特許第6874826号(P6874826)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874826コンピュータプログラム、車両速度の推定装置及び推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874826
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】コンピュータプログラム、車両速度の推定装置及び推定方法
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
   G08G1/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-505692(P2019-505692)
(86)(22)【出願日】2017年9月28日
(86)【国際出願番号】JP2017035265
(87)【国際公開番号】WO2018168035
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2020年3月23日
(31)【優先権主張番号】特願2017-49648(P2017-49648)
(32)【優先日】2017年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 建太朗
(72)【発明者】
【氏名】棚田 昌一
【審査官】 沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−020462(JP,A)
【文献】 特開2011−022649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両速度の推定装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、
統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、
前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出する算出処理と、
前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する推定処理と、を実行する、データ処理部として機能させ
前記データ処理部は、
1又は複数のプローブ車両のプローブ情報に基づいて統計速度を算出し、
前記プローブ車両が前記速度遷移区間の所定の対象地点を通過した通過時刻からの経過時間と、前記伝搬速度とに基づいて、前記所定区間に含まれる対象地点の統計速度を補正することにより、当該対象地点の車両速度を推定するコンピュータプログラム。
【請求項2】
前記データ処理部は、
前記第1速度列の統計速度よりも古い統計速度を要素とし、前記要素の変動パターンが前記第1速度列と類似する第2速度列を探索する探索処理を実行し、
前記第1速度列と前記第2速度列の間の距離及び時刻差に基づいて、前記伝搬速度を算出する請求項1に記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記データ処理部は、
古さが異なる複数の前記第2速度列を探索し、複数の前記第2速度列を用いて複数の前記伝搬速度を算出し、算出した複数の前記伝搬速度の統計値を前記推定処理に用いる請求項2に記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記データ処理部は、
前記所定区間の車両速度に基づいて、前記所定区間における渋滞末尾の位置を決定する請求項1から請求項のいずれか1項に記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
車両速度を推定する装置であって、
複数の対象地点の統計速度が蓄積された速度データベースと、
蓄積された統計速度を用いて前記車両速度を推定するデータ処理部と、を備え、
前記データ処理部は、
統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、
前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出する算出処理と、
前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する推定処理と、を実行し、
前記データ処理部は、
1又は複数のプローブ車両のプローブ情報に基づいて統計速度を算出し、
前記プローブ車両が前記速度遷移区間の所定の対象地点を通過した通過時刻からの経過時間と、前記伝搬速度とに基づいて、前記所定区間に含まれる対象地点の統計速度を補正することにより、当該対象地点の車両速度を推定する車両速度の推定装置。
【請求項6】
データ処理部を備える推定装置が実行する車両速度の推定方法であって、
前記データ処理部が、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出するステップと、
前記データ処理部が、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出するステップと、
前記データ処理部が、前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定するステップと、を含み、
前記データ処理部は、更に、
1又は複数のプローブ車両のプローブ情報に基づいて統計速度を算出し、
前記プローブ車両が前記速度遷移区間の所定の対象地点を通過した通過時刻からの経過時間と、前記伝搬速度とに基づいて、前記所定区間に含まれる対象地点の統計速度を補正することにより、当該対象地点の車両速度を推定する車両速度の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータプログラム、車両速度の推定装置及び推定方法、並びに、渋滞傾向の推定装置及び推定方法に関する。
本出願は、2017年3月15日出願の日本出願第2017−049648号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
プローブ情報を有効に活用することにより、リンク旅行時間などの交通情報を精度よく算出する試みは、既によく知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−241987号公報
【発明の概要】
【0004】
(1) 本開示の一態様に係るコンピュータプログラムは、車両速度の推定装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出する算出処理と、前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する推定処理と、を実行する、データ処理部として機能させる。
【0005】
(6) 本開示の一態様に係る装置は、車両速度を推定する装置であって、複数の対象地点の統計速度が蓄積された速度データベースと、蓄積された統計速度を用いて前記車両速度を推定するデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出する算出処理と、前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する推定処理と、を実行する。
【0006】
(7) 本開示の一態様に係る方法は、車両速度を推定する方法であって、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出するステップと、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出するステップと、前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定するステップと、を含む。
【0007】
(8) 本開示の別態様に係るコンピュータプログラムは、渋滞傾向の推定装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列の、時間経過に伴う移動方向を算出する算出処理と、前記移動方向に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間において渋滞が延伸傾向にあるか、解消傾向にあるかを推定する推定処理と、を実行する、データ処理部として機能させる。
【0008】
(9) 本開示の別態様に係る装置は、渋滞傾向を推定する装置であって、複数の対象地点の統計速度が蓄積された速度データベースと、蓄積された統計速度を用いて前記渋滞傾向を推定するデータ処理部と、を備え、前記データ処理部は、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列の、時間経過に伴う移動方向を算出する算出処理と、前記移動方向に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間において渋滞が延伸傾向にあるか、解消傾向にあるかを推定する推定処理と、を実行する。
【0009】
(10) 本開示の別態様に係る方法は、渋滞傾向を推定する方法であって、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出するステップと、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列の、時間経過に伴う移動方向を算出するステップと、前記移動方向に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間において渋滞が延伸傾向にあるか、解消傾向にあるかを推定するステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る交通情報処理システムの概略構成図である。
図2】センター装置の概略構成を示すブロック図である。
図3】統計速度データの管理テーブルの一例を示す説明図である。
図4】速度遷移区間の抽出処理の一例を示す説明図である。
図5】現在速度列に対応する類似速度列の探索処理の一例を示す説明図である。
図6】渋滞の伝搬速度の算出処理の一例を示す説明図である。
図7】車両速度の推定処理の一例を示す説明図である。
図8】車両速度の推定処理の変形例を示す説明図である。
図9】渋滞延伸の場合のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
図10】渋滞解消の場合のシミュレーション結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本開示が解決しようとする課題>
プローブ情報の特許文献1以外の他の活用方法として、直近の観測時間(例えば15分)に所定の対象地点を通行した複数のプローブ車両から取得したプローブ情報から、当該対象地点の平均速度を算出し、算出した対象地点の平均速度を、現在時刻の車両速度としてユーザに提供する場合がある。
【0012】
しかし、平均速度の算出に用いるプローブ情報の取得時刻と現在時刻の時刻差が大きい場合(例えば、5分以上)には、プローブ情報の取得時刻から現在時刻までの間に、例えば渋滞の延伸又は解消などが発生すると、ユーザに提供する平均速度が実際の車両速度と大きく乖離し、提供する車両速度に大きな誤差が含まれたり、実際に生じた渋滞の変動を把握できなかったりするという問題がある。
本開示は、かかる従来の問題点に鑑み、実際の車両速度及び渋滞傾向のうちの少なくとも1つを統計速度から正確に推定できるようにすることを目的とする。
【0013】
<本開示の効果>
本開示によれば、正確な車両速度及び渋滞傾向のうちの少なくとも1つを統計速度から推定することができる。
【0014】
<本発明の実施形態の概要>
以下、本発明の実施形態の概要を列記して説明する。
(1) 本実施形態のコンピュータプログラムは、車両速度の推定装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出する算出処理と、前記伝搬速度に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する推定処理と、を実行する、データ処理部として機能させる。
【0015】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列に基づいて、渋滞の伝搬速度を算出し、伝搬速度に基づいて、速度遷移区間を包含する所定区間の車両速度を推定する。
このため、統計速度の算出に用いる元データ(例えば、プローブ情報)の取得時刻以後に渋滞の延伸又は解消が発生していても、実際の車両速度を統計速度から正確に推定することができる。
【0016】
(2) 本実施形態のコンピュータプログラムにおいて、前記データ処理部は、前記第1速度列の統計速度よりも古い統計速度を要素とし、前記要素の変動パターンが前記第1速度列と類似する第2速度列を探索する探索処理を実行し、前記第1速度列と前記第2速度列の間の距離及び時刻差に基づいて、前記伝搬速度を算出することが好ましい。
【0017】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、第1速度列と第2速度列の間の距離及び時刻差に基づいて渋滞の伝搬速度を算出するので、当該伝搬速度を正確に算出することができる。
このため、正確な伝搬速度に基づいて車両速度の推定処理を実行でき、車両速度の推定精度を向上することができる。
【0018】
(3) 本実施形態のコンピュータプログラムにおいて、前記データ処理部は、古さが異なる複数の前記第2速度列を探索し、複数の前記第2速度列を用いて複数の前記伝搬速度を算出し、算出した複数の前記伝搬速度の統計値を前記推定処理に用いることが好ましい。
【0019】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、複数の第2速度列を用いて複数の伝搬速度を算出し、算出した複数の伝搬速度の統計値を推定処理に用いるので、より正確な伝搬速度に基づいて車両速度の推定処理を実行できる。このため、車両速度の推定精度をより向上することができる。
【0020】
(4) 本実施形態において、前記データ処理部は、1又は複数のプローブ車両のプローブ情報に基づいて統計速度を算出し、前記プローブ車両が前記速度遷移区間の所定の対象地点を通過した通過時刻からの経過時間と、前記伝搬速度とに基づいて、前記所定区間に含まれる対象地点の統計速度を補正することにより、当該対象地点の車両速度を推定することが好ましい。
【0021】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、上記の経過時間と伝搬速度とに基づいて、所定区間に含まれる対象地点の統計速度を補正することにより、車両速度を推定するので、車両速度を正確に推定することができる。
【0022】
(5) 本実施形態のコンピュータプログラムにおいて、前記データ処理部は、前記所定区間の車両速度に基づいて、前記所定区間における渋滞末尾の位置を決定することにしてもよい。
【0023】
本実施形態のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、本実施形態の推定処理により求めた所定区間の車両速度に基づいて、当該所定区間における渋滞末尾の位置を決定するので、例えば、統計速度に基づいて渋滞末尾の位置を決定する場合に比べて、渋滞末尾の位置をより正確に求めることができる。
【0024】
(6) 本実施形態の推定装置は、上述の(1)〜(5)のコンピュータプログラムを実行するデータ処理部を備える推定装置である。
従って、本実施形態の推定装置は、上述の(1)〜(5)のコンピュータプログラムと同様の作用効果を奏する。
【0025】
(7) 本実施形態の推定方法は、上述の(1)〜(5)のコンピュータプログラムをデータ処理部が実行することにより達成される推定方法である。
従って、本実施形態の推定方法は、上述の(1)〜(5)のコンピュータプログラムと同様の作用効果を奏する。
【0026】
(8) 本実施形態の別のコンピュータプログラムは、渋滞傾向の推定装置としてコンピュータを機能させるためのコンピュータプログラムであって、前記コンピュータを、統計速度が高速閾値以上から低速閾値以下に漸減する複数の対象地点を含む速度遷移区間を抽出する抽出処理と、前記速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列の、時間経過に伴う移動方向を算出する算出処理と、前記移動方向に基づいて、前記速度遷移区間を包含する所定区間において渋滞が延伸傾向にあるか、解消傾向にあるかを推定する推定処理と、を実行する、データ処理部として機能させる。
【0027】
本実施形態の別のコンピュータプログラムによれば、データ処理部が、速度遷移区間に含まれる複数の対象地点の統計速度を要素とする第1速度列の、時間経過に伴う移動方向を算出し、移動方向に基づいて、速度遷移区間を包含する所定区間において渋滞が延伸傾向にあるか、解消傾向にあるかを推定する。
このため、統計速度の算出に用いる元データ(例えば、プローブ情報)の取得時刻以後に渋滞の延伸又は解消が発生していても、実際の渋滞傾向を統計速度から正確に推定することができる。
【0028】
(9) 本実施形態の別の推定装置は、上述の(8)のコンピュータプログラムを実行するデータ処理部を備える推定装置である。
従って、本実施形態の推定装置は、上述の(8)のコンピュータプログラムと同様の作用効果を奏する。
【0029】
(10) 本実施形態の別の推定方法は、上述の(8)のコンピュータプログラムをデータ処理部が実行することにより達成される推定方法である。
従って、本実施形態の推定方法は、上述の(8)のコンピュータプログラムと同様の作用効果を奏する。
【0030】
<本発明の実施形態の詳細>
以下、図面を参照して、本発明の実施形態の詳細を説明する。なお、以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0031】
〔用語の定義〕
本実施形態の詳細を説明するに当たり、まず、本明細書で用いる用語の定義を行う。
「車両」:道路を通行する車両全般のことをいう。例えば、車両には、道路交通法上の車両が含まれる。同法上の車両には、自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスが含まれる。本実施形態では、単に「車両」というときは、プローブ情報を送信可能な車載機を有するプローブ車両と、その車載機を有しない通常の車両の双方を含む。
【0032】
「車両感知器」:道路を走行する車両の存在を検出する路側センサのことをいう。例えば、直下を通行する車両を超音波で感知する超音波式の車両感知器、車両通過時の温度変化から車両の通過を感知する温度式の車両感知器、及び、インダクタンス変化で車両を感知する道路に埋め込まれたループコイル、所定の道路区間を撮影する画像式車両感知器などがこれに該当する。
「感知信号」:道路の所定位置に設置された車両感知器が、1台の車両を検出した時に出力するパルス信号のことをいう。従って、複数台の車両が車両感知器を通過した場合には、各車両に対応する感知信号が時系列に出力される。
【0033】
「プローブ情報」:道路を走行するプローブ車両の車載機から得られる車両に関する各種情報のことをいう。プローブデータ或いはフローティングカーデータとも称される。車両ID、車両位置、車両速度、車両方位及びこれらの発生時刻などのデータがこれに含まれる。
車両位置と時刻が分かれば車両速度を算出できるので、プローブ情報には、少なくとも所定時間(例えば1秒)ごとに計測された車両位置と時刻が含まれておれば足りる。もっとも、車両で計測された車両速度がプローブ情報に含まれていてもよい。
【0034】
「道路区間」:道路上の任意の地点から別の任意の地点までの区間のことをいう。
「対象区間」:センター装置5の管理エリアに含まれる道路区間のうち、車両の統計速度の算出対象となっている道路区間のことをいう。対象区間は、1つ又は複数のリンクを含んでいてもよいし、1つのリンクに含まれる部分的な区間であってもよい。
【0035】
「ノード」:デジタル道路地図の道路網を構成する、交差点その他の結節点のデータのことである。
「リンク」:デジタル道路地図の道路網を構成する、ノードとノードの間を繋ぐ線分データのことである。交差点から見て、当該交差点に向かって流入する方向のリンクのことを流入リンクといい、ある交差点から見て、当該交差点から流出する方向のリンクのことを流出リンクという。
【0036】
〔交通情報処理システム〕
図1は、本発明の実施形態に係る交通情報処理システム20の概略構成図である。
本実施形態の交通情報処理システム20は、少なくとも車両位置とその位置の通過時刻のデータを含むプローブ情報を、多数のプローブ車両1からセンター装置5が収集し、収集したプローブ情報にデータ処理を施すことにより、旅行時間、渋滞状況及び最適経路などの交通情報を提供するサービスを行うシステムである。
【0037】
図1に示すように、交通情報処理システム20は、プローブ車両1に搭載された車載機2及び通信装置3と、基地局4と、センター装置5とを備える。
車載機2と基地局4の間では、無線通信が可能である。基地局4とセンター装置5との間では、所定の通信回線6を介した有線通信が可能である。ただし、基地局4とセンター装置5との間の通信も無線通信であってもよい。
【0038】
車載機2は、車速センサ、方位センサ、GPS受信機、メモリ、及びタイマなどを有する。車載機2は、プローブ車両1のプローブ情報を所定時間(例えば1秒)ごと又は所定距離ごとに収集し、自機のメモリに蓄積する。
車載機2には、携帯電話やスマートフォンなどよりなる通信装置3が接続されている。メモリに蓄積されたプローブ情報は、通信装置3が外部に無線送信する。プローブ車両1から送信されたプローブ情報は、基地局4が受信してセンター装置5に中継する。なお、車載機2そのものがスマートフォンなどの通信端末であってもよい。
【0039】
プローブ車両1がプローブ情報を送信するタイミングは任意であるが、プローブ情報の送信タイミングは、例えば1分ごとなど周期的であることが好ましい。また、搭乗者がセンター装置5に交通情報の送信を要求する際に、通信装置3が車載機2のメモリに蓄積されたプローブ情報を送信することにしてもよい。
この場合、交通情報の提供を希望する搭乗者は、通信装置3を操作してサービスの要求信号をセンター装置5に送信する。この際、通信装置3は、要求信号の送信時点でメモリに蓄積されているプローブ情報を、要求信号と併せてセンター装置5に送信する。
【0040】
〔センター装置の構成〕
図2は、センター装置5の概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、センター装置5は、送受信部10、データ処理部11、記憶部12及び各種のデータベース13〜15を備える。
送受信部10は、基地局4及びデータ処理部11と、プローブ情報、渋滞状況、リンク旅行時間及び最適経路などの各種のデータを送受信する。
【0041】
データ処理部11は、交通情報を生成して配信するサーバコンピュータよりなる。記憶部12は、ハードディスク又は半導体メモリなどの記録媒体よりなり、データ処理部11を交通情報生成装置として機能させるコンピュータプログラム16を記憶している。
コンピュータプログラム16には、所定の対象地点における車両の統計速度を補正することにより、当該対象地点における実際の車両速度を推定する処理を、データ処理部11に実行させるソフトウェアも含まれる。
【0042】
コンピュータプログラム16は、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)やDVD−ROM(Digital Video Disc Read Only Memory)などの周知の記録媒体に記録した状態で譲渡することができる。
コンピュータプログラム16は、サーバコンピュータなどのコンピュータ装置からの情報伝送(ダウンロード)によって譲渡される場合もある。
【0043】
プローブデータベース13には、プローブ車両1から受信したプローブ情報が格納される。プローブ情報には、車両ID、データ生成時刻、当該時刻における車両位置及び車両速度などが含まれる。
地図データベース14には、デジタル道路地図よりなる地図データが格納されている。地図データには、センター装置5の管轄エリアに属する実際の道路区間に対応する、リンク及びノードの位置情報やそれらの識別番号などのデータが含まれる。
【0044】
速度データベース15には、データ処理部11がプローブ情報及び地図データに基づいて所定の更新周期Cごとに算出した、対象地点ごとのプローブ車両1の統計速度が格納される。
データ処理部11は、所定の車両IDのプローブ車両1が所定の対象地点を通過したか否かをマップマッチングなどにより判定し、対象地点を通過したプローブ車両1の統計速度を対象地点ごとに速度データベース15に蓄積する。
【0045】
〔速度データベースのデータ内容〕
図3は、速度データベース15に格納される統計速度の管理テーブル17の一例を示す説明図である。
図3において、tcは現在時刻である。Cは管理テーブル17の更新周期(例えば1分)である。データ処理部11は、更新周期Cごとに管理テーブル17を更新するが、過去の管理テーブル17も所定数(例えば15周期分)だけ速度データベース15に残す。
【0046】
従って、速度データベース15には、現在時刻tcの管理テーブル17だけでなく、1周期前の時刻(tc−C)の管理テーブル17、2周期前の時刻(tc−2C)の管理テーブル17、3周期前の時刻(tc−3C)の管理テーブル17など、データ処理部11が現在時刻tcの統計速度として更新周期Cごとに算出した、所定数の過去の管理テーブル17が含まれる。
【0047】
図3に示すように、統計速度を求める対象区間には、所定の間隔D(例えば50m)で点在する対象地点Xj(j=1,2……n)が定義されている。管理テーブル17には、各対象地点Xjにおけるプローブ車両1の統計速度Vjが格納される。
統計速度Vjは、現在時刻tcから所定の観測期間T(例えば15分)だけ遡った時間帯に対象地点Xjを通過した、1又は複数のプローブ車両1の車両速度の統計値よりなる。統計値は例えば平均値よりなるが、中央値などのその他の統計値であってもよい。
【0048】
例えば、対象地点X1の場合、現在時刻tcから直近の観測期間Tに、3台のプローブ車両1A〜1Cが、それぞれ90,85,75(km/h)の車両速度で対象地点X1を通過している。このため、対象地点X1の統計速度V1は、V1=(90+85+75)/3=83.3(km/h)となる。
同様に、対象地点X2の統計速度V2は、V2=(90+85+75)/3=83.3(km/h)となり、対象地点X3の統計速度V3は、V3=(85+85+70)/3=80(km/h)となる。
【0049】
対象地点Xjの場合、現在時刻tcから直近の観測期間Tに、2台のプローブ車両1A、1Bが、それぞれ70,65(km/h)の車両速度で対象地点Xjを通過している。このため、対象地点Xjの統計速度Vjは、Vj=(70+65)/2=67.5(km/h)となる。
対象地点Xnの場合、現在時刻tcから直近の観測期間Tに、1台のプローブ車両1Aが、40(km/h)の車両速度で対象地点Xnを通過している。このため、対象地点Xnの統計速度Vnは、Vn=40(km/h)となる。
【0050】
〔車両速度の生成処理〕
本実施形態のセンター装置5では、データ処理部11が、速度データベース15の管理テーブル17に蓄積された、更新周期Cごとに更新される各対象地点Xjの統計速度Vjを用いて、対象地点Xjにおける現在時刻の車両速度を生成する。かかる車両速度の生成処理は、下記の4つの処理に大別される。そこで、以下において、下記の4つの処理の内容をそれぞれ詳述する。
【0051】
1)速度遷移区間(現在速度列)の抽出処理
2)類似速度列の探索処理
3)渋滞の伝搬速度の算出処理
4)車両速度の推定処理
【0052】
〔速度遷移区間の抽出処理〕
図4は、速度遷移区間の抽出処理の一例を示す説明図である。
図4において、横軸の距離Xjは、対象区間の始点位置(X1=0m)を原点とした距離の座標であり、下流側をプラスとする。縦軸の統計速度Vjは、距離Xjの地点における統計速度である。図4では、Xj−Vj関係を表すグラフが連続的な直線になっているが、実際には離散的なグラフである。これらの点は、図5図8でも同様である。
【0053】
「速度遷移区間」とは、例えば高速道路などよりなる道路区間における所定の走行区間長(例えば3000m)以内に、プローブ車両1の統計速度Vjが、高速閾値以上の値から低速閾値以下の値に遷移する区間のことをいう。
データ処理部11は、現在時刻tcの管理テーブル17(図3参照)に含まれる対象地点Xjごとの統計速度Vjに基づいて、上記の速度遷移区間を抽出する。この処理の具体的な内容は、次の通りである。
【0054】
データ処理部11は、対象区間に含まれる対象地点Xj(j=1,2……n)を上流から下流に向かって走査し、次の条件1及び2を満たす最も上流側の地点Xdを探索する。
条件1:統計速度が低速閾値(例えば40(km/h))以下である。
条件2:条件1を満たす対象地点Xjの統計速度Vjと、対象地点Xjの直下流に存在する所定数(例えば5個)の対象地点Xj+1〜Xj+5の統計速度Vj+1〜Vj+5との差分が、所定の速度範囲(例えば±1(km/h))以内である。
【0055】
上記の地点Xdを探索できた場合は、データ処理部11は、探索した地点Xdを速度遷移区間の「下流端」としてメモリに保存する。
上記の地点Xdを探索できなかった場合は、データ処理部11は、処理を終了する。すなわち、今回の周期Cでは車両速度の推定処理を実行しない。
【0056】
データ処理部11は、観測期間T中に地点Xdを通過したプローブ車両1のうち、例えば、現在時刻tcから直近に地点Xdを通過したプローブ車両1の通過時刻から、現在時刻tcまでの経過時間Tsを求める。
なお、経過時間Tsの開始時点は、観測期間T中に地点Xdを通過した複数のプローブ車両1の通過時刻の統計値(例えば平均値)であってもよい。経過時間Tsは、後述の車両速度の推定処理(図7及び図8)に利用される。
【0057】
次に、データ処理部11は、対象区間に含まれる対象地点Xj(j=1,2……n)のうち、地点Xdの上流側に位置する対象地点Xjを走査し、次の条件3及び4を満たす最も下流側の地点Xuを探索する。
条件3:統計速度が高速速度(例えば80(km/h))以上である。
条件4:条件3を満たす対象地点Xjの統計速度Vjと、対象地点Xjの直上流に存在する所定数(例えば5個)の対象地点Xj−1〜Xj−5の統計速度Vj−1〜Vj−5との差分が、所定の速度範囲(例えば±1(km/h))以内である。
【0058】
上記の地点Xuを探索できた場合は、データ処理部11は、探索した地点Xuを速度遷移区間の「上流端」としてメモリに保存する。
上記の地点Xuを探索できなかった場合は、データ処理部11は、処理を終了する。すなわち、今回の周期Cでは車両速度の推定処理を実行しない。
【0059】
次に、データ処理部11は、地点Xuから地点Xdまでの距離を算出し、算出した距離が前述の走行区間長(例えば3000m)以内であるか否かを判定する。
上記の判定結果が肯定的である場合は、データ処理部11は、対象区間に含まれる地点Xuから地点Xdまでの区間を、「速度遷移区間」としてメモリに保存する。
上記の判定結果が否定的である場合は、データ処理部11は、処理を終了する。すなわち、今回の周期Cでは車両速度の推定処理を実行しない。
【0060】
〔類似速度列の探索処理〕
図5は、現在速度列Pに対応する類似速度列Aの探索処理の一例を示す説明図である。
データ処理部11は、抽出した速度遷移区間の統計速度から、現在速度列Pを生成する。現在速度列Pとは、速度遷移区間に含まれる対象地点Xi(i=u,u+1……u+m−1)の統計速度Viの値を一次元配列したデータ列のことである。
mは、現在速度列Pに含まれるデータ数であり、m=d−u+1である。uは、最上流点(X1=0)から数えた地点Xuまでの地点数であり、dは、最上流点(X1=0)から数えた地点Xdまでの地点数である。
【0061】
次に、データ処理部11は、h周期前の管理テーブル17に含まれる統計速度Vjに基づいて、複数の下流側速度列Qhk(k=1,2……)を生成する。
下流側速度列Qhkとは、現在速度列Pと同じデータ数mを含むh周期前の統計速度Vjのデータ列であって、現在速度列PからD×kだけ下流側(プラス側)にずらした対象位置Xi+kの統計速度Vi+kを含むデータ列のことである。従って、例えば下流側速度列Qh1〜Qh3は、それぞれ次のデータ列となる。
【0062】
Qh1〔Vu+1,Vu+2,……Vu+m〕
Qh2〔Vu+2,Vu+3,……Vu+m+1〕
Qh3〔Vu+3,Vu+4,……Vu+m+2〕
【0063】
また、データ処理部11は、h周期前の管理テーブル17に含まれる統計速度Vjに基づいて、複数の上流側速度列Rhk(k=1,2……)を生成する。
上流側速度列Rhkとは、現在速度列Pと同じデータ数mを含むh周期前の統計速度Vjのデータ列であって、現在速度列PからD×kだけ上流側(マイナス側)にずらした対象位置Xi−kの統計速度Vi−kを含むデータ列のことである。従って、例えば上流側速度列Rh1〜Rh3は、それぞれ次のデータ列となる。
【0064】
Rh1〔Vu−1,Vu,……Vu+m−2〕
Rh2〔Vu−2,Vu−1,……Vu+m−3〕
Rh3〔Vu−3,Vu−2,……Vu+m−4〕
なお、現在速度列Pから下流側及び上流側へずらす最大距離D×kmaxは、例えば、概ね1000m(kmax≒20)に設定すればよい。
【0065】
データ処理部11は、複数の速度列Qhk,Rhkの中から、要素の変動パターンの類似度が最高のものを選択し、選択した速度列を類似速度列Ahとしてメモリに保存する。
類似度は、データ列に含まれる要素(速度値)の変動パターンの近似度合いを表す指標である。類似度は、ユークリッド距離の逆数やマンハッタン距離の逆数で定義される。もっとも、必ずしも類似度が最高(距離が最小)の速度列Qhk,Rhkを選択する必要はなく、例えば、類似度が2番目に高い速度列Qhk,Rhkを選択してもよい。
【0066】
図5では、現在速度列Pから下流側にD×2だけずれた、仮想線で示す速度列Qh2が、現在速度列Pに対応する類似速度列Ahである場合を例示している。
データ処理部11は、類似速度列Ahの探索が完了すると、類似速度列Ahに含まれる統計速度(Vu+2,Vu+3,……Vu+m+1)のうち、最小の統計速度Vu+m+1に対応する対象位置Xu+m+1を、Xminとしてメモリに保存する。
【0067】
データ処理部11は、類似度が所定の閾値以上である複数の速度列Qhk,Rhkが存在することを条件として、それらの中から類似速度列Ahを選択する。
すなわち、データ処理部11は、所定の閾値以上の類似度となる速度列Qhk,Rhkが存在しない場合は処理を終了し、今回の周期Cでは車両速度の推定処理を実行しない。
【0068】
上述の探索処理において、hを1つの値(例えば、h=5)に固定する場合、データ処理部11は、5周期前の統計速度Vjに基づく速度列Q5k,R5kから、1つの類似速度列A5を算出する。
上述の探索処理において、hを複数の値(例えば、h=1〜4)に変動させてもよい。この場合、データ処理部11は、1〜4周期前の統計速度Vjに基づく速度列Qhk,Rhk(h=1〜4)から、それぞれ4つの類似速度列Ah(h=1〜4)を算出する。
【0069】
すなわち、データ処理部11は、1周期前の統計速度Vjに基づく速度列Q1k,R1kから、類似速度列A1を算出し、2周期前の統計速度Vjに基づく速度列Q2k,R2kから、類似速度列A2を算出する。
また、データ処理部11は、3周期前の統計速度Vjに基づく速度列Q3k,R3kから、類似速度列A3を算出し、4周期前の統計速度Vjに基づく速度列Q4k,R4kから、類似速度列A4を算出する。
【0070】
〔渋滞の伝播速度の算出処理〕
図6は、渋滞の伝搬速度の算出処理の一例を示す説明図である。
ここでは、図5の探索処理において、hが1つの値に固定され、1つの類似速度列Ahのみが探索されたものと仮定する。類似速度列Ahに含まれる各統計速度(Vu+2,Vu+3,……Vu+m+1)は、時刻(tc−hC)に算出された統計速度である。
【0071】
図6に破線で示すように、類似速度列Ahが時刻tcの現在速度列Pの下流側に位置する場合は、h周期前の時刻(tc−hC)には、現在速度列Pが図示の距離Lだけ下流側(プラス側)に存在していたと考えられる。
従って、車両を速度Vuから速度Vdに減速させる渋滞が、時刻(tc−hC)において地点Xminの近傍に存在していたが、当該渋滞が、現在時刻tcになって距離Lの分だけ延伸したと推定できる。
【0072】
逆に、図6に仮想線で示すように、類似速度列Ahが時刻tcの現在速度列Pの上流側に位置する場合は、h周期前の時刻(tc−hC)には、現在速度列Pが距離Lだけ上流側(マイナス側)に存在していたと考えられる。
従って、車両を速度Vuから速度Vdに減速させる渋滞が、時刻(tc−hC)において地点X’minに近傍に存在していたが、当該渋滞が、現在時刻tcになって距離Lの分だけ解消したと推定できる。
【0073】
そこで、データ処理部11は、地点Xdと地点Xminとの間の距離Lを、L=Xmin−Xdの算出式により算出する。かかる算出式により算出される距離Lの値の正負符号は、h周期前の時刻(tc−hC)から現在時刻tcまでの時間経過に伴う現在速度列Pの移動方向を表す。
また、データ処理部11は、渋滞の伝搬速度W(m/s)を、W=L/hCの算出式により算出する。
【0074】
この場合、データ処理部11は、距離Lの値の正負符号(現在速度列Pの移動方向)がプラスであれば、渋滞が延伸中であると判定し、伝搬速度Wを「渋滞延伸」の伝搬速度とする。
逆に、データ処理部11は、距離Lの値の正負符号(現在速度列Pの移動方向)がマイナスであれば、渋滞が解消中であると判定し、伝搬速度Wを「渋滞解消」の伝搬速度とする。
【0075】
図5の探索処理において、複数の類似速度列Ah(h=1,2……)を算出した場合には、データ処理部11は、各々の類似速度列Ahから求まる伝搬速度Whの統計値(例えば平均値)Wmを、伝搬速度Wとして採用してもよい。
4つの類似速度列A1〜A4か得られている場合には、各類似速度列A1〜A4から、下式により4つの伝搬速度W1〜W4を算出し、W=(W1+W2+W3+W4)/4により、後述の推定処理(図7及び図8)に用いる伝搬速度Wを算出すればよい。
【0076】
W1=L1/C
W2=L2/2C
W3=L3/3C
W4=L4/4C
なお、L1は、地点XdからA1の地点Xminまでの距離であり、L2は、地点XdからA2の地点Xminまでの距離であり、L3は、地点XdからA3の地点Xminまでの距離であり、L4は、地点XdからA4の地点Xminまでの距離である。
【0077】
〔車両速度の推定処理〕
図7は、車両速度の推定処理の一例を示す説明図である。
車両速度の推定処理とは、現在速度列Pと伝搬速度Wに基づいて、速度遷移区間を含む所定区間の統計速度Vjを補正することにより、所定区間に含まれる対象地点Xjにおける実際の車両速度を推定する処理である。
【0078】
図7において、地点Xd’は、地点XdからW×Tsだけ上流側の地点であり、地点Xu’は、地点XuからW×Tsだけ上流側の地点である。
Wは、図6の算出処理で求めた伝搬速度である。Tsは、前述の経過時間である。Mは、地点Xuから地点Xdまでの距離(速度遷移区間の区間長)である。Kは、地点Xd’を基点とするマイナス方向の距離である。
【0079】
データ処理部11は、距離Lの正負に応じて異なる下記の処理を実行することにより、速度遷移区間を含む所定区間の統計速度Vjを補正する。なお、統計速度Vjの補正対象となる所定区間(補正対象区間)は、M+W×Tsの区間長を有する。
【0080】
(距離Lがプラスの場合(渋滞延伸の場合))
1)地点Xdから地点Xd’までの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、Vdに置き換える。
2)地点Xd’から地点Xu’までの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、(K×Vd+(M−K)×Vu’)/Mに置き換える。これらの処理は、現在速度列PをW×Tsだけ上流側にずらすことと等価である。
【0081】
(距離Lがマイナスの場合(渋滞解消の場合))
1)地点Xu’から地点Xuまでの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、Vuに置き換える。
2)地点Xd’から地点Xu’までの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、(K×Vd+(M−K)×Vu’)/Mに置き換える。これらの処理は、現在速度列PをW×Tsだけ下流側にずらすことと等価である。
【0082】
図7の推定処理により車両速度の推定が完了すると、データ処理部11は、補正対象区間に含まれる各地点Xjの車両速度の推定値に基づいて、補正対象区間に含まれる渋滞末尾の位置を決定することにしてもよい。
例えば、渋滞により車両が減速をほぼ開始する地点を渋滞末尾とする場合は、データ処理部11は、地点Xu’を渋滞末尾とすればよい。逆に、渋滞により車両が減速をほぼ終了する地点を渋滞末尾とする場合は、データ処理部11は、地点Xd’を渋滞末尾とすればよい。或いは、それらの中間点などを渋滞末尾としてもよい。
【0083】
〔車両速度の推定処理(変形例)〕
図8は、車両速度の推定処理の変形例を示す説明図である。
図8において、aは、現在速度列Pの傾き(=(Vd−Vu)/(Xd−Xu))である。図8の変形例においても、データ処理部11は、距離Lの正負に応じて異なる下記の処理を実行することにより、速度遷移区間を含む所定区間の統計速度Vjを補正する。なお、統計速度Vjの補正対象となる所定区間は、M+W×Tsの区間長を有する。
【0084】
(距離Lがプラスの場合(渋滞延伸の場合))
1)地点Xdから地点Xuまでの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、次式で算出される補正速度Vaに置き換える。
補正速度Va=Vj+|W|×Ts×a
【0085】
2)地点Xuより上流側の区間
地点Xuを基点とするマイナス方向の距離をδとして、|W|×Ts−δ>0となる間は、対象地点Xjの統計速度Vjを、次式で算出される補正速度Vaに置き換える。
補正速度Va=Vj+(|W|×Ts−δ)×a
ただし、1)及び2)のいずれの場合も、Va<VdならばVa=Vdとする。
【0086】
(距離Lがマイナスの場合(渋滞解消の場合))
1)地点Xdから地点Xuまでの区間
対象地点Xjの統計速度Vjを、次式で算出される補正速度Vaに置き換える。
補正速度Va=Vj+|W|×Ts×|a|
【0087】
2)地点Xdより下流側の区間
地点Xdを基点とするプラス方向の距離をδとして、|W|×Ts−δ>0となる間は、対象地点Xjの統計速度Vjを、次式で算出される補正速度Vaに置き換える。
補正速度Va=Vj+(|W|×Ts−δ)×|a|
ただし、1)及び2)のいずれの場合も、Va>VuならばVa=Vuとする。
【0088】
図8の推定処理により車両速度の推定が完了すると、データ処理部11は、補正対象区間に含まれる各地点Xjの車両速度の推定値に基づいて、補正対象区間に含まれる渋滞末尾の位置を決定することにしてもよい。
例えば、渋滞により車両が減速をほぼ開始する地点を渋滞末尾とする場合は、データ処理部11は、Xj=δの地点を渋滞末尾とすればよい。逆に、渋滞により車両が減速をほぼ終了する地点を渋滞末尾とする場合は、データ処理部11は、車両速度がVdとなる地点を渋滞末尾とすればよい。或いは、それらの中間点などを渋滞末尾としてもよい。
【0089】
〔シミュレーション試験の結果〕
本実施形態の推定処理(図4図8)の有効性を確認するため、交通シミュレーションに常用されるアプリケーションソフトである交通流シミュレータを用いて、所定の道路ネットワークについてのシミュレーション試験を行った。
シミュレーション試験の結果を図9及び図10に示す。図9は、渋滞延伸の場合のシミュレーション結果を示す。図10は、渋滞解消の場合のシミュレーション結果を示す。
【0090】
図9及び図10において、仮想線(answer)のグラフは、プローブ車両1の実際の車両速度のグラフである。破線(original)のグラフは、推定処理前の統計速度Vjのグラフである。実線(mend)のグラフは、本実施形態の推定処理を行った場合のグラフである。
図9に示すように、推定処理前の統計速度Vj(original)は、実際の車両速度(answer)からプラス側に約1500mずれているが、推定処理後の車両速度(mend)は、そのずれが概ね解消され、実際の車両速度(answer)とほぼ一致している。
【0091】
図10に示すように、推定処理前の統計速度Vj(original)は、実際の車両速度(answer)からマイナス側に約1500mずれているが、推定処理後の車両速度(mend)は、そのずれが概ね解消され、実際の車両速度(answer)とほぼ一致している。
これらの結果から明らかな通り、本実施形態の推定処理を実行すれば、渋滞延伸及び渋滞解消のいずれの場合も、対象区間Xjごとの統計速度Vjから、実際の車両速度に近似する車両速度の推定することができる。
【0092】
〔第1の変形例〕
上述の実施形態では、観測期間Tにおけるプローブ車両1のXd通過時刻から現在時刻tcまでの経過時間Tsを、渋滞の伝搬速度Wに乗じた距離(=W×Ts)の分だけ、現在速度列Pを上流側又は下流側にシフトする補正を行うことにより、現在時刻tcにおける車両速度を推定している(図7参照)。
【0093】
もっとも、同じ渋滞速度Wが現在時刻tc以後も継続すると想定される場合には、伝搬速度Wに乗じる経過時間を長めに見積もることにより、将来の時刻の車両速度を推定することもできる。
例えば、現在時刻tcからΔT(例えば2分)経過した将来時刻の車両速度を推定する場合には、現在速度列Pのシフト量をW×(Ts+ΔT)に変更すればよい。
【0094】
逆に、同じ渋滞速度Wが現在時刻tcからΔTだけ前の時刻までしか継続しないと想定される場合には、伝搬速度Wに乗じる経過時間を短めに見積もることにより、現在時刻tcから見て過去の時刻(tc−ΔT)の車両速度を推定することにしてもよい。
【0095】
〔第2の変形例〕
上述の実施形態において、速度遷移区間の抽出処理に用いる速度列を「第1速度列」と定義し、第1速度列と要素の変動パターンが類似する速度列を「第2速度列」と定義すると、渋滞の伝搬速度を求めるためには、第2速度列の統計速度は、第1速度列の統計速度よりも古い統計値である必要があるが、第1速度列の統計速度は、必ずしも最新の統計値(最新の管理テーブル17に記録された統計速度)である必要はない。
【0096】
すなわち、上述の実施形態では、第1速度列が、現在時刻tcの管理テーブル17の統計速度Vjから生成した現在速度列Pよりなるが、第1速度列は、必ずしも最新の管理テーブル17ではなく、若干古い管理テーブル17(例えば、1周期前の時刻(tc−C)の管理テーブル17)の統計速度Vjから生成した速度列であってもよい。
【0097】
〔その他の変形例〕
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上述の実施形態では、プローブ情報から対象地点Xjの統計速度Vjを算出する場合を想定したが、対象地点Xjの統計速度Vjは、車両感知器の感知信号や画像式車両感知器の画像データから算出することにしてもよい。
【符号の説明】
【0098】
1 プローブ車両
2 車載機
3 通信装置
4 基地局
5 センター装置(補完装置)
6 通信回線
10 送受信部
11 データ処理部
12 記憶部
13 プローブデータベース
14 地図データベース
15 速度データベース
16 コンピュータプログラム
17 管理テーブル
20 交通情報処理システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10