(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874699
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】射出成形用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 45/34 20060101AFI20210510BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20210510BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
B29C45/34
B29C45/26
B29C33/10
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-4086(P2018-4086)
(22)【出願日】2018年1月15日
(65)【公開番号】特開2019-123118(P2019-123118A)
(43)【公開日】2019年7月25日
【審査請求日】2020年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 義久
【審査官】
▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭52−087670(JP,U)
【文献】
国際公開第2017/183647(WO,A1)
【文献】
特開平08−257674(JP,A)
【文献】
特開2012−176517(JP,A)
【文献】
特開2004−167714(JP,A)
【文献】
特開2006−264163(JP,A)
【文献】
特開平10−005968(JP,A)
【文献】
特開2017−024394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00 − 45/84
B29C 33/00 − 33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動型と固定型とを備え、前記可動型と前記固定型との間に形成するキャビティに充填する溶融樹脂の合流部又は袋小路部でガスを排出するガス抜き孔が形成されたガス抜き用入れ子を、前記可動型又は前記固定型に装着した射出成形用金型であって、
前記ガス抜き用入れ子には、前記キャビティの成形面に対して垂直状又は傾斜状に起立して厚さ方向で略等間隔に配置された複数個の薄板状のベース部材と、上端が前記ベース部材の上端と一致し隣接する前記ベース部材同士の隙間に幅方向で所定の隙間を空けて当接挿入された複数個の薄板状のスペーサ部材とを備え、
前記ガス抜き孔は、前記ベース部材と前記スペーサ部材とが両者の当接部で拡散接合された状態で形成され、前記成形面から離間するに従って拡張されていること、
前記ベース部材と前記スペーサ部材とが、それぞれ異なる材質の金属材料で形成され、何れか一方が鉄鋼材料からなり、何れか他方が銅合金材料又はアルミ合金材料からなることを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
請求項1に記載された射出成形用金型において、
前記ガス抜き孔は、前記合流部又は前記袋小路部の最深部に位置する前記成形面に対して垂直方向に穿設されていることを特徴とする射出成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関し、詳しくは、キャビティ内を流れる溶融樹脂の合流部や袋小路部にガス抜き用入れ子を備えた射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、バンパ等の自動車部品は、デザイン性の向上と軽量化等に適した樹脂部品として、射出成形用金型によって製造されている。射出成形用金型の射出成形時において、キャビティ内を流れる溶融樹脂が合流する合流部や溶融樹脂が滞留する袋小路部では、ガスが残留しやすく、その残留するガスが原因で、成形した樹脂部品の表面にガス焼け等の品質不良が生じやすい。したがって、溶融樹脂の合流部や袋小路部にガス抜き部材を備えた射出成形用金型が多く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、
図8に示すように、ランナー101を介して溶融樹脂が充填されるキャビティ102を有する射出成形用金型であって、充填される溶融樹脂が最後に到達するキャビティ102の最終充填部102aに、多孔質金属体からなる通気部103a、103bを備えたガス抜き部材103を設けた射出成形用金型100が開示されている。ここで、キャビティ102に面して配置されている通気部103aは、溶融樹脂が侵入しにくい微細気孔を有する緻密層からなり、その下方に配置された通気部103bは、この微細気孔よりも大きい気孔を有する高通気層からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−299090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の多孔質金属体からなる通気部103a、103bを備えたガス抜き部材103では、その微細な孔に樹脂やタール等が詰まりやすく、短周期での清掃、交換等が必要であった。そのため、生産性が低く、メンテナンスの手間が多大であるという問題があった。このメンテナンス上の問題を解消する方策として、
図9に示すように、ボルト頭部の座201aが加工された厚板プレート201と、ネジ孔202aが加工された厚板プレート202と、両厚板プレート201、202間に配置され片面に複数列のガス抜き溝203aが所定の間隔で加工された複数枚の薄板プレート203とを備え、各プレートをボルト204で締結したガス抜き用入れ子200が、市販されている。上記ガス抜き用入れ子200によれば、ガス抜き溝203aが加工された薄板プレート203を簡単に分解でき、ガス抜き溝203aの清掃も容易に行うことができる。
【0006】
ところが、上記ガス抜き用入れ子200は、薄板プレート203上で隣接するガス抜き溝203a同士の間に形成されたスペースを利用してボルト204を締結する構造であるので、そのボルト締結のスペース分だけ全体の形状が大きくなる。また、ガス抜き溝203aを形成する間隔が広くなる。さらに、上記ガス抜き用入れ子200は、各プレート201、202、203を重ね合わせてボルト204で締結する構造であるので、仮にそのプレート201、202、203の当接部に冷却水用の溝を加工しても、ボルト204とプレート201、202、203間で成形熱による膨張収縮差が発生し、水漏れが生じやすい。そのため、大型化した上記ガス抜き用入れ子200の外周側に冷却孔を配設せざるを得ず、ガス抜き用入れ子200を装着した範囲では、必要な冷却性能を確保しにくいという問題があった。また、薄板プレート203に加工したガス抜き溝203aを、金型温度や樹脂粘度等の成形条件によって位置が移動しやすいガス抜きポイント(溶融樹脂の交流位置等)にピンポイントで合わせることも容易ではなかった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ガス抜き用入れ子のメンテナンス周期を長期化可能であって、ガス抜き用入れ子を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすく、ガス抜き用入れ子の設置位置の自由度を高めることができる射出成形用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明に係る射出成形用金型は、以下の構成を備えている。
(1)可動型と固定型とを備え、前記可動型と前記固定型との間に形成するキャビティに充填する溶融樹脂の合流部又は袋小路部でガスを排出するガス抜き孔が形成されたガス抜き用入れ子を、前記可動型又は前記固定型に装着した射出成形用金型であって、
前記ガス抜き用入れ子には、前記キャビティの成形面に対して垂直状又は傾斜状に起立して厚さ方向で略等間隔に配置された複数個の薄板状のベース部材と、上端が前記ベース部材の上端と一致し隣接する前記ベース部材同士の隙間に幅方向で所定の隙間を空けて当接挿入された複数個の薄板状のスペーサ部材とを備え、
前記ガス抜き孔は、前記ベース部材と前記スペーサ部材とを両者の当接部で拡散接合することによって形成され、前記成形面から離間するに従って拡張されていることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、ガス抜き用入れ子には、キャビティの成形面に対して垂直状又は傾斜状に起立して厚さ方向で略等間隔に配置された複数個の薄板状のベース部材と、上端がベース部材の上端と一致し隣接するベース部材同士の隙間に幅方向で所定の隙間を空けて当接挿入された複数個の薄板状のスペーサ部材とを備え、ガス抜き孔は、ベース部材とスペーサ部材とを両者の当接部で拡散接合することによって形成され、成形面から離間するに従って拡張されているので、ガス抜き用入れ子の成形面には、ベース部材同士の隙間と当該隙間に当接挿入されたスペーサ部材同士の隙間とによって輪郭形成されたスリット溝状のガス抜き孔が、ガス抜き用入れ子の幅方向に沿って縦列状に形成されると同時に、ガス抜き用入れ子の厚さ方向に沿って並列状に形成される。そのため、ガス抜き用入れ子の成形面全体に、スリット溝状のガス抜き孔が略均等かつ高密度に分布して形成され、ガス抜き用入れ子の成形面全体が、ガス排出可能エリアとなる。したがって、単位面積当たりのガス排出効率を高めることができ、その分だけガス抜き用入れ子の外形形状を小型化することができる。また、ガス抜き用入れ子の外形形状を小型化することによって、冷却水流路の配置を制約される恐れが少なく、ガス抜き用入れ子を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすくなる。
【0010】
また、ガス抜き孔は、ベース部材とスペーサ部材とを両者の当接部で拡散接合することによって形成されているので、ベース部材の厚さ及び幅、並びにスペーサ部材の厚さ及び幅を任意に設定することによって、ガス抜き用入れ子の外形形状及びガス抜き孔の大きさ、並びにガス抜き孔の分布密度を任意に選定できる。そのため、金型温度や樹脂粘度等の成形条件によって位置が移動しやすいガス抜きポイント(溶融樹脂の交流位置等)の位置ずれを簡単に吸収でき、ガス抜き用入れ子の設置位置の自由度を高めることができる。
【0011】
また、ガス抜き孔は、キャビティの成形面から離間するに従って拡張されているので、成形面の位置でガス抜き孔の大きさを微小化しても、成形面から離間するに従ってガス抜き孔を拡張したことによって、樹脂やタール等が詰まりにくく、メンテナンス周期を長期化することができる。また、ガス抜き孔の洗浄等も簡単に行うことができる。
【0012】
よって、本発明によれば、ガス抜き用入れ子のメンテナンス周期を長期化可能であって、ガス抜き用入れ子を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすく、ガス抜き用入れ子の設置位置の自由度を向上できる射出成形用金型を提供することができる。
【0013】
(2)(1)に記載された射出成形用金型において、
前記ガス抜き孔は、前記合流部又は前記袋小路部の最深部に位置する前記成形面に対して垂直方向に穿設されていることを特徴とする。
【0014】
本発明においては、ガス抜き孔は、合流部又は袋小路部の最深部に位置する成形面に対して垂直方向に穿設されているので、溶融樹脂が合流部又は袋小路部の最深部に位置する成形面に流れ込むときに残留ガスを先行してガス抜き孔から排出できる。そのため、キャビティ内へのガス残りを防止しつつ、溶融樹脂内にガスを巻き込む恐れも低減できる。そのため、成形した樹脂部品の表面にガス焼けやピンホール等の品質不良が発生する恐れを、より一層低減させることができる。
【0015】
(3)(1)又は(2)に記載された射出成形用金型において、
前記ベース部材と前記スペーサ部材とが、それぞれ異なる材質の金属材料で形成され、何れか一方が鉄鋼材料からなり、何れか他方が銅合金材料又はアルミ合金材料からなることを特徴とする。
【0016】
本発明においては、ベース部材とスペーサ部材とが、それぞれ異なる材質の金属材料で形成され、何れか一方が鉄鋼材料からなり、何れか他方が銅合金材料又はアルミ合金材料からなるので、ガス抜き用入れ子における必要な強度を鉄鋼材料によって確保しながら、その熱伝導性を銅合金材料又はアルミ合金材料によって高めることができる。その結果、ガス抜き用入れ子の耐久性を高めつつ、ガス抜き用入れ子を装着した範囲でより一層冷却性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガス抜き用入れ子のメンテナンス周期を長期化可能であって、ガス抜き用入れ子を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすく、ガス抜き用入れ子の設置位置の自由度を向上できる射出成形用金型を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る実施形態である射出成形用金型の模式的断面図である。
【
図4】
図3に示すガス抜き用入れ子の斜視図である。
【
図5】
図4に示すガス抜き用入れ子の製作方法を表す概略断面図であって、(A)は、ベース部材とスペーサ部材とを拡散接合する前の状態を示し、(B)は、ベース部材とスペーサ部材とを拡散接合した後の状態を示す。
【
図7】
図5に示す製作方法によって形成したガス抜き用入れ子の成形面を加工する前の状態を表す概略斜視図である。
【
図8】特許文献1に記載された射出成形用金型の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係る実施形態である射出成形用金型について、図面を参照して詳細に説明する。はじめに、車両用樹脂部品(フロントバンパ)を形成する射出成形用金型の構造を、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1に、本発明に係る実施形態である射出成形用金型の模式的断面図を示す。
図2に、
図1に示す固定型の模式的平面図を示す。
図3に、
図1に示すA部拡大図を示す。
【0020】
図1〜
図3に示すように、本射出成形用金型10は、可動型1と固定型2とを備え、可動型1と固定型2との間に形成するキャビティ3に充填する溶融樹脂の合流部P(又は袋小路部PP)でガスGを排出するガス抜き孔41が形成されたガス抜き用入れ子4を、可動型1に装着した射出成形用金型である。ガス抜き用入れ子4の上端面4aは、可動型1におけるキャビティ3の成形面31と同一面に加工されている。また、ガス抜き用入れ子4の下端面4bは、可動型1に形成されたガス排出路5と接続されている。なお、ガス抜き用入れ子4は、固定型2に装着してもよく、その場合は、固定型2にガス排出路5を形成する。
【0021】
また、
図2に示すように、固定型2には、図示しない射出成形機から溶融樹脂を供給するゲート部21、22、23が複数(3箇所:第1〜第3)箇所に設置されている。第1のゲート部21は、製品中央下部に設置され、第2のゲート部22は、製品側端下部に設置され、第3のゲート部23は、ランプ取付部に設置されている。第1のゲート部21から供給される溶融樹脂YJ1は矢印Q1の方向に流れ、第2のゲート部22から供給される溶融樹脂YJ2は矢印Q2の方向に流れ、第3のゲート部23から供給される溶融樹脂YJ3は矢印Q3の方向に流れる。矢印Q1、Q2、Q3の方向に流れる溶融樹脂YJ1、YJ2、YJ3は、合流部Pで合流する。
【0022】
また、
図3に示すように、可動型1には、キャビティ3の成形面31に蓄熱される成形熱を放出するため、冷却水流路6が適宜形成されている。冷却水流路6は、仮想線で示す従来のガス抜き用入れ子4B(
図9を参照)に比較して、小型化されたガス抜き用入れ子4の側壁近傍にも形成されているので、本射出成形用金型10は、ガス抜き用入れ子4を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすくなっている。
【0023】
次に、本射出成形用金型10のガス抜き用入れ子4の構造及びその製作方法を、
図4〜
図7を用いて説明する。
図4に、
図3に示すガス抜き用入れ子の斜視図を示す。
図5に、
図4に示すガス抜き用入れ子の製作方法を表す概略断面図を示し、(A)は、ベース部材とスペーサ部材とを拡散接合する前の状態を示し、(B)は、ベース部材とスペーサ部材とを拡散接合した後の状態を示す。
図6に、
図5(B)に示すB−B断面図を示す。
図7に、
図5に示す製作方法によって形成したガス抜き用入れ子の成形面を加工する前の状態を表す概略斜視図を示す。
【0024】
図4〜
図7に示すように、ガス抜き用入れ子4には、キャビティ3の成形面31に対して垂直状又は傾斜状に起立して厚さ方向Xで略等間隔に配置された複数個の薄板状のベース部材42と、上端431a、431bがベース部材42の上端に一致し隣接するベース部材42同士の隙間に幅方向Yで所定の隙間を空けて当接挿入された複数個の薄板状のスペーサ部材43(43a、43b)とを備えている。また、ガス抜き孔41は、ベース部材42とスペーサ部材43とを両者の当接部44で拡散接合することによって形成され、成形面31から離間するに従って拡張されている。ガス抜き孔41は、ガス抜き入れ子4の高さ方向Zに沿って形成されている。なお、
図5、
図6では、構造を簡素化して分かりやすくするため、ベース部材42が3個、スペーサ部材43(43a、43b)が8個の場合を例示している。
【0025】
また、
図4に示すように、ガス抜き用入れ子4の上端面4aは、キャビティ3の成形面31としてNC加工されている。そのNC加工された成形面31全体に、スリット溝状のガス抜き孔41が略均等かつ高密度に分布して形成され、ガス抜き用入れ子4の上端面4a(成形面31)全体が、ガス排出可能エリアとなっている。また、ガス抜き孔41は、合流部P(又は袋小路部PP)の最深部PSに位置する成形面31に対して略垂直方向に穿設されているので、溶融樹脂が合流部Pの最深部PSに位置する成形面31に流れ込むときに残留するガスGを先行してガス抜き孔41から確実に排出できる。
【0026】
また、
図5(A)(B)に示すように、ガス抜き孔41は、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とを両者の当接部44で拡散接合することによって形成したので、ガス抜き用入れ子4の上端面4aに形成されるガス抜き孔41は、スペーサ部材43の厚みd2によってスリットの溝幅が設定され、スペーサ部材43の隙間d3によってスリットの溝長さが設定される。
【0027】
また、ベース部材42の厚みd1によって、ガス抜き用入れ子4の厚さ方向Xにおけるガス抜き孔41の間隔が設定され、スペーサ部材43の幅d4によって、ガス抜き用入れ子4の幅方向Yにおけるガス抜き孔41の間隔が設定される。したがって、ガス抜き用入れ子4の上端面4a(成形面31)には、ベース部材42とスペーサ部材43の各幅と各厚みを適宜に設定することによって、必要な大きさのガス抜き孔41を略均等かつ高密度に分布して形成することができる。
【0028】
また、
図6に示すように、ガス抜き用入れ子4の外周側に位置するスペーサ部材43aは、高さ方向Zで幅d4が一定に形成され、ベース部材42の高さと同一に形成されている。一方、ガス抜き用入れ子4の内周側に位置するスペーサ部材43bは、高さ方向Zで上端面4a(成形面31)から離間するに従って幅d4が小さくなるように台形状に形成され、ベース部材42の高さより小さく形成されている。したがって、ガス抜き孔41は、ガス抜き用入れ子4の上端面4a(成形面31)から離間するに従ってスリットの溝長さが拡張されている。また、ガス抜き用入れ子4の下端側には、広い空隙Kが形成されている。この空隙Kは、内周側に位置するスペーサ部材43bの高さ方向の長さを予め短くしたものを拡散接合して形成しても良いが、拡散接合の後にガス抜き用入れ子4の下端面4bを機械加工することによって形成しても良い。
【0029】
なお、
図5(A)(B)に示すように、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とを両者の当接部44で拡散接合した段階では、ガス抜き用入れ子4は、厚さ方向X、幅方向Y、高さ方向Zに所定長さずつ延びる直方体として形成されている(
図7を参照)。直方体として形成されたガス抜き用入れ子4は、
図3、
図4に示すように、高さ方向Zを型開き方向と一致させて可動型1へ嵌合した後に、上端面4a(成形面31)が、可動型1の成形面31と共にNC加工によって形成される。
【0030】
また、
図5(A)に示すベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とが、それぞれ異なる材質の金属材料で形成され、何れか一方が鉄鋼材料からなり、何れか他方が銅合金材料又はアルミ合金材料からなる。例えば、ベース部材42が鉄鋼材料からなり、スペーサ部材43(43a、43b)が銅合金材料又はアルミ合金材料からなる。このように、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)は、それぞれ異なる材質の金属材料で形成されているが、両者の当接部44を拡散接合することによって、一体化することができる。その結果、ガス抜き用入れ子4における必要な強度を鉄鋼材料によって確保しながら、その熱伝導性を銅合金材料又はアルミ合金材料によって高めることができる。
【0031】
<作用効果>
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る射出成形用金型10によれば、ガス抜き用入れ子4には、キャビティ3の成形面31に対して垂直状又は傾斜状に起立して厚さ方向Xで略等間隔に配置された複数個の薄板状のベース部材42と、上端431a、431bがベース部材42の上端と一致し隣接するベース部材42同士の隙間に幅方向Yで所定の隙間を空けて当接挿入された複数個の薄板状のスペーサ部材43(43a、43b)とを備え、ガス抜き孔41は、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とを両者の当接部44で拡散接合することによって形成され、成形面31から離間するに従って拡張されているので、ガス抜き用入れ子4の成形面31には、ベース部材42同士の隙間と当該隙間に当接挿入されたスペーサ部材43(43a、43b)同士の隙間とによって輪郭形成されたスリット溝状のガス抜き孔41が、ガス抜き用入れ子4の幅方向Yに沿って縦列状に形成されると同時に、ガス抜き用入れ子4の厚さ方向Xに沿って並列状に形成される。そのため、ガス抜き用入れ子4の成形面31全体に、スリット溝状のガス抜き孔41が略均等かつ高密度に分布して形成され、ガス抜き用入れ子4の成形面31全体が、ガス排出可能エリアとなる。したがって、単位面積当たりのガス排出効率を高めることができ、その分だけガス抜き用入れ子4の外形形状を小型化することができる。また、ガス抜き用入れ子4の外形形状を小型化することによって、冷却水流路6の配置を制約される恐れが少なく、ガス抜き用入れ子4を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすくなる。
【0032】
また、ガス抜き孔41は、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とを両者の当接部44で拡散接合することによって形成されているので、ベース部材42の厚さ及び幅、並びにスペーサ部材43(43a、43b)の厚さ及び幅を任意に設定することによって、ガス抜き用入れ子4の外形形状及びガス抜き孔41の大きさ、並びにガス抜き孔41の分布密度を任意に選定できる。そのため、金型温度や樹脂粘度等の成形条件によって位置が移動しやすいガス抜きポイント(溶融樹脂の交流位置等)の位置ずれを簡単に吸収でき、ガス抜き用入れ子4の設置位置の自由度を高めることができる。
【0033】
また、ガス抜き孔41は、キャビティ3の成形面31から離間するに従って拡張されているので、成形面31の位置でガス抜き孔41の大きさを微小化しても、成形面31から離間するに従ってガス抜き孔41を拡張したことによって、樹脂やタール等が詰まりにくく、メンテナンス周期を長期化することができる。また、ガス抜き孔41の洗浄等も簡単に行うことができる。
【0034】
よって、本実施形態によれば、ガス抜き用入れ子4のメンテナンス周期を延ばすことが可能であって、ガス抜き用入れ子4を装着した範囲で必要な冷却性能を確保しやすく、ガス抜き用入れ子4の設置位置の自由度を向上できる射出成形用金型10を提供することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、ガス抜き孔41は、合流部P(又は袋小路部PP)の最深部PSに位置する成形面31に対して垂直方向に穿設されているので、溶融樹脂が合流部P(又は袋小路部PP)の最深部PSに位置する成形面31に流れ込むときに残留するガスGを先行してガス抜き孔41から確実に排出できる。そのため、キャビティ3内へのガス残りを防止しつつ、溶融樹脂内にガスを巻き込む恐れも低減できる。そのため、成形した樹脂部品の表面にガス焼けやピンホール等の品質不良が発生する恐れを、より一層低減させることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、ベース部材42とスペーサ部材43(43a、43b)とが、それぞれ異なる材質の金属材料で形成され、何れか一方が鉄鋼材料からなり、何れか他方が銅合金材料又はアルミ合金材料からなるので、ガス抜き用入れ子4における必要な強度を鉄鋼材料によって確保しながら、その熱伝導性を銅合金材料又はアルミ合金材料によって高めることができる。その結果、ガス抜き用入れ子4の耐久性を高めつつ、ガス抜き用入れ子4を装着した範囲でより一層冷却性能を高めることができる。
【0037】
<変形例>
本実施形態は、本発明の要旨を変更しない範囲で、各種構成に変更できることは言うまでもない。例えば、本実施形態では、キャビティ3に充填する溶融樹脂の合流部Pでガスを排出するガス抜き孔41を有するガス抜き用入れ子4を可動型に装着したが、
図2に示すキャビティ3に充填する溶融樹脂の袋小路部PPで、ガスを排出するガス抜き孔41を有するガス抜き用入れ子4を可動型1又は固定型2に装着してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、キャビティ内を流れる溶融樹脂の合流部や袋小路部にガス抜き用入れ子を備えた射出成形用金型に利用できる。
【符号の説明】
【0039】
1 可動型
2 固定型
3 キャビティ
4 ガス抜き用入れ子
10 射出成形用金型
31 成形面
41 ガス抜き孔
42 ベース部材
43 スペーサ部材
43a、43b スペーサ部材
44 当接部
431a、431b 上端
P 合流部
PP 袋小路部
PS 最深部
X 厚さ方向
Y 幅方向