(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6874984
(24)【登録日】2021年4月26日
(45)【発行日】2021年5月19日
(54)【発明の名称】酸性の低ホルムアルデヒド木酢液及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法
(51)【国際特許分類】
C10C 5/00 20060101AFI20210510BHJP
【FI】
C10C5/00
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-109604(P2017-109604)
(22)【出願日】2017年6月2日
(65)【公開番号】特開2018-203852(P2018-203852A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100130823
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100210778
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 世治
(72)【発明者】
【氏名】宮木 博
(72)【発明者】
【氏名】山口 信哉
(72)【発明者】
【氏名】菊地 徹
【審査官】
三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−255865(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104366029(CN,A)
【文献】
米国特許第05705537(US,A)
【文献】
岡崎 賢志,メイラード反応を利用したタラ佃煮のホルムアルデヒドの除去に関する検討,香川県産業技術センター 平成16年度 研究報告書,2005年 5月,No.5,P.110-111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10C 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性の木酢液の原液にトリプトファンを溶解させたものであって、ホルムアルデヒド濃度が5ppm(W/V)未満であることを特徴とする酸性の低ホルムアルデヒド木酢液。
【請求項2】
木酢液原液にトリプトファンを溶解させることを特徴とする木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木酢液は、植物原料から炭を製造する際に発生する煙を冷却、凝縮して得た水溶性の液体(原液)であり、原液の状態で販売されている。木酢液には、酢酸やギ酸などの有機酸、ホルムアルデヒドなど200種類以上の有機化合物が含まれる。木酢液は、有機酸を含有するためpHは酸性を呈し、微生物に対して抗菌効果を有する。なお、木酢液にはクレオソートなどに代表される抗菌成分も含まれている。
さらに、原液状態の木酢液は、展着剤としての作用も有する芳香族化合物などの木タールを含む。この木タールは、塗布・散布対象への木酢液の付着を容易にするため、木酢液は高い抗菌性を発揮する。
このように多様な成分を含み抗菌性に優れる酸性の木酢液は、農業資材として土壌改良剤や植物活性剤などに、日用品の分野では防腐剤や消毒剤、制菌剤、殺菌剤などに用いられている。また、通常、酸性の木酢液は、使用者が必要に応じて希釈して使用しているものである。
【0003】
木酢液は、毒性のあるホルムアルデヒドを10〜1000ppm(W/V)程度の濃度で含んでいる。ホルムアルデヒドは、非常に揮発しやすいため、木酢液を塗布、散布して使用した場合、使用場所(特に室内、密閉空間、ビニールハウス)において、空気中ホルムアルデヒド濃度が高まり、人体に害を及ぼすおそれがあった。この問題を解決するために、木酢液中のホルムアルデヒドを低減する方法が提供されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−188471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の木酢液中のホルムアルデヒドを低減する方法は、木酢液を塩基性にし、尿素を添加することにより、木酢液中のホルムアルデヒドとフェノール類を付加反応させ、ホルムアルデヒド濃度を数ppm(W/V)まで低減するものである。
【0006】
しかし、特許文献1の木酢液中のホルムアルデヒドを低減する方法では、木酢液に大量のアルカリを添加し木酢液を塩基性とするため、木酢液は抗菌性を有しないものになる。
また、塩基性の木酢液を酸性に戻すことにより抗菌性を得ることも可能であるが、この場合、大量の酸を添加する必要があり、木酢液が希釈されることになる。木酢液が希釈された場合、木タールといった展着成分まで希釈されるため、原液が有していた優れた抗菌性が損なわれる。従って、特許文献1の木酢液中のホルムアルデヒドを低減する方法で得られる木酢液に酸を添加し酸性に戻しても、すでに希釈されている木酢液は使用者が必要に応じて使用できる範囲が狭くなるおそれがあり、また、従来のように農業資材や日用品として使用しても木酢液に期待する効果を十分に得られないおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものであって、
木酢液原液を希釈しないで毒性を低減した酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の酸性の低ホルムアルデヒド木酢液は、
酸性の木酢液の原液にトリプトファンを溶解させたものであって、ホルムアルデヒド濃度が5ppm(W/V)未満であるものである。
本発明の木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法は、木酢液原液にトリプトファンを溶解させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液は、ホルムアルデヒド濃度が5ppm(W/V)未満のものである以外は、木酢液原液の組成がほとんど変わることなく保持されているものである。これにより、使用に際して毒性が無く、抗菌性を有する木酢液の原液を提供することができる。
本発明の木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法によると、木酢液原液を希釈しないで毒性を低減した酸性の木酢液を得ることができる。この方法により得られる木酢液は、木酢液原液と同じように、農業資材や日用品として使用することができ、木酢液に期待する効果を十分に得ることができるものである。また、人体に害を与えないものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、
木酢液原液を希釈しないで毒性を低減した酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法を提供することを実現するものである。
【実施例】
【0011】
本発明の低ホルムアルデヒド木酢液について説明する。本発明の低ホルムアルデヒド木酢液は、ホルムアルデヒド濃度が5ppm(W/V)未満であり、pHが酸性のものである。本発明の低ホルムアルデヒド木酢液は、ホルムアルデヒド濃度が極めて低いため、使用時において安全なものである。さらに、木酢液原液の組成がほとんど変わることなく保持されており、pHは酸性であり、原液と同様に高い抗菌性を有する。なお、本発明の木酢液は、竹酢液を含む概念である。
【0012】
次に、本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法を試験例によって説明する。
(試験例1)
市販の木酢液(合同会社ツリーワーク製)のホルムアルデヒド濃度を測定したところ、179ppm(W/V)(=6mmol/L)であった。この木酢液のpHは2.9であった。
上記木酢液の原液から20mLずつ3回取出し、それぞれ試験液A、試験液B及び試験液Cの試験液とした。試験液A〜Cのそれぞれに、L−トリプトファン(関東化学株式会社製)を終濃度が3mmol/L(試験液A)、6mmol/L(試験液B)、12mmol/L(試験液C)になるように添加した。添加後、各試験液を撹拌してトリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に一定期間(7日間)放置した状態で、試験液中のホルムアルデヒド濃度の経時変化を測定した。
【0013】
(ホルムアルデヒド濃度の測定)
試験液中のホルムアルデヒド濃度は、以下のように測定した。まず、試験液から一定量採取し、不溶性ポリクラールAT(和光純薬工業株式会社製)を加えて撹拌した後、遠心分離し、分析を阻害するポリフェノールを不溶性ポリクラールATに吸着して沈殿除去した。ホルムアルデヒドを含む上清を、アセチルアセトン、酢酸アンモニウム及び酢酸から調整した発色液と混合し、60℃で15分間加温した。その後、発色した混合液の吸光度(波長412nm)を、上清に発色液の代わりに純水を同量加えた混合液を対照に分光光度計(日立製作所製、U−3410型)により測定した。
なお、上記測定では、事前に、試薬ホルムアルデヒド(関東化学株式会社製)を標準物質として、300ppm(W/V)から5ppm(W/V)までの検量線を作成しておき、この検量線を用いて吸光度からホルムアルデヒド濃度を算出した。また、5ppm(W/V)未満の濃度は0ppm(W/V)と表記することとした。従って、上記測定において、ホルムアルデヒド濃度0ppm(W/V)は、ホルムアルデヒド濃度5ppm(W/V)未満を意味するものである。
【0014】
(試験例1の結果)
表1に、試験液A〜Cにトリプトファンを添加した後のホルムアルデヒド濃度の経時変化を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
表1の試験結果によると、試験液A〜Cのいずれにおいても、トリプトファンを添加後は時間経過と共にホルムアルデヒド濃度が減少することが分かった。トリプトファン添加から1日目のホルムアルデヒド濃度は、試験液Aでは約35%、試験液Bでは約63%減少したが、試験液Cでは約93%も減少した。その後も、各試験液のホルムアルデヒド濃度は減少したが、試験液Cのみが、7日経過後に0ppm(W/V)になった。これにより、ホルムアルデヒド濃度(6mmol/L)の2倍に相当する終濃度12mmol/Lのトリプトファンを添加することにより、木酢液中のホルムアルデヒドを除去でき、低ホルムアルデヒド木酢液を調製できることが分かった。なお、本試験における濃度測定では、0ppm(W/V)の木酢液は、ホルムアルデヒド濃度5ppm(W/V)未満の木酢液である。
また、ホルムアルデヒド濃度0ppm(W/V)の試験液C(本発明の低ホルムアルデヒド木酢液)は希釈されていないもの(木酢液原液の組成がほとんど変わることなく保持されている木酢液)であり、pHに変化はなく2.9の酸性の木酢液(抗菌性を有する木酢液)であった。
【0017】
なお、木酢液中のホルムアルデヒドとトリプトファンはモル比1:1で重合し、重合生成物は沈殿物として木酢液から除去することができる。このとき、未反応のトリプトファンは木酢液に溶解した状態で含まれている。また、本発明で用いるトリプトファンはL−体(CAS登録番号73−22−3)、D−体(CAS登録番号153−94−6)のいずれでもよい。
【0018】
(試験例2)
市販の竹酢液(アイリスオーヤマ株式会社製)を用いた試験を行った。竹酢液のホルムアルデヒド濃度を測定したところ34.7ppm(W/V)(=1.2mmol/L)であった。また、pHは2.7であった。
上記竹酢液の原液から20mL取出し、試験液とした。試験液に、L−トリプトファン(関東化学株式会社製)を終濃度が2.4mmol/Lになるように添加した。添加後、試験例1と同様に、試験液を撹拌してトリプトファンを溶解し、20℃の恒温器に放置した状態で、24時間後に試験液中のホルムアルデヒド濃度を測定したところ、試験液のホルムアルデヒド濃度は0ppm(W/V)であった。これにより、ホルムアルデヒド濃度(1.2mmol/L)の2倍に相当する終濃度2.4mmol/Lのトリプトファンを添加することにより、木酢液(竹酢液)中のホルムアルデヒドを除去でき、竹酢液を出発材料としても低ホルムアルデヒド木酢液(竹酢液)を調製できることが分かった。なお、本試験では、試験例1の試験液Cと同様に、試験液(竹酢液)のホルムアルデヒド濃度(1.2mmol/L)の2倍に相当する終濃度2.4mmol/Lのトリプトファンを添加した。
また、ホルムアルデヒド濃度0ppm(W/V)の試験液(本発明の低ホルムアルデヒド木酢液(竹酢液))は希釈されていないもの(竹酢液原液の組成がほとんど変わることなく保持されている竹酢液)であり、pHに変化はなく2.7の酸性の木酢液(抗菌性を有する竹酢液)であった。
【0019】
以上のように、本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法は、ホルムアルデヒドを含む木酢液にトリプトファンを添加し、一定期間ホルムアルデヒドとトリプトファンを反応させることにより
、木酢液原液を希釈しないで毒性を低減した木酢液を提供するものである。
本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法により得られる木酢液は、ホルムアルデヒドが除かれる又は低減される以外は、トリプトファン添加前の木酢液原液の組成とほとんど変わりなく、pHにも変化がないものである。
従って、本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法により得られる木酢液は、トリプトファン添加前の木酢液原液と同様、抗菌性を保持するものであり、使用に際してホルムアルデヒドが揮発しないものであるか、もしくは揮発しても人体に影響を及ぼすおそれがないものである。
また、本発明の
酸性の低ホルムアルデヒド木酢液
及び木酢液原液中のホルムアルデヒド低減方法により得られる木酢液は、木タールは変化しないため、木タールの展着性が維持され、高い抗菌性を有するものになる。また、木タール自体が持つ抗菌性も維持される。