(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874148
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】運動用ボール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A63B 41/00 20060101AFI20210510BHJP
A63B 45/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
A63B41/00 B
A63B45/00 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-550992(P2019-550992)
(86)(22)【出願日】2018年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2018038039
(87)【国際公開番号】WO2019082685
(87)【国際公開日】20190502
【審査請求日】2020年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2017-207317(P2017-207317)
(32)【優先日】2017年10月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594001801
【氏名又は名称】株式会社ミカサ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】藤倉 隆志
(72)【発明者】
【氏名】砂盛 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】浜本 明典
【審査官】
吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−005345(JP,A)
【文献】
特開昭62−298379(JP,A)
【文献】
特開昭58−116371(JP,A)
【文献】
特開昭49−094428(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0256477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 41/00
A63B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気を封入する球形中空体のゴム製ブラダー、該ゴム製ブラダーの表面に均一にフィラメント糸を巻き付けて形成された糸巻き補強層を含む、運動用ボールであって、巻き糸として30〜50デニールのナイロンフィラメントの2本片撚りで撚り数が1800〜2000T/mであるナイロンフィラメント糸を用いることを特徴とする運動用ボール。
【請求項2】
圧縮空気を封入する球形中空体のゴム製ブラダー、該ゴム製ブラダーの表面に均一にフィラメント糸を巻き付けて形成された糸巻き補強層を含む、運動用ボールであって、巻き糸として30〜50デニールのナイロンフィラメントの2本片撚りで撚り数が1800〜2000T/mであるナイロンフィラメント糸を用いる運動用ボールの製造方法であって、糸巻き補強層を形成するに当たって、巻き糸にゴム糊をバインダーとして糸巻き時に同時塗布し、巻き糸へのゴム糊の同時吹き付けを行い、糸巻きを終えて、糸を切断後、ゴム糊のみの吹付けを更に行い、かくして、巻き糸をゴム糊で覆い、乾燥後、金型内で加熱加硫してカーカスを形成し、その表面にゴム系接着剤を塗布し、天然又は人工皮革パネル若しくは発泡シートパネルを接着する、運動用ボールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃値を従来の糸巻きボールより低くするようにした運動用ボールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運動用ボールには、圧縮空気を封入する球形中空体のゴム製ブラダーの表面に、糸巻き補強層を設け、その上にカバーゴムシートを設けて加硫成形し、その表面に表皮を接着した「貼りボール」と称されるボールと、複数のパネルを縫着し、ゴム製ブラダーの表面に被せた「縫いボール」と称されるボールの2種類があるが、球技に使用されるボールは、耐久性に優れた糸巻き補強の「貼りボール」である。
【0003】
「貼りボール」の代表的な構成は、圧縮空気を封入するゴム製ブラダーの表面に、50D(デニール)〜100Dのナイロンまたはポリエステルのフィラメント糸を均一に巻き付けて糸巻き補強層を形成し、該補強層の上に天然ゴムやクロロプレンゴム等の未加硫ゴムシートを貼着し、それを金型内で加硫成形して得られたカーカスの表面にパネルの形態の天然皮革あるいは人工皮革を表皮材として接着したものである。未加硫ゴムシートを貼着し、そのまま加硫するといわゆるゴムボールとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−47109
【特許文献2】特開2000−5345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の「貼りボール」は、球形安定性、耐久性に優れているが、未加硫ゴムシートの金型内での加硫成形時、糸巻き補強層が圧縮硬化し、ゴムシートと共に硬い積層構造となり、そのため、「縫いボール」に比べ、ボールの触感が硬く、痛く、競技者の手や足に対する衝撃が大きなものとなっていた。
【0006】
前記ゴムシートは、弾性及び柔軟性を得ると共に、撚糸太さから表出するカーカス表面粗さを最少にする要素もあるが、競技規則の重量規定により厚く出来ず、巻き糸選定の制約になっていた。そのため、巻き糸は、撚り数を甘撚りにする事でミラースルー対策としていたが、ゴムシートの伸びはフィラメントに近い性状を示し硬さ、痛さの要因の1つとつとなっていた。糸巻き補強の長所を有しながら、触感が柔らかく、痛くないボールの開発が望まれていた。
【0007】
本発明の目的は、衝撃値が従来の糸巻きのものに対して低く、ソフトな皮革ボールなどの貼りボールよりなる運動用ボールの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の
運動用ボールは、圧縮空気を封入する球形中空体のゴム製ブラダー、該ゴム製ブラダーの表面に均一にフィラメント糸を巻き付けて形成された糸巻き補強層を含む、運動用ボールであって、巻き糸として30〜50デニールのナイロンフィラメントを2本片撚りで
撚り数が1800〜2000T/mであるナイロンフィラメント糸を用いることを特徴としている。
【0010】
本発明
の運動用ボールの製造方法は、
圧縮空気を封入する球形中空体のゴム製ブラダー、該ゴム製ブラダーの表面に均一にフィラメント糸を巻き付けて形成された糸巻き補強層を含む、運動用ボールであって、巻き糸として30〜50デニールのナイロンフィラメントの2本片撚りで撚り数が1800〜2000T/mであるナイロンフィラメント糸を用いる運動用ボールの製造方法であって、糸巻き補強層を形成するに当たって、巻き糸にゴム糊をバインダーとして糸巻き時に同時塗布し、巻き糸へのゴム糊の同時吹き付けを行い、糸巻きを終えて、糸を切断後、ゴム糊のみの吹付けを更に行い、かくして巻き糸をゴム糊で覆い、乾燥後、金型内で加熱加硫してカーカスを形成し、その表面にゴム系接着剤を塗布し、天然又は人工皮革パネル若しくは発泡シートパネルを接着する。
【0011】
本発明によれば、巻き糸へのゴム糊の同時吹き付けと、糸巻を終えて、糸を切断後、ゴム糊のみの吹付けとを行うことにより、巻き糸にゴム糊を塗布するだけでは、糸目の閉じ込めゴム糊量が不足し、そのため、糸目が製品表面に現れる、ミラースルーと呼ばれる現象を抑えることができる。
【0012】
本発明によれば、強撚りしたナイロンフィラメント糸はブラダー表面上で互いに交錯し、加硫後はゴムによって横ズレを起こす事なく絡み合った状態で固定される。
【0013】
従来使用されていたナイロンフィラメント糸は、撚り数が500T/m以下のいわゆる甘撚りの糸であるのに対し、本発明では、撚り数が1800〜2000T/mの、いわゆる強撚りのナイロンフィラメント糸が使用される。甘撚りのナイロンフィラメント糸はブラダーに注入される圧縮空気により、撚りが引き伸ばされ、フィラメント糸に近い性状を示すが、強撚りしたナイロンフィラメント糸は甘撚りに比べ高いストレッチ性(
図1)を示し、糸波状衝撃吸収性能を保つと同時に球中心に向かう力に対しては糸波状屈曲柔軟性能を発揮する事を見出した(
図2)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図5は、本発明の運動用ボールの構造が示されている。その製造方法としては、まず、ブチルゴムなどの空気透過性の小さいゴムで、球形中空体のプラダー2を形成し、ブラダー内に圧縮空気を注入する。このゴム製ブラダーの表面に、従来のものよりもやや細いナイロンフィラメント糸を均一に巻き付けて糸巻き補強層3を形成する。巻き糸1として30〜50デニールのナイロンフィラメントを2本1−a,1−b片撚りで強撚りしたナイロンフィラメント糸が用いられる。
【0016】
巻き糸にゴム糊4をバインダーとして糸巻き時に同時塗布し、好ましくは、糸巻き開始の少し後から巻き糸へのゴム糊の同時吹き付けを行い、糸巻きを終えて、糸を切断後、更にゴム糊4のみの吹付けを行う。ゴム糊の吹き付けは、巻き糸にゴム糊を塗布するだけでは、糸目の閉じ込めゴム糊量が不足し、そのため、糸目が製品表面に現れる、ミラースルーと呼ばれる現象を抑えるのに有効である。かくして、巻き糸がゴム糊4で覆われた糸巻き補強層3を得てからこれを乾燥した後、金型内で加熱加硫してカーカスを形成し、その表面にゴム系接着剤を塗布し、天然又は人工皮革ラネル若しくは発泡シートパネルを表皮材5として接着し運動用ボールとする。
【実施例】
【0017】
本発明の運動用ボールの製造方法は、種々のボールに適用できるが、代表的なものとしてバレーボールの製造について以下詳細に説明する。
【0018】
ゴム製のブラダーは、ブチルゴムからできていて、球形中空体に成形され、ブラダー内に圧縮空気が注入される。かくして得られたゴム製のブラダー表面に、従来のナイロンフィラメン糸よりも、ストレッチ性の高いナイロンフィラメント糸を均一に巻き付け、糸巻き補強層を形成する。巻き糸は、30デニールのナイロンフィラメントを2本片撚りで1m当たり1800〜2500回撚った、いわゆる強撚したナイロンフィラメント糸であり、巻き付ける巻き糸の量は、約15グラムである。
【0019】
糸巻きと同時に巻き糸にゴム糊を塗布し、糸巻き開始の少し後から更にゴム糊を粒子状に吹き付け、糸同士の間隙を充填する。加えて、糸巻きを終えて、糸を切断後、更にゴム糊のみの吹付けを行う。常温乾燥により巻き糸ズレ防止後、加硫成形を行う。加硫成形を行なう金型は、内面にバレーボール表面の皮革パネルの輪郭に合わせた浅溝を有し、その金型内に、乾燥した糸巻き補強層を有するブラダーを入れ、温度120〜135℃、時間4〜6分、ブラダー内に8〜9kg/cm2の圧縮空気を注入し、金型加硫成形を行う。
【0020】
30デニールと細いフィラメント糸を糸巻き補強層の形成に使用しているが、強撚する事で糸量は確保されており、耐久性を維持する事が出来る。
【0021】
上記の金型加硫成形を行う事で、糸巻き補強層の巻き糸はゴムにより、強撚糸の特徴である高いストレッチ性が失われる事なく固定され、柔軟な屈曲性を持つ補強層を形成する。
【0022】
加硫成形後、金型より取り出したカーカスの表面には、バレーボール表面の皮革パネルの輪郭が表出している。該模様に合わせて、天然ゴム或いはクロロプレンゴム系からなる接着剤でカーカス表面に人工皮革パネルを接着し、バレーボールを製品として形成する。
【0023】
サッカーボールおよびバスケットボールの場合には、いずれも、糸巻き補強層を形成する巻き糸は、50デニールのナイロンフィラメントを2本片撚りで強撚りしたナイロンフィラメント糸であるが,糸巻き量が前者すなわちサッカーボールの場合は約25グラム、後者すなわちバスケットボールの場合は、約30グラムである。
【0024】
本発明に係るバレーボールは、金型加硫によりストレッチ性の高い糸をゴム糊ラテックスと共に熱固定する事で高いスプリング効果を持つ糸巻き補強層を得る事が出来る。糸巻き補強の長所である球形安定性や耐久性を有しながら、従来のものよりも衝撃値を小さくする事が出来る。その効果の一例を示すと、
図3の衝撃力測定グラフの通りである。グラフはボールを1mの高さからフォースプレート上に自然落下させ、ボールの空気圧を0.2〜0.4kg/cm
2に変えた場合の衝撃力の変化を示したもので、本発明に係るバレーボールは、従来品よりも14%〜17%小さくなっている。
【0025】
耐久性については、耐久試験機による評価で従来品と同等の寿命を確認している。1万回以後、肥大は押さえられており、実用耐久性は確保されている(
図4参照)。耐久試験機とは二つの回転するローラーに挟まれたボールが時速50kmで1.5m先の鉄板に繰り返し打ち当てる試験装置で、射出される際にボール直径の1/3ほど圧縮される。この動作を繰り返す事で、ボールに疲労を与え、肥大度(周囲径)を測定するものである。
以上の通り、本発明により従来品よりも触感が柔らかく、痛くない、はずみの良いバレーボールとする事が出来る。サッカーボールおよびバスケットボールに付いても同じような効果が得られている。
【符号の説明】
【0026】
1 撚糸加工後のナイロンフィラメント糸(Z撚り)
1- a S撚りナイロンフィラメント
1- b S撚りナイロンフィラメント
2 ブラダー
3 糸巻き補強層
4 ゴム糊
5 表皮材