(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記統計情報生成部は、前記対象領域内の全ての利用者の数、および、前記設定値を上昇させる要求をした利用者の数と前記設定値を下降させる要求をした利用者の数との差分に基づいて前記統計情報を生成する
前記設定値決定部は、生成された前記統計情報に所定の係数を乗じて得られた温度を、次の前記設定値に加える
ことを特徴とする請求項6記載の空調制御装置。
前記設定値決定部は、前記統計情報が示す前記複数の利用者の満足度が所定の基準を満している場合、予め定められた設定値復帰時間を掛けて、前記現在値と前記推奨値から定
まる変化率により、前記設定値が前記推奨値に復帰するように、前記設定値を決定する
ことを特徴とする請求項8に記載の空調制御装置。
前記設定値決定部は、前記対象領域内の全ての利用者のうち所定の割合より多い数の利用者が、前記設定値を上昇させる要求または前記設定値を下降させる要求を行った場合であり、かつ、前記設定値を上昇させる要求の数と前記設定値を下降させる要求の数が略等しい場合、例外処理を行う
ことを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の空調制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている構成ブロックやそれらの相対配置などは、発明が適用されるシステムの各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0021】
本発明は、建物などに用いられる空調設備の運用を制御する空調制御装置に好ましく適用できる。本発明はまた、空調設備の運用を制御する空調制御方法や、空調設備および制御装置を含む空調システムとしても捉えられる。本発明はまた、情報処理装置の演算資源を利用して動作し、空調制御方法の各工程を情報処理装置に実行させ、当該情報処理装置を空調制御装置として機能させるプログラムや、かかるプログラムが格納されたコンピュータにより読み取り可能な非一時的な記憶媒体としても捉えられる。
【0022】
<実施形態1>
本実施形態では、本発明の基本的なシステム構成と処理の流れについて説明する。
以下の記載において「設定値」とは、空調設備が対象領域の環境を調整する際の目標値を指す。また「現在値」とは、対象領域の環境の現在の値を指す。また「推奨値」とは、管理者などにより予め定められた好ましい設定値である。なお、推奨値は固定に限られず、関数等の可変値として設定されても良い。例えば本実施形態のように対象領域の温度を調整する場合、設定値、現在値および推奨値はいずれも温度で表される。ただし本発明の制御は、温度の他にも、湿度、風量、照明強度などにも適用できる。また、連動して変化
することが多い温度と湿度のように、同時に複数の環境を調整しても良い。例えば空調設備がエアコンの場合、温度、湿度および風量を同時に調整できる。
【0023】
また、以下の記載において「管理者」とは、建物や空調設備の初期設定や運営を行う者であり、各種の固定値を決定したり、何らかの問題が発生したときに例外処理を行ったりする。管理者は、遠隔地から空調制御装置を操作して指示を与えても構わない。また「利用者」とは、空調設備が環境を調整する対象領域で活動を行う者である。利用者は環境の現在値に対して何らかの要求がある場合に要求情報を発生させる。ただし要求情報は、必ずしも明示的な操作(例えば端末を用いた申告)によってのみ発生するものではない。例えば、利用者が明示的操作を行わない場合は、現在値に不満がなく、維持してほしい旨の要求を発したと捉えても良い。また、実施形態3の変形例に示すように、空調制御装置の側が利用者の行動や身体的反応に基づき、黙示的な要求を察知して要求情報を生成しても良い。
【0024】
(全体構成)
図1を参照しつつ、空調システムの全体構成を説明する。空調システムには、空調制御装置1と、対象領域2における空調設備3と、各利用者4が用いる端末5が含まれる。
【0025】
(空調制御装置)
空調制御装置1は、管理者が空調システム全体を管理するための装置であり、要求情報取得部11、統計情報生成部12、数値取得部13、設定値決定部14、Webサーバ部15を備える。
空調制御装置1は、空調設備3と通信して情報を継続的に収集し、解析して管理者に提供する。収集する情報は、運転状態、電力消費、現在温度など多様である。また本発明では特に、利用者4による要求情報を収集する。空調制御装置1はまた、管理者による指示や、予め用意されたプログラムからの指示に基づいて、空調設備3に設定温度変更などの指示を与える。
【0026】
空調制御装置1として例えば、ビルエネルギー管理システム(BEMS:Building Energy Management System)と呼ばれる、建物設備の中央管理用サーバを利用できる。具体的には、CPUやメモリなどの演算資源や、通信手段、入力手段や表示手段などのインタフェースを備える、PCやワークステーションのような情報処理装置が好適である。なお、空調制御装置内の各ブロックは、それぞれ物理的な回路等として構成されても良いし、それぞれがプログラムモジュールとして仮想的に実現されても良い。後者の場合、各プログラムモジュールが情報処理装置の演算資源を利用することにより、情報処理装置を空調制御装置1として動作させる。
【0027】
また、図中では空調制御装置1を単一の装置として記載しているが、複数の情報処理装置を協働させて空調制御装置1の機能を実現しても良い。例えば、空調制御装置1がWebサーバ部15を含むのではなく、外部のWebサーバと連携して利用者4にWebコンテンツを提供しても良い。また空調制御装置1は、必ずしも対象領域2がある建物に配置される必要はない。
【0028】
要求情報取得部11は、各利用者4からの環境に対する要求を示す要求情報を取得する。統計情報生成部12は、要求情報を用いて利用者の環境に対する満足度を示す統計情報を生成する。統計情報は、満足度の指標であるとともに、設定値の変化に利用者4の意見を反映する際の変化の方向および程度を示す指標ともなり得る。数値取得部13は、管理者により設定される固定値や、要求情報取得部11や統計情報生成部12により得られた変数を取得する。設定値決定部14は、管理者の推奨値と統計情報を用いて、空調設備3に与える設定値を算出する。Webサーバ部15は、利用者4が要求情報を入力するため
の画面を、クライアントである端末5に表示させる。
【0029】
(対象領域と利用者)
対象領域2は、空調設備3によって環境が調整されるエリアであり、例えば建物の一室である。また、建物の広いフロアを複数の対象領域2に区切って個々に制御しても良い。
図1では対象領域2を一つだけ示したが、一台の空調制御装置1が複数の対象領域2の環境を調整しても良い。対象領域2には複数の利用者4(4a,4b…)が存在しており、各利用者4は端末5(5a,5b…)を使用する。端末5としてはPC、タブレット、スマートフォン等の、CPU、メモリ、通信手段、表示手段および入力手段を備えた情報処理装置が好適である。また、物理的なボタンなどでも構わない。
【0030】
端末5は、利用者4からの温冷感申告を受け付けて空調制御装置1に送信する。温冷感申告は、利用者4が現在の温度をどう感じているかを示す情報であり、「寒い(Cold)/暑い(Hot)」のいずれかである。申告を行わなかった利用者4は現在の温度に満足していると判断されるが、より積極的に「丁度よい(Good)」という申告を可能にしても良い。温冷感申告は本実施形態における要求情報に当たり、「寒い」という申告は設定値を上昇させる要求、「暑い」という申告は設定値を下降させる要求だと考えることができる。また、空調制御装置1は、利用者4が申告を行わなかった場合、現状に満足していると解釈しても良いし、現在の設定値を維持する要求を出したと考えても良い。
【0031】
空調設備3は、与えられた設定値と現在値に基づいて環境を調整する装置である。本実施形態の空調設備3は温度を調整するエアコンであり、設定値取得部32により設定値(目標温度)を取得するとともに現在値取得部31により現在値(現在温度)を取得し、現在値を設定値に近づけるように動作する。
【0032】
設定値取得部32は、空調制御装置1の設定値決定部14で決定された設定値を取得する装置であり、通信機能や設定値保持機能を有する。設定値取得部32は、空調設備3の本体である環境調整機構33と一体に構成されていても良いし、リモコンのように本体から離れて配置されていても良い。
【0033】
現在値取得部31は、対象領域2の環境の現在値を取得する装置である。温度を取得する場合、サーミスタや抵抗体などを用いた温度センサや、放射温度計を利用できる。現在値取得部31の設置場所は任意であり、環境調整機構33の内部(例えばエアコンの吸気部付近)に設けても良いし、設定値取得部32がリモコンの場合はその付近に設けても良い。
【0034】
環境調整機構33は、現在値と設定値の差分に基づいて装置の操作量を算出し、現在値を設定値に近づけるように動作する。例えば設定値(目標温度)が現在値(現在温度)より高ければエリア内に冷熱を供給して温度を下降させ、設定値が現在値よりも低ければエリア内に温熱を供給して温度を上昇させる。本実施形態のように温度を調整する場合、本実施形態の環境調整機構33は熱交換器やファンなどを備えたエアコンだが、これに限定されない。
【0035】
なお、図中には現在値取得部31、設定値取得部32、環境調整機構33がそれぞれ1つずつ描かれているが、それぞれ複数存在しても構わない。例えば現在値取得部31として複数の温度センサを用いて精度良く温度を測定したり、複数の環境調整機構33を協調動作させて、エリア内温度を効率よく上昇・下降させたりしても良い。
【0036】
(処理フロー)
図2(a)を参照して、本実施形態の基本的な処理フローについて説明する。本フロー
は、設定値を定期的に決定するための所定の期間である、データ更新周期ごとに実行される。
数値取得部13は、管理者により設定された推奨値を取得する(ステップS201)。推奨値は、管理者によって予め、空調制御装置1を構成する情報処理装置の記憶装置に保存されている。
【0037】
次に、要求情報取得部11は、現在のデータ更新周期における各利用者4の要求情報を取得する(ステップS202)。ここでは要求情報は設定値(温度)の上昇要求または下降要求である。各利用者4は、データ更新周期の間に端末5を用いて空調制御装置1に接続し、Webサーバ部15が提供するWeb画面を介して自身の要求を入力している。
続いて、統計情報生成部12による統計情報の生成と、設定値決定部14による設定値の決定が行われる(ステップS203)。このステップについては後に詳しく述べる。
【0038】
空調設備3は、設定値取得部32により設定値(目標温度)を受け取り、現在値取得部31により現在値(現在温度)を取得したら、両者の差分に応じて環境調整機構33の動作内容を決定して温度を調整する(ステップS204)。空調設備が一定時間動作したら次のデータ更新周期に移り、再び設定値を決定する(ステップS205)。
【0039】
図2(b)を参照して、ステップS203の処理を詳細に述べる。
統計情報生成部12は、申告を行わなかった者も含めて、対象領域2の利用者合計数を取得する(ステップS2031)。合計数の取得方法は任意であり、例えば電源が入っており通信可能な端末5の数を求めたり、カメラにより撮像された映像を解析したり、対象領域2の入退室管理記録を参照したりしても良い。
【0040】
次に、統計情報生成部12は、各利用者4からの設定値の上昇要求数と下降要求数をそれぞれ取得する(ステップS2032)。そして、対象領域2における利用者4を全体として見たときの満足度を示す統計情報を生成する(ステップS2033)。統計情報Stは例えば以下の式(1)により求まる。
St={V
Cold−V
Hot}/V
All …(1)
ここで、V
Coldは現在の環境が「寒い」と申告した利用者4の人数であり、V
Hotは「暑い」と申告した利用者4の人数であり、V
Allは対象領域2内の利用者4の合計数である。式(1)の分子は、利用者のうち温度上昇または下降を要求する者によって左右され、両者の差分を求めることにより、利用者全体としての設定変化の方向(上昇方向または下降方向)や、変化の程度を把握できる。そして、分母として合計数を用いて除算することで、現状に不満がない利用者の意見を統計情報に反映できる。なお、統計情報の算出方法は式(1)には限られず、温冷感申告をした者の意見と、申告を行わない者や現状維持申告をした者の意見を反映できるのであれば、どのような方法でも構わない。
【0041】
次に、設定値決定部14は、例えば以下の式(2)のように、統計情報が所定の基準を満たしているかどうかを判断する(ステップS2034)。
−0.1<St<0.1 …(2)
なお、ここでの所定の基準は、上限の閾値=0.1、下限の閾値=−0.1であるが、数値はこれに限定されないし、上限と下限で異なる閾値を用いても良い。
統計情報が式(2)を満たす場合、利用者全体として見たときに、現在値に対する不満の程度が小さいと言える。そこで設定値決定部14は、次の設定値を決める際に推奨値の寄与度を大きくする(ステップS2035)。一方、式(2)が満たされない場合、利用者4の間で現状に対する不満が大きいと言える。そこで設定値決定部14は、次の設定値を決める際に統計情報の寄与度を大きくする(ステップS2035)。
【0042】
次の設定値Θ
SV1[C°]は、例えば次式(3)により求められる。
Θ
SV1=Θ
SV0+C
RecΘ’
SV+C
StaSt …(3)
ここで、Θ
SV0[C°]は現在の設定値、Θ’
SV[C°]は管理者による推奨値、C
Recは推奨値の寄与度を変更する係数、C
Staは統計情報の寄与度を変更する係数である。
推奨値および統計情報の寄与度を設定値に反映する方法は様々である。最も単純な例として、統計情報が所定の基準を満たさない場合はC
Rec=0にして統計情報のみを用いて次の設定値を決定し、基準が満たされた場合はC
Sta=0にして推奨値のみを用いて次の設定値を決定する方法がある。空調制御装置1を構成する情報処理装置の記憶装置内に、設定値の決定に用いる数式や変換テーブルを保存しておくことが好ましい。
【0043】
また、式(2)のように統計情報が閾値以内か否かで分けるのではなく、統計情報が示す利用者全体の満足度が高いほど推奨値の寄与度が大きくなるように、C
RecおよびC
staを変化させても良い。
【0044】
本実施形態によれば、空調設備3に与える設定値の決定に、対象領域2の利用者4と管理者双方の意見を反映できる。また、利用者全体として現状に対する満足度が低いときは利用者の意見が重視され、現状に満足していると判断された場合は管理者の推奨値が重視される。そのため、利用者の満足度や生産性を損なうことなく、省エネルギーを実現できる。また、現状に対する利用者全体の満足度を反映して設定値が決定されるので、声の大きい一部の利用者の意見が優先されることがない。したがって、利用者の満足度を保ちつつ、管理者の意見を反映した設定値決定が可能になる。
【0045】
<実施形態2>
本実施形態では、本発明による設定値の決定について、より具体的な例を示して説明する。本実施形態でも、エアコンを用いて対象領域2の温度を制御する場合について述べる。空調システムや各ブロックの構成・機能は
図1と実施形態1で示したものと同じであるため詳しい記載を省略し、相違点を中心に説明する。
【0046】
(設定値の決定方法)
以下、数式(4)〜(6)を参照して、本実施形態における設定値の決定方法を述べる。数式(4)は設定値を求めるための計算式であり、数式(5),(6)は数式(4)に含まれる変数を説明するための計算式である。
【数1】
【0047】
数式(4)の各変数はそれぞれ、次のような意味を持つ。
Θ
SV0:現在の設定値[°C]…空調設備3が現時点で目標としている温度である。
Θ
SV1:次の設定値[°C]…次の温度である。
ΔΘ:最大変化幅[°C]…申告強度Rを次の設定値にどの程度反映させるかを規定する値であり、管理者により決められる固定値である。最大変化幅を係数として、申告強度に乗じて得られた温度が、次の設定値計算に加えられる。
R:申告強度…数式(5)により算出される、利用者全体の要求の方向や程度を示す指標となる値であり、本発明の統計情報に対応する。ただし、申告強度Rと最大変化幅ΔΘ
の積を統計情報と考えることもできる。
ΔT:データ更新周期[hour]…設定値を算出する間隔であり、管理者により決められる固定値である。
F:設定値復帰係数[°C/hour]…数式(6)により算出される、設定値を推奨値に復帰させる程度を示す値。
すなわち数式(4)は、現在の設定値Θ
SV0から次の設定値Θ
SV1を算出する際、利用者の意見(右辺第2項)と管理者の推奨値(右辺第3項)をどう反映させるかを規定する。
【0048】
また、数式(5)の各変数は、それぞれ次のような意味を持つ。
V
All:合計人数[人]…対象領域2における利用者の総数。
V
Cold:「寒い」と申告した利用者の人数[人]。
V
Hot:「暑い」と申告した利用者の人数[人]。
数式(5)の分子は、利用者のうち温度上昇または下降を要求する者によって値が左右され、両者を差し引きすることにより、利用者全体としての温度変化の方向性(上昇または下降)や、変化幅を把握できる。そして、分母として合計人数を用いることで、現状に不満がない利用者の意見を統計情報に反映できる。Rは「−1〜1」の範囲の値を取る無次元数であり、本発明の統計情報に相当する。例えば対象領域内の全員が「寒い」と申告した場合、R=1となる。
【0049】
また、数式(6)の各変数は、それぞれ次のような意味を持つ。
Θ’
SV:推奨値[°C]…予め設定された好ましい温度であり、管理者により省エネ性能などを考慮して決められる固定値である。
Θ
Reset−SV0:申告強度Rが閾値内になった時点での、現在の設定値Θ
SV0[°C]…ここでの閾値は、対象領域内の利用者全体の満足度が基準を満たすレベルに達したかどうかを判別するために用いられる値である。
T
Reset:設定値復帰時間[hour]…設定値の推奨値への復帰にどの程度の時間を掛けるかを規定する値であり、管理者により決められる固定値である。
数式(6)を用いることにより、利用者が現在の温度に満足している場合に設定値を推奨値に復帰させて、省エネを実現できる。また、設定値復帰時間T
Resetを用いることで、推奨値への復帰が、ある程度の時間を掛けて徐々に行われることが保証される。その結果、急激な温度変化が避けられるので、利用者の不快感や違和感が軽減される。
【0050】
(処理フロー)
図3を参照して、本実施形態の処理フローを説明する。
処理が開始されると、ステップS301において、数値取得部13が、固定値ΔΘ、V
All、ΔTと、現在値であるΘ
SV0と、現在のデータ更新周期におけるV
Cold、V
Hotを読み込む。固定値は、予め管理者によって、空調制御装置1を構成する情報処理装置の記憶装置や外部メモリなどに保存されている。またΘ
SV0については、前回のフローで決定した値が記憶装置に保存されている。またV
Cold、V
Hotについては、現在のデータ更新周期の間に要求情報取得部11が取得・保存しておく。なお本フローではV
Allを固定値としたが、データ更新周期ごとに、統計情報生成部12がV
Allを取得して更新しても良い。
【0051】
ステップS302において、統計情報生成部12は、次の設定値を決定する集計時間になったかどうかを判定し、集計時間になった場合は処理をステップS303に進める。
ステップS303において、統計情報生成部12は、現在が夏期であるかどうかを判定する。夏期であればステップS304において推奨値Θ’
SV=28[°C]が設定され、夏期でなければステップS305において推奨値Θ’
SV=20[°C]が設定される。なお推奨値の取得方法は、S301における各固定値と同様である。
【0052】
ステップS306において、統計情報生成部12は、数式(5)により申告強度Rを計算する。ステップS307において、Rが閾値(Rmin〜Rmax)の範囲内かどうかを判定する。なおRmin,Rmaxの取得方法は、S301における各固定値と同様である。Rが閾値外の場合(S307=No)、対象領域内の利用者全体として、現在値への満足度が低い状態だと言える。この場合処理はステップS310、S311に進み、設定値決定部14は、更新Flg=0とするとともに、設定値復帰係数F=0とする。これにより、数式(4)を用いて次の設定値を決める際に、利用者の意見のみが反映されることになる。
【0053】
一方、Rが閾値に収まっている場合(S307=Yes)、処理はステップS308に進み、設定値決定部14は、現在の設定値Θ
SV0と推奨値Θ’
SVを比較する。両者が等しい場合(S308=No)、現在の設定値を変更する必要はないので、設定値決定部14は処理をステップS310、S311に進めて、更新Flg=0とするとともに、設定値復帰係数F=0とする。一方、現在の設定値と推奨値が異なる場合(S308=Yes)、処理はステップS309に進み、設定値決定部14は、更新Flg=1かどうかを判定する。
【0054】
更新Flg=1の場合(S309=Yes)、推奨値への復帰が継続しているため、処理はステップS315に直接進み、設定値決定部14は、数式(4)を用いて次の設定値を計算する。一方、更新Flg=0の場合(S309=No)、処理はステップS312〜S314を経由してからステップS315に進む。このとき設定値決定部14は、まずΘ
Reset−SV0に現在の設定値Θ
SV0をセットする。これにより、数式(6)において、現在の設定値と推奨値との差分を、どの程度の時間を掛けて埋めるかを決定できる。したがって、多くの利用者が快適に感じている現在値からの急激な温度変化を避けて、設定値を徐々に推奨値に近づけることができるので、利用者の満足度向上と省エネルギーを両立させられる。続いて、設定値決定部14は更新Flg=1とするとともに、設定値復帰係数Fを計算する。最後にステップS315において、次の設定値が計算される。
【0055】
(設定値算出の例)
図4を参照して、数式(4)〜(6)を用いた設定値算出の具体例を説明する。
図4(a)は、ある対象領域2における、各データ更新周期内での温冷感申告の統計を示す。例えば9:00〜9:30の期間には、10人全員が「暑い」と申告したことが分かる。
図4(b)は、現在の設定値Θ
SV0[°C]の推移を示す。
図4(c)は、利用者の意見を反映した温度変化量[°C]の推移を示し、数式(4)の右辺第2項に相当する。
図4(d)は、推奨値に由来する温度変化量[°C]の推移を示し、数式(4)の右辺第3項に相当する。
図4(e)は、数式(4)により求められる、次の設定値Θ
SV1[°C]の推移を示す。
【0056】
この例における固定値は、以下の通りとする。
推奨値Θ’
SV…28[°C]
最大変化幅ΔΘ…3[°C]
閾値…Rmin=−0.01,Rmax=0.01(±1%)
V
All…10[人]
データ更新周期ΔT…0.5[hour]
設定値復帰時間T
Reset…3.0[hour]
上記の通りΔT=0.5[hour]なので、空調制御装置1は、30分ごとに利用者からの申告を集計し、数式(4)によって設定値を決定する。以下、
図4のうち、タイミングT
1〜T
4での設定値算出処理を中心に説明する。
【0057】
(6:00〜9:30)
推奨値に従い、設定値を28[°C]として運転制御している。
【0058】
(9:30…タイミングT
1)
図4(a)に示すように、9:00〜9:30の期間に10人全員が「暑い」と申告している(V
Hot=10)。そのため、利用者の意見が設定値に大きく反映される(
図4(c)におけるタイミングT
1での値が、−3°C)。一方、申告強度R=−1であり、閾値外である。そのため
図3のS311に示すようにF=0となり、推奨値は設定値に反映されなくなる(
図4(d)におけるタイミングT
1での値が、0°C)。その結果、
図4(e)に示すように、タイミングT
1において算出される次の設定値は、Θ
SV1=25[°C]となる。
【0059】
(10:30…タイミングT
2)
図4(b)に示すように、タイミングT
2では、現在の設定値Θ
SV0=25.5[°C]である。
図4(a)に示すように、10:00〜10:30の期間に5人が「暑い」と申告し(V
Hot=5)、残り5人は申告を行っていない(V
Good=5)。そのため、利用者の意見に基づき設定値が変化する(
図4(c)におけるタイミングT
2での値が、−1.5°C)。一方、申告強度R=−0.5であり、閾値外であるため、推奨値は設定値に反映されない(
図4(d)におけるタイミングT
2での値が、0°C)。その結果、
図4(e)に示すように、タイミングT
2において算出される次の設定値は、Θ
SV1=24[°C]となる。
【0060】
(11:00〜14:00)
図4(a)に示すように、10:30〜14:00の期間には利用者からの申告がない(V
Hot=V
Cold=0)。よって申告強度R=0であり、閾値内であるため、
図3のS312〜S314に示すように、推奨値Θ’
SVと設定値復帰時間T
Resetを用いて数式(6)に従ってFが算出される。その結果、復帰時間である3時間経過後の14:00に設定値が推奨値である28°Cに戻る。予め定められた設定値復帰時間を掛けて、現在値と推奨値から定まる変化率により温度が変化することで、利用者に違和感を生じさせず省エネルギーを実現できる。
【0061】
(14:30…タイミングT
3)
図4(a)に示すように、14:00〜14:30の期間に2人が「寒い」と申告し(V
Cold=2)、残り8人は申告を行っていない(V
Good=8)。そのため、利用者の意見に基づき設定値が変化する(
図4(c)におけるタイミングT
3での値が、0.6°C)。一方、申告強度R=0.2であり、閾値外であるため、推奨値は設定値に反映されない(
図4(d)におけるタイミングT
3での値が、0°C)。その結果、
図4(e)に示すように、タイミングT
3において算出される次の設定値は、Θ
SV1=28.6[°C]となる。
【0062】
(15:00…タイミングT
4)
図4(a)に示すように、14:30〜15:00の期間に3人が「寒い」と申告し(V
Cold=3)、残り7人は申告を行っていない(V
Good=7)。そのため、利用者の意見に基づき設定値が変化する(
図4(c)におけるタイミングT
4での値が、0.9°C)。一方、申告強度R=0.3であり、閾値外であるため、推奨値は設定値に反映されない(
図4(d)におけるタイミングT
4での値が、0°C)。その結果、
図4(e)に示すように、タイミングT
4において算出される次の設定値は、Θ
SV1=29.5[°C]となる。
【0063】
(15:30〜18:30)
図4(a)に示すように、15:00〜18:30の期間には利用者からの申告がない(V
Hot=V
Cold=0)。よって、推奨値Θ’
SVと設定値復帰時間T
Resetを用いて数式(6)に従ってFが算出される。その結果、復帰時間である3時間経過後の18:30に設定値が推奨値である28°Cに戻る。
【0064】
(18:30〜21:00)
推奨値に従い、設定値を28[°C]として運転制御している。
【0065】
本実施形態で具体的に示したように、本発明の設定値決定方法によれば、利用者の意見を重視して設定値に反映しつつ、利用者の満足を維持できている範囲では設定値を推奨値に近づけるように、運用を制御できる。その結果、利用者の生産性と管理者の省エネルギー目標の実現できる。また、設定値を推奨値に近づけるときに、所定の復帰時間を掛けて徐々に温度を変化させるため、利用者に違和感や不快感を与えることがない。
【0066】
<実施形態3>
本実施形態では、空調制御装置1が利用者4による要求情報を取得する方法について説明する。
【0067】
(端末による入力)
図5を参照して、利用者4が設定値の上昇要求または下降要求を入力する方法について説明する。本実施形態では、設定値は温度であり、利用者は「寒い」または「暑い」のいずれかの申告(温冷感申告)を、申告画面50を用いて入力する。この例での端末5は、タッチパネルを有するスマートフォンとする。利用者4は、管理者から提供されるアプリを各自の端末5にインストールし、タッチパネル上で当該アプリのアイコンをタップする。端末5は、空調制御装置1のWebサーバ部15に対してリクエストを送信し、Webサーバ部15から受信したコンテンツに基づいて、タッチパネル上に申告画面50を表示する。Webサーバ部15は、本発明の入力手段提供部に相当する。
【0068】
図5(a)に示すように、申告画面50には、申告入力部501、申告者数統計部502、消費量表示部503が含まれる。利用者4が申告を行うときは、まず申告入力部501をタップする。そして、
図5(b)のように表示されたリストの中から、利用者自身の意見に合う選択肢を選んでタップする。例えば利用者4が「暑い」という選択肢5011を選択すると、申告入力部501の表示が
図5(c)のように変更されるとともに、空調制御装置1の要求情報取得部11に情報が送信される。空調制御装置1は、送信された情報を記憶装置に保存し、次の設定値決定に利用する。
【0069】
なお、データ更新周期の間は、利用者4による申告のやり直しを可能にしても良い。また、「寒い(Cold)」/「暑い(Hot)」以外に、「丁度よい(Good)」という選択肢を設けても構わない。また、申告内容に複数の段階(例えば、「少し寒い」/「寒い」/「すごく寒い」)を設けても良い。また、寒い、暑いといった入力方法ではなく、直接的に温度上昇または温度下降を要求しても良い。
【0070】
また、対象領域2が複数あり、利用者4が端末を持って対象領域間を移動する可能性がある場合、端末をどの対象領域と紐付けるかが問題となる。その場合、申告画面50に、利用者が滞在している対象領域を入力する対象領域入力部を設けても良い。あるいは、要求情報取得部11は、GPS機能などを利用して端末の位置情報を把握した上で、送信された要求情報をどの対象領域と紐付けるかを決定しても良い。
【0071】
また、申告画面50の申告者数統計部502には、端末5が空調制御装置1との通信によって取得した、対象領域内の各利用者による申告内容の統計情報が表示される。利用者
4は、申告者数統計部502を見ることで、他の利用者が現状をどのように感じているかを直感的に理解できる。
また、申告画面50の消費量表示部503には、空調設備によるエネルギー消費量が表示される。これにより、現在のエネルギー消費状況や、省エネ目標(Target)が達成されているかどうかを提示して、各利用者の省エネ意識をより高めることができる。
また、各利用者4は、空調設備3のリモコンではなく、各自の端末5を用いて申告を行うので、他の利用者の目を気にせず入力を実行できる。その結果、声の大きい一部の利用者に左右されずに設定値が決定されるので、利用者全体としての満足度や生産性が向上する。
【0072】
図5では、調整対象が温度のみである場合の申告画面を示した。しかし、温度に代えて、あるいは温度に加えて、他の環境(例えば湿度、風量、照度など)を調整するための申告入力部501を表示しても良い。
【0073】
<変形例>
本発明の空調制御装置1は、各利用者が手動で端末を用いて入力した内容に基づき要求情報を収集するのではなく、積極的に各利用者の状態を把握して要求情報を収集しても良い。
【0074】
例えば、対象領域2にカメラを設置しておき、撮像された映像を空調制御装置1の要求情報取得部に送信する。そして、統計情報生成部12が、対象領域2にいる利用者の人数(V
Allに相当)と、「暑い」と感じている利用者の人数(V
Hotに相当)、「寒い」と感じている利用者の人数(V
Coldに相当)を取得する。V
Hot,V
Coldそれぞれを取得するためには、映像を解析して、暑いときにとる行動(上着を脱ぐ、汗を拭く、団扇であおぐなど)や、寒いときにとる行動(上着を着る、毛布をかけるなど)を抽出する方法がある。
【0075】
なお、空調システムの側が要求情報を取得する方法は画像解析に限られず、各利用者が装着したセンサから得られる情報を用いてもよい。センサとして例えば、利用者の体温を取得する温度計や、ジャイロを用いて利用者の動きを取得する動作検出器などを利用できる。
【0076】
本変形例によれば、工場などにおいて利用者が作業から手を離せない場合でも、空調設備の設定値を適切に制御して、利用者の満足度を維持しつつ省エネルギーを実現できる。また、利用者自身が暑さを意識していない場合でも、現在の環境下での行動や身体的反応を検出して気温を下げることが可能になるため、熱中症を未然に予防できる。
【0077】
<実施形態4>
本実施形態では、利用者の間で環境の現在値に対する意見のズレが大きい場合に、管理者への通知などの例外処理を行う方法について説明する。
【0078】
図6のフローチャートに示される処理は、データ更新周期の中で定期的に行われてもよいし、設定値を決定する
図3の処理フローに一つのサブルーチンとして組み込まれてもよい。
ステップS601において、空調制御装置1の数値取得部13は、管理者により設定された固定値である快適申告数下限値V
Good,minと、対象領域におけるV
Cold、V
Hotを読み込む。そして、以下の数式(7)によって、現状に満足している人数であるV
Goodを計算する。
V
Good=V
All− (V
Cold + V
Hot) …(7)
なお、端末の申告画面に「暑い」「寒い」以外に「丁度よい」という選択肢が設けられ
る場合、V
Goodとして「丁度よい」を選択した人数を利用しても良い。
【0079】
続いてステップS602において、設定値決定部14は、V
Cold≠0、かつ、V
Hot≠0であるかを判定する。もしS602=Yesであれば、同じ対象領域の中に、「暑い」と感じている利用者と「寒い」と感じている利用者が混在している。一方、S602=Noの場合、全利用者が満足しているか、利用者間で意見のズレが生じていないかのどちらかであるため、管理者への通知は行わない(S606)。
【0080】
続いてステップS603において、設定値決定部14は、V
Cold=V
Hotであるかを判定する。もしS603=Yesであれば、「暑い」という意見と「寒い」という意見が拮抗している。一方、S603=Noの場合、いずれかの意見が優勢であるため、管理者への通知は行わず(S606)、要求情報をそのまま設定値に反映させる。なお、本ステップの判定において、V
ColdとV
Hotの差が僅かであればS604に進むようにしても良い。
【0081】
続いてステップS604において、設定値決定部14は、V
Good<V
Good,minであるかを判定する。もしS604=Noであれば、利用者の大部分は現状に満足していると言えるので、通知は行わない(S606)。一方、S604=Yesの場合、所定の割合より多い数の利用者が不満を持っており、対象領域内の温度ムラを看過できないと判断し、管理者への通知を行う(S605)。管理者への通知の際には、表示装置へのメッセージ表示、スピーカ等を用いた音声による通知、メール等による通知、あるいはこれらの手法の組み合わせなど、任意の方法を採用できる。
【0082】
通知を受けた管理者は、送風装置の風量や風向を調節することにより温度ムラを改善する。通知の際には、「暑い」または「寒い」と申告した利用者の位置を端末のGPS情報や画像解析によって特定し、対象領域内におけるそれらの利用者の位置を可視化して管理者に提示すると良い。また、S605において管理者に通知を行う代わりに、空調制御装置1が自動的にサーキュレータ等を稼働させて温度ムラを改善しても良い。
【0083】
本実施形態によれば、対象領域における温度ムラが大きく、設定値の変更だけでは一部の利用者に不満が残る場合であっても、管理者にその旨を通知して改善を促したり、空調設備が自動的に状況を改善したりできる。本実施形態の手法はまた、湿度や照明を制御する際にも好適に利用できる。
【0084】
以上、各実施形態で具体的に説明したように、本発明の空調制御装置、空調制御方法またはプログラムによれば、利用者の要求を満たしつつ、管理者の推奨値を設定値に反映させることが可能になる。よって、快適性や生産性の維持と、省エネルギーとが両立するような空調制御を実現できる。