(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874930
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】ドープされた炭素層を製造するためのコーティング源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20210510BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20210510BHJP
C04B 35/528 20060101ALI20210510BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20210510BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/32 A
C04B35/528
C01B32/05
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-548472(P2017-548472)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公表番号】特表2018-511699(P2018-511699A)
(43)【公表日】2018年4月26日
(86)【国際出願番号】EP2016000462
(87)【国際公開番号】WO2016146256
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2018年12月19日
(31)【優先権主張番号】GM70/2015
(32)【優先日】2015年3月19日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】515319954
【氏名又は名称】プランゼー コンポジット マテリアルズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】ポルチック、ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルレ、ザビーネ
(72)【発明者】
【氏名】ミラー、ウルリッヒ
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特表2002−544380(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/190943(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドープされた炭素層の物理蒸着用のコーティング源の製造方法であって、
前記コーティング源は、75モル%以上の割合を有するマトリックス材料としての炭素と、1モル%と25モル%との間の割合を有する少なくとも1つのドーパントとを含有し、前記ドーパントが、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びケイ素からなる群から選択された元素、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属窒化物、半金属窒化物、金属ホウ化物、半金属ホウ化物、金属ケイ化物又は半金属ケイ化物、のいずれかであり、前記ドーパントが炭素マトリックス中に粒子の形で細かく分散されて包埋され、前記コーティング源の組織が少なくとも2つの異なる結晶相を有し、その内の少なくとも1つの相がドーパントを含有し、前記コーティング源の密度が理論密度の80%よりも大きく、前記炭素マトリックスとして使われる炭素含有粉末の粒子及び前記ドーパントを含有するドーパント含有粉末の粒子の平均粒子径が50μmよりも小さいものであり、
・前記炭素含有粉末と前記ドーパント含有粉末とからなる粉末混合物を製造する工程と、
・前記粉末混合物を、5〜50MPaの圧力下において、1,300℃〜3,000℃までの温度で、直接通電での焼結により又は熱間圧縮により焼結して賦形体を得る工程と、
・前記焼結された賦形体を機械加工してコーティング源を得る工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記ドーパントが、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びケイ素からなる群から選択された元素、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル及びタングステンからなる群から選択された元素の酸化物、窒化物、ホウ化物若しくはケイ化物、又はケイ素の酸化物、窒化物若しくはホウ化物、のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記焼結された賦形体が、焼結プロセス後に、グラファイト化のために外部圧力を追加的に印加することなしに、2,000℃から3,000℃までの範囲の温度で、熱処理されることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ドープされた炭素層を製造するための物理蒸着用のコーティング源であって、
請求項1〜3項のいずれか1項に記載の前記粉末混合物から焼結により製造さ
れており、前記コーティング源が少なくとも75モル%の割合を有するマトリックス材料としての炭素と、1モル%と25モル%との間の割合を有する少なくとも1つのドーパントを含有し、前記ドーパントが、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びケイ素からなる群から選択された元素、半金属、金属酸化物、半金属酸化物、金属窒化物、半金属窒化物、金属ホウ化物、半金属ホウ化物、金属ケイ化物又は半金属ケイ化物、のいずれかであり、前記ドーパントが炭素マトリックス中に粒子の形で細かく分散されて包埋され、前記コーティング源の組織が少なくとも2つの異なる結晶相を有し、その内の少なくとも1つの相が前記ドーパントを含有し、前記コーティング源の密度が理論密度の80%よりも大きいコーティング源。
【請求項5】
前記ドーパントが、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステン及びケイ素からなる群から選択された元素、又はチタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル及びタングステンからなる群から選択された元素の酸化物、窒化物、ホウ化物若しくはケイ化物、又はケイ素の酸化物、窒化物若しくはホウ化物、のいずれかであることを特徴とする請求項4に記載のコーティング源。
【請求項6】
前記ドーパント含有粉末の粒子の平均間隔が50μmよりも小さいことを特徴とする請求項4又は5に記載のコーティング源。
【請求項7】
前記組織が配向性構造を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のコーティング源。
【請求項8】
ドープされた炭素層を蒸着するための請求項4〜6のいずれか1項に記載のコーティング源の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドープされた炭素層、特にドープされたアモルファス炭素層、の物理蒸着のためのコーティング源及びこの種のコーティング源の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファス炭素(アモルファス ダイヤモンド様炭素amorphous
diamond−
like
carbon、DLC)層は、グラファイト層(結晶構造とsp
2混成の炭素原子を有する。)及びダイヤモンド層(結晶構造とsp
3混成の炭素原子とを有する)とは違って、構造的にsp
2及びsp
3混成炭素原子のアモルファスネットワークからなる炭素含有層である。アモルファス炭素層は、水素を含まなくても又は水素を含んでいてもよく、かつ他の元素でドープされていてもよい。アモルファス炭素層の種々の層タイプがVDI2840(ドイツ技術者協会規格、炭素層、基本原則、層タイプ及び特性)において分類されている。
【0003】
グラファイト様構造及びダイヤモンド様構造の両方のおかげで、アモルファス炭素層の特性の多くは、グラファイトの特性とダイヤモンドの特性との中間に存在する。アモルファス炭素層は、ダイヤモンド様の硬度(90GPaまでの硬度)を特徴とし、これと同時に高い耐摩耗性、低い摩擦係数及び良好な層付着性を有する。それ故、これらの層は、とりわけトライボロジ用途に、例えば自動車部品のための摩擦を低減し耐摩耗性を有するコーティングとして、ますます使用が増加しつつある。更に、アモルファス炭素層は、抜群の生物学的な適合性を有する。
【0004】
これらの有利な特性は、さておき、熱的な安定性が不足していることが欠点である。というのは、アモルファス炭素層の乏しい耐酸化性により、使用温度が約350℃に限られるからである。
【0005】
アモルファス炭素層は、一般的には、2〜3ミクロンの層厚を有する薄層として、通常、化学蒸着法又は物理蒸着法により蒸着される。重要な化学蒸着法(CVD)としては、プラズマアシスト化学蒸着法(プラズマアシストCVD(PA−CVD)、プラズマ対応CVDとも称される。)を挙げることができる。このプラズマアシスト化学蒸着法では、外部の高周波交流電圧により、通常、生成されるプラズマによって、化学蒸着が支援される。
【0006】
アモルファス炭素層を製造するために最も広く用いられる物理蒸着法(PVD)は、マグネトロン陰極スパッタ法(マグネトロンスパッタ蒸着)と、アーク蒸発法(アークPVD、アーク蒸着とも称される。)である。マグネトロン陰極スパッタ法の場合には、チャンバ内において、プラズマによってイオン化された作動ガス(例えば、アルゴン又は炭素含有ガス)がコーティング材料から形成されたターゲットへ向けて加速され、それによりコーティング材料の粒子が追い出されて気相中に侵入し、その気相から被コーティング基材に蒸着する。スパッタ速度を高めてコーティング過程を加速するために、そのターゲットの活性表面近くに付加的な磁場が印加されている。アーク蒸発法の場合には、陰極として準備されたコーティング材料が陰極上を移動するアークによって局所的に溶融し、蒸発する。部分的にイオン化されたコーティング材料蒸気が、場合によっては付加的に印加された電圧により支援されて、陰極から広がり、被コーティング基材表面で凝縮する。グラファイト陰極のアーク蒸発によるアモルファス炭素層の製造は、グラファイトの導電率の温度依存性が強いせいで、非常に困難である。アークの可動性が限られていることによって、アークが局所的に一か所に留まったままになる所謂ピン止め効果がしばしば生じ、その結果、グラファイト陰極の均質な侵食が妨害される。
【0007】
CVD法に対するPVD法の利点は、PVD法においては、基材の熱応力が、CVD法におけるよりも一般的に少なく、従って相対的に温度に敏感な材料もPVD法によればコーティングできることである。反応ガスを使用する場合には、作動ガスとの化学反応は、PVD法の場合にも生じ得る。
【0008】
アモルファス炭素層の特性は様々であり、水素含有量の変化と適切なドーピングにより広範囲に調整することができる。一般的には、ドーピング材料(ドーパント)として、金属(例えば、タングステン、チタン又はバナジウムのような炭化物形成金属及び金、銅又は銀のような炭化物を形成しない金属)も、非金属元素(例えば、ケイ素、酸素、窒素、フッ素及びホウ素)も使用される。従って、例えば、ケイ素、チタン、クロム、タングステン又はモリブデンをドーピングすることにより、炭素層の熱的安定性、耐摩耗性及び摩擦係数に、影響を及ぼすことができ、そのドーパントの割合は、通常、25モル%(モルパーセント)未満である。
【0009】
現在、高品質のドープされたアモルファス炭素層の製造は,数多くの課題をかかえている。一つには,コーティングプロセスの複雑性が著しく増している。CVD法の場合には、所望のドーパントの化合物の付加的な蒸発(チタンドープされたアモルファス炭素層については、例えばTiCl
4の蒸発)によってドーピングが行なわれ、PVD法の場合には、グラファイトと元素ターゲット又は陰極(例えば、付加的なチタンコーティング源)との並行スパッタリング(コスパッタリング)によってドーピングが行なわれる。複数のコーティング源を使用する場合の大きな欠点は、形成された層の均質性が良好でない上に、達成される成長速度が一般に低いことである。ドープされた炭素層を製造する場合に、CVD法は、PDV法に比べて、例えばモリブデン又はタングステンのような多くの重要なドーパントが適切な液状化合物又はガス状化合物の中には存在しないという欠点を有する。これはPVD法に比べた欠点のうちの1つである。
【0010】
膜の均質性を改善するために、必要なコーティング材料を組み合わせて、複合材料からなる1つのターゲット又は1つの陰極とするという第1の方法がある(非特許文献1参照)。この非特許文献1においては、グラファイトからなる円筒形の陰極ターゲット(直径32mm)が使用され、その中にドーパントである銅からなる複数の棒体(直径6mm)が包埋されている(いわゆるプラグ陰極)。しかし、生成される層の品質は、工業的用途にとって十分に満足できるものではない。というのは、コーティング層に、蒸発したコーティング材料の組成の経時変化に起因する不均質性が生じるからである。更に、グラファイト領域と銅棒との間の異なる蒸発速度のせいで、陰極の侵食が不均質であり、陰極の寿命が短くなる。
【0011】
更に、グラファイトからなる多孔性の基体が、ドーパントの融解物により又はドーパントを含む気相を介して、浸入されるターゲットが知られている。浸入可能であるためには、グラファイト基体が開孔構造を持たなければならず、この理由から、浸入されたグラファイトターゲットでは、ドーパントの割合が規定の閾値を下回るようには選定することができない。ドーパント含有量を低く設定するために浸入を予定より早く終了させるならば、高い割合の細孔が残ったままになる。更なる欠点として、コーティングプロセスにおいて、ターゲット内のドーパントの連続するネットワークの故に、材料侵食の際に不均質性が生じることが挙げられる。
【0012】
グラファイト及びドーパントが1つのユニットに組み合わされているコーティング源の例が特許文献1に示されている。そのコーティング源の構造及びその製造方法に関した、例えば、プラグ陰極の形態であるか浸入されたターゲットの形態であるか等についての、詳しい説明が不足している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−60765公報
【0014】
【非特許文献1】Chausら、Surface,microstructure and optical properties of copper−doped diamond−like carbon coating deposited in pulsed cathodic arc plasma,Diamond & Related Materials 42(2014),p64−70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、複数のコーティング源を使用する場合に発生する上述の欠点が回避又は低減される、ドープされた炭素層、特にドープされたアモルファス炭素層、を製造するための物理蒸着用のコーティング源を提供することにある。そのコーティング源は、特に、蒸着された炭素層におけるできるだけ均質なドーパント分布を可能にしなければならない。しかも、アーク蒸発法において蒸発速度が局所的に増大するという傾向があってはならない。本発明の更なる課題は、この種のコーティング源のための製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、請求項1に規定したドープされた炭素層の物理蒸着用のコーティング源の製造方法と、請求項8に規定したコーティング源とによって達成される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0017】
本発明のドープされたコーティング源は、炭素含有粉末(又は炭素含有粉末混合物)とドーパント含有粉末(又はドーパント含有粉末混合物)とからなる粉末混合物を焼結することによって製造される。そのコーティング源は、少なくとも75モル%の物質量割合を有するマトリックス材料としての炭素と、1モル%〜25モル%の間、好ましくは1モル%〜20モル%の間、特に好ましくは2モル%〜10モル%の間、の範囲の物質量割合を有する少なくとも1つのドーパントとを含有する。この少なくとも1つのドーパントの物質量割合は、有利には、5モル%未満である。そのドーパントのほかに、コーティング源には、例えば硫黄のような、通常の製造に関連する不純物が存在してよく、不純物の量は、通常、1,000ppmよりも少ない。ドーパントは、コーティング源を使用して蒸着される炭素層を適切に変更するのに役立つ。
【0018】
ドーパントは、金属又は半金属であってよい。ドーパントは、金属又は半金属の酸化物、窒化物、ホウ化物又はケイ化物であってもよい。特に、ドーパントとしては、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステンの金属及び半金属であるケイ素を使用することができる。更に、ドーパントとしては、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、タングステンの金属の酸化物、窒化物、ホウ化物若しくはケイ化物、又は半金属であるケイ素の酸化物、窒化物、ホウ化物を使用することができる。
【0019】
ドーパントは、コーティング源において、実質的に変化されていない形で存在してよいし、焼結過程中にマトリックス材料である炭素と化学的に反応していてもてよい。ドーパントは、ドーパントの炭化物の形で、例えば金属炭化物又は半金属炭化物として、マトリックス材料中に取り込まれていてもよい。
【0020】
この出願において、ドーパントとは、場合によっては生じ得る不純物を除いて、炭素以外にコーティング源の中に存在する1つ若しくは複数の元素又は化合物のことである。従って、コーティング源がドーピング材料の炭化物からなる粉末を使用して製造されるか、又は焼結過程中にドーピング材料と炭素との間で化学反応が起きる場合には、本発明においてドーパントとはドーピング材料のことであり、ドーピング材料の炭化物のことではない。例えば、コーティング源が金属炭化物又は半金属炭化物からなる原料粉末から製造される場合には、本発明において、コーティング源のドーパントとは対応する金属又は半金属のことであり、金属炭化物又は半金属炭化物のことではない。同様のことが、製造過程で炭素と反応する金属粉末又は半金属粉末を使用する場合にも当てはまる。この場合にも、本発明において、ドーパントとは対応する金属又は半金属のことであって、金属又は半金属の炭化物のことではない。両コーティング源は、コーティングプロセスの際に、対応する金属又は半金属でドープされた炭素層をもたらす。
【0021】
しかし、コーティング源におけるドーピングは、コーティング源により蒸着された炭素層におけるドーピングと同じであってよいが、しかし必ずしも同じである必要はない。コーティングプロセスにおける種々の過程、例えばプロセスガスとの化学反応に起因して、蒸着されドープされた炭素層の化学的組成又は蒸着された炭素層におけるドーピング材料と炭素との割合は、コーティング源におけるドーピングのそれとは異なる。
【0022】
コーティング源とは、特に、マグネトロン陰極スパッタ法の場合におけるターゲット又はアーク蒸発法の場合における陰極のことである。
【0023】
それ故、本発明の基本的な概念は、ドーパントが粒子の形で炭素マトリックス中に細かく分散されて包埋されることにある。これは、コーティング源を粉末状の成分から焼結により製造することによって達成される。従って、炭素(グラファイト)とドーパントとが、従来技術の場合のように別々のコーティング源中に存在しているのではないし、或いは、例えば、プラグ陰極の場合や浸入によって製造されたコーティング源の場合のように、1つのコーティング源中に巨視的に見て互いに分離された領域に存在しているのでもない。本発明のドープされたコーティング源は、製造を簡単にし、それが蒸着されドープされた炭素層の品質を著しく高める。ほぼ均質にドープされた膜を得るために、従来のコーティング源(グラファイトと、ドーパントターゲット又はドーパント陰極とが分離されている)の場合には、それぞれ別個のコーティング源の操作パラメータを別々に監視しなければならないのに対して、本発明の場合には、炭素及びドーパントが同一のコーティング源から蒸発又はスパッタされる。従って、単一のコーティング源の操作パラメータだけを調節すればよい。マトリックス材料とドーパントとの蒸発速度比は、おおむね時間に依存しない。更に、蒸発させられた材料の組成は、概ね、場所依存性がなく、コーティングすべき基材表面上で、場所によって変化することが殆どない。従って、従来技術において、特に大面積の基材のコーティングの際に生じる問題、即ち、グラファイト及びドーパントからなるコーティング源が異なる場所に配置されており、個々のコーティング源から発生する元素がコーティングすべき基材面に均一に蒸着されないという問題、を回避することができる。
【0024】
他の利点は、アーク蒸発法の場合に陰極として形成されたコーティング源の侵食が均一に進行することにある。ドーパント含有粒子は、陰極組織内で干渉要素として作用し、陰極表面上におけるアークの走行特性に有利な影響を及ぼす。それによって、アークは頻繁に遮断されて、他の個所で新たに点弧される。アークの改善された走行特性によって蒸着層の品質も改善される。本発明による陰極では、ピン止め効果の発生は稀であり、それによって非常に目立つ局所的な溶融は、純粋なグラファイト陰極の場合よりも少なく、斑点(溶滴)の形の蒸着発生が減少する。
【0025】
コーティング源の組織が、少なくとも2つの異なる結晶相を有し、その内の少なくとも1つの相がドーパントを含有するとよい。従って、ドーパント含有粒子は、マトリックス材料である炭素の相内で固有の結晶相を形成することができる。ドーパントは、炭素と化学的に反応することができ又は炭素と反応していない形で存在することができる。本発明において、ドーパント含有粒子という用語は、ドーパントが炭素と反応した形で存在する粒子のことを意味するだけでなく、ドーパントが炭素と反応していない形で存在する粒子のことも意味する。
【0026】
好ましい実施形態において、ドーパント含有粒子の平均粒子径は、50μmよりも小さく、特に20μmよりも小さい。ドーパント含有粒子は、巨視的には(mm範囲の長さスケールでは)コーティング源の組織内に均一に分布している。ドーパント含有粒子の平均間隔は、好ましくは50μmよりも小さく、特に20μmよりも小さい。炭素マトリックス内でのドーパントの小さいサイズ及び細かい分布によって、蒸発又はスパッタされるコーティング材料の組成が非常に均質かつ時間経過に拘わらず一定となり、それによって非常に均一に分布したドーパントを有する炭素層を蒸着することができる。
【0027】
ドーパント含有粒子の分布、平均粒子径及び平均間隔は、当技術分野において知られているように、試料の検鏡用薄切片に基づいて決定することができる。その際に得られた表面は、樹脂中に包埋され、研削され、研磨され、そして走査型電子顕微鏡(又はそれに代えて光学顕微鏡)により検査されて定量的に評価される。ドーパント含有粒子の均一な分布という用語は、試料の検鏡用薄切片を走査型電子顕微鏡により観察して、複数の異なる代表的な画像区域内のドーパント含有粒子の個数を計数する場合に、画像区域あたりのドーパント含有粒子の個数の頻度分布のばらつきが少ないことを意味する。例えば、画像区域の大きさとして、ドーパント含有粒子の平均粒子径の約25倍という長さを有する正方形を選び、一連の10個の異なる画像区域において、それぞれ画像区域ごとに、当該画像区域内に完全に存在するドーパント含有粒子の個数を求める場合に、個々の画像区域においてドーパント含有粒子の個数は、画像区域あたりのドーパント含有粒子の平均個数(10個の画像区域から求められた平均個数)の3倍よりも多く偏ることはない。
【0028】
本発明によるコーティング源は、ターゲットの形で又は陰極として、ドープされた炭素層、特にドープされたアモルファス炭素層、を物理蒸着するために使用される。コーティングプロセスでは、アセチレン又はメタンのような炭素含有プロセスガスが好ましく使用される。
【0029】
本発明は、上述のコーティング源の製造方法にも関する。この種のコーティング源を製造するために、出発材料として、炭素含有粉末と所望のドーパントを有する粉末とからなる粉末混合物が使用される。炭素含有粉末として、天然又は合成のグラファイト、コークス、アモルファス炭素又はカーボンブラックからなる粉末又は粉末混合物が使用される。グラファイト、コークス及びカーボンブラックは、グラファイトの結晶構造を有するが、個々の微結晶の精度及び大きさが異なっている。ドーパント含有粉末という用語は、ドーパントを有する粉末混合物、特にドーパントの炭化物からなる粉末又は粉末混合物も包含する。金属又は半金属でドープされた炭素層の蒸着用のコーティング源を製造するために、対応する金属又は半金属の粉末が使用される。しかし、対応する金属又は半金属の炭化物の粉末も使用できる。この種の炭化物粉末から製造されたコーティング源は、コーティングプロセスの際に対応する金属又は半金属でドープされた炭素層をも生じる。複数のドーパントを有する炭素層の蒸着のためのコーティング源が必要とされる場合には、粉末混合物が複数のドーパントの成分を有するとよい。
【0030】
原料粉末は、乾式又は湿式で粉砕されて、混合チャンバ内で強く混合されるとよい。粉砕過程は、粉砕媒体を導入して行うとよく、それにより粒子の塊及び集合体が細かく粉砕されて混合成分の均質な分布が達成され、かつ混合過程が加速される。得られる粉末混合物の粒子の平均サイズは、直径が50μmよりも小さいことが好ましい。炭素含有粉末及び/又はドーパント含有粉末の粒子の平均サイズは、直径が50μmよりも小さいことが好ましく、それによってコーティング源において非常に均質なドーパント分布を達成することができる。ドーパントと炭素含有粉末との適切な混合比が設定され、それによって焼結プロセス後に、少なくとも75モル%の割合の炭素と、1モル%と25モル%との間、特に1モル%と20モル%との間、の割合の少なくとも1つのドーパントとを含んだ賦形体が得られる。
【0031】
粉砕処理後に粉末混合物が成形工具、例えばグラファイト型の中に導入され、適切な雰囲気中で1,300℃から3,000℃までの温度で焼結される。焼結プロセスは、特に、不活性又は還元性の雰囲気内又は真空内で行なわれる。
【0032】
焼結プロセスは圧力支援下で行なわれることが好ましい。即ち、焼結は、少なくとも1MPa、好ましくは5〜50MPa、の機械的圧力を印加して粉末混合物を圧縮することにより行なわれるとよい。機械的圧力は、加熱下に段階的に高めて、一定時間維持するのが有利である。コーティング源のための有利で特に経済的な焼結方法は、高速の熱間圧縮法、例えば加熱導体を介して加熱される熱間圧縮若しくは誘導加熱される熱間圧縮、又は直接通電による焼結法(例えばスパークプラズマ焼結)である。直接通電での焼結の場合には、粉末を通して導かれる電流の流れによって熱が内部で生成されるのに対して、熱間圧縮の場合には熱が外部から供給される。この方法の特徴は、大きな加熱速度及び冷却速度及び短い処理時間にある。それにより、特に、理論密度の80%以上、好ましくは90%以上、の高い密度を有する賦形体が得られる。粉末混合物が焼結操作中に単軸方向に圧縮されるならば、組織が圧縮方向に対して垂直な方向に整列した配向構造を有する賦形体が生じ、従って組織が好ましい方向性を有する。
【0033】
所望ならば、焼結された賦形体を、焼結後にグラファイト化のために、2,000℃から3,000℃までの範囲の温度で、外部圧力を追加的に印加することなしに、熱処理してもよい。この高温処理によって、グラファイト微結晶の大きさ及び割合が増加し、更に賦形体の熱伝導率及び導電率が改善される。それと同時に、(所望のドーパントは別として)存在し得る不純物が蒸発することから、賦形体がより純粋になる。
【0034】
最後に、焼結された賦形体は、機械的に、例えば切削工具によって、コーティング源の所望の最終形状に加工される。
【0035】
本発明によるドープされたグラファイトコーティング源の製造は、純粋なグラファイトコーティング源の製造に比べて重要な利点を有する。純粋な炭素(グラファイト)は、炭素粉末の凝集のために付加的な結合剤マトリックスが必要であることから、簡単には焼結できない。このために、一般的には、高炭素含有量の樹脂又はポリマーが使用され、これらの樹脂又はポリマーが熱処理工程で炭素に転換される。ドープされた炭素コーティング源を製造する際には、ドーパントの添加によって、焼結過程が、ドーパントと炭素との反応によって、部分的に支援される。更に、賦形体の高密度化が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】円形プレス粗材から切り取った検鏡用薄切片の組織を走査型電子顕微鏡によって撮影した画像である。
【
図2】
図1に枠で囲んで示した試料範囲においてエネルギー分散X線分光法(EDX)により求めた元素分布を示す図である。
【
図3】エネルギー(KeV)の関数として示した計数パルスの個数を示す図である。
【
図4】ケイ素−ドープターゲットの変形例の検鏡用薄切片の組織を走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下において、3つの実施例及びそれらに付随する図に基づいて本発明を更に詳細に説明する。実施例1は、半金属であるケイ素でドープされたコーティング源の複数の変形例に関連し、実施例2は、金属であるチタンでドープされたコーティング源に関連し、実施例3は、化合物である二ホウ化クロムでドープされたコーティング源に関連する。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
実施例1として、75mmの直径と5mmの厚さを有する円形プレス粗材の形状をしたターゲットを、グラファイト(C)とケイ素(Si)とからなる粉末混合物から製造した。出発原料としては、混合比が10/90モル%であるSi粉末及びC粉末(約10μmの平均粒子径d50)からなる混合物約1.5kgを使用し、この混合物を、5Lのイソプロパノール及び5kgの窒化ケイ素からなる粉砕媒体を加えて4時間、ポットローラー内で湿式粉砕した。粉砕媒体の分離後に、粉末バッチを約100℃でアルコール蒸発によって乾燥させ、続いて1mmの網目サイズを有するふるい装置において分別した。それによって生じたSi/C粉末バッチの化学分析によって、10モル%のSi比率と90モル%の炭素含有量が示された。続いて、その粉末混合物を、スパークプラズマ焼結装置(SPS装置)において、グラファイトのプレス工具を用いて30MPaの圧縮圧で圧縮し、直接通電により、2,100℃の温度で焼結することにより、85mmの直径と8mmの厚さを有する円形プレス粗材を得た。2,100℃の焼結温度において、材料の理論密度の88%に相当する1.90g/cm
3の密度が得られた。焼結された円形プレス粗材は、切削加工によって、75mmの直径と5mmの厚さを有するターゲットに最終加工された。
【0039】
追加の変形例(CとSiとの粉末混合比:90/10モル%)を1,500℃及び1,800℃の焼結温度で製造した。1,500℃の場合には1.77g/cm
3の密度(理論密度の83%)が得られ、1,800℃の場合には1.78g/cm
3の密度(理論密度の83%)が得られた。
【0040】
焼結された円形プレス粗材を解析するために、その円形プレス粗材から試料を切り取って、検鏡用薄切片において走査型電子顕微鏡及びX線位相解析法により解析した。
【0041】
図1に、約2,100℃で焼結された円形プレス粗材から切り取った検鏡用薄切片の組織を走査型電子顕微鏡によって撮影した画像を示す(画像区域の大きさは約115μm×90μmであり、スケールバーは20μmに相当する)。その撮影画像において組織の細粒かつ均質な構造を認識することができる。更に、気孔率が非常に小さく組織の密度が高いことを認識することができる。この図において組織の配向性構造は認識できない。というのは、検鏡用薄切片の平面が、プレス方向に対して、従って組織の配向に対しても、垂直な方向に向いているからである。
図2は、
図1に枠で囲んで示した試料範囲においてエネルギー分散X線分光法(EDX)により求めた元素分布を示し、Siは明るく、Cは暗く示されている。EDX解析(
図3に、計数パルスの個数を、エネルギー(KeV)の関数として示す。)から、円形プレス粗材が本質的に元素Si及び元素Cのみから構成されていることが判る。Si含有粒子の粒子径の測定から、平均直径が10μmよりも小さいことが分かった。これら粒子の平均間隔は20μmよりも小さい。Si含有粒子はコーティング源の組織内で均一に分布している。
【0042】
試料のX線ディフラクトグラム(XRD)は、ドーパントであるケイ素が、炭化ケイ素の形でのみ、つまり炭素と反応した形でのみ、存在することを示した。これは、焼結過程中に起きたケイ素と炭素との間の化学反応を示す。それ故、組織内には2つの異なる結晶相、即ち、C相と炭化ケイ素相とが存在する。
【0043】
図4は、5モル%のSi比率と95モル%の炭素含有量を有するケイ素−ドープターゲットの変形例の検鏡用薄切片の組織を走査型電子顕微鏡により撮影した画像を示す。ターゲットは、C/Si粉末の対応する混合比を有する上述の変形例と同様に、SPS装置において1,500℃の焼結温度で製造した(スケールバーは10μmに相当する)。その組織内では、焼結操作中のプレス過程に起因するものと見なせる配向性構造が明らかに認識できる。
【0044】
ケイ素でドープされたターゲットのこれらの変形例は、ケイ素でドープされた炭素層、特にケイ素でドープされたアモルファス炭素層、の蒸着に役立つ。所望の層の蒸着は、最初に説明したターゲット変形例に基づいて実証された。90/10モル%の原材料CSiからなり2,100℃で焼結された円形プレス粗材(直径75mm、厚さ5mm)を、75mmの直径と3mmの厚さを有する銅製のバッキングプレートの上に、インジウムにより、全面にロウ付けした。このようにして得たターゲットを、PVD装置において、超硬合金からなる基材のDCスパッタプロセスによるコーティングのために、使用した。その際に、そのターゲットは、200ワット(500V及び0.4A)、300ワット(550V及び0.55A)及び400ワット(570V及び0.7A)の出力において、プラズマの点弧及び安定性に関して安定な挙動を示した。超硬合金からなる基材上に蒸着された層において、ケイ素及び炭素が検出された。
【0045】
(実施例2)
実施例2においては、チタンでドープされた炭素層を蒸着するための、チタンでドープされたコーティング源を製造した。75mmの直径と5mmの厚さを有する円形プレス粗材の形をしたターゲットのための出発材料として、Ti粉末とC粉末からなり混合比が10/90モル%である約1.5kgの混合物(約10μmの平均粒子径d50)を使用し、その混合物を、5Lのイソプロピル及び5kgのケイ素窒化物からなる粉砕媒体を加えて4時間ポットローラー内で湿式粉砕した。個々の製造工程は実施例1における製造工程と同様であり、乾燥させた粉末混合物を30MPaのプレス圧と2,100℃の温度において直接通電法で焼結し、続いて機械加工した。焼結された試料の検鏡用薄切片について実施したXRD検査により、チタンが、炭素との反応の結果、組織内において炭化チタンの形でのみ存在することが示された。
【0046】
(実施例3)
実施例3においては、二ホウ化クロムでドープされた炭素層の物理蒸着用のターゲットを製造した。その製造工程は、前の実施例における製造工程と同様である。75mmの直径と5mmの厚さを有する円形プレス粗材の形をしたターゲットのための出発材料として、二ホウ化クロム粉末及びC粉末からなり混合比が10/90モル%である1.5kgの混合物(10μmの平均粒子径d50)を使用し、その混合物を5Lのイソプロピル及び5kgのケイ素窒化物からなる粉砕媒体とを加えて4時間ポットローラー内で湿式粉砕した。乾燥した粉末混合物を、30MPaのプレス圧と2,100℃の温度で焼結して85mmの直径と8mmの厚さを有する円形プレス粗材を得、続いて機械的に後処理した。焼結された試料の検鏡用薄切片について実施されたXRD検査により、ドーパントが炭素と反応していない形で存在することが示された。