(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
無端状に連結された複数の踏段を走行させる踏段チェーンに噛み合う複数の歯を有する駆動スプロケットと非接触で、かつ前記駆動スプロケットを回転させた状態で、前記駆動スプロケットの外部の所定位置から前記駆動スプロケットの外周端までの距離を検出する検出装置と、
前記距離が基準を超えている場合、前記駆動スプロケットの異常を記憶するメモリと、
前記距離の時間変化により、前記歯の形状を示す形状線を生成し、前記歯の摩耗量の判定基準となる摩耗基準線を前記基準として前記形状線に適用し、前記形状線のうち少なくとも一部が前記摩耗基準線を越えている場合、前記異常を前記メモリに記憶し、前記形状線において、前記駆動スプロケットの1回転に要する時間を前記歯の総数で割った期間を1単位として、前記期間ごとに前記形状線に対する面積を計算し、前記面積が閾値以上となった場合、前記異常を前記メモリに記憶する制御部と、
を備えることを特徴とする摩耗検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる乗客コンベアおよび摩耗検出装置を詳細に説明する。なお、下記の実施形態は例示であり、発明の範囲がそれらに限定されるものではない。また、下記の実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるものあるいは実質的に同一のものが含まれる。また、実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、繰り返しの説明は適宜省略する。
【0008】
[実施形態1]
(エスカレータの構成例)
実施形態1では、無端状に連結された複数の踏段を周回(循環)移動させて動作する乗客コンベアの一例として、エスカレータを挙げて説明する。
図1は、エスカレータ100の概略構成例を示す図である。実施形態1にかかる検出装置11は、
図1に示すように、エスカレータ100に設置される。エスカレータ100は、建造物(建築物ともいう)に設置されて、当該建造物の一の階(以下、下階と記す)とこの下階よりも上方の他の階(以下、上階と記す)とに亘って乗客などを運搬する。
【0009】
エスカレータ100は、主として、トラス(構造フレーム)110と、複数の踏段120と、欄干130とを備えている。トラス110の内部には、フレーム(図示省略)や、エスカレータ100の駆動機構が配設されている。
【0010】
エスカレータ100の駆動機構は、主として、駆動源としてのモータ105と、減速機106と、駆動チェーン112と、駆動スプロケット(駆動輪ともいう)113と、従動スプロケット(従動輪ともいう)114と、踏段チェーン115とを備えている。モータ105と減速機106とは、駆動装置107を構成する。モータ105は、例えば、上階側に設けられている。モータ105の出力軸には、減速機106が取り付けられている。
【0011】
減速機106は、モータ20の回転を減速させ、モータ105の回転トルクを増幅させる。減速スプロケット111は、減速機106の出力軸に設けられ、複数の歯を有する。駆動チェーン112は、無端状に形成され、減速スプロケット111と駆動スプロケット113とに亘って掛けられている。駆動チェーン112は、減速機106を介して伝達されたモータ105の駆動力によって、駆動スプロケット113と減速スプロケット111との周りを循環走行することで、駆動スプロケット113を回転させる。すなわち、駆動チェーン112は、減速機106を介して伝達されたモータ105の駆動力を駆動スプロケット113に伝達する。駆動スプロケット113は、踏段チェーン115に噛み合う複数の歯を有し、駆動装置107からの駆動力により回転する。
【0012】
エスカレータ100は、駆動スプロケット113と従動スプロケット114との間に掛け渡された踏段チェーン115を駆動させることで、無端状に連結された複数の踏段120を周回移動させて動作する。これにより、踏段チェーン115は、無端状に連結された複数の踏段120を走行させる。
【0013】
エスカレータ100が下降方向に稼動する場合、上方の乗り口(上階側乗降口101)において、複数の踏段120の中で進行方向に向けて隣接する踏段120同士が水平状でトラス110内から進出される。上部遷移カーブにおいて、隣接する踏段120間の段差が拡大されて、複数の踏段120は、階段状に遷移される。中間傾倒部において、複数の踏段120は、階段状で下降される。下部遷移カーブにおいて、隣接する踏段120間の段差が縮小されて、複数の踏段120は、水平状に遷移される。下方の降り口(下階側乗降口102)において、複数の踏段120は、再び水平状となってトラス110内に進入する。複数の踏段120は、トラス110内に進入された後に上方に反転され、帰路側を水平状で上昇される。複数の踏段120は再度反転されて、上階側乗降口101において、トラス110内から進出される。上昇方向に稼動するエスカレータ100では上記の逆の動作となる。このように、上階側乗降口101および下階側乗降口102において、踏段120は、利用者を乗せる上面の踏み面を水平状として、トラス110内から進出し、またはトラス110内へ進入する。
【0014】
エスカレータ100は、複数の踏段120の進行方向における両脇に一対の欄干130を備える。欄干130は、主として、スカートガードパネル(図示省略)と、内デッキ131と、ガラス132と、手すりベルト133と、から構成されている。スカートガードパネルは、複数の踏段120の走行方向(エスカレータ100が稼働する下降方向および上昇方向)に対して直交する方向(幅方向)の両側において近接して、かつ、上階側乗降口101と下階側乗降口102との間に亘って設けられている。スカートガードパネルの上側には、内デッキ131が取り付けられている。内デッキ131の上側には、ガラス132が取り付けられている。ガラス132の外周に取り付けられた手すりレール(図示省略)には、手すりベルト133が移動可能に嵌め込まれている。エスカレータ100は、複数の踏段120の進行および進行方向に合わせて、欄干130の手すりベルト133が手すりベルト駆動チェーン(図示省略)によって周回移動するよう構成されている。
【0015】
このようなエスカレータ100の動作は、トラス110内に設置される制御盤(制御装置)200によって、減速機106やモータ105を制御することで実現される。制御盤200は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)とROM(Read Only Memory)などを有するコンピュータで実現される。制御盤200において実行される機能は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、CPUの制御のもとでエスカレータ100内の各種装置を動作させるとともに、RAMやROMにおけるデータの読み出し、書き込みを行うことで実現される。
【0016】
(摩耗検出装置の構成例)
図2を参照して、駆動スプロケット113の摩耗を検出する摩耗検出装置10の構成について説明する。
図2は、摩耗検出装置10の構成の一例を示す図である。摩耗検出装置10は、駆動スプロケット113の摩耗を検出することにより、駆動スプロケット113の異常をメモリ202に記憶する装置である。以下、説明を具体的にするために、摩耗検出装置10は、エスカレータ100に搭載されるものとして説明する。
【0017】
検出装置11は、制御盤200における制御部201による制御の下で、駆動スプロケット113と非接触で、駆動スプロケット113の外部の所定位置から駆動スプロケット113の外周端までの距離を検出する。例えば、検出装置11は、駆動スプロケット113の半径方向に沿って、所定位置から外周端までの距離を検出する。検出装置11は、例えば、所定の波長の光を駆動スプロケット113に投光する投光部13と、投光部13から投光された光を受光する受光部15とを有する。
【0018】
投光部13は、駆動スプロケット113の回転軸の方向から、半径方向に沿って所定位置から駆動スプロケット113の回転軸に向かって所定幅を有する線状光線を、駆動スプロケット113における複数の歯のうち踏段チェーン115が噛み合っていない部分(以下、非嵌合部分と呼ぶ)に対して投光する。投光部13は、発光器とスリットとを有する。発光器は、例えば、発光ダイオードなどの複数の発光素子、レーザー発生装置などにより実現される。スリットは、例えば、発光器で発生された光を線状光線に整形するコリメータにより実現される。スリットは、発光器における開口の前面には設けられる。
【0019】
受光部15は、駆動スプロケット113を挟んで投光部13に対向して設けられる。受光部15は、複数の受光素子を有する。複数の受光素子は、線状光線の所定幅に沿って配列される。受光部15は、投光部13により非嵌合部分に投光された線状光線のうち駆動スプロケット113における歯により線状光線が遮断されない光線(以下、非遮断光線と呼ぶ)を受光する。受光部15は、受光により生成された電気信号を、制御部201に出力する。
【0020】
制御盤200は、上記CPUに対応する制御部201と、メモリ202とを有する。メモリ202は、上述のRAMおよびROM等のメモリ装置、ハードディスクのような固定ディスク装置、フレキシブルディスク、または光ディスク等により実現される記憶部に相当する。制御盤200は、検出装置11および駆動装置107と相互に通信可能に接続される。
【0021】
制御部201は、駆動装置107を制御することで、踏段120の移動開始・移動停止、移動速度などを制御する。すなわち、制御部201は、モータ105と減速機106とを制御することで、エスカレータ100を駆動制御する。制御部201は、投光部13を制御する制御信号を、検出装置11に送信する。
【0022】
制御部201は、検出装置11における受光部15からの出力信号を受信する。出力信号は、非遮断光線の幅に相当し、検出装置11により検出される距離に相当する。制御部201は、検出装置11による距離の検出過程において駆動装置107を制御することにより、駆動スプロケット113を回転させる。制御部201は、検出装置11により距離が基準を超えている場合、駆動スプロケット113の異常をメモリ202に記憶する。
【0023】
図3は、駆動スプロケット113に対する線状光線LLの位置関係を、踏段チェーン115とともに示す図である。
図3におけるTSLは、駆動スプロケット113の回転軸RAから歯元TSまでの距離を示している。また、
図3におけるTHは、歯先TTから歯元TSまでの長さ(歯先高さ)を示している。
図3におけるr(r=TH+TSL)は、駆動スプロケット113の回転軸RAから駆動スプロケット113における歯先TTまでの長さであって、駆動スプロケット113の半径に相当する。
図3におけるL1(L1>r)は、駆動スプロケット113の回転軸RAから所定位置PPまでの長さを示している。
図3おけるL2(L2>TH、L1−L2<TSL)は、線状光線LLの所定幅L2を示している。
図3おけるL3は、非遮断光線の幅に相当し、
図3において歯元TSから所定位置PPまでの距離を示している。
【0024】
図4は、
図3における切断線AAにおける断面の一例を示す図である。
図4に示すように、投光部13と受光部15とは、駆動スプロケット113に対して非接触である。投光部13と受光部15とは、駆動スプロケット113における複数の歯のうち、非嵌合部分を挟んで、対向して設置される。また、投光部13は、発光器19により発生された光をスリット21により、線状光線LLに整形する。線状光線LLは、
図4に示すように所定幅L2を有する。投光部13は、線状光線LLを、非嵌合部分に対して投光する。投光された線状光線LLのうち非遮断光線は、受光部15により受光される。駆動スプロケット113が回転しているため、駆動スプロケット113の半径方向に沿った非遮断光線の幅L3は、所定位置PPから歯先TTまでの距離L4と所定位置PPから歯元TSまでの距離との間で変化する。これにより、検出装置11は、非遮断光線の幅L3を、所定位置PPから駆動スプロケット113の外周端までの距離を表す数値(以下、外周端距離と呼ぶ)として検出する。
【0025】
以下、
図5を用いて、摩耗検出装置10による駆動スプロケット113の摩耗を検出する処理(以下、摩耗検出処理と呼ぶ)の手順について説明する。
図5は、摩耗検出処理の手順の一例を示すフローチャートである。摩耗検出処理は、例えば、エスカレータ100の日常運転で実施される。摩耗検出処理は、エスカレータ100に付帯するキーの操作に応じて、エスカレータ100の初回起動時、すなわち乗客未搭載時において実行される。
【0026】
(摩耗検出処理)
(ステップS501)
制御部201は、駆動装置107を制御することにより、駆動スプロケット113を回転させる。具体的には、制御部201は、モータ105を回転させ、減速機106を制御することで、駆動チェーン112を走行させる。駆動チェーン112の走行に伴って、駆動スプロケット113が回転する。駆動スプロケット113の回転により、踏段チェーン115が走行する。踏段チェーン115の走行により、複数の踏段120が走行する。これらにより、エスカレータ100の運転が開始される。
【0027】
(ステップS502)
駆動スプロケット113の回転速度が一定となったか否かが、制御部201により判定される。例えば、減速機106に入力される制御信号のパルス(以下、制御パルスと呼ぶ)を監視することにより、制御部201は、駆動スプロケット113の加減速による速さの変動が一定の回転速度に収束したか否かを判定する。駆動スプロケット113の回転速度が一定であると判定された場合(ステップS502のYES)、ステップS503の処理が実行される。駆動スプロケット113の回転速度が一定でないと判定された場合(ステップS502のNO)、駆動スプロケット113の回転速度が一定となるまで、本ステップにおける処理が繰り返される。
【0028】
(ステップS503)
外周端距離L3の計測および駆動スプロケット113の歯の形状を示す形状線の生成が開始される。具体的には、投光部13は、制御部201による制御により、非嵌合部分に対して線状光線LLを投光する。受光部15は、非遮断光線を受光する。受光部15は、非遮断光線に対応する電気信号を、制御部201に出力する。制御部201は、非遮断光線を受光した範囲を、外周端距離L3としてメモリ202に記憶させる。制御部201は、外周端距離L3の時間変化により、形状線を生成する。回転する駆動スプロケット113の歯先に線状光線LLを照射し、歯先を通り抜ける線状光線LLの長さを時間経過とともにプロットすることで、制御部201は、駆動スプロケット113を粘土の上で転がして形成されたようなモデルに相当する形状線を取得する。換言すると、形状線は、縦軸を外周端距離L3として横軸を時間とした場合の、外周端距離L3の時間変化を示すグラフに相当する。制御部201は、外周端距離L3の検出において、駆動スプロケット113の複数の歯のうち予め設定された歯から駆動スプロケット113を回転させるように駆動装置107を制御する。例えば、駆動スプロケット113における所定の歯の番号(例えば、複数の歯数のうち最大番号N)に対応する位置(例えば、歯先など)が線状光線LLを横切る時点を契機として、制御部201は、以下の処理を実行する。これにより、制御部201は、形状線において駆動スプロケット113における複数の歯各々の番号を対応付ける。
【0029】
制御部201は、駆動スプロケット113における1ピッチが通過する間、外周端距離L3の計測を実行する。駆動スプロケット113における1ピッチは、例えば、駆動スプロケット113において、隣り合う2つの歯元の間の距離に対応する時間間隔である。具体的には、投光部13は、線状光線LLを非嵌合部分に対して連続的に投光する。また、受光部15は、非遮断光線を連続的に受光する。これらにより、制御部201は、駆動スプロケット113における1ピッチが通過する間、形状線を生成する。
【0030】
(ステップS504)
1ピッチ通過後、制御部201は、1ピッチの間において、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できたか否かを判定する。1ピッチの通過の有無は、例えば、形状線の形状により判定される。なお、1ピッチの通過の有無は、駆動スプロケット113の回転軸RAに設けられたロータリエンコーダからの出力と駆動スプロケット113における総歯数とに基づいて、制御部201により計算されてもよい。制御部201は、駆動スプロケット113の歯における歯先の形状を示す歯先基準線を、基準として形状線に適用することにより、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できたか否かを判定する。歯先基準線は、予めメモリ202に記憶される。駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できていないと判定された場合(ステップS504のNO)、ステップS505の処理が実行される。駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できたと判定された場合(ステップS504のYES)、ステップS506の処理が実行される。
【0031】
図6は、歯先基準線TTBLと、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できない場合の形状線SLとの一例を示す図である。
図6に示すように、歯先基準線TTBLは、所定位置PPから歯先TTまでの距離L4を示す直線である。制御部201は、所定位置PPから歯先TTまでの距離L4に基づいて、1ピッチにおける形状線SLに歯先基準線TTBLを重ね合わせる。形状線SLが歯先基準線TTBLを超過した後、形状線SLが歯先基準線TTBLに到達せずに増加する場合、制御部201は、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できていないと判定する。すなわち、形状線SLにおいて本来歯先が検出される場所が歯先基準線TTBLに接しない場合、制御部201は、歯先折損と判定する。
【0032】
なお、歯先折損の総数が所定の閾値に到達した場合、制御部201は、エスカレータ100の運転を停止させる制御と所定の警報を出力する制御とのうち少なくとも一つを行ってもよい。例えば、制御部201は、エスカレータ100の運転を停止させるために、駆動装置107を制御する。また、制御部201は、所定の警報として警告音を発生させるために、不図示のスピーカを制御してもよい。また、制御部201は、所定の警報として警告を提示するために、不図示のディスプレイや発光装置を制御してもよい。また、制御部201は、エスカレータ100を管理する管理センタへ、所定の警報に対する警告を通知してもよい。
【0033】
図7は、歯先基準線TTBLと、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できた場合の形状線SLとの一例を示す図である。
図7に示すように、1ピッチにおける形状線SLが歯先基準線TTBLを超過した後、歯先基準線TTBLに到達した場合、制御部201は、駆動スプロケット113の歯先が正常に検出できたと判定する。
【0034】
(ステップS505)
制御部201は、折損歯の番号をメモリ202に記憶する。
図6に示すような場合、折損している歯の番号は、1番であるため、制御部201は、折損歯の番号として1番をメモリ202に記憶させる。このとき、制御部201は、折損歯の番号とともに、折損歯の検出日時をメモリ202に記憶させてもよい。
【0035】
(ステップS506)
制御部201は、外周端距離L3の計測開始時点から、駆動スプロケット113が1回転したか否かを判定する。例えば、制御部201は、形状線SLにおける凸部の数をカウントする。凸部の数がN個に到達した場合、制御部201は、駆動スプロケット113が1回転したと判定する。なお、制御部201は、駆動スプロケット113の回転軸RAや減速スプロケット111の回転軸などに設けられたロータリエンコーダからの出力により、駆動スプロケット113が1回転したか否かの判定を実行してもよい。駆動スプロケット113が1回転した場合(ステップS506のYES)、ステップS507の処理が実行される。ステップS503乃至S506において、制御部201は、駆動装置107を制御することにより駆動スプロケット113を少なくとも1回転させ、外周端距離L3の時間変化により、1回転した駆動スプロケット113の歯の形状を示す形状線を生成する。駆動スプロケット113が1回転していない場合(ステップS507のNO)、ステップS504乃至ステップS506の処理が繰り返される。
【0036】
(ステップS507)
制御部201は、駆動スプロケット113の1回転に要する時間を駆動スプロケット113の歯の総数で割った期間(以下、面積算出期間と呼ぶ)を1単位として、当該期間ごとに形状線SLに対する面積を計算する。面積算出期間は、換言すると、駆動スプロケット113における複数の歯各々が、投光部13と受光部15との間の通過に要する時間に相当する。すなわち、制御部201は、形状線SLにおいて、隣接する2つの歯先の間の面積を計算する。計算された面積は、駆動スプロケット113の歯の番号と対応付けられる。
【0037】
図8は、形状線SLと面積算出期間APとの一例を示す図である。
図8に示すように、制御部201は、面積算出期間ごとに、形状線SLと時間軸とで挟まれた領域の面積を計算する。制御部201は、複数の歯にそれぞれ対応付けられた複数の面積を、メモリ202に記憶させる。
【0038】
(ステップS508)
制御部201は、予めメモリ202に記憶された閾値と、複数の面積各々とを比較する。面積が閾値以下である場合(ステップS508のYES)、ステップS509の処理が実行される。面積が閾値を超えている場合(ステップS508のNO)、ステップS510の処理が実行される。閾値を超えた面積(以下、摩耗面積と呼ぶ)は、駆動スプロケット113の歯の番号と対応付けられて、メモリ202に記憶される。
【0039】
(ステップS509)
制御部201は、駆動スプロケット113における歯の摩耗量の判定基準となる摩耗基準線を形状線に適用することにより、形状線が摩耗基準線を超過したか否かを判定する。摩耗基準線は、エスカレータ100を正常に運行可能な駆動スプロケット113の歯元の摩耗の程度を示す曲線であって、予めメモリ202に記憶される。具体的には、制御部201は、形状線に摩耗基準線を重ね合わせる。形状線の少なくとも一部が摩耗基準線を超えている場合(ステップS509のYES)、ステップS510の処理が実行される。形状線の少なくとも一部が摩耗基準線を超えている場合は、駆動スプロケット113の歯元が摩耗していることに対応する。形状線の少なくとも一部が摩耗基準線を超えていない場合(ステップS509のNO)、すなわち、形状線全体が摩耗基準線以下である場合、ステップS511の処理が実行される。形状線全体が摩耗基準線以下である場合は、エスカレータ100を正常に運行可能な駆動スプロケット113の歯元の摩耗の程度以下であることに対応する。
【0040】
図9は、形状線SLと摩耗基準線ABLとの一例を示す図である。
図9に示すように、制御部201は、所定位置PPから歯先TTまでの距離L4と、形状線SLと摩耗基準線ABLとにおける凸部とに基づいて、形状線SLに摩耗基準線ABLを重ね合わせる。
図9に示すように、形状線SLの一部EXにおいて、形状線SLは、摩耗基準線ABLを超えている。このため、制御部201は、形状線SLの少なくとも一部EXが摩耗基準線ABLを超えていると判定する。このとき、制御部201は、摩耗基準線ABLを超えている駆動スプロケット113の歯の番号と対応付けて、判定結果とともにメモリ202に記憶させる。なお、制御部201は、摩耗基準線ABLを超えている形状線SLの一部EXにおいて、摩耗基準線と形状線SLとの差分(以下、摩耗量と呼ぶ)を計算してもよい。このとき、制御部201は、摩耗量を歯の番号と対応付けて、メモリ202に記憶させる。
【0041】
(ステップS510)
制御部201は、メモリ202に記憶された歯の番号を、摩耗している歯すなわち摩耗状態として記憶する。また、制御部201は摩耗している歯の総数(以下、摩耗歯総数と呼ぶ)をカウントし、メモリ202に記憶させてもよい。制御部201は、エスカレータ100に対する次回の保守時において、摩耗状態を保守員に通知する。
【0042】
(ステップS511)
制御部201は、摩耗面積と摩耗量と摩耗歯総数とに基づいて、エスカレータ100の運転が継続可能であるか否かを判定する。具体的には、制御部201は、摩耗面積に関する閾値(以下、面積閾値と呼ぶ)と、摩耗量に関する閾値(以下、摩耗閾値と呼ぶ)と、摩耗歯総数に関する閾値(以下、歯数閾値と呼ぶ)とをメモリ202から読み出す。制御部201は、摩耗面積と面積閾値とを比較する。制御部201は、摩耗量と摩耗閾値とを比較する。制御部201は、摩耗歯総数と歯数閾値とを比較する。摩耗面積と摩耗量と摩耗歯総数とのうち少なくとも一つが閾値を超過している場合、制御部201は、エスカレータ100の運転が継続可能でない「著しい摩耗状態である」と判定する(ステップS511のNO)。このとき、ステップS512の処理が実行される。また、摩耗面積と摩耗量と摩耗歯総数とのうちいずれの値も閾値以下である場合、制御部201は、エスカレータ100の運転が継続可能であると判定する(ステップS511のYES)。このとき、ステップS513の処理が実行される。
【0043】
(ステップS512)
制御部201は、エスカレータ100の運転を停止するように、駆動装置107を制御する。なお、制御部201は、所定の警報を出力する制御を行ってもよい。また、駆動スプロケット113に対する保守の実行時において、制御部201は、メモリ202に記憶された歯の番号に基づいて、異常に関する駆動スプロケット113の歯を、所定の保守位置に配置するように駆動装置107を制御してもよい。なお、制御部201は、生成された形状線SLを、摩耗検出処理の実行日時とともにメモリ202に記憶させてもよい。
【0044】
(ステップS513)
制御部201は、エスカレータ100の運転を継続するように、駆動装置107を制御する。このとき、制御部201は、生成された形状線SLを、摩耗検出処理の実行日時とともにメモリ202に記憶させる。なお、制御部201は、摩耗面積と摩耗量と摩耗歯総数とを、摩耗検出処理の実行日時とともにさらにメモリ202に記憶させてもよい。また、制御部201は、駆動スプロケット113の異常に応じた過去の形状線と、本摩耗検出処理において生成された形状線SLとに基づいて、駆動スプロケット113の交換時期を予測してもよい。例えば、制御部201は、形状線の変化量に基づいて、摩耗面積と摩耗量と摩耗歯総数とのうち少なくとも一つが閾値を超過する未来の時点を、駆動スプロケット113の交換時期として特定する。このとき、制御部201は、駆動スプロケット113の交換時期を、管理センタ等に出力してもよい。
【0045】
以上により、摩耗検出処理は終了する。駆動スプロケット113の異常が外部に出力された場合には、例えば、保守員が駆動スプロケット113の状態および動作状態を目視にて確認し、必要な補修作業を行う。
【0046】
実施形態1によれば、駆動スプロケット113を回転させて、駆動スプロケット113と非接触で外周端距離L3を検出し、外周端距離L3が基準を超えている場合、駆動スプロケット113の異常をメモリ202に記憶する。すなわち、実施形態1によれば、回転中の駆動スプロケット113へ線状光線LLを照射することで駆動スプロケット113の形状のモデルを制御部201において生成し、モデルの内容を分析することで、駆動スプロケット113に対する定量的な摩耗診断を行うことができる。これにより、エスカレータ100の運転を停止させることなく、エスカレータ100の通常運転において駆動スプロケット113を1回転させることで外周端距離L3の測定を完了することができる。外周端距離L3の測定は、検出装置11により実行されるため、技術者が摩耗を測定することに比べて、摩耗の誤差を低減すること、すなわち駆動スプロケット113の摩耗量を正確に計測することができる。これにより、エスカレータ(乗客コンベア)100を止めることなく、短時間で正確な摩耗診断を安定して実行することができる。また、実施形態1によれば、摩耗量を数値化、時間経過による変化を確認できるため、駆動スプロケット113の修繕時期の予測を立てることができる。また、実施形態1によれば、駆動スプロケット113の半径方向に沿って、所定位置PPから駆動スプロケット113の外周端までの距離を検出することができるため、距離の検出精度が向上する。
【0047】
[変形例1]
変形例1と実施形態1との相違は、検出装置11として、駆動スプロケット113に対して非接触の距離計を用いることにある。すなわち、実施形態1では線状光線LLが駆動スプロケット113を通過した長さ(外周端距離L3)を測定することで駆動スプロケット113の形状を取得しているが、変形例1では、駆動スプロケット113の正面、すなわち駆動スプロケット113の非嵌合部分に対して、非接触で距離計を所定位置PPに設けて、外周端距離L3を測定して実施形態1で生成される形状線と同様のモデル(形状線)を得ることにある。
【0048】
図10は、駆動スプロケット113に対する距離計17の位置関係を、踏段チェーン115とともに示す図である。距離計17は、例えば、レーザー距離センサや超音波センサなどで実現される。
図10に示すように、距離計17は、所定位置PPから駆動スプロケット113の回転軸RAに向けて外周端距離L3を計測する。摩耗検出処理の処理手順及び効果等は、実施形態1と同様なため、説明は省略する。
【0049】
[変形例2]
変形例2と実施形態1との相違は、摩耗検出処理におけるステップS502の処理を省略することにある。このとき、制御部201は、減速機106に入力される制御パルスに基づいて、駆動スプロケット113の加減速の程度を検出する。制御部201は、加減速の程度に基づいて、駆動スプロケット113の回転速度を算出する。制御部201は、駆動スプロケット113の回転速度に応じて、外周端距離L3の検出時刻を補正する。なお、制御部201は、駆動スプロケット113の回転速度に応じて、外周端距離L3の検出タイミングを調整するように検出装置11を制御してもよい。これらにより、変形例2では、駆動スプロケット113の回転速度が一定でなくても、実施形態1で生成された形状線と同様な形状線(モデル)を生成することができる。摩耗検出処理の処理手順及び効果等は、実施形態1と同様なため、説明は省略する。
【0050】
[変形例3]
変形例3と実施形態1との相違は、検出装置11が、投光部13の近傍にさらに反射光受光部を有することにある。このとき、反射光受光部は、駆動スプロケット113において線状光線LLが反射された反射光を受光する。反射光受光部は、反射光の強度に応じた電気信号を制御部201に出力する。制御部201は、電気信号に基づいて、すなわち反射光の強度に応じて、駆動スプロケット113における給油状態を判定する。例えば、反射光の強度が閾値より大きければ、制御部201は、駆動スプロケット113の給油状態が湿潤状態であると判定する。駆動スプロケット113が湿潤状態であるとは、駆動スプロケット113が埃などで汚れていないことに対応する。また、反射光の強度が閾値より小さければ、制御部201は、駆動スプロケット113の給油状態が乾燥状態であると判定する。駆動スプロケット113が乾燥状態であるとは、駆動スプロケット113が埃などで汚れていることに対応する。制御部201は、駆動スプロケット113の給油状態をメモリ202に記憶させる。エスカレータ100に対する次回の保守時において、制御部201は、駆動スプロケット113の給油状態を、保守員に通知する。以上のことから、変形例3によれば、摩耗検出に加えて、駆動スプロケット113の給油状態を検出することができ、エスカレータ100の保守点検の効率を向上させることができる。
【0051】
[変形例4]
変形例4と実施形態1との相違は、減速スプロケット111の摩耗状態を検出すること、すなわち減速スプロケット111を対象として摩耗検出処理を実行することにある。このとき、検出装置11は、減速スプロケット111と非接触で、例えば減速スプロケット111の半径方向に沿って、減速スプロケット111の外部の所定位置から減速スプロケット111の外周端までの距離(以下、減速外周端距離と呼ぶ)を検出する。制御部201は、検出された減速外周端距離に基づいて、減速スプロケット111を粘土の上で転がして形成されたようなモデルに相当する形状線を取得する。制御部201は、取得された形状線を用いて、減速スプロケット111に対する摩耗検出処理を実行する。例えば、制御部201は、減速外周端距離の検出過程において駆動装置107を制御することにより減速スプロケット111を回転させ、減速外周端距離が基準を超えている場合、減速スプロケット111の異常をメモリ202に記憶する。変形例4における摩耗検出処理に関する技術的思想は、実施形態1と同様であって、実施形態1での摩耗検出処理における「駆動スプロケット113」を「減速スプロケット111」に置き換えることで理解できるため、摩耗検出処理および効果についての説明は省略する。
【0052】
[変形例5]
変形例5と実施形態1との相違は、線状光線LLの代わりに、非嵌合部分において踏段チェーン115による駆動スプロケット113の歯の摩耗の限界位置に対して、所定位置PPから駆動スプロケット113の回転軸RAに向けて一条の光線を投光することにある。このとき、受光部15は、駆動スプロケット113の歯の歯元が当該限界位置を超えて摩耗している場合、投光された一条の光線を受光する。一条の光線を受光部15が受光した場合、制御部201は、駆動スプロケット113の異常をメモリ202に記憶する。変形例5における摩耗検出処理では、摩耗の限界位置を超過した摩耗を受光部15による一条の光線の受光として検出する。このため、変形例5では、より簡便に歯元の摩耗を検出することができる。
【0053】
[実施形態2]
実施形態2は、摩耗検出装置10がエスカレータ100とは別体の単独の装置として、構成されることにある。このとき、摩耗検出装置10は、エスカレータ100に対する保守点検等において、保守員や技術者などにより、エスカレータ100に設置される。摩耗検出処理の実行前において、保守員や技術者などにより、検出装置11は、駆動スプロケット113と非接触で、かつ駆動スプロケット113を回転させた状態で、所定位置PPから外周端距離L3を検出可能な位置に設置される。すなわち、
図5に示す摩耗検出処理において、実施形態2では、ステップS501の実行前に、検出装置11が、保守員や技術者などにより、駆動スプロケット113の近傍に設置される。外周端距離L3が基準を超えている場合、メモリ202は、駆動スプロケット113の異常を、記憶する。
【0054】
実施形態2における摩耗検出処理において、
図5に示すステップS502における処理内容は、例えば、駆動スプロケット113の回転開始時点から所定時間の経過後まで待機する処理となる。実施形態2では、
図5に示す摩耗検出処理において、ステップS510までは同様な処理が実行され、ステップS511以降の処理は、省略されるものとなる。すなわち、ステップS511乃至ステップ512などの処理は、保守員や技術者などが実施することとなる。実施形態2における摩耗検出処理に関する技術的思想は、実施形態1と同様であるため、摩耗検出処理および効果についての説明は省略する。
【0055】
上記実施形態および上記変形例によれば、乗客コンベアを止めることなく、短時間で正確な摩耗診断を実行可能な乗客コンベアおよび摩耗検出装置10を提供することができる。
【0056】
また、上記実施形態および上記変形例では、駆動スプロケット113や減速スプロケット111の摩耗を検出する場合について説明したが、摩耗検出装置10は、エスカレータ100における他のスプロケットの摩耗を検出することも可能である。これにより、摩耗検出装置10によって、エスカレータ100に配設されている各種スプロケットの摩耗を短時間で正確に検出することができる。
【0057】
なお、上記実施形態および上記変形例では、無端状に連結された複数の踏段120が周回移動するよう動作する乗客コンベアの一例としてエスカレータ100を挙げて説明したが、エスカレータ100に限らず、動く歩道など他のタイプの乗客コンベアにも同様に適用することができる。
【0058】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】実施形態に係る乗客コンベアは、踏段チェーンと、駆動スプロケットと、検出装置11と、制御部201と、を備える。踏段チェーンは、無端状に連結された複数の踏段を走行させる。駆動スプロケットは、踏段チェーンに噛み合う複数の歯を有し、駆動装置107からの駆動力により回転する。検出装置11は、駆動スプロケットと非接触で、駆動スプロケットの外部の所定位置から駆動スプロケットの外周端までの距離を検出する。制御部201は、当該距離の検出過程において駆動装置107を制御することにより駆動スプロケットを回転させ、当該距離が基準を超えている場合、駆動スプロケットの異常を記憶部に記憶する。