(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874577
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】固体廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/00 20060101AFI20210510BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
B09B3/00 303L
B09B3/00 303M
C02F11/00 MZAB
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-143536(P2017-143536)
(22)【出願日】2017年7月25日
(65)【公開番号】特開2019-25375(P2019-25375A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2020年5月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】吉井 清隆
(72)【発明者】
【氏名】長尾 有記
(72)【発明者】
【氏名】吉田 洋一
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−212260(JP,A)
【文献】
特開2008−207160(JP,A)
【文献】
特開2008−296080(JP,A)
【文献】
特開2010−120778(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102070352(CN,A)
【文献】
特開平11−011992(JP,A)
【文献】
米国特許第05846178(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下に記載の(i)〜(iii)の工程を有する固体廃棄物の処理方法。
(i)焼却灰と燐含有廃棄物とを、該焼却灰100質量部に対し、該燐含有廃棄物を100質量部以上4000質量部以下混合する工程。
(ii)(i)の混合物の含水率を0質量%以上50質量%以下にした粉体状の乾燥物を得る工程。
(iii)(ii)の乾燥物を600℃以上1200℃以下で焼成して、粉体状の処理物を得る工程。
【請求項2】
(ii)又は(iii)の工程の熱源に、排熱を利用する、請求項1に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項3】
(ii)乾燥工程の処理温度が80℃以上300℃以下である、請求項1又は2に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項4】
(ii)又は(iii)の工程で発生する排熱を、(ii)の工程の熱源に使用する請求項2記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項5】
(ii)の熱源として、前記固体廃棄物の処理方法とは異なる事業を行う設備において発生する排熱を利用する、請求項2に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項6】
前記固体廃棄物の処理方法とは異なる事業を行う設備が、セメントの製造設備である、請求項5に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項7】
(iii)焼成工程に用いられる焼成設備がキルンである、請求項1〜6の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項8】
前記燐含有廃棄物中の燐濃度が、900℃で3時間焼成した状態で測定した蛍光X線分析におけるP2O5換算での値において、1質量%以上70質量%以下である、請求項1〜7の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項9】
前記燐含有廃棄物の使用量が、焼却灰100質量部に対して燐元素換算で、0.01質量部から20質量部以下である、請求項1〜8の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項10】
前記燐含有廃棄物が、下水汚泥系廃棄物、農水産系廃棄物、工業系廃棄物及び食品系廃棄物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜9の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項11】
前記焼却灰に含まれるホウ素、ヒ素、セレン、フッ素、六価クロム、鉛、水銀及びカドミウムからなる群の少なくとも1種の元素の溶出量を低減させる請求項1〜10の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項12】
前記焼却灰が、石炭単独又は石炭とバイオマスとの混合物を燃焼させて発生する石炭灰である請求項1〜11の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【請求項13】
前記燐含有廃棄物中の含水率が80質量%以上90質量%以下である、請求項1〜12の何れか1項に記載の固体廃棄物の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却灰からの有害微量元素溶出抑制方法としては、これまで、薬剤を添加する方法、溶媒で抽出する方法、加熱処理する方法等が知られている。この中でも比較的高い生産性で有害微量元素の溶出を抑制できる方法として、薬剤を添加する方法が繁用されているものの、添加する薬剤が製造コストを圧迫するため、これまで経済的な処理方法としては課題を有していた。
【0003】
特許文献1には、焼却灰に塩素含有物質を加え、焼成処理を行うことによる無害化処理方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、焼却灰に、水溶液状の活性汚泥を造粒助材として添加混合し、これを造粒成形して粒子状物を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−296080号公報
【特許文献2】特開平7−941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1記載の技術では、塩酸などの薬剤を用いているため、処理コストが高くなり、また、焼却灰に塩素分が残留する可能性がある。一般的な廃棄物の有効利用方法として、セメント原料化が挙げられるが、塩素分が残留していると、鉄筋コンクリート製造時の鉄筋腐食の原因となることから、望ましくない。
また、特許文献2に記載の処理方法では、プロセスの経済的考察がなされておらず、特に乾燥工程(水分除去処理)では、通常この処理費用が製造コストアップに繋がるため、この処理コストを抑えるための、実用的なプロセス開発が必要である。また、特許文献2には、規制対象元素の溶出抑制効果について記載されていない。
【0007】
以上の理由から、有害微量元素の溶出制御技術とプロセスの経済性とを両立した、高効率かつ、大規模で経済的な有害微量元素の溶出制御処理方法の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に記載の(i)〜(iii)の工程を有する固体廃棄物の処理方法を提供することにより、前記課題を解決したものである。
(i)焼却灰と燐含有廃棄物とを混合する工程。
(ii)(i)の混合物の含水率を0質量%以上50質量%以下にする工程。
(iii)(ii)の乾燥物を600℃以上1200℃以下で焼成する工程。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法によれば、有害微量元素を含有する焼却灰からの有害微量元素の溶出を、高効率かつ、大規模で経済的、且つ工業的に簡便に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明を好ましい実施形態に基づき説明するが、本発明は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0011】
本発明の処理対象の固体廃棄物である焼却灰は例えば、家庭から排出される一般ごみの焼却灰、産業用焼却灰、又は石炭火力発電所から排出されるフライアッシュやクリンカアッシュ等の石炭灰等が挙げられる。前記石炭灰は、石炭単独又は石炭とバイオマスとの混合物を燃焼させて発生する焼却灰であってもよい。バイオマスとは生物由来の有機物であり、例えば農作由来物、材木由来物であり、具体的には稲わら、もみ、ヤジガラ等の農作廃棄物や木質チップや木質ペレット、間伐材、建設用廃木材等の材木由来物などである。
【0012】
前記焼却灰には、ヒ素、セレン、鉛、六価クロム、水銀及びカドミウムなどの重金属元素だけでなく、土壌汚染対策法に規定されるフッ素及びホウ素等の元素が多く含有されている場合がある。例えば後述する実施例のとおり環境庁告示第46号に準じた方法で溶出量を測定した場合に下記実施例に記載の環境基準値を超えている場合がある。従って、焼却灰をそのまま廃棄すると、これらの元素が環境中へ溶出し環境汚染の一因となるおそれがある。本発明の処理方法は、土壌環境基準の規制対象となっている前記8種の元素からなる群の少なくとも1種の元素について、焼却灰からの溶出量を低減するものである。本発明は、様々な組成や物性を有する焼却灰からの有害微量元素の溶出を抑制できる。
【0013】
本発明においては、燐含有廃棄物を用いて焼却灰を処理する。燐含有廃棄物を用い、且つ後述する焼成条件を採用することによって、焼却灰に含まれる有害微量元素の溶出量を抑制できることが本発明者の検討の結果判明した。本発明に用いる燐含有廃棄物としては燐を含有している廃棄物を広く包含する。例えば、一般下水汚泥、工業用下水汚泥などの下水汚泥系燐含有廃棄物、家畜や魚類の肉骨粉、麦わら、家畜排泄物などの農水産系燐含有廃棄物、燐酸亜鉛化成処理工程排出スラッジ、電子部品及びプリント基板の加工、脱脂工程等の洗浄液などの工業系燐含有廃棄物、おから、醤油かす、残飯等の食品系燐含有廃棄物群から選択される少なくとも1種の燐含有廃棄物であって、好ましくは下水汚泥系燐含有廃棄物、農水産系燐含有廃棄物、工業系燐含有廃棄物であって、更に好ましくは一般下水汚泥、工業用下水汚泥、肉骨粉である。これらの廃棄物は含水物、乾燥物、焼成物の何れであってもよい。また、これらの廃棄物の多くがカロリーを有するものであり、焼成時にそのカロリーによってエネルギーコストを削減することが可能である。
【0014】
本発明に用いる燐含有廃棄物中の燐含有量は、使用する燐含有廃棄物の形態や含液率によって変化する。例えば一般的な脱水汚泥は含水率が80質量%以上90質量%以下程度となっている。脱水汚泥と焼却灰の混合物は含水率が通常30質量%以上となる。しかしながら、仮に(i)工程で得られた混合物の含水率が30質量%未満である場合であっても、(ii)の乾燥工程を行う場合は本発明に含まれる。従って、燐含有廃棄物は脱水汚泥と呼ばれる含水品だけでなく、水分を除去した乾燥品、更には200〜900℃で有機物を分解した汚泥焼成品であってもよい。
【0015】
燐含有廃棄物は、900℃で3時間焼成した状態で測定した蛍光X線分析(XRF)でのP
2O
5換算での値が、1質量%以上70質量%以下が好ましく、5質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。燐含有量が70質量%以下である場合、本発明の溶出抑制効果を高いものとしやすい。また燐含有量が1質量%以上である場合、生産性の低下を防止しやすい。本発明では燐含有廃棄物を用い、これを焼却灰と混合して乾燥させ、次いで焼成することによって、焼却灰に含まれる有害微量元素の溶出量を抑制できるとともに廃棄物の削減に寄与できる。また本発明では、燐含有廃棄物を焼却灰と混合して乾燥させ、次いで焼成することによって、燐含有廃棄物に含まれる有害微量元素、例えばホウ素、ヒ素、六価クロム又は燐等の溶出量を抑制できる。
【0016】
本発明において(i)の焼却灰と燐含有廃棄物とを混合する工程において、焼却灰に混合させる燐含有廃棄物の量は、有害微量元素の溶出抑制効果が一層顕著に発現する観点から、焼却灰100質量部に対して燐元素(P)換算で、0.001質量部以上60質量部以下であることが好ましく、0.005質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以上20質量部以下であることが更に好ましい。燐含有廃棄物の添加量を0.001質量部以上60質量部以下に設定することで、有害微量元素の溶出抑制効果が十分発揮される。また、燐含有化合物の添加量を60質量部以下にすることで、焼却灰の処理物からの燐の溶出量を環境基準値以下にすることが容易である。
【0017】
(i)の混合工程では、焼却灰100質量部に対し、燐含有廃棄物を30質量部以上添加することが、有害微量元素の溶出量抑制の観点から好ましく、4000質量部以下添加することが生産性を低下させない等の観点から好ましい。これらの観点から、焼却灰100質量部に対し燐含有廃棄物を、50質量部以上2000質量部以下添加することが好ましく、100質量部以上1600質量部以下添加することがより好ましい。
【0018】
本発明の処理方法における(i)の混合工程では、焼却灰と燐含有廃棄物とを混合する方法に特に制限はない。例えば、焼却灰と燐含有廃棄物とを物理的に混合する方法、溶媒に燐含有廃棄物を溶解又は懸濁させた溶液又はスラリーに、焼却灰を含浸する方法、焼却灰と燐含有廃棄物とを物理的に混合した後に溶媒を添加する方法などが挙げられる。
【0019】
溶媒を使用する場合、該溶媒としては、燐含有廃棄物を溶解し得るか、又は懸濁させ得るものを用いることができる。例えば、水(水道水、蒸留水、イオン交換水等)及び海水などの水性溶媒、並びにメタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等のアルコール類を初めとする有機溶媒を挙げることができる。好ましい溶媒は水である。有害微量元素の溶出抑制効果が一層顕著に発現する観点から、溶媒の使用量は、焼却灰100質量部に対して、5質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0020】
また(i)により得られる混合物は、(ii)の乾燥工程前の水分含量が10質量%超90質量%以下であることが好ましく、20質量%超85質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明では混合物を成形してもよく、或いは成形しなくてもよい。混合物を成形する場合、(i)の混合工程後、(ii)の乾燥工程の前において、成形工程を行う或いは、(ii)の乾燥工程の後の何れで成形工程を行ってもよいが、水分量が多すぎると成形性が低下するため、(ii)の乾燥工程の後成形行うことが好ましい。
【0022】
本発明における(ii)の乾燥方法には特に制限はなく、一般的な加熱乾燥、気流乾燥、マイクロ波乾燥、天日干乾燥、真空乾燥、撹拌乾燥、円筒乾燥、噴霧乾燥、流動層乾燥、赤外線乾燥、高周波乾燥などが用いられるが、大規模かつ連続的に処理をすること、排熱を利用しやすい等の観点から、加熱乾燥、気流乾燥などが好ましい。気流乾燥としては、乾燥管中において混合物を熱ガスの気流によって運搬しながら乾燥させるものが挙げられる。
【0023】
乾燥工程後の混合物の含水率は、0質量%以上50質量%以下が好ましく、より好ましくは1質量%以上30質量%以下である。含水率が0質量%でも、溶出抑制効果に全く影響はないが、含水率が前記範囲内であれば、水が結合となり造粒され、最終処理物のハンドリング性が良くなるなど、より好適な混合状態を保つことができる。一方、含水率が50質量%を超えると、配管壁面に付着して流路の閉塞などを引き起こす可能性があり、設備の処理能力の低下を引き起こす。また、嵩比重が大きくなるため、次の焼成工程における処理容積が大きくなり、設備コストが高くなる。更に本発明の利点である乾燥工程での排熱により乾燥時のエネルギーコスト削減を行う観点と、次の焼成工程での水分除去に伴うエネルギーコスト削減の2つを考慮すると、乾燥工程での水分量は可能な限り低下させることが好ましい。
【0024】
(ii)の乾燥工程により、焼却灰と燐含有廃棄物との混合物の嵩及び質量を低減させることができ、これにより、(iii)の時間当たりの処理量を高めて経済性の高い処理を行うことができる。好ましくは、(ii)の乾燥工程後の当該混合物の質量(g)は、(ii)の乾燥工程前の該混合物の質量(g)に対して、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0025】
乾燥温度は、80℃以上300℃以下が望ましく、より好ましくは、100℃以上300℃以下、更に好ましくは、150℃以上300℃以下である。80℃以上とする場合、十分に水の除去を行うことができ、処理時間を短縮して処理量を向上できるほか、また嵩比重及び質量の低減効果が高いものとなる。一方で、300℃以下とすることで、汚泥の熱分解反応やダイオキシンなどの物質生成を抑制できる。
【0026】
乾燥時間は15分以上24時間以内が好ましく、30分以上10時間以内が更に好ましく、30分以上5時間以内が一層好ましい。
【0027】
乾燥工程の雰囲気は特に制限されず、例えば空気及び酸素等の酸素含有雰囲気、並びに窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気や、過熱水蒸気雰囲気で乾燥を行うことができる。経済的、排熱利用の観点からは、空気もしくは過熱水蒸気で乾燥を行うことが好ましい。
【0028】
本発明における(iii)の焼成方法に特に制限はなく、例えば、一般的な焼成炉、環状炉、キルンなどの焼成装置を用いることができるが、連続処理や排熱利用の観点からキルンが好ましい。キルンにはロータリーキルンが含まれる。ロータリーキルンを用いると、原料投入と処理を連続的に行えるほか、傾斜や回転速度によって滞留時間や造粒性を容易に制御することができる。(ii)の乾燥処理と(iii)の焼成処理とは、異なる装置により行われることが経済的に有利である。また(ii)の乾燥処理と(iii)の焼成処理とはその間に時間間隔を有していてもよいが、(ii)の乾燥処理と(iii)の焼成処理とを連続的に行うことが経済的に有利である。
【0029】
焼成工程の雰囲気は特に制限されず、例えば空気及び酸素等の酸素含有雰囲気、並びに窒素及びアルゴン等の不活性ガス雰囲気とすることができる。経済的な観点からは、空気中で焼成を行うことが好ましい。空気中で焼成処理する場合、有害微量元素の溶出抑制効果が一層顕著になる観点から、空気を流通させながら焼成処理を行うことが好ましい。
【0030】
焼成処理は、処理物からの有害微量元素の溶出量を抑制できる温度で行うことが好ましい。検討の結果、600℃以上で加熱すると、加熱処理物からの有害微量元素の溶出量を十分に抑制できることが判明しており、この観点から、焼成温度は高ければ高いほど有害微量元素の溶出量を抑制できるが、元素によっては高温で逆に溶出しやすくなるものもある。そこで焼成処理は、600℃以上1200℃以下とすることが好ましく、700℃以上1200℃以下とすることが更に好ましく、800℃以上1100℃以下とすることが一層好ましく、900℃以上1000℃以下とすることが更に一層好ましい。
【0031】
600℃以上、特に700℃以上で焼成処理することで、燐含有廃棄物が、石炭灰などの焼却灰中に含まれる未燃炭素の分解を促進し、焼却灰中の未燃炭素含有量を低減させることも可能となる。このことは特に、焼却灰が、炭素が豊富な物質であるバイオマスと石炭との混合物を燃焼させて発生する石炭灰である場合に有利である。焼却灰中の未燃炭素含有量を低減させることによって、例えば石炭灰にセメントを添加する盛土材の調製時に、使用するセメント量を低減することができる。またコンクリート製造時に石炭灰を添加する場合には、石炭灰由来のカーボン浮きを抑制することができる。
【0032】
更には、この未燃炭素や燐含有廃棄物に含まれる可燃物の燃焼熱を焼成のためのエネルギーとして利用することができるため、補助燃料等のコストを抑えることができる。
【0033】
焼成処理の時間は、温度が上述の範囲である場合には、30分以上24時間以内が好ましく、1時間以上10時間以内が更に好ましく、1時間以上5時間以内が一層好ましい。この範囲の時間で焼成を行うことで、処理物からの有害微量元素の溶出量を十分に且つ経済的に抑制できる。
【0034】
本発明においては、(ii)の乾燥工程又は、(iii)の焼成工程の熱源として排熱を利用することが好ましい。
特に本発明では、(ii)の乾燥工程が減容化を目的とするものであるところ、(ii)の乾燥工程及び(iii)の焼成工程のうち、(iii)の焼成工程は、燐含有廃棄物が通常カロリーを有するために燃料コストはそれほど大きくない一方で、(ii)の乾燥工程において大きなエネルギーを必要とすることが多い。従って、(ii)の乾燥工程に排熱を利用することで、処理の経済性を高めることができる。
例えば、(iii)の焼成工程において発生する排熱を、(ii)の乾燥工程における乾燥に用いると、補助燃料等のコストを抑えることができるために好ましい。なお(iii)の焼成工程において発生する排熱は、(ii)の乾燥工程における乾燥以外に、(iii)の焼成工程に導入するガスの予熱に用いてもよい。
【0035】
また、(ii)又は(iii)、特に、(ii)の工程に、本処理方法とは別事業所で発生する排熱も当然用いることができる。この事業所は排熱を有するものであれば特に限定されないが、例えば、鉄鋼所、セメント製造設備などが挙げられる。
【0036】
本発明の処理方法によって得られた加熱処理物は、これを屋外に放置しても、それに含まれる有害微量元素の溶出量が抑制されたものなので、該加熱処理物を、環境に配慮した素材として再利用することができる。再利用の用途としては例えば、セメントやコンクリートの混和材、地盤改良材、路盤材、盛土、埋め戻し材等の建築材料及び土木材料などが好適に挙げられる。
【実施例】
【0037】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。以下の実施例及び比較例において、ホウ素、ヒ素、セレン、フッ素、六価クロム、鉛、カドミウム及び水銀の溶出試験は、平成3年環境庁告示第46号に定められた方法に準じて行った。また燐含有廃棄物中の燐含有率としては、900℃、3時間、空気雰囲気下で焼成した後のサンプル中の質量割合を蛍光X線分析(XRF)にて測定したP
2O
5換算で表示した。なお、以下の各実施例における乾燥及び焼成は、何れも大気雰囲気中で行った。
〔実施例1〕
燐含有廃棄物として工場汚泥A(含水率88.5質量%、900℃で3時間焼成後の燐含有量がXRFでのP
2O
5換算で34.4質量%)400質量部を石炭灰A 100質量部に添加して混合物を得た。石炭灰Aは、石炭を燃焼させて生じた残渣である。この混合物を、焼成炉中、200℃で2時間乾燥した。乾燥後の混合物の含水量は4.40質量%であった。また乾燥前の混合物の質量に対する、乾燥後の混合物の質量の割合(質量比)は27.5%であった。こうして得られた乾燥粉体を環状炉中、空気流通下、700℃で3時間加熱処理した。得られた粉体状の加熱処理物に含まれる有害微量元素の濃度を、環境庁告示第46号に定められた方法に準じて測定した。その結果を表1に示す。また、他の有害微量元素は、水銀<0.0005mg/L、カドミウム<0.001mg/L、鉛<0.01mg/L、燐<0.1mg/Lであった。加熱処理物における元素分析(1150℃で分解)での炭素含有量は検出限界以下(<0.01質量%)であった。なお、水銀の環境基準値は0.0005mg/L以下であり、カドミウムの環境基準値は0.01mg/L以下である。
【0038】
〔実施例2ないし3〕
実施例1での工場汚泥Aの使用量を表1に示した量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた加熱処理物の分析結果を表1に示す。
【0039】
〔実施例4ないし5〕
実施例1での工場汚泥Aの使用量及び石炭灰Aとの混合物の焼成温度を表1に示した量及び温度とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた加熱処理物の分析結果を表1に示す。
【0040】
〔実施例6〕
実施例5での焼成炉での乾燥を100℃で1時間とした以外は、実施例5と同様の操作を行った。得られた加熱処理物の分析結果を表1に示す。
【0041】
〔実施例7ないし9〕
実施例1での工場汚泥Aを下水汚泥A(含水率84.3質量%、900℃で3時間焼成後の燐含有量がXRFでのP
2O
5換算で26.8質量%)とし、その使用量を表1に示した量とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた加熱処理物の分析結果を表1に示す。
【0042】
〔実施例10ないし12〕
実施例7での下水汚泥Aの使用量及び石炭灰Aとの混合物の焼成温度を表1に示した量及び温度とした以外は、実施例7と同様の操作を行った。得られた加熱処理物の分析結果を表1に示す。
【0043】
〔比較例1〕
実施例1で用いた石炭灰Aそのものについて、実施例1と同様の処理を行った後、各有害微量元素の濃度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0044】
〔比較例2〕
実施例1で用いた石炭灰Aそのものについて、実施例4と同様の処理を行った後、各有害微量元素の濃度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0045】
〔比較例3〕
実施例4で使用した石炭灰を使用しない以外は、実施例4と同様の処理を行った後、各有害微量元素の濃度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0046】
〔比較例4〕
実施例10で使用した石炭灰を使用しない以外は、実施例10と同様の処理を行った後、各有害微量元素の濃度測定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】