(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記区分カーボン付着面積算出部は、コークスの押出し方向または炉壁の高さ方向のうち少なくとも1つの方向に前記炉壁画像を分割して前記区分領域を設定する、請求項1に記載のカーボン付着状態解析装置。
前記適正範囲算出部は、確率分布相関解析法または分位点回帰モデルを用いて、前記区分領域の前記区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出する、請求項1または2に記載のカーボン付着状態解析装置。
前記判定処理部は、算出された前記区分カーボン付着面積が前記適正カーボン付着面積から外れている場合、前記区分領域の区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係に応じて、炉壁に付着するカーボン付着量を調整するランスのエア量を調整する、請求項4に記載のカーボン付着状態解析装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1、2に記載の技術では、カーボン付着状態を定量評価するのみであり、カーボン付着状態と押出負荷との詳細な関係までを特定することはなされていない。すなわち、コークスの押出し後に行われるランスによるカーボン焼却時に計測されるCO
2濃度から、炉壁に付着しているカーボン付着量を大まかに予測する、もしくは、炉壁画像から炉壁のカーボン付着量を解析してカーボン付着量の大小を判断するものであり、炉壁の場所毎にカーボン付着量と押出負荷との定量的な関係については明らかにされていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、炉壁の場所毎にカーボン付着量と押出負荷との定量的な関係を明らかにすることが可能な、新規かつ改良されたカーボン付着状態解析装置、カーボン付着状態解析方法、コンピュータプログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、コークス炉の過去の操業における実績データとして取得された複数の炉壁画像を解析し、各炉壁画像におけるカーボン付着状態を判定するカーボン判定部と、カーボン付着状態の判定結果に基づいて、炉壁画像に対して設定され
た複数の区分領域について、
当該区分領域ごとにカーボンが付着している区分カーボン付着面積を算出する区分カーボン付着面積算出部と、区分領域
ごとに、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出し、相関関係に基づいてコークスの押出負荷が管理値以下となる区分領域の適正カーボン付着面積を算出する適正範囲算出部と、を備える、カーボン付着状態解析装置が提供される。
【0009】
区分カーボン付着面積算出部は、コークスの押出し方向または炉壁の高さ方向のうち少なくとも1つの方向に炉壁画像を分割して区分領域を設定してもよい。
【0010】
適正範囲算出部は、確率分布相関解析法または分位点回帰モデルを用いて、区分領域の区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出してもよい。
【0011】
また、カーボン付着状態解析装置は、適正なカーボン付着状態であるかを判定する炉壁画像について、区分領域における区分カーボン付着面積を算出し、算出された区分カーボン付着面積と適正範囲算出部により算出された適正カーボン付着面積とを比較して、区分領域の炉壁が適正なカーボン付着状態にあるか否かを判定する判定処理部をさらに備えてもよい。
【0012】
判定処理部は、算出された区分カーボン付着面積が適正カーボン付着面積から外れている場合、区分領域の区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係に応じて、炉壁に付着するカーボン付着量を調整するランスのエア量を調整してもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コークス炉の過去の操業における実績データとして取得された複数の炉壁画像を解析し、各炉壁画像におけるカーボン付着状態を判定するカーボン判定ステップと、カーボン付着状態の判定結果に基づいて、炉壁画像に対して設定され
た複数の区分領域について、
当該区分領域ごとにカーボンが付着している区分カーボン付着面積を算出する区分カーボン付着面積算出ステップと、区分領域
ごとに、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出し、各相関関係に基づいてコークスの押出負荷が管理値以下となる区分領域の適正カーボン付着面積を算出する適正範囲算出ステップと、を含む、カーボン付着状態解析方法が提供される。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、コークス炉の過去の操業における実績データとして取得された複数の炉壁画像を解析し、各炉壁画像におけるカーボン付着状態を判定するカーボン判定部と、カーボン付着状態の判定結果に基づいて、炉壁画像に対して設定され
た複数の区分領域について、
当該区分領域ごとにカーボンが付着している区分カーボン付着面積を算出する区分カーボン付着面積算出部と、区分領域
ごとに、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出し、各相関関係に基づいてコークスの押出負荷が管理値以下となる区分領域の適正カーボン付着面積を算出する適正範囲算出部と、を備える、カーボン付着状態解析装置として機能させるコンピュータプログラムが提供される。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータに、コークス炉の過去の操業における実績データとして取得された複数の炉壁画像を解析し、各炉壁画像におけるカーボン付着状態を判定するカーボン判定部と、カーボン付着状態の判定結果に基づいて、炉壁画像に対して設定され
た複数の区分領域について、
当該区分領域ごとにカーボンが付着している区分カーボン付着面積を算出する区分カーボン付着面積算出部と、区分領域
ごとに、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出し、各相関関係に基づいてコークスの押出負荷が管理値以下となる区分領域の適正カーボン付着面積を算出する適正範囲算出部と、を備える、カーボン付着状態解析装置として機能させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、炉壁の場所毎にカーボン付着量と押出負荷との定量的な関係を明らかにすることができる。定量的に炉壁の場所毎にカーボン付着量と押出負荷との関係を明らかにすることで、例えば、カーボン付着量を適切に管理するために最適な炉壁の管理対象場所とその場所のカーボン付着面積の管理基準(以下、「カーボン管理値」とも称する。)とを決定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
<1.カーボン付着状態解析装置>
まず、
図1を参照して、本発明の一実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100の機能構成を説明する。
図1は、本実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100の機能構成を示すブロック図である。
【0020】
本実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100は、コークスの押出負荷が高くなる確率が高くなるカーボン付着状態を特定し、コークス炉の炉壁のカーボン付着状態を管理する管理基準(カーボン管理値)を決定する。カーボン付着状態解析装置100は、
図1に示すように、解析処理部110と、判定処理部120とを備える。なお、本実施形態では、カーボン付着状態解析装置100は、解析処理部110及び判定処理部120を備えるものとして説明するが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、解析処理部110と判定処理部120とを別体の装置として構成し、判定処理部120が解析処理部110による解析結果を取得可能なように装置間の通信を可能とした構成としてもよい。
【0021】
[1−1.解析処理部]
解析処理部110は、実績データに基づいて、炉壁面に設定された1または複数の区分領域おける区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を算出し、コークスの押出負荷が管理値以下となる区分領域の適正なカーボン付着面積を算出する。解析処理部110は、
図1に示すように、カーボン判定部111と、区分カーボン付着面積算出部113と、適正範囲算出部115とを含む。
【0022】
カーボン判定部111は、過去の操業実績により得られた実績データのうち、炉壁画像の各位置におけるカーボン付着状態を判定する。実績データは、過去の操業実績の実績データを記憶する実績データ記憶部10に蓄積されており、カーボン判定部111は、実績データ記憶部10から当該実績データを読み出して、個々の炉壁画像について各位置におけるカーボン付着状態を判定する。
【0023】
カーボン判定部111は、例えば上記特許文献1、2に記載の技術等を用いて炉壁画像からカーボン付着状態を特定してもよい。本実施形態では、上記特許文献2に記載の技術を用いて、炉壁面について、炉壁を構成する耐火煉瓦を覆い隠すようにカーボンが略一様に付着している位置(特許文献2において「一様カーボン付着状態」と呼んでいる位置)をカーボン付着位置として特定する。この、カーボン付着位置の特定が、本実施形態におけるカーボン付着状態の判定である。また、前述の「カーボン付着面積」は、炉壁面において、上記特許文献2に記載の技術を用いて「一様カーボン付着状態」となっていると特定された部分の面積を指す。特に、区分領域内におけるカーボン付着面積については、「区分カーボン付着面積」と称する場合もある。
【0024】
区分カーボン付着面積算出部113は、カーボン判定部111により特定されたカーボン付着判定結果から区分領域のカーボン付着面積(区分カーボン付着面積)を算出する。区分カーボン付着面積算出部113は、炉壁面に1または複数の区分領域を設定し、設定した区分領域について、コークスの押出負荷が管理値以下となるカーボン付着面積を求める。区分領域は、炉壁面を等分割して設定してもよく、炉壁面の任意の位置における炉壁面の一部を設定してもよい。この際、区分領域は、炉壁へのカーボンの付着量がコークスの押出負荷に影響を与えやすい位置を考慮して設定してもよい。
【0025】
コークスの押出負荷に関しては、例えば、炉壁の長手方向において、コークス炉の炭化室からコークスが排出されるガイド車側に摩擦抵抗の要因(凸状カーボン、または、肌荒れ)があると押出負荷が大きい(ガイド車側ほどカーボン付着状態の押出負荷への影響が大きい)、ガイド車側と反対側の押出機側では炉壁にカーボンがあまり付着せず、また、煉瓦の劣化が少ない(カーボン付着状況による炉壁損傷程度の違い)、といった操業経験が知られている。また、炉壁の高さ方向においては、上部側または下部側でコークスケーキの自重によって摩擦抵抗の押出負荷に対する影響度が異なることも知られている。かかる操業経験に基づき、例えば、炉壁の長手方向(コークスの押出し方向)に押出機側部、中央部、ガイド車側部の3つに分割し、炉壁の高さ方向に上段部、下段部の2つに分割して、炉壁面に6つの区分領域を設定してもよい。
【0026】
このように操業知見を考慮することで、カーボンの付着状態がコークスの押出負荷に影響を及ぼしやすい部分に区分領域を設定し、後述の適正範囲算出部115により当該区分領域における最適なカーボン付着面積を特定すれば、コークスの押出負荷が管理値以下となるように、コークスの押出負荷に特に影響する部分のカーボン付着状態を適切に管理することができる。
【0027】
区分カーボン付着面積算出部113は、過去の実績データについて、炉壁面に対して設定された区分領域におけるカーボン付着状態を区分カーボン付着面積として算出する。区分カーボン付着面積算出部113は、例えば1つの窯から取得された左右の炉壁画像についてそれぞれ区分領域のカーボン付着面積を算出した後、左右の炉壁の平均値を求めたものを、当該窯に設定された区分領域における区分カーボン付着面積としてもよい。区分カーボン付着面積は、画素数により表してもよい。
【0028】
適正範囲算出部115は、区分カーボン付着面積算出部113により算出された区分カーボン付着面積に基づき、当該区分領域における炉壁へのカーボン付着面積の適正範囲を算出する。適正範囲算出部115は、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との関係を評価し、コークスの押出負荷の低減のためにカーボンを付着させるカーボン付着面積の適正範囲を決定する。区分領域のカーボン付着面積を適正範囲算出部117により決定された適正範囲内となるようにすることで、コークスの押出負荷を管理値以下とし、コークスの押出負荷を低減させることができる。
【0029】
[1−2.判定処理部]
判定処理部120は、新たに取得された炉壁画像に基づいて、炉壁面に対して適正にカーボンが付着しているか否かを判定する。判定処理部120は、
図1に示すように、判定用カーボン判定部121と、判定用区分カーボン付着面積算出部123と、付着状態判定部125とを含む。
【0030】
判定用カーボン判定部121は、コークス炉の炉壁面へのカーボン付着状態の判定対象として新たに取得された炉壁画像について、当該炉壁画像のカーボン付着状態を判定する。判定用カーボン判定部121は、解析処理部110のカーボン判定部111と同様に機能し、公知の解析技術を用いて炉壁画像からカーボン付着状態を特定してもよい。本実施形態では、上記特許文献2に記載の技術を用いて、炉壁面について、炉壁を構成する耐火煉瓦を覆い隠すようにカーボンが略一様に付着している位置をカーボン付着位置として特定する。
【0031】
判定用区分カーボン付着面積算出部123は、判定用カーボン判定部121の判定結果に基づいて、区分領域に付着しているカーボン付着面積(区分カーボン付着面積)を算出する。判定用区分カーボン付着面積算出部123は、解析処理部110の区分カーボン付着面積算出部113と同様に機能する。
【0032】
付着状態判定部125は、判定用区分カーボン付着面積算出部123にて算出された区分カーボン付着面積が適正範囲にあるか否かを判定する。付着状態判定部125は、区分領域について、区分カーボン付着面積と、解析処理部110の適正範囲算出部115により算出された当該区分領域におけるカーボン付着面積の適正範囲とを比較し、炉壁へのカーボン付着状態が正常であるか否かを判定する。付着状態判定部125は、カーボン付着面積が適正範囲内であれば炉壁のカーボン付着状態は正常であると判定し、カーボン付着面積が適正範囲外であれば炉壁のカーボン付着状態を調整する必要があると判定する。調整が必要な場合には、例えばランスにより供給されるエア量の調整等の対策アクションが実施される。また、付着状態判定部125は、炉壁へのカーボン付着状態の判定結果を表示装置や音声出力装置等の出力装置(図示せず。)を介して出力し、オペレータへ現在の炉壁のカーボン付着状態を通知してもよい。
【0033】
<2.カーボン付着状態解析方法>
以下、
図2〜
図8に基づいて、本実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100によるカーボン付着状態解析方法を説明する。
【0034】
[2−1.解析処理]
まず、
図2に示す解析処理部110による解析処理を示すフローチャートに基づいて、
図3〜
図6を参照しながら解析処理部110による解析処理について説明する。
【0035】
(S100:実績データ入力)
まず、解析処理部110のカーボン判定部111へ、実績データ記憶部10に記憶された過去の操業実績における実績データが入力される(S100)。実績データは、少なくとも炉壁画像及び当該炉壁画像を取得する直前(または直後であってもよい)に行われたコークスの押出し工程における押出負荷が含まれる。本実施形態では、炉団毎に解析処理を行い、各炉団のカーボン管理値を決定する。なお、炉団を構成する各窯について十分な実績データ数が取得可能であれば、窯毎に実績データを解析して各窯のカーボン管理値を決定してもよい。
【0036】
(S110:カーボン付着状態判定)
カーボン判定部111は、入力された実績データに基づいて、炉壁画像の各位置におけるカーボン付着状態を判定する(S110)。実績データの入力は、例えば、カーボン判定部111が、実績データ記憶部10から実績データを読み出すことにより行われてもよい。ここで、ステップS110では、上述したように、公知技術を用いて炉壁画像からカーボン付着状態を特定してもよい。本実施形態では、上記特許文献2に記載の技術を用いて、炉壁面について、炉壁を構成する耐火煉瓦を覆い隠すようにカーボンが略一様に付着している位置をカーボン付着位置として特定する。例えば
図3に示すように、炉壁の炉壁面Wにおいて、カーボン付着位置と特定された領域Cを表すことができる。
【0037】
(S120:区分カーボン付着面積算出)
次いで、区分カーボン付着面積算出部113は、カーボン判定部111により特定された過去の実績データのカーボン付着判定結果から区分領域のカーボン付着面積を算出する(S120)。区分カーボン付着面積算出部113は、まず、炉壁面に1または複数の区分領域を設定する。例えば、区分カーボン付着面積算出部113は、炉壁面を等分割することによって区分領域を設定してもよく、炉壁面の任意の位置における炉壁面の一部を区分領域として設定してもよい。また、上述したように、区分カーボン付着面積算出部113は、炉壁へのカーボンの付着量がコークスの押出負荷に影響を与えやすい位置を考慮して区分領域を設定してもよい。
【0038】
例えば、
図4上側に示すように、区分カーボン付着面積算出部113は、コークス炉の炉壁面Wを、長手方向(コークスの押出し方向)に押出機側部、中央部、ガイド車側部の3つに分割し、炉壁の高さ方向に上段部、下段部の2つに分割して、炉壁面Wに6つの区分領域A1〜A6を設定する。次いで、区分カーボン付着面積算出部113は、炉壁面Wの撮像画像である炉壁画像9を、設定された区分領域A1〜A6に基づき、
図4下側に示すように6つに区分する。
【0039】
そして、区分カーボン付着面積算出部113は、設定された区分領域それぞれについてカーボン付着面積(区分カーボン付着面積)を算出する。区分カーボン付着面積は、1つの区分領域の全面積に対してカーボンが付着しているカーボン付着面積の面積占有率により表してもよく、画素数により表してもよい。また、1つの窯における区分領域の区分カーボン付着面積は、例えば1つの窯から取得された左右の炉壁画像9の区分カーボン付着面積の平均値として表してもよい。このとき、区分カーボン付着面積算出部113は、例えば1つの窯から取得された左右の炉壁画像についてそれぞれ区分領域の区分カーボン付着面積を求めた後、対応する区分領域の左右の区分カーボン付着面積の平均をとることで、1つの窯における区分領域の区分カーボン付着面積を算出することができる。
【0040】
(S130:適正範囲算出)
区分領域の区分カーボン付着面積が算出されると、適正範囲算出部115は、設定された区分領域それぞれについて区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との関係を解析し、押出負荷が管理値以下となるカーボン付着面積の適正範囲を決定する(S130)。適正範囲は、具体的には、区分カーボン付着面積に対応した押出負荷の代表値から計算される。押出負荷の代表値は、例えば上記特許文献3に記載の確率分布相関解析法を用いて決定することができる。確率分布相関解析法とは、2つのデータ項目(例えば、説明変数xと目的変数y)との相関関係を操業データから解析する汎用手法である。具体的には、説明変数xの値が取る範囲を細かな領域に分割し、それぞれの分割領域毎に指定した確率密度関数(例えば、正規分布や対数正規分布等)を当てはめ、所定の累積確率についての説明変数xと目的変数yとの条件付き確率密度モデルp’(y|x)を得る手法である。
【0041】
例えば、
図4に示したように、炉壁面Wに設定された区分領域A1〜A6それぞれの区分カーボン付着面積と押出負荷との関係の一例を
図5及び
図6に示す。
図5は、各区分領域A1〜A6における区分カーボン付着面積と押出負荷との散布図を示している。区分カーボン付着面積は、区分領域内でカーボンが付着している部分の面積が全体面積に占める割合(すなわち、区分領域におけるカーボン付着面積の面積占有率)により表される。区分カーボン付着面積が1のとき、当該区分領域の全面にカーボンが付着していることを表す。また、
図6は、
図5の散布図においてデータが存在している部分のみを取り上げて、確率分布相関解析法により得られた相関関係を示すグラフである。このため、
図6の横軸は、データの散布状態に応じて区分領域毎に異なっている。
【0042】
本実施形態では、指定した累積確率となる押出負荷の値が代表値として決定され、
図6では、累積確率が80%となる押出負荷の値を代表値としている。この場合、将来発生する押出負荷は確率80%でその代表値以下であることを意味する。区分カーボン付着面積の適正範囲は、各区分領域において特定の押出負荷の管理値以下となる区分カーボン付着面積の範囲を定めて管理する。したがって、
図6のように、押出負荷の管理値が30tonf以下となる範囲を押出負荷の代表値の適正範囲として定めたとき、区分カーボン付着面積がこの適正範囲を満たす範囲内にあれば、80%の確率で押出負荷を管理値の30tonf以下に抑えることができる。
【0043】
ここで、
図6に示すように各区分領域についてそれぞれ区分カーボン付着面積の適正範囲を定めることができるが、適正範囲の広さは区分領域により様々である。そこで、実際にコークスの押出負荷が管理値以下となるように管理するにあたっては、例えば区分領域A1、A3のように全体的に押出負荷が管理値より小さく適正範囲が広い場合や、区分領域A4のように押出負荷が管理値より小さくなる適正範囲が狭い場合は、その管理が難しい。そこで、区分領域A1、A3、A4以外の区分領域A2、A5、A6における区分カーボン付着面積を管理することで、適切にコークスの押出負荷を管理することが可能となる。
【0044】
なお、本発明は、上記確率分布相関解析法以外にも、例えば非特許文献1に示す分位点回帰モデル(Quantile Regression)を用いてコークスの押出負荷の代表値を算出してもよい。
【0045】
以上のように、炉壁面Wに設定された区分領域それぞれについて、過去の操業実績における実績データから区分カーボン付着面積を求め、コークスの押出負荷との相関関係を解析することで、押出負荷が低負荷となる適正なカーボン付着面積を区分領域毎に決定することができる。
【0046】
[2−2.判定処理]
次に、
図7に基づいて、判定処理部120によるカーボン付着面積の判定処理について説明する。なお、
図7は、判定処理部120によるカーボン付着面積の判定処理を示すフローチャートである。
【0047】
まず、判定処理部120の判定用カーボン判定部121へ、炉壁のカーボン付着状態が適正かどうかを判定する炉壁画像が入力される(S200)。炉壁画像の入力は、例えば、判定用カーボン判定部121が、所定の記憶装置から炉壁画像を読み出すことにより行われてもよい。炉壁画像が入力されると、判定用カーボン判定部121は、入力された炉壁画像の各位置におけるカーボン付着状態を判定する(S210)。ステップS210は、
図2のステップS110と同様に炉壁画像からカーボン付着状態を特定してもよい。本実施形態では、上記特許文献2に記載の技術を用いて、炉壁面について、炉壁を構成する耐火煉瓦を覆い隠すようにカーボンが略一様に付着している位置をカーボン付着位置として特定する。
【0048】
次いで、判定用区分カーボン付着面積算出部123は、判定対象の炉壁画像に設定された区分領域の区分カーボン付着面積を算出する(S220)。区分領域は、
図2のステップS120において、解析処理部110の区分カーボン付着面積算出部113により設定された区分領域が用いられる。判定用区分カーボン付着面積算出部123は、設定された区分領域における区分カーボン付着面積を算出する。
【0049】
そして、付着状態判定部125は、判定用区分カーボン付着面積算出部123にて算出された区分領域の区分カーボン付着面積が適正範囲にあるか否か判定する(S230)。付着状態判定部125は、区分領域の区分カーボン付着面積と、
図2のステップS130において解析処理部110の適正範囲算出部115により算出された当該区分領域における区分カーボン付着面積の適正範囲とを比較し、炉壁へのカーボン付着状態が正常であるか否かを判定する。このとき、付着状態判定部125は、炉壁へのカーボン付着状態の判定結果を表示装置や音声出力装置等の出力装置(図示せず。)を介して出力し、オペレータへ現在の炉壁のカーボン付着状態を通知してもよい。
【0050】
付着状態判定部125は、区分カーボン付着面積が適正範囲内であれば炉壁のカーボン付着状態は正常であると判定し、
図7の判定処理を終了する(S240)。一方、区分カーボン付着面積が適正範囲外であれば、付着状態判定部125は、炉壁のカーボン付着状態を調整する必要があると判定し、カーボン付着状態が適正となるように対策を実施する(S250)。具体的には、窯上部にある複数の装入口から挿入され、炉壁に付着するカーボンに対してエアを吹き付けることによりカーボンを燃焼させて取り除くランスから供給されるエア量を調整することにより、カーボン付着面積を調整することができる。なお、カーボン付着量に対するエア量の関係は、操業経験により得ることができる。
【0051】
例えば、
図4の区分領域A6において区分カーボン付着面積が適正範囲外となっている場合には、カーボン付着面積が不足しており、押出負荷が増大する可能性が高い。そこで、かかる位置の炉壁に付着するカーボンを成長させるため、当該影響領域近辺にエアを供給するランスについては、エアの供給を低減あるいは停止させる。また、
図4の区分領域A2において区分カーボン付着面積が適正範囲外となっている場合には、カーボン付着面積が大きくなり、押出負荷が増大する可能性が高い。そこで、かかる位置の炉壁に付着するカーボンを取り除くため、当該影響領域近辺にエアを供給するランスについては、供給するエア量を例えば最大に設定する等をして通常よりも増加させる。対策終了後、
図7の判定処理を終了する。
【0052】
<3.まとめ>
以上、本実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100の構成とこれによるカーボン付着状態解析方法について説明した。本実施形態によれば、炉壁面に設定された1または複数の区分領域について、区分カーボン付着面積の適正範囲を決定する。区分カーボン付着面積が決定された適正範囲内となるように当該区分領域のカーボン付着面積を調整することで、コークスの押出負荷を低減することができる。
【0053】
本実施形態に係る手法を用いることで、炉壁のカーボン付着位置及びカーボン付着状態とコークスの押出負荷との関係に関する知見が予め得られていない場合でも、炉壁面に設定した区分領域におけるカーボン付着面積とコークスの押出負荷との関係を取得することができる。炉壁のカーボン付着位置及びカーボン付着状態とコークスの押出負荷との関係に関する知見が得られている場合には、コークスの押出負荷に影響を与えやすいカーボン付着位置に区分領域を設定することで、当該区分領域におけるカーボン付着面積とコークスの押出負荷との関係を効率的に取得することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態に係る手法を用いることで、炉壁における任意の場所でのカーボン付着面積をそれぞれ独立して管理することができる。さらに、区分領域におけるカーボン付着面積の適正範囲を決定することで、区分領域におけるカーボン付着面積が不足したり過多となったりして適正範囲を外れていないか管理することが可能となり、押出負荷が増加する前に対策を取ることが可能となる。
【0055】
なお、上記実施形態では、
図2のステップS110のように、炉壁面を6分割して区分領域を設定したが、本発明はかかる例に限定されず、区分数は適宜設定可能である。また、
図4に示すように等分割して炉壁面に区分領域を設定する以外の方法により、区分領域を設定してもよい。例えば
図8に示すように、炉壁の炉壁面Wにおいて、複数の解析対象位置(例えば解析対象位置P1、P2、P3)を設定し、各解析対象位置を中心として予め設定された半径でそれぞれ規定される円(例えば円C1、C2、C3)を区分領域として設定してもよい。このように区分領域が設定された場合にも、上記実施形態と同様、各円内に含まれる区分カーボン付着面積を算出し、区分カーボン付着面積とコークスの押出負荷との相関関係を求めることができる。また、炉壁面に設定する区分領域は、
図8に示すように重複する部分が生じていてもよい。
【0056】
さらに、区分領域は、炉壁面の一部にのみ設定することも可能である。例えば操業知見に基づきコークスの押出負荷への影響が大きい領域が予め特定されている場合等では、当該領域に区分領域を設定し、上述の手法によって当該区分領域における区分カーボン付着面積の適正範囲を算出してもよい。このように、一部の区分領域のみについて区分カーボン付着面積の適正範囲を算出することで、効率的に、操業時に着目される領域の適正なカーボン付着面積を取得することができる。
【0057】
<4.ハードウェア構成例>
以下、
図9を参照しながら、本実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100のハードウェア構成について、詳細に説明する。
図9は、本発明の実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0058】
カーボン付着状態解析装置100は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、カーボン付着状態解析装置100は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0059】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、カーボン付着状態解析装置100内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0060】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0061】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、カーボン付着状態解析装置100の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。カーボン付着状態解析装置100のユーザは、この入力装置909を操作することにより、カーボン付着状態解析装置100に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0062】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、カーボン付着状態解析装置100が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、カーボン付着状態解析装置100が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0063】
ストレージ装置913は、カーボン付着状態解析装置100の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0064】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、カーボン付着状態解析装置100に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0065】
接続ポート917は、機器をカーボン付着状態解析装置100に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、カーボン付着状態解析装置100は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0066】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0067】
以上、本発明の実施形態に係るカーボン付着状態解析装置100の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【0068】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。