(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
要件B)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100〜500質量%である、請求項1〜3の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物。
要件B)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100〜200質量%である、請求項1〜3の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物。
【背景技術】
【0002】
クロワッサンやデニッシュ、パイ等のペイストリー(pastry)は、一般に、ロールイン用油中水型乳化油脂組成物をシート状生地に重ね、折り込んで層状に成形したものを焼成することにより、製造されている。
【0003】
このペイストリーは、近年、浮きが良く、かつ口溶けの良い食感のものが嗜好されている。ペイストリーの浮きを向上させる方法として、以下の方法が提供されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、直接β型の油脂結晶を油相中に5質量%以上含有し、且つ、水相のpHが有機酸により1〜6に調整されていることを特徴とするロールイン用油中水型乳化油脂組成物を用いる方法が提供されている。
特許文献2では、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを特定の比率で含有する、ロールイン用油中水型乳化組成物を用いる方法が提供されている。
特許文献3では、特定の分解度のデキストリンを使用することを特徴とするロールイン用油中水型乳化組成物を用いる方法が提供されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペイストリーの焼成時の浮きを向上させる方法として、特許文献1,2のようにロールイン用油中水型乳化物の油相側の油脂の種類や乳化剤の改良する方法や、特許文献3のようにロールイン油中水型乳化物の水相側にデキストリンを添加する方法などが提供されていた。しかし、得られるペイストリーの浮きが向上する一方で、口溶けが悪化したり、製パン作業性が低下する等の課題があった。
本発明では、特許文献1〜3などの方法に代わり、ペイストリーへの使用に適した、新たなロールイン用油中水型乳化組成物を提供することを目的とする。特に、穀物層状食品の焼成時の浮きを向上させることができる、ロールイン用油中水型乳化組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の豆類抽出物をロールイン用油中水型乳化組成物に用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下のような構成を包含する。
(1)下記AおよびBの要件を満たす、豆類抽出物を含む、ロールイン用油中水型乳化組成物、 A)該豆類抽出物が、加熱処理豆類の抽出物であること、 B)該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100質量%以上、
(2)要件A)において、該加熱処理豆類のNSI(水溶性窒素指数)が、15〜77である、前記(1)記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(3)要件A)において、該加熱処理豆類が加熱処理全脂大豆である、前記(1)又は(2)記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(4)該豆類抽出物の脂質含量が固形分中15質量%以下である、前記(1)〜(3)の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(5)要件B)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100〜500質量%である、前記(1)〜(4)の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(6)要件B)において、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が、100〜200質量%である、前記(1)〜(4)の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(7)シート状に成形されている、前記(1)〜(6)の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物、
(8)前記(1)〜(7)の何れか1項記載のロールイン用油中水型乳化組成物を用いた、ペイストリー。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ペイストリー等の穀物層状食品の製造時に層状に折り込んで用いることができ、焼成後の浮きを向上させる、新たなロールイン用油中水型乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0012】
(豆類抽出物の原料)
本発明のロールイン用油中水型乳化組成物に用いられる豆類抽出物の原料としては、大豆、エンドウ、インゲン、緑豆、ひよこ豆等の各種豆類が挙げられる。工業性の観点では、大豆またはエンドウ豆が好ましく、特に大豆が好ましい。大豆を原料とする場合には、全脂大豆、部分脱脂大豆、脱脂大豆などの何れを用いることもでき、これらは予め発芽処理した大豆から得たものであっても良い。全脂大豆は、圧搾やロールによる物理的処理や有機溶剤処理などにより大豆油の抽出処理がされていないものをいう。全脂大豆の脂質含量は特に限定されないが、抽出処理がされていない全脂大豆では固形分中15質量%を超えるのが通常であり、多くは18質量%以上である。全脂大豆から得られる大豆抽出物は不快な大豆臭がより少なく、かつペイストリーの焼き上がりの加熱風味を底上げする効果も高いため、風味の点でより好適である。
【0013】
使用する豆類は未粉砕のままでも良いし、水性溶媒により抽出する前に予め砕かれていても良い。大豆を予め砕く場合の粒子径は任意であり、粗砕でも粉砕でも良い。
【0014】
(加熱処理豆類)
本発明に用いられる前記豆類は、生のままではなく、水性溶媒により抽出する前に予め加熱処理された、加熱処理豆類である。豆類の加熱処理の方法は特に限定されず、例えば乾熱処理、水蒸気処理、過熱水蒸気処理、マイクロ波処理等を用いることができる。また水に浸漬した後、抽出前に加熱処理することもできるが、水に浸漬する前の段階で加熱処理されていることがより好ましい。
【0015】
加熱の程度は抽出物に炒り豆のような焦げ臭が付与されない程度が好ましい。加熱の程度は蛋白質の変性度合を表すNSI(水溶性窒素指数)により表すことができ、加熱度合いが強いほど蛋白質が不溶化し、NSIの値が小さくなる。本発明において、加熱処理された豆類のNSIは特に下限を15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上などとすることができ、上限を77以下、75以下、70以下、65以下、60以下、55以下、50以下などとすることができる。かかる中間的な範囲のNSIとなるように、予め豆類を加熱することによって、より本発明の効果を発揮できる豆類抽出物を得ることができる。
加熱処理の条件は加熱処理装置により異なるため特に限定されず、好ましくはNSIが上記範囲となるように適宜設定すれば良い。例えば乾熱加熱処理を行う場合、その処理条件は製造環境にも影響されるため一概に言えないが、おおよそ120〜250℃の過熱水蒸気を用いて5〜10分の間で豆類のNSIが上記範囲となるように処理条件を適宜選択すれば良く、処理条件の決定に特段の困難は要しない。
【0016】
なお、NSIは所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(質量%)で表すことができ、本発明においては以下の方法に基づいて測定された値とする。
すなわち、試料2.0gに100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分間遠心分離し、上清1を得る。残った沈殿に再度100mlの水を加え、40℃にて60分攪拌抽出し、1400×gにて10分遠心分離し、上清2を得る。上清1および上清2を合わせ、さらに水を加えて250mlとする。No.5Aろ紙にてろ過したのち、ろ液の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素含量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素(水溶性窒素)の試料中の全窒素に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。
【0017】
(豆類抽出物)
本発明に用いられる豆類抽出物は、上記の加熱処理豆類を水性溶媒で抽出して得られるものであって、下記の組成を有する豆類抽出物である(以下、この抽出物を「本抽出物」と称する場合がある)。本抽出物には、該水性溶媒からの抽出物からさらに特定の画分を分画、濃縮又は精製したものも含まれる。
【0018】
本抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量(以下、「P/C含量」と略する場合がある)は、100質量%以上である。
加熱処理豆類から抽出され、本抽出物中にP/C含量が上記含量で含まれる蛋白質が、ペイストリーの焼成時の浮きに関連すると思料される。P/C含量は、100〜500質量%であることができる。
【0019】
一方、分離大豆蛋白や濃縮大豆蛋白などのような、蛋白質が固形分中約70質量%以上にまで濃縮された植物性蛋白質素材は、貯蔵蛋白質が主成分で炭水化物が少量しか含まれないため、P/C含量が過剰で本抽出物とは異なる。ただし該蛋白質素材を本抽出物と併用することはできる。
なお、本発明において、蛋白質含量はケルダール法により測定される。また炭水化物含量は、固形分から脂質、蛋白質及び灰分の含量の和を引いた計算値とする。以下、本抽出物のより具体的な例を示す。
【0020】
本抽出物の一形態として、加熱処理された大豆や脱脂大豆を水中で磨砕抽出するか、予め粉砕してから水を加えて抽出し、繊維分と脂質を遠心分離等で除去して得られた低脂肪の抽出物は、大豆蛋白質がある程度抽出されるため、P/C含量が比較的高く、100質量%以上200質量%未満程度である。ただし、この範囲は通常の豆乳や未変性の脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳と比べると十分に低いレベルである。かかる特定の範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は120質量%以上、130質量%以上や140質量%以上の範囲、上限は190質量%以下、180質量%以下、170質量%以下、160質量%未満、155質量%以下、150質量%以下等の範囲を選択することができる。本抽出物のさらに別の一形態として、予め加熱処理された豆類から公知の方法で蛋白質と炭水化物を抽出して得たスラリー(懸濁液)から不溶性画分であるオカラを除去して得られる抽出物は、一般に豆乳と称され、P/C含量が比較的高く、200〜500質量%程度である。かかる範囲において当業者は任意に選択することができ、下限は205質量%以上、210質量%以上や220質量%以上の範囲、上限は400質量%以下、350質量%以下、330質量%以下や300質量%以下の範囲を選択することができる。上記の通り、公知の方法で抽出して得たスラリー(大豆粉砕液)から不溶性画分であるオカラを除去して得られる豆乳では固形分中の脂質含量が上記範囲よりも高くなり、20質量%以上となる。
【0021】
本抽出物中の脂質含量は、中ないし高程度のP/C含量を有する上記何れの豆類抽出物の形態においても、固形分換算で15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下又は8質量%以下などの、より低脂質であることができる。また別態様として、脂質含量が固形分換算で15質量%超、20質量%以上、25質量%以上又は30質量%以上であって、50質量以下、45質量%以下又は40質量%以下の比較的高脂肪の抽出物であることもできる。何れの脂質含量の抽出物を用いるかは、当業者が求めるペイストリーの食感や浮きの強さに応じて適宜選択すればよい。ペイストリーのある態様では、低脂肪であるほど本抽出物の固形分に占める蛋白質の割合が高まり、より浮きの良いペイストリーが得られる。なお、本発明において、脂質含量は酸分解法により測定される。
【0022】
本抽出物を加熱処理豆類から抽出するための水性溶媒は、水や含水アルコール等を用いることができ、水や含水エタノールが食品製造上好ましい。本抽出物を加熱処理豆類から抽出するときの加水量、抽出温度、抽出時間等の抽出条件は特に限定されず、例えば加水量は加熱処理豆類に対して2〜15質量倍、抽出温度は20〜99℃、抽出時間は20分〜14時間などで設定すればよい。本抽出物は液状、固形状、粉末状の何れの形態もとり得る。
【0023】
本抽出物は、例えば豆類が大豆の場合、未変性の全脂大豆から抽出した比較的脂質含量の高い豆乳や、同様に未変性の脱脂大豆から抽出した比較的蛋白質含量の高い脱脂豆乳とは明確に区別される。本抽出物は、より好ましい態様として、例えば加熱処理全脂大豆から抽出された脂質含量が上記範囲の低脂肪の抽出物も典型的には包含される。ただし、該抽出物に人為的に油脂が混合された組成物を除外するものではない。
また本抽出物に含まれる脂質以外の成分は水可溶性の成分であり、炭水化物、蛋白質、遊離アミノ酸、低分子ペプチド、ミネラル、有機酸、イソフラボン、サポニン等の成分の一部又は全部が含まれる。必ずしも本抽出物中に一般に市販されている豆乳並みの蛋白質が多く含まれている必要はない。
【0024】
本抽出物のより低脂肪のタイプの一形態として、加熱処理された大豆や脱脂大豆を水中で磨砕抽出するか、予め粉砕してから水を加えて抽出し、繊維分と脂質を遠心分離等で除去して得られた低脂肪の抽出物を用いることができ、これは固形分中の脂質含量が15質量%以下のものである。より具体的な例として、例えば特開2012−16348号公報に示される方法により得ることができる。一方、公知の方法で抽出して得たスラリー(大豆粉砕液)から不溶性画分であるオカラを除去して得られる豆乳は、固形分中の脂質含量が上記範囲よりも高くなり、20質量%以上となる。
該低脂肪の抽出物の場合は大豆蛋白質がある程度抽出されているため、P/C含量は中程度であり100質量%以上200質量%未満である。この範囲は通常の豆乳や未変性の脱脂大豆から抽出した脱脂豆乳と比べると十分に低いレベルである。
【0025】
(ロールイン用油中水型乳化組成物)
本発明のロールイン油中水型乳化組成物は、上記の本抽出物を含むことが特徴である。ここで、ロールイン用油中水型乳化組成物は、パン生地等に均一に練り込んで使用される、練り込み用油中水型乳化組成物とは区別され、ペイストリー等の生地に層状に重ねて生地と均一化させずに折り込み等の成形を行ってペイストリー等を製造するために使用されるものである。油中水型乳化組成物は、典型的にはマーガリンであるが、これに限られない。該ロールイン用油中水型乳化組成物は、上記の本抽出物を含有させる以外は、公知の方法により製造することができる。以下に実施態様を示す。
【0026】
(油脂)
本発明のロールイン用油中水型乳化油脂組成物で使用する油脂としては、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米ぬか油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、やし油、パーム核油等の各種植物油脂、ならびに乳脂、牛脂、ラード等の各種動物油脂、あるいはこれら単独か混合物に分別、水素添加、エステル交換から選択される1または2以上の処理を施した加工油脂が挙げられ、これらの中から選ばれた1種または2種以上の油脂を適宜使用することができる。
【0027】
本発明においては、ロールイン用油中水型乳化油脂組成物中に、油脂を40〜95質量%含むことが望ましく、より望ましくは60〜95質量%であり、さらに望ましくは80〜95質量%である。
【0028】
また、本発明のロールイン用油中水型乳化油脂組成物における配合油脂のSFC値は、望ましくは10℃で20〜70、30℃で1〜35、より望ましくは10℃で25〜65、30℃で2〜30、さらに望ましくは10℃で30〜60、30℃で3〜25である。
【0029】
本発明のロールイン用油中水型乳化油脂組成物中の水相に該当する水、その他の原料の割合は、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは5〜20質量%である。
【0030】
本発明においては、ロールイン用油中水型乳化油脂組成物中に本抽出物を固形分として0.01〜3質量%含むことが好ましい。該範囲の下限は0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上又は0.4質量%以上とすることができる。また該範囲の上限は、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下又は0.4質量%以下とすることができる。本抽出物は液状の場合、水相に配合すれば良く、粉末等の固体状の場合、水相にも油相にも配合することができる。
【0031】
本発明のロールイン用油中水型乳化油脂組成物は、上記以外の成分を本発明の効果を妨げない範囲で、適宜油相又は水相に含有させることができる。例えば、各種色素成分を併用することで、ペイストリーに見た目の美しさをさらに付与することもできる。また、でん粉やデキストリンを含む多糖類、食塩や塩化カリウム等の塩類、水、乳化剤、酸化防止剤、香料、着色料、調味料、甘味料、pH調整剤、保存料、日持ち向上剤等の食品素材や食品添加物も適宜使用できる。これらを油相と水相のいずれに添加するかは、一般に該成分がどちらの相に溶解又は分散するかで選択すればよい。
【0032】
本発明のロールイン用油中水型乳化油脂組成物の調製法は、以下に例示するような、一般的な方法を採用することができる。設定された配合において、油脂および油脂に溶解する成分、たとえば油溶性乳化剤を油脂に溶解し油相とする。油相は、油脂が完全に溶解された状態とする。これは、油脂の融点に依存し、概ね55〜75℃である。一方、設定された配合において、水および水に溶解する成分、たとえば水溶性の風味素材などは水に混合し水相とする。なお、液糖を使用する場合など、水を使用しない配合においては、液糖に水溶性の成分を溶解ないし混合することになる。
【0033】
油相および水相の準備が終了した後、油相を攪拌しながら水相を添加することで、油中水型に乳化した「調合液」を得る。このとき、攪拌が不十分であったり、あるいは油相の温度が低すぎる場合は、乳化が反転する場合もあるので、十分に攪拌しかつ、十分な温度が必要である。
【0034】
調合液はポンプにより送液し、適宜殺菌装置等を通過させた後、油中水型乳化油脂組成物の製造装置へ供される。油中水型乳化油脂組成物の製造装置へ供される直前の段階で、調合液は溶解状態でかつ、40〜80℃であることが必要であり、より望ましくは50〜70℃であり、さらに望ましくは55〜65℃である。油中水型乳化油脂組成物の製造装置へ供される直前の調合液の温度が低すぎる場合は、その段階で油脂結晶が発生し、最終製品に粒状結晶が存在することがある。また、温度が高すぎる場合は、油中水型乳化油脂組成物の製造装置において余分の冷却エネルギーが必要となる場合がある。
【0035】
油中水型乳化油脂組成物の製造装置としては、冷却機能を有する各種のものを使用することができる。具体的には、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター等の掻き取り式急冷混和機を備えた装置をあげることができる。これらの装置により、一例として、調合液を1〜8℃/秒の速度で、冷却装置の出口で3〜15℃まで冷却する。冷却速度は、より望ましくは1〜7℃/秒であり、更に望ましくは〜5℃/秒である。冷却速度が遅すぎると、粒状結晶が発生しやすくなる場合があり、また冷却速度が速すぎると、不必要により大きな冷却エネルギーが必要となる場合がある。
【0036】
冷却装置を出た油中水型乳化油脂組成物は休止管に導入され、休止管出口に備えられた成型機により、シート状あるいはブロック状に成型される。このようにして得たロールイン用油中水型乳化油脂組成物の大きさは、成型機の形状により適宜設定することができる。成型後は包装、充填等の工程を経て冷蔵し、必要に応じてエージングを行う。なお、目標とする結晶量を得るために、少なくとも24〜48時間程度の冷蔵時間を要する場合がある。
【0037】
(ペイストリー)
本発明で言うペイストリーは、具体例として、クロワッサンやデニッシュ、パイ等が挙げられる。一般にペイストリーは主原料として穀粉類が用いられる。穀粉類としては、小麦粉、米粉、大豆粉、トウモロコシ粉、芋澱粉等が挙げられる。
本発明のペイストリーの調製法は、以下に例示するような、一般的な方法を採用することができる。ここでは、最も一般的なペイストリーを例として説明する。
【0038】
まず、小麦粉含有生地を薄く延ばし、これに適宜大きさおよび厚さを調整したロールイン用油中水型乳化組成物をのせて折りたたむ。続いて、該乳化組成物が包み込まれた生地を薄く延ばし、折り込む。最終的な折り数はこの折り数と繰り返す回数によって決まり、適宜設定することができる。折り込まれた生地は成型され、必要に応じて発酵工程を経て、焼成に供される。
【0039】
本抽出物を含むロールイン用油中水型乳化組成物をペイストリーの製造に用いることにより、ペイストリーの焼成時に良好な浮きを付与することができる。本抽出物を含まない、あるいは一般の全脂豆乳や脱脂豆乳を含有させたロールイン用油中水型乳化組成物を用いた場合に比べ、浮きの大きさの差が有意であり、ペイストリーの内層の空隙が大きくなるため、好ましい食感のペイストリーが得られる。さらに、付随的効果として、本抽出物を含むロールイン用油中水型乳化組成物は、焼成後にも油脂が生地に溶け込んだり流出したりせずに層状に残存し、咀嚼時に層状の油脂が体温で溶け出るためか、良好なジューシー感が付与される。さらに、本抽出物を含むロールイン用油中水型乳化組成物は、ペイストリーに独特の焼成による加熱風味を増強することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例等により本発明の実施形態についてさらに具体的に記載する。なお、以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0041】
(製造例1)ロールイン用油中水型乳化組成物の製造
表1に示した4種類の豆乳又は牛乳素材を水相に配合したロールイン用油中水型乳化組成物(シートマーガリン)を、表2の配合に従い、無添加の対照区と共に製造した。これら4種類の添加量は、固形分量が同じになるように調整した。
具体的には、食用油脂を2種類加えて油相とし、それ以外の原材料は水相として、油中水型乳化組成物を調製し調合液とした。さらに、掻き取り式急冷混和機「コンビネーター」、休止管、成型機を通してシート状のロールイン用油中水型乳化油脂組成物を得た。なお、掻き取り式急冷混和機の出口温度が10℃になるよう冷却を行い、シートの厚さが1cmになるよう成型機を選択した。得られた油脂組成物はポリエチレンフィルムで包装し、段ボールケースに充填後、5℃に設定した冷蔵庫で48時間保管した。
【0042】
(表1)
【0043】
(表2)シートマーガリン配合
【0044】
(試験例1)テストベーキング
製造例1における実施例1及び比較例1〜4で得られた5種類のロールイン用油中水型乳化組成物をそれぞれ用いて、表3の配合と表4の製造条件に従って、ペイストリー(デニッシュ)のテストベーキングを行った。いずれの例においても、製パン作業性は良好であった。
【0045】
(表3)デニッシュ配合
【0046】
(表4)製造条件
【0047】
○焼成後のデニッシュの品質評価
実施例1、比較例1〜4のシート状マーガリンを用いて得られたデニッシュ(n=6)について、内層の目視による確認と、中心部の高さを測定した。結果を
図1及び
図2に示し、表5に評価をまとめた。比較例1に対して、低脂肪豆乳を使用した実施例1のデニッシュは、浮きが約1.2倍になっており、有意に中心部の高さが高い結果となった(p<0.023、t検定)。
なお、ボリューム(中心部の高さ)の評価基準は、比較例1を基準(△)として以下の通りとした。
◎:42mm以上
○:39mm以上42mm未満
△:36mm以上39mm未満
×:36mm未満
※評価が○以上のものを合格とした。
【0048】
(表5)
【0049】
○官能評価(n=30)
実施例1、比較例1〜4の各例で調製したデニッシュを30名のパネラーに試食してもらい、D+1(製造日から1日後)における食感(ジュージー感)について、官能評価を実施した。
ジューシー感の評価方法として、咀嚼した際のデニッシュのジューシー感が最も良好と感じられる試験区を1つ、各パネラーに投票してもらい、各試験区の票数を数えた。票数に応じて、15票以上を◎、7票以上を○、3票以上を△、3票未満を×と評価した。そして評価が○以上の試験区を合格とした。官能評価の結果を表6にまとめた。
【0050】
(表6)
【0051】
○油分抽出によるジューシー感の確認
比較例1と実施例1において、焼成前後のデニッシュから、それぞれヘキサン抽出法により油分を抽出し、「焼成前のデニッシュの油脂含量」に対する「焼成前のデニッシュの油脂含量」を除して油脂残存率(%)を算出した。結果を表7にまとめた。表7の通り、実施例1では比較例1よりも焼成後により多くの油脂が残存し、保持されていることが示された。
【0052】
(表7)
【0053】
(考察)
以上の通り、加熱処理豆類の抽出物であり、該豆類抽出物中の炭水化物に対する蛋白質の含量比が160質量%である低脂肪豆乳をロールインマーガリンに含有させることにより、浮きが大きくボリュームがあり、かつジューシー感があり口溶けに優れたペイストリーが得られることが示された。比較例3の脱脂豆乳粉末を用いた場合、対照区の比較例1に比べて良好な品質であったものの、実施例1との品質の差は何れの評価項目においても大きかった。
【0054】
(試験例2) 低脂肪豆乳の配合量の検討
下記表8の通り、製造例1の実施例1において、低脂肪豆乳の配合量(5部)を無添加、2部、5部および10部に振り、水の量を調整する以外は、実施例1と同様にしてシートマーガリンを製造した。
【0055】
(表8)シートマーガリン配合
【0056】
得られたシートマーガリンについて、試験例1と同様にしてテストベーキングを行い、品質評価を行った。評価結果を表9にまとめた。
【0057】
(表9)
【0058】
(考察)
実施例2〜4はいずれもデニッシュにジューシー感が付与されていた。実施例4は食感が実施例3よりもさらに軽くなり、良好であったものの、ペイストリーの食感としては実施例3が最も良好であった。