特許第6874123号(P6874123)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874123
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】リン含有化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/09 20060101AFI20210510BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20210510BHJP
   A61K 6/30 20200101ALI20210510BHJP
【FI】
   C07F9/09 KCSP
   C09J4/02
   A61K6/30
【請求項の数】10
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2019-510124(P2019-510124)
(86)(22)【出願日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2018013237
(87)【国際公開番号】WO2018181711
(87)【国際公開日】20181004
【審査請求日】2019年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2017-72679(P2017-72679)
(32)【優先日】2017年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋子
(72)【発明者】
【氏名】松本 華子
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一彦
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−523936(JP,A)
【文献】 特開昭62−099388(JP,A)
【文献】 特開2015−047745(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0047887(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0296364(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/00
C09J 4/00
A61K 6/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記核部(X)と下記末端基(Y1)とが結合した下記一般式(1)で示され、前記核部(X)が、下記一般式(5a)〜(5g)で示される基からなる群より選択される少なくとも1つである化合物。
【化1】
(上記一般式(1)中、n1は核部(X)に対して結合している末端基(Y1)の数を示し、n1は核部(X)の価数に等しく、末端基(Y1)は、下記一般式(2)で示されるリン含有基、下記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、炭素数1〜20の炭化水素基、または水素原子であり、複数ある末端基(Y1)は同一でも異なっていてもよく、ただし、一般式(1)で示される化合物中のすべての末端基(Y1)のうち、1以上は下記一般式(2)で示されるリン含有基であり、かつ1以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)である。)
【化2】
【化3】
(上記一般式(4)中、R4aは水素原子もしくはメチル基を示し、R4bは、炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基を示し、該直鎖アルキレン基または該直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子は炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基の少なくとも一つで置換されていてもよい。)
【化4】
【請求項2】
上記末端基(Y1)が、上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)または水素原子である請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
上記末端基(Y1)が、上記一般式(2)で示されるリン含有基、または上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)である請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
上記核部(X)が、3〜8価の有機基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
上記(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)が、下記一般式(4a)〜(4f)で示される基からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を含有する組成物。
【請求項7】
復帰突然変異試験において陰性を示す、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物を含有する接着材料。
【請求項9】
復帰突然変異試験において陰性を示す、請求項8に記載の接着材料。
【請求項10】
請求項8または9に記載の接着材料を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン含有化合物、該化合物を含む接着材料、および該接着材料を含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
同一分子中に、リン酸基および(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を含有する組成物が、高い接着性能を有することは知られており、広く工業的分野において用いられている。
【0003】
このようなリン酸基および(メタ)アクリロイル基を含有する化合物の分子構造を改良し、その性能を向上させる試みは継続している(例えば、特許文献1参照。)。
また、このようなリン酸基および(メタ)アクリロイル基を含有する化合物を含む組成物は、歯科分野においても接着材料として使用されており、特に10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートを含む組成物は、歯科材料として広く用いられている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
しかしながら、接着材料としての性能、とりわけその接着力に関して、完全に満足できる性能を発揮する接着材料、およびそのような接着材料の原料となる化合物については、いまだ探求が続いているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2012−506929号公報
【特許文献2】特開2015−067551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、高い接着力を発揮する接着材料、および該接着材料に配合することができる化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記問題点を解決するために検討した結果、リン含有基、およびカーバメート基を有する(メタ)アクリレート化合物を含む組成物からなる硬化物が、高い接着力を持つことを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、以下の[1]〜[11]に記載の事項を含む。
[1] 下記核部(X)と下記末端基(Y1)とが結合した下記一般式(1)で示される化合物。
【0009】
【化1】
(上記一般式(1)中、n1は核部(X)に対して結合している末端基(Y1)の数を示し、n1は核部(X)の価数に等しく、
核部(X)は酸素原子または窒素原子を含有し、末端基(Y1)と結合する原子が酸素原子または窒素原子である炭素数1〜200の3価以上の多価有機基であり、
末端基(Y1)は、下記一般式(2)で示されるリン含有基、下記一般式(3)で示され
るリン含有基、下記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、1〜20の炭化水素基、または水素原子であり、複数ある末端基(Y1)は同一でも異なっていてもよく、ただし、一般式(1)で示される化合物中のすべての末端基(Y1)のうち、1以上は下記一般式(2)で示されるリン含有基または下記一般式(3)で示されるリン含有基であり、かつ1以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)である。)
【0010】
【化2】
【0011】
【化3】
(上記一般式(3)中、基の一端は核部(X)と結合し、基の他端は他の一般式(1)で示される化合物に含まれる核部(X)と結合する。)
【0012】
【化4】
(上記一般式(4)中、R4aは水素原子もしくはメチル基を示し、R4bは、炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基を示し、該直鎖アルキレン基または該直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子は炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい。)
【0013】
[2] 上記末端基(Y1)が、上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(3)で示されるリン含有基、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)または水素原子である[1]に記載の化合物。
[3] 上記末端基(Y1)が、上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(3)で示されるリン含有基、または上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)である[1]または[2]に記載の化合物。
[4] 上記核部(X)が、3〜12価の有機基である[1]〜[3]のいずれかに記載の化合物。
[5] 上記核部(X)が、下記一般式(5a)〜(5h)で示される基からなる群より選択される少なくとも1つである[1]〜[4]のいずれかに記載の化合物。
【0014】
【化5】
【0015】
[6] 上記(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)が、下記一般式(4a)〜(4f)で示される基からなる群より選択される少なくとも1つである[1]〜[5]のいずれかに記載の化合物。
【0016】
【化6】
【0017】
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載の化合物を含有する組成物。
[8] 復帰突然変異試験において陰性を示す、[7]に記載の組成物。
[9] [1]〜[6]のいずれかに記載の化合物を含有する接着材料。
[10] 復帰突然変異試験において陰性を示す、[9]に記載の接着材料。
[11] [9]又は[10]に記載の接着材料を含むキット。
【発明の効果】
【0018】
本発明の化合物は接着材料に好適であり、該化合物を含む接着材料は高い接着力を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルまたはメタクリルを意味し、例えば「(メタ)アクリル酸」はメタクリル酸またはアクリル酸の意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」とは「アクリロイル」または「メタクリロイル」を意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。
【0020】
[化合物]
本発明の化合物は、下記核部(X)と下記末端基(Y1)とが結合した下記一般式(1)で示される化合物である(以下、化合物(1)とも称する。)。
【0021】
【化7】
上記一般式(1)中、n1は核部(X)に対して結合している末端基(Y1)の数を示し、n1は、核部(X)の価数に等しく、n1は3以上の整数であり、3〜12の整数であることが好ましく、3〜8の整数であることが好ましい。
【0022】
[核部(X)]
上記核部(X)は、酸素原子または窒素原子を含有し、末端基(Y1)と結合する原子が酸素原子または窒素原子である3価以上の多価有機基である。上記末端基(Y1)と結合する酸素原子または窒素原子は、上記末端基(Y1)以外とは、メチレン基または2価の芳香族性炭素基と結合している。なおこのメチレン基または2価の芳香族炭素基に含まれる任意の水素原子は、炭素数1〜12の一価の炭化水素基と置き換えられていてもよい。核部(X)の炭素数は通常1〜200の範囲であるが、好ましくは1〜100であり、より好ましくは1〜30、さらに好ましくは2〜20である。
【0023】
核部(X)の価数は、上述のように3以上であるが、3〜12価であることが好ましく、3〜8価であることがより好ましい。末端基(Y1)と結合する原子は、上述のように酸素原子または窒素原子から選択されるが、酸素原子であることが好ましい。核部(X)としては、例えば、下記一般式(5a)〜(5h)で示される基が挙げられる。
【0024】
【化8】
なお、上記一般式(5g)中のn5gは、1〜40の整数であり、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、1〜5であることがさらに好ましい。
【0025】
[末端基(Y1)]
末端基(Y1)は、下記一般式(2)で示されるリン含有基、下記一般式(3)で示されるリン含有基、下記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であり、複数ある末端基(Y1)は同一でも異なっていてもよく、ただし、一般式(1)で示される化合物中のすべての末端基(Y1)のうち、1以上は下記一般式(2)で示されるリン含有基または下記一般式(3)で示されるリン含有基であり、かつ1以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)である。
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
上記一般式(3)中、基の一端は核部(X)と結合し、基の他端は他の一般式(1)で示される化合物に含まれる核部(X)と結合する。
【0028】
【化11】
上記一般式(4)中、R4aは水素原子もしくはメチル基を示し、R4bは、炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基を示し、該直鎖アルキレン基または該直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子は炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい。上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)としては、例えば、下記一般式(4a)〜(4f)で示される基が挙げられる。
【0029】
【化12】
末端基(Y1)は、上述のように上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(3)で示されるリン含有基、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、炭素数1〜20の炭化水素基または水素原子であるが、上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(3)で示されるリン含有基、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)または水素原子であることが好ましく、上記一般式(2)で示されるリン含有基、上記一般式(3)で示されるリン含有基、または上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)であることがより好ましい。
【0030】
本発明の化合物(1)としては、例えば、下記一般式(1a)〜(1k)で示される化合物が挙げられる。
【0031】
【化13】
【0032】
【化14】
上記一般式(1a)〜(1k)中、R1A、R1B、およびR1Cは、水素原子またはメチル基である。
【0033】
[化合物(1)の製造法]
本発明の化合物(1)は、公知の方法により製造できる。
例えば、対応する水酸基含有化合物またはアミノ基含有化合物、好ましくは対応する水酸基含有化合物と、公知のリン酸化剤(例えば五酸化リン、五塩化リン、三塩化リン、オキシ塩化リン、または五硫化リン等)とを、公知の方法で反応させることにより、該化合物に含まれる水酸基またはアミノ基、好ましくは水酸基がリン酸エステル化またはリン酸アミド化されることにより製造される。
【0034】
上記化合物(1)に対応する水酸基またはアミノ基含有化合物は、下記核部(X)と下記末端基(Y3)とが結合した下記一般式(6)で示すことができる。
【0035】
【化15】
上記一般式(6)中、n6は核部(X)に結合している末端基(Y3)の数を示し、n6は、核部(X)の価数に等しく、n6は3以上の整数であり、3〜12の整数であることが好ましく、3〜8の整数であることが好ましい。核部(X)の説明は、上述一般式(1)に対する説明のとおりである。
【0036】
[末端基(Y3)]
末端基(Y3)は、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、炭素数1〜20の炭化水素基、または水素原子であり、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、(メタ)アクリロイル基、または水素原子であることが好ましく、上記一般式(4)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)、または水素原子がより好ましい。複数ある末端基(Y3)は同一でも異なっていてもよい。ただし、一般式(6)で示される化合物中のすべての末端基(Y3)のうち、1以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)であり、かつ1以上は水素原子であり、好ましくは、2以上は(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)であり、かつ1以上は水素原子である。
【0037】
以上の方法で本発明の化合物(1)を製造する際には、上記対応する水酸基またはアミノ基含有化合物中の全ての水酸基またはアミノ基がリン酸エステル化またはリン酸アミド化される場合もあるし、一部の水酸基またはアミノ基が残存することもある。これらの生成物は、上記化合物(1)を含めば、例えば接着材料などに用いることができる。
【0038】
また、以上の方法で本発明の化合物を製造する際には、ひとつのリン原子に対して、1つのエステル基またはアミド基が導入される場合、あるいは2つのエステル基またはアミド基が導入される場合がある。これらの生成物は、上記化合物(1)を含めば、例えば接着材料などに用いることができる。
【0039】
[一般式(6)の化合物の具体的な例]
一般式(6)の化合物としては、例えば以下の一般式(11a)〜(11k)で示される(メタ)アクリロイル基含有基(Y2)含有アルコールが挙げられる。
【0040】
【化16】
【0041】
【化17】
上記一般式(11a)〜(11k)中、R11A、R11B、およびR11Cは、水素原子またはメチル基である。
【0042】
[化合物(1)を含有する組成物]
本発明の組成物は、後述する接着材料に配合されうる本発明の化合物(1)以外の重合可能なモノマー(例えば、本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー)を含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0043】
本発明の組成物において、例えば、本発明の化合物(1)の含有量を組成物全体に対して1.0質量%以上(10質量%以上、50質量%以上、80質量%以上、90%質量以上等)としてよく、100質量%以下(99質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、50%質量以下、10質量%以下等)としてもよい。
【0044】
[復帰突然変異試験]
本発明の組成物は、復帰突然変異試験において陰性を示すものであることが望ましい。復帰突然変異試験(Ames試験)とは、組成物の変異原性を、微生物を使って調べる試験を意味する。本発明における復帰突然変異試験は、以下の方法で行われる。
【0045】
具体的には、紫外線吸収膜付蛍光灯下および/またはLED下で以下の手順で行う。
まず、滅菌した試験管に、ジメチルスルホキシド(DMSO)を媒体とする被験組成物液0.1mLと、代謝活性化しない場合は0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)を、代謝活性化する場合は後述するS9mixをそれぞれ0.5mL加えた後、後述する菌懸濁液0.1mLを加え混合する。37℃、約100rpmで20分間プレインキュベーションした後、後述するトップアガー2mLを加えて混和し、後述する最少グルコース寒天平板培地上(5用量以上)に重層する。重層固化を確認した後、最少グルコース寒天平板培地の上下を反転し、37°Cで48時間培養する。培養後のプレートについて、陰性・陽性の判定を行う。なお、陰性対照物質について試験を行う場合は、陰性対照物質としてDMSOを用い、上記の工程における被験組成物液に代えて媒体0.1mLを加える。
【0046】
培養終了後、各プレートの復帰変異コロニー数を計測する。
陰性・陽性の判断基準に関して、被験組成物が、全ての菌株・全ての用量において、また、代謝活性化しない場合および代謝活性化する場合の両方において、陰性対象物質のみの場合と比較して、平均コロニー数が2倍以内である場合に、その組成物は陰性と判断する。
【0047】
復帰突然変異試験において、被験組成物液に含まれる被験物質(具体的には、組成物に含まれる化合物(1))の用量は、最高用量を5000μg/プレートとし、以下公比2〜4で除した5用量以上となるように調製する。
【0048】
菌株は、塩基対置換型変異株のSalmonella typhimurium TA100、TA1535、Escherichia coli WP2uvrA、又は、フレームシフト型変異株のSalmonella typhimurium TA98、もしくはTA1537を用いる。
【0049】
最少グルコース寒天平板培地は、テスメディアAN培地(オリエンタル酵母工業株式会社製、変異原性試験用)を用いる。
用量当たりの最少グルコース寒天平板培地は、陰性対照物質については2枚以上、被験組成物についても2枚以上とする。
【0050】
代謝活性化する場合とは、S9mix(ラット肝臓のミクロソーム画分に補酵素を加えたもの)を被験物質とともに加えた場合を意味し、代謝活性化しない場合とは、S9mixを加えない場合を意味する。S9mixの組成は、具体的には、S9(肝臓のホモジネート物を9000×gで遠心分離したときの上清分画):0.1mL、MgCl2:8μmol、KCl:33μmol、グルコース−6−リン酸:5μmol、NADPH:4μmol、NAPH:4μmol、リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4):100μmolとする。
【0051】
トップアガーは、アミノ酸溶液(0.5mmol/L L−ヒスチジン、0.5mmol/L D−ビオチン、0.5mmol/L L−トリプトファン)は濾過滅菌し、一方で軟寒天液(0.6%(w/v)寒天(Bacto−Agar)、0.5%(w/v)塩化ナトリウム)を121℃で20分間高圧蒸気滅菌し、アミノ酸溶液と溶解した軟寒天液を容量比1:10の割合で混合したものを使用する。
【0052】
各菌濁液の調製に関して、各菌体について、菌体濃度(1×109菌数/mL以上)と調製したものを用いる。各菌体の培養には、ニュートリエントブロス培養液を用いる。ニュートリエントブロス培養液は、ニュートリエントブロスNo.2(Oxoid、Nutrient Broth No.2)を2.5wt%となるよう精製水で溶解し、121℃で20分間高圧蒸気滅菌を行ない、調製する。
【0053】
[NRU法による細胞毒性試験]
本発明の組成物は、後述するBalb/3T3細胞を用いるNRU法による細胞毒性試験において、相対細胞生存率が一定の範囲内であってもよい。該細胞毒性試験は、以下の方法で行う。
【0054】
96ウェルプレートに10000cells/ウェルで播種し、25時間前培養したBalb/3T3細胞(Balb/3T3 clone A31細胞(マウス皮膚由来線維芽細胞))において、各ウェルの培地を除去し、被験組成物を含む試験液又は陰性対照液0.1mLを添加し、CO2インキュベーター内で24時間培養する。この際、陰性対照液について12ウェルを用い、試験液については6ウェルを用いる。培養後、各ウェルを顕微鏡下で観察し、細胞の生育を確認してから各ウェルの培養液を除去し、PBS0.15mLで洗浄する。洗浄後、NR培養液を0.1mLずつ添加し、CO2インキュベーター内で3時間培養して染色を行う。培養後、各ウェルの培養液を除去し、PBS0.15mLで洗浄する。各ウェルにNR再溶解液を0.15mlずつ添加し、プレートシェーカで10分間振盪する。NR再溶解液にニュートラルレッド(NR)を溶解し、溶解後の各ウェル中の液の540nmの吸光度を測定し、その平均値を求める。陰性対照液を添加したウェルにおける液の吸光度を100とした場合に、該吸光度に対する、試験液を添加したウェルにおける液の吸光度を、被験物質を含む被験組成物(化合物(1)を含む組成物)の相対細胞生存率(%)とする。
【0055】
被験組成物を含む試験液の調製は、まずDMSOに被験組成物を添加してから、DMSOで希釈して、DMSO液を調製する。その後、後述するD05培養液2mL当たり前述のDMSO液を10μL添加し、攪拌混合して試験液を調製する。試験液には、被験組成物液に含まれる被験物質(具体的には、組成物に含まれる化合物(1))が所定の濃度になるように調整する。
陰性対照液は、D05培養液にDMSOを0.5v/v%になるよう添加して調製する。
【0056】
D05培養液とは、仔牛血清5vol%、1mmol/Lピルビン酸ナトリウム及びペニシリン−ストレプトマイシン−アムホテリシンB懸濁液1vol%を含むD−MEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium9、Cat No.048−30275、グルタミン584mg/L及びHEPES5.958g/L含有)のことを指す。
【0057】
D10培養液とは、仔牛血清10vol%、ペニシリン−ストレプトマイシン−アムホテリシンB懸濁液1vol%、100mmol/Lピルビン酸ナトリウム溶液1vol%を含むD−MEMのことを指す。
【0058】
上述のBalb/3T3細胞の前培養は、まず対数増殖期にある細胞をトリプシン−EDTAを用いて単離した後、D05培養液を用いて細胞濃度1x105cells/mLの細胞懸濁液を調製してから、細胞懸濁液0.1mLを96ウェルプレートに分注播種し(1x104cells/well)、CO2インキュベーター内で25時間静置して行う。
【0059】
NR培養液とは、NR(ニュートラルレッド)ストック液とD10培養液を1:79で混合し、37℃で一晩置いた後、フィルター濾過でNR結晶を除いたものを指す。NR(ニュートラルレッド)ストック液とは、ニュートラルレッド(NR)(和光純薬工業株式会社製)の0.4%(w/v)水溶液を指す。NR再溶解液とは、酢酸、エタノール、水を1:50:49で混合したものを指す。使用前1時間以内に調製する。
【0060】
例えば、被験組成物に含まれる被験物質の試験液中の濃度は、例えば、0.00164mg/mL、0.00410mg/mL、0.0102mg/mL、0.0256mg/mL、0.0640mg/mL、0.160mg/mL、0.400mg/mL、1.00mg/mLとしてよい。
【0061】
被験組成物に含まれる被験物質の試験液中の濃度が0.00164mg/mL、0.00410mg/mL、0.0102mg/mL、0.0256mg/mL、0.0640mg/mL、0.160mg/mL、0.400mg/mL又は1.00mg/mLである場合、上述のBALB/3T3細胞を用いるNRU法による相対細胞生存率が、0.01%以上(0.05%以上、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、5.0%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上等)であってよく、100%以下(99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.05%以下等)であってもよい。
【0062】
[WST法による細胞試験]
本発明の組成物は、Balb/3T3細胞を用いるWST法による細胞試験において、相対細胞増殖率が一定の範囲内であってもよい。該細胞試験は、以下の方法で行う。
【0063】
96ウェルプレートに2000cells/ウェルで播種し、24時間前培養したBalb/3T3細胞(Balb/3T3 clone A31細胞(マウス皮膚由来線維芽細胞))について、各ウェルの培養液を除去し、被験組成物を含む試験液又は陰性対照液0.1mLを添加し、CO2インキュベーター内で48時間培養する。この際、陰性対照液について6ウェルを用い、試験液については3ウェルを用いる。
【0064】
培養後、試験液又は陰性対照液を捨てPBSで洗浄し、各ウェルに10%WST−8試薬を含有する後述するDMEM培養液0.2mLを添加し、CO2インキュベーター内で2時間呈色反応を行う。反応後のウェル中の液について、マイクロプレートリーダーで450nmおよび650nmの吸光度を測定し、各ウェル中の液の450nm吸光度から650nm吸光度を引いた値を、各ウェルの吸光度とし、値がマイナスとなった場合は0として吸光度の平均値を求める。試験液を添加したウェル中の液の平均吸光度について、陰性対照液を添加したウェル中の液の平均吸光度で除した値を、被験物質を含む被験組成物(化合物(1)を含む組成物)の相対細胞増殖率(%)とする。
【0065】
被験組成物を含む試験液の調製は、まずDMSOに被験組成物を添加してから、DMSOで希釈して、DMSO液を調製する。その後、DMEM培養液1mL当たりDMSO希釈溶液を5μL添加し、試験液を調製する。試験液には、被験組成物液に含まれる被験物質(具体的には、組成物に含まれる化合物(1))が所定の濃度になるように調整する。
陰性対照液は、DMSOをDMEM培養液により0.5vol%になるよう添加して調製する。
【0066】
DMEM培養液とは、仔牛血清10vol%、ペニシリン−ストレプトマイシン−アムホテリシンB懸濁液(x100)1vol%を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(D−MEM)を指す。
【0067】
上述のBalb/3T3細胞の前培養は、まず対数増殖期にあるBalb/3T3 clone A31細胞を0.25%トリプシン−1mM EDTAを用いて単離した後、DMEM培養液を用いて細胞濃度20000cells/mLの細胞懸濁液を調製してから、細胞懸濁液0.1mLを96ウェルプレートに分注播種し(2000cells/ウェル)、CO2インキュベーター内で24時間静置して行う。
【0068】
例えば、被験組成物に含まれる被験物質の試験液中の濃度は、例えば、0.00164mg/mL、0.00410mg/mL、0.0102mg/mL、0.0256mg/mL、0.0640mg/mL、0.160mg/mL、0.400mg/mL、1.00mg/mLとしてよい。
【0069】
被験組成物に含まれる被験物質の試験液中の濃度が0.00164mg/mL、0.00410mg/mL、0.0102mg/mL、0.0256mg/mL、0.0640mg/mL、0.160mg/mL、0.400mg/mL又は1.00mg/mLである場合、上述のBalb/3T3細胞を用いるWST法による相対細胞増殖阻害率が、0.001%以上(0.01%以上、0.05%以上、0.1%以上、0.5%以上、1.0%以上、5.0%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上等)であってよく、100%以下(99%以下、95%以下、90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5.0%以下、1.0%以下、0.5%以下、0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下等)であってもよい。
【0070】
[化合物(1)を含有する接着材料]
本発明の化合物(1)は、接着材料の原料として好適である。本発明の化合物(1)に対して、本発明の化合物(1)以外の成分(例えば、本発明の化合物(1)以外の重合可能なモノマー(本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー、エポキシ基を含有するモノマー等)を配合することによって、例えば接着材料を製造することができる。
【0071】
[本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー]
本発明の化合物(1)以外の成分の一例としては、本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーを挙げることができる。
【0072】
上記の本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーは、分子中に(メタ)アクリレート基を1つ以上含む。含有される重合性基の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。
【0073】
上記の本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーは、1種の化合物で構成されてもよいし、2種以上の化合物の混合物で構成されてもよい。
重合性基を1つだけ有する上記の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーとしては、例えば、下記一般式(21)で示されるモノマーが挙げられる。
【0074】
【化18】
上記一般式(21)中、R21aは水素またはメチル基であり、R21bは酸素または窒素を含有してもよい炭素数1〜20の一価の有機基を示す。
【0075】
上記一価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭素数1〜20の非環状炭化水素基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基等の炭素数1〜20の環状炭化水素基などの炭化水素基;アルコキシアルキル基、アルコキシアルキレングリコール基、テトラヒドロフルフリル基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜20の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0076】
上記炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基に直鎖状のアルキレン部分が含まれている場合には、その少なくとも1つのメチレン基が、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合(カルバモイル基)、またはウレア結合で置き換えられていてもよい(ただし、メチレン基が連続して置き換えられることはない。)。
【0077】
また、上記炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0078】
上記一般式(21)で示されるメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシトリエチレングルコールメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0079】
上記一般式(21)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングルコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどが挙げられる。
【0080】
重合性基を2つ以上有する上記の本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーとしては、例えば、下記一般式(22)で示されるモノマーが挙げられる。
【0081】
【化19】
上記一般式(22)中、R22aおよびR22bは水素またはメチル基を示し、これらは同一でも異なっていてもよく、R22cは酸素または窒素を含有してもよい炭素数1〜40の二価の有機基を示す。
【0082】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等の炭素数1〜40の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アリーレン基等の炭素数1〜40の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜40の環状炭化水素基としては、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0083】
上記炭素数1〜40の炭化水素基または炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基に直鎖状のアルキレン部分が含まれている場合には、その少なくとも1つのメチレン基が、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合(カルバモイル基)、またはウレア結合で置き換えられていてもよい(ただし、メチレン基が連続して置き換えられることはない。)。
【0084】
また、上記炭素数1〜40の炭化水素基、炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0085】
上記一般式(22)で示されるモノマーのうち、好適なモノマーの一例としては、上記R22cが炭素数2〜20、望ましくは炭素数4〜12の直鎖アルキレン基であるモノマーが挙げられる。
【0086】
上記好適なモノマーであり、メタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0087】
上記好適なモノマーであり、アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどが挙げられる。
【0088】
また、上記一般式(22)で示されるモノマーのうち、好適なモノマーの他の例としては、上記R22cが炭素数2〜20、望ましくは炭素数4〜12の直鎖オキシアルキレン基であるモノマーが挙げられる。
【0089】
上記好適なモノマーであり、メタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0090】
上記好適なモノマーであり、アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0091】
さらに、上記一般式(22)で示されるモノマーのうち、好適なモノマーの他の例として、下記一般式(23)で示されるカルバモイル基を有するモノマーを挙げることができる。
【0092】
【化20】
上記一般式(23)中、R23aおよびR23bは水素またはメチル基であり、これらは同一でも異なっていてもよく、R23cおよびR23dは酸素を含有してもよい炭素数1〜12の二価の有機基であり、これらは同一でも異なっていてもよい。
【0093】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜12の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、アリーレン基等の炭素数1〜12の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜12の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0094】
また、上記炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0095】
上記一般式(23)中、R23eは酸素を含有してもよい炭素数1〜20の二価の有機基を示す。
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜20の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、アリーレン基等の炭素数1〜20の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜20の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0096】
また、上記炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0097】
上記一般式(23)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、または1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート等のヒドロキシアクリレートと、2,4−または2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−、2,4’−または2,2’−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−または2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート、等のジイソシアネートとの反応生成物であるウレタンアクリレートなどが挙げられ、このようなウレタンアクリレートとしては、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジアクリレートなどが挙げられる。
【0098】
上記一般式(23)で示される(メタ)アクリロイル基を有する化合物の好適な別の例としては、以下の一般式(24a)〜(24e)で示される化合物からなる群より選択される少なくとも1つを挙げることができる。
【0099】
【化21】
【0100】
【化22】
【0101】
【化23】
【0102】
【化24】
【0103】
【化25】
また、好ましい上記一般式(22)で示されるモノマーの別の例として、下記一般式(25)のモノマーを挙げることができる。
【0104】
【化26】
【0105】
上記一般式(25)中、R25aおよびR25bは水素またはメチル基を示し、これらは同一でも異なっていてもよく、R25cおよびR25dは酸素を含有してもよい炭素数1〜12の二価の有機基を示し、これらは同一でも異なっていてもよい。上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜12の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、アリーレン基等の炭素数1〜12の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜12の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。また、上記炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0106】
上記一般式(13)中、R25eは酸素を含有してもよい炭素数1〜20の二価の有機基を示す。上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基などの炭素数1〜20の炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などが挙げられる。上記炭素数1〜20の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、上記炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0107】
上記一般式(25)で示されるメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(Bis−GMA)、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレートなどが挙げられる。
【0108】
上記一般式(25)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2,2−ビス〔4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートなどが挙げられる。
【0109】
また本発明の化合物(1)を含有する組成物を、例えば接着材料に使用する場合などには、上記本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマーとして、さらに接着の機能を発揮するモノマーが含有されていてもよい。このような本発明の化合物(1)以外の接着の機能を発揮する(メタ)アクリレート基含有モノマーとして、例えば、メタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる少なくとも1つの重合性基と酸性基を有するモノマー(ただし、本発明の化合物(1)を除く。)が挙げられる。酸性基として、例えば、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基およびスルホン酸残基等が挙げられる。
【0110】
メタクリロイル基とリン酸残基とを有するモノマー(ただし、本発明の化合物(1)を除く。)としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、9−メタクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−メタクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、20−メタクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジメタクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−メタクリロイルオキシエチル 2'−ブロモエチルリン酸、メタクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0111】
アクリロイル基とリン酸残基とを有するモノマー(ただし、本発明の化合物(1)を除く。)としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、9−アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、20−アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジアクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−アクリロイルオキシエチル 2'−ブロモエチルリン酸、アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0112】
メタクリロイル基とピロリン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、ピロリン酸ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
アクリロイル基とピロリン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、ピロリン酸ジ(2−アクリロイルオキシエチル)およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0113】
メタクリロイル基とチオリン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0114】
アクリロイル基とチオリン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0115】
メタクリロイル基とカルボン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、4−メタクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、5−メタクリロイルアミノペンチルカルボン酸および11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、およびこれらの酸塩化物または酸無水物等が挙げられる。
【0116】
アクリロイル基とカルボン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、4−アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、5−アクリロイルアミノペンチルカルボン酸および11−アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、およびこれらの酸塩化物または酸無水物等が挙げられる。
【0117】
メタクリロイル基とスルホン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、2−スルホエチルメタクリレート、および2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0118】
アクリロイル基とスルホン酸残基とを有するモノマーとしては、例えば、2−スルホエチルアクリレート、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0119】
[重合開始剤]
本発明の接着材料に含まれる本発明の化合物(1)以外の成分の別の一例としては、重合開始剤を挙げることができる。
【0120】
上記重合開始剤は、接着材料で用いられる一般的な重合開始剤を使用することができ、通常、重合性モノマーの重合性と重合条件を考慮して選択される。
常温重合を行う場合には、たとえば、酸化剤および還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好適である。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。
【0121】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類およびハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物を挙げることができる。上記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよびラウロイルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類;メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。
【0122】
また、還元剤としては、特に限定されないが、通常第三級アミンが用いられる。第三級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−i−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアミン、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−エチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−メタクリロイルオキシエチルアミン、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリス(メタアクリロイルオキシエチル)アミンなどが挙げられる。
【0123】
これら有機過酸化物/アミン系の他には、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(またはその塩)系等のレドックス系重合開始剤を用いることができる。また、重合開始剤として、トリブチルボラン、有機スルフィン酸なども好適に用いられる。
【0124】
加熱による熱重合を行う場合には、過酸化物、もしくはアゾ系化合物を使用することが好ましい。
過酸化物としては特に限定されないが、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどが挙げられる。アゾ系化合物としては特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0125】
可視光線照射による光重合を行う場合には、α−ジケトン/第三級アミン、α−ジケトン/アルデヒド、α−ジケトン/メルカプタン等のレドックス系開始剤が好ましい。
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、α−ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤などが挙げられる。α−ジケトンとしては、例えば、カンファーキノン、ベンジルおよび2,3−ペンタンジオンなどが挙げられる。ケタールとしては、例えば、ベンジルジメチルケタールおよびベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。チオキサントンとしては、例えば、2−クロロチオキサントンおよび2,4−ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。還元剤としては、例えば、ミヒラ−ケトン等、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンおよびジメチルアミノフェナントール等の第三級アミン;シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4−メルカプトアセトフェノン、チオサリチル酸およびチオ安息香酸等のチオール基を有する化合物;等を挙げることができる。これらのレドックス系に有機過酸化物を添加したα−ジケトン/有機過酸化物/還元剤の系も好適に用いられる。
【0126】
紫外線照射による光重合を行う場合には、ベンゾインアルキルエーテルおよびベンジルジメチルケタール等が好適である。また、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤も好適に用いられる。
【0127】
(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類のうち、アシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドおよび(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、単独もしくは各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類およびスルフィン酸塩等の還元剤と併用することもできる。これらは、上記可視光線の光重合開始剤とも好適に併用することができる。
【0128】
上記重合開始剤または光重合開始剤は単独でまたは2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、配合量は、上記接着材料100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.1〜5重量部の範囲で使用される。
【0129】
[フィラー]
本発明の接着材料に含まれる本発明の化合物(1)以外の成分の別の一例としては、フィラーを挙げることができる。
【0130】
フィラーは、接着材分野で用いられる一般的なフィラーを使用することができる。フィラーは、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびスチレン−ブタジエン共重合体などの微粉末が挙げられる。
【0131】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素およびアルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト等の微粉末が挙げられる。このような無機フィラーの具体例としては、X線造影剤として用いられるものが好ましい。X線造影剤としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(キンブルレイソーブT3000、ショット8235、ショットGM27884およびショットGM39923など)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(レイソーブT4000、ショットG018−093およびショットGM32087など)、ランタンガラス(ショットGM31684など)、フルオロアルミノシリケートガラス(ショットG018−091およびショットG018−117など)、ジルコニウムおよび/またはセシウム含有のボロアルミノシリケートガラス(ショットG018−307、G018−308およびG018−310など)が挙げられる。
【0132】
また、これら無機フィラーに重合性モノマーを予め添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いても差し支えない。
粒径が0.1μm以下のミクロフィラーが配合された接着材料は、例えば歯科用コンポジットレジンに好適な態様の一つである。かかる粒径の小さなフィラーの材質としては、シリカ(例えば、商品名アエロジル)、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが好ましい。このような粒径の小さい無機フィラーの配合は、コンポジットレジンの硬化物の研磨滑沢性を得る上で有利である。
【0133】
これらのフィラーに対しては、目的に応じて、シランカップリング剤などにより表面処理が施される場合がある。かかる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、γ−メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、γ−メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3〜12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシランおよびビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が使用される。表面処理剤の濃度は、フィラー100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部の範囲で使用される。
【0134】
これらのフィラーは接着材料の用途に応じて、適宜添加することができる。これらフィラーを使用する場合は、これらのフィラーは1種単独でまたは2種類以上を組み合わせて適宜用いられる。フィラーの配合量の好ましい範囲は、用途によって異なる。例えば、接着材料のひとつである歯科用ボンディング材用途の場合には、その稠度を調整するために、歯科材料100重量部中に、0.1〜5重量部程度含有されることがある。また、別の例として、歯科用接着剤のひとつである歯科用接着セメントの場合には、機械的強度の向上と稠度の調整のために、歯科材料100重量部中に、30〜70重量部程度含有されることがある。また、別の例として、歯科用接着剤のひとつである歯科用接着性コンポジットレジンの場合には、機械的強度の向上と稠度の調整のために、歯科材料100重量部中に、50〜90重量部程度含有されることがある。
【0135】
[その他の成分]
本発明の接着材料は、上述の本発明の化合物(1)、本発明の化合物(1)以外の重合可能なモノマー(例えば、本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー、エポキシ基を有するモノマー)、重合開始剤、およびフィラー以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。例えば、保存安定性を向上させるために既に上述した重合禁止剤を含んでもよい。また、色調を調整するために、公知の顔料、染料等の色素を含みうる。さらに、硬化物の強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含んでもよい。その他、必要に応じて、アセトン、エタノール、水、酢酸エチル、トルエン等の溶媒も含んでもよい。
【0136】
[各成分の比率]
本発明の化合物(1)の接着材料への配合量は特に制限されないが、例えば0.1〜99%の範囲である。好ましい配合量は、その接着材料の用途によって異なる場合もあるが、例えば重合性モノマー成分(本発明の化合物(1)と化合物(1)以外の重合可能なモノマー(例えば、本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー、エポキシ基を有するモノマー)中に1〜60重量%配合される。特に、歯科材料の用途が、ボンディング材、接着レジンセメント、充填用接着コンポジットレジン、歯牙裂溝封鎖材である場合、本発明の化合物(1)の配合量は、重合性モノマー成分中1〜50重量%であることが好ましく、3〜30重量%であることがより好ましい。
【0137】
[復帰突然変異試験]
本発明の歯科材料は、復帰突然変異試験において陰性を示すものであることが望ましい。復帰突然変異試験(Ames試験)の試験方法は、上述の復帰突然変異試験の方法において、本発明の組成物を本発明の歯科材料に置き換えて、同様の手順で行う。
【0138】
[NRU法による細胞毒性試験]
本発明の歯科材料は、Balb/3T3細胞を用いるNRU法による細胞毒性試験において、相対細胞生存率が一定の範囲内であってもよい。該細胞毒性試験は、上述のNRU法による細胞毒性試験において、本発明の組成物を本発明の歯科材料に置き換えて、同様の手順で行う。また、被験材料に含まれる被験物質(歯科材料に含まれる化合物(1))の試験液中の濃度、歯科材料の相対細胞増殖率(%)は、上述の本発明の組成物の場合におけるものと同様であってよい。
【0139】
[WST法による細胞毒性試験]
本発明の歯科材料は、Balb/3T3細胞を用いるWST法による細胞毒性試験において、相対細胞増殖率が一定の範囲内であってもよい。該細胞毒性試験は、上述のWST法による細胞毒性試験において、本発明の組成物を本発明の歯科材料に置き換えて、同様の手順で行う。また、被験材料に含まれる被験物質(歯科材料に含まれる化合物(1))の試験液中の濃度、歯科材料の相対細胞増殖率(%)は、上述の本発明の組成物の場合におけるものと同様であってよい。
【0140】
[接着材料の製造方法]
上述の本発明の化合物(1)、本発明の化合物(1)以外の重合可能なモノマー(例えば、本発明の化合物(1)以外の(メタ)アクリレート基含有モノマー、エポキシ基を有するモノマー)、重合開始剤、フィラー、その他の成分等を混和し、本発明の接着材料を製造する方法については、公知の方法であれば特に制限を受けない。
【0141】
[硬化物]
本発明の接着材料は、前述の重合開始剤の重合方式にあわせ適切な条件で硬化することができる。例えば、可視光照射による光重合開始剤を含有している本発明の接着材料の場合は、該接着材料を所定の形状に加工したのち、公知の光照射装置を用いて所定の時間可視光を照射することにより、所望の硬化物を得ることができる。照射強度、照射強度等の条件は、接着材料の硬化性に合わせて適切に変更することができる。また、可視光をはじめとした、光照射により硬化した硬化物を、さらに適切な条件で熱処理をすることにより、硬化物の機械的物性を向上させることもできる。また、別の例として、加熱による重合開始剤を含有している本発明の歯科材料の場合は、該歯科材料を所定の形状に加工したのち、適切な温度及び時間加熱することにより、所望の硬化物を得ることができる。
以上のようにして得られる上述の本発明の接着材料の硬化物は、種々の用途、例えば歯科治療用途に用いられることもある。
【0142】
[用途]
本発明における接着材料は、接着性を要求される用途、例えば同種もしくは異種のフィルム同士の接着、または同種もしくは異種の構造体同士接着に用いることができる。または、ある材料の表面をコーティングする用途に用いることができる。さらに、他の接着材料と組み合わせて、被接着体に対するプライマーとして用いることができる。
【0143】
被接着体としては、本発明のリン含有基を有する化合物(1)が接着性に関する効果を示すものであれば制限されないが、リン酸基が強く相互作用することが期待される金属材料、セラミック材料、および(メタ)アクリロイル基との共重合が期待される(メタ)アクリレート系材料等を好適な例として挙げることができる。
【0144】
本発明の接着材料は、歯科材料として用いることもできる。例えば、歯列矯正用接着材、ボンディング材、接着レジンセメント、充填用接着コンポジットレジン、歯牙裂溝封鎖材およびレジン添加型グラスアイオノマーセメント等を挙げることができる。
【0145】
本発明の化合物(1)が、特に接着材料用途に好適である詳細な理由は不明であるが、本発明の化合物(1)は、上記説明のように分子中にリン酸基と(メタ)アクリロイル基の両方の基を含有しており、酸性基であるリン酸に由来する金属表面エッチング能力、金属表面へのリン酸基を介した相互作用、および(メタ)アクリロイル基を介したレジンマトリックスへの結合の3つの機能を併せ持っていると推察される。また、本発明におけるリン含有化合物(1)は分子中にカーバメート構造を有している。カーバメート構造はいわゆるウレタンポリマー中おいて、その凝集作用によりウレタンポリマーに高い機械物性を与える効果を示すことで知られているが、本発明においても、本発明の化合物(1)が分子中に含有するカーバメート構造が、本発明における接着材料の硬化後の強度に好ましい影響を与えている可能性がある。
【0146】
[使用方法]
本発明の接着材料の使用方法は、接着材料の使用法として一般に知られているものであれば、特に制限されない。例えば、本発明の接着材料を例えば歯科用ボンディング材として使用する場合は、口腔内の窩洞に該接着材料を塗付したのち、必要に応じて乾燥し、また必要に応じて公知の光照射装置を用いて光硬化させたのち、充填用コンポジットレジンを充填する。
【0147】
また、例えば、本発明の接着材料を歯科用接着レジンセメントとして使用する場合は、補綴物に対して、必要に応じて歯面および補綴物非接着面をプライマー処理したのち、本発明の接着材料を塗付し、口腔内の所定の場所に補綴物を圧着させる。
【0148】
また、例えば、本発明の接着材料を歯質用のプライマーとして使用する場合は、口腔内の窩洞に該接着材料を塗付したのち、必要に応じて乾燥し、また必要に応じて公知の光照射装置を用いて光硬化させたのち、接着セメントを塗付してある補綴物を窩洞に対して圧着する。
【0149】
また、例えば、本発明の接着材料を充填用接着コンポジットレジンとして使用する場合は、口腔内の窩洞に該歯科材料を直接充填したのち、公知の光照射装置を用いて光硬化させることにより、目的を達成できる。
【0150】
[キット]
本発明のキットは上記接着材料を含む。本発明のキットは、上記接着材料の各成分を1剤として充填したキット、重合形式、および保存安定性等を勘案して、上記歯科材料の各成分を2剤以上に分けて充填した複数の剤からなるキットなどが挙げられる。なお、本発明のキットには、本発明の接着材料以外の、同時に使用する他の接着材料が含まれていてもよい。かかるキットは、例えば、歯科用途をはじめとする種々の用途に用いられる。
【実施例】
【0151】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
撹拌羽根、温度計および還流管を備えた500ミリリットル四つ口フラスコ内に、グリセリン(シグマアルドリッチ社製)100g(1.09mol、OH基モル数3.27mol)とジブチル錫ジラウレート(和光純薬工業株式会社製)0.43g(反応全基質重量に対して1000ppm)および2,6−t−ブチルー4−メチルフェノール(和光純薬工業株式会社製)を0.22g(反応全基質重量に対して500ppm)を添加し、55℃に昇温した。続いて、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(昭和電工株式会社製、カレンズMOI(登録商標))337g(2.17mol、用いたグリセリンのOH基モル数に対して2/3当量)を30分かけて滴下した。80〜85℃となるように温度を保ち、4時間反応を行った。赤外吸収スペクトルIR(パーキンエルマー社製,Spectrum Two)を測定したところ、2267cm-1のイソシアネート由来の振動が消失したことを確認した。生成物の一部を採取し、JIS K 0070に従い水酸基価を測定したところ、138mgKOH/gであった。反応生成物の液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS分析)(日本Waters株式会社製、ACQUITY UPLC BEH C181.7μm(2.1mmx10mm)/ACQUITY UPLC H−Class−SQ Detector 2)を行ったところ、化合物1の分子量402と合致する質量[M−H]+:403が検出された。反応器から排出することにより、下記化合物1を含む生成物417gが得られた。
【0152】
【化27】
【0153】
引き続き、撹拌羽根、温度計および還流管を備えた300ミリリットル四つ口フラスコ内に、化合物1を含む反応生成物を152g(水酸基価138mgKOH/g、OH基モル数0.374mol)、超脱水塩化メチレン(和光純薬工業株式会社製)450mLおよび2,6−t−ブチルー4−メチルフェノール0.093g(反応全基質重量に対して500ppm)を添加した。続いて、五酸化二リン(東京化成工業株式会社製)34.1g(0.240 mol,P当量0.480mol)を3回に分けて分割装入を行った。室温〜30℃となるように反応温度を保ち、6時間反応を行った。その後、水150mLをゆっくりと装置に加え入れ、室温に保持したままで未反応の五酸化二リンを完全に失活させた。有機層を抽出し、揮発成分を留去した。反応器から排出することにより、下記化合物2−1および2−2の構造式を有するリン酸エステル含有ウレタンメタクリル化合物を含む生成物150gが得られた。反応生成物のLC−MS分析を行ったところ、下記化合物2−1の分子量482および化合物2−2の分子量866に対応すると推定される質量[M−H]+:483、867が主生成物として検出された。
【0154】
【化28】
【0155】
[製造例2]
製造例1に記載のグリセリンに代わり、ジグリセリン(ナカライテスク株式会社製)を用いて製造例1と同様の合成操作を行うことで、下記化合物3の構造式を有する化合物3、次いで下記化合物4の構造式を有するリン酸エステル含有化合物4を含む生成物を得た。
【0156】
【化29】
【0157】
[製造例3]
製造例1に記載の2―メタクリロイルオキシエチルイソシアネート カレンズMOI(登録商標)に代わり、分子内にエチレングリコールユニットを導入したカレンズMOI−EG(登録商標)(昭和電工株式会社製)を用いて製造例1と同様の合成操作を行うことで、下記化合物5の構造式を有する化合物5、次いで下記化合物6の構造式を有するリン酸エステル含有化合物6を含む生成物を得た。
【0158】
【化30】
【0159】
【表1】
【0160】
[実施例1]
製造例1で得られた化合物2を0.80g(1.7mmol)とUDMA(2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート)を2.5g(5.3mmol)、TEGDMA (トリエチレングリコールジメタクリレート:新中村化学工業株式会社製NKエステル3G) 0.74g(2.6mmol)を容器に入れ、均一になるまで50 ℃で撹拌して重合性モノマー組成物を得た。次いで、上記重合性モノマー組成物100重量部に対して、TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド:IRGACURE TPO、BASF社製)0.5重量部を添加、混合し、均一なペーストの歯科材料として用いる組成物を得た。なお、実施例1の組成物は、例えば、レジンとしての性能を評価するのに適した組成の一例である。
【0161】
[曲げ強度試験方法]
上記で調製した組成物を2×2×25mmのSUS製金型に充填し、カバーフィルムで上から挟んだ後、歯科用可視光線照射装置(αライトV、株式会社モリタ東京製作所製)で片面につき3分間、両面から合計6分間照射して、組成物を硬化させた。硬化物を37℃の脱イオン水中で24時間保存した後、汎用試験機(精密万能材料試験機210X、株式会社INTESCO製)を用いて支点間距離20mm、クロスヘッド速度1.0mm/分で3点曲げ試験を実施した。該歯科材料として用いる組成物の硬化物の曲げ試験の結果を表2に示す。
【0162】
[接着強度試験方法]
抜去した後冷凍保存した牛下顎前歯を注水下解凍し、歯根切断、抜髄処理した。これを直径25mm、深さ25mmのプラスチック製円筒容器に設置し、アクリル樹脂中に包埋した。この表面を#120、#400のエメリーペーパーを用いて湿式研磨し、唇面と平行になるようにエナメル質を削り出した。
【0163】
次に、この平面に圧縮空気を約1秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質の平面に作成した組成物を塗布し、弱ブローの圧縮空気を吹き付けた。この表面に可視光照射装置(Translux 2Wave、ヘレウスクルツァー社製)を用いて20秒光照射した。更にこの上に直径2.38mmのプラスチック製モールド(ULTRADENT社製)を設置し、歯科用コンポジットレジン(Venus Diamond、ヘレウスクルツァー社製)を充填し、可視光照射装置を用いて20秒光照射し、硬化させた。その後、モールドを除去し、接着試料を作成した。試料を37℃温水中24時間保管した後、汎用試験機(精密万能材料試験機210X、株式会社INTESCO製)を用いて、牛歯のエナメル質に平行、かつ表面に接して1.0mm/分のクロスヘッド速度で剪断負荷を掛け、牛歯表面に柱状に形成させた組成物が表面から分離する時の剪断負荷から、剪断接着強度を求めた。
該歯科材料用組成物の剪断試験の結果を表2に示す。
【0164】
[実施例2、3]
化合物2の代わりに、製造例2,3で得られたリン酸エステル基含有メタクリル化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、重合性モノマー組成物の調製、および歯科材料として用いる組成物の調製を行った。ついで実施例1と同様の試験を行い、曲げ強度および剪断試験の結果を得た。結果を表2に示す。
【0165】
[比較例1]
化合物2の代わりに、MDP(リン酸二水素10−メタクリロイルオキシデシル)を用いたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、重合性モノマー組成物の調製、および歯科材料として用いる組成物の調製を行った。ついで実施例1と同様の試験を行い、曲げ強度および剪断試験の結果を得た。結果を表2に示す。
【0166】
【表2】
【0167】
表2中の結果より、本発明のリン含有化合物は、従来の接着性モノマーと比較して、その配合組成物の接着力が高いことがわかる。すなわち、本発明のリン含有化合物を使用することにより、接着力の高い接着材料を提供することができる。
【0168】
[実施例4]
製造例1で得られた化合物2を0.48g(8.0重量部)とUDMA(2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート)を1.2g(20重量部)、TEGDMA(トリエチルグリコールジメタクリレート:新中村化学工業株式会社製NKエステル3G)0.6g(10重量部)、および4−META(4−メタクリロオキシエチルトリメリット酸無水物:和光純薬工業株式会社製)0.12g(2.0重量部)と、CQ(カンファーキノン:和光純薬工業株式会社製)0.012g(0.2重量部)、および4−(ジメチルアミノ)安息香酸2−ブトキシエチル(東京化成工業株式会社製)0.024g(0.4重量部)とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して混合物を得た。この混合物に、バリウムアウミニウムボロシリケートガラスフィラー(GM27884、粒径1.5μm、1.6%シラン処理品、NEC SCHOTTコンポーネンツ株式会社製)3.6g(59重量部)を添加、混合し、均一なペーストの歯科材料として用いる組成物を得た。実施例4の組成物は、例えば、レジンとしての性能を評価するのに適した組成の一例である。牛歯象牙質を使用し、圧縮空気を吹き付けた象牙質の平面にプラスチック製モールドを設置し、組成物を2回に分けて充填し、歯科用コンポジットレジン(Venus Diamond)を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の試験を行い、曲げ試験及び剪断試験の結果を得た。結果を表3に示す。
【0169】
[比較例2]
化合物2の代わりに、MDP(リン酸二水素10−メタクリロイルオキシデシル)を用いたこと以外は、実施例4と同様の操作を行い、歯科材料として用いる組成物の調製を行った。次いで実施例4と同様の試験を行い、曲げ試験および剪断試験の結果を得た。結果を表3に示す。
【0170】
【表3】
【0171】
[実施例5]
製造例1で得られた化合物2を1.0g(4.7重量部)とBis−GMA(ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート:新中村化学工業株式会社製)6.0g(28重量部)、およびHEMA(三菱レイヨン株式会社製、アクリエステルHO(登録商標))6.0g(28重量部)と、TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド:IRGACURE TPO、BASF社製)0.020g(0.94重量部)、CQ(カンファーキノン:和光純薬工業株式会社製)0.40g(1.9重量部)、エチル4−(ジメチルアミノ)ベンゾエート(和光純薬工業株式会社製)0.20g(0.94重量部)、p−トリルジエタノールアミン(東京化成工業株式会社製)0.20g(0.94重量部)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン:和光純薬工業株式会社製)3.0g(14重量部)、エタノール(超脱水:和光純薬工業株式会社製)3.0g(14重量部)、および蒸留水3.0g(14重量部)とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して混合物を得た。この混合物に、バリウムアルミニウムボロシリケートガラスフィラー(GM27884、粒径1.5μm、1.6%シラン処理剤、NEC SCHOTTコンポーネンツ株式会社製)1.2g(5.7重量部)を添加、混合し、均一な液状の歯科材料として用いる組成物を得た。実施例5の組成物は、例えば、レジンとしての性能を評価するのに適した組成の一例である。牛歯象牙質を使用し、組成物を塗布後に弱ブローの圧縮空気を吹き付けて溶媒を除去したこと以外は、実施例1と同様の試験を行い、剪断試験の結果を得た。結果を表4に示す。
【0172】
[比較例3]
化合物2の代わりに、MDP(リン酸二水素10−メタクリロイルオキシデシル)を用いたこと以外は、実施例5と同様の操作を行い、歯科材料として用いる組成物の調製を行った。次いで実施例5と同様の操作を行い、剪断試験の結果を得た。結果を表4に示す。
【0173】
【表4】
【0174】
表3及び表4中の結果より、本発明のリン酸エステル基含有メタクリル化合物は、従来のリン酸エステル基含有メタクリル化合物と比較して、その配合組成物の歯質への接着力が高いことが確認された。