特許第6874485号(P6874485)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874485熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置および押出製品内部温度分布推定方法、ビレット加熱制御装置およびビレット加熱制御方法ならびにプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874485
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置および押出製品内部温度分布推定方法、ビレット加熱制御装置およびビレット加熱制御方法ならびにプログラム
(51)【国際特許分類】
   B21C 31/00 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   B21C31/00
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-78035(P2017-78035)
(22)【出願日】2017年4月11日
(65)【公開番号】特開2018-176210(P2018-176210A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】岸 真友
(72)【発明者】
【氏名】山口 純一郎
(72)【発明者】
【氏名】西森 淳一
【審査官】 池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−248188(JP,A)
【文献】 特開2000−117323(JP,A)
【文献】 特開2002−192222(JP,A)
【文献】 特開2002−321009(JP,A)
【文献】 特開2000−271634(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定する装置であって、
前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定する、設定部と、
前記設定部によって設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出する、計算部と、
前記計算部によって得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度の最大値および押出力の最大値、ならびにそれらの最大値に対応する時間から選択される1種以上の指標について比較を行い、平均2乗誤差が最小となる押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに対応する1つの温度分布を抽出する、抽出部と、
前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定する、決定部と、を備える、
熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【請求項2】
前記設定部は、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
請求項1に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【請求項3】
前記設定部は、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
請求項2に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【請求項4】
ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定する方法であって、
(a)前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定するステップと、
(b)前記(a)のステップにおいて設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出するステップと、
(c)前記(b)のステップにおいて得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度の最大値および押出力の最大値、ならびにそれらの最大値に対応する時間から選択される1種以上の指標について比較を行い、平均2乗誤差が最小となる押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに対応する1つの温度分布を抽出するステップと、
(d)前記(c)のステップにおいて抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定するステップと、を備える、
熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【請求項5】
前記(a)のステップにおいて、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
請求項4に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【請求項6】
前記(a)のステップにおいて、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
請求項5に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【請求項7】
熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御する装置であって、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載される押出製品内部温度分布推定装置と、
温度制御部と、を備え、
前記温度制御部は、前記押出製品内部温度分布推定装置が推定した前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
ビレット加熱制御装置。
【請求項8】
熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御する方法であって、
請求項4から請求項6までのいずれかに記載される(a)〜(d)のステップと、
(e)ビレットの加熱温度を変更するステップと、を備え、
前記(e)のステップにおいて、前記(d)のステップで決定された前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
ビレット加熱制御方法。
【請求項9】
コンピュータによって、ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定するステップと、
(b)前記(a)のステップにおいて設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出するステップと、
(c)前記(b)のステップにおいて得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度の最大値および押出力の最大値、ならびにそれらの最大値に対応する時間から選択される1種以上の指標について比較を行い、平均2乗誤差が最小となる押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに対応する1つの温度分布を抽出するステップと、
(d)前記(c)のステップにおいて抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定するステップと、を実行させる、
プログラム。
【請求項10】
前記(a)のステップにおいて、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
請求項9に記載のプログラム。
【請求項11】
前記(a)のステップにおいて、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
請求項10に記載のプログラム。
【請求項12】
コンピュータによって、熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
請求項9から請求項11までのいずれかに記載される(a)〜(d)のステップと、
(e)ビレットの加熱温度を変更するステップと、を実行させ、
前記(e)のステップにおいて、前記(d)のステップで決定された前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置および押出製品内部温度分布推定方法、ビレット加熱制御装置およびビレット加熱制御方法ならびにプログラムに関する。
【0002】
炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金または銅合金等の金属加工品の製造方法の1つとして、熱間押出加工がしばしば用いられている。熱間押出加工においては、素材となるビレットを加熱した後、コンテナ内に挿入し、ビレットをラムでダイスに向けて押出すことで、所望の形状の押出製品が得られる。
【0003】
熱間押出加工を行うに際して、押出製品温度の過度な温度上昇に伴う、横切れと呼ばれる押出製品の外内面におけるキズの発生が問題となる。
【0004】
例えば、特許文献1においては、押出の進行に伴って、ラムからビレットに対して加えられる押出荷重(ラム荷重)が一定の割合で減少するように、ビレットの設定温度を制御することによって、ダイスから押し出される押出製品の温度を一定にして、かかる押出材の品質を、高度に且つ安定して維持することのできる押出方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−248188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、熱間押出加工における操業上の問題の1つとして、押出初期における押出速度の急変(オーバーシュート)および押出力の増大が挙げられる。押出初期にオーバーシュートが生じると、加工発熱量が過大となり、押出製品の外内面に横切れを生じさせる結果となる。また、押出力の増大により設備制約を超過した場合、加工途中詰まり(半押し)または最悪の場合は設備が破壊されるなどの大きなトラブルを引き起こすことになる。
【0007】
横切れ発生リスクを抑制するためには、加熱温度の低温化が有効であり、一方、最大押出力を低減するには、加熱温度の高温化が有効である。すなわち、両者はトレードオフの関係にあり、最適な操業条件を見出すためには試行錯誤が必要となる。
【0008】
そのため、効率よく最適な加熱条件を見出すためには、押出加工後の押出製品の温度を正確に把握できることが重要である。しかし、押出製品の内部温度を正確に測定することは困難であり、表面温度の測定結果から内部温度分布を推定することにも技術的なハードルが存在する。
【0009】
そこで、押出製品の内部温度分布を推定する方法が求められている。さらに、その推定結果に基づいてビレット加熱条件を適正化することで、品質面(外内面キズ抑制)および操業面(安定操業)での改善効果が期待できる。
【0010】
特許文献1によれば、熱間加工時の製品の温度を一定に保つことができるとされているが、内部温度分布を推定する方法については一切開示がなされていない。
【0011】
本発明は上記の問題を解決し、熱間押出加工時における押出製品内部の温度分布を高精度で推定する装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置および押出製品内部温度分布推定方法、ビレット加熱制御装置およびビレット加熱制御方法ならびにプログラムを要旨とする。
【0013】
(1)ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定する装置であって、
前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定する、設定部と、
前記設定部によって設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出する、計算部と、
前記計算部によって得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度推定値および押出力推定値の最適な時系列データに対応する1つの温度分布を抽出する、抽出部と、
前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定する、決定部と、を備える、
熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【0014】
(2)前記設定部は、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
上記(1)に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【0015】
(3)前記設定部は、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
上記(2)に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置。
【0016】
(4)ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定する方法であって、
(a)前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定するステップと、
(b)前記(a)のステップにおいて設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出するステップと、
(c)前記(b)のステップにおいて得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度推定値および押出力推定値の最適な時系列データに対応する1つの温度分布を抽出するステップと、
(d)前記(c)のステップにおいて抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定するステップと、を備える、
熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【0017】
(5)前記(a)のステップにおいて、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
上記(4)に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【0018】
(6)前記(a)のステップにおいて、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
上記(5)に記載の熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定方法。
【0019】
(7)熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御する装置であって、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載される押出製品内部温度分布推定装置と、
温度制御部と、を備え、
前記温度制御部は、前記押出製品内部温度分布推定装置が推定した前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
ビレット加熱制御装置。
【0020】
(8)熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御する方法であって、
上記(4)から(6)までのいずれかに記載される(a)〜(d)のステップと、
(e)ビレットの加熱温度を変更するステップと、を備え、
前記(e)のステップにおいて、前記(d)のステップで決定された前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
ビレット加熱制御方法。
【0021】
(9)コンピュータによって、ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記押出製品の長手方向の温度分布を複数設定するステップと、
(b)前記(a)のステップにおいて設定された前記複数の温度分布ごとに、前記温度分布ならびに予め定められた押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、複数の押出速度推定値および複数の押出力推定値の時系列データを算出するステップと、
(c)前記(b)のステップにおいて得られた、前記複数の押出速度推定値および前記複数の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較し、押出速度推定値および押出力推定値の最適な時系列データに対応する1つの温度分布を抽出するステップと、
(d)前記(c)のステップにおいて抽出された前記1つの温度分布を、前記押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定するステップと、を実行させる、
プログラム。
【0022】
(10)前記(a)のステップにおいて、前記複数の温度分布の設定を複数回行い、2回目以降の前記温度分布の設定を、前記抽出部によって抽出された前記1つの温度分布に基づいて行う、
上記(9)に記載のプログラム。
【0023】
(11)前記(a)のステップにおいて、前記2回目以降の前記温度分布の設定を、粒子群最適化手法を用いて行う、
上記(10)に記載のプログラム。
【0024】
(12)コンピュータによって、熱間押出加工時のビレットの加熱温度を制御するためのプログラムであって、
前記コンピュータに、
上記(9)から(11)までのいずれかに記載される(a)〜(d)のステップと、
(e)ビレットの加熱温度を変更するステップと、を実行させ、
前記(e)のステップにおいて、前記(d)のステップで決定された前記押出製品の温度分布、ならびに前記押出速度変化目標値および前記押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、
前記押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、
前記押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる、
プログラム。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、熱間押出加工時における押出製品内部の温度分布を高精度で推定することが可能となる。また、推定された押出製品内部の温度分布に基づいて、ビレットの加熱温度を適切に制御することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る押出製品内部温度分布推定装置の概略構成を示す図である。
図2図2は、押出製品内部温度分布推定装置を備えた押出機の概略構成を示す図である。
図3図3は、シミュレーションモデルの構成の一例を説明するための図である。
図4図4は、本発明の一実施形態に係るビレット加熱制御装置の概略構成を示す図である。
図5図5は、ビレット加熱制御装置を備えた押出機の概略構成を示す図である。
図6図6は、本発明の一実施形態に係る押出製品内部温度分布推定方法を示すフロー図である。
図7図7は、本発明の一実施形態に係るビレット加熱制御方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係る熱間押出加工時の押出製品内部温度分布推定装置および押出製品内部温度分布推定方法、ビレット加熱制御装置およびビレット加熱制御方法ならびにプログラムについて、図1〜7を参照しながら説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態に係る押出製品内部温度分布推定装置の概略構成を示す図である。押出製品内部温度分布推定装置は、ビレットに対して所定の押出速度および押出力の条件で熱間押出加工を施し、押出製品を製造した際の、押出製品の長手方向における内部の温度分布を推定する装置である。
【0029】
ここで、本発明において、押出製品内部の温度とは、押出製品の長手方向に垂直な断面における平均温度を意味し、温度分布とは、押出製品の先端からの距離ごとの当該平均温度の分布を意味する。
【0030】
また、図2は、押出製品内部温度分布推定装置10を備えた押出機200の概略構成を示す図である。図2に示すように、押出機200は、押出製品内部温度分布推定装置10に加えて、メインシリンダー210、ピアサシリンダー215、メインラム220、ピアサラム225、マンドレル230、コンテナ240、ダイス250、ダイスホルダー255、メインバルブ260、ピアサバルブ265、メイン圧力検出器270、ピアサ圧力検出器275、および速度検出器280を備える。
【0031】
熱間押出加工を行うに際しては、まず、図示しない中空状のビレットを加熱後、コンテナ240内に挿入し、ビレットの中空状の部分にマンドレル230を挿入する。そして、その状態から、メインラム220でダイス250に向けて押出加工を行うことで、押出製品が得られる。
【0032】
メインシリンダー210は、図示しないアキュームレーターにより増圧された高圧流体がメインバルブ260を介して供給されることで、メインラム220を図中の左方に移動させる。
【0033】
また、メインシリンダー210およびピアサシリンダー215には、それぞれメイン圧力検出器270およびピアサ圧力検出器275が接続されている。メインシリンダー210およびピアサシリンダー215の内部の圧力を検出することによって、熱間押出加工時のビレットに付与される押出力を測定し、その値を押出製品内部温度分布推定装置10に入力する。
【0034】
また、メインラム220には、速度検出器280が接続されている。メインラム220の移動速度を検出することによって、熱間押出加工時のビレットの押出速度を測定し、その値を押出製品内部温度分布推定装置10に入力する。
【0035】
図1に示すように、押出製品内部温度分布推定装置10は、設定部1と、計算部2と、抽出部3と、決定部4とを備える。
【0036】
設定部1は、押出製品の長手方向の温度分布を複数(np個)設定する。そして、計算部2は、設定部1によって設定された温度分布ならびに押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、ビレットの押出速度推定値および押出力推定値の時系列データを算出する。
【0037】
なお、押出速度変化目標値および押出力変化目標値は、予め定められた押出開始から押出終了までの押出速度変化および押出力変化の目標値のことであり、時系列データとして表わされる。また、時系列データとは、押出開始から押出終了までの所定時間ごとの一連のデータを意味する。
【0038】
上記の押出速度推定値および押出力推定値の時系列データは、np個の温度分布ごとに算出される。すなわち、np回の計算が行われ、押出速度推定値の時系列データおよび押出力推定値の時系列データのそれぞれが、np個ずつ得られることとなる。
【0039】
押出速度推定値および押出力推定値の時系列データの計算方法については特に制限はなく、例えば、図3に構成を示すようなシミュレーションモデルにより計算することができる。また、シミュレーションには、例えば、MathWorks社製MATLAB/Simulinkを使用することができる。
【0040】
抽出部3は、計算部2によって得られた、np個の押出速度推定値およびnp個の押出力推定値の時系列データを、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データと比較する。そして、押出速度推定値および押出力推定値の最適な時系列データを選択し、それに対応する1つの温度分布を抽出する。
【0041】
なお、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データとしては、上述のメイン圧力検出器270、ピアサ圧力検出器275および速度検出器280から入力されるデータを用いることができる。
【0042】
押出速度推定値および押出力推定値の最適な時系列データを選択する方法については、特に制限はない。例えば、実測値と推定値とで、押出速度の最大値および押出力の最大値、ならびにそれらの最大値に対応する時間から選択される1種以上の指標について比較を行い、平均2乗誤差が最小となる押出速度推定値および押出力推定値の時系列データを選択することができる。上記の指標のうち複数を採用する場合においては、重要な指標に適宜重み付けして比較を行ってもよい。
【0043】
決定部4は、抽出部3によって抽出された1つの温度分布を、押出製品の長手方向における内部の温度分布に決定する。
【0044】
設定部1は、温度分布の設定を複数回(kmax回)行うことが好ましい。この際には、抽出部3によって抽出された1つの温度分布に基づいて、2回目以降の温度分布の設定を行うことが好ましい。これにより、推定精度が向上し、より真値に近い推定値を得ることが可能になる。
【0045】
また、温度分布の設定をkmax回行う場合においては、2回目以降の温度分布の設定は、粒子群最適化手法(Particle Swarm Optimization:PSO)を用いて行うことが好ましい。PSOとは、多目的最適化手法の1つである。
【0046】
なお、1回目の温度分布の設定は任意の方法で行えばよく、例えば、乱数を採用すればよい。
【0047】
図4は、本発明の一実施形態に係るビレット加熱制御装置の概略構成を示す図である。図4に示すように、ビレット加熱制御装置100は、押出製品内部温度分布推定装置10と、温度制御部20とを備える。
【0048】
また、図5は、ビレット加熱制御装置100を備えた押出機300の概略構成を示す図である。押出機300の構成は、図2に示す押出機200の構成と同様であるが、ビレットヒータ245をさらに備えている。ビレットヒータ245は、温度制御部20からの指示に応じてビレットの加熱温度を調整する。ビレットヒータ245は、ビレット長手方向の加熱温度を調節するいわゆる「傾斜加熱」が可能な機能を有することが好ましい。
【0049】
温度制御部20は、押出製品内部温度分布推定装置10が推定した押出製品の温度分布、ならびに上述の押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報を用いて算出される、押出速度推定値および押出力推定値の時系列データに基づき、ビレットの加熱温度の制御を行う。
【0050】
具体的には、押出速度推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を下げ、押出力推定値の最大値が、予め設定される値を超える場合には、ビレットの加熱温度を上げる制御を行う。
【0051】
次に、本発明の一実施形態に係る押出製品内部温度分布推定方法を、図6を用いて説明する。図6は、本発明の一実施形態に係る押出製品内部温度分布推定方法を示すフロー図である。なお、以降の説明においては、PSOを採用する場合を例に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
図6に示すように、設定部1が乱数にて、np個の温度分布x(i=1〜np)を設定する(ステップA1)。温度分布xを設定するに際しては、押出製品の先端からの距離に応じた温度を1つの粒子がもつ座標として定義する。
【0053】
次に、計算部2は、設定部1によって設定されたk回目の温度分布xならびに押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報に基づいて、np回のシミュレーションにより、np個のビレットの押出速度推定値および押出力推定値の時系列データを算出する(ステップA2)。
【0054】
次に、抽出部3は、np個の押出速度推定値およびnp個の押出力推定値の時系列データと、押出速度実測値および押出力実測値の時系列データとを、評価関数f(x)を用いて比較する(ステップA3)。評価関数f(x)としては、実測値と推定値との、押出速度の最大値および押出力の最大値、ならびにそれらの最大値に対応する時間から選択される1種以上の平均2乗誤差を用いることができる。
【0055】
次に、抽出部3は、np回のシミュレーション結果のうち、評価関数f(x)が最小となった粒子の座標から、個の最適点xbest,kおよび群の最適点xswarmbest,kを抽出する(ステップA4)。
【0056】
温度分布の設定がkmax回目以下である場合(ステップA5でNoの場合)、設定部は抽出された個の最適点xbest,kおよび群の最適点xswarmbest,kに近づくようにnp個の温度分布を更新し(ステップA6)、再度、np個のビレットの押出速度推定値および押出力推定値の時系列データを算出する(ステップA2)。
【0057】
温度分布の設定がkmax回目を超える場合(ステップA5でYesの場合)、決定部4は、温度分布を決定する(ステップA7)。このとき、kmax回目の群の最適点を温度分布として採用する。
【0058】
次に、本発明の一実施形態に係るビレット加熱制御方法を、図7を用いて説明する。図7は、本発明の一実施形態に係るビレット加熱制御方法を示すフロー図である。
【0059】
図7に示すように、押出製品内部温度分布推定装置10は、推定された押出製品の温度分布ならびに押出速度変化目標値および押出力変化目標値を含む情報を用いて押出速度推定値および押出力推定値の時系列データを算出する(ステップB1)。
【0060】
次に、温度制御部20は、押出速度推定値の最大値OSsimおよび押出力推定値の最大値Ptpsimを求める(ステップB2)。
【0061】
そして、温度制御部20は、押出速度推定値の最大値OSsimが、予め設定される値OSmaxを超える場合(ステップB3でNoの場合)には、ビレットの加熱温度を下げる制御を行う(ステップB4)。また、押出力推定値の最大値Ptpsimが、予め設定される値Ptpmaxを超える場合(ステップB5でNoの場合)には、ビレットの加熱温度を上げる制御を行う(ステップB6)。
【0062】
押出速度推定値の最大値OSsimが、予め設定される値OSmax以下で(ステップB3でYesの場合)、かつ押出力推定値の最大値Ptpsimが、予め設定される値Ptpmax以下である場合(ステップB5でYesの場合)には、温度制御部20は加熱温度を維持する(ステップB7)。
【0063】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、図6に示すステップA1〜A7を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における押出製品内部温度分布推定装置10を実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、設定部1、計算部2、抽出部3および決定部4として機能し、処理を行う。
【0064】
また、本発明の他の実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、図7に示すステップB1〜B7を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態におけるビレット加熱制御装置100を実現することができる。この場合、コンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、押出製品内部温度分布推定装置10および温度制御部20として機能し、処理を行う。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、熱間押出加工時における押出製品内部の温度分布を高精度で推定することが可能となる。また、推定された押出製品内部の温度分布に基づいて、ビレットの加熱温度を適切に制御することが可能になる。
【符号の説明】
【0066】
1 設定部
2 計算部
3 抽出部
4 決定部
10 押出製品内部温度分布推定装置
20 温度制御部
100 ビレット加熱制御装置
200 押出機
210 メインシリンダー
215 ピアサシリンダー
220 メインラム
225 ピアサラム
230 マンドレル
240 コンテナ
245 ビレットヒータ
250 ダイス
255 ダイスホルダー
260 メインバルブ
265 ピアサバルブ
270 メイン圧力検出器
275 ピアサ圧力検出器
280 速度検出器
300 押出機

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7