(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フレームは、前記第1金型を支持する第1フレーム部と、前記第2金型を支持する第2フレーム部と、前記第1フレーム部と前記第2フレーム部とを連結する複数の柱部とを有する、
請求項1に記載のプレス加工方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プレス機を用いたプレス加工において、ワークに対する加工精度を高める方法として、第1金型及び第2金型を高精度に製造したり、プレス機の組立状態における、フレームの基準軸に対する第1金型及び第2金型の同軸度を高めたりする方法が考えられる。
【0006】
しかしながら、このような方法を採用したとしても、プレス加工を行う際には、ワークから第1金型及び第2金型に加わる加工反力によって、第1金型、第2金型、及びフレームに弾性変形が生じる。そして、このような弾性変形が生じることに基づいて、第1金型と第2金型との間に相対的な傾きが生じると、ワークに対する加工精度が低下したり、第2金型を第1金型に対して近づけるのに大きな力を要する、すなわち、エネルギーロスが大きくなるといった問題がある。
【0007】
本発明は、上述のような事情に鑑み、ワークに対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さく抑えることができるプレス加工方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のプレス加工方法の第1の態様は、基準軸を有するフレームと、前記フレームに支持された第1金型と、前記基準軸の軸方向に関して前記第1金型に対する遠近動を可能に前記フレームに支持された第2金型と、前記第2金型を第1金型に対して近づける方向の力を発生させる油圧シリンダとを備える、プレス機を用い、ワーク中心軸を有し、かつ、該ワーク中心軸を中心とする回転対称な形状を有するワークを、前記第1金型と前記第2金型との間に配置した状態で、前記油圧シリンダにより、前記第2金型を前記第1金型に向け押圧して、前記第2金型を前記第1金型に対して近づけることにより、前記第1金型と前記第2金型との間で前記ワークにプレス加工を施す。
前記第1の態様では、前記フレームと前記第1金型と前記第2金型とのそれぞれの形状を、前記基準軸を中心とする回転対称な形状とする。そして、前記ワーク中心軸を前記基準軸に一致させた状態で、前記ワークに前記プレス加工を施す。
なお、回転対称とは、図形(形状)を特徴付ける対称性の1つであり、空間的な図形を1つの軸のまわりに回転させるとき、角度2π/n(n:2以上の正の整数)ごとに初めの図形と一致する場合、その図形には、n回の回転対称(n回対称)があるという。本発明では、n=1の場合は(360°回転して自らと重なるのは自明であり、対称性があるとは言えないので)、回転対称とは言わない。本明細書及び特許請求の範囲では、回転対称がある形状を、回転対称な形状と表現することがあり、回転対称がない形状を、非回転対称な形状と表現することがある。
【0009】
本発明のプレス加工方法の第1の態様における、一態様では、前記フレームは、前記第1金型を支持する第1フレーム部と、前記第2金型を支持する第2フレーム部と、前記第1フレーム部と前記第2フレーム部とを連結する複数の柱部とを有する。
この場合に、例えば、前記ワークの形状に関する回転対称の回数がn(n:2以上の正の整数)である場合に、前記柱部の数をn×2
k(k:0又は正の整数)とし、かつ、該柱部を前記基準軸を中心とする円周方向に等間隔に配置する。
【0010】
本発明のプレス加工方法の第2の態様は、基準軸を有するフレームと、前記フレームに支持された第1金型と、前記基準軸の軸方向に関して前記第1金型に対する遠近動を可能に前記フレームに支持された第2金型と、前記第2金型を第1金型に対して近づける方向の力を発生させる油圧シリンダとを備える、プレス機を用い、前記基準軸の軸方向から見て非回転対称な形状を有するワークを、前記第1金型と前記第2金型との間に配置した状態で、前記油圧シリンダにより、前記第2金型を前記第1金型に向け押圧して、前記第2金型を前記第1金型に対して近づけることにより、前記第1金型と前記第2金型との間で前記ワークにプレス加工を施す。
前記第2の態様は、径方向位置決定工程と、プレス加工工程とを備える。
前記径方向位置決定工程では、前記ワークに前記プレス加工を施す際の、前記基準軸を中心とする前記第1金型及び前記第2金型の径方向位置と、前記ワークに前記プレス加工を施す際に生じる、前記第1金型と前記第2金型との間の相対的な傾き量との関係を求める試験を行い、該関係を利用して、前記傾き量が所定値以下となる、1つの前記径方向位置を決定する。
前記プレス加工工程では、前記第1金型及び前記第2金型を、前記径方向位置決定工程で決定した1つの前記径方向位置に配置した状態で、前記ワークに前記プレス加工を施す。
【0011】
本発明のプレス加工方法の第3の態様は、基準軸を有するフレームと、前記フレームに支持された第1金型と、前記基準軸の軸方向に関して前記第1金型に対する遠近動を可能に前記フレームに支持された第2金型と、リンク機構とを備える、プレス機を用い、ワークを、前記第1金型と前記第2金型との間に配置した状態で、前記リンク機構により、前記第2金型を前記第1金型に向け押圧して、前記第2金型を前記第1金型に対して近づけることにより、前記第1金型と前記第2金型との間で前記ワークにプレス加工を施す。
ここで、前記リンク機構は、駆動源と、該駆動源により回転駆動される第1リンク部材と、一方の端部を、前記第1リンク部材のうちで該第1リンク部材の回転中心軸から径方向に外れた部分に回動可能に支持し、かつ、他方の端部を、前記第2金型に回動可能に支持した第2リンク部材とを有する。
前記第3の態様は、径方向位置決定工程と、プレス加工工程とを備える。
前記径方向位置決定工程では、前記ワークに前記プレス加工を施す際の、前記基準軸を中心とする前記第1金型及び前記第2金型の径方向位置と、前記ワークに前記プレス加工を施す際に生じる、前記第1金型と前記第2金型との間の相対的な傾き量との関係を求める試験を行い、該関係を利用して、前記傾き量が所定値以下となる、1つの前記径方向位置を決定する。
前記プレス加工工程では、前記第1金型及び前記第2金型を、前記径方向位置決定工程で決定した1つの前記径方向位置に配置した状態で、前記ワークに前記プレス加工を施す。
【0012】
本発明のプレス加工方法の第2の態様及び第3の態様では、例えば、前記試験を行う際に、レーザ変位計を用いて前記傾き量を測定することができる。
【0013】
本発明の製造方法の対象となる機械装置は、金属製部品を備える。
本発明の機械装置の製造方法は、前記金属製部品の製造工程に、本発明のプレス加工方法を実施する工程を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ワークに対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さく抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施の形態の第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、
図1〜
図4を用いて説明する。
【0017】
本例は、自動車や産業機械などの各種機械装置を構成する金属製部品の製造工程において、油圧式のプレス機1を用いて金属製部品の初期素材又は中間素材であるワーク11(
図2、4参照)に対し、プレス加工を施す例である。特に、本例では、ワーク11は、プレス加工を施される前後のそれぞれの状態において、自身の中心軸であるワーク中心軸、及び、ワーク中心軸を中心とする回転対称な形状を有する。
【0018】
プレス機1は、プレス中心となる上下方向の基準軸Cと、フレーム2と、ボルスタ3と、スライド4と、油圧シリンダ5と、第1金型である下型6と、第2金型である上型7とを備える。
【0019】
フレーム2は、第1フレーム部である下側フレーム部8と、下側フレーム部8の上方に配置された第2フレーム部である上側フレーム部9と、下側フレーム部8と上側フレーム部9とを連結する複数の柱部10とを備える。柱部10のそれぞれは、上下方向に伸長し、かつ、下端部が下側フレーム部8に結合され、上端部が上側フレーム部9に結合されている。
【0020】
フレーム2は、基準軸Cを中心とする回転対称な形状を有しており、特に本例では、基準軸Cを中心とする4回対称の形状を有する。このために、本例では、下側フレーム部8及び上側フレーム部9のそれぞれは、平面視形状(
図3に示した、上方から見た形状)が正方形である、直方体形状を有する。下側フレーム部8の平面視形状(正方形)と、上側フレーム部9の平面視形状(正方形)との、基準軸Cを中心とする(各辺が互いに交わる頂点の)円周方向の位相は、互いに一致している。柱部10の数は、4本である。柱部10のそれぞれは、円柱形状を有し、基準軸Cを中心とする円周方向等間隔の4箇所であって、平面視において下側フレーム部8及び上側フレーム部9の四隅に配置されている。
【0021】
ボルスタ3は、下型6を固定するための部材であり、下側フレーム部8の上面に支持されている。本例では、ボルスタ3は、基準軸Cを中心とする回転対称な形状を有する。具体的には、ボルスタ3は、平面視形状が正方形である、平板形状を有する。ボルスタ3の平面視形状(正方形)と、下側フレーム部8及び上側フレーム部9の平面視形状(正方形)との、基準軸Cを中心とする(各辺が互いに交わる頂点の)円周方向の位相は、互いに一致している。
【0022】
スライド4は、上型7を固定するための部材であり、ボルスタ3の上方に、上下方向(基準軸Cの軸方向)の移動を可能に配置されている。本例では、スライド4は、基準軸Cを中心とする回転対称な形状を有する。具体的には、スライド4は、平面視形状が円形である、平板形状を有する。
【0023】
油圧シリンダ5は、ワーク11にプレス加工を施すための力の発生源であり、自身の中心軸を基準軸Cに一致させた状態で、上側フレーム部9に支持されている。油圧シリンダ5は、その内部に、自身の中心軸と同軸に配置された図示しないピストンロッドを備えており、油圧の導入に伴って、この油圧に比例した軸方向の力をピストンロッドに付与する。スライド4は、ピストンロッドの下端部に取り付けられている。すなわち、スライド4は、油圧シリンダ5を介して、上側フレーム部9に支持されており、ピストンロッドと一体となって上下方向に移動する。
【0024】
下型6は、自身の中心軸である第1中心軸を中心とする回転対称な形状を有する。下型6は、第1中心軸を基準軸Cに一致させた状態で、ボルスタ3の上面に固定されている。
【0025】
上型7は、自身の中心軸である第2中心軸を中心とする回転対称な形状を有する。上型7は、第2中心軸を基準軸Cに一致させた状態で、スライド4の下面に固定されている。したがって、下型6と上型7とは、互いに同軸に配置されている。
【0026】
以上のような構成を有するプレス機1を用いて、自身の中心軸であるワーク中心軸を中心とする回転対称な形状を有するワーク11に対し、プレス加工を施す際には、
図2に示すように、下型6と上型7との間にワーク11を配置する。より具体的には、ワーク11のワーク中心軸を基準軸Cに一致させた状態で、ワーク11を下型6にセットする。そして、この状態で、油圧シリンダ5により、上型7を下方に移動させることで、基準軸Cの軸方向に関して上型7を下型6に近づける。これにより、下型6と上型7との間でワーク11にプレス加工を施す。
【0027】
なお、この際のプレス加工の種類は、特に問わない。すなわち、該プレス加工の種類は、例えば、
図3(A)に示すような据え込み加工、
図3(B)に示すような後方押し出し加工、
図3(C)に示すような前方押し出し加工、
図3(D)に示すような打ち抜き加工の他、従来から知られた各種のプレス加工に適用可能である。何れにしても、下型6及び上型7の形状は、プレス加工の種類に応じた形状とする。
【0028】
以上のような本例のプレス加工方法では、油圧シリンダ5を備えるプレス機1により、回転対称な形状を有するワーク11にプレス加工を施す場合において、下型6の中心軸である第1中心軸と、上型7の中心軸である第2中心軸とのそれぞれを、基準軸Cと同軸に配置し、かつ、下型6、上型7、ボルスタ3、スライド4、及びフレーム2として、それぞれが基準軸Cを中心とする回転対称な形状を有するものを使用するとともに、下型6と上型7との間でワーク11にプレス加工を施す際に、ワーク11の中心軸であるワーク中心軸を、基準軸Cと同軸に配置する。したがって、ワーク11にプレス加工を施す際に、下型6、上型7、ボルスタ3、スライド4、及びフレーム2のそれぞれの弾性変形によって生じる、下型6(第1中心軸)と、上型7(第2中心軸)との相対的な傾き量を、小さく抑えられる。換言すれば、この傾き量を、予め決めておいた所定値以下にした状態で、ワーク11にプレス加工を施すことができる。したがって、ワーク11に対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さく抑えることができる。
【0029】
[実施の形態の第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、
図5〜
図7を用いて説明する。
【0030】
本例では、プレス機1aのフレーム2aを構成する下側フレーム部8a及び上側フレーム部9aのそれぞれは、基準軸Cを中心とする短円柱形状を有する。
【0031】
また、フレーム2aは、柱部10の数、及び、柱部10の円周方向の配置の位相を、それぞれ変更可能な構成を有する。このために、本例では、下側フレーム部8aは、円周方向に関して等間隔となる複数箇所に、上端が開口し、かつ、柱部10の下端部を着脱可能に内嵌保持可能な下側嵌合孔12を有する。また、上側フレーム部9aは、上下方向に関して下側嵌合孔12のそれぞれと対向する円周方向に関して等間隔となる複数箇所に、下端が開口し、かつ、柱部10の上端部を着脱可能に内嵌保持可能な、図示しない上側嵌合孔を有する。これにより、下側嵌合孔12及び上側嵌合孔が存在する、円周方向に関して等間隔となる複数箇所のそれぞれにおいて、柱部10を設置するか否かを選択できるようにすることで、フレーム2aが備える柱部10の数、及び、該柱部10の円周方向の配置の位相を、それぞれ変更可能としている。
【0032】
本例では、ワーク11と複数の柱部10とを一体的に見た場合に、ワーク11と複数の柱部10との集合体が、基準軸Cを中心とする回転対称な形状となるように、柱部10を配置している。これにより、プレス加工時において、下型6(第1中心軸)と上型7(第2中心軸)との相対的な傾き量を、より効果的に抑えられるようにしている。
【0033】
次に、ワーク11と複数の柱部10との集合体が、基準軸Cを中心とする回転対称な形状となるような、柱部10の配置の具体例について、
図6(A)〜
図6(C)、及び、
図7(A)〜
図7(C)を参照しつつ説明する。
【0034】
図6(A)〜
図6(C)は、ワーク11の形状に関する回転対称の回数n(n:2以上の整数)が3(n=3)の場合の例である。なお、
図6(A)〜
図6(C)では、便宜上、このようなワーク11の平面視形状を、正三角形で示している。n=3のワーク11と複数の柱部10との集合体が、基準軸Cを中心とする回転対称な形状となるような、柱部10の配置を実現するための、柱部10の最小の数は、3本になる。3本の柱部10は、例えば、
図6(A)や
図6(B)に示すように、基準軸Cを中心とする円周方向に等間隔に配置される。
図6(A)は、前記正三角形の各頂点と同じ円周方向位置に柱部10を配置した例であり、
図6(B)は、前記正三角形の各辺の中央部と同じ円周方向位置に柱部10を配置した例である。n=3のワーク11と複数の柱部10との集合体が、基準軸Cを中心とする回転対称な形状となるような、柱部10の配置を実現するための、柱部10の次の数は、6本になる。6本の柱部10は、例えば、
図6(C)に示すように、基準軸Cを中心とする円周方向に等間隔に配置される。
図6(C)は、前記正三角形の各頂点及び各辺の中央部と同じ円周方向位置に柱部10を配置した例である。
【0035】
同様に、ワーク11の形状に関する回転対称の回数がnである場合、このようなワーク11と複数の柱部10との集合体が、基準軸Cを中心とする回転対称な形状となるような、柱部10の配置を実現するための、柱部10の数は、n×2
k(k:0又は正の整数(k=0、1、2、3、・・・))の関係で増えていく。ただし、柱部10の数が多くなるほど、プレス加工位置に対するワーク11の供給及び排出や、下型6及び上型7の交換が難しくなるため、通常は、最小の数(例えば、n=3の場合は、3本)を採用する。
【0036】
図7(A)〜
図7(C)は、ワーク11の形状に関する回転対称の回数nが5(n=3)の場合の例である。なお、
図7(A)〜
図7(C)では、便宜上、このようなワーク11の平面視形状を、正五角形で示している。この場合も、
図6(A)〜
図6(C)に示した、n=3のワーク11の場合と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0037】
また、本例では、プレス機1aのボルスタ3aは、基準軸αを中心とする円板形状を有する。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0038】
[実施の形態の第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0039】
本例は、油圧式のプレス機1bを用いて、自身の中心軸であるワーク中心軸を中心とする非回転対称な形状を有するワーク11aに対し、プレス加工を施す例である。
【0040】
なお、ワーク11aが、その主要部として、中心軸を有する部位(軸部、筒部、環状部など)を備えている場合には、該主要部の中心軸を、ワーク中心軸と定義することができる。これに対して、ワーク11aが、その主要部として、中心軸を有する部位(軸部、筒部、環状部など)を備えていない場合には、例えば、ワーク11aの平面視形状の幾何中心を通る鉛直軸や、ワーク11aの重心を通る鉛直軸や、ワーク11aの平面視形状に外接する円又は四角形(長方形、正方形)の中心を通る鉛直軸などを、ワーク中心軸と定義することができる。すなわち、この場合には、ワーク中心軸の定義の仕方によって、ワーク11a内でのワーク中心軸の位置が変わる。
【0041】
いずれにしても、本例では、ワーク11aにプレス加工を施すべく、下型6aと上型7aとの間にワーク11aを配置した状態で、ワーク中心軸は、基準軸Cと平行に配置される(つまり、この状態で、ワーク11aは、基準軸Cの軸方向から見て非回転対称な形状を有する)。また、この状態で、下型6a及び上型7aのうち、ワーク中心軸と同一直線上に位置する軸が、下型6a及び上型7aのそれぞれの中心軸(第1中心軸、第2中心軸)となる。本例では、ワーク11aが、ワーク中心軸を中心とする非回転対称な形状を有するため、下型6a及び上型7aも、それぞれの中心軸(第1中心軸、第2中心軸)を中心とする非回転対称な形状を有する。
【0042】
以上の説明からも分かるように、本例では、ワーク中心軸の定義の仕方によって、ワーク11a内でのワーク中心軸の位置が変わる場合があるため、下型6a内での第1中心軸の位置、及び、上型7a内での第2中心軸の位置も、ワーク中心軸の定義の仕方によって変わる場合がある。ただし、本例では、互いに同軸となる、下型6a内での第1中心軸の位置、及び、上型7a内での第2中心軸の位置が決まれば、その位置を利用して、後述する「径方向位置決定工程」及び「プレス加工工程」を行えるため、特に問題となることはない。
【0043】
本例では、ワーク11aと下型6aと上型7aとのそれぞれが、自身の中心軸を中心とする非回転対称な形状を有するため、
図8に示すように、下型6a及び上型7aの中心軸(第1中心軸及び第2中心軸)を、基準軸Cと同軸に配置しても、ワーク11aにプレス加工を施す際には、下型6a(第1中心軸)と上型7a(第2中心軸)との間に、相対的な傾きが生じる傾向となる。
【0044】
(径方向位置決定工程)
そこで、本例では、基準軸Cを中心とする下型6a及び上型7aの径方向位置を種々変えて、具体的には、基準軸Cに対する、下型6a及び上型7aの中心軸の径方向のずれ量を種々変えて、該ずれ量ごとに、ワーク11aにプレス加工を施す試験を行う。そして、この試験において、ワーク11aにプレス加工を施す際に生じる、下型6a(第1中心軸)と上型7a(第2中心軸)との間の相対的な傾き量(傾斜角度)を測定する。このために、具体的には、第1中心軸に直交する仮想平面内に存在するボルスタ3の上面のうち、基準軸Cを中心とする円周方向等間隔となる4箇所に、レーザ変位計13を配置する。そして、これらのレーザ変位計13により、第2中心軸に直交する仮想平面内に存在する上型7aの下面(スライド4aの下面でも良い)のうち、基準軸Cを中心とする円周方向等間隔となる4箇所の上下方向位置を測定することに基づいて、下型6aと上型7aとの間の相対的な傾き量を測定する。そして、この測定の結果に基づいて、
図9に示すような、前記ずれ量(横軸)と前記傾き量(縦軸)との関係を求める。
【0045】
なお、
図9に示した関係における傾き量(縦軸)は、例えば、プレス加工の開始位置での傾き量でも、プレス加工の終了位置(上型7aの下死点)での傾き量でも、プレス加工中の傾き量の平均値でも、どれでも良い。ただし、ワーク11aに対する加工精度は、プレス加工の終了位置での傾き量を小さく抑えるのが重要になるため、
図9に示した関係における傾き量(縦軸)は、プレス加工の終了位置での傾き量とするのが好ましい。
【0046】
いずれにしても、本例では、上述のように求めた
図9の関係を利用して、前記傾き量が所定値以下となる、下型6a及び上型7aの径方向位置(前記ずれ量)を1つ決定する。特に、本例では、前記傾き量に関する、前記所定値は、前記ずれ量が0の場合の傾き量S
0よりも小さい値に設定する。すなわち、本例では、
図9の関係を利用して、前記ずれ量が0でない径方向位置で、かつ、前記ずれ量が0の場合よりも前記傾き量が小さくなる1つの径方向位置(好ましくは、前記傾き量が最小値S
minとなる径方向位置(ずれ量δ
min))を決定する。
【0047】
(プレス加工工程)
そして、上述のように決定した1つの径方向位置に下型6a及び上型7aを配置した状態(換言すれば、基準軸Cに対する下型6a及び上型7aの中心軸の径方向のずれ量を、上述のように決定したずれ量に調整した状態)で、ワーク11aにプレス加工を施す。この結果、ワーク11aにプレス加工を施す際の前記傾き量を抑えることができるため、ワーク11aに対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さくできる。
【0048】
なお、上述した試験を行う場合に、基準軸Cに対して下型6a及び上型7aの中心軸をずらす方向(径方向)は、無数に選択し得るが、任意の方向を選択すれば良い。また、選択する方向は、1つに限らず、複数でも良い。選択する方向を複数とする場合には、選択した方向ごとに、
図9の関係を求める。そして、これらの関係の中から、前記傾き量を最も小さくできる関係を採用すれば、ワーク11に対する加工精度を、より効果的に向上させることができる。
【0049】
なお、本例では、
図9の関係におけるずれ量を、基準軸Cに対する下型6a及び上型7aの中心軸のずれ量としたが、本発明を実施する場合には、
図9の関係におけるずれ量を、基準軸Cに対する下型6a及び上型7aの中心軸以外の箇所(例えば、下型6a及び上型7aの外周面の周方向一部)のずれ量とすることもできる。
【0050】
なお、レーザ変位計13は、上述した試験が終了した後に撤去しても良いし、そのまま残しておいても良い。
【0051】
本例では、既存のプレス機の前記ずれ量を変えるだけで、ワーク11aに対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さくできるため、ワーク11aの加工コストを抑えられる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
【0052】
[実施の形態の第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、
図10を用いて説明する。本例は、実施の形態の第3例の変形例である。
【0053】
本例では、油圧式のプレス機1cは、ガイドロッド14と、ガイドブッシュ15とを備える。ガイドロッド14は、下型6aの第1中心軸に直交する仮想平面内に存在するボルスタ3の上面のうち、基準軸Cを中心とする円周方向等間隔となる4箇所から上方に向けて伸長している。ガイドブッシュ15は、上型7aの第2中心軸に直交する仮想平面内に存在するスライド4aの下面のうち、上下方向に関してガイドブッシュ15と整合する4箇所から下方に向けて伸長している。そして、上下方向に関して互いに整合する位置に存在するガイドロッド14とガイドブッシュ15とを、がたつきなく、かつ、上下方向の相対変位を自在に嵌合させている。これにより、ワーク11aにプレス加工を施す際に生じる、下型6a(第1中心軸)と上型7a(第2中心軸)との間の相対的な傾き量を、より小さく抑えられるようにしている。
【0054】
なお、ワーク11aにプレス加工を施す際に生じる、前記傾き量は、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の数を増やしたり、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の直径を大きくしたりすることによって、より小さく抑えることができる。ただし、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の数を増やしたり、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の直径を大きくしたりすると、その分、プレス機1cの製造コストが嵩む。この点に関して、本例では、
図9の関係を利用して、基準軸Cに対する下型6a及び上型7aの中心軸の径方向のずれ量を調整することにより、前記傾き量を小さく抑えることができる。このため、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の数を過度に増やしたり、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の直径を過度に大きくしたりする必要がない。したがって、その分、プレス機1cの製造コストを抑えられる。
【0055】
なお、前記傾き量は、ガイドロッド14及びガイドブッシュ15の位置や、下型6aの直径や、上型7aの直径など、影響のありそうなパラメータを変えることによって、さらに小さく抑えることもできる。該パラメータが3つ以上の場合は、直交表を使って、前記傾き量がより小さくなる(好ましくは最小になる)組み合わせを採用することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第3例と同様である。
【0056】
[実施の形態の第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、
図11及び
図12を用いて説明する。
【0057】
本例は、機械式のプレス機1dを用いて、ワークに対し、プレス加工を施す例である。加工対象となるワークは、自身の中心軸であるワーク中心軸を中心とする回転対称な形状を有するワーク11であっても良いし、自身の中心軸であるワーク中心軸を中心とする非回転対称な形状を有するワーク11aであっても良い。
【0058】
本例のプレス機1dでは、スライド4bは、その外周縁部が、フレーム2bに対し、上下方向(基準軸Cの軸方向)の移動を可能に案内されている。また、スライド4bは、図示しない電動モータが発生する動力を伝達するリンク機構16により、上下方向に移動させることができるようになっている。
【0059】
リンク機構16は、スライド4bの上方に配置されており、第1リンク部材であるクランク軸17と、第2リンク部材であるコンロッド18とを備える。クランク軸17は、軸方向両側部に互いに同軸に配置された1対の回転軸部19と、軸方向中間部に1対の回転軸部19と平行に配置されたオフセット軸部20と、1対の回転軸部19の互いに近い側の端部とオフセット軸部20の両端部とをそれぞれ連結する1対の連結部21を備える。このようなクランク軸17は、1対の回転軸部19及びオフセット軸部20が水平に配置され、かつ、1対の回転軸部19がフレーム2bに対して回転自在に支持されている。コンロッド18は、その上端部が、オフセット軸部20に対し、オフセット軸部20を中心とする回動可能に支持され、かつ、その下端部が、スライド4bの上端部の中央部に対し、オフセット軸部20と平行な軸22を中心とする回動可能に支持されている。すなわち、リンク機構16は、このようにスライド4bと組み合わされることにより、1対の回転軸部19を中心とするクランク軸17の回転に伴って、スライド4bを上下方向に往復移動させる、スライダ・クランク機構を構成している。なお、1対の回転軸部19を中心とするクランク軸17の回転は、図示しない電動モータを動力源として行われる。
【0060】
本例のプレス機1dでは、
図12に示すように、基準軸Cに対するコンロッド18の傾きに起因して、コンロッド18からスライド4bに対し、基準軸Cに対して傾斜した力Fが作用する。力Fには、スライド4bの移動方向である上下方向(基準軸Cの軸方向)と直交する方向の成分が含まれている。このため、
図11に示すように、互いに同軸に配置された下型6(又は6a)及び上型7(又は7a)の中心軸(第1中心軸及び第2中心軸)のそれぞれを、基準軸Cと同軸に配置しても、ワーク11(又は11a)にプレス加工を施す際には、前記成分によってスライド4bが傾くことにより、下型6(又は6a)(第1中心軸)と上型7(又は7a)(第2中心軸)との間に、相対的な傾きが生じる傾向となる。
【0061】
そこで、本例の場合も、実施の形態の第3例と同様の試験を行い、
図9に示すような関係、すなわち、基準軸Cに対する下型6(又は6a)及び上型7(又は7a)の中心軸の径方向のずれ量と、ワーク11(又は11a)にプレス加工を施す際に生じる、下型6(又は6a)(第1中心軸)と上型7(又は7a)(第2中心軸)との間の相対的な傾き量との関係を求める。そして、この関係を利用して、前記ずれ量が0でない箇所で、かつ、前記ずれ量が0の場合よりも前記傾き量が小さくなる箇所(好ましくは、該傾き量が最小になる箇所)に、下型6(又は6a)及び上型7(又は7a)の中心軸を配置する。そして、この状態でワーク11(又は11a)にプレス加工を施すことで、ワーク11(又は11a)に対する加工精度を向上させつつ、エネルギーロスを小さくする。
【0062】
なお、本例の場合、前記ずれ量を決定した後、プレス加工時のクランク軸17の回転速度を小さい値に変更することで、前記傾き量をより小さくすることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第3例と同様である。
【0063】
本発明は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせて実施することができる。
本発明は、例えば、転がり軸受を構成する金属製部品(転がり軸受を構成する内輪や外輪、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受を構成するハブ輪や内輪や外輪など)を製造する際に、実施することができる。