(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、サンドイッチ構造の圧電振動デバイスにおいても、さらなる小面積化が求められている。しかしながら、サンドイッチ構造の圧電振動デバイスにおいて小面積化を図り、かつ、第1封止部材をATカット水晶板にて形成した場合、第1封止部材に形成されるスルーホールに亀裂が生じ易くなるといった課題が本願発明者により発見された。
【0006】
ここで、
図12は、サンドイッチ構造の圧電振動デバイス500の概略構成を示す断面図である。圧電振動デバイス500は、水晶振動板510、第1封止部材520および第2封止部材530を備えており、水晶振動板510と第1封止部材520とが接合され、水晶振動板510と第2封止部材530とが接合されることによって、略直方体のパッケージが構成される。
【0007】
水晶振動板510は、両面に一対の励振電極(図示せず)が形成された振動部511と、この振動部511の外周を取り囲む外枠部512と、振動部511と外枠部512とを連結することで振動部511を保持する保持部513とを有している。すなわち、水晶振動板510は、振動部511、外枠部512および保持部513が一体的に設けられた構成となっている。
【0008】
また、小型化の図られた圧電振動デバイス500では、通常、スルーホール550によって電極や配線の導通が得られている。第1封止部材520にスルーホール550が設けられる場合、このスルーホール550は水晶振動板510の外枠部512と重なる領域に形成される。
【0009】
図13(a)に示すように、圧電振動デバイス500のハンドリング時や圧電振動デバイス500上へのICチップ搭載時などにおいて、第1封止部材520の中央部付近(力点P1)に上方から外力F1が作用する場合がある。この時、てこの原理によって、水晶振動板510の外枠部512の内周縁部が支点P2となり、スルーホール550の内周縁部は作用点P3となり、この作用点P3には応力F3が発生する。
【0010】
圧電振動デバイス500においてさらなる小面積化を図る場合には、
図13(b)に示すように、外枠部512が狭幅化される。このように外枠部512が狭幅化された圧電振動デバイス500では、てこの原理でスルーホール550に応力F3が発生する場合、その応力F3は
図13(a)における応力F3に比べて大幅に大きな力となり得る。これは、外枠部512の狭幅化により、力点P1と支点P2との間の距離に対し、支点P2と作用点P3との間の距離が小さくなるためである。
【0011】
このように、圧電振動デバイスの小面積化(水晶振動板における外枠部の狭幅化)に伴い、スルーホールの縁部に発生する応力が増大することで、スルーホールに亀裂が生じ易くなると考えられる。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、スルーホールにおける応力集中を緩和し、亀裂の発生を抑制できるサンドイッチ構造の圧電振動デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の圧電振動デバイスは、圧電振動板と、前記圧電振動板の一主面側を覆う第1封止部材と、前記圧電振動板の他主面側を覆う第2封止部材と、が設けられ、前記第1封止部材と前記圧電振動板とが接合され、前記第2封止部材と前記圧電振動板とが接合されて、第1励振電極と第2励振電極とを含む前記圧電振動板の振動部を気密封止した内部空間が形成された圧電振動デバイスにおいて、前記圧電振動板は、振動部と、前記振動部を保持する保持部と、前記振動部の外周を取り囲むと共に前記保持部を保持する外枠部とを有しており、前記第1封止部材は、ATカット型の水晶板から形成されており、前記第1封止部材には、前記圧電振動板における外枠部の内周縁部の+Z’方向側にスルーホールが設けられており、前記スルーホールは、前記圧電振動板との接合面と反対側の主面において、周辺部から中央部の貫通孔に向けての傾斜面を有しており、前記傾斜面では、少なくとも前記貫通孔から−Z’方向側および+X方向側の領域に、前記スルーホールの外周側に段差部が形成されていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、サンドイッチ構造の圧電振動デバイスに形成されるスルーホールにおいて応力集中を緩和し、亀裂の発生を抑制することができる。すなわち、従来のスルーホールでは、スルーホールの内壁面に生じる2本の稜線がATカット型の水晶板の主面に到達し、かつ、スルーホールの外周上で交差することで応力集中点となって亀裂発生の起点となっていた。これに対し、上記の構成のスルーホールでは、スルーホールの外周側に段差部を形成したことにより、上記2本の稜線の交差が段差部によって遮断され、ATカット水晶板の主面に到達することを回避できる。その結果、スルーホールの外周縁部上における応力集中点の発生を防止でき、応力集中点が起点となる亀裂の発生を抑制することができる。
【0015】
また、上記圧電振動デバイスでは、前記段差部の深さが、5μm以上20μm以下である構成、あるいは、前記段差部の内周縁と外周縁との間の最大距離が、5μm以上20μm以下である構成とすることができる。
【0016】
上記の構成によれば、段差部の大きさを適切なものとすることができ、応力集中による亀裂発生を効果的に抑制できる。すなわち、段差部は小さすぎると、応力集中箇所がスルーホール外周縁に近い箇所に発生するため、亀裂発生の抑制効果が低下する。また、段差部は大きすぎても、段差部の外周側に新たな応力集中箇所が発生し、亀裂発生の抑制効果が低下する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の圧電振動デバイスは、スルーホールの外周縁部上に応力集中点が発生することを防止でき、該応力集中点が起点となる亀裂の発生を抑制することができるといった効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施の形態では、本発明を適用する圧電振動デバイスが水晶発振器である場合について説明する。
【0020】
−水晶発振器−
先ずは、本実施の形態にかかる水晶発振器100の基本的な構造を説明する。水晶発振器100は、
図1に示すように、水晶振動板(圧電振動板)10、第1封止部材20、第2封止部材30、およびICチップ40を備えて構成されている。この水晶発振器100では、水晶振動板10と第1封止部材20とが接合され、水晶振動板10と第2封止部材30とが接合されることによって、略直方体のサンドイッチ構造のパッケージが構成される。すなわち、水晶発振器100においては、水晶振動板10の両主面のそれぞれに第1封止部材20および第2封止部材30が接合されることでパッケージの内部空間が形成され、この内部空間に振動部11(
図4,5参照)が気密封止される。
【0021】
また、第1封止部材20における水晶振動板10との接合面と反対側の主面には、ICチップ40が搭載される。電子部品素子としてのICチップ40は、水晶振動板10とともに発振回路を構成する1チップ集積回路素子である。
【0022】
本実施の形態にかかる水晶発振器100は、例えば、1.0×0.8mmのパッケージサイズであり、小型化と低背化とを図ったものである。また、小型化に伴い、パッケージでは、キャスタレーションを形成せずに、後述するスルーホールを用いて電極の導通を図っている。
【0023】
次に、上記した水晶発振器100における水晶振動板10、第1封止部材20および第2封止部材30の各部材について、
図1〜7を用いて説明する。なお、ここでは、接合されていないそれぞれ単体として構成されている各部材について説明を行う。尚、
図2〜7は、水晶振動板10、第1封止部材20および第2封止部材30のそれぞれの一構成例を示しているに過ぎず、これらは本発明を限定するものではない。
【0024】
水晶振動板10は、
図4,5に示すように、水晶からなる圧電基板であって、その両主面(第1主面101,第2主面102)が平坦平滑面(鏡面加工)として形成されている。本実施の形態では、水晶振動板10として、厚みすべり振動を行うATカット水晶板が用いられている。
図4,5に示す水晶振動板10では、水晶振動板10の両主面101,102が、XZ´平面とされている。このXZ´平面において、水晶振動板10の短手方向(短辺方向)に平行な方向がX軸方向とされ、水晶振動板10の長手方向(長辺方向)に平行な方向がZ´軸方向とされている。なお、ATカットは、人工水晶の3つの結晶軸である電気軸(X軸)、機械軸(Y軸)、および光学軸(Z軸)のうち、Z軸に対してX軸周りに35°15′だけ傾いた角度で切り出す加工手法である。ATカット水晶板では、X軸は水晶の結晶軸に一致する。Y´軸およびZ´軸は、水晶の結晶軸のY軸およびZ軸からそれぞれ概ね35°15′傾いた(この切断角度はATカット水晶振動板の周波数温度特性を調整する範囲で多少変更してもよい)軸に一致する。Y´軸方向およびZ´軸方向は、ATカット水晶板を切り出すときの切り出し方向に相当する。
【0025】
水晶振動板10の両主面101,102には、一対の励振電極(第1励振電極111,第2励振電極112)が形成されている。水晶振動板10は、略矩形に形成された振動部11と、この振動部11の外周を取り囲む外枠部12と、振動部11と外枠部12とを連結することで振動部11を保持する保持部13とを有している。すなわち、水晶振動板10は、振動部11、外枠部12および保持部13が一体的に設けられた構成となっている。保持部13は、振動部11の+X方向かつ−Z´方向に位置する1つの角部のみから、−Z´方向に向けて外枠部12まで延びている(突出している)。
【0026】
第1励振電極111は振動部11の第1主面101側に設けられ、第2励振電極112は振動部11の第2主面102側に設けられている。第1励振電極111,第2励振電極112には、これらの励振電極を外部電極端子に接続するための引出配線(第1引出配線113,第2引出配線114)が接続されている。第1引出配線113は、第1励振電極111から引き出され、保持部13を経由して、外枠部12に形成された接続用接合パターン14に繋がっている。第2引出配線114は、第2励振電極112から引き出され、保持部13を経由して、外枠部12に形成された接続用接合パターン15に繋がっている。
【0027】
水晶振動板10の両主面(第1主面101,第2主面102)には、水晶振動板10を第1封止部材20および第2封止部材30に接合するための振動側封止部がそれぞれ設けられている。第1主面101の振動側封止部としては振動側第1接合パターン121が形成されており、第2主面102の振動側封止部としては振動側第2接合パターン122が形成されている。振動側第1接合パターン121および振動側第2接合パターン122は、外枠部12に設けられており、平面視で環状に形成されている。
【0028】
また、水晶振動板10には、
図4,5に示すように、第1主面101と第2主面102との間を貫通する5つのスルーホールが形成されている。具体的には、4つの第1スルーホール161は、外枠部12の4隅(角部)の領域にそれぞれ設けられている。第2スルーホール162は、外枠部12であって、振動部11のZ´軸方向の一方側(
図4,5では、+Z´方向側)に設けられている。第1スルーホール161の周囲には、それぞれ接続用接合パターン123が形成されている。また、第2スルーホール162の周囲には、第1主面101側では接続用接合パターン124が、第2主面102側では接続用接合パターン15が形成されている。
【0029】
第1スルーホール161および第2スルーホール162には、第1主面101と第2主面102とに形成された電極の導通を図るための貫通電極が、スルーホールそれぞれの内壁面に沿って形成されている。また、第1スルーホール161および第2スルーホール162それぞれの中央部分は、第1主面101と第2主面102との間を貫通した中空状態の貫通部分となる。
【0030】
第1封止部材20は、
図2,3に示すように、1枚のATカット水晶板から形成された直方体の基板であり、この第1封止部材20の第2主面202(水晶振動板10に接合する面)は平坦平滑面(鏡面加工)として形成されている。尚、第1封止部材20は振動部を有するものではないが、水晶振動板10と同様にATカット水晶板を用いることで、水晶振動板10と第1封止部材20の熱膨張率を同じにすることができ、水晶発振器100における熱変形を抑制することができる。また、第1封止部材20におけるX軸、Y軸およびZ´軸の向きも水晶振動板10と同じとされている。
【0031】
第1封止部材20の第1主面201(ICチップ40を搭載する面)には、
図2に示すように、発振回路素子であるICチップ40を搭載する搭載パッドを含む6つの電極パターン22が形成されている。ICチップ40は、金属バンプ(例えばAuバンプなど)23(
図1参照)を用いて電極パターン22に、FCB(Flip Chip Bonding)法により接合される。
【0032】
第1封止部材20には、
図2,3に示すように、6つの電極パターン22のそれぞれと接続され、第1主面201と第2主面202との間を貫通する6つのスルーホールが形成されている。具体的には、4つの第3スルーホール211が、第1封止部材20の4隅(角部)の領域に設けられている。第4,第5スルーホール212,213は、
図2,3の+Z´方向および−Z´方向にそれぞれ設けられている。
【0033】
第3スルーホール211および第4,第5スルーホール212,213には、第1主面201と第2主面202とに形成された電極の導通を図るための貫通電極が、スルーホールそれぞれの内壁面に沿って形成されている。また、第3スルーホール211および第4,第5スルーホール212,213それぞれの中央部分は、第1主面201と第2主面202との間を貫通した中空状態の貫通部分となる。
【0034】
第1封止部材20の第2主面202には、水晶振動板10に接合するための封止側第1封止部としての封止側第1接合パターン24が形成されている。封止側第1接合パターン24は、平面視で環状に形成されている。
【0035】
また、第1封止部材20の第2主面202では、第3スルーホール211の周囲に接続用接合パターン25がそれぞれ形成されている。第4スルーホール212の周囲には接続用接合パターン261が、第5スルーホール213の周囲には接続用接合パターン262が形成されている。さらに、接続用接合パターン261に対して第1封止部材20の長軸方向の反対側(A2方向側)には接続用接合パターン263が形成されており、接続用接合パターン261と接続用接合パターン263とは配線パターン27によって接続されている。
【0036】
第2封止部材30は、
図6,7に示すように、1枚のATカット水晶板から形成された直方体の基板であり、この第2封止部材30の第1主面301(水晶振動板10に接合する面)は平坦平滑面(鏡面加工)として形成されている。尚、第2封止部材30においても、水晶振動板10と同様にATカット水晶板を用い、X軸、Y軸およびZ´軸の向きも水晶振動板10と同じとすることが望ましい。
【0037】
この第2封止部材30の第1主面301には、水晶振動板10に接合するための封止側第2封止部としての封止側第2接合パターン31が形成されている。封止側第2接合パターン31は、平面視で環状に形成されている。
【0038】
第2封止部材30の第2主面302(水晶振動板10に面しない外方の主面)には、外部に電気的に接続する4つの外部電極端子32が設けられている。外部電極端子32は、第2封止部材30の4隅(角部)にそれぞれ位置する。
【0039】
第2封止部材30には、
図6,7に示すように、第1主面301と第2主面302との間を貫通する4つのスルーホールが形成されている。具体的には、4つの第6スルーホール33は、第2封止部材30の4隅(角部)の領域に設けられている。第6スルーホール33には、第1主面301と第2主面302とに形成された電極の導通を図るための貫通電極が、スルーホールそれぞれの内壁面に沿って形成されている。また、第6スルーホール33それぞれの中央部分は、第1主面301と第2主面302との間を貫通した中空状態の貫通部分となる。また、第2封止部材30の第1主面301では、第6スルーホール33の周囲には、それぞれ接続用接合パターン34が形成されている。
【0040】
上記の水晶振動板10、第1封止部材20、および第2封止部材30を含む水晶発振器100では、水晶振動板10と第1封止部材20とが振動側第1接合パターン121および封止側第1接合パターン24を重ね合わせた状態で拡散接合され、水晶振動板10と第2封止部材30とが振動側第2接合パターン122および封止側第2接合パターン31を重ね合わせた状態で拡散接合されて、
図1に示すサンドイッチ構造のパッケージが製造される。これにより、パッケージの内部空間、つまり、振動部11の収容空間が気密封止される。
【0041】
この際、上述した接続用接合パターン同士も重ね合わせられた状態で拡散接合される。そして、接続用接合パターン同士の接合により、水晶発振器100では、第1励振電極111、第2励振電極112、ICチップ40および外部電極端子32の電気的導通が得られるようになっている。
【0042】
具体的には、第1励振電極111は、第1引出配線113、配線パターン27、第4スルーホール212および電極パターン22を順に経由して、ICチップ40に接続される。第2励振電極112は、第2引出配線114、第2スルーホール162、第5スルーホール213および電極パターン22を順に経由して、ICチップ40に接続される。また、ICチップ40は、電極パターン22、第3スルーホール211、第1スルーホール161および第6スルーホール33を順に経由して、外部電極端子32に接続される。
【0043】
水晶発振器100において、各種接合パターンは、複数の層が水晶板上に積層されてなり、その最下層側からTi(チタン)層とAu(金)層とが蒸着形成されているものとすることが好ましい。また、水晶発振器100に形成される他の配線や電極も、接合パターンと同一の構成とすれば、接合パターンや配線および電極を同時にパターニングでき、好ましい。
【0044】
以上が本実施の形態にかかる水晶発振器100の基本構造であるが、本発明における特徴点は、亀裂の発生を抑制するように応力集中を緩和することのできるスルーホールの形状にある。これより、この特徴点について詳細に説明する。
【0045】
水晶発振器100の製造工程においては、水晶振動板10、第1封止部材20および第2封止部材30が接合されてサンドイッチ構造のパッケージが得られたのち、第1封止部材20の第1主面201上の中央付近にICチップ40が搭載される。そして、ICチップ40の搭載時などに、第1封止部材20に上方から外力が作用し、この外力によって第1封止部材20内に生じる応力がスルーホールにおける亀裂の発生要因となることは、
図13を用いて既に説明した通りである。
【0046】
尚、本発明が適用される圧電振動デバイスは、上記例のような水晶発振器に限定されるものではなく、水晶振動板、第1封止部材および第2封止部材のパッケージのみからなる水晶振動子であってもよい。すなわち、ICチップが搭載されない水晶振動子であっても、第1封止部材の第1主面(水晶振動板に接合されない側の面)に、引き回し用配線やシールド電極が形成されることがあり、これらの配線または電極の導通用に第1封止部材にスルーホールが設けられることがある。また、第1封止部材上にICチップを搭載することは無くても、水晶振動子のハンドリング時において第1封止部材に外力が与えられることはある。したがって、水晶振動子においても、第1封止部材のスルーホールに応力が集中し、亀裂の発生要因となるといった課題は起こり得る。
【0047】
尚、上述した水晶発振器100において、スルーホールの応力集中は、特に第4スルーホール212において発生しやすい。まずは、その理由について説明する。
【0048】
圧電振動デバイスに形成されるスルーホールは、平面視で多角形状に形成すると、多角形の角部が応力集中点となって亀裂発生の起点となる場合があるため、通常は角の無い円形状に形成される。圧電振動デバイスにおけるスルーホールはウェットエッチングによって形成されるが、従来ではエッチングに使用するマスクを円形状としていた。
【0049】
しかしながら、水晶板にスルーホールを形成する場合、円形マスクを用いても、水晶が有する結晶異方性によりスルーホールは完全な円形には形成されない。
図8は、ATカット水晶板70に円形マスクを用いたエッチングによりスルーホールを形成した場合のスルーホール形状を示す図であり、(a)は断面図、(b)は平面図である。
【0050】
図8(a)に示すように、スルーホールは、面内方向の中央付近に貫通孔71を有し、スルーホール周辺部から中央部の貫通孔に向けての傾斜面72を有している。また、スルーホールをATカット水晶板70の両主面からエッチング形成することで、傾斜面72はATカット水晶板70の両主面において形成される。
【0051】
また、このスルーホールをATカット水晶板70の主面に垂直な方向から見た場合、
図8(b)に示すように、スルーホールは完全な円形となっておらず、また、傾斜面72も多数の結晶面が組み合わされて構成されている。そして、傾斜面72には、
・貫通孔71からスルーホールの周辺部に向かって−Z´方向側および+X方向側に延びる第1結晶面S1と、
・貫通孔71からスルーホールの周辺部に向かって−Z´方向側および+X方向側に延び、かつ第1結晶面S1に対して+Z´方向側および+X方向側に接触する第2結晶面S2と、
・第2結晶面S2に対して+X方向側に接触し、かつATカット水晶板70の主面に接触する(スルーホールの外周縁部に接触する)第3結晶面S3と、
が存在する。
【0052】
また、このスルーホールにおいて、第1結晶面S1と第2結晶面S2との間の第1稜線L1、および第2結晶面S2と第3結晶面S3との間の第2稜線L2は、スルーホールの外周縁部(すなわち傾斜面72とATカット水晶板70の主面との境界線)上の点Pcで交差している。
【0053】
水晶発振器100の第1封止部材20において、第3〜第5スルーホール211〜213を
図8のスルーホールのように形成し、かつ、第1封止部材20に上方から外力が作用した場合、この外力によって第1封止部材20内に生じる応力が各スルーホールに作用する。この時、スルーホールにおける点Pcが応力集中点となり、上記応力による亀裂の起点となりやすい。中でも、水晶振動板10における外枠部12の内周縁部から+Z’方向側に位置する第4スルーホール212は、点Pcをてこの原理の作用点とした場合、点Pcと支点(水晶振動板10における外枠部12の内周縁部)との距離が他のスルーホールに比べて短く、特に亀裂が発生しやすい。
【0054】
続いて、このような亀裂の発生を抑制することのできる、本実施の形態に係るスルーホールの形状について
図9を参照して説明する。
図9(a)は本実施の形態に係るスルーホールの平面図であり、
図9(b)は
図9(a)のA−A断面図である。尚、
図9(b)は、スルーホールの厚み方向中間から一方の主面までの断面を示している。
【0055】
図9(a),(b)に示すように、本実施の形態に係るスルーホールでは、スルーホールの外周縁部上に応力集中点となる点Pcが生じないように、スルーホールの外周側に段差部73を形成している。すなわち、本実施の形態に係るスルーホールでは、貫通孔71の周囲に傾斜面72が形成され、傾斜面72では、その外周側に段差部73が形成されている。
【0056】
本実施の形態に係るスルーホールではスルーホールの外周側に段差部73を形成したことにより、第1稜線L1および第2稜線L2の交差する点Pcは、スルーホールの外周縁(段差部73とATカット水晶板70の主面との境界線)上には存在しない。言い換えれば、段差部73を設けることで第1稜線L1および第2稜線L2の交差が段差部73によって遮断され、ATカット水晶板70の主面に到達することを回避できる。その結果、スルーホールの外周縁部上における応力集中点の発生を防止でき、応力集中点が起点となる亀裂の発生を抑制することができる。
【0057】
本実施の形態に係るスルーホールは、エッチングによるスルーホール作成時に、2段階のエッチングを行うことで実現できる。具体的には、1回目のエッチングで、
図10(a)に示すように、ATカット水晶板70の両主面側から貫通孔71が形成される直前までのエッチングを行う。そして、2回目のエッチングで、
図10(b)に示すように、貫通孔71を貫通させると共に、段差部73を形成するようにすることが好ましい。
【0058】
この時、1回目のエッチングでは、両主面において同じサイズの円形マスクが用いられる。そして、2回目のエッチングでは段差部73を形成する主面のマスクを、よりサイズの大きい新たなマスクに交換する。すなわち、1回目のエッチングで用いた円形マスクをATカット水晶板70から剥がしてから、新たなマスクを形成する。尚、詳しくは後述するが、本実施の形態に係るスルーホールにおいて、基本的に段差部73をATカット水晶板70の両主面に設ける必要はない。このため、
図10(b)に示す断面において、段差部73を設けるのは上主面側のみとしており、下主面側に段差部73は設けていない。段差部73を設けない主面では、1回目のエッチングと2回目のエッチングとでマスクを交換する必要はない。
【0059】
段差部73を形成するための2回目のエッチングにおいては、使用するマスクの形状は円形であってもよく、あるいは円形でなくてもよい。2回目のエッチングにおいて円形マスクを使用する場合、マスクのサイズ(直径)は1回目のエッチングで使用する円形マスクよりも大きなものとされる。また、2回目のエッチングにおけるマスクの配置は、1回目のマスクと同心配置であってもよいが、1回目のエッチングにおけるマスクに対して偏心させて配置してもよい。すなわち、上述した点Pcの発生箇所に対応する位置において段差部73が確実に形成されるように、2回目のエッチングにおけるマスクは、1回目のエッチングにおけるマスクよりも−Z’方向および/または+X方向側に偏心して配置されてもよい。
【0060】
また、2回目のエッチングにおいて円形以外のマスクを使用する場合も、点Pcの発生箇所に対応する位置において段差部73が確実に形成されるように、その形状が工夫されていることが好ましい。例えば、
図11(a),(b)に示すように、1回目のエッチングで使用される円形マスク80に対して、2回目のエッチングで使用されるマスク81は、−Z’方向および/または+X方向側に外周縁を拡張した拡張部81Aを有する形状とすることが考えられる。
【0061】
尚、マスク81における拡張部81Aの形状や大きさは特に限定されるものではない。すなわち、拡張部81Aの形状や大きさにより段差部73の形状や大きさも変化するが、段差部73で重要なのは点Pcがスルーホールの外周縁上に形成されることを防止することであるため、拡張部81Aの形状や大きさも特に限定されるものではない。尚、段差部73はスルーホールの全周に形成されている必要は無く、少なくとも貫通孔71から−Z’方向側および+X方向側の領域に形成されていればよい。
【0062】
但し、点Pcの発生箇所付近での段差部73が小さ過ぎる場合には、応力集中箇所となる点Pcがスルーホール外周縁に近い箇所に発生するため、スルーホールにおける応力集中抑制効果が十分に得られないことも考え得る。逆に、段差部73が大きすぎる場合には、段差部73の外周縁(すなわち段差部73とATカット水晶板70の主面との境界線)上に新たな応力集中点が発生して亀裂発生の起点となり得る。このため、段差部73は、適度な大きさで形成されることが好ましい。このような観点から、例えば、段差部73の深さ(厚み方向の深さ)は、5μm以上20μm以下であることが好ましい。あるいは、段差部73の内周縁と外周縁との間の最大距離(点Pcの発生箇所付近での距離)が、5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0063】
上述した本実施の形態に係るスルーホール(段差部73を有するスルーホール)は、圧電振動デバイスが有する全てのスルーホールに適用される必要は無く、基本的には、従来の形状では亀裂が生じる箇所のスルーホールにのみ適用されればよい。例えば、
図1〜7に示した水晶発振器100では、少なくとも、第1封止部材20に形成され、水晶振動板10における外枠部12の内周縁部から+Z’方向側に位置する第4スルーホール212を本実施の形態に係るスルーホールとすればよい。また、第4スルーホール212においても、亀裂が発生しやすいのは水晶振動板10と接合されていない表面である第1主面201のみであり、水晶振動板10と接合される第2主面202からは亀裂は発生しにくい。したがって、スルーホールにおいて段差部73を形成するのは、第1封止部材20の第1主面201側のみであってもよい。
【0064】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。従って、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。