(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スプレー塗布した後に平刷毛を用いる技術では、塗装動作が煩雑で、スプレー塗装用のノズルと、平刷毛とを準備しなければならず、装置が複雑で機構も複雑である。また、複雑な凹凸部を有する受口について、人が手作業で塗装するには、作業効率が低い。
【0005】
そこで、本発明の一態様は、簡素な塗装動作で、管の受口の内面に塗膜を形成することが可能な塗装装置および、当該塗装装置を用いて管の受口の内面を塗装する管の製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る塗装装置は、管の受口の内面を塗装する塗装装置であって、ロボットアームの先端に取り付け可能な支持体と、塗料を吐出するノズルを複数有するノズル群と、を備え、前記ノズル群は、互いに異なる方向に塗料を吐出するように前記支持体に取り付けられている。
【0007】
前記の構成によれば、簡素な塗装動作で、異なる方向に塗料を吐出する複数のノズルを用いて塗装することによって、管の受口の内面に塗膜を形成することができる。ノズル群が異なる方向に塗料を吐出することから、管の受口の内面に凹凸形状がある場合であっても、当該凹凸形状の面全域に塗膜を形成することができる。すなわち、前記の構成によれば、複雑な凹凸形状であっても、手動で塗装する必要がなく、作業の効率化を図ることができる。
【0008】
本発明の一態様に係る塗装装置において、前記ノズル群は、第1のノズルおよび第2のノズルを少なくとも有しており、前記第1のノズルは、前記受口の内面に設けられた他の管との接続のための凹凸形状の表面のうちの、前記管の奥を向いた面に向かって塗料を吐出し、前記第2のノズルは、前記凹凸形状の表面のうちの、管軸に沿った面および前記管端を向いた面に向かって塗料を吐出してもよい。
【0009】
前記の構成によれば、管の受口の内面に凹凸形状がある場合であっても、簡素な塗装動作で、当該内面全域に塗料を吐出することができる。
【0010】
本発明の一態様に係る塗装装置において、前記ノズル群は、前記管の受口の管端から管内部に挿入して、塗料を吐出し、前記第1のノズルは、前記挿入の方向に沿った軸に対して垂直な方向に塗料を吐出するか、あるいは、当該垂直な方向よりも当該挿入の方向の後方に傾斜した方向に塗料を吐出し、前記第2のノズルは、前記挿入の方向に沿った軸に対して垂直な方向よりも当該挿入の方向の前方に傾斜した方向に塗料を吐出してもよい。
【0011】
前記の構成によれば、簡素な塗装動作で、前記第1のノズルから前記垂直な方向に吐出された塗料を、例えば管の受口の内面に設けた凹凸形状の、管軸に対して平行な面に吐出して塗膜を形成することができる。また、前記第2のノズルから前記傾斜した方向に塗料を吐出することによって、当該凹凸形状の、管軸に対して垂直であって管の受口の管端を向いた面に塗膜を形成することができる。
【0012】
本発明の一態様に係る塗装装置において、前記第1のノズルおよび前記第2のノズルは、第1の塗料を吐出し、前記ノズル群は、互いに異なる方向に塗料を吐出するように前記支持体に取り付けられている第3のノズルおよび第4のノズルを更に有しており、前記第3のノズルおよび前記第4のノズルは、前記第1の塗料とは異なる第2の塗料を吐出してもよい。
【0013】
前記の構成によれば、第1の塗料の塗装処理に続いて、第2の塗料の塗装処理を行う場合にも、同じ塗装装置を用いて塗装処理を行うことができるため、塗装処理全体に係る時間を短縮することができる。
【0014】
本発明の一態様に係る塗装装置において、前記管の内部を閉塞するマスキング体を外部から挿入するマスキング設置機構を更に備えていてもよい。
【0015】
前記の構成によれば、マスキング体によって、管の塗装範囲以外の領域にノズルから吐出した塗料が飛散することを防止することができる。
【0016】
本発明の一態様に係る塗装装置において、管軸が水平となるように前記管を保持する管保持部を更に備え、前記第2のノズルが前記管保持部に保持された前記管の受口の内面における当該受口の前記管端から最も離れた箇所に塗料を塗布する場合に、前記管端の側から前記挿入の方向に見た当該第2のノズルは、斜め方向に向かって塗料を塗布してもよい。
【0017】
前記の構成によれば、塗料を真下に吐出する場合と比較して、管の奥に向かって不都合に飛散する塗料の飛散量を抑えることができる。そのため、奥にマスキング体を設置している場合には、当該マスキング体に付着する塗料の量を減少させることができる。
【0018】
また、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る管の製造方法は、前記の塗装装置を用いて、管の受口の内面に塗料を塗布する。
【0019】
前記の構成によれば、前記塗装装置と同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、簡素な塗装動作で、管の受口の内面に塗膜を形成することが可能な塗装装置および、当該塗装装置を用いて管の受口の内面を効率よく塗装する管の製造方法を実現することできる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施形態1に係る塗装装置100の外観を示す斜視図である。
図2は、塗装装置100の上面図を示しており、説明の便宜上、塗装対象である管1を併せて図示しており、管1については受口側の管端およびその近傍を断面として図示している。
【0023】
<塗装対象である管>
ここで先ず、管1について説明する。管1は、略中空円筒形状であり、
図2および
図3に示すように、受口の端面2(管端)側から、内面に設けられた他の管との接続のための凹凸形状を有する領域A1、領域A1に隣接する領域A2(D9寸法部)、内面がほぼ平坦な領域A3(直部)が存在する。例えば、管1は、主に水道管として使用されるダクタイル鋳鉄管である。管1は、防錆、水質への影響を防ぐため、その内周面を塗装する必要があり、本実施形態1の塗装装置100は、その塗装のために用いることができる。なお、塗装装置100は、領域A1のみに塗装を行い、領域A2および領域A3は塗装対象としない。
【0024】
管1の内面を塗装する場合には、後述する管保持部40によって管1を管軸が水平となるように保持しつつ、軸心まわりに回転させて、後述するノズル群10のノズルの先端部から吐出される塗料を内面に吹きかけて、塗膜を形成する。
【0025】
なお、塗装装置100は、管1の受口内面の塗装を2段階に分けて行う。まず、プライマ塗装工程としてジンクリッチ系(亜鉛)塗料を塗布する塗装処理を行い、その後、本塗装工程としてエポキシ樹脂等の合成樹脂塗料を塗布する塗装処理を行う。
【0026】
(1)塗装装置の構成
塗装装置100は、先述の管1の受口の内面を塗装する装置である。詳細には、管1の受口の内面の、凹凸形状に形成された領域を塗装する装置である。
【0027】
塗装装置100は、
図1に示すように、ロボットアーム16の先端に取り付け可能な支持体20と、塗料を吐出するノズル11〜14を有するノズル群10とを備えている。以下、塗装装置100の各部について、説明する。
【0028】
<ロボットアーム>
ロボットアーム16は、先端に支持体20を取り付け可能であり、この支持体20を介してノズル群10を取り付けることができる。
【0029】
ロボットアーム16は、制御部(図示せず)によって、その動作を制御され、先端部分が上下左右前後方向に移動することができる。
図1、
図2に示すように、ここで「上下方向」とは鉛直方向をいう。また、「前後方向」とは、ノズル群10が管1の管内に挿入されるために管1に近づく方向を「前方向」、その反対方向を「後方向」で規定される方向をいう。また、「左右方向」とは、先の「上下方向」および「前後方向」に対して直交する方向をいう。
【0030】
図1に示すように、ロボットアーム16の前方には、管1の管端の端面2までの距離Lを計測する距離センサ15が備えられている。距離センサ15により、管1に対してノズル群10を適切な位置に位置決めすることができる。なお、管1の位置決め装置の一例である流れ止めローラを用いて管1の位置を精度よく位置決めできる場合は、距離センサ15を省略しても良い。
【0031】
図1および
図2は、塗装処理が行われていない状態でのロボットアーム16、支持体20、ノズル群の位置を示している。なお、
図2では、塗装処理が行われていない状態(以下、初期状態と称する)でのロボットアーム16、支持体20、ノズル群10の位置を実線で示し、塗装処理が行われている状態のロボットアーム16、支持体20、ノズル群10の位置を点線で示す。初期状態から塗装処理が開始されると、ロボットアーム16は、初期状態の時の位置(以下、初期位置と称する)の支持体20および支持体20に取り付けられているノズル群10を管1に向かって前進させて、塗装処理に使われるノズル(
図2ではノズル11)を管1内に挿入する。塗装処理の間は、ロボットアーム16が管1の端面2に向かって後退する。これに伴って、管内に挿入されたノズルも管内を後方に向かって移動し、塗装処理が管内の前方から後方に向かって進行する。挿入されたノズルが管1の端面2の位置に到達した後は、ロボットアーム16は、支持体20およびノズル群10を再び
図2の実線で示した初期位置に戻す。
【0032】
<支持体>
支持体20は、複数のノズルからなるノズル群を支持し、ロボットアーム16の先端に取り付けることができる。本実施形態では、支持体20には、その下端に4本のノズル11〜14が取り付けられている。各ノズルについては後述する。
【0033】
支持体20は、ロボットアーム16によって、ロボットアーム16との接続点を中心にして、時計回り、反時計回りに自在に回転することができる。したがって、
図2に点線で示すように、塗装装置100により管1の内面の塗装処理を実行する場合には、ロボットアーム16に取り付けられた支持体20を回転させて、塗料を吐出するノズル(
図2の場合は、ノズル11)を前方に配置させることができる。
【0034】
<ノズル群>
ノズル群10は、ノズル11〜14の4本のノズルから構成される。ノズル11〜14はそれぞれ、塗料を吐出する先端部11a,12a,13a,14aを、支持体20から各先端部まで延びるエクステンションの先端に有している。本実施形態では、
図2に示すように、上面視において、4本のノズル11〜14は互いに略90度の角度を持って支持体20の周りに放射状に拡がる方向に配置されている。
【0035】
ノズル群10は、ロボットアーム16によって位置および姿勢が変化し、後述する第1塗装工程〜第4塗装工程の各塗装工程では、4本のノズルのうち、1本のノズルのみが、塗装処理に用いられる。なお、ノズルの本数、およびノズル同士の相対的な配置関係には、上述のものに限定されない。
【0036】
上記4本のうち、第1のノズル11および第2のノズル12は、第1の塗料を吐出し、第3のノズル13および第4のノズル14は、第1の塗料とは異なる第2の塗料を吐出する。例えば、第1のノズル11と第2のノズル12は、プライマ塗装用ノズルであり、ジンクリッチ系塗料を吐出する。また、第3のノズル13と第4のノズル14は、本塗装用ノズルであり、エポキシ樹脂塗料等の合成樹脂塗料を吐出する。本実施形態では、ジンクリッチ系塗料、合成樹脂塗料とも水性塗料であるが、有機溶剤を用いた塗料(溶剤系塗料)を使用してもよい。塗料の吐出方法としては、エア式、エアレス式どちらであってもよいが、エアレス式は吐出した塗料の飛散が少なく、集塵機等の付帯設備が簡素化でき、設備を小型化ができることから、エアレス式が好ましい。
【0037】
第1の塗料を吐出する第1のノズル11と第2のノズル12は、互いに異なる方向に第1の塗料を吐出する。また、第2の塗料を吐出する第3のノズル13と第4のノズル14も、互いに異なる方向に第2の塗料を吐出する。これについて、
図4を用いて詳述する。
【0038】
図4には、管1の受口の内面が各ノズルによって塗装される様子を示した部分拡大断面図である。なお、本実施形態では、第1の塗料を吐出する第1のノズル11と、第2の塗料を吐出する第3のノズル13とが同じ構造のノズルであり、第1の塗料を吐出する第2のノズル12と、第2の塗料を吐出する第4のノズル14とが同じ構造のノズルである。そのため、以下では、構造の異なる第1のノズル11と第2のノズル12とを例に挙げて、これらの違いを説明する。
【0039】
第1のノズル11の塗料を吐出する先端部11aは、先端部11aを管1の管内に挿入した状態において鉛直方向下方に対して、後方(管端の端面2側)に傾斜しているか、鉛直方向下方に向いている。第1のノズル11の塗料を吐出する先端部11aからの塗料の吐出方向は、鉛直方向下方に対して後方(管端の端面2側)に傾斜した方向となるか、鉛直方向下方となる。これにより、管1の受口内面の凹凸形状の表面のうちの、管1の奥を向いた面(
図4のf1)に向かって塗料を塗布することができる。また、管軸に沿った面(
図4のf2の一部)にも塗料を塗布することができる。好ましくは、第1のノズル11からの塗料の吐出方向は、鉛直方向に対して管1の後方に0°超え、30°以下の範囲で傾いているか、0°である。なお、後述する第1マスキング体31の中央付近には切込みが形成されおり、第1のノズル11の先端部11aは第1マスキング体31の切込みに食い込むことができる。以上は、第3のノズル13も同様である。
【0040】
一方、第2のノズル12の塗料を吐出する先端部12aは、先端部12aを管1の管内に挿入した状態において管1の奥を向いている。第2のノズル12の塗料を吐出する先端部12aからの塗料の吐出方向は、管1の奥(挿入の方向の前方)を向いている。これにより、前記凹凸形状の表面のうちの、管軸に沿った面および前記管端を向いた面(
図4のf2およびf’2)に向かって塗料を塗布することができる。以上は、第4のノズル14も同様である。
【0041】
つまり、
図4に示すように、第1のノズル11および第3のノズル13(先端部11a,13a)は、ノズル群10の挿入の方向に沿った軸(管軸と同軸)に対して垂直な方向よりも当該挿入の方向の後方に傾斜した方向に塗料を吐出し、第2のノズル12および第4のノズル14(先端部12a,14a)は、前記挿入の方向に沿った軸に対して垂直な方向よりも当該挿入の方向の前方に傾斜した方向に塗料を吐出する。好ましくは、第2のノズル12からの塗料の吐出方向は、鉛直方向に対して管1の前方に0°超え、60°以下の範囲で傾いている。
【0042】
このように、塗料の吐出方向の異なる複数のノズルを用いて塗装処理を行うことによって、管1の受口内面の凹凸形状の表面全域に塗料を吐出して塗装することができる。
【0043】
ノズルの位置(高さ、水平方向)は、管1の口径、管種に応じて、適宜調整することが可能である。更に、吐出した塗料が管1の回転方向に対し、垂直になるように塗料の吐出方向を調整することで、塗装の歩留まりを向上させることができる。
【0044】
図5の上側は、管1を第1のノズル11によって塗装する様子を示した斜視図であり、
図5の下側は、第1のノズル11の先端部11aから吐出される塗料の吐出パターンを2種類示した拡大図である。なお、以下の内容は、第3のノズル13の先端部13aも同様である。
【0045】
図5の上側に示すように、第1のノズル11の先端部11aからは、
図5の下側の左に示すように塗料をコーン状のパターンで吐出することも、
図5の下側の右に示すように塗料を扇形状(シート状)吐出することもできる。なお、塗料をコーン状に吐出するよりも扇形状に吐出することがより好ましい。塗料を扇形状のパターンで吐出することにより、管1の内面の凹部(シート状溝)5の周方向に対し垂直に塗装することができ、凹部5の角部分等の塗料が付着しにくい箇所も効率よくより均一に塗装することが可能になり、塗装時間を短縮することができる。
【0046】
一方、
図6の上側は、管1を第2のノズル12によって塗装する様子を示した斜視図であり、
図6の下側は、第2のノズル12の先端部12aから吐出される塗料の吐出パターンを示した拡大図である。なお、以下の内容は、第4のノズル14の先端部14aも同様である。
【0047】
第2のノズル12の先端部12aからは、吐出パターンがコーン形状ではなく、扇形状(シート状)に塗料を噴射する。
【0048】
また、
図7の上側は、管端から最も離れた箇所、即ち第1マスキング体31と凹部5との境界の箇所f’2を、第2のノズル12によって塗装する様子を示した斜視図であり、
図7の下側は、このときの第2のノズル12の先端部12aから吐出される塗料の吐出パターンを示した拡大図である。
【0049】
箇所f’2を塗装する場合には、管端の側からノズル群10の挿入の方向に見た第2のノズル12は、真下方向ではなく斜め方向、具体的には斜め下方向に向かって塗料を塗布する。これにより、先端部12aからの扇形状の吐出幅が、
図7の下側に示すように、凹部5を横断するかたちとなり、第1マスキング体31に付着する塗料の量を減少させつつ、箇所f’2とその凹部5に効率よくより均一に塗装することができる。
【0050】
また、第1の塗料を吐出する第1のノズル11と第2のノズル12とは、先端部11a,12aの高さが互いに異なっていてもよい。また、第2の塗料を吐出する第3のノズル13と第4のノズル14とは、先端部13a,14aの高さが互いに異なっていてもよい。ここでいう高さとは、或る基準位置から鉛直方向に沿った軸方向における長さをいい、管1の内面の或る箇所を基準位置としたときの当該基準位置との離間距離に相当する。例えば、第1の塗料を吐出する第1のノズル11と第2のノズル12とを用いて説明すれば、第1のノズル11の先端部11aよりも第2のノズル12の先端部12aは高さが高くても良い。要するに、第2のノズル12の先端部12aのほうが、管1の内面の塗布対象領域から離間している。この場合、第2のノズル12の先端部12aのほうが、塗布対象領域において第1のノズル11の先端部11aよりも広域に塗料を塗布することができる。また、受口の平面部の塗料が付きやすい箇所には管1の内面から離して(高い位置から)塗布を行うことで、広域に塗料を塗布することができ塗装時間を短縮することができる。また、塗装溜りを少なくすることができ、塗装膜厚をより均一にすることができる。一方、受口の溝部の塗料が付きにくい箇所には管1の内面に近づけて(低い位置から)塗布を行うことで、塗料が付きにくい箇所であっても、塗り漏れをなくし、且つ、十分な膜厚を確保することができる。
【0051】
<マスキング設置機構>
塗装装置100は、管1の内部を閉塞する第1マスキング体31および第2マスキング体32を管1の外部から挿入するマスキング設置機構18を更に備えている。前述したように、管1の内面のうち、凹凸形状のある受口の端面2付近の領域A1にのみ塗装処理を行い、領域A1より奥に位置するD9寸法部の領域A2、直部の領域A3には塗装処理を行わない。このため、領域A1に対する塗装処理中に、塗料が領域A2、領域A3に飛散、付着するのを防ぐ必要がある。このため、マスキング設置機構18が用いられる。
【0052】
マスキング設置機構18は、第1マスキング体31、第2マスキング体32、およびマスキング移動機構17から構成される。第1マスキング体31および第2マスキング体32は、管1のそれぞれが設置される位置の内径よりも径の小さい円盤状の鉄板である。なお、上述したように第1マスキング体31の中央付近には、管1の管端から最も離れた凹部分の箇所f1、f2を第1のノズル11または第3のノズル13によって塗装する場合に、第1のノズル11または第3のノズル13が食い込むことのできる切り込みが形成されている。マスキング移動機構17は、第1マスキング体31および第2マスキング体32を互いに平行に保持しつつ、管1の端面2から管軸方向に管1の奥側へ移動させる。塗装処理を開始する前に、まず、マスキング移動機構17によって、第1マスキング体31および第2マスキング体32を、管1の内部の所定位置に設置する。所定位置では、第1マスキング体31が領域A1と領域A2との境界位置に設置され、第2マスキング体32が領域A2と領域A3の境界位置に設置される。
【0053】
<待機台>
待機台26は、塗装処理を行っていない状態のとき、即ち、ノズル群10が初期状態にあるとき、ノズル群10の先端部11a〜14aを載置するための台である。
【0054】
本実施形態の待機台26には、初期状態の各ノズル11〜14の先端部(チップ)11a〜14aを水に浸漬させるための第1〜第4浸漬槽21〜24が設けられている。ここで、本実施形態の塗装装置100において用いられる塗料として、水性の塗料を用いる。そのため、第1〜第4浸漬槽21〜24の水に先端部(チップ)11a〜14aを浸漬させることによりノズル群10が初期状態で待機している間に先端部11a〜14aにおいて塗料が乾燥することによるノズルの閉塞を防ぐことができる。なお、溶剤系塗料を使用する場合には、第1〜第4浸漬槽に有機溶媒を入れてもよい。
【0055】
<ドライヤ>
塗装装置100は、更に、管1の奥に向かって温風を送るドライヤ25を備えている。ドライヤ25から送られる温風によって、各ノズルから塗布された塗料を乾燥させることができるとともに、管1内部に配置された第1マスキング体31および第2マスキング体32に付着した塗料を乾燥させる。温風を用いることにより、塗料の乾燥時間を短縮し、次工程(本塗装)までの待機時間を短縮できる。第1マスキング体31および第2マスキング体32の表面に付着した塗料を乾燥させ、固着させることにより、第1マスキング体31および第2マスキング体32の表面から塗料が滴って、管1の所望の箇所以外の箇所に塗料が付着するのを防ぐことができる。
【0056】
ドライヤ25は、
図1に示すように、待機台26上の前方中心付近に配置されている。しかしながら、配置位置はこれに限定されるものではなく、また、待機台26ではなく、別体の支持手段によって支持されていてもよい。
【0057】
<管保持部>
管保持部40は、管1を管軸が水平となるように保持しつつ、軸心まわりに回転させる。そして、管保持部40は、ノズル群10の挿入方向と略同軸上に管軸が位置するように管1を保持できる。なお、管保持部40は、管1を、塗装装置100によって塗装される位置に搬送する搬送機能を有していても良い。例えば、管1の管軸がノズル群10の挿入方向と略同軸上に位置するように、別の位置から管1を搬送(搬入)し、その後、塗装装置100によって塗装された管1を、当該略同軸上の位置から別の位置に搬送(搬出)する構成としてもよい。
【0058】
(2)塗装装置の動作
次に、前記塗装装置100における塗装処理の流れを、
図8を参照して説明する。
図8は、本発明の実施形態1に係る塗装装置100を用いた塗装方法の各工程を説明する工程図である。なお、以下の各工程における各構成の動作については、図示しない制御装置による制御を受けて行なわれる。
【0059】
塗装装置100を用いた塗装方法は、塗料の塗布を開始するまでの塗装準備工程と、塗料を塗布する塗布工程と、塗料の塗布を完了してからの塗装終了工程とを含む。また、当該塗布工程には、本塗装に先立っておこなうプライマ塗装をおこなうプライマ塗装工程と、その後の本塗装工程とが含まれる。更にプライマ塗装工程および本塗装工程はそれぞれ、第1塗装工程および第2塗装工程を含む。
【0060】
<塗装準備工程>
まず、管1を塗装装置100に搬入する前に加熱する。管1の温度が適温に達したら、管1を塗装装置100に搬入し、塗装装置100の管保持部40に設置し、管軸が水平となるように管1を保持する。
【0061】
ステップS10において、軸心周りに回転させる。次に、ステップS12において、マスキング設置機構18によって、マスキング体31、32を管1内の所定位置に設置する。続いて、ステップS14において、管1内部のマスキング体31、32の奥から管の端面2に向けて送風を開始するとともに、ドライヤ25からの温風の送風を開始する。次に、ステップS16において、ロボットアーム16が、ノズル11〜14をそれぞれ第1〜第4浸漬槽21〜24から引き揚げ、ノズル11〜14を振動させることによって先端部11a〜14aに付着した水の水切りを行う。以上で、塗装準備工程が完了する。
【0062】
<塗装工程>
<プライマ塗装工程>
<第1塗装工程>
ノズル11〜14の先端部11a〜14aの水切りが終わると、ステップS18において、ロボットアーム16が、支持体20を管1に向かって前進させる。このとき、
図2の実線に示すように、ノズル群10を第1〜第4浸漬槽21〜24から引き揚げた状態から、支持体20が回転して、
図2の点線で示すように、第1のノズル11が前方に来るように移動させる。ロボットアーム16が前進して、第1のノズル11の先端部11aを管1内に挿入し、管1内に設置された第1マスキング体31近傍まで前進させると、前進を停止し、ステップS18を終了する。ここで、先述の支持体20の回転は、初期位置においておこなってもよいが、初期位置から管の端面2近傍まで前進する間に行ってもよい。第1のノズル11と管1との相対位置は、ロボットアーム16に取り付けられた距離センサ15により、先述の距離Lを計測することによって求められ、第1のノズル11の位置を正確に位置決めすることができる。
【0063】
続いて、ステップS20では、第1のノズル11の先端部11aから第1の塗料(ジンクリッチ系塗料)を吐出する。先述のように第1のノズル11の先端部11aから吐出される第1の塗料は、管1の奥を向いた面(
図4のf1)に塗布される。より詳細には、ステップS20では、ロボットアーム16がノズル群10を後方に向かって一定の速度で後退させながら、第1のノズル11の先端部11aから第1の塗料を吐出する。第1のノズル11の先端部11aが管の端面2の位置まで到達したら、ロボットアーム16は、更にノズル群10を後退させ、第1のノズル11を管内部から引き出す。ここで、第1のノズル11からの塗布をおこなうプライマ塗装の第1塗装工程が終了する。
【0064】
<第2塗装工程>
ステップS20が終了したら、ステップS22に移行し、第2塗装を開始する。ステップS22では、ロボットアーム16に取り付けられた支持体20が回転して、第2のノズル12を前方に配置させるとともに、支持体20を、管1の端面2に向かって再び前進させる。第2のノズル12の先端部12aを管1内に挿入し、管1内に設置された第1マスキング体31近傍まで前進させると、前進を停止し、ステップS22を終了する。なお、ステップS22は、前方に位置するノズルがステップS18のそれとは異なる点以外、ステップS18と同じであるため、説明を省略する。
【0065】
続いて、ステップS24では、第2のノズル12の先端部12aから第1の塗料(ジンクリッチ系塗料)を吐出する。先述のように第2のノズル12の先端部12aから吐出される第1の塗料は、管軸に沿った面および管端を向いた面(
図4のf2およびf’2)に塗布される。第1マスキング体31と凹部5との境界の箇所f’2を塗装する際には、先述のように真下方向に向いた第2のノズル12を斜め下方向に傾けて第1の塗料を吐出する。
【0066】
ステップS24では、ロボットアーム16がノズル群10を後方に向かって一定の速度で後退させながら、第2のノズル12の先端部12aから第1の塗料を吐出する。第2のノズル12の先端部12aが管の端面2の位置まで到達したら、ロボットアーム16は、更にノズル群10を後退させ、第2のノズル12を管1内部から引き出す。ここで、第2のノズル12からの塗布をおこなうプライマ塗装の第2塗装工程が終了する。
【0067】
以上の第1塗装工程および第2塗装工程で、プライマ塗装工程が終了する。
【0068】
プライマ塗装工程で使用されるジンク塗料は水性であり、速乾性があるため、数秒で乾燥する。したがって、プライマ塗装工程後、比較的早期に本塗装工程を開始することができるが、本塗装を行う前に、プライマ塗装を乾燥させるための乾燥工程を設けても良い。乾燥工程を設ける場合には、ノズル群10を初期位置に戻し、各先端部11a〜14aを第1〜第4浸漬槽21〜24の水に浸漬させて、乾燥を防ぐ。
【0069】
<本塗装>
<第1塗装工程>
本塗装工程を開始すると、ステップS26として、ロボットアーム16に取り付けられた支持体20が回転して、第3のノズル13を前方に配置させるとともに、支持体20を、管1の端面2に向かって再び前進させる。第3のノズル13の先端部13aを管1内に挿入し、管1内に設置された第1マスキング体31近傍まで前進させると、前進を停止し、ステップS26を終了する。なお、ステップS26は、前方に位置するノズルがステップS18のそれとは異なる点以外、ステップS18と同じであるため、説明を省略する。
【0070】
続いて、ステップS28では、第3のノズル13の先端部13aから第2の塗料(合成樹脂塗料)を吐出する。先述のように第3のノズル13の先端部13aから吐出される第2の塗料は、第1のノズル11の先端部11aから吐出される第1の塗料と同じく、管1の奥を向いた面(
図4のf1)に塗布される。
【0071】
より詳細には、ステップS28では、ロボットアーム16がノズル群10を後方に向かって一定の速度で後退させながら、第3のノズル13の先端部13aから第2の塗料を吐出する。第3のノズル13の先端部13aが管の端面2の位置まで到達したら、ロボットアーム16は、更にノズル群10を後退させ、第3のノズル13を管内部から引き出す。こで、第3のノズル13からの塗布をおこなう本塗装の第1塗装工程が終了する。
【0072】
<第2塗装工程>
ステップS28が終了したら、ステップS30に移行し、第2塗装を開始する。ステップS30では、ロボットアーム16に取り付けられた支持体20が回転して、第4のノズル14を前方に配置させるとともに、支持体20を、管1の端面2に向かって再び前進させる。第4のノズル14の先端部14aを管1内に挿入し、管1内に設置された第1マスキング体31近傍まで前進させると、前進を停止し、ステップS32を終了する。なお、ステップS30は、前方に位置するノズルがステップS18のそれとは異なる点以外、ステップS18と同じであるため、説明を省略する。
【0073】
続いて、ステップS32では、第4のノズル14の先端部14aから第2の塗料(合成樹脂塗料)を吐出する。先述のように第4のノズル14の先端部14aから吐出される第2の塗料は、管軸に沿った面および管端を向いた面(
図4のf2およびf’2)に塗布される。第1マスキング体31と凹部5との境界の箇所f’2を塗装する際には、先述のように真下方向に向いた第4のノズル14を斜め下方向に傾けて第2の塗料を吐出する。
【0074】
ステップS32では、ロボットアーム16がノズル群10を後方に向かって一定の速度で後退させながら、第4のノズル14の先端部14aから第2の塗料を吐出する。第4のノズル14の先端部14aが管の端面2の位置まで到達したら、ロボットアーム16は、更にノズル群10を後退させ、第4のノズル14を管1内部から引き出す。ここで、第4のノズル14からの塗布をおこなう本塗装の第2塗装工程が終了する。
【0075】
合成樹脂塗料はジンク塗料に比べると粘度が低いため、本塗装の第1塗装工程および第2塗装工程では、プライマ塗装の第1塗装工程、第2塗装工程に比べ、ノズルの先端部を塗装面から離した位置から塗装を行うことができる。
【0076】
上記の実施形態ではロボットアーム16を後退させることで管内面を塗装する方法を例にして説明した。しかし、本発明に係る方法はこれに限定されるものではなく、ロボットアーム16を後退させず、所定の位置から、ノズルの高さまたはノズルからの塗料の吐出方向を変えて複数回塗料を吐出することで管内面を塗装してもよい。
【0077】
<塗装終了工程>
ステップS32が終了したら、ステップS34に移行する。ステップS34では、管1とマスキング体31、32との隙間からの送風を停止するとともに、ドライヤ25からの温風の送風を停止する。その後、ステップS36でマスキング設置機構18を管1から取り外す。なお、これは一例であり、送風の停止と、マスキングの取り出しとは、順序は問わない。
【0078】
ステップS38で、管1の回転を終了する。最後に、管1を塗装装置100から搬出する。
【0079】
以上により、塗装装置100による塗装処理が終了する。本実施形態の塗装方法によれば、互いに異なる方向に塗料を吐出する複数のノズルを用いることにより、凹凸形状のある管内面であっても、精度よく塗膜を形成することができる。また、本実施形態では、水性塗料が使用されるため、短時間で塗膜が乾燥する。したがって、プライマ塗装工程の終了後、乾燥工程を設けず直ぐに本塗装工程を開始することも可能である。このように短時間でプライマ塗装と本塗装を行うことができるため、プライマ塗装後、管1の温度が下がる前に、同じステーションで本塗装を開始することでき、管1の加熱時間をも短縮することができる。したがって、管の製造方法においてこの塗装方法を採用すれば、管の生産性向上に寄与する。
【0080】
〔実施形態2〕
上記実施形態1では、プライマ塗装、本塗装とも、2種類の異なるノズルを1度ずつ使用して塗装する場合を例に説明した。本発明の実施形態はこれに限定されず、プライマ塗装、本塗装とも、更なる塗装処理工程を追加してもよい。以下、これを追加塗装工程と称して説明する。
【0081】
追加塗装工程は、プライマ塗装のステップ24の後に行われる工程として、再び、第2のノズル12を使用し、ロボットアーム16によって、ノズルの先端部12aの塗装面からの高さを変えて、ステップ24に比べて塗装面から離れた位置から第1の塗料を吐出する。これにより、広範囲に第1の塗料を吹き付けて、プライマ塗装の塗膜を、より確実に領域A1全面に形成することができる。
【0082】
追加塗装工程は、本塗装のステップ32にも、第2の塗料を用いて行なっても良い。なお、先述のようにロボットアーム16を傾けることによって、吐出方向を傾けて、塗装面に対して斜めに塗料を吹きかけてもよい。
【0083】
〔ソフトウェアによる実現例〕
塗装装置100の制御ブロック(特に先述の制御装置)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0084】
後者の場合、塗装装置100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0085】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【解決手段】本発明の一形態に係る塗装装置(100)は、ロボットアーム(16)の先端に取り付け可能な支持体(20)に取り付けられたノズル群(10)が、互いに異なる方向に塗料を吐出する第1のノズル(11)と第2のノズル(12)とを有している。