(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電波シールド材は、前記電子制御装置と頭部の間に位置し且つ該頭部とは反対側を外側に開放して配置してなる請求項1記載のウェアラブル機器における電波シールド装置。
【背景技術】
【0002】
帽子やヘルメットに、電極を取付けて生体情報を取得することは公知である(特許文献1〜3参照)。生体情報としては、脳波、心拍数、脈波、体温等が代表される。この生体情報を得るために、生体インピーダンスを計測し、作業者の疲労度、眠気等を検知し、警告し休憩を促すシステムに関して記載されている。
【0003】
前述のヘルメットを始めウェアラブル機器では、外部の基地局や無線ルータ若しくはアクセスポイントとの間で情報を無線通信手段にて送受信している。この無線通信手段では700MHz〜5GHz程度の周波数の電波を利用している。つまり、無線通信機能を備えたウェアラブル機器からは前述の周波数の電波が放出されており、この電波の人体への影響についても様々な議論がある。誘電体に対する電波の吸収において、波長と同程度の寸法の誘電体に効率良く共鳴吸収することが知られている。例えば、周波数2.4GHzの電波の波長は、約12.5cmであるので、頭部の寸法に近いことになる。そのため、頭部に対する電波の防護ということになるのである。
【0004】
特許文献4,5には、携帯電話機の電波から頭部を保護する頭部保護体若しくは帽子が開示されている。これら頭部保護体若しくは帽子の内部に、頭部の全体を覆うドーム状の導電体を配置している。特許文献4では、ナイロン繊維の表面に銀メッキした導電体を用いる。特許文献5では、金属糸を編成若しくは織成した導電性布を用いる。また、特許文献6には、ペースメーカーの外側に対応する衣服に、銀メッキナイロン繊維で織成した保護シートを部分的に貼って、ペースメーカーを電波から保護する点が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献4,5に記載のものは、電波シールド材を頭部保護体若しくは帽子の全体に設けて、電波から頭部全体を保護する構成であるので、例えばヘルメットに使用する場合、電波シールド材の装着が手間となり、頭部の蒸れが生じて不快感に繋がる。しかも、特許文献4,5はウェアラブル機器内部に備えた無線通信機能を発揮する構造にはなっていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、使用者の頭部に装着して使用する無線通信機能を備えたウェアラブル機器における電波シールド装置において、頭部を電波シールド材によって電波から効果的に保護するとともに、電波シールド材の装着に手間がかからず、また不快になることがないウェアラブル機器における電波シールド装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前述の課題解決のために、以下の構成のウェアラブル機器における電波シールド装置を提供する。
【0009】
(1)
使用者の頭部に装着して使用する無線通信機能を備えたウェアラブル機器における電波シールド装置であって、
前記ウェアラブル機器の内側の少なくとも一部に無線通信手段を有する電子制御装置を格納するポケットを設け、
前記ポケットは、頭部側に対応する基面とその周囲面のうち両側面及び下面を有するポケット部材を前記ウェアラブル機器の内面に取付け、該内面とで前記電子制御装置を格納するための保持部を形成して構成し、
前記ポケット部材に積層した
電波シールド材を前記電子制御装置と頭部の間に配置し、 前記電波シールド材は、無線通信機能を阻害することなく、前記電子制御装置から放射された電波の頭部方向への伝播を遮蔽し頭部を保護する機能を備えたことを特徴とするウェアラブル機器における電波シールド装置。
【0010】
(2)
前記電波シールド材は、前記電子制御装置と頭部の間に位置し且つ該頭部とは反対側を外側に開放して配置してなる(1)記載のウェアラブル機器における電波シールド装置。
【0011】
(3)
前記ウェアラブル機器は、1種以上のセンサを備えたヘルメットである(1)又は(2)記載のウェアラブル機器における電波シールド装置。
【0012】
(
4)
前記電波シールド材は、薄膜状の導電性素材で形成してなる(1)〜(
3)何れか1に記載のウェアラブル機器における電波シールド装置。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる本発明のウェアラブル機器における電波シールド装置によれば、頭部全体を電波シールド材で覆わないため、ヘルメット等の装着時に、一々電波シールド材を頭に巻き付ける必要がない。また、電波シールド材による蒸れの問題も生じ難く、コストも抑えられる。また、電子制御装置は外側が開放されているため、内蔵する無線通信手段によって外部との情報の送受信を妨げず、頭部を電波から保護することができる。
【0015】
また、ウェアラブル機器がヘルメットである場合、帽体の内側全体に電波シールド材を設けると、該電波シールド材が銀メッキ繊維からなると耐久性、通電、浸水試験に耐えられない可能性があるが、部分的に設けるので、そのようなことがない。更に、他の頭部着用のウェアラブル機器に比べ構造が複雑なため、内側に繊維膜を形成し難い。
【0016】
また、電波シールド材の外側を軟質素材でラミネートすると、頭部に装着したウェアラブル機器が受けた衝撃を軟質素材が吸収し、使用者の頭部を衝撃から保護する。更に、電波シールド材を薄膜状の導電性素材で形成すると、金属板等と比べて重量が軽くなり、ウェアラブル機器に衝撃を受けた場合にも、頭部を金属板で傷つけない。そして、薄膜状の導電性素材からなる電波シールド材を軟質素材でラミネートした場合、電波シールド材が軟質素材を突き破る恐れがない。
【0017】
ウェアラブル機器の内側の少なくとも一部に前記電子制御装置を格納するポケットを設けた場合、電子制御装置をネジ等で固定していないため、修理や点検が容易に実施可能であり、また汗や埃や汚れ等から電子制御装置を保護し、電子制御装置の故障を防ぐことができる。ウェアラブル機器の内部に電子制御装置を組み込んだ場合よりも容易に電子制御装置を設置でき、既存のヘルメット等のウェアラブル機器に外付け可能となり、コストダウンも図れる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のスマートヘルメットは、作業者(使用者)が頭部Mに装着して使用している間、ヘルメットに設けた各種センサから生体データや外気温等の環境データを取得するとともに、作業者の動作を体動データとして取得する。そして、これら各種の取得データをヘルメットに備えた信号処理手段で処理し、逐次無線通信手段によって外部に設置した管理サーバーに送信する。管理サーバーでは、個別IDに関連づけられた個人情報が格納され、送られてきた情報を処理して作業者の疲労度等の体調を監視する。このようなスメートヘルメットを用いた管理システムを用いることにより、作業者の体調管理を行い、未然に不慮の事故を防止し、作業効率の向上を図ることができる。また、作業者の異常を管理サーバーが認識した場合、警告信号を作業者のスマートヘルメットに送信し、作業者に知らせるようにすることも可能である。
【0020】
また、生体情報以外の環境情報、体動情報を計測するセンサで同時に計測し、信号処理装置で演算し無線通信デバイスを使い作業者情報を管理サーバーに配信し、画面で状況を知ることができる。管理サーバーは、パソコンであっても、タブレット型端末であっても良い。上記情報を蓄積し、ビッグデータとの関係付けにより、健康悪化の前兆を予知し危険状態から身を守るシステムの提供ができる。
【0021】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。
図1は、本発明のスマートヘルメット1を作業者Mの頭部に被った状態を示し、
図2はスマートヘルメット1の側面図を示し、図中符号2は帽体、3はヘッドバンド、4はあご紐を示している。
【0022】
図1及び
図2において、前記ヘッドバンド3の作業者の額に接触する部位に、柔軟性を持つ導電性布からなる生体情報取得用電極5を被せて設けている。この生体情報取得用電極5は、接触センサとしての機能も有している。また、前記帽体2の内部で頭頂部の空間を利用して、温度・湿度センサ6と加速度・角速度センサ7を設け、また前記帽体2の外部、図示したものは後頭部に位置する部位に、温度・湿度センサ8を設けている。更に、前記帽体2の適所に、各種センサからの信号を処理する信号処理手段と、外部の管理サーバーとの間でデータを送受信するための無線通信手段とを備えた電子制御装置9を設け、更に各種センサ6,7,8や信号処理手段9A及び無線通信手段9Bに電力を供給するバッテリー10を備えている。例えば、前記電子制御装置9は、前記帽体2の内部で後頭部の空間を利用して設け、そして前記バッテリー10は、前記帽体2の外部の鍔部に設けているが、その設置場所は限定されない。更に、図示しないが、帽体の鍔部等に作業者の顔画像を取得するイメージセンサも備えている。更に、作業現場の位置情報を取得するために位置情報センサ(GPS)を備えている。ここで、加速度・角速度センサ7やGPSは、最近でスマートフォンや各種無線通信機能を備えた情報端末で搭載されることが多く、小型化や省電力化が進み、汎用部品として提供されている。
【0023】
前記電子制御装置9は、高周波の電波を発生するため、特に無線通信手段から放射される電波から頭部を保護する必要がある。そのために、前記電子制御装置9の周辺であって、少なくとも頭部側に電波シールド材11を配置する。一方で、前記電子制御装置9の無線通信手段から外部に向けて放射される通信用の電波は遮蔽しないようにする必要がある。尚、前記管理サーバーに備えた無線通信機器から直接又はインターネット通信網若しくは電話網を介して無線基地局や無線ルータ等から放射されて作業者まで到達する電波は、微弱であるため頭部に対する電波シールドは行わない。
【0024】
前記電子制御装置9は、前記帽体2の内側の少なくとも一部に前記電子制御装置9を格納するポケットを設ける。具体的には、
図1及び
図7に示すように、前記帽体2の内部で後頭部にポケット部材12を設け、該ポケット部材12と帽体2の内面とで形成するポケットに格納する。そして、前記電波シールド材11は、前記頭部Mと前記電子制御装置9の間に配置する。具体的には、前記電波シールド材11を前記ポケット部材12に積層して配置する。前記ポケット部材12は、頭部側に対応する基面12Aとその周囲面のうち両側面12B及び下面12Cを有し、周囲の取付片12Dを利用して前記帽体2の内部の後頭部に取付け、帽体2の内面とで上方へ開放した袋状の保持部12Eを形成し、該保持部12Eと帽体2の内面で形成されるポケットに前記電子制御装置9を格納している。それにより、前記電子制御装置9から放射された電波は、前記電波シールド材11よって頭部方向への伝播が遮蔽される。ここで、電波の遮蔽とは、電波を吸収し、若しくは反射し、又は吸収と反射の両方によって、特定の方向への伝播を制限することを意味し、そのような作用のある材料で前記電波シールド材11は構成されている。尚、前記電子制御装置9は電磁波シールド材11や帽体2等と、接着剤、
面ファスナー等で固定する事も可能である。
【0025】
具体的には、前記電波シールド材11は、導電性素材からなる薄膜状であり、板状、針金メッシュ状、繊維織物状等何でも良く、それらの周囲を軟質素材でラミネートした形態とする。その中で皮膚への肌触りの点、頭部を傷つけない点、ラミネートした軟質素材を突き破らない点において、導電性繊維織物が最も好ましい。本実施形態では、前記電波シールド材11としてミツフジ株式会社製のAGposs(登録商標)を採用している。この電波シールド材11は、銀メッキ繊維からなる織物であるが、銀以外にもニッケル、銅ニッケル、アルミニウム等の導電性物質をメッキしたものでも良い。銀は、人体への影響が少ないので最も好ましい。
【0026】
前記ポケット部材12の素材は、繊維、木材、紙、革、発泡ポリスチレン、発泡ポリプロピレン、ゴム製のエラストマー素材、ポリウレタン等、柔軟性があれば何でもよいが、衝撃吸収性、傷が付き難い点でポリウレタンが最も優れる。
【0027】
前記ポケット部材12の設置場所は、スマートヘルメット1の場合には、頭部装着物の内側、外側、内部、あご紐等どこでも良いが、電子制御装置9の破損を防ぐために、帽体2の内部で後頭部周囲が最も好ましい。本発明はスマートヘルメット1に限定されないが、スマートヘルメット1以外の頭部装着ウェアラブル機器としては、帽子、カツラ、お面、着ぐるみ、ヘッドギア、マスク、メガネ、ゴーグル、ヘアバンド、カチューシャ等が挙げられ、これらに無線通信機能が備わったものである。また、前記ポケット部材12に格納する内容物として、トランスミッター、送受信機、通話機、音楽・動画再生機、スマートフォン等の端末、USB接続端子、バッテリー等の電子機器、その他お守り、小銭等の雑貨類、自転車競技用のヘルメットにおいては飲食物等も無線通信手段と併せて格納可能である。
【0028】
前記スマートヘルメット1は、作業者が装着するヘルメットに装着した各種センサから、作業場での現場作業者の個人の生体データ、作業環境データ、作業者の画像データ、ヘルメットや作業者の動きに関する体動データを計測し、作業者の体調を管理する。典型的には、前記スマートヘルメット1は、現場作業時のデータと、過去に計測蓄積したデータから割り出される異常閾値とを比較することで、作業者の異常状態を検出する。これにより、作業者の健康状態の判定を行い、管理者等へ通報することで作業者の健康や安全の状況把握を容易にする。また、解析データを蓄積することで、健康悪化の前兆を予測することも可能となる。さらに、センサの誤判定、スイッチの誤作動、異常判定の誤判定を作業者又は管理者等が手作業で解除する事も可能であり、前記誤判定及び誤作動のデータを蓄積する事で、当該蓄積データに基づき、前記誤判定及び誤作動が起きないようシステムの校正を自動的に行うプログラムを採用する事も可能である。特に上述の電子制御装置9の固定方法で採用した方法によって、誤判定及び誤作動が生じると考えられる点で、当該システムは有効である。
【0029】
ここで、前記作業環境データが、作業現場の温度、湿度、位置情報であり、前記生体データが、脳波、心拍、脈拍数、体温、体内温度、深部体温、血流、心電図、筋電、発汗であり、前記画像データが、作業者の顔画像であり、ヘルメットや作業者の動きに関する体動データが、加速度、角速度(ジャイロ)である。
【0030】
生体データは、脳波、心拍、脈拍数、体温、体内温度、深部体温、血流、心電図、筋電、発汗等による生体インピーダンスの変化を、前記生体情報取得用電極5(接触センサ)で計測することにより取得する。尚、体温は別途温度センサを設けて取得してもよい。また、前記帽体2に装着した各種センサで取得する作業環境データは、温度(気温)、湿度、位置情報あるいは降雨状況であり、体動データは、ヘルメットや身体の動作に関する情報であり、これらを同時に安定して計測し解析を行うために前記電子制御装置9を搭載し、無線通信手段を使って管理サーバーへ情報を配信し画面で状況を知ることができるようにしている。尚、前記生体情報取得用電極5としては、柔軟性、屈曲性に加え、洗濯耐久性を考慮すると、ミツフジ株式会社製のAGposs(登録商標)を採用するのが好ましい。
【0031】
前記スマートヘルメット1を使用するときには、ヘルメットの適所に設けたコンビネーションスイッチをON状態にする。このコンビネーションスイッチは、第1スイッチと第2スイッチから構成されている。第1スイッチは、スマートヘルメット1を使用者の頭部に装着した際に自動的にON状態になり、頭部から外した際に自動的にOFF状態になる機械的スイッチである。第2スイッチは、第1スイッチがON状態のときにのみ、接触センサの頭部インピーダンスの変化に基づいて使用者のヘルメット着用を検知したときにのみON状態を維持し、ヘルメット未着用を検知したときにはOFF状態となるものである。そして、システム電源は、第1スイッチと第2スイッチが共にON状態のときにのみON状態となり、バッテリー10から各種センサ6,7,8及び電子制御装置9に電力を継続供給する。そして、前記スマートヘルメット1を使用しないときには、前記バッテリー10の蓄電力を節約するために完全に遮断する必要がある。尚、バッテリー10は例えばリチウムバテリーやアルカリバッテリーを採用する事ができる。図示しないが、バッテリー10がトランスミッターやセンサに内蔵されている場合、スマートヘルメット1内の配線を簡素化する事ができ、さらにコネクト部分にパッキン等を設ける必要がないため、防水性も向上する。さらにバッテリー10が小型のボタン型電池やコイン型電池である場合、スマートヘルメット1の全体の重量が軽量化されるため、作業者の負担が軽減される。さらに、スマートヘルメット1は専用の充電台に設置する事で充電する事も可能であり、特にカベに設置された充電台の場合、スマートヘルメット1をカベに引っ掛ける事で、保管と充電を同時に行える点で利便性が高い。また、スマートヘルメット1にはバッテリー残量手段を設ける事も可能であり、例えば、バッテリー残量を無線通信手段によって管理者等へ知らせる手段を採用する事ができ、LEDの点灯等によってバッテリー残量を示す手段も採用できる。
【0032】
以下にシステム電源の具体的構成を説明する。本実施形態では、第1スイッチは、あご紐4のバックル13に一体的に組み込んでいる。前記バックル13は、両側のあご紐4,4の端部に設けた第1部材13Aと第2部材13Bが互いに係脱可能な構造となっており、第1部材13Aと第2部材13Bの何れか一方にリミットスイッチ等の小型スイッチが内蔵され、連結した際に他方の存在を感知して接続するようにしたものである。つまり、ヘルメットを着用し、あご紐4のバックル13を連結すると、第1スイッチが作動してON状態になる。第1スイッチがON状態になると、一時的に前記バッテリー10から少なくとも前記接触センサと、それを制御する電子制御装置9に電力を供給し、第2スイッチを含めたシステム電源装置の機能が起動する。
【0033】
ところが、この第1スイッチのみで、電源がON、OFFすると、ヘルメットを保管する際に前記バックル13を連結した状態で吊り下げる場合もあり、その状況では保管時に電源が入ったままになる。そこで、実際にヘルメットを作業者が着用しているときにのみシステム電源がONになるようにする必要がある。それには、作業者がヘルメットを着用したことを接触センサの頭部インピーダンスの変化から認識することが第2スイッチの要となる。この第2スイッチは、ヘルメットの着脱を判定するオートパワーオフ回路で構成されている。具体的には、前記第1スイッチがONになった後、頭部の存在を認識したとき(ヘルメット着用)にホールド回路がON状態を維持し、頭部の存在を認識できないとき(ヘルメット未着用)にホールド回路がOFF状態になるように設定している。ここで、頭部の存在を認識するのに、接触センサの頭部インピーダンスの変化を利用するのである。
【0034】
本実施形態では、第2スイッチに用いる接触センサには、前記生体情報取得用電極5(接触センサ)が皮膚に接触若しくは接近したときに生じるインピーダンス変化を用いた。
図9を用いてシステム電源のON、OFF動作を説明する。先ず、ヘルメットを着用する場合を説明する。ヘルメットを作業者が頭部に装着し、あご紐4のバックル13を接続すると、第1スイッチがONになる。第1スイッチがONになると、前記生体情報取得用電極5に電流が流れ、皮膚に接触若しくは接近していることによるインピーダンスの変化を検出する。インピーダンス変化を検出することにより、ヘルメット着用と判断し、ホールド回路がON状態に維持され、第2スイッチがONとなり、システム電源がONとなる。この判断は、前記電子制御装置9が実行する。第2スイッチは、一度ON状態になって接続されると、その後のインピーダンスの変化に関係なく接続状態を維持するようになっている。ここで、インピーダンスの変化が検出されなかった場合は、ヘルメット未着用と判断し、ホールド回路はOFFとなり、システム電源がOFFとなる。
【0035】
そして、ヘルメットを脱ぐ際に、あご紐4のバックル13を外すと、第1スイッチがOFFになると、自動的にシステム電源がOFFになる。それからヘルメットを作業者の頭部から脱ぐのである。そして、ヘルメットを保管する際に、あご紐4のバックル13を接続した状態(第1スイッチON状態)でロッカーのフックに引っ掛けるが、インピーダンスに変化がないので、ヘルメット未着用と判断し、第2スイッチはON状態とはならず、システム電源はOFFとなる。
【0036】
このように、ヘルメット着用時に必ず操作する第1スイッチと、ヘルメットの着脱を判定するオートパワーオフ回路で構成される第2スイッチと、を組み合わせてシステム電源をON、OFFするようにしたので、ヘルメット未着用時にバッテリーから電力を供給するといった誤作動を防止できる。また、接触センサは頭部の周辺一部に設けられているので、ヘルメットをきつく締め付ける必要がなく、作業時においてヘルメットがずれても額に接触若しくは接近していれば、スマートヘルメットは作動し続ける。また、ヘルメット着用、未着用を判断するのに、接触センサによるインピーダンス変化を利用すれば、応答スピードや環境に依存しない点で、温度センサより優れ、赤外線や照度センサのように複雑な構成を必要とせず、低コストで実現できる。また、圧力センサのように頭部を圧迫する事は無く、例えば工場における作業者が長時間装着しても苦痛はない。また、第2スイッチは、一度接続したら、インピーダンスの変化に関係なく接続状態を維持するようにすれば、ヘルメットがずれて接触センサが額から外れても、第1スイッチが接続されている限り、スマートヘルメットは作動を継続する。そして、第1スイッチをOFFにするとシステム電源が自動でOFFになるようにすれば、自動で電源が切れるため、バッテリーの電力消費を抑えることができ、また個別の手動スイッチを設ける必要がなく、電源OFFの煩わしい操作が不要になる。また、接触センサをヘッドバンド3の額対応箇所に設けることにより、他の部分に比べて安定して確実に接触させることができる。
【0037】
第1スイッチを設ける位置は、マスクのゴム紐、メガネのフレームにも応用可能であり、スイッチのON、OFF動作の他の形態としては、ボタン式、紐を手動で結ぶ等、左右のあご紐が接続する形式全般に適用可能である。また、あご紐とバックルを導電性素材で作成し、接続するこことにより通電可能とすることも可能である。その場合、あご紐自体を導電性繊維で作成する場合と、あご紐内に導電線を配設する場合がある。また、第1スイッチに各種センサや手動スイッチを採用することも可能であり、例えばメガネのフレーム部分に接触センサを配置するようにしても良い。
【0038】
第2スイッチ(接触センサ)としては、前述のようにミツフジ株式会社製のAGposs(登録商標)を採用したが、素材としては、銀、ニッケル、銅ニッケル等、導電性繊維であれば何でも良いが、人体への影響が少ない銀が最も良い。また、形態としては、板状、針金状、繊維形状等何でも良いが、皮膚への肌触りの点で繊維状が最も良い。外形は、長方形、円形、三角形等、一定の面積があれば何でも良い。大きさは、特に問わないが、皮膚への接触率とコスト面のバランスをとって決定する。本実施形態では、生体データを取得するのに、接触によりインピーダンスが変化する接触センサを用いたが、その他、温度センサ、照度センサ、赤外線によって頭部の存在を検知する赤外線センサでも良い。また、接触センサを設ける位置は、額、耳、うなじ、頬、首等、頭部周囲であればどこでも良いが、安定して皮膚への接触が望める点で、ヘルメット内側の額周囲が最も好ましい。更に、あご紐に接触センサを設けた場合、頬、首、耳の接触を検知可能である。更に、メガネの鼻当てに接触センサを設けることも可能である。
【0039】
次に、スマートヘルメット1のハード構成を
図6にブロック図を用いて簡単に説明する。また、前述の第1スイッチとなる着脱スイッチ20の元に各種センサが接続され、バッテリー10から電力が供給される。センサとしては、温度/湿度センサ21、生体情報センサ22、加速度センサ23、角速度センサ24、画像センサ25等がある。温度/湿度センサ21と生体情報センサ22の情報は、生体情報検出部26に送られ、生体データを取得する。加速度センサ23と角速度センサ24の情報は、衝撃情報検出部27に送られ、体動データを取得する。また、画像センサ25の情報は、画像情報検出部28に送られ、画像データを取得する。
【0040】
前記生体情報検出部26で検出された生体データは、生体情報処理部29で処理され、生体異常検出部30で生体異常が検出されると、ペルティエ素子等の冷却システム31を作動させて頭部を冷却するともに、生体異常処理部32が通報判断部33に情報を送り、該通報判断部33が必要に応じて異常通報部34に異常情報を送り、無線通信手段35により外部の管理サーバー等の通報先36に、位置情報センサ37で取得した位置情報とともに送信する。そして、通報先36から必要に応じて、無線通信手段35を介してスマートヘルメットの使用者の状況を確認するための確認を行う。これがアンサーバック機能38である。
【0041】
一方、前記衝撃情報検出部27で検出された体動データは、衝撃情報処理部39で処理され、衝撃異常検出部40で体動異常が検出されると、衝撃異常処理部41が通報判断部33に情報を送り、該通報判断部33が必要に応じて異常通報部34に異常情報を送り、無線通信手段35により外部の管理サーバー等の通報先36に、位置情報センサ37で取得した位置情報とともに送信する。また、画像情報検出部28で検出された画像データは、画像情報処理部42で処理され、前記通報判断部33が異常通報部34に顔画像情報を送り、無線通信手段35により外部の管理サーバー等の通報先36に送信する。顔画像情報は、サンサーバック機能38による作業者の状態確認に利用される。
【0042】
次に、前記スマートヘルメットの基本動作を簡単に説明する。本実施形態では、前記生体データ、作業環境データ、作業者の顔画像データについては、決められた時刻又は時間の間隔で間歇的に計測することにより、常時計測しないため、バッテリーの消費が抑えられ、バッテリーを小型化にできる。
【0043】
また、本実施形態では、作業者がヘルメットを装着後、一定時間作業者の作業開始時の初期データを測定し、過去の閾値のデータと照合して異常閾値を割り出すので、作業者の体調に応じて異常値が変化する点を踏まえ、異常閾値の設定を精度良くできる。
【0044】
また、本実施形態では、温度センサが検出した値が異常閾値を超えた場合、頭部の一部を冷やす冷却システムが起動するようにすれば、頭部冷却により、作業者が熱中症になることを防止できる。ここで、冷却システムとしては、ペルティエ素子を用いることで容易に構成できる。
【0045】
また、本実施形態では、異常閾値を超えた値を検出した場合、作業者又は作業者を管理する管理システムへ通報するようにすれば、迅速に対応することができる。
【0046】
また、本実施形態では、個別IDによって個人データを管理するようにすれば、個人設定をその都度行う必要がなく、閾値管理が容易となる。
【0047】
そして、本実施形態では、測定データを無線通信で、管理パソコンサーバー、モバイルパソコン、スマートフォンに送信するようにすれば、データ管理が容易になり、大規模なシステム構築も可能である。
【0048】
次に、前記スマートヘルメットの動作を
図7に示したフローチャートで概要を説明する。先ず、前述の通りシステム電源を入れてスタートする。それから、各種センサにより温度や湿度情報、生体情報を取得し、直近や前回データと比較する。温度や湿度が異常閾値と比較して異常であれば、温度・湿度異常フラグを発し、次に生体情報が異常閾値と比較して異常であれば、生体異常フラグを発する。それらに異常がなければ次のステップに移る。
【0049】
それから、温度・湿度又は生体情報に異常があるかどうかを判断し、異常があれば異常発生処理ルーチンが作動し、顔画像データを取得して生体反応確認状態検出を行い、生体反応を確認した場合には、再度温度や湿度、生体情報を取得し、生体反応を確認できない場合には通報処理して終了する。また、温度・湿度又は生体情報に異常がなければ、温度・生体情報データを判定し、再度温度や湿度、生体情報を取得する。
【0050】
以上の計測動作は、ヘルメットを装着している間、繰り返して実行し、あご紐4を外してヘルメットを脱ぐと、第1スイッチがOFFになってシステム電源が落ちる。
【0051】
図8に温度測定の詳細をブロック図で示している。この測定は省電力モードとなっている。先ず、温度センサによって取得した現在の温度データを、過去の測定データの蓄積から平熱を算出し、閾値を決定する。そして、ヘルメット着用後5分間は継続して測定し、初期値を決定する。温度の初期値が閾値内であれば、測定タイミングを30分/回にしてバッテリーの消耗を抑える。温度の初期値が閾値外であれば、その後30分間連続測定し、閾値内になれば測定タイミングを30分/回にしてバッテリーの消耗を抑える。30分に1回の測定した温度が閾値外になれば、再度30分間連続測定し、それでも閾値外であれば、管理サーバー又は作業者へ通報する。尚、過去のデータが蓄積されてない、スマートヘルメット使用初期の一定期間(例えば使用開始1ヶ月間)は、測定タイミングを5分/回にして多少の省電力をしつつも、データの蓄積を優先することも可能である。
【0052】
次に、ヘルメットや作業者の体動データを取得する加速度・角速度センサによる加速度・角速度測定の詳細を
図9に示したブロック図で説明する。加速度・角速度センサによる測定は、作業者の転倒等の動作異常を検知するものであるから、常時測定が基本である。先ず、サンプリングタイム10msec内で10回測定し、その平均値を100msec毎に送信する。それから、常時測定に入り10msec毎にサンプリングし、このときの値(絶対値)が閾値外であれば、転倒判定に移り、予め転倒パターンを複数設定しており、それと照合して転倒を判定する。ここで、転倒判定となった場合には、管理サーバー又は作業者へ通報する。また、転倒判定で、判定外、つまり転倒とは見なされなかった場合には、常時測定に戻る。
【0053】
尚、前述の測定時間及び測定間隔は前述の値に限定されず、作業環境や作業内容等に応じて適宜設定されるべきである。
【0054】
前記電波シールド材11による電波の遮蔽実験を行った。試験体は、銀メッキ繊維織物、銀メッキ繊維不織布、銀メッキ繊維ニット編み、ニッケル−銅繊維織物、銅メッシュである。先ず、測定周波数が100kHz〜1GHzの範囲は、KEC(関西電子工業振興センター)で開発された電磁シールド評価法で行った。この評価法は、150mm×150mmの平板状の試験体を、近傍電界シールド効果測定用、近傍磁界シールド効果測定用の治具で挟んでそれぞれ測定した。また、測定周波数が1GHz〜15GHzの範囲は、楕円の内部形状を持つDFFC(2焦点型扁平空洞:Dual-Focus Flat Cavity)フィクスチャに、300mm×30mmの平板状試験体を挟んで測定する。この評価法は、楕円の2つの焦点にある送受信点にネットワークアナライザを接続して行う。
【0055】
この測定結果、測定周波数が100kHz〜1GHzの範囲で、電界シールド特性において、銀メッキ繊維織物の1枚試験体、ニッケル−銅繊維織物の1枚試験体、銅メッシュの1枚試験体でも40dBを超えるシールド性能を有するが、銀メッキ繊維不織布の2枚重ね試験体では、約80MHzを超えると40dB以下に低下する傾向がある。当然、枚数を重ねることによりシールド性能は向上する。また、磁界シールド特性において、各試験体とも周波数が上がるにつれてシールド性能も向上し、銅メッシュの1枚試験体は全体的に高いシールド性能を有しているが、銀メッキ繊維織物の3枚重ね試験体は1GHzにおいて30dB程度のシールド性能になる。尚、ニッケル−銅繊維織物の3枚重ね試験体は、約50MHzの範囲でシールド性能が40dBを超えるが、銀メッキ繊維不織布の2枚重ね試験体は全くシールド性能がないことがわかった。
【0056】
次に、測定周波数が1GHz〜15GHzの範囲では、特に無線通線で使用する2.4GHz近傍では、シールド性能が40dBを超えるのは、低い方から順に、銅メッシュの1枚試験体、銀メッキ繊維織物の2枚重ね試験体、ニッケル−銅繊維織物の1枚試験体、ニッケル−銅繊維織物の2枚重ね試験体である。一方、銀メッキ繊維織物の1枚試験体は、シールド性能が40dBを若干下回り、更に銀メッキ繊維不織布の3枚重ね試験体、銀メッキ繊維不織布の2枚重ね試験体、銀メッキ繊維不織布の1枚試験体の順で低くなり、銀メッキ繊維ニット編み1枚試験体も20dB以下である。
【0057】
以上の電波シールド試験により、前記銀メッキ繊維織物であれば2枚重ね以上用いることにより、通常の無線通信手段で用いる周波数の電波を40dB以上のシールド性能で遮蔽することが可能であることが分かる。ここで、シールド性能が40dB以上というのは、電波シールドが99%以上であること意味するので、このシールド性能が40dBが電波シールドの要求基準となる。今回の測定試験に用いた試験体は、それぞれ繊維密度や、目付け重量が異なるため、単純な性能比較は難しいが、Wi-Fi(登録商標)やBluetooth(登録商標)等の2.4GHz帯ではニッケル−銅繊維織物や銀メッキ繊維織物で電波をシールドすることができることが分かる。
【0058】
最後に、前記スマートヘルメット1を着用して、作業者がいくつかの典型的な動作を行ったときの試験結果を示す。
図10は、通常の歩く動作における加速度・角速度の3軸(x,y,z)の測定データである。3軸のうち、x軸は作業者の前後方向、y軸は高さ上下方向、z軸は作業者の横方向を示す。
図11は、お辞儀の動作における加速度・角速度の3軸の測定データである。
図12は、前にこける動作における加速度・角速度の3軸の測定データである。転倒する場合と通常の動作時では、加速度・角速度データのパターンは明らかに相違し、これらを転倒判定によって見分けることが可能である。