特許第6874166号(P6874166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874166
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】脈波伝播速度測定装置及びその方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20210510BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61B5/02 310V
   A61B5/02 310J
   A61B5/11 100
   A61B5/02 ZZDM
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-569006(P2019-569006)
(86)(22)【出願日】2019年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2019001568
(87)【国際公開番号】WO2019150999
(87)【国際公開日】20190808
【審査請求日】2020年4月20日
(31)【優先権主張番号】特願2018-15080(P2018-15080)
(32)【優先日】2018年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090413
【弁理士】
【氏名又は名称】梶原 康稔
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐佳
(72)【発明者】
【氏名】石黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】小林 啓一
【審査官】 亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/141976(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/055670(WO,A1)
【文献】 特開2016−026516(JP,A)
【文献】 特表2014−507213(JP,A)
【文献】 特表2011−527589(JP,A)
【文献】 特開2004−305268(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 − 5/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体が接触する面に取り付けられた圧電振動センサの出力振動波形に基づいて人の脈波伝播速度を得る脈波伝播速度測定装置であって、
前記圧電振動センサの出力振動波形から、脈波を取り出す第1のフィルタ手段と、
前記圧電振動センサの出力振動波形から、心弾波を取り出す第2のフィルタ手段と、
前記第1のフィルタ手段で得られた脈波と、前記第2のフィルタ手段で得られた心弾波とを利用して、脈波伝播速度を演算する演算手段と、
を備えたことを特徴とする脈波伝播速度測定装置。
【請求項2】
前記第1のフィルタ手段は、前記圧電振動センサの出力振動波形から4Hz以下の周波数帯域成分を取り出し、前記第2のフィルタ手段は、前記圧電振動センサの出力振動波形から10Hz以上33Hz以下の周波数帯域成分を取り出すことを特徴とする請求項1記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項3】
前記演算手段は、
前記第1のフィルタ手段で得られた脈波の包絡線を得る第1の包絡線処理手段と、前記第2のフィルタ手段で得られた心弾波の包絡線を得る第2の包絡線処理手段と、
前記第1及び第2の包絡線処理手段で得られた包絡線のピークとを利用して、前記脈波伝播速度を演算する伝播速度演算手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項4】
前記伝播速度演算手段は、
前記包絡線のピークから脈波と心弾波の時間差を求めるとともに、脈波が通る経路の血管長に対して、脈波伝播速度=血管長/(脈波と心弾波の時間差)の演算を行うことを特徴とする請求項3記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項5】
前記第1及び第2の包絡線処理手段は、絶対値回路とローパスフィルタによって構成されており、
前記ローパスフィルタの遮断周波数を1.5Hz以上4Hz以下に設定したことを特徴とする請求項3又は4記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項6】
一つの圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項7】
異なる圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脈波伝播速度測定装置。
【請求項8】
人体が接触する面に取り付けられた圧電振動センサの出力振動波形に基づいて人の脈波伝播速度を得る脈波伝播速度測定方法であって、
前記圧電振動センサの出力振動波形から脈波を取り出す第1のステップと、
前記圧電振動センサの出力振動波形から心弾波を取り出す第2のステップと、
前記第1のステップで得られた脈波と、前記第2のステップで得られた心弾波とを利用して、脈波伝播速度を演算する第3のステップと、
を備えたことを特徴とする脈波伝播速度測定方法。
【請求項9】
前記第1のステップは、前記圧電振動センサの出力振動波形から4Hz以下の周波数帯域成分を取り出し、前記第2のステップは、前記圧電振動センサの出力振動波形から10Hz以上33Hz以下の周波数帯域成分を取り出すことを特徴とする請求項8記載の脈波伝播速度測定方法。
【請求項10】
前記第3のステップは、
前記第1のステップで得られた脈波の包絡線を得る第1の包絡線処理ステップと、前記第2のステップで得られた心弾波の包絡線を得る第2の包絡線処理ステップと、
前記第1及び第2の包絡線処理ステップで得られた包絡線のピークとを利用して、前記脈波伝播速度を演算する伝播速度演算ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項8又は9記載の脈波伝播速度測定方法。
【請求項11】
前記伝播速度演算ステップは、
前記包絡線のピークから脈波と心弾波の時間差を求めるとともに、脈波が通る経路の血管長に対して、脈波伝播速度=血管長/(脈波と心弾波の時間差)の演算を行うことを特徴とする請求項10記載の脈波伝播速度測定方法。
【請求項12】
一つの圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の脈波伝播速度測定方法。
【請求項13】
異なる圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする請求項8〜11のいずれか一項に記載の脈波伝播速度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心臓の拍動に伴う血管系内の血圧・体積の変化である脈波の伝播速度を測定する脈波伝播速度測定装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脈波に関する背景技術としては、例えば、下記特許文献1記載の「動脈硬化評価装置」がある。これは、入射波と反射波とを正確に分離して、個体差による動脈硬化度を精度よく評価できるようにしたもので、被験者の頸部において、圧電トランスデューサで動脈を伝わる脈波を変位信号として検出するとともに、超音波診断装置のプローブで動脈の血流速度を測定する。そして超音波診断装置のプローブで得られた血流速度を変位信号に変換して入射波を得た後、圧電トランスデューサによって検出された変位信号から入射波を差し引いて反射波を得、更に、入射波と反射波の振幅強度から生体の血管機能を評価するようにしたものである。
【0003】
しかし、人体に直接圧電センサを取り付けることなく脈波を検出して健康状態を知ることができれば、利便性が向上し、より好都合である。例えば、椅子,自動車のシートなどに人が座ることで毎日脈波を検出し、循環器系,神経系などの健康状態を知ることができれば、昨今の高齢化社会では、極めて有益である。特に動脈硬化は、脳梗塞や大動脈解離といった重篤な疾患を引き起こす原因となるため、早期に発見することが重要である。最近の医療の分野では、この動脈硬化の指標として脈波伝播速度(PWV)が注目されており、人間ドックや健康診断においても、オプションとして測定されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2010/024417号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、脈波伝播速度を測定する手法として、本件発明者らは、動脈が体表面近くに存在している人体の2ヶ所に圧電振動センサを固定し、これら2ヶ所で検出した脈波の時間差から脈波伝播速度を測定する手法を提案している。図7(A)にはその手法が示されており、指先と手首に圧電振動センサ10,12を取り付けている。圧電振動センサ10,12としては、例えば、国際公開第2016/167202号パンフレットに開示されている振動波形センサが好適な例の一つである。これら2つの圧電振動センサ10,12で検出した脈波の時間差を測定することで、脈波伝播速度を得ている。同図(B)には、2つの圧電振動センサ10,12によって検出された脈波信号が示されており、同図(C)には、同図(B)から得た脈波伝播速度が示されている。
【0006】
このような脈波伝播速度を検出する圧電振動センサを、例えば、日常生活の中で毎日使用する椅子に取り付けた場合、椅子が硬質の材料でできているときは、人体で発生した脈波の振動が椅子内を音速で伝達してしまう。このため、違う場所で検出した脈波信号との間でクロストークが発生してしまうといった問題点がある。クロストークを低減する手段として、椅子にスリットを挿入するといった方法があり、相応の効果は期待できるが、椅子のデザイン上現実的ではない。
【0007】
本発明は、かかる点に着目したもので、その目的は、圧電振動センサを人体に直接ではなく、間接的に取り付けた場合であっても、良好に脈波を検出し、その伝播速度を得ることである。他の目的は、少なくも1つの圧電振動センサのみであっても、良好に脈波を検出し、その伝播速度を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脈波伝播速度測定装置は、人体が接触する面に取り付けられた圧電振動センサの出力振動波形に基づいて人の脈波伝播速度を得る脈波伝播速度測定装置であって、前記圧電振動センサの出力振動波形から、脈波を取り出す第1のフィルタ手段と、前記圧電振動センサの出力振動波形から、心弾波を取り出す第2のフィルタ手段と、前記第1のフィルタ手段で得られた脈波と、前記第2のフィルタ手段で得られた心弾波とを利用して、脈波伝播速度を演算する演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
主要な形態の一つによれば、前記第1のフィルタ手段は、前記圧電振動センサの出力振動波形から4Hz以下の周波数帯域成分を取り出し、前記第2のフィルタ手段は、前記圧電振動センサの出力振動波形から10Hz以上33Hz以下の周波数帯域成分を取り出すことを特徴とする。他の形態によれば、前記演算手段は、前記第1のフィルタ手段で得られた脈波の包絡線を得る第1の包絡線処理手段と、前記第2のフィルタ手段で得られた心弾波の包絡線を得る第2の包絡線処理手段と、前記第1及び第2の包絡線処理手段で得られた包絡線のピークとを利用して、前記脈波伝播速度を演算する伝播速度演算手段と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
他の形態によれば、前記伝播速度演算手段は、前記包絡線のピークから脈波と心弾波の時間差を求めるとともに、脈波が通る経路の血管長に対して、脈波伝播速度=血管長/(脈波と心弾波の時間差)の演算を行うことを特徴とする。更に他の形態によれば、前記第1及び第2の包絡線処理手段は、絶対値回路とローパスフィルタによって構成されており、前記ローパスフィルタの遮断周波数を1.5Hz以上4Hz以下に設定したことを特徴とする。更に他の形態によれば、一つの圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする。あるいは、異なる圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする。
【0011】
本発明の脈波伝播速度測定方法は、人体が接触する面に取り付けられた圧電振動センサの出力振動波形に基づいて人の脈波伝播速度を得る脈波伝播速度測定方法であって、前記圧電振動センサの出力振動波形から脈波を取り出す第1のステップと、前記圧電振動センサの出力振動波形から心弾波を取り出す第2のステップと、前記第1のステップで得られた脈波と、前記第2のステップで得られた心弾波とを利用して、脈波伝播速度を演算する第3のステップと、を備えたことを特徴とする。
【0012】
主要な形態の一つによれば、前記第1のステップは、前記圧電振動センサの出力振動波形から4Hz以下の周波数帯域成分を取り出し、前記第2のステップは、前記圧電振動センサの出力振動波形から10Hz以上33Hz以下の周波数帯域成分を取り出すことを特徴とする。他の形態によれば、前記第3のステップは、前記第1のステップで得られた脈波の包絡線を得る第1の包絡線処理ステップと、前記第2のステップで得られた心弾波の包絡線を得る第2の包絡線処理ステップと、前記第1及び第2の包絡線処理ステップで得られた包絡線のピークとを利用して、前記脈波伝播速度を演算する伝播速度演算ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0013】
他の形態によれば、前記伝播速度演算ステップは、前記包絡線のピークから脈波と心弾波の時間差を求めるとともに、脈波が通る経路の血管長に対して、脈波伝播速度=血管長/(脈波と心弾波の時間差)の演算を行うことを特徴とする。更に他の形態によれば、一つの圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする。あるいは、異なる圧電振動センサの出力振動波形から、前記脈波と心弾波を得ることを特徴とする。本発明の前記及び他の目的,特徴,利点は、以下の詳細な説明及び添付図面から明瞭になろう。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、人体が接触する面に設置した圧電振動センサの出力振動波形から、フィルタ手段によって脈波及び心弾波をそれぞれ取り出し、それらを利用して脈波伝播速度を演算することとしたので、圧電振動センサを人体に直接取り付けることなく、良好に脈波伝播速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】心臓の拍動に伴う各種波形の一例を示すグラフである。
図2】本発明の実施例1における圧電振動センサの配置を示す図である。
図3】前記実施例における測定回路の構成を示すブロック図である。
図4】前記実施例における椅子における圧電振動センサの配置図と、脈波及び心弾派の側定例を示すグラフである。
図5】前記実施例における脈波及び心弾波の包絡線処理前後のピークの関係を示すグラフである。
図6】前記図5における脈波及び心弾波のグラフと、これから得られる脈波伝播速度のフィルタの遮断周波数との関係を示すグラフである。
図7】従来の圧電振動センサを2つ使用する場合の配置図と、脈波の測定例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0017】
最初に、図1を参照しながら、本発明の基本的な考え方について説明する。図1には、心拍ないし脈拍に関する主要な信号が示されている。まず、図1(A)は心電図で、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録したものである。最も大きなR波は、心房からの刺激が刺激伝導系を通って、心室が興奮したときに起こる波形で、R波の頂点の間隔から心拍数を計算することができる。同図(B)は光電脈波で、心臓の拍動に応じて変化する血管の内圧の変化ないし容積の変化(外径の変化)である脈波を、ヘモグロビン濃度による透過光または反射光の減衰によって測定したものである。
【0018】
同図(C)は心弾波で、心臓の物理的な動きに伴ってに生ずる微細な人体の振動を示し、心臓弁作動の振動が骨格等を通じて伝達されるもので、上述した脈波に比べて高速で伝達される。心弾波のピークは、同図(A)に示す心電波形や同図(B)に示す脈波に対して少し遅れて生ずる。同図(D)は心音波で、心臓の拍動に伴う弁膜の振動によって生じる音を電気信号に変換したものである。心臓の収縮時に生ずる第1音(Isound)と、拡張時に生ずる第2音(IIsound)が主なピークである。
【0019】
これらのうち、心電波形及び光電脈波は周波数帯域が0〜4Hz程度であり、心弾波形及び心音波形は周波数帯域が10〜40Hzである。従って、帯域分離を行うことで、心電波形ないし光電脈波と心弾波形ないし心音波形とを、区別することができる。本発明では、圧電振動センサを使用して得た信号波形に対して帯域分離を行って、脈波波形や心弾波形を分離するようにしている。
【0020】
次に、図2図5も参照しながら、本発明の実施例1について説明する。図2には、本実施例における圧電振動センサの設置の様子が示されており、椅子100の座面102の下側適宜位置に、圧電振動センサ110が設置されている。人104の血管が体表近くにあるほうが、脈波を測定しやすい。一方、血管は、太腿の裏側であって、膝に近い部位において、体表近くにある。そこで、圧電振動センサ110を座面102の先端側に設置することで、同図に矢印FPで示すように、脈波が圧電振動センサ110に伝わる。一方、心弾波は、主として人104の骨を通じて伝播し、矢印FBで示すように圧電振動センサ110に伝わる。
【0021】
圧電振動センサ110には、図3(A)に示す測定回路200が接続されており、圧電振動センサ110の振動波形出力側は、ローパスデジタルフィルタ202Pと、バンドパスデジタルフィルタ202Bが接続されている。両デジタルフィルタ202P,202Bの出力側は、包絡線処理回路210P,210Bにそれぞれ接続されている。包絡線処理回路210Pは、絶対値回路212Pとローパスフィルタ214Pによって構成されており、包絡線処理回路210Bは、絶対値回路212Bとローパスフィルタ214Bによって構成されている。これら包絡線処理回路210P,210Bの出力側は、それぞれ伝播速度演算部220に接続されている。
【0022】
これらのうち、ローパスデジタルフィルタ202Pは、圧電振動センサ110の出力振動波形から、0〜4Hz(4Hz以下)の周波数帯域の成分である脈波成分を取り出すためのフィルタである。バンドパスデジタルフィルタ202Bは、圧電振動センサ110の出力振動波形から、10〜33Hzの周波数帯域の成分である心弾波成分を取り出すためのフィルタである。サンプリング周波数は、例えば1000Hzとする。
【0023】
包絡線処理回路210P,210Bは、絶対値回路212P,212Bによって入力信号の絶対値をとるとともに、ローパスフィルタ214P,214Bによるフィルタ処理を施して包絡線を得る回路である。伝播速度演算部220は、包絡線処理回路210P,210Bの出力に基づいて、脈波伝播速度PWVを演算する機能を備えており、
a,包絡線処理回210P,210Bの出力信号波形の包絡線からのピーク検出,
b,脈波GPの包絡線のピークと心弾波GBの包絡線のピークとの差に基づく脈波伝播速度PWVの演算,
が行われるようになっている。
【0024】
前記bの脈波伝播速度の演算は、例えば次のように行う。心弾波GBの伝播速度は音速で、骨を伝播する場合1km/s程度であるのに対し、脈波GPの伝播速度は10m/s程度であり、両者を比較すると、心弾波GBの伝播速度は、ほぼ無限大と考えることができる。してみると、心弾波GBが圧電振動センサ110で検出された時点で脈波GPが心臓を出発したと考えることができるので、心弾波GBの検出から脈波GPの検出に至る時間で脈波GPが人体内の経路を伝播したと考えることができる。従って、脈波伝播速度PWVは、脈波GPが通る経路である心臓から膝裏までの血管長に対し、脈波伝播速度(PWV)=血管長/(脈波と心弾波の時間差)で表される。脈波と心弾波の時間差は、包絡線処理して得られた脈波GPのピークと心弾波GPの時間差となる。なお、血管長は、例えば、レントゲン写真等で得られている動脈血管配置図をベースに体表面をメジャーで測定するなどの方法で知ることができる。あるいは、複数人に関し、このようにして得た血管長と身長との相関関係を得ることで、身長から推定することが可能である。
【0025】
次に、図4〜6も参照しながら、本実施例の動作について説明する。人104の心臓の拍動に基づいて生じた脈波や心弾波は、座面102や人104を通じて、座面102に取り付けられた圧電振動センサ110に伝播する(図2,矢印FP,FB参照)。圧電振動センサ110では、伝わった振動が電気信号に変換されて出力される。この振動波形に対しては、ローパスデジタルフィルタ202P,バンドパスデジタルフィルタ202Bによるフィルタリング処理が施され、ローパスデジタルフィルタ202Pからは脈波の帯域成分が出力され、バンドパスデジタルフィルタ202Bからは心弾波の帯域成分が出力される。
【0026】
図4には、信号波形の一例が示されている。同図(A)は、座面102の比較的先端側に圧電振動センサ110を配置した場合であり、同図(B)は、座面102の比較的後端側に圧電振動センサ110を配置した場合である。GPは脈波,GBは心弾波である。これらのグラフを見ると、多少の相違はあるものの、いずれのセンサ配置であっても、脈波GP,心弾波GBがそれぞれ測定されている。
【0027】
圧電振動センサ110で得た脈波GP及び心弾波GBは、包絡線処理回路210P,210Bにそれぞれ入力され、包絡線検出が行われる。すなわち、絶対値回路212P,212Bによって入力信号の絶対値が求められ、ローパスフィルタ214P,214Bによるフィルタ処理が施される。例えば、図5(A)に示す脈波GP,心弾波GBに対して包絡線処理を行うと、同図(B)に示す包絡線GPE,GBEがそれぞれ求められる。これらの包絡線GPE,GBEの信号は、伝播速度演算部220に入力され、ここで、脈波GPの包絡線GPEのピークPGPEと心弾波GBの包絡線GBEのピークPGBEとの差が求められ、更に、その差に基づいて脈波伝播速度PWVの演算が行われる。
【0028】
ところで、この場合において、包絡線処理回路210P,210Bのローパスフィルタ214P,214Bにおける遮断周波数をどのように設定するかにより、脈波伝播速度PWVの値も異なるようになる。上述した図5(B)は遮断周波数が2.5Hzの場合であるが、これを1Hzとすると図6(A)のようになり、6Hzとすると同図(B)に示すようになる。このような遮断周波数と脈波伝播速度PWVとの関係を示すと、同図(C)に示すようになる。このグラフの結果からすると、遮断周波数が1.5Hz以下では、脈波GP,心弾波GBのどちらの信号も信号強度が低下してしまい、これが原因で正しいピークの時間差値が得られない。またこれに対して、遮断周波数が4Hzを超えてくると、心弾波GBの包絡線処理が不十分になり、これまた正しい脈波伝播速度PWVを得ることができない。この理由により、遮断周波数は、1.5Hz以上4Hz以下に設定するのが好ましい。
【0029】
このように、本実施例によれば、椅子100に取り付けた圧電振動センサ110の出力振動波形から、脈波と心弾波を帯域抽出し、それらの包絡線のピークを利用して脈波伝播速度を演算することとしたので、
a,圧電振動センサを人体に直接取り付けることなく、良好に脈波伝播速度を得ることできる。
b,1つの圧電振動センサのみで脈波と心弾波を同時に測定することができ、それらに基づいて良好に脈波伝播速度を得ることができる。
【実施例2】
【0030】
次に、図3(B)を参照しながら、実施例2について説明する。上述した実施例1では、一つの圧電振動センサ110を使用したが、本実施例では、同図に示すように、ローパスデジタルフィルタ202P,バンドパスデジタルフィルタ202Bのそれぞれに圧電振動センサ110P,110Bを接続している。このようにすることで、前記実施例1と比較して、圧電振動センサの数は増えるが、それぞれの圧電振動センサを、例えば、心弾波の感度が高い尾てい骨下付近と,脈波の感度が高い膝裏付近に設置することが可能になり、信号品質を更に向上させることができるという利点が生ずる。
【0031】
なお、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることができる。例えば、以下のものも含まれる。
(1)前記実施例では、人が日常生活の中で必ず使用する椅子の座面に圧電振動センサを取り付けたが、他に肘掛,背もたれ,ベッドや枕などの寝具等、人が接触する面であれば、各種のものに取り付けてよい。
(2)図3に示した回路構成も、例えばコンピュータプログラムによって演算を行うなど、同様の信号処理を行う各種の形態が考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、人体が接触する面に設置した圧電振動センサの出力振動波形から、フィルタ手段によって脈波及び心弾波をそれぞれ取り出し、それらを利用して脈波伝播速度を演算することとしたので、圧電振動センサを人体に直接取り付けることなく、良好に脈波伝播速度を得ることができ、医療の分野に好適である。
【符号の説明】
【0033】
10,12:圧電振動センサ
100:椅子
102:座面
104:人
110,110P,110B:圧電振動センサ
200:測定回路
202B:バンドパスデジタルフィルタ
202P:ローパスデジタルフィルタ
210P,210B:包絡線処理回路
212P,212B:絶対値回路
214P,214B:ローパスフィルタ
220:伝播速度演算部
GB:心弾波
GP:脈波
GPE,GBE:包絡線
PGPE,PGBE:ピーク
PWV:脈波伝播速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7