(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874358
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ポリエステル組成物およびその二軸延伸ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
C08G 63/19 20060101AFI20210510BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20210510BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
C08G63/19
C08J5/18CFD
B32B27/36
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-246651(P2016-246651)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-100339(P2018-100339A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】灘波 朋也
(72)【発明者】
【氏名】小島 博二
(72)【発明者】
【氏名】坂本 純
【審査官】
中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−131602(JP,A)
【文献】
特開平05−059163(JP,A)
【文献】
特開2012−116914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,6−ナフタレンジカルボン酸を95モル%以上含有するジカルボン酸成分由来の基と、パラキシレングリコールを5モル%以上20モル%以下、エチレングリコールを80モル%以上95モル%以下の範囲で含有するジオール成分由来の基とを、含有する非晶性ポリエステル。
【請求項2】
請求項1に記載の非晶性ポリエステルを含有するポリエステルフィルムであって、示差走査熱量測定による熱特性として、1st.Runにて210℃以上260℃以下の温度範囲に10J/g以上の結晶融解ピークを有し、2nd.Runの結晶融解熱量が10J/g未満である二軸延伸ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項2記載のポリエステルフィルム層を1層以上積層してなる積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工性に優れ、ポリエチレンナフタレート同等の高屈折率を有するポリエステル組成物およびそれからなる二軸延伸ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリエステルであるポリエチレンナフタレート(以下PEN)は、優れた機械的特性や耐熱性、および高い屈折率を有しており、光学フィルム用途などに使用されている。
【0003】
しかしながら、PENからなるフィルムは、一般的に脆く、一部の用途では柔軟剤の添加、共重合成分導入による機械的特性の改善がなされている。
【0004】
一般的に共重合されたポリエチレンナフタレートは、共重合量に比例して結晶性、配向性が低下し、脆さを改善することができる反面フィルムとして製膜する際にロールへの粘着等の問題が発生する場合がある。さらに、積層フィルムとする場合には、層間密着性も重要となる。
【0005】
特許文献1には、高屈折率で結晶性のPEN樹脂を急冷することで非晶化する技術について開示されている。しかしPEN樹脂の有する結晶性はそのままであり、二軸延伸した際に結晶化が進み、加工性、すなわち二軸延伸フィルムとした場合の割れ性、積層フィルムとした場合の層間剥離性が生じるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−19898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、これら従来の欠点を解消せしめ、特に加工性に優れ、PEN同等の高屈折率を持つポリエステル組成物とその二軸延伸フィルムを提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明者らは検討を行い、
2,6−ナフタレンジカルボン
酸を95モル%以上含有
するジカルボン酸成分由来の基とパラキシレングリコール(以下PXG)を5モル%以上20モル%以下、エチレングリコール(以下EG)を80モル%以上95モル%以下の範囲で含有する
ジオール成分由来の基とを、含有するポリエステ
ルにより、達成されることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高屈折率、かつ加工性に優れ、光学用途に好適に使用することができるポリエステル組成物とその二軸延伸フィルムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるポリエステル組成物は、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を95モル%以上含有し、全ジオール成分に対してPXGを5モル%以上20モル%以下、EGを80モル%以上95モル%以下の範囲で含有するものである。
【0011】
本発明におけるポリエステル組成物を構成するジカルボン酸成分としては、屈折率の観点から2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を全ジカルボン酸成分に対して95モル%以上含有する必要があり、さらには100モル%とすることが好ましい。
また、本発明の効果を妨げない範囲で従来公知のジカルボン酸成分を共重合してもよく、共重合量としては全ジカルボン酸成分に対して5モル%未満であることが必要である。具体的なジカルボン酸成分としては、テレフタル酸成分、イソフタル酸成分、フタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分などを挙げることができ、2種以上併用してもよい。
【0012】
本発明におけるポリエステル組成物を構成するジオール成分としては、全ジオール成分に対してPXGを5モル%以上20モル%以下の範囲で含有し、EGを80モル%以上95モル%以下の範囲で含有する必要がある。また、結晶制御や脆化抑制の観点から、PXGを5モル%以上15モル%以下とすることが好ましく、さらには10モル%以上15モル%以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の効果を妨げない範囲において、従来公知のジオール成分を共重合してもよく、例えばプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、スピログリコールなどを挙げることができ、2種以上併用してもよい。
【0014】
本発明におけるポリエステル組成物は非晶性であることが
必要である。本発明における非晶性とは、示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製:DSC−Q2000)を用いた示差走査熱量測定にて、2nd.Runにおける結晶融解熱量が10J/g未満であることを指す。具体的には、試料5mgを用い、1回目の昇温として25℃から16℃/分で300℃まで昇温を行い、300℃で5分間保持したのち、その試料を50℃まで金属板の上で放冷する。次いで2回目の昇温として16℃/分で300℃まで昇温を行い、300℃で5分間保持する。1回目の昇温を1st.Run、2回目の昇温を2nd.Runとし、2nd.Runにおける結晶融解熱量が10J/g未満であるポリエステル組成物を非晶性とする。また、本発明において非晶性の組成物とするためには、2,6−ナフタレンジカルボン酸成分を全ジカルボン酸成分に対して95モル%以上含有することが好ましく、かつ全ジオール成分に対してPXGを5モル%以上20モル%以下の範囲で含有し、残るジオール成分をEGとすることが好ましい。
【0015】
本発明におけるポリエステル組成物は、従来公知のエステル交換反応、またはエステル化反応を行い、重縮合反応を行うことで得ることができる。例えばエステル交換反応においては、触媒としてマグネシウム化合物、カリウム化合物、マンガン化合物、リチウム化合物、カルシウム化合物、ナトリウム化合物等の金属化合物を挙げることができ、ポリエステル組成物の耐熱性の観点からマンガン化合物を用いることが好ましく、さらにはエステル交換反応性や光学特性の点から、酢酸マンガンを用いることが好ましい。
【0016】
本発明においては、着色防止剤や耐熱安定剤としてリン化合物を用いることができる。例えば具体的なリン化合物としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル等のリン酸系、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸等のホスホン酸系化合物や、リン酸二水素ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸アルカリ金属化合物、リン系の酸化防止剤等を挙げることができ、その中でも特にリン酸やリン酸二水素ナトリウムを用いることが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル組成物に含まれる金属元素およびリン元素は、耐熱性の点から金属元素Mとリン元素Pのモル比(M/P)を0.50以上1.50以下とすることが好ましく、さらには耐熱性の点から0.70以上1.20以下とすることが好ましい。
【0018】
本発明における重合反応については、従来公知の触媒化合物を用いることができる。例えば重合触媒として、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイド等のアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド等のゲルマニウム化合物、置換基がアルコキシ基、フェノキシ基、アシレート基、アミノ基、水酸基の少なくとも1種であるチタン化合物などを適用することができる。中でも、重合反応性の点から三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、テトラブトキシチタンが好ましい。
【0019】
また、本発明の効果を妨げない範囲において、酸化防止、帯電防止、紫外線吸収などの機能付与を目的として従来公知の化合物を併用しても良い。
【0020】
本発明におけるポリエステル組成物は配向結晶性、屈折率、機械的強度の点から二軸延伸フィルムとすることが好ましい。
本発明の二軸延伸フィルムは、加工性の観点から、加熱によって結晶化しない、すなわち本発明における非晶性であるが、延伸応力によって配向結晶化する組成物を使用することが好ましい。詳しくは、加工性の点から示差走査熱量測定による熱特性として、1st.Runにて210℃以上260℃以下の温度範囲に10J/g以上の結晶融解熱量を有し、かつ2nd.Runでの結晶融解熱量が10J/g未満である必要がある。
このような二軸延伸フィルムは、フィルム端面等の回収組成物を中間層に用いた場合でも加工性良く製膜できる自己回収性の点から、積層ポリエステルフィルムとすることが好ましく、多層積層ポリエステルフィルムとすることもできる。さらに、積層ポリエステルフィルムとする場合は、配向結晶性の点から本発明のポリエステル組成物からなる層を最外層とすることが好ましい。
【0021】
このような積層ポリエステルフィルムにおいて、本発明のポリエステル組成物に積層するポリエステル組成物としては、加工性の点からエチレンテレフタレート単位および/またはエチレンナフタレート単位がポリエステル構成成分の30mol%以上70mol%以下であることが好ましく、さらにはガラス転移温度が90℃以上
112.4℃以下であることが好ましい。また、本発明の効果を妨げない範囲において、従来公知のジカルボン酸成分を共重合してもよい。具体的なジカルボン酸成分としては、イソフタル酸成分、フタル酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸成分などを挙げることができ、2種以上併用してもよい。ただし、積層するポリエステル組成物をガラス転移点90℃以上
112.4℃以下とするためには、エチレンテレフタレート単位およびエチレンナフタレート単位のみで構成されたポリエステル組成物とすることが好ましい。
【0022】
本発明の二軸延伸ポリエステルフィルムは、従来公知の方法で製造することができる。例えば、逐次二軸延伸、同時二軸延伸などの延伸方法があり、さらに、複数台の押出機を用いた共押出による積層化する方法などが挙げられる。
【0023】
次に、本発明のポリエステル組成物およびその二軸延伸ポリエステルフィルムの製造例について具体的に詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0024】
まず、エステル交換反応を行う反応槽において、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、パラキシレングリコール、エチレングリコール、三酸化アンチモン、酢酸マンガン4水和物を仕込み、180℃で溶融する。この際に、パラキシレングリコールの仕込み量は全ジオール成分の5モル%以上20モル%以下とすることが必要であり、エチレングリコールの仕込み量は全ジオール成分に対して、80モル%以上90モル%以下とすることが必要であり、また全グリコール成分量は全ジカルボン酸に対して1.7〜2.3モル倍量とすることで反応性が良好となる。また、三酸化アンチモンの添加量としては、重合反応性の点からアンチモン元素として50ppm以上300ppm以下となるように添加するとよい。さらに、酢酸マンガン4水和物の添加量としては、エステル交換反応性の点からマンガン元素として50ppm以上250ppm以下とするとよい。
【0025】
酢酸マンガン4水和物の添加終了後、撹拌しながら反応内容物の温度を235℃まで徐々に昇温しながらメタノールを留出させる。所定量のメタノールが流出したのち、リン化合物としてリン酸、リン酸二水素ナトリウム2水和物を添加し、余剰のエチレングリコールを留出させ、エステル交換反応を終了させる。このときのリン化合物の添加量としては、着色防止、耐熱性向上の点からポリエステル組成物のリン元素含有量として40ppm以上200ppm以下となるように添加することが好ましい。
【0026】
エステル交換反応終了後、235℃にて15分間で260Torrまで徐々に減圧し、余剰のエチレングリコールを留出させたのちに重合反応を行う反応槽へ移行する。
【0027】
重合反応を行う反応槽へ移行したのち、装置内温度を290℃まで昇温しながら装置内圧力を常圧から1.0Torr以下まで減圧する。重合反応の進行に従って反応物の溶融粘度が上昇し、目標溶融粘度に到達した時点で反応を終了し、重合反応槽からポリエステル組成物をストランド状に吐出、水冷し、カッターでチップ化する。
【0028】
得られたポリエステル組成物を真空乾燥機にて100℃で8時間以上減圧乾燥させ、十分に水分を除去したのち、280℃でTダイよりシート状に溶融押出しする。溶融シートを表面温度10℃以上40℃以下に冷却されたロール上に密着させて冷却固化し、未延伸シートを得る。溶融シートをロールに密着させる方法としては、エアナイフ、静電印加法などの方法があるが、例えば、ワイヤー状電極を使用して、静電印加する方法が好ましい。
【0029】
次いで本発明のポリエステル組成物のガラス転移温度に対して−30℃以上+50℃以下の温度に未延伸シートを加熱し、回転速度の異なるロール間にて長手方向に3.0倍以上の延伸倍率で延伸する。次いでテンター式横延伸機にて本発明のポリエステル組成物のガラス転移温度に対して+5℃以上+50℃以下の温度において幅方向に3.0倍以上の延伸倍率で延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%程度のリラックスをかけながら100℃以上220℃以下で1秒以上60秒以下の範囲で熱処理することで二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0030】
同様に、積層ポリエステルフィルムを製造する場合は、2台以上の押出機を用いて共押出しすることで積層ポリエステルフィルムとすることができる。このときの押出機にベント式二軸押出機を適用することで、ポリエステルの乾燥工程を省略することも可能である。さらに101層以上の積層ポリエステルフィルムとする場合は、スタティックミキサーやフィードブロックを適用し、本発明のポリエステル組成物からなる層Aと、他方のポリエステル組成物からなる層Bが交互に積層するよう合流させ、両表層部分が層Aとなるようにするとよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
このようにして得られたポリエステル組成物はPEN同等の高い屈折率を持ち、その二軸延伸ポリエステルフィルムおよび積層ポリエステルフィルムは加工性に優れるため、光学フィルム用途に好適である。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、物性の測定方法、効果の評価方法は次の方法に従って行った。
【0033】
(1)固有粘度
固有粘度はオルトクロロフェノールを溶媒とし、25℃で測定した。
【0034】
(2)ポリエステルの色調
ポリエステルチップを色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L,b値)として測定した。
【0035】
(3)ポリエステルの熱特性(ガラス転移温度、結晶融解温度、結晶融解熱量)
示差走査熱量計(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製:DSC−Q2000)を用いて、試料5mgを室温から16℃/分で300℃まで昇温を行い、300℃にて5分間保持する行程を1st.Run、その試料を50℃まで金属板の上で放冷し、再度16℃/分で300℃まで昇温させ、5分間保持する行程を2nd.Runとして、示差走査熱量測定チャートを得た。当該示差走査熱量測定チャートを解析ソフト(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン製:UniversalAnalysis2000)を用いて、ガラス転移温度(Tg)、結晶融解温度(Tm)、結晶融解熱量(ΔHm)を測定した。
【0036】
(4)ポリエステル組成物の屈折率
ポリエステル組成物を溶融押し出しすることで厚さ100μmの未延伸シートを得る。ついで光源としてナトリウムD線を用い23℃の温度条件にて株式会社アタゴ製「アッベ屈折率計NAR−4T」にて屈折率を測定した。なお、本発明においては屈折率1.600以上を高屈折率とする。
【0037】
(5)ポリエステルフィルムの加工性の評価
高分子計器(株)製試験片打抜機を用い、JIS K−6251に記載の5号型ダンベル形状にフィルムを打ち抜く。フィルムを一枚ずつ打ち抜き、10枚打ち抜いた際に端面の割れや、積層フィルムの場合は剥がれが起きている枚数Mを数え、加工性を評価する。
0≦M≦2:加工性A
3≦M≦5:加工性B
6≦M≦8:加工性C
9≦M:加工性D
Aが最も優れ、Dが最も劣っており、本発明においては加工性Bまでを合格とする。
【0038】
(6)ポリエステル組成物中のリン元素、および金属元素の定量
堀場製作所製蛍光X線装置(型番MESA−500W)を用い、ポリマーの蛍光X線の強度を測定した。この値を含有量既知のサンプルで予め作成した検量線を用い、金属含有量に換算した。
【0039】
実施例1
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下NDCM)96.3重量部、パラキシレングリコール(以下PXG)8.2重量部、エチレングリコール(以下EG)41.6重量部、三酸化アンチモン0.01重量部、酢酸マンガン4水和物0.055重量部をそれぞれ計量し、エステル交換反応を行う反応槽に仕込み、内容物を180℃で溶解させた。溶解した内容物を撹拌しながら235℃まで徐々に昇温し、メタノールを留出させた。所定量のメタノールが流出したのち、リン化合物であるリン酸0.022重量部とリン酸アルカリ金属化合物であるリン酸二水素ナトリウム2水和物0.026重量部を添加し、余剰のエチレングリコールを留出させ、エステル交換反応を終了させた。エステル交換反応終了後15分間で260Torrまで徐々に減圧し余剰のEGを留出させたのちに重合を行う反応槽へ移行した。
【0040】
重合を行う反応槽において、240℃で撹拌しながら290℃まで徐々に昇温および減圧を行い、エチレングリコールを留出させながら重合を行った。最終圧力は0.1Torrであった。目標の溶融粘度に達したら重合反応槽を窒素ガスにて常圧へ戻し、ポリエステル組成物をストランド状に水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、ポリエステルチップを得た。
【0041】
得られたポリエステル組成物は、固有粘度0.60、屈折率1.617であり、金属元素量Mは2.245mol/t、リン元素量Pは2.86mol/tであり、M/Pは0.78であった。また、示差走査熱量計(以下DSC)を用いて熱特性を測定したところ、ガラス転移温度(以下Tg)が117.3℃であったが、1st.Runおよび2nd.Runのどちらも結晶融解温度(以下Tm)、結晶融解熱量(以下ΔHm)ともに検出されず、非晶性の組成物であることが確認された。
【0042】
続いて、得られたポリエステル組成物を真空乾燥機にて100℃雰囲気化で8時間乾燥させ、十分に水分を除去したのち、280℃で溶融し、Tダイより溶融押し出しし、表面温度25℃に冷却されたロール上にシート状に吐出した。その際、ワイヤー状電極を使用して、静電印加し、冷却ロールに密着させて冷却固化した未延伸フィルムを得た。次いでロール型延伸機を用い、予熱温度を115℃、延伸温度を120℃とし、未延伸シートを長手方向に3.0倍延伸し、すぐに表面温度25℃に冷却されたロールで冷却化する。次いでテンター式横延伸機にて予熱温度を100℃、延伸温度を150℃とし、幅方向に3.0倍延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスをかけながら200℃で5秒間熱固定し、フィルム厚み50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0043】
得られた二軸延伸ポリエステルフィルムについて、DSCを用いて熱特性を測定したところ、1st.RunにおいてTmは210℃以上260℃以下の間に確認され、ΔHmは10J/g以上であったが、2nd.Runにおいては、Tg117.3℃、Tmは検出されなかったため、延伸による配向結晶化が確認された。また、試験片打抜機を用いて加工性を評価したところ、端面の割れはなく、加工性に優れていることが確認された。
【0044】
実施例2〜4、比較例1〜3
EG、PXGの共重合比率を変更する以外は実施例1と同様にしてポリエステル組成物および二軸延伸フィルムを得た。
【0045】
実施例2については、PXG10モル%、EG90モル%としたポリエステル組成物を得た結果、非晶性となることが確認された。また、得られたポリエステル組成物を製膜し、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た結果、延伸応力による配向結晶化がされているが、熱的には非晶性かつ加工性に優れたフィルムであることが確認された。
【0046】
実施例3については、PXG20モル%、EG80モル%としたポリエステル組成物を得た結果、非晶性であることが確認された。また、得られたポリエステル組成物を製膜し、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た結果、延伸応力による配向結晶化がされているが、熱的には非晶性かつ加工性に優れたフィルムであることが確認された。
【0047】
実施例4については、PXG5モル%、EG95モル%としたポリエステル組成物を得た結果、非晶性であることが確認された。また、得られたポリエステル組成物を製膜し、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た結果、延伸応力による配向結晶化がされているが、熱的には非晶性かつ加工性に優れたフィルムであることが確認された。
【0048】
比較例1については、PXG25モル%、EG75モル%としたポリエステル組成物を得た結果、非晶性であることが確認された。また、得られたポリエステル組成物を製膜したところ、縦延伸の際にロールに粘着したため、二軸延伸フィルムとすることができなかった。
【0049】
比較例2については、ポリエチレンナフタレート組成物を得た結果、結晶性であった。また、得られたポリエステル組成物を製膜し、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た結果、2nd.RunにおいてTm、ΔHmが確認され、結晶性であり、打抜試験においては7枚の割れが確認された。
【0050】
比較例3については、PXG100モル%としたポリエステル組成物を得た結果、結晶性であった。また、得られたポリエステル組成物を製膜し、二軸延伸ポリエステルフィルムを得た結果2nd.RunにおいてTm、ΔHmが確認され、結晶性であり、打抜試験においては10枚の割れが確認された。
(積層する他のポリエステル組成物の合成)
参考例1
テレフタル酸ジメチル(以下DMT)65.6重量部、NDCM35.4重量部、EG60.0重量部、三酸化アンチモン0.01重量部をそれぞれ計量し、エステル交換反応槽に仕込み、内容物を180℃で溶解させた。
【0051】
解した内容物を撹拌しながら酢酸マンガン0.055重量部を添加してから235℃まで徐々に昇温し、メタノールを留出させた。所定量のメタノールが流出したのち、リン化合物であるリン酸0.022重量部とリン酸アルカリ金属化合物であるリン酸二水素ナトリウム0.026重量部を添加し、余剰のエチレングリコールを留出させ、エステル交換反応を終了させた。
【0052】
エステル交換反応終了後15分間で260Torrまで徐々に減圧し初期重合を行ったのちに重合を行う反応槽へ移行した。
【0053】
重合を行う反応槽において、240℃で撹拌しながら290℃まで徐々に昇温および減圧を行い、エチレングリコールを留出させながら重合を行った。最終圧力は0.1Torrであった。
【0054】
目標の溶融粘度に達したら重合反応槽を窒素ガスにて常圧へ戻し、ガット上のポリマーを水槽へ吐出した。水槽で冷却されたポリエステルガットはカッターにてカッティングし、ポリエステルチップを得た。
【0055】
得られたポリエステル組成物は、固有粘度0.60であり、DSCを用いて熱特性を測定したところ、Tgが112.4℃であったが、TmおよびΔHmは検出されなかった。
【0056】
参考例2
DMT30モル%、NDCM70モル%とした以外は参考例1と同様にしてポリエステル組成物を得た。得られたポリエステル組成物は、固有粘度0.60、Tg95.3℃であり、TmおよびΔHmは検出されなかった。
【0057】
参考例3
DMT100モル%とした以外は参考例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物を得た。得られたポリエチレンテレフタレート組成物は、固有粘度0.60、Tg80.7℃、Tm252.7℃であった。
【0058】
実施例5
実施例1のポリエステル組成物と参考例1ポリエステル組成物を2台のベント付き二軸押出機にてそれぞれ280℃で溶融状態としたのち、ギヤポンプおよびフィルターを介して、401層のフィードブロックにて実施例1のポリエステル組成物からなる層Aと、参考例1のポリエステル組成物からなる層Bが交互に積層するよう合流させる。なお、両表層部分は延伸による配向結晶性を持つ実施例1のポリエステル組成物となるようにする。このようにして得られた401層からなる積層体をTダイより溶融押出しし、表面温度25℃に冷却されたロール上にシート状に吐出する。その際、静電印加し、冷却ロールに密着させて冷却固化した未延伸フィルムを得る。次いで延伸温度120℃にて、長手方向に3.0倍に延伸する。次いで延伸温度150℃で幅方向に3.0倍の延伸倍率で延伸し、そのままテンター内にて幅方向に4%のリラックスをかけながら200℃で5秒間熱固定し、フィルム厚み50μmの積層ポリエステルフィルムを得た。
【0059】
得られた積層ポリエステルフィルムについて、DSCを用いて熱特性を測定したところ、1st.Runにおいて、Tm234.3℃、ΔHm29J/gであり、2nd.Runにおいては、Tmは検出されず、延伸応力により配向結晶化しているが、熱的には非晶性の積層ポリエステルフィルムであることが確認された。また、試験片打抜機を用いて加工性を評価したところ、端面の割れや剥がれはなく、加工性に優れていることが確認された。
【0060】
実施例6
層Bに参考例2にて得られたポリエステル組成物を使用する以外は実施例9と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た結果、延伸応力による配向結晶化がされているが、熱的には非晶性かつ加工性に優れた積層ポリエステルフィルムであることが確認された。
【0061】
比較例4
層Bに参考例3にて得られたポリエステル組成物を使用する以外は実施例9と同様にして積層ポリエステルフィルムを得た結果、DSC測定の2nd.RunにおいてTm、ΔHmが確認されたため結晶性であり、打抜き試験においては8枚の割れが確認された。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】