(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874714
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】光検出器及び光学測距装置
(51)【国際特許分類】
H01L 31/10 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
H01L31/10 G
H01L31/10 A
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-29548(P2018-29548)
(22)【出願日】2018年2月22日
(65)【公開番号】特開2019-145702(P2019-145702A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2019年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】高井 勇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 誠悟
【審査官】
桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2017/0242102(US,A1)
【文献】
特開2012−060012(JP,A)
【文献】
特開2016−145776(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0177369(US,A1)
【文献】
特開2014−081253(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第103415784(CN,A)
【文献】
NICLASS Cristiano et al.,A 100-m Range 10-Frame/s 340 × 96-Pixel Time-of-Flight Depth Sensor in 0.18-μm CMOS,IEEE Journal of Solid-State Circuits,IEEE,2012年12月20日,Volume: 48, Issue:2,pp.559-572,DOI:10.1109/JSSC.2012.2227607,URL,https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=6387335
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/0392
H01L 31/08−31/119
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の受光素子を有するアレイと、
前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、
を備え、
前記アレイを構成する前記受光素子のオン状態とオフ状態とを時間的に切り替えながら得られた前記受光素子の出力信号に対して、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項2】
請求項1に記載の光検出器であって、
前記受光素子のオン状態とオフ状態とをランダムに切り替えることを特徴とする光検出器。
【請求項3】
複数の受光素子を有するアレイと、
前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、
を備え、
前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を一定に維持しつつ、前記受光素子のオン状態とオフ状態とを時間的に切り替え、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項4】
複数の受光素子を有するアレイと、
前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、
を備え、
前記アレイを構成する前記受光素子のうち一部を時間的に切り替えて選択しながら得られた前記受光素子の出力信号に対して、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項5】
請求項4に記載の光検出器であって、
前記受光素子をランダムに選択することを特徴とする光検出器。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光検出器であって、
前記アレイを構成する前記受光素子のうち一部から得られた出力信号と、それと同時に前記受光素子の残りの一部から得られた出力信号と、に対して前記圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項7】
複数の受光素子を有するアレイと、
前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、
を備え、
受光素子数を測定回数に応じて前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を設定し、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項8】
複数の受光素子を有するアレイと、
前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、
を備え、
背景光の強度に応じて前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を設定し、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の光検出器であって、
前記受光素子は、ガイガーモードで使用されるアバランシェフォトダイオードであり、
前記アバランシェフォトダイオードの各々からの出力信号をそれぞれ矩形パルスに変換する複数の弁別回路を備え、
前記加算回路は、前記複数の弁別回路によって生成された前記矩形パルスを加算して出力することを特徴とする光検出器。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の光検出器であって、
前記加算回路からの出力を閾値処理することを特徴とする光検出器。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の光検出器であって、
前記圧縮センシング処理によって前記受光素子のうち故障した素子を診断可能であることを特徴とする光検出器。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の光検出器を備え、
照射光の飛行時間検出により測距を行う光学測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光検出器に関し、特に、アバランシェ効果を利用した光検出器及び光学測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信や光レーダ等において微弱な光信号を検出するための受光素子としてアバランシェフォトダイオード(APD)が用いられている。APDにフォトンが入射すると電子・正孔対が生成され、電子と正孔が各々高電解で加速されて、次々と雪崩のように衝突電離を引き起こして新たな電子・正孔対を生成する。
【0003】
APDの使用モードには、逆バイアス電圧を降伏電圧(ブレークダウン電圧)未満で動作させるリニアモードと、降伏電圧以上で動作させるガイガーモードがある。リニアモードでは生成される電子・正孔対の割合よりも消滅(高電界から出る)する電子・正孔対の割合が大きく、アバランシェは自然に止まる。出力電流は入射光量にほぼ比例するため入射光量の測定に用いることができる。ガイガーモードでは、単一フォトンの入射でもアバランシェ現象を起こすことができる。このようなフォトダイオードをシングルフォトンフォトダイオード(SPAD:Single Photon Avalanche Diode)という。SPADでは、印加電圧を降伏電圧まで下げることによりアバランシェを止めることができる。印加電圧を下げてアバランシェ現象を停止させることはクエンチングと呼ばれる。最も単純なクエンチング回路はAPDと直列にクエンチング抵抗を接続することで実現される。アバランシェ電流が生ずるとクエンチング抵抗端子間の電圧上昇によってAPDのバイアス電圧が降下し、降伏電圧未満となるとアバランシェ電流が止まる。APDには高電界を印加できるため、微弱光に高速に応答することができ、光学的測距装置や光通信等の分野で広く使われている。
【0004】
APDを用いて飛行時間計測法(TOF:Time of Flight)を行う光学的測距装置は、そのナノ秒程度の測定精度及び低消費電力性から道路上の障害物や人までの距離を測定する衝突回避安全装置等に適用できる。このような光学的測距装置は、反応速度、耐ノイズ性、感度、省電力性、サイズ及びコスト面からの要求を満たす必要がある。このような要件を幾つか満たすものとして相補型金属酸化膜半導体技術(CMOS:complementary metal−oxide−semiconductor)が知られている。このCMOS技術をAPDへ適用したシリコンフォトマルチプライヤ(SiPM:Silicon Photo Multipliers)が知られている(非特許文献1)。SiPMは、複数のAPDをアレイ状に行列配置し、複数のAPDをまとめて1つの画素として扱うマイクロピクセル(MP)構成として利用される。これにより、背景光による信号の飽和を抑制したり、信号ノイズ比(S/N)を向上させたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−179828号公報
【特許文献2】米国特許公開第2009/0121306号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Silicon photomultiplier and its possible application", Nuclear Inst. & Methods in Physics Research, 2003, 504(1-3), pp. 48-52.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、複数のAPDをまとめたMP構造とした場合、複数の画素を1つの画素として扱うために信号の空間的な解像度が低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの態様は、複数の受光素子を有するアレイと、前記受光素子からの出力を加算して出力する加算回路と、を備え、前記アレイに含まれる前記受光素子のうち有効な受光素子の組み合わせを変更しつつ前記加算回路から出力された複数の測定結果から前記受光素子毎又は前記受光素子のグループ毎の出力信号を求める圧縮センシング処理を施すことを特徴とする光検出器である。
【0009】
ここで、前記受光素子は、ガイガーモードで使用されるアバランシェフォトダイオードであり、前記アバランシェフォトダイオードの各々からの出力信号をそれぞれ矩形パルスに変換する複数の弁別回路を備え、前記加算回路は、前記複数の弁別回路によって生成された前記矩形パルスを加算して出力することが好適である。
【0010】
また、前記加算回路からの出力を閾値処理することが好適である。
【0011】
また、前記アレイを構成する前記受光素子のオン状態とオフ状態とを時間的に切り替えながら得られた前記受光素子の出力信号に対して前記圧縮センシング処理を施すことが好適である。
【0012】
また、前記受光素子のオン状態とオフ状態とをランダムに切り替えることが好適である。また、前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を一定に維持しつつ、前記受光素子のオン状態とオフ状態とを時間的に切り替えることが好適である。
【0013】
また、前記アレイを構成する前記受光素子のうち一部を時間的に切り替えて選択しながら得られた前記受光素子の出力信号に対して前記圧縮センシング処理を施すことが好適である。
【0014】
また、前記受光素子をランダムに選択することが好適である。
【0015】
また、前記アレイを構成する前記受光素子のうち一部から得られた出力信号と、それと同時に前記受光素子の残りの一部から得られた出力信号と、に対して前記圧縮センシング処理を施すことが好適である。
【0016】
また、受光素子数を測定回数に応じて前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を設定することが好適である。
【0017】
また、前記圧縮センシング処理によって前記受光素子のうち故障した素子を診断可能であることが好適である。
【0018】
また、背景光の強度に応じて前記受光素子のオン状態とオフ状態との割合を設定することが好適である。
【0019】
本発明の別の態様は、上記のいずれかの光検出器を備え、照射光の飛行時間検出により測距を行う光学測距装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マイクロピクセル(MP)構成において高い空間解像度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施の形態における光検出器の構成を示す図である。
【
図2】第1の実施の形態における光検出器の構成例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態における弁別回路の構成を示す図である。
【
図4】第1の実施の形態における光検出器の動作を示すタイミングチャートである。
【
図5】第1の実施の形態におけるシングルフォトンアバランシェフォトダイオードのオン状態/オフ状態の例を示す図である。
【
図6】第1の実施の形態における測定結果例を示す図である。
【
図7】第1の実施の形態において複数の画素を纏めてグループにして制御する構成を示す図である。
【
図8】変形例1における光検出器の構成を示す図である。
【
図9】変形例1における測定結果例を示す図である。
【
図10】変形例1におけるオン状態/オフ状態を制御する構成を示す図である。
【
図11】変形例2における光検出器の構成を示す図である。
【
図12】変形例2における光検出器の制御方法を示す図である。
【
図13】変形例2における光検出器の制御パターンを示す図である。
【
図14】変位例2におけるクロストークの影響を低減する効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<第1の実施の形態>
第1の実施の形態における光検出器100は、
図1に示すように、受光部102、弁別部104及び信号処理部106を含んで構成される。
図2は、光検出器100の具体的な構成例を示す。
【0023】
受光部102は、受光素子であるシリコンフォトマルチプライヤ(SiPM)10(10a〜10n)及びクエンチング素子12(12a〜12n)を含んで構成される。弁別部104は、弁別回路14(14a〜14n)を含んで構成される。信号処理部106は、電流源16(16a〜16n)を含んで構成される。
【0024】
なお、
図1では、画素数nが16の場合について示している。もちろん、本発明の適用範囲は16の画素に限定されるものではない。
【0025】
以下の説明では、各信号がハイレベルのときをアクティブ状態、ローレベルのときを非アクティブ状態として説明するが、ローレベルのときをアクティブ状態、ハイレベルのときを非アクティブ状態とする回路構成としても同様の作用・効果を得ることができる。
【0026】
受光部102は、シングルフォトンアバランシェフォトダイオード(SPAD)10a〜10nのアレイを含む。SiPM10は、SPAD10a〜10nを含んで構成される。各SPAD10a〜10nは、ガイガーモードで動作する。すなわち、各SPAD10a〜10nは、逆バイアス電圧を降伏電圧以上として動作させられ、単一フォトンの入射でもアバランシェ現象を起こすフォトカウンティング型の受光素子として機能する。したがって、SiPM10は、レーザ光等の入射光に対して高い感度を有する。
【0027】
ここで、各SPAD10a〜10nは、ガードリングや金属配線の領域をできるだけ小さくし、素子面積に対する受光領域の割合であるフィルファクタ(開口率)を高めることが好適である。特に、クエンチング素子やリチャージ素子を行列状に配置されたSPADの内部に形成しないことで、フィルファクタを高めることができる。
【0028】
クエンチング素子12(12a〜12n)は、トランジスタで構成することができる。クエンチング素子12(12a〜12n)は、SPAD10a〜10nの外部において配線によってSPAD10a〜10nに対して接続することが好適である。
【0029】
SPAD10a〜10nにアバランシェ電流が生ずるとクエンチング素子12の端子間の電圧上昇によってSPAD10a〜10nに対するバイアス電圧が降下し、降伏電圧未満となるとアバランシェ電流が止まる。クエンチング素子12(12a〜12n)は、各SPAD10a〜10nに直列に接続され、弁別回路14(14a〜14n)のそれぞれに対する出力電圧を発生させるためにも利用される。
【0030】
クエンチング素子12をオン/オフすることによって、SiPM10のSPAD10a〜10nの各々を光を受光した際に信号を出力する状態(オン状態)と出力しない状態(オフ状態)に切り替えることができる。
【0031】
弁別回路14(14a〜14n)は、SPAD10a〜10n及びクエンチング素子12a〜12nのペア毎にそれぞれ設けられる。以下、弁別回路14aを例に説明するが、弁別回路14b,14c及び14nも同様である。
【0032】
弁別回路14aは、クエンチング素子12aの端子電圧を所定の基準値と比較し、その比較結果に応じて矩形パルスを生成する。弁別回路14aは、
図3に示すように、コンパレータ20、遅延素子22及びアンド素子24を含んで構成することかできる。また、
図4に弁別回路14a〜14nの動作を説明するためのタイミングチャートを示す。
【0033】
コンパレータ20は、クエンチング素子12aの端子電圧Vaを受けて、端子電圧Vaと基準電圧V
REFとを比較し、端子電圧Vaが基準電圧V
REF以上であればハイレベルであり、端子電圧Vaが基準電圧V
REF未満であればローレベルである出力パルスA1を出力する。遅延素子22は、コンパレータ20の出力パルスを受けて、出力パルスの変化を遅延時間Wだけ遅延させて出力パルスB1として出力する。遅延時間Wは、SPAD10aのデッドタイム、すなわちSPAD10aの出力である端子電圧Vaの立ち上がりから消滅までの時間よりも短い時間とすることが好適である。具体的には、遅延時間Wは、1n秒以上20n秒以下とすることがより好適である。アンド素子24は、コンパレータ20からの出力パルスA1と、遅延素子22からの出力パルスB1の反転信号と、を受けて、それらの論理積を算出して出力する。これにより、弁別回路14aは、SPAD10aからの出力である端子電圧Vaが基準電圧V
REF以上となった時点から所定の遅延時間Wだけのパルス幅を有する矩形パルスC1を生成して出力する。
【0034】
なお、SPAD10aの出力である端子電圧Vaは、SPAD10aがフォトンの受光時刻に応じて急峻な立ち上がりを示すので、矩形パルスC1はSPAD10aがフォトンを受けた時刻とほぼ同時に立ち上がる信号となる。また、
図4に示すように、弁別回路14b,14c及び14nも弁別回路14aと同様に機能する。
【0035】
電流源16(16a〜16n)は、弁別回路14(14a〜14n)から出力される矩形パルスC1〜C4を受けて、それぞれ矩形パルスC1〜C4がハイレベルとなっている期間に所定値の電流を流す。電流源16(16a〜16n)は、1つの出力端子T1に接続され、
図2に示すように、出力端子T1には電流源16(16a〜16n)から出力される電流を加算した加算電流Isumが流れる。すなわち、電流源16は加算回路を構成する。
【0036】
加算電流Isumは、
図4に示すように、SiPM10に含まれるSPAD10a〜10nでほぼ同時に検出された光子の合計数に応じた値となる。したがって、加算電流Isumをトリガ信号として利用することによって、被測定対象物で反射されたレーザ光の検出精度を高めることができる。例えば、本実施の形態では、加算電流Isumが3単位(SPAD10a〜10nのうち3つにフォトンが入射した状態)以上となった場合にトリガ信号を出力するものとすれば定常的なノイズの影響を低減し、パルス光の検出を高い精度で行うことができる。
【0037】
本実施の形態では、SiPM10に含まれるSPAD10a〜10nの各素子のオン状態/オフ状態を切り替えて複数回の測定を行い、その出力信号から各素子の出力を算出する処理を行う。例えば、
図5に示すように、対象空間にパルス光を照射し、当該照射の時刻t0から所定時間経過した時刻t1,t2...tmにおいてSPAD10a〜10nの半分(50%)の素子がオン状態となるように各素子のオン状態/オフ状態をランダムに切り替えて測定する(
図5中、ハッチングを施したSPADをオン状態、ハッチングを施していないSPADをオフ状態とする)。これをk回繰り返すことによって、
図6に示すような測定結果が得られる。
【0038】
このような測定において、同じ時刻に出力されたk個の信号について圧縮センシングの技術を適用することによってSPAD10a〜10nの各素子のいずれかが反応しているかを求めることができる。例えば、1〜k回繰り返された測定において時刻t1において出力された信号について圧縮センシングの技術を適用することによって、時刻t1においてSPAD10a〜10nの各素子のいずれかがより多く反応し、いずれかがより少なく反応しているのかを求めることができる。
【0039】
圧縮センシングの技術は、既存の技術を適用すればよい。例えば、米国特許出願第11/379,688号明細書に記載の方法を適用すればよい。
【0040】
以上の処理により、光検出器100における空間解像度を向上させることができる。特に、光検出器100を用いたセンシングでは、各時刻において反応しているSPADの数は非常に少ないことが多い。すなわち、信号のスパース性が高く、圧縮サンプリングの効果は非常に高くなる。したがって、少ない測定回数においても高い解像度を得ることができる。特に、回路の規模を小さく維持しつつ、SPAD10a〜10nの各々の出力を求めることができる。また、SPAD10a〜10nの各々の出力に基づいて、故障した素子や不調な素子を抽出することができる。例えば、SPAD10a〜10nの各々について、その出力が所定の閾値未満である素子を故障や不調と判断すればよい。
【0041】
なお、最も少ない測定回数で空間解像度を向上できるのはSPAD10a〜10nの半分をオン状態とし、残りの半分をオフ状態とした場合であるが、信号ノイズ比(S/N)や背景光の強さに応じてオン状態/オフ状態の割合を変更してもよい。
【0042】
例えば、SPAD10a〜10nのうちオン状態の割合を増やすことで、信号ノイズ比(S/N)の低下を低減することができる。具体的には、受光素子数に対して測定回数の比率が高いときにはオン状態とするSPADの割合を増加させる制御を行えばよい。
【0043】
また、例えば、SPAD10a〜10nのうちオン状態の割合を減らすことで、背景光による出力信号の飽和を防ぐことができる。具体的には、背景光の変化に応じて、背景光が大きくなったときにはオン状態とするSPADの割合を低下させ、背景光が小さくなったときにはオン状態とするSPADの割合を増加させる制御を行えばよい。背景光は、光検出器100に別途設けた感光センサ等で測定してもよいし、パルス信号を出力していない状態におけるSiPM10の出力信号の強度に基づいて測定してもよい。
【0044】
また、本実施の形態では、オン状態/オフ状態とするSPADをランダムに選択するものとしたが、予め定められたパターンに沿って選択するようにしてもよい。パターンは、所定の規則性をもって定めてもよいし、過去の光の入射パターンに基づいて定めてもよい。
【0045】
また、信号強度が小さい時や積算回数を稼げない時には、SPAD10a〜10nのうち複数の素子を纏めてグループとして、各グループのオン状態/オフ状態を一括制御するようにしてもよい。これにより、光検出器100の空間解像度を犠牲にして、信号ノイズ比(S/N)を向上させることができる。
【0046】
例えば、
図7に示すように、隣接する4つの素子を1つのグループ(
図7中、同じグループの素子には同じハッチングを施して示す)とし、グループ毎にオン状態/オフ状態を制御するようにしてもよい。この場合、空間解像度は1/4に低下するが、信号ノイズ比(S/N)を2倍に向上させることができる。
【0047】
また、光検出器100は、
図1に示した構成に限定されるものではない。例えば、特開2012−060012号公報等に記載された構成を適用することもできる。
【0048】
<変形例1>
図8は、変形例1における光検出器200の構成を示す図である。光検出器200は、受光部102、弁別部104、信号処理部106(106a,106b)に加えて、分配器108を含んで構成される。
【0049】
分配器108は、弁別部104と信号処理部106(106a,106b)との間に設けられ、弁別部104の出力信号を排他的に信号処理部106aと信号処理部106bとに振り分けて出力する。すなわち、分配器108は、弁別部104から出力されるSPAD10a〜10nの信号の一部を選択して信号処理部106aに入力し、弁別部104から出力されるSPAD10a〜10nの信号の残りを選択して信号処理部106bに入力する。
【0050】
本変形例1では、分配器108によってSPAD10a〜10nの各素子の出力を切り替えて信号処理部106a,106bに振り分けながら複数回の測定を行う。そして、その出力信号から各素子の出力を算出する処理を行う。例えば、対象空間にパルス光を照射し、当該照射の時刻t0から所定時間経過した時刻t1,t2...tmにおいてSPAD10a〜10nの半分(50%)の素子からの出力が信号処理部106aに入力され、残りの半分(50%)の素子からの出力が信号処理部106bに入力される状態で1回の測定を行う。その後、信号処理部106aと信号処理部106bに入力される信号数の割合は変化しないように、分配器108をランダムに切り替えて次の回の測定を行う。このような測定を繰り返すことで、
図9に示すような測定結果が得られる。
【0051】
そして、パルス光を出射してからの経過時間が同じ時刻に出力された信号について圧縮センシングの技術を適用することによってSPAD10a〜10nの各素子のいずれかが反応しているかを求めることができる。
【0052】
これにより、SPADをオフ状態にすることなく、光検出器100における空間解像度を向上させることができる。したがって、測定時のロスをなくし、全体的な信号ノイズ比(S/N)を低下させることなく、空間解像度を高めることができる。
【0053】
なお、本変形例1では、信号処理部106を2つ設けて、分配器108にてSPAD10a〜10nからの出力信号を2分割する構成としたが、これに限定されるものではなく、信号処理部106を3つ以上設けてそれぞれに出力信号を分別して入力する構成としてもよい。
【0054】
また、信号処理部106aと信号処理部106bに入力される信号の数を均等にせず、異なる割合としてもよい。例えば、信号処理部106aに60%の信号が入力され、信号処理部106bに40%の信号が入力されるように分配器108を制御するようにしてもよい。入力信号の数が多い信号処理部106aからの出力信号を用いて処理すれば、信号ノイズ比を向上させることができる。また、入力信号の数が少ない信号処理部106bからの出力信号を用いて処理すれば、背景光の影響を低減することができる。
【0055】
また、本変形例において、
図10に示すように、SPAD10a〜10nの一部をオン状態とし、残りをオフ状態とするようにしてもよい(
図10中、ハッチングを施したSPADをオン状態、ハッチングを施していないSPADをオフ状態とする)。この場合、分配器108によってオン状態としたSPAD10a〜10nのうち一部の出力信号を信号処理部106aに入力させ、SPAD10a〜10nのうち残りの出力信号を信号処理部106bに入力させるようにすればよい。
【0056】
例えば、上記実施の形態と同様に、背景光の変化に応じて、背景光が大きくなったときにはオン状態とするSPADの割合を低下させ、背景光が小さくなったときにはオン状態とするSPADの割合を増加させる制御を行えばよい。
【0057】
<変形例2>
MP構造とされたSiPM10に含まれるSPAD10a〜10nが光子に反応した場合、反応後の一定期間は光子に再度反応できない時間、すなわちデッドタイムが生ずる。そこで、本変形例では、周期的にSiPM10を構成するSPAD10a〜10nのオン状態とオフ状態とを周期的に切り替えてデッドタイムをずらすことで、光検出器100全体としてデットタイムの影響を抑制する。
【0058】
例えば、
図11に示すように、第1状態と第2状態とを素子を切り替える(
図11中、ハッチングを施したSPADをオン状態、ハッチングを施していないSPADをオフ状態とする)。すなわち、SPAD10a〜10nのうち隣り合う素子が交互にオン状態とオフ状態となるように制御する。
【0059】
このとき、
図12に示すように、第1状態と第2状態とを切り替える周期TとデッドタイムTdとがT<Td<2Tの関係を満たすようにSPAD10a〜10nのオン状態/オフ状態を制御することが好適である。
【0060】
これにより、デッドタイムの影響を避けて、光検出器100による測定を行うことができる。
【0061】
なお、本変形例では、SPAD10a〜10nを2つの状態に分けて切り替える構成としたが、3つ以上のn個の状態に分けて切り替える構成としてもよい。この場合、n個の状態を切り替える周期Tとデッドタイムとの関係がT<Td<nTを満たすように制御することが好適である。すなわち、SPAD10a〜10nのうちオン状態にされた素子について、オン状態にされた時刻t1から、オフ状態に戻される時刻t2までの期間(t2−t1)がデッドタイムよりも短く、再度オン状態にされる時刻t3までの期間(t3−t1)がデッドタイムTdよりも長くなるよう制御することが好適である。
【0062】
また、SiPM10間のクロストークの影響がある場合、オン状態にされている素子の間をクロストークが発生する距離よりも大きくするパターンとすることが好適である。
【0063】
例えば、
図13に示すようなSiPM10のパターンにおいて、クロストークが2素子分だけ離れた素子までしか生じない場合、オン状態にされている素子の間をクロストークが発生する距離よりも大きくしたパターンAとパターンBとを切り替えるようにすることが好適である(
図13中、ハッチングを施したSPADをオフ状態、ハッチングを施していないSPADをオン状態とする)。切替の時間は、デッドタイムよりも短い時間とする。
【0064】
図14に示すように、パターンAのときにSPAD10Aにフォトンが入射した場合、クロストークの影響が及ぶ可能性があるSPAD10B,SPAD10Cはオフ状態であるのでクロストークによる素子の反応は生じない。したがって、パターンAからパターンBへ切り替えられたときに、SPAD10B,SPAD10Cがデッドタイムになっていることを防ぐことができる。すなわち、クロストークの影響を低減することができる。
【0065】
また、本変形例と上記実施の形態や変形例1の構成を組み合わせてもよい。例えば、上記のデッドタイムの影響を避ける条件を満たすSPAD10a〜10nのうちオン状態とする素子をランダムに選択しつつ測定を行うことで、デッドタイムの影響をさけつつ、圧縮センシング処理により空間解像度を高めることができる。
【符号の説明】
【0066】
10(10a〜10n) SPAD、12(12a〜12n) クエンチング素子、14(14a〜14n) 弁別回路、20 コンパレータ、22 遅延素子、24 アンド素子、16(16a〜16n) 電流源、100 光検出器、102 受光部、104 弁別部、106(106a,106b) 信号処理部、108 分配器、200 光検出器。