特許第6874682号(P6874682)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ダイソー株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874682
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用の正極材料
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20210510BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20210510BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20210510BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20210510BHJP
   C08F 220/12 20060101ALN20210510BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M10/0566
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M4/136
   H01M4/58
   !C08F220/12
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-539938(P2017-539938)
(86)(22)【出願日】2016年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2016077110
(87)【国際公開番号】WO2017047640
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2019年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2015-180407(P2015-180407)
(32)【優先日】2015年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-247686(P2015-247686)
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一博
(72)【発明者】
【氏名】中村 美和
(72)【発明者】
【氏名】松尾 孝
(72)【発明者】
【氏名】植田 秀昭
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−268053(JP,A)
【文献】 特開2013−152955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/136
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
H01M 4/62
H01M 10/0566
C08F 220/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質及びバインダーを含み、
前記バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、
前記共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A−1)と、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A−2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでおり、
前記構成単位(A−1)と、前記構成単位(A−2)と、前記構成単位(B)と、前記構造単位(C)の割合が、質量比で、前記構成単位(A−1)が1〜45、前記構成単位(A−2)が15〜98、前記構成単位(B)が0.5〜15、前記構造単位(C)が0.5〜25であり、
実質的に増粘剤を含まない、正極材料。
【請求項2】
前記構成単位(A)の(メタ)アクリレートモノマーが、水酸基を有する(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリレートの少なくとも一方である、請求項1に記載の正極材料。
【請求項3】
前記水酸基を有する(メタ)アクリレートが、分子量100〜1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートである、請求項2に記載の正極材料。
【請求項4】
前記構成単位(B)のカルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸である、請求項1〜3のいずれかに記載の正極材料。
【請求項5】
前記正極活物質が、AMO2(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM24(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、A2MO3(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、またはAMBO4(Aはアルカリ金属、BはP、Si、またはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかの組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいる、請求項1〜のいずれか1項に記載の正極材料。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の正極材料と、正極集電体とを備える、非水電解質二次電池用の正極。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える、非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
【請求項8】
請求項に記載の正極と、負極と、有機電解液とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用の正極材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる、非水電解質二次電池用の正極材料、当該正極材料を用いた正極、当該正極を用いた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池の電極において、バインダーを用いることが知られている。バインダーを用いた電極を有する非水電解質二次電池の代表例として、リチウム二次電池が挙げられる。リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、高電圧であるため、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器に用いられている。最近では環境保護への意識の高まりや関連法の整備により、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や、家庭用電力貯蔵用の蓄電池としての応用も進んできている。いずれの用途においても電池の占有体積や質量等の観点より、電池のエネルギー密度は高いことが望ましい。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、一般的に、負極、正極、セパレータ、電解液等で構成される。例えば負極は、リチウムイオンの挿入脱離が可能なグラファイトやハードカーボンなどの負極活物質、さらに、導電助剤、バインダー、溶媒などを含む塗工液を、銅箔に代表される集電体上に塗布、乾燥して得られる。現在、一般的には、スチレン−ブタジエンゴム(以下、「SBR」と略す)をバインダーとした、水分散体が塗工液として使用されている。
【0004】
一方、正極は、層状のコバルト酸リチウムやスピネル型マンガン酸リチウム等の正極活物質、カーボンブラック等の導電助剤、ポリフッ化ビニリデンやポリ四フッ化エチレン等のバインダーを混合し、N-メチルピロリドンのような極性溶媒に分散させた塗工液を、アルミニウム箔に代表される集電体上に負極と同様に塗布、乾燥して製造されている。
【0005】
これらのリチウムイオン電池において、高い結着力を確保するためには、バインダーの添加量を多くする必要があり、そのことによる性能の低下が課題として挙げられる。また、回収、コスト、毒性および環境負荷の観点から、N-メチルピロリドンなどの極性有機溶媒を用いたバインダーの代わりに、水系バインダーを用いることが望まれている。しかしながら、例えば水系であるSBRバインダーを用いた場合、正極環境下において、正極の酸化劣化が生じ、電池特性が低下(内部抵抗の上昇や、充放電サイクル特性の低下)するといった課題がある。そのため、依然として、正極のバインダーとしては、N-メチルピロリドンを分散溶媒に用いたポリフッ化ビニリデンやポリ四フッ化エチレンが広く使用されている。このため、非水電解質二次電池の正極に好適に使用できる水系のバインダーの開発が望まれている。
【0006】
例えば、特許文献1および2には、芳香族ビニル、共役ジエン、(メタ)アクリル酸エステルおよびエチレン性不飽和カルボン酸からなる共重合体を含有するバインダー(特許文献1)、および2官能性(メタ)アクリレートを含むポリマーを含有するバインダー(特許文献2)のような水系のアクリル酸エステルバインダーが提案されている。しかしながら、これらの水系バインダーを正極に用いた場合、例えば高温条件下において、充放電サイクル特性が劣化するという問題がある。特に、当該バインダーを正極に用いた場合、高電圧条件下で耐酸化性に問題があり、電池特性が悪くなることが懸念される。
【0007】
また、このような水系のアクリル酸エステル系バインダーを用いた場合、電極作製時の塗工液(スラリー)の粘度が低いため、滑らかなペーストを得ることで平滑な電極を塗布するために、増粘剤を添加する必要がある。ところが、電池の充放電過程における増粘剤の酸化が、電池特性の低下の一因となっている。
【0008】
さらに、特許文献3には、ニトリル基を有する(メタ)アクリレートの共重合体が、増粘剤を用いなくても、集電体との十分な密着性を発揮するバインダーとして提案されている。しかしながら、これは負極用のバインダーであり、高い耐酸化特性、さらに、厚膜塗布されるために可撓性が求められる正極での使用可能性については、全く検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-025989号公報
【特許文献2】特開2001−256980号公報
【特許文献3】特開2012−51999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みなされた発明であり、優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる、非水電解質二次電池用の正極材料を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該正極材料を用いた正極、当該正極を用いた非水電解質二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、正極活物質及びバインダーを含み、当該バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、さらに、実質的に増粘剤を含まない正極材料は、優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 正極活物質及びバインダーを含み、
前記バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、
実質的に増粘剤を含まない、正極材料。
項2. 前記構成単位(A)の(メタ)アクリレートモノマーが、水酸基を有する(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリレートの少なくとも一方である、項1に記載の正極材料。
項3. 前記水酸基を有する(メタ)アクリレートが、分子量100〜1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートである、項2に記載の正極材料。
項4. 前記構成単位(B)のカルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーが、(メタ)アクリル酸である、項1〜3のいずれかに記載の正極材料。
項5. 前記共重合体は、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A−1)と、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A−2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでおり、
前記構成単位(A−1)と、前記構成単位(A−2)と、前記構成単位(B)と、前記構造単位(C)の割合が、質量比で、前記構成単位(A−1)が1〜45、前記構成単位(A−2)が15〜98、前記構成単位(B)が0.5〜15、前記構造単位(C)が0.5〜25である、項1〜4のいずれかに記載の正極材料。
項6. 前記正極活物質が、AMO2(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、AM24(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、A2MO3(Aはアルカリ金属、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)、またはAMBO4(Aはアルカリ金属、BはP、Si、またはその混合物、Mは単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい)のいずれかの組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいる、項1〜5のいずれか1項に記載の正極材料。
項7. 項1〜6のいずれか1項に記載の正極材料と、正極集電体とを備える、非水電解質二次電池用の正極。
項8. 項1〜6のいずれか1項に記載の正極材料を、正極集電体の表面に塗布する工程を備える、非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
項9. 項7に記載の正極と、負極と、有機電解液とを備える、非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非水電解質二次電池用の正極材料が、正極活物質及びバインダーを含み、当該バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、さらに、実質的に増粘剤を含まないことから、正極材料が優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることができる。すなわち、本発明の非水電解質二次電池は、正極に当該正極材料を用いているため、内部抵抗が低く、充放電サイクル特性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.正極材料
本発明の正極材料は、正極活物質及びバインダーを含み、バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、さらに、実質的に増粘剤を含まないことを特徴とする。以下、本発明の正極材料について、詳述する。
【0015】
本発明の正極材料に含まれる正極活物質としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の正極活物質を用いることができる。正極活物質は、例えば、AMO2、AM24、A2MO3、またはAMBO4の組成で示されるアルカリ金属含有複合酸化物を含んでいることが好ましい。これらの組成において、Aは、アルカリ金属を示す。Mは、単一または2種以上の遷移金属からなり、その一部に非遷移金属を含んでもよい。Bは、P、Siまたはその混合物からなる。なお正極活物質は、粉末であることが好ましく、その粒子径としては、好ましくは50ミクロン以下、より好ましくは20ミクロン以下が挙げられる。これらの正極活物質は、3V(vs. Li/Li+)以上の起電力を有するものである。
【0016】
正極活物質の具体例としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル/マンガン/コバルト酸リチウム(3元系)、スピネル型マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウムなどが挙げられる。
【0017】
正極材料中の正極活物質の含有量としては、特に制限されず、例えば99.9〜50質量%程度、より好ましくは99.5〜70質量%程度、さらに好ましくは99〜85質量%程度が挙げられる。正極活物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明の正極材料に含まれるバインダーは、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体である。すなわち、バインダーは、構成単位(A)〜(C)の各モノマー((メタ)アクリレートモノマー、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマー、及び5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマー)の共重合体である。
【0019】
構成単位(A)において、(メタ)アクリレートモノマーは、水酸基を有する(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリレートの少なくとも一方であることが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味し、これに類する表現についても同様である。
【0020】
水酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、下記一般式(1)で表されるモノマーが挙げられる。
【0021】
【化1】
【0022】
構成単位(A)のモノマーにおいて、一般式(1)中、R1は、水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、R2およびR3は、それぞれ水素原子または炭素数1〜4の直鎖もしくは分岐のアルキル基であり、nは、2〜30の整数である。
【0023】
一般式(1)で表される、水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子量が150〜1000のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。具体例としては、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、およびポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0024】
また、(メタ)アクリレートモノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、および(メタ)アクリル酸ラウリル((メタ)アクリル酸ドデシル)、(メタ)アクリル酸アミド等の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0025】
構成単位(B)において、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、メタアクリル酸、アクリル酸等の単官能モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、グルタコン酸、1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、3−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、4−メチル−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、メチル−3,6−エンドメチレン−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、エキソ−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、ハイミック酸等の2官能モノマーが挙げられる。さらに、上記2官能のカルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーは、不飽和カルボン酸の無水物、例えば無水マレイン等も使用でき、また、これら無水物を鹸化したものを使用してもよい。カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーは、好ましくはメタアクリル酸、アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸である。更に好ましくは、メタアクリル酸、アクリル酸、イタコン酸である。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0026】
構成単位(B)の割合としては、特に制限されないが、構成単位(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜50質量部程度、より好ましくは1〜30質量部程度が挙げられる。
【0027】
なお、バインダーを構成する共重合体には、構成単位(B)に加えて、これに類する構成単位を含んでいてもよい。構成単位(B)に類する構成単位としては、カルボン酸基とは異なる官能基を少なくとも1種有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位が挙げられる。カルボン酸基とは異なる官能基としては、例えば、ニトリル基、ケトン基、有機酸ビニルエステル基、ビニルアルコール基等が挙げられる。すなわち、構成単位(B)に類する構成単位のモノマーとしては、ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマー、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマー、ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマー、有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマーが挙げられる。また、有機酸ビニルエステルモノマーの重合体をアルカリでケン化することによって、ビニルアルコール基を有する構成単位とすることができる。
【0028】
ニトリル基を含むエチレン性不飽和モノマーは、ニトリル基を含有するものであれば特に限定されないが、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル、クロトンニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−シアノアクリレート、シアン化ビニリデン、フマロニトリルなどのα,β−不飽和ニトリルモノマーが用いられる。更に好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリルである。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0029】
ケトン基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、イソプロピルビニルケトン、イソブチルビニルケトン、t-ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン等のビニルケトン類が挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。
【0030】
有機酸ビニルエステル基を含むエチレン性不飽和モノマーの具体例としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種又は2種以上併用できる。これらの中でも、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルが好ましい。
【0031】
前述の通り、有機酸ビニルエステルモノマーの重合体をアルカリでケン化することによって、ビニルアルコール基を有する構成単位とすることができる。
【0032】
構成単位(C)において、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーは、架橋剤として働く。多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては2官能〜5官能(メタ)アクリレートが挙げられる。2官能〜5官能の架橋剤では、乳化重合での分散が良好であり、バインダーとしての物性(屈曲性、結着性)が優れている。多官能(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは3官能または4官能(メタ)アクリレートである。
【0033】
2官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としてはトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジオキサングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。
【0034】
3官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンPO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2,2,2-トリス(メタ)アクリロイロキシメチルエチルコハク酸、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε−カプロラクトン変性トリス−(2−(メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレート、グリセリンEO付加トリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリ(メタ)アクリレートおよびトリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェートなどが挙げられる。これらの中でも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0035】
4官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールEO付加テトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0036】
5官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0037】
構成単位(C)において、多官能(メタ)アクリレートモノマーは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
構成単位(C)の割合としては、特に制限されないが、構成単位(A)100質量部に対して、好ましくは0.5〜70質量部程度、より好ましくは1〜60質量部程度、さらに好ましくは2〜50質量部が挙げられる。
【0039】
バインダーを構成する共重合体における、構成単位(A)、構成単位(B)、及び構造単位(C)の割合は、質量比で、構成単位(A)が1〜70、構成単位(B)が0.1〜15、及び構成単位(C)が0.1〜40であることが好ましく、構成単位(A)が1〜65、構成単位(B)が0.2〜12、及び構成単位(C)が0.2〜35であることがより好ましく、構成単位(A)が1〜60、構成単位(B)が0.3〜10、構成単位(C)が0.3〜30であることがさらに好ましい。
【0040】
また、当該共重合体が、構成単位(A)、構成単位(B)と、構造単位(C)とを含んでいる場合、当該共重合体においては、以下のように含有することが好ましい。
構成単位(A)は、その下限が1質量%以上含有することが好ましく、その上限が70質量%以下含有することが好ましく、65質量%以下含有することがより好ましく、60質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(B)は、その下限が0.1質量%以上含有することが好ましく、0.2質量%以上含有することがより好ましく、0.3質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が15質量%以下含有することが好ましく、12質量%以下含有することがより好ましい、10質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(C)は、その下限が0.1質量%以上含有することが好ましく、0.2質量%以上含有することがより好ましく、0.3質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が40質量%以下含有することが好ましく、35質量%以下含有することがより好ましく、30質量%以下含有することが更に好ましい。
【0041】
また、当該共重合体が、水酸基を有する(メタ)アクリレートから誘導される構成単位(A−1)と、(メタ)アクリレートから誘導される構成単位(A−2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでいる場合、構成単位(A−1)と、構成単位(A−2)と、構成単位(B)と、構造単位(C)の割合としては、質量比で、構成単位(A−1)が1〜45、構成単位(A−2)が15〜98、構成単位(B)が0.5〜15、構造単位(C)が0.5〜25であることが好ましく、構成単位(A−1)が1〜40、構成単位(A−2)が15〜75、構成単位(B)が1〜10、構造単位(C)が1〜25であることがより好ましく、構成単位(A−1)が2〜35、構成単位(A−2)が30〜70、構成単位(B)が2〜10、構造単位(C)が2〜20であることがさらに好ましい。
【0042】
また、当該共重合体が、水酸基を有する(メタ)アクリレートから誘導される構成単位(A−1)と、(メタ)アクリレートから誘導される構成単位(A−2)と、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構造単位(C)とを含んでいる場合、当該共重合体においては、以下のように含有することが好ましい。
構成単位(A−1)は、その下限が1質量%以上含有することが好ましく、2質量%以上含有することがより好ましく、その上限が45質量%以下含有することが好ましく、40質量%以下含有することがより好ましく、35質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(A−2)は、その下限が15質量%以上含有することが好ましく、30質量%以上含有することがより好ましく、その上限が98質量%以下含有することが好ましく、75質量%以下含有することがより好ましく、70質量%以下含有することが更に好ましい。
構成単位(B)は、その下限が0.5質量%以上含有することが好ましく、1質量%以上含有することがより好ましく、2質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が15質量%以下含有することが好ましく、10質量%以下含有することがより好ましい。
構成単位(C)は、その下限が0.5質量%以上含有することが好ましく、1質量%以上含有することがより好ましく、2質量%以上含有することが更に好ましく、その上限が25質量%以下含有することが好ましく、20質量%以下含有することがより好ましい。
【0043】
本発明において、バインダーは、バインダーが水やアルコールに分散したエマルジョンとして、正極材料に用いられる水系バインダーである。すなわち、本発明の正極材料を調製する際には、前述の共重合からなるバインダーが水等に分散した水系エマルジョンの状態で使用され、水系エマルジョンのみでも構わない。エマルジョン中のバインダーの含有量(固形分濃度)としては、特に制限されず、好ましくは0.2〜80質量%程度、より好ましくは0.5〜70質量%程度、さらに好ましくは0.5〜60質量%程度が挙げられる。
【0044】
バインダーの水系エマルジョンを得る方法としては、特に制限されず、一般的な乳化重合法、ソープフリー乳化重合法、シード重合法、シード粒子にモノマー等を膨潤させた後に重合する方法等が挙げられる。具体的には、攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に、室温でバインダーの構成単位であるモノマー、乳化剤、重合開始剤、水、必要に応じて分散剤、連鎖移動剤、pH調整剤等を含んだ組成物を不活性ガス雰囲気下で攪拌することで、モノマー等を水に乳化させる。乳化の方法は撹拌、剪断、超音波等による方法等が適用でき、撹拌翼、ホモジナイザー等を使用することができる。次いで、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始させることで、バインダー(モノマーの共重合体)が水に分散した球形の重合体のラテックス(バインダーの水系エマルジョン)を得ることができる。重合時のモノマーの添加方法は、一括仕込みの他に、モノマー滴下やプレエマルジョン滴下等でもよく、これらの方法を2種以上併用してもよい。
【0045】
バインダーの水系エマルジョンにおける粒子構造は、特に限定されない。例えば、シード重合によって作製された、コア−シェル構造の複合重合体粒子を含む重合体のラテックスを用いることができる。シード重合法は、例えば、「分散・乳化系の化学」(発行元:工学図書(株))に記載された方法を用いることができる。具体的には、上記の方法で作製したシード粒子を分散した系にモノマー、重合開始剤、乳化剤を添加し、核粒子を成長させる方法であり、上記方法を1回以上繰り返してもよい。
【0046】
シード重合のシードには、本発明で好適に用いられるバインダー(共重合体)、または公知のポリマーを用いた粒子を用いることもできる。公知のポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレートおよびポリエーテルなどが例示できるが、限定されるものではなく、他の公知のポリマーを用いることができる。また、1種のホモポリマーまたは2種以上の共重合体またはブレンド体を用いても良い。
【0047】
粒子の形状としては、球形が挙げられ、さらに、板状、中空構造、複合構造、局在構造、だるま状構造、いいだこ状構造、ラズベリー状構造等も挙げられる。粒子としては、本発明を逸脱しない範囲で、2種類以上の構造および組成の粒子を用いることができる。
【0048】
乳化剤としては、特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられるノニオン性乳化剤およびアニオン性乳化剤等を使用することができる。ノニオン乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等があげられ、アニオン性乳化剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、脂肪酸塩等が挙げられ、これらを1種または2種以上用いてもよい。アニオン性乳化剤の代表例としてはドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミンが挙げられる。
【0049】
乳化剤の使用量は、乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー量に対して、0.01〜10質量%の範囲であり、好ましくは0.05〜5質量%、更に好ましくは0.05〜3質量%である。モノマー成分として、反応性界面活性剤を用いる場合は、乳化剤の添加は必ずしも必要でない。
【0050】
重合開始剤としては、特に限定されず、乳化重合法おいて一般的に用いられる重合開始剤を使用することができる。その具体例としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩に代表される水溶性の重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイドに代表される油溶性の重合開始剤、ハイドロパーオキサイド、4−4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2−2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン、2−2’−アゾビス(プロパン−2−カルボアミジン)2−2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロパンアミド、2−2’−アゾビス[2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン]、2−2’−アゾビス(1−イミノ−1−ピロリジノ−2−メチルプロパン)および2−2’−アゾビス[2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロパンアミド]などのアゾ系開始剤、レドックス開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
重合開始剤の使用量は、乳化重合法おいて一般的に用いられる量であればよい。具体的には、仕込みのモノマー100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部程度、好ましくは0.05〜5質量部程度、さらに好ましくは0.1〜3質量部程度である。
【0052】
正極材料中におけるバインダーの含有量としては、特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下が挙げられる。なお、バインダーの含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、1質量部以上を例示することができる。
【0053】
正極材料には、必要に応じて、導電助剤がさらに含まれていてもよい。導電助剤としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の導電助剤を用いることができる。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、グラファイトなどの導電性カーボンや、導電性ポリマー、金属粉末などが挙げられる。これらの中でも、導電性カーボンが特に好ましい。
【0054】
導電助剤を用いる場合、導電助剤の含有量としては特に制限されないが、正極活物質100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下が挙げられる。なお、正極材料中に導電助剤が含まれる場合、導電助剤の含有量の下限値としては、通常、0.05質量部以上、0.1質量部以上、0.2質量部以上、0.5質量部以上、2質量部以上を例示することができる。
【0055】
本発明の正極材料には、実質的に増粘剤が含まれない。本発明の正極材料は、バインダーとして、上記特定の共重合体を含んでおり、かつ、実質的に増粘剤を含まないことにより、優れた可撓性及び結着性を備えており、非水電解質二次電池の内部抵抗を効果的に低下させ、さらに、充放電サイクル特性を効果的に向上させることが可能となる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等およびこれらのアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩等、などが挙げられる。
【0056】
なお、本発明の正極材料には、実質的に増粘剤が含まれないが、本発明の効果を阻害しない範囲において、微量の増粘剤が含まれていてもよい。本発明の正極材料における増粘剤の含有量としては、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下が挙げられる。
【0057】
本発明の正極材料を形成するための正極材料組成物(スラリー)の調製方法としては、特に限定されず、正極活物質、バインダー、さらに必要に応じて使用される導電助剤、溶剤等を、通常の攪拌機、分散機、混練機、遊星型ボールミル、ホモジナイザーなど用いて分散させればよい。分散の効率を上げるために、材料に影響を与えない範囲で加温してもよい。
【0058】
スラリー状の正極材料組成物を作製する際には、正極活物質、バインダーの水系エマルジョン、さらには、導電助剤、溶剤(主に水)が用いられる。用いる水は特に限定されず、一般的に用いられる水を使用することができる。その具体例としては水道水、蒸留水、イオン交換水および超純水などが挙げられる。その中でも、好ましくは蒸留水、イオン交換水および超純水である。また、スラリーの分散性や乾燥性を調整する目的で、アルコール等の水溶性有機溶剤を混合して用いてもよい。使用できる水溶性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
スラリー状の正極材料組成物の塗布性を改善するために、必要に応じて分散剤を水系エマルジョンに予め添加あるいはスラリー状の正極材料組成物に添加することもできる。分散剤であれば、種類および使用量は特に限定されず、一般的に用いられる分散剤を任意の量で自由に使用することができる。
【0060】
本スラリー状の正極材料組成物の固形分濃度は、10〜90質量%、好ましくは20〜85質量%、より好ましくは30〜80質量%である。
【0061】
スラリー状の正極材料組成物の固形分中の共重合体の割合としては、好ましくは0.1〜15質量%程度、より好ましくは0.2〜10質量%程度、さらに好ましくは0.3〜7質量%程度である。
【0062】
2.正極
本発明の正極は、前述の「1.正極材料」の欄で説明した本発明の正極材料と、正極集電体とを備えることを特徴とする。本発明の正極材料の詳細については、前述の通りである。
【0063】
正極集電体としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の正極に用いられる公知の正極集電体を用いることができる。正極集電体としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、金、白金、チタン等の金属の基板により構成することができる。
【0064】
正極の製造は、スラリー状の正極材料組成物(塗工液)をドクターブレード法やアプリケーター法、シルクスクリーン法などにより正極集電体の表面上に適切な厚さに均一に塗布することより行われる。
【0065】
例えばドクターブレード法では、スラリー状の正極材料組成物を正極集電体表面に塗布した後、所定のスリット幅を有するブレードにより適切な厚さに均一化する。正極材料組成物を集電体表面に塗布した後、余分な有機溶剤および水を除去するために、例えば、100℃の熱風や80℃真空状態で乾燥する。乾燥後、プレス装置によってプレス成型することで正極が製造される。プレス後に再度熱処理を施して水、溶剤、乳化剤等を除去してもよい。
【0066】
3.非水電解質二次電池
本発明の非水電解質二次電池は、前述の「2.正極」の欄で説明した本発明の正極と、負極と、有機電解液とを備えることを特徴としている。すなわち、本発明の非水電解質二次電池に用いられる正極は、本発明の正極材料を含んでいる。本発明の正極の詳細については、前述の通りである。
【0067】
負極は、負極材料と、負極集電体とを備えている。負極材料は、負極活物質と、バインダーを含んでいる。負極活物質としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知の負極活物質を用いることができる。負極活物質は、例えば、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能な構造(多孔質構造)を有する炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等)、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なリチウム、アルミニウム系化合物、スズ系化合物、シリコン系化合物等の金属からなる粉末が挙げられる。粒子径は、好ましくは10nm以上100μm以下が挙げられ、さらに好ましくは20nm以上20μm以下が挙げられる。また、負極活物質としては、金属と炭素材料との混合物を用いてもよい。なお負極活物質としては、気孔率が70%程度のものを用いることが望ましい。
【0068】
負極のバインダーとしては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知のバインダーを用いることができる。負極のバインダーの具体例としては、フッ化ビニリデン、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、及び三フッ化エチレンの少なくとも1種から選ばれるモノマーの単独重合体または共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリル系重合体、ビニル系重合体から選ばれる1種以上の化合物が挙げられる。これらの中でも、フッ化ビニリデン系重合体、四フッ化エチレン系重合体、アクリル系重合体が好ましい。また、負極のバインダーとしては、前述の正極のバインダーとして例示したものと同じものを用いてもよい。
【0069】
有機電解液としては、特に制限されず、非水電解質二次電池の負極に用いられる公知の有機電解液を用いることができる。有機電解液の具体例としては、電解質としてのリチウム塩化合物と、溶媒としての非プロトン性有機溶剤等を含む溶液が挙げられる。電解質及び溶媒は、それぞれ、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0070】
リチウム塩化合物としては、リチウムイオン電池に一般的に利用されているような、広い電位窓を有するリチウム塩化合物が用いられる。たとえば、LiBF4、LiPF6、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22,LiN(C25SO22,LiN[CF3SC(C25SO23]2などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0071】
非プロトン性有機溶剤としてはプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ジプロピルカーボネート、ジエチルエーテル、スルホラン、メチルスルホラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、アニソール、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ジエチルエーテルなどの直鎖エーテルを使用することができ、2種類以上混合して使用してもよい。
【0072】
また、溶媒として、常温溶融塩を用いることができる。常温溶融塩とは、常温において少なくとも一部が液状を呈する塩をいい、常温とは電池が一般的に作動すると想定される温度範囲をいう。電池が通常作動すると想定される温度範囲とは、上限が120℃程度、場合によっては80℃程度であり、下限は−40℃程度、場合によっては−20℃程度である。
【0073】
常温溶融塩はイオン液体とも呼ばれており、イオンのみ(アニオン、カチオン)から構成される「塩」であり、特に液体化合物をイオン液体という。
【0074】
常温溶融塩のカチオン種としては、ピリジン系、脂肪族アミン系、脂環族アミン系の4級アンモニウム有機物カチオンが知られている。4級アンモニウム有機物カチオンとしては、ジアルキルイミダゾリウム、トリアルキルイミダゾリウム、などのイミダゾリウムイオン、テトラアルキルアンモニウムイオン、アルキルピリジニウムイオン、ピラゾリウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオンなどが挙げられる。特に、イミダゾリウムイオンが好ましい。
【0075】
なお、テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルエチルアンモニウムイオン、トリメチルプロピルアンモニウムイオン、トリメチルヘキシルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
また、アルキルピリジウムイオンとしては、N−メチルピリジウムイオン、N−エチルピリジニウムイオン、N−プロピルピリジニウムイオン、N−ブチルピリジニウムイオン、1−エチル−2メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−4−メチルピリジニウムイオン、1−ブチル−2,4ジメチルピリジニウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
イミダゾリウムイオンとしては、1,3−ジメチルイミダゾリウムイオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1−メチル−3−ブチルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムイオン、1,2,3−トリメチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−エチルイミダゾリウムイオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムイオン、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムイオンなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
常温溶融塩のアニオン種としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、チオシアン酸イオン、テトラフルオロホウ素酸イオン、硝酸イオン、AsF6-、PF6-などの無機酸イオン、ステアリルスルホン酸イオン、オクチルスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ドデシルナフタレンスルホン酸イオン、7,7,8,8−テトラシアノ−p−キノジメタンイオンなどの有機酸イオンなどが例示される。
【0079】
なお、常温溶融塩は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0080】
有機電解液には必要に応じて種々の添加剤を使用することができる。添加剤としては、難燃剤、不燃剤、正極表面処理剤、負極表面処理剤、過充電防止剤などが挙げられる。難燃剤、不燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、ホスファゼン化合物、テトラブロムビスフェノールA、塩素化パラフィン等のハロゲン化物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、ポリリン酸塩、及びホウ酸亜鉛等が例示できる。正極表面処理剤としては、炭素や金属酸化物(MgОやZrO2等)の無機化合物やオルト−ターフェニル等の有機化合物等が例示できる。負極表面処理剤としては、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示できる。過充電防止剤としては、ビフェニルや1−(p−トリル)アダマンタン等が例示できる。
【0081】
本発明の非水電解質二次電池の製造方法は、特に限定されず、正極、負極、有機電解液、セパレータなどを用いて、公知の方法にて製造される。例えば、コイン型の電池の場合、正極、セパレータ、負極を外装缶に挿入する。これに電解液を入れ含浸する。その後、封口体とタブ溶接などで接合して、封口体を封入し、カシメることで蓄電池が得られる。電池の形状は限定されないが、例としてはコイン型、円筒型、シート型などが挙げられ、2個以上の電池を積層した構造であってもよい。
【0082】
セパレータは、正極と負極が直接接触して蓄電池内でショートすることを防止するものであり、公知の材料を用いることができる。セパレータとしては、具体的には、ポリオレフィンなどの多孔質高分子フィルム、紙等が挙げられる。多孔質高分子フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが、有機電解液による影響が少ないため、好ましい。
【0083】
なお、正極材料のみの特性を評価する際には、対極に金属リチウム箔を用いることで、正極材料の可逆性を評価できる。また、正極材料と負極材料の組み合わせ評価の場合には、金属リチウム箔を用いず、正極材料と炭素系負極材料との組み合わせが用いられる。
【0084】
本発明の非水電解質二次電池は、内部抵抗が小さく、充放電サイクル特性に優れている。本発明の非水電解質二次電池は、携帯電話やノートパソコン、カムコーダーなどの電子機器など小型の電池から、電気自動車やハイブリッド電気自動車などの車載用途や家庭用電力貯蔵用の蓄電池といった大型の二次電池用途に好適に利用可能である。


【実施例】
【0085】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し本発明は実施例に限定されるものではない。
【0086】
なお、以下の実施例及び比較例では、各電極及び各コイン電池を製造し、各電極の評価として、屈曲試験(可撓性評価)、結着性試験を以下の実験方法にて行った。また、各コイン電池の性能評価として、内部抵抗の測定、及び充放電サイクル特性試験を以下の実験方法にて行った。それぞれの結果を表1及び表2に示す。
【0087】
<屈曲試験>
屈曲試験は、マンドレル屈曲試験にて行った。具体的には、各電極(正極シート)を幅3cm×長さ8cmに切り、長さ方向の中央(4cm部分)の基材側(電極表面が外側を向くように)に直径2mmのステンレス棒を支えにして180°折り曲げたときの折り曲げ部分の塗膜の状態を観察した。この方法で5回測定を行い、5回とも電極表面のひび割れまたは剥離や集電体からの剥がれが全く生じていない場合を○、1回でも1箇所以上のひび割れまたは剥がれが生じた場合を×と評価した。結果を表1に示す。
【0088】
<結着性試験>
結着性試験は、クロスカット試験にて行った。具体的には、各電極(正極シート)を幅3cm×長さ4cmに切り、1マスの1辺が1mmとなるように直角の格子パターン状にカッターナイフで切れ込みを入れ、縦5マス×横5マスの25マスからなる碁盤目にテープ(粘着テープ:ニチバン社製)を貼り付け、電極を固定した状態でテープを一気に引き剥がしたとき、電極から剥がれずに残ったマスの数を計測した。試験は5回実施し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0089】
<内部抵抗の測定>
作製したリチウムイオン電池を、定電流−定電圧充電により、4.2Vまで充電した。終止電流は2C相当であった。充電後、電池を10分間休止させた。次いで定電流放電を実施し、電流値I(mA)及び10秒後の電圧降下ΔE(mV)より、リチウムイオン電池の内部抵抗R(Ω)=ΔE/Iを測定した。結果を表2に示す。
【0090】
<充放電サイクル特性(容量維持率)>
電気化学特性は東洋システム(株)製の充放電装置を用い、4.2Vを上限、2.5Vを下限とし、初回から3回目において8時間で所定の充電および放電が行える試験条件(C/8)、4回目以降1Cにて一定電流通電により正極の充放電サイクル特性を評価した。試験温度は25℃と60℃の環境とした。容量維持率は充放電を100サイクル行った後の容量と4サイクル目の容量の比で評価した。結果を表2に示す。
【0091】
[合成例1:バインダーAの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリエチレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAE−400)30質量部、アクリル酸−2−エチルヘキシル55質量部、アクリル酸2質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)13質量部、乳化剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミン水溶液(花王製:エマールTD)の固形分として1質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、本発明の重合体のエマルジョンであるバインダーA(重合転化率99%以上)(固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.109μmであった。
【0092】
[合成例2:バインダーBの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、メタアクリル酸メチル47質量部、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP−400)33質量部、アクリル酸1質量部、メタアクリル酸4質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)15質量部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王製:エマール10G)5質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液をpH8.1に調整し、本発明の重合体のエマルジョンであるバインダーB(重合転化率99%以上)(固形分濃度42wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.173μmであった。
【0093】
[合成例3:バインダーCの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリプロピレングリコールモノアクリレート(日油製:ブレンマーAP−400)19質量部、メタアクリル酸メチル58.5質量部、メタアクリル酸4質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)17質量部、反応性乳化剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル溶液(花王製:PD−420)として8質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、本発明の重合体のエマルジョンであるバインダーC(重合転化率99%以上)(固形分濃度40wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.205μmであった。
【0094】
[合成例4:バインダーDの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリエチレングリコールモノメタアクリレート(日油製:ブレンマーPE−90)5.5質量部、メタアクリル酸メチル44質量部、アクリル酸2−エチルヘキシル26質量部、メタアクリル酸5質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)18質量部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王製:エマール10G)1質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、本発明の重合体のエマルジョンであるバインダーD(重合転化率99%以上)(固形分濃度39wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.198μmであった。
【0095】
[合成例5:バインダーEの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、ポリエチレングリコールモノメタアクリレート(日油製:ブレンマーAE−200)20質量部、アクリル酸ブチル57質量部、メタアクリル酸4.5質量部、アクリル酸1.5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)17質量部、反応性乳化剤としてポリオキシアルキレンアルケニルエーテル溶液(花王製:PD−420)として3質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.1質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、28%アンモニア水溶液を用いて、重合液のpHを8.2に調整し、本発明の重合体のエマルジョンであるバインダーE(重合転化率99%以上)(固形分濃度40wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.206μmであった。
【0096】
[比較合成例1:バインダーFの合成]
500mlの攪拌機付き反応容器に、メタアクリル酸メチル80質量部、アクリル酸3質量部、メタアクリル酸5質量部、トリメチロールプロパントリアクリレート(新中村化学製:A−TMPT)12質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量部、イオン交換水150質量部および重合開始剤として過硫酸カリウム0.2質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを8.1に調整し、比較例の重合体のエマルジョンであるバインダーF(重合転化率99%以上)(固形分濃度38wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.101μmであった。
【0097】
[比較合成例2:バインダーGの合成]
攪拌機付き反応容器に、アクリロニトリル17.3質量部、メチルトリエチレングリコールアクリレート(アルドリッチ社製)1.1質量部、アクリル酸12.3質量部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1質量部、イオン交換水250質量部および重合開始剤として過硫酸アンモニウム0.14質量部を入れ、ホモジナイザーを用いて十分乳化させた後、窒素雰囲気下で60℃に加温し5時間重合し、その後冷却した。冷却後、24%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、重合液のpHを8.1に調整し、比較例の重合体のエマルジョンであるバインダーG(重合転化率99%以上)(固形分濃度11wt%)を得た。得られた重合体の平均粒子径は0.154μmであった。
【0098】
<正極の製造>
[実施例1]
正極活物質には、平均粒径10μmのマンガン酸リチウムを用いた。この正極活物質94質量部に対して、導電助剤としてアセチレンブラックを3質量部、バインダーとして合成例1で得られたバインダーAの固形分として3質量部、更に、スラリーの固形分が55質量%となるように水を溶媒として遊星ミルを用いて、十分に混練して正極用のスラリー組成物を得た。得られた正極用のスラリー組成物を厚さ20μmのアルミニウム集電体上に100μmギャップのバーコーターを用いて塗布し、110℃真空状態で12時間以上乾繰後、ロールプレスして、更にアルゴンガス雰囲気下にて120℃で12時間熱処理を施して、厚さ30μmの正極シート1を作製した。
【0099】
[実施例2]
正極作製時にバインダーとして、合成例2で得られたバインダーBを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート2を作製した。
【0100】
[実施例3]
正極作製時にバインダーとして、合成例3で得られたバインダーCを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート3を作製した。
【0101】
[実施例4]
正極作製時にバインダーとして、合成例4で得られたバインダーDを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート4を作製した。
【0102】
[実施例5]
正極作製時にバインダーとして、合成例5で得られたバインダーEを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート5を作製した。
【0103】
[比較例1]
正極作製時にバインダーとして、比較合成例1で得られたバインダーFを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート6を作製した。
【0104】
[比較例2]
正極作製時にバインダーとして、比較合成例2で得られたバインダーGを用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート7を作製した。
【0105】
[比較例3]
正極作製時にバインダーとして、合成例1で得られたバインダーAを固形分として2質量部とカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩1質量部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で正極シート8を作製した。
【0106】
【表1】
【0107】
正極活物質及びバインダーを含み、当該バインダーが、(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(A)と、カルボン酸基を含むエチレン性不飽和モノマーから誘導される構成単位(B)と、5官能以下の多官能(メタ)アクリレートモノマーから誘導される構成単位(C)とを備える共重合体であり、増粘剤を含まない実施例1〜5の正極材料は、可撓性及び結着性に優れることが明らかとなった。
【0108】
<電池の製造例>
[コイン電池の製造例1]
アルゴンガスで置換されたグローブボックス内において、電極の実施例1で得た正極、セパレータとして厚み18μmのポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン多孔質膜を2枚、更に対極として厚さ300μmの金属リチウム箔を貼り合わせた積層物に、電解液として1mol/Lの6フッ化リン酸リチウムのエチレンカーボネートとジメチルカーボネート溶液(体積比1:1)を十分に含浸させてかしめ、試験用2032型コイン電池を製造した。
【0109】
[コイン電池の製造例2]
電極の実施例2で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0110】
[コイン電池の製造例3]
電極の実施例3で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0111】
[コイン電池の製造例4]
電極の実施例4で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0112】
[コイン電池の製造例5]
電極の実施例5で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0113】
[コイン電池の比較製造例1]
電極の比較例1で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0114】
[コイン電池の比較製造例2]
電極の比較例2で得た正極を用いた以外は、コイン電池の製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0115】
[コイン電池の比較製造例3]
電極の比較例3で得た正極を用いた以外は、コイン電池の実施製造例1と同様にしてコイン電池を作製した。
【0116】
【表2】
【0117】
実施例1〜5の正極材料を用いた製造例1〜5の非水電解質二次電池は、内部抵抗が低く、充放電サイクル特性にも優れていることが明らかとなった。