(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記微細繊維状セルロース含有シートを200℃の真空条件下に4時間静置する前後のYI値の変化量の絶対値(ΔYI値)が30以下である請求項4又は5に記載の微細繊維状セルロース含有シート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、セルロース等の繊維の質量に関する値は、特に記載した場合を除き、絶乾質量(固形分)に基づく。「A及び/又はB」は、特に記載した場合を除き、AとBの少なくとも一方であることを指し、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、AとBとの双方であってもよいことを意味する。
【0014】
(微細繊維状セルロース含有物)
本発明は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースを含む微細繊維状セルロース含有物に関する。本発明の微細繊維状セルロース含有物は、グルコース単位を含む。ここで、グルコース単位の含有率をC
glu(質量%)、キシロース単位の含有率をC
xyl(質量%)、マンノース単位の含有率をC
man(質量%)、ガラクトース単位の含有率をC
gal(質量%)、アラビノース単位の含有率をC
ara(質量%)とした場合、(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値が0.1以下である。また、微細繊維状セルロースのリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は、0.5mmol/g以上である。
【0015】
本発明の微細繊維状セルロース含有物は、上記構成を有するため高い透明性を有する。ここで、高い透明性を有することは、微細繊維状セルロース含有物の全光線透過率が高く、ヘーズが低いことを意味する。
また、本発明の微細繊維状セルロース含有物は、黄色度が低い点にも特徴がある。さらに本発明の微細繊維状セルロース含有物は、経時後や加熱処理後であってもその黄色度が低く抑えられており、黄変が少ない。なお、本願明細書において、黄変とは主に黄色に変色することを意味するが、茶色や濃褐色または黒色に変色することも黄変に含めることとする。
【0016】
微細繊維状セルロース含有物は、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースを含むものである。微細繊維状セルロース含有物は、スラリー等の液状物であってもよく、粉粒状物等の固形状物やゲル状物であってもよい。
【0017】
微細繊維状セルロースは、(A)リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO
3H
2で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれる。また、本願明細書において、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、非イオン性置換基であってもよく、下記式(1)で表されるイオン性置換基であってもよい。
【0019】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);α
n(n=1〜nの整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0020】
微細繊維状セルロース含有物は、グルコース単位を含む。ここで、例えば、グルコース単位とは、下記式(2)で表されるものである。
【0022】
式(2)中、R、R’及びR”は、それぞれ独立に、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である。
【0023】
微細繊維状セルロース含有物にはセルロースに由来しないグルコース単位が含まれても良いが、微細繊維状セルロース含有物に含まれるグルコース単位は、セルロース由来のグルコース単位であることが好ましい。
【0024】
微細繊維状セルロース含有物は、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位を全く含まなくてもよいが、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位から選択される少なくともいずれかを含んでもよい。なお、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位も、上述したグルコース単位と同様に定義される。
微細繊維状セルロース含有物がキシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位から選択される少なくともいずれかを含む場合は、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位は、ヘミセルロース由来の単位であることが好ましい。
【0025】
本発明では、グルコース単位の含有率をC
glu(質量%)、キシロース単位の含有率をC
xyl(質量%)、マンノース単位の含有率をC
man(質量%)、ガラクトース単位の含有率をC
gal(質量%)、アラビノース単位の含有率をC
ara(質量%)とした場合、(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値が0.1以下である。(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値は、0.075以下であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましく、0.04以下であることがさらに好ましく、0.03以下であることが特に好ましい。(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロース含有物の透明性を向上させることができ、さらに微細繊維状セルロース含有物が黄変することを抑制することができる。なお、(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの下限値は、特に限定されないが、たとえば0.01とすることができる。
【0026】
グルコース単位の含有率C
glu、キシロース単位の含有率C
xyl、マンノース単位の含有率C
man、ガラクトース単位の含有率C
gal、アラビノース単位の含有率C
araは、微細繊維状セルロースを単糖まで加水分解をした後に、イオンクロマトグラフィーで測定をすることができる。具体的には、微細繊維状セルロースを、絶乾質量で200mg採取し、これに72%硫酸7.5mlを加える。その後、振盪恒温槽に入れ、30℃、160rpmで60分間振盪攪拌して第1の加水分解を行う。次いで、第1の加水分解後のパルプ分散液30μlを、超純水840μlを入れた1.5mlチューブにとり、攪拌して硫酸濃度4%に希釈する。その後、オートクレーブにて121℃で1時間処理し、第2の加水分解処理を行う。その後、カラム(ダイオネクス社製、CarboPac PA1)を装着したイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社製、ICS−5000)を用いて、グルコース単位の含有率C
glu、キシロース単位の含有率C
xyl、マンノース単位の含有率C
man、ガラクトース単位の含有率C
gal、アラビノース単位の含有率C
araを定量する。本発明では、グルコース単位、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位の合計を100質量%として、各単位の含有率を算出する。
イオンクロマトグラフィーでの分析においては、流速を1ml/分、カラム温度を室温に設定する。移動相には水を用い、洗浄液には0.3Nの水酸化ナトリウム水溶液、0.1Nの水酸化カリウム水溶液、0.25Nの炭酸ナトリウム水溶液を用いる。分析においては、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシロース、マンノースの順序で分離され、溶出する。検出されるピークはダイオネックス社製の解析ソフト(PeakNet)を用いて解析する。
なお、各単糖単位の含有率について、解繊後に得られる微細繊維状セルロースを加水分解して測定した値は、解繊直前のパルプ原料を加水分解して測定した値と同等である。
【0027】
本発明では、微細繊維状セルロースのリン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は0.5mmol/g以上である。リン酸基又はリン酸基に由来する置換基の含有量は0.6mmol/g以上であることが好ましく、0.7mmol/g以上であることがより好ましく、0.8mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.9mmol/g以上であることが特に好ましい。すなわち、本発明で用いる微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を所定量以上導入したものであり、これらの基は脱離していないことを意味する。
このように本発明で用いる微細繊維状セルロースは所定量以上のリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであり、これにより、微細繊維状セルロース含有物中における微細繊維状セルロースの分散性が良化する。また、微細繊維状セルロースが所定量以上のリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有することにより、より効果的に微細繊維状セルロース含有物の透明性を向上させることができ、さらに微細繊維状セルロース含有物が黄変することを抑制することができる。
【0028】
微細繊維状セルロース含有物が液状物である場合、微細繊維状セルロース含有物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.3〜3.0質量%であることがより好ましく、0.5〜3.0質量%であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性が発揮されやすくなる。
【0029】
微細繊維状セルロース含有物が固形状物又はゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して5質量%より多いことが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロース含有物が固形状物又はゲル状物である場合、微細繊維状セルロース含有物に含まれる微細繊維状セルロースの含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば99.5質量%とすることができる。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、よりハンドリング性に優れた微細繊維状セルロース含有物を得ることができる。
【0030】
微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.2質量%である分散液(以下、微細繊維状セルロース含有スラリーということもある)とした場合、分散液の全光線透過率は、87%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。また、分散液の全光線透過率の上限値は、特に限定されないが、たとえば100%とすることができ、99.8%であってもよい。微細繊維状セルロース含有スラリーの全光線透過率は、スラリー中の固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、ガラスセル(寸法:45mm×42mm×12mm)に注入し、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定する。測定においてはイオン交換水で満たしたガラスセルで校正を行う。
【0031】
また、微細繊維状セルロースの固形分濃度が0.2質量%である微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズは、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。また、微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズの下限値は、特に限定されないが、たとえば0%とすることができ、0.5%であってもよい。
なお、微細繊維状セルロース含有シートのヘーズは、スラリー中の固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、ガラスセル(寸法:45mm×42mm×12mm)に注入し、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定する。測定においてはイオン交換水で満たしたガラスセルで校正を行う。
【0032】
<他の成分>
微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロースの他に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、水溶性高分子や界面活性剤を挙げることができる。水溶性高分子としては、合成水溶性高分子(例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミドなど)、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなど)、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒロドキシエチルセルロースなど)、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができる。
【0033】
(微細繊維状セルロース)
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0034】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは2〜10nmであるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0035】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0036】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0037】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0038】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1〜1000μmが好ましく、0.1〜800μmがさらに好ましく、0.1〜600μmが特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0039】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0040】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0041】
(微細繊維状セルロースの製造方法)
微細繊維状セルロースは、セルロース原料を解繊処理することによって得られるが、本発明では、解繊処理の前にセルロース原料に前加水分解処理や、蒸解処理、脱リグニン処理等を施し、かつリン酸化処理を施すことが好ましい。本発明者によれば、前加水分解処理や、蒸解処理、脱リグニン処理等を施すことや、これらの条件を適切に調整することなどが、微細繊維状セルロース含有物に含まれる各種の単糖単位を所定の割合に制御するために重要であると推定されている。
【0042】
すなわち、本発明は、木材チップと水の混合液を加熱する前加水分解処理工程と、前加水分解処理工程で得られた繊維原料をリン酸化処理する工程と、リン酸化処理工程で得られたリン酸基含有セルロースを解繊処理して、微細繊維状セルロースを得る工程を含む微細繊維状セルロース含有物の製造方法であってもよい。微細繊維状セルロース含有物の製造方法は、前加水分解処理工程と、リン酸化処理工程の間に、蒸解処理工程や、脱リグニン処理工程、漂白工程及び洗浄工程を適宜有してもよい。
【0043】
<前加水分解処理>
前加水分解処理工程に先立って、セルロース原料である木材チップを水に浸漬させる工程を設けてもよい。このような浸漬工程を設けることにより、前加水分解を促進させることができる。浸漬時間は1時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましい。
【0044】
前加水分解処理工程は、木材チップと水の混合液を加熱する工程であることが好ましい。加熱温度は、例えば、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることが特に好ましい。また、加熱時間は5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、20分以上であることがさらに好ましい。本発明では、このような前加水分解工程を設けることにより、ヘミセルロースの含有率を低減させることができ、(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値を所望の範囲内とすることができる。
【0045】
前加水分解処理工程では、Pファクターを200以上とすることが好ましく、250以上とすることがより好ましく、300以上とすることがさらに好ましい。なお、Pファクターは1000以下であることが好ましい。ここで、Pファクターは前加水分解処理で反応系に与えられた熱の総量を表す目安であり、前加水分解時の温度と時間の積として、下記式で表される。
【0047】
上記式において、PはPファクターを表し、Tは絶対温度(℃+273.5)を表し、tは加熱処理時間を表し、K
H1(T)/K
100℃はグリコシド結合の酸加水分解の相対速度を表す。
【0048】
前加水分解工程で用いる装置は、セルロース原料を含水状態の加圧状態にて所望の時間の間、保持できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、汎用の連続蒸解釜、バッチ釜等が用いられる。
【0049】
<蒸解工程・脱リグニン工程>
微細繊維状セルロースの製造工程では、蒸解工程や脱リグニン工程を設けてもよい。蒸解工程は、前加水分解処理工程の後に設けることが好ましく、前加水分解工程の反応終了後、脱水あるいは希釈洗浄、脱水した後に設けられることが好ましい。蒸解工程では、アルカリ蒸解法が用いられることが好ましい。アルカリ蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を採用することができる。中でも、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法が好ましい。例えば、木材チップをクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75%であることが好ましく、20〜35%であることがより好ましい。有効アルカリ添加率は絶乾木材チップの全質量に対して5〜30質量%であることが好ましく、10〜25質量%であることがよりこのましい。また、蒸解温度は140〜170℃であることが好ましい。
【0050】
アルカリ蒸解に用いられる装置は、特に限定されるものではない。例えば、汎用の連続蒸解釜、バッチ釜等が用いられる。
【0051】
蒸解工程では、使用する蒸解液に蒸解助剤を添加してもよい。蒸解助剤としては、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノンおよびキノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、あるいはキノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等を挙げることができる。蒸解助剤の添加率は絶乾木材チップの全質量に対して0.001〜1.0質量%であることが好ましい。
【0052】
蒸解後のカッパー価は特に限定されるものではないが、パルプ品質やその後の漂白性等を考慮すると、例えば広葉樹を原料とした場合にはカッパー価は6〜13が好ましく、針葉樹を原料とした場合にはカッパー価は20〜35が好ましい。
【0053】
本発明では、上記のアルカリ蒸解法により得られた未漂パルプは洗浄、粗選および精選工程を経て、公知の漂白法で漂白処理されることが好ましい。具体的には、まず酸素晒により脱リグニンされることが好ましい(酸素晒脱リグニン法)。酸素晒脱リグニン法に用いるアルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができる。酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。酸素ガスとアルカリはミキサーにおいてパルプスラリーに添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素およびアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ全質量に対して0.5〜3質量%であることが好ましく、アルカリ添加率は0.5〜4質量%であることが好ましい。反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15質量%であることが好ましい。
【0054】
酸素晒脱リグニン工程においては、上記酸素晒脱リグニンを連続して複数回行うこともできる。酸素晒脱リグニンを施されたパルプは洗浄工程で洗浄されることが好ましい。
【0055】
洗浄工程で使用される洗浄機としては、プレッシャーディフューザー、ディフュージョンウオッシャー、加圧型ドラムウオッシャー、水平長網型ウオッシャー、プレス洗浄機等を挙げることができる。洗浄工程においては、洗浄水にアルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤等の洗浄助剤を添加することもできる。また、洗浄排水を洗浄工程の洗浄水として再利用することもできる。
【0056】
<漂白工程>
本発明では、未晒パルプは、好ましくは酸素晒脱リグニン工程を経て、漂白工程へ送られる。本発明の漂白工程では、二酸化塩素、アルカリ、酸素、過酸化水素、オゾンといった公知のECF漂白剤を組合せて使用することができる。なお、各漂白工程後には前述の洗浄工程を設けることができる。
【0057】
漂白工程中に、高温酸処理工程や酸洗浄工程、高温二酸化塩素漂白工程、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)やジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理工程等を導入することもできる。漂白工程では、パルプの白色度が85〜92%ISOになるように、漂白されるのが好ましい。
【0058】
漂白工程では、酸性下での過酸化物添加処理が行われることが好ましい。過酸化物添加処理工程は、パルプ濃度は1〜40質量%、好ましくは8〜15質量%の範囲であり、pHは1〜5、好ましくは2〜4、温度は30〜95℃、好ましくは50〜90℃で行われることが好ましい。
【0059】
酸性下での過酸化物添加処理工程では、酸性状態にするために酸を添加することができる。酸としては、蟻酸、蓚酸、酢酸等の有機酸、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、比較的安価な硫酸、塩酸等が好ましく使用される。酸性下での過酸化物添加処理工程で使用される過酸化物としては、有機過酸、無機過酸のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、好適には比較的安価で、分解後も環境負荷のない過酸化水素が好ましく使用される。例えば、過酸化水素を使用する場合、添加率は絶乾パルプ全質量に対して0.01〜2.0質量%であることが好ましく、0.1〜1.0質量%であることがより好ましい。
【0060】
<リン酸化処理>
本発明においては、微細繊維状セルロースはリン酸基又はリン酸基に由来する置換基(以下、単にリン酸基ということもある)を有する。
リン酸化処理では、上記工程を経て得られた繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。この反応は、尿素及び/又はその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で行ってもよく、これにより、微細繊維状セルロースのヒドロキシル基に、効率よくリン酸基を導入することができる。
【0061】
リン酸基導入工程は、セルロースにリン酸基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0062】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0063】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0064】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0065】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0066】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜30質量%が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0067】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0068】
化合物Bは化合物Aと同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1〜300質量%であることが好ましい。
【0069】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0070】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50〜250℃であることが好ましく、100〜200℃であることがより好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0071】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練または/および撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0072】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1〜300分間であることが好ましく、1〜200分間であることがより好ましいが、特に限定されない。
【0073】
また、リン酸基導入工程では、セルロースに導入されたリン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差が0.5mmol/g以下になるよう反応させることが、高透明な微細繊維状セルロースを得るために好ましい。リン酸基に由来する強酸性基と弱酸性基の導入量の差は、0.3mmol/g以下になるよう反応させるのがさらに好ましく、0.2mmol/g以下になるよう反応させるのが特に好ましい。
【0074】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0075】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1〜3.5mmol/gであることが好ましく、0.14〜2.5mmol/gがより好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2〜1.8mmol/gよりさらに好ましく、0.4〜1.8mmol/gが特に好ましく、最も好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度を適切な範囲に調整することができる。
【0076】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0077】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0078】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、リン酸化処理工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0079】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5〜30分間が好ましく、10〜20分間がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、1000〜10000質量%であることがより好ましい。
【0080】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0081】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0082】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0083】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0084】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0085】
上述した方法で得られたリン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有する微細繊維状セルロースは、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈してもよい。すなわち、本発明の微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであってもよい。この場合、微細繊維状セルロース含有スラリーに含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、微細繊維状セルロース含有物の全質量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.3〜3.0質量%であることがより好ましく、0.5〜3.0質量%であることがさらに好ましい。
【0086】
(微細繊維状セルロース含有シート)
本発明は、上述した微細繊維状セルロース含有物から形成される微細繊維状セルロース含有シートに関するものでもある。
【0087】
本発明の微細繊維状セルロース含有シートの黄色度(YI値)は、1.4以下であることが好ましく、1.3以下であることがより好ましい。ここで、微細繊維状セルロース含有シートのYI値とは、微細繊維状セルロース含有シートを加熱する前のYI値(初期YI値)である。
【0088】
本発明の微細繊維状セルロース含有シートは、加熱処理を施した場合であってもその黄変が少ない。具体的には、微細繊維状セルロース含有シートを200℃の真空条件下に4時間静置する前後のYI値の変化量の絶対値(ΔYI値)が30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0089】
微細繊維状セルロース含有シートの加熱前後の黄色度(YI値)は、JIS K 7373に準拠して測定する。具体的には、測色計(スガ試験機社製、Colour Cutei)を用いて測定する。
【0090】
微細繊維状セルロース含有シートのヘーズは、25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
なお、微細繊維状セルロース含有シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定する。
【0091】
微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率は、87%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定する。
【0092】
上述したように本発明の微細繊維状セルロース含有シートは、上記物性値を有しており、透明性に優れており、かつ黄色度が小さい。また、微細繊維状セルロース含有シートに加熱処理を施した場合であっても、黄変を抑制することができる。
【0093】
微細繊維状セルロース含有シートの厚みは、特に限定されるものではないが、1〜1000μmであることが好ましく、10〜500μmであることがより好ましい。
また、微細繊維状セルロース含有シートの坪量は、特に限定されるものではないが、10〜100g/m
2であることが好ましく、20〜70g/m
2であることがより好ましい。
【0094】
(微細繊維状セルロース含有シートの製造方法)
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、上述した微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工する工程又は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含む。
【0095】
<塗工工程>
塗工工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成された微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離することにより、シートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。基材の質は、特に限定されないが、微細繊維含有スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0096】
塗工工程において、微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量の微細繊維状セルロース含有シートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板および、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0097】
微細繊維状セルロース含有スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0098】
塗工温度は特に限定されないが、20〜45℃であることが好ましく、25〜40℃であることがより好ましく、27〜35℃であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、微細繊維含有懸濁液を容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0099】
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、基材上に塗工した微細繊維状セルロース含有スラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0100】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、30〜120℃とすることが好ましく、30〜105℃とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維の熱による変色を抑制できる。
【0101】
乾燥後に、得られた微細繊維状セルロース含有シートを基材から剥離するが、基材がシートの場合には、微細繊維状セルロース含有シートと基材とを積層したまま巻き取って、微細繊維状セルロース含有シートの使用直前に微細繊維状セルロース含有シートを工程基材から剥離してもよい。
【0102】
<抄紙工程>
微細繊維状セルロース含有シートの製造工程は、微細繊維状セルロース含有スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0103】
抄紙工程では、微細繊維状セルロース含有スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーの濃度は特に限定されないが、0.05〜5質量%が好ましい。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1〜20μm、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0104】
微細繊維を含むスラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細セルロース繊維を含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0105】
本発明において使用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0106】
(微細繊維状セルロース含有複合シート)
微細繊維状セルロース含有物は、マトリックス樹脂等と混合して、微細繊維状セルロース含有複合シートとしてもよい。このような微細繊維状セルロース含有複合シートでは、微細繊維状セルロースとマトリックス樹脂が一体化されたシートであってもよい。
【0107】
なお、微細繊維状セルロース含有複合シートは、上述したような微細繊維状セルロース含有シートとマトリックス樹脂からなるシートを積層した積層体であってもよい。マトリックス樹脂としては例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、又は光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等が挙げられる。
【0108】
微細繊維状セルロース含有複合シートは、さらにその表面に無機膜が積層されてもよい。無機膜を構成する無機材料としては、例えば、白金、銀、アルミニウム、金、若しくは銅等の金属、シリコーン、ITO、SiO
2、SiN、SiOxNy、ZnO等、又はTFT等が挙げられる。
【0109】
(微細繊維状セルロース含有物のその他の形態)
微細繊維状セルロース含有物は、上述したように、微細繊維状セルロース含有スラリーであってもよく、微細繊維状セルロース含有粉粒物であってもよい。微細繊維状セルロース含有物が微細繊維状セルロース含有粉粒物である場合、微細繊維状セルロース含有物は、粉状及び/又は粒状の物質からなる。ここで、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物質は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいい、粒状物質は、粒子径が0.1〜10mmの粒子をいうが、特に限定されない。 粉粒物の粒子径はレーザー回折法を用いて測定・算出することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)を用いて測定した値とする。
【0110】
微細繊維状セルロース含有物が微細繊維状セルロース含有粉粒物である場合、その製造方法は公知の製造方法を採用することができる。例えば、オーブンドライ法や、スプレードライ法を採用することができる。
【0111】
(用途)
本発明による微細繊維状セルロース含有物の用途は特に限定されない。一例としては、微細繊維状セルロース含有スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することができる。別の例としては、微細繊維状セルロース含有スラリーは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することができる。さらに、樹脂やエマルションと混合し補強材としての用途に使用することもできる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
<実施例1>
[前加水分解(脱ヘミセルロース)]
針葉樹材チップを絶乾質量で300g採取し、水道水10リットルに一晩浸漬した。その後、チップを取り出して400メッシュの篩に空け、濾別した。この脱水後のチップを2.5リットル容量のオートクレーブに入れ、液質量比(絶乾後のチップの質量を1とした場合)が3になるように水道水を加えた後、165℃で30分間加熱し、前加水分解を行った。この時のPファクターは380であった。
【0114】
[蒸解]
前加水分解後、オートクレーブの脱気コックから廃ガスを抜き出し、オートクレーブ内の圧力が0になったことを確認した後、処理後のチップを400メッシュの篩に空け、濾別した。濾別後のチップを再度2.5リットル容量のオートクレーブに入れ、液比が5となるように蒸解液を加え、蒸解温度165℃、蒸解時間120分の条件下でクラフト蒸解を行なった。蒸解液は、チップの絶乾質量に対して活性アルカリを21質量%含み、硫化度は28%とした。蒸解後、黒液とパルプを分離し、パルプを8カットのスクリーンプレートを備えたフラットスクリーンで精選して、蒸解後パルプを得た。
【0115】
[酸素晒(脱リグニン)]
蒸解後パルプを絶乾質量で70g採取し、絶乾パルプの全質量に対して苛性ソーダを2.0質量%添加し、次いでイオン交換水で希釈してパルプ濃度を10質量%に調整した。このスラリーを間接加熱式オートクレーブに入れ、99.9%の圧縮酸素ガスを注入してゲージ圧力を0.5MPaとし、100℃で60分間、酸素晒を行った。酸素晒終了後、ゲージ圧力が0.05MPa以下になるまで減圧し、パルプをオートクレーブから取り出し、イオン交換水7リットルを用いて洗浄した後、脱水した。このようにして、酸素晒後パルプを得た。
【0116】
[漂白]
酸素晒後パルプを絶乾質量で60g採取し、プラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度を10質量%に調整した。その後、絶乾パルプの全質量に対して1.8質量%の二酸化塩素を添加し、温度が70℃の恒温水槽に70分間浸漬してD0段処理を行った。D0段処理後に得られたパルプをイオン交換水で3質量%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。D0段処理後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を加えてパルプ濃度を10質量%に調整した後、絶乾パルプの全質量に対して苛性ソーダを1.0質量%、過酸化水素を0.3質量%となるように添加してよく混合した。その後、温度が70℃の恒温水槽に100分間浸漬してE/P段処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で3質量%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。
E/P段処理後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度10質量%に調整した後、絶乾パルプの全質量に対して二酸化塩素を0.3質量%添加し、温度が70℃の恒温水槽に80分間浸漬し、D1段漂白処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で3質量%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄し、漂白パルプを得た。
【0117】
[リン酸化]
漂白パルプを、リン酸二水素ナトリウム二水和物とリン酸水素二ナトリウムと尿素の混合水溶液に含浸した。この漂白パルプ含有水溶液を、漂白パルプの絶乾質量100質量部に対して、水190質量部、リン酸二水素ナトリウム二水和物44質量部、リン酸水素二ナトリウム33質量部及び尿素160質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを140℃に設定した送風乾燥機で25分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
【0118】
[機械処理]
上記リン酸化パルプにイオン交換水を添加して、1.0質量%のパルプ分散液とした。このパルプ分散液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製、アルティマイザー)で、245MPaの圧力にて5回パスさせ、微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0119】
[シート化]
微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が0.5質量%となるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化製、PEO−18)の0.5質量%水溶液を20質量部添加した。次いで、シートの仕上がり坪量が37.5g/m
2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に展開し、35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0120】
<実施例2>
実施例1において、前加水分解の処理時間を50分とした以外は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0121】
<実施例3>
実施例1において、前加水分解の処理時間を100分とした以外は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0122】
<比較例1>
実施例1において、前加水分解を行わなかった以外は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0123】
<比較例2>
[微細繊維状セルロース分散液の脱リン酸・脱ヘミセルロース処理]
比較例1で得られた微細繊維状セルロース分散液にイオン交換水を添加し、微細繊維状セルロースの固形分濃度を0.215質量%に調整した。この分散液1.5Lに尿素を150g溶解させ、全量をパルプエアーバス式研究用マルチダイジェスター(マタリスチール社製、FIN-01450)の付属SUS製容器に分取し、100℃で1時間の加水分解処理を行った。加熱後の分散液を一定量分取し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用いて、15000G×10分の条件で遠心分離した。その後、上澄みを除き、得られた沈殿に元の体積と等しくなるようイオン交換水を加え、分散させた。遠心分離、沈殿のイオン交換水への分散操作をもう一度時繰り返し、残留している尿素を取り除いた。
【0124】
次いで、微細繊維状セルロース分散液に体積比が1/10量のイオン交換樹脂を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂と分散液を分離する処理を計3回行うことで、微細繊維状セルロース分散液の脱塩を行った。1回目は強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024;コンディショニング済み)を用いて、2回目は強塩基性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット4400;コンディショニング済み)を用いて行った。3回目は1回目と同様に処理を行った。上記の手順により、リン酸基、およびヘミセルロースが脱離された、微細繊維状セルロース分散液を得た。
【0125】
[シート化]
微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が0.2質量%になるよう濃度調整を行った。その後、微細繊維状セルロース100質量部に対して、ポリエチレンオキサイド(住友精化製「PEO−18」)の0.2質量%水溶液を20質量部添加した。次いで、シートの仕上がり坪量が37.5g/m
2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に展開し35℃、相対湿度15%の恒温恒湿器にて乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の金枠(内寸が180mm×180mmの金枠)を配置した。以上の手順により、微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0126】
<比較例3>
比較例2において、加水分解処理の時間を4時間とした以外は比較例2と同様にし、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートを得た。
【0127】
<比較例4>
実施例1において、リン酸化パルプの代わりにTEMPO酸化パルプを使用した以外は実施例1と同様にし、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートを得た。なお、使用したTEMPO酸化パルプは下記の手順に従って製造した。
【0128】
[TEMPO酸化パルプの製造(TEMPO酸化反応)]
実施例1で得られた漂白パルプを、乾燥質量100質量部採取し、TEMPO1.25質量部と、臭化ナトリウム12.5質量部とを水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が8.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なした。
【0129】
[TEMPO酸化パルプの洗浄]
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。滴定法により測定される置換基(カルボキシ基)の導入量は1.5mmol/gであった。
【0130】
[評価]
[ヘミセルロース含有率]
実施例および比較例の漂白工程により得た漂白パルプを、絶乾質量で200mg採取し、これに72%硫酸7.5mlを加えた。その後、振盪恒温槽に入れ、30℃、160rpmで60分間振盪攪拌して前段の加水分解を行った。次いで、該前段の加水分解後の漂白パルプ分散液30μlを、超純水840μl を入れた1.5mlチューブにとり、攪拌して硫酸濃度4質量%に希釈した。その後、オートクレーブにて121℃で1時間処理し、後段の加水分解処理を行った。上記の前段、後段の2回の加水分解処理により、漂白パルプが含有する多糖を単糖まで加水分解した。
【0131】
その後、カラム(ダイオネクス社製、CarboPac PA1)を装着したイオンクロマトグラフィー(ダイオネクス社製、ICS−5000)を用いて、グルコース単位の含有率C
glu、およびキシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位の含有率(それぞれC
xyl、C
man、C
gal、C
araとする)を定量した。グルコース単位、キシロース単位、マンノース単位、ガラクトース単位及びアラビノース単位の合計を100質量%として、各単位の含有率(質量%)を算出した。
イオンクロマトグラフィーでの分析においては、流速を1ml/分、カラム温度を室温に設定した。移動相には水を用い、洗浄液には0.3Nの水酸化ナトリウム水溶液、0.1Nの水酸化カリウム水溶液、0.25Nの炭酸ナトリウム水溶液を用いた。分析においては、アラビノース、ガラクトース、グルコース、キシロース、マンノースの順序で分離され、溶出する。検出されるピークはダイオネックス社製の解析ソフト(PeakNet)を用いて解析した。
定量した含有率から、下記式に従ってグルコースの含有率に対するヘミセルロース由来の単糖の含有率の比を取り、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートのヘミセルロース含有率の指標とした。
(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
glu
【0132】
[リン酸基量]
実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、イオン交換樹脂による処理を行い、アルカリを用いた滴定によってリン酸基量を測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%の微細繊維状セルロース分散液に体積比が1/10量の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024;コンディショニング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細繊維状セルロース分散液に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定の対象とする微細繊維状セルロース分散液中の固形分(g)で除して、リン酸基量(mmol/g)とした。
【0133】
[微細繊維状セルロース分散液の全光線透過率]
実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、ガラスセル(寸法:45mm×42mm×12mm)に注入した。その後、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて全光線透過率(%)を測定した。なお、測定においてはイオン交換水で満たしたガラスセルで校正を行った。
【0134】
[微細繊維状セルロース分散液のヘーズ]
実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が0.2質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、ガラスセル(寸法:45mm×42mm×12mm)に注入した。その後、JIS K7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いてヘーズ(%)を測定した。なお、測定においてはイオン交換水で満たしたガラスセルで校正を行った。
【0135】
[微細繊維状セルロース分散液の黄色度]
実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース分散液の固形分濃度が1.0質量%となるようにイオン交換水で希釈した後、ガラスセル(寸法:45mm×42mm×12mm)に注入した。その後、ガラスセルに蓋をし、40℃、相対湿度90%の恒温恒湿器に240時間静置した。次いで、プリンター用紙(富士ゼロックス社製、C2r)を背景として正面から目視観察し、下記の基準に従って微細繊維状セルロース分散液の黄色度を評価した。
◎:黄色味が感じられない
○:やや黄色味が感じられる
△:明らかに黄色味が感じられる
【0136】
[微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率]
JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース含有シートの全光線透過率を測定した。
【0137】
[微細繊維状セルロース含有シートのヘーズ]
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース含有シートのヘーズを測定した。
【0138】
[微細繊維状セルロース含有シートの加熱前後の黄色度(YI)]
JIS K 7373に準拠し、測色計(スガ試験機社製、Colour Cutei)を用いて実施例および比較例で得られた微細繊維状セルロース含有シートの加熱前後の黄色度(YI)を測定した。また、加熱前後のYIの差分の絶対値をΔYIとして評価した。なお、加熱条件は、200℃で4時間の真空乾燥とした。
【0139】
[結果]
評価の結果を表1に示す。
【0140】
【表1】
【0141】
表1から明らかなように、(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値が小さい実施例1〜3では、高い透明性(全光線透過率が高く、ヘーズが低い)を維持しつつ、黄色度を抑制した微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートが得られた。(C
xyl+C
man+C
gal+C
ara)/C
gluの値を低減することにより、加熱後のYI及びΔYIも抑制された。
一方で、比較例1及び4では、微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートの透明性は高いものの、実施例と比較して黄色度が大きい結果となった。
また、微細繊維状セルロース分散液の脱リン酸、脱ヘミセルロースを行った比較例2及び3では、脱ヘミセルロースの効果で微細繊維状セルロース分散液、および微細繊維状セルロース含有シートの黄色度はやや抑制できたものの、脱リン酸により微細繊維状セルロースが凝集し、透明性が低下する結果となった。