(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、主として芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテルからなるソフトセグメントとを主な構成成分とするポリエーテルエステルブロック共重合体であり、主として脂肪族ポリエーテルからなるソフトセグメントを10〜80質量%含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
炭素繊維強化プラスチックと該炭素繊維強化プラスチックに積層された熱可塑性エラストマー層とを有する積層成形体であって、該熱可塑性エラストマー層が請求項1ないし4のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーよりなることを特徴とする積層成形体。
【背景技術】
【0002】
強化繊維として炭素繊維を用いた複合材料は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Crabon Fiber Reinforced Plastics)と呼ばれ、航空部材をはじめ、ゴルフシャフト、テニスラケット等のスポーツ・レジャー用品、船舶部材などの工業材料などに使用され、近年はその軽量性と強度の特性を活かして自動車用部品としても実用化されはじめている。
【0003】
炭素繊維強化プラスチックは、軽量性に優れ、金属の代替として注目されつつも、強いエネルギーが加わるような衝撃、振動時においては、そのエネルギーを吸収できないため粉々に破壊してしまうという欠点があり、そのままでは構造部材等への応用は困難である。
【0004】
その改良として、特許文献1には、炭素繊維強化プラスチックに熱可塑性エラストマー層を積層する提案がなされているが、炭素繊維強化プラスチック/熱可塑性エラストマー積層体には、以下のような問題がある。
即ち、例えばプリプレグにおける炭素繊維強化プラスチックには、一般的に未反応のエポキシ樹脂が含浸されており、成形時にエポキシ樹脂の反応温度領域で加熱加圧されることでエポキシ樹脂が固化して構造体として成形される。一方、熱可塑性エラストマーは成形時に溶融することで、溶融ポリマー同士が接着に寄与して接着効果を発揮する。このため、熱可塑性エラストマーは、基本的にエポキシ樹脂との相溶性や反応性を有する成分で構成され、かつなるべくエポキシ樹脂の成形温度領域で溶融接着することが望まれる。しかし、一般的な熱可塑性エラストマーの溶融温度はエポキシ樹脂の成形温度領域に比べ高く、エポキシ樹脂の成形温度では溶融していないため、溶融接着には適さない。また、通常の熱可塑性エラストマーはエポキシ樹脂との反応性がないため、ほとんどの熱可塑性エラストマーはエポキシ樹脂に対して接着せず簡単に剥離してしまう。
【0005】
一方、炭素繊維強化プラスチックの成形体を成形した後、接着剤を塗布して炭素繊維強化プラスチックの表面に熱可塑性エラストマーシートを貼り合わせる方法もあるが、構造体が複雑な形状であると接着剤を均一に塗布することが難しく、また、接着剤を塗布する分工程数が増えると共に、製造に要する時間が長くなる問題がある。
【0006】
炭素繊維強化プラスチックよりなる構造体の耐衝撃性を安定に維持するためには、複雑な炭素繊維強化プラスチックの構造体であっても熱可塑性エラストマーシートを密着性よく均一に貼り合わせることができ、経時後も安定し剥がれない高い密着性が必要となり、更には、製造の自由度の向上の面から、熱可塑性エラストマーシートを保管した後も、通常のプリプレグを用いた成形において、工法を変えることなく、また成形時間を延長することなく、炭素繊維強化プラスチックとの積層体を密着性よく成形することができる熱可塑性エラストマーの開発が望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、炭素繊維強化プラスチックとの積層成形を容易に行え、炭素繊維強化プラスチックとの密着性が高く、炭素繊維強化プラスチックとの一体成形で炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を十分に改良することができ、しかも、長期保管後の成形においても密着性がよく炭素繊維強化プラスチックと積層成形することが可能な炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーと、この熱可塑性エラストマーを用いた積層成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと特定の水添ブロック共重合体と炭化水素系ゴム用軟化剤とを所定の割合で含む熱可塑性エラストマーが、複雑な構造であっても、炭素繊維強化プラスチックに追随性よく均一かつ密着性よく容易に一体成形することができ、積層により炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を向上させることができ、しかも、保管後においてもこの成形性、密着性が損なわれることのない熱可塑性エラストマーとなることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 炭素繊維強化プラスチックと熱可塑性エラストマーとの積層成形体の該熱可塑性エラストマーとして用いられる熱可塑性エラストマーであって、ポリエステル系熱可塑性エラストマーからなることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0011】
[2] 炭素繊維強化プラスチックと熱可塑性エラストマーとの積層成形体の該熱可塑性エラストマーとして用いられる熱可塑性エラストマーであって、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、該ポリエステル系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、下記の成分(a)及び成分(b)を合計量で300質量部以下含有し、成分(a)と成分(b)との合計100質量%に占める成分(a)の割合が30〜90質量%で成分(b)の割合が70〜10質量%であることを特徴とする炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)−(B)ブロック共重合体および/または(A)−(B)−(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも90%が飽和されており、重量平均分子量が8万〜100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
【0012】
[3] 前記ポリエステル系熱可塑性エラストマーが、主として芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテルからなるソフトセグメントとを主な構成成分とするポリエーテルエステルブロック共重合体であり、主として脂肪族ポリエーテルからなるソフトセグメントを10〜80質量%含有するものであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0013】
[4] 成分(a)の水添ブロック共重合体のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が10〜50質量%である、[2]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0014】
[5] 成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤が、重量平均分子量300〜2,000のパラフィン系オイルである、[2]又は[4]に記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー。
【0015】
[6] 炭素繊維強化プラスチックと該炭素繊維強化プラスチックに積層された熱可塑性エラストマー層とを有する積層成形体であって、該熱可塑性エラストマー層が[1]ないし[5]のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーよりなることを特徴とする積層成形体。
【0016】
[7] 前記熱可塑性エラストマー層の前記炭素繊維強化プラスチックとは反対側の面に摺動性材料層が積層されている、[6]に記載の積層成形体。
【0017】
[8] [6]又は[7]の積層成形体からなる自動車部品構造体。
【0018】
[9] [6]又は[7]の積層成形体からなる船舶部品構造体。
【0019】
[10] [6]又は[7]の積層成形体からなる動力部品構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマーは、炭素繊維強化プラスチックに対して、複雑な構造であっても、追随性よく、均一にかつ密着性よく積層一体成形することができ、炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を改善することができる。
しかも、本発明の熱可塑性エラストマーは、長期保管後であっても、上記の成形性、密着性、耐衝撃性の改善効果が損なわれることなく、これらの効果を十分に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、本発明において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0022】
[炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー]
本発明の炭素繊維強化プラスチック接着積層用熱可塑性エラストマー(以下、「本発明の熱可塑性エラストマー」と称す。)は、炭素繊維強化プラスチックと熱可塑性エラストマーとの積層成形体の該熱可塑性エラストマーとして用いられる熱可塑性エラストマーであって、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、該ポリエステル系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、下記の成分(a)及び成分(b)を合計量で0〜300質量部含有し、成分(a)と成分(b)との合計100質量%に占める成分(a)の割合が30〜90質量%で成分(b)の割合が70〜10質量%であることを特徴とする。
成分(a):ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)−(B)ブロック共重合体および/または(A)−(B)−(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により、該共役ジエン部分の二重結合の少なくとも90%が飽和されており、重量平均分子量が8万〜100万である水添ブロック共重合体
成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤
【0023】
<ポリエステル系熱可塑性エラストマー>
ポリエステル系熱可塑性エラストマーとしては種々のものが知られているが、その代表的なものは、主として芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと、主として脂肪族ポリエーテル又は脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントとを主な構成成分とするポリエーテル(又はポリエステル)エステルブロック共重合体である。本発明ではこれらのいずれをも用いることができるが、ポリエーテルエステルブロック共重合体を用いるのが好ましい。
【0024】
ポリエーテルエステルブロック共重合体は、炭素原子数2〜12の脂肪族又は脂環族ジオール、芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステル、及び脂肪族ポリエーテルとを原料として、エステル化反応又はエステル交換反応によりオリゴマーを生成させ、次いでこれを重縮合させて得ることができる。炭素原子数2〜12の脂肪族及び脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料、特に熱可塑性ポリエステル系エラストマーの原料として通常用いられているものが使用できる。例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、中でも1,4−ブ
タンジオール、エチレングリコールが好ましく、特に1,4−ブタンジオールが好ましい。これらのジオールは通常は単独で用いるが、所望ならば2種以上の混合物を使用することもできる。
【0025】
芳香族ジカルボン酸としては、ポリエステルの原料、特にポリエステル系エラストマーの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特にテレフタル酸が好適である。また、これらの芳香族ジカルボン酸も所望ならば2種以上を併用してもよい。
芳香族ジカルボン酸のアルキルエステルを用いる場合は、上記の芳香族ジカルボン酸のジメチルエステルやジエチルエステル等が用いられる。好ましいものは、ジメチルテレフタレート及び2,6−ジメチルナフタレンジカルボキシレートである。
【0026】
また、上記のジオール及びジカルボン酸成分以外に3官能のアルコールやカルボン酸、又はそのエステルを少量共重合させてもよく、更にアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、又はそのジアルキルエステルも少量ならば共重合成分として使用
できる。
【0027】
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(アルキレンエーテル)グリコールが使用できる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリ1,2−(又は1,3−)プロピレングリコール、ポリ(テトラメチレンエーテル)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンエーテル)グリコール等が挙げられ、特に好ましいものはポリ(テトラメチレンエーテル)グリコールである。
【0028】
ポリ(アルキレンエーテル)グリコールの数平均分子量は、通常400〜6,000のものが使用されるが、600〜4,000のものが好ましく、特に1,000〜3,000のものが好適である。数平均分子量が400未満のポリ(アルキレンエーテル)グリコールをソフトセグメントとするものは、十分な接着性発現出来ない場合がある。一方、数平均分子量が6,000を超えるものは、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを製造するに際し、重縮合系内で相分離が起きやすく、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマーの物性が低下する傾向がある。なお、ここでいう数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定されたものである。GPCのキャリブレーションには、英国POLYMER LABORATORIES社のPOLYTETRAHYDROFURANキャリブレーションキットを使用すればよい。
【0029】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーの脂肪族ポリエーテル成分の含有量は、通常は10〜80質量%であるが、30〜80質量%、特に50〜80質量%であるのが好ましい。脂肪族ポリエーテル成分の含有量が10質量%未満では、生成するポリエステル系熱可塑性エラストマーが耐熱性や耐油性に劣り、逆に80質量%を超えると溶融混練しても所望の物性を発現させるのが困難となる傾向がある。なお、ポリエステル系熱可塑性エラストマー中の脂肪族ポリエーテル成分の含有量は、プロトンの核磁気共鳴スペクトル(NMR)チャート上の、脂肪族炭素原子上のプロトン量と、その他の炭素原子上のプロトン量とから算出することができる。
【0030】
本発明で用いるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、通常融点が125℃以上であり、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上である。ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点が前記下限値未満であると、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性が劣るため好ましくない。なお、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点の上限は限定されないが、通常300℃以下、好ましくは260℃以下である。ここで、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの融点の測定方法は、示差走査熱量計を用い、昇温速度100℃/分で常温から250℃まで昇温して3分間保持し、その後−100℃まで冷却速度10℃/分で冷却した後、再び250℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた時の融解ピークの温度である。
【0031】
本発明に用いるポリエステル系熱可塑性エラストマーのMFR(JIS 7210準拠、230℃、荷重2.16kg)は、通常1〜100(g/10分)、好ましくは3〜80(g/10分)、さらに好ましくは、5〜60(g/10分)の範囲のものが好適である。MFRが上記の上限値を超える場合は、溶融張力が小さすぎて成形時にドローダウン等の問題がある場合がある。MFRが上記の下限値未満では流動性が不足して成形性が悪化する場合がある。
【0032】
更に、本発明で用いるポリエステル系熱可塑性エラストマーは、JIS−D硬度(JIS 6253に従い、デュロメータ、タイプDによる硬度)が10以上80以下、好ましくは15以上70以下、特に好ましくは20以上60以下の範囲のものが好適である。JIS−D硬度が、上記の下限値未満では耐熱性が劣る傾向となり、上記の上限値を超える場合には、ゴム弾性と接着性が劣る傾向となる。
【0033】
これらのポリエステル系熱可塑性エラストマーは、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
このようなポリエステル系熱可塑性エラストマーの市販品としては、「プリマロイ」(三菱化学株式会社製、プリマロイは同社の登録商標)、「ペルプレン」(東洋紡績株式会社製)、「ハイトレル」(東レ・デュポン株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
<成分(a):水添ブロック共重合体>
本発明の熱可塑性エラストマーの構成成分である成分(a)は、ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)と共役ジエン重合体ブロック(B)とからなる(A)−(B)ブロック共重合体および/または(A)−(B)−(A)ブロック共重合体の水素添加物であって、水素添加により共役ジエン部分の二重結合の少なくとも90%が飽和されており、重量平均分子量が8万〜100万である水添ブロック共重合体(以下、「水添ブロック共重合体(a)」と称す場合がある。)である。
【0036】
ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、o−、m−、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどの1種又は2種以上が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0037】
共役ジエン重合体ブロック(B)を構成する共役ジエン単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1、3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、4,5−ジエチル−1,3−オクタジエン、3−ブチル−1,3−オクタジエン等の1種又は2種以上が挙げられ、特にブタジエン、イソプレン、或いはブタジエン/イソプレンの2/8〜6/4の質量割合の混合物が好ましい。
【0038】
共役ジエン単量体がブタジエンのみで構成される場合、ポリブタジエンブロックのミクロ構造中の1,2−付加構造が全体の20〜80%のものを水素添加したブロック共重合体が好ましく、特に1,2−付加構造が30〜60%のものが好ましい。
【0039】
成分(a)の上記ブロック共重合体の分子構造は、直鎖上、分岐上、放射状あるいはこれらの組み合わせのいずかであってもよい。
【0040】
成分(a)は、上記ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であり、その水素添加率は、ブロック(B)である共役ジエン重合体ブロックの共役ジエン部分の二重結合の水素添加率が90%以上、好ましくは95〜100%となるような割合である。
【0041】
また、水添ブロック共重合体(a)のビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは15〜45質量%、さらに好ましくは20〜40質量%である。ビニル芳香族化合物重合体ブロック(A)の含有量が、10質量%未満では、引っ張り強さなどの機械物性や耐熱性が劣る傾向となり、50質量%超過では、柔軟性、ゴム弾性が劣り、後述する成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが生じ易い傾向となる。
【0042】
また、水添ブロック共重合体(a)の重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量として、8万〜100万であるが、好ましくは10万〜60万、さらに好ましくは15万〜40万である。重量平均分子量が8万未満では、ゴム弾性、機械的強度が低下し、また後述する成分(b)の炭化水素系ゴム用軟化剤のブリードが発生し易くなる。一方、重量平均分子量が100万超過の場合は、流動性が劣り成形が困難になる。
【0043】
このような水添ブロック共重合体(a)の製造方法は、上記構造・物性が得られる限りいかなる方法であってもよい。例えば特公昭40−23798号に掲載された方法、リチウム触媒の存在下に不活性溶媒中でブロック重合を行う方法を採用することができる。また、これらのブロック共重合体の水素添加処理は、例えば特公昭42−8704号公報、特公昭43−6636号公報、特開昭59−133203号公報、特開昭60−79005号公報などに掲載された方法により、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下で行うことができる。
【0044】
なお、成分(a)の水添ブロック共重合体は、カップリング剤残基を介して、重合体分子鎖が延長または分岐されたブロック共重合体であってもよい。この場合に用いられるカップリング剤としては、例えばアジピン酸ジエチル、ジビニルベンゼン、テトラクロロケイ素、ブチルトリクロロケイ素、テトラクロロスズ、ブチルトリクロロスズ、1,2−ジブロモエタン、1,4−クロロメチルベンゼン、ビス(トリクロスシリル)エタン、エポキシ化アマニ油、トリレンジイソシアネート、1,2,4−ベンゼントリイソシアネート等が挙げられる。
【0045】
このような水素添加ブロック共重合体(a)の市販品としては「KRATON−G」(クレイトンポリマー社)、「セプトン」(株式会社クラレ)、「タフテック」(旭化成ケミカルズ株式会社)等の商品が例示できる。
【0046】
水添ブロック共重合体(a)は、1種のみを用いてもよく、ブロック構成や物性等の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
<成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤>
本発明の熱可塑性エラストマーの構成成分である成分(b)は、炭化水素系ゴム用軟化剤(以下、「炭化水素系ゴム用軟化剤(b)」と称す場合がある。)である。
【0048】
炭化水素系ゴム用軟化剤(b)としては、重量平均分子量が通常300〜2,000、好ましくは500〜1,500の炭化水素が使用され、鉱物油系炭化水素または合成樹脂系炭化水素が好適である。なお、ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミッションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算の分子量である。
【0049】
一般に鉱物油系ゴム用軟化剤は、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素の混合物である。全炭素量に対し、芳香族炭化水素の炭素の割合が35質量%以上のものは芳香族系オイル、ナフテン系炭化水素の割合が30から45質量%のものはナフテン系オイル、パラフィン系炭化水素の炭素の割合が50質量%以上のものはパラフィン系オイルと呼ばれる。本発明では、パラフィン系オイルが好適に使用される。
【0050】
炭化水素系ゴム用軟化剤(b)は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0051】
<配合比率>
本発明の熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマーのみで構成されるものであってもよく、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと、上記の成分(a)及び成分(b)を含んでいてもよい。
本発明の熱可塑性エラストマーが成分(a)及び成分(b)を含む場合、その含有量は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー100質量部に対して、成分(a)と成分(b)の合計量で300質量部以下であり、好ましくは1〜200質量部である。この範囲を超えて成分(a)と成分(b)の合計量が多いと、炭素繊維強化プラスチックとの密着性が悪化する。
【0052】
また、成分(a)と成分(b)の構成比は、これらの合計100質量%中に成分(a)が30〜90質量%で成分(b)が70〜10質量%であり、好ましくは成分(a)が35〜80質量%で、成分(b)が65〜20質量%である。この範囲よりも成分(a)が少なく、成分(b)が多いと、得られる熱可塑性エラストマーの耐熱性が劣ったり、ブリードが生じたりする。一方、この範囲よりも成分(a)が多く、成分(b)が少ないと柔軟性、成形加工性が悪化する。
【0053】
<有機過酸化物>
本発明の熱可塑性エラストマーは、上記のポリエステル系熱可塑性エラストマー、あるいは上記のポリエステル系熱可塑性エラストマと成分(a)及び成分(b)を、押出機などの混合機を用いて加熱混合することにより、製造することができるが、その際に、有機過酸化物や架橋助剤を混合して架橋処理を行っても構わない。
【0054】
有機過酸化物としては、具体的にはジメチルペルオキシド、ジーt−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4,−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシベンゾエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、t−−ブチルクミルペルオキシド等が挙げられ、好ましくは、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4,−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレートである。これらの有機過酸化物は、1種を単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
有機過酸化物は、成分(a)と成分(b)の合計100質量部に対して、通常0.05〜3質量部、好ましくは0.1〜2質量部の範囲で使用される。
【0056】
これら有機過酸化物による架橋処理に際し、硫黄、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム、N−メチル−N−4−ジニトロソアニリン、ニトロソベンゼン、ジフェニルグアニジン、トリメチロールプロパン−N,N’−m−フェニレンジマレイミドのようなペルオキシ架橋用助剤、ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレート等のような多官能性メタクリレートモノマー、ビニルブチラート、ビニルアセテートのような多官能性ビニルモノマーを配合することができる。
【0057】
架橋助剤、多官能性メタクリレートもしくは多官能性ビニルポリマーは、成分(a)と成分(b)の合計量100質量部に対して、通常0.1〜5質量部、好ましくは0.2〜4質量部で用いられる。
【0058】
<その他の成分>
本発明の熱可塑性エラストマーには、必要に応じて、安定剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、着色剤、充填剤等の各種添加剤や、必須成分以外のその他の熱可塑性樹脂やゴムを配合してもよい。
【0059】
これらのうち、特に安定剤として酸化防止剤を添加しておくことが好ましい。酸化防止剤として、例えばモノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、フェニレンジアミン系のものが挙げられる。これらの中では、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリ以上のポリフェノール系、チオビスフェノール系の酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤を配合する場合、その添加量は、ポリエステル系熱可塑性エラストマーと成分(a)と成分(b)の合計100質量部に対して、通常0.01〜5質量部、好ましくは0.05〜3質量部である。この添加量が0.01質量部未満では酸化防止剤の効果が得られにくく、また5質量部を超えても添加量に見合う向上効果は得られず、コスト面で好ましくない。
【0060】
必須成分以外の熱可塑性樹脂としては、例えばポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマーなどのポリオキシメチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、生分解性樹脂、植物由来原料樹脂などを挙げることができる。
また、ゴムとしては、例えばエチレン・プロピレン共重合体ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ジエン共重合体ゴムなどのオレフィン系ゴム、ポリブタジエンゴムや、必須成分以外のスチレン系共重合体ゴムを挙げることができる。
【0061】
<熱可塑性エラストマーの製造方法>
本発明の熱可塑性エラストマーは、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、或いはポリエステル系熱可塑性エラストマーと、成分(a):水添ブロック共重合体、及び成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤と、必要に応じて配合される有機過酸化物や架橋助剤、各種添加剤等を調合した熱可塑性エラストマーのブレンド物を加熱混練することにより製造される。
【0062】
本発明の熱可塑性エラストマーの製造において、混合装置としては、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダーなどが使用され、混練装置としては、ミキシングロール、ニーダー、バンバリーミキサー、ブラベンダープラストグラフ、単軸押出機または二軸押出機等が使用される。
【0063】
<熱可塑性エラストマーの成形>
本発明の熱可塑性エラストマーは、射出成形機、単軸押出成形機、二軸押出成形機、圧縮成形機、カレンダー加工機等の成形機で成形することができ、その成形物をプリプレグCFRPと積層一体成形して複合化することにより、各種構造物を得ることができる。
【0064】
[積層成形体]
本発明の積層成形体は、炭素繊維強化プラスチックと、該炭素繊維強化プラスチックに積層された本発明の熱可塑性エラストマーよりなる熱可塑性エラストマー層とを有するものであり、炭素繊維強化プラスチックと炭素繊維強化プラスチックとの間に中間層として熱可塑性エラストマー層が積層されたものであってもよく、炭素繊維強化プラスチック上に表皮として熱可塑性エラストマー層が積層されたものであってもよい。
また、炭素繊維強化プラスチック上に積層された熱可塑性エラストマー層上に、更に摺動性材料の層が積層されたものであってもよい。
【0065】
炭素繊維強化プラスチックとしては、通常炭素繊維強化エポキシ樹脂が用いられるが、炭素繊維強化プラスチックの樹脂種は何らエポキシ樹脂に限定されるものではない。
【0066】
また、表層に用いられる摺動性材料としては、シラン架橋ポリエチレン等を用いることができる。
【0067】
このような本発明の積層成形体は、炭素繊維強化プラスチックに密着性よく積層された熱可塑性エラストマーによりその耐衝撃性が大幅に改善されており、各種自動車部品構造体をはじめ、船舶部品構造体、動力部品構造体、建築部品構造体等の幅広い分野に適用可能であるが、なかでも軽量化が強く望まれる自動車用途に好適であり、これらの用途において、本発明の耐衝撃性改善の効果が充分に発揮される。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0069】
[原材料]
以下の諸例では次の原材料を使用した。
【0070】
<ポリエステルエラストマー>
TPEE−1:ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレンエーテルブロック共重合体
ポリテトラメチレンエーテルユニットの数平均分子量:2000
ポリテトラメチレンエーテルユニットの含有量:77質量%
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:23質量%
融点(DSC装置により測定):150℃
MFR(測定温度230℃、測定荷重21.18N):25g/10分
デュロA硬度:75
TPEE−2:ポリブチレンテレフタレート−ポリテトラメチレンエーテルブロック共重合体
ポリテトラメチレンエーテルユニットの数平均分子量:2000
ポリテトラメチレンエーテルユニットの含有量:70質量%
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:30質量%
融点(DSC装置により測定):160℃
MFR(測定温度230℃、測定荷重21.18N):25g/10分
デュロD硬度:26
【0071】
<成分(a):水添ブロック共重合体>
SB−1:スチレンブロック−ブタジエンブロック−スチレンブロックの共重合体の水素添加物
スチレン含有量:32質量%
水素添加率:98%以上
重量平均分子量:約22万
【0072】
<成分(b):炭化水素系ゴム用軟化剤>
OIL−1:パラフィン系オイル(出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW−90」)
重量平均分子量:550
40℃の動粘度:96mm
2/sec
【0073】
[評価方法]
得られた熱可塑性エラストマーの評価は次の方法で行った。
【0074】
<最大剥離強度>
エポキシ樹脂を含浸したCFRPのプリプレグ(20cm角、厚さ0.35mm)の2枚のシートの間に、各例で得られた熱可塑性エラストマーシートを挟み、オートクレーブ中で130℃、圧力0.5MPaにて4時間加熱圧着させ、CFRPシート間に熱可塑性エラストマーシートが積層された積層成形体を得た。
得られた積層成形体の一方のCFRPシートと熱可塑性エラストマーシートに、カッターで幅25mmで切り込みを入れ、他方のCFRPシートと熱可塑性エラストマーの間を剥がし、そのCFRPシートの端とCFRPシートと熱可塑性エラストマーシートが積層された端を各々オートグラフのチャックに取付け、180゜剥離することによって最大剥離強度を測定した。
【0075】
<衝撃試験>
上記の密着強度の評価におけると同様にして作成した積層成形体のシート面に対して、デュポン衝撃試験を用いて、撃ち型φ0.625インチにて、常温で1kgの錘を30cmの高さから落とし、積層成形体の割れ具合を観察し、下記基準で評価した。
また、比較例3として、熱可塑性エラストマーシートを用いず、CFRPのプリプレグのみを用いて、上記の最大剥離強度におけると同様に積層成形体を得、このCFRPのみの積層成形体についても、同様に衝撃試験を行って評価した。
○:CFRPシートが割れずに残っている。
×:CFRPシートが割れてしまっている。
【0076】
<長期保管後の最大剥離強度>
各例で得られた熱可塑性エラストマーシートを室温で3カ月放置した後、上記の最大剥離強度の評価におけると同様にして積層成形体を作成し、得られた積層成形体について、上記の最大剥離強度と同様に180°の最大剥離強度を測定した。
【0077】
[実施例1〜3、比較例1〜2]
<熱可塑性エラストマーの調製>
表−1に示す配合量に対して、安定剤としてテトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバスペシャルティーケミカルズ(株)製「イルガノックス1010」)0.1質量部を添加してヘンシェルミキサーで混合し、重量式フィーダーを用いてJSW製二軸押出機「TEX30」にて、210℃、スクリュー回転数400rpmで押し出しを行って、熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0078】
<熱可塑性エラストマーシートの作製>
この熱可塑性エラストマーをプレスにて、温度200℃の条件でプレス成形し、厚さ1mmのシートを作製した。
【0079】
得られた熱可塑性エラストマーシートを用いて、各々評価を行い、結果を表1−1に示した。
【0080】
【表1】
【0081】
表−1より本発明の熱可塑性エラストマーにより、炭素繊維強化プラスチックとの積層成形を容易に行って、密着性の高い積層成形体を得ることができ、炭素繊維強化プラスチックの耐衝撃性を大幅に改善することができることが分かる。また、本発明の熱可塑性エラストマーは、長期保管後の成形においても密着性を確保でき、密着性が高く耐久用途に使用可能な炭素繊維強化プラスチック積層成形体を提供することができることが分かる。
【0082】
これに対して、熱可塑性エラストマーを積層していない比較例3の積層成形体は耐衝撃性が悪い。熱可塑性エラストマーにポリエステル系熱可塑性エラストマーを含まない比較例1では、CFRPに対する密着性が悪い。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを含んでいても、その含有割合が少ない比較例2でも密着性に劣る結果となった。