特許第6874371号(P6874371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874371共重合体並びにそれを用いた医療デバイス、医療用分離膜モジュール、および血液浄化器
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  • 特許6874371-共重合体並びにそれを用いた医療デバイス、医療用分離膜モジュール、および血液浄化器 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874371
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】共重合体並びにそれを用いた医療デバイス、医療用分離膜モジュール、および血液浄化器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20210510BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 18/04 20060101ALI20210510BHJP
   C08F 26/10 20060101ALI20210510BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20210510BHJP
   D01F 1/08 20060101ALI20210510BHJP
   D01F 6/76 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   A61M1/16 101
   A61M1/18 500
   C08F18/04
   C08F26/10
   B01D71/68
   D01F1/08
   D01F6/76 D
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-520179(P2016-520179)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(86)【国際出願番号】JP2016058162
(87)【国際公開番号】WO2016158388
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年1月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-72340(P2015-72340)
(32)【優先日】2015年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鵜城 俊
(72)【発明者】
【氏名】高橋 博
(72)【発明者】
【氏名】上野 良之
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−053465(JP,A)
【文献】 特開平08−254833(JP,A)
【文献】 特表2003−500686(JP,A)
【文献】 特表2004−520088(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0127390(US,A1)
【文献】 特表2008−510602(JP,A)
【文献】 特開2009−262147(JP,A)
【文献】 特表2013−521363(JP,A)
【文献】 特開2014−042913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 − 1/38
A61K 35/00 − 35/768
A61K 36/06 − 36/068
A61L 15/00 − 15/64
C08F 218/00 − 218/18
C08F 226/00 − 226/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が、生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されてなる分離膜を含む、医療用分離膜モジュールであり、
前記親水性ユニットは、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレングリコールおよびビニルカプロラクタムからなる群から選択される1種以上が与える繰り返し単位であり、
前記疎水性ユニットは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)では20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下である繰り返し単位であり、かつ、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含み、カルボン酸ビニルユニットの側鎖エステル結合の炭素原子に結合した末端炭化水素基の炭素数は、2以上7以下であり、
前記共重合体全体に対する前記親水性ユニットのモル分率は、30%以上90%以下であり、
前記親水性ユニットと前記疎水性ユニットは、ランダムまたは交互に配列されている、医療デバイス。
【請求項2】
親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が、生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されてなる、血液浄化器であり、
前記親水性ユニットは、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレングリコールおよびビニルカプロラクタムからなる群から選択される1種以上が与える繰り返し単位であり、
前記疎水性ユニットは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)では20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下である繰り返し単位であり、かつ、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含み、該カルボン酸ビニルユニットの側鎖エステル結合の炭素原子に結合した末端炭化水素基の炭素数は、2以上7以下であり、
前記共重合体全体に対する前記親水性ユニットのモル分率は、30%以上90%以下であり、
前記親水性ユニットと前記疎水性ユニットは、ランダムまたは交互に配列されている、医療デバイス。
【請求項3】
親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体が、生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されてなる、血液回路、血液保存バッグ、カテーテル又はステントであり、
前記親水性ユニットは、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレングリコールおよびビニルカプロラクタムからなる群から選択される1種以上が与える繰り返し単位であり、
前記疎水性ユニットは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)では20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下である繰り返し単位であり、かつ、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含み、該カルボン酸ビニルユニットの側鎖エステル結合の炭素原子に結合した末端炭化水素基の炭素数は、2以上7以下であり、
前記共重合体全体に対する前記親水性ユニットのモル分率は、30%以上90%以下であり、
前記親水性ユニットと前記疎水性ユニットは、ランダムまたは交互に配列されている、医療デバイス。
【請求項4】
前記分離膜の主原料は、ポリスルホン系ポリマーである、請求項1記載の医療デバイス。
【請求項5】
持続緩徐式である、請求項2記載の医療デバイス。
【請求項6】
前記親水性ユニットがビニルピロリドンユニットを含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の医療デバイス。
【請求項7】
前記共重合体の数平均分子量が2,000以上である、請求項1〜6のいずれか一項記載の医療デバイス。
【請求項8】
前記共重合体は、抗血栓性を有する、請求項1〜のいずれか一項記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等生体成分に接して長時間使用されても血小板やタンパク質の付着を抑制できる共重合体並びにそれを用いた医療デバイス、医療用分離膜モジュール、および血液浄化器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療デバイスに用いられる材料の表面に血液・体液のような生体成分が接触すると、材料が異物として認識され、血小板やタンパク質の付着、材料の性能低下、さらには生体反応を惹起し、深刻な問題となる。例えば、血液浄化器では、タンパク質や血小板が付着することによって、分画性能や透水性能の低下が起こる。特に、急性腎不全の治療に用いられる持続緩徐式血液浄化器では、1日ないし数日間もの間、連続して使用されるため、血小板やタンパク質の付着を抑制し、血液浄化器の使用可能時間を増加させることが重要である。かかる問題に対して、医療デバイスに用いられる材料の表面を親水化することによる解決が試みられており、様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、ポリスルホンに親水性高分子であるポリビニルピロリドンを、製膜原液の段階で混合させて成形することで、膜に親水性を与え、汚れを抑制する方法が知られている。しかし、この方法で表面に親水性を付与するためには、製膜原液中の親水性高分子を多く用いる必要があることや、基材となる高分子と相溶性のある親水性高分子に限定されることなどの制約を受けるという問題があった。
【0004】
一方、特許文献1には、ポリスルホン系の分離膜をポリビニルピロリドンなどの親水性高分子溶液と接触させた後、放射線架橋により不溶化した被膜層を形成する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2、3には、ビニルピロリドン/酢酸ビニル共重合体に代表される親水性ユニットと疎水性ユニットからなる共重合体を表面に導入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−238139号公報
【特許文献2】特開2009−262147号公報
【特許文献3】特表2005−518841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子と、疎水性高分子であるポリスルホン系高分子の相互作用が弱いために、被膜層を形成させることが困難という問題があった。
【0008】
一方、特許文献2、3に記載の方法では、疎水性ユニットが疎水性の基材と相互作用することで、共重合体の導入効率が高まり、効率的に親水化することができる。そのため、ポリビニルピロリドンなどの親水性高分子のみを導入した場合と比較して、血小板やタンパク質の付着が抑制されることが明らかとなっている。
【0009】
しかしながら、特許文献2、3に記載の方法でも、持続緩徐式血液浄化器のように長時間血液等生体成分と接触して使用される医療デバイスに用いた場合、長時間血液等生体成分と接触することにより、血液凝固やタンパク質付着が時間と共に進み、遂には目詰まりを起こし、使用継続不能となってしまうことがある。
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、長時間、血液等生体成分と接触しても血小板やタンパク質の付着を抑制可能な抗血栓性の共重合体、およびそれを用いた血液適合性の高い医療デバイス、医療用分離膜モジュール、血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
血液等生体成分に含まれるタンパク質は疎水性表面に付着しやすいため、医療デバイスの接触表面全体が親水性であることが重要とされている。これは、タンパク質の材料表面への付着がタンパク質の高次構造が変化して内部にある疎水性部位が露出し、かかる疎水性部位が材料表面と疎水性相互作用することが原因と考えられる。
【0012】
しかしながら、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコールのような親水性高分子で表面を被覆しても、タンパク質などの付着は抑制できない。医療デバイス表面の親水性が強すぎると、表面の運動性の低い吸着水がタンパク質の構造を不安定化し、表面にトラップされるために、タンパク質の付着を充分に抑制することができないためと考えられる。
【0013】
そこで、ビニルピロリドン、ポリビニルアルコールのような親水性モノマーと、ポリエチレンや酢酸ビニルのような疎水性モノマーを共重合して得られる共重合体を表面に存在させる方法が開発され、同方法により、タンパク質や血小板の付着を効率的に抑制できることが知られている。しかしながら、前記共重合体でも、持続緩徐式血液浄化器のように長時間血液等生体成分と接触して使用される医療デバイスに用いた場合、血液凝固やタンパク質付着に対する耐性が十分ではない場合があった。
【0014】
以上を踏まえて本発明者らは鋭意検討を進め、長時間の血液凝固やタンパク質付着の抑制には、共重合体の側鎖構造の設計が重要であることを見出した。そして、疎水性ユニットの側鎖を嵩高い置換基とすることにより、親水性ユニットと共重合体の周囲の水の相互作用を抑制し、タンパク質の付着を長時間にわたって抑制できることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明の、血液適合性やタンパク質付着抑制が維持される抗血栓性の共重合体、およびそれを用いた医療デバイスは、下記(1)〜(11)の構成によって達成されることを見出した。
(1)親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体であって、
前記疎水性ユニットはカルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含み、
前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数が2以上7以下である、共重合体。
(2)前記親水性ユニットがビニルピロリドンユニットを含む、上記(1)に記載の共重合体。
(3)数平均分子量が2,000以上である、上記(1)または(2)に記載の共重合体。
(4)共重合体全体に対する前記親水性ユニットのモル分率が30%以上90%以下である、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の共重合体。
(5)前記親水性ユニットと疎水性ユニットがランダムまたは交互に配列されてなる、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の共重合体。
(6)医療デバイスに用いられる、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の共重合体。
(7)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の共重合体を用いた、医療デバイス。
(8)前記共重合体が、生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されてなる、上記(7)記載の医療デバイス。
(9)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の共重合体を含む分離膜を有する、医療用分離膜モジュール。
(10)前記分離膜の主原料がポリスルホン系ポリマーである、上記(9)に記載の医療用分離膜モジュール。
(11)上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の共重合体を用いた、血液浄化器。
(12)持続緩徐式である、上記(11)に記載の血液浄化器。
(13)前記共重合体が、血液または生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されてなる、上記(11)または(12)に記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0016】
本発明の共重合体は長時間、血液等生体成分と接触して使用されても血小板やタンパク質の付着を抑制することができる。また、本発明の医療デバイス、医療用分離膜モジュール、血液浄化器は、血液等生体成分と接触して使用されても血小板やタンパク質の経時的な付着が抑制され、長時間の使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】アルブミン篩係数の経時変化測定に用いる回路の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の共重合体は、親水性ユニットと疎水性ユニットとからなる共重合体であって、前記疎水性ユニットがカルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含み、前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数が2以上7以下である。
【0019】
ここで、側鎖末端の炭素数とは、カルボン酸ビニルユニットの側鎖エステル結合の炭素原子に結合した末端炭化水素基の炭素数のことを指し、例えば、炭素数1とは酢酸ビニルのことを、炭素数2とはプロパン酸ビニルのことを指す。前記末端炭化水素基は、直鎖構造のみならずイソプロピル基やターシャリーブチル基のような分岐構造や、シクロヘキシル基やフェニル基のような環状構造、さらには、窒素原子、酸素原子のようなヘテロ原子を含んでいても良い。
【0020】
また、本発明において、ユニットとは、モノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。例えば、疎水性ユニットとは、疎水性モノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。また、カルボン酸ビニルユニットとは、カルボン酸ビニルモノマーを重合して得られる(共)重合体中の繰り返し単位を指す。
【0021】
本発明において、疎水性ユニットとは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)では水に難溶または不溶である繰り返し単位と定義する。ここで、水に難溶または不溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1g以下のことをいう。
【0022】
また、親水性ユニットとは、それ単独の重合体(数平均分子量が30,000以上50,000以下)で水に易溶である繰り返し単位と定義する。ここで、水に易溶とは、20℃の純水100gに対する溶解度が1gを超えることをいい、好ましくは10g以上である。
【0023】
親水性ユニットとしては、特に限定しないが、メタクリル酸、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ビニルピロリドン、ビニルアルコール、エチレングリコールなどが与える繰り返し単位が挙げられる。これらのうち、水酸基やカルボン酸基を有するユニットに比べて、吸着水との相互作用が強すぎず、疎水性ユニットとのバランスが取りやすいことから、ビニルピロリドンが与える繰り返し単位が好ましい。
【0024】
なお、共重合体の作用・機能を阻害しない程度において、他のモノマー、例えば、ヒドロキシ基やカルボキシ基、グリシジル基のような反応性基を含むモノマーが共重合されていてもよい。
【0025】
本発明の共重合体の疎水性ユニットは、カルボン酸ビニルユニットを少なくとも一種類含む。
【0026】
前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数は、2以上7以下である。前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数を2以上7以下、好ましくは2以上6以下、より好ましくは2以上4以下とすることにより、吸着水の運動性を制御することができ、共重合体の抗血栓性を大きく向上させることが可能となる。前記カルボン酸ビニルユニットの側鎖末端の炭素数が多すぎると、共重合体全体の疎水性が強くなるため、血小板やタンパク質の付着しやすくなる。また、少なすぎると、例えば、持続緩徐式血液浄化器のように長時間血液等生体成分と接触して使用される医療デバイスに用いた場合、時間と共に血液凝固やタンパク質付着が起こる場合がある。前記カルボン酸ビニルユニットに用いられるカルボン酸ビニルとしてより好ましいのは、プロパン酸ビニル(炭素数2)、酪酸ビニル(炭素数3)、ペンタン酸ビニル(炭素数4)、ピバル酸ビニル(炭素数4)である。なお、本発明において、生体成分とは生体を構成する血液・体液の他、生体の有するタンパク質、脂質、糖質を含有した物質を指す。
【0027】
本発明の共重合体の数平均分子量は、小さすぎると医療デバイスの表面へ共重合体を導入した場合に効果が十分発揮されにくくなる場合があり、血小板やタンパク質の付着が抑制されにくくなる場合があることから、好ましくは2,000以上であり、より好ましくは3,000以上である。一方、本発明の共重合体の数平均分子量の上限については特に制限はないが、数平均分子量が大きすぎると医療デバイス表面への導入効率が低下する場合があることから、1,000,000以下が好ましく、100,000以下がより好ましく、50,000以下がさらに好ましい。なお、本発明の共重合体の数平均分子量は、後述のとおり、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定される。
【0028】
本発明の共重合体において、共重合体全体に対する親水性ユニットのモル分率は、30%以上90%以下であることが好ましく、40%以上80%以下であることがより好ましく、50%以上70%以下であることがさらに好ましい。上記上限および下限のいずれの値を組み合わせた範囲であってもよい。前記親水性ユニットのモル分率が、小さすぎると共重合体全体の疎水性が強くなるため、血小板やタンパク質の付着が抑制されにくくなる。また、大きすぎると共重合体全体の親水性が強くなり、共重合体周囲の吸着水の運動性が低くなり、血小板やタンパク質の構造を不安定化するため、付着が抑制されなくなる。なお、本発明において、共重合体全体に対する親水性ユニットのモル分率は、後述のとおり、核磁気共鳴(NMR)測定で測定してピーク面積から算出する。ピーク同士が重なる等の理由でNMR測定によるモル分率の算出ができない場合は、元素分析によりモル分率を算出してもよい。
【0029】
本発明の共重合体における親水性ユニットと疎水性ユニットの配列としては、グラフト共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体などが挙げられる。これらのうち、タンパク質や血小板の付着抑制機能が高い点において好ましいのは、ブロック共重合体、交互共重合体、ランダム共重合体であり、1分子の中で親水性と疎水性の適度なバランスを有する点においてより好ましいのは、ランダム重合体または交互重合体である。ブロック共重合体や交互共重合体、ランダム共重合体が、グラフト共重合体、例えば主鎖が親水性ユニット、側鎖が疎水性ユニットからなるグラフト共重合体よりもタンパク質や血小板の付着抑制機能が高い理由は、グラフト共重合体では、主鎖にグラフトしたユニット部分がタンパク質などと接触する機会が多いため、共重合ポリマーとしての特性よりも、グラフト鎖部分の特性が大きく影響するためと考えられる。また、交互共重合体、ランダム共重合体が、ブロック共重合体より親水性と疎水性の適度なバランスの点でより好ましいのは、ブロック共重合体では、それぞれのユニットの特性(親水性部分と疎水性部分)がはっきり分かれるためではないかと考えられる。
【0030】
本発明の共重合体は、例えば、アゾ系開始剤を用いたラジカル重合法に代表される連鎖重合法により合成できるが、合成法はこれだけに限られるものではない。
【0031】
本発明の医療デバイスとは、主には血液・体液などの生体成分と接触して使用されるものである。かかる医療デバイスの具体例として、分離膜を内蔵した血液浄化器、血漿分離器、人工臓器などに用いられる医療用分離膜モジュールの他、血液回路、血液保存バッグ、カテーテル、ステントなどが挙げられる。
【0032】
上記医療デバイスは、本発明に係る共重合体を用いるものである。共重合体の利用形態としては様々であるが、いずれも血液などの生体成分(以下、血液等ということがある)が接する表面の少なくとも一部に導入することが好ましい。
【0033】
例えば、人工血管などに使用されるポリエチレンテレフタレートの平膜に本発明の共重合体の水溶液を浸漬し、血小板の付着を抑制できる。膜表面の血栓形成を防止する観点から、4.3×10μm面積あたりの血小板付着数が20個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましい。前記共重合体の水溶液の濃度は、0.01ppm以上であることが好ましく、0.1ppm以上であることがより好ましい。血小板付着数の測定は後述する方法により行う。
【0034】
また、分離膜を形成する一成分として、血液成分の付着を抑制するために膜の表面(特に、血液と接触させることが多い内表面)に本発明の共重合体を導入して、かかる分離膜をケーシングに内蔵してなる分離膜モジュールとしてもよい。分離膜の形態としては中空糸膜が好ましい。ここで、分離膜とは、血液や水溶液などの処理する液体に含まれる特定の物質を、吸着または物質の大きさなどにより、選択的に除去する膜のことである。また、血液回路の場合は、回路を構成するチューブ等における、主に血液等が接触する内表面に導入して用いることが好ましい。カテーテル、ステント等においても、主に血液等が接触する(金属)材料の表面に導入することが考えられる。ここで、共重合体を表面に導入するとは、コーティングまたは浸漬等の方法により共重合体を対象の表面に配することをいう。例えば分離膜の場合は、膜を形成した後に共重合体をコーティングする方法が好ましく用いられ、共重合体を溶液(好ましくは水溶液)として膜の表面に接触させる方法が用いられる。より具体的には、共重合体の溶液を所定流量で流す方法、上記溶液に膜を浸漬させる方法が挙げられる。その他、膜を形成する原液に共重合体を添加して、紡糸する方法において、意図的に共重合体が膜表面に集まるように条件設定する方法も挙げられる。
【0035】
さらに、本発明の共重合体を医療デバイスの表面に導入する方法として、化学反応による共有結合を利用しても良い。具体的には、医療デバイスの基材表面のヒドロキシ基やカルボキシ基、アミノ基、スルホン酸基、ハロゲン化アルキル基などの反応性基と、共重合体の主鎖の末端や側鎖に導入された反応性基とを反応させることによって達成される。
【0036】
基材表面に、反応性基を導入する方法としては、反応性基を有するモノマーを重合して表面に反応性基を有する基材を得る方法や、重合後、オゾン処理、プラズマ処理によって反応性基を導入する方法などが挙げられる。
【0037】
共重合体の主鎖の末端に反応性基を導入する方法としては、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]や4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)のような反応性基を有する開始剤を使用する方法などが挙げられる。
【0038】
共重合体の側鎖に反応性基を導入する方法としては、共重合体の作用・機能を阻害しない程度において、メタクリル酸グリシジルやメタクリル酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルのような反応性基を有するモノマーを共重合する方法などが挙げられる。
【0039】
上記医療デバイスの素材となるポリマーには、ポリスルホン系ポリマー、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステルなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。中でも、ポリスルホン系ポリマーやポリメチルメタクリレートは、中空糸膜を形成させやすく、また、本発明の共重合体、すなわちエステル基含有ポリマーによりコーティングしやすいため好適に用いられる。
【0040】
本発明において、中空糸膜の主原料はポリスルホン系ポリマーであることがより好ましい。ここで、ポリスルホン系ポリマーとは、主鎖に芳香環、スルフォニル基およびエーテル基を有するポリマーであり、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリルエーテルスルホンなどが挙げられる。また、主原料とは、ポリスルホン系ポリマー全体に対して90重量%以上含まれる原料を表す。
【0041】
本発明における中空糸膜の主原料として、例えば、次式(1)及び/又は(2)の化学式で示されるポリスルホン系ポリマーが好適に使用されるが、これらに限定されるものではない。式中のnは1以上の整数であり、好ましくは50〜80である。なお、nが分布を有する場合は、その平均値をnとする。
【0042】
【化1】
【0043】
本発明の医療用分離膜モジュールに用いることができるポリスルホン系ポリマーは、上記式(1)及び/又は(2)で表される繰り返し単位のみからなるポリマーが好適ではあるが、本発明の効果を妨げない範囲で他のモノマーと共重合していたり、変性体であっても良い。他のモノマーと共重合している場合における他のモノマーの共重合比率は、ポリスルホン系ポリマー全体に対して10重量%以下であることが好ましい。
【0044】
本発明の医療用分離膜モジュールに用いることができるポリスルホン系ポリマーの具体例としては、ユーデルポリスルホンP−1700、P−3500(ソルベイ社製)、ウルトラソンS3010、S6010(BASF社製)、ビクトレックス(住友化学株式会社製)、レーデルA(ソルベイ社製)、ウルトラソンE(BASF社製)等のポリスルホン系ポリマーが挙げられる。
【0045】
本発明の医療用分離膜モジュールを製造する方法としては、その用途により、種々の方法があるが、大まかな工程としては、分離膜の製造工程と、その分離膜をモジュールに組み込む工程とにわけることができる。さらに放射線照射による処理を、分離膜をモジュールに組み込む工程の前に用いてもよいし、分離膜をモジュールに組み込む工程の後に用いてもよい。モジュールに組み込む工程の後に、放射線照射による処理としてγ線照射による処理を行うことは、本発明における分離膜モジュールが医療用であるため、滅菌も同時に行うことができる点で好ましい。
【0046】
血液浄化器に用いられる中空糸膜モジュールの製造方法についての一例を示す。
【0047】
血液浄化器に内蔵される中空糸膜の製造方法としては、一方法としてつぎのような方法がある。すなわち、ポリスルホンとポリビニルピロリドン(重量比率20:1〜1:5が好ましく、5:1〜1:1がより好ましい)をポリスルホンの良溶媒(N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジオキサンなどが好ましい)および貧溶媒の混合溶液に溶解させた原液(濃度は、10〜30重量%が好ましく、15〜25重量%がより好ましい)を二重環状口金から吐出する際に内側に注入液を流し、乾式部を走行させた後凝固浴へ導く。この際、乾式部の湿度が影響を与えるために、乾式部走行中に膜外表面からの水分補給によって、外表面近傍での相
分離挙動を速め、孔径拡大し、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を減らすことも可能である。ただし、相対湿度が高すぎると外表面での原液凝固が支配的になり、かえって孔径が小さくなり、結果として透析の際の透過・拡散抵抗を増大する傾向がある。そのため、相対湿度としては60〜90%が好適である。また、注入液組成としてはプロセス適性から原液に用いた溶媒を基本とする組成からなるものを用いることが好ましい。注入液濃度としては、例えばジメチルアセトアミドを用いたときは、45〜80重量%、さらには60〜75重量%の水溶液が好適に用いられる。
【0048】
中空糸膜をモジュールに内蔵する方法としては、特に限定されないが、一例を示すと次の通りである。まず、中空糸膜を必要な長さに切断し、必要本数を束ねた後、筒状ケースに入れる。その後両端に仮のキャップをし、中空糸膜両端部にポッティング剤を入れる。このとき遠心機でモジュールを回転させながらポッティング剤を入れる方法は、ポッティング剤が均一に充填されるために好ましい方法である。ポッティング剤が固化した後、中空糸膜の両端が開口するように両端部を切断し、中空糸膜モジュールを得る。
【0049】
本発明において、中空糸膜の主原料に用いられるポリスルホン系ポリマーは、総じて疎水性が強いことから、そのまま中空糸膜として用いるとタンパク質などの有機物が付着しやすくなる。そこで、本発明の医療用分離膜モジュールでは、本発明の共重合体を表面に導入した中空糸膜が好適に用いられる。表面への共重合体の導入方法としては、共重合体を溶解した溶液をモジュール内の中空糸膜に接触させる方法や、中空糸膜紡糸の際に、共重合体を含んだ注入液を中空糸膜内側に接触させる方法が挙げられる。
【0050】
本発明の共重合体を溶解した水溶液をモジュール内の中空糸膜に通液させ、表面へ共重合体を導入する場合、水溶液の共重合体の濃度が小さすぎると十分な量の共重合体が表面に導入されない。よって、前記水溶液中の共重合体濃度は10ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上がさらに好ましい。ただし、水溶液の共重合体の濃度が大きすぎると、モジュールからの溶出物の増加が懸念されるため、前記水溶液中の共重合体濃度は100,000ppm以下が好ましく、10,000ppm以下がより好ましい。
【0051】
なお、共重合体が水に難溶または不溶である場合は、中空糸を溶解しない有機溶媒、または、水と相溶し、かつ中空糸を溶解しない有機溶媒と水との混合溶媒に共重合体を溶解させてもよい。前記有機溶媒または混合溶媒に用いうる有機溶媒の具体例として、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
また、前記混合溶媒中の有機溶媒の割合が多くなると、中空糸が膨潤し、共重合体が中空糸膜内部まで拡散してしまい、表面のみに効率的に共重合体を導入することが難しくなる場合がある。したがって、前記混合溶媒中の有機溶媒の重量分率は60%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。
【0053】
本発明の医療用分離膜モジュールは、導入した共重合体が使用時に溶出するのを防ぐため、共重合体を表面に導入後、放射線照射や熱処理を行い、共重合体を不溶化することが好ましい。
【0054】
前記放射線照射にはα線、β線、γ線、X線、紫外線、電子線などを用いることができる。ここで、人工腎臓などの血液浄化器では出荷前に滅菌することが義務づけられており、その滅菌には近年、残留毒性の少なさや簡便さの点から、γ線や電子線を用いた放射線滅菌法が多用されている。したがって、医療用分離膜モジュール内の中空糸膜に本発明の共重合体を溶解した水溶液を接触させた状態で放射線滅菌法を用いることは、滅菌と同時に該共重合体の不溶化も達成できるため好ましい。
【0055】
本発明の医療用分離膜モジュールにおいて、中空糸膜の滅菌と改質を同時に行う場合、放射線の照射線量は15kGy以上が好ましく、25kGy以上がより好ましい。血液浄化用モジュール等をγ線で滅菌するには15kGy以上が効果的なためである。また、前記照射線量は100kGy以下が好ましい。照射線量が100kGyを超えると、共重合体が3次元架橋やカルボン酸ビニルユニットのエステル基部分の分解などを起こしやすくなり、血液適合性が低下する場合があるためである。
【0056】
本発明において、放射線を照射する際の架橋反応を抑制するため、抗酸化剤を用いてもよい。抗酸化剤とは、ほかの分子に電子を与えやすい性質を持つ分子のことをいう。具体的には、ビタミンCなどの水溶性ビタミン類、ポリフェノール類、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの抗酸化剤は単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。抗酸化剤を本発明の医療用分離膜モジュールに用いる場合、安全性を考慮する必要があるため、毒性の低い抗酸化剤が好適に用いられる。
【0057】
本発明の共重合体の中空糸膜表面への導入量は、後述のとおり、全反射赤外分光法(ATR−IR)により定量可能である。また、必要に応じて、X線電子分光法(XPS)などによっても定量可能である。ここで中空糸膜表面とは、血液が接触する中空糸膜内表面のことを指す。
【0058】
本発明において、ATR−IRで共重合体の表面導入量を定量する際には、膜表面の異なる3箇所において、1730cm−1付近のエステル基C=O由来の赤外吸収ピーク面積(AC=O)の、1580cm−1付近のポリスルホンのベンゼン環C=C由来の赤外吸収ピーク面積(AC=C)に対する比(AC=O)/(AC=C)を算出する。同一の中空糸膜における任意の3箇所で測定し、その平均値を共重合体の表面導入量とする。なお、ATR-IRでは深さ数マイクロメートルまでの表面の測定が可能である。
【0059】
医療用分離膜モジュールへのタンパク質や血小板の付着を十分に抑制するためには、共重合体の表面導入量が0.001以上であることが好ましく、0.01以上であることがより好ましく、0.03以上であることがさらに好ましい。
【0060】
本発明の血液浄化器は、本発明の共重合体を用いたものであるが、好ましくは、医療用分離膜モジュールを血液浄化器として適用したものがよい。ここで、血液浄化器とは、血液を体外に循環させて、血中の老廃物や有害物質を取り除く機能を有した医療デバイスのことをいい、人工腎臓用モジュールや外毒素吸着カラムなどが挙げられる。
【0061】
本発明の血液浄化器は、本発明の共重合体を用いることにより、血液適合性に優れ、血小板やタンパク質の付着抑制性を長時間維持できる。したがって、本発明の共重合体を持続緩徐式の血液浄化器に用いると、その効果を顕著に確認可能である。かかる血液浄化器においても、共重合体が血液などの生体成分と接する表面の少なくとも一部に導入されることが好ましい。
【0062】
ここで、持続緩徐式の血液浄化器とは、8時間以上の血液濾過、血液透析、血液透析濾過が行われる血液浄化器のことを指す。
【0063】
本発明における共重合体は、以下の製造方法により製造されるが、この方法に限られるものではない。
【0064】
親水性モノマー、疎水性モノマーをそれぞれ所定量と、重合溶媒および重合開始剤とを混合し、窒素雰囲気下で所定温度にて所定時間、攪拌しながら混合し、重合反応させる。親水性モノマー、疎水性モノマーの量比は、共重合体における親水性ユニットのモル分率に応じて決めることができる。反応液を室温まで冷却して重合反応を停止し、ヘキサン等の溶媒に投入する。析出した沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体を得ることができる。
【0065】
上記重合反応は、好ましくは30℃〜150℃、より好ましくは50℃〜100℃、更に好ましくは70℃〜80℃の温度範囲で行われる。圧力は、常圧であることが好ましい。
【0066】
上記重合反応の反応時間は、1時間以上、好ましくは3時間以上、さらに好ましくは5時間以上であることが好ましい。反応時間が短いと、共重合体に大量の未反応モノマーが残存しやすくなる場合がある。一方、反応時間は24時間以下、好ましくは12時間以下であることが好ましい。反応時間が長くなると、二量体の生成など副反応が起こりやすくなり、分子量の制御が困難になる場合がある。
【0067】
上記重合反応において、重合溶媒としては、モノマーと相溶する溶媒が好ましい。例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランのようなエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アミルアルコール、ヘキサノール等のアルコール系溶媒、水などが用いられる。これらの溶媒のうち、毒性が少ないことから、アルコール系溶媒または水を用いることが好ましい。
【0068】
上記重合反応の重合開始剤としては、光重合開始剤や熱重合開始剤が用いられる。ラジカル、カチオン、アニオンいずれを発生する重合開始剤を用いても良いが、モノマーの分解を起こさないという点で、ラジカル重合開始剤が好適に使用される。ラジカル重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等のアゾ系開始剤、過酸化水素、過酸化ベンゾイル、ジ−tert−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等の過酸化物開始剤が使用される。
【0069】
重合反応停止後、重合反応溶液を投入する溶媒としては、共重合体が沈殿する溶媒が好ましく、特に、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンのような炭化水素系溶媒や、ジメチルエーテル、エチルメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジフェニルエーテルのような疎水性の高いエーテル系溶媒が用いられる。
【0070】
本発明では、血小板やタンパク質の付着を定量化する方法として、後述のとおり、共重合体を導入した医療用分離膜モジュールに牛血液を灌流させた際のアルブミン篩係数の経時変化を測定する。血小板やタンパク質が付着すると、中空糸の細孔が目詰まりを起こすため、アルブミン篩係数が低下していく。
【0071】
人工腎臓用モジュールなどの血液浄化器では、タンパク質や血小板が付着することによって、分画性能や透水性能が低下するのみならず、血液凝固が原因で中空糸内部に血液が流通できなくなり、体外循環を続けられなくなることがある。この血小板やタンパク質の付着は、特に血液に接してから60分以内に顕著に起こることから、本発明においては、血液の循環開始から10分後と60分後のアルブミン篩係数を測定し、その低下率を算出する。
【0072】
アルブミン篩係数の経時変化は以下のように測定する。まず、中空糸膜モジュール(1)と血液回路を図1のように接続する。ヘパリンを添加した牛血液を、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dlとなるよう調整し、循環用ビーカー(4)に入れる。牛血液を入れた循環用ビーカー(4)を、ヒーター(8)を備えた温水槽(9)中で37℃に保つ。
【0073】
Bi回路(5)の入口部、Bo回路(6)の出口部および、F回路(7)の出口部を上記で調整した牛血液2Lの入った循環用ビーカー(4)に入れ、Biポンプ(2)を循環流量100ml/分でスタートする。
【0074】
ここで、Bi回路(5)とは、循環用ビーカー(4)からBiポンプ(2)を経て中空糸モジュール(1)の血液側入口に入る血液の流路を表す。また、Bo回路(6)とは、中空糸モジュール(1)の血液側出口から出て循環用ビーカー(4)に入る血液の流路を表す。F回路(7)とは、中空糸モジュール(1)の透析液側出口から出てFポンプ(3)を経て循環用ビーカー(4)に入る血液の流路を表す。Biポンプ(2)とは、Bi回路(5)に血液を流すために用いられるポンプを表す。
【0075】
続いてFポンプ(3)を濾過流量10ml/分としてスタートし、経時的にBi回路(5)の入口部とBo回路(6)の出口部およびF回路(7)の出口部からそれぞれサンプリングを行う。なお、Fポンプ(3)とは、F回路(7)に血液を流すために用いられるポンプを表す。
【0076】
Fポンプ(3)スタートから経過時間ごとのアルブミン濃度を測定し、経過時間ごとのアルブミン篩係数(ScAlb)を下記式によって算出する。
【0077】
ScAlb(%)=CF/(CBi+CBo)×100
上式において、CFはF回路(7)の出口部のアルブミン濃度(g/ml)を表し、CBoはBo回路(6)の出口部のアルブミン濃度(g/ml)を表し、CBiはBi回路(5)の入口部のアルブミン濃度(g/ml)を表す。
【0078】
本発明において、灌流時間10分後のアルブミン篩係数(ScAlb10)に対する60分後のアルブミン篩係数(ScAlb60)の低下率は下記式により算出した。
【0079】
低下率(%)=(ScAlb10−ScAlb60)/ScAlb10×100
持続緩徐式の血液浄化器が使用される現場では、医療従事者の負担の軽減から、24時間または48時間おきに、血液浄化器の交換が行われることが望まれる。従って、血液浄化器は24時間、好ましくは48時間使用可能であることが好ましい。
【0080】
本発明の共重合体を導入した医療用分離膜モジュールの、灌流時間10分後のアルブミン篩係数に対する60分後のアルブミン篩係数の低下率は、血液浄化器を24時間使用し続けるためには10%以下であることが好ましい。さらに、血液浄化器を48時間以上使用可能とするためには、前記アルブミン篩係数の低下率は5%以下であることがより好ましい。
【0081】
本発明の共重合体は、血液適合性に優れ、タンパク質の付着抑制性を長時間維持できることから、医療デバイスに好適に用いられる。中でも血液浄化器、特に持続緩徐式血液浄化器に好適に用いられる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0083】
<評価方法>
(1)数平均分子量
水/メタノール=50/50(体積比)の0.1NLiNO溶液を調整し、GPC展開溶液とした。この溶液2mlに、共重合体2mgを溶解させた。この共重合体溶液100μLを、カラム(東ソーGMPWXL)を接続したGPCに注入した。流速0.5mL/minとし、測定時間は30分間であった。検出は示差屈折率(RI)検出器により行い、溶出時間15分付近にあらわれる共重合体由来のピークから、数平均分子量を算出した。数平均分子量は、百の位を四捨五入して算出した。検量線作成には、Agilent社製ポリエチレンオキシド標準サンプル(0.1kD〜1258kD)を用いた。
【0084】
(2)親水性ユニットのモル分率
共重合体2mgをクロロホルム−D、99.7%(和光純薬0.05V/V%TMS有)2mlに溶解し、NMRサンプルチューブに入れ、NMR測定を行った。温度は室温とし、積算回数は32回とした。この測定結果から、2.7〜4.3ppm間に認められるビニルピロリドンの窒素原子に隣接した炭素原子に結合したプロトン(3H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:3APVPと、4.3〜5.2ppm間に認められるカルボン酸ビニルのα位の炭素に結合したプロトン(1H)由来のピークとベースラインで囲まれた領域の面積:AVCから、APVP/(APVP+AVC)×100の値を算出し、ビニルピロリドンユニットのモル分率とした。なお、本方法はビニルピロリドンとカルボン酸ビニルとの共重合体においてモル分率を測定する場合の例であり、他のモノマーの組み合わせからなる共重合体の場合は適宜、適切なプロトン由来のピークを選択してモル分率を求める。モル分率は、一の位を四捨五入して算出した。
【0085】
(3)共重合体の中空糸表面への導入量
中空糸膜をミクロトームで半円筒状に削ぎ切りし、試料台に固定した。赤外光のあたる範囲(アパーチャ)である視野角を100μm×100μmとし、積算回数を一点につき30回として、測定を行った。1590cm−1付近のポリスルホンのベンゼン環二重結合に由来するピーク面積AC=Cと、1730cm−1付近の共重合体カルボン酸ビニルユニットのエステル結合に由来するピーク面積AC=Oとの比AC=O/AC=Cを算出した。一つのモジュールの中空糸に対して、同一の中空糸で3か所測定し、その平均値を共重合体の中空糸表面への導入量とした。平均値は、小数第3位を四捨五入して算出した。
【0086】
(4)アルブミン篩係数の低下率
アルブミン篩係数の低下率は以下のように測定した。まず、中空糸膜モジュール(1)と血液回路を図1のように接続した。ヘパリンを添加した牛血液を、ヘマトクリット30%、総タンパク濃度6〜7g/dlとなるよう調整し、循環用ビーカー(4)に入れた。牛血液を入れた循環用ビーカー(4)を、ヒーター(8)を備えた温水槽(9)中で37℃に保った。
【0087】
Bi回路(5)の入口部、Bo回路(6)の出口部および、F回路(7)の出口部を上記で調整した牛血液2Lの入った循環用ビーカー(4)に入れ、Biポンプ(2)を循環流量100ml/分でスタートした。
【0088】
続いてFポンプ(3)を濾過流量10ml/分としてスタートし、経時的にBi回路(5)の入口部とBo回路(6)の出口部およびF回路(7)の出口部からそれぞれサンプリングを行った。
【0089】
Fポンプ(3)スタートから経過時間ごとのアルブミン濃度を測定し、経過時間ごとのアルブミン篩係数(ScAlb)を下記式によって算出した。
【0090】
ScAlb(%)=CF/(CBi+CBo)×100
上式において、CFはF回路(7)の出口部のアルブミン濃度(g/ml)を表し、CBoはBo回路(6)の出口部のアルブミン濃度(g/ml)を表し、CBiはBi回路(5)の入口部のアルブミン濃度(g/ml)を表す。
【0091】
灌流時間10分後のアルブミン篩係数(ScAlb10)に対する60分後のアルブミン篩係数(ScAlb60)の低下率は下記式により算出した。低下率は、少数第1位以下を四捨五入して算出した。
【0092】
低下率(%)=(ScAlb10−ScAlb60)/ScAlb10×100
(5)医療用平膜の血小板付着試験方法
18mmφのポリスチレン製の円形板に両面テープを貼り付け、そこに0.5cm四方に切り取った平膜を固定した。平膜表面に汚れや傷、折り目などがあると、その部分に血小板が付着し、正しい評価ができないことがあるので汚れ、傷、折り目のない平膜を用いた。筒状に切ったFalcon(登録商標)チューブ(18mmφ、No.2051)に該円形板を、平膜を貼り付けた面が、円筒内部にくるように取り付け、パラフィルムで隙間を埋めた。この円筒管内を生理食塩水で洗浄後、生理食塩水で満たした。人間の静脈血を採血後、直ちにヘパリンを50U/mlになるように添加した。前記円筒管内の生理食塩水を廃棄後、前記血液を、採血後10分以内に、円筒管内に1.0ml入れて37℃にて1時間振盪させた。その後、平膜を10mlの生理食塩水で洗浄し、2.5%グルタルアルデヒド生理食塩水で血液成分の固定を行い、20mlの蒸留水にて洗浄した。洗浄した平膜を20℃、0.5Torrにて10時間減圧乾燥した。この平膜を走査型電子顕微鏡の試料台に両面テープで貼り付けた。その後、スパッタリングにより、Pt−Pdの薄膜を平膜表面に形成させて、試料とした。この平膜の表面をフィールドエミッション型走査型電子顕微鏡(日立社製S800)にて、倍率1500倍で試料の内表面を観察し、1視野中(4.3×103μm2)の付着血小板数を数えた。50個以上付着している場合は、血小板付着抑制効果が無いものとして、付着数は50個とした。平膜中央付近で、異なる20視野での付着血小板数の平均値を血小板付着数(個/4.3×103μm2)とした。
【0093】
<中空糸膜モジュールの製造方法>
ポリスルホン(テイジンアモコ社製ユーデルP−3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N−ジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部に加え、90℃で14時間加熱溶解した。この製膜原液を外径0.3mm、内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金より吐出し芯液としてN,N−ジメチルアセトアミド57.5重量部、水42.5重量部からなる溶液を吐出させ、乾式長350mmを通過した後、水100%の凝固浴に導き中空糸を得た。得られた中空糸の径は内径200μm、膜厚40μmであった。この中空糸膜を内表面積が1.0mになるように、ケースに充填し、ポッティングし、端部を両面開口させて、中空糸膜モジュールとした。
【0094】
(実施例1)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体を以下の方法で作製した。ビニルピロリドンモノマー19.5g、プロパン酸ビニルモノマー17.5g、重合溶媒としてt−アミルアルコール56g、重合開始剤として2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)0.175gを混合し、窒素雰囲気下、70℃にて6時間撹拌した。反応液を室温まで冷却して反応を停止し、濃縮後、ヘキサンに投入した。析出した白色沈殿物を回収し、減圧乾燥して、共重合体21.0gを得た。H―NMRの結果から、ビニルピロリドンユニットのモル分率は60%であることがわかった。また、GPCの測定結果から、数平均分子量Mnが16,500であった。
【0095】
作製したビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体をポリスルホン中空糸表面に導入した医療用分離膜モジュールを以下の方法で作製した。前記共重合体300ppmを溶解した1.0重量%エタノール水溶液を、前記中空糸膜モジュールの製造方法により作製した中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口に通液させた。さらに、0.1重量%エタノール水溶液を、前記中空糸膜モジュールの血液側入口から透析液側入口および血液側入口から血液側出口へ通液後、25kGyのγ線を照射して医療用分離膜モジュールを作製した。ATR−IRの測定結果から、中空糸内表面の共重合体導入量(面積比)は平均0.06であることがわかった。作製した医療用分離膜モジュールのアルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は2%であった。
【0096】
【表1】
【0097】
(実施例2)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体のエタノール水溶液の濃度を200ppmとした以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は4%であった。また、ATR−IRの測定結果から、中空糸内表面の共重合体導入量(面積比)は平均0.05であることがわかった。
【0098】
(実施例3)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/ピバル酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率70%、数平均分子量3,900)を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は3%であった。
【0099】
(実施例4)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/酪酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量2,100)を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は9%であった。
【0100】
(実施例5)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルカプロラクタム/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルカプロラクタムのモル分率が70%、数平均分子量20,800)を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は7%であった。
【0101】
(実施例6)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/安息香酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率80%、数平均分子量2,900)である共重合体を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は8%であった。
【0102】
(実施例7)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/2−エチルヘキサン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率80%、数平均分子量4,500)である共重合体を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表1に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は8%であった。
【0103】
(比較例1)共重合体を導入しないこと以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は70%であった。
【0104】
【表2】
【0105】
(比較例2)ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ポリビニルピロリドン(BASF社製“K90”)を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は60%であった。
【0106】
(比較例3)ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“コリドンVA64”)を用いた以外は、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は15%であった。
【0107】
(比較例4)ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“コリドンVA64”)の濃度を200ppmとした以外は、比較例3と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は23%であった。
【0108】
(比較例5)ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/デカン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率80%、数平均分子量19,000)を用いたこと、また、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は17%であった。
【0109】
(比較例6)ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/ノナン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率80%、数平均分子量4,400)を用いたこと、また、実施例1と同様に医療用分離膜モジュールを作製し、アルブミン篩係数測定を行った。その結果、表2に示すとおり、灌流時間10分から60分後のアルブミン篩係数の低下率は25%であった。
【0110】
<平膜の製造方法>
膜厚5μmのポリエチレンテレフタレートのフィルム(東レ社製)を5cm切り出し、15mLの遠沈管(アズワン社製)の中に入れた。遠沈管内を濃度0.1ppmの共重合体水溶液で満たし、蓋をして、25kGyのγ線を照射して、平膜を得た。
【0111】
(実施例8)前記共重合体として、ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体(ビニルピロリドンユニットのモル分率60%、数平均分子量16,500)を用い、前記平膜の製造方法により平膜を作製した。得られた平膜の血小板付着試験を行ったところ、表3に示すとおり、血小板付着数は9個であり、血小板の付着が大きく抑制されていることがわかった。
【0112】
【表3】
【0113】
(比較例7)
共重合体を用いないこと以外は、実施例8と同様に平膜を作製し、血小板付着試験を行った。その結果、表3に示すとおり、血小板付着数は46個であり、血小板の付着が多いことがわかった。
【0114】
(比較例8)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ポリビニルピロリドン(BASF社製“K30”)を用いた以外は、実施例8と同様に平膜を作製し、血小板付着試験を行った。その結果、表3に示すとおり、血小板付着数は42個であり、血小板の付着が多いことがわかった。
【0115】
(比較例9)
ビニルピロリドン/プロパン酸ビニルランダム共重合体の代わりに、ビニルピロリドン/酢酸ビニルランダム共重合体(BASF社製“コリドンVA64”)を用いた以外は、実施例8と同様に平膜を作製し、血小板付着試験を行った。その結果、表3に示すとおり、血小板付着数は38個であり、血小板の付着が多いことがわかった。
【符号の説明】
【0116】
1 中空糸膜モジュール
2 Biポンプ
3 Fポンプ
4 循環用ビーカー
5 Bi回路
6 Bo回路
7 F回路
8 ヒーター
9 温水槽
図1