特許第6874245号(P6874245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874245
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】撹拌システム及びその運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01F 15/00 20060101AFI20210510BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 4/139 20100101ALN20210510BHJP
   H01M 4/04 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   B01F15/00 A
   F16J15/34 K
   !H01M4/139
   !H01M4/04 Z
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-24310(P2017-24310)
(22)【出願日】2017年2月13日
(65)【公開番号】特開2018-130646(P2018-130646A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229047
【氏名又は名称】日本スピンドル製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【弁理士】
【氏名又は名称】森 治
(74)【代理人】
【識別番号】100097755
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 勉
(72)【発明者】
【氏名】大西 慶一郎
(72)【発明者】
【氏名】浅見 圭一
【審査官】 中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−032010(JP,U)
【文献】 特開昭60−044029(JP,A)
【文献】 特開2007−083109(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143056(WO,A1)
【文献】 特開昭48−084953(JP,A)
【文献】 特開平11−270698(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0330401(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 15/00
F16J 15/34
B28C 3/00
B29B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧室と、
前記加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸と、
加圧室に加圧気体を供給する加圧気体供給機構と、
前記加圧室と回転軸との間に配置され、加圧室内からの流体の漏れを防止するメカニカルシールと、
前記メカニカルシールに対する押さえ力を可変にできるメカニカルシールを押さえるメカニカルシール押さえ機構とを有し、
前記加圧気体供給機構により加圧気体が加圧室内に供給されている間は、前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を定常状態よりも高めることを特徴とする撹拌システム。
【請求項2】
前記圧気体供給機構は、加圧気体として炭酸ガスを供給するものであることを特徴とする請求項1に記載の撹拌システム。
【請求項3】
液体貯留タンクに貯留されたスラリー状の液体に対して加圧した炭酸ガスを供給することでスラリーを中和処理し、中和処理されたスラリーを減圧機構で減圧、脱気処理し、前記メカニカルシール押さえ機構により、前記スラリーの中和処理中は脱気処理中に比べてメカニカルシールの押さえ力を強くするとともに、減圧機構による減圧後、メカニカルシールの押さえ力を定常状態にするようにしてなることを特徴とする請求項2に記載の撹拌システム。
【請求項4】
前記加圧気体供給機構によって加圧室に加圧状態の気体を供給する前に前記メカニカルシール押さえ機構により押さえ力を定常状態から高めるようにしてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の撹拌システム。
【請求項5】
前記加圧気体供給機構によって加圧気体が加圧室内に供給されているときは、供給されていないときに比べて前記回転軸の回転速度を低速運転に切り替えるようにしてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の撹拌システム。
【請求項6】
加圧室と、
加圧室に加圧気体を供給する加圧気体供給機構と、
前記加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸と、
前記加圧室と回転軸との間に配置され、加圧室内からの流体の漏れを防止するメカニカルシールと、
前記メカニカルシールに対する押さえ力を可変にできるメカニカルシールを押さえるメカニカルシール押さえ機構とを有する撹拌システムの運転方法であって、
前記加圧気体供給機構により加圧気体が加圧室内に供給されている間は、前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を定常状態よりも高めることを特徴とする撹拌システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撹拌システム及びその運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体に対して固形分の分散、混合等を行う撹拌システムとして、各種装置が提案されているが、その1つとして、本件出願人が提案した、ケーシングの内部に、撹拌翼を備えたロータを配設し、該撹拌翼の回転により生じる負圧吸引力によってケーシングの内部に液体を負圧吸入し、該吸入した液体に撹拌翼の回転によりキャビテーションを生じさせて、液体に対する固形分の分散、混合を行う吸引撹拌ポンプを備えた分散混合装置が実用化されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−8438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1で提案した分散混合装置は、吸引撹拌ポンプの撹拌翼を備えたロータが高速回転するため、ロータの回転軸のシール部にメカニカルシールを採用するようにしている。
その一方で、分散混合装置をケーシングの内部を加圧した状態で運転する要請があるが、この場合、ケーシングの内部の液体や気体が、ロータの回転軸のシール部を介して漏れ出ないようにするために、メカニカルシールの押さえ力(メカニカルシールの摺接面の圧力)を大きく設定する必要があり、必然的に、メカニカルシールが損耗しやすくなるという問題があった。
【0005】
なお、この問題は、本件出願人が特願2016−093672において提案した縦軸型の分散混合装置においても、同様に存在する問題であった。
【0006】
本発明は、上記従来の分散混合装置の有する問題点に鑑み、加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸のシール部を介した液体や気体の漏れを抑制しながら、シール部を構成するメカニカルシールの損耗を最小限に抑えることができる撹拌システム及びその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の撹拌システムは、加圧室と、前記加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸と、前記加圧室と回転軸との間に配置され、加圧室内からの流体の漏れを防止するメカニカルシールと、前記メカニカルシールに対する押さえ力を可変にできるメカニカルシールを押さえるメカニカルシール押さえ機構とを有し、前記加圧室内が加圧されている間は、前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高めることを特徴とする。
【0008】
この場合において、前記加圧室に液体を供給する液体供給機構と、前記液体に加圧気体を供給する加圧気体供給機構と、減圧機構とを有するようにすることができる。
【0009】
また、本発明の撹拌システムの運転方法は、加圧室と、前記加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸と、前記加圧室と回転軸との間に配置され、加圧室内からの流体の漏れを防止するメカニカルシールと、前記メカニカルシールに対する押さえ力を可変にできるメカニカルシールを押さえるメカニカルシール押さえ機構とを有する撹拌システムの運転方法であって、前記加圧室内が加圧されている間は、前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高めることを特徴とする。
【0010】
この場合において、前記加圧室に流体を供給して供給する液体供給機構と、前記液体に加圧気体を供給する加圧気体供給機構と、減圧機構とを有し、前記加圧気体供給機構によって加圧気体を供給するに際して前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高め、減圧機構による減圧後、前記メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を定常状態にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の撹拌システム及びその運転方法によれば、加圧室内が加圧されている間は、メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高めることにより、より具体的には、加圧気体供給機構によって加圧気体を供給するに際してメカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高め、減圧機構による減圧後、メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を定常状態にすることにより、加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸のシール部を介した液体や気体の漏れを抑制しながら、シール部を構成するメカニカルシールの損耗を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の撹拌システムの一実施の形態である分散混合装置を示す全体斜視図である。
図2】同分散混合装置の正面図である。
図3】同分散混合装置の平面図である。
図4】同分散混合装置の左側面図である。
図5】同分散混合装置の要部の断面図(図2のA−A断面図)である。
図6】吸引撹拌ポンプの内部構造を示す説明図である。
図7図6のB−B方向視での断面図である。
図8】吸引撹拌ポンプの分散混合機構の内部構造を示す分解斜視図である。
図9】仕切板の概略構成図である。
図10】本発明の撹拌システムの一実施の形態である分散混合装置の運転方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の撹拌システム及びその運転方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0014】
〔分散混合装置の概略構造〕
図1図9に、本発明の撹拌システムの一実施の形態である分散混合装置を示す。
この分散混合装置は、加圧室となるケーシング1の内部に、ポンプ駆動モータMによって回転軸19を介して回転駆動される撹拌翼6を備えたロータ5を配設し、この撹拌翼6の回転により生じる負圧吸引力によってケーシング1の内部に液体Rを負圧吸入し、吸入した液体Rに撹拌翼6の回転によりキャビテーションを生じさせて、液体Rに対する固形分の分散、混合を行う吸引撹拌ポンプXと、この吸引撹拌ポンプXとの間で、循環流路16、18を介して、液体Rの循環を行う、液体供給機構としての液体貯留タンクYとを備えて構成されている。
【0015】
そして、この分散混合装置は、加圧室となるケーシング1と回転軸19との間に配置され、ケーシング1内からの流体(液体及び気体)の漏れを防止するシール部を構成するメカニカルシール22と、メカニカルシール22に対する押さえ力を可変にできるメカニカルシール22を押さえるメカニカルシール押さえ機構Zとを有し、ケーシング1内が加圧されている間は、メカニカルシール押さえ機構Zによる押さえ力を高めることができるようにしている。
【0016】
メカニカルシール押さえ機構Zは、メカニカルシール22を付勢するばね部材23と、ばね部材23の背面を支持する押圧板24と、押圧板24を押圧操作することによってばね部材23の付勢力を変動させて、メカニカルシール22に対する押さえ力を可変にするエアシリンダからなるアクチュエータ25a、25bとで構成されている。
ここで、アクチュエータ25a、25bの動作状態(メカニカルシール22に対する押さえ力の大きさ)を確認するための検知機構、例えば、リードスイッチ(図示省略)を設けるようにする。
なお、アクチュエータ25a、25bは、本実施形態においては、2個用いるようにしたが、1個又は3個以上用いるようにすることもでき、また、アクチュエータには、エアシリンダ以外の動作機構、例えば、油圧シリンダ、電動シリンダ等を用いることができる。
また、押圧板24が回転軸19に沿って平行に移動することでばね部材23の背面を均一に支持するようにするために、押圧板24の移動をガイドするガイドピン26を、押圧板24を貫通して設けるようにする。
【0017】
さらに、この分散混合装置は、液体に加圧気体を供給する加圧気体供給機構Gと、減圧機構Pdとを備えるようにしている。
【0018】
ここで、加圧気体供給機構Gは、バルブV1を介して加圧室となるケーシング1の第1の導入室13に加圧気体を導入することで、液体に加圧気体を供給するようにしている。
なお、加圧気体を導入する位置は、これに限定されず、例えば、循環流路16に加圧気体を導入することもできる。
【0019】
また、減圧機構Pdは、減圧バルブV2を介して液体貯留タンクYの減圧(加圧気体の放出)を行うもので、この減圧により、流体に供給した加圧気体の脱気を行うことができる。
【0020】
加圧室となるケーシング1の第1の導入室13及び液体貯留タンクYには、当該第1の導入室13内及び液体貯留タンクY内の圧力を測定するための圧力計P1、P2をそれぞれ設けるようにする。
【0021】
また、循環流路18から排出管18aを分岐し、バルブV3、V4を切り替えて、排出管18aを介して、吸引撹拌ポンプXから排出された液体を排出し、後続の工程に供給することができるようにしている。
【0022】
[非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造]
以下、この分散混合装置を用いて、アルカリ金属複合酸化物を含んだ非水電解質二次電池の正極用スラリーを生成する場合を例に挙げて説明する。
この正極用スラリーの生成においては、スラリー状の液体に溶け込んだ無機炭素を用いてスラリー中のアルカリ成分を中和処理する工程と、中和処理したスラリーを撹拌することによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気する工程とを備える電極スラリーの製造工程を含むものである。
【0023】
炭酸ガスの使用量は、スラリーのpH値が4〜11、好ましくは、5〜10、さらに好ましくは、6〜9とする量が添加される。
【0024】
炭酸ガスの圧力は、圧力が高ければ高いほど、高濃度の溶存無機炭素を得ることができるため、常圧以上であれば、特に限定されないが、中和の反応速度の観点から、0.03MPa以上、好ましくは、0.2MPa以上、さらに好ましくは、0.3MPa以上にする。
また、100MPaを超える圧力は、製造装置が大がかりになるだけでなく、中和処理後のスラリーに溶存無機炭素の残存量が多くなり、後の脱気処理が困難になるため、圧力の上限は、100MPa以下、好ましくは、50MPa以下、さらに好ましくは、10MPa以下にする。
【0025】
中和処理後のスラリーには、溶存無機炭素が残存しているため、脱気処理を行うようにする。
ここで、脱気処理を行わずに電極塗工を行うと、乾燥工程で溶存無機炭素により活物質層が発泡し、過度に空隙が形成されるため、塗工ムラや電極剥離、脱落を起こしやすくなる。
【0026】
スラリー中の溶存無機炭素は、脱気処理することにより、中和したスラリーと炭酸ガスに分離することができる。
実用電池の電極スラリーの脱気処理は、膜脱気が主流であるが、加圧によりスラリー中に形成した無機炭素を分離することは困難である。
そのため、本発明においては、中和処理したスラリーを撹拌することによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気するようにする。この場合、併せて、減圧脱気することが好ましい。
【0027】
スラリーの固形分の分散、混合方法は、既存の撹拌装置等を用いた混合方法が採用できるが、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合することが好ましい。
キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合する方法を採用することで、同じ装置を用いて中和処理後のスラリーを効率よく脱気することができる。
すなわち、キャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって分散、混合して製造したスラリーに、炭酸ガスを加圧状態で添加して中和し、再びスラリーにキャビテーション(局所沸騰)を生じさせることによって減圧、脱気することで、分散、混合装置が脱気装置を兼ねることができ、経済的である。
また、減圧機構Pdを真空ポンプ(図示省略)に接続し、液体貯留タンクYを減圧状態としてスラリーを循環させると、より早く脱気することが可能となる。
なお、前記スラリーの製造と炭酸ガスの脱気を、既存の撹拌装置等を用いて行うこともできる。
【0028】
スラリーには、固形分として活物質及びバインダが含まれ、必要に応じて導電助剤が添加される。
【0029】
活物質は、アルカリ金属複合酸化物であれば特に制限はないが、非水電解質二次電池が、リチウム二次電池であれば、リチウム複合酸化物、すなわち、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、三元系材料(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)、ニッケルリッチ三元系材料(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)、ニッケル−コバルト−アルミニウム酸リチウム(LiNi0.8Co0.15Al0.05)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、リン酸鉄−マンガンリチウム(LiFe0.5Mn0.5PO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)、リン酸バナジウムリチウム(Li(PO)、リチウム鉄シリケート(LiFeSiO)、リチウムマンガンシリケート(LiMnSiO)、リチウムリッチ固溶体系(LiMnO−LiNi0.33Mn0.33Co0.33)、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn)、スピネル型ニッケル−マンガン酸リチウム(LiNi0.5Mn1.5)、ニッケル−鉄−マンガン酸リチウム(LiNi0.33Fe0.33Mn0.33)、などの材料が挙げられ、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、上記活物質は元素比率が多少ずれても何ら問題ない。また、非水電解質二次電池が、ナトリウム二次電池であれば、ナトリウム複合酸化物、すなわち、上記のアルカリ金属元素のリチウムをナトリウムに置き換えればよく、カリウム二次電池であれば、カリウムに置き換えればよい。
【0030】
バインダは、通常用いられているもの、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリイミド(PI)、ポリアミド、ポリアミドイミド(PAI)、アラミド、ポリアクリル、ポリアクリル酸塩、アクリル酸エステル、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、セルロース硫酸塩、メチルセルロースエーテル、メチルエチルセルロースエーテル、エチルセルロースエーテル、低窒素ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド(ポリクオタニウム−4)、塩化−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−10)、塩化−[2−ヒドロキシ−3−(ラウリルジメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース(ポリクオタニウム−24)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレンビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、澱粉などの材料を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
導電助剤は、特に制限はなく、金属、炭素材料、導電性高分子、導電性ガラスなどが挙げられるが、このうち炭素材料が好ましく、具体的には、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン、ファーネスブラック、グラフェン、グラッシーカーボン、カーボンナノホーンなどが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いても何ら問題ない。
正極の活物質層においては、例えば、正極活物質、バインダ、導電物質の合計量を100質量%とした場合、電極活物質が60〜99質量%、バインダが0.1〜25質量%、導電物質が0.1〜10質量%であることが好ましい。より好ましくは、電極活物質が80〜95質量%、バインダが0.5〜15質量%、導電物質が0.5〜5質量%であることが好ましい。
上記の正極の活物質層の組成であれば、十分な結着力と導電性改善効果が得られる。
【0032】
中和剤は、炭酸ガスをスラリー状の液体に溶解させた溶存無機炭素であれば特に限定されない。すなわち、空気のように炭酸ガスを含むガスや、ドライアイスを含む固体から発生する炭酸ガスを用いて溶存無機炭素を生成してもかまわない。但し、比較的小さな圧力で効率的に溶存無機炭素を得るには高濃度の炭酸ガスを用いることが好ましい。
【0033】
そして、これにより得られた非水電解質二次電池の正極用スラリーは、これを用いて非水電解質二次電池の正極、具体的には、アルカリ金属炭酸塩によって被覆された非水電解質二次電池の正極を製造することができ、この正極を用いて非水電解質二次電池を製造することができ、さらに、この非水電解質二次電池は、電子機器に好適に用いることができる。
【0034】
以下、分散混合装置の構成要素について説明する。
【0035】
〔液体貯留タンク〕
液体貯留タンクYは、本実施形態においては、吸引撹拌ポンプXとの間で、循環流路16、18を介して、液体Rの循環を行う機能に加え、液体R(必要に応じて、固形分P)の供給機能を兼ねており、吸引撹拌ポンプXの運転を開始する前に、上記スラリーを精製するための所定量の液体R(必要に応じて、固形分P)を、液体貯留タンクYに投入、貯留しておくようにしたり、吸引撹拌ポンプXで液体Rを循環させながら固形分Pを液体貯留タンクYに投入するようにする。
【0036】
ここで、本実施形態においては、固形分Pの供給方式として、固形分Pを液体貯留タンクYに投入することに代えて、図4及び図6に示すように、所定量の固形分Pを貯留する固形分貯留ホッパ31を備え、この固形分貯留ホッパ31に貯留された固形分Pを、投入シャッタ31aを介して、第1の供給部11から吸引撹拌ポンプXのケーシング1の内部に直接負圧吸入するようにして順次供給する方式を採用するようにしている。
なお、固形分Pの供給方式としては、このほか、同様に、固形分貯留ホッパに貯留された固形分を、液体貯留タンクYから吸引撹拌ポンプXに液体を供給する循環流路16の途中で、液体Rの流れにより得られるエジェクタ効果により吸入するようにして、液体Rと共に吸引撹拌ポンプXに供給するようにすることもできる。
【0037】
また、液体貯留タンクYは、貯留機能を備えたものであれば、特にその構成は限定されるものではないが、例えば、撹拌機構(図示省略)を備えたものを用いることもできる。
【0038】
〔吸引撹拌ポンプ〕
図6図9に基づいて、吸引撹拌ポンプXについて説明する。
図6に示すように、吸引撹拌ポンプXは、両端開口が前壁部2と後壁部3とで閉じられた円筒状の外周壁部4を備えたケーシング1を備え、そのケーシング1の内部に同心状で回転駆動自在に設けられたロータ5と、そのケーシング1の内部に同心状で前壁部2に固定配設された円筒状のステータ7と、ロータ5を回転駆動するポンプ駆動モータM等を備えて構成されている。
【0039】
図7に示すように、ロータ5の径方向の外方側には、複数の撹拌翼6が、前壁部2側である前方側(図6の下側)に突出し、かつ、周方向に等間隔で並ぶ状態でロータ5と一体的に備えられている。
【0040】
円筒状のステータ7には、絞り流路となる複数の透孔7a、7bが周方向に夫々並べて備えられ、そのステータ7が、ロータ5の前方側(図6の左下側)で、かつ、撹拌翼6の径方向の内側に位置させて前壁部2に固定配設されて、そのステータ7とケーシング1の外周壁部4との間に、排出室を兼ねた、撹拌翼6が周回する環状の翼室8が形成されている。
【0041】
図6図8に示すように、第1の供給部11が、前壁部2の中心軸(ケーシング1の軸心A3)よりも外周側に偏移した位置に設けられている。
ここで、本実施形態においては、固形分貯留ホッパ31を備え、この固形分貯留ホッパ31に貯留された固形分Pを、投入シャッタ31aを介して、第1の供給部11から吸引撹拌ポンプXのケーシング1の内部に直接負圧吸入するようにして供給するようにしている。
【0042】
図6及び図8に示すように、ケーシング1の前壁部2の内面に環状溝10が形成され、環状溝10と連通する状態で第1の供給部11が設けられている。
【0043】
図6及び図7に示すように、液体Rと固形分Pとが混合されて生成されたスラリー状になった液体Rを吐出する円筒状の吐出部12が、ケーシング1の円筒状の外周壁部4の周方向における1箇所に、その外周壁部4の接線方向に延びて翼室8に連通する状態で設けられている。
【0044】
図2及び図7に示すように、吐出部12から吐出されたスラリー状の液体Rは、循環流路18を介して、液体貯留タンクYに戻される。
【0045】
また、ケーシング1の前壁部2の中央部(軸心A3と同心状)には、第2の供給部17が設けられている。
そして、この第2の供給部17に、液体貯留タンクYに投入、貯留されている液体R(液体貯留タンクYに戻されたスラリー状の液体R)が、循環流路16を介して、負圧吸引されることで供給される。
【0046】
また、図6図8に示すように、ステータ7の内周側を前壁部2側の第1の導入室13とロータ5側の第2の導入室14とに区画する仕切板15が、ロータ5の前方側に当該ロータ5と一体回転する状態で設けられるとともに、仕切板15の前壁部2側に掻出翼9が設けられている。掻出翼9は、同心状に、周方向において均等間隔で複数(図8では、4つ)備えられ、各掻出翼9がその先端部9Tを環状溝10内に進入した状態でロータ5と一体的に周回可能に配設されている。
【0047】
第1の導入室13及び第2の導入室14は、ステータ7の複数の透孔7a、7bを介して翼室8と連通されるように構成され、第1の供給部11が第1の導入室13に連通し、第2の供給部17が第2の導入室14に連通するように構成されている。
具体的には、第1の導入室13と翼室8とは、ステータ7における第1の導入室13に臨む部分に周方向に等間隔で配設された複数の第1の導入室13側の透孔7aにて連通され、第2の導入室14と翼室8とは、ステータ7における第2の導入室14に臨む部分に周方向に等間隔で配設された複数の第2の導入室14側の透孔7bにて連通されている。
【0048】
吸引撹拌ポンプXの各部について説明する。
図6に示すように、ロータ5は、その前面が概ね円錐台状に膨出する形状に構成されるとともに、その外周側に、複数の撹拌翼6が前方に突出する状態で等間隔に並べて設けられている。なお、図7では、周方向に等間隔に10個の撹拌翼6が配設されている。また、この撹拌翼6は、内周側から外周側に向かうに連れて、回転方向後方に傾斜するようにロータ5の外周側から内周側に突出形成されており、撹拌翼6の先端部の内径は、ステータ7の外径よりも若干大径に形成されている。
【0049】
このロータ5が、ケーシング1内においてケーシング1と同心状に位置する状態で、後壁部3を貫通してケーシング1内に挿入されたポンプ駆動モータMの駆動軸19に連結されて、そのポンプ駆動モータMにより回転駆動される。
このように、本実施形態においては、ポンプ駆動モータMの駆動軸19が、ロータ5の回転軸となる。
また、ポンプ駆動モータMの駆動軸19には、ポンプ駆動モータM側にケーシング1の内部の液体Rが漏れ出ることを防止するためのシール部を構成するメカニカルシール22を設けるようにしている。
このメカニカルシール22は、メカニカルシール22に対する押さえ力を可変にできるメカニカルシール22を押さえるメカニカルシール押さえ機構Zを背面側に備えて、ケーシング1内が加圧されている間は、メカニカルシール押さえ機構Zによる押さえ力を高めることができるようにしている。
【0050】
そして、ロータ5が、その軸心方向視(図7に示すような図6のB−B方向視)において撹拌翼6の先端部が前側となる向きに回転駆動されることにより、撹拌翼6の回転方向の後側となる面(背面)6aには、いわゆるキャビテーションが発生するように構成されている。
【0051】
図6図8及び図9に示すように、仕切板15は、ステータ7の内径よりも僅かに小さい外径を有する概ね漏斗状に構成されている。この漏斗状の仕切板15は、具体的には、その中央部に、頂部が円筒状に突出する筒状摺接部15aにて開口された漏斗状部15bを備えるとともに、その漏斗状部15bの外周部に、前面及び後面共にケーシング1の軸心A3に直交する状態となる環状平板部15cを備える形状に構成されている。
そして、図6及び図7に示すように、この仕切板15が、頂部の筒状摺接部15aがケーシング1の前壁部2側を向く姿勢で、周方向に等間隔を隔てた複数箇所(この実施形態では、4箇所)に配設された間隔保持部材20を介して、ロータ5の前面の取付部5aに取り付けられる。
【0052】
図7及び図9(c)に示すように、仕切板15を複数箇所夫々で間隔保持部材20を介してロータ5に取り付ける際には、撹拌羽根21が、ケーシング1の後壁部3側に向く姿勢で仕切板15に一体的に組み付けられ、ロータ5が回転駆動されると、4枚の撹拌羽根21がロータ5と一体的に回転するように構成されている。
【0053】
図6及び図8に示すように、この実施形態では、円筒状の第2の供給部17が、ケーシング1と同心状で、そのケーシング1の前壁部2の中心部に設けられている。この第2の供給部17には、循環流路16の内径よりも小径で、仕切板15の筒状摺接部15aよりも小径となり流路面積が小さな絞り部14aが形成されている。ロータ5の撹拌翼6が回転することにより、吐出部12を介してスラリー状の液体Rが吐出され、第2の供給部17の絞り部14aを介して液体Rが導入されることになるので、吸引撹拌ポンプX内が減圧される。
【0054】
図6図8に示すように、第1の供給部11は、そのケーシング1内に開口する開口部(入口部)が、環状溝10における周方向の一部を内部に含む状態で、ケーシング1内に対する第2の供給部17の開口部の横側方に位置するように、前壁部2に設けられている。また、第1の供給部11は、軸心A2がケーシング1の前壁部2に近づくほどケーシング1の軸心A3に近づく傾斜姿勢で、ケーシング1の前壁部2に設けられている。ちなみに、第1の供給部11の傾斜角度は、45度程度である。
そして、本実施形態においては、第1の供給部11に、固形分貯留ホッパ31に貯留された固形分Pを、投入シャッタ31aを介して順次供給することができるようにするとともに、第1の導入室13内の圧力を測定するための圧力計P1を設けるようにしている。
【0055】
図6及び図8に示すように、ステータ7は、ケーシング1の前壁部2の内面(ロータ5に対向する面)に取り付けられて、ケーシング1の前壁部2とステータ7とが一体となるように固定されている。ステータ7において、第1の導入室13に臨む部分に配設された複数の第1の導入室13側の透孔7aは、概略円形状に形成され、第1の導入室13の流路面積よりも複数の第1の導入室13側の透孔7aの合計流路面積が小さくなるように設定されており、また、第2の導入室14に臨む部分に配設された複数の第2の導入室14側の透孔7bは、概略楕円形状に形成され、第2の導入室14の流路面積よりも複数の第2の導入室14側の透孔7bの合計流路面積が小さくなるように設定されている。ロータ5の撹拌翼6が回転することにより、吐出部12を介してスラリー状の液体Rが吐出され、第2の供給部17を介して、液体貯留タンクYに投入、貯留されていた液体Rや液体貯留タンクYに戻されたスラリー状の液体Rが導入されることになるので、吸引撹拌ポンプX内が減圧される。
【0056】
図8及び図9に示すように、この実施形態では、各掻出翼9が棒状に形成され、ロータ5の径方向視(図9(b)の紙面表裏方向視)で、当該棒状の掻出翼9の先端側ほど前壁部2側に位置し、かつ、ロータ5の軸心方向視(図9(a)の紙面表裏方向視)で、当該棒状の掻出翼9の先端側ほどロータ5の径方向内方側に位置する傾斜姿勢で、当該棒状の掻出翼9の基端部9Bがロータ5と一体回転するように固定され、ロータ5が、その軸心方向視(図9(a)の紙面表裏方向視)において掻出翼9の先端が前側となる向き(図6図9において矢印にて示す向き)に回転駆動される。
【0057】
図7図9に基づいて、掻出翼9について説明する。
掻出翼9は、仕切板15に固定される基端部9B、第1の導入室13に露呈する状態となる中間部9M、環状溝10に嵌め込まれる(すなわち、進入する)状態となる先端部9Tを基端から先端に向けて一連に備えた棒状に構成されている。
【0058】
図7図8及び図9(b)に示すように、掻出翼9の基端部9Bは、概ね矩形板状に構成されている。
図7図8図9(a)及び図9(b)に示すように、掻出翼9の中間部9Mは、横断面形状が概ね三角形状になる概ね三角柱状に構成されている(特に、図7参照。)。そして、掻出翼9が上述の如き傾斜姿勢で設けられることにより、三角柱状の中間部9Mの三側面のうちのロータ5の回転方向前側を向く一側面9m(以下、「放散面」と記載する場合がある。)は、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜する前下がり状で、しかも、ロータ5の径方向に対して径方向外方側に向く(以下、「斜め外向き」と記載する場合がある。)ように構成されている(特に、図8及び図9参照。)。
【0059】
つまり、棒状の掻出翼9が、上述の如き傾斜姿勢で設けられることにより、掻出翼9のうち第1の導入室13に露呈する中間部9Mが環状溝10に嵌め込まれる先端部9Tよりもロータ5の径方向外方に位置し、しかも、その中間部9Mの回転方向前側を向く放散面9mが、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜し、しかも、ロータ5の径方向に対して斜め外向きに傾斜している。これにより、掻出翼9の先端部9Tにより環状溝10から掻き出された固形分Pは、掻出翼9の中間部9Mの放散面9mにより、第1の導入室13内においてロータ5の径方向外方側に向けて流動するように案内される。
【0060】
図8図9(a)及び図9(b)に示すように、掻出翼9の先端部9Tは、横断面形状が概ね矩形状になる概ね四角柱状であり、ロータ5の軸心方向視(図9(a)の紙面表裏方向視)において、四側面のうちのロータ5の径方向外方側に向く外向き側面9oが環状溝10の内面における径方向内方側を向く内向き内面に沿い、かつ、四側面のうちのロータ5の径方向内方側に内向き側面9iが環状溝10の内面における径方向外方側を向く外向き内面に沿う状態となる弧状に構成されている。
また、四角柱状の先端部9Tの四側面のうちの、ロータ5の回転方向前側を向く掻き出し面9fは、ロータ5の回転方向前側に向けて傾斜し、しかも、ロータ5の径方向に対して径方向外方側に向く(以下、「斜め外向き」と記載する場合がある。)になるように構成されている。
これにより、掻出翼9の先端部9Tにより環状溝10から掻き出された固形分Pは、掻出翼9の先端部9Tの掻き出し面9fにより、ロータ5の径方向外方側に向けて第1の導入室13内に放出されることになる。
さらに、掻出翼9の先端部9Tの先端面9tは、その先端部9Tが環状溝10に嵌め込まれた状態で環状溝10の底面と平行になるように構成されている。
【0061】
また、ロータ5が、その軸心方向視(図9(a)の紙面表裏方向視)において掻出翼9の先端が前側となる向きに回転駆動されると、掻出翼9の基端部9B、中間部9M、先端部9Tそれぞれに、回転方向の後側となる面(背面)9aが形成される。この背面9aには、掻出翼9が回転することにより、いわゆるキャビテーションが発生するように構成されている。
【0062】
上述のような形状に構成された4個の掻出翼9が、上述の如き傾斜姿勢で、中心角で90度ずつ間隔を隔てて周方向に並べた形態で、夫々、基端部9Bを仕切板15の環状平板部15cに固定して設けられている。
【0063】
図6に示すように、掻出翼9が設けられた仕切板15が、間隔保持部材20によりロータ5の前面と間隔を隔てた状態でロータ5の前面の取付部5aに取り付けられ、このロータ5が、仕切板15の筒状摺接部15aが第2の供給部17に摺接回転可能に嵌め込まれた状態でケーシング1内に配設される。
これにより、ロータ5の膨出状の前面と仕切板15の後面との間に、ケーシング1の前壁部2側ほど小径となる先細り状の第2の導入室14が形成され、第2の供給部17が仕切板15の筒状摺接部15aを介して第2の導入室14に連通するように構成されている。
また、ケーシング1の前壁部2と仕切板15の前面との間に、第1の供給部11に連通する環状の第1の導入室13が形成される。
【0064】
そして、ロータ5が回転駆動されると、筒状摺接部15aが第2の供給部17に摺接する状態で、仕切板15がロータ5と一体的に回転することになり、ロータ5及び仕切板15が回転する状態でも、第2の供給部17が仕切板15の筒状摺接部15aを介して第2の導入室14に連通する状態が維持されるように構成されている。
【0065】
〔制御部〕
この分散混合装置に備えられる制御部は、図示しないが、CPUや記憶部等を備えた公知の演算処理装置からなり、分散混合装置を構成する吸引撹拌ポンプXの運転を制御可能に構成されている。
特に、制御部は、撹拌翼6の周速度(ロータ5の回転数)を制御可能に構成され、第1の導入室13及び第2の導入室14内の圧力が所定の負圧状態となるように、撹拌翼6の周速度(ロータ5の回転数)を設定し、当該設定された周速度(ロータ5の回転数)で撹拌翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第2の導入室14側の透孔7b(及び第1の導入室13側の透孔7a)を通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、液体Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域として形成させることができるように構成されている。
ここで、第1の導入室13内の圧力(第2の導入室14内の圧力と同圧)を測定するための圧力計P2を設けるようにしている。
【0066】
〔分散混合装置の動作(スラリーの製造)〕
次に、この分散混合装置の動作(スラリーの製造)について、図10に示すフローチャートを用いて説明する。
まず、吸引撹拌ポンプXの運転を開始する前に、所定量の液体Rを、液体貯留タンクYに投入、貯留する。
【0067】
この状態で、吸引撹拌ポンプXの運転(高速運転)を開始すると、吸引撹拌ポンプX内が、負圧状態となり、第2の供給部17に、液体貯留タンクYに投入、貯留されている液体Rが、循環流路16を介して、負圧吸引されることで供給される。
この状態で、所定量の固形分Pを、固形分貯留ホッパ31から投入シャッタ31aを介して、第1の供給部11から吸引撹拌ポンプXのケーシング1の第1の導入室13内に直接負圧吸入するようにして順次供給するようにする。
なお、本実施形態においては、固形分Pを固形分貯留ホッパ31から投入するようにした例を示したが、吸引撹拌ポンプXで液体Rを循環させながら固形分Pを液体貯留タンクYに投入するようにすることもできる。
【0068】
第1の供給部11から吸引撹拌ポンプXのケーシング1の第1の導入室13内に供給された固形分Pは、第2の供給部17に供給された液体Rと合わさり、翼室8に導入され、スラリー状の液体Rとなって吐出部12から吐出され、循環流路18を介して、液体貯留タンクYに戻される。そして、スラリー状の液体Rは、吸引撹拌ポンプXが運転されている間、循環流路16を介して負圧吸引されることで循環する。
【0069】
そして、第2の供給部17に循環して供給されるスラリー状の液体Rは、第2の供給部17の絞り部14aを介して流量が制限された状態で第2の導入室14内に導入される。第2の導入室14内においては、回転する複数の撹拌羽根21により剪断作用を受けて、さらに細かく解砕され、さらに、第2の導入室14側の透孔7bの通過の際にも剪断作用を受けて解砕される。この際には、第2の導入室14側の透孔7bを介して流量が制限された状態で翼室8に導入される。そして、翼室8内において、高速で回転する撹拌翼6により剪断作用を受けて解砕され、固形分Pの凝集物(ダマ)がさらに少なくなったスラリー状の液体Rが吐出部12から吐出される。
【0070】
ここで、制御部は、撹拌翼6の周速度(ロータ5の回転数)を制御可能に構成され、第2の導入室14内の圧力が所定の負圧状態となるように、撹拌翼6の周速度(ロータ5の回転数)を設定し、当該設定された周速度(ロータ5の回転数)で撹拌翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、液体Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域として形成させることができる。
これによって、翼室8内の全周に亘って、固形分Pの凝集物(いわゆるダマ)に浸透した液体Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに固形分Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリー状の液体Rのほぼ全体に亘って、液体R中での固形分Pの分散が良好な高品質のスラリー状の液体Rを生成することができる。
【0071】
これによって、翼室8内の全周に亘って、固形分Pの凝集物(いわゆるダマ)に浸透した液体Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに固形分Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリー状の液体Rのほぼ全体に亘って、より確実に、液体R中での固形分Pの分散が良好な高品質のスラリー状の液体Rを生成することができる。
すなわち、負圧状態で掻出翼9の背面9aに発生するキャビテーションによる気泡(キャビティー)が、ステータ7の第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後に、翼室8内において高速回転する撹拌翼6によってさらに微細な気泡に粉砕されることによって、スラリー状の液体Rは泡状となり、凝集状態の固形分P(繊維状炭素粉末)は、解され、分散が促進される。
そして、泡状のスラリー状の液体Rは、このように、翼室8内において高速で回転する撹拌翼6により剪断作用を受けて解砕されながら、遠心力によって翼室8の外周部へ移動し、吐出部12から吐出されるが、この間に、泡状のスラリー状の液体Rが液状に戻る際に生じる衝撃によって、スラリー状の液体Rに含まれる凝集状態の固形分P(繊維状炭素粉末)は、さらに分散が促進され、固形分P(繊維状炭素粉末)が1次粒子になるまで分散された高品質のスラリー状の液体Rを生成することができる。
【0072】
[分散混合装置の動作(中和処理)]
次に、この分散混合装置の動作(中和処理)について説明する。
吸引撹拌ポンプXの運転を継続しながら、液体貯留タンクYに貯留されている生成されたスラリー状になった液体Rに対して中和処理を行う。
この中和処理は、加圧気体供給機構Gによって、バルブV1を介して加圧室となるケーシング1の第1の導入室13に加圧状態の炭酸ガスを導入することで、スラリー状になった液体Rに加圧状態の炭酸ガスを供給し、これにより、加圧下でスラリー状になった液体Rに炭酸ガスを溶解させるようにする。
【0073】
ここで、少なくとも、炭酸ガスが導入されることによってケーシング1内が加圧されている間は、メカニカルシール押さえ機構Zによるメカニカルシール22に対する押さえ力を定常状態から高め(上昇させ)、メカニカルシール22を介した液体(及び気体)の漏れを抑制するようにする。
このため、具体的には、加圧気体供給機構Gによって、バルブV1を介して加圧室となるケーシング1の第1の導入室13に加圧状態の炭酸ガスを導入する直前に、メカニカルシール押さえ機構Zのエアシリンダからなるアクチュエータ25a、25bを操作することによって、押圧板24を押圧操作し、ばね部材23の付勢力を変動させて、メカニカルシール22に対する押さえ力を定常状態から高めるようにする。
【0074】
また、加圧気体供給機構Gによって、バルブV1を介して加圧室となるケーシング1の第1の導入室13に加圧状態の炭酸ガスを導入する間は、吸引撹拌ポンプXの運転を、高速運転から低速運転に切り替えて行うことが好ましい。
【0075】
中和処理が完了すると、吸引撹拌ポンプXの運転を停止し、減圧機構Pdの減圧バルブV2を開くことよって、減圧バルブV2を介して液体貯留タンクYの減圧(加圧気体(炭酸ガス)の放出)を行うようにし、この減圧により、スラリー状になった液体Rに供給、溶存する炭酸ガスの脱気を行うことができる。
これに合わせて、メカニカルシール押さえ機構Zのエアシリンダからなるアクチュエータ25a、25bを操作することによって、押圧板24の押圧操作を解除し、ばね部材23の付勢力を変動させて、メカニカルシール22に対する押さえ力を定常状態(小さい押さえ力)に戻すようにする。
【0076】
[分散混合装置の動作(脱気処理)]
次に、この分散混合装置の動作(脱気処理)について説明する。
中和工程において、中和処理を行った液体貯留タンクYに貯留されているスラリー状になった液体Rに対して脱気処理を行う。
この脱気処理は、キャビテーションを生じさせることによって、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気することができる。
【0077】
この脱気処理は、吸引撹拌ポンプXの運転(高速運転)を所定時間行うことにより実施する。
このとき、液体貯留タンクYからは、中和処理を行った液体貯留タンクYに貯留されているスラリー状になった液体Rが供給される。吸引撹拌ポンプX内、すなわち、第1の導入室13と第2の導入室14の真空度が高まるため(ここで、第1の導入室13と第2の導入室14とは、固形分貯留ホッパ31の投入シャッタ31aを閉じた状態ではほぼ同圧となる。)、設定された周速度(ロータ5の回転数)で撹拌翼6を回転することで、少なくとも、ステータ7の第1の導入室13側の透孔7a及び第2の導入室14側の透孔7bを通過した直後の翼室8内の領域を、翼室8内の全周に亘って連続して、スラリー状になった液体Rの微細気泡(マイクロバブル)が多数発生した微細気泡領域(キャビテーション(局所沸騰)による気泡発生領域)とすることによって、スラリー状になった液体Rの分散、混合が促進され、さらに、キャビテーション(局所沸騰)が発生する減圧領域における脱気作用によって、スラリー状になった液体R中の無機炭素を炭酸ガスとして離脱させることができる。
これによって、翼室8内の全周に亘って、固形分Pの凝集物(いわゆるダマ又は継子)に浸透した液体Rが発泡することで当該凝集物の解砕が促進され、さらに、その発生した微細気泡が翼室8において加圧され消滅する際の衝撃力によりさらに固形分Pの分散が促進されることになり、結果、翼室8内の全周に存在するスラリー状になった液体Rのほぼ全体に亘って、分散が良好な高品質のスラリーを生成することができるとともに、スラリー中の無機炭素を炭酸ガスとして脱気することができる。
そして、スラリー状になった液体Rから離脱、脱気された炭酸ガスは、スラリー状になった液体Rと共に、液体貯留タンクYに導入され、減圧バルブV2を介して放出され、脱気処理を行ったスラリー状になった液体Rは、液体貯留タンクYに貯留される。
【0078】
そして、脱気処理が完了したスラリー状になった液体Rは、バルブV3、V4を切り替えることによって、循環流路18から分岐した排出管18aを介して、後続の工程に供給される。
その後、吸引撹拌ポンプXの運転を停止するようにする。
【0079】
このように、加圧室内が加圧されている間は、メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高めることにより、より具体的には、加圧気体供給機構によって加圧気体を供給するに際してメカニカルシール押さえ機構による押さえ力を高め(上昇させ)、減圧機構による減圧後、メカニカルシール押さえ機構による押さえ力を定常状態にすることにより、加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸のシール部を介した液体や気体の漏れを抑制しながら、シール部を構成するメカニカルシールの損耗を最小限に抑えることができる。
【0080】
以上、本発明の撹拌システム及びその運転方法について、その実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施の形態の記載に限定されるものではなく、加圧室を備えた横軸型の分散混合装置ほか、本件出願人が特願2016−093672において提案した縦軸型の分散混合装置や既存の撹拌装置の撹拌翼を備えた回転軸のシール部にも同様に適用することができる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の撹拌システム及びその運転方法は、加圧室内に配置された撹拌翼を備えた回転軸のシール部を介した液体や気体の漏れを抑制しながら、シール部を構成するメカニカルシールの損耗を最小限に抑えることができることから、加圧状態で撹拌操作を行う、非水電解質二次電池の正極用スラリーの製造の製造を始めとする各種スラリーの製造のほか、液体に対して固形分の分散、混合を行う分散混合装置の用途に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0082】
G 加圧気体供給機構
Pd 減圧機構
M ポンプ駆動モータ
P 固形分
R 液体
X 吸引撹拌ポンプ
Y 液体貯留タンク(液体供給機構)
Z メカニカルシール押さえ機構
1 ケーシング(加圧室)
5 ロータ
6 撹拌翼
6a 背面部
7 ステータ
7a 絞り流路(透孔)
7b 絞り流路(透孔)
8 翼室(排出室)
9 掻出翼
10 環状溝
11 第1の供給部
12 吐出部
13 第1の導入室
14 第2の導入室
14a 絞り部
15 仕切板
16 循環流路
17 第2の供給部
18 循環流路
19 ポンプ駆動モータの駆動軸(回転軸)
20 間隔保持部材
21 撹拌羽根
22 メカニカルシール(シール部)
23 ばね部材
24 押圧板
25a アクチュエータ
25b アクチュエータ
26 ガイドするガイドピン
31 固形分貯留ホッパ
31a 投入シャッタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10