特許第6874982号(P6874982)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人梅村学園の特許一覧

<>
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000004
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000005
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000006
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000007
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000008
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000009
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000010
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000011
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000012
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000013
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000014
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000015
  • 特許6874982-光触媒複合体とその製造方法 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874982
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】光触媒複合体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20210510BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20210510BHJP
   B01J 27/18 20060101ALI20210510BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20210510BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20210510BHJP
【FI】
   B01J35/02 J
   B01J37/04 102
   B01J27/18 M
   B01J32/00
   C01B25/32 P
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-106889(P2017-106889)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-20310(P2018-20310A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2020年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-142322(P2016-142322)
(32)【優先日】2016年7月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502178001
【氏名又は名称】学校法人梅村学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】特許業務法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野浪 亨
(72)【発明者】
【氏名】小平 亜侑
(72)【発明者】
【氏名】玉澤 健吾
(72)【発明者】
【氏名】吉島 成美
(72)【発明者】
【氏名】尾上 英影
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−130112(JP,A)
【文献】 特開2003−024797(JP,A)
【文献】 特開2000−271488(JP,A)
【文献】 特開平10−244166(JP,A)
【文献】 特開2004−224641(JP,A)
【文献】 特開2000−327315(JP,A)
【文献】 特開2015−044142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウムクラスターが存在する擬似体液中で調製した球状多孔質ヒドロキシアパタイトのスラリーと、酸化チタン微粒子ゾルとを、イオン性界面活性剤の不存在下で混合して、球状多孔質ヒドロキシアパタイトからなる基材に酸化チタン微粒子を担持させ、
前記擬似体液の組成が、
Na+:18〜160mmol/L、
+:0.5〜4.5mmol/L、
Cl-:20〜142mmol/L、
HPO42-:1.2〜10.0mmol/L、
Ca2+:1.0〜2.1mmol/L
である、光触媒複合体の製造方法。
【請求項2】
球状多孔質ヒドロキシアパタイトからなる基材に、酸化チタン微粒子が担持されており、
前記球状多孔質ヒドロキシアパタイトは、板状ないしリボン状のヒドロキシアパタイトの球状凝集体であり、
少なくとも前記基材の表面にイオン性界面活性剤が存在しない、光触媒複合体。
【請求項3】
請求項2に記載された光触媒複合体であって、
前記球状多孔質ヒドロキシアパタイトは細孔を有し、
前記酸化チタン微粒子の粒径は前記球状多孔質ヒドロキシアパタイトの最大細孔径よりも小さい、
光触媒複合体。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載された光触媒複合体であって、
前記球状多孔質ヒドロキシアパタイトは細孔を有し、
前記酸化チタン微粒子は、前記基材の表面および前記細孔の内部のいずれにも存在する、
光触媒複合体。
【請求項5】
請求項2ないし請求項4のうちのいずれか1項に記載された光触媒複合体であって、
前記球状多孔質ヒドロキシアパタイトは、光活性を有しないものである、
光触媒複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境汚染物質を分解するための光触媒複合体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境を汚染する有機化学物質等の環境汚染物質が問題となっている。従来では、環境汚染物質を焼却などの熱分解により処理することが一般的であった。しかし、焼却により環境汚染物質を処理する場合は、熱エネルギーを得るために多量の化石燃料等を必要とする。これでは、環境汚染物質による環境問題を解決できる反面、COの発生に伴う地球温暖化という新たな環境問題が生じるばかりか、エネルギー資源枯渇の問題も招いてしまう。したがって、焼却に代わる環境問題の生じない新たな環境浄化技術の開発が求められている。
【0003】
このような環境洗浄技術として、例えば下記特許文献1及び特許文献2のような環境洗浄物質が提案されている。特許文献1には、リン酸カルシウムクラスター(Ca(PO)が存在する擬似体液中で析出して得られる、ヒドロキシアパタイトが開示されている。このヒドロキシアパタイトは、吸着特性及び光活性を備えることで、環境汚染物質を吸着し、且つ光活性により分解できるものである。特許文献1における擬似体液の組成は、Na:120〜1000mM、K:1〜200mM、Ca2+:0.5〜50mM、Cl:80〜2000mM、HCO:0.5〜300mM、HPO2−:1〜200mM、SO2−:0.1〜200mM、F:0.5mM、Fe、Cr、Zr、Al等の金属イオン一種以上が0.1〜20mMとなっている。
【0004】
特許文献2には、環境汚染物質を吸着し、且つ光触媒作用により分解する光触媒複合粒子であって、基材と、該基材に分散して担持された光触媒と、基材及び/又は光触媒の少なくとも表面に存在するイオン性界面活性剤とを有する、光触媒複合粒子が開示されている。基材としては、光触媒を担持できるものでは何でも良いとされており、そのうちの一例としてヒドロキシアパタイトが挙げられている。一方、光触媒としては酸化チタンが挙げられている。この光触媒複合粒子は、基材と光触媒前駆体とを、イオン性界面活性剤の存在下で水熱処理することで得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3906355号公報
【特許文献2】特開2015−44142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2の環境洗浄物質は、環境汚染物質を吸着・分解して処理するものなので、焼却する場合のように環境へ新たな負荷をかけることは無い。しかしながら、特許文献1の環境汚染物質は複合体ではなく、基材そのものが吸着性能と光活性とを併せ持つものである。したがって、特許文献1の環境洗浄物質では環境汚染物質の分解能には限界がある。また、特許文献1の擬似体液は、複合体とすることを前提とした組成とはなっておらず、ヒドロキシアパタイトは板状もしくはリボン状であり、これらが凝集した球状とはなっていない。
【0007】
これに対し特許文献2の環境洗浄物質は、吸着性能を有する基材に光触媒を担持させた複合体となっている。しかしながら、基材と光触媒とをイオン性界面活性剤の存在下で複合化しているので、光触媒複合粒子の表面には、イオン性界面活性材が存在している。これでは、イオン性界面活性剤の存在によって基材の吸着性能や光触媒による分解能が阻害されるおそれがある。そもそも引用文献2では、実際には基材としてイソライト(SiOを主成分とする珪藻土の焼結体)やCTAB(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)を使用しており、基材としてヒドロキシアパタイトを使用した場合は、イオン性界面活性剤の存在下で複合化すると、当該ヒドロキシアパタイトの性状が阻害されることが判明した。
【0008】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、環境に負荷をかけることなく環境汚染物質を高性能に吸着・分解できる光触媒複合体と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そのための手段として、本発明では、リン酸カルシウムクラスター(Ca(PO)が存在する擬似体液中で調製した球状多孔質ヒドロキシアパタイトのスラリーと、酸化チタン微粒子ゾルとを、イオン性界面活性剤の不存在下で混合することで、球状多孔質ヒドロキシアパタイトからなる基材に酸化チタン微粒子が担持されており、少なくとも前記基材の表面にイオン性界面活性剤が存在しない、光触媒複合体を得ることができる。
【0010】
前記擬似体液の組成は、Na:18〜160mmol/L、K:0.5〜4.5mmol/L、Cl:20〜142mmol/L、HPO2−:1.2〜10.0mmol/L、Ca2+:1.0〜2.1mmol/Lである。
【0011】
なお、本発明において数値範囲を示す「○○〜××」とは、特に明示しない限り「○○以上××以下」を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒複合体は、イオン性界面活性剤の不存在下で基材と光触媒とを複合化しているので、基材であるヒドロキシアパタイトが球状で安定しており、且つ基材及び光触媒の作用機能が阻害されることもない。したがって、球状に凝集していないヒドロキシアパタイトを使用した場合や、イオン性界面活性剤の存在下で調整した場合よりも優れた環境汚染物質の吸着・分解性能を有し、環境汚染物質を処理する際に環境へ新たな負荷をかけることもない。
【0013】
酸化チタンに光が当たると、酸化チタンから電子が放出される。これにより、電子を放出した正孔・電子が不安定となって酸化・還元反応が生じ、環境汚染物質が分解される原理である。しかし、酸化チタン単体では、放出された電子と正孔が再結合しようとする。これに対し、球状多孔質ヒドロキシアパタイトを基材としていれば、酸化チタンから放出された電子が基材に吸着されることで電子と正孔の再結合が抑制され、高い分解性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】TiO単体の表面SEM画像
図2】比較例1の表面SEM画像
図3】比較例2の表面SEM画像
図4】実施例1の表面SEM画像
図5】実施例2の表面SEM画像
図6】実施例3の表面SEM画像
図7】実施例4の表面SEM画像
図8】実施例5の表面SEM画像
図9】実施例6の表面SEM画像
図10】実施例3の表面L−FE−SEM画像
図11】実施例3の拡大表面L−FE−SEM画像
図12】実施例1〜3と比較例2のメチレンブルー分解能試験結果
図13】実施例4〜6と比較例2のメチレンブルー分解能試験結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光触媒複合体は、球状多孔質ヒドロキシアパタイトからなる基材に、光触媒として酸化チタン(TiO)微粒子が担持されて成る。なお、基材や光触媒の表面には、イオン性界面活性剤は存在しない。
【0016】
(基材)
一般に、ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO)(OH))(HAp)は、静電気的相互作用によりさまざまな物質を吸着・保持することができる。また、イオン交換性に優れているという特徴も有する。本発明のヒドロキシアパタイトは、擬似体液法を用いた湿式法により製造される。このとき、擬似体液の組成を調整することで、一般的な板状ないしリボン状のヒドロキシアパタイト(HAp)が凝集し、球状で多孔質な構造となっている。これにより、本発明の球状多孔質ヒドロキシアパタイト(一般的な「HAp」に対して「sHAp」と称す)は、一般的なヒドロキシアパタイト(HAp)よりも吸着特性に優れる。sHApの粒径は0.100〜5.00μmの範囲で、0.100〜0.400μm程度の細孔を有する。なお、本発明の球状多孔質ヒドロキシアパタイトは、光活性を有しない。
【0017】
(光触媒)
TiOは、太陽や蛍光灯などの紫外光が当たると、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触する有機化合物などの環境汚染物質や細菌を分解・除去することができる。また、TiOは安定な物質であるため、理論的には半永久的に使用できる。更には、地殻中に豊富に存在するため枯渇の心配はほぼなく、安全・無害で、比較的長い波長(380nm程度)の紫外線で活性化する。TiOにはアナターゼ型とルチル型が存在するが、光触媒活性作用が強いアナターゼ型が好ましい。TiOは、有害物質や細菌を分解するのみならず、有機樹脂をも酸化分解するため、基材には有機樹脂を使用し難い。これに対し、基材が無機物であるヒドロキシアパタイトであれば、TiOによって分解されることは無い。
【0018】
酸化チタン微粒子の粒径は、sHApの粒径より小さくsHApに担持できる大きさであれば特に制限は無いが、sHApの最大細孔径より小さいことが好ましい。具体的には、0.1〜200nmが好ましく、1.0〜150nmがより好ましく、5.00〜100nmがさらに好ましい。したがって、酸化チタン微粒子は、基材の表面のみならず細孔の内部にも存在している。酸化チタン微粒子の粒径が小さすぎると、その大部分がsHApの細孔内に入り込んで、sHApの表面に存在する量が少なくなり、光触媒活性が有効に発揮できないおそれがある。一方、酸化チタン微粒子の粒径が大きすぎると、sHApへ良好に担持できず、混合時に分離してしまう。
【0019】
(製造方法)
本発明の光触媒複合体は、擬似体液を使用した湿式方によって得られる。具体的には、リン酸カルシウムクラスターが存在する擬似体液中で調製した球状多孔質ヒドロキシアパタイトのスラリーと、酸化チタン微粒子ゾルとを、イオン性界面活性剤の不存在下で混合して得られる。
【0020】
擬似体液は、NaCl、KCl、KHPO、NaHPO、CaClなどを水に溶かすことで調製される。擬似体液の組成は、Na:18〜160mmol/L、K:0.5〜4.5mmol/L、Cl:20〜142mmol/L、HPO2−:1.2〜10.0mmol/L、Ca2+:1.0〜2.1mmol/Lとする。この組成により、リン酸カルシウムクラスター(Ca(PO)が溶液中に存在することでクラスターが集合し、リンとカルシウムからなる球状で多孔質なヒドロキシアパタイトが析出する。各成分いずれかの含有率が上記範囲より少ないと、ヒドロキシアパタイトそのものが製造できない。一方、各成分いずれかの含有率が上記範囲より多いと、ヒドロキシアパタイトが良好に凝集せず、球状のヒドロキシアパタイトが製造できない。
【0021】
擬似体液中のCaとPの相対量(Ca/P)は0.11〜2.00が好ましい。また、擬似体液中のClとPの相対量(Cl/P)は14.80〜20.00が好ましい。また、擬似体液のpHは5.0〜8.0が好ましく、より好ましくは6.0〜8.0である。
【0022】
球状多孔質ヒドロキシアパタイトの粒径は、擬似体液の温度や時間によって制御することができる。具体的には、擬似体液の温度は30〜100℃が好ましく、30〜60℃がより好ましく、35〜50℃がさらに好ましい。温度が低すぎると、球状多孔質ヒドロキシアパタイトの析出に時間がかかり、温度が高すぎると、擬似体液の蒸発により粒径や多孔質度の制御ができなくなる。時間は1〜240分が好ましく、10〜120分がより好ましく、20〜90分がさらに好ましい。時間が短すぎると、球状多孔質ヒドロキシアパタイトの析出が不十分であり、時間が長すぎると、球状多孔質ヒドロキシアパタイトの粒径が大きくなりすぎるか、ある程度以上は大きくならず時間の無駄となる。
【0023】
擬似体液中で球状多孔質ヒドロキシアパタイトを析出させた後は、スラリー状態で酸化チタン微粒子と複合化に供される。このとき、球状多孔質ヒドロキシアパタイトスラリーは、濾過や遠心分離して用いても良いし、そのままあるいは濃縮して使っても良い。
【0024】
このようにして得られた球状多孔質ヒドロキシアパタイトスラリーと、酸化チタン微粒子とを、水中で混合して攪拌した後、所定時間静置することで、球状多孔質ヒドロキシアパタイトの表面に酸化チタン微粒子が担持された複合体を得ることができる。なお、酸化チタン微粒子は、水に分散させたゾルの状態で混合することが好ましい。酸化チタン微粒子をそのまま水中へ混合すると、粒径が小さいことで凝集し、球状多孔質ヒドロキシアパタイトの表面へ均一に担持させ難くなる。一方、酸化チタン微粒子をゾルの状態で混合すれば、水分散性が良好である。
【0025】
球状多孔質ヒドロキシアパタイト(sHAp)と酸化チタン(TiO)微粒子の混合量は、sHAp100重量部に対して30〜100重量部とすればよい。なお、sHApとTiOとを複合化する際、イオン性界面活性剤は使用しない。イオン性界面活性剤が存在すると、sHApの球状が崩れてしまうからである。
【0026】
球状多孔質ヒドロキシアパタイトと酸化チタン微粒子との静置時間は、1時間から3日、好ましくは6時間から2日、より好ましくは12〜30時間とすればよい。静置時間が短すぎると、球状多孔質ヒドロキシアパタイトと酸化チタン微粒子とを良好に複合化できない。一方、時間が長すぎても技術的な問題は無いが、十分複合化できていれば、それ以上静置する意味が無い。なお、複合化は常温(室温)下で行えば良い。静置中は、球状多孔質ヒドロキシアパタイト粒子は沈殿しており、酸化チタン微粒子は水中に分散している。所定時間静置して十分に複合化できた後は、必要に応じてデカンテーションを行ってから遠心分離により沈殿物(光触媒複合体)を得ればよい。
【実施例】
【0027】
(実施例1〜3)
<球状多孔質ヒドロキシアパタイトの合成>
sHAp合成のための擬似体液を調製した。擬似体液はPBS(NaCl:2.74mol/L,KCl:0.0537mol/L,KHPO:0.0294mol/L,NaHPO:0.162mol/L)、PBS(CaCl・2HO:0.068mol/L)を蒸留水で希釈してから混合して合成した。希釈割合は、最終的な擬似体液の組成がPBS:PBS:蒸留水=20.000:1.690:978.310となるようにすることで、Ca/P=0.300の条件を満たすように調整した。この擬似体液中には、Naが61.2mmol/L、Clが58.1mmol/L、Kが1.66mmol/L、HPO2−が3.83mmol/L、Ca2+が1.15mmol/L含有されている。
【0028】
この擬似体液をウォーターバス(SRS266PA;ADVANTEC社製)にて40℃に保持しながら1時間攪拌した。そして、1日静置した後にデカンテーションを行い、導電率が150μs/cm以下になるまで遠心分離機(5420;KUBOTA製)を用いて脱塩処理をした。導電率の測定には、電気導電率計(MPC227;メトラー製)を使用した。
【0029】
<チタニア担持球状多孔質ヒドロキシアパタイト複合体の合成>
スラリー状のsHAp0.150gと、TiOゾル(TKS−203;テイカ株式会社製)を1.00Lの水中で1時間攪拌した。なお、イオン性界面活性剤は使用していない。TiOの混合量は、sHAp0.150gに対して0.0500g(実施例1)、0.100g(実施例2)、0.150g(実施例3)となるよう、各ゾルのTiO含有量から計算したうえで調節した。1日静置した後にデカンテーションを行い,水が濁らなくなるまで遠心分離機(5420;KUBOTA製)を用いて洗浄し、試験用の試料とした。
【0030】
(実施例4〜6)
<球状多孔質ヒドロキシアパタイトの合成>
実施例1〜3とは異なる擬似体液を用いて、sHAp合成を行った。具体的には、実施例4はPBS:PBS:蒸留水=50.000:1.548:948.452の割合で、実施例5はPBS:PBS:蒸留水=29.000:1.632:969.368の割合で、実施例6はPBS:PBS:蒸留水=10.000:1.970:988.030の割合で混合し、擬似体液の組成がそれぞれ表1に示すものとなるよう調整した。この擬似体液を用いて、実施例1〜3と同様に攪拌、デカンテーション、脱塩処理を行って、sHApを合成した。
【0031】
<チタニア担持球状多孔質ヒドロキシアパタイト複合体の合成>
上述のように合成したスラリー状のsHApと、TiOゾルを表1で示す量1.00Lの水中で1時間攪拌した。なお、イオン性界面活性剤は使用していない。攪拌後は、実施例1〜3と同様に静置、デカンテーション洗浄を行い、試験用の試料とした。
【0032】
(比較例1)
sHApとTiOとを複合化する際に、イオン性界面活性剤としてスルホこはく酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(関東化学株式会社)を5g混合した以外は、実施例3と同様にして複合体を調整した。その結果、形状は崩れており、球状多孔質ヒドロキシアパタイトは得られなかった。
【0033】
(比較例2)
TiOと複合化させず、各実施例用と同様に作製したsHAp単体を、比較例2として使用した。
【0034】
【表1】

※球状ヒドロキシアパタイトを得ることができず、メチレンブルー分解試験を行うことができなかった。
【0035】
<走査型電子顕微鏡(SEM)による表面観察>
各試料の表面を走査型電子顕微鏡(S−2600;日立製作所製)で観察した。測定条件は、加速電圧15.0kVである。図1にTiO単体、図2に比較例1、図3に比較例2、図4〜6に実施例1〜3、図7〜9に実施例4〜6の表面SEM画像をそれぞれ示す。これにより、sHApは0.100〜0.400μmの細孔を有し、粒径1.00〜5.00μmの球状で多孔質となっていることが確認された。
【0036】
<比表面積測定・表面電位測定>
各試料の比表面積を、比表面積測定装置(モノソーブMS−21;ユアサアイオニクス株式会社製)でBET法により窒素ガスとヘリウムガスを流して測定した。また、各試料の表面電位を、表面電位測定装置(ゼータナノサイダーナノシリーズNano−Z;シスメックス株式会社製)により測定した。その際、設定温度は20℃とし、光源にHe−Neレーザー(633nm)を使用した。その結果を表1に示す。表1の結果から、複合化材料の比表面積がsHAp単体よりも大きくなっていることがわかった。また、複合化材料の表面電位がsHAp単体よりも負に大きく帯電していることがわかった。
【0037】
【表2】
【0038】
<電界放出形走査型電子顕微鏡(L-FE-SEM)による最表面観察>
L−FE−SEMの最表面観察では、試料を固定するためにグラファイト片を含むカーボンペーストを使用した。図10,11に、実施例3の表面L−FE−SEMが像を示す。図7,8より、sHApの表面に30.0〜50.0nmの微細なTiO粒子が担持していることが確認された。
【0039】
<メチレンブルー分解能試験>
実施例1〜6及び比較例2の試料0.0500gを10.0ppmのメチレンブルー(Mb)水溶液50.0mlに添加し、撹拌しながら30分間は暗所、90分間はブラックライト(三共電気株式会社製;27W;紫外線強度3.60×103μW/cm2)を当て、10分ごとに5.00ml注射器で2.50ml程度サンプリングし、プラスチック製セル(45.0×10.0×10.0mm)に入れた。この時、サンプリングしたMb水溶液中に混合している試料は、メンブレンフィルター(孔径0.200μm)で取り除き、メチレンブルーの吸収波長である660nmの光の吸光度をレシオビーム分光光度計(U−5100;HITACHI製)で測定した。
【0040】
実施例1〜6及び比較例2の試験結果を、図12及び図13に示す。図12及び図13の結果から、sHAp単体(比較例2)では、殆どMbは分解されていないが、光触媒複合体となっている実施例1〜6では、Mbが有意に分解されていた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13