(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
再生可能エネルギーを用いて発電し、得られた電力を用いてガスエネルギーを生成し、生成されたガスエネルギーを輸送し、輸送されたガスエネルギーを消費するガスエネルギー需給システムの最適化装置であって、
それぞれが記憶装置に記憶された、前記再生可能エネルギーによる発電の発電量に関する情報を記憶した発電量データベースと、前記ガスエネルギーの需要量に関する情報を記憶した需要量データベースと、前記ガスエネルギーを輸送する輸送手段に関する情報を記憶した輸送手段データベースと、前記ガスエネルギー需給システムを構成する設備に関する情報を記憶した設備データベースと、エネルギー単価に関する情報を記憶したエネルギー価格データベースとを参照して、
前記再生可能エネルギーを用いた発電、ガスエネルギーの生成、輸送及び需要のタイミングを考慮したエネルギーフローの最適化手法を用いて、
発電設備において再生可能エネルギーを用いて発電される電力量の制約と、
電力変換設備における変換効率に投入エネルギーを乗算することによって得られる電力変換設備のエネルギー変換の制約と、
貯蔵設備及び電力変換設備の負荷に関して最大設備容量、負荷変動の下限及び上限、負荷の下限及び上限の制約と、
エネルギーの合流及び分岐の制約と、
貯蔵設備でのガスエネルギーと電力の貯蔵の制約と、
エネルギーの需要家におけるエネルギー需要の制約と、
輸送手段によるガスエネルギーを供給する供給側から前記需要家へのガスエネルギーの輸送の制約と、
を満たすと共に、
前記供給側の収益、前記需要家の収益、又は、前記ガスエネルギー需給システム全体の収益を最大化するように、前記供給側及び前記需要家が有する設備の容量及び運転計画、並びに、前記輸送におけるガスエネルギーの輸送量及び輸送スケジュールを算出することを特徴とする、ガスエネルギー需給システムの最適化装置。
前記エネルギーフロー計算部による前記実行可能なエネルギーフローの計算及び前記最適エネルギーフロー計算部による前記最適エネルギーフローの計算が、線形計画法又は混合整数計画法により行われることを特徴とする、
請求項2に記載のガスエネルギー需給システムの最適化装置。
前記電力量の制約は、各時刻において発電設備の単位容量当たりの発電量に当該発電設備の容量を乗算することによって得られる再生可能エネルギーを用いて発電される電力量の制約であり、
前記エネルギー変換の制約は、各時刻において電力変換設備における変換効率に投入エネルギーを乗算することによって電力変換設備のエネルギー変換の制約であり、
前記最大設備容量の制約は、各時刻における貯蔵設備及び電力変換設備の負荷に関する最大設備容量の制約であり、
前記負荷変動の下限及び上限の制約は、各時刻における貯蔵設備及び電力変換設備の負荷変動の下限及び上限の制約であり、
前記負荷の下限及び上限の制約は、各時刻における貯蔵設備及び電力変換設備の負荷の下限及び上限の制約であり、
前記エネルギーの合流及び分岐の制約は、各時刻におけるエネルギーの合流点及び分岐点での投入エネルギーと出力エネルギーの制約であり、
前記ガスエネルギーと電力の貯蔵の制約は、各時刻における貯蔵設備での投入エネルギーから出力エネルギーを減算することによって得られるガスエネルギーと電力の貯蔵の制約であり、
前記エネルギー需要の制約は、各時刻における需要部へ供給される投入エネルギーの需要量の制約であり、
前記ガスエネルギーの輸送の制約は、各時刻における前記供給側から前記需要家へのガスエネルギーの輸送量の制約である、
請求項1又は2に記載のガスエネルギー需給システムの最適化装置。
前記供給側の収益は、前記供給側から前記需要家へ供給されたガスエネルギーの量に販売単価を乗算した収入と前記供給側の売電による収入の和から、当該ガスエネルギーの量に対して輸送に掛かった輸送コストのうち前記供給側が負担する供給側輸送コスト及び前記供給側が有する設備の設備コストを減算した値であり、
前記需要家の収益は、前記供給側から前記需要家へ供給されたガスエネルギーの量に購入単価を乗算した購入コスト、当該ガスエネルギーの量に対して輸送に掛かった輸送コストのうち前記需要家が負担する需要家輸送コスト及び前記需要家が有する設備の設備コストを減算した値を加算した値であり、
前記ガスエネルギー需給システム全体の収益は、前記供給側の収益と前記需要家の収益とを加算した値である、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のガスエネルギー需給システムの最適化装置。
再生可能エネルギーを用いて発電し、得られた電力を用いてガスエネルギーを生成し、生成されたガスエネルギーを輸送し、輸送されたガスエネルギーを消費するガスエネルギー需給システムの最適化プログラムであって、
前記再生可能エネルギーによる発電の発電量に関する情報を記憶した発電量データベースと、前記ガスエネルギーの需要量に関する情報を記憶した需要量データベースと、前記ガスエネルギーを輸送する輸送手段に関する情報を記憶した輸送手段データベースと、前記ガスエネルギー需給システムを構成する設備に関する情報を記憶した設備データベースと、エネルギー単価に関する情報を記憶したエネルギー価格データベースと、を記憶した記憶手段にアクセス可能なコンピュータを、
前記発電量データベース、前記需要量データベース、前記輸送手段データベース、前記設備データベース及び前記エネルギー価格データベースを参照して、前記再生可能エネルギーを用いた発電、ガスエネルギーの生成、輸送及び需要のタイミングを考慮したエネルギーフローの最適化手法を用いて、
発電設備において再生可能エネルギーを用いて発電される電力量の制約と、
電力変換設備における変換効率に投入エネルギーを乗算することによって得られる電力変換設備のエネルギー変換の制約と、
貯蔵設備及び電力変換設備の負荷に関して最大設備容量、負荷変動の下限及び上限、負荷の下限及び上限の制約と、
エネルギーの合流及び分岐の制約と、
貯蔵設備でのガスエネルギーと電力の貯蔵の制約と、
エネルギーの需要家におけるエネルギー需要の制約と、
輸送手段によるガスエネルギーを供給する供給側から前記需要家へのガスエネルギーの輸送の制約と、
を満たすと共に、
前記供給側の収益、前記需要家の収益、又は、前記ガスエネルギー需給システム全体の収益を最大化するように、前記供給側及び前記需要家が有する設備の容量及び運転計画、並びに、前記輸送におけるガスエネルギーの輸送量及び輸送スケジュールを算出する手段として機能させることを特徴とする、ガスエネルギー需給システムの最適化プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態におけるガスエネルギー需給システムの最適化装置100は、
図1に示すように、データベース入力手段102、エネルギーフロー計算部104及び最適エネルギーフロー計算部106を含んで構成される。すなわち、最適化装置100は、データベース入力、エネルギーフローの計算及び最適エネルギーフローの計算を順に行うことによってガスエネルギーの需給関係を有するガスエネルギー需給システムを最適化する処理を行う。
【0015】
最適化装置100は、
図2に示すように、処理部202、記憶部204(記憶装置)、入力部206、出力部208及び通信部210を含む一般的なコンピュータ200によって実現することができる。
【0016】
処理部202は、CPU等の演算処理を行う手段を含む。処理部202は、記憶部204に記憶されている熱源機器の最適化プログラムを実行することによって、本実施の形態における最適化装置100を実現する。記憶部204は、半導体メモリ、ハードディスク等の記憶手段を含む。記憶部204は、処理部202とアクセス可能に接続され、最適化プログラム、発電量データベース(以下「発電量DB」と記載する)102a、需要量データベース(以下「需要量DB」と記載する)102b、輸送手段データベース(以下「輸送手段DB」と記載する)102c、設備データベース(以下「設備DB」と記載する)102d、エネルギー価格データベース(以下「エネルギー価格DB」と記載する)102e、ガスエネルギー需給システムの制約条件及び目的関数等に関するデータ等、最適化装置100での処理に必要な情報を記憶する。入力部206は、コンピュータ200に情報を入力する手段を含む。入力部206は、例えば、ユーザからの入力を受けるタッチパネルやキーボード等を備える。出力部208は、ユーザから入力情報を受け付けるためのユーザインターフェース画面(UI)等やコンピュータ200での最適化結果を出力する手段を含む。出力部208は、例えば、ユーザに対して画像を呈示するディスプレイを備える。コンピュータ200は、その機能の一部をインターネット等の通信部210によって外部サーバに接続されてもよい。また、コンピュータ200は、その機能の一部を外部サーバ等にて実現してもよい。
【0017】
次に、最適化装置100の動作、すなわちガスエネルギー需給システムのエネルギーフローの最適化処理について、
図3に示すガスエネルギー需給システムの具体的モデルを例に挙げて説明する。
【0018】
図3は、最適化処理の対象となるガスエネルギー需給システムのモデルの一例を示す図である。需給システム300は、供給側302の設備として、発電設備310、電力を貯蔵する電力貯蔵設備312、電力からガスに変換する(P2G)変換設備314、生成したガスを貯蔵する貯蔵設備316、ガスを輸送形態に変換する変換設備318、輸送形態のガスを貯蔵する貯蔵設備320を備えている。また、需給システム300は、需要家306の設備として、輸送形態のガスを貯蔵する貯蔵設備322、ガスを使用形態に変換する変換設備324、使用形態のガスを貯蔵する貯蔵設備326、ガスを使用(消費)するガス需要部328、輸送形態のガスを電力に変換する変換設備330、電力を使用(消費)する電力需要部332を備えている。また、
図3に示すように、需給システム300では、輸送手段304により輸送形態のガスが供給側302から需要家306へと輸送される。なお、
図3に示す需給システム300では、説明のために供給側302及び需要家306が所有する各設備並びに輸送手段304をそれぞれ1つずつ記載したが、当該各設備及び輸送手段304は複数であってもよい。
【0019】
図3に示す需給システム300において、各設備間の矢印はエネルギーの流れを表している。矢印のうち、実線の矢印はガスの流れを表し、破線の矢印は電力の流れを表している。需給システム300では、発電設備310で生成された電力が変換設備314でガスエネルギーに変換され、供給側302及び需要家306の各設備並びに輸送手段304を介して、需要家306のガス需要部328等に供給される。このような設備間のエネルギーの流れを、エネルギーフローと称する。
【0020】
図3に示す発電設備310は、例えば、風力、太陽光、地熱、潮力、波力等の再生可能エネルギーを使用して発電する設備であって、例えば、太陽光発電装置、風力発電装置等が挙げられる。発電設備310で生成された電力は、一部が変換設備314に送られ、残部が電力貯蔵設備312に送られて貯蔵されるか、或いは、電力買取業者に送られる(
図3では売電と表記)。電力貯蔵設備312は、電力を貯蔵及び供給可能な設備であり、例えば二次電池等が挙げられる。変換設備314は、電力をガスエネルギーに変換する施設であり、例えば、電力により水を電気分解して水素を生成し、或いは、得られた水素と二酸化炭素との反応によりメタンを生成し、これら水素又はメタンをガスエネルギーとして供給する。貯蔵設備316、320、322及び326は、各種ガスエネルギーを貯蔵及び供給可能な設備であり、例えばタンク及びコンテナ等が挙げられる。変換設備318は、P2G技術により生成されたガスエネルギーを輸送により適した形態に変換する設備であり、例えば、水素の圧縮化、冷却及び圧縮による液体化、トルエンへの溶解(有機ハイドライド法)、金属への吸蔵等が挙げられる。
【0021】
輸送手段304は、輸送形態のガスエネルギーを供給側302から需要家306に輸送するものであり、例えば、タンクローリー、鉄道又はタンカ等による陸路又は海路での遠隔地輸送が挙げられる。需要家306が有する変換設備324は、輸送形態のガスエネルギーを、使用により適した形態に変換する設備である。ガス需要部328は、ガスエネルギーを消費する設備であり、例えば水素ステーションの供給設備等が挙げられる。変換設備330は、ガスエネルギーを電力に変換する設備であって、例えば燃料電池等が挙げられる。電力需要部332は、例えば従来の電力を消費する設備である。
【0022】
本実施形態に係る最適化装置100は、需給システム300におけるエネルギーフローの最適化処理を、以下の手順にて行う。
【0023】
まず、データベース入力手段102は、発電量DB102a、需要量DB102b、輸送手段DB102c、設備DB102d及びエネルギー価格DB102eに記憶される情報のデータ入力を受け付ける。以下、下付きの「i」は各設備等から出力されるエネルギーの番号(ID)を示し、下付きの「j」は各設備や輸送手段等の番号(ID)を示す。
【0024】
発電量DB102aには、供給側302が所有する発電設備310による再生エネルギーを用いた発電の時刻t毎の発電量に関する情報が含まれる。時刻tは、例えば10分毎、30分毎、1時間毎等の単位時間である。発電量DB102aに記憶される情報は、例えば発電設備310の時刻tにおける単位容量あたり発電量(P(t))等である。
【0025】
需要量DB102bには、需要家306における時刻毎のガスエネルギーの需要量に関する情報が含まれる。
図3に示すように需要家306がガスエネルギーから電力に変換する変換設備330を有し、得られた電力を電力需要部332で消費する場合は、需要量DB102bには、需要家306における時刻毎の電力の需要量に関する情報が含まれていてもよい。時刻は、例えば10分毎、30分毎、1時間毎等の単位時間である。需要量DB102bに記憶される情報は、例えばガス需要部328の時刻tにおける単位容量あたり需要量(D
i(t))及び電力需要部332の時刻tにおける単位容量あたり需要量(D
i(t))等である。
【0026】
輸送手段DB102cには、ガスエネルギーを輸送する輸送手段304に関する情報が含まれる。輸送手段DB102cに記憶される情報は、例えばガスエネルギーの輸送にかかる所要時間(T
tr)、単位輸送量あたりの輸送コスト(C
tr)、輸送手段304が貯蔵し得る最大容量等である。
【0027】
設備DB102dには、需給システム300を構成する設備であって、再生可能エネルギーを用いた発電からガスエネルギーの消費までのエネルギーフローを形成する設備に関する情報が含まれる。そのような設備としては、例えば、発電設備310、電力貯蔵設備312、変換設備314及び318、ガスの貯蔵設備316及び320等の供給側302の設備、並びに、ガスの貯蔵設備322及び326、変換設備324、電力への変換設備330等の需要家306側の設備が挙げられる。設備DB102dに記憶される情報は、例えば、これら設備の変換効率(η
j)、運転条件の一例である負荷制限(最小負荷:x
jmin、最大負荷:x
jmax、負荷変動下限:Δx
jmin、負荷変動上限:Δx
jmax)、運転条件の一例である最大設備容量(C
j)、設備コストの一例であるOPEX(運用コスト:OPEX
j)、設備コストの一例であるCAPEX(設備投資:CAPEX
j)等の情報である。
【0028】
エネルギー価格DB102eには、ガスエネルギー又は電力を購入又は販売する場合のエネルギー単価に関する情報が含まれる。エネルギー価格DB102eに記憶される情報は、例えば、供給側302が発電設備310で発電した電力を売電するときの売電単価(C
e1)、供給側302が需要家306にガスエネルギーを販売するときのガス販売単価(C
g1)、需要家306が需給システム300以外の外部からガスエネルギーを購入するときのガス購入単価(C
g2)、及び、需要家306が需給システム300以外の外部から電力を購入するときの売電単価(C
e2)等である。
【0029】
次に、エネルギーフロー計算部104により、発電量DB102a、需要量DB102b、輸送手段DB102c及び設備DB102dの情報に基づいて、ガスエネルギー需給システムにおける再生可能エネルギーを用いた発電からガスエネルギーの消費に至るエネルギーフローが作成される。具体的には、エネルギーフロー計算部104は、記憶部204に記憶された、各設備及び各時刻でのエネルギーフローの制約条件を表す式を呼び出し、これらの式を制約とする実行可能解を導出する。実行可能解として導出する変数は、時刻tにおける設備jへの入力エネルギー(x
j(t))、時刻tにおけるi番目の出力エネルギー(x
i(t))、設備jの容量(y
j)、時刻tにおける輸送手段の輸送量(z
j(t))、輸送手段の輸送間隔(輸送スケジュール:T
cycle)等である。制約条件を表す式は、記憶部204に予め記憶されていてもよく、入力部206を介して入力されて記憶部204に記憶されたデータであってもよい。
【0030】
図4及び
図5は、ガスエネルギー需給システムに設定される制約条件を説明する図である。なお、
図3に示す需給システム300では説明の便宜上、各工程に1つの設備を設けた単純なモデルを示したが、
図4、
図5及び以下の説明に示すように、エネルギーフローの作成においては、複数の設備が並列して設けられ、分岐点及び合流点が含まれる、より一般化したモデルに基づいて制約条件が設定される。
【0031】
(ア)発電の制約
図4(a)に示すように、発電設備による再生エネルギーを用いて発電された電力の他の設備への供給について、下記式(1)に示す制約条件が設定される。y
jは発電設備の容量を示し、P(t)は発電設備の時刻tにおける単位容量あたり発電量を示し、x
i(t)は発電設備の時刻tにおける出力エネルギーを示す。
【数1】
【0032】
(イ)エネルギー変換の制約
図4(b)に示すように、各設備において、下記式(2)に示す変換効率(η
j)の制約条件が設定される。
【数2】
【0033】
(ウ)設備負荷の制約
図4(c)に示すように、各設備の運転条件に関して、下記式(3)〜式(5)に示す制約条件が設定される。
図4(c)に示す設備は、各貯蔵設備又は各変換設備である。式(3)において、C
jは各設備の最大設備容量を示す。式(4)において、Δx
jminは各設備にかかる負荷変動の下限を示し、Δx
jmaxは各設備にかかる負荷変動の上限を示す。式(5)において、x
jminは各設備にかかる負荷の下限を示し、x
jmaxは各設備にかかる負荷の上限を示す。
【数3】
【数4】
【数5】
【0034】
(エ)合流、分岐点の制約
図4(d)に示すように、エネルギーの合流及び分岐点において、下記式(6)に示す制約条件が設定される。
【数6】
【0035】
(オ)貯蔵の制約
図4(e)に示すように、各貯蔵設備でのガスエネルギー又は電力の貯蔵において、下記式(7)に示す制約条件が設定される。式(7)において、S
j(t)は各設備の時刻tにおけるエネルギー貯蔵量を示す。
【数7】
【0036】
(カ)エネルギー需要の制約
図4(f)に示すように、各需要部でのエネルギー需要において、下記式(8)に示す制約条件が設定される。式(8)において、D
i(t)は各需要部の時刻tにおける単位容量あたりの需要量を示す。
【数8】
【0037】
(キ)エネルギー輸送の制約
図5は、本実施形態に係るガスエネルギー需給システムにおいて、輸送手段による供給側から需要家への輸送に関するエネルギーフローを説明する図である。
図5に示すように、まず供給側から供給量x
j(t)のガスエネルギーが各種輸送手段に供給された後、当該輸送手段が時刻t=n*T
cycleのタイミングで供給側から出発し、n回目の輸送が実施される。輸送手段によるガスエネルギー輸送の所要時間はT
trであるので、時刻t=(n*T
cycle+T
tr)のタイミングでガスエネルギーは需要家に到着する。このときに需要家に輸送されたガスエネルギーx
i(t)は、時刻(t−T
tr)において供給側から供給されたガスエネルギーx
j(t−T
tr)に等しい。また、本実施形態では、輸送手段によるガスエネルギーの輸送は、輸送間隔T
cycleを置いて定期的に行われる。即ち、
図5に示すように、n回目の輸送便の出発から輸送間隔T
cycleが経過した時刻t=(n+1)*T
cycleにおいて、(n+1)回目の輸送便が出発する。このような輸送手段による供給側から需要家へのガスエネルギー輸送において、下記式(9)及び式(10)に示す制約条件が設定される。式(9)及び(10)において、z
j(t)は各輸送手段の時刻tにおける輸送量を示し、T
cycleは輸送手段による輸送間隔を示し、nは供給側から需要家への輸送回数を示し、T
trは供給側から需要家への輸送にかかる所要時間を示す。
【数9】
【数10】
【0038】
エネルギーフロー計算部104は、上記の各制約条件に基づいて、実行可能なエネルギーフローを算出する。これにより、再生可能エネルギーを用いたP2G技術によるガスエネルギーの生成、輸送及び消費を含むガスエネルギー需給システムに対して、再生可能エネルギー用いた発電状況、輸送によるガス生成と消費との時間差、並びに需要家の消費状況等が及ぼす影響が考慮された、実行可能なエネルギーフローを算出することができる。
【0039】
次に、最適エネルギーフロー計算部106は、エネルギーフロー計算部104が算出した実行可能なエネルギーフローのうち、収益を最大化する最適エネルギーフローを作成する。具体的には、最適エネルギーフロー計算部106は、エネルギー価格DB102eが記憶する情報を参照しながら、記憶部204に記憶された目的関数を用いて最適化計算を行い、本実施形態に係るガスエネルギー需給システムにおいて、供給者、需要家又はガスエネルギー需給システム全体の収益を最大化する最適解を算出する。最適化計算は、例えば線形計画法又は混合整数計画法により行われる。
【0040】
図6は、本実施形態に係るガスエネルギー需給システムにおいて、供給側及び需要家の収支関係を説明する図である。
図6に示すように、供給側には、収入として需要家へのガス販売収入(M
1)及び売電による収入(M
4)があり、支出として、供給側が負担する輸送コスト(M
2)及び供給側が有する設備のコスト(M
3)がある。また、需要家には、支出として、供給側からのガス購入コスト(M
1)、需要家が負担する輸送費コスト(M
5)、需要家が有する設備のコスト(M
6)及び供給側以外の外部から購入するエネルギーのコスト(M
7)がある。よって、供給側の収益を表す関数、需要家の収益を表す関数、並びに、供給側及び需要家を含むガスエネルギー需要システム全体の収益を表す関数は、それぞれ下記式(11)〜式(13)のように定義される。これら式(11)〜式(13)を目的関数として、これらの値を最大化する最適化計算が実行される。
【数11】
【数12】
【数13】
【0041】
ここで、供給側のガス販売収入M
1は、下記式(14)によって求められる。式(14)において、C
g1は供給側が需要家にガスエネルギーを販売するときのガス販売単価を示し、z
j(t)は時刻tにおけるガスエネルギーの輸送量を示す。
【数14】
【0042】
供給側が負担する輸送コストM
2は、下記式(15)によって求められる。式(15)において、Rateは供給側と需要家との輸送コストの負担割合を示し、C
trは単位輸送量あたりの輸送コストを示し、z
j(t)は時刻tにおけるガスエネルギーの輸送量を示す。
【数15】
【0043】
供給側が有する設備のコストM
3は、下記式(16)によって求められる。式(16)において、CAPEX
jは供給側が有する設備jのCAPEXを示し、OPEX
jは供給側が有する設備jのOPEXを示し、y
jは供給側が有する設備jの容量を示す。
【数16】
【0044】
供給側の売電による収入M
4は、下記式(17)によって求められる。式(17)において、C
e1は供給側が発電設備で発電した電力を売電するときの売電単価を示し、x
j(t)は時刻tにおける供給側の売電量を示す。
【数17】
【0045】
需要家が負担する輸送費コストM
5は、下記式(18)によって求められる。式(18)において、Rateは供給側と需要家との輸送コストの負担割合を示し、C
trは単位輸送量あたりの輸送コストを示し、z
j(t)は時刻tにおけるガスエネルギーの輸送量を示す。
【数18】
【0046】
需要家が有する設備のコストM
6は、下記式(19)によって求められる。式(19)において、CAPEX
jは需要家が有する設備jのCAPEXを示し、OPEX
jは需要家が有する設備jのOPEXを示し、y
jは需要家が有する設備jの容量を示す。
【数19】
【0047】
需要家が供給側以外から購入するエネルギーのコストM
7は、下記式(20)によって求められる。式(20)において、x
g(t)は時刻tにおいて需要家が外部から購入するガスエネルギーの購入量を示し、C
g2はその購入するガスエネルギーの購入単価を示し、x
e(t)は時刻tにおいて需要家が外部から購入する電力の購入量を示し、C
e2はその購入する電力の購入単価を示す。
【数20】
【0048】
このように、最適エネルギーフロー計算部106により、式(11)〜式(13)のいずれかで示される収益を最大化するエネルギーフローが求められる。例えば、エネルギーフロー計算部104により実行可能なエネルギーフローの初期状態を設定した後、最適エネルギーフロー計算部106により最適化計算を行うことによって、本実施形態に係るガスエネルギー需給システムの時刻tにおけるエネルギーフローの最適解を導出することができる。最適化計算により最適解として導出される変数は、例えば、時刻tにおける設備jへの入力エネルギー(x
j(t))、時刻tにおけるi番目の出力エネルギー(x
i(t))、設備jの容量(y
j)、時刻tにおける輸送手段の輸送量(z
j(t))、輸送手段の輸送間隔(T
cycle)、供給側と需要家との輸送コストの負担割合Rate等である。なお、ある1つの設備jの運転計画は、当該設備jにおける入力エネルギー(x
j(t))及びi番目の出力エネルギー(x
i(t))により表される。また、最適化計算により、式(11)で表される供給側の収益、式(12)で表される需要家の収益、及び、式(13)で表されるガスエネルギー需給システム全体の収益がそれぞれ出力される。
【0049】
最適エネルギーフロー計算部106により算出された最適解は、記憶部204に格納される。供給側及び需要家等のユーザは、ガスエネルギー需給システムにおけるエネルギーフローの最適化計算の結果から、ガスエネルギー需給システムの設備構成、各設備の運転計画、設備導入計画等を策定することができる。また、策定したガスエネルギー需給システムにおける各設備の運転計画等を実行するための処理プログラムを有する制御装置をガスエネルギー需給システムに設置して、運転計画に基づいた各設備の自動運転を行うことも可能である。
【0050】
なお、上記の説明では、所定の輸送間隔T
cycleにて定期的にガスエネルギーを輸送する例を示したが、輸送手段によるガスエネルギーの輸送スケジュールはこれに限定されず、例えば、日毎、週毎又は月毎等の所定期間毎に輸送便の出発時刻を適宜設定してもよい。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、再生可能エネルギーからP2G技術により生成されたガスエネルギーの生成、輸送及び消費を含むガスエネルギー需給システムに対して、再生可能エネルギーを用いた発電状況やガスエネルギーの生成状況、輸送によるガス生成と消費との時間差、並びに需要家の消費状況等が及ぼす影響を考慮して、エネルギーフローの最適化計算を行うことができる。すなわち、再生可能エネルギーを用いた発電のタイミング、並びに、ガスエネルギーの生成、輸送及び需要のタイミングを順守し、なお且つ、ガスエネルギーの供給側の収益、当該ガスエネルギーを消費する需要家の収益、又は、ガスエネルギー需給システム全体の収益を最大化するエネルギーフロー、より詳しくは、供給者及び需要家が有する設備の容量及び運転計画、並びに、供給者輸送におけるガスエネルギーの輸送量及び輸送スケジュールの算出を行うことができる。その結果、再生可能エネルギー由来のP2G技術を利用したサプライチェーンに関して、ガスエネルギーの供給側(生産側)と需要家の両者を含む事業の経済性と、収益最大化を実現するシステム構成とをより正確に評価することができる。