特許第6874180号(P6874180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6874180
(24)【登録日】2021年4月23日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
   B66B 25/00 20060101AFI20210510BHJP
   B66B 31/00 20060101ALI20210510BHJP
   B66B 29/08 20060101ALI20210510BHJP
   B66B 23/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B66B25/00 A
   B66B31/00 C
   B66B29/08 Z
   B66B31/00 Z
   B66B23/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-22444(P2020-22444)
(22)【出願日】2020年2月13日
【審査請求日】2020年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和田 勇也
【審査官】 三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−321601(JP,A)
【文献】 特開2007−204227(JP,A)
【文献】 特開2008−303001(JP,A)
【文献】 特開平10−017257(JP,A)
【文献】 特開2009−091116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00−31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラスと、無端状に連結され前記トラス内に配置される踏段と、前記踏段の両側に立設される欄干と、前記欄干の周囲に装着されるハンドレールと、を備える乗客コンベアであって、
前記乗客コンベアの乗り口近辺に設置され、前記乗り口に近づいて来る視覚障害者により所持されるICタグの情報を読み取り可能であって、前記ICタグまでの距離を計測可能な第1読み取り装置と、
前記乗客コンベアの乗り口に設けられる乗降板の裏面に設置される第1振動装置と、
前記乗客コンベアの降り口近辺の前記欄干の上に設置される第2振動装置と、
前記ICタグの情報を前記第1読み取り装置から取得する第1タイミングにおいて、前記踏段の移動速度を通常時よりも遅い速度に切り替える制御装置と、
を具備し、
前記制御装置は、
前記第1読み取り装置により計測された前記ICタグまでの距離が前記乗降板までの距離と同じになる第2タイミングにおいて前記第1振動装置を振動させ、前記第2タイミングからの経過時間が第1時間を超えた第3タイミングにおいて前記第2振動装置を振動させる、
乗客コンベア。
【請求項2】
前記乗客コンベアの乗り口近辺に設置される第1照明装置と、
前記乗客コンベアの降り口近辺に設置される第2照明装置と、
をさらに具備し、
前記制御装置は、
前記第2タイミングにおいて前記第1照明装置を点滅させ、前記第3タイミングにおいて前記第2照明装置を点滅させる、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記第2タイミングからの経過時間が第2時間を超えたタイミングにおいて、前記踏段の移動速度を低速から通常時の速度に切り替える、
請求項1または請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記乗客コンベアの乗り口および降り口近辺に設置される複数の音声案内装置をさらに具備し、
前記制御装置は、
前記踏段の移動速度を切り替える前に、前記各音声案内装置を介して、前記踏段の移動速度が変化する旨を利用者に対して通知する、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記乗客コンベアの降り口近辺に設置され、前記降り口に近づいて来る視覚障害者により所持されるICタグの情報を読み取り可能な第2読み取り装置をさらに具備し、
前記制御装置は、
前記ICタグの情報を前記第2読み取り装置から取得すると、前記第2照明装置を赤色で点滅させる、
請求項2に記載の乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、公共交通機関等のバリアフリー化が進められている。公共交通機関等のバリアフリー化においては、視覚障害者は、点字ブロックによりエレベータまで誘導される。しかしながら、エレベータは一般の動線から外れた場所に設置されることが多いため、結果的に、視覚障害者を遠回りする経路に誘導してしまうという問題がある。また、近年、公共交通機関等では、乗車時と降車時とで戸開するドアが異なるエレベータが設置されることが多いため、視覚障害者は、降車時に方向感覚を失ってしまう可能性がある。
【0003】
このため、一般の動線として利用されているエスカレータ(乗客コンベア)を利用したいという視覚障害者からの要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−321601号公報
【特許文献2】特開2008−303001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した要望がある一方で、乗客コンベアの場合、移動している踏段に乗ったり、降りたりする必要があることから、乗降に際して不安感があり、乗客コンベアを安心して利用することができないという視覚障害者からの別の要望もある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、視覚障害者であっても、安心して利用することが可能な乗客コンベアを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態によれば、乗客コンベアは、トラスと、無端状に連結され前記トラス内に配置される踏段と、前記踏段の両側に立設される欄干と、前記欄干の周囲に装着されるハンドレールと、を備える。前記乗客コンベアは、第1読み取り装置と、第1振動装置と、第2振動装置と、制御装置と、を具備する。前記第1読み取り装置は、前記乗客コンベアの乗り口近辺に設置され、前記乗り口に近づいて来る視覚障害者により所持されるICタグの情報を読み取り可能であって、前記ICタグまでの距離を計測可能である。前記第1振動装置は、前記乗客コンベアの乗り口に設けられる乗降板の裏面に設置される。前記第2振動装置は、前記乗客コンベアの降り口近辺の前記欄干の上に設置される。前記制御装置は、前記ICタグの情報を前記第1読み取り装置から取得する第1タイミングにおいて、前記踏段の移動速度を通常時よりも遅い速度に切り替える。前記制御装置は、前記第1読み取り装置により計測された前記ICタグまでの距離が前記乗降板までの距離と同じになる第2タイミングにおいて前記第1振動装置を振動させ、前記第2タイミングからの経過時間が第1時間を超えた第3タイミングにおいて前記第2振動装置を振動させる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、第1実施形態に係るエスカレータの概略構成例を示す図である。
図2図2は、同実施形態に係るエスカレータの乗り口近辺の拡大図である。
図3図3は、同実施形態に係るエスカレータの降り口近辺の拡大図である。
図4図4は、同実施形態に係るエスカレータの降り口近辺のハンドレールの拡大断面図である。
図5図5は、同実施形態に係る制御装置により視覚障害者用の制御処理が実行されるタイミングを説明するための図である。
図6図6は、同実施形態に係る制御装置により視覚障害者用の制御処理が実行されるタイミングを説明するための別の図である。
図7図7は、同実施形態に係る制御装置により視覚障害者用の制御処理が実行されるタイミングを説明するためのさらに別の図である。
図8図8は、同実施形態に係る制御装置により実行される視覚障害者用の制御処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、第2実施形態および第3実施形態に係るエスカレータの概略構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
いくつかの実施形態につき、図面を参照しながら説明する。
なお、開示はあくまで一例に過ぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は、説明をより明確にするため、実施の態様に比べて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同一または類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する詳細な説明を省略することがある。
【0010】
以下では、主に、視覚障害者を対象にした乗客コンベアの動作を説明する。なお、以下では、視覚障害者は、自身が視覚障害者であることを示すICタグを所持しているものとする。ICタグには、視覚障害者であることを示す情報の他に、当該視覚障害者を識別するためのタグ番号等が記録されていてもよい。視覚障害者によるICタグの所持態様は任意の態様であって構わない。例えば、カード型のものを首からぶら下げる、視覚障害者により使用される杖の先端に埋め込まれる、等がICタグの所持態様の一例として想定される。
また、以下では、乗客コンベアがエスカレータである場合を想定して説明するが、これに限定されず、乗客コンベアは動く歩道等であってもよい。
【0011】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るエスカレータ10の概略構成例を示す図である。
図1に示すように、エスカレータ10は、例えば、建物の上階と下階との間に傾斜して設置される。このエスカレータ10は、隙間なく連結された多数の踏段(ステップ)11を上部機械室12の乗降口(図1では降り口)と下部機械室13の乗降口(図1では乗り口)との間で循環移動させることで、踏段11上に搭乗した利用者(乗客)を搬送する。
【0012】
各踏段11は、無端状の連結チェーン14によって連結されており、建物の床下に設置されたトラス15内に配置されている。トラス15の内部には、上部スプロケット16と下部スプロケット17とが配置されており、これらの間に連結チェーン14が巻き掛けられている。
【0013】
上部スプロケット16と下部スプロケット17のいずれか一方(図1では上部スプロケット16)には、モータや減速機等を有する駆動装置18が連結されている。この駆動装置18により、スプロケット16および17が回転し、スプロケット16および17に噛み合う連結チェーン14を介して複数の踏段11が案内レール(図示せず)にガイドされながら上部機械室12の乗降口と下部機械室13の乗降口との間を循環移動する。
【0014】
また、トラス15の上部には、各踏段11の両側面と対向するように一対のスカートガード(図示せず)が踏段11の移動方向に沿って設置されている。この一対のスカートガード上にそれぞれ欄干19が立設されている。換言すると、欄干19は各踏段11の両側にそれぞれ立設されている。欄干19の周囲にはベルト状のハンドレール20が装着されている。ハンドレール20は、踏段11に搭乗している乗客が把持する手すりであり、例えば駆動装置18の駆動力が伝達されることで、踏段11の移動と同期して周回する。
【0015】
上部機械室12および下部機械室13の乗降口には、乗降板22および23がそれぞれ設置されている。乗降板22および23は、利用者がエスカレータ10の乗降時にその上を通行するものである。乗降板22および23は取り外し可能に設置されており、上部機械室12および下部機械室13は、乗降板22および23の下方にそれぞれ配置されている。つまり、乗降板22および23は、上部機械室12および下部機械室13の天井にも相当する。
上部機械室12には、駆動装置18の他に、制御装置21が設置されている。制御装置21は、エスカレータ10に設置されている各種機器の動作を制御する。
【0016】
エスカレータ10の乗り口側の乗降板(図1では乗降板23)の裏面には、第1振動装置24が設置されている。また、エスカレータ10の降り口近辺の欄干19の上には、第2振動装置25が設置されている。第1振動装置24および第2振動装置25は共に、制御装置21によりその動作が制御される。
【0017】
エスカレータ10の乗り口近辺には、ICタグリーダー26(第1読み取り装置)が設置されている。ICタグリーダー26は、エスカレータ10の乗り口に近づいて来る視覚障害者が所持しているICタグ50の情報を読み取ると共に、当該ICタグ50までの距離を計測する機能を有している。ICタグリーダー26により読み取られたICタグ50の情報(以下、タグ情報と表記する)と、計測された当該ICタグ50までの距離を示す情報(以下、距離情報と表記する)とは、制御装置21に送られる。
【0018】
制御装置21は、ICタグリーダー26から送られて来るタグ情報および距離情報を取得すると、当該取得されたタグ情報に基づき、視覚障害者がエスカレータ10に搭乗しようとしていることを把握(認識)し、当該視覚障害者用の制御処理を実行する。具体的には、制御装置21は、第1振動装置24を振動させ、視覚障害者に対して、エスカレータ10の乗り口が近いことを通知する。また、制御装置21は、第2振動装置25を振動させ、視覚障害者に対して、エスカレータ10の降り口が近いことを通知する。
【0019】
図2は、エスカレータ10の乗り口近辺を拡大して示す図である。
図2に示すように、乗り口側の乗降板23の裏面には、第1振動装置24が設置されている。第1振動装置24は、視覚障害者に対してエスカレータ10の乗り口が近いことを通知するために使用される。第1振動装置24は、例えばバイブレーション機能を有した装置であり、制御装置21からの指示にしたがって動作する(つまり、振動する)。第1振動装置24と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0020】
図2に示すように、エスカレータ10の乗り口近辺、具体的には、乗り口近辺のスカートガードには、ICタグリーダー26が設置されている。なお、ICタグリーダー26の設置位置はこれに限定されず、エスカレータ10の乗り口近辺であれば、任意の位置に設置されて構わない。
【0021】
ICタグリーダー26は前方に(換言すると、乗り口側からエスカレータ10に近づいて来る視覚障害者が所持するICタグ50に向けて)電波を発射し、発射した電波の届く範囲内にあるICタグ50のタグ情報を読み取ると共に、当該ICタグ50までの距離(つまり、当該ICタグ50を所持する視覚障害者までの距離)を計測する。ICタグリーダー26により読み取られたタグ情報と、ICタグリーダー26により計測されたICタグ50までの距離を示す距離情報とは、制御装置21に送られる。ICタグリーダー26と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0022】
図2に示すように、エスカレータ10の乗り口近辺のスカートガードには、ICタグリーダー26に加えて、非常停止ボタン27や第1コムライト28(第1照明装置)が設置されている。なお、非常停止ボタン27や第1コムライト28の設置位置はこれに限定されず、エスカレータ10の乗り口近辺であれば、任意の位置に設置されて構わない。
【0023】
非常停止ボタン27は非常時に利用者等により押下されるボタンである。非常停止ボタン27が押下された場合、制御装置21は、エスカレータ10の運転を緊急停止させると共に、エスカレータ10に異常が生じたことを監視センタ(図示せず)に通知する。非常停止ボタン27と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0024】
第1コムライト28は、エスカレータ10の乗り口(コム近辺)を照らすための照明装置であり、制御装置21からの指示にしたがって動作する(つまり、点灯または点滅する)。第1コムライト28と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0025】
図3は、エスカレータ10の降り口近辺を拡大して示す図である。
図3に示すように、エスカレータ10の降り口近辺の欄干19の上には、第2振動装置25が設置されている。なお、第2振動装置25については、図4と共に後述するため、ここではその詳しい説明を省略する。
【0026】
エスカレータ10の降り口近辺、具体的には、降り口近辺のスカートガードには、第2コムライト29(第2照明装置)が設置されている。第2コムライト29は、エスカレータ10の降り口(コム近辺)を照らすための照明装置であり、制御装置21からの指示にしたがって動作する(つまり、点灯または点滅する)。第2コムライト29と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
なお、図2および図3では図示を省略しているが、エスカレータ10の乗り口および降り口近辺には、音声アナウンスを行うための音声案内装置がそれぞれ設置されている。
【0027】
図4は、エスカレータ10の降り口近辺のハンドレール20の断面図につき拡大して示す図である。
図4に示すように、ハンドレール20は、折り曲げられた金属板20aを介して、欄干19の上に設置されている。この金属板20aの上には、第2振動装置25が設置されている。第2振動装置25は、視覚障害者に対してエスカレータ10の降り口が近いことを通知するために使用される。第2振動装置25は、第1振動装置24と同様に、例えばバイブレーション機能を有した装置であり、制御装置21からの指示にしたがって動作する(つまり、振動する)。第2振動装置25と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。第2振動装置25の動作に伴う振動は、金属板20aを介してハンドレール20に伝達される。
【0028】
ここで、図5図7を参照して、制御装置21により視覚障害者用の制御処理が実行されるタイミングについて説明する。
図5に示すように、ICタグ50を所持する視覚障害者がタグ情報を読み取り可能な範囲まで近づいて来たタイミングであって、ICタグリーダー26から当該タグ情報を取得した第1タイミングにおいて、制御装置21は、音声案内装置を介して、エスカレータ10の運転が通常運転から低速運転に切り替わる旨を利用者に対して通知する。また、制御装置21は、上記した第1タイミングから所定時間が経過したタイミング(または第1タイミング)において、エスカレータ10の運転を通常運転から低速運転に(徐々に)切り替える。
【0029】
図6に示すように、ICタグ50を所持する視覚障害者がエスカレータ10の乗り口側の乗降板23上にいるタイミングであって、ICタグリーダー26から継続的に取得される距離情報により示される当該ICタグ50までの距離が、予め設定された乗降板23までの距離と同じになった第2タイミングにおいて、制御装置21は、第1振動装置24を振動させる。また、制御装置21は、上記した第2タイミングにおいて、第1コムライト28を点滅させる。なお、制御装置21は、図6に示す第2タイミングにおいて、当該第2タイミングからの経過時間(つまり、視覚障害者が乗降板23上に来たタイミングからの経過時間)を計測し始める。
【0030】
図7に示すように、ICタグ50を所持する視覚障害者がエスカレータ10の降り口近辺まで搬送されて来たタイミングであって、図6に示す第2タイミングからの経過時間が、予め設定された第1時間を超えた第3タイミングにおいて、制御装置21は、第2振動装置25を振動させる。また、制御装置21は、上記した第3タイミングにおいて、第2コムライト29を点滅させる。第1時間とは、視覚障害者がエスカレータ10に乗車するために、乗車側の乗降板23から予め設定された距離まで接近した時(換言すると、第2タイミング)から、視覚障害者が踏段11に乗車して、降車側の乗降板22に近づくまでに要する時間に相当する。
【0031】
次に、図8のフローチャートを参照して、視覚障害者がエスカレータ10に近づいて来た場合に制御装置21により実行される視覚障害者用の制御処理の手順の一例について説明する。
【0032】
まず、制御装置21は、ICタグリーダー26から送られて来るタグ情報を取得した第1タイミングにおいて、音声案内装置を介して、エスカレータ10の運転が通常運転から低速運転に切り替わる旨を利用者に対して通知する(ステップS1)。これによれば、エスカレータ10の利用者は、踏段11の移動速度が遅くなることを予め把握することが可能となるので、踏段11の移動速度が急に変化したことに起因した転倒事故の発生等を抑制することが可能である。
続いて、制御装置21は、駆動装置18の動作を制御して、エスカレータ10の運転を通常運転から低速運転に切り替える(ステップS2)。
【0033】
次に、制御装置21は、上記したステップS1の処理以降、ICタグリーダー26から継続的に送られて来る距離情報により示される距離が、予め設定された乗降板23までの距離と同じになった第2タイミングにおいて、第1振動装置24を振動させ、かつ、第1コムライト28を点滅させる(ステップS3)。なお、制御装置21は、上記した第2タイミングにおいて、当該第2タイミングからの経過時間の計測を開始する。
【0034】
制御装置21は、第2タイミングからの経過時間が第1時間を超えたか否かを判定する(ステップS4)。なお、上記したステップS4の処理の結果、第2タイミングからの経過時間が第1時間を超えていないと判定された場合(ステップS4のNO)、制御装置21は当該経過時間が第1時間を超えるまで、上記したステップS4の処理を繰り返し実行する。
【0035】
一方で、上記したステップS4の処理の結果、第2タイミングからの経過時間が第1時間を超えたと判定された場合(ステップS4のYES)、制御装置21は、エスカレータ10に搭乗している視覚障害者が降り口近辺まで搬送されて来たと判断する。そして、制御装置21は、視覚障害者が降り口近辺まで搬送されて来たこの第3タイミングにおいて、第2振動装置25を振動させ、かつ、第2コムライト29を点滅させる(ステップS5)。
【0036】
次に、制御装置21は、第2タイミングからの経過時間が第2時間(>第1時間)を超えたか否かを判定する(ステップS6)。なお、上記したステップS6の処理の結果、第2タイミングからの経過時間が第2時間を超えていないと判定された場合(ステップS6のNO)、制御装置21は当該経過時間が第2時間を超えるまで、上記したステップS6の処理を繰り返し実行する。第2時間とは、視覚障害者がエスカレータ10に乗車するために、乗車側の乗降板23から予め設定された距離まで接近した時(換言すると、第2タイミング)から、視覚障害者がエスカレータ10から降車し、降車側の乗降板22から予め設定された距離だけ離れるまでに要する時間に相当する。
【0037】
一方で、上記したステップS6の処理の結果、第2タイミングからの経過時間が第2時間を超えたと判定された場合(ステップS6のYES)、制御装置21は、エスカレータ10に搭乗していた視覚障害者の搬送は完了したと判断し、音声案内装置を介して、エスカレータ10の運転が低速運転から通常運転に切り替わる旨を利用者に対して通知する(ステップS7)。これによれば、エスカレータ10の利用者は、踏段11の移動速度が速くなることを予め把握することが可能となるので、踏段11の移動速度が急に変化したことに起因した転倒事故の発生等を抑制することが可能である。
【0038】
しかる後、制御装置21は、駆動装置18の動作を制御して、エスカレータ10の運転を低速運転から通常運転に切り替え(ステップS8)、ここでの一連の制御処理を終了させる。
【0039】
以上説明した第1実施形態によれば、エスカレータ10は、視覚障害者が所持するICタグ50のタグ情報を読み取り可能であり、かつ、当該ICタグ50までの距離を計測可能であるICタグリーダー26を備えている。これによれば、制御装置21は、ICタグリーダー26から取得されるタグ情報および距離情報に基づいて、エスカレータ10に近づいて来る視覚障害者の位置を把握することが可能となり、視覚障害者の位置に応じた制御処理(視覚障害者用の制御処理)を実行することが可能である。
【0040】
また、エスカレータ10は、乗り口側の乗降板23の裏面に第1振動装置24を備えているので、視覚障害者に対して、第1振動装置24の振動により、乗り口が近いことを通知することが可能である。さらに、エスカレータ10は、降り口近辺の欄干19の上に第2振動装置25を備えているので、視覚障害者に対して、第2振動装置25の振動により、降り口が近いことを通知することが可能である。
【0041】
さらに、制御装置21は、第1振動装置24を振動させる他に、視覚障害者に対して乗り口が近いことを通知するために第1コムライト28を点滅させる。また、制御装置21は、第2振動装置25を振動させる他に、視覚障害者に対して降り口が近いことを通知するために第2コムライト29を点滅させる。これによれば、視覚障害者(特に、僅かな視力を有する弱視の視覚障害者)に対して、振動と点滅という2通りの方法(つまり、触覚と視覚という2つの感覚に刺激を与える方法)で、エスカレータ10の乗り口および降り口が近いことを通知することが可能である。
【0042】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態に係るエスカレータは、乗り口近辺だけでなく、降り口近辺にもICタグリーダーが設置されている点で、上記した第1実施形態と相違している。以下では、基本的に、上記した第1実施形態と相違している点について説明する。
【0043】
図9は、第2実施形態に係るエスカレータ10Aの概略構成例を示す図である。
図9に示すように、エスカレータ10Aの降り口近辺には、ICタグリーダー30(第2読み取り装置)が設置されている。ICタグリーダー30は前方に(換言すると、降り口側からエスカレータ10に近づいて来る視覚障害者が所持するICタグ50Aに向けて)電波を発射し、発射した電波の届く範囲内にあるICタグ50Aのタグ情報を読み取る。ICタグリーダー30により読み取られたタグ情報は制御装置21に送られる。ICタグリーダー30と制御装置21とは有線で接続されていてもよいし、無線で接続されていてもよい。
【0044】
ICタグリーダー26および30は共に、エスカレータ10に近づいて来る視覚障害者が所持するICタグ50および50Aのタグ情報を読み取る装置(つまり、エスカレータ10に侵入して来るICタグ50および50Aのタグ情報を読み取る装置)であるため、例えば、ICタグリーダー30は、エスカレータ10に搭乗して搬送されて来る視覚障害者が所持するICタグ50のタグ情報は読み取らないものとする。
【0045】
制御装置21は、ICタグリーダー30から送られて来るタグ情報を取得すると、当該取得されたタグ情報に基づき、視覚障害者が誤って降り口側からエスカレータ10に搭乗しようとしていることを把握(認識)し、第2コムライト29を例えば赤色で点滅させる。この時、制御装置21は、音声案内装置を介して、現在位置がエスカレータ10の降り口側である旨の警告を視覚障害者に対してさらに通知するとしてもよい。
【0046】
以上説明した第2実施形態によれば、エスカレータ10Aは、降り口側から搭乗しようとしている視覚障害者が所持するICタグ50Aのタグ情報を読み取り可能なICタグリーダー30を備えている。これによれば、制御装置21は、ICタグリーダー30から取得されるタグ情報に基づいて、降り口側からエスカレータ10Aに近づいて来る視覚障害者を対象にした制御処理を実行することが可能である。具体的には、制御装置21は、エスカレータ10Aを逆走しようとしている視覚障害者を検知し、当該視覚障害者に対して警告を行うことが可能である。これによれば、視覚障害者がエスカレータを利用するにあたっての安全性をより向上させることが可能である。
【0047】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態の構成は、上記した第2実施形態の構成と同様に、乗り口近辺だけでなく、降り口近辺にもICタグリーダーが設置されている構成である。但し、第3実施形態においては、ICタグリーダーは自身の前方にのみ電波を発射するのではなく、周囲に電波を発射する点で、上記した第2実施形態と相違している。この相違点によれば、降り口近辺に設置されているICタグリーダーは、降り口側からエスカレータに近づいて来る視覚障害者が所持するICタグのタグ情報の他に、エスカレータに搭乗して搬送されて来る視覚障害者が所持するICタグのタグ情報も読み取ることが可能である。また、第3実施形態においては、制御装置が、タグ情報に含まれるタグ番号を含む搭乗情報の生成・管理を行う点で、上記した第2実施形態と相違している。以下では、基本的に、上記した第2実施形態と相違している点について説明する。
【0048】
制御装置21は、乗り口近辺のICタグリーダー26から送られて来るタグ情報を取得すると、当該取得されたタグ情報により示されるタグ番号を含む搭乗情報であって、当該タグ番号により識別される視覚障害者がエスカレータ10Aに搭乗する旨の搭乗情報を生成し、これを管理する。これによれば、制御装置21は、タグ番号により識別される視覚障害者がエスカレータ10Aに搭乗すること(ひいては、搭乗したこと)を把握することが可能となる。
【0049】
制御装置21は、降り口近辺のICタグリーダー30から送られて来るタグ情報を取得すると、当該取得されたタグ情報により示されるタグ番号を含む搭乗情報を管理しているか否かを判定する。
【0050】
制御装置21は、取得されたタグ情報により示されるタグ番号を含む搭乗情報を管理していると判定した場合、降り口近辺のICタグリーダー30から送られて来たタグ情報は、エスカレータ10Aに搭乗して搬送されて来た視覚障害者が所持するICタグ50のタグ情報であると判定し、当該視覚障害者に対して降り口近辺であることを通知するために、第2振動装置25を振動させ、かつ、第2コムライト29を点滅させる。
【0051】
一方で、制御装置21は、取得されたタグ情報により示されるタグ番号を含む搭乗情報を管理していないと判定した場合、降り口近辺のICタグリーダー30から送られて来たタグ情報は、降り口側からエスカレータ10Aに搭乗しようとしている視覚障害者が所持するICタグ50Aのタグ情報であると判定し、当該視覚障害者に対して逆走しようとしていることを警告するために、第2コムライト29を例えば赤色で点滅させる。この時、制御装置21は、音声案内装置を介して、現在位置がエスカレータ10の降り口側である旨の警告を視覚障害者に対してさらに通知するとしてもよい。
【0052】
以上説明した第3実施形態によれば、制御装置21は、乗り口近辺に設置されているICタグリーダー26から送られて来るタグ情報を取得した場合に、当該取得されたタグ情報により示されるタグ番号を含む搭乗情報を生成し、これを管理する機能を備えている。これによれば、制御装置21は、降り口近辺のICタグリーダー30から送られて来るタグ情報を取得した場合に、上記した搭乗情報の有無に基づいて、当該タグ情報がICタグ50および50Aのうちのどちらからのタグ情報であるかを判定することが可能である。この場合、制御装置21は、上記した第2タイミングからの経過時間を計測する処理を省略しても構わない。
【0053】
以上説明した各実施形態においては、視覚障害者がICタグを所持し、当該ICタグのタグ情報を読み取り可能なICタグリーダーがエスカレータに設置されている場合を想定したが、これに限定されず、視覚障害者であることを示す物品を視覚障害者が所持し、当該物品を検知可能な検知装置がエスカレータに設置されていれば、これら物品と検知装置とは、ICタグとICタグリーダー以外であっても構わない。この場合においても、上記した各実施形態と同様な効果を得ることが可能である。
【0054】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、視覚障害者であっても、安心して利用することが可能なエスカレータ(乗客コンベア)を提供することが可能である。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…エスカレータ、21…制御装置、23…乗降板、24…第1振動装置、25…第2振動装置、26…ICタグリーダー、28…第1コムライト、29…第2コムライト。
【要約】
【課題】 視覚障害者であっても、安心して利用することが可能な乗客コンベアを提供すること。
【解決手段】 一実施形態によれば、乗客コンベアは、第1読み取り装置と、第1振動装置と、第2振動装置と、制御装置と、を備える。第1読み取り装置は、乗客コンベアの乗り口近辺に設置され、乗り口に近づいて来る視覚障害者により所持されるICタグの情報を読み取り可能であって、ICタグまでの距離を計測可能である。制御装置は、ICタグの情報を取得したタイミングにおいて、踏段の移動速度を遅い速度に切り替える。制御装置は、計測されたICタグまでの距離が乗り口側の乗降板までの距離と同じになるタイミングにおいて乗降板裏面の第1振動装置を振動させ、当該タイミングからの経過時間が第1時間を超えたタイミングにおいて降り口近辺の欄干上の第2振動装置を振動させる。
【選択図】 図1
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