(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記原反が、少なくとも一方向に強化繊維糸条を引き揃えた織物であって、該織物の幅方向の両端部、並びに、該織物シートの幅方向の内部の任意の位置に耳組織が挿入された、請求項1〜3のいずれかに記載の巻物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の製造方法は、強化繊維シートが軸体に巻かれた巻物の製造方法であって、複数の強化繊維糸条を製布して、少なくとも一方向に引き揃えた強化繊維シート前駆体(以下、原反という)とするシート化工程(工程1)、原反を軸体に巻き取り、原反巻物とする巻取工程(工程2−1)、原反巻物に刃を挿入して、幅方向に分割し、複数の巻物とする、スリット工程(工程3)を含んでなる。
【0019】
ここで、本発明において、強化繊維シート前駆体(原反とも称す)とは、工程3において幅方向に分割される前の状態であって、製布されたままの幅を有するシートのことである。一方で、強化繊維シートとは、工程3において任意の幅に分割された後の状態のシートをいう。
【0020】
また、巻物の呼称も前記に対応し、原反巻物とは、前記原反を軸体に巻き取ったロール状体のものを意味し、巻物とは、前記強化繊維シートを軸体に巻き取ったロール状体のものを意味する。
【0021】
本発明の工程1は、複数の強化繊維糸条を製布して、少なくとも一方向に引き揃えた強化繊維シート前駆体(原反)とするシート化工程である。
【0022】
本発明の原反に使用される強化繊維糸条の種類としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、および、アラミド、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアリレートおよびポリイミド、などの有機繊維が挙げられ、これらの1種または複数種を併用して使用することができる。中でも、炭素繊維は、比強度、比弾性率に優れることから、強化繊維糸条を構成する強化繊維としては特に好適である。炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、およびこれらを複数種ブレンドして構成された強化繊維糸条を用いることができる。
【0023】
また、強化繊維糸条は、取扱性や高次加工性の観点から、サイジング剤が付与されていることが好ましい。サイジング剤の付着量としては、サイジング剤を含めた強化繊維糸条の全体100質量%に対して0.2〜2.5質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.5〜1.2質量%である。付与するサイジング剤の組成としては特に限定されないが、例えば、脂肪族タイプの複数のエポキシ基を有する化合物や、ポリアルキレングリコールのエポキシ付加物、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのポリアルキレンオキサイド付加物にエポキシ基を付加させたもの、などの1種または複数種を併用することができる。
【0024】
強化繊維糸条のフィラメント数は、500〜100,000本が好ましく、より好ましくは3,000〜50,000本である。糸条繊度としては33〜8,000texが好ましく、より好ましくは198〜4,000texである。特にフィラメント数が多く太繊度な糸条は、比較的安価に入手できることから、基材を安価に製造することができるため好ましい。
【0025】
原反の強化繊維の目付としては、100〜1000g/m
2が好ましく、より好ましくは200〜600g/m
2である。強化繊維の目付が大きくなる程、工程3のスリット工程に要する時間が長くなることから、作業性を鑑みると上記範囲が好適である。ここで、強化繊維の目付とは、JIS R7602(1995)の単位面積当たりの質量に従い測定される数値をいう。
【0026】
本発明の原反においては、強化繊維糸条が少なくとも一方向に引き揃えられていればよく、その配向方向(引き揃えた方向)に特に制限はないが、実用性の観点から一方向または二方向に引き揃えられた態様が好ましく用いられ、例えば0°、90°、+45°、−45°の中から選択される一方向又は2方向に引き揃えられた態様が一般的な構成である。前記配向を有する原反の形態としては、織物、編物(NCF:Non Crimp Fabricを含む)、シート等が挙げられ、その用途や要求性能に応じて適宜選択できる。中でも強化繊維シート前駆体(原反)としては、強化繊維が0°および/または90°に配置された一方向性織物ないし二方向性織物であると、後述する耳組織を設けることで、工程3において原反巻物を幅方向に分割することが容易で、得られた巻物の品位にも優れることから好ましい。
【0027】
本発明の工程1を実現する手段としては、原反の形態により様々であるが、何れの形態であっても、公知の手段を用いて製布することが可能である。例えば、織物の場合は、シャトル織機、レピア織機、ニードル織機、ウォータージェット織機、エアジェット織機などの織機を用いることができる。また、編物の場合は、ラッシェル機、トリコット機、などの編機が使用でき、NCFの場合は、前記編機の上流に強化繊維糸条の複数本を並行に引き揃えて任意の方向に配置していくクリールユニットと、これを編機のある下流に搬送するコンベアユニットを備えた専用設備にて製布することが可能である。
【0028】
本発明において、強化繊維シート前駆体(原反)は、少なくとも一方向に強化繊維糸条を引き揃えた織物であって、該織物の幅方向の両端部、並びに、幅方向の内部の任意の位置に、耳組織が挿入された態様とすることが好ましい。前記態様について、以下図面を参照して詳しく説明する。
【0029】
図1、2は本発明の強化繊維シート前駆体の一実施態様を示した概略平面図である。
【0030】
図1の強化繊維シート前駆体1は、強化繊維糸条からなるたて糸2と該たて糸を形態保持するための補助糸3とが互いに交錯され、一方向性平織物(地組織)を形成している。強化繊維シート前駆体1において、耳組織は幅方向の両端に1列(図中4)および地組織5に挟まれた中央に2列(図中6)の計4列が挿入されている。前記耳組織4は、左右の地組織の最外部のたて糸7に近接して並行に配置されおり、その外側には補助糸3のみからなる房耳8が形成されている。ここで、耳組織4は2本の絡み糸9が互いに絡み合った1列の絡み組織となっており、たて糸7が地組織から脱落しないように拘束する役割を果たしている。なお、前記耳組織4と前記房耳8の1組を総称して耳部10と呼ぶ。一方、耳組織6は、左右の地組織の最内部のたて糸11に近接して並行に配置されており、それぞれの耳組織6に挟まれた間には補助糸3のみが存在する区間を設けている。前記区間は、工程3で原反ロールを分割する際のカット代に相当し、該領域の中央を切断することで左右の強化繊維シートの内側において、耳部を形成可能である。
【0031】
また、
図2の強化繊維シート前駆体12は、強化繊維糸条からなるたて糸13とよこ糸14が互いに交錯された二方向性平織物(地組織)を形成している。強化繊維シート前駆体12は
図1同様に、耳組織が幅方向の両端に2列(図中15)、地組織に挟まれた2カ所に各2列(図中16)の計6列が挿入されている。前記耳組織15は、左右の地組織の最外部のたて糸17に並行して配置され、
図1で使用されている補助糸3と同じ繊維糸条からなるたて補助糸18の2本とよこ糸14が交錯した平織組織を2列形成しており、その外側にはよこ糸14のみからなる房耳19があり、耳部20を成している。このたて補助糸18には、耳組織を強固に固定するための熱融着性の目止め糸(図示せず)がカバーリングされており、加熱溶融されてよこ糸と接着されている。耳組織16についても同様であって、左右の地組織の最内部および中央の地組織の最外部のたて糸21に近接して並行に配置しており、それぞれの耳組織16に挟まれた間ではよこ糸14のみが存在する区間が設けられ、該区間は
図1と同様に強化繊維シートに分割した際の耳部となる。
【0032】
図1、2に例示される態様によれば、耳組織によってたて糸の位置が規制されていることから、工程3において、前記耳組織の部分から原反を幅方向に分割することで、切断部における強化繊維の解れや毛羽立ちが発生し難いため、巻物端面の品位に優れるうえ、たて糸が存在しないためカット抵抗が低減され、作業性も格段に改善される。
【0033】
なお、耳組織は、図説した態様に限定されることなく、適用する組織や列数、原反巻物の分割幅、分割数に応じて任意の箇所に挿入するとよく、状況や目的によって適宜その態様を選択すればよい。
【0034】
耳組織に用いられる補助糸としては、本質的に補強効果を担うものでないことから、繊度は100〜200dtexが好ましく、強化繊維糸条よりも細繊度なものを使用することが好ましい。繊度の目安としては、耳組織において局所的に厚みが大きくなり、巻物とした際の巻崩れが発生する場合があることから、強化繊維糸条の1/2以下であることが好ましい。
【0035】
補助糸に使用する繊維としては、ガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など特に限定されるものではないが、なかでもガラス繊維、芳香族ポリアミド繊維、ポリビニルアルコール繊維は熱収縮率が小さく、寸法安定性がよいので好ましい。
【0036】
また、補助糸には耳組織の拘束をさらに強固とする目的で、目止め糸を含むこともできる。かかる目止め糸としては、熱融着性の低融点ポリマーの使用が好ましい。この低融点ポリマーとしては、ナイロン、共重合ナイロン、ポリエステル、塩化ビニリデン、塩化ビニル、ポリポリウレタンなどの熱可塑性樹脂を使用することができる。なかでも共重合ナイロン、例えば、ナイロン6、66および610の共重合ナイロン、ナイロン6、12、66および610の共重合ナイロンは好ましい。目止め糸の繊度としては、20〜330dtexが好ましい。なお、目止め糸は、これ単体で耳組織を形成することも可能である。
【0037】
本発明の工程2−1は、工程1にて得られた強化繊維シート前駆体(原反)を軸体に巻き取り、原反巻物とする巻取工程である。
【0038】
工程2−1や後述する工程2−2に用いる軸体は、公知の巻装芯を使用できるが、原反幅以上の長さを有する管状体が好ましい。軸体の材質としては、例えば、紙、プラスチック、金属、FRPなどが挙げられるが、中でもコストとハンドリング性から、紙素材の紙管が好ましい。
【0039】
本発明の製造方法に用いる軸体は、工程3において刃を挿入して幅方向に分割された後、個々の巻物として取り扱われることから、予め分割された軸体を幅方向に連結して使用するとよい。それぞれの軸体を幅方向に連結する手段としては、幅方向に並べられた複数本の軸体の中に軸体の内径よりも小さい軸芯を通し、両端の軸体の外側からフランジで挟み込み固定する方法や、エアシャフト等の外径が拡大する軸芯にて内部から固定する方法、軸体の端部に形状を設けて隣接する軸体同士の嵌合により固定する方法、等が例示できる。
【0040】
さらに、隣接する軸体の間において、刃物が軸体の外径よりも内側へ進入可能にする空間を設けておくことが好ましい。その一例を、
図3に示す。
【0041】
図3において、3本の軸体22が幅方向に配置され、各隣接する軸体の間にはスペーサー23が挿入されて、隙間無く並んでいる。また、両脇の軸体の外側には、軸体の幅方向の移動を規制するためのフランジ24が配置されており、これら全体を貫通する形で軸芯25が通っている。スペーサーの外径は軸体の外径と同じ寸法であって、その表面には全周に亘って溝26が切られており、該溝部における外径は軸体の外径よりも小さく設計されている。前記溝に刃先27を挿入することで、原反が巻かれている軸体の表層よりも深く切り込むことができ、原反を確実に切断できるうえ、軸体に刃物が当たり傷つけることもなくなる。
【0042】
工程2−1や後述する工程2−2で用いる巻取り方法としては、特に制限されないが、モーターにより巻取りロールの中心軸を駆動する中心駆動方式、巻取りロールの中心軸は駆動させず、1本または2本のリールドラム上に巻取りロールを配置し、このリールドラムを駆動して、リールドラムと巻物間の摩擦力により巻き取る表面駆動方式、さらに、前述した表面駆動方式において巻取りロールの中心軸も駆動するもので、中心駆動方式と表面駆動方式を組み合わせた表面中心併用駆動方式、が例示できる。
【0043】
本発明の巻取り対象である強化繊維シート前駆体(原反)や強化繊維シートは、一般的な巻体の紙やフィルム等と比べてバルキーなことから、巻量が増えてくると軟巻き状態となりやすく、巻崩れや巻締まりを生じる場合がある。巻崩れとは、巻物がルーズな状態で幅方向に力が作用した場合に発生する巻物層間のズリであって、巻物端面がタケノコ状に変形する現象がこれに相当する。一方、巻締まりは、巻物がルーズな状態で周方向に力が作用した際に、巻物の周方向に発生する巻物層間のズリであって、外観上は見分けが付かないが、ズリによるシート間の摩擦によって、シートの潰れや、強化繊維糸条の配向ズレや目曲りを引き起こす場合がある。特に、原反巻物を巻きだすことなく原反巻物のまま(ロール状態のまま)で幅方向に分割する工程3において、巻崩れは致命的である。
【0044】
そこで、上述した軟巻き状態に対しては、コンタクトローラやプレスロールにより、原反巻物に接圧を付与する接触巻取り方式が有効である。前記方式によれば、強化繊維シートの厚みを潰しながら、層間を密着させて巻き取ることで、硬巻き状態の巻物が製造可能である。従って、本発明の巻取り工程(工程2−1)に本方式を適用することは、巻崩れや巻締まりのない、工程3のスリット工程に適した態様の原反巻物が得られるうえ、最終製品である巻物においても、硬巻き状態が保持されることから、輸送時や後次加工にてシートを引き出す際においても、巻崩れや巻締まりを抑制できることから、好ましい。
【0045】
さらに、巻崩れの防止を堅牢とするには、シート化工程と巻取工程との間を走行する原反において、走行方向と直交する方向の原反位置を検知し、検知した位置情報を巻取り側にフィードバックし、巻取り軸の幅方向の位置を補正するEPC(Edge Position Control)機能を、本発明の巻取工程に追加するとよい。本機能を追加することで、トラブルや工程バラツキにより原反の走行位置にズレが生じた場合でも、巻取り位置を補正によりズレを矯正し、巻崩れのない良好な端面の巻物が得られる。
【0046】
本発明の工程3は、原反巻物に対して刃を挿入して、幅方向に分割し、複数の巻物とするスリット工程である。本工程は、走行中の原反をスリットして幅方向に分割する公知の方法とは異なり、原反巻物の状態から直接、幅方向に巻物を分割する点で、大きく異なる。
【0047】
公知の方法では、強化繊維シート前駆体のシート化工程から連続したオンライン上で、原反を引き取りながらスリットして複数の強化繊維シートとし、これらスリットした複数の強化繊維シートを個別に引き取って、それぞれ軸体に巻き取る。この方法によると、強化繊維シートを引き取る過程でライン間差が生じ、弛みや吊りによって、走行位置の揺らぎで巻物端面に巻崩れが発生したり、巻物が軟巻き状態となり同上に巻崩れしたり、する品質上の懸念がある。とりわけ、強化繊維シートにおいては、一般的な素材であるフィルム、紙、合成繊維の布帛と比べて伸度が小さく、強化繊維糸条が太いためバルキーで厚みが不均一なことから、前記の品質懸念が顕在化しやすい。さらに、強化繊維糸条同士が交錯する織物の場合、強化繊維シートの幅方向でクリンプの面内構造差により、幅方向の中央と端部で厚みやたて糸長さに差が発生するため、前記懸念は尚更高まる。
【0048】
かかる品質課題に対して、巻崩れを例に挙げると、上述したEPCを適用したとしても、ライン間で別々挙動を示した場合には、走行位置のズレを矯正することができず、完全に問題を解消するためには、強化繊維シートのライン数に対応したEPCの設置が必要となる。このことは、引取り張力についても同じであって、例えば、ダンサーロールによる張力制御をおこなった場合でも、高張力側でバランスされるため、やはりライン数に対応した個別の制御が必要となる。
【0049】
また、品質課題に対する別の手段として、強化繊維シートのライン毎に個別の巻取り軸を設ける方法が知られているが、シートの分割数に比例して、巻取り軸やその付帯設備が増えるため、巻取装置の設備コストが高額となるうえ、対応できるシート幅や分割本数が設備により制限されるため、特定の巻物仕様しか製造することのできない専用機となり、汎用性に欠けるといった問題がある。
【0050】
一方、本発明の工程3によると、原反巻物から原反を引き出す必要がないことから、上述した品質課題に悩まされることがないうえ、後述する通り、極めてシンプルな機構の装置で原反巻物の分割が可能となることから、設備コストも抑えられ、品質とコストを両立すること可能となる。
【0051】
ここで、工程3について、以下図面を参照しながら、詳細に説明する。
【0052】
図4は、本発明の工程3に適用されるスリット装置の一実施形態を示した概略図である。
図4のスリット装置は、大きく分けて、原反巻物を設置するロール台車28、原反巻物を切断するカット装置29を備える。
図4において、原反巻物30は、軸体の中心に通された軸芯31に設置されたフランジ32で軸体の両端を挟み込むことで、幅方向に固定されており、さらに、軸芯の両端に設置されたガイド板33によって、軸芯ごと幅方向に位置規制されている。ここで、軸体から突出した軸芯の両端が2本のベッドロール34上に設置されており、これらフリーロールが回転することにより、手動操作にて前駆体ロールを回転可能としている。また、カット装置29としては、原反巻物の直径よりもの長い刃渡りの刃35を有する電動式ハンドソーであって、これを架台に設置し、上下にスライドさせることで、原反巻物の厚み方向に刃物を挿入する。その際、ガイドフレーム36により刃の挿入位置を幅方向に規制しており、目標の位置に確実に刃が挿入できるようになる。かかるガイドフレームは幅方向にスライド可能であって、所望の位置にスライドさせることで、任意の幅仕様、分割本数に対応可能である。本スリット装置を用いた方法によると、手動操作にて原反巻物を回転させながら、電動式ハンドソーにて刃を往復運動させることで、原反巻物の厚み方向に切断し、全周に亘って軸体表面に到達するまで切り込むことで、個々の巻物に分割される。
【0053】
また、
図5には、スリット装置の別の実施態様を示す。
図5のスリット装置の構成についても、
図4と同様であって、ロール台車37、カット装置38から構成される。
図5において、原反巻物39は、アダプタ40が幅方向に4カ所に装着された軸芯41が軸体42の中央に通っており、前記アダプタの外径が膨張することにより固定されている。さらに、軸芯41の両端部にはベアリング43が配置され、その片端部はモーター44に接続されており、該モーターの駆動により一定速度で前駆体ロールを回転可能としている。カット装置としては、原反巻物の直径よりもの長い刃渡りの刃45を有する竪刃式レシプロソーであって、これを架台に設置し、前後にスライドさせることで、原反巻物の厚み方向に刃を挿入し、原反巻物を切断する。ここで、カット装置は幅方向にスライド可能であって、所望の位置にスライドさせることで、任意の幅仕様、分割本数に対応可能である。本スリット装置を用いた方法によると、自動で刃物を往復運動させながら、原反巻物の厚み方向に軸体表面に到達するまで刃物を挿入した後、原反巻物を自動回転させることで周方向に切断し、個々の巻物に分割される。
【0054】
図6には、スリット装置のさらに別の実施態様を示す。
図6のスリット装置は、回転式の刃46を備えたカット装置47が原反巻物48の幅方向に2台配置されている以外は、
図5と同じである。このスリット装置によると、1度の操作で幅方向に3本の巻物を等分割で得られることから、
図4、5と比較して作業工数の削減が可能である。
【0055】
なお、
図4〜6のスリット装置は一例であって、必ずしもこれに限定されるものでなく、原反巻物に刃を挿入して幅方向に分割し、複数の巻物とすることができさえすれば、前駆体巻物の回転方式、カット装置の方式や配置数など、目的に応じて適切な仕様を設計すればよい。
【0056】
工程3では、刃を挿入して原反巻物を幅方向に分割するが、ここで用いられる刃は、特に限定されず、竪刃、回転刃等、使用するカット装置によって、適宜選択するとよい。また、工程3で用いられる刃の形状としては、特に限定されないが、平刃、波型刃、鋸刃等から、選択できるが、中でも刃の形状が波型刃であると、カット抵抗を低減でき、カット工数の省人化に繋がるうえ、切断時に強化繊維糸条の配向の乱れを抑制できることから好ましい。
図7(A)〜(C)には、本発明の工程3に使用される刃物の一例を示した。
【0057】
図7において、(A)〜(C)は何れも、刃先に歯が設けられた波型刃であって、歯は刃の長さ方向に等ピッチPにて配置されており、深さDを有している。また、歯先の形状は、凹凸形状の各頂点を結んだ角度θを形成している。
【0058】
図7(A)において、刃先には鋭利な歯先が繰り返し形成されており、該歯先間は峰側に向かってU型に反り返った形状をしている。また、
図7(B)は、刃先の凹凸の両側において緩やかな曲線形状の歯先が繰り返し形成されており、
図7(C)では直線と曲線が交互に配置された歯先が繰り返し形成されている。
【0059】
ここで、歯先のピッチPとしては特に限定されないが、一般的な合成繊維などに比べて太繊度な強化繊維糸条を切断するには、ピッチPが5〜80mmが適当であって、強化繊維糸条が太くなるに連れ、ピッチも粗くすることが好ましい。歯先のピッチPは、さらに好ましくは10〜50mmであって、係る範囲とすることで、汎用的な強化繊維糸条の繊度域をカバーしつつ、カット抵抗と切断端面の平滑性とを両立できる。また、深さDは上記ピッチに対応して調整するとよく、ピッチPと深さDにより形成される角度θを5〜30°の範囲とすることで、強化繊維糸条の繊度に合わせてピッチを調整した場合であっても、作業工数と品位のパフォーマンスを維持できることから好ましい。
【0060】
ここまで、工程1、2−1、3について説明してきたが、本発明の巻物の製造方法は、さらに工程2−1と3の間に工程2−2として、原反巻物を引き出して、任意の加工を施した後、再度巻き取って原反巻物とする、後加工工程を含むことができる。
【0061】
公知の製造方法によれば、シート化工程を終えた段階で既に原反がスリットされているため、後加工に供する場合、スリット後の個別に巻かれた巻物毎に加工する必要があり、加工コストが大きくなる。後加工をシート化工程からオンラインにて実施する方法もあるが、大型設備となり設備コストが大きく、全てのシート化工程に適用することが難しいことから、汎用性に乏しい。対して、本発明の製造方法によれば、原反巻物はスリットされていない状態であるため、上述した後次加工に投入する場合でも、一度の加工で原反の全面を加工できるため、強化繊維シートの複数本分を一度に加工でき、後次加工における製造コストを圧縮することが可能で、さらにオフライン工程となることから、投入する強化繊維シートが限定されることがなく、汎用性も高い。
【0062】
さらに、本発明によれば、巻崩れのない高品質な原反巻物とできることから、後加工中においても原反巻物に由来する原反搬送時の走行位置のズレ等がなく、工程通過性に優れるうえ、加工後に巻き上げた原反巻物においても、その優れた品質の巻物とできる。
【0063】
工程2−2における、任意の加工としては、原反のリワーク(外観検査や欠点の補修)、複数枚の原反を積層一体化するレイアップ加工、原反の表面に樹脂材料を付与する粒子散布加工、スプレーアップ加工、ラミネート加工、ホットプレス加工、ロール間を通過させて厚みの平滑化や表面意匠を調整するカレンダー加工など、が挙げられる。これら後加工をプロセスに含めることにより、本発明の価値をより高めることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0065】
(1)強化繊維シート前駆体の製造
炭素繊維糸条(引張強度3530MPa、引張弾性率230GPa、繊度198tex)のたて糸とよこ糸を5本/cmの密度で配列し、レピア織機で製布して平織組織(地組織)とし、その地組織の幅方向の両端部にガラス繊維糸条(繊度225dtex)に低融点共重合ナイロン糸(繊度:55dtex、融点:115℃)を270ターン/mにてカバーリングさせた。絡み糸の2本で絡み組織を2列並べて1つの耳組織とし、さらに、地組織の幅方向中央では20mmに亘ってたて糸10本分が存在しない区間を設け、この区間の両脇にも前記同様に耳組織を形成し、計4列の耳組織を設けた原反を得た。得られた原反は強化繊維目付198g/m
2、総幅2040mmであった。
【0066】
(2)端面ズレの評価方法
実施例にて得られた巻物の端面形状における、最大凸部と最大凹部の差を、直尺を用いて0.5mm単位まで測定した。ここで、原反巻物の場合は両端面の2点を測定し、分割した個別の巻物の場合は、個々の巻物において両端面の2点を測定し、これら2点の測定値の内いずれか大きい方の絶対値を端面ズレとし、以下判定基準に従い評点した。
【0067】
◎:2mm以下
○:2mm超、5mm以下
△:5mm超、10mm以下
×:10mm超
(3)巻周長の評価方法
実施例にて得られた原反巻物および巻物の周方向の長さを巻尺にて1mm単位で測定する。測定箇所は幅方向に3点/m測定し、その平均値を巻周長とした。
【0068】
(4)加工時間の測定
後加工工程およびスリット工程に要した時間を計測し、その合計を加工時間として算出した。
【0069】
(実施例1)
原反を(1)強化繊維シート前駆体の製造工程の下流に設置した中心駆動式の巻取り装置(原反の片側端部位置を検知するEPC機能を具備)に搬送し、巻取り軸にセットされた軸体(紙管)(外径176mm、内径152mm、長さ1220mm、重量11kgを2本連結して使用)に一定トルクにて300mを巻取り、原反巻物を得た(巻取り工程)。
【0070】
次いで、得られた原反巻物をスリット装置(装置構成は
図5の通り)のロール台車に設置し、(株)ハシマ製 竪刃裁断機に平刃(刃先は直線状で歯はなし)を装着して、カット装置とした。前記スリット装置を用いて、地組織の幅方向中央の耳組織間に刃を挿入し、原反巻物を0.05rpmで定速回転させながら全周をカットして、総幅1020mmの巻物2本に分割した(スリット工程)。
【0071】
ここで、得られた2本の巻物は巻取り工程におけるEPC設置側を左ロール、もう他方を右ロールとして定義する。
【0072】
(実施例2)
巻取り装置にコンタクトロールを設置し、巻取りに際して接圧10kgを常時付与した以外は実施例1と同様にして総幅1020mmの巻物2本に分割した。
【0073】
(実施例3)
巻取り装置をリールドラム2本、プレスロール1本の3本の駆動ロールを備えた表面駆動方式とした以外は、実施例1と同様にして総幅1020mmの巻物2本に分割した。
【0074】
(実施例4)
スリット装置に装着した刃を
図7(B)に示した形状の波型刃(ピッチ25.4mm×深さ3mm)とし、原反巻物の回転速度を0.15rpmとした以外は、実施例2と同様にして総幅1020mmの巻物2本に分割した。
【0075】
(実施例5)
実施例2で得た原反巻物を、巻出し機構と巻取り機構の間に検査台が設けられた検反設備にセットし、6m/minの速度で検査台上を搬送しながら外観検査を実施した後、実施例2と同じ条件(但し、EPC機能はなし)にて全長を巻取り、原反巻物(外観検査後)を得た(後加工工程)。得られた原反巻物(外観検査後)は実施例2と同じスリット加工を行い、総幅1020mmの巻物2本に分割した。
【0076】
(比較例1)
実施例1において、強化繊維シート前駆体の製造工程から巻取り装置に原反が搬送されるまでの間において、地組織の幅方向中央の耳組織間でロータリー刃を用いて原反をスリットし、総幅1020mmの強化繊維シートとして紙管に巻き取り、2本の巻物を得た。得られた2本の巻物は、実施例1と同様にEPC設置側を左ロール、もう他方を右ロールと定義する。
【0077】
(比較例2)
巻取り装置を実施例2と同じにした以外は、比較例1と同様にして2本の巻物を得た。
【0078】
(比較例3)
巻取り装置を実施例3と同じにした以外は、比較例1と同様にして2本の巻物を得た。
【0079】
(比較例4)
比較例2で得た巻物の2本をそれぞれ個別に、実施例5と同様に検反設備に通して、再度巻き上げて外観検査済みの巻物2本を得た。
【0080】
実施例1〜5、比較例1〜4の評価結果を表1に整理した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1〜5の巻物は、中間体を含めて全ての巻物で端面ズレのない、良好な端面品位となった。実施例1においては、巻取り時の接圧の付与がないため、巻き周長が他の実施例と比較して大きく、相対的に軟巻き状態であることから、巻物層間でズリが生じて、端面ズレが他の実施例対比で若干大きくなったが、EPCが機能したことで潜在的な巻崩れが抑制されていたことで、端面ズレは実用可能なレベルに留まった。また、加工時間について、実施例1〜5のスリット工程は何れも35分以内と短時間で処理されており、中でもウェーブ刃を適用した実施例4では、他の実施例対比で約40%の作業時間低減が図れている。
【0083】
一方、比較例1〜3の巻物は全ての巻物で端面ズレが発生している。比較例1は端面ズレに左右差が生じており、EPCが機能した左ロールでは実施例1同等の品位となったが、独立した右ロールではEPCの効果が及ばず、品位に劣る結果となった。表面駆動方式を採用した比較例3は、全比較例の中でも端面ズレが極大であって、接圧に加えて製品自重が付与されたことで、巻物に外方向へ拡がろうとする力が大きく作用し、端面ズレを生じたものと推定する。
【0084】
また、実施例5と比較例4の加工時間の比較において、実施例5ではスリット工程に時間を要したものの、巻物2本分の後加工を一度に処理できたことで、スリット工程を必要としない比較例4と比べても、総合的な加工時間として実施例5が上回った。当然ながら、分割数が増えるに従い、前記優位性が顕著になることは明白である。
【0085】
これら実施例の中でも、実施例4が巻物端面の品位、作業工数の観点で最も優れた。