(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の密閉容器内で、鉄成分を含有し、かつ、銅および亜鉛の一方又は両方を、金属、酸化物、水酸化物、および塩化物のうちのいずれか1種以上の形態で含有する固体の浸出処理対象物を、pH7.5〜11.5の範囲のイオン化したアンモニウム塩を含有する浸出液に接触させて、前記固体の浸出処理対象物中の前記銅および亜鉛の一方又は両方を、アンミン錯体イオンとして前記浸出液に溶出させて、前記アンミン錯体イオンと前記固体の浸出処理対象物の残部とを含む浸出後液を生成する浸出工程と、
前記浸出後液を固液分離して、前記アンミン錯体イオンを含む液相である固液分離後の浸出後液と、前記固体の浸出処理対象物の残部とに分ける第1の固液分離工程と、
第2の密閉容器内で、前記固液分離後の浸出後液に、硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、および硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤を添加して、前記固液分離後の浸出後液中のアンミン錯体イオンを分解し、銅および亜鉛の一方又は両方を固体硫化物として析出させると共に、イオン化したアンモニウム塩を再生させて、前記固体硫化物と前記アンモニウム塩とを含有する再生後液とする浸出液再生工程と、
前記再生後液を固液分離して、前記銅および亜鉛の一方又は両方を含む固体硫化物と、前記イオン化したアンモニウム塩を含む液相である固液分離後の再生後液とに分離する第2の固液分離工程と、
を有し、前記第2の固液分離工程で分離した液相の再生後液を、前記浸出工程で使用する浸出液として使用し、
前記浸出工程において、前記浸出液中に酸素含有ガスを吹き込み、
前記第1の密閉容器内の前記浸出液中の溶存酸素濃度が1〜40mg/Lの範囲内の所定値Aを下回ったとき、および前記第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度が2〜98体積%の範囲内の所定値Bを下回ったとき、の少なくとも一方を満たす場合に、前記浸出液中に前記酸素含有ガスが吹き込まれるよう吹き込みの有無を制御し、
前記酸素含有ガスの吹き込みが行なわれない状態で、前記第1の密閉容器内の前記浸出液中の溶存酸素濃度が前記所定値A以上である状態、および前記第1の密閉容器内の前記気相中の酸素濃度が前記所定値B以上である状態が所定時間以上継続した際に、前記浸出工程を完了と判断する、浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法。
前記固体の浸出処理対象物が、鉄鋼製造の原料となるスクラップ、並びに、鉄鋼製造プロセスからの副生成物であるスケール、ダスト、およびスラッジのうちから選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法。
前記浸出液再生工程において、予め求めておいた前記固体硫化物を形成する酸化還元電位の範囲内になるように、前記第2の密閉容器内の浸出後液に添加する前記硫化剤の添加量を、調整する、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0027】
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。ただし、「超」および「未満」等の断りがある場合は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値の少なくとも一方として含まないことを意味する。
また、本明細書中において、「銅および亜鉛の一方又は両方」を指す場合、単に「銅/亜鉛」と呼称することがある。
【0028】
<浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法>
本実施形態における浸出処理対象物は、鉄成分を含有し、かつ、銅および亜鉛の一方又は両方(銅/亜鉛)を、金属、酸化物、水酸化物、および塩化物のうちのいずれか1種以上の形態で含有する。この浸出処理対象物としては、モーター、電子部品、電池、電子基盤、熱交換器、電線、めっき鋼板などの複合機器等で用いられる電子機器や機械があり、廃棄された電子機器や機械も対象となる。また、浸出処理対象物としては、鉄鋼製造の原料となるスクラップと、鉄鋼製造プロセスからの副生成物であるスケール、ダスト、およびスラッジとのうちから選ばれる少なくとも1種も該当する。
【0029】
浸出処理対象物は、鉄成分が主成分であることが好ましい。ここで、主成分であるとは、浸出処理対象物中に占める割合(質量比)が50質量%以上であることを意味する。
【0030】
まず、本実施形態に係る分離方法のフロー図(
図9)にて、本実施形態の全体概要を説明する。
浸出工程では、銅/亜鉛を金属、酸化物、水酸化物、塩化物のいずれか1種以上の形態で含有する浸出処理対象物を、気相部が密閉された容器である第1の密閉容器(以下、「浸出槽」又は「第1の容器」とも呼称する)に入れ、アンモニウム塩を含有する第1の密閉容器内の浸出液に浸漬すると、次の(1式)に示すように、銅/亜鉛は、第1の密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオンとNaOHと反応し、2価イオンに酸化されて、アンミン錯体イオンを生成し溶解する。この際、酸化剤として酸素が使用され、消費される。この反応はpH7.5〜11.5のアルカリ領域で進み易い。より好ましくは、pH9.5〜10.5のアルカリ領域で進み易い。
【0031】
Me+2(NH
4)
2SO
4+2NaOH+1/2O
2
→Me(NH
3)
4SO
4+Na
2SO
4+3H
2O −(1式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0032】
また、アンモニア(アンモニウムイオン)を含有する第1の密閉容器内の浸出液中において、銅/亜鉛は、アンミン錯体イオンを生成し、容易に溶解するのに対し、鉄は、銅よりイオン化傾向が大きいにもかかわらず、表層が不動態化するため、殆ど溶解しない。このような銅と亜鉛と鉄との性質を利用することで、浸出処理対象物中から銅/亜鉛を選択的に浸出することができる。
【0033】
また、ダスト、スケール中の銅/亜鉛は金属、酸化物、塩化物として存在することが多く、スラッジ中の銅/亜鉛は水酸化物として存在していることが多い。銅/亜鉛が水酸化物として存在する場合、(1式)は、(1−1式)のようになり、酸素の消費は生じない。酸化物、塩化物の場合も同様に酸素の消費は生じない。
【0034】
Me(OH)
2↓+2(NH
4)
2SO
4+2NaOH
→Me(NH
3)
4SO
4+Na
2SO
4+4H
2O −(1−1式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0035】
第1の密閉容器内に銅/亜鉛が金属である浸出処理対象物を投入する場合、第1の密閉容器内の酸素が消費されるまで(1)式の反応は進み、酸素がほとんど消費されると(1)式の反応は停止する。よって、第1の密閉容器内に初期に存在する酸素を消費して、銅/亜鉛が金属である浸出処理対象物中の銅/亜鉛は、アンミン錯体イオンとなり、ある程度は溶出する。
【0036】
次に、第1の固液分離工程では、銅/亜鉛を浸出した浸出処理対象物の残部(残渣)とアンミン錯体イオンとを含む水溶液である浸出後液は、本工程にて、固体の浸出処理対象物の残渣と、アンミン錯体イオンを含む固液分離後の浸出後液とに分離する。また、分離後、銅/亜鉛の含有率が低下した鉄分を主成分とする浸出処理対象物の残渣は、回収して鉄鋼製造用の鉄原料として使用することもできる。
【0037】
固液分離後の浸出後液は、銅/亜鉛のアンミン錯体イオンを含むアンモニア含有水溶液であり、アンモニウムイオン濃度が低下しているため、(1式)の反応は右側に進みにくくなり、銅/亜鉛の浸出能力は低下する。その固液分離後の浸出後液中から、銅/亜鉛を選択的に分離すると、再度、アンモニア含有水溶液は、銅/亜鉛の浸出能力を回復させることができ、再度、第1の密閉容器(浸出槽)の浸出液として使用することができる。
【0038】
そこで、浸出液再生工程では、固液分離後の浸出後液を、気相部が密閉された容器である第2の密閉容器(以下、「浸出液再生槽」又は「第2の容器」とも呼称する)に送液し、硫化剤(例えば2式中の硫化剤は硫化水素)と混合することにより、銅イオン、亜鉛イオンは、硫化物イオンと反応し、硫化物(硫化銅、硫化亜鉛)として析出し、アンモニウム塩とNaOHが生成し(2式)、これらの混合物である再生後液は、次の第2の固液分離工程に送られる。
【0039】
Me(NH
3)4SO
4+H
2S+Na
2SO
4+2H
2O
→MeS↓+2(NH
4)
2SO
4+2NaOH −(2式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0040】
第2の固液分離工程では、再生後液を、硫化物と、アンモニウム塩とNaOHを含有する水溶液(固液分離後の再生後液)とに固液分離を行う。分離された硫化物は回収され、分離した硫化銅、硫化亜鉛は、銅/亜鉛の精錬原料として使用できる。また、分離されたアンモニウム塩とNaOHを含有する水溶液は、銅/亜鉛の浸出能力を再生することができており、再度、第1の密閉容器(浸出槽)に投入し、浸出工程における浸出液として使用される。
【0041】
浸出工程における反応(1式)と、浸出液の再生を行う浸出液再生工程における反応(2式)とを合わせると、(3式)になり、外部より、硫化水素と酸素を投入すると、浸出処理対象物中の銅/亜鉛は、最終的に硫化物として析出し、水が生成する。浸出後液中のアンモニウムイオンやアンモニウムイオンの対イオンである硫酸イオンは、回収され、理論上、殆ど系外に排出されない。しかしながら、第1の固液分離工程で分離した浸出処理対象物の残渣の間隙中、および、第2の固液分離工程で分離した銅/亜鉛の硫化物の間隙中には水やアンミン錯体を形成するためのアンモニウムイオンやアンモニウムイオンの対イオンである硫酸イオンも混入するため、一部、系外へ排出される。
【0042】
Me↓+H
2S+1/2O
2→MeS↓+H
2O −(3式)
(ここで、Meは、Cu又はZn)
【0043】
以上より、本実施形態に係る分離方法のフローでは、エネルギー使用量が大きい加熱工程を行わない、又は行なう場合であっても加熱時間や温度を低減することができ、また、浸出液、浸出後液、再生後液の系外への持ち出し量を削減できるため、薬剤の使用量を削減できることが判る。
【0044】
・浸出工程の完了(酸素濃度)
次に、本実施形態に係る分離方法は、適正に制御することによって、さらに、浸出液、浸出後液、再生後液の系外への持ち出し量が低下し、薬剤の使用量を削減できることを説明する。
浸出工程の第1の密閉容器内では、
図6に示すように、浸出液中では浸出液中の溶存酸素、又は、後述のCu
2+イオンにより、銅/亜鉛の金属が酸化し、その後、浸出液中のアンモニウムイオンと反応しアンミン錯体イオンを形成する。アンミン錯体化反応は起こりやすくほとんど時間がかからないが、それに比べて銅/亜鉛の金属の酸化反応は遅く、時間がかかる。また、固形物である浸出処理対象物中の銅/亜鉛が銅イオン又は亜鉛イオンとなり、浸出液中にわずかに溶解するが、溶解量が小さいため溶解反応にも時間がかかる。一方、浸出液中の溶存酸素は気相中の酸素濃度と平衡状態にあり、浸出液中の溶存酸素濃度と気相中の酸素濃度はほぼ比例関係にあるといえる。
【0045】
浸出処理対象物から銅/亜鉛の浸出が終了しているかどうかを判断するには、アンミン錯体化反応が終了しているかどうかが判断できればよい。アンミン錯体化反応は、酸化反応が律速であることから、気相中の酸素濃度、もしくは、浸出液中の溶存酸素濃度を連続もしくは間欠測定することで、酸化反応が終了したかどうかを判断することができる。
【0046】
第1の密閉容器内に酸素含有ガス(酸素もしくは酸素を含んだ気体)を金属の酸化のため投入することが好ましい。このとき、第1の密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度であれば、1〜40mg/Lの範囲内の所定値以上になるよう、第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度であれば、2〜98体積%の範囲内の所定値以上になるよう、酸素もしくは酸素を含んだ気体の投入の有無、およびその量を制御することが好ましい。つまり、浸出液中の溶存酸素濃度が1〜40mg/Lの範囲内の所定値Aを下回ったとき、および前記第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度が2〜98体積%の範囲内の所定値Bを下回ったとき、の少なくとも一方を満たす場合に、浸出液中に酸素含有ガスが吹き込まれるよう吹き込みの有無を制御することが好ましく、またその量を制御することが好ましい。
なお、酸素含有ガスの吹き込みが行なわれない状態で、第1の密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度が所定値A以上である状態、および第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度が所定値B以上である状態が所定時間以上継続した際に、浸出工程が完了したと判断することができる。
【0047】
酸素もしくは酸素を含んだ気体の投入の有無、およびその量の制御方法として、ON/OFF制御、PI(Proportinal Integral)制御、PID(Proportinal Integral Differential)制御などがある。一方、アンミン錯体化反応は起こりやすくほとんど時間がかからないが、それに比べて銅/亜鉛の金属の酸化反応は遅く、時間がかかるため、(1式)の反応速度は小さく、酸素消費速度も小さく、酸素投入速度も小さくなる。そのため、本実施形態において、PI制御やPID制御を採用した場合であっても、酸素投入は間欠的になりやすく、ON/OFF制御とほとんど同じになることが多い。溶存酸素濃度が1mg/L以上、もしくは、気相中の酸素濃度が2体積%以上の場合、酸化速度が小さくなり過ぎず浸出工程に要する時間が短くなる。溶存酸素濃度が40mg/L以下、もしくは、98体積%以下の場合、気相中の酸素分圧が1atm以上になることが抑制され、第1の密閉容器に高い耐圧性を持たせる必要がなく、装置が高価になることが抑制される。
所定値Aは、前記の通り1〜40mg/Lの範囲内から所定の点が選ばれるが、さらには5〜20mg/Lの範囲内から選ばれることが好ましい。
所定値Bは、前記の通り2〜98体積%の範囲内から所定の点が選ばれるが、さらには10〜40体積%の範囲内から選ばれることが好ましい。
所定時間は、例えば3〜60分の範囲内とすることが好ましい。
【0048】
酸素含有ガスと浸出液が入った密閉容器内に、金属銅又は金属亜鉛のいずれかの浸出処理対象物(金属板)を入れ、回分状態で密閉容器内を撹拌した際の、浸出液内の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を模式的に示したのが
図19であり、気相部の酸素濃度変化を模式的に示したのが、
図20である。なお、金属板の表面積は十分大きく、酸素消費の律速とはならないとする。
溶存酸素濃度(DO)は、
図19の点aまでは一定勾配で減少するが、点aを過ぎると勾配は徐々に小さくなる。これは、溶存酸素濃度が低下するにつれ、(1式)左辺の酸素が少なくなり、反応速度が低下したためである。よって、所定値Aは、
図19に示す溶存酸素濃度(DO)の経時変化を求め、グラフ勾配が変化するところ(点a)もしくは、点aより大きい溶存酸素濃度(DO)とすることが好ましい。
気相部の酸素濃度は、
図20の点bまでは一定勾配で減少するが、点bを過ぎると勾配は徐々に小さくなる。これは、気相部の酸素濃度が低下するにつれ、溶存酸素濃度(DO)も低下し、(1式)左辺の酸素が少なくなり、反応速度が低下したためである。よって、所定値Bは、
図20に示す気相部の酸素濃度の経時変化を求め、グラフ勾配が変化するところ(点b)もしくは、点bより大きい気相部の酸素濃度とすることが好ましい。
密閉容器内に金属銅又は金属亜鉛のいずれかの浸出処理対象物(金属板)を入れ、浸出液を撹拌しながら、浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を連続して測定し、所定値Aを下回った際に、密閉容器内に酸素含有ガスを吹き込んだときの、浸出液内の溶存酸素濃度(DO)の経時変化を模式的に示したのが
図21である。浸出初期は、Δt時間毎に溶存酸素濃度(DO)が所定値Aを下回り、酸素含有ガスが供給されるが、浸出液内の浸出処理対象物中の金属銅、金属亜鉛がアンミン錯体化し、ほとんどがイオン化していくと、溶存酸素の消費速度が低下していく。その結果、酸素含有ガスの吹き込み時間間隔は長くなる。そこで、浸出処理対象物から銅/亜鉛の浸出が終了しているかどうかの判断に使用する所定時間は、Δtの5〜10倍とすることが好ましい。
【0049】
ここで、例を挙げて説明する。
pH10に調整し、十分なアンモニウムイオンを含む硫酸アンモニウム水溶液を入れた密閉した第1の密閉容器内に、金属銅が混入した鉄鋼製造の原料となるスクラップを投入し、銅イオンを浸出したときの第1の密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度、酸化還元電位の変化を示したのが
図7である。pHはpH10でほぼ一定であり、溶存酸素濃度は1mg/L以上になるように制御し、つまり1mg/Lを下回ると純酸素を第1の密閉容器内に投入した。680分までは金属銅が酸化され溶存酸素濃度が1mg/Lを下回り純酸素は投入されていたが、680分以降、溶存酸素は1mg/Lを上回るようになり、純酸素の投入はなくなり金属銅の酸化反応およびアンミン錯体化反応は終了した。約1000分後にサンプルを取り出したところ、スクラップ内に混入していた金属銅は全量浸出していたが、金属鉄の部分はほとんど浸出されていなかった。
【0050】
次に、スクラップの代わりに、亜鉛めっき鋼板を用い、浸出させた。
pH10に調整し、十分なアンモニウムイオンを含む硫酸アンモニウム水溶液を入れた密閉した第1の密閉容器内に、スクラップの代わりに亜鉛めっき鋼板を投入し、亜鉛イオンを浸出したときの第1の密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度、酸化還元電位の変化を測定したのが
図8である。pHはpH10でほぼ一定であり、溶存酸素濃度は10.3mg/L以上になるように制御し、10.3mg/Lを下回ると純酸素を第1の密閉容器内に投入した。600分まではめっき層の金属亜鉛が酸化され溶存酸素濃度が10.3mg/Lを下回り純酸素は投入されていたが、600分以降、溶存酸素は10.3mg/Lを上回るようになり、純酸素の投入はほとんどなくなり金属亜鉛の酸化反応およびアンミン錯体化反応は終了した。約900分後にサンプルを取り出したところ、亜鉛めっき鋼板の表層部のめっき部分はほぼ全量浸出していたが、めっき層下部の金属鉄部分はほとんど浸出されていなかった。このことより、銅/亜鉛が金属として浸出処理対象物中に含まれる場合、溶存酸素濃度を測定することによって、浸出反応が終了したかどうかを判断することができるといえる。
【0051】
なお、浸出処理対象物中の銅/亜鉛の存在形態が酸化物、水酸化物、塩化物のみの場合には、金属の酸化反応は生じないため、酸素消費は生じず、アンミン錯体化反応のみ生じるため、溶存酸素濃度の低下はほとんど生じない。酸化反応が必要でないため、アンミン錯体化反応のみとなり起こりやすく、ほとんど時間がかからない。つまり、浸出処理対象物中の銅/亜鉛の存在形態が酸化物、水酸化物、塩化物のみの場合は、アンミン錯体化反応は、通常、5〜120分程度で終了するため、5〜120分間浸出液に接触させた後、溶存酸素濃度を測定することによって浸出反応が終了したかどうかを判断することができる。
【0052】
また、第1の密閉容器内の浸出液中の溶存酸素濃度と第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度はほぼ比例しているため、第1の密閉容器内の気相中の酸素濃度を測定することによって、浸出反応が終了したかどうかを判断することができる。
【0053】
・アンモニア濃度
浸出工程でアンミン錯体化反応が進むと、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度(NH
3として存在するアンモニアの濃度、fr−NH
3濃度とも記載する。)が低下し、それに伴い、第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度も低下する。また、第1の密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオン濃度は、一定のpHにおいて第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度と平衡状態にあり、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度と第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度と平衡状態にあることから、第1の密閉容器内の浸出液中のアンモニウムイオン濃度は第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度と比例関係にあるといえる。第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度が低くなりすぎると、アンミン錯体化反応は進みにくくなる。また、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度が高くなりすぎると、後述する硫化銅、硫化亜鉛や、銅や亜鉛を除去した後の浸出処理対象物を排出する際に水分も同時に排出されるが、その水分中にもアンモニア成分を含み、系外へ持ち出すことになり経済性が低下する。そのため、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度を適正に制御することが好ましい。具体的には、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度を3〜50g/Lの範囲にすることが好ましい。
第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度は、さらに5〜20g/Lの範囲にすることが好ましい。
【0054】
また、第1の密閉容器内の浸出液中のフリーのアンモニア濃度は、第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度とほぼ平衡関係にあるため、第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度を0.6〜12体積%の範囲にすることが好ましい。
第1の密閉容器内の気相中のアンモニア濃度は、さらに1.2〜4.8体積%の範囲にすることが好ましい。
【0055】
また、ダスト、スケール中の銅/亜鉛は、均質に分散しているのではなく、偏析していることが多い。高炉又は転炉から排出される高炉ダスト又は転炉ダストは、炉から固形物又は溶融物で飛散する酸化鉄又は金属鉄部分と亜鉛蒸気として揮発する部分とがあり、ダストの捕集段階で冷却するため、高炉ダストの粒子の周辺に存在することが多い。ダストは、冷却時に粒子同士が固着し、凝集状態になることが多い。また、銅を添加している鋼材を熱延した際、銅含有スケールが発生するが、スケール内に銅成分が均一に分散せずに、スケール表面に偏析することが多い。これは、金属銅の融点(1,085℃)が、スケールの主成分である酸化鉄(FeO)の融点(1,370℃)より低いため、融点の低い銅成分は、スケール生成時(約1,200℃)は融液であり偏析しやくなるためである。一方、本実施形態では、銅/亜鉛部分が露出し浸出液と接した部分のみ除去できる。そこで、ダスト又はスケールの場合は、粉砕し、粒子径を小さくする方が、銅/亜鉛の除去率は上昇することが多い。
【0056】
固液分離後の浸出後液を再生する浸出液再生工程において、(2式)のように、銅/亜鉛のアンミン錯体イオンを含む固液分離後の浸出後液から銅/亜鉛を硫化物として析出させるときに、硫化物イオンを過剰に入れ過ぎると、過剰に投入された硫化物イオンは、第2の固液分離工程を経て、浸出工程の第1の密閉容器内に投入される。その結果、浸出処理対象物中に含まれる銅/亜鉛の表層にアンミン錯体イオンより安定な緻密な硫化物層を形成し、その硫化物層の下部にある銅/亜鉛を浸出し難くさせ、銅/亜鉛の浸出速度が小さくなったり、浸出できなかったりすることがある。
【0057】
これに対し、次のような対応を行うことで、浸出液再生工程で、再生した浸出液中に硫化物イオンは殆ど残留しなくなり、安定的に浸出液を繰り返し使用できるようになる。
第1の方法として、浸出液再生工程の第2の密閉容器内の浸出後液に硫化剤(硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤)を投入する際に、第2の密閉容器内の浸出後液の酸化還元電位を測定し、酸化還元電位(ORPとも記載する。)がある値以下(例えば、pH9.3では酸化還元電位(標準電位)は−100mV以下)になれば、硫化剤の投入を停止し、第2の固液分離工程において、沈澱又はろ過等の固液分離操作によって析出した硫化物を再生後液から分離すると、固液分離後の再生後液(浸出液)中には、未反応の硫化物イオンは殆ど存在しないため、浸出液として第1の密閉容器で再使用した際でも、浸出処理対象物中に含まれる銅/亜鉛の表層に硫化物を形成しないため、銅/亜鉛はアンミン錯体イオンとなり、浸出し易くなる。酸化還元電位のある値(所定値)は、pHの影響を受け、かつ、アンミン錯体として溶解している銅/亜鉛の濃度などにより変化するため、第2の密閉容器内の浸出後液の酸化還元電位の設定値は実験等によって決定することが好ましい。
【0058】
第2の方法として、第2の密閉容器(浸出液再生槽)内の浸出後液の一部(例えば数10〜数100ml/分程度)を別の密閉した第3の密閉容器70(
図18、10〜5000ml程度)に連続的に採取し、その採取した第2の密閉容器内からの浸出後液21を撹拌機72で撹拌しながら、浸出後液21に塩酸、硫酸などの酸(酸水溶液)78を投入して、pH計73で浸出後液21のpHを測定しながらpH調整バルブ74で酸水溶液78の量を調整することで、pH7以下、より好ましくはpH5以下にする。それとともに、第3の密閉容器70内の気相部の硫化水素濃度を硫化水素(H
2S)濃度計77で連続測定し、硫化水素濃度がある値(所定値、例えば、1ppm)になるまで、第2の密閉容器内へ硫化剤(硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤)を投入する。
【0059】
硫化水素濃度が上昇し、ある値(所定値)となった時点で、第2の密閉容器内への硫化剤の投入を停止する。そうすることで、次の第2の固液分離工程において、沈澱又はろ過等の固液分離操作によって析出した硫化物を再生後液から分離すると、固液分離後の再生後液(浸出液)中には、未反応の硫化物イオンは低濃度でしか残存しないようにすることができる。そのため、浸出工程の第1の密閉容器の浸出液中の溶存酸素濃度をある一定以上に保持する際に、硫化物イオンは酸化されてしまい、第1の密閉容器内の浸出液として再使用した際でも、浸出処理対象物中に含まれる銅/亜鉛の表層に硫化物を形成しないため、銅/亜鉛は、殆どがアンミン錯体イオンとなり、浸出し易くなるため、好ましい。
【0060】
硫化水素は、pHによって存在する化合物形態が異なり(
図10)、pH7以下、より好ましくはpH5以下にすることで、分子状の硫化水素になる比率が増加し、第3の密閉容器内の気相部に、硫化水素ガスが蒸発しやすくなるため、第3の密閉容器内の浸出後液のpHを7以下、より好ましくはpH5以下にする。第3の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度は、pHの影響を受けるため、第3の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度の所定値(前記ある値)は、実験等によって決定することが好ましい。第3の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度の設定値を大きくし過ぎると、第2の密閉容器内に過剰な硫化剤が投入され、硫化物イオンが過剰に存在することとなる。過剰に投入された硫化物イオンは、第2の固液分離工程を経て、浸出工程の第1の密閉容器内に投入され、浸出処理対象物中に含まれる銅/亜鉛の表層にアンミン錯体イオンより安定な緻密な硫化物層を形成し、その硫化物層の下部にある銅/亜鉛を浸出し難くさせ、銅/亜鉛の浸出速度が小さくなったり、浸出できなかったりすることがある。そこで、第3の密閉容器内に気相部の硫化水素濃度の設定値は小さいほどよく、硫化水素濃度計の検出下限限界付近が最も好ましい。なお、第3の密閉容器から排出した測定後の液は少量であるため、廃棄してもよいし、第2の密閉容器内に戻してもよい。
【0061】
・浸出後模擬液中での酸化還元電位と気相部での硫化水素濃度の変化
ここで、固液分離後の浸出後液として、表1に記載の固液分離後の浸出後模擬液を準備し、第2の密閉容器内で撹拌しながら、硫化剤の1種である硫化水素ガスを投入した際の、第2の密閉容器内の浸出後模擬液中の酸化還元電位と、第2の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度の変化を
図1に示す。
また、硫化水素ガス投入量に対する固液分離後の浸出後模擬液中の全アンモニア態−N濃度と、溶解性Cu濃度と、S
2−濃度との関係を
図2に示す。
【0063】
硫化水素ガス投入量が多くなるにつれ、酸化還元電位は徐々に低下し、硫化水素ガス投入量が155mモル/Lの辺りで、酸化還元電位が急激に低下し、同時に、第2の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度は検出されるようになる。なお、第2の密閉容器内の浸出後模擬液のpHは図示していないが、pH9.1〜9.4で推移し、大きな変化はない。第2の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度は、酸化還元電位が0mVを下回ったあたりから、検知できるようになり、急上昇する。
【0064】
また、第2の密閉容器内の浸出後模擬液中の酸化還元電位が0mVを下回ったあたりから、第2の密閉容器内の浸出後模擬液中の溶解性Cu(D−Cu)濃度も数mg/L程度となり、かつ、第2の密閉容器内の浸出後模擬液中の硫化物イオン(S
2−)濃度も検知できるようになった。これは、硫化剤である硫化水素ガスにより溶解性Cuが硫化物に変化したためである。
【0065】
硫化剤として、硫化水素ナトリウム水溶液、硫化ナトリウム水溶液などの硫化物イオンを含む水溶液を使用すると、浸出液のpHが9.1〜9.4のアルカリ側であるため、硫化物イオンが分子状のH
2Sに変化する比率は非常に小さく(
図10)、気相部の硫化水素濃度は上昇し難い。
【0066】
しかし、硫化剤が硫化水素ガスなどのガス状のとき、第2の密閉容器内の浸出後模擬液中のCuイオンの硫化物化の反応がほぼ終了すると同時に、第2の密閉容器内の気相部のH
2Sの浸出後模擬液への吸収速度が著しく減少するため、第2の密閉容器内の気相部のH
2S濃度が上昇する。
【0067】
図2中の(a)、(b)点の再生した再生後液をろ過し、液相部である固液分離後の再生後液(以下「再生浸出液」とも呼称する)を密閉容器に採取した。その再生浸出液中に銅板を入れ、その再生浸出液の銅板の浸出量を測定した結果、溶解性Cuが残存している再生浸出液(a点)には、1Lあたり、3.1gの銅板を浸出溶解することが測定できた。
一方、溶解性Cuが残存しておらず、かつ、硫化物イオンを含有している再生浸出液(b点)には、銅板表面が黒色に変化し、全く、銅板の浸出は見られなかった。X線回折等の結果から、この黒色物質は硫化銅であることが判明し、その硫化銅皮膜により、浸出液が硫化銅皮膜の下部の銅板に接触することができなかったため、銅板の浸出が進まなかったと考えられる。
つまり、第2の密閉容器内の浸出後液中の銅イオン、亜鉛イオンの全量を硫化物として析出させる場合、第2の密閉容器内の浸出後液中に硫化物イオンが残留する可能性が高い。そのため、固液分離後、浸出液として再使用すると、銅/亜鉛の金属部分に硫化物のコーテイングを作り易く、浸出剤としての機能がやや低下するといえる。
【0068】
また、金属銅、金属亜鉛は、溶存酸素により直接的に酸化され、アンミン錯体イオンを形成しながら浸出していく以外に、(4式)〜(6式)に示すように、間接的に溶存酸素で、金属銅、金属亜鉛が酸化され、アンミン錯体イオンを形成しながら、浸出していく。つまり、Cu
2+イオンが残留していた方が、金属銅および金属亜鉛の一方又は両方の直接酸化と間接酸化が作用し、アンミン錯体化イオンを形成するため、銅/亜鉛の金属は浸出し易くなる。
【0069】
Cu
2++Cu→Cu
+ −(4式)
Cu
++O
2→Cu
2+ −(5式)
Cu
2++Zn→Zn
2++Cu −(6式)
【0070】
以上のことより、第2の密閉容器内の浸出後液中の銅イオン、亜鉛イオンの全量を硫化物として析出させるのではなく、銅イオン、亜鉛イオンを浸出液中に残しながら、硫化物として一部分析出させることが好ましい。
【0071】
・制御手段
具体的な制御手段を、
図3を用いて説明する。硫化剤の投入量の制御を、第2の密閉容器20内の浸出後液21の酸化還元電位、又は、硫化剤として硫化水素を含むガスを使用する場合には、第2の密閉容器20内の気相部の硫化水素濃度により、判断することができる。各値は、実験により調整することが好ましいが、
図1を例に取ると、第2の密閉容器20内の浸出後液21の酸化還元電位では100〜130mV、第2の密閉容器20内の気相部の硫化水素濃度では1〜5ppmであることが好ましい。
【0072】
硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、および硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤を使用する場合には、硫化剤の添加を停止するタイミングは、例えば以下の方法により判断することができる。第2の密閉容器20内の浸出後液の一部を密閉の第3の密閉容器(H
2S測定容器)内に採取して、その採取した第2の密閉容器20内の浸出後液のpHを7以下、より好ましくは5以下にし、第3の密閉容器内で撹拌し、第3の密閉容器内の気相部の硫化水素濃度により判断することができる。
【0073】
・硫化水素を含有するガス
前記の硫化水素を含有するガスとして、純度の高い硫化水素ガスを使用することはできるが、そのガスのコストは一般的に高い。一方、硫化水素を含むガスとして、コークス炉ガスがあり、コークス炉ガス中には元来、硫化水素、アンモニアを含んでおり、これらの成分を分離しないと燃料ガスとして使用できない。
【0074】
そこで、本発明者は、コークス炉ガスを本発明の硫化水素を含有するガスとして使用することに取り組み、銅/亜鉛のアンミン錯体イオンは、コークス炉ガスに含まれる硫化水素と反応して銅/亜鉛の硫化物として析出することが判明した。また、コークス炉ガス中のアンモニア成分は部分的に浸出液に吸収され、浸出液中のアンモニア成分の補充になることも判明した。つまり、コークス炉ガスによって、第2の密閉容器内の浸出後液中のアンミン錯体金属である銅/亜鉛を硫化物として析出させ、かつ、アンミン錯体イオンを形成するのに必要なアンモニア成分を補充でき、第2の密閉容器内の浸出後液を浸出液として再生できることを見出した。
【0075】
また、コークス炉ガス中には、CO
2を含んでいるため、アンミン錯体イオンの対イオンである炭酸イオンの補充にもなることを見出した。
【0076】
コークス炉ガス中には、シアン化水素を含んでいることもある。シアン化水素は、第2の密閉容器内の浸出後液中でシアン化物イオン(CN
−)となり液相に溶解する。固液分離後、シアン化物イオンは浸出液中に含まれ、シアン化物イオンを含んだ浸出液を第1の密閉容器内で浸出液として使用すると、シアン化物イオンは、亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオンと安定でかつ緻密な錯体層(例えば、Cu
2Fe(CN)
6)を浸出処理対象物中に含まれる銅/亜鉛の表層に形成し、その錯体層の下部にある銅/亜鉛を浸出し難くさせる。
【0077】
また、浸出工程で、銅/亜鉛を分離した後に回収される浸出処理対象物の残渣中の間隙に含まれる液相部分にシアン化物イオンを含む可能性が高くなり、作業安全性の観点からも、予め、コークス炉ガス中からシアン化水素を分離する方がより好ましい。
【0078】
そこで、コークス炉ガス中のシアン化水素を予め分離する方法について検討したところ、コークス炉ガスを鉄系スラリーと接触させることで、コークス炉ガス中のシアン化水素ガスを予め選択的に分離できることを見出した。
【0079】
コークス炉ガス(COGともいう。成分は表2参照。)を、水酸化鉄スラリー120mL(成分は表3参照)に散気管で4.3NL/minで通気した際のコークス炉ガス中の硫化水素、シアン化水素、アンモニア濃度の変化を示したのが
図4である。
【0082】
図4より、COG通気量が増加するにつれて、COG中の硫化水素の除去率は低下し、徐々に吸収しなくなる。一方、COG中のシアン化水素は、高い除去率を維持し、アンモニアは硫化水素ほどではないが、徐々にその除去率は低下していく。これは、吸収剤中の水酸化鉄(3価)が、硫化水素と酸化還元反応(7式)により、2価鉄イオンに還元され、2価鉄イオンが、シアンイオンと安定なシアン化錯体を形成(8式)することにより、分離されるためである。
【0083】
Fe
3+、S
2−→Fe
2+、S、S
2O
32−、SO
32−、SO
42− −(7式)
3[Fe(CN)
6]
4−+4Fe
3+→Fe
4[Fe(CN)
6]
3 −(8式)
【0084】
アンモニアは、鉄イオンとはアンミン錯体イオンを形成し難く、アンミン錯体イオンとしては、殆ど吸収されないが、シアン化水素や硫化水素が吸収される際に、吸収液のpHが低下するため、アンモニア成分を吸収し易くなったため、アンモニア成分が除去されている。つまり、吸収液にアルカリを入れ、吸収液のpHを上昇させると、アンモニアの吸収率は低下し、吸収液に酸を入れ、吸収液のpHを低下させると、アンモニアの吸収率は上昇する。
【0085】
・分離方法に用いる設備
図3に本実施形態に係る浸出処理対象物からの銅又は亜鉛の分離方法に係る設備およびフローの一例を示す。
図3では、浸出処理対象物より、銅/亜鉛をアンミン錯体イオン化することで浸出する浸出工程と、浸出工程からの浸出廃液中のアンミン錯体イオン化している銅/亜鉛を硫化物として析出させ、浸出廃液から分離することで浸出液を再生する浸出液再生工程を詳しく示している。
【0086】
それぞれの工程について、設備構成を含めて説明を行う。
まず、本実施形態における基本的な設備構成について説明する。ただし、本実施形態は以下の設備構成に限定されるものではない。
浸出工程には、例えば、浸出液1が入った第1の密閉容器(浸出槽)2と、その第1の密閉容器2内を撹拌する撹拌装置3と、浸出液1中に酸素もしくは空気を送気する酸素等送気装置9と、密閉容器である第1の密閉容器内の内圧が上昇した際に第1の密閉容器内から余剰ガスを放散する放散弁17とを有する装置が用いられる。第1の固液分離工程には、例えば、浸出後液32中の固形物を分離する固液分離装置10が用いられる。固液分離後の浸出後液33を再生する浸出液再生工程には、例えば、固液分離後の浸出後液21が入った第2の密閉容器(浸出液再生槽)20と、その第2の密閉容器20内を撹拌する撹拌装置22と、第2の密閉容器20内の内圧が上昇した際に第2の密閉容器内から余剰ガスを放散する放散弁25と、第2の密閉容器20内に硫化剤を投入する硫化剤投入装置28とを有する装置が用いられる。第2の固液分離工程には、例えば、再生した再生後液34中の固形物を分離する固液分離装置30が用いられる。
【0087】
第1の固液分離工程で使用する固液分離装置10、および第2の固液分離工程で使用する固液分離装置30は、例えば、沈澱池、ストレーナー、ろ過器、サイクロン、フィルタープレス、および遠心分離機等の装置が適用できるが、アンモニア成分が蒸発するpH領域であるため、密閉性の高いストレーナー、濾過機、および遠心分離機等が好ましい。
【0088】
さらに、次の装置を付加することで薬剤使用量をより抑制することができる。浸出工程では、浸出液1が入った第1の密閉容器(浸出槽)2内の浸出液1のpHを測定するpH計4と、浸出液1のpH調整用のpH調整剤を投入するpH調整剤投入装置5と、浸出液1の溶存酸素濃度を測定する溶存酸素濃度計7および第1の密閉容器2内の気相部の酸素濃度を測定する酸素濃度計8のうちの少なくとも一方と、浸出液1の溶存フリーアンモニア濃度を測定する溶存フリーアンモニア濃度計15および第1の密閉容器2内の気相部のアンモニア濃度を測定するアンモニア濃度計16のうちの少なくとも一方と、浸出液1を補充するためのアンモニア溶液の補充装置11とを付加するとよい。また、浸出液再生工程では、浸出後液21が入った第2の密閉容器20内の浸出後液21のpHを測定するpH計23と、浸出後液21のpH調整用のpH調整剤を投入するpH調整剤投入装置24と、浸出後液21中の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計26および第2の密閉容器20内の気相中の硫化水素濃度を測定する硫化水素濃度計27のうちの少なくとも一方とを付加するとよい。これらの装置を付加することにより、より適正な状態でプロセスを制御できるようになり、薬剤の使用量をより抑制することができる。
【0089】
・操作
次に、本実施形態における操作について、一例を挙げて説明する。
浸出工程では、浸出液1の1例である硫酸アンモニウム水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液および希硫酸水溶液等のpH調整剤を投入して予めpH7.5〜11.5の範囲、より好ましくは、pH9.5〜10.5に調整した浸出液1を第1の密閉容器2に投入する。その後、撹拌装置3で撹拌しながら、浸出処理対象物12を、第1の密閉容器2内に投入し、第1の密閉容器2に蓋をし、密閉状態とする。30分〜15時間撹拌し、酸素等送気装置9から酸素もしくは酸素を含んだ気体(空気など)を送気し、浸出処理対象物12中の金属銅及び金属亜鉛の一方又は両方を酸化し、アンモニウムイオンと錯体イオンを形成し(1式)、浸出処理対象物12中の銅/亜鉛成分を浸出させる。第1の密閉容器2内の内圧が上昇した場合には、放散弁17より余剰ガスを放散する。その後、第1の密閉容器2内より、浸出処理対象物12の残渣を含んだ浸出後液32を、次の第1の固液分離工程が行われる、フィルタープレス、遠心分離機、および沈澱槽などの第1の固液分離装置10に送液し、浸出処理対象物の残渣14と銅/亜鉛のアンミン錯体イオンを含んだ固液分離後の浸出後液33とに分離する。固液分離後の浸出後液33は、次の浸出液再生工程が行われる、密閉した容器である第2の密閉容器20に送液し、硫化剤投入装置28により硫化剤を投入する。なお、硫化剤には、硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、及び硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤が使用できる。第2の密閉容器20内の浸出後液21は、撹拌装置22で撹拌され、銅/亜鉛のアンミン錯体イオンが分解され硫化物が析出し、アンモニウムイオンが溶解した再生後液34となる(2式)。第2の密閉容器内の内圧が上昇した場合には、放散弁25より余剰ガスを放散する。第2の密閉容器20内の浸出後液21は、再生後液34として、次の第2の固液分離工程が行われる、フィルタープレス、遠心分離機、および沈澱槽などの第2の固液分離装置30に送液し、硫化物31とアンモニウムイオンが溶解した浸出液(固液分離後の再生後液)35とに分離する。分離した浸出液35は、再度、浸出工程が行われる、第1の密閉容器2に投入し、浸出処理対象物12中の銅/亜鉛の浸出液1として再使用する。このようにすることで、加熱などのエネルギーを多く使用する工程を行わないか又は行なう場合であっても加熱時間や温度を低減することができ、かつ、浸出液の系外への持ち出し量を削減することで、薬剤の使用量を抑制することができる。なお、分離した硫化銅、硫化亜鉛は、銅/亜鉛の精錬原料として使用できる。
さらに、前記の操作を次に述べる制御範囲で制御することにより、さらに、薬剤使用量は低下する。
【0090】
銅/亜鉛のアンミン錯体イオンは、pH7.5〜11.5で形成することができ、より好ましいpHは、pH9.5〜10.5である。そこで、第1の密閉容器2内の浸出液1のpHをpH計4で測定し、水酸化ナトリウム水溶液又は希硫酸水溶液等のpH調整剤をpH調整剤投入装置5により投入して、pH7.5〜11.5、より好ましくは、pH9.5〜10.5に維持することが効果的である。
【0091】
さらに、第1の密閉容器2内の浸出液1中の溶存酸素を、溶存酸素濃度計7で測定しながら、溶存酸素濃度を1〜40mg/Lの範囲になるように制御すること、および第1の密閉容器2内の気相部の酸素濃度を、酸素濃度計8で測定しながら、気相中の酸素濃度を2〜98体積%の範囲になるように制御することの少なくとも一方の制御を行うため、酸素もしくは酸素を含んだ気体(空気など)を、酸素等送気装置9により、第1の密閉容器2内に投入していくことが好ましい。これにより、浸出処理対象物12中の金属銅および金属亜鉛の一方又は両方を酸化し易くなり、より容易にアンミン錯体イオンにすることができる。
【0092】
さらに、第1の密閉容器2内の浸出液1中の溶存フリーアンモニア濃度を、溶存フリーアンモニア濃度計15で測定しながら、溶存フリーアンモニア濃度を3〜50g/Lの範囲になるように制御すること、および第1の密閉容器2内の気相部のアンモニア濃度を、アンモニア濃度計16で測定しながら、気相中のアンモニア濃度を0.6〜12体積%の範囲になるように制御することの少なくとも一方の制御を行うため、補充装置11により、アンモニア溶液を第1の密閉容器2内に補充していくことで、浸出処理対象物12中の銅/亜鉛をより容易にアンミン錯体イオンにすることができる。アンモニア溶液中のアンモニウム塩としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、および炭酸アンモニウムのうちから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0093】
さらに、浸出液再生工程では、第2の密閉容器20内の浸出後液21のpHをpH計23で測定し、水酸化ナトリウム水溶液および希硫酸水溶液等のpH調整剤をpH調整剤投入装置24により投入して、pH7.5〜11.5、より好ましくは、pH9.5〜10.5に維持することが好ましい。これは、固液分離装置30で分離した固液分離後の再生後液(浸出液)を、第1の密閉容器2にて浸出液1として再度使用するためである。
【0094】
さらに、第2の密閉容器20内の浸出後液21の酸化還元電位を酸化還元電位計26で測定し、酸化還元電位がある値以下になるまで硫化剤を投入すること、および第2の密閉容器20内の気相中の硫化水素濃度を硫化水素濃度計27で測定し、硫化水素濃度がある値以下になるまで硫化剤を投入することが好ましい。その結果、より安定的に浸出後液21中の銅/亜鉛のアンミン錯体イオンを、銅/亜鉛の硫化物とアンモニウムイオンとに分解することができる。上記の酸化還元電位のある値、及び硫化水素濃度のある値は、予め実験で求めることが好ましい。
【0095】
以上の制御範囲で制御することにより、さらに、薬剤使用量は低下する。
酸化反応である、(4式)〜(6式)の反応の進行中は、酸素を消費していき、一方で浸出反応が終了すると、酸素消費速度が低下していくが、酸素消費速度はゼロにならないことが多い。浸出処理対象物中に金属鉄等を含む場合、わずかであるが溶存酸素を消費しながら、酸化していくためである。浸出反応の終了判断の1手段として、溶存酸素濃度計7又は酸素濃度計8で、酸素等送気装置9からの酸素又は酸素を含む気体の投入の有無およびその量の制御を行う方法が挙げられるが、酸素又は酸素を含む気体の投入速度がゼロになったとき(投入を行っていないとき)に、酸化反応が終了したかどうかを判断することができる。酸化した銅/亜鉛は短時間でアンミン錯体化イオンとなるので、酸素又は酸素を含む気体の投入速度がゼロとなったとき、アンミン錯体化反応が終了したと判断してよい。
【0096】
硫化剤投入装置28で投入する硫化剤としては、硫化水素を含有するガス、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウム、硫化カリウム、硫化水素カリウム、硫化マグネシウム、および硫化カルシウムのうちから選ばれる少なくとも1種の硫化剤が使用できるが、硫化水素ガスを使用することがより好ましい。それは、硫化ナトリウム溶液や硫化水素ナトリウム溶液等の水溶液は、硫化物イオンの他に、アルカリと水分が入っているため、pH調整のための酸の投入や余剰水分の分離が必要となることがあるためである。また、硫化剤投入装置28より、コークス炉ガスを投入した場合、硫化水素やアンモニア成分は、第2の密閉容器20内の浸出後液21に吸収されるが、水素(H
2)やメタン(CH
4)等の成分は殆ど吸収されない。この場合、第2の密閉容器20内の内圧が上昇するため、放散弁25より、硫化水素成分を分離したコークス炉ガスを回収することができる。
【0097】
浸出工程が行われる第1の密閉容器2および浸出液再生工程が行われる第2の密閉容器20は、簡易な密閉型でもよい。例えば、第1の密閉容器および第2の密閉容器と外気とを細長い配管で接続し、容器内の気相部の気体と外気が混合するのに非常に時間がかかるようにした容器や、第1の密閉容器又は第2の密閉容器と外気とを配管で接続した際に、配管の先に水シールを設置し、簡易に容器と外気を遮断した容器でもよい。
【0098】
浸出工程では、アンミン錯体化反応には時間がかかるため、特に酸素吹き込み時は、浸出液中の溶存酸素濃度、および気相中の酸素濃度の少なくとも一方を測定することにより、アンミン錯体化反応が終了したかどうかを判断することが好ましく、そのため、バッチ処理もしくはバッチ多段処理が好ましい。一方、浸出液再生工程は、バッチ処理、連続処理のどちらでもよい。硫化物反応の反応速度が大きいためである。
【0099】
・コークス炉ガスからシアン化水素成分を分離する方法
次いで、硫化水素を含有するコークス炉ガスからシアン化水素成分を分離する方法の一実施形態を
図5に基づいて、説明する。
まず、設備構成について説明する。脱シアン化工程には、脱シアン槽50と、鉄系スラリー57を脱シアン槽50に投入するポンプ59と、脱シアン槽50からオーバーフローするシアン化鉄スラリー58と、脱シアン前コークス炉ガス(脱シアン前COGともいう)51を投入するラインと、脱シアン槽50から排出される脱シアン後コークス炉ガス(脱シアン後COGともいう)52と、脱シアン槽50内の酸化還元電位、pHを測定する酸化還元電位計54とpH計55と、脱シアン後COG52中のシアン化水素濃度を測定するシアン化水素濃度計56とを有する。鉄系スラリー57を送液するポンプ59は、シアン化水素濃度計56によるシアン化水素濃度値によって、稼働の制御を行う。
【0100】
次に、操作について説明する。
鉄系スラリー57を充填した脱シアン槽50内で、脱シアン前COG51を通気し、気液接触させ、脱シアン前COG51中のシアン化水素と、鉄系スラリー57中の鉄イオンとが、安定なシアン化鉄錯体を形成し、脱シアン前COG51中のシアン化水素を分離する。脱シアン後COG52中のシアン化水素濃度はシアン化水素濃度計56により測定され、シアン化水素濃度が所定値を上回った際に、ポンプ59にて、脱シアン槽50内に鉄系スラリー57を投入する。脱シアン後COG52は、硫化剤投入装置28より第2の密閉容器20内に投入され、脱シアン後COG52中の硫化水素が、第2の密閉容器20内の浸出後液21中の銅/亜鉛のアンミン錯体イオンと反応し、硫化銅、硫化亜鉛となり、浸出後液を浸出液に再生させることができる。第2の密閉容器20内で、硫化水素成分が除去された脱シアン後COG52は、放散弁53より取り出すことができる。
【実施例】
【0101】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0102】
(実施例1)
図3に示す装置を用い、表4および表5に示す鉄、銅、および亜鉛の各成分を含む浸出処理対象物を、表4および表5に示す硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウムのうち1つ以上を含むアンモニウム水溶液と、硫化剤として硫化水素ナトリウム水溶液等の硫化剤を用い、次に述べる方法により処理し、銅/亜鉛を浸出分離し、その浸出後液から銅/亜鉛を分離し、浸出液を再生させた後、再生した浸出液を用い、再度、同じ浸出処理対象物を浸漬し、銅/亜鉛を浸出分離した。.
【0103】
(1)工程1(浸出工程および第1の固液分離工程)
表4および表5に示すアンモニウム水溶液2L(38g−NH
3/L)を第1の密閉容器2に入れ、pHを20質量%NaOH水溶液で表4および表5に示す値に調整した。第1の密閉容器2内に、表4および表5に記載の浸出処理対象物を入れ、撹拌用ポンプ3で第1の密閉容器内の浸出液1を撹拌し、浸出液1と気相部を接触させた。また、第1の密閉容器2内の浸出液1の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度計7で連続測定し、溶存酸素濃度が、表4および表5に記載の溶存酸素濃度(DO)を下回ると第1の密閉容器2内に純酸素の投入(30mL/分)されるようON−OFF制御した。また、浸出液1のフリーのアンモニア濃度をアンモニア濃度計15で連続測定し、フリーのアンモニア濃度が5g/L以下になったら、表4および表5記載のアンモニウム水溶液(76g−NH
3/L)を補充し、第1の密閉容器2内の浸出液1中のフリーのアンモニア濃度を5000ppm以上になるように、10hr保持した。10hr後、撹拌用ポンプ3を停止し、第1の密閉容器2内を静置した。第1の密閉容器2から、浸出しなかった金属鉄板、金属銅板、金属亜鉛板を取り出し、その重量を測定し、浸出率(1回目)を計算した。
また、酸化亜鉛粉、酸化銅粉などの粉体が試料の場合、浸出後液を、固液分離装置10(加圧ろ過装置)で加圧ろ過し、固液分離後の浸出後液中の鉄、銅、亜鉛濃度を測定し、各粉体からの浸出率(1回目)を計算した。金属板を取り除いた浸出後液、又は、ろ過後(固液分離後)の浸出後液は、次の第2の密閉容器20内に投入した。
【0104】
(2)工程2(浸出液再生工程および第2の固液分離工程)
第2の密閉容器20内の浸出後液21を撹拌用ポンプ22で撹拌しながら、酸化還元電位(ORP)を、表4および表5記載の値になるまで、表4および表5記載の硫化剤を投入し、アンミン錯体を形成している銅イオン、亜鉛イオンを硫化物として析出させた。その際、第2の密閉容器20内の浸出後液21のpHは、pH計23で測定し、第1の密閉容器1内の浸出液1のpH(表4および表5に記載のpH)±0.5に維持した。酸化還元電位が所定値になった後、第2の密閉容器20内の浸出後液21を、ろ過装置で加圧ろ過(固液分離)し、析出した硫化物を除去し、再生した浸出液を得た。再生した浸出液中の金属イオン濃度は、10〜110mg/Lまで低下し、かつ、全アンモニア濃度は殆ど変化なく、かつ、硫化物イオンも存在していないことを確認した。なお、比較例1−1および1−6では、浸出工程での浸出率が小さいため、浸出液再生工程以降の工程は実施しなかった。
【0105】
(3)工程1(2回目、浸出工程および第1の固液分離工程)
次に、再生した浸出液35を工程1に再投入し、表4および表5に記載の浸出処理対象物を工程1に投入し、工程1を繰り返した。その際の浸出率(2回目)を表4および表5に示す。
【0106】
比較例1−1、実施例1−2〜1−5、比較例1−6より、浸出液のpHが7以下もしくはpH12以上では、金属亜鉛板、金属銅板はほとんど浸出しないといえ、浸出液のpHは7.5〜11.5に制御することが良いことがわかる。
【0107】
実施例1−4、1−7、1−8、1−11より、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウムによる浸出が可能であるといえる。
【0108】
また、実施例1−4、1−7、1−8、1−9より、銅および亜鉛の存在形態として、金属、酸化物、水酸化物、塩化物が適用できるといえる。
【0109】
また、実施例1−7、1−10より、鉄の存在形態として、金属、酸化物の場合、浸出液にほとんど浸出しないといえる。
【0110】
また、実施例1−4、1−12、1−13〜1−17より、硫化剤として、硫化水素ナトリウム水溶液、硫化ナトリウム水溶液、硫化カルシウム水溶液、硫化リチウム水溶液、硫化カリウム水溶液、硫化水素カリウム水溶液、硫化マグネシウム水溶液を用いても、銅、亜鉛の高い浸出率がえられるといえる。
【0111】
また、各実施例における浸出液又は浸出廃液の系外持ち出し量は小さく、実施例1−7では浸出工程から浸出処理対象物を取り出す際に付着している浸出液量が2mlで、浸出液再生工程から除去した硫化物中の水分量は2mLであり、合計4mLであった。つまり、浸出液の0.2%(=4mL÷2000mL)が系外へ排出されたことになる。一方、実施例1−7記載の浸出処理対象物を、特許文献1に記載の方法である、酸素存在下でNH
3と(NH
4)
2CO
3とを含有する浸出液により処理し、浸出処理対象物中の銅および亜鉛をアンミン錯体イオンとして溶解し、残渣分をろ過で除去した浸出廃液を加熱して錯体イオンを分解させ、アンモニアと炭酸を蒸発させ、酸化銅および酸化亜鉛を回収した場合、浸出工程から浸出処理対象物を取り出す際に付着している浸出廃液量が2mLであるが、浸出後液を浸出液に再生する浸出液再生工程では、蒸発したアンモニアと炭酸を吸収するために水が必要となり、その水量は120mLであった。添加した水量に相当する液は系外排出する必要があるため、合計122mLが系外排出されることになる。つまり、浸出液の6%(=122mL÷2000mL)が系外へ排出されることになる。また、実施例1−7では、常温の反応であり、特許文献1のように、浸出廃液を加熱し錯体イオンを分解させ、アンモニアと炭酸を蒸発させる必要もないため、使用エネルギーも小さくなった。以上より、本発明の方が浸出液および浸出後液の系外への排出量は小さく、薬剤補給量も小さくなり、かつ、エネルギー使用量も小さくなったといえる。
【0112】
【表4】
【0113】
【表5】
【0114】
(実施例2)
表6に示す、鉄スクラップ、熱延スケール、微粉砕熱延スケール、高炉2次灰、微粉砕高炉2次灰、中和スラッジのいずれかを浸出処理対象物とし、表6に記載の浸出液2L(38g−NH
3/L)中で10hr浸出し、表6記載の硫化剤を用い、表6に記載のORPになるまで硫化剤を投入した。実施例1と同様に工程1、工程2、および2回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目)を測定した。熱延スケールの体積基準の平均径は、180μm(以下、平均径は体積基準で示す。)であり、微粉砕熱延スケールは、熱延スケールを微粉砕したもので、平均径は、21μmであった。同様に、高炉2次灰の平均径は130μmであり、微粉砕後の高炉2次灰の平均径は24μmであった。
【0115】
実施例2−1〜2−6より、鉄スクラップ、熱延スケール、高炉2次灰、中和スラッジ中の銅および亜鉛のうちの1種類以上の成分が浸出でき、かつ、硫化水素ナトリウム水溶液で浸出液を再生できるといえる。
【0116】
実施例2−2と2−3、2−4と2−5を比較することにより、微粉砕することで、銅又は亜鉛の浸出率が向上するといえる。
【0117】
【表6】
【0118】
(実施例3)
表7に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表7に記載の浸出液2L(38g−NH
3/L)中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を0.5〜50mg/Lに変化させた。表7記載の硫化剤を用い、表7記載のORPになるまで硫化剤を投入した。実施例1と同様に工程1、工程2、および2回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目)を測定した。測定結果を
図11に示す。
溶存酸素濃度が1mg/L以上の場合、金属銅板からの銅の浸出速度が大きくなるといえる。よって溶存酸素濃度は1mg/L以上が好ましいといえる。
【0119】
【表7】
【0120】
(実施例4)
表8に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表8に記載の浸出液2L(38g−NH
3/L)中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の気相部の酸素濃度を1〜98体積%に変化させた。表8記載の硫化剤を用い、表8記載のORPになるまで硫化剤を投入した。実施例1と同様に工程1、工程2、および2回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目)を測定した。測定結果を
図12に示す。
気相部の酸素濃度が2体積%以上の場合、金属銅板からの銅の浸出速度が大きくなるといえる。よって気相部の酸素濃度は2体積%以上が好ましいといえる。
【0121】
【表8】
【0122】
(実施例5)
表9に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表9記載の浸出液2L中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を10mg/Lに調整し、浸出液中のf−NH
3濃度を1〜70g/Lに変化させ、金属銅板を浸出した。
表9記載の硫化剤を、表9記載のORPになるまで投入した。実施例1と同様に工程1、工程2、および2回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目)を測定した。測定結果を
図13に示す。
浸出液中のf−NH
3濃度が3g/L以上の場合、金属銅板からの銅の浸出速度が著しく大きくなるといえる。よって、浸出液中のf−NH
3濃度が3g/L以上が好ましいといえる。
【0123】
【表9】
【0124】
(実施例6)
表10に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表10に記載の浸出液2L中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を10mg/Lに調整し、浸出槽の気相中のNH
3濃度を0.3〜15体積%に変化させ、金属銅板を浸出した。
表10記載の硫化剤を表10記載のORPになるまで投入した。実施例1と同様に工程1、工程2、および2回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目)を測定した。測定結果を
図14に示す。
浸出槽の気相中のNH
3濃度が0.6体積%以上の場合、金属銅板からの銅の浸出速度が著しく大きくなるといえる。よって、浸出槽の気相中のNH
3濃度は0.6体積%以上が好ましいといえる。
【0125】
【表10】
【0126】
(実施例7)
表11に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表11に記載の浸出液2L中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を10mg/Lに、浸出液のpHを10に、浸出槽の気相中のNH
3濃度を10体積%に調整し、金属銅板を浸出した。表11記載の硫化剤を、ORPが−70〜−230mVになるまで投入した。実施例1に準じた方法により工程1、工程2、2回目の工程1、2回目の工程2、および3回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目、3回目)を測定した。測定結果を
図15に示す。
pH10である浸出後液のORPが−150mV以上の場合、浸出が2回目以降、金属銅板からの銅の浸出速度が著しく大きくなるといえる。また、ORPが−100mV以下の領域で、硫化銅の析出が観測できた。ORPは、pHおよび溶解している成分で変動するため、実験により設定することが好ましいが、実施例7では、ORPを−150mV〜−100mVで管理することが好ましいといえる。
【0127】
【表11】
【0128】
(実施例8)
表12に示す、金属鉄板、金属銅板を浸出処理対象物とし、表12記載の浸出液2L中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を10mg/Lに、浸出液のpHを10に、浸出槽の気相中のNH
3濃度を10体積%に調整し、金属銅板を浸出した。表12記載の硫化剤を用い、第2の密閉容器内の浸出後液を一部採取し、密閉容器である第3の密閉容器(H
2S測定容器)に投入し、そのpHを2〜10に調整した。第3の密閉容器の気相部の硫化水素濃度が1ppmになるまで、表12に記載の硫化剤を投入した。実施例1に準じた方法により工程1、工程2、2回目の工程1、2回目の工程2、および3回目工程1を行い、浸出率(1回目、2回目、3回目)を測定した。測定結果を
図16に示す。
第3の密閉容器のpHが7以下、より好ましくはpHが5以下にすることで、浸出後液中の硫化水素成分が蒸発しやすくなり、硫化水素投入量に対して感度が上昇し、硫化水素ガスの過剰投入が減少し易く、浸出が2回目以降も金属銅板から銅が浸出し易くなっている。これより、硫化水素濃度測定槽のpHが7以下、より好ましくはpHが5以下にすることが好ましいといえる。
【0129】
【表12】
【0130】
(実施例9)
表13に示す、高炉2次灰を浸出処理対象物とし、表13記載の浸出液2L中で10hr浸出した。浸出時の浸出液中の溶存酸素濃度(DO)を10mg/Lに、浸出液のpHを10に、浸出槽の気相中のNH
3濃度を10体積%に調整し、亜鉛を浸出した。硫化剤として硫化水素およびシアン成分を含むコークス炉ガス(脱シアン前COGともいう。)、又は、シアン成分を除去したコークス炉ガス(脱シアン後COGともいう。)を用い、ORPが−150mVになるまで、硫化剤であるガスを投入した。実施例1に準じた方法により工程1、工程2、2回目の工程1、2回目の工程2、および3回目の工程1を行い、浸出率(1回目、2回目、3回目)を測定した。表14に脱シアン前COG、脱シアン後COGの組成を示す。測定結果を
図17に示す。なお、脱シアン後COGは、脱シアン前COGを鉄スラリー(水酸化鉄、Fe濃度8.2g/L)中に通気し、シアン成分を除去したCOGである。
脱シアン前COG、脱シアン後COGの成分(表14)より、鉄スラリー内を通気させることにより、シアン成分が96%吸収されている一方で、アンモニアおよび硫化水素はそれぞれ12%、17%のみの吸収であり、浸出後液を再生するのに要する硫化水素と、浸出剤であるアンモニア成分を含んだ脱シアン後COGに変化したことがわかる。
硫化剤として脱シアン前COGを使用した場合、2回目以降のZn浸出率は低下したが、硫化剤として脱シアン後COGを使用した場合、2回目以降もZn浸出率はほとんど低下しなかった。これより、シアン成分を事前に除去することにより、脱シアン後COGで浸出後液を再生し易いといえる。
【0131】
【表13】
【0132】
【表14】