(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の静電容量結合方式センサの実施の形態について説明する。
【0015】
<第一実施形態>
[構成]
まず、本実施形態の静電容量結合方式センサの構成を説明する。
図1に、本実施形態の静電容量結合方式センサが配置されたステアリングホイールの正面図を示す。
図2に、
図1のII−II断面図を示す。
図3に、同ステアリングホイールの積層構造を説明するための断面模式図を示す。
【0016】
図1に示すように、ステアリングホイール8は、リム部80と、連結部81と、を有している。リム部80は、環状を呈し、運転者に把持される。連結部81は、リム部80とステアリングシャフト(図略)とを接続している。リム部80は、芯体20(
図1中、点線で示す)と、静電容量結合方式センサ1と、を有している。
【0017】
図2、
図3に示すように、芯体20は、金属製の中実の棒であり、環状を呈している。芯体20は、連結部81を介してステアリングシャフトに接続されている。
【0018】
静電容量結合方式センサ1は、柔軟なシート状を呈している。静電容量結合方式センサ1は、芯体20に巻装(一巻き)されている。静電容量結合方式センサ1は、センサ部10と、ヒータ層30と、表皮層40と、を有している。
【0019】
ヒータ層30は、不織布と、該不織布に埋め込まれた電熱線(図略)と、を有している。ヒータ層30は、芯体20の外周面を覆っている。ヒータ層30は、通電により電熱線が発熱することにより、リム部80を加温する。センサ部10は、ヒータ層30の外周面を覆うように配置されている。ヒータ層30とセンサ部10との間には、接着層31が配置されている。接着層31は、ヒータ層30とセンサ部10(具体的には後述するシールド電極層12)とを接着している。表皮層40は、ポリウレタン製であり、センサ部10の外周面を覆うように配置されている。表皮層40とセンサ部10との間には、接着層41が配置されている。接着層41は、表皮層40とセンサ部10(具体的には後述する検出電極層11)とを接着している。センサ部10は、検出電極層11と、シールド電極層12と、絶縁層13と、を有している。
【0020】
検出電極層11は、導電性布からなる。検出電極層11の体積抵抗率は10
−2Ω・cmのオーダーである。検出電極層11は、表皮層40側に配置され、運転者の手(検出対象物)との間に静電容量を生じる。検出電極層11は、
図2、
図3中、点線で示すように、そのほぼ全体が絶縁層13に埋入されている。シールド電極層12は、検出電極層11と同じ導電性布からなる。シールド電極層12は、ヒータ層30側に配置されている。シールド電極層12は接地されており、ヒータ層30からのノイズを遮蔽する。シールド電極層12は、
図2、
図3中、点線で示すように、そのほぼ全体が絶縁層13に埋入されている。
【0021】
絶縁層13は、検出電極層11とシールド電極層12との間に配置されている。絶縁層13は、架橋ポリマーと、酸化マグネシウム粒子と、水酸化マグネシウム粒子と、を有している。架橋ポリマーは、スチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーの架橋物である。スチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーは、本発明における熱可塑性ポリマーの概念に含まれる。酸化マグネシウム粒子の熱伝導率は45W/m・Kである。水酸化マグネシウム粒子の熱伝導率は8W/m・Kである。絶縁層13において、酸化マグネシウム粒子は熱伝導性を高める役割を果たし、水酸化マグネシウム粒子は難燃性を高める役割と熱伝導性を高める役割とを果たしている。酸化マグネシウム粒子および水酸化マグネシウム粒子は、本発明における絶縁粒子の概念に含まれる。絶縁層13の厚さは、0.6mmである。絶縁層13の熱伝導率は0.66W/m・K、体積抵抗率は1×10
14Ω・cm、タイプAデュロメータ硬さは80である。
【0022】
[製造方法]
次に、本実施形態の静電容量結合方式センサの製造方法を説明する。まず、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、酸化マグネシウム粉末、水酸化マグネシウム粉末、および架橋剤としての有機過酸化物を混練して、ポリマー組成物を調製する。次に、ポリマー組成物を130℃下で熱プレスして、ポリマーシートを製造する(ポリマーシート製造工程)。この時点において、熱可塑性エラストマーの架橋はまだ完了していない。続いて、ポリマーシートの表面に検出電極層11用の導電性布を重ね、裏面にシールド電極層12用の導電性布を重ねて積層体を作製する(積層工程)。最後に、積層体を180℃下で30分間熱プレスする。これにより、ポリマーシートが軟化して導電性布に含浸しながら融着すると共に、熱可塑性エラストマーの架橋が完了する(架橋接着工程)。同時に、導電性布(検出電極層11およびシールド電極層12)はポリマーシートに埋入される。このようにして、センサ部10が製造される。
【0023】
製造したセンサ部10を、シールド電極層12を内側にして、予め芯体20に巻装されたヒータ層30の外周面を覆うように配置する。ヒータ層30の表面には接着剤が塗布されている。これにより、ヒータ層30とシールド電極層12とが接着される。それから、表皮層40を、検出電極層11を覆うように配置する。表皮層40の裏面には接着剤が塗布されている。これにより、表皮層40と検出電極層11とが接着される。このようにして、ステアリングホイール8のリム部80を構成する静電容量結合方式センサ1が製造される。
【0024】
[静電容量結合方式センサの動き]
次に、本実施形態の静電容量結合方式センサの動きを説明する。運転者の手(導電性を有し、人体を介してアースされている。)が表皮層40に接近すると、検出電極層11と手との間に、静電容量が発生する。検出電極層11には、図示しない検出回路部が電気的に接続されている。当該検出回路部は、手が接近していない状態から手が接近している状態における静電容量の変化量を算出し、算出された値に基づいて、運転者がステアリングホイール8に接触したか否かを判別する。
【0025】
[作用効果]
次に、本実施形態の静電容量結合方式センサの作用効果を説明する。静電容量結合方式センサ1によると、絶縁層13が架橋ポリマーを有する。このため、絶縁層13の耐熱性は高く、結果、センサ部10の耐熱性が向上する。絶縁層13は、架橋ポリマーに加えて、絶縁粒子である酸化マグネシウム粒子および水酸化マグネシウム粒子を有する。このため、絶縁層13の体積抵抗率は大きく、絶縁層13の厚さが0.6mmと薄くても、検出電極層11とシールド電極層12との間の絶縁性を充分に確保することができ、センサ部10のセンサ機能が阻害されにくい。ここで、酸化マグネシウム粒子は、受酸剤としても機能する。よって、有機過酸化物による架橋においても、別に受酸剤を添加する必要はない。
【0026】
絶縁層13が薄いため、柔軟性が向上し、センサ部10を芯体20に巻きつけて組み付ける際の作業性が向上する。また、検出電極層11およびシールド電極層12も柔軟な導電性布からなる。このため、静電容量結合方式センサ1の全体が柔軟であり、リム部80の触感は良好である。絶縁層13は薄く、さらに熱伝導率が20W/m・K以上の酸化マグネシウム粒子を有する。加えて、絶縁層20と検出電極層11およびシールド電極層12との間には、接着層がない。このため、センサ部10の熱伝導性は高い。したがって、ヒータ層30の熱が表皮層40まで速やかに伝達され、リム部80の昇温時間を短縮することができる。これにより、冬季や寒冷地で運転する場合にも、運転者は速やかに温かさを感じることができ、運転しづらさや不快感が軽減される。
【0027】
センサ部10の製造方法においては、熱可塑性ポリマー(スチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマー)を加熱して軟化させることにより、隣接する検出電極層11およびシールド電極層12への融着と架橋とを同時に行うことができる。したがって、接着剤を使用しなくても、絶縁層13に検出電極層11およびシールド電極層12を固定することができる。また、検出電極層11およびシールド電極層12は、いずれも導電性布からなる。このため、軟化した熱可塑性ポリマーが導電性布に含浸し、検出電極層11およびシールド電極層12が絶縁層13に埋入される。よって、積層される層同士が剥離しにくく信頼性が高い。加えて、検出電極層11とシールド電極層12との間の距離が変化しにくいため、センサ部10の検出精度が維持される。また、接着剤を塗布しないため、溶剤により絶縁層13、検出電極層11、シールド電極層12の表面が荒れにくい。そして、接着剤の塗布工程が不要になり、製造工程の削減およびコストの削減を図ることができる。
【0028】
<第二実施形態>
本実施形態の静電容量結合方式センサと、第一実施形態の静電容量結合方式センサとの相違点は、表皮層およびヒータ層が、絶縁層と同じ架橋ポリマーを有する点である。ここでは、相違点を中心に説明する。
【0029】
図4に、本実施形態の静電容量結合方式センサが配置されたステアリングホイールの積層構造を説明するための断面模式図を示す。
図4は、
図3と対応しており、
図3と同じ部位については同じ符号で示す。
図4中、芯体20については、
図3と逆向きのハッチングを施しているが、構成に変わりはない。
図4中、センサ部10における検出電極層11からシールド電極層12に向かう積層方向を表裏方向と定義する。
【0030】
図4に示すように、静電容量結合方式センサ1は、センサ部10と、ヒータ層32と、表皮層42と、を有している。ヒータ層32は、第一実施形態と同様に、センサ部10の裏側に配置されている。ヒータ層32は、架橋ポリマーと、該架橋ポリマーに埋め込まれた電熱線(図略)と、を有している。架橋ポリマーは、絶縁層13と同じスチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーの架橋物である。ヒータ層32の厚さは、2.0mmである。ヒータ層32とセンサ部10との間には、接着層は配置されていない。表皮層42は、第一実施形態と同様に、センサ部10の表側に配置されている。表皮層42は、絶縁層13と同じ架橋ポリマー、すなわちスチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーの架橋物からなる。表皮層42の厚さは、1.0mmである。表皮層42とセンサ部10との間には、接着層は配置されていない。
【0031】
静電容量結合方式センサ1は、以下のようにして製造される。まず、第一実施形態と同様に、絶縁層13用のポリマー組成物を130℃下で熱プレスして、絶縁層用ポリマーシートを製造する(絶縁層用ポリマーシート製造工程)。次に、ヒータ層32用のポリマー組成物を、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、および架橋剤としての有機過酸化物を混練して調製する。そして、調製したヒータ層32用のポリマー組成物を、電熱線と共に金型に入れ、130℃下で熱プレスすることにより、電熱線が埋め込まれたヒータ層用ポリマーシートを製造する(ヒータ層用ポリマーシート製造工程)。同様に、表皮層42用のポリマー組成物を、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、および架橋剤としての有機過酸化物を混練して調製する。そして、調製した表皮層42用のポリマー組成物を、130℃下で熱プレスして、表皮層用ポリマーシートを製造する(表皮層用ポリマーシート製造工程)。いずれのポリマーシートにおいても、熱可塑性エラストマーの架橋はまだ完了していない。
【0032】
それから、絶縁層用ポリマーシートの表面に検出電極層11用の導電性布、表皮層用ポリマーシートを順に重ねた後、裏面にシールド電極層12用の導電性布、ヒータ層用ポリマーシートを順に重ねて積層体を作製する(積層工程)。最後に、積層体を180℃下で30分間熱プレスする。これにより、各層のポリマーシートが軟化して導電性布に含浸しながら融着すると共に、熱可塑性エラストマーの架橋が完了する(架橋接着工程)。同時に、導電性布(検出電極層11およびシールド電極層12)は隣接するポリマーシートに埋入される。このようにして、センサ部10、ヒータ層32、表皮層42を有する静電容量結合方式センサ1が一体的に製造される。
【0033】
本実施形態の静電容量結合方式センサと、第一実施形態の静電容量結合方式センサとは、構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。本実施形態においては、絶縁層13、表皮層42、ヒータ層32が同じ架橋ポリマーを有する。換言すると、表皮層42およびヒータ層32を、絶縁層13と同じ熱可塑性ポリマーを用いて形成する。したがって、これらの層を形成するための架橋前のポリマーシートを積層し、一体的に加熱することにより、検出電極層11およびシールド電極層12との融着と架橋とを同時に行うことができる。各層を接着するために接着剤を使用しなくても済むため、接着剤の塗布工程が不要になり、製造工程の削減およびコストの削減を図ることができる。軟化した熱可塑性ポリマーが、検出電極層11およびシールド電極層12である導電性布に含浸するため、層同士が剥離しにくく信頼性が高い。接着層が介在しないため、その分だけセンサを薄くすることができる。結果、熱抵抗が小さくなり熱伝導性も向上する。さらには意匠性も向上する。また、架橋ポリマーを有するため、表皮層42は、直射日光に対する耐熱性に優れ、剛性が高く、耐へたり性、耐薬品性に優れる。また、ヒータ層32も、電熱線に対する耐熱性に優れ、剛性が高く、耐へたり性、耐薬品性に優れる。
【0034】
<他の実施形態>
以上、本発明の静電容量結合方式センサの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0035】
[センサ部]
(1)絶縁層
絶縁層に用いられる架橋ポリマーは、熱可塑性ポリマーの架橋物であれば特に限定されない。熱可塑性ポリマーは、一種類でも二種類以上でもよく、例えば、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系、エステル系、アミド系などの樹脂またはエラストマーから適宜選択すればよい。熱可塑性ポリマーとしては、軟化温度が比較的低温で、140℃以下で混練可能なものが望ましい。例えば、スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、SBS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。オレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、LDPE、LLDPE、EEA、EMA、EMMAなどの他、エチレンとαオレフィンとの共重合体(エチレン−オクテン共重合体)などが挙げられる。架橋方法は、特に限定されない。有機過酸化物、有機金属化合物などの架橋剤を使用した架橋でもよく、ガンマ線、紫外線などの電磁波を使用した架橋でもよい。
【0036】
絶縁層は、架橋ポリマー以外の成分を含んでいてもよい。例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)などのゴムを含む場合には、絶縁層の柔軟性が向上する。絶縁層の柔軟性を向上させるという観点から、絶縁層に可塑剤などの柔軟性付与成分を含有させてもよい。絶縁粒子を含む場合には、絶縁性が向上する。
【0037】
熱伝導率が比較的大きい粒子を含有させると、絶縁層の熱伝導率を大きくすることができる。この場合、熱伝導率が5W/m・K以上の絶縁粒子が好適であり、例えば水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。絶縁層の好適な熱伝導率は、0.25W/m・K以上、0.4W/m・K以上、さらには0.5W/m・K以上である。また、絶縁層に難燃性を付与するという観点から、難燃性を有する粒子を含むことが望ましい。このような粒子としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素などが挙げられる。
【0038】
センサの触感を良くする、部材への組み付け性を向上させるという観点から、絶縁層は柔軟であることが望ましい。例えば、絶縁層のタイプAデュロメータ硬さは、35以上90未満であると好適である。当該硬さが90以上の場合には、人が触れた時に硬く感じてしまい触感が低下する。反対に当該硬さが35未満の場合には、柔らか過ぎて取り扱い難くなるため、組み付ける際の作業性が低下する。また、組み付け性、耐久性を向上させるという観点から、絶縁層の引張強さは、0.1MPa以上、さらには2.0MPa以上であると好適である。絶縁層の25%試験力は、40N以下、さらには25N以下であると好適である。ここで、25%試験力とは、試験片を一軸方向に25%伸ばすのに必要な力である。25%試験力が小さいと、伸張しながらの組み付け作業がしやすくなる。25%試験力の具体的な測定方法については、後の実施例において説明する。
【0039】
検出電極層とシールド電極層との間の絶縁性を確保して、センサ機能を維持するという観点から、絶縁層の体積抵抗率は1×10
12Ω・cm以上であるとよい。好適な体積抵抗率は1×10
13Ω・cm以上である。絶縁層は、検出電極層とシールド電極層との間に配置される。絶縁層は、二つの電極層の間に介在していればよく、電極層に含浸していても、電極層に含浸せずに接しているだけでもよい。柔軟性、熱伝導性、意匠性などの観点から、絶縁層の厚さは1mm以下であるとよい。好適には、0.7mm以下、0.5mm以下である。また、絶縁性などの観点から、絶縁層の厚さは0.1mm以上であるとよい。
【0040】
(2)検出電極層
検出電極層は、導電性を有し、柔軟であることが望ましい。検出電極層の好適な体積抵抗率は、10Ω・cm未満である。1Ω・cm以下であるとより好適である。検出電極層は、導電性ポリマーまたは導電性布から形成することができる。
【0041】
導電性ポリマーを用いる場合、検出電極層の形状は、シート状でも網目状でも構わない。網目状にすると、柔軟性が向上するため、大きく伸張しても破断しにくく導電性が低下しにくい。また、線幅、ピッチなどを変更して電極面積を変えられるため、二つの電極層間で生じる静電容量を調整することができる。
【0042】
導電性ポリマーは、例えば、ポリマーに導電材を配合して製造することができる。あるいは、ポリマーを所定の形状に成形した後、表面に金属などを被覆して導電性を付与してもよい。ポリマーとしては、アクリルゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、ウレアゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムなどの架橋ゴム、および熱可塑性エラストマーから選ばれる一種以上を用いればよい。導電材としては、銀、金、銅、ニッケル、ロジウム、パラジウム、クロム、チタン、白金、鉄、およびこれらの合金などからなる金属粒子、酸化亜鉛、酸化チタンなどからなる金属酸化物粒子、チタンカーボネートなどからなる金属炭化物粒子、銀、金、銅、白金、およびニッケルなどからなる金属ナノワイヤ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛、薄層黒鉛、グラフェンなどの導電性炭素材料の中から、適宜選択すればよい。導電性ポリマーは、架橋剤、架橋促進剤、分散剤、補強材、可塑剤、老化防止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0043】
導電性布としては、導電性繊維の織物、不織布などを用いればよい。導電性繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル繊維に、導電性が高い銅、ニッケルなどのめっきを施したものが挙げられる。
【0044】
(3)シールド電極層
シールド電極層は、検出電極層に対するノイズを遮蔽するという観点から、高い導電性を有することが望ましい。シールド電極層の好適な体積抵抗率は、1×10
−1Ω・cm未満である。シールド電極層の材質は、検出電極層のそれと同じでも異なってもよい。すなわち、導電性ポリマーからなる網目状またはシート状のポリマー電極、導電性布などを用いればよい。高い導電性と柔軟性との両方を実現するためには、シールド電極層は、上述した導電性布から形成されることが望ましい。
【0045】
[表皮層]
本発明の静電容量結合方式センサは、必ずしも表皮層を有する必要はない。しかし、検出電極層の保護および絶縁性の確保、部材の意匠性などを考慮して、センサ部の表側(検出電極層の外側)に表皮層を配置するとよい。表皮層の材質は、皮革、樹脂、エラストマーなどから適宜選択すればよい。表皮層を樹脂またはエラストマーから形成する場合、架橋させてもさせなくてもよい。上記第二実施形態のように、表皮層が架橋ポリマーを有する場合には、直射日光に対する耐熱性などが向上する。例えば、絶縁層で使用した熱可塑性ポリマーを用いると、軟化温度が同じであるため、表皮層における架橋の有無に関わらず、検出電極層に絶縁層と表皮層とを同時に融着させることができる。ここで、検出電極層が網目状のポリマー電極または導電性布からなる場合には、軟化した熱可塑性ポリマーが検出電極層の孔部を通って混じり合う。これにより、絶縁層と表皮層とが検出電極層を介して強固に接着される。表皮層の厚さは、特に限定されないが、耐熱性、柔軟性、意匠性などを考慮すると、0.5mm以上1.5mm以下程度が好適である。
【0046】
[ヒータ層]
本発明の静電容量結合方式センサは、必ずしもヒータ層を有する必要はない。上記実施形態のように、静電容量結合方式センサをステアリングホイールに配置する場合には、低温下での運転者の不快感を軽減するために、センサ部の裏側(シールド電極層の内側)にヒータ層を配置するとよい。ヒータ層の構成などは特に限定されず、不織布やポリマーに熱源となる電熱線などを配置して構成すればよい。ヒータ層を樹脂またはエラストマーから形成する場合、架橋させてもさせなくてもよい。上記第二実施形態のように、ヒータ層が架橋ポリマーを有する場合には、熱源に対する耐熱性などが向上する。例えば、熱伝導率が小さいポリマーを用いてヒータ層の熱伝導率を小さくすると、芯体側への伝熱が抑制されるため、センサ部、表皮層側への熱伝導性を選択的に向上させることができる。また、絶縁層で使用した熱可塑性ポリマーを用いると、軟化温度が同じであるため、ヒータ層における架橋の有無に関わらず、シールド電極層に絶縁層とヒータ層とを同時に融着させることができる。ここで、シールド電極層が網目状のポリマー電極または導電性布からなる場合には、軟化した熱可塑性ポリマーがシールド電極層の孔部を通って混じり合う。これにより、絶縁層とヒータ層とがシールド電極層を介して強固に接着される。ヒータ層の厚さは、特に限定されないが、耐熱性、柔軟性、意匠性などを考慮すると、1.5mm以上3.0mm以下程度が好適である。
【0047】
[製造方法]
本発明の静電容量結合方式センサにおいて、センサ部を構成する三つの層、およびセンサ部と表皮層、ヒータ層との固定方法は、特に限定されない。接着剤を用いても、ポリマーの粘着または融着を利用してもよい。検出電極層と絶縁層、およびシールド電極層と絶縁層、の少なくとも一方は、接着剤を用いずに固定されていることが望ましい。上記第一実施形態においては、センサ部と、表皮層およびヒータ層とを接着剤により接着した。例えば、熱可塑性ポリマーの架橋を完了させて絶縁層を形成してから、当該絶縁層と検出電極層およびシールド電極層とを接着してもよい。
【0048】
接着剤を用いる場合、その種類は特に限定されない。例えば、アクリル系接着剤などが挙げられる。あるいは、タイプAデュロメータ硬さが35未満で粘着性を有する熱可塑性樹脂を配置して、その粘着力により固定してもよい。また、上記実施形態のように、熱プレス(加熱下で加圧)して層同士を固定する場合には、各層に含まれるポリマーの軟化温度、架橋条件などを考慮して、温度、圧力、時間などの条件を適宜決定すればよい。
【0049】
[用途]
本発明の静電容量結合方式センサの検出対象物としては、人の手などが挙げられる。本発明の静電容量結合方式センサは、車両のステアリングホイールの他、ドアトリム、アームレスト、コンソールボックス、インストロメントパネル、ヘッドレスト、シートなどの内装部品に配置され、人の近接、接触を検出するセンサとして好適である。
【実施例】
【0050】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0051】
<静電容量結合方式センサの製造>
[実施例1]
まず、スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)(旭化成(株)製「タフテック(登録商標)H1221」50質量部、およびオレフィン系熱可塑性エラストマーA(ダウ・ケミカル日本(株)製「エンゲージ(登録商標)XLT8677」)100質量部に、絶縁粒子としての酸化マグネシウム粉末(宇部マテリアルズ(株)製「RF−50SC」、熱伝導率45W/m・K)150質量部、および水酸化マグネシウム粉末(協和化学工業(株)製「キスマ(登録商標)5L」、熱伝導率8W/m・K)150質量部と、架橋剤としての有機過酸化物(日油(株)製「パークミル(登録商標)D−40」)3重量部と、を添加し、混練機((株)東洋精機製作所製「ラボプラストミル(登録商標)」)にて130℃で混練してポリマー組成物を得た。得られたポリマー組成物を、プレス成形機(三友工業(株)製の150トンプレス機)にて130℃で熱プレスして、厚さ0.6mmのポリマーシートを製造した。この時点において、熱可塑性エラストマーAの架橋はまだ完了していない。
【0052】
次に、製造したポリマーシートを所定の大きさに切断し、それを二枚の導電性布(セーレン(株)製「Sui−10−511M」)で挟んで積層体を作製した。そして、積層体をプレス成形機(同上)にて180℃で30分間熱プレスして、ポリマーシートの厚さ方向両面に導電性布を融着すると共に、熱可塑性エラストマーAの架橋を完了させた。このようにして、導電性布(検出電極層)/架橋ポリマーシート(絶縁層)/導電性布(シールド電極層)からなる静電容量結合方式センサ(以下単に「センサ」と称す)を製造した。製造したセンサにおいて、導電性布は、ほぼ全体が架橋ポリマーシートに埋入されている。
【0053】
[実施例2]
スチレン系熱可塑性エラストマーAの配合量を100質量部、オレフィン系熱可塑性エラストマーAの配合量を50質量部に変更した点以外は実施例1と同様にして、実施例2のセンサを製造した。
【0054】
[実施例3]
絶縁粒子としての酸化マグネシウム粉末を配合しない点以外は実施例1と同様にして、実施例3のセンサを製造した。
【0055】
[実施例4]
スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)を配合しない点以外は実施例1と同様にして、実施例4のセンサを製造した。
【0056】
[実施例5]
ポリマーシートの厚さを1.5mmにした点以外は実施例1と同様にして、実施例5のセンサを製造した。
【0057】
[実施例6]
まず、オレフィン系熱可塑性エラストマーB(ダウ・ケミカル日本(株)製「エンゲージ(登録商標)8180」)100質量部に、絶縁粒子としての水酸化マグネシウム粉末(同上)100質量部と、架橋剤としての有機過酸化物(同上)3重量部と、を添加し、混練機(同上)にて100℃で混練してポリマー組成物を得た。得られたポリマー組成物を、プレス成形機(同上)にて110℃で熱プレスして、厚さ0.6mmのポリマーシートを製造した。この時点において、熱可塑性エラストマーの架橋はまだ完了していない。
【0058】
次に、製造したポリマーシートを所定の大きさに切断し、それを二枚の導電性布(同上)で挟んで積層体を作製した。そして、積層体をプレス成形機(同上)にて180℃で30分間熱プレスして、ポリマーシートの厚さ方向両面に導電性布を融着すると共に、熱可塑性エラストマーの架橋を完了させた。このようにして、導電性布(検出電極層)/架橋ポリマーシート(絶縁層)/導電性布(シールド電極層)からなるセンサを製造した。製造したセンサにおいて、導電性布は、ほぼ全体が架橋ポリマーシートに埋入されている。
【0059】
[実施例7]
架橋剤(有機過酸化物)の配合量を1.5質量部に変更した点以外は実施例6と同様にして、実施例7のセンサを製造した。
【0060】
[実施例8]
架橋剤(有機過酸化物)の配合量を1質量部に変更した点以外は実施例6と同様にして、実施例8のセンサを製造した。
【0061】
[実施例9]
絶縁粒子(水酸化マグネシウム粉末)の配合量を75質量部に変更した点以外は実施例7と同様にして、実施例9のセンサを製造した。
【0062】
[実施例10]
絶縁粒子(水酸化マグネシウム粉末)の配合量を125質量部に変更した点以外は実施例7と同様にして、実施例10のセンサを製造した。
【0063】
[比較例1]
架橋剤(有機過酸化物)を配合せずに熱可塑性エラストマーを架橋しない点以外は実施例1と同様にして、比較例1のセンサを製造した。比較例1のセンサにおいても、電極層の導電性布は、ほぼ全体がポリマーシートに埋入されていた。
【0064】
[比較例2]
架橋剤(有機過酸化物)を配合せずに熱可塑性エラストマーを架橋しない点以外は実施例6と同様にして、比較例2のセンサを製造した。比較例2のセンサにおいても、電極層の導電性布は、ほぼ全体がポリマーシートに埋入されていた。
【0065】
<絶縁層の物性測定>
実施例および比較例のセンサを構成する架橋ポリマーシート(以下、「絶縁層」と称す)のタイプAデュロメータ硬さ、熱伝導率、25%試験力、25%モジュラス、引張強さ、および耐熱性を測定した。測定方法は以下の通りである。
【0066】
[タイプAデュロメータ硬さ]
JIS K6253−3:2012に準拠した硬度計(高分子計器(株)製「ASKER P1−A型」)を用い、絶縁層を重ねて厚さ6mmにした状態で、タイプAデュロメータ硬さを測定した。タイプAデュロメータ硬さとしては、押針と絶縁層とが接触した直後の瞬間値を採用した。
【0067】
[熱伝導率]
JIS A1412−2:1999の熱流計法に準拠した、英弘精機(株)製「HC−110」を用いて熱伝導率を測定した。
【0068】
[25%試験力、25%モジュラス、および引張強さ]
JIS K6251:2017に規定される引張試験を行い、25%伸ばした時に試験片に加わった力(試験力)、引張応力(25%モジュラス)、および引張強さを測定した。引張試験は、ダンベル状2号形の試験片を用い、引張速度を100mm/minとして行った。
【0069】
[耐熱性]
幅10mmの帯状に切り出した絶縁層のサンプルを、(株)島津製作所製の卓上形精密万能試験機「AGS−X」にチャック間長さ20mmにて設置し、150℃の雰囲気で1時間静置した。その後、JIS K6251:2017に準じた引張試験を行って(引張速度を100mm/min)、引張強さが1MPa以上の場合を耐熱性を有する(後出の表1中、〇印で示す)、1MPa未満の場合を耐熱性を有しない(同表中、×印で示す)と評価した。
【0070】
表1および表2に、絶縁層の成分、厚さ、および物性の測定結果をまとめて示す。
【表1】
【表2】
【0071】
まず表1に示すように、実施例1〜5のセンサを構成する絶縁層は、耐熱性に優れることが確認された。これに対して、比較例1のセンサを構成する絶縁層は、熱可塑性エラストマーが架橋していない、換言すると架橋ポリマーを有しないため、耐熱性が低く引張強さも小さくなった。
【0072】
実施例1〜5のセンサを構成する絶縁層の熱伝導率は0.25W/m・K以上であり、特に酸化マグネシウム粒子を有する実施例1、2、4、5の絶縁層においては、熱伝導率が大きくなった。実施例1〜5のいずれの絶縁層においても、タイプAデュロメータ硬さは90未満であることから、これらの絶縁層は柔軟であることがわかる。特に、実施例1〜4の絶縁層は、25%試験力の値が小さいため、伸張しやすくハンドリング性に優れる。一方、実施例5の絶縁層は、他の実施例の絶縁層と比較して2倍以上の厚さを有する。このため、25%試験力の値が大きくなった。実施例5のセンサは、例えばステアリングホイールなど、伸張しながら組み付けが必要な用途には不向きである。
【0073】
次に表2に示すように、実施例6〜10のセンサを構成する絶縁層は、耐熱性に優れることが確認された。これに対して、比較例2のセンサを構成する絶縁層は、熱可塑性エラストマーが架橋していない、換言すると架橋ポリマーを有しないため、耐熱性が低く引張強さも小さくなった。なお、実施例6〜10の絶縁層においては、熱可塑性エラストマーとしてオレフィン系熱可塑性エラストマーBを使用した。オレフィン系熱可塑性エラストマーBは、実施例1〜5の絶縁層に使用したスチレン系熱可塑性エラストマーおよびオレフィン系熱可塑性エラストマーAよりも融点が低いため、ポリマーシートを製造する際の混練温度および熱プレス温度を低くすることができた。
【0074】
実施例6〜10のセンサを構成する絶縁層は、熱伝導率が大きい絶縁粒子として水酸化マグネシウム粉末のみを含み、酸化マグネシウム粉末を含まない。しかし、当該絶縁層の熱伝導率は0.31W/m・K以上であり、熱伝導率は充分に大きくなった。実施例6〜10のいずれの絶縁層においても、タイプAデュロメータ硬さは90未満であることから、これらの絶縁層は柔軟であることがわかる。また、実施例6〜10の絶縁層は、25%試験力の値が小さいため、伸張しやすくハンドリング性に優れる。以上より、本発明において規定された絶縁層によると、薄くても耐熱性が高く、触感が良好な静電容量結合方式センサを構成できることが確認された。