(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成及び成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記溶鋼の炭素含有量は0.02mass%以下であって、
一対の前記冷却ドラムの押し付け力P(kgf/mm)、鋳造厚さD(mm)、前記冷却ドラムの半径R(m)が、
0.90≦P×(D×R)0.5≦1.30
を満足するように、前記一対の前記冷却ドラムの押し付け力Pを設定することを特徴とする薄肉鋳片の製造方法。
【背景技術】
【0002】
金属の薄肉鋳片を製造する装置として、内部に水冷構造を有し互いに逆方向に回転する一対の冷却ドラムを備え、一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成及び成長させ、一対の冷却ドラムの外周面にそれぞれ形成された凝固シェル同士をドラムキス点で圧着して所定の厚さの薄肉鋳片を製造する双ドラム式連続鋳造装置が提供されている。このような双ドラム式連続鋳造装置は、各種金属において適用されている。
【0003】
上述の双ドラム式連続鋳造装置においては、例えば特許文献1に示すように、冷却ドラムの上方に配置されたタンディッシュから浸漬ノズルを介して溶鋼溜まり部に溶鋼が連続的に供給され、回転する冷却ドラムの周面上で溶鋼が凝固成長して凝固シェルが形成され、各冷却ドラムの周面に形成された凝固シェルがドラムキス点で圧着され、薄肉鋳片が製出される。
【0004】
ところで、上述の双ドラム式連続鋳造装置を用いて製造される薄肉鋳片においては、溶鋼が凝固時に急冷されることから、凝固組織が、両面の表層から1/2厚部に向かう柱状晶を有する。鋼種や鋳造条件によっては、1/2厚部に等軸晶が形成されることもある。
従来、一般的には、例えば特許文献1に示すように、金属組織を均質化するために、等軸晶を積極的に生成することが志向されている。
【0005】
また、特許文献2においては、鋳型壁が鋳片と同期して移動する連続鋳造装置によってオーステナイト系ステンレス鋼薄帯状鋳片を鋳造する方法において、鋳型壁面の押し付け力を制御することによってNi負偏析の発生を抑制し、冷延及び冷間加工後の鋼板に見られる斑点状、千鳥配置の霜降り状光沢むらを防止する製造方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、等軸晶を挟んで凝固シェル同士を圧着させると、粒間に閉じ込められた液相が凝固収縮して、マイクロポアが発生する場合がある。マイクロポアとは、直径300μm〜100μm程度の空孔であり、加工時の破壊起点となることで、強度や靭性等の機械特性等に悪影響を及ぼすものである。
一方、柱状晶からなる凝固シェル同士を圧着させると、液相が排出されて柱状晶同士が密着するためマイクロポアが発生しない。従って、マイクロポアに起因する機械特性の低下を防ぐ観点からは、等軸晶率が低く、柱状晶率が高い薄肉鋳片が望まれている。
【0008】
双ドラム式連続鋳造装置を用いて製造された薄肉鋳片において、柱状晶率を全体的に高めようとしても、等軸晶の生成状況が安定しておらず、局所的に等軸晶率が5%以上となり、柱状晶率が95%未満となるような箇所が生じることがあった。
連続鋳造する薄肉鋳片において、マイクロポアに起因する欠陥箇所が生じると、その対策として、薄肉鋳片にさらなる熱間圧延などを加えて、マイクロポアを圧着する必要がある。その工程増加により、生産効率を著しく低下させることになる。このため、全域にわたって柱状晶率が高く安定した薄肉鋳片が望まれていた。
【0009】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、鋳片の全域にわたって柱状晶率が高い薄肉鋳片を安定して製造することができる薄肉鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、回転する一対の冷却ドラムと一対のサイド堰によって形成された溶鋼溜まり部に溶鋼を供給し、前記冷却ドラムの周面に凝固シェルを形成及び成長させて薄肉鋳片を製造する薄肉鋳片の製造方法であって、
前記溶鋼の炭素含有量は0.02mass%以下であって、一対の前記冷却ドラムの押し付け力P(kgf/mm)、鋳造厚さD(mm)、前記冷却ドラムの半径R(m)が、0.90≦P×(D×R)
0.5≦1.30を満足するように、一対の前記冷却ドラムの押し付け力Pを設定する。
【0011】
この構成の薄肉鋳片の製造方法においては、冷却ドラムの押し付け力P、鋳造厚さD(mm)、前記冷却ドラムの半径R(m)によって定義されるP×(D×R)
0.5が1.30以下とされているので、ドラムの押し付け力Pが過剰に高くなることが抑制され、等軸晶の発生及び成長を抑制することができる。よって、全域にわたって安定して等軸晶の少ない薄肉鋳片を製造することができる。
一方、P×(D×R)
0.5が0.90以上とされているので、凝固シェル同士を確実に圧着することができ、安定して薄肉鋳片を製造することが可能となる。
また、鋳造厚さD(mm)、冷却ドラムの半径R(m)を考慮して一対の冷却ドラムの押し付け力Pを設定しているので、実際の押し付け状況を安定させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
上述のように、本発明によれば、鋳片の全域にわたって柱状晶率が高い薄肉鋳片を安定して製造することが可能な薄肉鋳片の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者ら鋭意検討した結果、双ドラム式連続鋳造装置において、等軸晶の発生機構として、以下の2つがあることを確認した。
(1)溶鋼とドラム表面の接触部(メニスカス)において生成した凝固核が、溶鋼流動によってドラム表面から剥離して結晶核となり、ドラム回転に伴って溶鋼溜まり部の下方に移動する。ここで、一対の冷却ドラムの押し付け力が一定値を上回ると、冷却ドラムの押し付けによる凝固シェルの圧着、絞り上げよって結晶核が滞留し、結晶核同士が合体して成長し、これが凝固シェル間に巻き込まれて等軸晶となる。
(2)冷却ドラムの押し付けによって凝固シェルが圧着される際に、押し付け力が過剰な場合には、圧下によって凝固シェルの先端が折損し、結晶核が発生する。そして、冷却ドラムの押し付けによる凝固シェルの圧着、絞り上げよって結晶核が滞留し、結晶核同士が合体して成長し、これが凝固シェル間に巻き込まれて等軸晶となる。
【0015】
上述のように、等軸晶の発生機構においては、等軸晶の生成及び成長を促す要因は、いずれも冷却ドラムの押し付けによる凝固シェルの過剰な圧着であり、冷却ドラムの押し付け状況を適正化することによって、等軸晶の発生及び成長を抑制可能であるとの知見を得た。
ここで、冷却ドラムの外径(ドラム径)が大きいと、凝固シェルの圧着はより平板圧縮に近くなり、圧着による絞り上げや折損がより過剰となる。このため、ドラム径が大きい場合には、ドラムの押し付け力を低く抑える必要がある。
また、鋳造厚さに対応する凝固シェル厚が厚いと、冷却ドラムの周速度がより遅くなり、遊離結晶核が多数生成する。さらに、凝固シェルと溶鋼の界面の温度勾配がより小さくなり、凝固シェル先端の脆弱な部分がより厚くなるため、押し付けによる折損が過剰となる。このため、凝固シェル厚(すなわち鋳造厚さ)が厚い場合には、ドラムの押し付け力を低く抑える必要がある。
【0016】
上記の知見に基づきなされた本発明の実施形態である薄肉鋳片の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態において製造される薄肉鋳片1は、自動車用鋼板、耐食・耐候性鋼板、溶接管、方向性電磁鋼板、無方向性電磁鋼板等に用いられてもよい。
また、本実施形態では、製造される薄肉鋳片1の幅が300mm以上2000mm以下の範囲内、厚さが1mm以上5mm以下の範囲内とされている。
【0017】
本実施形態における双ドラム式連続鋳造装置10は、
図1に示すように、一対の冷却ドラム11、11と、薄肉鋳片1を曲げるベンダーロール12、12と、薄肉鋳片1を支持するピンチロール13、13と、一対の冷却ドラム11、11の幅方向端部に配設されたサイド堰15と、これら一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15とによって画成された溶鋼溜まり部16に供給される溶鋼3を保持するタンディッシュ17と、このタンディッシュ17から溶鋼溜まり部16へと溶鋼3を供給する浸漬ノズル18と、を備えている。
【0018】
図2に、
図1における溶鋼溜まり部16周辺の拡大説明図を示す。本実施形態である双ドラム式連続鋳造装置10においては、
図2に示すように、溶鋼溜まり部16及び冷却ドラム11、11の上方には、チャンバー20が配設されている。
【0019】
次に、上述した双ドラム式連続鋳造装置10を用いた本実施形態である薄肉鋳片の製造方法について説明する。
【0020】
一対の冷却ドラム11、11とサイド堰15によって形成された溶鋼溜まり部16に、タンディッシュ17から浸漬ノズル18を介して溶鋼3を供給するとともに、一対の冷却ドラム11、11を回転方向Fに向けて、すなわち、一対の冷却ドラム11、11同士が近接する領域が薄肉鋳片1の引抜方向(
図1においては下方向)に向かうように、それぞれの冷却ドラム11、11を回転させる。
【0021】
すると、冷却ドラム11の周面には、凝固シェル5が形成される。そして、冷却ドラム11の周面の上で凝固シェル5が成長し、一対の冷却ドラム11、11にそれぞれ形成された凝固シェル5、5同士がドラムキス点KPで圧着されることにより、所定厚みの薄肉鋳片1が鋳造される。
【0022】
そして、本実施形態においては、一対の冷却ドラム11、11同士のドラムキス点KPにおける押し付け力P(kgf/mm)を、鋳造厚さD(mm)、冷却ドラム11の半径R(m)を用いて、以下に示すように規定している。
0.90≦P×(D×R)
0.5≦1.30
【0023】
ここで、上述のように、一対の冷却ドラム11、11同士の押し付け力Pを規定した理由について説明する。
一般に、圧延理論においては、圧延ロールによる圧延の場合、
図3に示すように、ロールと圧延材の接触長さLと、圧延ロール半径Rと、圧延による板厚の減少量Δhとの関係は、
L=(Δh×R)
0.5
で表される。
【0024】
ここで、(Δh×R)
0.5が大きくなるほど、同じ圧下力で押しても接触長さLが大きくなり、圧延効率が上がるので、圧下状態を一定にするためには、(Δh×R)
0.5の増加に応じて押し付け力を下げる必要がある。
本実施形態の双ドラム式連続鋳造装置10においては、圧延による板厚の減少量Δhは鋳造厚さDに概ね比例する。また、圧延ロールの半径Rは冷却ドラム11の半径Rに相当する。このため、本実施形態の双ドラム式連続鋳造装置10において、凝固シェル5の圧着の度合いや、等軸晶の生成に繋がる凝固シェル5の折損の度合いを示す指標は、押し付け力Pと(D×R)
0.5の積P×(D×R)
0.5で示される。そして、全域にわたって安定して等軸晶の発生及び成長を抑制するとともに、凝固シェル5、5同士を確実に圧着するために、上述のP×(D×R)
0.5の適正な範囲を規定した。
【0025】
ここで、P×(D×R)
0.5が1.30を超えると、冷却ドラム11、11同士の押し付けが過剰となり、凝固シェル5の先端が折損する。また、溶鋼溜まり部16内に浮遊する結晶核が冷却ドラム11の押し付けによる凝固シェル5の圧着、絞り上げよって滞留し、結晶核同士が合体して成長し、これが凝固シェル5、5間に巻き込まれて等軸晶が発生及び成長するおそれがある。
すなわち、ドラム半径R(mm)と鋳造厚さD(mm)の積のルートである(D×R)
0.5を指標として押し付け力Pを制御することで、ドラムキス点KPにおける凝固シェル5、5への力の伝わり方を適切にすることができ、等軸晶の発生及び成長を抑制することができる。
一方、P×(D×R)
0.5が0.90を下回ると、凝固シェル5、5同士を十分に圧着できないおそれがある。
以上のことから、本実施形態においては、P×(D×R)
0.5を0.90以上1.30以下の範囲内に設定している。
なお、等軸晶が発生及び成長をさらに抑制するためには、P×(D×R)
0.5の上限を1.1以下とすることが好ましい。
【0026】
このような構成の本実施形態である薄肉鋳片の製造方法によって製造された薄肉鋳片1においては、薄肉鋳片1の全域にわたり、冷却ドラム11の10回転毎(例えば冷却ドラム11の半径Rが0.3mの場合は、18.8mピッチ)で、薄肉鋳片1の全幅をサンプリングし、トリム代となる両端各20mmを除く幅方向の全断面の金属組織を観察した場合に、薄肉鋳片1の厚みに占める柱状晶厚の比率の最小値が95%超えとされている。
【0027】
以上のような構成とされた本実施形態である薄肉鋳片の製造方法においては、冷却ドラム11の押し付け力P、鋳造厚さD(mm)、冷却ドラム11の半径R(m)によって定義されるP×(D×R)
0.5が1.30以下とされているので、冷却ドラム11の押し付け力Pが過剰に高くなることが抑制され、等軸晶の発生及び成長を抑制することができる。一方、P×(D×R)
0.5が0.90以上とされているので、凝固シェル5、5同士を確実に圧着することができる。
また、鋳造厚さD(mm)、冷却ドラム11の半径R(m)を考慮して一対の冷却ドラム11、11の押し付け力Pを設定しているので、実際の押し付け状況を安定させることが可能となる。
よって、薄肉鋳片1の全域にわたって等軸晶の少ない薄肉鋳片1を安定して製造することができる。
【0028】
また、本実施形態である薄肉鋳片の製造方法によって製造された薄肉鋳片1は、上述のように、薄肉鋳片1の厚みに占める柱状晶厚の比率の最小値が95%超えとされているので、マイクロポアに起因する機械特性の低下を防ぐことができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態である薄肉鋳片1の製造方法について具体的に説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図1に示すように、ベンダーロール及びピンチロールを配設した双ドラム式連続鋳造装置を例に挙げて説明したが、これらのロール等の配置に限定はなく、適宜設計変更してもよい。
【0030】
(実施例)
以下に、本発明の効果を確認すべく、実施した実験結果について説明する。
【0031】
<実施例1>
実施形態で説明した双ドラム式連続鋳造装置を用いて、C;0.02mass%、Si;3.5mass%、Al;0.6mass%、Mn;0.2mass%を含有する鋼材からなる薄肉鋳片を、表1に示す条件で鋳造した。なお、ドラム幅は400mmとした。
【0032】
まず、鋳造状況を目視にて評価した。評価結果を表1及び
図4に示す。
そして、得られた薄肉鋳片の柱状晶率を測定した。薄肉鋳片の全域にわたり、冷却ドラムの10回転毎(例えば冷却ドラムの半径Rが0.3mの場合は、18.8mピッチ)で、薄肉鋳片の全幅をサンプリングし、トリム代となる両端各20mmを除く幅方向の全断面の金属組織を観察し、板厚に占める柱状晶厚の比率の最小値を、その鋳造における柱状晶率とした。評価結果を表1及び
図5に示す。
【0033】
更に、マイクロポアの平均サイズと個数密度を表1に示す。薄肉鋳片から、冷却ドラム1回転分の長さで全幅のサンプルを採り、薄肉鋳片の板面方向からX線透過写真を撮影した。そして、白抜けで観察されたマイクロポアに対して2次元画像処理を行い、マイクロポアの平均サイズ(μm)と個数密度(個/m
2)を測定した。
【0035】
比較例1〜4においては、P×(D×R)
0.5の値が0.90よりも小さく、鋳片の端部が欠落したり、バルジング破断が発生したりして、薄肉鋳片を得ることができなかった。凝固シェルを十分に圧着できなかったためと推測される。
比較例5〜9においては、P×(D×R)
0.5の値が1.30よりも大きく、等軸晶の発生及び成長を十分に抑制することができず、柱状晶率が低くなった。また、マイクロポアが多数生成した。
【0036】
これに対して、P×(D×R)
0.5が適切な範囲とされた本発明例1〜8においては、安定して鋳造可能であるとともに、鋳片の全域にわたって柱状晶率が高くなっており、その結果マイクロポアが防止できていることが確認された。
【0037】
以上のことから、本発明例によれば、鋳片の全域にわたって柱状晶率が高い薄肉鋳片を安定して製造することができることが確認された。