特許第6874145号(P6874145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874145海図表示装置、海図表示方法、及び海図表示プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874145
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】海図表示装置、海図表示方法、及び海図表示プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/0484 20130101AFI20210510BHJP
   G06F 3/0488 20130101ALI20210510BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20210510BHJP
   G09B 29/10 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   G06F3/0484 150
   G06F3/0488 130
   G09B29/00 A
   G09B29/10 A
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-544439(P2019-544439)
(86)(22)【出願日】2018年8月28日
(86)【国際出願番号】JP2018031629
(87)【国際公開番号】WO2019065041
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2020年5月9日
(31)【優先権主張番号】特願2017-189292(P2017-189292)
(32)【優先日】2017年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 敬年
(72)【発明者】
【氏名】奥田 将斗
【審査官】 円子 英紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/051047(WO,A1)
【文献】 特開2014−063428(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0174563(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/051051(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/048−3/0489
G09B 29/00
G09B 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画面を有し、当該画面に海図を表示する表示部と、
前記画面へのタッチ操作を検出する操作検出部と、
前記検出した画面への2点のタッチ間距離が海図上の設定距離に一致する縮尺を追加縮尺として登録する登録処理部と、
海図の縮尺を前記追加縮尺に変更する変更処理部と、
備え、
前記登録処理部は、所要時間の指定を受け付け、指定された船速で当該所要時間の間に移動する距離を前記設定距離とすることを特徴とする海図表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の海図表示装置であって、
前記登録処理部は、距離の指定を受け付け、当該指定された距離を前記設定距離とすることを特徴とする海図表示装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の海図表示装置であって、
海図を表示し、前記画面へのピンチ操作による縮尺の変更を受け付ける第1表示モードと、
前記追加縮尺で海図を表示し、前記ピンチ操作による縮尺の変更を受け付けない第2表示モードと、
の切替えを行う表示モード切替部を更に備えることを特徴とする海図表示装置。
【請求項4】
請求項3に記載の海図表示装置であって、
前記第1表示モードでは、前記画面への回転操作による海図の回転を受け付け、前記第2表示モードでは、前記画面への回転操作による海図の回転を受け付けないことを特徴とする海図表示装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の海図表示装置であって、
前記追加縮尺で海図を表示している場合において、前記操作検出部が検出した2点のタッチ間距離である検出タッチ間距離が、前記登録処理部で当該追加縮尺を登録した際の2点のタッチ間距離である登録タッチ間距離に近似しているときは、検出されたタッチ位置の近傍に、前記設定距離及び当該設定距離の移動に掛か る所要時間の少なくとも一方を前記表示部に表示する表示処理部を更に備えることを特徴とする海図表示装置。
【請求項6】
請求項5に記載の海図表示装置であって、
前記表示処理部は、連続して検出された前記検出タッチ間距離が、何れも前記登録タッチ間距離に近似しており、検出されたタッチ位置が連続している場合は、 連続して検出された前記検出タッチ間距離の合計に相当する前記設定距離及び前記所要時間の少なくとも一方を表示することを特徴とする海図表示装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載の海図表示装置であって、
複数の前記追加縮尺を記憶する記憶部を備え、
前記変更処理部は、海図の縮尺を、複数の前記追加縮尺のうち指定された追加縮尺に変更することを特徴とする海図表示装置。
【請求項8】
請求項7に記載の海図表示装置であって、
前記記憶部には、1つのタッチ間距離に対して複数の前記設定距離が登録されていることを特徴とする海図表示装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の海図表示装置であって、
前記記憶部には、複数のタッチ間距離に対してそれぞれ前記設定距離が登録されていることを特徴とする海図表示装置。
【請求項10】
海図が表示された表示部の画面上への2点のタッチ位置の画面上の距離を示すタッチ間距離が海図上の設定距離に一致する縮尺を追加縮尺として登録し、
さらに所要時間の指定を受け付け、指定された船速で当該所要時間の間に移動する距離を前記設定距離とし、
海図の縮尺を前記追加縮尺に変更して当該海図を前記表示部の画面に表示する処理を含むことを特徴とする海図表示方法。
【請求項11】
海図が表示された表示部の画面上への2点のタッチ位置の画面上の距離を示すタッチ間距離が海図上の設定距離に一致する縮尺を追加縮尺として登録し、
さらに所要時間の指定を受け付け、指定された船速で当該所要時間の間に移動する距離を前記設定距離とし、
海図の縮尺を前記追加縮尺に変更して当該海図を前記表示部の画面に表示する処理を含むことを特徴とする海図表示プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、海図を表示する海図表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、海図を含む航海情報を表示する表示装置が開示されている。この表示装置は、タッチパネルとして構成されており、画面へのタッチ操作に基づ いて様々な処理が行われる。例えば、タッチした2本の指を画面から離さずに指同士を近づけたり離したりすることで、海図の縮尺が変更される。また、海図の 表示中に画面上の2点を指でタッチすることで、2点のタッチ位置間の海図上の距離が画面に表示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2013/051051号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、紙の海図を用いて所定の2点間の海図上の距離を測定する場合、初めに海図上の目盛り(例えば緯度目盛り)にディバイダを合わせて、ディバイダの間 隔を海図上の所定長さ(例えば1NM)に合わせる。そして、測定対象がディバイダの間隔(即ち海図上の所定長さ)の何倍に相当するかを求めて計算を行うこ とで、測定対象の海図上の距離を測定することができる。
【0005】
一方で、特許文献1のような電子海図では、上述のように海図上にタッチ操作を行うだけで測定対象の海図上の距離を測定することができる。しかし、従前の測定方法に慣れたユーザにとっては、このような操作が分かりにくいことがある。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、ディバイダを用いて行っていた距離の測定方法を電子海図上で行うことが可能な海図表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の海図表示装置が提供される。即ち、この海図表示装置は、表示部と、操作検出部と、登録処理部と、変更処理部と、を備え る。前記表示部は、画面を有し、当該画面に海図を表示する。前記操作検出部は、前記画面へのタッチ操作を検出する。前記登録処理部は、前記検出した画面へ の2点のタッチ間距離が海図上の設定距離に一致する縮尺を追加縮尺として登録する。前記変更処理部は、海図の縮尺を前記追加縮尺に変更する。
【0009】
これにより、任意の間隔の2点のタッチを用いて追加縮尺を登録することができるので、例えば指を広げたときの2本の指の間隔を用いて追加縮尺の登録を行う ことで、ユーザの手等の大きさに応じた追加縮尺で海図を表示できる。この登録された追加縮尺で海図を表示することで、ユーザの手を用いてディバイダと同様 の方法で海図上の距離を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態の海図表示装置を含む電子海図表示ネットワークシステムのブロック図。
図2】演算部が行う登録処理を示すフローチャート。
図3】設定距離又は所要時間の指定を受け付ける際の画面を示す図。
図4】タッチ間距離の登録を受け付ける際の画面を示す図。
図5】記憶部に記憶される追加縮尺及びその関連情報を示す表。
図6】演算部が行う追加縮尺への変更及び表示モードの切替え等の処理を示すフローチャート。
図7】第2表示モードで指の間隔を使って海図上の距離を測定している様子を示す図。
図8】第2表示モードで指の間隔を複数回使って海図上の距離を測定している様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、図1を参照して、電子海図表示ネットワークシステム1について説明する。図1は、本実施形態の海図表示装置20を含む電子海図表示ネットワークシステム1のブロック図である。
【0012】
電子海図表示ネットワークシステム1は、船舶に搭載されて航海に必要な各種の情報を表示するためのものである。図1に示すように、電子海図表示ネットワー クシステム1は、GPS受信機11と、AIS受信機12と、船首方位センサ13と、海図表示装置20と、を含んで構成されている。また、電子海図表示ネッ トワークシステム1を構成する各舶用機器は、舶用ネットワーク10を介して接続されている。
【0013】
舶用ネットワーク10は、同 一の船舶内の舶用機器同士で通信を行うためのネットワークである。舶用機器同士は、検出した情報等を、舶用ネットワーク10を介してやり取りすることがで きる。舶用ネットワーク10はLAN(Local Area Network)であり、具体的にはイーサネット(登録商標)、 CAN(Controller Area Network)、又は、NMEA(National Marine Electronics Association)を採用することができる。なお、GPS受信機11、AIS受信機12、及び船首方位センサ13のうち少なくとも1つについて、舶 用ネットワーク10を介してではなく、海図表示装置20と直接的にケーブル等で接続されていてもよい。
【0014】
GPS受信機11 は、GPS衛星からの測位信号を、図略のGPSアンテナを介して受信する。GPS受信機11は、この測位信号に基づいて自船の位置(詳細には、GPSアン テナの位置、地球基準の絶対位置)を求めて海図表示装置20へ送信する。なお、GPS受信機11に代えて、GPS以外のGNSS(例えば、GLONASS やGALILEO等)を用いて自船の位置を求める受信機を用いることもできる。
【0015】
AIS受信機12は、他船が送信した AIS信号を受信するように構成されている。AIS(Univeral Shipborne Automatic Identification System:船舶自動識別システム)とは、自船の位置情報や航行情報等を無線通信によって周囲に送信するシステムである。AIS受信機12は、他船が送 信したAIS信号を受信して解析することで、他船の絶対位置及び目的地等の情報(AIS情報)を取得する。AIS受信機12は、取得したAIS情報を海図 表示装置20へ送信する。AIS情報には、他船の名称、絶対位置、針路、及び目的地等が含まれている。なお、AIS信号の解析処理は、海図表示装置20側 で行ってもよい。
【0016】
船首方位センサ13は、自船の船首方位(自船の船首が向いている方向)を、地球基準の絶対的な方位で検 出するように構成されている。船首方位センサ13は、例えば磁気方位センサ、GPSコンパス、ジャイロコンパス等を利用することができる。船首方位センサ 13は、検出した船首方位を海図表示装置20へ送信する。
【0017】
海図表示装置20は、電子海図を表示するための装置である。本 実施形態の海図表示装置20は、比較的大型(例えば、画面サイズが30インチ以上又は40インチ以上)であり、表示される画面が水平方向に平行となるよう に配置される。なお、海図表示装置20は、画面サイズが30インチ未満であってもよいし、表示される画面が垂直又は垂直に近い角度で配置される構成であっ てもよい。
【0018】
また、本明細書において、水平方向とは、鉛直方向に垂直な面の他、海図表示装置20の設置先の床面に平行な面 も含む概念である。また、本明細書において、水平方向とは、厳密に鉛直方向に垂直又は床面に平行でなくても良く、例えば10°以下の角度をなしている場合 も含むものとする。また、海図表示装置20の画面の傾斜角度が変更可能な場合は、傾斜角度を変更して水平方向に向けることが可能であれば、「海図表示装置 20の画面が水平方向に平行となるように配置される」に該当するものとする。
【0019】
図1に示すように、海図表示装置20は、表示部21と、操作検出部22と、入力部23と、記憶部24と、演算部25と、を備える。
【0020】
表示部21は、電子データを図及び文字等を用いて表示可能な画面を有する部分である。表示部21は、例えば液晶ディスプレイであるが、プラズマディスプレ イ又は有機ELディスプレイ等であってもよい。本実施形態では、表示部21の画面は長方形(矩形)であるが、異なる形状(例えば正方形)であってもよい。
【0021】
操作検出部22は、表示部21の画面に配置された静電容量式等のタッチパネルである。操作検出部22は、ユーザが自身の指又は操作具等を画面にタッチさせ て行ったタッチ操作(タッチジェスチャ)を検出可能である。なお、タッチパネルに加えてハードウェアキーが配置されていてもよい。操作検出部22は、ユー ザが行ったタッチ操作に応じた(タッチ位置の変化に応じた)電気信号を出力する。
【0022】
タッチ操作としては、1点又は複数点の タッチを行う操作以外にも、例えば、「ドラッグ操作」、「ピンチ操作」、「回転操作」がある。ドラッグ操作とは、画面にタッチした指(1本又は複数本)を 画面から離さずに所定の方向へ移動させる操作である。このドラッグ操作には、海図をスクロールさせる処理が対応付けられている。ピンチ操作とは、画面に タッチした2本の指を画面から離さずに、指同士を近づける操作(ピンチイン操作)又は指同士を離す操作(ピンチアウト操作)である。このピンチ操作には、 海図の縮尺を変更する処理が対応付けられている。回転操作とは、画面に2本の指をタッチし、一方の指の周りを他方の指が回転する操作、あるいは、タッチし た2本の指を、この2本の指の中心を回転中心として回転させる操作である。この回転操作には、海図を回転させる(画面の向きに対して海図の方位を変更す る)処理が対応付けられている。
【0023】
入力部23には、操作検出部22が出力した電気信号が入力される。また、入力部23に は、操作検出部22が出力した電気信号に加えて、海図表示装置20の外部の機器が出力した信号が入力される構成であってもよい。入力部23は、具体的に は、操作検出部22が出力した信号、外部の機器が出力した信号が入力される入力ポート等である。入力部23に入力された信号に応じて、演算部25が処理を 行う。
【0024】
記憶部24は、海図情報、ユーザが登録した地点、ユーザが作成したルート、ユーザが登録した追加縮尺(詳細は後 述)、及び各種プログラム等(例えば海図表示プログラム)を記憶している。記憶部24は、ハードディスク、フラッシュメモリ(フラッシュディスク及びメモ リーカード等)、又は光ディスク等の不揮発性メモリである。記憶部24は、上記の1つのハードウェアから構成されていてもよいし、複数のハードウェアから 構成されていてもよい。例えば、海図情報のみが光ディスクに記憶され、その他の情報がハードディスクに記憶されていてもよい。
【0025】
演算部25は、FPGA、ASIC、又はCPU等の演算処理装置である。演算部25は、記憶部24等に記憶されたプログラムをRAM等に読み出して実行す ることで、海図表示装置20に関する様々な処理を実行できるように構成されている。これにより、演算部25によって、表示処理部61、登録処理部62、変 更処理部63、及び表示モード切替部64が実現される。
【0026】
表示処理部61は、入力部23に入力された信号に応じて、図3に 示すように、記憶部24に記憶された海図及びルート等を表示部21に表示する処理を行う。図3では、陸地がドットで示されており、海が無地で示されてお り、ルートが符号30で示されている。なお、本実施形態では、ルート30の作成及び表示設定等を行うメニューボタンが海図上に重畳されている。また、表示 処理部61は、GPS受信機11、AIS受信機12、及び船首方位センサ13から受信した各種情報を表示部21に表示する処理等を行う。具体的には、図3 に示すように、表示処理部61は、自船位置及び船首方位等をテキストで示した自船基本情報31と、自船位置及び船首方位を海図上にシンボルで示した自船シ ンボル32と、AIS情報から得られた他船の位置等を海図上にシンボルで示したAISシンボル33と、を表示部21に表示する。
【0027】
また、表示処理部61は、ユーザの手を用いてディバイダと同様の方法で海図上の距離を測定した結果(後述の単独測定距離56及び合計測定距離57等)を表 示する処理を行う。以下、この処理について詳細に説明する。上述したように、紙の海図を用いて海図上の距離を測定する場合、ディバイダの間隔を海図上の所 定長さに合わせた後に、測定対象がディバイダの間隔の何倍に相当するかを求めることで、測定対象の海図上の距離を測定する。一般的に、ディバイダの間隔 は、ユーザが分かり易い数値(例えば5の倍数等)に合わせられる。
【0028】
ディバイダを用いた計測方法をタッチパネル式の海図表 示装置20に適用する場合、例えば電子海図上に目盛りを表示し、その目盛りを用いて、ユーザの2本の指の間隔を海図上の所定長さに合わせる方法が考えられ る。しかし、2本の指を同じ間隔で開き続けることは困難であるため、この方法で測定する場合は測定精度が低くなり易い。特に、測定対象が指の間隔の何倍に 相当するかを求める際には、画面上で指等を動かす必要があるため、2本の指の間隔を維持できなくなって測定精度が低下する可能性がある。
【0029】
以上を考慮し、本実施形態では、既存の縮尺で示された海図上の目盛りにユーザの2本の指の間隔を合わせるのではなく、ユーザの2本の指の間隔とそれに対応 する海図上の距離とが合致する縮尺(以下、追加縮尺)で海図を表示する。これにより、ユーザは所望の指の開き方を用いて測定を行うことができるので、指の 間隔の再現性が高い指の開き方(例えば所定の2本の指を限界まで開く方法)を用いることができる。そのため、2本の指の間隔が一度維持できなくなった場合 でも、同じ間隔を再現できるため、測定精度が低下することを防止できる。
【0030】
初めに、2本の指の間隔を基準として追加縮尺を 登録する登録処理について説明する。図2は、演算部25(登録処理部62)が行う登録処理を示すフローチャートである。図3は、設定距離又は所要時間の指 定を受け付ける際の画面を示す図である。図4は、タッチ間距離の登録を受け付ける際の画面を示す図である。なお、以下ではユーザの親指と人差し指の間隔 (より詳細には指先の間隔、以下同じ)を例として説明するが、他の2本の指の間隔を用いてもよい。また、本実施形態では海図表示装置20では片手の2本の 指の間隔を用いて追加縮尺の登録を行うことを想定しているが、片手の2本の指の間隔以外であっても追加縮尺の登録は可能である。
【0031】
初めに、登録処理部62は、追加縮尺の登録を行う旨の指示を受け付けた場合(入力部23にその旨の電気信号が入力された場合)、設定距離又は所要時間の指 定を受け付ける(S101)。設定距離とは、2本の指の間隔に対応付ける海図上の距離である。所要時間とは2本の指の間隔が示す海図上の距離を移動するた めに掛かる時間である。
【0032】
具体的には、登録処理部62は、図3に示すように、設定距離又は所要時間を指定するための第1ウ インドウ50を表示部21に表示する。第1ウインドウ50には、設定距離指定欄51と所要時間指定欄52とが含まれている。設定距離と所要時間は何れか一 方のみを設定すればよい。従って、図3では、設定距離を指定する途中であるため、所要時間指定欄52がグレーアウトしている。所要時間指定欄52は、所要 時間と船速の両方を指定可能な構成であるが、船速を事前に指定しておき、所要時間指定欄52では所要時間のみを指定する方法であってもよい。設定距離、所 要時間、又は船速等の指定は、図3に示すように複数の値から所望の値を選択する方法であってもよいし、ユーザによる所望の値の入力を受け付ける方法であっ てもよい。また、設定距離を指定する方法は、数値を入力又は選択する方法に代えて、海図上の2点を選択し当該2点間の海図上の距離を設定距離とする方法で あってもよい。
【0033】
次に、登録処理部62は、タッチ間距離の受付けを行う(S102)。タッチ間距離とは、2点のタッチ位置の画面上の距離である。画面上の距離は、ピクセル数等の単位で記述されていてもよいし、mm等の単位で記述されていてもよい。
【0034】
具体的には、登録処理部62は、図4に示すように、タッチ間距離を受け付けるための第2ウインドウ53を表示する。この時点では図4の参照目盛り54は表 示されていない。ユーザは所望の指の開き方で第2ウインドウ53に2点のタッチを行う。これにより、2点のタッチ位置の間に参照目盛り54が表示される。 参照目盛り54は、前工程で指定した設定距離又は所要時間を示す目盛り及び数値である。参照目盛り54が表示されることで、前工程で指定した設定距離等と 指の間隔とが対応付けられることが直感的に把握できる。なお、参照目盛り54の表示は省略することもできる。
【0035】
また、登録 処理部62は画面への2点のタッチを同時に検出した場合であってもタッチ間距離を受付可能である。あるいは、登録処理部62は、初めに画面への1点のタッ チを検出し、当該1点目のタッチを検出している状態で画面への2点目のタッチを検出した場合であってもタッチ間距離を受付可能である。また、登録処理部 62は、2点のタッチ位置を検出した時点のタッチ間距離を受け付ける構成であってもよいし、2点のタッチ位置が検出されてその後に少なくとも一方が非検出 となった時点(即ち指を離した時点)のタッチ間距離を受け付ける構成であってもよい。また、登録処理部62は、第2ウインドウ53を表示せずに海図上で2 点のタッチを受け付ける構成であってもよい。
【0036】
次に、登録処理部62は、追加縮尺の算出及び登録を行う(S103)。追加 縮尺は、ステップS101で指定した設定距離又は所要時間と、ステップS102で受け付けたタッチ間距離と、を対応付けた縮尺である。従って、タッチ間距 離を設定距離で除する等の演算を行うことで、追加縮尺を算出できる。なお、設定距離ではなく所要時間が指定された場合は、指定した船速で所要時間の間に移 動する距離(設定距離)を求める。以上のようにして算出した追加縮尺で海図を表示することで、ステップS102で受け付けたタッチ間距離が、海図上では設 定距離等に一致する。登録処理部62は、算出した追加縮尺を記憶部24に記憶する。
【0037】
また、本実施形態では、複数の追加縮 尺の登録が可能である。図5には、記憶部24に記憶された複数の追加縮尺の例が示されている。図5に示す表には、複数のタッチ間距離(A〜C)が記載され ている。タッチ間距離はユーザの手の大きさ等によって異なるため、複数のタッチ間距離を登録可能とすることで、それぞれのユーザに応じた追加縮尺のタッチ 間距離を記憶できる。また、あるユーザの追加縮尺から、別のユーザの追加縮尺に切り替える際の処理を可能にするために、タッチ間距離毎にIDが付されてい る(IDを用いてタッチ間距離を区別する)。また、ID3では、同じタッチ間距離に複数の設定距離が登録されている。これにより、同じユーザが縮尺を大き くして短距離を測定したい場合と、縮尺を小さくして長距離を測定したい場合と、の両方に対応可能である。このように、本実施形態では、タッチ間距離又は設 定距離(所要時間)が異なる複数の追加縮尺が登録されているため、追加縮尺で海図を表示する際には、例えば追加縮尺の一覧及びID等を表示し、適用する追 加縮尺を選択可能である。
【0038】
次に、登録した追加縮尺で海図を表示する処理について図6から図8を参照して説明する。図6 は、演算部25が行う追加縮尺への変更及び表示モードの切替え等の処理を示すフローチャートである。図7は、第2表示モードで指の間隔を使って海図上の距 離を測定している様子を示す図である。図8は、第2表示モードで指の間隔を複数回使って海図上の距離を測定している様子を示す図である。
【0039】
表示モード切替部64は、縮尺を自在に変更可能な第1表示モードと、追加縮尺で海図を表示する第2表示モードと、を切替可能である。第1表示モードは一般 的な海図の表示方法であり、様々な用途に用いられる表示モードである。一方で第2表示モードは、追加縮尺で海図を表示することもあり、ユーザの手で海図上 の距離を測定することを主目的とする表示モードである。このように、本実施形態の海図表示装置20は、追加縮尺で海図を表示する表示モードを別途設け、表 示モードに応じてユーザのタッチ操作に対する処理を異ならせる構成(例えば第2表示モードではピンチ操作による縮尺の変更の無効化する等)である。
【0040】
なお、海図表示装置20は、表示モードを分けずに海図を表示する構成であってもよい。この場合、縮尺の選択時において、既存の縮尺(5万分の1、20万分 の1等の一般的な縮尺)に加えて、追加縮尺が候補として表示される。あるいは、追加縮尺を適用するための専用のボタン(例えば画面上に表示されるボタン) があってもよい。また、ピンチ操作を行って縮尺を変更する際に、追加縮尺の近傍の縮尺になった際に自動的に追加縮尺となるように設定してもよい。なお、表 示モードを分けない場合、ピンチ操作による縮尺の無効化等が行われないため、ピンチ操作を行うことで追加縮尺による海図の表示が終了することとなる。
【0041】
演算部25は、第1表示モードで海図を表示している際には、第2表示モードへの切替指示がされたか否かを判断している(S201)。第2表示モードへの切 替指示があった場合、表示モード切替部64が第2表示モードへの切替えを行うとともに、変更処理部63が縮尺を追加縮尺に変更する(S202)。なお、複 数の追加縮尺が登録されている場合は、指定された追加縮尺に変更する。また、第2表示モードでは、現在の縮尺が追加縮尺であることを分かり易くするため に、図7に示すように、設定距離目盛り55が表示される。設定距離目盛り55は、追加縮尺に対応付けられた設定距離に応じた長さである。また、設定距離目 盛り55の周囲には、設定距離(数値)、ユーザを示すID、手で計測するモードであることが分かり易くなるための手のアイコン等が表示される。これらのう ち一部のみが表示される構成であってもよい。また、設定距離ではなく所要時間が設定されている場合は所要時間が表示される。
【0042】
また、演算部25は、第2表示モードでは、ピンチ操作による縮尺変更を無効化するとともに、回転操作による海図の回転を無効化する(S203)。仮に、第 2表示モードにおいて、ピンチ操作による海図の縮尺が有効であれば、距離を測定するために海図上の2点をタッチした際に(又は距離の測定後に画面にタッチ している指等を離した際に)僅かに縮尺が変更される可能性がある。また、仮に回転操作による海図の回転が有効であれば、距離の測定時に海図が頻繁に回転す ることが考えられる。例えば、ユーザが親指及び人差し指で海図にタッチし、親指の位置を維持しつつ親指を中心に人差し指を回転させて人差し指の位置を変化 させて(ピボット回転して)折れ線状の長さを計測する場合、海図が回転する可能性がある。以上により、第2表示モードでは、ピンチ操作による縮尺の変更及 び回転操作による海図の回転を無効化している。
【0043】
また、演算部25は、第2表示モードで海図を表示している間において、 タッチ位置が2点である場合はタッチ間距離の算出を行う。以下では、海図の表示中に検出されたタッチ間距離を「検出タッチ間距離」と称する。また、ステッ プS102で受け付けたタッチ間距離(追加縮尺の登録に用いられているタッチ間距離、記憶部に記憶されているタッチ間距離)を「登録タッチ間距離」と称す る。
【0044】
演算部25は、登録タッチ間距離と近似する間隔の2点のタッチ位置を検出したか否か(検出タッチ間距離が登録タッチ 間距離に近似するか否か)を判定する(S204)。表示処理部61は、検出タッチ間距離が、登録タッチ間距離に近似していると判断したときは(ステップ S204でYesの場合は)、図7に示すように、検出されたタッチ位置の近傍に単独測定距離56を表示する(S205)。単独測定距離56は設定距離と同 じ長さを示す数値である。また、ユーザはタッチ間距離の再現性の高い方法で2本の指の間隔を登録しているが、登録時と全く同じタッチ間距離を再現すること は不可能に近いため、検出タッチ間距離が登録タッチ間距離に近似している場合でも単独測定距離56を表示する。単独測定距離56が表示されることで、ユー ザは測定対象の距離が直感的に分かり易くなる。なお、単独測定距離56は数値に加えて又は代えて目盛りを表示する構成であってもよい。また、設定距離では なく所要時間が設定されている場合は所要時間が表示される。なお、設定距離と所要時間の両方を表示する構成であってもよい。
【0045】
また、演算部25は、登録タッチ間距離と近似する間隔の2点のタッチ位置を連続して検出したか否かを判定する(S206)。具体的には、演算部25は、 (1)連続して検出された検出タッチ間距離が、何れも登録タッチ間距離に近似していることと、(2)連続して検出されたタッチ位置が連続していること(例 えば3回のタッチがされる場合は、1回目のタッチの2点目の位置と、2回目のタッチの1点目の位置とが一致し、更に、2回目のタッチの2点目の位置と3回 目のタッチの1点目の位置が一致すること)の判定を行う。表示処理部61は、これらの両方を満たすと判断した場合、連続して検出された検出タッチ間距離の 合計に相当する合計測定距離57を図8に示すように表示する(S207)。また、設定距離ではなく所要時間が設定されている場合は所要時間の合計が表示さ れる。なお、設定距離の合計と所要時間の合計との両方を表示する構成であってもよい。
【0046】
また、演算部25は、第1表示モー ドへの切替指示があるか否かを判断している(S208)。演算部25は、第1表示モードへの切替指示があった場合は、表示モード切替部64が第1表示モー ドへの切替えを行うとともに、ピンチ操作による縮尺変更を有効化するとともに、回転操作による海図の回転を有効化する(S209)。そして、また、ステッ プS201の判断を行う。
【0047】
以上に説明したように、本実施形態の海図表示装置20は、表示部21と、操作検出部22と、登 録処理部62と、変更処理部63と、を備え、海図表示プログラムが実行されることで本発明の海図表示方法が実現される。表示部21は、画面を有し、画面に 海図を表示する。操作検出部22は、画面へのタッチ操作を検出する。登録処理部62は、画面への2点のタッチ間距離が海図上の設定距離に一致する縮尺を追 加縮尺として登録する。変更処理部63は、海図の縮尺を追加縮尺に変更する。
【0048】
これにより、任意の間隔の2点のタッチを用 いて追加縮尺を登録することができるので、例えば手を広げたときの2本の指の間隔を用いて追加縮尺の登録を行うことで、ユーザの手等の大きさに応じた追加 縮尺で海図を表示できる。この登録された追加縮尺で海図を表示することで、ユーザの手を用いてディバイダと同様の方法で海図上の距離を測定することができ る。
【0049】
また、本実施形態の海図表示装置20において、登録処理部62は、距離の指定を受け付け、当該指定された距離を設定距離とする。
【0050】
これにより、所望の距離が入力されたり選択されたりすることで、ユーザが望む設定距離を用いて追加縮尺を登録できる。
【0051】
また、本実施形態の海図表示装置20において、登録処理部62は、所要時間の指定を受け付け、指定された船速で当該所要時間の間に移動する距離を設定距離とする。
【0052】
これにより、所望の所要時間が入力されたり選択されたりすることで、ユーザが望む所要時間を用いて追加縮尺を登録できる。
【0053】
また、本実施形態の海図表示装置20において、表示モード切替部64は、第1表示モードと、第2表示モードと、の切替えを行う。第1表示モードは、海図を 表示し、画面へのピンチ操作による縮尺の変更を受け付ける。第2表示モードは、追加縮尺で海図を表示し、ピンチ操作による縮尺の変更を受け付けない。
【0054】
これにより、第2表示モードで海図を表示して、ユーザが手を用いて海図上の距離を測定している際に、意図せずに縮尺が追加縮尺から変更されることを防止できる。
【0055】
また、本実施形態の海図表示装置20において、第1表示モードでは、画面への回転操作による海図の回転を受け付ける。第2表示モードでは、画面への回転操作による海図の回転を受け付けない。
【0056】
これにより、ユーザが手を用いて海図上の距離を測定している際に、意図せずに海図が回転することを防止できる。
【0057】
また、本実施形態の海図表示装置20において、表示処理部61は、追加縮尺で海図を表示している場合において、操作検出部22が検出した2点のタッチ間距 離である検出タッチ間距離が、登録処理で受け付けた2点のタッチ間距離である登録タッチ間距離に近似していると判断したときは、検出されたタッチ位置の近 傍に、設定距離及び当該設定距離の移動に掛かる所要時間の少なくとも一方を表示する。
【0058】
これにより、登録処理で受け付けた 指の間隔等でタッチすることで設定距離等が表示されるので、ユーザが手を用いて海図上の距離を測定し易くなる。特に、検出タッチ間距離が登録タッチ間距離 と僅かに異なっている場合でも設定距離を表示することで、測定対象が設定距離等の何倍に相当するか等の測定が容易となる。
【0059】
また、本実施形態の海図表示装置20において、表示処理部61は、連続して検出された検出タッチ間距離が、何れも登録タッチ間距離に近似しており、検出さ れたタッチ位置が連続している場合は、連続して検出された検出タッチ間距離の合計に相当する設定距離及び所要時間の少なくとも一方を表示する。
【0060】
これにより、測定対象が設定距離等の何倍に相当するか等の測定が一層容易となる。
【0061】
また、本実施形態の海図表示装置20は、複数の追加縮尺を記憶する記憶部24を備える。変更処理部63は、海図の縮尺を、複数の追加縮尺のうち指定された追加縮尺に変更する。
【0062】
これにより、追加縮尺を記憶することで登録処理を毎回行う必要がない。特に、複数の追加縮尺を記憶することで、登録するユーザ、指の広げ方、及び縮尺等が異なる追加縮尺を事前に登録できるので、それ以降は登録処理が不要となる。
【0063】
また、本実施形態の海図表示装置20において、記憶部24には、1つのタッチ間距離に対して複数の設定距離が登録されている。
【0064】
これにより、ユーザが手を用いて海図上の長い距離を測定したい場合と短い距離を測定したい場合との両方に対応することができる。
【0065】
また、本実施形態の海図表示装置20において、記憶部24には、複数のタッチ間距離に対してそれぞれ設定距離が登録されている。
【0066】
これにより、例えば複数のユーザの指の間隔を登録できるので、複数のユーザが海図表示装置20を使用する場合であっても、それぞれのユーザが手を用いて海図上の距離を測定できる。
【0067】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0068】
図2及び図6のフローチャートの記載は一例であり、処理の順序を入れ替えたり、一部の処理を省略したり、他の処理を追加したりすることもできる。例えば、 ステップS101とステップS102の処理の順序を入れ替えてもよい。この場合、先にタッチ間距離を受け付け、当該タッチ間距離に対応させる設定距離又は 所要時間を次に指定することとなる。
【0069】
上記実施形態では、海図表示装置20は画面が水平面と平行となるように配置されているが、異なる角度で配置される構成であってもよい。
【0070】
上記実施形態では、主として電子海図を表示する海図表示装置に本発明を適用する例を説明したが、電子海図に加えてレーダ映像、魚群探知機の映像等を表示可能な表示装置にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0071】
20 海図表示装置
21 表示部
22 操作検出部
23 入力部
24 記憶部
25 演算部
61 表示処理部
62 登録処理部
63 変更処理部
64 表示モード切替部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8