特許第6874152号(P6874152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874152
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】香味吸引物品
(51)【国際特許分類】
   A24D 3/17 20200101AFI20210510BHJP
   A24D 3/16 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A24D3/17
   A24D3/16
【請求項の数】10
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2019-556489(P2019-556489)
(86)(22)【出願日】2017年11月30日
(86)【国際出願番号】JP2017043131
(87)【国際公開番号】WO2019106798
(87)【国際公開日】20190606
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】宮内 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉村 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】木戸 祐一郎
【審査官】 木村 麻乃
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−510266(JP,A)
【文献】 特開平02−273169(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132251(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A24D 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET比表面積が1050m/g以上であり、かつラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比が0.85以上である活性炭を含む香味吸引物品。
【請求項2】
前記活性炭は、Boehm法により測定される、カルボキシル基、ラクトン型カルボキシル基、フェノール性水酸基およびカルボニル基からなる含酸素官能基の量が0.6mmol/g以上である請求項1に記載の香味吸引物品。
【請求項3】
前記活性炭は、0.5cm/g以上の細孔容積を有する請求項1または2に記載の香味吸引物品。
【請求項4】
前記活性炭は、Boehm法により測定される、ラクトン型カルボキシル基およびフェノール性水酸基の合計量が0.3mmol/g以上である請求項1〜3の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項5】
前記活性炭は、Boehm法により測定されるカルボキシル基の量が0.12mmol/g以下である請求項1〜4の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項6】
前記活性炭は、前記BET比表面積が1050〜1600m/gである請求項1〜5の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項7】
前記活性炭は、植物性材料に由来する植物系活性炭である請求項1〜6の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項8】
前記活性炭は、ヤシ殻に由来するヤシ殻系活性炭である請求項1〜7の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項9】
前記活性炭は、
有機材料を炭化および賦活化して、原料活性炭を得ることと、
前記原料活性炭を気相酸化法により酸化することと
を含む方法により製造される請求項1〜8の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【請求項10】
前記香味吸引物品はフィルタを含み、前記活性炭は前記フィルタに含まれる請求項1〜9の何れか1項に記載の香味吸引物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香味吸引物品に関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザがたばこ香味を味わう吸引物品として、たばこ香味源を燃焼させることによりたばこ香味をユーザに提供する燃焼型喫煙物品、たばこ香味源を燃焼させることなく加熱することによりたばこ香味をユーザに提供する加熱型香味吸引物品、およびたばこ香味源を加熱も燃焼もしないで、たばこ香味源のたばこ香味をユーザに提供する非加熱型香味吸引物品が知られている。本明細書において、ユーザがたばこ香味等の香味を味わう吸引物品を総称して「香味吸引物品」と称する。
【0003】
香味吸引物品は、一般に、香味源に由来する成分を濾過するためのフィルタを備え、フィルタは、吸着剤として活性炭を含んでいる(例えば、国際公開第2008/146543号を参照)。活性炭を含むフィルタは、チャコールフィルタと呼ばれ、当該技術分野で周知である。チャコールフィルタにおいて、活性炭は、雑味成分を吸着するが、香味に寄与する成分を吸着しすぎることがないように、製品の仕様に合わせて、その添加量が決められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
活性炭は、比表面積や細孔容積が増大すると吸着性能が高まることが知られている。しかし、活性炭の比表面積や細孔容積が増大するにつれて、細孔(微細な空孔)が増えるため活性炭の強度は低下する。このため、活性炭の吸着性能と強度とを両立させることは難しいことに本発明者らは着目した。
【0005】
一方、近年の香味吸引物品の製造は高速化しており、製造過程で活性炭にかかる負荷は増加している。活性炭にかかる負荷が増加すると、活性炭の破砕が起こり、香味吸引物品に添加される量が不均一になるおそれがある。活性炭の添加量を均一に保つことは、物品毎の香味を均一に保つ上で重要である。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、吸着性能に優れているとともに形状的に安定である活性炭を含む香味吸引物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一つの側面によれば、BET比表面積が1050m/g以上であり、かつラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比が0.85以上である活性炭を含む香味吸引物品が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、吸着性能に優れているとともに形状的に安定である活性炭を含む香味吸引物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る燃焼型喫煙物品の断面図。
図2】第2実施形態に係る燃焼型喫煙物品の断面図。
図3】細孔分布曲線を示すグラフ。
図4】細孔分布曲線を示すグラフ。
図5】ラマンスペクトルの測定結果を示すグラフ。
図6】ラマンスペクトルの測定結果を示すグラフ。
図7】ラマンスペクトルの測定結果から算出したG/D比を示すグラフ。
図8】熱重量・示差熱分析の結果を示すグラフ。
図9】含酸素官能基量の測定結果を示すグラフ。
図10】アンモニア吸着量を示すグラフ。
図11】アンモニアの物理吸着量およびアンモニアの化学吸着量を示すグラフ。
図12図11の吸着等温線をDAプロットで示したグラフ。
図13】たばこ主流煙中のアンモニアの低減率を示すグラフ。
図14】たばこ主流煙中の蒸気成分の低減率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本出願人は、活性炭に液相酸化処理を行うと、高濃度の含酸素官能基を活性炭表面に導入することができるが、活性炭のBET比表面積が減少して吸着能が低下することを報告している(日本国特開2010−193718号公報)。このように、活性炭表面に含酸素官能基を導入すると、炭素のπ電子共役結合が破壊されてSP結合の欠陥が増加するため、ラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度(これは、炭素のグラフェン構造の欠陥の指標である)が増大すると考えられる。
【0011】
このような技術常識に反し、本発明者らが、所定のBET比表面積を有する活性炭に、気相酸化処理を行ったところ、含酸素官能基の導入に加えて、活性炭のBET比表面積が増大し、更に、ラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度が維持されるかまたは減少することを新たに見出した。かかる発見に基づいて、本発明者らは、吸着性能に優れているとともに形状的に安定である活性炭を含む香味吸引物品を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、BET比表面積が1050m/g以上であり、かつラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(以下、G/D比ともいう)が0.85以上である活性炭を含む香味吸引物品に関する。
【0013】
本明細書において、香味吸引物品は、香味源を含み、香味源に由来する香味をユーザが味わう任意の吸引物品であり、具体的には、香味源を燃焼させることにより香味をユーザに提供する燃焼型喫煙物品、香味源を燃焼させることなく加熱することにより香味をユーザに提供する加熱型香味吸引物品、および香味源を加熱も燃焼もしないで、香味源の香味をユーザに提供する非加熱型香味吸引物品が挙げられる。
【0014】
以下、たばこ香味源を含む燃焼型喫煙物品の代表例であるシガレットについて説明する。
【0015】
1.燃焼型喫煙物品
燃焼型喫煙物品の一例を、図1を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係る燃焼型喫煙物品1の断面図である。図1に示す燃焼型喫煙物品1は、シガレットである。
図1に示す燃焼型喫煙物品1は、
たばこ香味源10aとたばこ香味源10aの周囲を巻装するたばこ巻紙10bとを含むたばこロッド10と、
互いに離間し中空部を介して配置された2つのフィルタプラグ21であって、各フィルタプラグ21は、濾材21aと濾材21aの周囲に巻かれたプラグ巻取紙21bとを含むフィルタプラグ21と、2つのフィルタプラグ21の間に中空部を形成するようにフィルタプラグ21の周囲に巻かれたフィルタ成形紙22と、中空部に位置する活性炭23とを含むフィルタ20と、
たばこロッド10とフィルタ20とを接続するようにたばこロッド10とフィルタ20上に巻かれたチップペーパー30と
を含む。
【0016】
図1に示す燃焼型喫煙物品1では、2つのフィルタプラグ21が1つの中空部を介して配置されているが、n個(nは2以上の整数)のフィルタプラグが(n−1)個の中空部を介して配置されていてもよく、例えばnは2〜4であり、好ましくはnは2〜3であり、より好ましくはnは2である。
【0017】
図1に示す燃焼型喫煙物品において、たばこロッド10、活性炭23以外のフィルタ20の構成要素、およびチップペーパー30は、従来公知のものを使用することができる。活性炭23としては、以下に説明するものを使用することができる。
【0018】
活性炭23は、BET比表面積が1050m/g以上であり、かつラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比が0.85以上である。
【0019】
本明細書において「BET比表面積」は、BET吸着等温式(Brunauer,Emmet and Teller’s equation)を利用して得られる比表面積を意味している。活性炭23のBET比表面積は、1050〜1600m/gであることが好ましく、1150〜1600m/gであることがより好ましく、1150〜1300m/gであることがさらに好ましい。BET比表面積が小さすぎる場合、活性炭23は、優れた吸着性能を発揮することが困難である。また、BET比表面積が大きすぎる場合、活性炭23の吸着性能は高まるが、形状的な安定性が低下する虞がある。
【0020】
本明細書において「Gバンド」は、ラマン分光測定によって得られるラマンスペクトルにおいて、1600cm−1付近に検出されるピークであり、Gバンドは、炭素のグラフェン構造に由来する。また、「Dバンド」は、ラマン分光測定によって得られるラマンスペクトルにおいて、1300cm−1付近に検出されるピークであり、Dバンドは、炭素のグラフェン構造の欠陥に由来する。従って、ラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(以下、G/D比ともいう)が大きい活性炭は、高度に結晶化しており、構造の欠陥が少なく、形状的に安定な傾向にある。ラマンスペクトルは、例えば、顕微レーザーラマンNicolet Almega XR(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて取得することができる。
【0021】
活性炭23のG/D比は、0.85〜1.1であることが好ましく、0.9〜1.1であることがより好ましい。G/D比が小さすぎる場合、活性炭23は、優れた形状安定性を達成することは困難である。G/D比の上限は、活性炭の製造上の限界により設定される。
【0022】
活性炭23は、例えば、200μm〜1000μmの平均粒径、好ましくは300μm〜700μmの平均粒径、より好ましくは400μm〜600μmの平均粒径を有する。ここで、「平均粒径」は、レーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布において、体積積算値が50%となる粒径(d50)を意味する。
【0023】
活性炭23の細孔容積は、0.5cm3/g以上であることが好ましく、0.5〜0.8cm3/gの範囲内にあることがより好ましく、0.52〜0.74cm3/gの範囲内にあることがさらに好ましい。細孔容積が小さすぎる場合、活性炭23は、優れた吸着性能を発揮することが困難である。細孔容積が大きすぎる場合、活性炭23の吸着性能は高まるが、形状的な安定性が低下する虞がある。
【0024】
本明細書において「細孔容積」は、約40nm以下の細孔直径を有する細孔の容積の合計値を意味する。細孔容積は、温度77Kで測定した窒素吸着等温線において、相対圧P/Pが0.95のときの窒素吸着量から算出した値である。
【0025】
窒素吸着等温線は、以下のようにして求めることができる。まず、77K(窒素の沸点)の窒素ガス中で、窒素ガスの圧力P(mmHg)を徐々に高めながら、各圧力P毎に、活性炭の窒素ガス吸着量(mL/mL)を測定する。次いで、圧力P(mmHg)を窒素ガスの飽和蒸気圧P(mmHg)で除した値を相対圧P/Pとして、各相対圧P/Pに対する窒素ガス吸着量をプロットすることにより吸着等温線を得ることができる。窒素吸着等温線は、例えば、ガス吸着量測定装置AutoSorb−1(Quantachrome社製)を用いて取得することができる。
【0026】
活性炭23の細孔容積のうち、細孔直径2nm未満の細孔の容積(すなわち、マイクロ孔容積)は、0.4cm3/g以上であることが好ましく、0.4〜0.7cm3/gの範囲内にあることがより好ましく、0.4〜0.6cm3/gの範囲内にあることがさらに好ましい。活性炭23が、上述した大きさでマイクロ孔容積を有していると、優れた吸着性能を達成する上で特に有利である。
【0027】
本明細書において「マイクロ孔容積」は、窒素吸着等温線から、急冷固体密度汎関数理論(QSDFT)法で細孔分布解析を行い、算出した値である。
【0028】
燃焼型喫煙物品等の香味吸引物品の雑味を低減するためには、活性炭23は、現在、香味吸引物品の吸着剤として使用されている活性炭(以下、現行炭ともいう)の吸着性能を維持しながら、塩基性成分を特異的に吸着することが望まれている。そこで、Boehm法により測定される全含酸素官能基のなかでも、活性炭23は、その表面に、以下からなる含酸素官能基を有していることが好ましい。すなわち、活性炭23は、Boehm法により測定される、カルボキシル基(および無水カルボン酸基)(Group I)、ラクトン型カルボキシル基(およびラクトン基)(Group II)、フェノール性水酸基(Group III)およびカルボニル基あるいはキノン基(Group IV)からなる含酸素官能基を有していることが好ましい。
【0029】
【化1】
【0030】
活性炭23が、塩基性成分を特異的に吸着するためには、現行炭の細孔構造を維持しながら全含酸素官能基の量が多いほうが望ましいが、カルボキシル基(および無水カルボン酸基)(Group I)は強い酸性であるため、燃焼型喫煙物品の保存中や喫煙時にフィルタ内で望ましくない酸塩基反応や触媒作用が生じて副生成物が生じる懸念がある。したがって、活性炭23は、塩基性成分の吸着に寄与する弱酸性の含酸素官能基を有することが特に好ましい。
【0031】
活性炭23は、Boehm法により測定される、カルボキシル基、ラクトン型カルボキシル基、フェノール性水酸基およびカルボニル基からなる含酸素官能基の量が0.6mmol/g以上であることが好ましく、0.6〜2.0mmol/gであることがより好ましく、1.0〜2.0mmol/gであることがさらに好ましい。本明細書において含酸素官能基の量は、活性炭1gあたりのモル量により表される。活性炭23が、含酸素官能基を上述した量で含むと、香味吸引器の吸引時にユーザにより吸引される流体から塩基性成分(例えばアンモニア)を選択的に吸着して除去する上で有利である。
【0032】
Boehm法は、公知の酸塩基滴定法であり、詳細は、後述の実施例に記載される。
【0033】
また、活性炭23は、Boehm法により測定される、ラクトン型カルボキシル基およびフェノール性水酸基の合計量が0.3mmol/g以上であることが好ましく、0.3〜2.0mmol/gであることがより好ましく、0.4〜2.0mmol/gであることがさらに好ましい。
【0034】
さらに、活性炭23は、Boehm法により測定されるカルボキシル基の量が0.12mmol/g以下であることが好ましく、0.01〜0.12mmol/gであることがより好ましい。
【0035】
活性炭23は、後述するとおり、所定のBET比表面積を有する原料活性炭に気相酸化処理を施すことにより製造することができる。このように製造された活性炭23は、活性炭の表面に多量の含酸素官能基を有するが、含酸素官能基のうちラクトン型カルボキシル基(Group II)およびフェノール性水酸基(Group III)を比較的多量に有し、含酸素官能基のうちカルボキシル基(Group I)を比較的少量しか有していないという特徴を有する。
【0036】
活性炭23は、
有機材料を炭化および賦活化して、原料活性炭を得ることと、
前記原料活性炭を気相酸化法により酸化することと
を含む方法により製造することができる。
【0037】
有機材料としては、活性炭の原料として使用される公知の有機材料を使用することができ、例えば、植物性材料を用いることができる。植物性材料は、例えば、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、木材、木炭、竹などであり、典型的には、ヤシ殻である。
【0038】
まず、上述した有機材料を炭化および賦活化して、原料活性炭を得る。原料活性炭は、活性炭を製造するための公知の方法に従って製造することができる。具体的には、原料活性炭は、BET比表面積が、好ましくは400〜1400m/g、より好ましくは1000〜1400m/gとなるように製造する。原料活性炭のBET比表面積が上記範囲内にあると、製造される活性炭23が、高い吸着性能および高い形状的な安定性を有することにつながる。
【0039】
原料活性炭は、有機材料に炭化処理を行った後、炭化された有機材料にガス賦活法による賦活処理を行って製造してもよいし、有機材料に薬品賦活法による賦活処理を行って、炭化と賦活を同時に行って製造してもよいし、有機材料にマイクロ波加熱法による賦活処理を行って、炭化と賦活を同時に行って製造してもよい。
【0040】
あるいは、上述の原料活性炭は、商業的に入手可能な活性炭を用いてもよい。この場合、活性炭23は、原料活性炭を気相酸化法により酸化することを含む方法により製造することができる。
【0041】
気相酸化法による酸化処理は、例えば、原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、例えば500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって処理することにより行うことができる。酸化処理は、後述の実施例に記載されるとおり、連続式の酸化処理により行ってもよいし、あるいはバッチ式の酸化処理により行ってもよい。酸化処理の温度が高すぎると、原料活性炭の過剰な賦活が進行し、活性炭の強度が低下するため、好ましくない。
【0042】
このように、活性炭23は、好ましくは、液相酸化法による酸化処理の条件と比べて穏やかな条件の下で、具体的には、原料活性炭の更なる賦活が顕著に進行しない条件の下で、原料活性炭に気相酸化処理を行うことにより製造することができる。
【0043】
好ましい態様において、活性炭23は、
有機材料を炭化および賦活化して、1000〜1400m/gのBET比表面積を有する原料活性炭を得ることと、
前記原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって酸化処理することと
を含む方法により製造することができる。
【0044】
あるいは、原料活性炭として、商業的に入手可能な活性炭を用いた場合、活性炭23は、1000〜1400m/gのBET比表面積を有する原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって酸化処理することを含む方法により製造することができる。
【0045】
活性炭23は、従来のチャコールフィルタで採用される添加量で、フィルタ20に組み込むことができる。フィルタ20が、17〜31mmの長さおよび14.7〜25.8mmの円周を有する場合、活性炭23は、例えば、フィルタあたり20〜80mgの量で、フィルタ20に組み込むことができる。
【0046】
活性炭23が組み込まれる部位は、香味吸引器の吸引時にユーザにより吸引される流体(例えば、主流煙、エアロゾル、空気など)の流路とすることができる。好ましくは、香味吸引物品はフィルタを含み、活性炭23はフィルタに組み込まれる。より好ましくは、香味吸引物品は、香味源、好ましくはたばこ香味源と、香味源の下流に位置するフィルタとを含み、活性炭23はフィルタに組み込まれる。
【0047】
燃焼型喫煙物品1の場合、活性炭23が組み込まれる部位は、たばこ香味源10aの燃焼により発生する主流煙の流路、すなわちたばこロッド10とフィルタ20の吸口側の端部との間とすることができる。好ましくは、図1および図2に示すとおり、活性炭23はフィルタ20に組み込まれる。
【0048】
なお、香味吸引器は、活性炭23に加えて、公知の吸着材、例えば、セルロース粒子やセルロースアセテートの粒子など、または公知の香味改質材、例えば、香料を皮膜内に含有する香料カプセルなどを更に含んでいてもよい。
【0049】
第1実施形態に係る燃焼型喫煙物品では、2つのフィルタプラグ21の間に中空部を形成し、中空部に活性炭23を配置したが、2つのフィルタプラグを連結するようにフィルタを作成し、活性炭23を一方のフィルタプラグの中に埋め込むように配置することもできる。活性炭23は、2つのフィルタプラグのうち上流側のフィルタプラグに組み込まれることが好ましい。このような燃焼型喫煙物品を、第2実施形態として図2に示す。
【0050】
図2は、第2実施形態に係る燃焼型喫煙物品1の断面図である。図2に示す燃焼型喫煙物品1は、シガレットである。図2において、図1と同じ構成要素には同一の参照符号を付す。
【0051】
図2に示す燃焼型喫煙物品1は、
たばこ香味源10aとたばこ香味源10aの周囲を巻装するたばこ巻紙10bとを含むたばこロッド10と、
濾材21aと濾材に21aに埋め込まれた活性炭23と濾材21aの周囲に巻かれたプラグ巻取紙21bとを含む活性炭含有フィルタプラグ24と、前記活性炭含有フィルタプラグの下流側に連結され、濾材21aと濾材21aの周囲に巻かれたプラグ巻取紙21bとを含むフィルタプラグ21とを含むフィルタ20と、
たばこロッド10とフィルタ20とを接続するようにたばこロッド10とフィルタ20上に巻かれたチップペーパー30と
を含む。
【0052】
図2に示す燃焼型喫煙物品1では、2つのフィルタプラグが連結するように配置されているが、n個(nは2以上の整数)のフィルタプラグが連結するように配置されていてもよく、例えばnは2〜4であり、好ましくはnは2〜3であり、より好ましくはnは2である。
【0053】
第2実施形態においても、たばこロッド10、活性炭23以外のフィルタ20の構成要素、およびチップペーパー30は、従来公知のものを使用することができる。第2実施形態で使用される活性炭23は、第1実施形態で説明された活性炭23と同じである。
【0054】
2.香味吸引物品の他の例
以上、燃焼型喫煙物品の代表例であるシガレットについて説明したが、上述のとおり、本発明に係る香味吸引物品は、香味源を含み、香味源に由来する香味をユーザが味わう任意の吸引物品である。また、香味源としては、たばこ刻などのたばこ香味源の他に、メンソールなどの香料、植物エキスまたは精油などを使用することができる。
【0055】
より具体的には、香味吸引物品は、シガレット以外の公知の燃焼型喫煙物品、例えば、パイプ、キセル、葉巻、またはシガリロなどであってもよい。
【0056】
また、香味吸引物品は、上述のとおり、香味源を燃焼させることなく加熱することにより香味をユーザに提供する加熱型香味吸引物品であってもよい。
【0057】
加熱型香味吸引器としては、例えば、
炭素熱源の燃焼熱でたばこ香味源を加熱して、香喫味成分を含むエアロゾルを発生させる炭素熱源型吸引器(例えば国際公開2006/073065号を参照);
液状の香味源を含有するカプセルを含む吸引器本体と、吸引器本体を電気加熱するための加熱デバイスとを備え、電気加熱によりカプセル外皮膜を溶融して液状の香味源を放出させる電気加熱型吸引器(例えばWO2010/110226を参照);または
たばこ香味源をエアロゾル源(プロピレングリコールまたはグリセリン)とともに収容した詰め替えタイプのたばこポッドと、たばこポッドを電気加熱により加熱してエアロゾルを発生させる吸引器本体とを備えた電気加熱型吸引器(例えばWO2013/025921を参照)
が挙げられる。
【0058】
さらに、香味吸引物品は、上述のとおり、香味源を加熱も燃焼もしないで、香味源の香味をユーザに提供する非加熱型香味吸引物品であってもよい。非加熱型香味吸引物品としては、たばこ香味源を収容した詰め替えタイプのカートリッジを吸引ホルダ内に備え、常温のたばこ香味源に由来するたばこ香味をユーザが吸引する非加熱型たばこ香味吸引器(例えばWO2010/110226を参照)が挙げられる。
【0059】
3.効果
以上説明したように、香味吸引物品は、下記(i)および(ii)の特性を有する活性炭を含む:
(i)BET比表面積が1050m/g以上であり;
(ii)G/D比が0.85以上である。このように、香味吸引物品は、優れた吸着性能と形状的な安定性とを同時に満足する活性炭を含む。活性炭の優れた吸着性能のおかげで、香味吸引物品は、ユーザに優れた香味を提供することができる。また、活性炭の形状的な安定性のおかげで、香味吸引物品は、その製造過程で活性炭の破砕を引き起こすことなく、ロット毎に均一に活性炭を配合し、これにより、物品毎の香味を均一に保つことができる。
【0060】
また、香味吸引物品は、好ましくは、上記(i)および(ii)の特性に加えて、下記(iii)の特性を有する活性炭を含む:
(iii)Boehm法により測定される、カルボキシル基、ラクトン型カルボキシル基、フェノール性水酸基およびカルボニル基からなる含酸素官能基が0.6mmol/g以上である。
【0061】
かかる香味吸引物品は、含酸素官能基を有していない活性炭の吸着性能を維持しながら、含酸素官能基の存在により、塩基性成分を特異的に吸着除去することができ、これにより、ユーザに更に優れた香味を提供することができる。
【0062】
なお、従来の活性炭では、後述の実施例2に示されるとおり、活性炭の賦活度を高めてBET比表面積を増大させるとG/D比が低下する(図7に示される低賦活炭、現行炭および高賦活炭を参照)。このように、従来の活性炭は、上記(i)および(ii)の特性を両立させることはできなかった。
【0063】
4.好ましい実施形態
以下に、本発明の好ましい実施形態をまとめて示す。
上述のとおり、一実施形態によると、香味吸引物品は、BET比表面積が1050m/g以上であり、かつラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(すなわち、G/D比)が0.85以上である活性炭を含む。
【0064】
好ましい実施形態によると、上記実施形態において、前記香味吸引物品は、香味源、好ましくはたばこ香味源を更に含む。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記BET比表面積が、1050〜1600m/gであり、好ましくは1150〜1600m/gであり、より好ましくは1150〜1300m/gである。
【0065】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記G/D比が、0.85〜1.1であり、好ましくは0.9〜1.1である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、200μm〜1000μmの平均粒径、好ましくは300μm〜700μmの平均粒径、より好ましくは400μm〜600μmの平均粒径を有する。
【0066】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、0.5cm3/g以上の細孔容積、好ましくは0.5〜0.8cm3/gの細孔容積、より好ましくは0.52〜0.74cm3/gの細孔容積を有する。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、0.4cm3/g以上のマイクロ孔容積、好ましくは0.4〜0.7cm3/gのマイクロ孔容積、より好ましくは0.4〜0.6cm3/gのマイクロ孔容積を有する。
【0067】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、Boehm法により測定される、カルボキシル基、ラクトン型カルボキシル基、フェノール性水酸基およびカルボニル基からなる含酸素官能基の量が、0.6mmol/g以上であり、好ましくは0.6〜2.0mmol/gであり、より好ましくは1.0〜2.0mmol/gである。
【0068】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、Boehm法により測定される、ラクトン型カルボキシル基およびフェノール性水酸基の合計量が、0.3mmol/g以上であり、好ましくは0.3〜2.0mmol/gであり、より好ましくは0.4〜2.0mmol/gである。
【0069】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、Boehm法により測定されるカルボキシル基の量が、0.12mmol/g以下であり、好ましくは0.01〜0.12mmol/gである。
【0070】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、植物性材料に由来する植物系活性炭である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、ヤシ殻に由来するヤシ殻系活性炭である。
【0071】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、
有機材料を炭化および賦活化して、原料活性炭を得ることと、
前記原料活性炭を気相酸化法により酸化することと
を含む方法により製造される。この実施形態において、前記有機材料は、好ましくは植物性材料であり、より好ましくは、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、木材、木炭、または竹であり、更に好ましくはヤシ殻である。
【0072】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、原料活性炭を気相酸化法により酸化することを含む方法により製造される。この実施形態において、前記原料活性炭は、好ましくは植物性材料、より好ましくは、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、木材、木炭、または竹、更に好ましくはヤシ殻の炭化および賦活化により得られる。
【0073】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記原料活性炭は、400〜1400m/gのBET比表面積が、好ましくは1000〜1400m/gのBET比表面積を有する。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記酸化は、前記原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって処理することにより行われる。
【0074】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、
有機材料を炭化および賦活化して、1000〜1400m/gのBET比表面積を有する原料活性炭を得ることと、
前記原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって酸化処理することと
を含む方法により製造される。この実施形態において、前記有機材料は、好ましくは植物性材料であり、より好ましくは、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、木材、木炭、または竹であり、更に好ましくはヤシ殻である。
【0075】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記活性炭は、1000〜1400m/gのBET比表面積を有する原料活性炭を、空気中または水蒸気中で、500℃以下、好ましくは300〜500℃の温度で、1〜2時間にわたって酸化処理することを含む方法により製造される。この実施形態において、前記原料活性炭は、好ましくは植物性材料、より好ましくは、ヤシ殻、クルミ殻などの果実殻、木材、木炭、または竹、更に好ましくはヤシ殻の炭化および賦活化により得られる。
【0076】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品はフィルタを含み、前記活性炭は前記フィルタに含まれる。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品は、香味源、好ましくはたばこ香味源と、前記香味源の下流に位置するフィルタとを含み、前記活性炭は前記フィルタに組み込まれる。
【0077】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品はn個(nは2以上の整数)のフィルタプラグが(n−1)個の中空部を介して配置されたマルチセグメントフィルタを含み、前記活性炭は前記中空部の少なくとも1つに含まれる。この実施形態において、nは、例えば2〜4、好ましくは2〜3、より好ましくは2である。
【0078】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品は、n個(nは2以上の整数)のフィルタプラグが連結するように配置されたマルチセグメントフィルタを含み、前記活性炭は前記フィルタプラグの少なくとも1つの中に埋め込まれる。この実施形態において、nは、例えば2〜4、好ましくは2〜3、より好ましくは2である。
【0079】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品は、燃焼型喫煙物品、好ましくはシガレットである。この実施形態において、前記シガレットは、好ましくは、たばこロッドと、フィルタと、前記たばこロッドと前記フィルタとを接続するように前記たばこロッドと前記フィルタ上に巻かれたチップペーパーとを含む。
【0080】
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品は、香味源を燃焼させることなく加熱することにより香味をユーザに提供する加熱型香味吸引物品である。
好ましい実施形態によると、上記実施形態の何れか1つにおいて、前記香味吸引物品は、香味源を加熱も燃焼もしないで、香味源の香味をユーザに提供する非加熱型香味吸引物品である。
【実施例】
【0081】
[実施例1]細孔構造の評価
1−1.サンプルの調製
(炭化炭)
ヤシ殻活性炭を破砕し、30〜60メッシュの篩で篩別し、炭化炭を準備した。
【0082】
(低賦活炭)
低賦活炭として、平均粒径0.34mmのヤシ殻活性炭(フタムラ化学株式会社製、品名:CW360BL)を準備した。
【0083】
(弱酸化炭)
低賦活炭に対し、以下のように低い酸化度で気相酸化処理を施して、低賦活炭の弱酸化炭(以下、「弱酸化炭」ともいう)を調製した。すなわち、ロータリーキルンに低賦活炭200gを投入し300℃まで昇温し、同温度を維持した。相対湿度をおよそ90%に加湿した30℃の空気を加圧状態としながら24L/分の流量によりロータリーキルン内に導入し、300℃を維持しながら2時間加熱した。その後、処理後の活性炭を取り出して冷却して、弱酸化炭を調製した。
【0084】
(酸化炭)
低賦活炭に対し、以下のように中程度の酸化度で気相酸化処理を施して、低賦活炭の酸化炭(以下、「酸化炭」ともいう)を調製した。すなわち、ロータリーキルンに低賦活炭200gを投入し500℃まで昇温し、同温度を維持した。相対湿度をおよそ90%に加湿した30℃の空気を加圧状態としながら24L/分の流量によりロータリーキルン内に導入し、500℃を維持しながら1時間加熱した。その後、処理後の活性炭を取り出して冷却して、酸化炭を調製した。
【0085】
(強酸化炭)
低賦活炭に対し、以下のように高い酸化度で気相酸化処理を施して、低賦活炭の強酸化炭(以下、「強酸化炭」ともいう)を調製した。すなわち、ロータリーキルンに低賦活炭200gを投入し500℃まで昇温し、同温度を維持した。相対湿度をおよそ90%に加湿した30℃の空気を加圧状態としながら24L/分の流量によりロータリーキルン内に導入し、500℃を維持しながら2時間加熱した。その後、処理後の活性炭を取り出して冷却して、強酸化炭を調製した。
【0086】
(現行炭)
現行炭として、平均粒径0.34mmのヤシ殻活性炭(フタムラ化学株式会社製,品名:CW360Bを準備した。現行炭は、現在、燃焼型喫煙物品の吸着剤として使用されている活性炭の代表例である。
【0087】
(現行炭の酸化炭)
現行炭に対し、上述の酸化炭の調製と同様の手法で気相酸化処理を施して、現行炭の酸化炭を調製した。
【0088】
(高賦活炭)
現行炭に対し、以下のように高い賦活度で賦活化処理を施して、高賦活炭を調製した。すなわち、ロータリーキルンに現行炭200gを投入し900℃まで昇温し、同温度を維持した。水を0.3mL/分の流量によりロータリーキルン内に導入し、900℃を維持しながら20時間加熱した。その後、処理後の活性炭を取り出して冷却して、高賦活炭を調製した。
【0089】
1−2.方法
上記のように調製したサンプルの細孔構造を、窒素ガス吸着測定を用いて評価した。具体的には、測定装置としてAutoSorb−1(Quantachrome社製)を用いて、BET比表面積、細孔容積、マイクロ孔容積、および細孔分布を評価した。
【0090】
実験の詳細は以下の通りである。
サンプルの前処理として、300℃で3時間、10−1Pa以下で真空脱気を行った。
BETプロットの範囲決定には、Rouqueral et al.の提案した方法を用いた。
【0091】
細孔容積は、温度77Kで測定した窒素吸着等温線において、相対圧(P/P)が0.95のときの窒素吸着量から算出した。細孔容積は、約40nm以下の細孔直径を有する細孔の容積の合計値を表す。
【0092】
細孔分布は、急冷固体密度汎関数理論(QSDFT)に基づいて解析した。「マイクロ孔容積」は、窒素吸着等温線から、QSDFT法で細孔分布解析を行い、算出した。
【0093】
1−3.結果
結果を図3および図4並びに表1に示す。
図3は、炭化炭、低賦活炭、現行炭、および高賦活炭の細孔分布曲線を示す。図4は、弱酸化炭、酸化炭、強酸化炭、および現行炭の細孔分布曲線を示す。表1は、各サンプルのBET比表面積、細孔容積およびマイクロ孔容積を示す。
【0094】
【表1】
【0095】
図3および図4の細孔分布曲線から以下のことが分かる:
弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭は、低賦活炭に気相酸化処理を施すことにより得られた酸化炭であるが、これらの酸化炭は、低賦活炭と同様の細孔分布曲線を示しており、気相酸化処理により低賦活炭の細孔が閉塞されることなく維持されていた。
【0096】
また、表1の詳細な数値データから以下のことが分かる:
弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭のBET比表面積は、低賦活炭と比較して増大していた。また、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭の細孔容積は、低賦活炭と比較して増大していた。弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭のマイクロ孔容積も、低賦活炭と比較して増大していた。
【0097】
同様に、現行炭の酸化炭は、現行炭に気相酸化処理を施すことにより得られた酸化炭であるが、この酸化炭のBET比表面積は、現行炭と比較して増大していた。また、この酸化炭の細孔容積およびマイクロ孔容積は、いずれも、現行炭と比較して増大していた。
【0098】
活性炭に液相酸化処理を行うと、原料活性炭のBET比表面積が減少して吸着能が低下することが報告されているが(日本国特開2010−193718号公報)、気相酸化処理を行った場合、原料活性炭のBET比表面積、細孔容積およびマイクロ孔容積は、むしろ増大した。
【0099】
[実施例2]炭素表面構造の評価
2−1.方法
実施例1で調製したサンプルについて、以下の方法によりラマンスペクトルを測定した。
【0100】
測定装置としては、顕微レーザーラマンNicolet Almega XR(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用した。測定条件は、以下のとおりとした。
レーザー:532nm、5mWの出力
露光時間:30秒、露光回数:2回
グレーティング:672ライン/mm
分光器アパーチャ:100μm径のピンホール
ピーク分離は、フォークト関数(Voigt)を使用して行った。
【0101】
ラマンスペクトルにおけるDバンドのピーク強度およびGバンドのピーク強度から、Dバンドのピーク強度に対するGバンドのピーク強度の比(G/D比)を算出した。
【0102】
2−2.結果
ラマンスペクトルの測定結果を図5乃至図7および表2に示す。
図5は、炭化炭、低賦活炭、現行炭、および高賦活炭のラマンスペクトルの測定結果を示すグラフである。図6は、低賦活炭、現行炭、低賦活炭の酸化炭および現行炭の酸化炭のラマンスペクトルの測定結果を示すグラフである。図7は、ラマンスペクトルの測定結果から算出したG/D比を示すグラフである。表2は、G/D比の数値データを示す。
【0103】
【表2】
【0104】
図5および図7に示すように、賦活度が進むにつれて(すなわち、炭化炭、低賦活炭、現行炭、高賦活炭の順に)、Gバンドのピークに対してDバンドのピークは増加し、G/D比が低下した。これは、賦活度が進むにつれて、炭素構造の欠陥が増大していることを示す。
【0105】
図6および図7に示すように、現行炭の酸化炭は、現行炭と比較して、Dバンドのピークが減少し、これに伴ってG/D比の値が増加していた。また、弱酸化炭、酸化炭および強酸化炭(これらは、低賦活炭の酸化炭である)のすべてにおいて、低賦活炭のDバンドのピーク強度が維持され、低賦活炭のG/D比の値がほぼ維持されていた。これらの結果は、賦活化に伴って生じる炭素構造の欠陥が大きい場合、この欠陥が気相酸化処理によって除去されることを示唆する。
【0106】
実施例1および2の結果から、以下のことが考察される。賦活度の高い高賦活炭は、吸着性能が優れているが、炭素構造の欠陥が大きく、形状的に不安定である。これに対し、高賦活炭と比べて賦活度の低い低賦活炭や現行炭に気相酸化処理を施すと、BET比表面積および細孔容積がやや増大するとともに、炭素構造の欠陥が除去され、結果として、優れた吸着性能と形状的な安定性とを同時に満足する活性炭が得られる。
【0107】
[実施例3]気相酸化処理の加熱が活性炭に及ぼす影響
3−1.方法
実施例1で調製した現行炭について、気相酸化処理の加熱が活性炭に及ぼす影響を調べた。具体的には、6mgのサンプルをプラチナパンに入れ、200mL/分の空気流通条件下で熱重量・示差熱分析(Thermogravimetry−Differential Thermal Analysis:TG−DTA)を行った。昇温は、10℃/分の速度で100℃まで昇温し、その温度を30分以上の期間にわたって維持し、その後さらに1℃/分の速度で650℃まで昇温することにより行った。装置は、TG/DTA6200(エスアイアイ ナノテクノロジー株式会社製)を用いた。
【0108】
3−2.結果
結果を図8に示す。図8は、熱重量・示差熱分析の結果を示すグラフである。図8は、昇温に伴って起こる重量変化(重量%)を示す。
【0109】
図8に示すように、現行炭を、500℃を超える温度で加熱すると、急激な重量減少が生じ、賦活が進行した。このことは、既に賦活化された活性炭に、追加の加熱処理を行うと、さらに賦活が進行することを示す。したがって、この結果は、賦活化された活性炭に気相酸化処理を施す場合は、500℃以下の加熱温度で実施することが好ましいことを示す。
【0110】
[実施例4]含酸素官能基量の評価
4−1.方法
実施例1で調製した、現行炭、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭について、含酸素官能基量の測定を行った。
【0111】
含酸素官能基は、H.P.Boehmが提案した定量法(Boehm法)に従って定量した。すなわち、含酸素官能基は、カルボキシル基(Group I)、ラクトン型カルボキシル基(Group II)、フェノール性水酸基(Group III)、カルボニル基(Group IV)に分けて定量した。
【0112】
Boehm法とは、過剰量のReaction base(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、またはナトリウムエトキシド)と、含酸素官能基とを反応させ、反応残りの塩基に過剰量の酸(塩酸)を加え、さらに塩基(水酸化ナトリウム)で中和滴定する方法である。
【0113】
なお、炭酸水素ナトリウムの中和滴定からは、Group Iの含酸素官能基量が測定される。炭酸ナトリウムの中和滴定からは、GroupIとGroup IIとの合計量が測定される。水酸化ナトリウムの中和滴定からは、Group IとIIとIIIとの合計量が測定される。ナトリウムエトキシドの中和滴定からは、Group IとIIとIIIとIVとの合計量が測定される。
【0114】
以下に具体的な測定方法について説明する。
まず、1.5gのサンプルを50mLの0.05M Reaction baseに入れて、サンプルの形状を壊さない条件で24時間振盪した。その後、サンプルを濾紙で濾過し、濾液から10mLを分液した。
【0115】
10mLの濾液(分液)に対し、Reaction baseとして炭酸ナトリウムを使用した場合には、30mLの0.05M HCl水溶液を加え、反応混合液を調製した。10mLの濾液(分液)に対し、Reaction baseとしてそれ以外の塩基(炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、またはナトリウムエトキシド)を使用した場合には、20mLの0.05M HCl水溶液を加え、反応混合液を調製した。
【0116】
その後、反応混合液の入っている容器をPTFE/シリコンセプタムで蓋をした。N inletの針を液面下まで到達するように設け、N Outletの針を水面にかからないように設け、1mL/min以下の速度で2時間窒素を流通させた。これにより、反応混合液に溶存しているCOを除去した。
【0117】
その後、予め窒素置換を行い、パラフィルムで蓋をしておいたビーカーに、反応混合液を移し、そこへ指示薬フェノールフタレイン/エタノール溶液(10g/L)を1滴滴下した。そして、ビーカーに、パラフィルムの蓋をしたままビュレットを差し込み、スターラーで撹拌しながら、0.05M NaOH水溶液で滴定した。
【0118】
各Reaction baseに対応する含酸素官能基のmol数は以下のように算出することができる。
Mol数=[n(B)/n(HCl)×[B]×V(B)−{[HCl]×V(HCl)−[NaOH]×V(NaOH)}]×V(a)/V(B)
ここで、aは、測定に用いたReaction baseを示す。aは、上記実験では、50mLの0.05M Reaction baseを指す。Bは、分液したReaction baseを示す。Bは、上記実験では、10mLの濾液を指す。
[ ]は、滴定に用いたモル濃度を示す。Vは、滴定量(体積)を示す。n(B)/n(HCl)は、Reaction baseと塩酸の価数比を示す。
【0119】
したがって、上述のmol数の値をサンプル重量で割れば、サンプル重量あたりの含酸素官能基量が求められ、上述のmol数の値を表面積で割れば、表面積あたりの含酸素官能基量が求められる。なお、測定毎にBlankの測定も行い、既知のHClとNaOHのモル濃度から、その他のReaction baseのモル濃度を求めた。
【0120】
4−2.結果
結果を図9および表3に示す。図9は、含酸素官能基量の測定結果を示すグラフである。表3は、含酸素官能基量の数値データを示す。図9および表3は、サンプル重量あたりの含酸素官能基量を示す。
【0121】
【表3】
【0122】
図9および表3に示すように、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭の全てにおいて、気相酸化処理後に、含酸素官能基量が全体的に増加していた。特に、気相酸化処理の酸化度が高くなるにつれ(すなわち、弱酸化炭、酸化炭、強酸化炭の順に)、ラクトン型カルボキシル基(Group II)とフェノール性水酸基(Group III)の増加が顕著に認められた。また、カルボキシル基(Group I)ついては、気相酸化処理の酸化度が高くなっても、増加は認められなかった。このことは、炭素材料学会、改定炭素材料入門(1984)で報告されているとおり、カルボキシル基(Group I)は、気相酸化処理により生成しても脱離することに起因すると考えられる。
【0123】
[実施例5]アンモニア吸着能の評価
5−1.方法
実施例1で調製した、現行炭、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭について、アンモニアの吸着量を測定し、塩基性成分の吸着能を評価した。
【0124】
吸着平衡装置Autosorb−1−c(Quantachrome社製)を用いて、ガス圧2〜800mHgの範囲内において25℃で吸着平衡を測定した。具体的には、サンプルの前処理として、300℃で3時間、10−1Pa以下で真空脱気を行った。その後、25℃でアンモニアの吸着量を測定した。ここで測定される吸着量は、物理吸着量および化学吸着量の合計である。
【0125】
その後、25℃で、ターボ分子ポンプにより、圧力が一定となるまで(2〜3時間かけて)真空脱気を行い、再びアンモニアの吸着量を測定した。ここで測定される吸着量は、物理吸着量である。1回目の測定で測定された吸着量と2回目の測定で測定された吸着量との差分が化学吸着量である。
【0126】
5−2.結果
結果を図10乃至図12に示す。図10はアンモニア吸着量(すなわち、物理吸着量および化学吸着量の合計)を示すグラフである。図11は、アンモニアの物理吸着量およびアンモニアの化学吸着量を示すグラフである。図10および図11の吸着等温線において、横軸は相対圧(P/P)を示し、縦軸は平衡吸着量(q)を示す。図12は、図11の吸着等温線をDAプロット(Dubinin-Astakhov plot)で示したグラフである。
【0127】
図10に示すように、弱酸化炭は、現行炭と同程度のアンモニア吸着能を示し、酸化炭および強酸化炭は、現行炭と比べて、高いアンモニア吸着能を示した。なお、図10において、現行炭は、吸着性能に特に優れた活性炭の例として示す。また、図11に示すように、弱酸化炭、酸化炭および強酸化炭は、主に物理吸着によりアンモニアを吸着しているが、図12に示すように、アンモニアの低濃度領域では、化学吸着によるアンモニアの吸着が確認された。
【0128】
実施例4および実施例5の結果から、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭では、含酸素官能基が、アンモニア等の塩基性成分を化学的に吸着するために機能していることが示された。化学的な吸着は、特異的な吸着につながるため、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭は、アンモニア等の塩基性成分を特異的に除去することが可能である。
【0129】
[実施例6]たばこ煙成分の除去率の評価
6−1.燃焼型喫煙物品の作製
本実施例では、実施例1で調製した、現行炭、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭をサンプルとして使用した。サンプルを、図1に示すとおり、2つのフィルタプラグの間のスペース(フィルタキャビティー部)に組み込むことにより燃焼型喫煙物品を作製し、たばこ煙成分の除去率を評価した。
【0130】
具体的には、紙管(外径7.7mm)に、5mmのアセテートフィルタプラグ(5.5Y31000、可塑剤6%)を挿入した後、サンプル30mgを加え、さらに同様のアセテートフィルタプラグを挿入することでフィルタを作製した。コントロールシガレット用として、紙管(外径7.7mm)に、5mmのアセテートフィルタプラグ(5.5Y31000、可塑剤6%)2個を充填したフィルタを作製した。得られたフィルタと市場品のシガレット(セブンスター:タール14mg、ニコチン1.2mg)のたばこロッドとを接合し、燃焼型喫煙物品を作製した。
【0131】
6−2.方法
(1)喫煙試験
自動喫煙器(CERULEAN、CERULEANSM450RH)を用いて、3本の同じ燃焼型喫煙物品を吸煙容量17.5ml/秒、吸煙時間2秒/パフ、吸煙頻度1パフ/分、燃焼長49mmの条件で自動喫煙し、たばこ煙中粒状物質をケンブリッジフィルター(Borgwaldt KC Inc.製、CM−133)で捕集し、またケンブリッジフィルターを通過した煙を、ドライアイス‐イソプロパノールからなる冷媒で−70℃に冷却したメタノール(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)10mLに捕集した。
【0132】
喫煙試験後のケンブリッジフィルターを、ケンブリッジフィルターを通過した煙成分の捕集に利用したメタノール中で振盪して分析試料を得た。得られた分析試料1μLをマイクロシリンジに採取し、ガスクロマトグラフ質量分析(Agilent製GC−MSD、粒子相および蒸気相の分析に用いた型番はそれぞれ、GC:7890A、MS:5975CとGC:6890A、MS:5973)にて分析した。実験は3回繰り返した。
【0133】
アンモニアの分析は、CORESTA Recommended Method、No. 83、DETERMINATION OF AMMONIA IN MAINSTREAM CIGARETTE SMOKE BY ION CHROMATOGRAPHY May 2017に記載されるとおり行った。実験では、燃焼型喫煙物品を吸煙容量27.5ml/秒、吸煙時間2秒/パフ、吸煙頻度1パフ/30秒、燃焼長49mmの条件で自動喫煙し、2本のインピンジャーで0.1N硫酸に捕集し、イオンクロマトグラフで分析した。
【0134】
(2)除去率の算出
各燃焼型喫煙物品のコントロールシガレットに対する煙中成分除去率を、以下の式から算出した。
(I)A’control =Acontrol /S、A’sample =Asample/S
(II)T =1 − A’sample /A’control
【0135】
ここで、Asampleは、各活性炭を入れた燃焼型喫煙物品から得られた煙中成分の定量値を表し、Acontrol は、比較対象として準備したコントロールシガレットから得られた煙中成分の定量値を表す。
Sは、異なる日程で喫煙試験を行った場合の作業による誤差を校正する為に用いる、標準シガレットの煙中成分の定量値を表す。標準シガレットについては、喫煙試験毎に煙中成分の定量を実施した。
【0136】
6−3.結果
結果を図13および図14に示す。図13は、たばこ主流煙中のアンモニアの低減率を示すグラフである。図14は、たばこ主流煙中の蒸気成分の低減率を示すグラフである。
【0137】
図13に示すように、酸化炭および強酸化炭を使用した場合、たばこ主流煙中のアンモニアの除去が検出された。強酸化炭のアンモニアの低減率は、酸化炭より高く、これは、強酸化炭が、酸化炭と比べて含酸素官能基の量が多いためであると考えられる。また、ラクトン型カルボキシル基(およびラクトン基)(Group II)、フェノール性水酸基(Group III)はアンモニアの吸着に寄与しており、アンモニアの特異的な吸着を有するために、カルボキシル基(Group I)は必ずしも必要ない。
【0138】
なお、弱酸化炭を使用した場合、たばこ主流煙中のアンモニアの除去が検出されなかった。この結果は、実施例5において、弱酸化炭が、物理吸着および化学吸着の両方によりアンモニアを吸着することが実証されているため、実施例6の検出方法の検出精度によるものであると考えられる。
【0139】
また、図14に示すように、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭を使用した場合、たばこ主流煙中の蒸気成分を十分に除去することができた。図14には、現行炭のデータも示すが、現行炭は、吸着性能に特に優れた活性炭である。このため、図14において、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭が、現行炭より多少低い除去率を示したとしても、十分な除去率を示していると考察することができる。さらに、酸化炭および強酸化炭では、ピリジン類やピラジン類などの塩基性成分の吸着率は現行炭よりも高く、特異的に除去できることが示された。このことは、これらの酸化炭が、現行炭とマイクロ孔容積がほぼ同じであるため、現行炭の吸着量を維持しながら、導入した表面含酸素官能基との相互作用により、目的とする塩基性成分の吸着量を増大することを示している。
【0140】
図13および図14の結果から、弱酸化炭、酸化炭、および強酸化炭の何れかを含む燃焼型喫煙物品は、たばこ主流煙中の蒸気成分を十分に吸着除去することができるとともに、アンモニア等の塩基性成分を特異的に吸着除去することができることが示された。
図1
図2
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図13
図14