸潤を示したが、これは、より高い程度の組織再モデリングが誘導されたことを示唆している(
図61p)。
【0530】
考察
AngioChip足場設計において、本発明者らは、実質空間のための材料選択から工学的に作製された血管ネットワークのための材料選択を効率的に切り離すことによって、本発明者らは実質細胞の生理学的再モデリングを持続させながら、血管構造の初期構築を制御し、in vitro及びin vivoでの即時の灌流を確立することができた。AngioChip足場は実質細胞の集合の前に、1日以内に完全に内皮化された内蔵型の灌流可能な血管ネットワークを有していたため、この微細工学アプローチは、組織血管形成の遅延をもたらさなかった。新しい3-Dスタンピング技術により、本発明者らは、10μmの孔を有する25μmの薄さのポリマーシートを取り扱って、通常は非常に短距離(約10個の細胞)のうちに有意に崩壊する、わずか2〜3個の細胞の厚さの血管を作出し、したがって、ECと実質空間とのパラクリンシグナリングを持続させることができた。ナノ細孔及び微小孔と組み合わせた薄いチャネル壁は、以前はヒドロゲル系を用いた場合にのみ達成できた、効率的な分子交換を可能にする重要な特徴であった。この設計により、血管形成された3-D組織モデル中への細胞溢出、及び伝達-拡散による試験薬物の送達のための生理学的に関連する様式が可能になった。異なる臓器中の独特の環境と一致させるために血管透過性を更に微調整するために、臓器特異的ECを用いるべきである。
【0531】
AngioChipプラットフォームは、複数のAngioChipを直列に連結して、臓器レベルの相互作用を再現することにより、単一のデバイス上での異なる組織(例えば、肝臓と心臓)の容易な統合を可能にする(
図74)。従来のマイクロ流体は、統合を困難にする嵩高い外部設定を必要とする。従来のチップの閉じた構成は、マイクロピペットを用いた液体の分注のために開いたウェルに大きく依拠する、生物実験室及び製薬業界における現在の実務とは適合しない。本発明者らのプラットフォームは、標準的なマルチウェルプレートと同様、実質空間と内部血管構造の両方が単純なピペッティングにより容易にアクセスすることができ、それぞれの型の組織のためにそれぞれの区画中で異なる培地を用いることができるような開いた構成を維持し、したがって、同時培養条件を最適化する必要性を除去する。
【0532】
大規模な組織置きかえとして、AngioChip足場製造方法は拡張性があり、より大きい臓器の製作に向かって移動させるために自動化することができる。これは、外科的吻合のための十分な機械的安定性を示し、同時に血管透過性を改善した初めての工学的に作製された血管ネットワークである。それはまた、ヒドロゲルを用いた場合には達成が困難な、実質空間中での長方形(異方性のため)又は正方形(等方性のため)の格子を用いた組織剛性の微調整も可能にする。AngioChip足場を、血栓形成を減少させるための存在する方法を用いてヘパリンを共有的に固定することにより、化学的に改変することもできる。壁細胞が効率的に動員された後の宿主再モデリングにとって、適切な足場分解速度が重要である。従って、天然の壁細胞及びECMが合成ポリマー血管壁の役割を徐々に引き継ぐことができるポリマー鎖上のクエン酸含量を調整することにより、in vivoでのAngioChipの長期的分解を将来検査し、特定の適用のために微調整するべきである。
【0533】
まとめると、AngioChipを用いて、規定の血管構造を有するin vitroの心臓及び肝臓組織モデルと、直接的外科的吻合を有するin vivoの埋込み体との両方を生成した。独自に、このプラットフォームは、有効な再生戦略のin vivoでの検証及び開発へのin vitroでの試験結果の直接かつ迅速な翻訳を可能にした。
【0534】
方法
POMaCの合成。ポリ[オクタメチレンマレイン酸(無水物)クエン酸](POMaC)プレポリマーを調製するために、1,8-オクタンジオール、クエン酸、及びマレイン酸無水物を5:1:4のモル比で混合し、窒素パージ下、160℃で融解した。混合後、温度を140℃に低下させ、混合物を2〜3時間撹拌した。次いで、得られたプレポリマー溶液を、1,6ジオキサン中に溶解し、Direct-Q5 Water Purification System(Millipore社、Billerica、MA)から生成された脱イオン蒸留水中、滴下沈降により精製した。沈降したポリマーを収集し、2日間凍結乾燥した。光架橋の前に、POMaCプレポリマーを5%(w/w)UVイニシエーター(Irgacure 2959、Sigma社)と混合した。ナノ細孔性足場を作製するために、POMaCポリマーを60%(w/w)のポロゲンポリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル(PEGDM、Mw約500、Sigma社)とも混合した(
図51a)。無孔性足場を、PEGDMを添加せずに作製した。
【0535】
核磁気共鳴(NMR)分光分析及びフーリエ変換赤外分光分析(FTIR)。1D 1H CPMGT2スペクトルを、1Hのために699.806MHzで運転するAgilent DD2分光計(Agilent社、Walnut Creek、CA)上、25℃で獲得した。分光計に、5mm HFCN Cold Probeを装備した。スペクトルを、200msのCPMGT2フィルターを用いる100446ポイント、10sのリサイクル遅延、2の安定状態スキャン、及び16の移行を用いる11160.7Hzのスペクトルウィンドウ上で獲得した。MNovaソフトウェア(v.9.0.0、Santiago de Compostela社、Spain)を用いて、NMRプロセシングを実行した。簡単に述べると、分析の前に、スペクトルをフーリエ変換し、位相化し、ベースライン補正した。透過スペクトルを、高速回復重水素化硫酸トリグリシン検出器(PerkinElmer,Inc.社、Waltham、MA)を備えたSpectrum One FTIR分光計と連結したATRトッププレートアクセサリーを用いて取得した。スペクトルを、4000〜650cm
-1の領域で記録した。
【0536】
AngioChipの製作。AngioChip足場の各層を、AutoCAD中で最初に生成し、以前に記載された標準的なソフトリソグラフィ技術により個々のSU-8マスターに移転させた。シリコーンエラストマー[ポリ(ジメチルシロキサン)、PDMS]を、SU-8マスターに対して成型し、室温で2日間硬化させた(
図51b)。3-D足場のベース層及び上部層のためのパターン化されたPDMS鋳型を、それぞれ、スライドガラス及び平坦なPDMSシートにキャップを付けた。次いで、POMaC溶液を、入口及び出口を介してパターン化されたネットワーク中に注入し、室温で一晩静置した。一滴のPOMaC溶液を入口孔の上に添加し、穏やかな陽圧を印加することにより、注入を達成した。一晩、POMaC溶液は、主要メッシュネットワークから外へ伸長する垂直カラムを含む全PDMS鋳型を充填した。PDMSは多孔性であり、空気を逃がすことができるため、入口での穏やかな陽圧は、捕捉された空気を鋳型内部に押し出した。次に、注入されたPOMaC溶液を、ポロゲン、60%(w/w)PEGDM/POMaC溶液と混合したポリマーについては4分間、又はPEGDMを添加しない場合は10分間、10mJ/cm
2sの強度のUV光の下で架橋させた。その後、PDMS鋳型のキャップを外し、パターン化されたポリマー構造を露出させた。第1層のためのパターン化されたPOMaCシートをスライドガラス上に付着させたが、その後の層のためのパターン化されたPOMaCシートをPDMS鋳型上に付着させた。次いで、PDMS鋳型上の露出したPOMaCシートを整列させ、カスタマイズされたUVマスクアライナー(Q2001、Quintel Co.社、CA)を用いてスライドガラス上のパターン化されたPOMaCシートに対してプレスした。次いで、層を一緒に結合するために、PEGDMを添加しない場合、4分間又は10分間、10mJ/cm
2sの強度のUVに試料を曝露した。次いで、UV曝露後、PDMS鋳型を遊離させ、2つのパターン化されたPOMaCシートを一緒に結合し、スライドガラスに付着させたままにした。このプロセスを繰り返して、確立されたベース構造にさらなるパターン化されたPOMaCシートを結合させた。最後に、製作された足場をPSBに浸して、スライドガラスからそれらを遊離させ、室温で一晩インキュベートして、PEGDMポロゲンを溢出させた。単一のプロセスにおいて単一のスライドガラス上で同時に複数の足場をパターン化した(
図56a)。
【0537】
走査型電子顕微鏡観察。AngioChipの構造を例示するために、AngioChip足場を、ポロゲン溢出の前にHitachi SEM S-3400を用いて画像化した。足場の切断は横断面を横断的に示した。足場のナノ細孔を画像化するために、PBS中でのポロゲン溢出後に、足場をエタノール中で最初に脱水した後、超臨界点乾燥を用いて調製し、従って、画像化の前にナノ細孔構造の崩壊を防止した。
【0538】
マイクロCT。AngioChip足場の内部構造を可視化するために、μCT40(Scanco medical社)を用いて、ポリスチレンスライド上に固定された足場を走査した。μCT Ray V40プログラムを用いて、バックグラウンドを排除するために獲得された画像に閾値を適用し、3-Dで足場を再構築した。足場の内部の内蔵型ネットワークを可視化するために、ネットワークに、1:1(v/v)の比でPBS中の2%(w/v)ゼラチン(ブタ皮膚、A型、Sigma社)と混合した硫酸バリウム懸濁液(105%w/v、Polibar plus、Therapex社)を充填した。注入溶液を室温でゲル化させ、μCTで画像化し、閾値を獲得された画像に適用して、足場の他の構造に対する内蔵型ネットワークを示した。
【0539】
足場の分解。ナノ細孔性足場試料を調製するために、60%ポロゲン含量を有する足場(3mm×10mm×200μm)を、10mJ/cm
2sの強度で4分間、最初にUV架橋させた後、蒸留水中で洗浄して、ポロゲンを浸出させた。無孔性足場試料を調製するために、0%ポロゲン含量を有する足場(3mm×10mm×200μm)を、10mJ/cm
2sの強度で10分間、UV架橋した。PBS(pH7.4、37℃)又は0.1M NaOH中で経時的に足場の質量減少を追跡することにより、足場の分解速度を決定した。それぞれのインキュベーション期間の後、試料を蒸留水中で最初に完全に洗浄した後、乾燥させた。初期質量を、特定の時点で測定された質量と比較することにより、質量減少を算出した。
【0540】
破裂圧。AngioChip足場の破裂圧を決定するために、足場の入口を、Tygonチューブを用いて圧力計を有する窒素タンクに接続した一方、足場の出口をエポキシ接着剤で密封した。足場ネットワークからの溢出が観察されるまで圧力を徐々に増大させ、ピーク圧力を破裂圧として記録した。入口又は出口での結合部からの浸出が最初に観察された場合、記録を廃棄した。
【0541】
機械的試験。AngioChip足場の機械的特性を、AngioChip足場の円周(長端に沿う)及び長手方向(短端に沿う)でMyograph(Kent Scientific社)を用いてPBS中で測定した。0〜0.1のひずみからの一軸引張応力-ひずみ曲線の勾配を用いて、AngioChip足場全体の有効剛性を算出した(
図64、
図65)。ひずみ-破壊値を、曲線に沿った破壊点でのひずみから決定した。成体ラット心筋の機械的剛性を、University of Toronto Animal Care Committeeにより認可されたプロトコールに従って犠牲にしたLewisラットの成体心臓から測定した。成体ラット心筋を、心臓の円周方向又は長手方向に沿って、幅2〜4mm及び厚さ2〜4mmを有する長さ7mmの小片にスライスした。心筋の一軸機械的剛性を、0〜0.1のひずみから引張応力-ひずみ曲線の勾配から決定した。異方性比を、円周方向の有効剛性を長手方向の有効剛性で除算することにより決定した。3つの異なる足場設計は異なる格子構造を有していたが、50μmの壁の厚さ、入口、出口及び第一次分枝については50μm×200μmの内部管腔寸法、並びに第二次分枝については50μm×100μmの内部管腔寸法を有する同じ内蔵型ネットワークを有していた。足場格子は50μmの支柱からできていた。設計Aにおいて、支柱を、長端方向に250μm離して、短端方向に100μm離して、z軸中では離さずに置いた。設計Bにおいては、支柱を、長端方向に250μm離して、短端方向に100μm離して、及びz軸中に50μm離して置いた。設計Cにおいては、支柱を、長端方向に550μm離して、短端方向に175μm離して、及びz軸中に50μm離して置いた。
【0542】
透過性。内蔵型ネットワークから周囲の水性溶液への大分子及び小分子の透過性を、蛍光染料:それぞれ、TRITC-デキストラン(約70kDa、Sigma社)及びFITC(約400Da、Sigma社)を用いて測定した。TRITC-デキストラン及びFITC溶液を、10又は100μMの入口濃度で20時間、ネットワークを介して0.7μL/分で灌流した。20時間後、中央のウェル中の溶液を収集し、蛍光分子の濃度を、蛍光プレートリーダーを用いて決定された標準曲線に対して補正した。小分子及び大分子に対するAngioChip足場全体のチャネル透過性を、ネットワーク内部の蛍光分子の平均濃度が入口でのものと同じであるという仮定でFickの法則を用いて、拡散の正味の速度(中央のチャンバー中の蓄積された蛍光分子の合計/時間)及びネットワークの管腔表面積から決定した。
【0543】
バイオリアクターの設計。AngioChip足場の入口及び出口を通る流体灌流を可能にする、並びに組織集合を容易にするために、バイオリアクターをカスタマイズした。バイオリアクターは4つの構成要素:キャップ、ポリカーボネート本体、PDMSベース、及びポリカーボネートベースで構成されていた(
図56c)。バイオリアクターを、別々のチャンバー中に3つの足場を同時に収納するように設計した。ポリカーボネート本体(厚さ2.5cm)は、3行に配置された9個のウェルを含んでいた:上の行は入口ウェルを包含し、中央の行はAngioChip足場が配置される主要ウェルを包含し、下の行は出口ウェルを包含していた。PDMSスラブ(厚さ1mm)は、AngioChip足場が置かれる3つのトレンチ(深さ700μm)を含んでいた。トレンチの底部で、マイクロポスト(高さ200μm)をパターン化して、AngioChip足場をベースから持ち上げ、細胞/ゲルが足場の下部に浸透し、足場全体を被包することできるようにした。トレンチはまた、AngioChip足場の入口及び出口が正確に適合することができる開いた入口及び出口チャネルも含んでいた。AngioChip足場を配置した後、PDMSベース上の開いた入口及び出口チャネルが、その中で適合したAngioChipの入口及び出口でキャップされるように、PDMSベースをポリカーボネートベースとポリカーボネート本体との間に差し込んだ。3つの構成要素を、ステンレススチール製ねじで固定した。溶液及び/又は細胞懸濁液を、入口及び出口ウェルの圧力水頭差により駆動される、AngioChip足場の内蔵型ネットワークを介して入口ウェルから出口ウェルに向かって灌流した(
図63)。埋め込み又は分析のために、バイオリアクターを無菌条件で分解して、AngioChip組織を除去した。
【0544】
内皮細胞培養。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を、Lonza社から購入し、製造業者の説明書に従って内皮増殖培地(EGM、Lonza社)を用いて培養した。継代3回目のHUVECを、全ての実験に用いた。
【0545】
内皮化及び組織集合。AngioChip上並びに内部ネットワーク中での細胞付着を増強するために、集合の前にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の0.2%w/vゼラチン(ブタ皮膚由来、A型、Sigma社)で2時間、足場を被覆した。PDMSベース上への細胞付着を防止するために、集合の前にPBS中の5%w/vプルロニックF-127(Sigma社)で2時間、PDMSベースを被覆した。AngioChip足場をバイオリアクター中に入れた後、内皮細胞培地中の濃縮内皮細胞懸濁液(2500万個の細胞/mL)の20μLをネットワーク中で1分間灌流することにより、内皮細胞を足場の内蔵型ネットワーク中に最初に播種した。次いで、流動を停止させて、静的条件下で2時間、細胞を付着させた。入口ウェルに1mLの内皮細胞培地を添加し、したがって、0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re、0.01)未満の流量の下でAngioChip足場を介して灌流を開始して、細胞に十分な培地を供給しながら、細胞に最小限のストレスを加えることによって、付着しなかった細胞を洗い流した。ネットワーク内で、一晩、内皮細胞を増殖させ、集密なネットワークを形成させた。1日目に、肝臓組織を作出するために、一次成体ラット肝細胞を、AngioChip足場上に15μLのMatrigel(BD Biosciences社)と共に1億個の細胞/mLで播種した。心臓組織を作出するために、新生児ラットから単離された、又はヒト胚性幹細胞(hESC)から誘導された心筋細胞を、それぞれのAngioChip足場上に、1億個の細胞/mLで15μL(単層ネットワーク)又は40μL(三層ネットワーク)のコラーゲン/Matrigel混合物と共に播種した。コラーゲン/Matrigel混合物の組成は以下の通りであった:4.5μgml
-1のグルコース、1%のHEPES、10%(v/v)のMatrigel(BD Biosciences社)、及び2μgml
-1のNaHCO
3を添加した、1N NaOH及び製造業者により記載された10×M199培地により中和された2.5mgml
-1のラット尾部I型コラーゲン(BD Biosciences社)。37℃で30分間ゲル化した後、1mLの心筋細胞培地又は肝細胞培地を中央のウェルに添加した。実質細胞の播種後、更に4mLの内皮細胞培地も入口ウェルに添加し、培地灌流速度を0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re、0.01)に増大させた。
【0546】
全血灌流。ヒト全血を、University of Torontoの組織指針に従って、及び認可されたResearch Ethics Boardプロトコールの下で3人のドナーから収集した。全血を1%(v/v)のヘパリンで処理して、取り扱い中の凝固を防止した
45。全血を、37℃で30分間、15dyne/cm
2で内皮化された足場又は内皮化されていない足場を介して灌流した。伸長した圧力カラムを入口ウェルに結合させた改変型バイオリアクターを用いて、高い剪断応力の灌流を達成した(
図63)。伸長したカラムに、0.25mの高さまで血液を充填し、AngioChip足場ネットワーク内で5μL/分(15dyne/cm
2、Re、0.023)の流量を生成した。血液灌流は30分しか続かなかったため、わずかに約150μLの血液が灌流され、30分の時間にわたってカラムの高さ及び流量を有意に変化させなかった。灌流後、ネットワークを塩水で洗い流し、4℃で48時間、PBS中の2%(v/v)グルタルアルデヒド中で固定した。固定された足場を、ネットワークの内部管腔表面を示すために凍結切片化し、SEMを用いて画像化した。Adobe Photoshopを用いてそれぞれの細胞クラスターの輪郭を描くことにより、血小板の面積を手動で定量した。分析を、盲検的に実施した。
【0547】
マクロファージの接着及び移動。Raw264.7マクロファージを、4.5g/Lグルコース、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS、Gibco社、Canada)、1%(v/v)HEPES(100ユニット/mL、Gibco社、Canada)及びペニシリン-ストレプトマイシン(100mg/mL、Gibco社、Canada)を含有するDulbeccoの改変イーグル培地(DMEM、Gibco社、Canada)中で培養した。Raw264.7マクロファージを、継代10回目で用いた。実験の前に、マクロファージを、CellTrackerαRed CMPTX(Molecular Probes社)又はCellTrackerαGreen(Molecular Probes社)のいずれかで標識した。2日目の内皮化された足場を、0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re、0.01)の流量にて37℃で1時間、1000万個の細胞/mLのマクロファージ懸濁液で灌流した。内皮化されたチャネル管腔表面上でのマクロファージの側方移動を、1時間の灌流中に捕捉した。マクロファージ接着画像を、蛍光顕微鏡を用いて1時間の灌流の終わりに捕捉した。1時間の灌流後、足場を37℃で一晩、再度インキュベートした。その後、足場を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、Olympus FV5-PSU共焦点顕微鏡を用いて画像化して、10μmの小孔を通過するマクロファージの移動を見た。
【0548】
肝細胞の単離及び培養。University Toronto Animal Care Committeeにより認可されたプロトコールに従って8週齢のオスのSprague Dawleyラットから改変された2ステップの単離手順を用いて、一次ラット肝細胞を単離した。簡単に述べると、ラットをヘパリン処理した後、イソフルランで麻酔した。麻酔下で、腹腔を開き、大静脈と下行大動脈とを結紮することにより、血管系から肝臓を単離した。次いで、PE-50チューブを用いて肝臓にカニューレを挿入し、灌流した。最初に、肝臓を250mLの洗浄バッファー[12.5mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)及び0.5mMのエチレングリコール四酢酸(EGTA)を含有するハンクス平衡塩溶液、HBSS(Gibco社)]、次いで、250mLの消化バッファー[4mMのCaCl
2及び0.1%の2型コラゲナーゼ(Worthington社)を含有するHBSS]で灌流した。肝臓を取り出し、Krebs-Henseleitバッファー(Sigma-Aldrich社、K3753)中、手動で解離させ、細胞懸濁液中に入れた。細胞懸濁液をコットンガーゼ及び100μmフィルターに通過させることにより、不溶性破片を除去した。300×gで開始し、50×gまで低下させる一連の遠心分離工程により、肝細胞を精製した。用いた肝細胞の細胞懸濁液は、90%より高い生存性及び95%より高い純度を示すと決定された。肝細胞をすぐに用いたか、又は後の使用のために凍結した。肝細胞を、DMEM(Gibco社)及びMCDB-131完全(Vec Tech Inc社)培地+10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS)、1%(v/v)ペニシリンストレプトマイシン及び1×インスリン-トランスフェリン-セレン-X(Gibco社)の50:50の混合物中で培養した。
【0549】
新生児ラット心筋細胞の単離及び培養。University of Toronto Animal Care Committeeにより認可されたプロトコールに従って以前に記載されたように新生児ラット心臓を消化することにより、新生児ラット心筋細胞及び線維芽細胞を単離した。新生児(1〜2日齢)のSprague-Dawleyラットをin vitroでの実験のために用いた一方、新生児(1〜2日齢)のLewisラットをin vivoでの実験のために用いた。簡単に述べると、新生児ラットを最初に安楽死させた。心臓を取り出し、四等分した。四等分された心臓を、4℃で一晩、Ca
2+及びMg
2+を含まないバッファー[HBSS(Gibco社)]中のトリプシン(Sigma社、Canada)の0.06%(w/v)溶液中で消化した。次いで、HBSS中のコラゲナーゼII(Worthington社、USA、220ユニット/mL)を用いて、一連の5回の4〜8分間の消化において37℃で四等分された心臓を更に消化した。コラゲナーゼ消化の後、細胞を40分間にわたって事前プレーティングした。心筋細胞について富化された、非接着細胞を収集し、再度、使用又はプレーティングし、使用前に一晩培養した。ラット心筋細胞を、4.5g/Lグルコース、10%(v/v)ウシ胎仔血清(FBS、Gibco社、Canada)、1%HEPES(100ユニット/mL、Gibco社、Canada)及びペニシリン-ストレプトマイシン(100mg/mL、Gibco社、Canada)を含有するDulbeccoの改変イーグル培地(DMEM、Gibco社、Canada)中で培養した。
【0550】
hESC由来CMの分化及び培養。HES-3 NKX2-5 GFP陽性細胞を、以前に記載された技術を用いて培養した。マウス胚性線維芽細胞(MEF)を有糸分裂的に不活化したマイトマイシンC上の6ウェル組織培養プレート中の20%ノックアウト血清置換物、100μM非必須アミノ酸、2mMグルタミン、50U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシン(Invitrogen社)、10〜4Mのβ-メルカプトエタノール(Sigma社)及び20ng/mLのhbFGF(R&D Systems社)を添加したDMEM/F12[50/50(v/v)、Mediatech社]からなるhESC培地中で、細胞を維持した。一度集密になったら、Tryple E Express(Life Technologies社)を用いて、細胞を室温で単一の細胞に解離させ、条件培地
48中、13万〜33万個の細胞/cm
2の濃度でES品質のMatrigel(BD Sciences社)で被覆されたプレート上に移した。MEFから予め収集された条件培地に、h-bFGFを添加し、分化の誘導まで毎日変更した。RPMI/B27(Life Technologies社)中での誘導前に細胞を洗浄し、培地を、6〜12μMの範囲のCHIR99021(Stemgent社)を添加したRPMI/B27と交換して、分化を誘導した。誘導の正確に24時間後、培地を新鮮なRPMI/B27と交換した。融合の72時間後、各ウェル中の1mLの培地を、5μMのWnt阻害剤IWP-4(Stemgent社)を含む1mLの新鮮なRPMI/B27と混合した。培地を5日目に交換し、7日目にインスリン(Life Technologies社)を含むRPMI/B27に変更した後、解離までその後3日毎に交換した。37℃及び5%CO
2インキュベータ中、120分間にわたって、20〜30日目にII型コラゲナーゼ(1mg/ml)を用いて細胞単層を解離させた後、37℃の水浴中で5分間、Triple E Express中で更に解離させた。FACScalibur(BD Sciences社)を用いて細胞分析を達成して、NKX2-5 GFPリポーターにより決定される最終CM濃度を決定した。
【0551】
組織学的分析及び免疫蛍光染色。免疫蛍光染色を実施して、培養されたAngioChip組織の形態を評価した。組織を最初に室温で15分間、PBS中の4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で固定した。次いで、組織をin situで透過処理し、PBS中の5%FBS及び0.25%Triton X100で1時間遮断した。次に、AngioChip心増組織を、4℃で一晩、一次抗体であるサルコメアα-アクチニン(マウス、1:200希釈、Sigma社)中でインキュベートした後、対応する二次抗体であるAlexa 488コンジュゲート化抗マウスIgG(1:200希釈、Sigma社)及びF-アクチン(ファロイジン660コンジュゲート化、Sigma社)と共に1時間インキュベートした。心臓組織を、Olympus FV5-PSU共焦点顕微鏡を用いて画像化した。AngioChip肝臓組織を、最初にCFDAで標識した後、上記のように固定し、F-アクチン(ファロイジン660コンジュゲート化、Sigma社)で1時間染色した。血管構造を可視化するために、内皮化されたAngioChip足場を4%PFA中で固定し、5%FBS中で1時間遮断した。次いで、足場を一次抗体であるCD31(マウス、1:200希釈、Sigma社)中でインキュベートした後、二次抗体であるAlexa 647コンジュゲート化抗マウスIgG(1:200希釈、Sigma社)と共にインキュベートした。生細胞及び死細胞の染色を、37℃で30分間、PBS中のカルボキシフルオレセインジアセテート(CFDA、1:1000希釈、Invitrogen社)及びヨウ化プロピジウム(PI、Invitrogen社)を用いて実施した。生細胞及び死細胞が染色された心臓組織の横断面を可視化するために、組織を横に半分にスライスし、手動で回転させて、横断面を示した。内皮細胞と実質細胞の両方を可視化するために、Pathology Research Program Laboratory of Toronto University Health Networkでの組織学的分析のために、培養された組織を4℃で3日間、10%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋し、4μmのスライスに切片化した。組織学的切片は、横方向の組織横断面を示し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)、マッソントリクローム染料、CD31、又はアルブミンを用いて染色した。
【0552】
尿素アッセイ。AngioChip肝臓組織を、主要ウェル中、10mM重炭酸アンモニウムを含有する1mLの肝細胞培地と共にインキュベートし、入口ウェルから、10mM重炭酸アンモニウムを含有する1mLの内皮細胞培地を灌流した。それぞれ24時間のインキュベーション後、主要ウェル及び出口ウェルからの培地を収集した。培地を簡単に遠心分離(300×gで5分間)して細胞を除去し、-20℃で凍結した。製造業者の説明書に従ってQuantiChrom Ureaアッセイキット(BioAssay Systems社)を用いて、尿素を検出した。典型的には、検出のために培地を希釈しないまま用いた。
【0553】
肝臓薬物試験。培養の3日目に、肝細胞培養培地中のテルフェナジン(10μM、Sigma社)を入口ウェルに入れ、0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re、0.01)で内皮化された肝臓組織を介して24時間灌流した。24時間のインキュベーション後、入口ウェル、中央ウェル、及び出口ウェル中の培地を収集し、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)を用いてフェキソフェナジンの濃度について分析し、標準曲線と相関付けた。最初に、DMSOを用いて薬物を溶解させた。培地中のDMSOの最終濃度は常に0.1%未満であった。
【0554】
工学的に作製された心臓組織の機能的特徴付け。AngioChip心臓組織を刺激し、その電気的興奮性パラメータを測定するために、1cm離した2つのカーボン電極を、それぞれの主要ウェル中、組織の反対側に同時に置いた。電極を、白金ワイヤを用いて外部電気刺激装置(Grass社s88x)に接続した。2ms持続時間及び1パルス/秒の周波数の単相パルスを用いて、興奮閾値(視野中の組織の75%の同期的収縮を観察することができる最小電圧)を最初に決定した。次いで、最大捕捉率(最大鼓動周波数)を、決定された興奮閾値電圧の200%で決定した。組織収縮の振幅を、収縮間で工学的に作製された組織における幅の変化から決定した。組織再モデリングの進行を評価するために、心臓組織の明視野画像を、細胞播種後最初の5日間、毎日撮影した。中心短端にわたる組織の幅を、ImageJを用いて画像から測定した。
【0555】
光学マッピング。蛍光画像化を用いる、IDL(Exelis社、McLean VA、USA)で書かれた特注プログラムを用いて、活性化マップを生成した。カルシウム染料Fluo-4を使用し、482nmで帯域通過フィルタリングされたShort Arc Mercury光源(X-Cite Exacte、Lumen Dynamics社、Mississauga ON、Canada)を用いて励起し、1.6〜2.5×の範囲の光学倍率を有する蛍光マクロズーム顕微鏡系(MVX-10、Olympus Corporation社、Tokyo、Japan)中に取り付けられた488nmロングパスフィルター(Semrock Corp社、Rochester NY、USA)により放射を測定した。蛍光を、200フレーム/秒で高速CMOSカメラ(Micam-L、Scimedia USA社、Costa Mea CA、USA)を用いて記録した。1cm
2のセンサーは100×100ピクセルを有し、40〜60μm/ピクセルの解像度が得られた。
【0556】
ラクトースデヒドロゲナーゼ(LDH)アッセイ。AngioChip心臓組織を、0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re:0.01)での内蔵型ネットワークを介する培地灌流を用いて、又は用いずに心筋組織培地を用いて培養した。組織が存在する中央ウェルから、1mLの心筋細胞培地を収集し、6日間にわたって毎日新しい培地と置きかえた。収集された培地を、製造業者の説明書に従ってLDH毒性アッセイキット(Cayman Chemical社)を用いてラクトースデヒドロゲナーゼ(LDH)濃度について分析し、標準曲線と相関付けた。
【0557】
心臓薬物試験。培養の7日目に、心臓組織の自発的収縮を、明視野ビデオとして記録した。次いで、心臓培養培地中のエピネフリン(10μM、Sigma社)又はジゴキシン(10μM、Sigma社)を入口ウェルに入れ、内皮化された心臓組織を介して30分間、0.7μL/分(0.62dyne/cm
2、Re:0.01)で灌流した。30分間のインキュベーション後、心臓組織の自発的収縮を、再度明視野ビデオとして記録した。imageJを用いて、記録されたビデオから収縮の周波数を分析した。DMSOを用いて、薬物を溶解した。培養培地中のDMSOの最終濃度を、0.1%(v/v)未満に希釈した。
【0558】
ラット大腿血管手術。以下の手順は全て、Committee on Animal Careにより認可されたプロトコールの下で、Department of Comparative Medicine Animal Facility、University of Torontoで実施される。Lewis新生児ラット心筋細胞と共に培養されたAngioChip足場を7日目に埋め込み実験のために用いた。AngioChip足場を、in vivo実験のために内皮化しなかった。第1に、Charles River社からの成体オスLewisラット(150〜250g)を、1L/分の流量で1〜3%イソフルランを用いて麻酔した。鎮痛剤を投与し(5mg/kgのケトプロフェン、SQ)、両方の後肢を手術のために調製した。外科的手順のために、解剖顕微鏡を用いて、後肢の拡大図を得た。皮膚の毛を剃り、膝から開始して大腿内側まで約2cm長の切り口を左脚上で作製した。次いで、皮下脂肪組織及び下にある神経血管束を示した。大腿動脈及び静脈を切開し、神経から分離させた。動脈バイパス構成のために、大腿動脈の断片(長さ約1.5cm)を完全に露出させ、AngioChip心臓組織の挿入のために結紮した。動脈の2つの末端を、顕微鏡下近似クランプでクランプして、手術中に一時的に血流を停止させた。1つの25ゲージカフ(ポリイミドチューブ)を動脈のそれぞれの末端に挿入し、7-0縫合糸で固定した。生分解性手術用カフを、将来の適用において用いることもできる。次いで、AngioChip心臓組織の入口及び出口をカフ中に挿入し、組織接着剤(シアノアクリレート)で密封した。次いで、クランプを除去し、血液灌流を確立した。動脈-静脈構成のために、大腿動脈及び大腿静脈の断片(長さ約5mm)を完全に露出し、AngioChip心臓組織の挿入のために結紮した。動脈及び静脈の2つの末端を、顕微鏡下近似クランプでクランプして、手術中に一時的に血流を停止させた。1つの25ゲージカフ(ポリイミドチューブ)を動脈のそれぞれの末端に挿入し、7-0縫合糸で固定した。動脈及び静脈の底部末端を7-0縫合糸で固定した。次いで、AngioChip心臓組織の入口及び出口をカフ中に挿入し、組織接着剤(シアノアクリレート)で密封した。次いで、クランプを除去し、血液灌流を再確立した。最後に、別の心臓組織パッチを、対照として役立つように同様の様式であるが吻合せずに皮下的に右脚に埋め込んだ。術後疼痛の管理のために、ラットは2日間、ケトプロフェン(5mg/kg、毎日皮下注射した)を受けた。1週の時点で、動物を人道的に安楽死させ、組織切片化のために組織埋込み体を単離した。
【0559】
統計分析。実験群間の有意差を、独立両側Studentのt検定を用いて決定した。
図59jにおいては、出口ウェル中のフェキソフェナジン濃度は増大するだけと予想され、フェキソフェナジンを含有しない入口ウェル対照より低くなることはないため、対になった片側Studentのt検定を用いた。Studentの検定に加えて、
図59iにおいては、Sigma Plotにおける三元配置ANOVAを用いて統計も行った。正規性検定(Shapiro-Wilk)及びペアワイズ多重比較手順(Holm-Sidak法)を用いた。全ての統計検定についてP<0.05が有意であると考えた。
【0560】
適用例
実施例において本明細書に開示される例示的デバイスは、様々な組織構造の培養及び生成にとって好適であり得る。細胞がin vivoで通常はそうするように成熟及び機能することができるように、in vivoで見出される天然の組織構造を模倣するか、又は再現するin vitroのプラットフォームを提供するために、開示されるデバイスを設計することができる。
【0561】
様々な例において、開示されるデバイスは、特に、心筋細胞、骨格筋細胞、平滑筋細胞等の筋肉細胞を含む様々な組織、並びにニューロン等の興奮性組織及び肝細胞等の豊富な血管構造を必要とし得る細胞の培養にとって好適であってもよい。
【0562】
様々な例において、開示されるデバイスは、特に、いくつかの異なる区画を有する人体チップを構築するため、並びに動物又はヒト患者への直接的吻合及び埋め込みのための、in vitroでの薬物試験を含む様々な適用にとって好適であってよい。
【0563】
上記の本開示の実施形態は、例に過ぎないことが意図される。本開示を、他の特定の形態で具体化することができる。本開示に対する変化、改変及び変更を、本開示の意図される範囲から逸脱することなく行うことができる。本明細書に開示され、示される系、デバイス及びプロセスは、特定数のエレメント/成分、系、デバイス及びアセンブリを含んでもよく、さらなる、又はより少ない数のそのようなエレメント/成分を含むように改変することもできる。例えば、任意の開示されるエレメント/成分は単数形として言及してもよい一方、本明細書に開示される実施形態を、複数のそのようなエレメント/成分を含むように改変することができる。1つ又は複数の上記の実施形態から選択される特徴を組み合わせて、明示的に記載されない代替的な実施形態を作出することができる。開示される範囲内の全ての値及びサブ範囲も開示される。本明細書に記載の主題は、技術の全ての好適な変化を対象にし、包含することを意図する。記載される全ての参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0564】
(実施例5)
アンギオチューブ
序論
本実施例では、本発明者らは、アンギオチューブと命名された灌流可能なマイクロチューブが包埋された96ウェルプレートであるAngioTubeプレートを提唱する。包埋されたアンギオチューブを一晩で急速に内皮化させて、血管模倣体を形成させることができる。アンギオチューブの周囲に、心筋細胞、肝細胞、平滑筋、及び有足細胞等の様々な細胞を集合させて、機能的3-D組織を形成させることができる。この単純な構成を普遍的に適用して、様々な組織型に3-D血管インタフェースを組み込むことができる。アンギオチューブは、小さい生体分子と大きい生体分子の交換のためのパターン化された10μmの微小孔を有する薄いチャネル壁(25〜50μm)を有し、並びに血管インタフェースを横断する、単球等の細胞の移動を可能にする。従って、血管壁を横断する細胞間相互作用、血管透過性、及び走化性を、全て試験することができる。
【0565】
実質組織の受動的張力及び能動的収縮の測定を可能にするカンチレバー構造等の、さらなる外部的特徴をアンギオチューブ上に組み込むこともできる。この特徴は、平滑筋組織の収縮及び弛緩並びに心筋組織の能動的収縮を検査する際に重要である。この型のリードアウトは、外部刺激に対する価値ある組織レベル応答を提供し、組織を破壊することなくオンラインで連続的に実施することができる。
【0566】
最後に、アンギオチューブは複数のウェルを介して接続する96ウェルプレート内に包埋されるため、異なる型の組織を、異なるウェル内の同じアンギオチューブの周囲で培養することができる。同じアンギオチューブを介して、複数の組織単位は自動的に一緒に連結されるようになり、ユーザーはin vitroでの統合されたヒト生理を再現する臓器間レベルの相互作用を容易に精査することができる。例えば、多くの薬物は、それらが他の重要臓器に送達される前に、肝臓によって複数の形態に変換及びプロセシングされる。薬物は初期スクリーニング中にはその元の形態で非毒性的であり得るが、動物又はヒト試験においては毒性的になる。従って、肝臓組織単位と他の臓器単位との統合は、初期スクリーニング段階で臓器間レベルの毒性を示す可能性がある。
【0567】
予備的結果
AngioTubeマルチウェル灌流可能系は、各チャンバーがウェル内に配置された透過可能/灌流可能なチューブの周囲で3D組織鎖を播種、増殖させるための1つ又は複数のウェルを含有する、チャンバーのアレイを含む(
図75)。各チャンバーはまた、組織鎖を固定するための少なくとも2つの対立するエレメントを含有してもよく、3D組織鎖の収縮/弛緩サイクル中にその動きを識別及び測定することができる(
図75)。また、チャンバーを、心臓組織を刺激するための電極と共に構成することもできる。
【0568】
プレートをある角度に傾斜させ、従って、入口ウェルと出口ウェルとの間の圧力水頭差を生成することによって入口ウェルから出口ウェルに向かってアンギオチューブを灌流することができる。
図76は、バイオリアクターの傾斜高さの関数としての流量(μl/分)又は剪断応力(dyne/cm
2)により測定されるAngioTubeマルチウェル灌流可能バイオリアクターの受動的灌流の結果を示す。PBSをアンギオチューブに灌流させた。
【0569】
AngioTubeバイオリアクターの単一のチャンバー中での3D組織鎖の発達の時間経過を示すために、コラーゲン/Matrigelマトリックス中のAngioTubeにラット心筋細胞を投入した(
図77)。一連の最初の画像は、細胞がバイオリアクターチャンバー中に最初に播種される点を示す。時間が進行するにつれて、細胞は増殖し、可撓性エレメント間で組織接続を維持しながら、チャンバー中の2つの可撓性カンチレバーエレメントに向かってクラスター化し始める。写真に示される特定の実施形態は、1つの実施形態のみであり、他の構成も本発明によって企図される。例えば、異なる形状及び/又は長さ(例えば、曲線型、丸型、非直線型、平面型、丸い、曲がった、厚さ)を有する可撓性カンチレバーエレメントを形成させ、カンチレバー移動の測定及び/又は検出を検出することができるように、異なる角度又は配向で透過性チューブエレメントに結合させることができる。チャンバーはまた、心臓細胞を刺激するための電極を含有してもよい。右側のバーは、3D組織鎖の形成中に観察することができるカンチレバー移動の程度を示す。
【0570】
組織鎖の光学顕微鏡画像は、カンチレバーの周囲を包む組織を示す(
図78、左の画像)。AngioTubeの周囲に形成された3-D組織鎖の形態を示すために、組織をサルコメア-α-アクチニン及びF-アクチンで染色し(
図78)、組織鎖の細胞の分布及び形態及び配向を示した。
【0571】
カンチレバーを用いて心臓組織鎖の能動的収縮を検出することができることを証明するために、本発明者らは、播種後の増殖の5日後及び10日後にカンチレバー移動を測定した(ピクセルにより測定される)(
図79)。本発明者らは、カンチレバーの湾曲の程度の増加を見た。この傾向は、時間と共に組織鎖の成熟を示す。
【0572】
結論
アンギオチューブプレートは、様々な型の組織を作出するために普遍的構成を用いる多用途のプラットフォームである。その構成は単純であるが、3-D環境における内蔵型血管インタフェースにわたる複雑な細胞相互作用を再現することができる。最も重要なことに、その設定は多臓器構成に拡大するために天然に適合化される。従来の96ウェルプレート形式のアンギオチューブプレートも、ロボット液体分注装置及びマルチウェルプレートリーダー等の、高スループット薬物毒性スクリーニングにおける存在する産業基盤に容易に適合化される。
【0573】
(実施例6)
バイオワイヤ(in vitroでの慢性薬物曝露のヒト幹細胞由来心臓モデル)
疾患の分子ベースにおける重要な洞察を提供する際に、動物モデル系が有益であった。そのような情報はヒト疾患の研究に上手く適用されてきたが、この翻訳はヒト細胞に基づくモデルの利用可能性によって有意に強化される。ヒト心筋細胞の生理はげっ歯類とは有意に異なるため、これは心血管疾患にとって特に重要である。ここで、本発明者らは、組織工学及びヒト胚性幹細胞由来心筋細胞(hESC-CM)を介してヒト心筋の3次元モデルを使用して、hESC-CMがイソプロテレノール、エンドセリン-1又はアンギオテンシンIIを用いる慢性処置に対して応答し、慢性薬物曝露と適合する変化を受けることができるかどうかを問題にした。本発明者らは、イソプロテレノール、エンドセリン-1又はアンギオテンシンIIで処理されたhESC-CMが、筋原線維整列の破壊、細胞サイズの増大、及び収縮力の有意な低下を示したことを示す。イソプロテレノール処理されたhESC-CM組織は、ヒト心不全の現在の至適基準バイオマーカーである、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)及び心房性ナトリウム利尿因子(ANF)遺伝子発現の誘導を示す。BNPはまた、イソプロテレノールとエンドセリン-1の両方で処理された細胞の条件培地中にも見出される。これは、hESC-CMが適切な環境ストレスシグナルに応答し、in vivoでの慢性薬物曝露と適合する変化を受けることができることを示している。
【0574】
序論
心疾患をモデル化し、新しい薬物の安全性及び有効性を試験するためには、動物モデルが一般的に用いられる。相対的な入手可能性及びゲノムを正確に操作する可能性のため、マウスが最も一般的に用いられる動物モデルである[1]。しかしながら、マウスとヒトの心臓生理には有意差がある。例えば、マウスの心拍はヒトよりも10倍速い。α-及びβ-ミオシン重鎖等の収縮タンパク質も、マウスとヒトにおいて示差的発現を有する。更に、マウス心筋細胞の再分極は、I
to、I
K,slow1、I
K,slow2、I
SSイオンチャネルによって主に駆動されるが、ヒト心筋細胞においては、それはI
kr及びI
ksによって主に駆動される[1〜3]。これは、薬物に対する異なる応答をもたらし、従って、薬物スクリーニングモデルとしてのその効率的使用を阻害し得る。
【0575】
利用可能なヒト薬物スクリーニングモデルは、遺伝的に不安定であり得る、及び/又は心臓細胞の特異性を欠く腫瘍由来細胞株又は患者の試料に依拠する。今までのところ、心臓毒性/不整脈の研究の多くは、単一のイオンチャネル遺伝子が非心臓細胞中で発現される異種発現系に依拠してきた。これらのモデルは心筋細胞の多くの特徴を複製することができず、従って、ヒト組織のin vitroモデルを生成するには理想的ではないため、これらのモデルはいくつかの制限を有する。
【0576】
ヒト胚性幹細胞及び人工多能性幹細胞(それぞれ、hESC及びiPSC)の生成並びにそれらから真正な心筋細胞に分化する可能性[4〜6]は、健康な[7、8]及び疾患を有するヒト心臓組織[9、10]のin vitroモデルを作出するための例外的な機会である。従って、hESC及びiPSC由来心筋細胞(CM)は、前臨床薬物スクリーニングのためのプラットフォームの開発及び臨床使用のための最適化のための可能性を保持する[7、11]。これらの技術を用いて、動物モデルにおいては毒性的でないことが多いがヒト心臓細胞に対する毒性を示し得る薬物をトリアージすることができる。
【0577】
疾患を有する心筋細胞のヒトモデルは、in vitroで疾患の特徴を複製する特異的突然変異を有する細胞株の使用に依拠してきた。最近では、QT延長症候群等の心臓不整脈をモデル化するために、ヒトiPSC由来CMが用いられている[12〜14]。この珍しい遺伝的障害のため、心筋が再分極するためにより長くかかり、突然死をもたらし得る不整脈をもたらす。QT延長症候群患者から誘導されるiPSC株に由来する心筋細胞を用いて、著者らは、生成されたCMが疾患の電気生理学的シグネチャーを示し、発症機構の研究及び治療薬試験のための強力な系を確立することを証明した。また、様々な遺伝性心臓障害を有する患者からのヒトiPSC-CMのライブラリーを用いて、異なる遺伝的背景の患者に関する心臓薬物毒性に対する感受性の差異をモデル化し、前臨床薬物スクリーニングのためにヒト細胞を使用する重要性を強調した[15]。しかしながら、非遺伝的心筋症の高い有病率のため、健康なhESC-CMは新しい治療剤の有効性のためのin vitroスクリーニングプラットフォームとしての使用のための大きな可能性を有するため、健康なhESC-CMからの非遺伝的疾患モデルの開発は非常に有益である。
【0578】
心筋症は、特に、心筋梗塞、遺伝子突然変異、及び慢性薬物曝露の結果であり得る。イソプロテレノール、アンギオテンシンII及びエンドセリン-1は、動物モデルにおいて心筋症を再現するために上手く用いられてきた分子である。従って、それらは慢性薬物曝露のため心筋症と適合する副作用のin vitroでのスクリーニングのための手段としてのヒト幹細胞由来CMの適用可能性を調査するための手段としての使用のための好適な候補である。
【0579】
慢性薬物適用の研究にとって好適な心臓組織モデルとして役立つhESC-CMの可能性を評価するために、本発明者らは、hESC-CMから3次元心臓組織を生成し、イソプロテレノール、エンドセリン-1又はアンギオテンシンIIへの慢性曝露に対するその応答を調査した。これらの薬剤で処理した後、ヒト組織は、サルコメア組織化の破壊、胎児遺伝子プログラムの誘導[脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)及び心房性ナトリウム利尿因子(ANF)の上方調節]、BNPの分泌、細胞サイズの増大並びに収縮力の有意な低下等の、病的肥大の特質を示す。これは、hESC-CMがin vivoモデルと適合する様式で慢性薬物曝露に応答することができ、慢性薬物曝露のための前臨床適用において有用であり得ることを示している。
【0580】
材料及び方法
ヒト胚性幹細胞の維持及び分化。本発明者らは、記載[5、16]されたように維持されたHes2 hESC株から誘導された心筋細胞を用いた。胚様体(EB)を、以前に記載[5、16]のように心血管系列に分化させた。簡単に述べると、EBを、BMP4(1ng/ml)を含有するStemPro-34(Invitrogen社)培地中での培養により生成した。1日目に、EBを収獲し、誘導培地[StemPro-34、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF;2.5ng/ml)、アクチビンA(6ng/ml)及びBMP4(10ng/ml)]中に懸濁した。4日目に、誘導培地からEBを収獲し、血管内皮成長因子(VEGF;10ng/ml)及びDKK1(150ng/ml)を添加したStemPro-34中で再培養した。8日目に、培地を再度変更し、実験の持続期間にわたってVEGF(20ng/ml)及びbFGF(10ng/ml)を含有するStemPro-34中でEBを培養した。培養物を、最初の12日間については低酸素環境(5%CO
2、5%O
2)中で維持した後、残りの培養期間については5%CO
2中に移した。EBを、バイオワイヤ中への播種のために20日目(EBd20)に解離させた。
【0581】
バイオワイヤの生成:20日目のEBを、37℃で2時間、ハンクス平衡塩溶液(NaCl、136mM;NaHCO
3、4.16mM;Na
3PO
4、0.34mM;KCl、5.36mM;KH
2PO
4、0.44mM;デキストロース、5.55mM;HEPES、5mM)中のI型コラゲナーゼ(1mg/ml;Worthington社)及びDNAse(1mg/ml、CalBiochem社)中でインキュベートした。EBを遠心分離(800r.p.m.、5分)し、37℃で5分間、トリプシン(0.25%、Gibco社)と共にインキュベートし、穏やかにピペッティングして、細胞を解離させた。解離後、細胞を遠心分離(1,000r.p.m.、5分)し、計数し、0.5×10
6個の細胞/長さ0.5cmのワイヤで播種した。この比を、より長いバイオワイヤの生成のために維持した。細胞懸濁液をPDMS鋳型の主要チャネル中にピペッティングすることにより、1X M199培地+10%の成長因子を減少させたMatrigel(BD Biosciences社)中、24.9mMのグルコース、23.81mMのNaHCO
3、14.34mMのNaOH、10mMのHEPES中のI型コラーゲンゲル(4μl/0.5cmワイヤ長;2.1mg/mlのラット尾部I型コラーゲン;BD Biosciences社)中に細胞を播種した。播種後、細胞を7日間培養物中で保持して、コラーゲンマトリックスを再モデリングさせ、記載のように縫合糸の周囲に集合させた[8]。
【0582】
7日間の事前培養後、バイオワイヤを6ウェルプレートに無作為に移し、イソプロテレノール(100nM)、アンギオテンシンII(200nM[17])又はエンドセリン-1(150nM)(Sigma社)の非存在下又は存在下で7日間、StemPro-34培地中で培養した。記載[18]のようにマウスの慢性処置を複製するために、このプロトコールを選択した。単一細胞分析のために、バイオワイヤを、37℃で4時間、ハンクス平衡塩溶液(NaCl、136mM;NaHCO
3、4.16mM;Na
3PO
4、0.34mM; KCl、5.36mM;KH
2PO
4、0.44mM;デキストロース、5.55mM;HEPES、5mM)中のI型コラゲナーゼ(1mg/ml;Sigma社)及びDNAse(1mg/ml、CalBiochem社)で消化し、遠心分離(800r.p.m.、5分)し、37℃で5分間、トリプシン(0.25%、Gibco社)と共にインキュベートし、穏やかにピペッティングして、細胞を解離させた。単離された単一細胞を、Matrigelで被覆されたカバーガラス上に播種した後、細胞面積及びカルシウム移行測定を実施した。
【0583】
或いは、工学的に作製された3D心臓組織により生成される力を測定するために、8つの微小組織を収納することができるPDMS組織チャンバーからなるバイオリアクターを用いた。それぞれの工学的に作製された心臓組織は、以前に記載[19]のように25μLのI型コラーゲンヒドロゲル(3.0mg/mL)中に懸濁された、EBの解離から得られた1.5×10
6個の細胞からなっていた。簡単に述べると、PDMSチャンバーの各ウェルは、ゲル圧縮中の各心臓組織のための固定点として働く2つのポストを有していた。更に、ポストの偏向を追跡することにより、生成された心臓組織の収縮力を決定した。心臓組織は、7日間の事前培養、次いで、エンドセリン-1、アンギオテンシンII又はイソプロテレノールによる7日間の処理を受けた。処理後、CellSensソフトウェア(Olympus社)を用いて0.5又は1Hzでペーシングしながら、各心臓組織のポストの上面を、1つずつ、ビデオ記録することにより、各心臓組織の収縮力を決定した。次いで、各ビデオを一連のTiff画像としてエクスポートし、ImageJ中で開いた。ImageJのプラグインSpotTracker[20]を用いて、ポストが移動した距離を決定した。カンチレバービーム-部分均一偏向の重ね合わせの方法を用いて、点の力を計算した後、組織横断面積に対して正規化して(環状と推定される)、面積あたりの心臓の力を決定した。
【0584】
評価。組織集合の進行を、様々なレベル:微細構造レベル(サルコメア構造)、細胞レベル(細胞のサイズ及び形状、増殖、心臓タンパク質:アクチン、トロポニンT及びα-アクチニンの分布)、分子レベル(遺伝子発現レベル)、並びに機能レベル(収縮力、伝導速度、Ca
2+ハンドリング)で評価した。
【0585】
免疫染色及び蛍光顕微鏡観察。以下の抗体:マウス抗cTNT(1:100、Thermo Scientific社;MS-295-P1)、マウス抗α-アクチニン(1:200、Abcam社、ab9465)、抗マウスAlexa Fluor 488(1:400、Invitrogen社、A21202)、抗ウサギTRITC(1:400、Invitrogen社、81-6114)を用いて、免疫染色を実施した。DAPIを用いて核を対抗染色した。ファロイジンAlexa Fluor 660(1:1000、Invitrogen社、A22285)を用いて、アクチン線維を検出した。染色された細胞を、蛍光顕微鏡(Leica社、CTR6000)を用いて可視化し、Leica Application Suiteソフトウェアを用いて画像を捕捉した。共焦点顕微鏡観察のために、蛍光共焦点顕微鏡(Zeiss社、LSM-510)を用いて細胞を可視化した。
【0586】
透過型電子顕微鏡観察(TEM)。組織を0.1M PBS中の4%パラホルムアルデヒド、1%グルタルアルデヒドで少なくとも1時間固定し、PBS pH7.2で3回洗浄した。後固定を0.1M PBS、pH7.2中の1%四酸化オスミウムで1時間行い、25〜100%のエタノール系列を用いて脱水した。組織を、Epon樹脂を用いて浸潤させ、40℃で48時間、プラスチック皿の中で重合させた。組織を、切片化の後、酢酸ウラニル及びクエン酸鉛で染色した。Hitachi社H-7000透過型電子顕微鏡で画像化を実施した。
【0587】
光学マッピング。バイオワイヤを、温Tyrode溶液(NaCl 118mM、KCl 4.7mM、CaCl
2 1.25mM、MgSO
4 0.6mM、KH
2PO
4 1.2mM、NaHCO
3 25mM、グルコース6mM;使用直前に少なくとも20分間、カルボゲン95%O
2、5%CO
2で気泡化することにより酸素を供給した)中、37℃で20分間、電圧感受性染料(ジ-4-ANEPPS 5μM、Invitrogen社)と共にインキュベートした。染料の蛍光を、高速CMOSカメラ(Ultima-L、Scimedia社)を装備したMVX-10 Olympus蛍光顕微鏡上で記録した[21、22]。1cmのセンサーは100×100ピクセルの解像度を有し、空間解像度は50〜100μm/ピクセルで変化した。画像化を、200フレーム/sで実施した。緑色フィルター(Olympus社、U-MWIG2フィルターキューブ)を有する水銀アーク源(X-Cite Exacte)を用いて蛍光を励起した。マイクロマニピュレーター(World Precision Instruments社)上に載せたステンレススチール針に挿入された2つの微細なワイヤ(AWG#32)から作られた双極性電極を用いて、構築物を電気的に点刺激した。バイオワイヤを含有するプレートを、加熱したプレート(MATS-U55S、Olympus社)上に置き、温度を38℃に調節した。データ分析を、BrainVisionソフトウェア(Scimedia社)を用いて実施した。
【0588】
カルシウム移行測定。ハンクス平衡塩溶液(NaCl、136mM;NaHCO
3、4.16mM;Na
3PO
4、0.34mM;KCl、5.36mM;KH
2PO
4、0.44mM;デキストロース、5.55mM;HEPES、5mM)中のI型コラゲナーゼ(1mg/ml;Worthington社)及びDNAse(1mg/ml、CalBiochem社)と共に37℃で2時間インキュベートすることにより、バイオワイヤを解離させた。次いで、バイオワイヤを遠心分離(800r.p.m.、5分)し、37℃で5分間、トリプシン(0.25%、Gibco社)と共にインキュベートし、穏やかにピペッティングして細胞を解離させた。解離した心筋細胞を、成長因子非含有Matrigel(RPMI培地中に1:60希釈された)で被覆された25mmの顕微鏡カバーガラス上に一晩プレーティングした。次いで、細胞を、培養培地中の5μMのRhod-3 AMカルシウム画像化染料(Invitrogen社)と共に37℃で2時間インキュベートした。続いて、心筋細胞を、無染料培地で2回洗浄し、インキュベータ中に30分間戻した。レーザー走査共焦点顕微鏡(Zeiss社、LSM 510)を用いて、蛍光強度を測定した。Rhod-3 AMを充填した心筋細胞を含有するカバーガラスを特殊チャンバー上に移動させ、きつく締め付けた。約1.8〜1.9mlの培養培地をチャンバー中に添加し、顕微鏡上の温度制御されたプレート(37℃)上に置いた。細胞質ゾルカルシウム濃度の移行変動を示す、Rhod-3 AM蛍光強度の変化を、フレーム及びラインスキャンモデルにおいて記録した。画像及び蛍光データを、Zeissソフトウェアにより獲得した。蛍光データを、Origin 8.5ソフトウェアを用いて分析した。フルオ-4 AMを充填した後、蛍光シグナル(F)をベースライン蛍光に対して正規化した。シグナルの上昇フェーズを、線形モデルにより適合させたが、シグナルの減衰フェーズを、Offsetモデルを用いるExpDecayにより適合させた。
【0589】
ELISA。条件培地からの可溶性BNPの定量化を、市販のELISAキットを用いて実施した。
【0590】
定量的RT-PCR。RT-PCRを、以前に記載[23]されたように実施した。全RNAを、High Pure RNA Isolation Kit(Roche社)を用いて調製し、RNase非含有DNase(Roche社)で処理した。SuperScript VILO(Invitrogen社)と共にランダムヘキサマー及びオリゴ(dT)を用いて、RNAをcDNAに逆転写した。LightCycler 480 SYBR Green I Master(Roche社)を用いて、LightCycler 480(Roche社)上でRT-qPCRを実施した。発現レベルを、ハウスキーピング遺伝子TATAボックス結合タンパク質(TBP)又はグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対して正規化した。
【0591】
統計分析。SigmaPlot 12.0を用いて、統計分析を実施した。二元配置ANOVAを用いて統計を行った。正規性検定(Komogorov-Smirnov)を、等分散検定により行った。正規性検定が失敗した場合、Ranks上のKruskal-Wallis一元配置ANOVAを実施した。全ての統計検定について、P<0.05を有意と考えた。
【0592】
結果
心臓の構造は高度に洗練されている。in vitroでその特徴のいくつかを複製するために、本発明者らは、本発明者らのin vitroアッセイにおいて以前に記載された[8]、バイオワイヤ等の3次元の自己集合した心臓組織模倣体を用いた。胚様体の解離から得られたヒトESC由来CMを、I型コラーゲンゲル中に播種した。
図82Aに記載されるような、マトリックス再モデリング及びゲル圧縮[8]を可能にする、培養物中で1週間後、1週間にわたるイソプロテレノール(ISO、100nM)、エンドセリン-1(Et-1、150nM[17、24])、又はアンギオテンシンII(AngII、200nM)を用いる処理により、バイオワイヤを異なる化合物に慢性的に曝露した。心臓毒性及びin vivoでその結果生じる心臓肥大の原因となる慢性処置を複製するために、このプロトコールを選択した[18]。次いで、本発明者らは、サルコメア構造、胎児遺伝子プログラムの発現、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)及びトロポニンの分泌、細胞サイズ及び収縮力の変化を分析することにより、ヒトESC由来CMの変化がin vivoで記載される変化と一致するかどうかを評価した。
【0593】
共焦点顕微鏡によるα-アクチニン、アクチン、心臓トロポニンT及びコネキシン43の分析により、ISOによる慢性処置が、処置されていないバイオワイヤ対照と比較してサルコメア構造の実質的破壊を引き起こすことが示された(
図82B)。Et-1及びAngIIによる処置も、ISOよりも少ない程度であるが、α-アクチニン染色により示されるように、組織化された筋原線維線条パターンの破壊をもたらした(
図82B)。透過型電子顕微鏡分析(
図82C)により、未処理の対照と比較して、ISO、Et-1及びAngIIで処理されたhESC-CMにおける異なるZディスクの有意な非存在及び規定のサルコメア構造の欠如により示されるように、ヒトCM収縮装置におけるこれらの分子の破壊効果が確認された。
【0594】
有害な心臓効果を示す慢性薬物曝露は、胎児遺伝子プログラム、特に、BNP及び心房性ナトリウム利尿因子(ANF)の誘導をもたらし得る。本発明者らの試料中での胎児遺伝子プログラムの発現の分析により、ISOを用いる処理は未処理の対照と比較してANF及びBNP遺伝子発現を有意に誘導したが(
図84)、AngII及びEt-1を用いる処理に関しては遺伝子発現の変化は検出されないことが示された。興味深いことに、初期及び後期時点での処理された細胞の条件培地の分析により、処理後既に2日目で、ISO及びEt-1条件におけるBNPの分布の、それぞれ、2.5倍及び5倍の増加が示された。培地変更の後、培地中のBNPのレベルを、2日目及び7日目で分析した。24時間だけ(BNPを48h条件付けられた培地中で測定した2日目の条件と比較して)の条件付けにも関わらず、7日目で、ISO及びEt-1処理条件で、それぞれ、70%及び7倍の増加を依然として検出することができた。AngII条件からの条件培地の分析は、ELISAにおけるBNPとAngIIとの交差反応性のため不可能であった。
【0595】
[8]に記載のように処理の終わりに細胞サイズの変化をバイオワイヤの解離により分析した。次いで、単一の細胞を、材料及び方法のセクションに記載されたようなMatrigel被覆ウェル上に低密度で播種し、CMマーカー心臓トロポニンTで染色した後、面積の測定を実施した。処理条件で細胞サイズが増大する傾向があった。ET-1で処理された細胞において細胞サイズの100%の増大が観察されたが、ISO及びAngIIで処理された細胞は、それぞれ、35%及び38%のサイズの増大を示した。
【0596】
次に、本発明者らは、それぞれの条件における3Dヒト心臓組織の収縮力を評価した。バイオワイヤ中での縫合糸の存在によって力測定ができないため、本発明者らは、偏向性ポストが3D心臓組織の収縮力を計算するために用いられるラット新生児心筋細胞[19]を用いて、本発明者らによって以前に開発及び検証されたプラットフォームを用いた。未処理の対照と比較して、全ての条件においてhESC由来CMの3D組織の収縮力の有意な低下があった(
図86)。これは、
図87に観察される収縮機構組織化の破壊と適合する。生細胞/死細胞の染色を用いる3D組織中の細胞生存能力の評価により、ISOと非処理対照との差異が示されなかった(
図87)。培養の終わりでの点刺激の際に評価された伝導速度も、ISOと非処理対照との間で同じであった(
図87)。更に、培養の終わりでのバイオワイヤから単離された単一細胞からのカルシウム移行の分析により、ISO処理された細胞と非処理細胞の両方が同様の特徴を示すことが示された。
【0597】
実施例6のための参考文献:以下の参考文献はそれぞれ、参照により本明細書に組み込まれる。
【0598】
【表1A】
【0599】
【表1B】
【0600】
明細書で引用された参考文献
以下の参考文献のそれぞれは参照により本明細書に組み込まれる。
(参考文献)