(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874546
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ラジアルタイヤの製造方法および装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/08 20060101AFI20210510BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20210510BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20210510BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
B29D30/08
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-113516(P2017-113516)
(22)【出願日】2017年6月8日
(65)【公開番号】特開2018-202802(P2018-202802A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年6月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】木村 太祐
【審査官】
岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−1352(JP,A)
【文献】
特開平11−207745(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/065951(WO,A1)
【文献】
特開2012−86487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤをドラム体に外挿した状態でこのドラム体の幅方向中央部に配置されたインナーブラダを膨張させ、かつ、前記ドラム体の幅方向両端部に配置されたターンアップブラダを膨張させて、それぞれの前記ターンアップブラダの間を筒状のシール部材により塞ぐことにより、前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材によって前記グリーンタイヤを囲んだ密封空間を形成し、この密封空間の内部を真空引きして、この真空引きした状態を所定時間維持し、前記インナーブラダ、前記ターンアップブラダおよび前記シール部材を前記グリーンタイヤの表面に密着させつつ、前記グリーンタイヤの内部に残留するエアを前記密封空間の外部に排出し、次いで、前記グリーンタイヤを前記ドラム体から取り外して加硫用モールドの中に配置して加硫するラジアルタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記密封空間の内部を真空引きした状態を所定時間維持しつつ、前記密封空間を外部から加圧する請求項1に記載のラジアルタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記密封空間を形成する工程の前に、前記グリーンタイヤの外側表面から針状体を刺して、前記グリーンタイヤを構成するインナーライナには到達しないエア抜き穴を予め形成しておく請求項1または2に記載のラジアルタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記ドラム体として前記グリーンタイヤの成形を行う成形ドラムを使用し、前記グリーンタイヤを成形した後、引き続き、前記密封空間を形成する工程から前記エアを前記密封空間の外部に排出する工程を行う請求項1〜3のいずれかに記載のラジアルタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ドラム体として前記グリーンタイヤの成形を行う成形ドラムとは別体のドラム体を使用し、前記成形ドラムで前記グリーンタイヤを成形した後、この成形した前記グリーンタイヤを前記ドラム体に移送して外挿する請求項1〜3のいずれかに記載のラジアルタイヤの製造方法。
【請求項6】
ドラム中央部にインナーブラダを有し、ドラム幅方向両端部にターンアップブラダを有するドラム体と、このドラム体の外周側に配置される筒状のシール部材と、吸引手段とを備えて、
グリーンタイヤが前記ドラム体に外挿された状態で、前記インナーブラダが膨張し、かつ、前記ターンアップブラダが膨張して、それぞれの前記ターンアップブラダの間に前記シール部材が配置されて、前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材によって前記グリーンタイヤを囲んだ密封空間が形成され、この密封空間の内部が前記吸引手段により真空引きされている状態が所定時間維持されて、前記前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材が前記グリーンタイヤの表面に密着しつつ、前記グリーンタイヤの内部に残留するエアが前記密封空間の外部に排出される構成にしたラジアルタイヤの製造装置。
【請求項7】
前記密封空間の内部が真空引きされている状態が所定時間維持されている間に、前記密封空間を外部から加圧する加圧手段を備えた請求項6に記載のラジアルタイヤの製造装置。
【請求項8】
前記ドラム体に外挿された状態の前記グリーンタイヤの外側表面から前記グリーンタイヤを構成するインナーライナには到達しないエア抜き穴を形成する針状体を備えた請求項6または7に記載のラジアルタイヤの製造装置。
【請求項9】
前記ドラム体が前記グリーンタイヤの成形を行う成形ドラムである請求項6〜8のいずれかに記載のラジアルタイヤの製造装置。
【請求項10】
前記ドラム体が前記グリーンタイヤの成形を行う成形ドラムとは別体のドラム体である請求項6〜8のいずれかに記載のラジアルタイヤの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルタイヤの製造方法および装置に関し、さらに詳しくは、グリーンタイヤの内部に残留するエアを最小限にして、品質に優れたラジアルタイヤを効率的に製造することができるラジアルタイヤの製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤの製造工程では一般的に、未加硫ゴム部材や補強部材などのタイヤ構成部材を積層してグリーンタイヤを成形し、このグリーンタイヤを加硫用モールド内で加圧および加熱することによってタイヤを製造している。グリーンタイヤは様々なタイヤ構成部材が積層されているので、タイヤ内部にはエアが残留している。タイヤ内部のエアの残留量が過大であると、製造したタイヤに加硫故障が発生したり、加硫時間が長くなる等の問題が生じる。これに伴い、製造したタイヤの品質が低下したり、生産性が低下する。
【0003】
従来、加硫装置に設けた吸引手段によって、加硫用モールドとグリーンタイヤとの間のエアを除去することが種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、吸引手段を設けた加硫装置を用いてタイヤを製造する場合、グリーンタイヤは加硫用モールドの中に配置した時点から加硫が進行するため、タイヤ内部に残留しているエアの吸引はグリーンタイヤの加硫が進行している状態で行われることになる。グリーンタイヤの加硫が進行すると、未加硫ゴムが固くなる(流動性がなくなる)とともにタイヤ構成部材とうしが一体化する。そのため、タイヤ内部のエアは自由に移動し難くなり、十分に除去することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−207745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、グリーンタイヤの内部に残留するエアを最小限にして、品質に優れたラジアルタイヤを効率的に製造することができるラジアルタイヤの製造方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のラジアルタイヤの製造方法は、グリーンタイヤをドラム体に外挿した状態でこのドラム体の幅方向中央部に配置されたインナーブラダを膨張させ、かつ、前記ドラム体の幅方向両端部に配置されたターンアップブラダを膨張させて、それぞれの前記ターンアップブラダの間を筒状のシール部材により塞ぐことにより、前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材によって前記グリーンタイヤを囲んだ密封空間を形成し、この密封空間の内部を真空引きして、この真空引きした状態を所定時間維持し、前記インナーブラダ、前記ターンアップブラダおよび前記シール部材を前記グリーンタイヤの表面に密着させつつ、前記グリーンタイヤの内部に残留するエアを前記密封空間の外部に排出し、次いで、前記グリーンタイヤを前記ドラム体から取り外して加硫用モールドの中に配置して加硫することを特徴とする。
【0007】
本発明のラジアルタイヤの製造装置は、ドラム中央部にインナーブラダを有し、ドラム幅方向両端部にターンアップブラダを有するドラム体と、このドラム体の外周側に配置される筒状のシール部材と、吸引手段とを備えて、グリーンタイヤが前記ドラム体に外挿された状態で、前記インナーブラダが膨張し、かつ、前記ターンアップブラダが膨張して、それぞれの前記ターンアップブラダの間に前記シール部材が配置されて、前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材によって前記グリーンタイヤを囲んだ密封空間が形成され、この密封空間の内部が前記吸引手段により真空引きされている状態が所定時間維持されて、前記前記インナーブラダ、それぞれの前記ターンアップブラダおよび前記シール部材が前記グリーンタイヤの表面に密着しつつ、前記グリーンタイヤの内部に残留するエアが前記密封空間の外部に排出される構成にしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膨張させたインナーブラダ、膨張させたそれぞれのターンアップブラダおよびシール部材によって、加硫用モールドの中に配置する前のグリーンタイヤを囲んだ密封空間を形成し、この密封空間の内部を真空引きするので、グリーンタイヤの内部に残留しているエアが移動し易い条件下で真空引きをすることになる。そのため、この真空引きした状態を所定時間維持することで、グリーンタイヤの内部からエアを十分に除去するには有利になる。また、真空引きした状態でインナーブラダ、それぞれのターンアップブラダおよびシール部材をグリーンタイヤの表面に密着させるので、グリーンタイヤの内部に残留しているエアがこの真空引きによって膨張して、グリーンタイヤが局部的に変形する等の不具合を回避できる。それ故、本発明によれば、グリーンタイヤの内部に残留するエアを最小限にすることが可能になり、これに伴い、品質に優れたタイヤを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明を用いたラジアルタイヤの製造工程の全体概要を例示する説明図である。
【
図2】本発明のラジアルタイヤの製造装置の要部を例示する説明図である。
【
図3】
図2の製造装置によって密封空間を形成した状態を断面視で例示する説明図である。
【
図4】
図3の製造装置をドラム側面視で例示する説明図である。
【
図5】
図3の密封空間の内面の貫通穴周辺を平面視で例示する説明図である。
【
図6】グリーンタイヤの内部に残留しているエアを除去するエア抜き工程を断面視で例示する説明図である。
【
図7】本発明の製造装置の別の実施形態を例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のラジアルタイヤの製造方法および装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に例示するように、成形工程S1、エア抜き工程S2、加硫工程S3を順に経てタイヤTが製造される。成形工程S1では、成形ドラム2A等の成形装置8によって様々なタイヤ構成部材Mが積層されてグリーンタイヤG1が成形される。エア抜き工程S2では、本発明のタイヤ製造装置1を用いて、グリーンタイヤG1の内部に残留するエアaが除去されてグリーンタイヤG2が成形される。
【0012】
加硫工程S3では、グリーンタイヤG2が加硫用モールド9aの中に配置される。次いで、このグリーンタイヤG2が加硫装置9によって加硫(加圧および加熱)されることにより、加硫済のラジアルタイヤTが完成する。
【0013】
図2〜
図5に例示する本発明のタイヤの製造装置1は、ドラム体2Aと、このドラム体2Aの外周側に配置される筒状のシール部材5と、吸引手段となる吸引ポンプ7とを備えている。この実施形態ではドラム体2Aとして、グリーンタイヤG1の成形を行う成形ドラムが使用されている。さらに、ドラム体2Aに対して近接および離反する方向に移動する針状体6を備えている。この実施形態では、複数の針状体6が回転ローラの外周面に突設されている。
【0014】
ドラム体2Aは、ドラム中央部にインナーブラダ3を有し、ドラム幅方向両端部にターンアップブラダ4を有し、それぞれのターンアップブラダ4の外周側に配置される押圧リング4bを有している。インナーブラダ3は、加硫されたゴム等によって形成されていて膨張収縮可能である。インナーブラダ3は、コンプレッサ3aにより供給されるエアによって膨張する。それぞれのターンアップブラダ4は同じ仕様である。ターンアップブラダ4は、加硫されたゴム等によって形成されていて膨張収縮可能である。ターンアップブラダ4は、コンプレッサ4aにより供給されるエアによって膨張する。
【0015】
シール部材5は、例えば円筒形状で金属や樹脂等によって形成されている。シール部材5は1つの筒状の部材で構成することも、複数の円弧状の部材を組み合わせて構成することもできる。シール部材5は拡縮可能に構成することもできる。
【0016】
グリーンタイヤG1がドラム体2Aに外挿された状態で、インナーブラダ3が膨張し、かつ、ターンアップブラダ4が膨張して、それぞれのターンアップブラダ4の間にシール部材5が配置される。それぞれのターンアップブラダ4の外周面を、押圧リング4bによってドラム体2aの中心軸に向かって押圧する。これにより、インナーブラダ3、それぞれのターンアップブラダ4およびシール部材5によってグリーンタイヤG1を囲んだ密封空間Sが形成される。尚、
図3では密封空間Sを分かり易くするためにグリーンタイヤG1を省略して図示していない。
【0017】
この密封空間Sと吸引ポンプ7とは吸引ライン7aを通じて接続されている。吸引ライン7aはシール部材5に形成された貫通穴Shに接続されている。この実施形態では、シール部材5に貫通穴Shが形成されているが、シール部材5に加えてまたは代えて、インナーブラダ3やターンアップブラダ4に貫通穴Shを形成することもできる。貫通穴Shは、この実施形態で例示した位置に限らず適宜の位置に形成することができる。
【0018】
吸引ライン7aには開閉弁7bが設けられている。開閉弁7bを開弁した状態で吸引ポンプ7を稼働させることにより、密封空間Sの内部が真空引きされる。
【0019】
吸引ライン7aは1本に限らず複数本にすることもできる。複数本の吸引ライン7aを設ける場合は、それぞれの吸引ライン7aと密封空間Sとの接続位置(即ち、貫通穴Sh)は、例えば密封空間Sの周方向に等間隔の配置にするとよい。このような配置にすることで、密封空間Sの内部を周方向にばらつきを小さくして均等に真空引きし易くなり、ひいては製造したラジアルタイヤTの品質向上に寄与する。
【0020】
この実施形態では
図5に例示するように、密封空間S(シール部材5)の内面Siには貫通穴Shに向かって延在する凹溝Sgが形成されている。凹溝Sgの溝幅および溝深さは例えば、2mm〜10mmである。
【0021】
次に、この製造装置1を用いたラジアルタイヤの製造方法の手順を説明する。
【0022】
まず、成形工程S1において、成形装置8を用いて公知の成形方法により、複数のタイヤ構成部材Mを積層してグリーンタイヤG1を成形する。タイヤ構成部材Mは、インナーライナM1、カーカス材M2、ビード部M3、サイドゴムM4、ベルト層M5、トレッドゴムM6などの公知の部材である。
【0023】
成形工程S1では例えば、インナーライナM1の外周側にカーカス材M2やサイドゴムM4を積層した筒状体をドラム体2Aに巻き付けた状態にして、2つのビード部M3を筒軸方向に間隔をあけて筒状体に外嵌にする。次いで、インナーブラダ3を膨張させて筒状体の筒軸方向中央部を膨出させる。次いで、それぞれのターンアップブラダ4を膨張させるとともに、ターンアップブラダ4の外周側に押圧リング4bを配置して、カーカス材M2の筒軸方向両端部をそれぞれのビード部M3を包み込むようにターンアップする。次いで、膨出させた筒状体の外周面にベルト層M5、トレッドゴムM6を接合してグリーンタイヤG1が成形される。
【0024】
成形工程S1で成形したグリーンタイヤG1には、タイヤ構成部材Mどうしの間にエアaが残留している。そこでエア抜き工程S2では、本発明の製造装置1を用いてグリーンタイヤG1からエアaを除去したグリーンタイヤG2を成形する。エア抜き工程S2は、グリーンタイヤG1の加硫が進行しない温度範囲(例えば常温〜80℃)で行う。
【0025】
成形工程S1が終了した時点で、グリーンタイヤG1はドラム体2Aに外挿された状態になっている。そこで、成形工程S1の後に引き続き、エア抜き工程S2(密封空間Sを形成する工程〜エアaを密封空間Sの外部に排出する工程)を行う。
【0026】
グリーンタイヤG1に対しては密封空間Sを形成する工程の前に、外側表面から針状体6を刺して、積層されているタイヤ構成部材Mを連通するエア抜き穴を予め形成する作業(いわゆる、プリッキング作業)を行っておくことが好ましい。ただし、インナーライナM1にはエア抜き穴が到達しないように注意する。
【0027】
エア抜き工程S2では、
図6に例示するように密封空間SにグリーンタイヤG1を入れて密封する。即ち、グリーンタイヤG1をドラム体2Aに外挿した状態でインナーブラダ3を膨張させ、かつ、ターンアップブラダ4を膨張させて、それぞれのターンアップブラダ4の間を筒状のシール部材5により塞ぐことにより、インナーブラダ3、それぞれのターンアップブラダ4およびシール部材5によってグリーンタイヤG1を囲んだ密封空間Sを形成する。この状態で密封空間Sの内面Si(即ち、インナーブラダ3の外表面、ターンアップブラダ4の外表面およびシール部材5の内周面)はグリーンタイヤG1の表面に密着している。次いで、吸引ポンプ7を稼働させることにより密封空間Sの内部を真空引きして、この真空引きした状態を所定時間維持する。
【0028】
この真空引きでの真空圧は、大気圧(101.3kPa)をゼロにしたゲージ圧で言うと例えば−30kPa〜−101.3kPaである。真空引きした状態を維持する所定時間は1分以上より好ましくは3分以上にする。例えば、グリーンタイヤG2を加硫するまでの待機時間の範囲内で、密封空間Sの内部を真空引きした状態を維持するとよい。
【0029】
真空引きした状態を維持している所定時間の間、密封空間Sの内面Siは常にグリーンタイヤG1の表面に密着している。例えば、グリーンタイヤG1の全表面積の70%以上、より好ましくは80%以上に密封空間Sの内面Siが密着していればよい。尚、密封空間SにグリーンタイヤG1を密封した時点では、密封空間Sの内面SiがグリーンタイヤG1の表面に密着していなくても、真空引きすることにより密封空間Sが収縮してグリーンタイヤG1の表面に密着すればよい。
【0030】
本発明では、加硫用モールド9aの中に配置する前のグリーンタイヤG1を密封した密封空間Sの内部を真空引きするので、グリーンタイヤG1を加硫用モールド9aの中に配置して真空引きする場合に比して、グリーンタイヤG1の内部に残留しているエアaがタイヤ内部を移動し易い条件下で真空引きされる。そのため、この真空引きした状態を所定時間維持することで、グリーンタイヤG1の内部からエアaを十分に除去することができる。即ち、グリーンタイヤG1の内部に残留するエアaを最小限にすることが可能になる。
【0031】
尚、密封空間Sを構成するインナーブラダ3、ターンアップブラダ4およびシール部材5がグリーンタイヤG1の表面に密着していない状態で真空引きをすると、グリーンタイヤG1の内部に残留しているエアaがこの真空引きによって膨張して、グリーンタイヤG1が局部的に変形する等の不具合が生じることがある。しかし本発明では、密封空間Sの内面SiがグリーンタイヤG1の表面に密着しているので、このようなエアaの膨張に起因する局部的なグリーンタイヤG1の変形等が密封空間Sを構成するインナーブラダ3、ターンアップブラダ4およびシール部材5によって規制されて回避できる。
【0032】
この実施形態では、吸引ポンプ7の稼働とともにコンプレッサ3a、4aをさらに強く稼働させる。したがって、コンプレッサ3a、4aによる加圧(加圧圧力P)により密封空間Sが外部から押圧される。即ち、コンプレッサ3a、4aが密封空間Sを外部から加圧する加圧手段になっている。シール部材5が拡縮可能な構成の場合は、シール部材5を縮径させて密封空間Sを外部から押圧する。この場合、シール部材5を縮径させる手段も加圧手段になる。
【0033】
この加圧圧力Pは例えば100kPa〜1000kPaである。密封空間Sを真空引きしている最中に、加圧手段によって密封空間Sを外部から追加的に加圧することは任意であるが、密封空間Sに対するこの加圧によってグリーンタイヤG1の内部に残留するエアaの外部への排出が促進されるので、残留するエアaを最小限にするには益々有利になる。
【0034】
上述のようにエアaを除去したグリーンタイヤG2を成形した後は、膨張しているインナーブラダ3、ターンアップブラダ4を収縮させ、かつ、シール部材5を待機位置に移動させて密封空間Sを消滅させる。次いで、ドラム体2Aに外挿されているグリーンタイヤG2をドラム体2Aから取り外して加硫工程S3に搬送する。加硫工程S3では、グリーンタイヤG2を加硫用モールド9aの中に配置して加硫装置9によって加硫することで空気入りタイヤTが製造される。
【0035】
グリーンタイヤG2に残留するエアaが最小限になっているので、加硫したタイヤTには加硫故障による不具合が発生することが抑制される。また、残留するエアaが最小限になっているので必要以上に加硫時間を長くすることもない。したがって、品質に優れたラジアルタイヤTを効率的に製造するには有利になっている。
【0036】
しかも、本発明によれば、加硫装置9を改造する必要がない。即ち、既存の加硫装置9をそのまま利用できるというメリットがある。また、成形工程S1や加硫工程S3のオペレーションも変わらないというメリットもある。
【0037】
この実施形態では、密封空間Sの内面Siに形成された凹溝Sgに沿ってエアaを貫通穴Shまで誘導できるので、グリーンタイヤG2に残留するエアaを最小限にするには有利になっている。凹溝Sgは任意で設けることができるが、凹溝Sgなどを設けて密封空間Sの内面Siを凹凸状にすることで、エアaを円滑に密封空間Sの外部に排出できる。また、内面Siを凹凸状にすることで、グリーンタイヤG2を密封空間Sから取り出す際に、密封空間Sに密着しているグリーンタイヤG2を内面Siから剥がし易くなるというメリットもある。
【0038】
図7に例示する製造装置1の別の実施形態では、先の実施形態とは異なり、グリーンタイヤG1の成形を行う成形ドラムを使用していない。即ち、製造装置1を構成するドラム体2Bとして、成形ドラムとは別体となるエア抜き工程S2専用のドラム体2Bを使用している。その他の構成は、先の実施形態と同様である。
【0039】
この実施形態では、成形工程S1において成形ドラム(成形装置8)でグリーンタイヤG1を成形した後、グリーンタイヤG1をドラム体2Bに移送して外挿する。次いで、先の実施形態と同様に、エア抜き工程S2(密封空間Sを形成する工程〜エアaを密封空間Sから排出させる工程)を行う。
【0040】
この実施形態では、成形工程S1の成形ドラム(成形装置8)が、エア抜き工程S2のために占有されることを回避できるというメリットがある。また、成形工程S1および加硫工程S3の設備とオペレーションは、従来と変わらず同じにできるというメリットもある。
【0041】
エア抜き工程S2でグリーンタイヤG2を成形した後は、加硫待ちの間、密封空間Sの内部を吸引ポンプ7によって真空引きし続ける。この真空引きとともに、密封空間Sを外部から加圧手段によって加圧し続けるとよい。加硫装置9が空くと、次に加硫すべきグリーンタイヤG2を加硫工程S3に搬送して加硫用モールド9aの中に配置して加硫する。
【0042】
このように加硫待ちのためにグリーンタイヤG2をストックしている時間を、密封空間Sの内部を真空引きした状態を維持するために有効に利用するとよい。これにより、タイヤの製造工程に無駄な時間が発生せず、生産性を向上させるには有利になる。
【符号の説明】
【0043】
1 タイヤの製造装置
2A、2B ドラム体
3 インナーフラダ
3a コンプレッサ
4 ターンアップブラダ
4a コンプレッサ
4b 押圧リング
5 シール部材
6 針状体
7 吸引ポンプ
7a 吸引ライン
7b 開閉弁
8 成形装置
9 加硫装置
9a 加硫用モールド
G1 エア除去前のグリーンタイヤ
G2 エア除去後のグリーンタイヤ
T 加硫済のラジアルタイヤ
M(M1〜M6) タイヤ構成部材
S 密封空間
Sg 凹溝
Sh 貫通穴
Si 内面
a エア