(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カーボンファイバーを含有し実質的に樹脂分を含有しない金属粉を主成分とする焼結体からなり、他部材との接触面において、気孔を有しかつ前記カーボンファイバーの一部が前記焼結体から露出した焼結含油軸受であって、
前記カーボンファイバーは、その平均長さが0.09〜0.15mmであり、
前記金属粉と前記カーボンファイバーの合計100wt%に対して前記カーボンファイバーの含有割合が0.3〜3.0wt%である焼結含油軸受。
前記他部材との接触面を構成する金属表面に対して前記カーボンファイバーの一部が突出しており、その突出長さの平均が1.0〜2.5μmである請求項1〜請求項4何れか1項記載の焼結含油軸受。
前記接触面を有し前記カーボンファイバーを含有する焼結部位の周囲に前記カーボンファイバーを含まない焼結部位を有する請求項1〜請求項5何れか1項記載の焼結含油軸受。
前記混合物は、粘性のある樹脂溶液中に前記カーボンファイバーを浸漬した後、前記カーボンファイバーを前記樹脂溶液から取り出して、前記金属粉の一部と混合したものである請求項7記載のカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法。
前記混合物は、固形の前記樹脂バインダーに前記カーボンファイバー、前記一部の金属粉を混合、攪拌しながら溶剤を滴下したものである請求項7記載のカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法。
前記カーボンファイバー含有焼結部品が焼結含油軸受、ブッシュ、プーリー又はギヤの何れかである請求項7〜請求項9何れか1項記載のカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、近年になってより過酷な条件下において使用される場合に、性能に適不適が見られる場合も生じるようになり、そうした原因を探求し、より安定した優れた製品を製造すべく技術の開発を進めてきた。本発明は、そうした技術開発を進める中で明らかになってきた事実に基づき、より機能性の高い焼結軸受を開示するものである。そして、更にはこの焼結軸受を含め、ブッシュ、プーリー、ギヤ等にまで発展させたより機能性の高い焼結部品を開示するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、直径が14〜30μmのカーボンファイバーを含み、他部材との接触面に前記カーボンファイバーの一部が露出したカーボンファイバー含有焼結部品である。
直径が14〜30μmのカーボンファイバーを含み、他部材との接触面に前記カーボンファイバーの一部が露出したカーボンファイバー含有焼結部品であることから、PV値が高くなる過酷な条件においても安定的に機能することができる。
【0008】
本発明の一態様は、前記カーボンファイバーの平均長さが0.09〜0.2mmであるカーボンファイバー含有焼結部品である。
前記カーボンファイバーの平均長さが0.09〜0.2mmであることから、油膜切れに強いカーボンファイバー含有焼結部品である。
【0009】
本発明の一態様は、他部材との接触面を構成する金属表面に対して前記カーボンファイバーの一部が突出しており、その突出長さの平均が1.0〜2.5μmであるカーボンファイバー含有焼結部品である。
他部材との接触面を構成する金属表面に対して突出した前記カーボンファイバーの一部を有し、その突出長さの平均が1.0〜2.5μmとしたため、その突出したカーボンファイバーがシャフト等の他部材と接して好適な軸受特性、接触特性を発揮する。
【0010】
本発明の一態様は、他部材との接触面においてその表面に表出するカーボンファイバーの面積割合が3〜8%であるカーボンファイバー含有焼結部品である。
他部材との接触面においてその表面に表出するカーボンファイバーの面積割合が3〜8%であるため、シャフト等の他部材に接するに十分なカーボンファイバーを軸受摺動面等の他部材との接触面に有する。
【0011】
本発明の一態様は、内周面の直径が0.5〜10mm、軸方向長さが0.5〜15mmの大きさであるカーボンファイバー含有焼結部品である。
内周面の直径が0.5〜10mm、軸方向長さが0.5〜15mmの大きさであるカーボンファイバー含有焼結部品としたため、上記所定のカーボンファイバーを有することで、PV値が高くなる過酷な条件においても安定的に機能することができる。
【0012】
本発明の一態様は、25℃にてP値が1.9MPa以下、V値が110m/min以下で、PV値が99MPa・m/min以下の条件で72時間焼き付きがないカーボンファイバー含有焼結部品である。
25℃にてP値が1.9MPa以下、V値が110m/min以下で、PV値が99MPa・m/min以下の条件で72時間焼き付きがないため、大きな荷重を受ける場合や、回転速度が速い場合にも好適に用いることができるカーボンファイバー含有焼結部品である。
【0013】
本発明の一態様は、内周面の開口率が4〜40%であり、含油率が12〜18vol%であるカーボンファイバー含有焼結部品である。
内周面の開口率が4〜40%であり、含油率が12〜18vol%であるため、カーボンファイバーを含んだカーボンファイバー含有焼結部品における好適な潤滑特性を発揮させることができる。
【0014】
本発明の一態様は、含浸油を除くカーボンファイバー含有焼結部品中の前記カーボンファイバーの含有割合が0.5〜1.5wt%であるカーボンファイバー含有焼結部品である。
含浸油を除くカーボンファイバー含有焼結部品中の前記カーボンファイバーの含有割合が0.5〜1.5wt%であるため、PV値が高い条件でも安定性の高い摺動面等の接触面を提供でき、圧環強度も強いカーボンファイバー含有焼結部品である。
【0015】
本発明の一態様は、母材金属が銅系又は青銅系金属からなるカーボンファイバー含有焼結部品である。
母材金属が銅系又は青銅系金属からなるため、カーボンファイバーの保持力が高く、軸受等の焼結体からの脱落を起こし難いカーボンファイバー含有焼結部品である。
【0016】
前記接触面を有し前記カーボンファイバーを含有する焼結部位の周囲にカーボンファイバーを含まない焼結部位を有するカーボンファイバー含有焼結部品である。
前記接触面を有し前記カーボンファイバーを含有する焼結部位の周囲に前記カーボンファイバーを含まない焼結部位を有するため、カーボンファイバーを含有する焼結部位をそれよりも強度の高い、カーボンファイバーを含有しない焼結部位で被覆することができ、全体的な強度を高めることができる。
【0017】
焼結体が焼結含油軸受、ブッシュ、プーリー、ギヤの何れかであるカーボンファイバー含有焼結部品である。
焼結体が焼結含油軸受、ブッシュ、プーリー、ギヤの何れかであるものとしたため、シャフト等との摺動面を接触面とした焼結含油軸受やブッシュ、ベルト等との接触面を有するプーリー、他ギヤとの噛み合い面を接触面としたギヤとしてカーボンファイバー含有焼結部品を利用することができる。
【0018】
本発明の一態様は、直径が14〜30μmのカーボンファイバーを含み、他部材との接触面に前記カーボンファイバーの一部が露出したカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法であって、前記カーボンファイバーと、金属粉の一部と、樹脂バインダーとの混合物に、残りの金属粉を混合して焼結用混合粉を製造するカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法である。
【0019】
直径が14〜30μmのカーボンファイバーを含み、他部材との接触面に前記カーボンファイバーの一部が露出したカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法について、前記カーボンファイバーと、金属粉の一部と、樹脂バインダーとの混合物に、残りの金属粉を混合して焼結用混合粉を製造するため、カーボンファイバーの偏析が生じ難いカーボンファイバー含有焼結部品を製造することができる。
【0020】
本発明の一態様は、前記一部の金属粉の平均粒径は、前記残りの金属粉の平均粒径に比べて小さいカーボンファイバー含有焼結部品の製造方法である。
前記一部の金属粉の平均粒径は、前記残りの金属粉の平均粒径に比べて小さいことから、原材料の混合が容易であり、カーボンファイバーの偏析を生じ難い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PV値の高い条件等の過酷な条件でも利用し易い。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のカーボンファイバー含有焼結部品の一例としてのカーボンファイバー含有焼結含油軸受(単に「焼結軸受」ともいう)について実施形態に基づき詳細に説明する。
図1には、この焼結軸受11の斜視図を、
図2にはその断面図をそれぞれ示す。
焼結軸受11は、焼結体でなる軸受本体12の内周面13が、駆動モータのシャフト(図示せず)を軸支する摺動面14となっている。そして、少なくとも摺動面14の表面には、一部のカーボンファイバー15が露出している。こうした焼結軸受11の内周面13(摺動面14)の顕微鏡写真を
図3に示す。
【0024】
焼結軸受11の大きさは、内周面13の直径が0.5〜10mm、一の実施態様として1〜5mmであり、軸方向長さは0.5〜15mm、一の実施形態として1〜5mmであるような小型の軸受であることが好ましい。こうした大きさよりも大型の大きさとした場合には軸受にかかる荷重が大きくなり、そうした荷重に耐えられる太さのカーボンファイバー15が得られ難いからである。
【0025】
焼結軸受11の軸受本体12は粉末冶金法により製造される焼結体であり、そうした母材用の原材料としては、種々の金属粉を用いることができる。金属粉としては、例えば、鉄粉、銅粉、鉄粉と銅粉の混合粉、青銅粉又は真鍮粉、洋白、あるいはまた、これらやその他の金属の混合粉又は合金粉、さらに、これらの金属粉に黒鉛粉、すず粉、亜鉛粉等を加えたもの、あるいは他の合金粉を加えたものが挙げられる。合金粉には、鉄系の合金粉、例えば、Fe−C、Fe−Cu−C合金等の鉄含量が50%以上の合金粉や、銅系の合金粉、例えば、Cu−Sn、Cu−Sn−C合金等の銅含量が50%以上の合金粉が挙げられる。一般的に、鉄系の合金は、機械的強度が強く、硬度が高く、安価であるという利点を有し、銅系の合金は、潤滑特性に優れるという利点を有する。
【0026】
洋白は、軸受特性としては銅系又は青銅系と同等であり、製品としては遜色ないとも考えられるが、成形性が悪く量産性に劣ることから総合的には銅系や青銅系の方が好ましい。なお、上記焼結金属の説明において「〜〜系」という場合には、「〜〜」を50wt%以上含むものを言うものとする。例えば、銅系であれば全体の中で銅が50wt%以上含むものを言い、青銅系であれば全体の中で青銅が50wt%以上含むものを言う。
【0027】
金属粉は通常の粉末冶金に用いられる程度の粒径を有し、粒径は5μm〜250μm程度であり、平均粒径では45〜100μmとすることが好ましい。5μmより小さいと造粒が困難であるし、流動性が悪くなり製造金型への注入が困難になるなど、製造効率が悪くなり製造コストが上昇するおそれがある。250μmより大きいと焼結しても粒子間の隙間が大きくなりすぎて潤滑油を好適に保持することができなくなる。また、カーボンファイバーの保持力が低下し、カーボンファイバーの脱落が生じるおそれがある。平均粒径を45〜100μmとすれば、焼結が容易で軸受の圧環強度を高くすることができる。
【0028】
カーボンファイバー15は、屈曲や伸長に対して優れた耐久性と、高温に対する優れた耐熱性を有する炭素繊維で、その直径は7〜30μmとすることができるが、14μm以上、14.5μm、30μm以下とすることが好ましく、18〜30μmとすることがより好ましい。直径が7μm未満であると、細すぎて撓み応力が小さいため、摺動面にカーボンファイバーが露出していてもシャフトに対する反発力が小さくカーボンファイバーを添加する効果が得られない。また、30μmを超えると、シャフトとの摩擦力が大きくなって回転トルクを高めるおそれがあり、また焼結金属によるカーボンファイバーの保持力が弱まり脱落が生じ易くなる。さらには単位重量当たりのカーボンファイバー数が減り、高充填がし難くなる。一方、14.5μmを含み、14μm以上とすれば、PV値が高い場合にでも対応可能な高品質な軸受とすることができ、18μm以上とすれば、PV値がさらに高い場合にでも対応可能なより高品質な軸受とすることができる。また、25μm以下とすれば、カーボンファイバーの脱落がより生じ難くなる。
【0029】
カーボンファイバー15の平均長さは、0.07〜0.5mmとすることができ、0.09〜0.2mmとすることが好ましい。平均長さが0.07mmより短いと、焼結体からの脱落が多く生じカーボンファイバーの含有量が変化するおそれがある。また、カーボンファイバーを添加する効果が得られ難くなる。一方、0.5mmを超えるものは軸受特性の不安定化を招く懸念が生じる。また焼結前に偏析が起き易くなり、均質な軸受が得られ難い。そして、0.09〜0.2mmとすれば、焼結体からの脱落をより生じ難くすることができ、かつ軸受特性の安定性を増すことができる。
【0030】
また、カーボンファイバー15の0.06mm以下の長さのものは全体の5wt%以下とすることが好ましく、1wt%以下とすることがより好ましい。短い長さのカーボンファイバーは添加しても所望の効果が得られず、焼結体の圧環強度を下げるからである。
【0031】
カーボンファイバー15は、原料別の分類としてはPAN系、ピッチ系、レーヨン系があり、PAN系は市場の生産量及び使用量が大きいが直径の太いものが得られ難い。一方、ピッチ系は直径が太く平均直径が7〜30μmのものが得られ易く、かつ自己潤滑性に優れていることから最も好ましい。
【0032】
金属粉とカーボンファイバー15の混合割合は、金属粉とカーボンファイバーとの合計100wt%に対してカーボンファイバーを0.3〜3.0wt%含有させることが好ましく、0.5〜1.5wt%含有させることがより好ましい。0.3wt%より少ないと、カーボンファイバー15を添加する効果がほとんど表れず、3.0wt%よりも多いと、焼結体の圧環強度が低くなり過ぎるおそれがある。0.5〜1.5wt%とすれば、焼結体の圧環強度を高く保ち軸受の安定性も高めることができる。
【0033】
焼結軸受11には必要に応じて上記以外の成分を含有させることができる。
例えば、潤滑性を与えるため黒鉛や二硫化モリブデン、その他の固形潤滑剤や公知の添加剤を加えることができる。
【0034】
上記成分を焼結してなるカーボンファイバー含有焼結含油軸受では、その内周面において、その表面に表出するカーボンファイバーの面積割合が1〜20%であり、好ましくは3〜8%である。1%よりも少ないと、カーボンファイバーを添加するメリットが得られず、20%を超えると高強度の軸受が得られない。また、3〜8%とすれば、3%よりも少ない場合よりもカーボンファイバーの添加効果が高まり、8%よりも多い場合よりも軸受の圧環強度が高まる。
【0035】
摺動面14に表出するカーボンファイバー15の金属表面からの突出長さは4μm以下とすることが好ましく、その突出長さの平均は1.0〜2.5μmとすることがより好ましい。4μmを超える長さとするとカーボンファイバー15の切断が生じるおそれがある。また、突出長さの平均を1.0μm未満とすると、カーボンファイバー15を軸受に混入させることによる効果が得られない。また、2.5μmを超える長さとするとカーボンファイバー15が切断されるおそれが高まる。
【0036】
軸受本体12は、上記金属粉を圧縮、焼結して形成するため、気孔(油孔)を有しており、通常の焼結含油軸受のようにその気孔内に潤滑油を含油させて用いる。
油孔については、摺動面の表面写真から、凹部を油孔としそれ以外を母材又はカーボンファイバーの部分として2値化して凹部の面積比率を算出することで開口率として捉えることができ、この開口率を4〜40%とすることが好ましい。4%よりも少ないと摺動面への十分な油供給がなされなくなり安定的なシャフトの回転が得られ難くなる。また40%よりも多いとカーボンファイバーの保持力が低下するおそれがある。
【0037】
軸受本体12への含油率は、10〜20vol%とすることができ、12〜18vol%とすることが好ましい。一般的な焼結含油軸受の場合の含油率は20〜25vol%とすることが通常であるが、カーボンファイバー含有焼結含油軸受では含油率を少なくすることができる。一般的な焼結含油軸受では、シャフトと軸受摺動面との間のクリアランスに含浸油による油膜が生じ流体潤滑の状態になるが、カーボンファイバー含有焼結含油軸受ではカーボンファイバーがシャフトと軸受摺動面との間に介在するため、流体潤滑の状態になり難く、多くの油量が必要とも考えられる。しかしながら、結果的には一般的な焼結含油軸受の場合よりも少ない含油量で安定的なシャフトの回転が得られることがわかった。
【0038】
次に、このカーボンファイバー含有焼結含油軸受11の製造方法について説明する。
カーボンファイバーは所定の大きさのものを準備する。長さが長い場合には粉砕機にかけることで長さを短くし、また短い長さのものが混入する場合には篩いや分級機等により短い長さのものを除去する。金属粉は軸受の用途に応じて鉄粉や銅粉、青銅粉等の適当な金属粉を適宜準備する。
粉末冶金法による成形の準備段階で、金属粉にカーボンファイバーを加えて単純に混合しただけでは、両者の間に重量の相違と大きさの相違があるため、均一に混合せず、また、均一に混合できたとしても金型への注型の際に偏析を起こすといった問題が生じる。そのため、偏析が生じない方法を採用する必要がある。
【0039】
偏析を生じさせずに原料を混合する方法として、樹脂バインダーを用いる方法を検討し採用した。樹脂バインダーは、成形前の段階で金属粉とカーボンファイバーとを固着する働きを有し、軸受形状に成形した後、焼結することで、樹脂バインダーを除去することができるため、焼結軸受に対する添加の影響は無い。
樹脂バインダーの添加量は、金属粉とカーボンファイバーとの混合時に両者を適度に接着しておける最低量とすることが好ましく、金属粉とカーボンファイバーの合計量100wt%に対し、0.2〜5.0wt%添加することが好ましい。次に樹脂バインダーを用いて偏析を防止する具体的方法について説明する。
【0040】
<方法1>: 最も簡単な方法は、粘性のある樹脂溶液中に原料を浸漬し、原料を取り出した後に乾燥して混合・粉砕し、篩分けする方法である。
乾燥後の混合・粉砕、および篩分けは、樹脂バインダーによって金属粉とカーボンファイバーとが接着した比較的大きな固まりが生じるため、それを解きほぐすとともに、大きな固まりは除去することで、均質な焼結体とするためである。
【0041】
樹脂溶液中へ浸漬させるのはカーボンファイバーと金属粉の双方でも良いし、カーボンファイバーだけでも良い。浸漬、取り出し作業を容易に進めるためにはカーボンファイバーだけを浸漬する方が、処理量が少なくなる点で好ましい。カーボンファイバーだけを樹脂溶液に浸漬させた場合は、樹脂溶液から取り出したカーボンファイバーに金属粉を混ぜて混合することで溶剤を蒸発させながらカーボンファイバーを金属粉に接着させることが好ましい。
【0042】
樹脂溶液に用いる樹脂は、溶剤に溶かして粘性を与え、乾燥後はカーボンファイバーと金属粉に対して接着性を有する樹脂である。例えば、ポリエステル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体系樹脂、アクリル(メタアクリル)系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、その他の熱可塑性エラストマーやゴム系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、焼結時に悪性ガスを発生させない方が好ましいため、炭素、酸素、水素以外の元素を含まない樹脂が好ましく、アクリル系樹脂や、ポリビニルアルコール系樹脂等が好ましい。また、乾燥時に悪性ガスを発生させない観点から水溶性溶剤に可溶な樹脂が好ましく、その観点からもポリビニルアルコール系樹脂は好ましい。
【0043】
<方法2>: 方法1では溶剤に樹脂を溶かしたものに原料を加えるため、原料を浸漬させて取り出す作業の容易性の観点から、樹脂溶液の粘度は低い方が好ましい。しかしながら、粘度が低すぎると樹脂分が少なく、また原料に対する接着力が低くなる傾向がある。反対に粘度を高めると原料の浸漬、取り出しが困難になる。そこで、これらの不都合を解決する方法が方法2である。
方法2では、粒状又は砂状に粉砕、微細化した固形の樹脂バインダーを用い、この細かな樹脂バインダーと金属粉、カーボンファイバーを混合、攪拌しながら溶剤を滴下する。
この方法によれば、原料に加える樹脂バインダーの添加量をあらかじめ制御できるため加える樹脂バインダー量を管理し易いという利点がある。また、金属粉とカーボンファイバーとを混合しながら樹脂バインダーにより接着させていくため、より均一な焼結用混合物が得られるという利点がある。
【0044】
<方法3>: 方法2によれば、原料の混合物中に、固形分中の割合としては少ない樹脂バインダーを溶解させる溶剤を後から添加するため、樹脂バインダーを溶解させるために必要な溶剤量よりも多くの溶剤を添加する場合がある。また、そうした多量の溶剤を除去する必要がある。そこで、これらの不都合を解決する方法が方法3である。
方法3は、方法2の変形例であり、溶剤を滴下する点で方法2と同じであるが、カーボンファイバーと混合する金属粉の量を少なくする点で方法2と異なる。即ち、方法3は、金属粉の一部とカーボンファイバー、樹脂バインダを混合、攪拌しながら溶剤を滴下する方法である。残りの金属粉は、一部の金属粉とカーボンファイバーを混合した一次混合物を乾燥し、溶剤を除去した後、添加して混合する。
この方法によれば、添加する溶剤量を少なくすることができ、その後の乾燥工程も効率的に行うことができる点で方法2よりも優れている。
【0045】
方法3では、最初に混合する金属粉と後から混合する金属粉を分ける際に、単純に添加量で分けるのではなく、粒径で分けることが好ましい。即ち、最初に混合する金属粉には平均粒径の小さな金属粉を用い、後から混合する金属粉には残った金属粉(粒径の大きな金属粉を含み平均粒径が大きい金属粉)とするものである。粒径の小さな金属粉の方が粒径の大きな金属粉に比べて、カーボンファイバーに多く接触して付き易いため、より偏析を起こしにくく、また、粒径が小さいことから樹脂バインダーに対する接着力も大きくなるからである。
【0046】
例えば、最初に混合する金属粉には、250メッシュ〜400メッシュ程度の篩を通った細かな金属粉を用い、後から混合する金属粉には、残った金属粉を用いることができる。250メッシュ〜400メッシュの篩を用いることにしたのは、400メッシュよりも大きいと、カーボンファイバーの繊維長さに比べて粒径が小さすぎ、適当な大きさの一次混合物が得られにくい。一方、250メッシュよりも小さいと、比較的大きな粒径の粒子が増えてカーボンファイバーと金属粉とが接着しにくくなり、やはり適当な大きさの一次混合物が得られにくい。
【0047】
上記各方法において、カーボンファイバーは、あらかじめ所望の平均長さに調製したカーボンファイバーを用いることが好ましいが、所望の長さよりも平均長さの長いカーボンファイバーを利用して、そのカーボンファイバーと樹脂バインダー、金属粉を混合乾燥させた後に粉砕機にかけることで、長さの長いカーボンファイバーを短くすることができる。平均長さの長いカーボンファイバーを単独で粉砕する場合には、微細粉が生じるため、その微細粉を除去する工程が必要となるが、この方法によればカーボンファイバーは樹脂バインダーに被覆され金属粉と接着しているため、微細粉が生じ難い。
【0048】
<方法4>: 上記方法1では樹脂を溶解させてもその濃度は低く液状としたものであったが、樹脂を少量の溶剤に溶かしてより粘度の高い状態、あるいはゲル状とした樹脂を用いる点で方法1と異なる。方法では、こうした粘度の高い液状又はゲル状の樹脂をカーボンファイバー、又はカーボンファイバーと一部の金属粉に混合した混合物を作製する方法である。
【0049】
以上の方法1〜方法4の何れかにより金属粉とカーボンファイバーが樹脂バインダーで固着された混合物が得られれば、これを金型に充填して、プレス機にて圧縮し、その圧粉体を730℃〜870℃程度の温度で焼結する。そして、得られた焼結体をサイジングして所定の形状の軸受本体12を得る。このサイジング過程では、金属が内側に締まるのに対しカーボンファイバーはそれに追従しない性質を利用することで、内周面を構成する金属表面に対してカーボンファイバーを4μm以下の長さで突出させる。最後に、洗浄し、また必要により油含浸等の後処理工程を順次行って、焼結軸受11を得る。
【0050】
このようにして得られた焼結軸受11は、カーボンファイバー15がシャフトを支えることでシャフトが回転し易くなると考えられる。また、低温環境で使用でき、音の発生を抑えることができる。また、摺動痕が発生し難く、摩耗の進行を抑制する。
【0051】
上記実施形態では、焼結軸受の全体にカーボンファイバーを含有するワンピースのカーボンファイバー含有焼結含油軸受として説明したが、こうした実施態様に限らず、摺動面を有する内側をカーボンファイバー含有焼結体で形成し、その外周部分を、カーボンファイバーを有しない焼結体で形成するツーピース体として形成することもできる。こうした2ピース体とすることで、外周側の焼結体の強度を高く設計することができ、カーボンファイバーを含有させて強度が低下する欠点を抑えたカーボンファイバー含有焼結含油軸受とすることができる。
【0052】
カーボンファイバー含有焼結部品としては、上記のカーボンファイバー含有焼結軸受以外にもブッシュやプーリー、ギヤ等の形状に構成することで、これらの用途に利用することができる。
【実施例】
【0053】
焼結軸受を製造する実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
1.試料の作製
(1)直径の異なるカーボンファイバーを用いた試料の作製(試料1〜試料8)
主に直径の異なるカーボンファイバーを用いて複数種類のカーボンファイバー含有焼結含油軸受を作製した。より具体的には、以下の表1で示した各種のカーボンファイバー1wt%に、平均粒径が75〜100μmの青銅粉を99wt%の割合で配合した原料粉を用い、圧粉、焼結、サイジングして、内径が2mm、外径が5.45mm、長さが3mmの焼結軸受を形成し、含浸油として30.9×10
−6m
2/s(#30.9、平和産業社製「HS−32」商品名)を含浸させてカーボンファイバー含有焼結含油軸受を作製し、表1で示す試料1〜試料8とした。
【0055】
【表1】
【0056】
(2)母材の種類の異なる試料の作製(試料9〜試料11)
上記試料1で用いたのと同じカーボンファイバー(CF−1)を用い、母材となる金属粉の種類、配合割合を表2で示すように変えた以外は試料1と同様にしてカーボンファイバー含有焼結含油軸受を作製し、表2で示す試料9〜試料11とした。
【0057】
【表2】
【0058】
(3)含浸油の無い試料の作製(試料12)
上記試料1と比較して、含浸油を含ませない点以外は上記試料1と同様にして、含浸油の無いカーボンファイバー含有焼結含油軸受を作製し、試料12とした(表に示さず)。
【0059】
2.各種試験
(1)実験1:トルク試験1(カーボンファイバーの直径の相違)
直径の異なる試料1〜試料8のカーボンファイバー含有焼結含油軸受を用いたトルク試験を行った。より具体的には、クリアランスが11μmとなるようなステンレス製のシャフトを各試料に通し、各試料にかかる面圧(P値)と、シャフトにかかる回転数(V値)とをそれぞれ所定の値になるように設定し、25±1℃の試験環境において30分間シャフトを回転させた。その後、試験機から取り外した各試料の摺動面を観察した。
ここでは、P値とV値とをそれぞれ、(A)0.75MPa(約
459gf)、20m/min(3190rpm)、(B)0.6MPa、75m/min、及び(C)0.6MPa、100m/min、の3種類の条件で設定した。(A)の条件の場合を表3に、(B)の条件の場合を表4に、(C)の条件の場合を表5に、それぞれ示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
(2)実験2:トルク試験2(P値、V値の相違)
直径が18μmであるカーボンファイバー(CF−1)を含む試料1のカーボンファイバー含有焼結含油軸受を用いてP値とV値を様々に変更したトルク試験を行った。より具体的には、P値及びV値以外の条件はトルク試験1と同様とし、P値及びV値を表6〜表8で示すように設定してシャフトを回転させた。その後、試験機から取り外した各試料の摺動面を観察した。
【0064】
【表6】
【0065】
【表7】
【0066】
【表8】
【0067】
(3)実験3:トルク試験3(母材となる金属の相違)
試料1とは母材の異なる試料9〜試料11のカーボンファイバー含有焼結含油軸受を用いたトルク試験を行った。より具体的には、試料1での実験2−2(表6)と同じPV値の条件で試験を行った。そして、試験機から取り外した各試料の摺動面を観察した。
【0068】
【表9】
【0069】
(4)実験4:トルク試験4(含浸油の有無の相違)
試料1による実験1−17と同様の条件にて、含浸油のない試料12に対してトルク試験を行った(実験4)。
【0070】
3.評価方法
トルク試験1〜トルク試験4を行った後の摺動面については次の2つの観点から次のように評価した。
【0071】
(1)摩擦係数の安定性
トルク試験1〜トルク試験4で、P値及びV値をそれぞれの試験での値になるように設定してシャフトを回転させたときの摩擦係数を運転時間に即してチャートとして出力した。そして、摩擦係数が運転時間の経過に因っても変化せず一定である場合には油膜切れが生じていないとして「○」、チャートが僅かにところどころ乱れる場合を「△」、チャート乱れが終始生じる場合には油膜切れが生じたものとして「×」と、それぞれ評価した。そして、各表の「油膜切れ」の項目にこの結果を記した。
【0072】
(2)摺動面の変化
トルク試験前後での摺動面の状態を観察した。摺動面の状態がトルク試験前とほぼ変わらないものを「○」、摺動面の一部においてやや変化が見られた場合を「△」、明らかに摺動痕が生じた場合を「×」と評価した。そして、各表の「摺動痕」の項目にこの結果を記した。
【0073】
4.試験結果
(1)実験1:トルク試験1について
表3で示すように、PV値が15MPa・m/minと低い場合には、カーボンファイバーの直径や平均長さの影響はなく、試料1〜試料8の何れのカーボンファイバー含有焼結含油軸受であっても油幕切れが生じたり、摺動痕が生じたりすることはなかった。しかしながら、
表4で示すように、PV値を45MPa・m/minとした場合には、直径が11μmで平均長さが0.07mmのカーボンファイバーを用いた試料8では油膜切れや摺動痕の問題が生じた。また、直径は太い方が、平均長さは長い方が油膜切れや摺動痕の問題が生じ難く、直径では14.5μm以上であること、平均長さでは0.15mmがより好ましいことがわかった。更にまた表5で示すように、PV値を60MPa・m/minとした場合には、カーボンファイバーの直径が18μmとすることがさらに好ましいことがわかった。
【0074】
(2)実験2:トルク試験2について
表6〜表8で示すように、P値が1.9MPaである実験2−11、V値が110m/minである実験2−3、PV値が99MPa・m/minである実験2−7では、それぞれ油膜切れが生ぜず、摺動痕も見られなかった。こうしたことから、25℃において、P値が1.9MPa以下、V値が110m/min以下で、PV値が99MPa・m/min以下の条件であれば、軸受の摺動面に変化が生じないことがわかった。
【0075】
(3)実験3:トルク試験3について
表9で示すように、PV値を60MPa・m/minとして母材の種類を変えてトルク試験を行った結果、青銅系の母材を用いた試料1に対して、鉄銅系や鉄真鍮系の母材を用いた試料9や試料10では摺動痕が発生した。また洋白を母材に用いた試料11では、トルク試験前後でやや変化が見られた。このことから、PV値を60MPa・m/minとした過酷な条件では、母材として鉄銅系や鉄真鍮系を用いるよりは、青銅系又銅系あるいは洋白を用いる方が好ましいことがわかった。
【0076】
(4)実験4:トルク試験4について
含浸油を含まない試料12について、PV値を60MPa・m/minとしてトルク試験を行った結果は、「油膜切れ」について「×」であり、「摺動痕」についても「×」となった(表に示さず)。このことから、カーボンファイバー含有焼結含油軸受であっても、PV値が60MPa・m/minに及び過酷な条件では含浸油があった方が良いことが観察された。
【解決手段】直径が14〜30μmのカーボンファイバー15を含み、摺動面14に前記カーボンファイバー15の一部と金属粉とが露出したカーボンファイバー含有焼結部品11とした。摺動面14に露出したカーボンファイバー15で摩擦係数を安定させ、異音の発生や摩耗を防止できる。