(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記上底吹き転炉型精錬容器の絞り部の鉄皮は円錐台であり、当該絞り部の鉄皮の内側は前記角度θが当該上底吹き転炉型精錬容器において最大角をなしている点を含めて、耐火物で施工されていることを特徴とする請求項1に記載の上底吹き転炉型精錬容器。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼精錬は、精錬炉内に収容した溶銑の上層に溶融スラグを形成し、溶銑中に含まれる不純物を溶融スラグに移動させることによって行われる。精錬炉は炉頂部に炉口を有しており、炉口から溶銑とスラグ原料とを装入して精錬を行う。精錬終了後は精錬炉を傾転させて出鋼孔から溶鋼のみを出鋼し、その後、反対側に精錬炉を傾転して炉口から溶融スラグを排滓する。
【0003】
近年、転炉を用いた鉄鋼精錬において、同一の転炉内において脱りん精錬と脱炭精錬とを分割して行う方法が広く用いられている。この方法では、まず、転炉内に溶銑を装入し、さらに脱りん用のスラグ原料を装入し、熱力学的に脱りんに有利な低温で脱りん精錬を行う。そして、脱りん精錬終了後に転炉を出鋼孔と反対側に傾転して炉口から脱りんスラグを炉外に排滓する。その後、溶銑を残したまま同じ転炉で脱炭精錬を行い、高温となった溶鋼を製造する。脱炭精錬終了後は転炉を傾転させて出鋼孔から溶鋼のみを出鋼し、その後、反対側に傾転して炉口から脱炭スラグを排滓する。なお、脱りん精錬終了後に転炉を出鋼孔と反対側に傾転して炉口から脱りんスラグを炉外に排滓する工程を中間排滓と呼ぶ。また、脱りん精錬終了後に転炉内に生成している脱りんスラグの重量に対する中間排滓で排滓されたスラグの重量の割合を中間排滓率と呼ぶ。
【0004】
転炉を傾転して炉口から脱りんスラグを中間排滓する際、中間排滓率が低位であり、中間排滓後も脱りんスラグが転炉内に多く残存すると、脱りんスラグ中に移動したりんが脱炭精錬において溶銑中に復りんし、先だって低温で脱りん精錬を行ったことによる脱りん効果が減じてしまう。そのため、中間排滓率を高位とすることは非常に重要である。
【0005】
中間排滓率を向上させるため、例えば、傾動角を大きくすると、脱りんスラグはより多く排出されるが、脱りんスラグとともに溶銑も炉口から排出されることとなる。炉口から排滓した脱りんスラグは、転炉の下方に待機する排滓鍋に受滓される。このとき、脱りんスラグとともに溶銑が排出されると、排滓鍋中で脱りんスラグと溶銑とが撹拌され、互いに反応してガスが発生し、脱りんスラグがフォーミングする。溶銑流出量が少なければ、フォーミング鎮静材を排滓鍋中に投入することでスラグ排出作業を継続できる。しかし、溶銑流出量が過大となると、フォーミングした脱りんスラグが排滓鍋から溢れ、設備損傷やその対応に伴う生産性の悪化を招く。また、排滓鍋を大きくしてフォーミングによるスラグ溢れの抑制が可能となったとしても、溶銑が流出することによって鉄の歩留りが低下してしまうため、傾動角を大きくして中間排滓率を向上させることは好ましくない。
【0006】
以上のように、転炉の傾動操作のみで脱りんスラグの大半を排滓させることは容易ではなく、中間排滓率を向上できる方法の開発が求められている。そこで特許文献1には、炉口に堰を設けて中間排滓率を向上させる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、炉口に堰を施工するのが技術的に簡単でないという課題がある。さらに耐火物で堰を施工した場合、転炉の炉内を形成する耐火物と同程度に寿命を維持させる必要があるが、中間排滓時に堰に負荷が多くかかるため、耐用性に課題が生じてしまう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、中間排滓の際に中間排滓率が高くかつ溶銑流出量が少なくなるような炉口の形状を検討するため、300トン転炉の約1/10規模のアクリル製の転炉型水モデル実験容器を用いて水モデル実験を行った。転炉型水モデル実験容器は、炉口形状が異なる3種類の容器を用意し、それぞれの炉口の形状は、
図1Aに示す一般的な円形形状、
図1Bに示す排滓方向に堰を設置した形状、及び
図1Cに示す排滓方向の炉口が平坦な形状とした。なお、
図1B及び
図1Cに示す例では、炉体中心軸の方向視において炉口高さにおける形状は同じとし、炉口の平坦な部分の長さをD
1、炉口の円弧の部分の直径をD
0とし、その比D
1/D
0を共に0.5とした。また、溶銑を模擬するモデルメタルとして水を用い、溶融スラグを模擬する模擬スラグとしてシリコーンオイルを用いた。
【0014】
まず、空の転炉型水モデル容器を傾動角0°で正立させた状態において、溶銑を模擬する水44リットルと脱りんスラグを模擬するシリコーンオイル10リットルとを注ぎ入れた。そして、水とシリコーンオイルとが上下に完全に分離した後、排滓方向に傾動速度0.5°/secで水面が炉口に達するまで傾動させて停止させ、シリコーンオイルの排出が止まるまで保持した。その後、排出されたシリコーンオイル量を測定し、モデル中間排滓率を算出した。なお、モデル中間排滓率は、転炉型水モデル容器に注いだシリコーンオイルの質量に対する排出されたシリコーンオイルの質量で算出した。その結果、
図1Aに示す形状のモデル中間排滓率は60%であったが、
図1B及び
図1Cに示す形状のモデル中間排滓率は70%で同等であった。
【0015】
図1B及び
図1Cに示す形状では、排滓方向の炉口は共に平坦であり、
図1Bの例は堰が設置されているのに対し、
図1Cの例は堰が設置されていない点で異なっている。ところが、
図1B及び
図1Cに示す形状のモデル中間排滓率は、いずれも
図1Aに示す形状でのモデル中間排滓率よりも高く、
図1B及び
図1Cに示す形状で差異がなかった。このことから、堰であるか否かはモデル中間排滓率の向上には殆ど寄与していないことがわかった。
図1Cに示す形状には堰がないものの、排滓方向の炉口が
図1Bに示す形状と同様に平坦であったために、
図1Cのモデル中間排滓率が
図1Bと同等となったと考えられる。
【0016】
この水モデル実験の観察結果から、排滓方向の炉口が平坦な場合にモデル中間排滓率が向上したのは、水面が炉口に達して傾動を停止させた状態における模擬スラグの炉口付近の状態に起因すると推定される。
【0017】
図2A〜
図2Cは、水モデル実験における中間排滓時の炉口付近の状態を説明するための図である。
炉口が
図1Aの一般的な円形形状の場合は排滓末期になると、
図2Aに示すように、炉内に残存する模擬スラグの厚さは薄くなり、円形の炉口の最下端からの狭い流れで模擬スラグが排出されるようになった。その時、炉内に残存する模擬スラグの浴面を観察すると、炉口付近では炉壁近傍に付着している模擬スラグの流れは遅く、その炉壁付近の遅い流れが炉口から排出すべき模擬スラグの動きを抑制し、炉口に近いところほど炉壁が近くなるためその傾向が助長される様子が観察された。
【0018】
一方、炉口の平坦な部分から模擬スラグを排出した場合は、
図2B及び
図2Cに示すように、炉内に残存する模擬スラグの厚さが薄くなった時点においても、炉口の平坦な部分から広い流れで模擬スラグを排出できた。その時、炉内に残存する模擬スラグの浴面を観察すると、炉口付近では炉壁近傍に付着している模擬スラグの流れは遅いものの、炉口の平坦な部分の流れに幅があり、炉壁付近の模擬スラグの遅い流れの影響が
図2Aの場合よりも小さく、模擬スラグの排出がスムースであった。
【0019】
以上の水モデル実験の結果、堰としての効果よりも炉口が平坦であることによる効果が見られた。排滓末期においても、炉口を平坦にして幅広いスラグの流れを維持し、炉壁によるスラグ流れの抑制の影響を小さくする効果によって、モデル中間排滓率を向上できることがわかった。したがって、
図1B及び
図2Bのように堰を設けなくても、
図1C及び
図2Cに示す形状のように、排滓方向の炉口を平坦とすれば良いことがわかった。
【0020】
次に、試験転炉を用いて、同じ効果が発現されるか確認を行った。まず、実験に用いる溶銑を用意した。溶銑の成分は[C]=4.5mass%、[Si]=0.4mass%、[Mn]=0.3mass%、[P]=0.1mass%、[S]=0.01mass%を含有するものとした。そして、試験転炉の炉口の形状をモルタル等で
図1Cに示す形状のように堰を設けずに排滓方向の炉口を平坦な形状にし、比D
1/D
0を変えて実験を行った。
【0021】
実験の手順は、上記の成分を有する溶銑を2.0t試験転炉に装入した後、塊生石灰を17.0kg添加し、底吹き羽口からArガスを0.4Nm
3/minで吹込みながら、上吹き4孔ランスから酸素を4.0Nm
3/minで8min間吹き込み、脱珪、脱りん吹錬を行った。その後、吹錬を停止して、出鋼孔とは反対側に試験転炉を傾動して中間排滓を行い、予め計算で予測しておいた溶銑が出る傾動角まで1°/secで試験転炉を傾動し、その後傾動を止め、スラグの排出が止まったところで炉体を正立した状態に戻した。
【0022】
中間排滓されたスラグは排滓鍋に受滓され、そこに排出されたスラグ量とCaO濃度とから排滓CaO質量を計算し、排滓CaO質量/初期投入CaO質量(初期投入生石灰質量)×100で中間排滓率を求めた。その結果を
図3Aに示す。
【0023】
図3Aに示す結果から、比D
1/D
0を増加させるほど中間排滓率が増加することがわかった。特に、比D
1/D
0が0.2以上の条件では、比D
1/D
0が0である通常の円形の炉口形状と比べて、中間排滓率が10%以上大きくなることが確認できた。
【0024】
ただし、
図3Bに示すように、比D
1/D
0が0.87以上では、比D
1/D
0が0の通常の円形の炉口形状と比べて、炉口断面積が20%以上小さくなってしまう。炉口断面積が小さくなると、脱りん吹錬時に炉口における排ガスの空塔速度が大きくなって、スピッティングやスロッピングが大きく発生したことから、比D
1/D
0は0.8程度までに抑制した方が良いことがわかった。
【0025】
以上の実験結果より、中間排滓率を高めるためには、排滓方向の炉口は平坦とした方が良く、また、堰である必要性はなく、耐火物施工、および炉口耐火物の耐用性を確保する上でも、堰を設けずに炉口を平坦にした形状が良いことを見出した。
【0026】
次に、本発明の上底吹き転炉型精錬容器の具体的な形状について、
図4A及び
図4Bを参照しながら説明する。まず、外側から見た炉口の形状について説明する。
図4Aは、炉体中心軸の方向から見た炉口の形状を説明するための図である。
図4Aにおいて、直線Sは、炉体を傾動させる際の軸となるトラニオン軸を炉口に投影した直線を示している。線分ABは、
図1Cに示す長さD
1に相当する線分であり、出鋼孔とはトラニオン軸を挟んで反対側に形成されている。また、線分ABは、トラニオン軸を投影した直線Sとは平行である。すなわち、トラニオン軸とは平行である。円弧Cは、炉口を形成する直径D
0の円の一部に相当する。つまり、円弧Cと直線Sとの交点2つを結んだ直線の長さは直径D
0に相当する。
【0027】
前述の実験結果から、長さD
0に対する線分ABの長さD
1の比D
1/D
0は0.2以上0.8以下とする。比D
1/D
0が0.2未満だと、中間排滓率が十分に改善されず、効果が不十分である。また、比D
1/D
0が0.8を超えると、吹錬時においてスピッティングやスロッピングが大きく発生してしまう。
【0028】
次に、上底吹き転炉型精錬容器の内部の形状について説明する。
図4Bは、トラニオン軸の方向から見た上底吹き転炉型精錬容器の断面を説明するための図である。なお、
図4Bに示す断面は、トラニオン軸と直角であり、かつ炉体中心軸45を含む平面を表している。
【0029】
図4Bにおいて、炉口40およびその近傍であって容器の下部から炉口40へ向かった容器の横断面積が徐々に小さくなっていく絞り部41は、レンガなどの耐火物42によって施工されており、その外側は鉄皮44で覆われている。
図4Bに示す断面において、出鋼孔43とは炉体中心軸45を挟んで反対側(中間排滓される側)の炉内表面の任意の点Pでの接線と炉体中心軸45とがなす角度をθとした場合、耐火物の耐用性を確保するために、任意の点Pで常に角度θは70°以下となるようにする。つまり、角度θの最大角が70°以下となるようにする。ここで、任意の点Pは、主に炉内表面の絞り部41の点であり、少なくとも底面を除くものとする。絞り部41では上側の耐火物ほど炉体中心軸45側へ次第にせり出してくる構造になっているため、最大角が70°を超えると、堰を設けた場合と同様に耐用性が低下してしまうからである。なお、炉内表面は滑らかな曲面となっているが、元々炉内表面は複数の耐火物が積み重なって形成されており、精錬炉が初めて使用される前は、複数の耐火物の間で僅かながら凹凸が形成されている場合があるが、この様な凹凸は無視するものとする。なお、角度θの最大角の下限値は特に限定しないが、通常の転炉で耐火物の内壁を形成できる範囲として、実質的に角度θの最大角は20°以上とすることが好ましい。
【0030】
上記のような転炉容器形状とするためには、必ずしも鉄皮44の形状を大幅に変更する必要はない。絞り部41の鉄皮44も通常使用されている円錐台形状のものを用い、通常とは異なった形状の耐火物42を使用することによって実現できる。精錬炉の鉄皮の形状を変更すると、多大なコストや工期を要するが、本発明は主に耐火物の形状を変更することによって安価に実現することができる。なお、本発明においても、炉口の耐火物の押さえ金具は炉口の形状に合わせた形状へ変更することが必要となる。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0032】
まず、[C]=4.3〜4.4mass%、[Si]=0.4〜0.5mass%、[Mn]=0.3〜0.4mass%、[P]=0.10〜0.11mass%、[S]=0.010〜0.015mass%を含有する溶銑を用意した。そして、300t/heatの上底吹き転炉において、スクラップ、および上記成分を有する溶銑を290〜300t装入し、生石灰を2.8〜2.9t添加した後、底吹き羽口から酸素ガスを40Nm
3/minで吹込みながら、上吹きランスから800Nm
3/minで4.0〜5.0min間、酸素を上吹きして脱珪、脱りん吹錬を行った。その後、溶銑が出る傾動角85°〜88°まで0.15〜0.30°/secで転炉を傾動させて中間排滓を行った後、元の正立状態に戻して、再度、脱炭吹錬用に生石灰を3.6〜4.0t添加した後、上吹きランスから1200Nm
3/minで11.0〜12.0min間、酸素を上吹きして、脱炭吹錬を行った。
【0033】
脱炭吹錬を実施した後、脱炭スラグを採取して脱炭スラグを化学分析に供し、脱炭吹錬後のスラグの塩基度B(CaO質量)/(SiO
2質量)を分析結果から求めた。ここで、スラグの塩基度Bは以下の式(1)により求めることもできる。
B=(W
CaO,blow1×R/100+W
CaO,blow2)/(W
M×[Si]/100/M
Si×M
SiO2×R/100) ・・・(1)
ここで、W
CaO,blow1:脱珪、脱りん吹錬で添加した生石灰中のCaO量(t)、W
CaO,blow2:脱炭吹錬で添加した生石灰中のCaO量(t)、R:中間排滓率(%)、W
M:溶銑量(t)、[Si]:溶銑中Si濃度(mass%)、M
Si:Siの原子量(g/mol)、M
SiO2:SiO
2の分子量(g/mol)とする。
【0034】
本実施例では、前述の試験転炉での実験のように中間排滓されたスラグの重量を直接測定することが困難であったため、上記式(1)を変形し、中間排滓率Rを以下の式(2)により求めた。
R=10000×W
CaO,blow2/(B×W
M×[Si]/M
Si×M
SiO2−100×W
CaO,blow1)・・・(2)
【0035】
以上のような操業を繰り返し、最初の10Chの平均の中間排滓率Rを算出した。その結果を表1に示す。また、10Ch以降も操業を繰り返し、炉口付近の摩耗により中間排滓率が60%以下に低下するまでのチャージ数も表1に示す。なお、本実施例では、最初の10Chの平均の中間排滓率が60%以上で、かつ中間排滓率が60%未満となるまでのチャージ数が40以上となる場合を合格ラインとした。
【0036】
【表1】
【0037】
本発明例1〜3は、炉口に堰を設置せずに排滓方向の炉口形状を平坦とし、その平坦の部分の長さ(
図4Aの線分ABに該当する部分の長さ)をD
1、炉口の円弧の部分の直径をD
0とした場合に、その比D
1/D
0をそれぞれ0.3、0.6、0.8、角度θの最大角を35°、40°、70°とした例である。本発明例1〜3では、通常の円形の炉口形状の比較例1よりも中間排滓率Rを10%以上向上させることができた。なお、比較例2では、比D
1/D
0が0.2の堰を設置した例であり、中間排滓率が10%向上したが、耐火物で施工した堰の寿命が短く、10チャージ程度で中間排滓率が60%以下まで低下してしまい、操業を繰り返すことによって実用に耐えなかった。比較例3では、比D
1/D
0が0.3の堰を設置しようとしたが、耐火物の施工が難しく、堰の設置を断念した。