特許第6874816号(P6874816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6874816
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】金属酸化物分散体および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/06 20060101AFI20210510BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20210510BHJP
   C08K 5/5415 20060101ALI20210510BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   C08L91/06
   C08K3/22
   C08K5/5415
   C08L101/00
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-201114(P2019-201114)
(22)【出願日】2019年11月6日
【審査請求日】2019年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正也
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 喜紀
(72)【発明者】
【氏名】福原 弘一朗
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103965544(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104072955(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104045981(CN,A)
【文献】 特開2001−158871(JP,A)
【文献】 特開平11−310710(JP,A)
【文献】 特開2017−075268(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/111664(WO,A1)
【文献】 特開2006−119607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)と、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)と、23℃で固体のワックス(C)とを含み、
アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)のアルキル基の炭素数は、6〜12であり、
23℃で固体のワックス(C)は、モンタンワックスである、
金属酸化物分散体。
【請求項2】
前記金属酸化物(A)の金属は、錫、インジウム、アンチモン、セシウム、およびタングステンからなる群より選ばれるいずれかである、請求項1記載の金属酸化物分散体。
【請求項3】
前記アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)のアルコキシシリル基は、エトキシシリル基である、請求項1または2記載の金属酸化物分散体。
【請求項4】
前記23℃で固体のワックス(C)は、アルキル基を有するワックスである、請求項1〜いずれか1項記載の金属酸化物分散体。
【請求項5】
さらに熱可塑性樹脂(D)を含有する、請求項1〜いずれか1項記載の金属酸化物分散体。
【請求項6】
請求項記載の金属酸化物分散体から形成してなる成形体。
【請求項7】
平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)の表面を、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)で被覆した後、
23℃で固体のワックス(C)を混合する工程を備
アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)のアルキル基の炭素数は、6〜12であり、
23℃で固体のワックス(C)は、モンタンワックスである、
金属酸化物分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノサイズの金属酸化物を含有する金属酸化物分散体および該金属酸化物分散体から形成してなる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に100nmより小さなフィラーはナノフィラーと呼ばれる。ナノフィラーはナノ粒子化することで同じ化学的成分を持っているバルク状態にある物質とは異なった特性を発現しうることが知られている。新たな特性としては粒子の体積が小さくなることで発現した特性、例えば光の波長より小さくなることでバルク時の特性を保持したまま透明な材料を提供できるなど、また粒子の比表面積が増大し表面の活性が増大することで発現した特性、例えば表面原子の比率が内部原子の比率に対して無視できなくなるほど大きくなることで発現する表面プラズモン吸収により特定の光を吸収して金属の種類や粒子の大きさで色が異なって見える現象などがある。その他にもナノ粒子化することで磁区より小さくすることで一旦磁化させれば永久磁石のように磁化がとれなくしたりする技術、ナノフィラーをポリマーに少量分散させることで燃焼発熱量を押さえる技術、ポリマーの相溶化剤としてナノフィラーを用いる技術、ナノフィラーにすることで表面積を増大させバルク時の機能を効率的に発現させる技術など様々である。これらの特性からエレクトロニクス、エネルギー、化学、複合材料など様々な分野での応用が期待されている。
【0003】
しかし、ナノフィラーは、一次粒子まで分散されないとその特性が十分に発揮されないが、表面活性が高いため凝集しやすく、分散が非常に困難である。特にプラスチック中への分散は非常に困難である。そのため、一般的なマイクロオーダー以上の金属酸化物で用いられている表面処理技術を用いたのでは、その表面積から均一に表面処理がされず分散が不十分だったり、ナノフィラーの表面活性を抑えきれなかったり、などの不具合が生じる。また、一般的な顔料の分散方法であるワックスに分散させる方法をナノフィラーの分散に適用すると、特に、ナノフィラーが高濃度の場合、接触頻度が上がり凝集を起こしワックス中での分散安定性ができなかったり、表面積が上がることでの吸油率上昇による分散不良がおこったりなどの不具合がある。
【0004】
金属酸化物を樹脂中に分散させる技術としては、これまで、ステアリン酸系化合物を金属酸化物と共に熱可塑性樹脂中に分散させる手法(特許文献1参照)や金属酸化物を樹脂エマルジョン中に分散し分散液としたものを熱可塑性樹脂中に分散させるといった手法(特許文献2、3参照)などが知られている。
【0005】
しかしながら、近年要求されるナノサイズの金属酸化物を用いる場合、これらの金属酸化物を含有する分散体は、金属酸化物がナノサイズであるために安定性が悪く、また成形体に十分な赤外遮蔽効果をもたせることが、困難であるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−234066号公報
【特許文献2】特開2004−203999号公報
【特許文献3】特開2005−187226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ナノサイズの金属酸化物を含有する分散体であっても安定性、および加工性が良好な金属酸化物分散体であって、該金属酸化物分散体を用いることで、高い透明性を保持し、赤外遮蔽効果および強度に優れた成形体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)と、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)と、23℃で固体のワックス(C)とを含む金属酸化物分散体に関する。
【0009】
また、本発明は、前記金属酸化物分散体から形成してなる成形体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ナノサイズの金属酸化物を用いても、樹脂への分散性に優れ、加工性も良好な金属酸化物分散体とすることができる。また、該金属酸化物分散体を用いて形成されてなる成形体は、強度に優れ、高い透明性を保持し、赤外遮蔽効果により日射遮蔽効果と温度低下効果を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
《金属酸化物分散体》
本発明の金属酸化物分散体は、平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)と、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)と、23℃で固体のワックス(C)とを含む。このような金属酸化物分散体は、さらに熱可塑性樹脂(D)と混合した場合、安定性および加工性に優れたものとすることができるために好ましい。
なかでも、平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)の表面を、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)で被覆した後に、23℃で固体のワックス(C)を混合した金属酸化物分散体とすることで、よりワックス(C)や熱可塑性樹脂(D)との親和性を向上させることができ、安定性および加工性に優れた成形体とすることができるために好ましい。
これにより、金属酸化物(A)の表面が疎水化されることで、加工時にワックス(C)および熱可塑性樹脂(D)の加水分解を抑制することが出来るため、金属酸化物分散体の固有粘度を高く保持出来る。これに伴って、成形体の加工安定性や強度をより向上させることが出来る。
【0012】
必要に応じて他の任意成分を配合できる。他の任意成分は、例えば有機顔料や無機顔料、染料等の着色剤、ノニオン性やカチオン性、アニオン性界面活性剤等の帯電防止剤、脂肪酸アミドや金属石鹸等の滑剤、分散剤、消泡剤、離型剤、ハロゲン系やリン系、金属酸化物等の難燃剤、フェノール系やリン酸系等の酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、結晶造核剤、体質顔料等の充填剤が挙げられる。他の任意成分の選択およびその使用量は、本実施形態の課題を解決できる範囲内であれば特に限定されず使用できる。
【0013】
<金属酸化物(A)>
本発明の金属酸化物(A)は、金属酸化物を核とするものであって、無機表面処理が施された金属酸化物であってもよい。金属酸化物(A)は、平均一次粒子径が10〜100nmの金属酸化物粒子である。より好ましくは、透明性の観点から、10〜80nmである。
この範囲にあることで、本発明の金属酸化物分散体を用いて成形される成形体は、透明性に優れたものとすることができる。
なお、後述するように、金属酸化物(A)が、無機表面処理が施された金属酸化物である場合には、表面処理後の金属酸化物粒子の平均一次粒子径が、10〜100nmである。
【0014】
金属酸化物(A)の平均一次粒子径の求め方は、走査型電子顕微鏡で観察し、画像から一次粒子径を直接求める。具体的には、金属酸化物(A)を粉体の状態のまま、ごく少量ガラス板上に乗せ、走査型電子顕微鏡で観察し、金属酸化物(A)ができるだけ1粒1粒独立して見える視野を探す。次に、視野における任意の一定の方向に向かう直線を決定し、前記直線上に存在する粒子を横断する最も長い長さを当該粒子の大きさとする。そして、前記直線上に存在する少なくとも200個の粒子の大きさの平均値を、金属酸化物(A)の平均一次粒子径とする。
【0015】
金属酸化物の形状は特に制限されないが球状、棒状、筒状、環状、板状、板状積層体、中空球状、ポーラス粒子などがあり、特に形状を変えることで新しい機能を発現しない限りは流動性に優れる球状であることが好ましい。
【0016】
金属酸化物の金属は、チタン、亜鉛、セリウム、鉄、ジルコニウム、クロム、アルミニウム、マグネシウム、銀、銅、コバルト、ニッケル、トリウム、タングステン、モリブデン、マンガン、セシウム、ウラン、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、ビスマス、またはインジウム等の金属を含有する金属が挙げられる。
これらの中でも、遮熱効果に優れることから、錫、インジウム、アンチモン、セシウム、またはタングステンが好ましく、また、成形体の透明性に優れることから、好ましくは錫、インジウム、アンチモンであり、特に好ましくは錫、インジウムである。
【0017】
本発明の金属酸化物は、二酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化ジルコニウム、酸化クロム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化銀、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一コバルト、四三酸化コバルト、酸化第二コバルト、酸化第一ニッケル、酸化第二ニッケル、酸化トリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、二酸化マンガン、三酸化マンガン、酸化セシウム、酸化ウラン、酸化トリウム、酸化ゲルマニウム、酸化第一錫、酸化第二錫、一酸化鉛、四三酸化鉛、二酸化鉛、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、三酸化ビスマス、酸化インジウム等が挙げられる。また、複合金属酸化物や天然鉱物などの金属酸化物を含む化合物も挙げられる。
これらは単独あるいは混合して使用することができる。
これらの中でも、赤外遮蔽効果に優れる点から、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化セシウム、または酸化タングステンが好ましい。
特に好ましくは、成形体の透明性に優れる点から、酸化錫、酸化インジウム、酸化アンチモンであり、特に好ましくは酸化錫、酸化インジウムである。
【0018】
金属酸化物(A)の製法としては、バルクの粒子を機械粉砕させる方法、高速気流中で衝突させる方法、熱分解法、アトマイズ法、スプレー法、コロイド法、均一沈殿法、アルコキシド法、水熱合成法、マイクロエマルション法、溶媒蒸発法、ゾルゲル法、レーザーアブレーション法、CVD法、PVD法などがあるがどの方法で作成された無機フィラーを使用しても構わない。
【0019】
また、表面に無機表面処理が施された金属酸化物を用いることもできる。無機表面処理としては、酸化ケイ素などの金属酸化物で被覆する方法や、例えばAl、Mn、Cu、Zn、Zr、Ag、Cl、Ce、Eu、Tb、Er等の金属をドープさせる方法などが挙げられる。無機酸化物による表面処理は数種類のもので1層または何層か被覆しても構わないが、一般的には酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどで1または2層被覆される。特に熱可塑性樹脂(D)と混合して用いる場合、酸化ケイ素または酸化アルミニウムによる表面処理が好ましい。また、金属をドープさせる方法はナノ粒子表面の活性を落とすのにも優れているが、新たな特性を付与する目的でも用いられる。例えば酸化亜鉛にアルミニウムをドープさせることで導電性を付与することが出来る。
【0020】
金属酸化物(A)の含有率は、金属酸化物分散体100重量%中、0.01〜90重量%であることが好ましく、0.05〜60重量%であることがより好ましい。上記の範囲内であることで、金属酸化物(A)の分散が容易となり、成形体における良好な外観や赤外遮蔽効果といった性能をより発現させることが出来る。
【0021】
本発明の金属酸化物分散体は、このように金属酸化物を高濃度に含有する分散体であっても、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)と23℃で固体のワックス(C)とを含有することで、安定性に優れている。
そして、これを用いて得られる最終的な成形体も、ナノサイズの金属酸化物を、高濃度でありながら良好な分散状態で含有することができ、優れた透明性と赤外遮蔽効果を有することができる。
【0022】
<アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)>
本発明の金属酸化物分散体は、有機シラン化合物(B)を含むことで金属酸化物(A )およびワックス(C)との親和性が向上する。
なかでも、金属酸化物(A)を、有機シラン化合物(B)で被覆して用いることが好ましい。金属酸化物(A)を有機シラン化合物(B)で被覆することでよりワックス(C)との親和性を向上させることができる。また、金属酸化物(A)の表面が疎水化されることで、加工時にワックス(C)および熱可塑性樹脂(D)の加水分解を抑制することが出来るため、金属酸化物分散体の固有粘度を高く保持出来る。これに伴って、成形体の加工安定性や強度を向上させることが出来る。
【0023】
金属酸化物(A)を、有機シラン化合物(B)で被覆する方法としては特に制限されないが、金属酸化物(A)と有機シラン化合物とを、気相中で接触させることにより、有機シラン化合物(B)の被覆層を形成する気相法などが挙げられる。
【0024】
前記気相法は、流体エネルギー粉砕機、衝撃粉砕機等の乾式粉砕機や、ヘンシェルミキ
サー、スーパーミキサー等の高速攪拌機等を用い、金属酸化物(A)と有機シラン化合物(B)を攪拌、混合することで実施できる。
【0025】
有機シラン化合物(B)としては、例えば、オルガノシラン、オルガノシラザンが好ましく、オルガノシランが好ましい。また、アルキル基およびアルコキシシリル基を有し、前記アルキル基の炭素数は6〜12が好ましい。前記アルコキシシリル基は、エトキシシリル基であることが好ましく、反応基を有さないことがより好ましい。前記反応基はビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基などが挙げられる。
アルキル基の炭素数が6〜12である有機シラン化合物を含むことで、他の有機化合物との親和性を向上でき、それに伴って金属酸化物と他の有機化合物の親和性も向上できるため、金属酸化物を安定して分散できるために好ましい。また、エトキシシリル基を有する場合、金属酸化物との親和性をより向上でき、金属酸化物を安定して分散できる。さらに、金属酸化物との親和性が高いため、金属酸化物を疎水化しやく、それに伴って加水分解が抑制されやすいため、金属酸化物分散体の固有粘度も高く保持できる。
なかでも、アルキル基の炭素数が6〜12のオルガノシランであることが好ましい。
【0026】
前記有機シラン化合物(B)は、具体的には、オルガノシランとしてはアミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジメトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、およびそれらの加水分解生成物が挙げられる。
中でも、特に好ましい有機シラン化合物(B)としては、アルキル基の炭素鎖数が6〜12であり、アルコキシシリル基にエトキシシリル基を有している、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルメチルジエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシランなど挙げられる。
【0027】
前記オルガノシラザンは、例えばヘキサメチルシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン等が挙げられる。
前記有機シラン化合物は1種または2種以上を使用できる。
【0028】
金属酸化物(A)100重量部に対する有機シラン化合物(B)の配合量は、5〜70重量部であることが好ましく、10〜50重量部であることがより好ましい。5重量部以上である場合、金属酸化物分散体中に、金属酸化物が均一に分散されやすく好ましい。また、有機シラン化合物(B)の配合量が多い場合、金属酸化物分散体の粘度が極端に低くなり、金属酸化物(A)の分散安定性が得られにくい場合があるため、有機シラン化合物(B)の配合量は70重量部以下が好ましい。なかでも、金属酸化物(A)を有機シラン化合物(B)により被覆する場合には、この範囲であれば、金属酸化物(A)表面を十分に覆うことが出来るために好ましい。
【0029】
<23℃で固体のワックス(C)>
ワックス(C)は、23℃で固体のワックスである。
液状ワックスの場合、熱可塑性樹脂の粘度を下げることはできるが、ナノサイズの金属酸化物の粒子を用いた場合には凝集が起こり、分散体の安定性を得ることができない。
これに対し、23℃で固体のワックス(C)を用いることにより、ナノサイズの金属酸化物であっても、分散安定性が良好な金属酸化物分散体とすることができる。
【0030】
ワックス(C)として具体的には、例えば天然ワックスと合成ワックスが挙げられる。
天然ワックスとしては、例えばキャリデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろうなどの植物系ワックス、そして蜜蝋、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス、さらにモンタンワックス、オゾケライト、セレシンなどの鉱物系ワックス、またパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油ワックスなどがあげられる。
合成ワックスには、半合成ワックスと全合成ワックスがある。半合成ワックスとは、天然ワックスまたはワックス様材料を、エステル化、アミド化、酸性ワックスの中和等の化学的処理により変性したものである。合成ワックスの例としてはポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリスチレン系ワックスなどの合成炭化水素、そして変性オレフィンワックスなどの変性ワックス、さらにジペンタエリトリトールヘキサステアレート、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドなどの脂肪酸エステル、またステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、モンタン酸エステルワックスなどが挙げられる。
これらは単独あるいは混合して使用することができる。
【0031】
これらの中でも、天然ワックスを用いることがより好ましく、天然ワックスの中でも鉱物系ワックスであることがより好ましく、さらに鉱物系ワックスの中でも、透明性の観点からモンタンワックスを用いることがとくに好ましい。
また、有機シラン化合物(B)との親和性を考慮するとアルキル基を有するワックスであることで金属酸化物(A)を安定して分散性できるため好ましい。
【0032】
好ましくは、アルキル基を有する天然ワックスとしてモンタンワックスが挙げられ、アルキル基を有する合成ワックスは、具体的には、ジペンタエリトリトールヘキサステアレート、12−ヒドロキシステアリン酸トリグリセライドなどの脂肪酸エステル、またステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド、モンタン酸エステルワックスなどが挙げられる。
【0033】
金属酸化物との親和性が高い有機シラン化合物(B)との親和性が良くなることで、金属酸化物(A)の表面にワックス(C)が被覆される状態となり、金属酸化物(A)の凝集が抑制されて分散安定性がより優れたものになり、さらに熱可塑性樹脂(D)と混合した場合の、金属酸化物分散体の分散性もより良好となる。また金属酸化物分散体を用いて成形される成形体の透明性がより優れたものとなり、外観を向上させることができる。
【0034】
また、金属酸化物(A)100重量部に対するワックス(C)の配合量は、5〜150重量部であることが好ましく、10〜100重量部であることがより好ましい。5重量部以上であることで、金属酸化物(A)の表面をワックス(C)により十分に覆うことができ、安定に分散することが出来るために好ましい。また、ワックス(C)の配合量が多い場合、金属酸化物分散体の粘度が極端に低くなり、金属酸化物(A)の分散安定性が得られにくい場合があるため、ワックス(C)の配合量は150重量部以下が好ましい。
【0035】
<熱可塑性樹脂(D)>
本発明の金属酸化物分散体は、熱可塑性樹脂(D)を含み、成形体を形成することができる。
熱可塑性樹脂(D)は、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂ポリアミド樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン・コポリマー(COC)、ポリ塩化ビニル樹脂等が挙げられる。中でもポリエステル樹脂、またはポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂(D)の具体例としては、例えば、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、超低密度ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブタジエン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン酢酸ビニルコポリマー、アイオノマー樹脂、エチレンビニルアルコール共重合樹脂、エチレンアクリル酸エチル共重合体、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリロニトリル・塩素化ポリスチレン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合樹脂、シリコーンゴム・アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂、セルロース・アセテート・ブチレート樹脂、酢酸セルロース樹脂、メタクリル樹脂、エチレン・メチルメタクリレートコポリマー樹脂、エチレン・エチルアクリレート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ4フッ化エチレン樹脂、4フッ化エチレン・6フッ化プロピレン共重合樹脂、4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂、ポリ3フッ化塩化エチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン12、ナイロン6,T、ナイロン9,T、芳香族ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレン樹脂、ポリフロロアルコキシ樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリケトン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、生分解樹脂、バイオマス樹脂が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらの樹脂2種以上を共重合またはブレンドしたものであっても良い。
これらのなかでも、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、非晶性コポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂またはポリカーボネート樹脂を用いることが好ましく、ポリエステル樹脂を用いることがより好ましい。
【0037】
本発明においてポリエステル樹脂は、特に限定されないが、ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と、ジオール又はそのエステル形成性誘導体との縮合反応により得られるポリエステル、ヒドロキシカルボン酸の縮合反応より得られるポリエステル、これらのポリエステルの混合物、及び混合物のエステル交換反応物等があげられる。
【0038】
ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートと、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレートを含む芳香族ポリエステル樹脂;アジピン酸と1 , 4 − ブタンジオールとのポリエステル等の脂肪族ポリエステル樹脂;ジオール成分の一部をポリエチレングリコール等のアルキレングリコールに置換したポリエーテルエステル樹脂;ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸樹脂、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2−オキセタノン)等の生分解性脂肪族ポリエステル;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の生分解性脂肪族芳香族コポリエステルが挙げられる。これらは単独でも複数種を併用することもできる。本発明においてはポリアルキレンテレフタレートを用いることが好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いることがより好ましい。
【0039】
本発明においてポリカーボネート樹脂は、二価フェノールより誘導される粘度平均分子量14,000〜100,000、好ましくは18,000〜40,000の芳香族ポリカーボネート樹脂であり、通常二価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法又は溶融法で反応させて製造される。二価フェノールの代表的な例としては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下ビスフェノールAという)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロムフェニル)プロパン、2,2−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフォン等があげられる。好ましい二価フェノールはビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系化合物であり、なかでもビスフェノールAが特に好ましい。
【0040】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、ジアリールカーボネート、ハロホルメート等があげられ、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネート、二価フェノールのジハロホルメートなどがあげられる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当り、二価フェノールを単独で、又は二種以上を使用することができる。また、適当な分子量調節剤、分岐剤、反応を促進するための触媒等も使用でき、得られたポリカーボネート樹脂の二種以上を混合しても差支えない。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂(D)を含有する場合の、金属酸化物分散体における、金属酸化物(A)、有機シラン化合物(B)、ワックス(C)、熱可塑性樹脂(D)それぞれの含有率は、金属酸化物分散体100重量%中、金属酸化物(A)は、0.01〜70重量%であることが好ましく、0.05〜60重量%であることがより好ましい。
有機シラン化合物(B)は、0.001〜40重量%であることが好ましく、0.005〜30重量%であることがより好ましい。
ワックス(C)は、0.001〜40重量%であることが好ましく、0.005〜30重量%であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂(D)は、固有粘度の観点から、10〜99.9重量%であることが好ましく、10〜97重量%であることがより好ましく、20〜99.95重量%であることがさらに好ましく、20〜95重量%が特に好ましい。
【0042】
<金属酸化物分散体の製造方法>
金属酸化物分散体の製造方法は、金属酸化物(A)、有機シラン化合物(B)、ワックス(C)を混合、または溶融混合することでワックス(C)に、金属酸化物(A)を分散して製造することができる。
金属酸化物(A)および有機シラン化合物(B)は、予め混合、または加熱処理して金属酸化物分散体の製造前に有機シラン化合物(B)を金属酸化物(A)に被覆して用いることが好ましい。
【0043】
金属酸化物分散体が熱可塑性樹脂(D)を含有する場合、金属酸化物(A)、有機シラン化合物(B)、およびワックス(C)と一緒に混合、または溶融混合するのでもよく、また、あらかじめ有機シラン化合物(B)を金属酸化物(A)に被覆した後に、ワックス(C)および熱可塑性樹脂(D)を混合、または溶融混合するのであってもよい。
ベース樹脂となる熱可塑性樹脂(D)を含有することで、成形体を形成することができる。
【0044】
このように、平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)の表面を、前記アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)で被覆する工程を備えることで、よりワックス(C)、熱可塑性樹脂(D)との親和性を向上させることができ、分散安定性および加工性に優れたものとすることができるために好ましい。
【0045】
金属酸化物分散体は、例えば、ペレット状、粉状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状として得ることができ、ペレット状、または紛状が好ましく、ペレット状がより好ましい。
【0046】
混合装置は、例えばヘンシェルミキサーやタンブラー、ディスパー等で混合しニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギミキサー、バーティカルグラニュレーター、ハイスピードミキサー、ファーマトリックス、ボールミル、スチールミル、サンドミル、振動ミル、アトライター、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等を挙げることができる。本発明では均一な分散体を作製する観点から、回分式混練機または二軸押出機を用いることが好ましい。
【0047】
このように、本発明の金属酸化物分散体は、成形時に被成形樹脂(ベース樹脂)で希釈される形態として、金属酸化物(A)を比較的高濃度に含有するマスターバッチとして用いてもよいし、金属酸化物(A)の濃度が比較的低く、被成形樹脂で希釈せずにそのままの組成で成形に供給されるコンパウンドとして用いてもよい。また、コンパウンドと比較して、マスターバッチを用いる場合、金属酸化物(A)を分散するために同時に配合し溶融混錬により熱ダメージを受ける被成形樹脂の量が大幅に少ないため、成型体には熱ダメージを受けていない被成形樹脂が多く存在する。そのためマスターバッチを用いて成形した前記成型体は、初期劣化が相対的に少ないため好ましい。また、金属酸化物(A)が均一に分散されやすい点でもマスターバッチを用いることが好ましい。
また、ペレット状であることで、成形体成形時の供給安定性も優れたものとできる。
【0048】
また、マスターバッチの形成においても、まず金属酸化物(A)を高濃度に配合して溶融混練した高濃度金属酸化物分散体とした後に、さらに熱可塑性樹脂(D)を配合して溶融混練するといった、段階的に金属酸化物(A)の濃度を下げて溶融混練する工程を経ることで、金属酸化物分散体中に金属酸化物(A)を均一にすることができ、安定して分散できるため好ましい。
【0049】
このように、マスターバッチの形成において、まず金属酸化物(A)を非常に高濃度に配合して溶融混練して金属酸化物を製造する場合、金属酸化物(A)の含有率は、金属酸化物分散体100重量%中、30〜70重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。この範囲にあることで、金属酸化物(A)の分散安定性がより得られやすい。
この高濃度金属酸化物分散体に、さらに熱可塑性樹脂(D)を混合、または溶融混錬し、マスターバッチとすることができる。
高濃度金属酸化物分散体は、例えば、ペレット状、粉状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状として得ることができ、ペレット状、または紛状が好ましい。
【0050】
マスターバッチの場合、固有粘度の観点から熱可塑性樹脂(D)100重量部に対して、金属酸化物(A)を0.05〜40重量部配合することが好ましい。より好ましくは5〜25重量部である。
この範囲にあることで、成形性がより良好となる。
【0051】
コンパウンドの場合、加工性と熱可塑性樹脂(D)の物性の点から、熱可塑性樹脂(D100重量部に対して、金属酸化物(A)を0.01〜10重量部配合することが好ましい。より好ましくは0.05〜5重量部である。
【0052】
マスターバッチ、およびコンパウンドは、金属酸化物(A)、有機シラン化合物(B)、ワックス(C)、および熱可塑性樹脂(D)を一括で溶融混練することで製造しても構わないが、分散安定性の観点から、予め金属酸化物(A)を高濃度に配合して溶融混練した金属酸化物分散体、および熱可塑性樹脂(D)の溶融混練によって製造することが好ましい。
また、形状は、成形体成形時の供給安定性を考慮してペレット状であることが好ましい。
【0053】
《成形体》
本発明の成形体は、前述した金属酸化物(A)と、有機シラン化合物(B)と、ワックス(C)と、熱可塑性樹脂(D)を含有する金属酸化物分散体より成形される。
成形体100重量%中の金属酸化物(A)の含有率は、加工性や成形体の物性の観点から0.01〜10重量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5重量%である。本発明の金属酸化物分散体を用いることで、金属酸化物含有率が0.05〜5重量%といった低い範囲であっても赤外遮蔽効果に優れる成形体を形成することができる。
また、熱可塑性樹脂(D)100重量部に対して、金属酸化物(A)の含有量は、0.01〜10重量部であることが好ましい。より好ましくは0.05〜5重量部である。
本発明の成形体は、金属酸化物分散体を、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形、フィルム成形、カレンダー成形、紡糸成形等のいずれかの成形方法で成形し、得られるものである。
【0054】
本発明において、ナノサイズの金属酸化物(A)を高分散させた分散体を使用することで、金属酸化物分散体の安定性に優れ、従来よりも赤外遮蔽効果に優れる成形体を得ることができるため、赤外カットフィルター等の光学材、農業用フィルム等多くの用途に好適に使用できる。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を具体的に実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
なお、金属酸化物の平均一次粒子径は次の方法で行なった。
<平均一次粒子径の測定>
金属酸化物(A)の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡で観察し、画像から一次粒子径を直接求めた。具体的には、金属酸化物(A)を粉体の状態のまま、ごく少量ガラス板上に乗せ、走査型電子顕微鏡で観察し、金属酸化物(A)ができるだけ1粒1粒独立して見える視野を探した。次に、視野における任意の一定の方向に向かう直線を決定し、前記直線上に存在する粒子を横断する最も長い長さを当該粒子の大きさとした。そして、前記直線上に存在する少なくとも200個の粒子の大きさの平均値を、金属酸化物(A)の平均一次粒子径とした。
【0057】
続いて、金属酸化物分散体に使用した材料を以下に列挙する。
<金属酸化物(A)>
(A−1):酸化インジウム錫(ITO、CIKナノテック社製、ITO−R、平均一次粒子径40nm)
(A−2):アンチモンドープ酸化錫(ATO、石原産業社製、SN−100P、平均一次粒子径64nm)
(A−3):セシウムドープ酸化タングステン(CWO、住友金属鉱山社製、YMDS−874、平均一次粒子径40nm)
【0058】
【表1】
【0059】
<有機シラン化合物>
(B−1)ヘキシルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE−3063、炭素数6のアルキル基を有し、アルコキシシリル基がエトキシシリル基である)
(B−2)デシルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−3103、炭素数10のアルキル基を有し、アルコキシシリル基がメトキシシリル基である)
(B−3)メチルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、KBE−13、炭素数1のアルキル基を有し、アルコキシシリル基がエトキシシリル基である)
(B−4)メチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−13、炭素数1のアルキル基を有し、アルコキシシリル基がメトキシシリル基である)
(B’−1)フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−103、アルキル基を有さない、アルコキシシリル基がメトキシシリル基である)
【0060】
【表2】
【0061】
<ワックス>
(C−1):モンタンワックス(クラリアント社製、Licowax E、23℃で固体、アルキル基を含む)
(C−2):モンタンワックス(クラリアント社製、Licowax S、23℃で固体、アルキル基を含む)
(C−3):エチレンビスステアリン酸アミド(日油社製、アルフローH50S、23℃で固体、アルキル基を含む)
(C−4):ポリオレフィンワックス(クラリアント社製、Licowax PED522、23℃で固体、アルキル基を含まない)
(C’−1):流動パラフィン(出光興産社製、ダフニーオイルCP、23℃で液体、アルキル基を含まない)
【0062】
【表3】
【0063】
<熱可塑性樹脂(D)>
(D−1)ポリエステル樹脂(三菱ケミカル社製、ダイヤクロンER−535)
(D−2)ポリエステル樹脂(三井化学社製、SA135、固有粘度:0.83dl/g)
(D−3)ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製、ユーピロンS3000、固有粘度:0.60dl/g)
【0064】
<実施例1>
[金属酸化物分散体の製造]
金属酸化物(A−1)が50重量%、有機シラン化合物(B−1)が10重量%、ワックス(C−1)が10重量%、熱可塑性樹脂(D−1)が30重量%となるように、それぞれをスーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、温度20℃、時間5分の条件で撹拌した後、温度100℃に設定したラボプラストミル(東洋精機社製)にて溶融混練し、粉砕機(ホーライ社製)にて粉砕し粉状の高濃度金属酸化物分散体(E−1)を得た。
【0065】
続いて、得られた粉状の高濃度金属酸化物分散体(E−1)が20重量%、熱可塑性樹脂(D−1)が80重量%となるように、スーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、温度20℃、時間5分の条件で撹拌した後、温度280℃に設定した二軸押出機(日本プラコン社製)にて溶融混練し、ペレット状の金属酸化物分散体を得た。
【0066】
[成形体の製造]
得られたペレット状の金属酸化物分散体と、ペレット状の金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)を成形後の金属酸化物の濃度が0.3重量%もしくは1.0重量%となるように混合し、280℃に設定した単層Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)に投入して押出成形を行い、厚さ100μmのフィルム状成形体を得た。
【0067】
<実施例2〜15、比較例1〜6>
実施例1の組成、および配合率(重量%)を表4〜6に記載したように変更した以外は、実施例1と同様に行うことで、まず粉状の高濃度金属酸化物分散体(E)を製造し、続いて実施例1の組成、および配合率(重量%)を表7〜9に記載したように変更した以外は、ペレット状の金属酸化物分散体を作製した。得られたペレット状の金属酸化物分散体と、ペレット状の金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)を成形後の金属酸化物の濃度が0.3重量%もしくは1.0重量%となるように混合し、実施例1と同様にして、フィルム状成形体を成形した。
【0068】
<実施例16>
[金属酸化物分散体の製造]
金属酸化物(A−1)が50重量%、有機シラン化合物(B−1)が10重量%となるようにそれぞれをスーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、温度120℃、時間10分の条件で撹拌した後、温度が20℃になるまで冷却し、ワックス(C−1)が10重量%、熱可塑性樹脂(D−1)が30重量%となるように、それぞれをスーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、温度20℃、時間5分の条件で撹拌した。その後、温度100℃に設定したラボプラストミル(東洋精機社製)にて溶融混練し、粉砕機(ホーライ社製)にて粉砕し粉状の高濃度金属酸化物分散体(E−14)を得た。
【0069】
続いて、得られた粉状の高濃度金属酸化物分散体(E−14)が20重量%、熱可塑性樹脂(D−2)が80重量%となるように、スーパーミキサー(カワタ社製)に投入し、温度20℃、時間5分の条件で撹拌した後、温度280℃に設定した二軸押出機(日本プラコン社製)にて溶融混練し、ペレット状の金属酸化物分散体を得た。
【0070】
[成形体の製造]
得られたペレット状の金属酸化物分散体と、ペレット状の金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)を成形後の金属酸化物の濃度が0.3重量%もしくは1.0重量%となるように混合し、280℃に設定した単層Tダイフィルム成形機(東洋精機社製)に投入して押出成形を行い、厚さ100μmのフィルム状成形体を得た。
【0071】
<実施例17、18>
実施例16の組成、および配合率(重量%)を表5に記載したように変更した以外は、実施例16と同様に行うことで、まず粉状の高濃度金属酸化物分散体(E)を製造し、続いて実施例16の組成、および配合率(重量%)を表8に記載したように変更した以外は、ペレット状の金属酸化物分散体を作製した。得られたペレット状の金属酸化物分散体と、ペレット状の金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)を成形後の金属酸化物の濃度が0.3重量%もしくは1.0重量%となるように混合し、実施例16と同様にして、フィルム状成形体を成形した。
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
【表9】
【0078】
[評価方法]
得られたペレット状の金属酸化物分散体について、「分散性」および「固有粘度保持率」を評価した。また得られたペレット状の金属酸化物分散体を使用して成形したフィルム状成形体について「赤外遮蔽効果」、「透明性」および「引張降伏点強度」を評価した。その結果を表7に示す。
【0079】
<分散性>
先端に目開き10μmの金網を装着したシリンダー径が20mmの300℃に設定した単軸押出機を用い、10g相当量の金属酸化物が金網を通過するように得られたペレット状の金属酸化物分散体を押し出した。ペレット状の金属酸化物分散体中の金属酸化物の分散が不十分の場合は押出に伴って、上記金網が目詰まりをきたす。そこで、押出初期における上記金網にかかる圧力と、10g相当量の金属酸化物を含有するペレット状の金属酸化物分散体を押し出した時の上記金網にかかる圧力との差(押出機先端部の圧力上昇値)を求め、ペレット状の金属酸化物分散体中の金属酸化物の分散状態を評価した。
数値が小さいほど、分散性が良好であることを示す。以下の基準で分散性を評価した。好ましくは5.0MPa未満であり、より好ましくは3.0MPa未満であり、さらに好ましくは1.0未満である。なお評価基準△、○および◎が実用レベルである。

◎:1.0MPa未満。非常に良好。
○:1.0以上、3.0未満。良好。
△:3.0MPa以上、5.0MPa未満。実用可能。
×:5.0MPa以上。実用不可。
【0080】
<固有粘度>
各ペレット状の金属酸化物分散体、金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)およびワックスについて、フェノール:テトラクロロエタン=50:50(質量比)の混合溶媒に溶解し、濃度0.5g/dlの溶液を調整しウベローデ粘度計を用いて測定を行い、次式によって固有粘度保持率を評価した。固有粘度保持率が高い程熱可塑性樹脂(D)およびワックスの分解が抑制されペレット状の金属酸化物分散体の安定性が良好であることを表す。
次式:固有粘度保持率(%)=ペレット状の金属酸化物分散体の固有粘度(dl/g)/金属酸化物分散体の製造時に用いた熱可塑性樹脂(D)とワックスの固有粘度の重量加重平均(dl/g)×100%
また、以下の基準で評価した。

〇:80.0%以上。良好。
△:70.0%以上、80.0%未満。実用可能。
×:70.0%未満。実用不可。
【0081】
<赤外遮蔽効果>
得られたフィルム状成形体の下部に温度を検知するターゲットサンプルを配置し、フィルム状成形体の上部から赤外線ランプを照射し、30分後のターゲットサンプルの温度を測定した。30分後のターゲットサンプルの温度が低いほど赤外遮蔽効果が大きいことを表す。成形体中の金属酸化物濃度としては0.3重量%と1.0重量%の場合をそれぞれ評価した。また、フィルム状成形体の実用域としては、赤外線ランプを照射し、30分後のターゲットサンプルの温度が75℃以下である。
【0082】
<透明性>
スガ試験機社製の測定器「HZ−V3 Haze Meter」を用いて、得られたフィルム状成形体のHAZEを測定した。成形体中の金属酸化物濃度としては1.0重量%を評価した。
数値が小さいほど、成形体の透明性が良好であることを示す。以下の基準で透明性を評価した。好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%未満である。なお評価基準○および△が実用レベルである。

○:5%未満。良好。
△:5%以上10%未満。実用可能。
×:10%以上。実用不可。
【0083】
<引張降伏点強度>
得られたフィルム状成形体を2mm×12mmの短冊状に切り抜いて試験片とした。試験片を温度23℃、湿度50%の環境下で24時間静置した後、引張速度25mm/分の条件で引張降伏点強度を測定した。成形体中の金属酸化物濃度としては0.3重量%を評価した。
引張破降伏点強度が高い程、強い力を受けても成形品の形状を保持することが出来る。実用可能域としては、40MPa以上である。
【0084】
【表10】
【0085】
表10の結果から、平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)、アルキル基およびアルコキシシリル基を含む有機シラン化合物(B)、および23℃で固体のワックス(C)を含む金属酸化物分散体とすることで、ペレット状の金属酸化物分散体の分散性と固有粘度保持率、及び該金属酸化物分散体を使用した成形体の赤外遮蔽効果、透明性、引張降伏点強度において良好な結果が得られることが確認できた。
【0086】
また、金属酸化物含有量が、0.3重量%と1.0重量%である成形体の結果から、本発明の金属酸化物分散体を用いると、成形体の金属酸化物含有率が、0.3重量%といった低い含有率であっても、十分な赤外遮蔽効果を示していることが確認できた。
【0087】
このように、ナノサイズの金属酸化物を用いても、樹脂への分散性に優れ、加工性も良好な金属酸化物分散体が得られ、該金属酸化物分散体を用いて形成されてなる成形体は、高い透明性を保持し、赤外遮蔽効果により日射遮蔽効果と温度低下効果を付与することができるものであった。
【要約】
【課題】
ナノサイズの金属酸化物を含有する樹脂組成物であっても安定性、および加工性が良好な金属酸化物分散体であって、該金属酸化物分散体を用いることで、高い透明性を保持し、赤外遮蔽効果にも優れた成形体の提供を目的とする。
目的とする。
【解決手段】
平均一次粒子径10〜100nmの金属酸化物(A)と、アルキル基およびアルコキシシリル基を有する有機シラン化合物(B)と、23℃で固体のワックス(C)とを含む金属酸化物分散体により解決される。
【選択図】なし