(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマーブロックと、ポリエチレンオキサイドブロックとを有するブロック重合体(a)を含み、
前記ブロック重合体(a)に含まれる、ポリエチレンオキサイドブロックの質量/[アクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックとの合計の質量]が0.01〜0.3であることを特徴とする抗原抗体反応を利用した分析用ブロッキング剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1や非特許文献1に開示されるような生体由来のたんぱく質は、性能にばらつきが生じやすいという潜在的な課題を有している。
ところで、ブロッキング剤には、染色の標的であるたんぱく質に染色剤が特異吸着し、発色する際、その発色を妨げないと共に、標的以外のたんぱく質を覆い、標的以外のたんぱく質には染色剤が吸着せずに発色しないことが求められる。しかし、特許文献2〜4に開示される界面活性剤等は、標的のたんぱく質に対する染色剤の特異吸着による発色を妨げたり、標的以外のたんぱく質を十分には覆えず、標的以外のたんぱく質にも染色剤が吸着し、発色してしまったりするなどの課題を有している。
さらに、特許文献5に開示される共重合体は、原料の単量体合成時に複数の反応やそれに伴う精製が必要であるなど生産性に問題を有していた。
本発明は、標的のたんぱく質に対する染色剤の特異吸着による発色を妨げない性能や、標的以外のたんぱく質を十分に覆い、標的以外のたんぱく質に対する染色剤の非特異吸着を防止し、発色を防止する性能を安定して発現できる、生化学分析用ブロッキング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]〜[5]に関する。
[1]水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマーブロックと、ポリエチレンオキサイドブロックとを有するブロック重合体(a)を含み、
前記ブロック重合体(a)に含まれる、ポリエチレンオキサイドブロックの質量/[アクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックとの合計の質量]が0.01〜0.3であることを特徴とする生化学分析用ブロッキング剤。
[2]前記ブロック重合体(a)に含まれるアクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックとが、下記式(IA)〜(IC)のいずれかの構造を介して結合してなることを特徴とする、前記[1]記載の生化学分析用ブロッキング剤。
【0009】
【化1】
【0010】
[3]前記ブロック重合体(a)に含まれるアクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックとが、下記式(IA)の構造を介して結合してなることを特徴とする、前記[1]記載の生化学分析用ブロッキング剤。
【0011】
【化2】
【0012】
[4]前記ブロック重合体(a)が、下記一般式(II)で示される部位を有する、ポリエチレンオキサイドブロックを有し且つ質量平均分子量が5,000〜10万である高分子アゾ重合開始剤を用いて前記アクリル系モノマーを重合してなるブロック重合体である、前記[3]記載の生化学分析用ブロッキング剤。
【0013】
【化3】
(式中、m及びnは、それぞれ1以上の整数を示す。)
【0014】
[5]基材表面に固定した病理組織に、前記[1]〜[4]いずれか1項に記載の免疫染色用ブロッキング剤を接触させた後、前記病理組織中の抗原に、染色用抗体を吸着させ、前記抗原を検出する免疫染色方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のブロッキング剤は、標的のたんぱく質に対する染色剤の特異吸着による発色を妨げない性能や、標的以外のたんぱく質を十分に覆い、標的以外のたんぱく質に対する染色剤の非特異吸着を防止し、発色を防止する性能を、生体由来のブロッキング剤とは異なり、安定して発現できる。このブロッキング剤を用いることにより、感度よくウエスタンブロッティングや免疫組織染色などの抗原抗体反応を利用した生化学分析を行うことが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のブロッキング剤は、ブロック重合体(a)を含むことを特徴とする。
【0017】
<ブロック重合体(a)>
本発明においてブロック重合体(a)とは、水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上2以下であるアクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)が共有結合で結合された構造を有する重合体を指す。分子内にアクリル系ポリマーブロック(A1)とポリエチレンオキサイドブロック(A2)を併せ持つことで、タンパク質への吸着性が制御され、優れたブロッキング性能を有することができる。
【0018】
アクリル系ポリマーブロック(A1)とポリエチレンオキサイドブロック(A2)のブロック重合体(a)は、下記式(IA)、(IB)又は(IC)のいずれかの構造(結合構造)を介して結合されていることが好ましい。その合成方法については、後述するが、特に限定されない。なお、ブロック重合体(a)は、下記式(IA)〜(IC)のいずれか一以上の結合構造を含むことが好ましいが、これら以外の結合構造を一部に含んでいてもよい。下記式(IA)の構造を介して結合してなる重合体であることがより好ましい。
【0020】
上記の式(IA)で示される結合構造を有するブロック重合体(a)の合成方法の一例を挙げる。
例えば、ラジカル重合開始剤として4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(例えば、和光純薬工業株式会社の市販品「V−501」等)を用いてアクリル系ポリマーを合成すると、末端にカルボキシル基を有するアクリル樹脂が得られる。これに、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)を構成する原料としてポリエチレングリコールを加え、エステル化反応をさせることで、アクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが上記式(IA)で結合してなるブロック重合体を得ることができる。
【0021】
あるいは、上記の式(IA)で示される結合構造を有するブロック重合体(a)は、アクリル系ポリマーを合成する際のラジカル重合開始剤として、下記式(II)で示される、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とアゾ基を含む構造単位を有する高分子アゾ重合開始剤を用いて好ましく合成することができる。式中、m及びnは、それぞれ独立に1以上の整数である。高分子アゾ重合開始剤は、高分子セグメントとアゾ基(−N=N−)が繰り返し結合した構造を有しており、本実施形態では、高分子セグメントとしてポリエチレンオキサイドブロック(A2)を含む高分子アゾ開始剤を用いることで、容易にブロック重合体(a)を合成できる。
【0023】
高分子アゾ重合開始剤を用いる場合、該開始剤中に含まれるアゾ基のモル数に対する、アクリル系モノマーの全モル数の比率を適宜変更することによって、ブロック重合体の質量平均分子量の調整ができる。
【0024】
高分子アゾ重合開始剤の質量平均分子量は、5,000〜10万程度であることが好ましく、1万〜5万程度であることがより好ましい。また、該開始剤のポリエチレンオキサイドブロック(A2)の分子量は、800〜1万程度であることが好ましく、1,000〜8,000程度であることがより好ましい。
また、好ましくはmは15〜200、より好ましくはmは20〜100であり、好ましくはnは3〜50、より好ましくはnは4〜30である。
【0025】
前記高分子アゾ重合開始剤は、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)を有しているため、水、アルコール、及び有機溶剤に可溶であり、溶液重合、乳化重合、又は分散重合によりブロック重合体の合成が可能である。また、分子鎖骨格中に重合開始部分(ラジカル発生部分:―N=N−)を有しているため、別途重合開始剤を使用する必要がなく、さらには末端反応性マクロモノマーに比べてラジカルの反応性、及び安定性が高いという特徴を有している。
前記高分子アゾ重合開始剤は、・C(CH
3)CN−(CH
2)
2−COO−(CH
2CH
2O)
m−CO−(CH
2)
2−C(CH
3)CN・にて示されるようなラジカルを生じ、後述するアクリル系モノマーを重合させる。そして、アクリル系モノマーから形成されるアクリル系ポリマーブロック(A1)と前記ラジカル由来の部分とが結合した主鎖を形成し、ブロック重合体を形成する。ポリエチレンオキサイドブロック(A2)は、ラジカルの一部に由来する。
高分子アゾ重合開始剤の具体例としては、和光純薬製の高分子アゾ開始剤VPE0201(上記式(II)の(CH
2CH
2O)
mの部分の分子量が約2000、nが6程度)などが例示される。
【0026】
高分子アゾ重合開始剤の他に、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ開始剤や、過酸化ベンゾイルのうようなの有機過酸化物開始剤を併用することができる。これらの開始剤を併用することにより、開始効率を高め、効率よくアクリル系ポリマーブロック(A1)にPEGに組み込むことができ、残留モノマーを減らすことができる。
【0027】
ブロック重合体(a)の合成時には、用途に応じてラウリルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類、α−メチルスチレンダイマー、リモネン等の連鎖移動剤を使用して、分子量や末端構造を制御しても良い。
【0028】
次に、アクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが上記式(IB)の構造を介して結合してなるブロック重合体(a)の合成方法について説明する。
例えば、アクリル系ポリマーブロック(A1)とポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが、上記式(IB)の構造を介して結合してなるブロック重合体(a)は、アクリル系モノマーを、ヒドロキシ基を有するアゾ重合開始剤を用いて重合し、末端にヒドロキシ基を有するアクリル系ポリマーブロックを得る工程、及び前記アクリル系ポリマーブロック(A1)およびポリエチレングリコールと、2官能のイソシアネート化合物とをウレタン化反応させる工程を含む方法により製造することができる。
【0029】
例えば、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロパンアミド](例えば、和光純薬工業株式会社の市販品「VA−086」等)を用いてアクリル系ポリマーを合成すると、末端にヒドロキシル基を有するアクリル樹脂が得られる。これに、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)を構成する原料としてポリエチレングリコールを加え、2官能イソシアネート化合物を用いてウレタン化反応させることで、アクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが結合してなるブロック重合体(a)を得ることができる。
ウレタン化反応の際用いられる2官能イソシアネート化合物としては、例えば、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0030】
さらに、アクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが上記式(IC)の構造を介して結合してなるブロック重合体(a)の合成方法について説明する。
例えば、アクリル系ポリマーブロック(A1)とポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが、上記式(IC)の構造により結合してなるブロック重合体は、アクリル系モノマーを、カルボキシル基を有するアゾ重合開始剤を用いて重合し、カルボキシル基を有するアクリル系ポリマーブロック(A1)を得る工程、及び前記アクリル系ポリマーブロック(A1)にポリエチレングリコールをエステル化反応させる工程を含む方法により製造することができる。
【0031】
例えば、ラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]4水和物(例えば、和光純薬工業株式会社の市販品「VA−057」等)を用いてアクリル系ポリマーを合成すると、末端にカルボキシル基を有するアクリル樹脂が得られる。これに、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)を構成する原料としてポリエチレングリコールを加え、エステル化反応をさせることで、アクリル系ポリマーブロック(A1)と、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)とが結合してなるブロック重合体(a)を得ることができる。
【0032】
なお、式(IB)〜(IC)のいずれかの構造を介して結合してなるブロック重合体(a)を得る際に、上記のような高分子ではないアゾ重合開始剤を用いる場合も、高分子アゾ重合開始剤を用いる際に併用し得るものとして記載した「他の開始剤」も適宜併用することができる。また、連鎖移動剤も適宜使用できる。
【0033】
<アクリル系ポリマーブロック(A1)>
本発明においてアクリル系ポリマーブロック(A1)とは、アクリロイル基およびまたはメタクリロイル基を少なくとも一つ有する(メタ)アクリル系モノマーを全モノマーの内10%以上含むブロック構造部分を指す。アクリル系ポリマーブロック(A1)は、水/1−オクタノール分配係数(LogP)の平均値が0以上2以下であるモノマーから構成されることで、得られるポリマーのタンパク質や組織片との過度な相互作用を抑えることができ、優れたブロッキング性能を得ることができる。
【0034】
LogPは、化学物質の性質を表す数値の一つであり、添加量に依存しない一定の値である。対象とする物質が、水と1−オクタノールの混合液において、水相とオクタノール相が接した系中で平衡状態にある場合を対象として、各相の濃度をその常用対数で示したものである。LogPが大きくなると、比較的に疎水性が増大する傾向があり、LogPが小さくなると、比較的に親水性が増大する傾向がある。
【0035】
LogPの測定は、一般にJIS日本工業規格Z7260−107(2000)に記載のフラスコ浸とう法により実施することができる。また、LogPは実測に代わって、計算化学的手法あるいは経験的方法により見積もることも可能である。LogPの計算に用いる方法やソフトウェアについては公知のものを用いることができるが、本発明ではCambridgeSoft社のシステム:ChemdrawPro11.0に組み込まれたプログラムを用い、LogPを求めている。
【0036】
水/1−オクタノール分配係数(LogP)が0以上2以下であるモノマーとしては、特に限定はされないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチルアクリレート等のアルキルエステル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリルメトキシメチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシメチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、プロポキシメチル(メタ)アクリレート、プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−メトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−[2−(2−エトキシエトキシ)エトキシ]エチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート等のアルコキシ基含有モノマー;
(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、ブタジエン、イソプレンなどのビニル基含有モノマー; N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、1−ビニルイミダゾール、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸2−カルボキシエチル、あるいはエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの繰り返し付加した末端にカルボキシル基を有するアルキレンオキサイド付加系コハク酸(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有モノマーなどが挙げられる。
これらは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。これらの化合物のうち、特にn−ブチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレートが経済性や操作性の点から好ましい。
【0037】
本発明では、使用するアクリル系モノマーのLogPが0〜2の範囲であれば、ホモポリマー部分の原料として使用することができる。また、使用する(メタ)アクリル系モノマーのLogPが0〜2の範囲外であっても、その他の(メタ)アクリル系モノマーを含めたLogPの質量平均値が0〜2の範囲であれば、コポリマー部分の原料として使用することができる。
【0038】
LogPが0〜2の範囲外のモノマーの中で、例えば、アルキル基の炭素数が5〜20のアクリレート、アルキル基の炭素数が4〜20のメタクリレート、スチレンなどのビニル基含有モノマー、マレイン酸等のカルボキシル基含有モノマー、4−ヒドロキシスチレン、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の水酸基含有モノマー、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの側鎖にポリエチレンオキサイド部分を持つモノマーなどが挙げられる。
【0039】
ブロック重合体(a)を構成する親水性に富むポリエチレンオキサイドブロック(A2)と疎水性に富むアクリル系ポリマーブロック(A1)のバランスにより、組織片や抗体との接着性を効果的に制御し得る。重合体(a)は、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)の質量/[アクリル系ポリマーブロック(A1)とポリエチレンオキサイドブロック(A2)との合計の質量]は、0.01〜0.3であり、0.1〜0.25であることが好ましい。即ち、1〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがより好ましい。
【0040】
<ガラス転移温度>
ブロック共重合体(a)のガラス転移温度(以下、Tgともいう)は、−50℃〜50℃が好ましく、−50〜0℃がより好ましい。Tgが50℃以上の場合、たんぱく質にほとんど吸着が起こらなくなる可能性がある。
【0041】
DSC(示差走査熱量計)によるガラス転移温度の測定は以下のようにして行うことができる。ブロック共重合体(a)を乾固した樹脂約2mgをアルミニウムパン上で秤量し、該試験容器をDSC測定ホルダーにセットし、10℃/分の昇温条件にて得られるチャートの吸熱ピークを読み取る。このときのピーク温度を本発明のガラス転移温度とする。
【0042】
<分子量>
ブロック共重合体(a)の質量平均分子量Mwは10000〜300000であることが好ましい。分子量が10000未満である場合や300000より大きい場合、感度よく分析を行えなくなる可能性がある。また、分子量が300000より大きい場合、粘度が高く、使用上問題が生じる可能性がある。
<質量平均分子量(Mw)の測定方法>
Mwの測定は昭和電工社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「GPC−101」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーである。本発明における測定は、カラムに「KF−805L」(昭和電工社製:GPCカラム:8mmID×300mmサイズ)を直列に2本接続して用い、試料濃度1wt%、流量1.0ml/min、圧力3.8MPa、カラム温度40℃の条件で行い、質量平均分子量(Mw)の決定はポリスチレン換算で行った。データ解析はメーカー内蔵ソフトを使用して検量線および分子量、ピーク面積を算出し、保持時間15〜30分の範囲を分析対象として質量平均分子量を求めた。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。尚、実施例および比較例における「部」は「質量部」を表し、molとは物質量を表し、mol%は全単量体中の物質量の割合を表す。
【0044】
[製造例1]
<ブロック重合体(a)の調製>
温度計、撹拌機、窒素導入管、還流冷却器、滴下管を備えた反応容器に、窒素気流下、有機溶媒としてメチルエチルケトン(以下、MEKと略す)150質量部を仕込み、撹拌下80℃で30分加熱した。滴下管にモノマーとしてメトキシエチルアクリレートを80質量部、2‐エチルヘキシルアクリレートを20質量部、重合開始剤としてVPE0201(和光純薬工業社製:マクロアゾ開始剤)を25質量部、溶媒としてMEKを10質量部仕込み、2時間かけて滴下した。滴下終了後6時間熟成した。その後、室温に冷却し反応を停止した。その後、ダイヤフラムポンプでMEKを除去し、ブロック重合体(a)を得た。得られた重合体のMwは57400であった。
なお、25℃のイオン交換水中99g中に、得られたビニル系重合体(a)を1g入れて撹拌し溶解後、25℃で24時間放置した。その結果これらの樹脂は分離、析出ともに見られず、完全に溶解可能であり、水溶性であることが示された。
【0045】
<ブロッキング剤の調製>
上記で得られたブロック重合体(a)を、リン酸緩衝生理食塩水(以下PBS溶液)に溶かし、濃度:5質量%の製造例1のブロッキング剤を得た。
【0046】
[製造例2〜10]
表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法でブロック重合体(a)を合成し、PBS溶液に溶解し、製造例2〜10のブロッキング剤を得た。
【0047】
【表1】
【0048】
表中の記号は以下の通り。
MEA:メトキシエチルアクリレート、LogP=0.48
BA:ブチルアクリレート、LogP=1.88
MMA:メチルメタクリレート、LogP=1.11
AA:アクリル酸、LogP=0.38
BMA:ブチルメタクリレート、LogP=2.23
2EHA: 2−エチルヘキシルアクリレート、LogP=3.53
ISTA:イソステアリルアクリレート、LogP=7.47
【0049】
<ブロッキング剤による処理および性能評価>
[アクチンの付着]
ヒト血小板由来アクチン(Cytoskeleton社製)を1質量%となるようにPBS溶液で希釈し、評価用アクチン溶液を調整した。
ニトロセルロース膜(メンブレン L-08002-010_アズワン製)2枚、各1カ所に、前記評価用アクチン溶液を、マイクロピペッターを用いてそれぞれ2μLずつ滴下し、静置し乾燥させた。
【0050】
[ブロッキング剤による処理]
次いで、上記で調整したブロッキング剤に、アクチンを付着したニトロセルロース膜を入れ、室温で1時間振とうし、ブロッキング処理を行った。
その後、ブロッキング剤からニトロセルロース膜を取り出し、取り出したニトロセルロース膜をPBS溶液に入れ、室温で15分間振とうした。PBS溶液を新しくし、同様の洗浄作業をもう1回繰り返し、余分なブロッキング剤を取り除いた。
【0051】
[アクチンに対する2種類の抗体の付着]
抗β-アクチン,モノクローナル抗体,ペルオキシダーゼ結合(和光純薬工業社製)を、PBS溶液に溶解し、濃度0.01質量%のアクチン抗体希釈液を得た。また同様に、抗GAPDH,モノクローナル抗体, ペルオキシダーゼ結合(和光純薬工業社製)を、PBS溶液に溶解し、濃度0.01質量%のGAPDH抗体希釈液を得た。
余分なブロッキング剤を除去した前述のニトロセルロース膜を、それぞれの抗体希釈液に入れ、室温で1時間振とうした。次いで、抗体希釈液からニトロセルロース膜を取り出し、取り出したニトロセルロース膜をPBS溶液に入れ、室温で一時間振とうし、余分な抗体を取り除いた。
なお、GAPDHとはグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼの略である。
【0052】
[染色と評価]
DAB錠(和光純薬工業製)10mgを0.05mol/L トリス−塩酸バッファー50mLに溶解し、さらに30%過酸化水素水を10μL加えて染色液を調整した。
余分な抗体を取り除いた前述の2枚のニトロセルロース膜をそれぞれ染色液で覆い、表面の余分な染色液はタオルで除去した。
以下の基準に従い、2種類の抗体希釈液を用いた場合におけるアクチン付着部位の染色状態を評価し、評価結果を表3に示す。
【0053】
「アクチン抗体希釈液を用いた場合」
○:明確な染色あり
△:ほとんど染色なし
×:染色なし
「GAPDH抗体希釈液を用いた場合」
○:染色なし
△:染色あり
×:明確な染色あり
「総合評価」
○:アクチン抗体希釈液を用いた場合のみが染色され、GAPDH抗体希釈液を用いた場合に染色が無い。
△:アクチン抗体希釈液を用いた場合染色が薄く、GAPDH抗体希釈液を用いた場合とのコントラストが小さい、もしくは、アクチン抗体希釈液を用いた場合染色されるが、GAPDH抗体希釈液を用いた場合にも明確な染色が見られる。
×:アクチン抗体希釈液を用いた場合とGAPDH抗体希釈液を用いた場合との染色程度は変わらない(ブロッキング性能無し)
【0054】
【表2】
【0055】
表2に示すように、本発明の生化学分析用ブロッキング剤を用いることで、アクチンとアクチン抗体との生化学分析を行うことができた。これは本発明の生化学分析用ブロッキング剤に含まれるブロック重合体(a)がたんぱく質と適切に吸着することで、抗原抗体反応を阻害せず、非特異的な吸着反応を抑えることができたためであると考えられる。
【0056】
それに対して、ポリエチレンオキサイドブロック(A2)を有さない重合体を使用した比較例1は、アクチン抗体希釈液を用いた場合に明確な染色が得られず、GAPDH抗体希釈液を用いた場合とに明確な差は見られなかった。よって分析として十分な感度を得ることができなかった。これは、ブロッキング剤が強力に非特異的吸着を起こしてしまったため抗原抗体反応自体を阻害してしまったためであると考えられる。
また、ポリエチレンオキサイドブロックの質量/[アクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックとの合計の質量]が0.3よりも大きい重合体を使用した比較例2は、GAPDH抗体希釈液を用いた場合にも染色が得られ、アクチン抗体希釈液を用いた場合とに明確な差は見られなかった。よって分析として十分な感度を得ることができなかった。これは、ブロッキング剤の水溶性が高く、タンパク質に十分に吸着できなかったため、ブロッキング剤としての性能が得られなかったためであると考えられる。
【0057】
アクリル系ポリマーブロック(A1)を形成するアクリル系モノマーの水/1−オクタノール分配係数(LogP)平均値が2より大きい重合体を使用した比較例3、4は、アクチン抗体希釈液を用いた場合に明確な染色が得られずとGAPDH抗体希釈液を用いた場合とに明確な差は見られなかった。よって分析として十分な感度を得ることができなかった。これは、ブロッキング剤が強力に非特異的吸着を起こしてしまったため抗原抗体反応自体を阻害してしまったためであると考えられる。