【文献】
S.Mahmoode et al.,Noise reduction, smoothing and time interval segmentation of noisy signals using an energy optimisation method,IEEE Proceedings-Vision, Image and Signal Processing,2006年 4月,Vol.153, No.2,PP.101-108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図18は、高速引張試験のデータの一例を示すグラフである。
図18のグラフは、試験速度5m/sの条件で高速引張試験を実行し、サンプリング周波数1000kHzで取得した試験力データを示すものであり、グラフの縦軸は試験力(kN:キロニュートン)を示し、横軸は時間(μs:マイクロ秒)を示している。
【0005】
材料試験の内容によっては、力検出器が検出したデータ中に急変するデータ点が存在するものがある。急変するデータ点が存在するデータとしては、試験片が破断するまで試験力を負荷する材料試験の試験結果などがある。例えば、特許文献1に示された引張試験機で試験を実行すると、
図18のグラフのように、試験片の破断により試験力が急激に落ちる。
【0006】
試験片の破断した箇所には、破断後は試験力が作用していないが、力検出器には、試験機(治具や試験片を含む)の固有振動による慣性力が検出される。また、破断前の試験力データの振動も、実際に試験片にかかった力によるものではなく、ノイズ(固有振動による慣性力によるもの)と考えられる。また、高速引張試験や高速衝撃試験においては、高速なデータ採取を行う関係上、力検出器が検出した生データに高周波ノイズが混入しやすい。従って、高速引張試験において力検出器が検出した試験力データからそれらのノイズを除去することが好ましい。
【0007】
図19は、従来のフーリエ変換によるローパスフィルタ処理結果を示すグラフである。
図20は、従来の移動平均によるローパスフィルタ処理結果を示すグラフである。これらのグラフの縦軸は試験力(kN:キロニュートン)を示し、横軸は時間(μs:マイクロ秒)を示している。また、グラフにおいては、力検出器が検出した元データ(生データ)の波形を破線で示し、ローパスフィルタ処理により高周波成分を除去した波形を実線で示している。
【0008】
図19では、試験力データの波形をフーリエ変換し、10kHz以上の高周波成分をカットして逆フーリエ変換した結果を示している。破断後の振動は、振幅が小さくなりノイズが除去されているが、グラフ中に黒矢印で指し示すように、破断前のデータに過剰な波が合成されている。また、グラフ中に白抜き矢印で指し示すように、データが急変する破断点でのデータも、実線で示すフィルタ処理後の波形は、破線で示す元データの波形より変化が鈍くなっている。このため、試験片が実際に破断した正確な時間をフィルタ処理後のデータから読み取ることが困難になっている。
【0009】
図20のように移動平均によるローパスフィルタ処理を行うと、グラフ中に白抜き矢印で指し示すように、試験力が急激に上昇し始める開始点付近と試験力が急激に下降し始める破断点付近で、実線で示すフィルタ処理後の波形が破線で示す生データの波形より変化が鈍くなっている。このため、フィルタ処理後のデータでは、試験片に実際に試験力が作用し始めた正確な時間ならびに相当する変位量や、試験片が実際に破断した正確な時間ならびに変位量を読み取ることが困難になっている。
【0010】
また、弾性率を求めるときには、試験力―変位グラフを作成し、試験開始後、弾性域での試験力―変位曲線の傾きを算出する。この種の試験では、
図18に示すように、負荷機構を駆動して試験片に試験力を作用させる前から力検出器からの入力をモニタするようにしている。そして、試験片に試験力が作用し始める開始点の位置が、
図20のように生データとフィルタ処理後のデータとでずれると、試験力―変位線図においても波形がなまり、弾性域での試験力―変位曲線の傾きである弾性率を正しく求めることができなかった。
【0011】
さらに、移動平均によるローパスフィルタ処理では、移動平均の点数分前後のデータが欠けてしまう問題があり、データの欠けを少なくするために移動平均の点数を減らすと、フィルタ効果が弱くなり、高周波ノイズを除去できなくなる問題も生じる。
【0012】
この発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、力検出器が検出した生データ上の変化点の特徴を残しつつ、試験力の生データから高周波ノイズを除去することが可能な材料試験のノイズ除去方法および材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、試験対象に試験力を与える材料試験において、力検出器が検出した試験力の時系列データである生データから高周波ノイズを除去する材料試験のノイズ除去方法であって、前記生データから試験力の値が急激に変化している変化点を検出し、前記変化点の前後で前記生データを分割するデータ分割工程と、前記データ分割工程において分割された分割データの各々から、ローパスフィルタにより高周波ノイズを除去するローパスフィルタ処理工程と、前記ローパスフィルタ処理工程において高周波ノイズが除去された分割データの各々を元の時系列に従って結合するデータ結合工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験のノイズ除去方法において、前記ローパスフィルタは、ウェーブレットフィルタであり、前記ローパスフィルタ処理工程では、離散ウェーブレット変換および離散ウェーブレット逆変換による高周波ノイズの除去を実行する。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験のノイズ除去方法において、前記変化点は、試験開始後に試験力の値が急激に上昇し始める点、および/または、試験対象の破断により試験力の値が急激に降下し始める点である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の材料試験のノイズ除去方法において、前記ローパスフィルタにおけるカットオフ周波数は、前記変化点より後の時間のデータをフーリエ変換して得た試験機本体の固有振動数を利用して決定される。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の材料試験のノイズ除去方法であって、前記データ分割工程では、前記変化点から所定の区間のデータを除いて前記生データを分割し、前記データ結合工程では、前記所定の区間に相当する空白のデータ点を補間してローパスフィルタ処理後の前記分割データを相互に接続する。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の材料試験のノイズ除去方法であって、前記データ結合工程においては、前記変化点を含む前記変化点から前の分割データにおける前記ローパスフィルタ処理工程の後の前記変化点と同時刻のデータ点の値と、前記変化点の値とを比較し、前記ローパスフィルタ処理工程の後の前記データ点の値と前記変化点の値とが所定の値以上に離れていたときに、前記ローパスフィルタ処理工程の後の前記データ点の値を前記生データの前記変化点の値に置き換えて前記ローパスフィルタ処理工程の後の分割データを接続する。
【0019】
請求項7に記載の発明は、負荷機構を駆動して試験対象に試験力を与える材料試験機であって、前記試験対象に作用する試験力を検出する力検出器と、前記負荷機構を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記力検出器が検出した試験力の時系列データから、試験力の値が急激に変化している変化点を検出し、時系列データを前記変化点の前後で分割するデータ分割部と、前記データ分割部において分割された分割データの各々から、高周波ノイズを除去するローパスフィルタと、前記ローパスフィルタにより高周波ノイズが除去された前記分割データの各々を元の時系列に従って結合するデータ結合部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1から請求項7に記載の発明によれば、力検出器により検出する試験力の値が急変するデータ点である変化点が存在する生データについて、変化点の前後でデータを分割し、分割したデータごとにローパスフィルタ処理を行った後に、再度、データを結合することで、変化点の特徴を活かしつつ、高周波ノイズを除去したデータを得ることができる。これにより、ユーザは、より生データに近い試験力値の変化の状態を知ることができ、試験対象にかかる試験力の挙動をより正確に把握することが可能となる。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、ウェーブレット変換、ウェーブレット逆変換によるローパスフィルタを用いることで、時間的な情報を欠落することなく、高周波ノイズを除去することができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、変化点は、試験開始後に試験力の値が急激に上昇し始める点であることから、試験対象に試験力が作用し始めた直後の試験力と試験対象に生じた変位との関係をより正確に把握することができ、弾性率を正しく求めることが可能となる。また、変化点は、試験対象の破断により試験力の値が急激に降下し始める点であることから、破断時の試験力の挙動をより正確に把握することが可能となる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、ローパスフィルタにおけるカットオフ周波数は、変化点より後の時間のデータをフーリエ変換して得た試験機本体の固有振動数を利用して決定されることから、固有振動による慣性力が力検出器の検出値に重畳することを防ぐための最適なフィルタ定数を算出することができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、変化点から所定の区間のデータを除いて生データを分割し、所定の区間に相当する空白のデータ点を補間してローパスフィルタ処理後の分割データを相互に接続することから、分割したデータ間のつなぎ目が現実の力検出器が検出する試験力変化と比較して不自然になることを防ぐことができる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、変化点を含む変化点から前の分割データをローパスフィルタ処理した後の変化点と同時刻のデータ点の試験力値が、生データの変化点の試験力値とかけ離れていた場合には、ローパスフィルタ処理後のデータ点を生データの変化点に置き換えてローパスフィルタ処理後の分割データを相互に接続することから、分割したデータ間のつなぎ目が不自然になることを低減し、変化点の特徴を活かしたローパスフィルタ処理後のデータをユーザに提示することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る材料試験機の概要図である。
図2は、この発明に係る材料試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【0028】
この材料試験機は、試験片TPを試験対象とし、負荷機構を駆動して試験片TPに急速に衝撃的な負荷を与える衝撃試験を実行するものであり、高速引張試験機とも呼称される。この材料試験機は、試験機本体10と、制御装置40を備える。試験機本体10は、テーブル11と、テーブル11に立設された一対の支柱12と、一対の支柱12に架け渡されたクロスヨーク13と、クロスヨーク13に固定された油圧シリンダ31を備える。
【0029】
油圧シリンダ31は、サーボバルブ34を介してテーブル内に配置された油圧源(図示せず)から供給される作動油によって動作する。油圧シリンダ31のピストンロッド32には、助走治具25およびジョイント26を介して上つかみ具21が接続されている。一方で、テーブル11には、力検出器であるロードセル27を介して、下つかみ具22が接続されている。このように、この試験機本体10の構成は、助走治具25により引張方向に助走区間を設け、ピストンロッド32を0.1〜20m/sの高速で引き上げることにより、試験片TPの両端部を把持する一対のつかみ具を急激に離間させる高速引張試験を実行するための構成となっている。高速引張試験を実行したときの負荷機構の変位(ストローク)、すなわち、ピストンロッド32の移動量は、ストロークセンサ33により検出され、その時の試験力はロードセル27により検出される。なお、試験片TPの伸び(変位)は、ストロークセンサ33の検出値から求めてもよく、図示しない他の変位計によって測定するようにしてもよい。
【0030】
制御装置40は、試験機本体10の動作を制御するための本体制御装置41と、パーソナルコンピュータ42とから構成される。本体制御装置41は、プログラムを格納するメモリ43と、各種演算を実行するMPU(micro processing unit)などの演算装置45と、パーソナルコンピュータ42との通信を行う通信部46とを備える。メモリ43、演算装置45および通信部46は、バス49により相互に接続されている。また、本体制御装置41は、機能的構成として試験制御部44を備える。試験制御部44は、試験制御プログラムとしてメモリ43に格納されている。高速引張試験を実行するときには、試験制御プログラムを実行することにより、サーボバルブ34に制御信号が供給され、油圧シリンダ31が動作する。ストロークセンサ33の出力信号と、ロードセル27の出力信号とは所定の時間間隔で本体制御装置41に取り込まれる。
【0031】
パーソナルコンピュータ42は、データ解析プログラムを記憶するROM、プログラム実行時にプログラムをロードして一時的にデータを記憶するRAMなどから成るメモリ53、各種演算を実行するCPU(central processing unit)などの演算装置55、本体制御装置41などの外部接続機器との通信を行う通信部56、データを記憶する記憶装置57、試験結果が表示される表示装置51および試験条件を入力するための入力装置52を備える。メモリ53には、演算装置55を動作させて機能を実現するプログラムが格納されている。なお、記憶装置57は、ロードセル27から入力された試験力の生データである時系列データなどを記憶する記憶部であり、HDD(hard disk drive)などの大容量記憶装置から構成される。メモリ53、演算装置55、通信部56、記憶装置57、表示装置51および入力装置52は相互にバス59により接続されている。
【0032】
図2においては、パーソナルコンピュータ42にインストールされているプログラムを機能ブロックとして示している。この実施形態では、機能ブロックとして、後述するデータからのノイズ除去において、データが急激に変化する変化点の前後でデータを分割するデータ分割部61と、分割された後のそれぞれのデータに対してローパスフィルタ処理を実行するローパスフィルタ62と、ローパスフィルタ処理後の分割されているデータを結合するデータ結合部65を備える。
【0033】
上述した構成の材料試験機において実行されるノイズ除去方法について説明する。
図3は、試験力の生データからノイズを除去する手順を示すフローチャートである。
図4は、
図18の高速引張試験のデータにおける破断点付近のデータを示すグラフである。
図5は、破断点の検出を説明するグラフである。
図4および
図5のグラフにおいて、縦軸は試験力(kN:キロニュートン)であり、横軸は時間(μs:マイクロ秒)である。また、
図5においては、試験速度20m/sで高速引張試験を実行した場合の試験力データでの破断点の検出を例に示しており、試験力値のサンプリング点を部分的に白丸で示している。
【0034】
試験が開始されピストンロッド32が引き上げられると、ロードセル27は試験片TPにかかった試験力を検出する。その試験力は、試験片TPが破断すると急激に小さくなり、その後に試験機本体10の固有振動による慣性力が検出される。この実施形態では、破断点などの急激に試験力が変化する変化点のデータを生かしつつ、試験力の時系列データから高周波ノイズを除去するために、生データから変化点(すなわち、
図4および
図5では破断点B)を検出し(ステップS11)、破断点Bの前後でデータを分割して(ステップS12:データ分割工程)、分割データD1、D2を得ている。
図4に示される例における分割データD1は破断点Bの時刻より前のデータであり、分割データD2は破断点Bの時刻以後のデータである。
【0035】
破断点B(
図4および
図5中に黒丸で示す)の検出は、
図5に示すように、破断後に試験力が急激に降下し、その曲線の接線が最大傾きを示すときの接線L1に対して所定の減少率を乗じた傾きを持つ接線L2のデータ波形との接点を検出することにより行っている。このように、この実施形態では、破断後の試験力の変化における最大傾きに対する傾きの減少率を利用して、破断点Bを検出している。なお、傾きの減少率は、試験速度などに応じて、ユーザが設定することができる。
【0036】
ローパスフィルタ処理について説明する。
図6は、ローパスフィルタ処理の手順を示すフローチャートである。この
図6においては、ローパスフィルタ62がウェーブレットフィルタである場合のフィルタ処理について説明する。ローパスフィルタ処理工程(ステップS13)は、分割データD1、D2をそれぞれ分解する離散ウェーブレット変換(ステップS31)と、高周波成分除去工程(ステップS32)と、分割データD1、D2をそれぞれ再構成する離散ウェーブレット逆変換(ステップS33)から成る。ローパスフィルタ処理は、演算装置55がメモリ53のローパスフィルタ62から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。
【0037】
この実施形態においては、ロードセル27により測定される試験力の生の時系列データから試験機本体10の固有振動数による振動を除去することを目的としている。試験片破断後の固有振動を除去するには、試験機(治具、試験片TPを含む)の固有振動数Nf(Hz)を検出し、フィルタ処理で試験力データから固有振動数Nfを選別する必要がある。なお、試験機の固有振動数Nfは、破断後のデータ(この実施形態では分割データD2)を高速フーリエ変換により解析することで、同定することができる。
【0038】
図7は、
図18の高速引張試験のデータにおける破断点以降のデータを高速フーリエ変換解析した結果を示すパワースペクトルである。
図7において、横軸は周波数(Hz:ヘルツ)であり、縦軸は周波数分解能毎のパワーを示す。なお、
図18の高速引張試験のデータは、5m/sの引張速度での試験においてサンプリング周波数1000kHzでデータ収集した試験力の変動を示す試験結果である。また、
図7の高速フーリエ変換解析における周波数分解能は、サンプリング周波数をサンプリング点数で除することにより得られる。
【0039】
図18の試験結果では、
図7に示すように、破断点以降の分割データD2をフーリエ変換し、最も高いピークの13.8kHzを試験機本体10の固有振動数Nfとして検出している。この固有振動数Nfは、ローパスフィルタ62におけるカットオフ周波数の決定に利用される。この実施形態では、固有振動数Nfよりも低い周波数の信号を通して、固有振動数Nfなどの高い周波数を阻止するローパスフィルタ62となるフィルタバンクのレベルを決定することで、離散ウェーブレット変換の最適な分解レベルを割り出している。すなわち、フーリエ変換結果を用いて、ノイズの周波数に対応する最適なフィルタ定数を算出することが可能となっている。
【0040】
図8は、離散ウェーブレット変換の概念図である。この図では、説明の便宜上、3段階のフィルタバンクの例を示している。
【0041】
信号xの離散ウェーブレット変換は、一組のフィルタを通すことによって計算される。すなわち、信号xを、インパルス応答がgであるローパスフィルタ(g[n])と、インパルス応答がhであるハイパスフィルタ(h[n])に通し、次にダウンサンプラで半分にダウンサンプリングすることで複数の周波数成分に分解する。ハイパスフィルタから得たものを詳細係数(detail coefficients:dC)、ローパスフィルタから得たものを近似係数(approximation coefficients:aC)と呼び、近似係数の分解を数段階繰り返すことで、各レベルにおいて、低周波と高周波に分解される。一組の詳細係数と近似係数を得るまで、演算が繰り返される。この
図8では、説明の便宜上、3段階のフィルタバンクの例を示している。Level1〜3の各レベルにおいて、近似係数aC1、aC2と分解を繰り返し、詳細係数dC1〜dC3および近似係数aC3を得られる。例えば、6段階のフィルタバンクでは、時系列データの波形は6レベルの高周波成分と低周波成分に分解される。
【0042】
離散ウェーブレット逆変換は、離散ウェーブレット変換で得られた詳細係数dCと近似係数aCを用いて、分解時とは逆の信号処理により、元の信号xと同等の時系列データを復元するものである。なお、試験力の時系列データからの高周波ノイズの除去(ステップS32)は、各レベルのハイパスフィルタ成分を0(ゼロ)にすることにより実現される。そして、離散ウェーブレット逆変換を実行することにより、高周波ノイズ成分が除去された時系列データを再構成する。
【0043】
なお、この実施形態のローパスフィルタ処理では、破断点以降の分割データD2をフーリエ変換して求めた試験機本体10の固有振動数Nf=13.8kHzから、カットオフ周波数を決定し、分解レベルを6段階とする離散ウェーブレット変換および離散ウェーブレット逆変換を実行している。
【0044】
図9および
図10は、ローパスフィルタ処理後のデータを示すグラフである。
図11は、データ接続後のデータを示すグラフであり、
図12は、データ分割をせずにローパスフィルタ処理を行った場合を示すグラフである。これらのグラフの縦軸は試験力(kN)であり、横軸は時間(μs)である。また、図中の破線は生データを示し、実線はローパスフィルタ処理後のデータを示している。
図9は、分割データD1のローパスフィルタ処理後のデータを示し、
図10では、分割データD2のローパスフィルタ処理後のデータを示している。
【0045】
再度
図3および
図6を参照して、分割データD1、D2ごとに、離散ウェーブレット変換(ステップS31)、高周波成分除去(ステップS32)、離散ウェーブレット逆変換(ステップS33)が実行され、全ての分割データのローパスフィルタ処理が終わると(ステップS14)、
図9および
図10に実線で示すように、破断点Bの前後で、それぞれ固有振動数Nfが除去された時系列データが再構成される。
図9および
図10に実線で示した再構成データを破断点Bで接続することにより(ステップS15:データ結合工程)、試験力データを、破断点での試験力の変化を生かしつつ、試験機本体10の固有振動が除去された時系列データに復元することができる(
図11参照)。なお、データの結合は、演算装置55がメモリ53のデータ結合部65から読み込んだプログラムを実行することにより実現される。
【0046】
図12に示すように、ロードセル27から得た生データを、破断点Bの前後で分割せずにウェーブレット変換によるローパスフィルタ処理を行った場合には、実線で示すローパスフィルタ処理後のデータでは白抜き矢印で示す破断点付近で波形がなまり、実際の破断直後の試験力の特徴的な変化が復元できない問題があった。これに対し、
図11に示すように、破断点の前後で時系列データを分割した後にローパスフィルタ処理を行うと、破断時刻情報がフィルタ処理の前後で保持されるとともに、破断直前に試験片TPにかかっていた試験力がフィルタ処理によって低い値になることもなく、破断時の試験力の変化の特徴をとどめた波形を復元することができている。このように、試験片TPの破断などに起因する試験力の特徴的な変化を残しつつ、固有振動などの高周波ノイズを除去することで、ユーザは試験片TPに作用する試験力の特徴をより明確に把握することが可能となる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、ウェーブレット変換によるローパスフィルタ処理について説明したが、ローパスフィルタ処理を分割した時系列データごとに行うことにより、
図18を参照して説明した移動平均によるローパスフィルタ処理でも、破断点付近での波形のなまりを改善することができる。
【0048】
次に、分割データD1と分割データD2の接続の変形例について説明する。
図13から
図15は、データの接続方法について説明するグラフである。これらのグラフの縦軸は試験力(kN)であり、横軸は時間(μs)である。また、
図14において、三角印は、ローパスフィルタ結果を直接接続した例を示し、丸印はスプライン補間により物理的に適切なデータを接続した例を示す。
【0049】
破断点Bで分割した分割データD1と分割データD2を、各々ウェーブレット変換によるローパスフィルタ処理し、その処理後のデータを、そのまま破断点Bの時刻で接続すると、
図13に示すように、破断点でデータが不連続となる。この変形例では、このような不自然なデータ接続を是正して、実際の材料試験でロードセル27が検出している試験力値の変化に近づけるようにしている。
【0050】
まず、
図14に示す変形例では、破断点Bの前後で時系列データを分割(ステップS12)する際に、破断点Bの直後の試験力が急激に下降している所定の区間分のデータ点を除いている。この所定の区間は、破断点Bから下降していく生データの試験力が0(ゼロ)になるまでのデータ点を含む区間Iである。
【0051】
分割データD1のローパスフィルタ処理後の最後尾のデータ点と、分割データD2のローパスフィルタ処理後の先頭のテータ点との間の区間Iに相当する空白分の複数のデータ点を、線形補間(
図14に黒三角印で示す)やスプライン補間(
図14に黒丸印で示す)などの非線形補間を用いて算出する。これにより、分割データD1、D2のローパスフィルタ処理後のデータが互いに滑らかに接続され、生データと同じ時系列のノイズ除去後のデータが再構成される。このように、この発明の材料試験機では、試験片TPの破断点Bなどの重要な変化点を残したまま、試験力の時系列データから高周波ノイズを除去することができる。
【0052】
次に、
図15に示す変形例では、破断点Bを含む破断前までの分割データD1におけるローパスフィルタ処理後の破断点Bの時刻に対応するデータ点Eの試験力値と、生データの破断点B(
図15に黒三角印で示す)での試験力値とを比較し、ローパスフィルタ処理後のデータ点Eの試験力値が生データの破断点Bの試験力値より大きかった場合に、生データの破断点Bの値に置き換えて分割データを接続している。これは物理的には試験片TPの破断により、試験力値が下がっているのに、ローパスフィルタ62の影響によって試験力値が実際より大きな値になることを防ぐためである。なお、分割データD1のローパスフィルタ処理後の破断点Bの時刻に対応するデータ点Eの前のデータ、を生データの破断点Bを試験全体の最大曲率を超えない程度の点数分除き、除いた点を破断点Bに滑らかに通過するように補完する。
【0053】
この
図15に示す変形例により、ローパスフィルタ処理によって高周波ノイズ成分が除去された時系列データにおける破断点Bと同時刻のデータ点の試験力値を、破断点Bの試験力値に置き換えることで、分割したデータ間のつなぎ目が不自然になることを低減し、ローパスフィルタ処理後のデータを、破断時の生データの試験力の変化に近づけることができる。従って、変化点の特徴を活かしたローパスフィルタ処理後のデータをユーザに提示することが可能となる。
【0054】
他の実施形態を説明する。
図16は、高速引張試験における試験片に試験力がかかる前の時点から表示した試験力―変位線図である。縦軸は試験力であり、横軸は変位である。横軸は、変位が時間に対してほぼ比例しているので、時間と読み替えてもよい。したがって、
図16に示すデータも本発明における時系列データである。
図17は
図16のうちの試験片に試験力がかかり始めるときの試験力―変位線図について、横軸を拡大して示している。
図16は、生データを開始点Aと破断点Bで分割してローパスフィルタ処理を行った場合を説明するグラフである。
図17(a)は、開始点Aでデータ分割を行わずにフィルタ処理を行った場合の弾性率を説明するグラフであり、
図17(b)は、開始点Aでデータ分割を行ってフィルタ処理を行った場合の弾性率を説明するグラフである。
図16および
図17のグラフにおいては、縦軸は試験力(kN:キロニュートン)、横軸は変位(mm:ミリメートル)を示し、生データの波形を破線で、フィルタ処理後のデータの波形を実線で示している。また、
図17においては、弾性率を説明するため、グラフ中に二重丸で示す原点(開始点)から始まる直線を太線で示している。
【0055】
弾性率は、試験力―変位線図における弾性域の傾きである。したがって、弾性率を求めるためには、所定の時間間隔で本体制御装置41に取り込まれているロードセル27の出力信号に基づく試験力と、ストロークセンサ33の出力信号から得られる試験片TPの変位(伸び)との関係、すなわち、ある時間での試験力と変位との関係を示す、試験力―変位線図が作成される。
【0056】
図16に示す実施形態では、変化点として、試験力が急激に上昇し始め、試験片TPに試験力がかかることで実質的な試験がスタートする開始点Aと、試験片TPが破断する破断点Bを検出している(ステップS11)。そして、試験力の生データを、試験がスタートする開始点Aまでの区間と、開始点Aから破断点Bまでの区間と、破断後の試験力が0(ゼロ)になる点以降の区間とに分割し、分割データD1、D2、D3としている(ステップS12)。そして、各分割データD1、D2、D3にウェーブレット変換を利用したローパスフィルタ処理を実行し(ステップS13、S14)、データを元の時系列に従って結合している(ステップS15)。なお、分割データD2とD3の間の破断点Bから破断後の生データの試験力が0(ゼロ)になる点までの区間は、
図13から
図15を参照して説明した手法を用いて補間している。
【0057】
図20を参照して説明したように、データ分割を行わずに従来のフィルタ処理を実行した場合には、開始点と破断点付近で、実線で示すフィルタ処理後の波形が破線で示す生データの波形より変化が鈍くなり、生データでの試験が開始される直前の試験力の値が0(ゼロ)の点(現実の開始点)と、フィルタ処理後の開始点とで時刻が異なることになる。そうすると、
図17(a)に示すように、試験力―変位線図の試験開始直後の弾性域で、生データに比べて、フィルタ処理後のデータの方の傾きが小さくなり、弾性率を小さく算出することになる。
【0058】
試験力の生データを開始点Aまでのデータ、開始点Aから破断点Bまでのデータ、破断点Bより後のデータに3分割してローパスフィルタ処理を実行した場合、
図16に示す試験力―変位線図でも、開始点Aと破断点B付近で、実線で示すフィルタ処理後の波形が破線で示す生データの波形より変化が鈍くなる現象は改善される。そして、
図17(b)に示すように、試験力―変位線図の試験開始後の弾性域で、生データに対してより適切な弾性率が算出できるようになる。このように、フィルタ処理前の生データを分割する変化点として、開始点を検出し、分割データに対してローパスフィルタ処理を実行することで、試験片TPに実際に試験力が作用した正確な時間ならびに相当する変位量がローパスフィルタ処理の前後で保持され、適切な弾性率が求められるようになる。
【0059】
なお、上述した実施形態では、高速引張試験について説明したが、圧縮荷重をコンクリートなどの試験体に与える破壊試験や、ポンチを試験片に衝突させる打ち抜き試験、3点曲げ試験のように、支点で支持した試験片にポンチを打ち下ろす衝撃試験、など、ロードセル27によって測定される試験力の時系列データに急変点が存在する材料試験に対して、この発明を適用することが可能である。また、本発明における破断という文言が意味するものには破壊や打ち抜き、大幅な変形などが含まれている。