特許第6874924号(P6874924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6874924ガラスクロス、プリプレグ、及び、ガラス繊維強化樹脂成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6874924
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ガラスクロス、プリプレグ、及び、ガラス繊維強化樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   D03D 15/267 20210101AFI20210510BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   D03D15/12 A
   C08J5/24
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2021-500238(P2021-500238)
(86)(22)【出願日】2020年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2020031449
【審査請求日】2021年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2019-154708(P2019-154708)
(32)【優先日】2019年8月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池尻 広隆
(72)【発明者】
【氏名】粟野 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】高津 公洋
【審査官】 橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−001855(JP,A)
【文献】 特開2010−262143(JP,A)
【文献】 国際公開第2000/060153(WO,A1)
【文献】 特開2003−253545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00−27/18
D02G1/00−3/48
D02J1/00−13/00
D01F9/08−9/32
C03B37/00−37/16
C08J5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ3.0〜4.4μmの範囲の円換算直径を備えるガラスフィラメントが30〜44本の範囲で集束されてなるガラスヤーンである経糸と緯糸とから構成され、
該経糸と該緯糸との織密度がそれぞれ85〜125本/25mmの範囲にあり、
該経糸と該緯糸との少なくとも一方は、扁平な断面形状を有する扁平ガラスフィラメントから構成される扁平ガラスヤーンであり、
その織密度が100本/25mm未満であり、
該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の長径DLが3.3〜6.0μmの範囲にあり、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の短径DSが2.0〜3.9μmの範囲にあり、
前記長径Lは短径DSよりも高い値であり、
該扁平ガラスヤーンの撚数Tが0.70回/25mm以下であり、
該扁平ガラスヤーンを構成する該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、該撚数Tと、該長径DLと、該短径DSとが次式(1)を満たすことを特徴とするガラスクロス。
89.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦129.0 ・・・(1)
【請求項2】
請求項1記載のガラスクロスにおいて、前記扁平ガラスヤーンを構成する前記扁平ガラスフィラメントの本数Fと、前記撚数Tと、前記長径DLと、前記短径DSとが次式(2)を満たすことを特徴とするガラスクロス。
97.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦122.5 ・・・(2)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のガラスクロスを含むことを特徴とするプリプレグ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のガラスクロスを含むことを特徴とするガラス繊維強化樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスクロスと、該ガラスクロスを含むプリプレグ、及び、該ガラスクロスを含むガラス繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント配線基板における絶縁材料として、ガラスクロスにエポキシ樹脂等の樹脂を含浸させたプリプレグが用いられている。前記ガラスクロスは、複数本のガラスフィラメントが集束されてなる経糸と緯糸とから構成されている。
【0003】
近年、電子機器のさらなる小型化、薄型化、高機能化のために、前記プリント配線基板及び前記プリプレグの薄型化の要求はさらに高まり、ガラスクロスの薄型化かつ、軽量化の要求も同様に高まっている。これらの要求に応じて、前記プリプレグに用いられる樹脂量の低減が図られている。樹脂量が低減されると、ガラスクロスに樹脂を含浸させてプリプレグとしたときに、ピンホールがより発生し易くなる。このため、織密度が100本/25mm以上で、厚さが6.5〜11.0μmの範囲で、ピンホールの発生を抑制したガラスクロスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6536764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のガラスクロスでは、織密度が100本/25mm以上であるため、十分に軽量化、薄型化することができない。さらに、使用するガラス糸が多いため、製造時に、経糸を引き揃える整経工程の準備作業や製織工程で織機に経糸を準備する作業に時間がかかり、また、製織時の緯糸準備などの作業も増え、さらに単位長さ当たりの製織時間が長くなるため、作業性・製造効率が悪いという不都合がある。
【0006】
本発明は、かかる不都合を解消して、十分に軽量化し、作業性・製造効率を向上することができ、織密度を100本/25mm未満として厚さを10μm未満に薄型化したときにも、それを含むプリプレグにおけるピンホールの発生を抑制することができるガラスクロスを提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、前記ガラスクロスを含むプリプレグ、及び、該ガラスクロスを含むガラス繊維強化樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために、本発明のガラスクロスは、それぞれ3.0〜4.4μmの範囲の円換算直径を備えるガラスフィラメントが30〜44本の範囲で集束されてなるガラスヤーンである経糸と緯糸とから構成され、該経糸と該緯糸との織密度がそれぞれ85〜125本/25mmの範囲にあり、該経糸と該緯糸との少なくとも一方は、扁平な断面形状を有する扁平ガラスフィラメントから構成される扁平ガラスヤーンであり、その織密度が100本/25mm未満であり、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の長径DLが3.3〜6.0μmの範囲にあり、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の短径DSが2.0〜3.9μmの範囲にあり、前記長径DLは前記短径DSよりも高い値であり、該扁平ガラスヤーンの撚数Tが0.70回/25mm以下であり、該扁平ガラスヤーンを構成する該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、該撚数Tと、該長径DLと、該短径DSとが次式(1)を満たすことを特徴とする。
【0009】
89.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦129.0 ・・・(1)
本発明のガラスクロスにおいて、前記経糸と前記緯糸とは、それぞれ3.0〜4.4μmの範囲の円換算直径を備えるガラスフィラメントが30〜44本の範囲で集束されてなることが必要である。ここで、前記円換算直径とは、前記ガラスフィラメントの断面積を真円に換算したときの繊維径を意味する。
【0010】
前記経糸又は前記緯糸を構成する前記ガラスフィラメントの円換算直径が4.4μm超であるか又は、該ガラスフィラメントの本数が44本超であるときには、ガラスクロスを十分に軽量化することができない。また、前記ガラスフィラメントの円換算直径を3.0μm未満とすると、糸切れや毛羽の発生を防ぐために、製造効率が下がる。そして、前記ガラスフィラメントの本数を30本未満とすると、該ガラスクロスを含むプリプレグにおけるピンホールの発生を抑制することが困難になる。
【0011】
また、本発明のガラスクロスにおいて、前記経糸と前記緯糸とを使用した場合には、前記経糸と前記緯糸との織密度が、それぞれ85〜125本/25mmの範囲にあることが必要である。前記経糸又は前記緯糸の織密度が125本/25mmを超えると、ガラスクロスを十分に軽量化することができず、ガラスクロスを効率的に製造することが困難になる。一方、前記経糸又は前記緯糸の織密度を85本/25mm未満とした場合には、前記ガラスクロスを含むプリプレグにおけるピンホールの発生を抑制することが困難になる。
【0012】
また、本発明のガラスクロスは、前記経糸と前記緯糸との少なくとも一方は、扁平な断面形状を有する扁平ガラスフィラメントから構成される扁平ガラスヤーンであり、その織密度が100本/25mm未満であることが必要である。
【0013】
また、本発明のガラスクロスは、前記扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の長径DLが3.3〜6.0μmの範囲にあり、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の短径DSが2.0〜3.9μmの範囲にあり、前記長径DLは前記短径DSよりも高い値であり、該扁平ガラスヤーンの撚数Tが0.70回/25mm以下であることが必要である。前記長径DLが6.0μmを超えると、ガラスクロスを十分に軽量化することができず、該長径DLが3.3μm未満になると、ピンホールの発生を抑制することが困難になる。前記短径DSが3.9μmを超えると、ガラスクロスを十分に薄型化することができず、該短径DSが2.0μm未満にすることは技術的に困難である。前記撚数Tが0.70回/25mmを超えると、ガラスクロスを均一に薄型化することができない。
【0014】
前記長径DLがガラスクロスの織密度の低減に寄与し、前記短径DSがガラスクロスの厚みの低減に寄与することで、前記扁平ガラスフィラメントから構成されるガラスヤーンを用いてガラスクロスを製造する場合、前記扁平ガラスフィラメントと同一の円換算直径を有する円形断面ガラスフィラメントから構成されるガラスヤーンを用いてガラスクロスを製造する場合と比較して、より高い製造効率で、より薄いガラスクロスを製造することが可能である。特に、同程度の厚さのガラスクロスを製造する場合、前記扁平ガラスフィラメントから構成されるガラスヤーンを用いてガラスクロスを製造することで、製造効率を大きく高めることが可能となる。
【0015】
とりわけ、本発明のガラスクロスは、該扁平ガラスヤーンを構成する該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、該撚数Tと、該長径DLと、該短径DSとが次式(1)を満たすことにより、高度に軽量化しつつ作業性・製造効率を向上することができ、しかも厚さを10μm未満というように高度に薄型化したときにも、それを含むプリプレグにおけるピンホールの発生を抑制することができる。
【0016】
89.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦129.0 ・・・(1)
また、本発明のガラスクロスは、前記扁平ガラスヤーンを構成する前記扁平ガラスフィラメントの本数Fと、前記撚数Tと、前記長径DLと、前記短径DSとが次式(2)を満たすことが好ましく、厚さをさらに高度に薄型化したときにも、それを含むプリプレグにおけるピンホールの発生を確実に抑制することができる。
【0017】
97.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦122.5 ・・・(2)
本発明のプリプレグは、前述の構成を備える本発明のガラスクロスを含むことを特徴とする。本発明のプリプレグは、前述の構成を備える本発明のガラスクロスを含むことにより、ピンホールの発生を抑制することができ、また、高度に薄型化することができ、高度に軽量化することができる。
【0018】
本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、前述の構成を備える本発明のガラスクロスを含むことを特徴とする。本発明のガラス繊維強化樹脂成形品は、前述の構成を備える本発明のガラスクロスを含むことにより、高度に薄型化することができ、高度に軽量化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0020】
本実施形態のガラスクロスは、経糸と緯糸とから構成される。前記経糸と前記緯糸とは、それぞれガラスフィラメントを30〜44本の範囲、好ましくは34〜42本の範囲で集束してなる。前記ガラスフィラメントは、3.0〜4.4μmの範囲、好ましくは3.4〜4.2μmの範囲の円換算直径(以下、フィラメント径と記載することがある)を備える。前記経糸と前記緯糸との織密度は、それぞれ85〜125本/25mmの範囲、好ましくは85〜107本/25mmの範囲にある。
【0021】
本実施形態のガラスクロスは、前記経糸と前記緯糸との少なくとも一方、好ましくは前記経糸と前記緯糸との両方は、扁平な断面形状を有する扁平ガラスフィラメントから構成される扁平ガラスヤーンであり、その織密度が100本/25mm未満であり、好ましくは85〜98本/25mmの範囲にある。そして、本実施形態のガラスクロスは、前記扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の長径DLが3.3〜6.0μmの範囲、好ましくは、3.5〜6.0μmの範囲、より好ましくは、3.6〜6.0μm、さらに好ましくは、4.0〜6.0μmの範囲、特に好ましくは4.3〜5.5μmの範囲にあり、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の短径DSが2.0〜3.9μmの範囲、好ましくは2.5〜3.5μmの範囲にあり、前記長径DLは短径DSよりも高い値であり、該扁平ガラスヤーンの撚数Tが0.70回/25mm以下、好ましくは、0.50回/25mm以下、より好ましくは0.40回/25mm以下、さらに好ましくは0.20回/25mm以下、特に好ましくは0.09回/25mm以下であり、該扁平ガラスヤーンを構成する該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、該撚数Tと、該長径DLと、該短径DSとが次式(1)を満たし、さらに次式(2)を満たすことが好ましく、次式(3)を満たすことがより好ましく、次式(4)を満たすことがさらに好ましい。
【0022】
89.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦129.0 ・・・(1)
97.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦122.5 ・・・(2)
97.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦105.0 ・・・(3)
97.5≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦100.0 ・・・(4)
また、本実施形態のガラスクロスは、前記扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の長径DLと、該扁平ガラスフィラメントの扁平な断面の短径DSの比(DL/DS)は、例えば1.05〜2.20の範囲であり、好ましくは1.10〜1.90であり、より好ましくは1.25〜1.80の範囲であり、さらに好ましくは、1.26〜1.75、とりわけ好ましくは、1.27〜1.72、特に好ましくは1.50〜1.70の範囲である。
【0023】
前記扁平ガラスフィララメントが備える扁平な断面形状としては、例えば、長円形(長方形の短辺部分を、当該短辺を直径とする半円にそれぞれ置換した形状)、楕円形、及び、長方形を挙げることができる。
【0024】
前記ガラスフィラメントは、所定の組成となるように調合されたガラスバッチ(ガラス原材料)を溶融して、所定の温度に制御されたブッシングのノズルチップから引き出して、急冷することにより得ることができる。また、前記ノズルチップを、突起部や切欠部または溝部を有するものとし、溶融ガラス温度を制御することで、扁平な断面形状を有するガラスフィラメントが得られる。前記ガラスフィラメントの組成としては、例えば、Eガラス繊維(汎用ガラス繊維)組成、高強度ガラス繊維組成、低誘電率ガラス繊維組成等の組成を備えるものを用いることができる。ここで、前記Eガラス繊維組成は、SiOを52〜56質量%、Bを5〜10質量%、Alを12〜16質量%、CaOとMgOとを合計20〜25質量%、NaOとKOとLiOとを合計0〜1質量%含む。また、前記高強度ガラス繊維組成は、SiOを57〜70質量%、Alを18〜30質量%、CaOを0〜13質量%、MgOを5〜15質量%、NaOとKOとLiOとを合計0〜1質量%、TiOを0〜1質量%、Bを0〜2質量%含む。また、前記低誘電率ガラス繊維組成は、SiOを48〜62質量%、Bを17〜26質量%、Alを9〜18質量%、CaOを0.1〜9質量%、MgOを0〜6質量%、NaOとKOとLiOとを合計0.05〜0.5質量%、TiOを0〜5質量%、SrOを0〜6質量%、FとClとを合計で0〜3質量%、Pを0〜6質量%含む。
【0025】
前記ガラスフィラメントは、汎用性の観点からは前記Eガラス繊維組成であることが好ましく、プリプレグとした際の反りの抑制という観点からは前記高強度ガラス繊維組成で
あることが好ましい。このとき、前記高強度ガラス繊維組成は、SiOを64〜66質量%、Alを24〜26質量%、MgOを9〜11質量%含み、SiOとAlとMgOとを合計で99質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0026】
前記ガラスフィラメントは、30〜44本の範囲の本数で、それ自体公知の方法により集束され、前記経糸又は前記緯糸とされる。なお、ガラスバッチを溶融し、繊維化してガラスフィラメントを得て、次いで、このガラスフィラメント複数本を集束して経糸又は緯糸を得ることを紡糸という。
【0027】
本実施形態のガラスクロスは、前記経糸と前記緯糸とを用い、それ自体公知の織機により製織し、開繊処理を行うことにより得ることができる。前記織機としては、例えば、エアージェット又はウォータージェット等のジェット式織機、シャトル式織機、レピア織機等を挙げることができる。また、前記織機による織り方としては、例えば、平織、朱子織、ななこ織、綾織等を挙げることができる。
【0028】
前記開繊処理としては、例えば、水流圧力による開繊、液体を媒体とした高周波の振動による開繊、面圧を有する流体の圧力による開繊、ロールによる加圧での開繊等を挙げることができる。これらの開繊処理の中では、水流圧力による開繊、又は液体を媒体とした高周波の振動による開繊を使用することが、経糸又は緯糸のそれぞれにおいて、開繊処理後の糸幅のバラツキが低減されるので好ましい。また、前記開繊処理は、複数の処理方法を併用することにより、該開繊処理に起因する目曲がり等のガラスクロス外観上の欠陥の発生を抑制することができる。
【0029】
本実施形態のプリプレグは、前述した本実施形態のガラスクロスを含む。
【0030】
本実施形態のプリプレグは、前述したガラスクロスに、それ自体公知の方法により、樹脂を含浸させ、半硬化させることにより得ることができる。
【0031】
本実施形態のプリプレグにおいて、前述したガラスクロスに含浸される樹脂は、特に限定されない。このような樹脂として、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、変性ポリイミド樹脂等を挙げることができる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリブチレンテレフタート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、フッ素樹脂等を挙げることができる。
【0032】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂成形品は、前述した本実施形態のガラスクロスを含む。
【0033】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂成形品は、例えば、前述した本実施形態のプリプレグを硬化させることで得ることができる。また、本実施形態のガラス繊維強化樹脂成形品は、前述した本実施形態のガラスクロス、前述した樹脂、及び、その他の添加剤を用いて、シートワインディング成形、インフュージョン成形、低圧RIM成形等のそれ自体公知の方法で得ることができる。
【0034】
本実施形態のガラス繊維強化樹脂成形品の用途としては、プリント配線基板、電子機器の筐体、燃料電池のセパレーター等を挙げることができる。
【0035】
次に、本発明の実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得た。前記経糸は長径DLtが4.2μm、短径DStが3.2μm、円換算直径が3.7μmの扁平ガラスフィラメントが40本集束されてなり、撚数Ttが0.30回/25mmのガラスヤーンであり、前記緯糸は長径DLyが4.2μm、短径DSyが3.2μm、円換算直径が3.7μmの扁平(楕円)ガラスフィラメントが40本集束されてなり、撚数Tyが0.30回/25mmのガラスヤーンである。
【0037】
次に、エアージェット式織機を用い製織し、前記経糸の織密度を95本/25mmとし、前記緯糸の織密度を95本/25mmとして、平織のガラスクロスを得た。
【0038】
前記ガラスクロスに、脱油処理、表面処理及び開繊処理を施して、本実施例のガラスクロスを得た。
【0039】
ここで、脱油処理としては、ガラスクロスを雰囲気温度が350℃〜400℃の加熱炉内に60時間配置し、該ガラスクロスに付着している紡糸用集束剤と製織用集束剤を加熱分解する処理を採用した。
【0040】
また、表面処理としては、ガラスクロスにシランカップリング剤を塗布し、130℃の加熱炉内に連続的に通しながら硬化させる処理を採用した。
【0041】
また、開繊処理としては、ガラスクロスの経糸に50Nの張力をかけ、水流圧力を1.0MPaに設定した水流圧力による開繊処理を採用した。
【0042】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを、メチルエチルケトンで希釈したエポキシ樹脂(DIC株式会社製、商品名:EPICLON1121N?80N)中に浸漬して、該ガラスクロスに樹脂を含浸させ、幅13μmのスリット間を通過させて余剰の樹脂を除去した後、乾燥機にて、150℃の温度下に1分間保持して、前記エポキシ樹脂を含浸させたガラスクロスを半硬化させて評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0043】
表1において、前記ガラスクロスの厚さは、JIS R 3420に準拠して、ガラスクロス中15点でその厚さをマイクロメーターで測定したときの測定値の平均値である。
【0044】
また、前記経糸又は緯糸の長径と短径は、該経糸又は該緯糸の断面それぞれ50点について、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-3400N、倍率:3000倍)で、該経糸又は該緯糸を構成するガラスフィラメント断面の略中心を通る最長の辺を長径とし、該長径とガラスフィラメント断面の略中心で直交する辺を短径として、それぞれの長さを測定したときの測定値の平均値である。また、前記経糸又は緯糸を構成するガラスフィラメントの本数は、該経糸又は該緯糸の断面それぞれ50点について、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、商品名:S-3400N、倍率:500倍)で、該経糸又は該緯糸を構成するガラスフィラメントの本数を計測したときの計測値の平均値である。
【0045】
また、前記経糸又は緯糸の撚数は、JIS R 3912に準拠して、検撚器を用い、試験片の解撚に必要なターン数および試験片の解撚前の標準張力下での長さから算出して求めることができる。
【0046】
また、前記経糸の織密度は、JIS R 3420に準拠して、織物分解鏡を用い、緯方向の25mmの範囲にある経糸の本数を数えることにより求めることができる。また、前記緯糸の織密度は、JIS R 3420に準拠して、織物分解鏡を用い、経方向の25mmの範囲にある緯糸の本数を数えることにより求めることができる。
【0047】
また、前記経糸又は緯糸の糸幅は、ガラスクロスから60mm×100mmのサンプル3枚を切り出し、各サンプル当たりそれぞれ30本の経糸又は緯糸について、マイクロスコープ(株式会社キーエンス製、商品名:VHX?2000、倍率:200倍)で測定したときの測定値の平均値である。
【0048】
また、前記評価用プリプレグシートサンプルのピンホールの発生数(ピンホール数)は、前記評価用プリプレグシートサンプルの表面の200mm×600mmの領域を目視で確認して、ピンホールが無い場合を「○」(良)、ピンホールが存在する場合を「×」(不可)とした。前記ピンホールは、ガラスクロス中の空隙部に樹脂が充填されていない部分として観察される。
【0049】
また、製造時間指数は、経糸を引き揃える整経工程から、10000mの本実施例のガラスクロスを製織するまでの製造時間を求め、後述の比較例1において、経糸を引き揃える整経工程から、10000mの比較例1のガラスクロスを製織するまでの製造時間で除した数値である。製造時間指数が小さい程、作業性・製造効率が向上していることを意味する。
【0050】
〔実施例2〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記経糸を長径DLtが4.6μm、短径DStが2.8μm、円換算直径が3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Ttが0.03回/25mmのガラスヤーンとし、前記緯糸を長径DLyが4.6μm、短径DSyが2.8μm、円換算直径が3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0051】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例3〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記経糸を長径DLtが3.6μm、短径DStが2.8μm、円換算直径が3.2μmのガラスフィラメントが40本集束されてなり、撚数Ttが0.30回/25mmのガラスヤーンとし、前記緯糸を長径DLyが3.6μm、短径DSyが2.8μm、円換算直径が3.2μmのガラスフィラメントが40本集束されてなり、撚数Tyが0.30回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0053】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0054】
〔実施例4〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記経糸を長径DLtが3.6μm、短径DStが3.6μm、円換算直径が3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Ttが0.70回/25mmのガラスヤーンとし、経糸の織密度を105本/25mmとし、前記緯糸を長径DLyが5.2μm、短径DSyが3.3μm、円換算直径が4.1μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0055】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0056】
〔実施例5〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが4.5μm、短径DSyが3.5μm、円換算直径が4.0μmの扁平ガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0057】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0058】
〔実施例6〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが4.6μm、短径DSyが2.8μm、円換算直径が3.6μmの扁平ガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0059】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0060】
〔実施例7〕
本実施例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが4.6μm、短径DSyが2.8μm、円換算直径が3.6μmの扁平ガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.09回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本実施例のガラスクロスを得た。
【0061】
次に、本実施例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表1に示す。
【0062】
〔比較例1〕
本比較例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが3.6μm、短径DSyが3.6μm、円換算直径が3.6μmのガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.70回/25mmのガラスヤーンとし、緯糸の織密度を110本/25mmとした以外は、実施例4と全く同一にして、本比較例のガラスクロスを得た。
【0063】
次に、本比較例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表2に示す。
【0064】
〔比較例2〕
本比較例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが3.9μm、短径DSyが3.5μm、円換算直径が3.7μmの扁平ガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本比較例のガラスクロスを得た。
【0065】
次に、本比較例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表2に示す。
【0066】
〔比較例3〕
本比較例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが4.4μm、短径DSyが2.2μm、円換算直径が3.1μmの扁平ガラスフィラメントが38本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本比較例のガラスクロスを得た。
【0067】
次に、本比較例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表2に示す。
【0068】
〔比較例4〕
本比較例では、まず、Eガラス繊維組成のガラスフィラメントを紡糸して経糸と緯糸とを得たときに、前記緯糸を長径DLyが4.6μm、短径DSyが2.8μm、円換算直径が3.6μmの扁平ガラスフィラメントが32本集束されてなり、撚数Tyが0.03回/25mmのガラスヤーンとした以外は、実施例4と全く同一にして、本比較例のガラスクロスを得た。
【0069】
次に、本比較例で得られたガラスクロスを用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の評価用プリプレグシートサンプルを得た。結果を表2に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1から、実施例1〜7のガラスクロスによれば、作業性・製造効率を向上させながら、厚さを10μm未満というように高度に薄型化したときにも、該ガラスクロスを含むプリプレグにおいてピンホールの発生が無いことが明らかである。
【0073】
一方、表2から、経糸と緯糸とが何れも扁平ガラスフィラメントではない比較例1のガラスクロスによれば、該ガラスクロスを含むプリプレグにおいてピンホールの発生は無いものの、該ガラスクロスの厚さを10μm未満とすることができない。
【0074】
また、緯糸が扁平ガラスフィラメントからなるものの、DL/DSの値が1.11であって異形比が低く、該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、撚数Tと、長径DLと、短径DSとが前記式(1)を満たさない比較例2のガラスクロスによれば、該ガラスクロスの厚さを10μm未満とすることができず、しかも該ガラスクロスを含むプリプレグにおいてピンホールが発生する。
【0075】
また、緯糸が扁平ガラスフィラメントからなるものの、DL/DSの値が2.00であって異形比が高く、該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、撚数Tと、長径DLと、短径DSとが前記式(1)を満たさない比較例3のガラスクロスによれば、該ガラスクロスを含むプリプレグにおいてピンホールの発生は無いものの、該扁平ガラスフィラメントの長径が厚さ方向に位置することがあり、該ガラスクロスの厚さを10μm未満とすることができない。
【0076】
また、緯糸が扁平ガラスフィラメントからなるものの、該扁平ガラスフィラメントの本数Fと、撚数Tと、長径DLと、短径DSとが前記式(1)を満たさない比較例4のガラスクロスによれば、該ガラスクロスの厚さは10μm未満とすることができるが、該ガラスクロスを含むプリプレグにおいてピンホールが発生する。
【要約】
本願発明は、3.0〜4.4μmの円換算直径を備えるガラスフィラメントが30〜44本集束されてなるガラスヤーンである経糸と緯糸とから構成され、該経糸と該緯糸との織密度が85〜125本/25mmであり、経糸と緯糸との少なくとも一方は扁平ガラスフィラメントから構成される扁平ガラスヤーンであり、その織密度が100本/25mm未満であり、扁平ガラスフィラメントの長径DLが3.3〜6.0μmであり、短径DSが2.0〜3.9μmであり、扁平ガラスヤーンの撚数Tが0.70回/25mm以下であり、扁平ガラスヤーンを構成する扁平ガラスフィラメントの本数Fと、撚数Tと、長径DLと、短径DSとが次式を満たすガラスクロスである。これにより、作業性・製造効率が向上し、薄型でもプリプレグにおけるピンホールの発生を抑制することができる。
89.0≦F×(DL×(1−T1/2)+DS×T1/2)/(DL/DS)≦129.0