特許第6874945号(P6874945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874945
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】走行装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/025 20120101AFI20210510BHJP
   B66C 9/08 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   F16H57/025
   B66C9/08
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-44928(P2018-44928)
(22)【出願日】2018年3月13日
(65)【公開番号】特開2019-157985(P2019-157985A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】518126144
【氏名又は名称】株式会社三井E&Sマシナリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 正信
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−19579(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0085262(KR,A)
【文献】 国際公開第2012/028770(WO,A1)
【文献】 特開2013−92173(JP,A)
【文献】 実開平3−17425(JP,U)
【文献】 実開昭60−30182(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/025
B66C 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
進行方向に並んで配置されて互いに同一方向に回転する複数の車輪と、それぞれの車輪に挿通された状態で前記車輪から一端部が突出してなる複数の車軸と、それぞれの前記車軸の一端部に接続された複数の回転体と、を備えて、前記回転体が前記車軸に駆動力及び制動力のうちの少なくとも一方を付与する構成とした走行装置において、
面垂直方向が前記車軸の軸方向を向いた板で構成された連結部材を備えて、前記連結部材は、前記複数の回転体の各々の、前記車軸の軸方向の両端部のうちのどちらか一端部に接合されてそれら複数の回転体を連結し、前記連結部材の前記複数の回転体どうしの間の領域が、前記複数の車軸の変位による前記複数の回転体の各々の変位に合わせて変形自在であることを特徴とする走行装置。
【請求項2】
前記連結部材が1枚の金属板で構成される請求項1に記載の走行装置。
【請求項3】
前記連結部材が、前記車軸の軸方向に見て、その連結部材の外縁よりも内側に、前記複数の車軸の各々が収まる形状を成す請求項1または2に記載の走行装置。
【請求項4】
前記連結部材が、前記車軸の軸方向に見て、その連結部材の外縁よりも内側に、前記複数の回転体の各々の前記一端部が収まる形状を成す請求項1〜3のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項5】
前記連結部材が、前記車軸の軸方向に見て、凸多角形状、又は、オーバル形状を成す請求項1〜4のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項6】
前記回転体と前記連結部材とが、着脱可能な複数の接合部材によって接合されており、前記複数の接合部材が、前記車軸の軸方向に見て、それぞれの前記車軸の軸心を中心とする円上に等間隔に配置された請求項1〜5のいずれか1項に記載の走行装置。
【請求項7】
前記一端部が、前記複数の回転体の各々の前記車輪の反対側に向いた端面である請求項1〜6のいずれか1項に記載の走行装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岸壁クレーンなどの荷役機器の走行装置に関し、より詳細には、車軸に直接的に取付けられたブレーキ装置や減速機などの車軸の軸周りにトルクが伝達する回転体を回り止めして、その回転体を正常に動作させる走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
岸壁クレーン(コンテナクレーンやアンローダ)等の荷役機器には、荷役機器を走行させるための走行装置が備えられている。この走行装置に関して、隣り合うギヤモータの筐体や減速機などの車軸の軸回りにトルクが伝達する回転体のそれぞれにトルクアームを取り付け、取り付けたトルクアームどうしをボルトで共締めし、回転体のそれぞれの回転反力を打ち消し合うことでトルクアームの回転を制限するものが知られている(例えば、特許文献1の段落〔0004〕参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−134220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、岸壁クレーンの走行装置では、設置スペースの関係で、ブレーキ装置を車軸に直接取り付けることが多用されている。しかし、ブレーキ装置を車軸に直接取り付けると、輪重による車軸の弾性変形によりブレーキ装置の軸心がずれるという問題があり、ブレーキ装置の軸心がずれると、ブレーキ装置内のベアリングや車軸を軸受する軸受部(ベアリングハウジング)に過負荷がかかり好ましくない。また、ブレーキ装置が湿式多板式ディスクブレーキの場合には、ブレーキ装置のハウジングに対して車軸(ブレーキ軸)の軸心が相対的にずれると、ブレーキロータとブレーキパッドとがずれてブレーキロータに対してブレーキパッドが正常に押し当てられていない状態となる。そのため、従来では特許文献1に記載のギアモータの筐体に取付けられるトルクアームのように、ブレーキ装置にトルクアームを取り付けて、ブレーキ装置の軸心のずれを解消していた。
【0005】
但し、トルクアームには、車軸の弾性変形による過剰な荷重が掛かるため、車軸の弾性変形によってトルクアームにかかる荷重を低減するために、トルクアームやトルクアームと回転体との接合部分にある程度のガタ(トルクアームが車軸の軸方向に余分に動ける緩みやすき間)を設ける必要がある。そのため、特許文献1に記載の駆動装置では、第1アーム部材及び第2アーム部材の両方をブラケットに遊嵌させることで、ある程度のガタを設けている(例えば、特許文献1の図2参照)。しかし、このガタによってフレッティング摩耗が生じることから、耐久性の低下の要因となっていた。
【0006】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、輪重が重い場合にも耐久性を向上しつつ、車軸に直接的に取り付けられた回転体を回り止めして、その回転体を正常に動作させることができる走行装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記のような目的を達成するための本発明の走行装置は、進行方向に並んで配置されて互いに同一方向に回転する複数の車輪と、それぞれの車輪に挿通された状態で前記車輪から一端部が突出してなる複数の車軸と、それぞれの前記車軸の一端部に接続された複数の回転体と、を備えて、前記回転体が前記車軸に駆動力及び制動力のうちの少なくとも一方を付与する構成とした走行装置において、面垂直方向が前記車軸の軸方向を向いた板で構成された連結部材を備えて、前記連結部材は、前記複数の回転体の各々の、前記車軸の軸方向の両端部のうちのどちらか一端部に接合されてそれら複数の回転体を連結し、前記連結部材の前記複数の回転体どうしの間の領域が、前記複数の車軸の変位による前記複数の回転体の各々の変位に合わせて変形自在であることを特徴とする。回転体は、車軸に駆動力及び制動力のうちの少なくとも一方を付与する装置であり、回転体としては、ブレーキ装置や、減速機及びモータで構成される駆動装置、ブレーキ装置、減速機、及びモータで構成されるブレーキ付き駆動装置が例示される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、面垂直方向が車軸の軸方向を向いた板で構成された連結部材によって複数の回転体の各々の、車軸の軸方向の一端部どうしを連結することで、連結部材が回転体を除く荷役機器の構造体と非接触な状態で、複数の回転体から連結部材に伝達される車軸の回転方向の荷重どうしを連結部材の複数の回転体どうしの間の領域で反対方向に作用させて打ち消し合わせることができる。それ故、連結部材により各々の回転体を回り止めして、各々の回転体を正常に動作させることができる。さらに、連結部材の複数の回転体どうしの間の領域が、複数の車軸の変位による複数の回転体の各々の変位に合わせて変形自在であることで、ガタを設けることなく、連結部材によって複数の車軸の変位(弾性変形等)による複数の回転体の各々の変位を吸収することができる。これにより、ガタを設けることによるフレッティング摩耗の発生を回避して、走行装置の耐久性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の走行装置の実施形態を側面視で模式的に例示する説明図である。
図2図1のA矢視図である。
図3図1のB矢視図である。
図4図1の走行装置の車軸の弾性変形に伴なって連結部材が変形している状態を正面視で模式的に例示する説明図である。
図5図1の走行装置の車軸の弾性変形に伴なって連結部材が変形している状態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図6図1の走行装置の2つの回転体から連結部材に伝達される車軸の回転方向の荷重(モーメント)を模式的に例示する説明図である。
図7図1のC矢視図である。
図8】本発明の走行装置の別の実施形態を平面視で模式的に例示する説明図である。
図9】3つの回転体を連結する連結部材が受ける回転方向の荷重を模式的に例示する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の走行装置を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0011】
図1に示すように、本発明の走行装置1は、荷役機器20に搭載される。本願図中のX方向は荷役機器20の進行方向を、Y方向はX方向と水平方向において直交する車軸3の軸方向を、Z方向は上下方向(鉛直方向)を示している。
【0012】
荷役機器20としては、レールマウント式のクレーンが例示され、走行装置1は、荷役機器20の下端に設置されて、レールR上で車輪2を転動させて荷役機器20を走行させる装置が例示される。図1の左側の走行装置1は駆動装置5を備えた駆動型の走行装置1で構成されていて、図1の右側の走行装置1は駆動装置5を有しない従動型の走行装置1で構成されている。以下では、はじめに駆動型の走行装置1について説明し、後に従動型の走行装置1について説明する。
【0013】
図2および図3に示すように、本発明に係る実施形態の走行装置1は、車輪2と、車軸3と、駆動装置5と、回転体としてブレーキ装置8とを有して構成されたユニットを複数備えている。回転体は、車軸2に駆動力及び制動力のうちの少なくとも一方を付与する装置であり、回転体としては、ブレーキ装置8や、減速機及びモータで構成される駆動装置、ブレーキ装置、減速機、及びモータで構成されるブレーキ付き駆動装置が例示される。この実施形態では、回転体がブレーキ装置8である場合を例示する。
【0014】
車輪2は、荷役機器20のX方向に並んで配置されて互いに同一方向に回転する。この実施形態の車輪2は、レールR上を走行する金属製の車輪で構成されているが、車輪2は地面を走行するゴムタイヤ等で構成することもできる。
【0015】
車軸3は、車輪2にY方向に挿通された状態で車輪2から両端部が突出してなる。車軸3は、その両端部がイコライザ22にボギーピン23を介して回転可能に連結されたボギー24の軸受部4(ベアリングハウジング)に軸支されると共に、その軸受部4からY方向に両端部が突出している。車軸3の軸受部4から突出した両端部のうちの一端部には駆動装置5が接続されており、他端部にはブレーキ装置8が接続されている。
【0016】
駆動装置5は、モータ6と、モータ6の回転を車軸3に伝達する減速機7とで構成されている。駆動装置5は、固定部材(トルクアーム)13を介して構造体21に対して車軸3の軸回りに回転しないように固定されている。
【0017】
この実施形態では、それぞれの車軸3にそれぞれ1つずつ駆動装置5が設けられているが、複数の車軸3を共通した駆動装置5で回転駆動させる構成にすることもできる。駆動装置5は、車軸3に駆動力を付与して車軸3を回転させることができればよい。駆動装置5としては、モータ6をエンジンで構成することもでき、減速機7を変速機で構成することもできる。
【0018】
この実施形態のブレーキ装置8は、湿式多板式ディスクブレーキで構成されている。ブレーキ装置8は、車軸3に制動力を付与して車軸3の回転を止めることができればよい。ブレーキ装置8としては、他にも例えば、乾式ディスクブレーキやバンドブレーキ、磁気粘性流体ブレーキ(MR流体ブレーキ)等を採用することもできる。
【0019】
このブレーキ装置8は、車軸3の一端部(ブレーキ軸9)に接合されたディスク状のブレーキロータと、ブレーキロータに押し付けられるブレーキパッドと、ブレーキロータにブレーキパッドを押し付けるブレーキキャリパとを有して構成されている。
【0020】
この実施形態の走行装置1では、1つのボギー24に対して、車輪2、車軸3、軸受部4、駆動装置5、およびブレーキ装置8を有するユニットがX方向に離間して2セットずつ設置されている。そして、同じボギー24に設けられて、X方向に隣り合う2つのブレーキ装置8の各々のY方向の一端部どうしが、1つの連結部材11によって連結されている。
【0021】
連結部材11は、面垂直方向(板面に対して垂直な方向)がY方向を向いた板で構成されている。連結部材11は、複数のブレーキ装置8(回転体)の各々の、Y方向の両端部のうちのどちらか一端部に接合されてそれら複数のブレーキ装置8を連結する。各々のブレーキ装置8の一端部と連結部材11は、例えば、複数の着脱可能な接合部材12によって互いに当接した状態で接合される。接合部材12としては、ボルトおよびナットや、ネジ、ビス等が例示できる。
【0022】
この実施形態では、2つのブレーキ装置8の各々の車輪2の反対側に向いた端面に連結部材11が接合されている。連結部材11は、ブレーキ装置8を除く荷役機器20の構造体21(イコライザ22のハウジングやボギー24のハウジング24a等)と非接触な状態でブレーキ装置8以外には接合されていない。この走行装置1では、連結部材11によって複数のブレーキ装置8どうしが連結されることで、それぞれのブレーキ装置8の構造体21(ハウジング24a)に対する回転が防止される構成となっている。
【0023】
図1に例示するように、この実施形態の連結部材11は、Y方向に見て、外縁よりも内側に複数のブレーキ装置8の各々が収まる形状を成している。即ち、Y方向に見て、複数の車軸3(ブレーキ軸9)の各々も連結部材11の外縁よりも内側に収まった状態となっている。さらに、連結部材11の複数のブレーキ装置8どうしの間の領域は、それぞれの車軸3の変位によるそれぞれのブレーキ装置8の各々の変位に合わせて変形自在な構成となっている。
【0024】
連結部材11のブレーキ装置8の各々の変位に合わせて変形自在な構成は、図4に例示するように、X方向に見て、車軸3がZ方向上方に向って凸に反った場合に、車軸3の反りに伴うブレーキ装置8の傾きに追従して、連結部材11が傾き自在な構成である。具体的に、連結部材11は、ブレーキ装置8のY方向外側の一端部に接合された部位が、Z方向に対して傾いている。なお、車軸3の反りは、車軸3のY方向中途位置がY方向両端部に対して荷役機器20の自重を受けた車輪2によりZ方向上方に歪むことで生じる。
【0025】
また、連結部材11のブレーキ装置8の変位に合わせて変形自在な構成は、図5に例示するように、Z方向に見て、複数の車軸3のそれぞれの上述した反りの大きさが相対的に異なる場合に、車軸3の反りに伴うそれぞれのブレーキ装置8のY方向の相対的な変位に応じて、連結部材11のブレーキ装置8どうしの間の部位(領域)がY方向やねじれ方向に屈曲あるいは湾曲自在な構成である。具体的に、連結部材11は、Y方向中途位置で屈曲して、反りが小さい車軸3に接合されたブレーキ装置8に接合された部位と、反りが大きい車軸3に接合されたブレーキ装置8に接合された部位とが、Y方向にずれている。
【0026】
より詳しくは、この実施形態の連結部材11は、1枚の金属板で構成されている。図1に例示するように、この連結部材11は、Y方向に見て、長方形と2つの半円を組み合わせた角丸長方形形状に形成されている。各々のブレーキ装置8の一端部(端面)と連結部材11は、複数のボルト12aおよびナット12bによって摩擦接合されている。
【0027】
複数の接合部材12(ボルト12aおよびナット12b)は、Y方向に見て、それぞれの車軸3の軸心を中心とする円上に等間隔に配置されている。即ち、接合部材12による連結部材11とブレーキ装置8との接合位置(ボルト12aの締め付け位置)は、ブレーキ装置8の一端部の周方向に等間隔に配置されている。
【0028】
連結部材11の形状やサイズは特に限定されず、ブレーキ装置8の形状やサイズなどに応じて適宜決定できるが、この実施形態のように、連結部材11は、Y方向に見て、凸多角形状又はオーバル形状を成す構成が望ましい。本明細書において、オーバル形状とは、卵形状、長円形状、楕円形状、角丸長方形などの外側から内側に向って窪んでなる窪みが外縁に無い形状を示す。また、凸多角形状には角に丸みが形成された形状も含むものとする。
【0029】
連結部材11は、金属に限らず樹脂などの様々な素材で形成することができるが、ステンレス鋼や鉄鋼などのように柔軟性と耐久性を兼ね備えた金属で形成することが望ましい。連結部材11の厚さは適宜決定できるが、複数のブレーキ装置8どうしの間の領域が、変形自在な厚さに設定する。
【0030】
連結部材11は複数の板を組み合わせて形成することもできるが、製造コストや耐久性を考慮すると1枚の板で構成することが好ましい。連結部材11を複数の板で形成する場合には、隣り合う板の一部分どうしをY方向に積層させた状態で、板どうしを金具や接着剤、溶接等で接合するとよい。連結部材11とブレーキ装置8との接合方法は接合部材12による接合に限定されず、連結部材11とブレーキ装置8とを接着材や溶接等によって接合することもできる。
【0031】
このように、本発明の走行装置1によれば、面垂直方向がY方向を向いた板で構成された連結部材11によって複数のブレーキ装置8(回転体)の各々の、Y方向の一端部どうしを連結することで、連結部材11がブレーキ装置8を除く荷役機器20の構造体21と非接触な状態で、図6に例示するように、複数のブレーキ装置8から連結部材11に伝達される車軸3の回転方向の荷重Mどうしを連結部材11の複数のブレーキ装置8どうしの間の領域で反対方向に作用させて打ち消し合わせることができる。それ故、連結部材11により各々のブレーキ装置8を回り止めして、各々のブレーキ装置8を正常に動作させることができる。各々のブレーキ装置8から連結部材11に伝達される車軸3の回転方向の荷重Mは、連結部材11のブレーキ装置8どうしの間の領域で反対方向に作用されて相殺されるので、連結部材11に大きな負荷がかかることもない。
【0032】
さらに、本発明では、連結部材11の複数のブレーキ装置8どうしの間の領域が、複数の車軸3の変位による複数のブレーキ装置8の各々の変位に合わせて変形自在であることで、ガタを設けることなく、連結部材11によって複数の車軸3の変位(弾性変形等)による複数のブレーキ装置8の各々の変位を吸収することができる。これにより、ガタを設けることによるフレッティング摩耗の発生を回避して、走行装置1の耐久性の向上を図ることができる。
【0033】
また、連結部材11がそれぞれのブレーキ装置8との接合を維持しつつ変形して、各々のブレーキ装置8の変位を吸収することで、連結部材11によって連結された複数のブレーキ装置8はそれぞれ、車軸3の変位に追従して変位することが可能となる。それ故、輪重により車軸3が弾性変形する場合にも、ブレーキ装置8やベアリング10にかかる負荷荷重を小さくでき、ブレーキ装置8における軸心のずれを抑制するにも有利になる。また、本発明では走行装置1の構造を簡素化することができるので、荷役機器20の設計の自由度が高くなるというメリットもある。
【0034】
さらに、本発明では、連結部材11を面垂直方向がY方向を向いた板で構成することで、連結部材11がブレーキ装置8から伝達される荷重Mの回転方向(YZ平面)に剛性が高く、Y方向には剛性が低い状態となる。これにより、ブレーキ装置8どうしを安定して連結しつつ、連結部材11がY方向やねじれ方向にしなやかに変形することで、ブレーキ装置8の変位を効果的に吸収することができる。
【0035】
荷役機器20では、多くの場合、車軸3と軸受部4との摩擦を低減するために、車軸3と軸受部4との間に定期的に潤滑油(グリス)を給脂するが、本発明の走行装置1では、ブレーキ装置8を車軸3の一端部に接続することで、ブレーキ装置8が潤滑油の影響を受け難くなる。それ故、ブレーキ装置8によって車軸3を安定して制動するには有利な構造となっている。湿式多板式ディスクブレーキのように、ブレーキ装置8を密閉型のブレーキ装置で構成すると、ブレーキ装置8が潤滑油の影響を受けることがなくなるので、車軸3を安定して制動するには益々有利になる。
【0036】
この実施形態のように、連結部材11を1枚の金属板で構成すると、柔軟性と耐久性に優れた連結部材11を少ない工数で安価に製造できるので、走行装置1の設備コストを低減するには有利になる。サイズの大きい荷役機器20では、車軸3どうしの軸間距離等にある程度の製造誤差が生じるが、連結部材11を1枚の金属板で構成すれば、連結部材11を短期間で簡易に製造することができるので、例えば、荷役機器20に連結部材11以外の走行装置1の構成部材(車軸3やブレーキ装置8等)を組み付けた後に、実寸に合わせて連結部材11を製造することも可能となる。
【0037】
連結部材11を、Y方向に見て、連結部材11の外縁よりも内側に、複数の車軸3の各々が収まる形状にすると、複数のブレーキ装置8の各々の車軸3の回転方向の荷重Mが連結部材11に効果的にバランスよく伝達し、ブレーキ装置8に生じる荷重Mを連結部材11において効果的にバランスよく打ち消し合わせることができる。それ故、ブレーキ装置8にかかる負荷荷重を低減するには有利になる。
【0038】
さらに、連結部材11を、Y方向に見て、外縁よりも内側に複数のブレーキ装置8の各々が収まる形状にすると、複数のブレーキ装置8から連結部材11に伝達される車軸3の回転方向の荷重Mをその回転方向の全域で受けることができるので、複数のブレーキ装置8の各々の車軸3の回転方向の荷重Mが連結部材11により効果的にバランスよく伝達し、連結部材11においてより効果的にバランスよく打ち消し合わせることができる。それ故、ブレーキ装置8にかかる負荷荷重を低減するには益々有利になる。
【0039】
連結部材11が、Y方向に見て、外縁に外側から内側に向って窪んでなる窪みを有する形状にすると、その窪み部分にブレーキ装置8から伝達された荷重Mが集中するおそれがある。一方、この実施形態のように、連結部材11が、Y方向に見て、凸多角形状、又は、オーバル形状を成す構成にすると、そのような荷重Mの集中を回避できる。それ故、連結部材11の座屈や破損を回避するには有利になる。
【0040】
連結部材11と複数のブレーキ装置8とを着脱可能な複数の接合部材12によって接合すると、ブレーキ装置8に対して連結部材11を容易に着脱できるので、ブレーキ装置8や連結部材11のメンテナンス性において有利になる。
【0041】
さらに、複数の接合部材12を、Y方向に見て、それぞれの車軸3の軸心を中心とする円上に等間隔に配置すると、車軸3からブレーキ装置8に伝達する車軸3の回転方向の荷重Mを連結部材11にバランスよく伝達させることができる。それ故、ブレーキ装置8から伝達される荷重Mが連結部材11の局所に集中することを回避することができ、連結部材11の座屈や破損を回避するには有利になる。
【0042】
この実施形態のように、連結部材11と複数のブレーキ装置8とをボルト12aおよびナット12bにより摩擦接合すると、ブレーキ装置8から連結部材11に車軸3の回転方向の荷重Mが伝達する摩擦面を広く確保できるので、ブレーキ装置8による回転方向の荷重Mを連結部材11に効果的にバランスよく伝達させることができる。それ故、ブレーキ装置8による回転方向の荷重Mが連結部材11の局所に集中することを回避するには益々有利になる。
【0043】
連結部材11を、複数のブレーキ装置8の各々の車輪2の反対側に向いた面に接合すると、連結部材11に車軸3やブレーキ装置8が挿通する貫通孔を設ける必要がないので、ブレーキ装置8と連結部材11との接合面積を広く確保することができる。それ故、連結部材11によりブレーキ装置8の回転をより確実に防止しつつ、連結部材11に伝達された荷重Mが連結部材11の局所に集中することを回避するにはより有利になる。また、ブレーキ装置8に対して連結部材11を荷役機器20の外側に配置することで、ブレーキ装置8に対して連結部材11を着脱し易くなるので、ブレーキ装置8や連結部材11のメンテナンス性においても有利になる。ブレーキ装置8の車輪2の反対側に向いた端面が連結部材11で被覆された状態となるので、走行装置1に横方向から石などが衝突した場合にも、連結部材11によってブレーキ装置8を保護することができる。
【0044】
図7に例示する従属型の走行装置1のように、本発明では、走行装置1が駆動装置5を有しない構成にすることもできる。この従属型の走行装置1では、車軸3の一端部に駆動装置5が接続されておらず、固定部材13も設けられていない。その他の構成は図1図6に示した実施形態の走行装置1と同じである。
【0045】
先に例示した駆動型の走行装置1により荷役機器20が走行する際には、この従属型の走行装置1の車輪2および車軸3は自由回転状態となる。ブレーキ装置8によって車軸8に制動力が付与されると、自由回転状態の車軸3の回転が制動される構成になっている。この走行装置1においても、先に示した実施形態の走行装置1と同様の効果を奏することができる。
【0046】
図8に、本発明に係るさらに別の実施形態の走行装置1を示す。この実施形態の走行装置1では、連結部材11を複数のブレーキ装置(回転体)8の各々の車輪2の側に向いた端面に接合している。さらに、この走行装置1では、駆動装置5に固定部材13は設けられておらず、その代わりに、X方向に隣り合う2つの減速機7(回転体)が1つの連結部材11によって連結されている。その他の構成は、図1図6に示した実施形態の走行装置1と同じである。
【0047】
この実施形態では、ブレーキ装置8どうしを連結する連結部材11には、それぞれの車軸3が挿通する貫通孔が設けられている。貫通孔は車軸3の径よりも大きく形成し、連結部材11に形成された貫通孔の内周面と車軸3とは当接させずに、ある程度すき間をあけた状態で配置するとよい。このように、連結部材11を複数のブレーキ装置8の各々の車輪2の側に向いた端面に接合すると、ブレーキ装置8が車輪2の反対側に露出した状態となるので、ブレーキ装置8の点検やメンテナンスを行い易くなる。
【0048】
この走行装置1では、複数の減速機7どうしを連結部材11で連結することで、それぞれの減速機7のハウジング24aに対する回転が防止される構成となっている。それぞれの減速機7と連結部材11は、ブレーキ装置8の場合と同様に、複数の接合部材12(ボルト12aおよびナット12b)によって接合されている。
【0049】
このように、連結部材11によって複数の減速機7どうしを連結する場合にも、上述したブレーキ装置8どうしを連結部材11で連結する場合と同様の効果を奏することができる。なお、この走行装置1では、連結部材11を減速機7の各々の車輪2の反対側に向いた端面に接合しているが、連結部材11を減速機7の車輪2の側に向いた端面に接合することもできる。
【0050】
上記で例示した実施形態では、連結部材11によって2つの回転体(ブレーキ装置8や減速機7)を連結した場合を例示したが、例えば、図9に例示するように、連結部材11によって3つ以上の回転体の一端部を連結した構成にすることもできる。
【0051】
連結部材11によって3つ以上の回転体を連結する場合にも、2つの回転体を連結した場合と同様に、それぞれの回転体から連結部材11に伝達される車軸3の回転方向の荷重Mはそれぞれ打ち消し合う。それ故、2つの回転体を連結する場合と同様に、連結部材11に大きな負荷が掛かることなく、それぞれの回転体の回転を防止することができる。
【0052】
なお、上記で例示した実施形態では、ブレーキ装置8がZ方向において同一の高さ位置に配置されている構成を例示したが、連結部材11によって連結されるブレーキ装置8のそれぞれの高さ位置が異なる場合にも荷重Mは互いに打ち消し合うので同様の構成で同様の効果を奏することができる。ブレーキ装置8の形状やサイズも、特に限定されず、例えば、外形が多角柱形状や円筒形状のブレーキ装置8を採用することもできる。
【符号の説明】
【0053】
1 走行装置
2 車輪
3 車軸
4 軸受部(ベアリングハウジング)
5 駆動装置
6 モータ
7 減速機(回転体)
8 ブレーキ装置(回転体)
9 ブレーキ軸
10 ベアリング
11 連結部材
12 接合部材
12a ボルト
12b ナット
13 固定部材
20 荷役機器
21 構造体
22 イコライザ
23 ボギーピン
24 ボギー
24a (ボギーの)ハウジング
R レール
M 荷重(モーメント)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9