特許第6874761号(P6874761)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874761
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ガラス微粒子の合成方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 8/04 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   C03B8/04 J
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-514673(P2018-514673)
(86)(22)【出願日】2017年4月26日
(86)【国際出願番号】JP2017016591
(87)【国際公開番号】WO2017188334
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2019年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-87695(P2016-87695)
(32)【優先日】2016年4月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早川 正敏
【審査官】 大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−029448(JP,A)
【文献】 特開平04−228443(JP,A)
【文献】 特開昭63−055135(JP,A)
【文献】 特開2012−031052(JP,A)
【文献】 特開2013−241288(JP,A)
【文献】 特開2015−030642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04
C03B 37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガスポートを有する多重管バーナの中心のガスポートからガラス原料ガスを噴射すると共に前記中心のガスポートの外側の複数のガスポートから火炎形成用ガスを噴射し、前記火炎形成用ガスにより形成される火炎内で前記ガラス原料ガスを火炎分解反応させてガラス微粒子を合成するガラス微粒子の合成方法であって、
前記多重管バーナは、そのガス噴射側端面に前記中心のガスポートより下流側に突き出した突出し部が形成されており、
前記中心のガスポートのガス流速V1を5m/秒以上20m/秒以下に設定し、
前記突出し部の突出し長さをV1×0.01秒以下に設定して、
前記突出し部より内側にあるガスポートのうちの少なくとも1つのガスポートから、前記ガス流速V1の0.3倍以上1.0倍以下の流速V2となるように前記火炎形成用ガスを噴射してガラス微粒子の合成を行う、ガラス微粒子の合成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス微粒子の合成方法に関する。
本出願は、2016年4月26日出願の日本出願第2016−087695号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数のガスポートを有する多重管バーナにガラス原料ガスと火炎形成用ガス(可燃ガス、助燃ガス、シールガスなど)を供給し、多重管バーナが形成する火炎内でガラス原料ガスを火炎分解反応させてガラス微粒子を合成するガラス微粒子の合成方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2015−30642号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係るガラス微粒子の合成方法は、
複数のガスポートを有する多重管バーナの中心のガスポートからガラス原料ガスを噴射すると共に前記中心のガスポートの外側の複数のガスポートから火炎形成用ガスを噴射し、前記火炎形成用ガスにより形成される火炎内で前記ガラス原料ガスを火炎分解反応させてガラス微粒子を合成するガラス微粒子の合成方法であって、
前記多重管バーナは、そのガス噴射側端面に前記中心のガスポートより下流側に突き出した突出し部が形成されており、
前記突出し部より内側にあるガスポートのうちの少なくとも1つのガスポートから、前記中心のガスポートから噴射するガス流速V1の0.3倍以上1.0倍以下の流速V2となるように前記火炎形成用ガスを噴射してガラス微粒子の合成を行う。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1】本開示の一態様に係るガラス微粒子の合成方法を実施する製造装置の一例を説明する図である。
図2A】ガラス微粒子を生成する多重管バーナの一形態を示す縦断面図である。
図2B】ガラス微粒子を生成する多重管バーナの一形態を示すは横断面図である。
図3】多重管バーナ内にガラス微粒子が堆積する仕組みを説明する模式図である。
図4】多重管バーナ内へのガラス微粒子の堆積を抑制する方法および条件を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1のようなガラス微粒子の合成方法に用いられる多重管バーナは、火炎分解反応の調整などのため、多重管バーナの径方向における内側のガスポートより外側のガスポートの方が長くなる突出し部が形成されている。特許文献1の場合は、突出し部を段差部と称してその段差部が二段設けられている。このような突出し部により、中心のガスポートから噴射される原料ガスが過度に散らばらないようにできる。
【0007】
ところが、上記突出し部において、その内壁にガラス微粒子が堆積し多重管バーナの目詰まりが生じてしまう。目詰まりが生じると、ガラス微粒子の合成に支障をきたすので、多重管バーナの清掃を行う必要がある。このため、例えば特許文献1の場合は、所定のガスポート管部の先端を交換可能にして、取り外して清掃または交換することで多重管バーナの目詰まりを防いでいる。
【0008】
しかしながら、多重管バーナの清掃または交換を行うメンテナンス作業が必要であり、そのメンテナンス作業の間は、ガラス合成を停止するため、ガラス製造の機会損失となってしまう。また、ガラス合成装置内は狭いため、多重管バーナのメンテナンス作業は困難な作業である。
【0009】
そこで、本開示の目的は、ガラス製造の機会損失を抑制し、多重管バーナのメンテナンス作業の必要性をほぼ無くすることが可能なガラス微粒子の合成方法を提供することにある。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、ガラス製造の機会損失を抑制し、多重管バーナの清掃(または交換)作業の必要性をほぼ無くすることができる。
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態を列記して説明する。
本発明の一態様に係るガラス微粒子の合成方法は、
(1)複数のガスポートを有する多重管バーナの中心のガスポートからガラス原料ガスを噴射すると共に前記中心のガスポートの外側の複数のガスポートから火炎形成用ガスを噴射し、前記火炎形成用ガスにより形成される火炎内で前記ガラス原料ガスを火炎分解反応させてガラス微粒子を合成するガラス微粒子の合成方法であって、
前記多重管バーナは、そのガス噴射側端面に前記中心のガスポートより下流側に突き出した突出し部が形成されており、
前記突出し部より内側にあるガスポートのうちの少なくとも1つのガスポートから、前記中心のガスポートから噴射するガス流速V1の0.3倍以上1.0倍以下の流速V2となるように前記火炎形成用ガスを噴射してガラス微粒子の合成を行う。
この方法によれば、多重管バーナの突出し部より内側にあるガスポートのうちの少なくとも1つのガスポートから、中心のガスポートから噴射するガス流速V1の0.3倍以上1.0倍以下の流速V2となるように火炎形成用ガスを噴射するので、中心のガスポートから噴射するガラス原料ガスが、流速V2の火炎形成用ガスに阻まれて、突出し部の内壁にはほとんどガラス微粒子が堆積しない。このため、多重管バーナの目詰まりが生じないので、ガラス製造の機会損失を抑制し、多重管バーナのメンテナンス作業の必要性をほぼ無くすることができる。
【0012】
(2)前記中心のガスポートのガス流速V1は、5m/秒以上20m/秒以下であり、
前記突き出し部の突出し長さがV1×0.01秒以下であることが好ましい。
上記条件下で、ガラス微粒子の合成を行うことにより、より確実にガラス製造の機会損失を抑制し、多重管バーナの清掃(または交換)作業の必要性をほぼ無くすることができる。
【0013】
(本発明の実施形態の詳細)
本発明の実施形態に係るガラス微粒子の合成方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0014】
以下に示すガラス微粒子の合成方法としては、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法を例に説明するが、本発明はVAD法に限定されるものではない。VAD法と同様にガラス原料からガラスを堆積させる方法、例えば、OVD(Outside Vapor Deposition)法に本発明を適用することも可能である。
【0015】
本実施形態に係るガラス微粒子の合成方法の具体例として、ガラス微粒子堆積体Mを製造する製造装置の一例について、図1を参照しつつ説明する。
図1に示すように、製造装置1は、反応容器2と、昇降回転装置3と、ガス供給装置4と、多重管バーナ5と、各部の動作を制御する制御部6とを備えている。
【0016】
反応容器2は、ガラス微粒子堆積体Mが形成される容器であり、反応容器2の側面に取り付けられた排気管21を備えている。排気管21は、ガラス微粒子堆積体Mとして付着されなかったガラス微粒子10を反応容器2の外部に排出する管である。
【0017】
昇降回転装置3は、支持棒31および出発ロッド32を介してガラス微粒子堆積体Mを回転させながら昇降させうる装置である。昇降回転装置3は、制御部6から送信されてくる制御信号に基づいて支持棒31の動作を制御している。
【0018】
支持棒31は、反応容器2の上壁に形成された貫通穴を挿通して配置されており、反応容器2内に配置される一方の端部には出発ロッド32が取り付けられている。支持棒31は、出発ロッド32が取り付けられている端部とは反対側の端部が昇降回転装置3により把持されている。出発ロッド32は、ガラス微粒子10が堆積されるロッドであり、支持棒31に取り付けられている。
【0019】
ガス供給装置4は、ガラス原料41を気化させたガラス原料ガスを多重管バーナ5に供給する装置である。ガス供給装置4は、ガラス原料41を貯留する原料容器42と、ガラス原料ガスの供給流量を制御するMFC(Mass Flow Controller)43と、ガラス原料ガスを多重管バーナ5へ導く供給配管44とを有している。また、ガス供給装置4は、原料容器42とMFC43と供給配管44の一部とを所定温度に保つ温調ブース45を有している。
【0020】
MFC43は、制御部6から送信されてくる制御信号に基づいて、多重管バーナ5に供給するガラス原料ガスの供給量を制御するとともに、多重管バーナ5から噴射されるガラス原料ガスの流量を制御している。
【0021】
多重管バーナ5は、ガラス微粒子10を生成するためのものであり、例えば、金属材料あるいは石英ガラス等で構成されている。金属材料としては、例えば、耐腐食性が特に優れたステンレス(SUS:Steel Special Use Stainless)を用いることが好ましい。多重管バーナ5には、ガラス原料ガスと、火炎形成用ガス(燃焼ガス、助燃ガス、シールガスなど)とが供給される。ガラス原料ガスとしては、例えば四塩化ケイ素(SiCl)やシロキサン等が供給され、火炎形成用ガスとしては、例えば、水素(H)等の燃焼ガス、酸素(O)等の助燃ガス、窒素(N)等のシールガス、などが供給される。
【0022】
多重管バーナ5は、気化されたガラス原料ガスを酸水素火炎中において火炎分解反応させることでガラス微粒子10を生成する。多重管バーナ5は、生成されたガラス微粒子10を出発ロッド32に噴きつけて堆積させ、所定外径のガラス微粒子堆積体Mを作製する。なお、図1では、火炎形成用ガスを供給するためのガス供給装置は省略されている。
【0023】
制御部6は、昇降回転装置3、ガス供給装置4等の動作を制御する。制御部6は、昇降回転装置3に対して、ガラス微粒子堆積体Mの昇降速度および回転速度を制御する制御信号を送信する。また、制御部6は、ガス供給装置4のMFC43に対して、多重管バーナ5から噴霧するガラス原料ガスの流量を制御する制御信号を送信する。
【0024】
図2Aは、多重管バーナ5を軸方向に切断した縦断面図であり、図2Bは、多重管バーナ5の中心軸Bに近い一部分を軸方向に対して垂直方向に切断した横断面図である。図2Aに示すように、多重管バーナ5としては、例えば12重管などの多重管バーナ構造のものが用いられる。なお、図2Aにおいて上方が、多重管バーナ5のガス噴射側である先端方向を示す。
【0025】
多重管バーナ5の中央部には、ガラス原料ガスが噴射される原料ガスポート50が設けられている。原料ガスポート50にはガラス原料ガスのみを供給することも、ガラス原料ガスに他のガス、例えばHガスを混合して供給することもできる。
原料ガスポート50の外周には、火炎形成用ガスとして例えばH等の燃焼ガスが供給される第一の火炎形成用ガスポート61,65,69と、同じく火炎形成用ガスとして例えばO等の助燃ガスが供給される第二の火炎形成用ガスポート63,67,71とが交互に設けられている。交互に設けられた第一の火炎形成用ガスポート61,65,69と第二の火炎形成用ガスポート63,67,71との間には、火炎形成用ガスとして例えばN等のシールガスが供給される第三の火炎形成用ガスポート62,64,66,68,70が設けられている。
【0026】
原料ガスポート50は、多重管バーナ5の軸方向へ沿って延びる管部で形成されており、多重管バーナ5の中心部に設けられている。また、他の火炎形成用ガスポート61〜71は、原料ガスポート50と同心円状に配置された管部間の隙間として形成されている(図2B参照)。これら複数の管部の各々の厚さT1は、例えば1mm程度である。また、原料ガスポート50,火炎形成用ガスポート61〜71の開口厚T2は、例えば2mm程度である。なお、必ずしも全ての管部の厚さT1、および全てのガスポートの開口厚T2がそれぞれ一律である必要はない。
【0027】
多重管バーナ5の先端側の部分において、例えば原料ガスポート50,火炎形成用ガスポート61,62を構成する3つの管部50A,61A,62Aは同一の長さであって、原料ガスポート50,火炎形成用ガスポート61〜71を構成する管部のなかで最も短い長さに形成されている。また、例えば火炎形成用ガスポート63の外周側を構成する管部63Aから火炎形成用ガスポート66を構成する管部66Aまでの4つの管部は同一の長さであって、上記管部50A,61A,62Aよりも長くなるように形成されている。また、例えば火炎形成用ガスポート67の外周側を構成する管部67Aから火炎形成用ガスポート71を構成する管部71Aまでの5つの管部は同一の長さであって、上記管部63A〜66Aよりも長くなるように形成されている。
【0028】
このように、多重管バーナ5の先端部では、多重管バーナ5の径方向における内側のガスポートより外側のガスポートの方が長くなるように、所定の領域ごとに管部の長さが設定されている。この長さの設定により、多重管バーナ5内には、管部50A,61A,62Aと管部63A〜66Aとの間の段差部と、管部63A〜66Aと管部67A〜71Aとの間の段差部とが形成されている。
【0029】
管部50A,61A,62Aと管部63A〜66Aとの間の段差部において、管部50A,61A,62Aのガス噴射側の端面よりも多重管バーナ5の下流側(先端方向側)に突き出した部分を突出し部80と定義し、その長さを突出し長Lとする。なお、図2Aおよび図2Bに示す多重管バーナ5では、管部63A〜66Aのガス噴射側の端面よりも多重管バーナ5の下流側にさらに突き出した第二の突出し部90が形成されている。多重管バーナ5は、このような突出し部80,90が設けられることにより、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスが多重管バーナ5の径方向へ過度に拡散しないようにすることができる。
【0030】
ところが、従来は、突出し部を有する多重管バーナを用いてガラス微粒子を生成する場合、突出し部においてその内壁にガラス微粒子が堆積し多重管バーナの目詰まりが生じる問題があった。
この問題が生じる仕組みを図3の模式図を参照して説明する。図3に示すように、原料ガスポートから噴射されたガラス原料ガスの一部は、例えば矢印Cの方向へ勢いよく一気に拡散する。このため、拡散したガラス微粒子が突出し部の内壁に堆積する。
【0031】
突出し部の長さを単純に短くして突出し部へのガラス微粒子の堆積を防ぐことが考えられる。しかしながら、突出し長を変えると多重管バーナによって形成される火炎が変化し、ガラス微粒子の合成速度や合成量なども変化してしまうため、突出し部の長さを単純に短くすることは困難である。また、ガラス微粒子堆積体の製造設備ごとに原料ガスポートに投入されるガラス原料ガスの流量は異なるため、ガラス原料ガスの流量に応じて突出し部に対するガラス微粒子が堆積する領域も変化する。
【0032】
したがって、ガラス微粒子堆積体の製造設備ごとに突出し部の長さの異なる多重管バーナを使用することが望ましいが、設備ごとに異なる多重管バーナを用意する必要があり費用がかかる。また、同じ設備において、製造上の都合等でガラス原料ガスの流量が変更されたときに、多重管バーナの交換が必要になり、バーナ交換費用および交換作業中のガラス製造の機会損失が生じる。
【0033】
そこで、本発明者は、ガラス原料ガスの流量が異なる場合であっても、突出し部の内壁にガラス微粒子が堆積しない方法およびその条件について以下のように検討を行った。
【0034】
図4を用いて、多重管バーナ5の突出し部80の内壁へのガラス微粒子の堆積を抑制する方法について説明する。
図4に示すように、図2Aおよび図2Bで示した多重管バーナ5の原料ガスポート50と突出し部80との間に設けられている火炎形成用ガスポート61,62,63に着目し、これらのガスポートから噴射されるガスを用いて、突出し部80へのガラス原料ガスの拡散を抑制する方法および条件について検討した。
【0035】
そして、検討の結果、火炎形成用ガスポート61,62,63のうちの少なくとも1つのガスポートから、火炎形成用ガスを所定の範囲内の流速で噴射することにより、火炎形成用ガスの流れが突出し部80方向へのガラス原料ガスの流れ(図4の破線矢印D参照)を抑制しうることを見出した。
なお、ガスの流速Vは、ガスポートを流れるガスの流量Q(m/秒)と、ガスポートの断面積S(m)とから、次の式1で算出することができる。
V=Q/S(m/秒)・・・(式1)
【0036】
検討の結果、火炎形成用ガスポート61,62,63のうちの少なくとも1つのガスポートから噴射される火炎形成用ガスの流速(以下、V2とする)を、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスの流速(以下、V1とする)を基準として設定すると、突出し部80方向へのガラス原料ガスの流れDは、流速V2を0.3V1(m/秒)以上とすることにより抑制できることがわかった。
【0037】
ところが、流速V2が大きくなるほど、ガラス微粒子堆積体Mの表面温度が下がって微粒子堆積体Mへガラス微粒子10が堆積しにくくなり製造上の問題が生じる。このため、製造上の問題が生じないようにガラス微粒子堆積体Mの表面温度の低下を抑制するための流速V2の上限値は、1.0V1(m/秒)である。
【0038】
以上の検討により、本実施形態に係るガラス微粒子の合成方法では、突出し部80より内側にある火炎形成用ガスポート61,62,63のうちの少なくとも1つのガスポートから、中心の原料ガスポート50から噴射するガラス原料ガスの流速V1の0.3倍以上1.0倍以下の流速V2となるように火炎形成用ガスを噴射してガラス微粒子の合成を行うこととする。
【0039】
さらに、本発明者は、ガラス原料ガスの流量に応じて突出し部80に対するガラス微粒子10が堆積する領域が変化することと、ガラス原料ガスの流速V1が速いときほどガラス微粒子10が突出し部80に堆積しやすいことに着目した。そして、ガラス原料ガスの流速V1を遅くしていった場合の、例えば流速V1と突出し部80の突出し長Lとの好ましい関係について検討した。
【0040】
検討の結果、本発明者は、ガラス原料ガスの流速V1が、例えば5(m/秒)以上20(m/秒)以下の場合に、突出し部80の突出し長LをV1(m/秒)×0.01(秒)以下にすることにより、突出し部80へのガラス微粒子10の堆積を抑制するのに好ましいことを見出した。
【0041】
本実施形態に係るガラス微粒子の合成方法によれば、ガラス微粒子10の合成の際に、火炎形成用ガスポート61,62,63のうちの少なくとも1つのガスポートから、0.3V1以上1.0V1以下(m/秒)に設定された流速V2の火炎形成用ガスが噴射される。このため、原料ガスポート50から噴射される流速V1のガラス原料ガスは、流速V2の火炎形成用ガス等の流れによって、突出し部80方向への拡散が抑制される。そして、突出し部80を構成する管部63Aの内壁にはほとんどガラス微粒子10が堆積しなくなる。これにより、多重管バーナ5におけるガラス微粒子10の目詰まりを減少させることができ、ガラス製造の機会損失を抑制して、多重管バーナの清掃または交換を行うメンテナンス作業の必要性をほぼ無くすることができる。
【0042】
また、流速V2の上限値は、1.0V1(m/秒)以下に設定されている。このため、火炎形成用ガス等が高速で噴射されることに伴うガラス微粒子堆積体Mの表面温度の低下を防ぐことができ、良好にガラス微粒子が付着されたガラス微粒子堆積体Mの製造を行うことができる。
【0043】
また、ガラス原料ガスの流速V1が5(m/秒)以上20(m/秒)以下に設定された場合には、突出し部80の突出し長LがV1(m/秒)×0.01(秒)以下の長さに設定される。このため、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積をさらに抑制することができ、ガラス製造の機会損失を抑制するとともに、多重管バーナのメンテナンス作業の必要性をほぼ無くすることができる。
【実施例】
【0044】
図2Aおよび図2Bに示す多重管バーナ5を使用してガラス微粒子を合成する実験を行った。
本実験では、原料ガスポート50と突出し部80との間に設けられている火炎形成用ガスポート61,62,63のうち最も外側に配置されている火炎形成用ガスポート63(燃焼ガスである酸素(O)が供給される第二の火炎形成用ガスポート)から流速V2のガスを噴射させた。原料ガスポート50には原料ガスとHガスを混合したガスを噴射した。
また、原料ガスポート50の流量をQ1、断面積をS1とし、火炎形成用ガスポート63の流量をQ2、断面積をS2とした。また、原料ガスポート50の半径をr1、多重管バーナ5の中心軸Bから管部62Aまでの距離をr2、多重管バーナ5の中心軸Bから管部63Aまでの距離をr3とした(図4参照)。なお、突出し部80の突出し長Lは0.15(m)とした。
【0045】
先ず、Q1= 0.000425(m/秒)
S1=π×r1=π×0.003(m
Q2=0.000372(m/秒)
S2=π×(r3−r2)=π×(0.011−0.009)(m)の条件でガラス微粒子の合成を行い、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積を観察した。
このときの、ガラス原料ガスの流速V1=Q1/S1=15.0(m/秒)、火炎形成用ガスの流速V2=Q2/S2=3.0(m/秒)であり、V2=0.2V1であった。すなわち、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流速V2は、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスの流速V1の0.2倍であった。
【0046】
次に、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流量を増加させて、Q2=0.000565(m/秒)としてガラス微粒子の合成を行い、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積を観察した。なお、Q1,S1,S2は上記と同じ条件とした。
このときの、火炎形成用ガスの流速V2=Q2/S2=4.5(m/秒)であり、V2=0.3V1であった。すなわち、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流速V2は、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスの流速V1の0.3倍であった。
【0047】
さらに、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流量を増加させて、Q2=0.00188(m/秒)としてガラス微粒子の合成を行い、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積を観察した。なお、Q1,S1,S2は上記と同じ条件とした。
このときの、火炎形成用ガスの流速V2=Q2/S2=15.0(m/秒)であり、V2=1.0V1であった。すなわち、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流速V2は、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスの流速V1の1.0倍であった。
【0048】
最後に、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流量をさらに増加させて、Q2=0.00226(m/秒)としてガラス微粒子の合成を行い、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積を観察した。なお、Q1,S1,S2は上記と同じ条件とした。
このときの、火炎形成用ガスの流速V2=Q2/S2=18.0(m/秒)であり、V2=1.2V1であった。すなわち、火炎形成用ガスポート63から噴射される火炎形成用ガスの流速V2は、原料ガスポート50から噴射されるガラス原料ガスの流速V1の1.2倍であった。
【0049】
上記実験の結果、火炎形成用ガスの流速V2=0.2V1の場合、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積が観察され、清掃しても除去できなかった。これに対して、火炎形成用ガスの流速V2=0.3V1の場合、火炎形成用ガスの流れにより、ガラス原料ガスの突出し部80方向への拡散が抑制され、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積量が減少した。また、ガラス微粒子10の堆積位置が多重管バーナ5の下流側へ変化した。管部63Aの内壁に堆積したガラス微粒子は清掃により容易に除去することができた。さらに、火炎形成用ガスの流速V2=1.0V1の場合、ガラス原料ガスの突出し部80方向への拡散がさらに抑制され、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積がまったく生じなかった。また、火炎形成用ガスの流速V2=1.2V1の場合、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積はまったく生じなかったものの、ガラス微粒子堆積体Mの表面温度が低下して、ガラス微粒子堆積体の製造ができなかった。
【0050】
以上の実験に加え、シミュレーションにより突出し長L、V1、V2を変えた場合の管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積量を求めた。
シミュレーションは、市販の熱流体解析ソフトでおこなった。上記実験における突出し長L、V1、V2で計算した管部63Aの内壁付近のガラス微粒子濃度と、上記実験で観察した堆積量を対応させることで、突出し長L、V1、V2を変えた場合をシミュレーションした。
【0051】
表1は、突出し長L=0.007×V1とし、V1、V2を変えた場合である。表2は、突出し長L=0.010×V1とし、V1、V2を変えた場合である。表3は、突出し長L=0.013×V1とし、V1、V2を変えた場合である。
各表の結果では、ガラス微粒子10の堆積量を、「有」、「有(A)」(清掃により容易に除去可能な量)、「無」の3つの水準に分けて表記している。
また、上記実験では火炎形成用ガスの流速V2=1.2V1の場合、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積はまったく生じなかったものの、ガラス微粒子堆積体Mの表面温度が低下して、ガラス微粒子堆積体Mの製造ができなかったことから、表1〜表3におけるV2が1.2×V1の場合は、同様にガラス微粒子堆積体Mの表面温度が低下すると考えられる。このため、V2が1.2×V1の場合は、ガラス微粒子10の堆積量にかかわらず、「温度低下」と表記している。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
上記の表1〜表3に示す結果から、V2がV1の0.3倍から0.7倍の範囲であれば、上記シミュレーション結果の全ての突出し長L、V1の場合において、管部63Aの内壁へのガラス微粒子10の堆積があっても清掃で容易に除去できるか、または、管部63Aの内壁へ全くガラス微粒子10が堆積しないことが確認できる。また、突出し長LがV1×0.01以下であれば、管部63Aの内壁へ全く堆積しない場合がみられることからより好ましいことがわかる。
なお、原料ガスポート50の半径r1が大きいほど、原料ガスポートから噴射されたガラス原料ガスが拡散しやすいため、原料ガスポート50の半径r1が大きい多重管バーナを用いる場合が特に好ましい。
【0056】
以上、本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【0057】
例えば、図2Aおよび図2Bに示すように、本実施形態では、突出し部を2つ有する二段式構造の多重管バーナ5を用いているがこれに限定されない。突出し部は少なくとも1つ設けられていればよく、例えば図2Aおよび図2Bにおいて突出し部80のみを有した一段式構造の多重管バーナであっても良い。
【符号の説明】
【0058】
1 製造装置
2 反応容器
3 昇降回転装置
4 ガス供給装置
5 多重管バーナ
6 制御部
10 ガラス微粒子
31 支持棒
32 出発ロッド
41 ガラス原料
43 MFC
44 供給配管
50 原料ガスポート
61,65,69 (第一の)火炎形成用ガスポート
63,67,71 (第二の)火炎形成用ガスポート
62,64,66,68,70 (第三の)火炎形成用ガスポート
50A,61A〜71A 管部
80 突出し部
L 突出し長
M ガラス微粒子堆積体
T1 厚さ
T2 開口厚
図1
図2A
図2B
図3
図4